(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-19
(45)【発行日】2024-03-28
(54)【発明の名称】水素発生反応触媒
(51)【国際特許分類】
B01J 23/847 20060101AFI20240321BHJP
B01J 37/02 20060101ALI20240321BHJP
B01J 37/34 20060101ALI20240321BHJP
B01J 33/00 20060101ALI20240321BHJP
C25B 11/091 20210101ALI20240321BHJP
C25B 11/052 20210101ALI20240321BHJP
C25B 9/00 20210101ALI20240321BHJP
C25B 1/04 20210101ALI20240321BHJP
【FI】
B01J23/847 M
B01J37/02 301N
B01J37/34
B01J33/00 C
C25B11/091
C25B11/052
C25B9/00 A
C25B1/04
(21)【出願番号】P 2021547602
(86)(22)【出願日】2019-10-29
(86)【国際出願番号】 AU2019051187
(87)【国際公開番号】W WO2020087115
(87)【国際公開日】2020-05-07
【審査請求日】2022-10-12
(32)【優先日】2018-10-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】AU
(73)【特許権者】
【識別番号】506362750
【氏名又は名称】ニューサウス・イノヴェイションズ・ピーティーワイ・リミテッド
(73)【特許権者】
【識別番号】521185871
【氏名又は名称】コホド・ハイドロジン・エナジー・ピーティーワイ・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】チュアン・ジャオ
(72)【発明者】
【氏名】イビン・リ
【審査官】安齋 美佐子
(56)【参考文献】
【文献】特開昭55-100987(JP,A)
【文献】特開昭56-033490(JP,A)
【文献】特表2017-527693(JP,A)
【文献】特開昭59-100279(JP,A)
【文献】Protection of Metals and Physical Chemistry of Surfaces,2014年,Vol.50,No.2,p.178-182,DOI:10.1134/s2070205114020117
【文献】ACS Sustainable Chemistry & Engineerin,2018年,vol.6,p.12746 -12754,Supplementary Information S1-S25,DOI:10.1021/acssuschemeng.8b01887
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00-38/74
C25B 1/00-15/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
・活性触媒種
としてニッケルを含む触媒金属種、及び
・バナジウム種
を含む水素発生反応(HER)触媒であって、
触媒金属種が銅を更に含み、
触媒金属種及びバナジウム種の分散は、HER触媒全体を通じて実質的に均一である、水素発生反応(HER)触媒。
【請求項2】
バナジウム種が酸化バナジウムである、請求項
1に記載のHER触媒。
【請求項3】
粒子中に触媒金属種及びバナジウム種が含有される、請求項1
または2に記載のHER触媒。
【請求項4】
粒子が結晶構造及び非晶質成分を有する、請求項
3に記載のHER触媒。
【請求項5】
粒子の平均直径
が0.1nmか
ら15nmである、請求項
3又は
4に記載のHER触媒。
【請求項6】
触媒金属種が
鉄及び/又はマンガン種を更に含む、請求項1から5のいずれか一項に記載のHER触媒。
【請求項7】
触媒金属種が
ニッケル及び銅の合金を含む、請求項
1に記載のHER触媒。
【請求項8】
金属酸化物コーティングを更に含む、請求項1から
7のいずれか一項に記載のHER触媒。
【請求項9】
金属酸化物コーティングが酸化クロムコーティングである、請求項
8に記載のHER触媒。
【請求項10】
請求項1から
9のいずれか一項に記載のHER触媒及び基材を含む、触媒材料。
【請求項11】
導電性基材及び請求項1から
9のいずれか一項に記載のHER触媒を含む、電極。
【請求項12】
請求項1から
9のいずれか一項に記載のHER触媒、請求項
10に記載の触媒材料又は請求項
11に記載の電極を調製する方法であって、導電性基材を
触媒金属種の供給源及びバナジウム種の供給源を含む溶液と接触させる工程、並びに溶液を通して基材と対向電極との間に電圧を印加して、導電性基材の表面上に
触媒金属種及びバナジウム種を電着させる工程を含む、方法。
【請求項13】
水から
水素を発生させる方法であって、少なくとも2つの電極及び電解質溶液を含む電気化学電池を用意する工程、水を少なくとも2つの電極と接触させる工程、並びに少なくとも2つの電極間に電圧を印加する工程を含み、少なくとも2つの電極の少なくとも一方が、請求項1から
9のいずれか一項に記載のHER触媒、請求項
10に記載の触媒材料又は請求項
11に記載の電極を含む、方法。
【請求項14】
少なくとも2つの電極及び電源を含む電解槽であって、少なくとも2つの電極の少なくとも一方が請求項1から
9のいずれかに記載のHER触媒、請求項
10に記載の触媒材料又は請求項
11に記載の電極を含む、電解槽。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素発生反応(HER)用の触媒、及び水分解プロセスにおいてこの触媒を用いる方法に関する。また、本発明はこの触媒を含む組成物、材料及び電極を提供する。
【背景技術】
【0002】
水分解プロセスは、材料として豊富な入手可能な水並びに再生可能なエネルギーの供給源(たとえば、太陽エネルギー)等の低炭素集約型エネルギー源を利用することができるので、水素発生及び貯蔵に対する持続可能な手法と考えられている。水分解は、電解槽の中で実施されてもよく、水素発生反応(HER)によりカソードで水素が作り出される。酸素発生反応(OER)によりアノードで酸素が作り出されてもよい。水素は燃料電池等の様々な用途の燃料として、より容易に用いられるので、現在の主眼は、水素発生用の触媒を調製することにある。
【0003】
現在はPt系触媒(たとえば、Pt/C)が、水素発生開始時のきわめて低い過電圧(η)及び大きな電流密度(j)により、水電解槽におけるカソード材料の主要な選択肢である。しかし、Pt系HER触媒は高コストであり、その供給が持続可能でないので、大規模用途に適さない。
【0004】
最近の努力は地球上に豊富に存在する金属ベースの水分解触媒を開発することに重点が置かれている。地球上に豊富に存在する金属からは、Re、Ru、Os、Rh、Ir、Pd、Pt、Ag及びAuが除外される。
【0005】
ニッケルカソードは、効果的にHERを触媒することが報告されている。しかし、ニッケルカソードは、不動態カソード層の形成が不安定であるという難点をもつ。一部の報告では、電解質溶液に酸化バナジウム(V2O5)を含有させることにより、ニッケルカソードの不動態化を阻止することができることが報告されている。経時的に、酸化バナジウム堆積物がニッケルカソードの表面上に形成される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
代替的なHER触媒を提供することが引き続き必要である。特に、地球上に豊富に存在する遷移金属ベースの触媒を開発することが必要である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、少なくとも部分的に、バナジウム種を組み入れた金属触媒種(たとえば、Ni又はCo)を含む触媒は、金属触媒材料のHER触媒活性を向上させるという知見の上に成り立っている。更に、金属触媒種の不動態化も防止される。また、驚いたことに、本発明のバナジウムドープ触媒は、アルカリ性及び中性溶液において、強いHER触媒活性を示す。
【0008】
一態様では、本発明は、
・活性触媒種を含む触媒金属種、及び
・バナジウム種
を含む水素発生反応(HER)触媒であって、触媒金属種及びバナジウム種がHER触媒中に組み入れられている、水素発生反応(HER)触媒を提供する。
【0009】
