(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-19
(45)【発行日】2024-03-28
(54)【発明の名称】合金組成物、合金粉末、合金リボン、インダクタ及びモータ
(51)【国際特許分類】
C22C 38/00 20060101AFI20240321BHJP
C22C 45/02 20060101ALI20240321BHJP
B22F 1/07 20220101ALI20240321BHJP
B22F 1/00 20220101ALI20240321BHJP
B22F 3/00 20210101ALI20240321BHJP
B22F 1/102 20220101ALI20240321BHJP
B22F 1/08 20220101ALI20240321BHJP
B22F 1/052 20220101ALI20240321BHJP
H01F 1/153 20060101ALI20240321BHJP
H01F 1/16 20060101ALI20240321BHJP
H01F 1/20 20060101ALI20240321BHJP
H01F 1/22 20060101ALI20240321BHJP
H01F 27/255 20060101ALI20240321BHJP
H01F 17/04 20060101ALI20240321BHJP
H02K 1/02 20060101ALI20240321BHJP
【FI】
C22C38/00 303A
C22C45/02 A ZNM
B22F1/07
B22F1/00 Y
B22F3/00 B
B22F1/102 100
B22F1/08
B22F1/052
H01F1/153 108
H01F1/153 133
H01F1/16
H01F1/20
H01F1/22
H01F27/255
H01F17/04 F
H02K1/02 B
(21)【出願番号】P 2022543013
(86)(22)【出願日】2021-01-15
(86)【国際出願番号】 KR2021000638
(87)【国際公開番号】W WO2021145741
(87)【国際公開日】2021-07-22
【審査請求日】2022-07-13
(31)【優先権主張番号】10-2020-0006224
(32)【優先日】2020-01-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】10-2020-0006225
(32)【優先日】2020-01-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】10-2020-0006228
(32)【優先日】2020-01-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】518215493
【氏名又は名称】コーロン インダストリーズ インク
(74)【代理人】
【識別番号】100121382
【氏名又は名称】山下 託嗣
(72)【発明者】
【氏名】キム,ス ミン
(72)【発明者】
【氏名】キム,チュンニョン ポール
【審査官】村岡 一磨
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第107354400(CN,A)
【文献】国際公開第2008/129803(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/006868(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00
C22C 45/00
B22F 1/00-3/00
H01F 1/153-1/22
H01F 27/255
H01F 17/04
H02K 1/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
組成式
Fe
a
Si
b
B
c
P
d
Cu
e
Y
f
で表され、
前記a~
fは、原子百分率の値で、80≦a≦87、0<b≦9、3≦c≦14、1≦d≦8、0.2≦e≦2.5、
0.5≦f≦2.5及び(e/f)≦4を満た
し、
前記組成式が10≦(c+d+f)≦19を満たし、
前記組成式が0.80<(e/d)≦1.0を満たし、
第1結晶化温度(T
x1
)と第2結晶化温度(T
x2
)との差が170~190℃である、合金組成物。
【請求項2】
請求項
1に記載の合金組成物からなる、合金リボン。
【請求項3】
前記Feを含む結晶粒及び前記結晶粒が分散された非晶質相を含む、請求項
2に記載の合金リボン。
【請求項4】
請求項
1に記載の合金組成物からなる、合金粉末。
【請求項5】
前記Feを含む結晶粒及び前記結晶粒が分散された非晶質相を含む、請求項
4に記載の合金粉末。
【請求項6】
巻線されたコイル(coil);及び
前記コイルが内部に備えられる軟磁性コア;を含み、
前記軟磁性コアは、
請求項1に記載の合金組成物から形成された合金を含み、Feを含む結晶粒が非晶質相に分散された複合組織を有する、インダクタ。
【請求項7】
請求項1に記載の合金組成物から形成された合金を含む軟磁性コア;及び
前記軟磁性コアの表面に巻線されるコイル(coil);を含み、
前記軟磁性コアはFeを含む結晶粒が非晶質相に分散された複合組織を有する、インダクタ。
【請求項8】
前記軟磁性コアは、前記組成を有する合金粉末が互いに絶縁されて焼結された焼結体である、請求項
6または
7に記載のインダクタ。
【請求項9】
前記Feを含む結晶粒はα-Feを含む、請求項
6または7に記載のインダクタ。
【請求項10】
前記Feを含む結晶粒の平均粒径は25nm以下である、請求項
9に記載のインダクタ。
【請求項11】
ハウジング;前記ハウジングの中央に支持される回転軸;前記回転軸に連結された回転子(rotor);及び前記ハウジングに固定された固定子(stator);を含み、前記回転子または前記固定子は、コイルが巻線されるモータコアを含み、前記モータコアは
請求項1に記載の合金組成物から形成された合金を含み、Feを含む結晶粒が非晶質相に分散された複合組織を有する、モータ。
【請求項12】
前記モータコアは、前記合金が軟磁性合金リボンに加工された後に積層されて備えられる、請求項
11に記載のモータ。
【請求項13】
前記モータコアは、前記軟磁性合金リボンが前記コイルの巻線方向と垂直な方向に積層されて備えられる、請求項
12に記載のモータ。
【請求項14】
前記Feを含む結晶粒はα-Feを含む、請求項
