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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-19
(45)【発行日】2024-03-28
(54)【発明の名称】焼却飛灰の処理方法
(51)【国際特許分類】
   B09B 3/70 20220101AFI20240321BHJP
   B09B 101/30 20220101ALN20240321BHJP
【FI】
B09B3/70 ZAB
B09B101:30
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2022510507
(86)(22)【出願日】2021-03-22
(86)【国際出願番号】 JP2021011802
(87)【国際公開番号】W WO2021193571
(87)【国際公開日】2021-09-30
【審査請求日】2022-08-19
(31)【優先権主張番号】P 2020057583
(32)【優先日】2020-03-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】302060926
【氏名又は名称】株式会社フジタ
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】繁泉 恒河
(72)【発明者】
【氏名】久保田 洋
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼地 春菜
【審査官】岡田 三恵
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-089864(JP,A)
【文献】特開2006-281150(JP,A)
【文献】特開2016-140782(JP,A)
【文献】特開2015-178049(JP,A)
【文献】特開2016-032786(JP,A)
【文献】特開2014-228406(JP,A)
【文献】特開2004-183912(JP,A)
【文献】特開2007-196153(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B09B 3/70
B09B 101/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケイ素化合物及びアルミニウム化合物の少なくとも一方を含む焼却主灰に対して炭酸化処理を施す事前炭酸化工程と、
前記事前炭酸化工程で炭酸化された前記焼却主灰を水で洗浄し、前記焼却主灰と接触した液体である洗浄排水を生成する洗浄工程と、
前記洗浄排水と焼却飛灰とを混練して混合物を作成する混練工程と、
前記混合物に対して炭酸化処理を施す炭酸化工程と、
を備える焼却飛灰の処理方法。
【請求項2】
ケイ素化合物及びアルミニウム化合物の少なくとも一方を含む鉱物に対して炭酸化処理を施す事前炭酸化工程と、
前記事前炭酸化工程で炭酸化された前記鉱物を水で洗浄し、前記鉱物と接触した液体である洗浄排水を生成する洗浄工程と、
前記洗浄排水と焼却飛灰とを混練して混合物を作成する混練工程と、
前記混合物に対して炭酸化処理を施す炭酸化工程と、
を備える焼却飛灰の処理方法。
【請求項3】
前記鉱物、コンクリート破砕物、セメントに含まれるカルシウム系化合物もしくは溶融物、又はシリカ鉱物を含む岩石もしくは砕屑物である
請求項に記載の焼却飛灰の処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、焼却飛灰の処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
焼却施設における廃棄物の焼却によって焼却飛灰が発生する。焼却飛灰は重金属を含有している。このため、焼却飛灰は、重金属の溶出を防止する中間処理を施された後、最終処分場で埋立て処分される。例えば、特許文献1には、廃棄物に含まれる重金属を難溶化するための方法が記載されている。特許文献1においては、キレート剤を用いて重金属が凝集させられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2014-237114号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、焼却飛灰に含まれる重金属の難溶化のためにキレート剤を用いる場合、重金属の難溶化を確実に行うため、余剰のキレート剤を使用するが、処理後の焼却飛灰からキレート剤等が溶出し、有機物の負荷となる。また、余剰のキレート剤は、廃棄物から発生する浸出水の水処理の硝化工程における硝化反応を阻害してしまう。これらのため、最終処分場において、廃棄物から発生する浸出水の水処理の負荷が大きくなる可能性がある。