他の態様では、本発明は、本明細書に記載のHER触媒及び基材を含む、触媒材料を提供する。
【0010】
更なる態様では、本発明は、導電性基材及び本明細書に記載のHER触媒を含む電極を提供する。HER触媒は、典型的には導電性基材の表面上に(たとえば、電着により)コーティングされる。
【0011】
更に別の態様では、本発明は、本明細書に記載のHER触媒、本明細書に記載の触媒材料及び/又は本明細書に記載の電極を調製する方法であって、導電性基材を金属触媒種の供給源及びバナジウム種の供給源を含む溶液と接触させる工程、並びに溶液を通して基材と対向電極との間に電圧を印加して、導電性基材の表面上に金属触媒種及びバナジウム種を電着させる工程を含む、方法を提供する。
【0012】
なお更なる態様では、本発明は、水から水素を発生させる方法であって、少なくとも2つの電極及び電解質溶液を含む電気化学電池を用意する工程、水を少なくとも2つの電極と接触させる工程、並びに少なくとも2つの電極間に電圧を印加する工程を含み、少なくとも2つの電極の少なくとも一方が、本明細書に記載のHER触媒、本明細書に記載の触媒材料又は本明細書に記載の電極を含む、方法を提供する。
【0013】
他の態様では、本発明は、少なくとも2つの電極及び電源を含む電解槽であって、少なくとも2つの電極の少なくとも一方が本発明のHER触媒を含む、電解槽を提供する。
【0014】
本発明を詳細に記載する前に、本発明は具体的に例示された実施形態、製造方法又は使用方法に限定されるものではなく、当然ながら様々であってよいことを理解されたい。
【0015】
本明細書に記載され、特許請求されている本発明は、多くの属性及び実施形態を有し、本明細書の発明の概要の欄に説明され、又は記載され、又は参照されているものを含むが、それらに限定されることなく、それらは包括的であることを意図しない。本明細書に記載され、特許請求されている本発明は、限定ではなく概略説明のためにのみ含まれている本明細書の発明の概要の欄に明らかにされている特徴又は実施形態に限定され、又はそれらにより限定されるものではない。
【0016】
本明細書に引用されている全刊行物、特許及び特許出願は、上記か下記かにかかわらず、本明細書に参照により全体が組み込まれている。
【0017】
本明細書にいかなる従来技術刊行物が参照されている場合でも、そのような参照は、その刊行物が当該分野で共通の一般的な知識の一部を形成することの容認を構成しないことを理解されたい。
【0018】
本出願を、単なる一例として、添付図面を参照しながら更に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】メタバナジン酸アンモニウムを有する又は有しない溶液に浸漬された、フッ素ドープされた酸化スズ(FTO)基材のサイクリックボルタンメトリー曲線を示すグラフである。
【
図2】基材としてのフッ素ドープされた酸化スズ(FTO)上での、実施例1により調製された多様なHER触媒の一連のX線回折(XRD)回折パターンを示す図である。
【
図3】異なる濃度のNH
4VO
3前駆体を用いた実施例1の一般的な手順により調製されたNiCuVOxの一連のXRD回折パターンを示す図である。
【
図4】(a)本発明のHER触媒の走査型電子顕微鏡(SEM)画像;(b)HER触媒の透過電子顕微鏡(TEM)画像;(c)HER触媒の高解像度透過電子顕微鏡(HRTEM)画像;(d)HER触媒の高角散乱環状暗視野走査透過顕微鏡(HAADF-STEM)画像;(e)~(h)HER触媒に存在するNi、Cu、V及びOの各原子について、HER触媒のTEMエネルギー分散型X線分光(TEM-EDS)マッピング画像を示す図である。
【
図5】実施例1により調製された、(a)Ni、(b)NiCu、(c)NiVOx電極のSEM画像を示す図である。
【
図6】本発明のHER触媒のX線光電子分光法(XPS)による(a)Ni2p、(b)Cu2p、(c)V2p、及び(d)O1sスペクトルを示す図である。
【
図7】(a)アルカリ性(1MのKOH、pH=14)条件下での、バナジウムなしのその等価物(NiCu及びNi)と比較した、本発明のHER触媒(NiCuVOx-測定し、内部抵抗(iR)補正した-及びNiVOx)並びにPt/C触媒のリニアスイープボルタンメトリー(LSV)曲線;(b)アルカリ性(1MのKOH、pH=14)条件下での、バナジウムなしのその等価物(NiCu及びNi)と比較した本発明のHER触媒(NiCuVOx-測定し、内部抵抗(iR)補正した-及びNiVOx)並びにPt/C触媒のターフェルプロット;(c)NiCuVOxの多重電流曲線;(d)NiCuVOx及びNi電極のクロノポテンシオメトリー曲線を示す図である。
【
図8】異なる電着条件:(a)異なる量のCu前駆体;及び(b)異なるアノード酸化時間で得られたNiCuVOxの1MのKOH中でのLSV曲線を示すグラフである。
【
図9】電解液中にNH
4VO
3を有する及び有しない1MのKOH中のNiCuVOx(実施例1)のLSV曲線を示すグラフである。
【
図10】(a)1.0MのpH=7リン酸緩衝液中のiR補償なしのNiCuVOx及び制御された試料のLSV曲線(黒色の点線による曲線はiR補正ありのNiCuVOxである);(b)1.0MのpH=7リン酸緩衝液中の電流密度50mAcm
-2のNiCuVOxのクロノポテンシオメトリー曲線;(c)模擬海水及び天然の海水中のNiCuVOxのLSV曲線;並びに(d)海水中のNiCuVOxのクロノポテンシオメトリー曲線を示すグラフである。
【
図11】安定性及び耐久性を示す、酸化クロムでコーティングされたNiCuVOx電極の過電圧対時間を示すグラフである。
【
図12】(a)温度80℃の30wt% KOH電解液中での、ニッケルカソード(二電極電解)と比較したNiCuVOxの多重電流曲線;及び(b)300mAcm
-2の電流密度及び続く10サイクルの電源遮断(1時間の連続した電解と、それに続く0.5時間の電源停止)でのNiCuVOxのクロノポテンシオメトリー曲線を示すグラフである。
【
図13】(a)クロノポテンシオメトリー実験(結果は
図11bに示す)で触媒として使用後のNiCuVOx(実施例1)のTEM画像;及び触媒として長時間使用後の(b)Ni、(c)Cu、(d)V及び(e)OのTEM-EDSマッピング画像を示す図である。
【
図14】触媒として長時間使用前後のNiCuVOx(実施例1)のXRDパターン。多様なスキャン率の下での1MのKOH電解液中のサイクリックボルタンメトリー及び電気化学表面積の関連する計算(a及びb:NF;c及びd:CoFe/NF;e及びf:CoFeCr/NF)を示す図である。
【
図15】(a)Ni上でのK端X線吸収近端構造(XANES);(b)Ni上でのX線吸収広域微細構造(EXAFS);(c)V上でのK端XANES;及び(d)Cu上でのK端XANESを示すグラフである。
【
図16】1MのKOH中の、ニッケル発泡体(NF)、ニッケルメッシュ及びカーボン繊維紙(CFP)基材上に堆積させたNiCuVOx(実施例1)のLSV曲線を示すグラフである。
【
図17】21cm×21cmの基材と比較した、0.5cm×0.5cmの基材上に堆積させた本発明のHER電極(NiCuVOx;実施例1)の活性を比較するLSV曲線を示すグラフである。
【
図18】(a)Co(実施例2)と比較した、本発明のHER触媒(Co-V;実施例2)及びPt/C(iR補正した)のLSV曲線;並びに(b)実施例2により調製されたCo-V及びCoのターフェル勾配を示すグラフである。
【
図19】中性電解液中の、実施例2により調製されたCo-V及びCoのLSV曲線を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
定義
本明細書で用いられる場合、用語「水分解」は、出発原料としての水から元素状の水素又は酸素を発生させる任意のプロセスに関する。本明細書に記載の水分解プロセスは、本質的に電気分解である。これらの電気分解プロセスは、典型的にはカソードでの水素発生反応(HER)及びアノードでの酸素発生反応(OER)を伴う。
【0021】
本明細書及び添付の特許請求の範囲で用いられる場合、単数形「1つの(a)」、「1つの(an)」、及び「その(the)」は、文脈で明確に別に指示されていない限り複数への言及を含む。したがって、たとえば、「1つの表面」への言及は複数の表面を含んでいてもよく、又は1つ若しくは複数の表面への言及であってもよい、等々である。
【0022】