11に記載のモータ。
【請求項15】
前記Feを含む結晶粒の平均粒径は25nm以下である、請求項
14に記載のモータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の一側面は、合金組成物に関するものであり、具体的には、軟磁性特性に優れ、様々な電気、電子分野に活用できる合金組成物、合金組成物からなる合金リボン及び合金粉末と、これを活用したインダクタ及びモータなどの電子素材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
軟磁性材料は、各種変圧器、チョークコイル、インダクタ、モータ、発電機、磁気スイッチ、センサなどの多様な電磁気素材や部品などに必須に含まれる材料であり、ケイ素鋼などの電気鋼板、パーマロイ(permalloy)、フェライトなどが従来から軟磁性材料として広く知られて用いられており、非晶質合金も軟磁性材料として広く用いられている。
【0003】
軟磁性材料として非晶質合金を用いるために様々な合金の組成が研究されており、Fe系非晶質合金の優れた磁気的特性を活用するための研究が最近までも持続的に行われている。
【0004】
しかしながら、従来のFe系非晶質合金は磁束密度が高くないため、特性改善の限界を有する。渦電流による損失を減少させながらも非晶質合金を製造するために、単ロール法のように薄帯、リボン状にFe系非晶質合金を製造するための努力が多くなされてきたが、材料自体の脆弱性及び生産ラインの自動化問題があって、様々な3次元形態に成形し易い軟磁性合金粉末を製造及び商用化するための研究が盛んに行われている。
【0005】
一方、軟磁性合金を粉末で製造する場合、単ロール法のような合金リボン製造方式に比べて冷却速度が落ちて合金が冷却される過程で結晶質化が起こり易くなり、高い非晶質割合が得られないという問題点があるため、非晶質相を高い割合で含む合金粉末を製造する技術及び非晶質合金組成に対する解決策も併せて求められている。
【0006】
最近では、非晶質合金の飽和磁束密度及び透磁率などの軟磁性特性を向上させるために、結晶質のFeがナノメートルサイズの粒子で形成されたナノ結晶合金を製造して、軟磁性特性が特に優れた合金素材に対する需要が増加しているが、ナノ結晶合金に含まれるナノ結晶が不均一に形成されたり、ナノ結晶化によって耐食性が低下するなど、ナノ結晶合金の製造後にもさらなる問題点が現れている実情がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の一側面による合金組成物は、非晶質形成能に優れた合金組成物であって、合金組成物の第1結晶化温度と第2結晶化温度との差が大きく、合金組成物からなる合金リボンまたは合金粉末の熱処理時に安定した結晶質化が可能な合金組成物を提供することにその目的がある。
【0008】
また、本側面の合金組成物は、ナノ結晶質化時に形成されるFeの結晶粒が微細かつ均一に得られることができ、均一な品質の軟磁性材料を提供することにその目的がある。
【0009】
また、本発明の他の側面は、高い飽和磁束密度を有する鉄系合金を含み、熱処理によって均質なナノ結晶粒が分散され、非晶質相を含む組織を有する軟磁性コア及びこれを含むインダクタを提供することにその目的がある。
【0010】
また、本発明の他の側面は、高い飽和磁束密度を有する鉄系合金を含み、非晶質相を含み、耐食性に優れたモータコア及びこれを含む固定子または回転子が備えられるモータを提供することにその目的がある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一側面は、組成式FeaSibBcPdCueYfCgで表され、
上記a~fは、原子百分率の値で、80≦a≦87、0<b≦9、3≦c≦14、1≦d≦8、0.2≦e≦2.5、0<f≦3.0、0≦g≦4.0及び(e/f)≦4を満たす合金組成物であり、
このとき、上記組成式が10≦(c+d+f)≦19を満たし、0.80<(d/e)≦1.0を満たし、0.5≦f≦2.5を満たすことが好ましい。
【0012】
また、上記合金組成物は組成式FeaSibBcPdCueYfで表される合金組成物であることができ、
上記合金組成物の第1結晶化温度(Tx1)と第2結晶化温度(Tx2)との差が120~200℃であることが好ましく、
上記合金組成物の第1結晶化温度(Tx1)と第2結晶化温度(Tx2)との差が170~190℃であることが好ましい。
【0013】
本発明の他の実施形態としては、上述の合金組成物からなり、上記Feを含む結晶粒及び上記結晶粒が分散された非晶質相を含む合金リボンが提供されることができ、上述した合金組成物からなる合金粉末が提供されることも好ましい。
【0014】
このとき、合金粉末は、上記Feを含む結晶粒及び上記結晶粒が分散した非晶質相を含む合金粉末であることが好ましい。
【0015】
本発明の他の側面は、巻線されたコイル;及び
上記コイルが内部に備えられる軟磁性コア;を含み、
上記軟磁性コアは、Fe、Si、B、P、Cu及びYを組成として有する軟磁性合金を含み、Feを含む結晶粒が非晶質相に分散した複合組織を有するインダクタであることが好ましく、
または、組成でFe、Si、B、P、Cu及びYを有する軟磁性合金を含む軟磁性コア;及び
上記軟磁性コアの表面に巻線されるコイル(coil);を含み、
上記軟磁性コアはFeを含む結晶粒が非晶質相に分散した複合組織を有するインダクタであることが好ましい。
【0016】
このとき、上記軟磁性コアは、上記組成を有する合金粉末が互いに絶縁されて焼結されたものが好ましく、
上記軟磁性合金は、第1結晶化温度(Tx1)と第2結晶化温度(Tx2)との差が120~200℃であることが好ましく、
上記軟磁性合金は組成式FeaSibBcPdCueYfCgで表され、
上記a~fは、原子百分率の値で、80≦a≦87、0<b≦9、3≦c≦14、1≦d≦8、0.2≦e≦2.5、0<f≦3.0、0≦g≦4.0及び(e/f)≦4を満たすことが好ましい。
【0017】
また、上記組成式が10≦(c+d+f)≦19を満たすことが好ましく、0.80<(d/e)≦1.0及び0.5≦f≦2.5を満たすことが好ましい。
【0018】
また、上記軟磁性合金は組成式FeaSibBcPdCueYfで表され、
上記a~fは、原子百分率の値で、80≦a≦87、0<b≦9、3≦c≦14、1≦d≦8、0.2≦e≦2.5、0<f≦3.0及び(e/f)≦4を満たすインダクタであることが好ましく、
上記Feを含む結晶粒は、α-Feを含むことが好ましく、