【0005】
本開示は、上記の課題に鑑みてなされたものであって、焼却飛灰に含まれる重金属の溶出を抑制でき且つキレート剤由来の有機物の溶出を抑制できる焼却飛灰の処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するため、本開示の一態様の焼却飛灰の処理方法は、ケイ素化合物及びアルミニウム化合物の少なくとも一方を含む添加物と焼却飛灰とを混練して混合物を作成する混練工程と、前記混合物に対して炭酸化処理を施す炭酸化工程と、を備える。
【0007】
焼却飛灰の処理方法の望ましい態様として、前記添加物は、焼却主灰である。
【0008】
焼却飛灰の処理方法の望ましい態様として、前記添加物は、ケイ酸ナトリウム水溶液、コンクリート破砕物、セメントに含まれるカルシウム系化合物もしくは溶融物、又はシリカ鉱物を含む岩石もしくは砕屑物である。
【0009】
焼却飛灰の処理方法の望ましい態様として、焼却主灰を大粒径灰と前記大粒径灰よりも最大粒径が小さい小粒径灰とに分ける分離工程を備え、前記添加物は、前記小粒径灰である。
【0010】
焼却飛灰の処理方法の望ましい態様として、焼却主灰を水で洗浄することによって大粒径灰と前記大粒径灰よりも最大粒径が小さい小粒径灰とに分ける分離工程を備え、前記添加物は、前記小粒径灰である。
【0011】
焼却飛灰の処理方法の望ましい態様として、焼却主灰を水で洗浄する洗浄工程を備え、前記添加物は、前記洗浄工程で前記焼却主灰の洗浄に用いられた洗浄排水である。
【0012】
焼却飛灰の処理方法の望ましい態様として、焼却主灰に対して炭酸化処理を施す事前炭酸化工程と、前記事前炭酸化工程で炭酸化された前記焼却主灰を水で洗浄する洗浄工程と、を備え、前記添加物は、前記洗浄工程で前記焼却主灰の洗浄に用いられた洗浄排水である。
【0013】
焼却飛灰の処理方法の望ましい態様として、ケイ素化合物及びアルミニウム化合物の少なくとも一方を含む鉱物を水で洗浄する洗浄工程を備え、前記添加物は、前記洗浄工程で前記鉱物の洗浄に用いられた洗浄排水である。
【発明の効果】
【0014】
本開示の焼却飛灰の処理方法によれば、焼却飛灰に含まれる重金属の溶出を抑制でき且つキレート剤由来の有機物の溶出を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、第1実施形態の焼却飛灰の処理方法を示すフローチャートである。
図2図2は、焼却飛灰から溶出する鉛の濃度に関する実験結果を示すグラフである。
図3図3は、焼却主灰及び焼却飛灰の含有成分を示す図である。
図4図4は、焼却飛灰から溶出する鉛の濃度に関する実験結果を示すグラフである。
図5図5は、第2実施形態の焼却飛灰の処理方法を示すフローチャートである。
図6図6は、第3実施形態の焼却飛灰の処理方法を示すフローチャートである。
図7図7は、第3実施形態の変形例の焼却飛灰の処理方法を示すフローチャートである。
図8図8は、焼却主灰から溶出するアルミニウムの濃度に関する実験結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、本発明を実施するための形態(以下、実施形態という)により本発明が限定されるものではない。また、下記実施形態における構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のもの、いわゆる均等の範囲のものが含まれる。さらに、下記実施形態で開示した構成要素は適宜組み合わせることが可能である。
【0017】
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態の焼却飛灰の処理方法を示すフローチャートである。焼却施設から排出される焼却灰は、焼却主灰と焼却飛灰とに分かれる。焼却飛灰には、鉛(Pb)等の重金属が含まれている。焼却飛灰に含まれる重金属は溶出しやすいので、焼却飛灰は、埋め立てられる前に、重金属が溶出しないように処理される。第1実施形態の焼却飛灰の処理方法は、焼却施設から排出される焼却飛灰から重金属が溶出することを抑制するための方法である。
