(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-19
(45)【発行日】2024-03-28
(54)【発明の名称】徐放性脂質前製剤およびそれを含む脂質溶液の形態の徐放性注射用医薬組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 9/08 20060101AFI20240321BHJP
A61K 47/12 20060101ALI20240321BHJP
A61K 47/24 20060101ALI20240321BHJP
A61K 47/22 20060101ALI20240321BHJP
A61K 47/10 20170101ALI20240321BHJP
A61K 47/14 20170101ALI20240321BHJP
A61K 38/08 20190101ALI20240321BHJP
A61P 5/00 20060101ALI20240321BHJP
【FI】
A61K9/08
A61K47/12
A61K47/24
A61K47/22
A61K47/10
A61K47/14
A61K38/08
A61P5/00
(21)【出願番号】P 2021548193
(86)(22)【出願日】2020-02-17
(86)【国際出願番号】 KR2020002182
(87)【国際公開番号】W WO2020171491
(87)【国際公開日】2020-08-27
【審査請求日】2023-01-20
(31)【優先権主張番号】10-2019-0018619
(32)【優先日】2019-02-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】519254831
【氏名又は名称】アイエムディーファーム インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】IMDPHARM INC.
【住所又は居所原語表記】307,17,Daehak 4-ro,Yeongtong-gu,Suwon-si,Gyeonggi-do 16226,Republic of Korea
(74)【代理人】
【識別番号】100077012
【氏名又は名称】岩谷 龍
(72)【発明者】
【氏名】パク,ヨンジュン
(72)【発明者】
【氏名】ジョン,サンウォン
(72)【発明者】
【氏名】チェ,スク
【審査官】三上 晶子
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-508140(JP,A)
【文献】特表2007-510705(JP,A)
【文献】特表2001-517624(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 9/00- 9/72
A61K 47/00- 47/69
A61K 31/00- 33/44
A61K 38/08
A61P 1/00- 43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂質溶液の形態の徐放性脂質前濃縮物であって、
炭素数14~20(C
14~C
20)の不飽和脂肪酸と、リン脂質と、酢酸α-トコフェロール
からなり、ジアシルグリセロールおよびソルビタン不飽和脂肪酸エステルを含まず、水性媒体中で液晶を形成する、前濃縮物。
【請求項2】
前記炭素数14~20(C
14~C
20)の不飽和脂肪酸の含有量が、前記前濃縮物の総重量に対して30~70重量%である、請求項1に記載の前濃縮物。
【請求項3】
前記リン脂質の含有量が、前記前濃縮物の総重量に対して25~50重量%である、請求項1に記載の前濃縮物。
【請求項4】
前記酢酸α-トコフェロールの含有量が、前記前濃縮物の総重量に対して5~20重量%である、請求項1に記載の前濃縮物。
【請求項5】
脂質溶液の形態の徐放性脂質前濃縮物であって、
炭素数14~20(C
14
~C
20
)の不飽和脂肪酸と、リン脂質と、酢酸α-トコフェロールと、生体適合性溶媒として、エタノール、プロピレングリコール、N-メチルピロリドン、およびベンジルアルコールからなる群から選択される1つ以上の有機溶媒;または該有機溶媒の水溶液
からなり、
ジアシルグリセロールおよびソルビタン不飽和脂肪酸エステルを含まず、水性媒体中で液晶を形成する、前濃縮物。
【請求項6】
前記生体適合性溶媒の含有量が、前記前濃縮物の総重量に対して5~10重量%である、請求項5に記載の前濃縮物。
【請求項7】
炭素数14~20(C
14~C
20)の不飽和脂肪酸30~65重量%;リン脂質25~50重量%;酢酸α-トコフェロール5~20重量%;および生体適合性溶媒5~10重量%
からなる、請求項5に記載の前濃縮物。
【請求項8】
脂質溶液の形態の徐放性脂質前濃縮物であって、
炭素数14~20(C
14
~C
20
)の不飽和脂肪酸と、リン脂質と、酢酸α-トコフェロールと、中鎖脂肪酸トリグリセリド
からなり、
ジアシルグリセロールおよびソルビタン不飽和脂肪酸エステルを含まず、水性媒体中で液晶を形成する、前濃縮物。
【請求項9】
前記中鎖脂肪酸トリグリセリドの含有量が、前記前濃縮物の総重量に対して1~5重量%である、請求項8に記載の前濃縮物。
【請求項10】
炭素数14~20(C
14~C
20)の不飽和脂肪酸30~65重量%;リン脂質25~50重量%;酢酸α-トコフェロール5~20重量%;および中鎖脂肪酸トリグリセリド1~5重量%
からなる、請求項8に記載の前濃縮物。
【請求項11】
脂質溶液の形態の徐放性脂質前濃縮物であって、
炭素数14~20(C
14
~C
20
)の不飽和脂肪酸と、リン脂質と、酢酸α-トコフェロールと、生体適合性溶媒として、エタノール、プロピレングリコール、N-メチルピロリドン、およびベンジルアルコールからなる群から選択される1つ以上の有機溶媒;または該有機溶媒の水溶液と、中鎖脂肪酸トリグリセリド
からなり、
