(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-19
(45)【発行日】2024-03-28
(54)【発明の名称】トランス
(51)【国際特許分類】
H01F 30/12 20060101AFI20240321BHJP
H01F 27/24 20060101ALI20240321BHJP
H01F 27/34 20060101ALI20240321BHJP
【FI】
H01F30/12 A
H01F30/12 C
H01F30/12 N
H01F27/24 H
H01F27/34 160
(21)【出願番号】P 2022185010
(22)【出願日】2022-11-18
【審査請求日】2023-06-22
(31)【優先権主張番号】P 2022052763
(32)【優先日】2022-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000103976
【氏名又は名称】株式会社オリジン
(74)【代理人】
【識別番号】100119677
【氏名又は名称】岡田 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100160495
【氏名又は名称】畑 雅明
(74)【代理人】
【識別番号】100173716
【氏名又は名称】田中 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100115794
【氏名又は名称】今下 勝博
(72)【発明者】
【氏名】大牧 信一
【審査官】秋山 直人
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-222454(JP,A)
【文献】特開2010-161868(JP,A)
【文献】特開2010-263238(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第104183369(CN,A)
【文献】特開平03-285309(JP,A)
【文献】特開2018-064010(JP,A)
【文献】特開2006-067699(JP,A)
【文献】特開2017-184336(JP,A)
【文献】特開平07-245222(JP,A)
【文献】特開平08-051031(JP,A)
【文献】特許第6696617(JP,B2)
【文献】特開2003-174775(JP,A)
【文献】登録実用新案第3189478(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 30/12
H01F 30/10
H01F 27/24
H01F 27/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁性体であって、矩形の枠である外脚と、
磁性体であって、前記外脚の前記枠内に一方向の格子状に配置された複数の中脚と、
前記中脚毎に
隣り合うように巻き付けられる1次巻線及び2次巻線と、
を備える
磁束キャンセル方式のトランスであって、
それぞれの前記中脚は、長手方向において前記1次巻線及び前記2次巻線が巻き付けられていない位置にギャップを
1つ有し、
前記外脚は、前記磁性体の複数のパーツで構成され、前記中脚が設置される前記パーツを前記中脚の長手方向に移動させることで前記ギャップ間の距離を調整可能であること
、及び
前記1次巻線及び前記2次巻線は、それぞれ前記ギャップに対して一方側の前記中脚及び他方側の前記中脚に巻き付けられ、1次側と2次側からみたインダクタンスに対称性があること
を特徴とするトランス。
【請求項2】
磁性体であって、矩形の枠である外脚と、
磁性体であって、前記外脚の前記枠内に一方向の格子状に配置された複数の中脚と、
前記中脚毎に
隣り合うように巻き付けられる1次巻線及び2次巻線と、
を備える
磁束キャンセル方式のトランスであって、
それぞれの前記中脚は、長手方向において前記1次巻線及び前記2次巻線が巻き付けられていない位置にギャップを
2つ有し、
前記外脚は、前記磁性体の複数のパーツで構成され、前記中脚が設置される前記パーツを前記中脚の長手方向に移動させることで前記ギャップ間の距離を調整可能であること
、及び
それぞれの前記中脚は、長手方向において前記1次巻線及び前記2次巻線が巻き付けられている区間の両外側にギャップを有し、1次側と2次側からみたインダクタンスに対称性があること
を特徴とするトランス。
【請求項3】
前記外脚は、前記中脚が設置される対向する辺のうち一方が1つの前記パーツで構成されていることを特徴とする請求項1
又は2に記載のトランス。
【請求項4】
前記外脚は、前記磁性体の複数のパーツで構成され、前記磁性体の複数のパーツが卍組みされていることを特徴とする請求項1
又は2に記載のトランス。
【請求項5】
前記ギャップは、ギャップ材が嵌められていることを特徴とする請求項1