【0018】
図1に示すように、第1実施形態の焼却飛灰の処理方法は、混練工程S11と、炭酸化工程S12と、を備える。混練工程S11は、ケイ素化合物(Si化合物)及びアルミニウム化合物(Al化合物)の少なくとも一方を含む添加物と焼却飛灰とを混練する工程である。ケイ素化合物としては、例えば二酸化ケイ素(SiO)が挙げられる。アルミニウム化合物としては、例えばポリ塩化アルミニウム(PAC)、酸化アルミニウム(Al)が挙げられる。
【0019】
混練工程S11において、例えば乾燥重量で2tの焼却飛灰に対して213kgの二酸化ケイ素と505kgの水が添加され混練される。また、混練工程S11において、例えば乾燥重量で2tの焼却飛灰に対して457kgの酸化アルミニウムが添加され混練される。
【0020】
炭酸化工程S12は、混練工程S11で作成された混合物に対して炭酸化処理を施す工程である。炭酸化処理は、混合物に炭酸ガス(二酸化炭素(CO)ガス)を触れさせる処理である。炭酸化工程S12では、容器(炭酸化処理槽)に混合物が配置される。容器は、例えば略直方体状のコンテナである。容器は、内部空間を鉛直方向に分割する隔壁を備える。隔壁は、容器の底面と平行な板状部材であって、複数の通気口を備える。混合物は、隔壁の上に置かれる。隔壁の上に混合物が載った状態で、隔壁の下側の空間に炭酸ガスが導入される。炭酸ガスは、隔壁の通気口を通って混合物に接触する。混合物は、炭酸ガスを吸収することで炭酸化する。
【0021】
炭酸化工程S12において、例えば容量が8mのコンテナが容器として用いられる。コンテナの中に、混練工程S11で作成された混合物が30cm以上50cm以下程度の厚さで均一に置かれる。そして、コンテナの隔壁の下部から6時間に亘って、混合物1kg当たり60gの炭酸ガスが通気される。炭酸化工程S12において、セメント系水和生成物及びケイ酸ソーダの少なくとも一方を炭酸化することができる。
【0022】
なお、混練工程S11の後、3時間以上48時間以下、又は6時間以上24時間以下の養生工程を行ってもよい。
【0023】
第1実施形態では、混練工程S11において水を添加することにより、添加物の一例であるセメントに含まれるカルシウム系化合物の水和反応が生じる。これにより、セメント系水和生成物を生成することができる。また、水を添加することにより、焼却飛灰中のアルカリ成分と添加物であるシリカが反応するアルカリシリカ反応が生じる。これにより、ケイ酸ソーダを生成することができる。また、炭酸化工程S12において、セメント系水和生成物及びケイ酸ソーダが炭酸化され、鉱物が生成される。当該鉱物は、重金属を吸蔵又は吸着することが可能である。
【0024】
また、混練工程S11の後に養生工程を行うことにより、水和反応とポゾラン反応が進行する。ポゾラン反応において、セメント系水和反応生成物である水酸化カルシウムと添加物に含まれる二酸化ケイ素及び酸化アルミニウムとが反応する。この結果、混練物のpHの低下が生じ、混練物中の焼却飛灰に含まれる重金属の溶解度を低減することができる。
【0025】
以上の結果、焼却飛灰に含まれる重金属の溶出量を低減することができる。
【0026】
第1実施形態の焼却飛灰の処理方法に関して実験(以下、第1実験という)が行われた。第1実験では、異なる処理方法で処理された6つの焼却飛灰に対して、溶出する鉛の濃度が測定された。実験対象としての6つの試料を、第1比較例、第2比較例、第3比較例、第4比較例、第1実施例、第2実施例とする。図2は、焼却飛灰から溶出する鉛の濃度に関する第1実験結果を示すグラフである。
【0027】
第1比較例は、何の処理もしていない焼却飛灰である。第2比較例は、炭酸化のみ施された焼却飛灰である。第3比較例は、二酸化ケイ素と焼却飛灰の混合物である。第3比較例では、1kgの焼却飛灰に対して53.2gの二酸化ケイ素が添加された。第3比較例は、炭酸化されていない。第4比較例は、ポリ塩化アルミニウムと焼却飛灰の混合物である。第4比較例では、1kgの焼却飛灰に対して114.2gのポリ塩化アルミニウムが添加された。第4比較例は、炭酸化されていない。
【0028】