ジアシルグリセロールおよびソルビタン不飽和脂肪酸エステルを含まず、水性媒体中で液晶を形成する、前濃縮物。
【請求項12】
前記中鎖脂肪酸トリグリセリドの含有量が、前記前濃縮物の総重量に対して1~5重量%である、請求項11に記載の前濃縮物。
【請求項13】
炭素数14~20(C
14~C
20)の不飽和脂肪酸30~55重量%;リン脂質25~45重量%;酢酸α-トコフェロール5~20重量%;中鎖脂肪酸トリグリセリド1~5重量%;および生体適合性溶媒5~10重量%
からなる、請求項11に記載の前濃縮物。
【請求項14】
脂質溶液の形態の徐放性注射用医薬組成物であって、
薬理活性物質と、請求項1~13のいずれか一項に記載の前濃縮物
からなり、ジアシルグリセロールおよびソルビタン不飽和脂肪酸エステルを含まない、医薬組成物。
【請求項15】
前記前濃縮物中の前記薬理活性物質の溶解度が、0.1mg/ml以上である、請求項14に記載の医薬組成物。
【請求項16】
前記薬理活性物質が、ロイプロリドもしくはその薬学的に許容可能な塩;ゴセレリンもしくはその薬学的に許容可能な塩;エンテカビルもしくはその薬学的に許容可能な塩;ソマトスタチン類似体もしくはその薬学的に許容可能な塩;グルカゴン様ペプチド1(GLP-1)類似体もしくはその薬学的に許容可能な塩;デュタステリドもしくはその薬学的に許容可能な塩;ドネペジルもしくはその薬学的に許容可能な塩;アリピプラゾールもしくはその薬学的に許容可能な塩;パリペリドンもしくはその薬学的に許容可能な塩;またはリスペリドンもしくはその薬学的に許容可能な塩である、請求項15に記載の医薬組成物。
【請求項17】
前記薬理活性物質0.1~10重量%;炭素数14~20(C
14~C
20)の不飽和脂肪酸30~60重量%;リン脂質25~50重量%;および酢酸α-トコフェロール5~20重量%
からなる、請求項14に記載の医薬組成物。
【請求項18】
前記薬理活性物質0.1~10重量%;炭素数14~20(C
14~C
20)の不飽和脂肪酸30~60重量%;リン脂質25~45重量%;酢酸α-トコフェロール5~20重量%;および生体適合性溶媒5~10重量%
からなる、請求項14に記載の医薬組成物。
【請求項19】
前記薬理活性物質0.1~10重量%;炭素数14~20(C
14~C
20)の不飽和脂肪酸30~55重量%;リン脂質25~45重量%;酢酸α-トコフェロール5~20重量%;中鎖脂肪酸トリグリセリド1~5重量%;および生体適合性溶媒5~10重量%
からなる、請求項14に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、徐放性脂質前濃縮物およびそれを含む脂質溶液の形態の徐放性注射用医薬組成物に関する。より具体的には、本発明は、炭素数14~20(C14~C20)の不飽和脂肪酸とリン脂質と酢酸α-トコフェロールの組み合わせを含む徐放性脂質前濃縮物、およびそれを含む脂質溶液の形態の徐放性注射用医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ペプチド、タンパク質、核酸、ウイルスなどの高分子バイオ医薬品や、合成低分子化合物を含む多くの薬理活性物質、特に体内での滞留時間が短い薬理活性物質は、治療有効濃度を維持するために、短時間のうちに反復投与することが必要である。このような反復投与は、患者のコンプライアンスの低下、反復投与による最大血中濃度の上昇、それによる副作用の増加、および不適切な治療効果につながる可能性がある。これらの問題を改善するため、薬理活性物質の徐放用の経口剤形および非経口剤形に適用可能な様々な方法が研究されている。例えば、ポリマーを使用した徐放性錠剤および胃内滞留錠剤などの経口製剤や、皮膚を介した持続放出製剤(例えば、経皮パッチ)および注射製剤(例えば、皮下移植錠剤、リポソームおよびミクロスフェア)などの非経口製剤が提案されている。
【0003】
薬物の徐放用の注射製剤については、筋肉内投与または皮下投与が可能な製剤が主に研究されている。薬物の徐放用の注射製剤を単回投与することによって、数日間から数週間または数ヶ月間にわたり生理活性物質を継続的に放出させ、それによって薬物の治療有効濃度を長期間維持し、反復投与による副作用を防ぐことができる。数日間以上にわたって薬物が持続的に放出される薬物徐放用の注射製剤の大部分は、体内に薬物デポーを形成して体循環に薬物を徐々に放出するように設計された製剤である。代表的なものとして、薬理活性物質がPLGA(生分解性ポリマー)のミクロスフェアにカプセル化された製剤が提案されている。ミクロスフェアは、体内で徐々に乳酸とグリコール酸に分解され、有効成分を徐々に放出する。ミクロスフェアの調製に使用される生分解性ポリマーとして、PLGA以外にもポリシアナミドが使用されている。生分解性ポリマーを使用して製造された徐放性ミクロスフェア製剤は、薬物の徐放を誘導することにより、薬物の有効性を持続させることができる。一方で、生分解されたポリマー粒子により、注射部位に炎症が起こる可能性がある。また、注射に必要な滅菌製剤の調製過程において、(工業的に最も簡便な方法の1つである)一般的な滅菌ろ過法を使用することは困難なため、例えば、滅菌を行うための閉鎖無菌処理システムのような特殊な製造装置で製造する必要があるという欠点がある。
【0004】
WO2005/117830では、生分解性ポリマーベースの製剤の欠点を回避することができる製剤として、少なくとも1つの中性ジアシル脂質(例えば、ジオレイン酸グリセリルなどのジアシルグリセロール)および/または少なくとも1つのトコフェロール;少なくとも1つのリン脂質;ならびに少なくとも1つの、酸素を含む生体適合性の低粘度有機溶媒を含む液体デポー製剤を開示している。しかし、ジオレイン酸グリセリルなどの中性ジアシル脂質を含む製剤は、生分解性が低いという問題がある。また、中性ジアシル脂質は生体に由来する物質ではないため、生体適合性が低く、炎症を起こす可能性が高い。
【0005】