又は2に記載のトランス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、磁束キャンセル方式のトランスに関する。
【背景技術】
【0002】
多相LLCコンバータは、3相動作させる際、トランスの1次巻線を共振コンデンサを介してスター結線として、各相の電流位相が互いに120°ずれるように各コンバータのスイッチをオンオフさせている(例えば、特許文献1を参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】米国特許第9780678号
【文献】特許第6696617号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
通常、多相LLCコンバータは、磁束キャンセル方式のトランスを備える(例えば、特許文献2を参照。)。特許文献2には、磁束キャンセル方式のトランス(3相)を説明する図が記載されている。特許文献2のように、磁束キャンセル方式のトランスのコアは、巻線のない外脚と巻線が巻かれる中脚とで構成される。そして、中脚のそれぞれはギャップを有している。
【0005】
このギャップは次のような効果を生む。
中脚はそれぞれ各相に割り当てられているので、1つの中脚には他の相の磁束をできるだけ少なくしておくことが望ましい。そこで、中脚にギャップを設ける。ギャップは磁気抵抗が高い。このため、ある一つの中脚の磁束は他の中脚を通過せず、ギャップのない外脚を通過する。つまり、ギャップによりある1つの中脚を通過する他の相の磁束を低減することができる。さらに、外脚はそれぞれの相の磁束によって共有されることになり、三相動作で外脚の磁束を相殺でき、鉄損を低減することができる。
【0006】
一方、LLCコンバータのスイッチをZVS(ゼロボルトスイッチング)するためには、トランスの励磁インダクタンスを当該ギャップ長により調整する必要がある。ここで、中脚のギャップが広くなると、高周波動作の場合や大電流が流れる場合、ギャップ近傍に発生する漏れ磁束と巻線とが鎖交することで損失による発熱が大きくなる。つまり、磁束キャンセル方式のトランスには、高周波動作や大電流での使用が困難という課題があった。
【0007】
前記課題を解決するために、本発明は、高周波動作の場合や大電流が流れる場合であっても巻線の発熱を抑えることができる磁束キャンセル方式のトランスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明に係るトランスは、中脚において巻線の巻く位置とギャップを設ける位置とをずらすこととした。
【0009】
具体的には、本発明に係るトランスは、
磁性体であって、矩形の枠である外脚と、
磁性体であって、前記外脚の前記枠内に一方向の格子状に配置された複数の中脚と、
前記中脚毎に巻き付けられる1次巻線及び2次巻線と、
を備えるトランスであって、
前記中脚は、長手方向において前記1次巻線及び前記2次巻線が巻き付けられていない位置にギャップを有することを特徴とする。
【0010】
中脚において巻線の巻く位置とギャップを設ける位置とをずらすことでギャップ近傍に生じる漏れ磁束が巻線に与える影響を低減することができる。従って、本発明は、高周波動作の場合や大電流が流れる場合であっても巻線の発熱を抑えることができる磁束キャンセル方式のトランスを提供することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、高周波動作の場合や大電流が流れる場合であっても巻線の発熱を抑えることができる磁束キャンセル方式のトランスを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図4】本発明に係るトランスのコアの外脚を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
添付の図面を参照して本発明の実施形態を説明する。以下に説明する実施形態は本発明の実施例であり、本発明は、以下の実施形態に制限されるものではない。なお、本明細書及び図面において符号が同じ構成要素は、相互に同一のものを示すものとする。また、本実施形態では、3相のトランスで説明するが、相数は3に限定されない。
【0014】
(実施形態1)
図1は、本実施形態のトランス100を説明する図である。トランス100は、
磁性体であって、矩形の枠である外脚10と、
磁性体であって、外脚10の前記枠内に一方向(
図1の場合、Y方向)の格子状に配置された複数の中脚20#nと、
中脚20#n毎に巻き付けられる1次巻線Pn及び2次巻線Snと、
を備えるトランスであって、
中脚20#nは、長手方向(
図1の場合、Y方向)において1次巻線Pn及び2次巻線Snが巻き付けられていない位置にギャップGPを有することを特徴とする。
nは相番号であり、3相であればn=1、2、3である。
【0015】
外枠10や中脚20の磁性体は、例えば、ケイ素鋼板やフェライトである。両者を同じ種類の磁性体としてもよいし、互いに異なる磁性体としてもよい。