別に定義しない限り、本明細書中で使用されるすべての技術及び科学用語は本発明が属する当業者により通常理解されているものと同一の意味を有する。本明細書に記載の材料及び方法と類似した又は同等な任意の材料及び方法は、本発明を実施し又は試験するのに使用することができ;多様な材料及び方法の最もよく知られている実施形態が記載されていることを理解されたい。
【0023】
名詞に続く用語「(s)」は、単数形若しくは複数形、又はその両方を企図する。
【0024】
用語「及び/又は(and/or)」は、「及び(and)」又は「又は(or)」を意味することができる。
【0025】
文脈が別に必要としない限り、本明細書に参照されている全パーセントは材料の質量パーセントである。
【0026】
本発明の多様な特徴は、一定の値、又は値の範囲を参照しながら記載されている。これらの値は、多様な適切な測定法の結果に関することが意図されており、したがってどの特定の測定法にも付随する誤差のマージンを含むものとして解釈されるべきである。本明細書で参照されている値の一部は少なくとも部分的にこの変動性を説明するために、用語「約(about)」により示されている。用語「約」は、値を記載するのに用いられるときには、その値の±25%、±10%、±5%、±1%又は±0.1%以内の量を意味してもよい。
【0027】
本明細書で用いられる用語「を含む(comprising)」(又は「を含む(comprise)」若しくは「を含む(comprises)」等の変化形)は、表現言語又は必要な意味合いにより文脈が別に必要としない限り、包括的な意味、すなわち述べられている特徴の存在を規定するが、本発明の多様な実施形態における更なる特徴の存在又は追加を妨げるものではない。
【0028】
詳細な説明
本発明は、触媒金属種及びバナジウム種を含む水素発生反応(HER)触媒であって、触媒金属種及びバナジウム種が触媒中に組み入れられている、水素発生反応(HER)触媒を提供する。
【0029】
驚いたことに、組み入れられたバナジウム及び金属触媒種は材料のHER触媒活性を向上させる。更に、HER触媒は長期の電解条件下でさえも、アルカリ性及び中性電解液中で安定であることを示した。本発明のHER触媒は有利には産業規模での水分解用の低コストで高活性なカソード材料を提供することができる。
【0030】
金属触媒種及びバナジウム種は、HER触媒中に組み入れられている。一部の実施形態では、金属触媒種及びバナジウム種は粒子中に含有されている。一部の実施形態では、金属触媒種及びバナジウム種の分散は、HER触媒全体を通じて実質的に均一である。HER触媒に含有されている多様な原子の分布及び/又は分配(disbursement)は、TEM-EDSマッピングにより決定されてもよい。たとえば、金属触媒種としてニッケル及び銅合金、並びにバナジウム種として酸化バナジウムを含む、実施例1に記載されている本発明の一実施形態では、ニッケル、銅、バナジウム及び酸素原子はHER触媒全体を通じて実質的に均等に組み入れられている。
【0031】
ニッケル触媒上のバナジウムの予防効果の以前の報告では、カソード表面全体でのバナジウム堆積物の形成が記載されている。しかし、本発明では、バナジウム種及び金属触媒種はHER触媒中に組み入れられている。バナジウム種及び金属触媒種を組み入れることにより、触媒金属種の不動態化を妨げることができるだけでなく、HER触媒活性も向上させることができる。触媒活性の向上は、所期の電流密度に達するための過電圧が関連して減少することにより示されている。
【0032】
水の電解のための可逆水素電極(RHE)に対しての電極の理論的電位は1.23Vである。水電解を働かせるために所与の電極により必要とされるこの理論的範囲を超える少しでも過剰な電位は、過電圧(η)と呼ばれる。本発明のHER触媒は、RHEに対してきわめて低い過電圧しか必要としない。
【0033】
一部の実施形態では、本発明のHER触媒は、10mAcm-2の電流密度を提供するために、約5mV~約50mV、たとえば、約5mV~約30mV、又は約8mV~約30mVの過電圧を必要とする。アルカリ性条件では、本発明のHER触媒のRHEに対する過電圧は、10mAcm-2の電流密度を提供するために、約5mV~約14mVであってよい。中性条件では、本発明のHER触媒のRHEに対する過電圧は、10mAcm-2の電流密度を提供するために、約10mV~約50mV、たとえば、約15mV~約40mV又は約20mV~約35mVであってよい。比較のために、既存の市販Pt/C(20%)電極では、10mAcm-2の電流密度を達成するために必要となる過電圧は、約5mV~約20mVである。
【0034】
一部の実施形態では、本発明のHER触媒は、100mAcm-2の電流密度を提供するために、約15mV~約200mV、たとえば、約20mV~約150mV又は約30mV~約140mVの過電圧を必要とする。アルカリ性条件では、本発明のHER触媒のRHEに対する過電圧は、100mAcm-2の電流密度を提供するために、約15mV~約100mV、たとえば、約15mV~約44mV、又は約25mV~約44mV又は約35mV~約44mVであってよい。中性条件では、本発明のHER触媒のRHEに対する過電圧は、100mAcm-2の電流密度を提供するために約50mV~約200mV、たとえば、約50mV~約180mV又は約100mV~約150mVであってよい。比較のために、既存の市販Pt/C (20%)電極では、100mAcm-2の電流密度を達成するために必要となる過電圧は、約10mV~約50mVである。
【0035】
HER触媒は、触媒金属種を含む。触媒金属種は、活性触媒種を含む。HERを触媒することができる任意の金属種を、活性触媒種として利用することができる。一部の実施形態では、触媒金属種は、活性触媒種からなる。
【0036】
一部の実施形態では、活性触媒種は遷移金属種、好ましくは第一列遷移金属である。活性触媒種は、Re、Ru、Os、Rh、Ir、Pd、Pt、Ag及びAu以外のHERを触媒することができる任意の金属種等の、地球上に豊富に存在する金属種であってよい。
【0037】
特定の実施形態では、活性触媒種は、ニッケル(Ni)及びコバルト(Co)から選択される。ニッケル及び/又はコバルトは、HER触媒の触媒活性を著しく低下させない任意の他の金属種と合金にされてもよい。
【0038】
典型的には、活性触媒種は金属形状である。したがって、活性触媒種の酸化状態は、典型的にはゼロである。しかし、一部の実施形態では、活性触媒種は酸化物、硫化物又は塩の形で等の、非金属形状で含まれる。
【0039】
触媒金属種は、典型的には結晶形で提供される。結晶金属の強固な組織化した構造は、HER触媒の触媒活性を更に増強させると考えられている。結晶ナノ粒子等の、高表面積を有する結晶形態が好ましい。
【0040】
また、HER触媒はバナジウム種をも含む。触媒金属種の不動態化を妨げることができる任意のバナジウム種が用いられる。
【0041】
一部の実施形態では、バナジウム種は酸化バナジウム(II)(VO2)、五酸化バナジウム(V2O5)、又はVO1.95の水和物等の酸化バナジウムである。
【0042】
バナジウム種は、そのままではHERを触媒することができない。HER触媒中にバナジウム種が存在することが金属触媒種の特性及び形態に影響し、その不動態化を妨げ、その触媒活性を向上させると考えられている。
【0043】
HER触媒中のバナジウム種の活性触媒種に対するモル比は、約20%以下であってよい。たとえば、バナジウム種の活性触媒種に対するモル比は、約15%、約12%、約10%、約8%、約7%、約6%、約5%、約4%、約3%、約2%、約1.7%以下であってよい。HER触媒中に存在するバナジウム種の最小量は、たとえば、高周波誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP-OES)によるバナジウム種の検出限界を超える任意の量であってよい。一部の実施形態では、バナジウム種の活性触媒種に対するモル比は、少なくとも約0.1%であってよい。たとえば、バナジウム種の活性触媒種に対する最小モル比は、少なくとも約0.5%、約1%、約1.5%又は約2%であってよい。バナジウム種の活性触媒種に対するモル比は、任意のこれらの最小量から任意の上記のモル比、たとえば、0.1%~20%、1.5%~12%又は2%~10%であってよい。
【0044】