上記Feを含む結晶粒の平均粒径は25nm以下であることが好ましい。
【0019】
本発明のまた他の側面は、
ハウジング;上記ハウジングの中央に支持される回転軸;上記回転軸に連結された回転子(rotor);及び上記ハウジングに固定された固定子(stator);を含み、
上記回転子または上記固定子は、コイルが巻線されるモータコアを含み、
上記モータコアは組成でFe、Si、B、P、Cu及びYを有する軟磁性合金を含み、Feを含む結晶粒が非晶質相に分散した複合組織を有するモータであって、
上記モータコアは、上記軟磁性合金が軟磁性合金リボンに加工された後、積層されて備えられることが好ましく、上記軟磁性合金リボンが上記コイルの巻線方向と垂直な方向に積層されて備えられることが好ましく、
上記合金は、第1結晶化温度(Tx1)と第2結晶化温度(Tx2)との差が120~200℃であることが好ましい。
【0020】
また、上記軟磁性合金は組成式FeaSibBcPdCueYfCgで表され、
上記a~fは、原子百分率の値で、80≦a≦87、0<b≦9、3≦c≦14、1≦d≦8、0.2≦e≦2.5、0<f≦3.0、0≦g≦4.0及び(e/f)≦4を満たすモータが提供されることができ、
このとき、上記組成式が10≦(c+d+f)≦19を満たし、0.80<(d/e)≦1.0を満たし、0.5≦f≦2.5を満たすことが好ましい。
【0021】
また、上記軟磁性合金は組成式FeaSibBcPdCueYfで表され、
上記a~fは、原子百分率の値で、80≦a≦87、0<b≦9、3≦c≦14、1≦d≦8、0.2≦e≦2.5、0<f≦3.0及び(e/f)≦4を満たすモータが提供されることができ、
上記Feを含む結晶粒はα-Feを含むことが好ましく、上記Feを含む結晶粒の平均粒径は25nm以下であることが好ましい。
【発明の効果】
【0022】
本発明の一側面による合金組成物は、Fe-Si-B-P-Cu-Y系組成の軟磁性合金組成物であって、Yを含むことにより第1及び第2結晶化温度の差が増加することがある。
【0023】
また、合金組成物は組成式でCu原子及びY原子の含有量が特定関係を満たして、第2結晶化温度と第1結晶化温度との差を大きく向上されることができるため、熱処理による軟磁性材料の製造時に安定した工程設計及び優れた品質の軟磁性素材を製造することができる利点がある。
【0024】
また、合金組成物から製造された合金リボンまたは合金粉末は、熱処理される場合、Fe結晶粒が分散した非晶質相を含んで高い飽和磁束密度を有することができる。
【0025】
本発明の第3側面によるインダクタは、非晶質形成能が向上された組成の軟磁性合金からなる軟磁性コアを含み、軟磁性合金は熱処理されて得られる鉄系ナノ結晶粒が分散した複合組織を含んで高い飽和磁束密度を有することができる。
【0026】
また、インダクタの軟磁性コアは、第1結晶化温度と第2結晶化温度との差が大きいという利点があり、均質なナノ結晶粒を含む複合組織を容易に得ることができる。
【0027】
本発明の第4側面によるモータは、Fe系合金に希土類元素であるイットリウムをさらに含む組成の合金からなるモータコアを含み、鉄系非晶質合金をモータの固定子または回転子のモータコアとして活用する場合に発生される可能性がある耐食性の問題を解決することができるため、部品及び装置の寿命を延長させることができる。
【0028】
また、本側面によるモータは、第1結晶化温度と第2結晶化温度との差が大きく、熱処理によってFe系ナノ結晶粒が均一に分散された非晶質相を含む複合組織を製造し易く、飽和磁束密度に優れるという利点を有する。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】一部実施例及び比較例の合金組成物のXRD分析結果を示したグラフである。
【
図2】一部実施例及び比較例の合金組成物のXRD分析結果を示したグラフである。
【
図3】一部実施例及び比較例の合金組成物のXRD分析結果を示したグラフである。
【
図4】一部実施例及び比較例の合金組成物の成形及び熱処理後に製造された合金リボンのXRD分析結果を示したグラフである。
【
図5】一部実施例及び比較例の合金組成物の成形及び熱処理後に製造された合金リボンのXRD分析結果を示したグラフである。
【
図6】一部実施例及び比較例の合金組成物の成形及び熱処理後に製造された合金リボンのXRD分析結果を示したグラフである。
【
図7】一部実施例及び比較例のDSC分析結果を示したグラフである。
【
図8】一部実施例及び比較例のDSC分析結果を示したグラフである。
【
図9】一部実施例及び比較例のDSC分析結果を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明を詳細に説明するが、本明細書で使用される用語は、特定の実施例を記述するためのものであり、本発明の範囲を添付の特許請求の範囲のみによって限定するためのものではないことに留意する必要がある。本明細書で使用されるすべての技術用語及び科学用語は、特に断りのない限り、技術的に通常の技術を有する者に一般的に理解されるものと同一の意味を有する。
【0031】
本明細書及び特許請求の範囲の全体にわたって、特に断りのない限り、包含(comprise、comprises、comprising)という用語は、言及された物、段階または一群の物及び段階を含むことを意味し、任意の他の物、段階、一群の物または一群の段階を排除する意味で使用されたものではない。
【0032】
一方、本発明の様々な実施例は、明らかに反対される指摘がない限り、その他の任意の別の実施例と結合されることができる。特に、好ましいまたは有利であると示した或る特徴も、好ましいまたは有利であると示したその他の或る特徴と結合されることができる。
【0033】
図面において、構成要素の幅、長さ、厚さなどは、便宜のために誇張して表現されることもできる。全体的に、図面の説明は、観察者の視点で説明し、一構成要素が他の構成要素の「上/下」にあるとするとき、これは、他の構成要素の「すぐ上/すぐ下」にある場合のみならず、その間にまた他の構成要素を有する場合も含む。
【0034】
本明細書において、非晶質とは、非結晶質と同じ意味であり、固体内の結晶が行われていない、すなわち、規則的な構造を有さない相を意味する非晶質相を含む組織の性質を意味する。
【0035】
本発明の第1側面は合金組成物であり、合金組成物はFe、Si、B、P、Cu及びYを含むFeSiBPCuYまたはFeSiBPCuYC系の軟磁性合金組成物であることができる。