なお、ギャップGPは空間であってもよいが、絶縁シートのようなギャップ材が嵌められていてもよい。ギャップ材があることで、コアの強度が向上する。
また、本実施形態では、Y方向が長手方向となるように中脚20を設置しているが、X方向が長手方向となるように中脚20を設置してもよい。
【0016】
ここで、外脚10は、前記磁性体の複数のパーツ10-i(
図1の場合、i=1~8)で構成されている。また、3相なので、中脚は20#1、20#2、及び20#3の3本、一次巻線はP1、P2、P3の3つ、二次巻線はS1、S2、S3の3つである。
【0017】
なお、ギャップGPの位置は、
図2や
図3に示す位置でもよい(
図2は、ギャップGPが中脚20の上端(外脚と接する箇所)にある例。)。すなわち、
図1や
図2に示すように、1次巻線Pn及び2次巻線Snは、共にギャップGPに対して一方側の中脚20に巻き付けられていること(
図1、
図2の場合、ギャップGPが1次巻線Pn側にあるが、ギャップGPが2次巻線Sn側にあってもよい)でもよいし、
図3に示すように、ギャップGPを挟んだ両側の中脚20に巻き付けられていること(
図3の場合、ギャップGPが1次巻線Pnと2次巻線Snとの間にある)でもよい。
【0018】
つまり、トランス100は次のような特徴を有する。
(1)ギャップGPを持つ複数の中脚20#n(本実施形態ではn=3)とギャップの無い外脚10で構成される。
(2)中脚20#nのうちギャップGP以外の位置に1次巻線Pnと2次巻線Snが巻かれる。1次巻線Pnや2次巻線Snと鎖交する、ギャップGPにおける漏れ磁束の量が低減され、巻線の損失を低減することができる。
(3)ギャップGPの磁気抵抗が大きい為、各々の中脚20#nで発生した磁束は互いに干渉せず、磁気抵抗の低い外脚10を通過する。
(4)トランス100は、この構造により1つでn個のトランスと同様に動作することができる。
(5)各々の巻線に流れる電流の位相を360/n度ずらして動作させることにより、外脚10の磁束が相殺され、鉄損を低減することができる。
(6)トランス100は、外脚10を各相で共通化することでコア体積を削減することができ、複数(n個)のトランスを備える場合より小型化することができる。
【0019】
トランス100は、コアが複数のパーツ(外脚のパーツ10-1~10-8、中脚20#1~20#3)で構成されている。このため、中脚20が設置されるパーツ(10-1、10-2、10-3、10-5、10-6、10-7)を中脚20の長手方向(Y方向)に移動させることでギャップGP間の距離を調整可能である。
【0020】
つまり、トランス100は、コアが複数のパーツで構成されるので、中脚毎にギャップGPのギャップ長を調整可能である。これは、コアの製造誤差によるギャップ長のずれを吸収できるという効果と、励磁インダクタンスを所望値に調整可能という効果を得られる。
さらに、複数のパーツ(外脚のパーツ10-1~10-8、中脚20#1~20#3)でコアを構成することで、各パーツをシンプルな形状(角柱や円柱)とすることができ、製造コストの低減を図ることができる。
【0021】
<補足>
巻線に大電流が流れるような場合、飽和を避けるために巻き数を多くするが、インダクタンス値が大きくなる。このため、コアにギャップを設けてインダクタンス値を下げる。そして、このコアのギャップ間距離でインダクタンス値を調整することができる。具体的には、トランス100において、ギャップGPを広げると励磁インダクタンスは小さくなる。
一方、コアにギャップを設けることで漏れ磁束が発生し、巻線に鎖交して損失が生じる。そこで、トランス100では、
図1から
図3のようにギャップGPの位置と巻線(Pn、Sn)の位置をずらすことで漏れ磁束の影響を低減している。
<補足終了>
【0022】
なお、中脚20#nが設置される対向する辺のうち一方が1つのパーツで構成されていることであってもよい。具体的には、外脚のパーツ(10-5、10-6、10-7)は分割されずに一体のパーツであってもよい。外脚のパーツ(10-1、10-2、10-3)でそれぞれのギャップ長を調整可能だからである。また、パーツの分割数を少なくすることでコアの剛性が高まるという効果もある。
【0023】
トランス100は、外脚10が前記複数のパーツが卍組みされていることを特徴とする。卍組とは、
図4(A)のような組み方である。具体的には、外脚のパーツ(10-1、10-2、10-3)の一端が外脚のパーツ10-4の側面に設置され、外脚のパーツ10-4の一端が外脚のパーツ(10-5、10-6、10-7)の側面に設置され、外脚のパーツ(10-5、10-6、10-7)の一端が外脚のパーツ10-8の側面に設置され、外脚のパーツ10-8の一端が外脚のパーツ(10-1、10-2、10-3)の側面に設置される構造である。
なお、
