(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-19
(45)【発行日】2024-03-28
(54)【発明の名称】露光装置、露光方法及び物品の製造方法
(51)【国際特許分類】
G03F 7/20 20060101AFI20240321BHJP
【FI】
G03F7/20 501
G03F7/20 521
(21)【出願番号】P 2023032176
(22)【出願日】2023-03-02
(62)【分割の表示】P 2018234713の分割
【原出願日】2018-12-14
【審査請求日】2023-03-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003281
【氏名又は名称】弁理士法人大塚国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】八講 学
【審査官】植木 隆和
(56)【参考文献】
【文献】特開昭62-164011(JP,A)
【文献】特開平06-124870(JP,A)
【文献】特開2013-162110(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/027
G03F 7/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光源からの光でマスクを
変形照明する照明光学系と、
前記マスクのパターンの像を基板に投影する投影光学系と、を有し、
前記照明光学系の瞳面に
は、輪帯の第1強度分布
及び前記第1強度分布より外側に形成される輪帯の第2強度分布
を形成
する波長フィルタが設けられ、
前記波長フィルタは、前記第2強度分布を形成する光の波長域における最長波長が、前記第1強度分布を形成する光の波長域における最長波長よりも長くなるように設けられることを特徴とする露光装置。
【請求項2】
前記波長フィルタは、前記第1強度分布を形成する光の波長域における最短波長が、前記第2強度分布を形成する光の波長域における最短波長よりも短くなるように設けられることを特徴とする請求項
1に記載の露光装置。
【請求項3】
前記第1強度分布
の少なくとも一部は、前記第1強度分布を形成する光の波長域をλ1、前記パターンのピッチをP、前記投影光学系の開口数をNA
、前記瞳面の瞳座標における原点からの距離をσとして、
σ=λ1/(2NA・P)
を満たすことを特徴とする請求項
1又は
2に記載の露光装置。
【請求項4】
前記第2強度分布
の少なくとも一部は、前記第2強度分布を形成する光の波長域をλ2、前記パターンのピッチをP、前記投影光学系の開口数をNA
、前記瞳面の瞳座標における原点からの距離をσとして、
σ=λ2/(2NA・P)
を満たすことを特徴とする請求項
1又は
2に記載の露光装置。
【請求項5】
前記第1強度分布を形成する光の波長域及び前記第2強度分布を形成する光の波長域は、水銀ランプの複数の輝線に対応する波長を含むことを特徴とする請求項
1乃至
4のうちいずれか1項に記載の露光装置。
【請求項6】
前記第1強度分布は、335nm以上395nm以下の波長の光を含み、
前記第2強度分布は、395nm以上475nm以下の波長の光を含むことを特徴とする請求項
1乃至
5のうちいずれか1項に記載の露光装置。
【請求項7】
光源からの光を用いて基板を露光する露光方法であって、
照明光学系を介して前記光でマスクを
変形照明する工程と、
投影光学系を介して前記マスクのパターンの像を前記基板に投影する工程と、を有し、
前記マスクを
変形照明する工程では、
前記照明光学系の瞳面に
波長フィルタが設けられることにより、前記瞳面に、輪帯の第1強度分布と、前記第1強度分布より外側に輪帯の第2強度分布を形成し、
前記第2強度分布を形成する光の波長域における最長波長は、前記第1強度分布を形成する光の波長域における最長波長よりも長い、
ことを特徴とする露光方法。
【請求項8】
請求項1乃至
6のいずれか1項に記載の露光装置を用いて基板を露光する工程と、
露光した前記基板を現像する工程と、
現像された前記基板から物品を製造する工程と、
を有することを特徴とする物品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、露光装置、露光方法及び物品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