第1実施例は、二酸化ケイ素と焼却飛灰の混合物を炭酸化したものである。すなわち、第1実施例は、上述した第1実施形態の焼却飛灰の処理方法によって処理された焼却飛灰である。第1実施例では、混練工程S11において、1kgの焼却飛灰に対して53.2gの二酸化ケイ素が添加された。
【0029】
第2実施例は、ポリ塩化アルミニウムと焼却飛灰の混合物を炭酸化したものである。すなわち、第2実施例は、上述した第1実施形態の焼却飛灰の処理方法によって処理された焼却飛灰である。第2実施例では、混練工程S11において、1kgの焼却飛灰に対して114.2gのポリ塩化アルミニウムが添加された。
【0030】
第2比較例、第1実施例及び第2実施例の炭酸化処理は、焼却飛灰(又は混合物)の含水率が20%になるように水分調整がなされた後、炭酸ガスを通気することによって行われた。より具体的には、炭酸化処理は、1.8時間に亘って行われた。1.8時間で通気される炭酸ガスの量は、1kgの焼却飛灰(又は混合物)当たり60gであった。
【0031】
第1実験では、まず試料に10倍量の純水を加えてから、6時間振とうされた。その後、試料は、遠心分離器によって固体と液体に分離された。分離した溶液は、孔径が1.0μmのメンブレンフィルターで濾過された。そして、濾過された溶液の鉛の濃度(mg/L)が測定された。図2に示すように、第1実施例及び第2実施例から溶出する鉛の濃度は、第1比較例から溶出する鉛の濃度に対して非常に小さい。以下の説明において、低減率を用いる。低減率は、第1比較例の測定結果(溶出する鉛の濃度)に対する、各試料の測定結果と第1比較例の測定結果との差の比を百分率で表した値である。すなわち、低減率をR、第1比較例の測定結果をS、その他の試料の測定結果をSxとすると、低減率は下記式(1)で表される。
【0032】
R=(S-Sx)×100/S ・・・(1)
【0033】
第2比較例の低減率は、約32%に留まる。第3比較例の低減率は、約16%に留まる。第4比較例の低減率は、約24%に留まる。これに対して、第1実施例の低減率は、約99.5%である。第2実施例の低減率は、約99.4%である。
【0034】
以上で説明したように、第1実施形態の焼却飛灰の処理方法は、混練工程S11と、炭酸化工程S12と、を備える。混練工程S11は、ケイ素化合物及びアルミニウム化合物の少なくとも一方を含む添加物と焼却飛灰とを混練して混合物を作成する工程である。炭酸化工程S12は、混合物に対して炭酸化処理を施す工程である。
【0035】
これにより、炭酸化工程S12における重金属の不溶化、及び重金属が他の物質へ吸蔵又は吸着される等の理由によって、重金属の溶出が抑制される。また、第1実施形態の焼却飛灰の処理方法では、キレート剤を使用せずに重金属の溶出を抑制できる。したがって、第1実施形態の焼却飛灰の処理方法は、焼却飛灰に含まれる重金属の溶出を抑制でき且つキレート剤を使用しないことでキレート剤由来の有機物の溶出を抑制できる。
【0036】
(第1実施形態の変形例)
第1実施形態の変形例の焼却飛灰の処理方法では、混練工程S11において、添加物として焼却主灰が用いられる。すなわち、混練工程S11においては、添加物としての焼却主灰と、焼却飛灰とが混練される。第1実施形態の変形例の混練工程S11において、例えば乾燥重量で1tの焼却飛灰に対して、乾燥重量で1tの焼却主灰が添加され混練される。そして、炭酸化工程S12では、混練工程S11で作成された焼却主灰及び焼却飛灰の混合物に対して炭酸化処理が施される。
【0037】
図3は、焼却主灰及び焼却飛灰の含有成分を示す図である。図3は、焼却主灰及び焼却飛灰の含有成分を、散乱線FP法を用いて分析した結果である。図3は、焼却主灰及び焼却飛灰のそれぞれに含まれる物質の質量パーセント濃度を示す。図3中のBalanceは、散乱線FP法で測定されなかった物質を示す。図3に示すように、焼却主灰に含まれる二酸化ケイ素(SiO)は、焼却飛灰に含まれる二酸化ケイ素の約10倍である。焼却主灰に含まれる酸化アルミニウム(Al)は、焼却飛灰に含まれる酸化アルミニウムの約40倍である。このため、添加物として焼却主灰が用いられることによって、焼却飛灰にケイ素化合物及びアルミニウム化合物を供給することが可能である。また、焼却主灰に含まれる酸化鉄(Fe)は、焼却飛灰に含まれる酸化鉄の約8.5倍である。焼却主灰に多く含まれる酸化鉄(Fe)は、重金属を吸着する。このため、焼却主灰は、重金属の溶出の抑制に寄与する。