【0036】
さらに具体的には、合金組成物は原子百分率(atomic percent)で表され、FeaSibBcPdCueYfCgで表されることができ、ここで、80≦a≦87、0<b≦9、3≦c≦14、1≦d≦8、0.2≦e≦2.5、0<f≦3.0及び0≦g≦4.0を満たし、a、b、c、d、e、f、gの合計は100を満たす。
【0037】
または、合金組成物は原子百分率(atomic percent)で表され、FeaSibBcPdCueYfで表されることができ、ここで、80≦a≦87、0<b≦9、3≦c≦14、1≦d≦8、0.2≦e≦2.5及び0<f≦3.0を満たし、a、b、c、d、e、fの合計は100を満たす。
【0038】
このとき、(c+d+f)の値は10~19であることが好ましく、(e/f)の値が4以下であることが好ましい。
【0039】
ここで、Feは合金組成物の主元素であり、磁性を担う必須元素である。Fe含有量は80~87原子%、好ましくは80.5~86原子%、さらに好ましくは81~85原子%である。Feが該当範囲よりも低い場合、合金用組成物の飽和磁束密度が低く、軟磁性特性が高くなく、製造単価が上昇し、該当範囲よりも高い場合、非晶質相が形成されないか、非晶質相の割合が低くなることがあり、熱処理時に均質なナノ結晶組織が得られないため、合金組成物から得られる軟磁性材料の軟磁性特性が劣化するという問題があり得る。
【0040】
以下で軟磁性材料とは、軟磁性合金組成物を冷却及び熱処理して得られた状態のものであり、軟磁性素材及び所望の形態で成形された軟磁性部品を含む意味である。
【0041】
軟磁性合金組成物において、Si元素は非晶質形成を担う元素であり、軟磁性合金組成物のナノ結晶化時のナノ結晶の安定化に寄与する。Si含有量は0原子%を超えることが好ましく、9原子%以下であることが好ましく、1~7原子%であることが好ましい。Si含有量が該当範囲よりも低い場合、合金組成物の非晶質形成能が低下して非晶質合金の形成が難しくなることがあり、ナノ結晶組織の形成時に均質なナノ結晶組織が得られないため、軟磁性材料の軟磁性特性が良くないことがある。Si含有量が該当範囲よりも高い場合、飽和磁束密度及び非晶質形成能が却って低下する問題が発生するおそれがある。
【0042】
軟磁性合金組成物が該当範囲のSiを含むことにより、軟磁性合金組成物において、第1及び第2結晶化温度の差であるΔTが増加することがあり、均質なナノ結晶粒を含む軟磁性材料を得ることができる。
【0043】
軟磁性合金組成物において、Bは非晶質形成能を向上させる役割として主に含まれることができる。
【0044】
B含有量は3~14原子%、好ましくは3.5~13原子%である。
【0045】
B含有量が該当範囲よりも低い場合、非晶質形成能が低くなって非晶質相が得られないか、または低い割合で得られて軟磁性特性が良くないことがあり、該当範囲よりも高い場合、合金組成物のΔTが減少して軟磁性材料で均質なナノ結晶粒を得ることが難しくなって、軟磁性特性が良くないことがある。
【0046】
また、Bは、軽い元素として合金組成物の製造時に揮発したり、合金化が困難であって、ターゲット組成よりも実際に得られた合金で低い含有量で含まれることがある。
【0047】
Pは合金組成物の非晶質形成能を向上させることができ、SiまたはBとともに合金に含まれる場合、非晶質形成能及びナノ結晶粒の安定性を向上させることができる。
【0048】
P含有量は1~8原子%、好ましくは1.5~7.5原子%である。P含有量が該当範囲よりも低い場合、非晶質形成能が低くなって、非晶質相を十分に得ることが困難であるという問題があり、該当範囲よりも高い場合、軟磁性合金や軟磁性材料の飽和磁束密度が低下して軟磁性特性が悪くなる問題があり得る。
【0049】
Cは軟磁性合金組成物に選択的に含まれることができる元素であって、原子の半径が比較的小さく、ホウ素と類似した原理によって非晶質形成能の向上に寄与することができる。炭素は0~4原子%であることが好ましい。但し、炭素の含有量が4原子%を超える場合、Fe系合金が脆性を有することになって脆化し易いため、軟磁性特性の劣化が発生するおそれがある。
【0050】
軟磁性合金組成物において、Cuは合金のナノ結晶化に寄与する元素として作用する。Cu含有量は、0.2~2.5原子%、好ましくは0.3~2.0原子%、さらに好ましくは0.4~1.7原子%である。
【0051】
Cu含有量が該当範囲よりも低い場合、ナノ結晶化がうまく行われないため、ナノ結晶化による軟磁性材料の軟磁性特性の向上効果が悪くなるという問題があり、該当範囲よりも高い場合、非晶質相合金が不均一になることがあり、均質なナノ結晶組織が得られないため、軟磁性材料の軟磁性特性が悪くなるという問題があり得る。
【0052】
P原子とCu原子との間には強い引力がある。したがって、合金組成物が特定割合のP元素及びCu元素を含んでいると、ナノメートルサイズのクラスター(Cluster)が形成され、このナノサイズのクラスターによってFe系合金の熱処理時に結晶質のα-Feはナノ結晶粒の微細構造を有するようになる。より具体的には、本実施形態による軟磁性材料は、Fe系ナノ結晶質合金として、平均粒径が25nm以下であるα-Fe(α-鉄、Alpha-iron)結晶粒を含んでいる。
【0053】
本実施形態において、P含有量(d)及びCu含有量(e)の割合(d/e)は、0.05以上、1.0以下であり、好ましくは0.80を超過し、1.0以下であることができる。
【0054】
(d/e)値が該当範囲外である場合、均質なナノ結晶組織が得られないため、合金組成物を用いて製造した製品において軟磁性特性が良くないことがある。
【0055】
Yは希土類元素であって、原子半径が大きい原子として合金組成物の非晶質形成能を向上させることができ、合金組成物内で鉄原子の拡散性や移動性を下げて合金をなす原子が結晶化することを防止することができる。
【0056】
また、イットリウムが合金組成物に含まれる場合、熱処理時にFe系合金のナノ結晶化の過程でFe原子の移動を妨げてナノ結晶粒の過度の成長を抑制することができ、ナノ結晶粒の粒径を小さく維持できるようにし、Fe系ナノ結晶質合金の安定性を向上させることができる。
【0057】
また、イットリウムは酸素との結合力に優れ、合金組成物内の溶存酸素と反応することができ、合金組成物内の酸素濃度を下げて、他の金属の酸化物が形成されることを防止し、合金の耐久性、耐摩耗性など機械的特性を向上させて寿命を延長させることができる。
【0058】