投影露光装置は、マスク(原版)に形成されたパターンを基板(プレート)に転写する装置であって、照明光学系を介してマスクを照明し、投影光学系を介してマスクのパターンの像を基板上に投影する。照明光学系は、光源からの光でオプティカルインテグレータを照明し、照明光学系の瞳面に相当するオプティカルインテグレータの射出面において2次光源を生成する。2次光源は、所定の形状及び所定の大きさを有する発光領域で形成される。また、2次光源を形成する発光領域は、マスクの各点を照明する光の角度分布に対応する。なお、露光装置には、マスクを必要としないマスクレス露光装置もある。
【0003】
露光装置においては、微細なパターンに対する転写性能を向上させる技術として、超解像技術(RET:Resolution Enhancement Techniques)が存在する。RETの1つとして、マスクの各点を照明する光の角度分布を最適化する変形照明が知られている。
【0004】
特許文献1には、変形照明として、内側の同心円部の発光領域を用いる第1露光工程における焦点位置と、外側の同心円部の発光領域を用いる第2露光工程における焦点位置とを異なる位置にする技術が提案されている。特許文献2には、複数の方向のパターン間の線幅差(パターンの方向差による線幅不均一性)を小さくするために、像コントラストが相対的に低い方向のパターンの結像に寄与する方向に存在する発光領域の波長を短波長側へシフトさせる技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2000-252199号公報
【文献】特開2018-54992号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に開示された技術は、RETの1つである変形照明を用いて、孤立パターンとラインアンドスペース(LS)パターンとが混在するパターンの転写性能を向上させることができる。しかしながら、特許文献1に開示された技術では、広帯域の照明光(ブロードバンド照明光)に含まれる複数の波長域に対して、それぞれ適した変形照明を行うことは考慮されていない。従って、ブロードバンド照明光を用いた場合には、微細なパターンに対する転写性能を十分に向上させる効果を得ることができない。
【0007】
特許文献2に開示された技術は、ブロードバンド照明光を用いているが、パターンの方向差による線幅不均一性を解決する技術であり、微細なパターンに対する転写性能を向上させる技術、即ち、RETではない。微細なパターンに対する転写性能を向上させる効果を得るためには、パターンの方向差に対応した発光領域の方向差が必須となる。特許文献2に開示された技術は、RETの1つを提案する本発明とは解決する課題が異なる別の技術である。
【0008】
本発明は、このような従来技術の課題に鑑みてなされ、基板にパターンを転写する転写性能を向上させるのに有利な露光装置を提供することを例示的目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明の一側面としての露光装置は、光源からの光でマスクを変形照明する照明光学系と、前記マスクのパターンの像を基板に投影する投影光学系と、を有し、前記照明光学系の瞳面には、輪帯の第1強度分布及び前記第1強度分布より外側に形成される輪帯の第2強度分布を形成する波長フィルタが設けられ、前記波長フィルタは、前記第2強度分布を形成する光の波長域における最長波長が、前記第1強度分布を形成する光の波長域における最長波長よりも長くなるように設けられることを特徴とする。
【0010】
本発明の更なる目的又はその他の側面は、以下、添付図面を参照して説明される実施形態によって明らかにされるであろう。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、例えば、基板にパターンを転写する転写性能を向上させるのに有利な露光装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の一側面としての露光装置の構成を示す概略図である。
【
図2】照明光学系の構成を説明するための図である。
【
図5】第1実施形態における変形照明を説明するための図である。
【
図6】第1実施形態における変形照明を説明するための図である。
【
図7】第1実施形態における変形照明を説明するための図である。
【
図8】第1実施形態の変形照明による微細なパターンに対する転写性能を向上させる効果を説明するための図である。
【
図9】第1実施形態における変形照明を説明するための図である。