【0038】
第1実施形態の変形例の焼却飛灰の処理方法に関して実験(以下、第2実験という)が行われた。第2実験では、異なる処理方法で処理された4つの焼却飛灰に対して、溶出する鉛の濃度が測定された。実験対象としての4つの試料を、第5比較例、第6比較例、第7比較例、第3実施例とする。図2は、焼却飛灰から溶出する鉛の濃度に関する第2実験結果を示すグラフである。
【0039】
第5比較例は、何の処理もしていない焼却飛灰である。第6比較例は、炭酸化のみ施された焼却飛灰である。第7比較例は、焼却主灰と焼却飛灰の混合物である。第7比較例では、焼却飛灰に対して同量の焼却主灰が添加された。第7比較例は、炭酸化されていない混合物である。
【0040】
第3実施例は、焼却主灰と焼却飛灰の混合物を炭酸化したものである。すなわち、第3実施例は、第1実施形態の変形例の焼却飛灰の処理方法によって処理された焼却飛灰である。第3実施例では、混練工程S11において、焼却飛灰に対しての同量の焼却主灰が添加された。
【0041】
第6比較例及び第3実施例の炭酸化処理は、焼却飛灰(又は混合物)の含水率が20%になるように水分調整がなされた後、炭酸ガスを通気することによって行われた。より具体的には、炭酸化処理は、1.8時間に亘って行われた。1.8時間で通気される炭酸ガスの量は、1kgの焼却飛灰(又は混合物)当たり60gであった。
【0042】
第2実験では、まず試料に10倍量の純水を加えてから、6時間振とうされた。その後、試料は、遠心分離器によって固体と液体に分離された。分離した溶液は、孔径が1.0μmのメンブレンフィルターで濾過された。そして、濾過された溶液の鉛の濃度(mg/L)が測定された。図4に示すように、第3実施例から溶出する鉛の濃度は、第5比較例から溶出する鉛の濃度に対して非常に小さい。第6比較例の低減率は、約81%に留まる。第7比較例の低減率は、約60%に留まる。これに対して、第3実施例の低減率は、約99.7%である。
【0043】
上述したように、第1実施形態の変形例の焼却飛灰の処理方法において、添加物は、焼却主灰である。
【0044】
焼却主灰にケイ素化合物及びアルミニウム化合物が多く含まれているので、混練工程S11において、焼却飛灰にケイ素化合物及びアルミニウム化合物を容易に供給することが可能となる。焼却主灰は、焼却施設において焼却飛灰と共に生成されるものであるので、容易に調達できる。このため、添加物としてケイ素化合物又はアルミニウム化合物を使用する場合と比較して、添加物に費やすコストを低減できる。また、焼却主灰に含まれる酸化鉄によって、重金属の溶出がより抑制される。したがって、第1実施形態の変形例の焼却飛灰の処理方法によれば、より容易に焼却飛灰を処理できる。
【0045】
(第2実施形態)
第2実施形態では、焼却主灰を大粒径灰と小粒径灰に分離し、小粒径灰を選択的に用いて焼却飛灰を処理する方法について説明する。大粒径灰とは、塊状の灰(クリンカ)、スラグ等である。小粒径灰とは、粒径が5mm以下の灰である。小粒径灰は、大粒径灰と比較して比表面積が大きいため、焼却飛灰との混錬の際に、ケイ素化合物及びアルミニウム化合物の溶出量を増加させることができる。
【0046】
図5は、第2実施形態の焼却飛灰の処理方法を示すフローチャートである。図5に示すように、第2実施形態の焼却飛灰の処理方法は、分離工程S21と、混練工程S22と、炭酸化工程S23と、を備える。
【0047】
分離工程S21は、焼却主灰を大粒径灰と小粒径灰とに分ける工程である。小粒径灰の最大粒径は、大粒径灰の最小粒径よりも小さい。言い換えると、小粒径灰は、焼却主灰の分けられた2つのグループのうち最大粒径が小さいグループである。例えば、小粒径灰の粒径は、5mm以下である。より具体的には、目開きが5mmのメッシュを通過する焼却主灰が小粒径灰である。目開きが5mmのメッシュを通過しない焼却主灰が大粒径灰である。なお、小粒径灰の粒径は、必ずしも5mm以下でなくてもよく、特に限定されない。焼却主灰は、例えばふるいによって大粒径灰と小粒径灰とに分離される。なお、焼却主灰は、水で洗浄することによって大粒径灰と小粒径灰とに分離されてもよい。
【0048】
混練工程S22では、分離工程S21で生成された小粒径灰と焼却飛灰とが混練される。すなわち、混練工程S22において、添加物としての小粒径灰と焼却飛灰とが混練される。炭酸化工程S23は、混練工程S22で作成された混合物に対して炭酸化処理を施す工程である。