韓国特許第10-1494594号では、ソルビタン不飽和脂肪酸エステルと;リン脂質(ホスファチジルコリンなど)と;イオン化可能な基(カルボキシル基やアミン基など)を含まず、トリアシル基または炭素環構造を有する炭素数15~40の疎水性部分を有する液晶硬化剤とを含む徐放性脂質前濃縮物が開示されている。また、韓国特許第10-1586789号では、ソルビタン不飽和脂肪酸エステルと;リン脂質(ホスファチジルコリンなど)と;液晶硬化剤(トリグリセリドや酢酸トコフェロールなど)と;アニオン性定着剤(パルミチン酸など)とを含む徐放性脂質前濃縮物が開示されている。しかし、モノオレイン酸ソルビタンは粘度が高いため(約1000mPa・s、25℃)、モノオレイン酸ソルビタンを使用して得られた製剤は粘度が高く、注射にはあまり適していないという問題がある。また、モノオレイン酸ソルビタンは、生体成分でも生体に由来する材料でもないため、投与部位における炎症などの安全性の問題を引き起こす可能性がある。
【0006】
したがって、一週間以上にわたって薬物を徐々に放出する注射製剤として、薬物の初期放出を阻止し、優れた生分解性、生体適合性および注射性能を有する徐放性注射用医薬組成物の開発が当技術分野において求められている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者らは、優れた生分解性、生体適合性および注射性能を有する、脂質溶液の形態の徐放性注射用医薬組成物の開発を目的として様々な研究を行った。その結果、ジアシルグリセロールおよび/またはソルビタン不飽和脂肪酸エステルの代わりに、炭素数14~20(C14~C20)の不飽和脂肪酸(生体内に存在する成分または生体に由来する成分であり、効果的に生分解される不飽和脂肪酸)をリン脂質および酢酸α-トコフェロールと組み合わせて前製剤(すなわち前濃縮物)を調製し、これを薬理活性物質と一緒に製剤化すると、優れた注射性能、生体適合性および生分解性を有する、脂質溶液の形態の徐放性注射用医薬組成物を得ることができることを見出した。
【0008】
したがって、本発明は、炭素数14~20(C14~C20)の不飽和脂肪酸と、リン脂質と、酢酸α-トコフェロールの組み合わせを含む、脂質溶液の形態の徐放性脂質前濃縮物を提供することを目的とする。
【0009】
本発明は、薬理活性物質と前記前濃縮物とを含む、脂質溶液の形態の徐放性注射用医薬組成物を提供することを別の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一態様によれば、脂質溶液の形態の徐放性脂質前濃縮物であって、炭素数14~20(C14~C20)の不飽和脂肪酸と、リン脂質と、酢酸α-トコフェロールとを含み、ジアシルグリセロールおよびソルビタン不飽和脂肪酸エステルを含まず、水性媒体中で液晶を形成することを特徴とする前濃縮物が提供される。
【0011】
本発明の前濃縮物中の前記炭素数14~20(C14~C20)の不飽和脂肪酸の含有量は、該前濃縮物の総重量に対して30~70重量%であってもよく、前記リン脂質の含有量は、該前濃縮物の総重量に対して25~50重量%であってもよく、前記酢酸α-トコフェロールの含有量は、該前濃縮物の総重量に対して5~20重量%であってもよい。
【0012】
本発明の前濃縮物は、生体適合性溶媒として、エタノール、プロピレングリコール、N-メチルピロリドン、およびベンジルアルコールからなる群から選択される1つ以上の有機溶媒;または前記有機溶媒の水溶液をさらに含んでいてもよい。前記生体適合性溶媒の含有量は、本発明の前濃縮物の総重量に対して5~10重量%であってもよい。一実施形態において、本発明の前濃縮物は、炭素数14~20(C14~C20)の不飽和脂肪酸30~65重量%;リン脂質25~50重量%;酢酸α-トコフェロール5~20重量%;および生体適合性溶媒5~10重量%を含んでいてもよい。
【0013】
本発明の前濃縮物は、中鎖脂肪酸トリグリセリドをさらに含んでいてもよい。前記中鎖脂肪酸トリグリセリドの含有量は、本発明の前濃縮物の総重量に対して1~5重量%であってもよい。別の一実施形態において、本発明の前濃縮物は、炭素数14~20(C14~C20)の不飽和脂肪酸30~65重量%;リン脂質25~50重量%;酢酸α-トコフェロール5~20重量%;および中鎖脂肪酸トリグリセリド1~5重量%を含んでいてもよい。さらに別の一実施形態において、本発明の前濃縮物は、炭素数14~20(C14~C20)の不飽和脂肪酸30~55重量%;リン脂質25~45重量%;酢酸α-トコフェロール5~20重量%;中鎖脂肪酸トリグリセリド1~5重量%;および生体適合性溶媒5~10重量%を含んでいてもよい。
【0014】
本発明の別の一態様によれば、脂質溶液の形態の徐放性注射用医薬組成物であって、薬理活性物質と前記前濃縮物とを含み、ジアシルグリセロールおよびソルビタン不飽和脂肪酸エステルを含まない医薬組成物が提供される。
【0015】
本発明の医薬組成物において、前記前濃縮物中の前記薬理活性物質の溶解度は、0.1mg/ml以上であってもよく、該薬理活性物質として、例えば、ロイプロリドまたはその薬学的に許容可能な塩;ゴセレリンまたはその薬学的に許容可能な塩;エンテカビルまたはその薬学的に許容可能な塩;ソマトスタチン類似体またはその薬学的に許容可能な塩;グルカゴン様ペプチド1(GLP-1)類似体またはその薬学的に許容可能な塩;デュタステリドまたはその薬学的に許容可能な塩;ドネペジルまたはその薬学的に許容可能な塩;アリピプラゾールまたはその薬学的に許容可能な塩;パリペリドンまたはその薬学的に許容可能な塩;およびリスペリドンまたはその薬学的に許容可能な塩が挙げられる。
【0016】