【
図10】第1実施形態における変形照明を説明するための図である。
【
図11】光源及び照明光学系の構成を説明するための図である。
【
図12】露光方法を説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、添付図面を参照して、本発明の好適な実施の形態について説明する。なお、各図において、同一の部材については同一の参照番号を付し、重複する説明は省略する。
【0014】
図1は、本発明の一側面としての露光装置100の構成を示す概略図である。露光装置100は、複数の波長域を含む光を用いて基板を露光して、基板にパターンを転写するリソグラフィ装置である。露光装置100は、フラットパネルディスプレイ、液晶表示素子、半導体素子、MEMSなどの製造に用いられ、特に、フラットパネルディスプレイ露光装置として好適である。露光装置100は、光源からの光で被照明面であるマスク(原版)9を照明する照明光学系10と、マスク9に形成されたパターンの像をマスク9と光学的に共役な位置に配置された基板12に投影する投影光学系11と、ステージ38とを有する。
【0015】
投影光学系11は、本実施形態では、ミラー32、34及び36を含み、ミラー32、34、36、34、32の順に光を反射する反射光学系であって、マスク9のパターンの像を等倍で基板12に投影する。投影光学系11は、光源からの光の色収差が屈折光学系よりも小さくなる反射光学系であるため、複数の波長域を含む広帯域の光(ブロードバンド照明光)を用いる場合に好適である。ステージ38は、基板12を保持して移動可能なステージである。
【0016】
<第1実施形態>
図2は、本実施形態における照明光学系10の構成を説明するための図である。但し、
図2では、投影光学系11を簡略化して図示している。照明光学系10は、
図2に示すように、集光ミラー2と、コンデンサレンズ5と、フライアイレンズ7と、コンデンサレンズ8と、開口絞り61とを含む。なお、コンデンサレンズ5からマスク9までの光路には、光の断面が所定の形状及び所定の大きさの光となるように、光源1からの光を整形する光学系(不図示)が配置されている。
【0017】
光源1は、広帯域の光(複数の波長の光が混在する光)を射出する光源である。光源1は、本実施形態では、紫外光を射出する水銀ランプを含み、複数のピーク波長の輝線(i線(365nm)、g線(405nm)、h線(436nm))が混在する光を射出する。光源1は、集光ミラー2の第1焦点3の近傍に発光部を含み、集光ミラー2は、光源1から射出された光を第2焦点4に集光する。
【0018】
コンデンサレンズ5は、第1焦点4に集光された光を平行光に整形する。コンデンサレンズ5で整形された光は、フライアイレンズ7の入射面7aに入射する。フライアイレンズ7は、複数の光学素子、具体的には、複数の微小なレンズで構成されたオプティカルインテグレータである。フライアイレンズ7は、入射面7a(光入射面)に入射した光から2次光源を射出面7b(光射出面)に形成する。フライアイレンズ7から射出された光は、複数のコンデンサレンズ8を介して、マスク9を重畳的に照明する。
【0019】
ステージ38には、計測部(不図示)が配置されている。かかる計測部は、フライアイレンズ7の射出面7bに形成される2次光源の形状や光強度を計測可能なセンサ、例えば、CCDセンサを含む。
【0020】
超解像技術(RET)の1つである輪帯照明(輪帯形状の分布)や四重極照明などの変形照明(斜入射照明)は、解像度の向上に有効である。所定の発光領域(強度分布)を有する変形照明は、照明光学系10の瞳面に相当するフライアイレンズ7(オプティカルインテグレータ)の射出面7bに配置された開口絞り61によって実現可能である。
【0021】
ここで、マスク9のパターンのピッチ(パターンの繰り返しの周期)をP、かかるマスク9を照明する光の波長(露光波長)をλ、投影光学系11の開口数をNAとする。この場合、以下の式(1)によって規定される照明角度σcを含む発光領域Iを含む変形照明でマスク9を照明することで、デフォーカスに伴う像コントラストの低下を抑制することができる。
【0022】
【0023】
式(1)において、照明角度σcは、照明光学系10の瞳面に設定される瞳座標で表した場合、原点からの距離(瞳半径)に相当する。
【0024】