【0049】
上述したように、第2実施形態の焼却飛灰の処理方法は、焼却主灰を大粒径灰と大粒径灰よりも最大粒径が小さい小粒径灰とに分ける分離工程S21を備える。混練工程S22における添加物は、小粒径灰である。
【0050】
焼却主灰の一部である小粒径灰は表面積が大きく、ケイ素化合物及びアルミニウム化合物の溶出量が多いので、混練工程S22において焼却飛灰にケイ素化合物及びアルミニウム化合物を容易に供給することが可能となる。さらに、焼却主灰の全部と焼却飛灰とを混練する場合と比較して、粒径の小さい小粒径灰は、焼却飛灰と容易に混練することができる。また、焼却主灰は、焼却施設において焼却飛灰と共に生成されるものであるので、容易に調達できる。このため、添加物としてケイ素化合物又はアルミニウム化合物を使用する場合と比較して、添加物に費やすコストを低減できる。また、小粒径灰は、大粒径灰よりも多くのケイ素化合物及びアルミニウム化合物を溶出することができるので、小粒径灰及び大粒径灰の両方を添加する場合と比較して、添加物の量を低減できる。さらに、小粒径灰は大粒径灰よりも多くの重金属を含む。焼却主灰に含まれる重金属の多くが焼却飛灰と混練されて難溶化されることになるので、残渣である大粒径灰に含まれる重金属は少なくなる。このため、焼却主灰(大粒径灰)のリサイクルがより容易となる。焼却主灰(大粒径灰)は、例えばセメントの原料又は土木資材としてリサイクルされる。
【0051】
上述したように、第2実施形態の焼却飛灰の処理方法は、焼却主灰を水で洗浄することによって大粒径灰と大粒径灰よりも最大粒径が小さい小粒径灰とに分ける分離工程S21を備える。混練工程S22における添加物は、小粒径灰である。
【0052】
これにより、焼却主灰を大粒径灰と小粒径灰とに容易に分離できる。
【0053】
(第3実施形態)
第3実施形態では、焼却主灰を洗浄した洗浄排水を用いて、焼却飛灰を処理する方法について説明する。
【0054】
図6は、第3実施形態の焼却飛灰の処理方法を示すフローチャートである。図6に示すように、第3実施形態の焼却飛灰の処理方法は、洗浄工程S32と、混練工程S33と、炭酸化工程S34と、を備える。
【0055】
洗浄工程S32は、焼却主灰を水で洗浄する工程である。洗浄工程S32で生じる洗浄排水は、焼却主灰と接した水である。洗浄を行うことにより、水溶性のケイ素成分やアルミニウム成分を溶出させることができる。
【0056】
混練工程S33では、洗浄工程S32で生じた洗浄排水と焼却飛灰とが混練される。すなわち、混練工程S33において、添加物としての洗浄排水と焼却飛灰とが混練される。炭酸化工程S34は、混練工程S33で作成された混合物に対して炭酸化処理を施す工程である。
【0057】
上述したように、第3実施形態の焼却飛灰の処理方法は、焼却主灰を水で洗浄する洗浄工程S32を備える。混練工程S33における添加物は、洗浄工程S32で焼却主灰の洗浄に用いられた洗浄排水である。
【0058】
焼却主灰を通過した洗浄排水にはケイ素やアルミニウム成分が含まれているので、混練工程S33において焼却飛灰にケイ素・アルミニウム化合物を容易に供給することが可能となる。焼却主灰は、焼却施設において焼却飛灰と共に生成されるものであるので、容易に調達できる。このため、添加物としてケイ素化合物又はアルミニウム化合物を使用する場合と比較して、添加物に費やすコストを低減できる。さらに、洗浄排水は、洗浄残渣よりも多くの重金属を含む。焼却主灰に含まれる重金属の多くが焼却飛灰と混練されて難溶化されることになるので、洗浄残渣に含まれる重金属は少なくなる。このため、焼却主灰(洗浄残渣)のリサイクルがより容易となる。焼却主灰(洗浄残渣)は、例えばセメントの原料又は土木資材としてリサイクルされる。
【0059】
(第3実施形態の変形例)
第3実施形態の変形例では、炭酸化された焼却主灰を洗浄した洗浄排水を用いて、焼却飛灰を処理する方法について説明する。
【0060】
図7は、第3実施形態の変形例の焼却飛灰の処理方法を示すフローチャートである。図7に示すように、第3実施形態の変形例の焼却飛灰の処理方法は、事前炭酸化工程S31と、洗浄工程S32と、混練工程S33と、炭酸化工程S34と、を備える。
【0061】