一実施形態において、本発明の医薬組成物は、前記薬理活性物質0.1~10重量%;炭素数14~20(C14~C20)の不飽和脂肪酸30~60重量%;リン脂質25~50重量%;および酢酸α-トコフェロール5~20重量%を含んでいてもよい。別の一実施形態において、本発明の医薬組成物は、前記薬理活性物質0.1~10重量%;炭素数14~20(C14~C20)の不飽和脂肪酸30~60重量%;リン脂質25~45重量%;酢酸α-トコフェロール5~20重量%;および生体適合性溶媒5~10重量%を含んでいてもよい。さらに別の一実施形態において、本発明の医薬組成物は、前記薬理活性物質0.1~10重量%;炭素数14~20(C14~C20)の不飽和脂肪酸30~55重量%;リン脂質25~45重量%;酢酸α-トコフェロール5~20重量%;中鎖脂肪酸トリグリセリド1~5重量%;および生体適合性溶媒5~10重量%を含んでいてもよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明による脂質溶液の形態の徐放性脂質前濃縮物、およびそれを含む脂質溶液の形態の徐放性注射用医薬組成物は、粘度が低いことから、従来の前濃縮物やそれを含む徐放性医薬組成物と比較して、優れた注射性能を示す。特に、本発明による脂質溶液の形態の徐放性脂質前濃縮物、およびそれを含む脂質溶液の形態の徐放性注射用医薬組成物は、ジアシルグリセロールおよびソルビタン不飽和脂肪酸エステルの代わりに、生体内に存在する成分または生体に由来する成分であることから効果的に生分解される炭素数14~20(C14~C20)の不飽和脂肪酸を含み、それによって、優れた生体適合性および生分解性を示し、従来の徐放性注射製剤の欠点の1つである投与部位での炎症の発生を根本的に回避することができる。したがって、本発明は、少なくとも7日間にわたって持続放出可能な、優れた安全性を有する徐放性注射製剤の形態の医薬組成物を提供することができる。さらに、本発明による脂質溶液の形態の徐放性脂質前濃縮物、およびそれを含む脂質溶液の形態の徐放性注射用医薬組成物は、滅菌濾過などの様々な滅菌プロセスを実施することによって、容易に調製することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】実施例14および実施例15、ならびに比較例3、比較例4、比較例7および比較例8において調製した前濃縮物の粘度の測定と、その比較による結果を示す。
【
図2a-2c】実施例10、実施例11、実施例14および実施例15(
図2a)、比較例1~4(
図2b)、比較例5~8(
図2c)で調製した前濃縮物を、1mlの注射器に充填し、26ゲージの針を通して10mlのリン酸緩衝液(pH7.4)に注入したときの外観を示す。
【
図3】実施例15で調製した前濃縮物を過剰量の水相に注入することにより形成された液晶構造を、偏光顕微鏡(250倍)で分析することにより得られた結果を示す。
【
図4】実施例120~123で調製した徐放性医薬組成物を水相に曝露した際の粘度の測定により、外力がかかったとしても強固なマトリックスを形成できる時間を確認した結果を示す。
【
図5】実施例122および実施例123で調製した、酢酸ロイプロリドを含む徐放性医薬組成物のインビトロ放出試験の結果を示す。
【
図6】実施例126で調製した、酢酸ゴセレリンを含む徐放性医薬組成物のインビトロ放出試験の結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明は、脂質溶液の形態の徐放性脂質前濃縮物であって、炭素数14~20(C14~C20)の不飽和脂肪酸と、リン脂質と、酢酸α-トコフェロールとを含み、ジアシルグリセロールおよびソルビタン不飽和脂肪酸エステルを含まず、水性媒体中で液晶を形成することを特徴とする前濃縮物を提供する。
【0020】
本明細書において、「前濃縮物」という用語は、過剰量の水性媒体(水や体液など)に曝露した場合に、その水性媒体中において、100nm以下、好ましくは1~30nmの大きさの多数の細孔を有する多孔質の液晶マトリックスを形成することが可能な、脂質溶液の形態の製剤を指す。
【0021】
本発明の前濃縮物において、人体に存在する成分の1つである炭素数14~20(C14~C20)の不飽和脂肪酸は、リン脂質とともに、水性媒体中でナノメートル単位(100nm以下、好ましくは1~30nm)の大きさの多数の細孔を有する多孔質の液晶マトリックスを形成するという役割を果たす。一方で、飽和脂肪酸は、水性媒体中で液晶マトリックスを形成する能力が低い。炭素数14~20(C14~C20)の飽和脂肪酸は、室温では固体として存在し、前濃縮物として調製すると、高い粘度を示すことから、注射性能が低くなる。しかし、本発明において、炭素数14~20(C14~C20)の不飽和脂肪酸が室温では液体として存在し、水性媒体中では高い液晶マトリックス形成能を示すことが見出された。優れた生体適合性および液晶形成能の観点から、前記炭素数14~20(C14~C20)の不飽和脂肪酸は、オレイン酸、リノール酸、ミリストレイン酸、パルミトレイン酸、11-エイコセン酸、またはそれらの混合物であることが好ましく、オレイン酸、リノール酸、またはそれらの混合物であることがより好ましく、オレイン酸であることがさらにより好ましい。1つまたは2つの二重結合を有する不飽和脂肪酸である炭素数14~20(C14~C20)の不飽和脂肪酸は、動植物界に広く存在し、生体適合性と生分解性に優れた生体由来の成分である。オレイン酸、リノール酸、ミリストレイン酸、パルミトレイン酸、11-エイコセン酸などの、炭素数14~20(C14~C20)の不飽和脂肪酸は、低粘度の脂質溶液を迅速に形成することから、優れた注射性能を提供することができる。すなわち、本発明の前濃縮物を過剰量の水相と接触させると、1時間以内、好ましくは約30分以内に、強固な液晶マトリックスを形成することができる。また、本発明の前濃縮物は、室温(約25℃)で低い粘度(例えば、1500mPa・s以下、好ましくは1000mPa・s以下)を有するため、24~26ゲージの注射器を使用して容易に生体内に注入することができる。前記炭素数14~20(C14~C20)の不飽和脂肪酸の含有量は、本発明の前濃縮物の総重量に対して30~70重量%であってもよい。前記不飽和脂肪酸の含有量が、前濃縮物の総重量に対して30重量%未満であったり、または70重量%を超えると、生体内に注射した際に、液晶形成能が著しく低下し、有効成分の徐放能も低下する可能性がある。したがって、1週間以上にわたる放出制御能の達成が難しくなることがある。