Y含有量は3.0原子%以内に含まれることができ、好ましくは0.3~2.8原子%、さらに好ましくは0.5~2.5原子%の範囲で含まれることが好ましい。
【0059】
Y含有量が該当範囲よりも低い場合、非晶質形成能が低くなって、非晶質相を十分に得ることが難しくなるという問題があり、該当範囲よりも高い場合、生産費用が増加し、軟磁性合金及び軟磁性材料の飽和磁束密度が低下して軟磁性特性が悪くなるという問題がある。
【0060】
本発明の合金組成物は、Cu、Y及びPを全て含み、このとき、B、P及びYの原子百分率は合計で10原子%以上であり、19原子%以下からなることが好ましい。B、P及びYの含有量を合わせた(c+d+f)の値が10原子%よりも低い場合には、合金組成物の非晶質形成能が低下して、合金の製造時の非晶質相が形成されないという問題点があるおそれがあり、19原子%よりも高い場合には、合金組成物においてFe含有量が相対的に低くなって、合金組成物の熱処理時にナノ結晶質化がうまく行われないか、最終的に得られる軟磁性材料の飽和磁束密度が低くなって、軟磁性特性が悪くなるという問題が発生するおそれがある。
【0061】
また、イットリウムの含有量(f)及びCuの含有量(e)の関係である(e/f)の値は4以下で得られることが好ましく、さらに好ましくは(e/f)の値が3以下である。(e/f)の値が該当範囲よりも大きい場合、合金組成物の非晶質形成能が低下して結晶質合金が得られるか、ナノ結晶粒のFeを得るための熱処理時にナノ結晶粒の粒径が増加するか、不規則なナノ結晶質合金が得られるという問題が発生するおそれがある。
【0062】
また、Yによって原子の移動度が低下することによって結晶相が形成されるために外部から吸収するエネルギーが増加するため、第1結晶化温度または第2結晶化温度が増加することがある。
【0063】
本側面の合金組成物は、様々な形状を有するように製造、成形されることができる。例えば、合金組成物は冷却されて軟磁性材料で得られることができ、軟磁性材料は連続ストリップ(strip)またはリボン状を有することができ、球状に近い粉末状を有することができる。
【0064】
連続ストリップ状の軟磁性材料は、非晶質ストリップなどの製造に用いられている単ロール製造装置や双ロール製造装置などの従来の装置を用いて形成されることができる。粉末状の軟磁性材料は、水アトマイズ(water atomize)法やガスアトマイズ(gas atomize)法によって製作されることができ、ストリップ状の軟磁性材料を粉砕または破砕することで得られることができるが、球形度に優れた粉末を製造するためには、アトマイズ法を用いて粉末状の軟磁性材料を製造することが好ましい。
【0065】
本実施形態による合金組成物または軟磁性材料を成形して、巻磁芯、積層磁芯、圧紛磁芯などの磁気コアを形成することができる。また、その磁気コアを用いて、トランス、インダクタ、モータや発電機などの部品を提供することができる。
【0066】
本実施形態による合金組成物は、主相として非晶質相を有している。したがって、冷却された合金組成物をArガス雰囲気のような不活性雰囲気中で熱処理すると、2回以上結晶化が進行されることができる。最初に結晶化が開始される温度を合金の第1結晶化開始温度(Tx1)とし、2番目の結晶化が開始される温度を第2結晶化開始温度(Tx2)とする。
【0067】
また、第1結晶化開始温度(Tx1)と第2結晶化開始温度(Tx2)との間の温度差をΔT=Tx2-Tx1とし、単に「結晶化開始温度」という用語を用いる場合、第1結晶化開始温度(Tx1)を意味するものと理解される。
【0068】
上述した合金の結晶化温度は、例えば、示差走査熱量分析(DSC)装置を用いて測定されることができ、20℃/minレベルの昇温速度で熱分析を行うことで評価可能である。
【0069】
本発明の合金組成物はYを組成として含むことにより、ΔTが増加されることができ、ΔTが増加されることによって合金の熱処理またはナノ結晶質化時に安定したナノ結晶質化が可能であり、結晶相のα-Feを均一に得ることができるため、高い飽和磁束密度が得られるという利点がある。
【0070】
合金組成物のΔTは120~200℃であることができ、好ましくは130~200℃であり、さらに好ましくは170℃以上であり、190℃以下であることが好ましい。ΔTが該当範囲よりも小さい場合には、熱処理後の軟磁性材料の軟磁気特性の劣化問題が生じるおそれがある。
【0071】
本側面によるFe系合金組成物は、ナノ結晶質化されて優れた飽和磁束密度、保磁力を有する軟磁性材料を形成するため、これを用いて軟磁性特性を有する磁気コアを製造するために活用することができる。また、その磁気コアを用いてトランス、インダクタ、モータ、センサまたは発電機などの部品を構成することができる。
【0072】
より具体的には、合金組成物から製造されるコアや磁芯などは、非晶質相の合金マトリックスにFeを含む微細な結晶粒が分散する複合組織を有し、非晶質相の合金マトリックスは上述した組成の非晶質合金であることが好ましく、Feを含む結晶粒は粒径がナノメートル単位である均質なα-Fe結晶質粒子であることが好ましい。
発明を実施するための形態
【0073】
本発明の第2側面は、上述した合金組成物から製造される合金粉末である。
【0074】
合金粉末は、上述の合金組成物を誘導加熱炉で製造した後、アトマイズ法で粉末化して製造することができる。ここで、アトマイズ方法は、本技術分野で通常的に活用可能な技術であれば制限されず、通常の技術者が採択することができる多様な技術が活用される。
【0075】
アトマイズ法により冷却された合金粉末は非晶質相を含む非晶質合金粉末であり、該当非晶質合金粉末は追加的な熱処理によって結晶質化されてナノ結晶質相を内部に含むナノ結晶質の軟磁性合金粉末から製造される。
【0076】
具体的には、非晶質合金粉末を熱処理してナノ結晶質化する段階であって、合金の第1結晶化開始温度と類似した温度またはそれ以上の温度で処理する段階を含む。
【0077】
熱処理段階は、アルゴン雰囲気中でα-Feナノ結晶粒を析出することができる温度以上、すなわち、合金の第1結晶化開始温度よりも高い温度で行われることが好ましい。また、α-Feナノ結晶粒以外の軟磁気特性を劣化させる金属酸化物の形成を防止し、均質なナノ結晶組織を得るためには、第2結晶化開始温度よりも低いβ範囲内で熱処理することが好ましい。
【0078】
熱処理段階では、非晶質相で含まれていた合金組成物のFe原子が合金に分散した核(nuclear)を中心に体心立方結晶構造(bcc)を有する結晶相α-Feが形成されることができる。この時、ナノ結晶粒の凝結核の役割をする原子としてCuまたはYが活用されることができる。