従来の変形照明では、例えば、半導体露光装置の場合、光源から射出される光のスペクトルが狭いため、波長λは単一の値として用いられている。一方、フラットパネルディスプレイ露光装置では、光源から射出される光のスペクトルが広いブロードバンド照明を用いている。しかしながら、従来技術では、フラットパネルディスプレイ露光装置であっても、半導体露光装置と同様に、変形照明の発光領域を、単一の波長λ(例えば、強度が最も大きな波長や強度の重み付けをした重心波長)に対して定めている。
【0025】
本実施形態では、ブロードバンド照明に含まれる異なる第1波長域λ1及び第2波長域λ2に対して、各波長域に適した異なる第1発光領域I1及び第2発光領域I2を用いることで、微細なパターンの転写性能を向上させる。換言すれば、本実施形態は、第1発光領域I1及び第2発光領域I2のそれぞれに対して、互いに異なる第1波長域λ1及び第2波長域λ2の光が照明光として用いられる点で従来技術とは異なる。
【0026】
従来の変形照明の手法として知られる狭輪帯に対しては、本実施形態は、照度の低下を抑制して、生産性の低下を抑制する効果がある。また、本実施形態は、狭輪帯に比べて広い輪帯(幅)を用いるため、フライアイレンズ7で形成される照明強度の不均一性に伴う照度むらが低減される。本実施形態は、輪帯幅が狭い狭輪帯照明と比べて、特定のピッチP以外のピッチのパターンに対しても転写性能を向上させることができる。
【0027】
本実施形態では、従来の短波長化による解像力の向上に対しては、長波長の光を完全に遮光せず、特定の発光領域では長波長を用いるため、焦点深度(DOF:Depth of Focus)が維持される。更に、本実施形態では、長波長の光を完全に遮光しないため、照度の低下(生産性の低下)を抑制することができる。
【0028】
<実施例1>
図3及び
図4を参照して、比較例として、従来の変形照明について説明する。
図3は、式(1)に示す照明角度σ
cをプロットしたグラフを示している。
図3において、横線で示した発光領域I0は、従来の変形照明、具体的には、内σが0.45、外σが0.90の輪帯照明を示している。露光波長は、波長域λ0で示すように、335nm以上475nm以下であり、水銀ランプのi線、g線及びh線のスペクトルに対応するブロードバンド照明である。発光領域I0は、波長域λ0の照明角度σ
cを含み、かかる変形照明は、上述したように、デフォーカスに伴う像コントラストの低下を抑制する効果がある。
【0029】
図4は、
図3に示す従来の変形照明を照明光学系の瞳座標で表した図である。
図4に示すように、従来の変形照明は、内σが0.45、外σが0.90の輪帯照明であり、露光波長は、335nm以上475nm以下である。
【0030】
以下、本実施形態における変形照明について説明する。
図5は、式(1)に示す照明角度σ
cをプロットしたグラフを示している。ブロードバンド照明に含まれる互いに異なる第1波長域λ1及び第2波長域λ2に対して、それぞれ異なる第1発光領域I1及び第2発光領域I2を用いる。なお、第1発光領域I1と第2発光領域I2とは、照明光学系10の瞳面における瞳半径によって区別される。
【0031】
第1波長域λ1は、335nm以上395nm以下の波長域であり、光源1である水銀ランプのi線のスペクトルに対応する波長域である。第1波長域λ1の光を含む第1発光領域I1は、内σが0.45、外σが0.90の輪帯照明(輪帯形状の分布)である。このように、第1発光領域I1は、少なくとも第1波長域λ1の光を含み、第1波長域λ1の光と第2波長域λ2の光との強度比が第1強度比となる第1強度分布である。第1発光領域I1は、第1波長域λ1の照明角度σcを含み、かかる変形照明は、上述したように、デフォーカスに伴う像コントラストの低下を抑制する効果がある。
【0032】
第2波長域λ2は、395nm以上475nm以下の波長域であり、光源1である水銀ランプのg線及びh線のスペクトルに対応する波長域である。第2波長域λ2の光を含む第2発光領域I2は、内σが0.70、外σが0.90の輪帯照明(輪帯形状の分布)である。このように、第2発光領域I2は、少なくとも第2波長域λ2の光を含み、第1波長域λ1の光と第2波長域λ2の光との強度比が第1強度比とは異なる第2強度比となる第2強度分布である。第2発光領域I2は、第2波長域λ2の一部の波長域に対する照明角度σcを含み、かかる変形照明は、上述したように、デフォーカスに伴う像コントラストの低下を抑制する効果がある。
【0033】
このように、本実施形態の変形照明は、第1発光領域I1及び第2発光領域I2を含み、第1発光領域I1と第2発光領域I2とは、照明光学系10の瞳面における径の大きさが異なる。また、本実施形態の変形照明は、内σが0.45、外σが0.80のi線、g線及びh線に対応する波長域の輪帯照明において、