【0022】
リン脂質は、炭素数14~20(C14~C20)の不飽和脂肪酸とともに、ナノメートル単位の大きさの細孔を有する液晶マトリックスを形成する役割を果たす。この液晶マトリックスは、水性媒体中で薬物デポーとして機能することができる。また、リン脂質は、薬理活性物質の溶解を補助する役割も果たす。リン脂質は、極性頭部基と2つの非極性尾部基を含むが、このリン脂質として、大豆や卵黄に由来するリン脂質などの様々なものに由来するリン脂質や合成リン脂質が挙げられる。リン脂質は、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルグリセロール、またはそれらの合成誘導体(例えば、ジパルミトイルホスファチジルコリンやジステアロイルホスファチジルコリンなど)であってもよく、それらの1つ以上の混合物も挙げられる。好ましくは、リン脂質は、卵黄または大豆に由来するホスファチジルコリンであってもよい。リン脂質の含有量は、本発明の前濃縮物の総重量に対して25~50重量%であってもよい。リン脂質の含有量が前濃縮物の総重量に対して25重量%未満であると、生体内への注射後に液晶を形成することが難しくなる恐れがあり、持続放出制御能が低下する可能性がある。一方、リン脂質の含有量が前濃縮物の総重量に対して50重量%を超えると、液晶形成能も低下し、ラメラ球晶の形成により薬物放出を制御する能力が低下する可能性がある。
【0023】
酢酸α-トコフェロールは、液晶の内部構造を強く維持する(すなわち堅くする)ことを助け、薬理活性物質の放出速度を遅らせる役割を果たす。酢酸α-トコフェロールとして、酢酸D-α-トコフェロール、酢酸DL-α-トコフェロール、またはそれらの混合物が挙げられる。酢酸α-トコフェロールの含有量は、本発明の前濃縮物の総重量に対して5~20重量%であってもよい。
【0024】
本発明の前濃縮物は、必要に応じて、生体適合性溶媒をさらに含んでいてもよい。生体適合性溶媒として、注射製剤の形態で人体に注入することができる溶媒が挙げられ、例えば、エタノール、プロピレングリコール、N-メチルピロリドンおよびベンジルアルコールからなる群から選択される1つ以上の有機溶媒;ならびに前記有機溶媒の水溶液が挙げられるが、これらに限定されない。好ましくは、生体適合性溶媒は、エタノールまたはエタノールの水溶液であってもよい。生体適合性溶媒は、有効成分の溶解性または注射性能を改善する役割を果たす。生体適合性溶媒を含む前濃縮物が体内に注入されると、徐放性デポーの形態の液晶が形成される際に体液によって生体適合性溶媒が希釈され、除去される。生体適合性溶媒の含有量は、本発明の前濃縮物の総重量に対して5~10重量%であってもよい。一実施形態において、本発明の前濃縮物は、炭素数14~20(C14~C20)の不飽和脂肪酸30~65重量%;リン脂質25~50重量%;酢酸α-トコフェロール5~20重量%;および生体適合性溶媒5~10重量%を含んでいてもよい。
【0025】
本発明の前濃縮物は、必要に応じて、中鎖脂肪酸トリグリセリドをさらに含んでいてもよい。中鎖脂肪酸トリグリセリドは、液晶の内部構造の維持を助け、前濃縮物およびそれを含む医薬組成物の粘度をさらに低下させる役割を果たす。中鎖脂肪酸トリグリセリドは、炭素数6または12の脂肪酸3分子とグリセロール1分子で構成されている。中鎖脂肪酸トリグリセリドとしては、例えば、トリカプロイン、トリカプリリン、トリカプリン、トリラウリン、またはそれらの混合物が挙げられるが、これらに限定されない。中鎖脂肪酸トリグリセリドの含有量は、本発明の前濃縮物の総重量に対して1~5重量%であってもよい。一実施形態において、本発明の前濃縮物は、炭素数14~20(C14~C20)の不飽和脂肪酸30~65重量%;リン脂質25~50重量%;酢酸α-トコフェロール5~20重量%;および中鎖脂肪酸トリグリセリド1~5重量%を含んでいてもよい。別の一実施形態において、本発明の前濃縮物は、炭素数14~20(C14~C20)の不飽和脂肪酸30~55重量%;リン脂質25~45重量%;酢酸α-トコフェロール5~20重量%;中鎖脂肪酸トリグリセリド1~5重量%;および生体適合性溶媒5~10重量%を含んでいてもよい。
【0026】
本発明の前濃縮物は、ジアシルグリセロールやソルビタン不飽和脂肪酸エステルを含んでいない。ジアシルグリセロールの例としては、ジパルミチン酸グリセリル、フィタン酸グリセリル、パルミトレイン酸グリセリル、ジステアリン酸グリセリル、ジオレイン酸グリセリル、ジエライジン酸グリセリル、ジリノール酸グリセリルなどが挙げられる。ソルビタン不飽和脂肪酸エステルの例としては、モノオレイン酸ソルビタン、モノリノール酸ソルビタン、モノパルミトレイン酸ソルビタン、モノミリストレイン酸ソルビタン、セスキオレイン酸ソルビタン、セスキリノール酸ソルビタン、セスキパルミトレイン酸ソルビタン、セスキミリストレイン酸ソルビタン、ジオレイン酸ソルビタン、ジリノール酸ソルビタン、ジパルミトレイン酸ソルビタン、ジミリストレイン酸ソルビタンなどが挙げられる。本発明の前濃縮物は、前記のジアシルグリセロールやソルビタン不飽和脂肪酸エステルを含んでいない。
【0027】
また、本発明は、脂質溶液の形態の徐放性注射用医薬組成物であって、薬理活性物質と前記前濃縮物とを含み、ジアシルグリセロールおよびソルビタン不飽和脂肪酸エステルを含まない医薬組成物を提供する。
【0028】