一部の実施形態では、金属触媒種は、金属修飾剤(metal modifier)を更に含む。理論に拘束されることを望むものではないが、金属触媒種中に金属修飾剤を含有することは、活性触媒種の金属特性に影響すると考えられている。理想的には、活性触媒種はその水反応物及び水素反応生成物に対する相対的結合親和性の均衡を保つ金属特性を有する。HER生成物に対する結合親和性が高すぎると、触媒活性の低下に通じる。したがって、金属修飾剤を含有させることは金属触媒種中の活性触媒種の金属特性を最適化させやすくすることができる。一部の実施形態では、金属修飾剤は、通常は活性触媒種以下の電気陰性度を有する、金属種であってよい。したがって、金属修飾剤の精密な選択は、選択される活性触媒種に依存する。たとえば、活性触媒種がニッケル又はコバルトを含むとき、金属修飾剤は銅、鉄、及び/又はマンガン種から選択されてよい。
【0045】
金属修飾剤は、HER触媒中にそれが活性触媒種に対して金属修飾剤として作用することを可能にする任意の形状で存在してよい。典型的には、金属修飾剤は金属の形態であってよい(たとえば、活性触媒種との合金)。
【0046】
一部の実施形態では、金属触媒種は活性触媒種と金属修飾剤の合金を含む。合金は結晶形態を有してもよい。
【0047】
金属修飾剤の活性触媒種に対するモル比は、約25%以下であってよい。たとえば、金属修飾剤の活性触媒種に対するモル比は約24%、約23%、約22%、約21%、約20%、約19%、約18%、約17%、約16%、約15%、約14%、約13%、約12%、約11%、又は約10.5%以下であってよい。金属修飾剤を含む実施形態では、金属修飾剤の活性触媒種に対する最小モル比は、少なくとも約0.1%、たとえば、少なくとも約0.5%、1%又は5%であってよい。金属修飾剤の活性触媒種に対するモル比は、任意のこれらの最小量から任意の上記のモル比、たとえば、0.1%~25%、1%~20%又は10%~17%であってよい。
【0048】
一部の実施形態では、金属触媒種はニッケル、ニッケル-銅合金又はコバルトを含む。
【0049】
一部の実施形態では、金属触媒種及びバナジウム種は粒子の形である。したがって、一部の実施形態では、HER触媒はバナジウム種中に組み入れられた金属触媒種を含む粒子を含む。典型的には、粒子は規則正しい配列をとると考えられる。
【0050】
粒子の形状は、製造方法及び構成成分の化学的性質によって決定づけられる。したがって、粒子の形状は限定されない。たとえば、金属触媒種がニッケル及び銅合金及び酸化バナジウムを含むとき、粒子は球状である。
【0051】
粒子は、非晶質、半結晶質及び/又は結晶質であってよい。一部の実施形態では、粒子は結晶質部分及び非晶質部分を含む。たとえば、金属触媒種は結晶質であってよい一方で、バナジウム種は同一の粒子内で非晶質であってよい。一部の実施形態では、ナノ結晶の平均直径は約0.1nm~約12nm又は約0.5nm~約10nm等の約0.1nm~約15nmであってよい。粒径が小さくなるほど、表面積は大きくなる。表面積がより大きくなると、電解中の水の活性触媒種へのアクセスが拡大される。
【0052】
一部の実施形態では、HER触媒は、具体的には触媒がアルカリ性溶液中で長期間用いられる予定であるとき、触媒の長期的安定性及び耐久性を向上させるためのコーティングを含んでよい。適切なコーティングには、酸化クロム(CrO)等の金属酸化物が含まれる。コーティングは場合により、アルカリ性条件中で経時的に発生するおそれがあるバナジウム種の溶解を最小限に抑え、又は低減するために用いることができる。
【0053】
HER触媒中に存在する種のそれぞれの濃度は、高周波誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP-OES)により決定されてよい。
【0054】
また、本明細書に記載のHER触媒を含む触媒材料も提供される。触媒材料は、通常基材を更に含む。HER触媒のHER触媒活性を妨害しない任意の適切な基材が利用されてよい。適切な基材には、導電性金属基材(たとえば、金属発泡体又は金属メッシュ又はフッ素ドープされた酸化スズ(FTO)等の金属基材)及び導電性非金属基材(たとえば、カーボン繊維紙基材)が含まれる。適切な金属発泡体には、ニッケル発泡体及び銅発泡体が含まれる。適切な金属メッシュには、ニッケルメッシュが含まれる。
【0055】
また、HER触媒を含む電極及び導電性基材も提供される。上記の導電性基材を含む、HER触媒のHER触媒活性を妨害しない任意の導電性基材が用いられてよい。
【0056】
調製方法
HER触媒及びそれを含む材料は、バナジウム種が金属触媒種に組み入れられていることを条件として、当該分野で公知の任意の手段により調製されてよい。
【0057】
一部の実施形態では、本発明の触媒材料及び/又は電極は、簡易電着法により調製されてもよい。
【0058】
したがって、本明細書に記載するのは、導電性基材上に、金属触媒種に組み入れられたバナジウム種を含む、HER触媒を調製する方法であって、導電性基材と接触する溶液中の、金属触媒種の供給源及びバナジウム種の供給源を含む溶液を電解する工程を含む、方法である。典型的には、溶液は水溶液である。
【0059】
本方法は、典型的には導電性基材をバナジウム塩及び金属触媒種の塩形態を含む溶液に接触させる工程、並びにバナジウム種が金属触媒種に組み入れられるように、溶液を通して導電性基材と対向電極との間に第1の電圧を印加して、基材上にバナジウム種及び金属触媒種を電着させる工程を含む。一部の実施形態では、本方法は、導電性基材を含む作用電極、対向電極及び参照電極を含み、溶液を通して作用電極と参照電極との間に第1の電圧を印加して、導電性基材の表面上に金属触媒種及びバナジウム種を電着させる、三電極系で実施された。他の実施形態では、方法はアノード、及び導電性基材を含むカソードを含み、溶液を通してアノードとカソードとの間に第1の電圧を印加して、導電性基材の表面上に金属触媒種及びバナジウム種を電着させる二電極系を用いて実施された。
【0060】
第1の電圧は、約-10V~約-0.5Vであってよい。第1の電圧は、HER触媒の層を基材上に電着させるのに十分な時間維持されてよい。一部の実施形態では、第1の電圧は1分~約1時間、たとえば、約1分~約30分、約2分~約15分又は約10分の時間維持される。電着は室温で実施されてよい。本明細書で用いられる場合、面積温度は約20℃~約30℃、好ましくは約25℃の周囲温度を意味する。
【0061】
これらの調製方法では、金属触媒種の塩形態は、活性触媒種の塩及び場合により金属修飾剤の塩形態等の金属修飾剤の前駆体を含んでよい。したがって、金属触媒種が活性触媒種としてニッケルを含むとき、溶液はニッケル塩を含んでよい。同様に、金属触媒種が活性触媒種としてコバルトを含むとき、溶液はコバルト塩を含んでよい。電解還元することができる活性触媒種の任意の塩形態が用いられてよい。好ましくは、塩は硝酸塩、塩化物塩若しくは硫酸塩又はそれらの組合せから選択される。
【0062】
溶液は、約1M以下の濃度で活性触媒種(又は「活性触媒塩」)の塩を含んでよい。たとえば、溶液は約900mM、約800mM、約700mM、約600mM又は約500mM以下の濃度で活性触媒種の塩を含んでよい。活性触媒塩の最小濃度は、印加電圧下で十分な活性触媒種を基材上に電着させるのに必要な濃度である。したがって、活性触媒塩の最小濃度は少なくとも約10mM、約15mM、約50mM、約100mM、約200mM、約250mM、約400mM又は約500mMであってよい。活性触媒塩の濃度は10mM~1M又は400mM~600mM等、これらの最小濃度のうちのいずれかから本明細書に記載の活性触媒塩の任意の他の濃度の間であってよい。
【0063】
溶液は、約100mM以下の濃度で金属修飾剤(又は「金属修飾剤塩」)の塩を含んでよい。たとえば、溶液は約80mM、約70mM、約60mM、約50mM、約40mM、約30mM又は約20mM以下の量で金属修飾剤塩を含んでよい。存在するとき、金属修飾剤塩の最小濃度は、約1mM又は約5mMであってよい。金属修飾剤塩の濃度は、1mM~80mM又は5mM~20mM等、これらの最小濃度のうちのいずれかから本明細書に記載の金属修飾剤塩の任意の他の濃度の間であってよい。
【0064】
HER触媒中の金属修飾剤の活性触媒種に対するモル比は、電着に先立ち溶液中の各前駆体の適切な濃度を選択することにより、制御されてよい。一部の実施形態では、金属修飾剤は更なる電解工程により、選択的に金属触媒種から取り除かれてよい。理論に拘束されることを望むものではないが、活性触媒種は、バナジウム種と金属修飾剤との相互作用を通して、電着された材料中で動力学的に安定化すると考えられる。更に、金属修飾剤を少なくとも部分的に除去することにより、選択的除去の前には金属修飾剤によって占められていた領域が、水分解電解の際には水にとってアクセス可能になるので、更にHER触媒表面積を増大させることができるとも考えられている。更に、活性金属種の金属特性は、複合体形成後に金属修飾剤を除去することにより著しい影響は受けないと考えられている。したがって、一部の実施形態では、本方法は、通常溶液と接触している導電性基材に第2の電圧を印加することにより、金属触媒種から金属修飾剤を選択的除去する工程を含む。第2の電圧は、約0.4V~約1Vのアノード電位、たとえば、約0.6Vであってよい。第2の電圧は、所望の量の金属修飾剤を取り除くのに十分な時間維持されてよい。第2の電圧は、約1分~約30分、たとえば、約200秒~約600秒の時間維持されてよい。金属修飾剤の電気分解選択的除去は、室温で実施されてよい。