事前炭酸化工程S31は、焼却主灰に対して炭酸化処理を施す工程である。炭酸化した焼却主灰に関して実験(以下、第3実験という)が行われた。第3実験では、炭酸化していない焼却主灰と、炭酸化した焼却主灰に対して、溶出するアルミニウムの濃度が測定された。第3実験では、試料に10倍量の純水を加えてから、6時間振とうされた。その後、試料は、遠心分離器によって固体と液体に分離された。分離した溶液は、孔径が1.0μmのメンブレンフィルターで濾過された。濾過された溶液のアルミニウムの濃度(mg/L)が測定された。
【0062】
図8は、焼却主灰から溶出するアルミニウムの濃度に関する実験結果を示すグラフである。図8に示すように、炭酸化していない焼却主灰に対して、炭酸化した焼却主灰から溶出するアルミニウムの濃度は非常に高くなる。
【0063】
洗浄工程S32は、事前炭酸化工程S31で炭酸化された焼却主灰を水で洗浄する工程である。洗浄工程S32で生じる洗浄排水は、炭酸化された焼却主灰と接した水である。このため、洗浄排水には、多量のアルミニウムが溶出している。
【0064】
上述したように、第3実施形態の変形例の焼却飛灰の処理方法は、焼却主灰に対して炭酸化処理を施す事前炭酸化工程S31と、事前炭酸化工程S31で炭酸化された焼却主灰を水で洗浄する洗浄工程S32と、を備える。混練工程S33における添加物は、洗浄工程S32で焼却主灰の洗浄に用いられた洗浄排水である。
【0065】
炭酸化した焼却主灰を通過した洗浄排水にはアルミニウムが多く含まれているので、混練工程S33において焼却飛灰にアルミニウム化合物を容易に供給することが可能となる。焼却主灰は、焼却施設において焼却飛灰と共に生成されるものであるので、容易に調達できる。このため、添加物としてケイ素化合物又はアルミニウム化合物を使用する場合と比較して、添加物に費やすコストを低減できる。さらに、洗浄排水は、洗浄残渣よりも多くの重金属を含む。焼却主灰に含まれる重金属の多くが焼却飛灰と混練されて難溶化されることになるので、洗浄残渣に含まれる重金属は少なくなる。このため、焼却主灰(洗浄残渣)のリサイクルがより容易となる。焼却主灰(洗浄残渣)は、例えばセメントの原料又は土木資材としてリサイクルされる。
【0066】
なお、第3実施形態、及び第3実施形態の変形例において、焼却主灰に代えて、ケイ素化合物及びアルミニウム化合物の少なくとも一方を含む鉱物が水で洗浄されてもよい。鉱物は、例えば、コンクリート破砕物、セメントに含まれるカルシウム系化合物(エーライト、ビーライト、アルミネート相、フェライト相)もしくは溶融物(スラグ)、又はシリカ鉱物を含む岩石もしくは砕屑物(火成岩(石英、トリディマイト,クリストバライト,コーサイト,スティショバイト等)、堆積岩(珪藻土))等である。シリカを含む鉱物は、アルカリ性溶液で洗浄すると、シリカの溶解度が高くなるため好ましい。
【0067】
上述したように、第3実施形態、及び第3実施形態の変形例において、焼却飛灰の処理方法は、ケイ素化合物及びアルミニウム化合物の少なくとも一方を含む鉱物を水で洗浄する洗浄工程S32を備えてもよい。混練工程S33における添加物は、洗浄工程S32で鉱物の洗浄に用いられた洗浄排水である。
【0068】
鉱物を通過した洗浄排水にはケイ素化合物又はアルミニウム化合物が含まれているので、混練工程S33において焼却飛灰にケイ素化合物又はアルミニウム化合物を容易に供給することが可能となる。
【0069】
(第4実施形態)
第1実施形態において、ケイ素化合物及びアルミニウム化合物の少なくとも一方を含む添加物として焼却主灰を用いた。添加物としての焼却主灰の代わりに、コンクリート破砕物、セメントに含まれるカルシウム系化合物(エーライト、ビーライト、アルミネート相、フェライト相)もしくは溶融物(スラグ)、又はシリカ鉱物を含む岩石もしくは砕屑物(火成岩(石英、トリディマイト,クリストバライト,コーサイト,スティショバイト等)、堆積岩(珪藻土))等を用いることができる。また、第3実施形態の洗浄排水の代わりに、ケイ酸ナトリウム水溶液(水ガラス)を用いることができる。
【符号の説明】
【0070】
S11 混練工程
S12 炭酸化工程
S21 分離工程
S22 混練工程
S23 炭酸化工程
S31 事前炭酸化工程
S32 洗浄工程
S33 混練工程
S34 炭酸化工程
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8