本発明の医薬組成物において、薬理活性物質(医薬品有効成分)は、本発明の前濃縮物中における溶解度が0.1mg/ml以上である薬物であってもよい。本発明の前濃縮物中における薬理活性物質の溶解度が0.1mg/ml未満である場合、徐放性注射製剤の注射量を増加させる必要性が生じるため、注射痛が強くなることがあり、徐放性製剤の調製が困難になる恐れがある。本発明の前濃縮物中における溶解度が0.1mg/ml以上の薬理活性物質の例として、ロイプロリドまたはその薬学的に許容可能な塩(例えば、酢酸ロイプロリド);ゴセレリンまたはその薬学的に許容可能な塩(例えば、酢酸ゴセレリン);エンテカビル(その一水和物を含む)またはその薬学的に許容可能な塩;ソマトスタチン類似体(例えば、オクトレオチド、ランレオチド、およびパシレオチド)またはその薬学的に許容可能な塩;グルカゴン様ペプチド1(GLP-1)類似体(例えば、エキセナチド、リラグルチド、アルビグルチド、リキシセナチドおよびセマグルチド)またはその薬学的に許容可能な塩;デュタステリドまたはその薬学的に許容可能な塩;ドネペジルまたはその薬学的に許容可能な塩;アリピプラゾールまたはその薬学的に許容可能な塩;パリペリドンまたはその薬学的に許容可能な塩;ならびにリスペリドンまたはその薬学的に許容可能な塩などが挙げられるが、これらに限定されない。一実施形態において、前記薬理活性物質は、ゴナドトロピン放出ホルモン(GnRH)誘導体、例えば、ロイプロリドまたはその薬学的に許容可能な塩(例えば、酢酸ロイプロリド)であってもよく、ゴセレリンまたはその薬学的に許容可能な塩(例えば、酢酸ゴセレリン)であってもよい。前記薬理活性物質は、治療有効量で本発明の医薬組成物中に含まれていてもよい。例えば、前記薬理活性物質の含有量は、本発明の医薬組成物の総重量に対して0.1~10重量%であってもよく、好ましくは0.9~7重量%であってもよい。
【0029】
一実施形態において、本発明の医薬組成物は、薬理活性物質0.1~10重量%;炭素数14~20(C14~C20)の不飽和脂肪酸30~60重量%;リン脂質25~50重量%;および酢酸α-トコフェロール5~20重量%を含む。別の一実施形態において、本発明の医薬組成物は、薬理活性物質0.1~10重量%;炭素数14~20(C14~C20)の不飽和脂肪酸30~60重量%;リン脂質25~45重量%;酢酸α-トコフェロール5~20重量%;および生体適合性溶媒5~10重量%を含む。さらに別の一実施形態において、本発明の医薬組成物は、薬理活性物質0.1~10重量%;炭素数14~20(C14~C20)の不飽和脂肪酸30~55重量%;リン脂質25~45重量%;酢酸α-トコフェロール5~20重量%;中鎖脂肪酸トリグリセリド1~5重量%;および生体適合性溶媒5~10重量%を含む。
【0030】
本発明による脂質溶液の形態の徐放性脂質前濃縮物、およびそれを含む脂質溶液の形態の徐放性注射用医薬組成物は、例えば、膜フィルターを使用した滅菌濾過などの、通常の滅菌プロセスに供してもよい。
【0031】
以下の実施例および試験例を参照して本発明をさらに詳細に説明する。これらの実施例および試験例は、本発明を説明することのみを目的としたものであり、本発明の範囲を限定するものではない。
【実施例】
【0032】
実施例1~119:徐放性脂質前濃縮物の調製
表1~7に示した成分および含有量に従って、徐放性脂質前濃縮物を調製した。表1~7の含有量は、徐放性脂質前濃縮物中の各成分の重量パーセント(wt%)を表す。具体的には、大豆由来のホスファチジルコリンまたはホスファチジルエタノールアミン、炭素数14~20(C14~C20)の不飽和脂肪酸(オレイン酸、リノール酸、ミリストレイン酸、パルミトレイン酸、または11-エイコセン酸)、酢酸DL-α-トコフェロール、中鎖脂肪酸トリグリセリド[KollisolvTM MCT 70(トリカプリリンとトリカプリンの混合物、重量比=約68:32)、BASF]、および/または生体適合性溶媒(エタノール、プロピレングリコール、またはN-メチルピロリドン)をガラスバイアルに入れ、マグネチックスターラーを用いて室温で撹拌しながら混合した。得られた各混合物を、ホモジナイザー(POLYTRON PT1200E、KINEMATICA)を用いて、約5,000rpmの条件下で室温にて約5分間均質化した後、室温で約3時間放置して、各徐放性脂質前濃縮物を調製した。各前濃縮物つき、総バッチサイズを20gとして調製した。
【0033】
【0034】
【0035】
【0036】
【0037】
【0038】
【0039】
【0040】
実施例120~123:酢酸ロイプロリドを含む、脂質溶液の形態の徐放性注射用医薬組成物の調製
表8に示した成分および含有量に従って、酢酸ロイプロリドを含む、脂質溶液の形態の徐放性注射用医薬組成物を調製した。表8の含有量は、徐放性注射用医薬組成物中の各成分の重量パーセント(wt%)を表す。具体的には、ホスファチジルコリン、オレイン酸、酢酸DL-α-トコフェロール、中鎖脂肪酸トリグリセリド[KollisolvTM MCT 70(トリカプリリンとトリカプリンの混合物、重量比=約68:32)、BASF]、および/またはエタノール水溶液(エタノール:注射用水=4.81mg:2.89mg)をガラスバイアルに入れ、マグネチックスターラーを用いて室温で撹拌しながら混合した。得られた各混合物を、ホモジナイザー(POLYTRON PT1200E、KINEMATICA)を用いて、約5,000rpmの条件下で室温にて約5分間均質化した。酢酸ロイプロリドを各混合物に添加し、ホモジナイザーを用いて約3,000rpmの条件下で室温にて約10分間均質化した後、室温で約3時間放置して、脂質溶液の形態の徐放性注射用医薬組成物を調製した。
【0041】
【0042】
実施例124~126:酢酸ゴセレリンを含む、脂質溶液の形態の徐放性注射用医薬組成物の調製および評価