【0065】
溶液は、バナジウム種(又は「バナジウム前駆体」)の前駆体を含む。任意の可溶性バナジウム供給源が用いられてよいが、通常バナジウム種の前駆体は、バナジン酸アンモニウム(NH4VO3)、酸化バナジウム(V2O5)又はバナジン酸ナトリウム(NaVO3)等のバナジウム含有塩である。
【0066】
溶液は、約50mM、約40mM、約30mM、約25mM、約20mM、約15mM又は約10mM以下の濃度でバナジウム前駆体を含んでよい。バナジウム前駆体の最小濃度は、少なくとも約0.01mM、約0.1mM、約1mM又は約2mMであってよい。バナジウム前駆体の濃度は、約0.1mM~約50mM、約1mM~約25mM又は約2mM~約15mM等、これらの最小濃度のうちのいずれかから本明細書に記載のバナジウム前駆体の任意の他の濃度の間であってよい。バナジウム前駆体及び活性金属触媒塩の相対的濃度は、所望のバナジウム種の活性触媒種に対するモル比を提供するように選択されてよい。
【0067】
溶液は、通常酸性pH(すなわちpH7未満)を有する。したがって、溶液は酸を含んでよい。酸の濃度は、約100mM~約1M、たとえば、約250mM~約750mM又は約500mMであってよい。適切な酸は、ホウ酸(H3BO3)、塩酸(HCl)、硫酸(H2SO4)、硝酸(HNO3)及びアンモニウムイオン(たとえばNH4Cl又はNH4Br)及びその組合せを含む。
【0068】
溶液は、1つ又は複数の電解液を更に含んでよい。適切な電解液は、金属硝酸塩、金属硫酸塩及び/又は金属塩化物塩等の塩を含む。通常、電解液塩の金属は、HER触媒に含まれる金属の1つ又は複数と一致すると考えられる。電解液は、約1Mの濃度で存在してよい。
【0069】
一部の実施形態では、本方法は、基材が強酸(4MのHCl等)で洗浄され、超音波処理される基材前処理工程を更に含む。前処理工程は、典型的にはHER触媒の電着に先立ち、基材表面から酸化物及び他の不純物を取り除く。
【0070】
また、一部の実施形態では、本方法は、電解電池中にやはり溶液と接触している参照電極を含有することも含む。適切な参照電極は、Ag/AgCl、参照水素電極、Ag/Ag2SO4電極、塩化第一水銀電極、Hg/Hg2SO4電極及びHg/HgO電極を含む。特定の実施形態では、参照電極は、それが用いられるとき、Ag/AgCl電極である。
【0071】
導電性基材は、フッ化物ドープ酸化スズ(FTO)、ステンレス鋼、ニッケル発泡体若しくは銅発泡体等の金属発泡体、ニッケルメッシュ若しくは銅メッシュ等の金属メッシュ、又はカーボン繊維紙(CFP)若しくは炭素布等の非金属導電性基材であってよい。電着に続き、導電性基材は約1mg/cm2~約50mg/cm2のHER触媒の質量負荷を有してもよい。
【0072】
一部の実施形態では、HER触媒は金属酸化物でコーティングされてよい。たとえば、ニッケル発泡体等の、基材上に調製されたNiCuVOx含有電極は、金属塩の溶液に浸漬されてよい。溶液から除去される際、電極は真空乾燥され、不活性雰囲気中で高温で焼き鈍され、それに続き冷却される。一例では、ニッケル発泡体上のNiCuVOx電極は、クロム(III)硫酸溶液(10mL、0.005M)の溶液中に1分間浸漬されることにより、酸化クロムでコーティングされた。電極は溶液から取り除かれ、真空乾燥され、3℃/分の上昇率で、Ar雰囲気中で350℃で2時間焼き鈍された。次いで電極は周囲温度に冷却された。
【0073】
使用方法
本発明は、水分解プロセスにより水素を発生させる方法を提供する。本方法は、少なくとも2つの電極及び電解質溶液を含み、少なくとも2つの電極の少なくとも一方が本発明のHER触媒を含む、電気化学電池において実施される。一部の実施形態では、電気化学電池はアノード及び本発明のHER触媒を含むカソードを含む二電極系である。他の実施形態では、電気化学電池は本発明のHER触媒を含む作用電極、対向電極及び参照電極を含む三電極系である。本方法は、水を電気化学電池の少なくとも2つの電極と接触させる工程及び電解質溶液を通して少なくとも2つの電極間に電圧を印加する工程を含む。HER半反応は通常二電極系のカソード又は三電極系の作用電極で発生するので、カソード又は作用電極は本発明のHER触媒を含む。一部の実施形態では、電解質溶液は水性電解質溶液である。また、水性電解質溶液は水の供給源であってもよい。電解質溶液は、約7以上のpH、たとえば、pH約7~約14を有してよい。一部の実施形態では、pHがアルカリ性であるとき、電解質溶液は強塩基、たとえば、NaOH又はKOH等の水酸化塩基を含む。また、電解質溶液は、特に電解質溶液がアルカリ性pHを有するときバナジウム塩(NH4VO3等)を含んでよい。電解質溶液中のバナジウム塩の濃度は、最大約50mM、たとえば、約0.2mM~約25mMであってよい。
【0074】
典型的には、これらの方法で用いられるアノードはIr/C又はRuO2/C等の酸素発生反応(OER)触媒を含むと考えられる。
【0075】
これらの方法が用いられるとき、本発明のHER触媒は、現在主流のHER触媒に向上した触媒活性を提供する。驚いたことに、HER触媒は地球上に豊富に存在する金属を用いながら、この向上した触媒作用を提供することができる。また、驚いたことに、HER触媒は、向上した触媒活性を提供することができ、対応するNi又はCo系を含む他の公知の地球上に豊富に存在する金属をベースとしたHER触媒に、より低い過電圧しか要求としない。更に、本発明のHER触媒は、驚いたことに中性及びアルカリ性電解条件下でも安定で活性である。
【0076】
一部の実施形態では、水素を発生させる方法は、最大50mV dec-1のターフェル勾配、たとえば最大45mV dec-1、30mV dec-1又は約25mV dec-1で進行する。通常、HER動力学モデルはボルマー、ヘイロフスキー又はターフェル反応がそれぞれ約120、40、又は30mV dec-1のターフェル勾配の速度決定工程であることを示唆する。
【0077】
アノードに印加される電圧は、HERを働かせるためにHER触媒の過電圧と一致し又はそれを超えるように選択される必要がある。
【0078】
また、アノード及びカソード、電源及び場合により参照電極を含む電解槽も提供する。典型的には、カソードは本発明のHER触媒を含む。一部の実施形態では、電源は低炭素集約型電源から発生する電力を提供する。電源は再生可能な電源、たとえば、1つ又は複数の太陽電池パネル又は風力タービン、又は再生不能電源、たとえば、原子炉であってよい。
【実施例】
【0079】
本発明は、非限定的な実施例により、更に記載される。当業者には、本発明の精神及び範囲から逸脱することなく本発明の多くの修正を行い得ることが理解されるであろう。
【0080】
(実施例1)
ニッケル系触媒
材料合成
NiCuVOx電極の調製。全電着は、標準的な三電極電気化学設定で実施された。ニッケル発泡体(NF)又はフッ素ドープされた酸化スズ(FTO)基材上へのNiCuVOx触媒の電着は、作用電極としてNF又はFTO、補助電極としてグラファイト板、及び参照電極として飽和カロメル電極(SCE)を用いて達成された。堆積に先立ち、ニッケル発泡体はまず5MのHCl溶液で20分間超音波処理されてNiO層を取り除かれ、次いで水及びエタノールですすがれ、次いで空気雰囲気中で乾燥させられた。電着及び選択的脱合金溶液は、500mMのNiSO4、8mM~32mMのCuSO4、8mMのNH4VO3及び500mMのH3BO3から構成された。電着は、CHI660D電気化学ワークステーション(CH装置)で室温で行われた。まず、NiCuVOxフィルムは-2.0V(対SCE)で600秒間NFの表面上に電着された。場合により、電着に続き、0.6Vのアノード電位を200秒間~600秒間室温で電池に印加することによりNiCuフィルムからCuの選択的溶解がなされる。
【0081】