図5に非発光領域Dとして示す内σが0.45、外σが0.70のg線及びh線に対応する波長域をカットしている。非発光領域Dは、照明光として用いられない領域である。非発光領域Dは、照明角度σ
cと異なる領域であることが好ましい。但し、非発光領域Dは、照明角度σ
cを含んではいけないわけではなく、波長域内の一部の波長で照明角度σ
cを含んでいてもよい。非発光領域Dにおける波長域のカットは、照明光学系10に波長フィルタを設ければよい。例えば、
図2に示すように、複数の波長域のうち特定の波長域の光を透過又は遮断して第1発光領域I1及び第2発光領域I2を形成する波長ファイル63を、照明光学系10の瞳面の近傍に配置すればよい。
【0034】
図5に示す本実施形態の変形照明は、
図6に示す変形照明のように表すことも可能である。
図6に示す変形照明について説明する。第1波長域λ1は、335nm以上395nm以下の波長域であり、光源1である水銀ランプのi線のスペクトルに対応する波長域である。第1波長域λ1の光を含む第1発光領域I1は、内σが0.45、外σが0.70の輪帯照明である。第2波長域λ2は、335nm以上475nm以下の波長域であり、光源1である水銀ランプのi線、g線及びh線のスペクトルに対応する波長域である。第2波長域λ2の光を含む第2発光領域I2は、内σが0.70、外σが0.90の輪帯照明である。このように、複数の波長域の分割は、第1波長域λ1と第2波長域λ2の両方に含まれる波長が波長域内に存在してもよい。換言すれば、第1波長域λ1と第2波長域λ2とは、その一部の波長域が重複していてもよい。
【0035】
図7は、
図5や
図6に示す本実施形態の変形照明を照明光学系の瞳座標で表した図である。
図7を参照するに、斜線で示す輪帯の内側(内σが0.45、外σが0.70)の波長域は、335nm以上395nm以下であり、i線に対応し、g線及びh線はカットされている。黒色で示す輪帯の外側(内σが0.45、外σが0.90)の波長域は、335nm以上475nm以下であり、i線、g線及びh線に対応する。
図7に示すように、本実施形態では、第1発光領域I1(第1強度分布)と第2発光領域I2(第2強度分布)とを含む変形照明(強度分布)を、かかる変形照明が回転対称となるように、照明光学系10の瞳面に形成する。
【0036】
図8を参照して、本実施形態の変形照明による微細なパターンに対する転写性能を向上させる効果について説明する。
図8は、線幅が1.5μm、ピッチ(周期)が3μmのラインアンドスペース(LS)パターンに対する従来技術(
図3)と本実施形態の実施例1(
図7)との転写性能の比較を示す図である。投影光学系の開口数(NA)は、0.10である。LSパターンは、7本のラインを含み、中央のラインを評価している。DOFは、中央のラインの線幅が-10%となるデフォーカスで評価している。
【0037】
図8に示すように、本実施形態の実施例1では、従来技術と比較して、像コントラストが0.53から0.56に向上し、且つ、レジスト像のDOFが47.5μmから70.0μmに向上している。また、本実施形態の実施例1では、従来技術と比較して、レジスト像の側壁角度(side wall angle)が69.4度から70.9度に向上している。なお、
図8には示していないが、像コントラストの向上に伴いMEEF(Mask Error Enhancement Factor)も向上する。これらの結果は、本実施形態のように、発光領域ごとに異なる波長域の光を用いることで、微細なパターンに対応する転写性能を向上させることができることを示している。なお、本実施形態の実施例1では、輪帯の内側(内σが0.45、外σが0.70)において、g線及びh線を用いていないため、照度は、従来技術の照度の74%となる。
【0038】
詳細には、本実施形態の実施例1において、DOFが大きく向上したことは、σが0.70以上の輪帯を用いた効果が含まれる。σが0.70以上の輪帯における光は、LSパターンの中央のラインの線幅をデフォーカスに伴って減少させる効果を有する。従って、デフォーカスによるLSパターンの線幅の増大が、σが0.70以上の輪帯における光で抑制されるため、DOFを大きく向上させることができる。このように、σが大きな発光領域を用いることで、LSパターンのDOFを向上させることが可能である。
【0039】
<実施例2>
図9を参照して、本実施形態の実施例2における変形照明について説明する。
図9は、式(1)に示す照明角度σ