図4(C)にパーツ10-nの「一端」と「側面」の説明を示す。「一端」は角柱のパーツ10-nの一方の底面を意味し、「側面」は角柱のパーツ10-nの1つの側面(組み上げたときに内側を向く側面)を意味する。
また、
図4(A)のようなパーツ10-nの組み上げを「右回り卍組」とすれば、外脚10は「左回りの卍組」であってもよい。
【0024】
図4(B)は、複数のパーツで構成される外脚10を卍組しない場合の図である。卍組をしない場合、例えば、製造誤差などにより外脚のパーツ(10-1、10-2、10-3)と外脚のパーツ(10-5、10-6、10-7)の長さが異なると、外脚のパーツ10-4と外脚のパーツ(10-1、10-2、10-3)との接触部41にギャップ(隙間)GRが生じる。このギャップGRにより各相の磁気抵抗が不均一となり、磁束キャンセル効果が低減することになる。
【0025】
図4(A)のように卍組をした場合、製造誤差などにより各パーツの長さにずれが生じていても各接触部42においてギャップを生じさせない。外脚10においてギャップレスとなるので不要な磁気抵抗が発生しない。このため、外脚10において各相の磁気抵抗が均一になり、磁束キャンセル効果が高まる。
【0026】
(実施例)
本実施形態のトランス100は、特許文献1や2に記載される多相LLCコンバータの多脚トランスとして利用することができる。
【0027】
(実施形態2)
図5は、本実施形態のトランス101を説明する図である。トランス101は、
磁性体であって、矩形の枠である外脚10と、
磁性体であって、外脚10の前記枠内に一方向(
図5の場合、Y方向)の格子状に配置された複数の中脚20#nと、
中脚20#n毎に巻き付けられる1次巻線Pn及び2次巻線Snと、
を備えるトランスであって、
それぞれの中脚20#nは、長手方向(
図5の場合、Y方向)において1次巻線Pn及び2次巻線Snが巻き付けられている区間の両外側にギャップGPを有することを特徴とする。
【0028】
トランスの両側(1次側と2次側)からみたインダクタンスを等しくするためには、
図3のトランス100のようにギャップGPを中脚20#nの中央(1次巻線Pnと2次巻線Snとの間)に設ける構造が好ましい。前述の「補足」で説明したとおり、励磁インダクタンスはギャップGPで調整できる。しかし、この構造の場合、励磁インダクタンスを小さくするためにギャップGPを広げるとギャップGPの近傍に発生する漏れ磁束による損失が大きくなる。つまり、この構造であると、ギャップGPによる損失を避けつつ励磁インダクタンスを調整することが困難という課題があった。
【0029】
そこで、トランスの両側からみたインダクタンスを等しくでき、かつギャップGPによる損失を避けつつ励磁インダクタンスを容易に調整できる構造として、トランス101のように中脚20#nの両端にギャップGPを設けることとした。外脚10を広げることで中脚20#nの両端にギャップGPを広げることができるので、ギャップGPの近傍に発生する漏れ磁束が1次巻線Pnや2次巻線Snに干渉させずに(損失を大きくせずに)、ギャップGPを広げることができる(励磁インダクタンスを低減できる。)。
【0030】
なお、ギャップGPは空間であってもよいが、
図6のように絶縁シートのようなギャップ材15が嵌められていてもよい。ギャップ材15をギャップGPに嵌め込むことで、中脚20#nを外脚10に固定できる。
実施形態1で説明したトランス100についても、ギャップGPにギャップ材15を嵌めてもよい。
図6において、上側と下側のギャップ材15はそれぞれ一体構造であるが、中脚20#n毎に分割された構造であってもよい。
【0031】
トランス101も、実施形態1で説明したトランス100の特徴(1)~(6)を有する。また、次のような構造とすることで、実施形態1で説明したトランス100の効果も得られる。
【0032】
・コアが複数のパーツ(外脚のパーツ10-1~10-8、中脚20#1~20#3)で構成されている構造。
トランス101も、中脚20#nの長手方向にあるパーツ(10-1、10-2、10-3、10-5、10-6、10-7)を中脚20#nの長手方向に移動させることで外脚10を広げてギャップGP間の距離を調整可能である。
【0033】
・中脚20#nが設置される対向する辺のうち一方が1つのパーツで構成されている構造。
・外脚10が前記複数のパーツが卍組みされている構造。
【符号の説明】
【0034】
10:外脚
10-1、10-2、・・・、10-8、10-i:外脚のパーツ(iはパーツ番号)
20、20#1、20#2、20#3、・・・、20#n:中脚、nは相の数
41、42:接触部
GP:ギャップ
P1、P2、P3、・・・、Pn:1次側巻線、nは相の数
S1、S2、S3、・・・、Sn:2次側巻線、nは相の数
E1、E2、E3、・・・、En:直流電源、nは相の数
CR1、CR2:共振コンデンサ
Ca:コンデンサ
SW1:第1スイッチ
SW2:第2スイッチ
CP:接続点
NP:中性点
To:出力端
LGP1、LGP2、LGP3、・・・、LGPn:共振リアクトル、nは相の数