【0079】
熱処理によって形成される結晶粒の平均粒径は25nm以下であることが好ましい。ナノ結晶粒の平均粒径が該当範囲よりも大きい場合、保磁力及び自己損失が増加するという問題が発生するおそれがある。
【0080】
上記のような粒径のナノ結晶粒を得るために、熱処理時の温度及び時間が制御されることができ、熱処理時間は30秒~1時間の間行われることができる。熱処理時間は温度によって変更することができるが、30秒未満で行われる場合、目的とするナノ結晶粒の粒径に到達できず、熱処理時間が1時間を超えると、ナノ結晶粒の粒径が必要以上に粗大化して保磁力及び自己損失が増加する可能性がある。
【0081】
本発明は、第3側面で上述した合金組成物及び合金粉末から製造されたインダクタを含む。
【0082】
インダクタ(Inductor)とは、電気回路を構成する部品の一つであり、電流の変化量に比例して電圧を誘導するコイル(巻線)を一般的に称し、電気回路で電流を安定させようとする特徴を有するが、電流を安定させようとする特性を効果的に有させるためには、軟磁性素材を活用することが好ましい。
【0083】
本側面のインダクタの種類及び形態は制限されないが、トロイダル(Toroidal)インダクタ、アキシャル(Axial)インダクタまたはチップ型インダクタ(以下、チップインダクタ)などが含まれることができ、好ましくはトロイダルインダクタまたはチップインダクタであることが好ましい。
【0084】
本発明の一実施形態によるインダクタは、導電体からなるコイルと、上記コイルの内部またはコイルの間に備えられる軟磁性コアを含む。
【0085】
コイルは電気回路と連結される伝導体であり、インダクタの外部に突出して電気回路と連結されるか、インダクタの外部と電気的に連結可能な電極と接触し、電気回路によって電流が流れる部分である。
【0086】
コイルは、インダクタの形態、種類に応じて異なる形態及び構造を有することができる。例えば、銅線などの電気導電性の導線が軟磁性コアの外部に回転して巻かれた形態であることができ、磁性体シートに導電性ペースト(paste)をコイルパターンに印刷して積層する積層型や、巻線装備を用いてらせん状(spiral)でコイルを巻き、その内・外部に軟磁性コアを充填する形態であることができる。
【0087】
インダクタコアもインダクタの形態、種類に応じて異なる形態及び構造を有することができる。例えば、トロイダルインダクタの場合、リングまたは円環体(Torus)形態のコアが含まれ、アキシャルインダクタの場合、円筒状コアが含まれ、このようなコアの外部にコイルが巻線される形態が用いることができる。
【0088】
本発明の好ましい実施例によるインダクタは、チップインダクタとして、巻線されたコイルの内部及び外部を囲むコアが含まれる。
【0089】
本実施例によるチップインダクタは、電子回路に用いられる場合、1~10MHzレベルの周波数領域で透磁率が一定レベル以上に維持される利点があり、1~10MHzレベルの高周波数の帯域で活用されることができ、占める体積及び大きさが小さく製造されることができるため、空間効率及び小型化が重要であり、低い電流を利用するスマートフォン、タブレットPC、ノートパソコンなどに活用できるという利点がある。
【0090】
具体的には、チップ型インダクタの形態を有するように用意されたモールドについて、モールドの内部に備えられる導電性コイルを含み、導電性コイルの周辺部及びそれらの間の空間に備えられ、合金粉末を含むコアがモールドの内部でコイルと絶縁されながらコアを内部に含むインダクタを構成することができる。
【0091】
インダクタの内部に充填される合金粉末は、軟磁性合金粉末であることが好ましく、軟磁性合金粉末の粒径は、単一分布を有する単峰分布または二峰分布の粉末を用いることができ、互いに異なる平均粒径を有する軟磁性合金粉末を互いに混合して用いることも可能である。
【0092】
互いに異なる平均粒径を有する軟磁性合金粉末を混合する場合、単一平均粒径を有する粉末を用いる場合よりも空間の充填密度(packing density)が向上し、より高い透磁率及び飽和磁束密度を有することができる。
【0093】
例えば、第1粒径を有する第1軟磁性合金粉末及び第1粒径よりも小さい第2粒径を有する第2軟磁性合金粉末の混合粉末がインダクタに充填することができ、第1粒径は第2粒径の4倍~13倍の粒径関係を有することが好ましい。
【0094】
該当粒径範囲を外れる場合、充填密度が低下して透磁率が減少し、磁束密度が減少してインダクタ効率が低下することがある。
【0095】
また、軟磁性合金粉末は、電磁誘導による損失を防ぐために表面で絶縁特性を有することができる。軟磁性合金粉末の表面が絶縁されない場合、電気的連結によって外部磁場の変化によって誘導電流、渦流が発生することがあり、この場合、透磁損失が増加してインダクタンスの減少、発熱などの問題が発生するおそれがある。
【0096】
絶縁特性のために、例えば、軟磁性合金粉末は、表面に絶縁コーティングをさらに含むか、または粉末の混合時に絶縁性バインダーまたは樹脂と混合して絶縁特性を有することができる。
【0097】
本発明の一実施例のインダクタには、軟磁性合金粉末及び高分子樹脂が混合された混合物がインダクタの内部に充填されることができる。
【0098】
このとき、バインダーの組成及び成分は制限されず、該当技術分野で一般的に用いられるか、通常の技術者が採択することができる組成のバインダー物質であれば、本発明のインダクタに含まれることができる。
【0099】
バインダー及び軟磁性合金粉末を互いに混合する場合、バインダーは軟磁性合金粉末に対して1.5~5.0重量%であることが好ましい。
【0100】
バインダーの配合割合が少なすぎる場合、軟磁性合金粉末が互いに凝集されてバインダーとの混合が難しくなることがあり、バインダーの配合割合が高すぎる場合、軟磁性合金粉末の量が減って、透磁率や磁束密度が低下するか、粉末-バインダー間の結合強度が低下して電極露出、ショート(short)、めっき滲透などの工程不良を引き起こすおそれがある。
【0101】
軟磁性合金粉末の含有量は高いほどコアの軟磁性特性に優れて好ましいが、インダクタの内部にコイルが含まれるチップインダクタ構造の特性上、そしてチップインダクタを製造する工程の特性上、粉末含有量の限界が存在する。
【0102】