表9に示した成分および含有量に従って、酢酸ゴセレリンを含む、脂質溶液の形態の徐放性注射用医薬組成物を調製した。表9の含有量は、徐放性注射用医薬組成物中の各成分の重量パーセント(wt%)を表す。具体的には、ホスファチジルコリン、オレイン酸、酢酸DL-α-トコフェロール、中鎖脂肪酸トリグリセリド[KollisolvTM MCT 70(トリカプリリンとトリカプリンの混合物、重量比=約68:32)、BASF]、および/またはエタノール水溶液(エタノール:注射用水=5.56mg:4.00mgまたは5.76mg:4.14mg)をガラスバイアルに入れ、マグネチックスターラーを用いて室温で撹拌しながら混合した。得られた各混合物を、ホモジナイザー(POLYTRON PT1200E、KINEMATICA)を用いて、約5,000rpmの条件下で室温にて約5分間均質化した。酢酸ゴセレリンを各混合物に添加し、ホモジナイザーを用いて約3,000rpmの条件下で室温にて約10分間均質化した後、室温で約3時間放置して、脂質溶液の形態の徐放性注射用医薬組成物を調製した。
【0043】
【0044】
実施例127~130:リラグルチドを含む、脂質溶液の形態の徐放性注射用医薬組成物の調製および評価
表10に示した成分および含有量に従って、リラグルチドを含む、脂質溶液の形態の徐放性注射用医薬組成物を調製した。表10の含有量は、徐放性注射用医薬組成物中の各成分の重量パーセント(wt%)を表す。具体的には、ホスファチジルコリン、オレイン酸、酢酸DL-α-トコフェロール、中鎖脂肪酸トリグリセリド[KollisolvTM MCT 70(トリカプリリンとトリカプリンの混合物、重量比=約68:32)、BASF]、および/またはエタノール水溶液(エタノール:注射用水=4.65mg:3.05mg)をガラスバイアルに入れ、マグネチックスターラーを用いて室温で撹拌しながら混合した。得られた各混合物を、ホモジナイザー(POLYTRON PT1200E、KINEMATICA)を用いて、約5,000rpmの条件下で室温にて約5分間均質化した。リラグルチドを各混合物に添加し、ホモジナイザーを用いて、約3,000rpmの条件下で室温にて約10分間均質化した後、室温で約3時間放置して、脂質溶液の形態の徐放性注射用医薬組成物を調製した。
【0045】
【0046】
実施例131~134:デュタステリドを含む、脂質溶液の形態の徐放性注射用医薬組成物の調製および評価
表11に示した成分および含有量に従って、デュタステリドを含む、脂質溶液の形態の徐放性注射用医薬組成物を調製した。表11の含有量は、徐放性注射用医薬組成物中の各成分の重量パーセント(wt%)を表す。具体的には、ホスファチジルコリン、オレイン酸、酢酸DL-α-トコフェロール、中鎖脂肪酸トリグリセリド[KollisolvTM MCT 70(トリカプリリンとトリカプリンの混合物、重量比=約68:32)、BASF]、および/またはエタノールをガラスバイアルに入れ、マグネチックスターラーを用いて室温で撹拌しながら混合した。得られた各混合物を、ホモジナイザー(POLYTRON PT1200E、KINEMATICA)を用いて、約5,000rpmの条件下で室温にて約5分間均質化した。デュタステリドを各混合物に添加し、ホモジナイザーを用いて約3,000rpmの条件下で室温にて約20分間均質化した後、室温で約3時間放置して、脂質溶液の形態の徐放性注射用医薬組成物を調製した。
【0047】
【0048】
実施例135~136:パリペリドンを含む、脂質溶液の形態の徐放性注射用医薬組成物の調製および評価
表12に示した成分および含有量に従って、パリペリドンを含む、脂質溶液の形態の徐放性注射用医薬組成物を調製した。表12の含有量は、徐放性注射用医薬組成物中の各成分の重量パーセント(wt%)を表す。具体的には、ホスファチジルコリン、オレイン酸、酢酸DL-α-トコフェロール、中鎖脂肪酸トリグリセリド[KollisolvTM MCT 70(トリカプリリンとトリカプリンの混合物、重量比=約68:32)、BASF]、エタノール、およびベンジルアルコールをガラスバイアルに入れ、マグネチックスターラーを用いて室温で撹拌しながら混合した。得られた各混合物を、ホモジナイザー(POLYTRON PT1200E、KINEMATICA)を用いて、約5,000rpmの条件下で室温にて約5分間均質化した。パリペリドンを各混合物に添加し、ホモジナイザーを用いて約3,000rpmの条件下で室温にて約20分間均質化した後、室温で約3時間放置して、脂質溶液の形態の徐放性注射用医薬組成物を調製した。
【0049】
【0050】
比較例1~8:徐放性脂質前濃縮物の調製
表13および表14に示した成分および含有量に従って、徐放性脂質前濃縮物を調製した。表13および表14の含有量は、徐放性脂質前濃縮物中の各成分の重量パーセント(wt%)を表す。比較例1~4の徐放性脂質前濃縮物は、表13の成分および含有量に従って、オレイン酸の代わりにジオレイン酸グリセリルを使用して、実施例1~20と同じ方法で調製した。比較例5~8の徐放性脂質前濃縮物は、表14の成分および含有量に従って、オレイン酸の代わりにモノオレイン酸ソルビタンを使用して、実施例1~20と同じ方法で調製した。
【0051】
【0052】
【0053】
試験例1:徐放性脂質前濃縮物の注射性能の評価
実施例1~20および比較例1~8で調製した徐放性脂質前濃縮物の注射性能を評価するために、コーンプレート型回転粘度計(RM-100 Touch、ラミー)を使用して、各徐放性脂質前濃縮物の粘度を測定した。実施例14および実施例15ならびに比較例3、比較例4、比較例7および比較例8の結果を
図1に示す。この結果から分かるように、モノオレイン酸ソルビタンを含む徐放性脂質前濃縮物は、オレイン酸またはジオレイン酸グリセリルを含む徐放性前濃縮物と比較して、約5~10倍の粘度を示したことから、注射性能が極めて低いことが示された。また、オレイン酸を含む徐放性脂質前濃縮物は、ジオレイン酸グリセリルを含む徐放性脂質前濃縮物と比較して、同じ条件下で粘度が低いことから、注射性能が最も優れていることが示された。
【0054】
試験例2:水相における徐放性脂質前濃縮物のマトリックス形成能の評価
実施例10、実施例11、実施例14および実施例15ならびに比較例1~8で調製した徐放性脂質前濃縮物を1mlの注射器に充填し、26ゲージの針を通して10mlのリン酸緩衝液(pH7.4)中に注入した。その結果としての外観を