VOx及びNiVOx電極の調製。VOx及びNiVOx電極は、上記のNiCuVOx電極の場合と同一の方法により調製された。FTO上へのVOx堆積については、他の全条件は同一であるが、前駆体である8mMのNH4VO3及び500mMのH3BO3を伴い、NFの表面上へ-2.0V(対SCE)で600秒間である点が異なる。NiVOx堆積については、電解液は500mMのNiSO4、8mMのNH4VO3及び500mMのH3BO3を含有し、NF又はFTOの表面上に-2.0V(対SCE)で600秒間堆積させた。
【0082】
Ni及びNiCu電極の調製。Ni堆積については、電解液は500mMのNiSO4及び500mMのH3BO3を含有し、NF又はFTOの表面上に、-2.0V(対SCE)で600秒間堆積させた。NiCu堆積については、電解液は500mMのNiSO4、16mMのCuSO4及び500mMのH3BO3を含有し、NF又はFTOの表面上に-2.0V(対SCE)で600秒間堆積させた。
【0083】
クロノポテンシオメトリー実験
三電極系(作用電極としてNiCuVOx、参照電極としてグラファイト板、及び参照電極としてSCE)では、1MのPBS中性溶液中で50mAcm
-2の一定の電流密度が20時間維持された。この実験の結果は、
図10bに示される。
【0084】
更なる実験は、80℃の30wt% KOH電解液中で、カソードとしてのNiCuVOx及びアノードとしての市販のNiを用いることにより、二電極系で電流密度を10mAcm
-2から500mAcm
-2へと次第に増加させることにより実施された(結果を
図11aに示す)。更に、同一設定の電池を用いて、まず300mAcm
-2の電流密度で運転することにより、次いで同一の300mAcm
-2の電流密度で10サイクルの起動及び運転停止により、10時間にわたってHER触媒の長期の安定性が評価された(
図11b)。
【0085】
特性決定法
X線回折分光法(XRD)。XRD測定は、標準的なCuアノードを備えたPANalytical X’Pert Empyrean装置でK-α波長=1.54nmで実施された。一般的なスキャン範囲は、10°~80°であり、0.039°s-1の刻み幅で収集された。
【0086】
X線光電子分光法(XPS)。XPS測定は、Thermo ESCALAB250i X線光電子分光計で実施されて、結果の一貫性を保証するために、スキャンは4つの異なる点で実施された。
【0087】
ラマン分光法。ラマンスペクトル分析、514(緑色)Arイオンレーザーを備えたRenishaw inVia Raman光学顕微鏡が1800 lmM-1で用いられた。全ラマン試料は、CFP上に担持された触媒であった。
【0088】
透過電子顕微鏡法(TEM)。TEMは、Phillips CM 200顕微鏡で実施された。TEM試料を調製するために、ニッケル発泡体(NF)に担持された触媒は、鋭利なナイフを用いて物理的に電極に傷をつけることにより、Cu-グリッドに移された。15分間の超音波処理により、生じた粉末を無水エタノール中に分散させた。次いで、得られた混合物をCu-グリッド上にドロップキャストさせ、室温で乾燥させた。
【0089】
高解像度透過電子顕微鏡法(HRTEM)。HRTEMは、Phillips CM 200顕微鏡で実施された。HRTEM試料を調製するために、NFに担持されたHER触媒は、無水エタノール中のNFから試料の15分間の音波処理により、ホーリーカーボンでコーティングされたCu-グリッドに移された。次いで、得られた混合物をCu-グリッド上にドロップキャストさせ、室温で乾燥させた。
【0090】
走査型電子顕微鏡法。SEM分析は、JEOL F7001で17kVの加速電圧で実施された。
【0091】
光学式顕微鏡法。顕微鏡画像は、Nikon eclipse LV100POLで撮影された。
【0092】
X線吸収近端構造法(XANES)及びX線吸収広域微細構造法(EXAFS)。XANES及びEXAFSは、Australian Synchrotronで、多極ウィグラーXASビームライン12 IDに記録された。
【0093】
高周波誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP-OES)。ICP-OESは、分析に先立ち10mL溶液中の王水酸に試料を溶解させることによりPerkin Elmer Optima 7300DV高周波誘導結合プラズマ発光分光器で実施された。
【0094】
結果及び考察
バナジウム複合体の堆積が成功したことは、サイクリックボルタンメトリー及び電着前後に観察されるFTOの色の変化により確認される。
図1に示すサイクリックボルタモグラム(CV)に示すように、バナジウム前駆体が存在しないことの結果として、明らかなレドックスピークがなく、電気化学反応が発生していないことを示唆している。しかし、バナジウムイオンの存在下で、CVにおける明らかな減少ピークが-2.0Vに現れており、これはバナジン酸イオンの減少によると考えられている(
図1)。
【0095】
バナジウムドープニッケル及びニッケル-銅合金材料の形成が成功したことは、バナジウムの非存在下でFTO上に堆積させた材料(灰銀色)と比較しての、FTO(黒色の)の上に堆積された堆積バナジウム含有材料の色の違いにより証明された。
【0096】
また、調製された電極の構造も、X線回折(XRD)法によりその特性を決定された。NF基材は回折パターンに干渉を引き起こすおそれがあるので、FTOガラス上に堆積された試料がXRD研究用に用いられた。
図2に示すように、Ni及びNiCu電極のXRDパターンは、2θ=44.44°、51.26°及び76.35°で3つの主な回折ピークを示しており、これは面心立方ニッケルの(111)、(200)及び(220)面と十分に一致する(JCPDS、No.70~0989)。NiCuについては、Niに観察される3つの特性ピーク以外に、Ni(111)、(200)及び(220)ピークの底部に別の3つのピークが現れており、Ni及びCu合金の形成を示唆している。バナジウムの関与を伴う試料については、XRDパターンは44.44°で1つの小さく広いピークを示すのみであり、堆積中にNH
4VO
3が存在するとき超微細Ni様ナノ結晶(NC)が形成されたことを示唆しており、超微細NCの平均サイズはシェラーの式によりたった約4.65nmであると計算されたが、これは純粋なNiの約26.79nm及びNiCu合金の約19.07nmよりもはるかに小さい。超微細Ni様NCの形成のために電着中に用いられたV:Ni前駆体のモル比はたった1.7%であり(すなわち、1.7:100 NH
4VO
3のモル:NiSO
4のモル)、結晶進化に対するバナジウムの強い効果を示す(
図3)。超微細NCは、触媒構造内のHER用活性部位の曝露を増大させると考えられる。より曝露される活性部位を更に提供するために、Cuは上記に記載されているアノード溶解方法を用いて選択的に脱合金された。部分的なCu除去は、高周波誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP-OES)の手法を用いて分析された脱合金前後の15.4原子%から10.55原子%へのCu/Ni比の低下から確認された(下記のTable 1(表1)参照)。特に、触媒内に銅が存在することは水素発生反応を触媒するときに重要な役割を果たしており、これについては以下で議論する;しかし、部分的に取り除かれたCu触媒とCu除去前の触媒との間でHER触媒作用に違いは観察されなかった。部分的に取り除かれたCu触媒を本例ではNiCuVO
xと呼ぶ。
【0097】
【0098】
バナジウムの関与を伴う試料が電着されると(NiVOx、及びNiCuVOx)、超微細NCが形成され、これは表面形態研究により立証された。
図4a及び
図5a~
図5cのSEM画像から分かるように、約5nmのサイズを有する微細なNCが得られた一方、Ni及びNiCuについてはより大きな結晶が観察され、複合体中にバナジウムが存在することが結晶粒子微細化において役割を果たしていることを示唆している。調製されたNiCuVOxの形態及び構造はTEM及び高解像度TEM(HRTEM)により更に研究された。低解像度のTEMは、NiCuVOxの微細な結晶構造を明らかに示している(
図4b)。HRTEMを検討すると、約4~5nmのサイズの超微細NiCuVOx NCが形成されたことが明らかになり(
図4c)、これはXRD及びSEMの結果と十分に一致する。NiCuVOxの超微細NC構造中では、識別可能な格子縞及び識別不能な格子縞が共存しており、これらのNCが実質的に均等に配置された非晶質バナジウム堆積物を伴う結晶構造を有することを意味している。HRTEMの結果をより詳しく調査すると0.202nmのd-空間が示され(