cをプロットしたグラフを示している。
図9に示すように、実施例2の変形照明には、長波長域の内σに相当する非発光領域D1に加えて、短波長域の外σに相当する非発光領域D2が存在する。非発光領域D1及びD2は、照明角度σ
cと異なる領域である。
【0040】
第1波長域λ1は、335nm以上420nm以下の波長域である。第1波長域λ1の光を含む第1発光領域I1は、内σが0.45、外σが0.70の輪帯照明である。第2長域λ2は、395nm以上475nm以下の波長域である。第2波長域λ2の光を含む第2発光領域I2は、内σが0.70、外σが0.90の輪帯照明である。395nm以上420nm以下の波長域の光は、第1発光領域I1と第2発光領域I2の両方に重複して含まれる。非発光領域D2に示すように、外σの短波長域をカットすることで、LSパターンのピッチ方向の端に位置するラインの転写性能を向上させる効果を得ることができる。
【0041】
図9に示す変形照明を、
図7と同様に、照明光学系の瞳座標で表した場合を考える。この場合、
図7において、斜線で示す輪帯の内側(内σが0.45、外σが0.70)の波長域は、335nm以上420nm以下であり、黒色で示す輪帯の外側(内σが0.45、外σが0.90)の波長域は、395nm以上475nm以下である。
【0042】
<実施例3>
マスク9のパターン(又は転写パターン)が明確なピッチPを有していない場合には、発光領域が含むべき領域を、式(1)から求めることはできない。このような場合には、回折光強度の大きな照明角度を含むような発光領域とするとよい。具体的には、第1波長域λ1の光を含む第1発光領域I1は、以下の式(2)に示す第1波長域λ1に対するマスクパターンの回折光強度(強度分布)Dが大きい領域を含むとよい。
【0043】
【0044】
式(2)において、maskは、マスク9のパターンを表し、Fは、フーリエ変換を表している。
【0045】
マスク9のパターンが明確なピッチPを有する場合における式(1)は、マスク9のパターンの回折光強度Dが大きい領域に対応する。式(2)は、式(1)をより一般的に表した式である。このように、第1波長域λ1に対するマスクパターンの回折光の強度分布において基準強度よりも大きい領域に対応する照明光学系10の瞳面の領域に第1発光領域I1が形成されるようにすればよい。式(2)から、実施例4で説明するように、
図10に示すような様々な変形照明が得られる。
【0046】
<実施例4>
図10(a)乃至
図10(g)は、式(2)から得られる本実施形態における様々な変形照明を示す図である。
図10(a)乃至
図10(g)において、黒色、斜線及び横線で示す発光領域は、それぞれ異なる波長域とする。本実施形態におけるブロードバンド照明は、波長範囲を限定しない。変形照明に用いる波長域は、i線よりも短い波長を含んでもよいし、g線よりも長い波長を含んでもよい。
【0047】
図10(a)は、第1波長域λ1の光を含む第1発光領域I1と、第2波長域λ2の光を含む第2発光領域I2とが、内側と外側に分かれていない場合を示している。第1発光領域I1は内側と外側に存在し、第2発光領域I2は第1発光領域I1に挟まれるかたちで存在している。
図10(b)は、波長域を、第1波長域λ1、第2波長域λ2及び第3波長域λ3の3つに分け、各波長域に対応する3つの発光領域、即ち、第1発光領域I1、第2発光領域I2及び第3発光領域I3がある場合を示している。なお、波長域及び発光領域の分割数は、4つ以上であってもよい。これに加えて、例えば、第2発光領域I2が非発光部であってもよい(不図示)。換言すれば、発光領域の内部に非発光領域が存在してもよい。
図10(c)は、主に、ホールパターンに用いられる変形照明であって、小σ照明の内側と外側で光の波長域を変えた場合を示している。例えば、外側の第2発光領域I2において、長波長域をカットすることで、位相シフトマスクを用いた場合に、サイドローブによる膜減りを抑制することができる。
図10(d)は、小σ照明と輪帯照明とを組み合わせた場合を示している。
図10(e)は、輪帯照明に対して、特定のパターン方向に対応する角度成分を遮光した場合を示している。
図10(e)に示すように、方向差があってもよい。
図10(f)は、第1発光領域I1と第2発光領域I2とが共通の内σと外σとを有し、パターン方向に対応して区分けされた場合を示している。
図10(g)は、第1発光領域I1及び第2発光領域I2を含む変形照明が90度回転対称(4回回転対称)ではなく、180度回転対称(2回回転対称)である場合を示している。