具体的には、全体チップインダクタの内部コイルを除いた軟磁性コア部分に含まれる軟磁性合金粉末の含有量は、70~90vol%であることができ、好ましくは75~85vol%である。
【0103】
本側面によるまた他の好ましい実施例としては、トロイダルインダクタが挙げられる。トロイダルインダクタは、合金粉末を含む軟磁性コアがトロイダル形態(ドーナツまたはリング状を含む)に成形され、上述したトロイダルコアの表面に巻線が巻かれて備えられるコイルを含む。このとき、コイルはトロイダルコアから絶縁されて巻線される。
【0104】
トロイダルインダクタは外観及び形態が上述した実施例のチップ型インダクタとは相違するが、インダクタとしての作動原理及び細部的な構成は同様に行われることができ、以下では、上述した実施例のチップインダクタと同一の部分は説明を省略し、異なる部分に対して説明した。
【0105】
トロイダルインダクタは、電子回路に用いられる場合、数百kHzレベルの周波数領域で透磁率が一定レベル以上に維持される利点があり、数十~数百kHzレベルの周波数帯域で活用されることができ、比較的大きな体積で製造されて小型化が必須でない電子機器に用いられることができ、高い電流の使用が可能であり、熱放出が容易である電子機器などに活用できる利点がある。
【0106】
トロイダルインダクタは、例えば、医療機器、通信、楽器、産業制御、冷凍装備、エアコン装備、電源供給装置、バラスト、電磁クラッチ、電磁ブレーキ、宇宙航空の分野などに用いられることができ、回路で発生するノイズをフィルタリングする役割を主に行われることができる。
【0107】
トロイダルコアは、断面が円形や正方形などからなる円環体(Torus)として、回転対称的な構造を有し、角を有するエッジを含まないため、コアの内部で形成される磁場、すなわち、鎖交磁束の集中、或いは偏重による損失がなく、均一であるため、効率的にコアが活用されることができる。
【0108】
トロイダルコアは独自に製造可能であり、表面にコイルを巻線することでインダクタになることができ、チップ型インダクタに対して成形や製造が自由であるという利点がある。例えば、チップ型インダクタを製造する場合、コアの内部に備えられるコイル及び絶縁を維持しながらコイルの破壊を防ぐために合金粉末を加圧することが制限されるが、トロイダルインダクタの場合、合金粉末のみでコアを理論の密度に近く加圧したり、透磁率及び磁束密度を高めるために熱処理することも可能である。
【0109】
すなわち、トロイダルコアに含まれる合金粉末は軟磁性合金粉末であることが好ましく、チップインダクタのコアに対して合金粉末の含有量または体積分率がより高いことができ、例えば、コアの全体で軟磁性合金粉末が占める体積が95vol%~99.9vol%であることができる。
【0110】
トロイダルインダクタを製造する方法は、チップ型インダクタの製造方法とは異なり、トロイダルコアを製造する段階及びコイルを巻線する段階に区分されることができる。
【0111】
トロイダルコアを製造する段階としては、例えば、トロイダルコアの形態のモールドに軟磁性合金粉末及びバインダーを混合して投入した後、チップインダクタの場合よりも多くは20倍以上高い圧力で加圧してトロイダル形態に成形した後、数百度の温度で熱処理する方法が用いられることができる。
【0112】
このとき、熱処理は、軟磁性粉末製造及び加圧成形工程時に発生した素材内部の応力を緩和することで、透磁率、透磁損失、及び磁束密度などの軟磁性特性を大きく改善することができる。
【0113】
本発明は、第4側面で上述した合金組成物から製造された軟磁性材料を含むモータを開示する。
【0114】
モータ(Motor)とは、電動機とも呼ばれ、電気エネルギーを力学的エネルギー(動力など)に切り替えることができる装置であって、電流が流れる導体が磁場の中で物理的な力を受ける原理を活用した装置であり、電気エネルギーを利用して回転磁界を発生させ、回転磁界によって回転エネルギーのような運動エネルギーを発生させることができる。
【0115】
モータは、回転磁界によって回転し、回転軸に連結される回転子(ロータ、rotor)と、固定されて停止または移動せずに回転子を回転させる固定子(ステータ、stator)とを含んで構成され、用いられる電源の種類(直流または交流)及び形態によって様々な構造を有することができる。
【0116】
本側面のモータは、交流を受けて作動する交流モータ(AC Motor)であることが好ましく、固定子及び回転子の構造及び形態は制限されない。
【0117】
モータはステータまたはロータに軟磁性材料を含む軟磁性コアを備えてなることができるが、以下では、モータのステータまたはロータに備えられる軟磁性コアをモータコアと表現した。ステータまたはロータのいずれか一つは、軟磁性のモータコアと、モータコアに巻線されるコイルとを含んで構成され、ステータまたはロータのうちモータコアが備えられない残りの一つは、N極及びS極を有する永久磁石を含んで構成されることが好ましい。
【0118】
すなわち、モータにはコイルが巻線されるモータコアが備えられ、モータコアは、モータの構造に応じてステータ及びロータのいずれか一つに備えられる。
【0119】
モータは、複数個のコイルと、複数個のコイルが巻線されるボビン(またはボビン部)とを有し、複数個のコイルは、個別的に分離された複数個の分割されたモータコア(分割コア)のボビンに巻線されることができ、一体に製造され、複数個のボビン部が備えられた一つのモータコアに複数個のコイルが巻線されることも可能である。
【0120】
このとき、複数個のコイルとは、必ずしもそれぞれ電流が流れる複数個の導線からなることが求められるものではなく、一つの導線で連結されても互いに異なる位置で巻線されるなど、通常的に別個の巻線コイルを構成すると認められる場合を含む。
【0121】
本側面の好ましい一実施例は、ハウジングを含み、固定子及び回転子が軸方向に配列されたアキシャルギャップ(Axial gap)モータであり、ハウジングの中心に回転可能に支持される回転軸、回転軸を中心に放射状に配列される複数の分割コア及びコアに巻線されるコイルを含む固定子、回転軸の方向に固定子のコアの一面と一定間隔(エアギャップ)を置いて配置され、中央部が回転軸と連結される回転子を有するモータである。
【0122】
本側面の好ましい他の実施例は、ハウジングを含み、固定子及び回転子が回転軸から放射方向または直径方向に配列されたラジアルギャップ(Radial gap)モータであり、ハウジングの中央に回転可能に支持される回転軸、回転軸を中心に外周面から放射状に配列される複数個の磁石を有する回転子、回転子に対して放射方向または直径方向に回転子の外周面と一定間隔(エアギャップ)を置いて配置され、ハウジングに固定された複数個のモータコア及びモータコアに巻線されたコイルを含む固定子を有するモータである。