図4c、差し込み図)、これはfcc Niの(111)面と一致する。一般的なTEM-EDSマッピングは、Ni、Cu、V及びO元素の均一な分散を示した(
図4e~
図4h)。Cuについては、非常に明るいNi部位ではより少ないCuしか観察されていないので、その一部はNiCu合金からアノード除去されている。
【0099】
NiCuVOxの組成及び元素酸化状態は、X線光電子分光(XPS、
図6a~
図6d)により研究された。Ni2p XPS(
図6a)について、852.8eV(Ni2p3/2ライン)及び870.0eV(Ni2p1/2ライン)の結合エネルギーは、金属Ni及び17.3eVのNi2pピーク分裂スピン軌道成分に関し、NiCuVOx複合体中にニッケル金属が形成されたことを表している。
図6bは、19.8eVのNi2pピーク分裂スピン軌道成分を伴って、それぞれピーク932.8eV及び952.6eVにおけるCuのCu2p3/2及びC2p1/2スペクトラム領域を示しており、銅の酸化状態はCu(0)金属であることを示唆している。V2p
3/2用の結合エネルギーは、516.9及び515.2eVで2つのピークを示しており(
図6c)、V4
+を優位となる原子価状態(V4
+/V3
+=9)として、V4
+及びV3
+の混合原子価状態の提示を示唆しており、これは堆積させたバナジウム複合体の黒色と十分に一致しており電気化学堆積中にV5
+の減少が成功したことを示唆している。529.7eVでのO1のフィッティングピーク(
図6d)は、O-V結合を指し、531.2eV位置にあるピークは酸化バナジウム含有堆積物の形成と一致し、532.9eVは表面吸着されたH
2O分子中の酸素種に割り当てることができる。上記の結果により、電着バナジウム含有複合体の化合物式はVO
1.95・xH
2Oと書くことができる。
【0100】
HER用に調製されたNiCuVOx、NiCu、NiV及びNi触媒の触媒性能は、アルカリ性、中性及び腐食性海水媒体を含む多様な条件で、線形スキャンボルタモグラム(LSV)及びクロノポテンシオメトリー法を用いて評価された。また、比較のために、市販の標準Pt/C触媒(カーボンブラック上の20wt%Pt)の電極触媒活性も測定した(
図7a)。NiCuVO
xについては、まず最適化された電着及び脱合金条件が評価され、堆積浴中でのCu
2+/Ni2+=2.5%(16mMの銅)のモル比及び400秒の時間のアノード脱合金により最も強い水素発生特性を有する触媒が製造されることが明らかになった(
図8)。最適化後、触媒活性は1.0Mの水酸化カリウム(KOH)中で比較され、NiCuVOxはHERのためにほぼゼロの過電圧を供給した。印象的なことに、NiCuVOx触媒は、NiVOx、NiCu及びNiそれぞれの49、49、及び87mVよりも小さい、たった22mVの過電圧(iR補正なし)で、10mAcm
-2のHER電流密度を達成した。電解液と電極との間の抵抗が取り除かれた場合(iR補償された、
図7aの黒色の破線)、10mAcm
-2の電流密度に達するためにただ10mVの過電圧しか必要でなく、NiCuVOx触媒には100mAcm
-2の電流密度に達するために42mVが必要となる。iR補正したNiVOx触媒の過電圧は、10mAcm
-2の電流密度を達成するためには44mVであり100mAcm
-2の電流密度に達するためには101mVである。
【0101】
ターフェル勾配は、電極反応の固有の特性としてみなされ、ターフェル勾配値は速度制限工程により決定される。通常、HER動力学モデルは、ボルマー、ヘイロフスキー又はターフェル反応がそれぞれ約120、40、又は30mV dec
-1のターフェル勾配の速度決定工程であることを示唆する。NiCuVOx、NiVOx、NiCu、Ni及び20%Pt/Cのターフェル勾配は、それぞれ24、45、72、74及び34mV dec
-1である(
図7b)。NiCuVOxの24mV dec
-1の最小のターフェル勾配は、次第に上昇する過電圧を印加されて水素発生速度がより速く上昇すること、及びH
adsの化学的再結合を伴うボルマー-ターフェル機構、及び低過電圧でのNiCuVOxナノ粒子による速度決定工程を示唆する。
【0102】
電極触媒の安定性は、HER触媒の重要な基準である。まず、FTO上のバナジウム堆積物(VOx;電着により調製された)は、電解質溶液(1Mのリン酸緩衝生理食塩水(PBS)溶液及び1Mの水酸化カリウム)に浸漬することにより、安定性を試験された。FTO基材は、その透明度により選択された。FTO上に堆積されたVOxは、6ヶ月間を超えて何らの視覚変化もなしに1Mの中性PBS溶液に浸潰することができる一方で、1MのKOHに浸漬させた、FTO上に堆積させた黒色のVOxは、経時的に無色となり、アルカリ性条件下でバナジウム堆積物は溶解することを示唆している。更に、アルカリ性条件下では、NiCuVOxは長期間にわたってアルカリ性電解液中で一定の電流密度の下では、多少HER活性を失うことが明らかになっている(
図9)。この現象は、アルカリ中での長期の安定性の後に検出される弱いXPS V2pシグナルから更に証明することができ、堆積させた酸化バナジウムは、少なくとも表面では、ほとんど溶液中に溶解したことを意味する。しかし、この問題はKOH溶液中にNH
4VO
3を添加することにより解決することができる(
図9)。
図7c、
図7d及び
図9から分かるように、NiCuVOx電極は同一の条件下で測定されたNi電極の乏しい安定性とは全く対照的に、電解液中にNH
4VO
3を含む、多重電流試験条件、又は低電流密度(50mAcm
-2)及び高電流密度(100mAcm
-2)の両方での長期の安定性のどちらかにおいて優れた安定性及び物質移動特性を示す。NiCuVOxは、クロノポテンシオメトリー実験で20時間を超える時間50mAcm
-2に達するような、その約190mVの安定した過電圧により証明されるように、中性溶液中で、NH
4VO
3の存在なしの優れた長期的電気化学堅牢性を発揮する(
図10b)。
【0103】
更に、アルカリ中でのVOxの溶解問題の長期の安定性に対する影響もまた、NiCuVOx上に非晶質酸化クロムの層をコーティングすることにより、解決することができる(命名:CrO-NiCuVOx))。
図11に示すように、長期の水素発生反応(HER)安定性試験において、安定化前に連続したHER活性化があり、活性は開始から約25%向上した。優れた耐久性により、それは実用上の水電解への応用において有望なものとなっている。
【0104】
水素ガスを発生させるための既存の電気化学水分解プロセスは、過酷なアルカリ性又は酸性条件のどちらかを使用する。そのような過酷な条件下での腐食により、中性pH近傍の、海水等の豊富に存在する水供給源からの実用上の大規模な水素製造が妨げられている。アルカリ性媒体中でのHERの機構は、中性条件下での機構と似ている。したがって、バナジウム修飾前後の合成触媒のHER活性は、pH=7で更に調査された。また、調製された電極も、中性pH下で水素発生用の電解触媒として十分に機能する。
図10aに示すように、NiCuVOxは10mAcm
-2の電流密度に達するためにη=56mVの小さい過電圧しか必要とせず、純粋なNi電極で観察されるη=284mV、NiCu電極でのη=202mV及びNiVOx電極でのη=114に比べて勝るとも劣らない。iR補償が適用される場合、NiCuVOx触媒を用いてpH=7での水素発生のための10mAcm
-2での28mVの又は100mAcm
-2での126mVの超低過電圧が達成された。
【0105】
現時点では、海水電解に基づいてH
2を発生させることは依然として困難な課題であり、海水環境における主な問題は、ほとんどの水分解触媒が失活し又は腐食しやすく、この結果、効率が低下することである。したがって、模擬海水又は実際の海水環境で高活性及び高安定性の両方を有する触媒を開発することが非常に望ましい。水素発生用の調製された高効率で堅牢なNiCuVOx電極は模擬海水及びシドニー及び南太平洋、中国から得られた実際の海水の両方で更に調査された。興味深いことに、模擬海水及び実際の海水条件下でNiCuVOxには10mAcm
-2の電流密度に達するために、194mVの過電圧(iR補正なし)が必要となった(
図10c)が、これは類似した条件下での他の報告されている触媒に比べて勝るとも劣らない。長期の安定性試験は、海水中で多少劣化した触媒活性を示す(
図10d);しかし、この劣化は、電解中電極表面に白色の沈殿物が形成される反応中に、連続して沈殿物が形成されたためであったと考えられている。沈殿物が形成されることは、Na、Ca及びMg塩を含む海水の複雑な組成のためであったと考えられている。しかし、これらの白色の堆積物は音波処理により容易に取り除かれ、沈殿物除去の後では触媒の高触媒活性が回復し、NiCuVOx電極の堅牢性を示した。