図2a~2cに示す。
図2に示した結果から分かるように、徐放性脂質前濃縮物は、いずれも水相に曝露する前は、室温で流動性の脂質溶液の形態であったが、水相に注入すると、液晶マトリックスを形成した。しかしながら、ジオレイン酸グリセリルを含む徐放性脂質前濃縮物(比較例1~4の前濃縮物)とは対照的に、オレイン酸を含む徐放性脂質前濃縮物(実施例10、実施例11、実施例14および15の前濃縮物)およびモノオレイン酸ソルビタンを含む徐放性脂質前濃縮物(比較例5~8の前濃縮物)は、理想的な球状の液晶マトリックスを形成したことから、優れたマトリックス(液晶)形成能が示された。
【0055】
試験例3:水相における徐放性脂質前濃縮物のマトリックス内の液晶構造の確認
実施例15で調製した徐放性脂質前濃縮物20μlをスライドガラスに薄く塗布した後、20mlのリン酸緩衝液(pH7.4)を入れたペトリ皿に入れ、室温で約3時間放置した。水相への暴露により形成された液晶構造を確認するために、スライドガラス上の水分を注意深く除去し、気泡が入らないようにカバーガラスを載せ、偏光顕微鏡(S38、MIC)を使用して250倍で観察した。その結果を
図3に示す。
図3に示した結果から、本発明に従って調製した徐放性脂質前濃縮物は、水相に曝露すると、薬理活性物質の徐放を可能にする逆ヘキサゴナル相を形成することが確認できる。
【0056】
試験例4:脂質溶液の形態の徐放性注射用医薬組成物の、強固なマトリックスを形成する能力の評価
実施例120~123で調製した脂質溶液の形態の徐放性注射用医薬組成物を1mlの注射器に充填し、10mlのリン酸緩衝液(pH7.4)を含むガラスバイアル内に26ゲージの針を通して100mgずつ注入して、マトリックスを形成させた。各ガラスバイアルを、37℃に維持したオーブンに保管した。各測定時点において、各バイアル内のマトリックスを注意深く取り出し、表面の水分を除去した後、コーンプレート型回転粘度計(RM-100 Touch、ラミー)を使用してマトリックスの粘度を測定した。その結果を
図4に示す。
図4に示した結果から、マトリックスの粘度が30分(0.5時間)以内に急速に増加したことが示され、このことから、本発明に従って得られた医薬組成物は、水相に曝露すると、30分以内に強固なマトリックスを形成し、外力がかかったとしても、その形状を維持できることが示された。したがって、本発明に従って得られた脂質溶液の形態の徐放性注射用医薬組成物を生体に注射すると、マトリックスが迅速に形成され、それにより、薬理活性物質の初期バースト放出が効果的に回避される。
【0057】
試験例5:酢酸ロイプロリドのインビトロ放出試験
実施例122および実施例123で調製した脂質溶液の形態の徐放性注射用医薬組成物のインビトロ放出試験を実施することにより、徐放効果を確認した。具体的には、アクリル製チューブ(内径:14mm、高さ:15mm)の一方の末端に16メッシュのふるいを取り付け、もう一方の末端に100メッシュのふるいを取り付けて、医薬組成物を充填できる試料容器を製作した。次に、200mgのポリソルベート80、21mlのトリエチルアミン、および11mlのリン酸を含むpH7.0の試験溶液を調製した。脂質溶液の形態の各徐放性注射用医薬組成物100mgと試験溶液を試料容器に充填し、この試料容器をさらに40mlの試験容器(外径:25mm、高さ:100mm)に入れ、ウォーターバスボトル回転装置(BDSHWB-980R、Bandi Tech)に装着した。ウォーターバスボトル回転装置を37.5℃、25rpmで攪拌しながら、28日間にわたり試料を採取し、以下の条件のHPLCにより分析した。
<HPLC条件>
カラム:100×4.6mm、粒子径3μmの充填剤を充填したL1カラム
移動相:TritonX-100とアセトニトリルとn-プロピルアルコール(80:12:8(v/v/v))からなる混合溶媒を5%(w/v)含むトリエチルアミン溶液(pH3.0)
流速:1.0ml/分
温度:20℃
注入量:20μl
波長:220nm(紫外分光光度計)
前述のように実施したインビトロ放出試験により得られた結果を
図5に示す。
図5に示した結果から、本発明に従って得られた脂質溶液の形態の徐放性注射用医薬組成物は、長期間にわたって、効果的な徐放パターンを示すことが確認できる。
【0058】
試験例6:酢酸ゴセレリンのインビトロ放出試験
実施例126で調製した脂質溶液の形態の徐放性注射用医薬組成物のインビトロ放出試験を実施することにより、徐放効果を確認した。具体的には、アクリル製チューブ(内径:14mm、高さ:15mm)の一方の末端に16メッシュのふるいを取り付け、もう一方の末端に100メッシュのふるいを取り付けて、徐放性脂質溶液を充填できる試料容器を製作した。次に、200mgのポリソルベート80を含むpH7.4のリン酸緩衝液を試験溶液として調製した。脂質溶液の形態の徐放性注射用医薬組成物200mgと試験溶液を試料容器に充填し、この試料容器をさらに40mlの試験容器(外径:25mm、高さ:100mm)に入れ、ウォーターバスボトル回転装置(BDSHWB-980R、Bandi Tech)に装着した。ウォーターバスボトル回転装置を37.5℃、25rpmで攪拌しながら、21日間にわたり試料を採取し、以下の条件下のHPLCにより分析した。
<HPLC条件>
カラム:150×4.6mm、粒子径5μmの充填剤を充填したL1カラム
移動相:TritonX-100とアセトニトリル(75:25(v/v))からなる混合溶媒を5%(w/v)含む0.1%トリフルオロ酢酸水溶液
流速:1.4ml/分
温度:40℃
注入量:100μl
波長:220nm(紫外分光光度計)
前述のように実施したインビトロ放出試験により得られた結果を
図6に示す。
図6に示した結果から、本発明に従って得られた脂質溶液の形態の徐放性注射用医薬組成物は、長期間にわたって、効果的な徐放パターンを示すことが確認できる。