【0123】
ここで、モータコアはティース(Teeth)を有することができ、コイルの外部に備えられる絶縁性ボビンを有し、コイルはボビンに巻線される。
【0124】
モータコアは合金をリボン状に製造、成形した後、これを所望の形態に加工する。このとき、合金は軟磁性合金であることが好ましく、加工された軟磁性合金リボンを積層して互いに接合させることができ、軟磁性合金を粉末状に製造した後、所望の形態に焼結、射出または積層して製造することができる。また、軟磁性合金をリボンなどの薄板状の軟磁性材料に製造した後、加工、積層及び接合してモータコアを製造することが好ましい。
【0125】
本側面の一実施例は、合金組成物をリボン状に成形した後、接合して製造されたモータコアが備えられたステータまたはロータを有するモータを含み、モータのコアは一体に備えられるモータコア及び分割コアのいずれも用いることができる。
【0126】
モータコアに含まれる合金をリボン状に成形した後、接合してモータコアを製造する場合、それぞれのリボンが互いに絶縁されてなることが好ましく、軟磁性合金がリボン状に成形された軟磁性材料が積層される積層方向と軟磁性材料の周辺にコイルが巻線される方向を定義することができるが、巻線方向は、導電性導線が軟磁性材料の周囲を取り囲んで進行する方向を意味し、巻線に沿って電流が変化する場合、巻線方向または巻線方向の反対方向にコイルの内部に誘導磁場が生じることがある。
【0127】
軟磁性材料の積層方向は、薄い厚さの軟磁性合金リボンが積み重なる方向であって、各軟磁性合金リボン間の接合面と垂直な方向を意味する。
【0128】
軟磁性材料の一例示である軟磁性合金リボンの積層方向及び巻線方向は、互いに垂直方向であることが好ましく、ここで垂直方向とは正確な垂直のみを意味するものではなく、一般的に直交または垂直に近い方向と見なすことができる程度を含む広い意味を有する。
【0129】
本発明の一実施例は、上述した側面の合金組成物の素材を含むモータであって、Yを含む鉄系軟磁性合金材料を含むステータまたはロータを含むことにより、ステータまたはロータの耐食性を向上させることができるため、モータの作動寿命を向上させることができ、優れた軟磁性特性を有して高い効率を有することができる。
【0130】
以下では、本発明の理解を助けるために好ましい実施例を提示するが、下記実施例は本発明を例示するだけであって、本発明の範疇及び技術思想の範囲内で多様な変更及び修正が可能であることは、当業者にとって明らかであり、このような変更及び修正は添付された特許請求の範囲に属することももちろんである。
【0131】
実施例
実施例1~4-合金リボンの製造
下記表1のような組成割合で合金組成物を用意し、ホイールスピード3500RPM、ガス圧0.5bar、ノズルとホイールの間隔が1.0mmであるメルトスピナー装置を用いて合金粉末を非晶質合金リボンに製造した。
【0132】
この後製造された非晶質合金リボンをアルゴン雰囲気下で420℃の温度で20分間熱処理した。
【0133】
実施例5~8-合金リボンの製造
下記表1のような組成割合で合金組成物を用意し、合金リボンの熱処理を450℃温度で10分間進行したことを除いては、実施例1~4と同様の方法で合金リボンを製造した。
【0134】
比較例
比較例1~5-合金リボンの製造
下記表1のような組成割合で合金組成物を用意し、実施例と同一装置を用いて同一条件で合金リボンを製造した後、比較例1、2の合金リボンは420℃の温度で20分間熱処理し、比較例4、5の合金リボンは450℃の温度で10分間熱処理した。
【0135】
【0136】
実験例
実験例1:熱処理前のXRD分析
実施例1、2及び比較例1の合金リボンに対して熱処理を行う前にXRD分析を行い、合金リボンの製造時に速い速度で冷却が起こるホイール(Wheel)面と冷却速度が比較的低いエア(Air)面での分析結果を
図1に示した。
【0137】
実施例3、4及び比較例2の合金リボンを熱処理を行う前に同様に分析して結果を
図2に示し、実施例5~8及び比較例3~5の合金リボンを同様の方法で分析して実施例5~7の結果を
図3に示した。
【0138】
XRD分析の結果、実施例及び比較例の組成に対して非晶質相が観察されたことが分かり、図面には示されていないが比較例3の場合、Feの結晶相(アルファ-鉄)が生成された。
【0139】
実験例2:熱処理後のXRD分析
420℃または450℃の温度で熱処理を行った後、実施例1~8及び比較例1、2、4、5の合金リボンをXRD分析装置で分析し、実施例1~7、比較例1~2の結果をそれぞれ
図4~
図6に示した。
【0140】
比較例3の場合、熱処理前にFeの結晶相が形成されたことが観察され、熱処理を行わなかった。
【0141】
実験例1と比較したところ、熱処理後に各実施例及び比較例で結晶相のアルファ-鉄が検出されたことが確認された。
【0142】
実験例3:DSC分析
実施例1~8及び比較例1~5の合金リボンを示差走査熱量分析(DSC)装備を用いて20℃/分の昇温速度で熱分析し、実施例1~7、比較例1~2の結果を
図7~
図9に示した。
【0143】
DSC分析の結果、実施例及び比較例において、Fe以外の他の成分組成を維持し、Y含有量を増加させるにつれて、第1結晶化温度(Tx1)及び第2結晶化温度(Tx2)が増加し、第2結晶化温度の増加率がより高く、(Tx2-Tx1)と計算されるΔTも増加することが観察された。
【0144】
また、実施例7においてΔTの値が179℃程度と大きく現れることが分かる。
【0145】
実験例4:VSM分析
実施例1~8及び比較例1~5の合金試料について、飽和磁束密度(Bs)は、振動試料磁力計(VSM)を用いて800kA/mの磁場で測定し、その結果を表2にまとめた。全般的に、熱処理後に飽和磁束密度が増加し、これによって熱処理時に内部でFeがナノメートル単位の結晶粒を形成してより高い飽和磁束密度を有すると予想される。
【0146】
さらに、上述した実験例の結果をまとめて下記表3に示した。
【0147】
【0148】
【0149】
上述した各実施例で例示した特徴、構造、効果などは、実施例が属する分野の通常の知識を有する者によって他の実施例にも組み合わせまたは変形されて実施されることができる。したがって、このような組み合わせ及び変形に関係する内容は、本発明の範囲に含まれるものと解釈されるべきである。