図10(g)に示すように、マスク9のパターンの回折光強度が大きくなる領域は、90度回転対称ではない場合もある。これらに加えて、偏光照明に対して、本実施形態を適用することも可能である。
【0048】
<実施例5>
図11(a)及び
図11(b)を参照して、上述した変形照明を実現可能な光源1及び照明光学系10の構成について説明する。
図11(a)は、光源1を第1光源1A及び第2光源1Bで構成した場合を示している。第1光源1A及び第2光源1Bは、互いに波長が異なる光を射出する。また、第1光源1A及び第2光源1Bのそれぞれから射出される光は、単一波長の光や狭い波長域の光であってもよいし、ブロードバンド光であってもよい。単一波長の光や狭い波長域の光を射出する光源であっても、複数の光源を用いて、互いに異なる波長域の光を実現する場合には、ブロードバンド照明とする。本実施形態における変形照明は、第1発光領域I1及び第2発光領域I2を含み、第1発光領域I1における第1波長域λ1と第2発光領域I2における第2波長域λ2とは異なる。かかる変形照明は、第1光源1Aから射出される光と、第2光源1Bから射出される光とを合成することで形成することができる。第1光源1Aと第2光源1Bとで互いに異なる発光領域を形成した後で、それらを照明光学系10で合成してもよい。また、第1光源1Aと第2光源1Bとで同一の発光領域を形成し、波長フィルタで第1発光領域I1及び第2発光領域I2における波長域を変えてもよい。第1光源1A及び第2光源1Bは、LED光源であってもよい。また、光源1を構成する光源数は、2つに限定されるものではなく、3つ以上であってもよい。
【0049】
図11(b)は、光源1を3つのブロードバンド光源1Cで構成した場合を示している。ブロードバンド光源ICは、波長域が広い光を射出する。なお、3つのブロードバンド光源1Cから射出される光の波長域は同じである。この場合、例えば、3つのブロードバンド光源1Cのそれぞれに対して、第1波長フィルタ63A、第2波長フィルタ63B及び第3波長フィルタ63Cを設けて、光源別に互いに異なる波長域を含む発光領域を形成する。また、
図11(b)に示すように、第1波長フィルタ63A、第2波長フィルタ63B及び第3波長フィルタ63Cを用いずに、第4波長フィルタ65を設けてもよい。この場合、3つのブロードバンド光源1Cからの光を合成した後に、第4波長フィルタ65で互いに異なる波長域を含む発光領域を形成する。更に、第1波長フィルタ63A、第2波長フィルタ63B及び第3波長フィルタ63Cと、第4波長フィルタ65とを併用してもよい。これらの波長フィルタは、回転ターレットに設けられていてもよいし、シフト駆動するラスタータイプの機構に設けられていてもよい。これにより、波長フィルタを用いる場合と波長フィルタを用いない場合との切り替えが容易となる。
図11(b)には、光源1を構成する光源数が3つである場合が示されているが、かかる光源数は限定されるものではなく、例えば、1つであってもよい。本実施形態は、波長域の分割や発光領域の形成に関する手法を限定するものではない。
【0050】
波長フィルタは、特定の波長に対する透過率を小さくすればよく、特定の波長に対する透過率を完全にゼロにする(遮光する)必要はない。また、発光領域の境界部で波長域が完全に分割される必要はない。更に、波長フィルタによる波長選択に限らず、ホログラム素子を用いて光量(照度)の低下を抑制してもよい。
【0051】
<第2実施形態>
上述した変形照明をマスクレス露光装置に適用する場合について説明する。マスクレス露光装置は、マスク9の代わりに、基板12に転写すべきパターンを形成するデバイス、例えば、デジタルミラーデバイス(DMD)を有する。DMDは、マスク9と同様に、投影光学系11の物体面に配置される。DMDは、2次元的に配列された複数のミラー素子(反射面)を含み、ミラー素子によって、光源1から射出された光の反射方向を変更することで、基板12に転写すべきパターンを形成する。
【0052】
このようなマスクレス露光装置においても、基板12に転写すべきパターンが明確なピッチPを有している場合には、発光領域が含むべき領域を、式(1)から求めることができる。従って、実施例1や実施例2で説明した変形照明を、マスクレス露光装置にも用いることができる。
【0053】