【0106】
高電流密度(300mAcm
-2)、高電解液濃度(30wt% KOH)、及び高温(80℃)で運転される実際の工業的アルカリ性水電解におけるカソード電極としての調製されたNiCuVOx材料の堅牢性及び高活性を更に評価するために、二電極電気分解電池を使用して市販の電極(Suzhou Jingli Hydrogen Production Equipment Co社)との比較により水素製造能力を試験した。この電池設定と市販の構成との間の唯一の違いとは、カソードをNF上で調製されたNiCuVOx電極カソードと交換したことであるが、Niをニッケルメッシュアノード電極上に保持することは変化しなかった。第1に、NiCuVOxカソード電極の電解活性を、30wt% KOH電解液中で80℃で、10mAcm
-2から500mAcm
-2までの異なる電流密度の下で市販の電極と比較して測定した。
図12aで分かるように、NiCuVOx電極が用いられるとき、水分解性能は市販のカソードの性能より著しく向上している。たとえば、カソードでNiCuVOxが用いられたときには、10mAcm
-2の電流密度を提供するために、市販のカソードを利用したときの1.52Vの電池電圧と比較して、たった1.35Vの電池電圧しか必要とされなかった。同様に、NiCuVOxカソードを用いると、500mAcm
-2の電流密度を提供するために、市販のカソードの2.08Vの電池電圧と比較して、1.89Vの電池電圧が必要とされた。NiCuVOxの向上した触媒活性は、いいかえると市販のカソードと比較して約10%の省エネとなる。電気化学電池でNiCuVOxカソードから発生された、製造された水素は、ガスクロマトグラフィーにより定量され、ほぼ100%のファラデー効率が得られた。
【0107】
電極は断続的な運転中の逆流のため、脱分極化し、腐食/失活の影響を受けやすいおそれがあるので、全ての電解プロセスの重要な目標は、長期の運転及び頻繁な/急速な電池の運転停止/起動に耐えることができる触媒の開発である。更に、突然の電源変化に耐えることができる電極は、太陽エネルギー及び風力エネルギー等の断続的で再生可能な資源から発生する電力と組み合わせて使用するのにきわめて重要である。したがって、高温で高電流密度での運転停止/起動(80℃、300mAcm
-2;1時間の運転停止間隔での少なくとも10回の運転停止/起動サイクル)を伴う、連続した電解及び断続的な電解の両方の下での安定性を、30wt%KOH電解液で試験した。これらの試験から得られた定電流曲線を、
図12bに示している。これらの試験を通して電池電圧は各運転停止後約1.78Vで安定である。これらの結果は、過酷な連続したアルカリ性水電解運転中に、電池電位に最小の変化しかないことを示しており、調製されたNiCuVOx電極の優れた長期の堅牢性を示唆している。
【0108】
NiCuVOx触媒の安定性及び堅牢性は、HERを触媒するための使用後に特性評価の研究を繰り返すことにより、更に支持された。長期のアルカリ性水電解後のNiCuVOxのTEM画像は、触媒がNi、Cu、V及びO元素マッピングの均一な分散とともに、その構造を保持していることを示している(
図13)。更に、安定性試験後のNiCuVOx試料のXRDパターンは、唯一のピークとしてNi(111)ピークを有する試験前のXRDパターンと完全に一致しており、カソード材料としてのNiCuVOxの安定性を更に実証している(
図14)。
【0109】
元素の酸化状態についての更なる情報を得るために、詳細にはHER、Ni、Cu及びV上の堆積バナジウム含有化合物の影響を決定するために、元素の酸化状態の影響を受けやすいK端XANES測定が実施された。
図15aは、異なる試料及び標準的なNiOのNi-K端スペクトルを示している。全スペクトルは、1sの内殻準位からフェルミ準位近傍の結合の非占有d状態への遷移が主因とされるプレエッジショルダーピークを示し、Niについての調製された触媒の酸化状態はニッケル金属と類似していることを意味した。しかし、プレエッジ位置はバナジウムの存在に伴い、より高いエネルギーへと移動する一方、それはCuの共堆積の後では、負の位置へと移動する。この現象は、Cuが存在するときNiがより金属特性を示しやすいことを示唆しており、これはH吸着には適しているが、Ni-Hの強い化学結合はH
2の脱着を妨げ、したがってHERの反応速度を低下させるおそれがある。NiVOxについては、NiCuVOx及びNiCuと比較してより高強度のホワイトラインピークは、Niがより酸化した状態にあったことを示唆しており、これはH
2脱着では強化されているがH吸着では弱化されていることを意味する。したがって、NiCuVOx材料中のNiの金属特性は、最適な水素結合エネルギーと一致すると考えられている。NiCuVOx複合体については、Niプレエッジ位置がNiCu合金とNiVOxとの間に位置し、軽度に酸化したNiの酸化状態が発生したことを示唆しており、これは電気化学水分解性能に観察されるように、水分解に対する触媒活性に著しく影響し得る。Niの部分的酸化及び構造障害もまたNiホイルの場合よりもn減少したNi-Ni相互作用ピーク強度及びより短い結合長さのNi-K端のEXAFS分析から見ることができる(
図15b)。
【0110】
バナジウムK端は、調製された触媒中で測定された。
図15cは、参照試料としてバナジウムの異なる原子価状態とともに、NiCuVOx及びNiVOx試料のスペクトルを示している。V K端のプレピークは形式上禁制の1s~3d電子遷移であることが公知であり、そのようなプレピークの強度は完全な八面体対称(VO)から変形した八面体VO
6群(V
2O
3及びVO
2)へ、更には低配位の変形した四角錐形VO
5群(V
2O
5)へと増大する。
図15cから分かるように、XPS結果によれば、このプレピークの強度は、V
2O
5参照と比較して、より低いエネルギー位置に移動もし、わずかに強度が減少もしており、バナジウム酸化状態及びVO
2様構造の形成が低減していることを意味する。
【0111】
また、CuのK端シグナルも測定され、結果は
図15dに提示されており、比較のために金属Cu参照が加えられている。スペクトルプロファイル及び端の位置は、銅がCu
0酸化形態に近接していることを示唆している。
【0112】
電着手法は、フッ素ドープされた酸化スズ(FTO)、ニッケル発泡体(NF)、ニッケルメッシュ、及び炭素紙繊維(CFP)を含む多様な導電性基材上に電極材料が堆積することを可能にする。これにより製造された電極は、類似した高性能を実証している(
図16)。また、堆積プロセスには、拡張性もあり、21cm×21cmのサイズを有する大きな基材上へのNiCuVOxの堆積が1MのKOH中の調製された小型の電極で観察されたものとほとんど同一のHER活性を示し、成功している(
図17)。
【0113】
(実施例2)
コバルト系触媒
実施例1に記載されているものと類似した方法を用いて、酸化バナジウムでドープされたコバルト触媒が調製された。比較のために、バナジウムドーピングなしの参照材料が調製された。
図18及び
図19に示されている結果には、バナジウムドープされたコバルト触媒がアルカリ性及び中性条件の両方でコバルトのみの触媒よりも優れたHER触媒活性を有することが実証されている。更に、アルカリ性条件下で、CoV触媒は市販の白金触媒に競合できる活性を有する。
【0114】
CoVカソードの調製。全電着は、実施例1に記載されているように、三電極電気化学設定で実施された。発泡体(NF)基材上へのCoV触媒の電着は、作用電極としてNF、補助電極としてグラファイト板、及び参照電極として飽和カロメル電極(SCE)を用いて達成された。堆積に先立ち、ニッケル発泡体はまず5MのHCl溶液で20分間超音波処理されてNiO層を取り除かれ、次いで水及びエタノールですすがれ、次いで空気雰囲気中で乾燥させられた。電着電解液は、500mMのCoCl2、18mMのNH4VO3及び500mMのH3BO3を含む。電着は、CHI660D電気化学ワークステーション(CH Instrument社)で室温で行われた。CoVフィルムは、-2.0V(対SCE)で600秒間NF基材上に電着された。前駆体中のV/Coのモル比は、3.6%である。
【0115】
NF対照試料上のコバルトの調製。NF制御された電極上のCoは、NH4VO3バナジウム前駆体を添加したことを除いて、上記にまとめられているものと同一の条件下で調製された。