一方、基板12に転写すべきパターンが明確なピッチPを有していない場合には、発光領域が含むべき領域を、式(1)から求めることはできない。このような場合には、基板12に転写すべきパターンの回折光強度が大きい照明角度を含むように発光領域を設定するとよい。具体的には、第1波長域λ1の光を含む第1発光領域I1は、以下の式(3)に示す第1波長域λ1に対する基板12に転写すべきパターンの回折光強度Dpが基準強度よりも大きい領域を含むとよい。ここで、基準強度とは、例えば、回折光強度Dpの最大値の0.6倍以上0.9倍以下の強度である。
【0054】
【0055】
式(3)において、patternは、基板12に転写すべきパターンを表し、Fは、フーリエ変換を表している。式(3)から、実施例4で説明したように、
図10に示すような様々な変形照明が得られる。このように、上述した変形照明は、マスクの有無に関わらず、露光装置に適用可能である。
【0056】
<第3実施形態>
図12を参照して、露光装置100における基板12を露光する処理(露光方法)について説明する。本実施形態では、露光装置100を例に説明するが、マスクレス露光装置に適用することも可能である。
【0057】
S121では、光源1から射出される光(ブロードバンド光)を複数の波長域、本実施形態では、第1波長域λ1及び第2波長域λ2に分割する。波長域は、光源1から射出される光のスペクトル分布や式(1)、式(2)、式(3)に基づいて分割する。但し、本実施形態は、波長域を分割する手法に関して、何らかの限定を加えるものではない。
【0058】
S123では、S121で分割した第1波長域λ1に含まれる波長でマスク9のパターン(マスクパターン)の第1回折光強度分布D1を算出する。同様に、S125では、S121で分割した第2波長域λ2に含まれる波長でマスク9のパターン(マスクパターン)の第2回折光強度分布D2を算出する。第1波長域λ1(第2波長域λ2)に含まれる波長は、第1波長域λ1(第2波長域λ2)を代表する単一の波長であってもよいし、第1波長域λ1(第2波長域λ2)に含まれる複数の波長であってもよい。複数の波長に対して回折光強度分布を求める場合には、各波長に対する回折光強度分布に対し、光源1から射出される光のスペクトル強度分布を考慮した重み付け和を求めることで、最終的な回折光強度分布(D1、D2)とする。
【0059】
S127では、第1回折強度分布D1から第1発光領域I1を決定する。同様に、S129では、第2回折強度分布D2から第1発光領域I2を決定する。第1発光領域I1は、第1波長域λ1の発光領域に対応し、第2発光領域I2は、第2波長域λ2の発光領域に対応する。本実施形態は、発光領域を決定する手法に関して、何らかの限定を加えるものではない。
【0060】
S131では、S127で決定された第1波長域λ1に対応する第1発光領域I1及び第2波長域λ2に対応する第2発光領域I2を含む変形照明を照明光学系10で生成し、かかる変形照明でマスク9を照明する。
【0061】
S133では、S131で照明されたマスク9のパターンの像を、投影光学系11を介して、基板12に投影する。これにより、マスク9のパターンが基板12に転写される。
【0062】
<第4実施形態>
本発明の実施形態における物品の製造方法は、例えば、フラットパネルディスプレイ、液晶表示素子、半導体素子、MEMSなどの物品を製造するのに好適である。かかる製造方法は、上述した露光装置100を用いて感光剤が塗布された基板を露光する工程と、露光された感光剤を現像する工程とを含む。また、現像された感光剤のパターンをマスクとして基板に対してエッチング工程やイオン注入工程などを行い、基板上に回路パターンが形成される。これらの露光、現像、エッチングなどの工程を繰り返して、基板上に複数の層からなる回路パターンを形成する。後工程で、回路パターンが形成された基板に対してダイシング(加工)を行い、チップのマウンティング、ボンディング、検査工程を行う。また、かかる製造方法は、他の周知の工程(酸化、成膜、蒸着、ドーピング、平坦化、レジスト剥離など)を含みうる。本実施形態における物品の製造方法は、従来に比べて、物品の性能、品質、生産性及び生産コストの少なくとも1つにおいて有利である。
【0063】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれらの実施形態に限定されないことはいうまでもなく、その要旨の範囲内で種々の変形及び変更が可能である。例えば、本発明は、拡大系や縮小系の非等倍系の投影光学系や多重露光やLED光源を用いた露光装置にも適用することが可能である。
【符号の説明】
【0064】
100:露光装置 9:マスク 10:照明光学系 11:投影光学系 12:基板