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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-19
(45)【発行日】2024-03-28
(54)【発明の名称】加工蜂蜜の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 21/25 20160101AFI20240321BHJP
【FI】
A23L21/25
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2023579007
(86)(22)【出願日】2023-08-29
(86)【国際出願番号】 JP2023031126
【審査請求日】2023-12-21
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】398001218
【氏名又は名称】水谷養蜂園株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】IBC一番町弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】水谷 優里
【審査官】厚田 一拓
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-201369(JP,A)
【文献】特表2017-519724(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第111772143(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 2/00 - 35/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/FSTA/AGRICOLA(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
加工蜂蜜の製造方法であって、
蜂蜜を70℃超120℃以下となるように加熱しながら1時間以上4時間以下混練することで加熱済蜂蜜を生成する加熱工程と、
前記加熱済蜂蜜を70℃以下となるように冷却する冷却工程と、
前記冷却工程で冷却された前記加熱済蜂蜜、及び加熱処理されていない未加熱蜂蜜を混合する混合工程と、を含み、
前記加工蜂蜜の糖度(Brix)が72.5%超80%以下である、製造方法。
【請求項2】
前記加熱工程では、前記蜂蜜と、所定の水分とを、70℃超120℃以下となるように加熱しながら1時間以上4時間以下混練することで加熱済蜂蜜を生成する、請求項1に記載の加工蜂蜜の製造方法。
【請求項3】
前記加熱工程において、前記蜂蜜と、前記所定の水分と、の質量比(蜂蜜の質量/水分の質量)が、0.25~10である、請求項2に記載の加工蜂蜜の製造方法。
【請求項4】
前記加熱済蜂蜜のBrixが71.0%以上77%以下である、請求項1又は2に記載の加工蜂蜜の製造方法。
【請求項5】
前記蜂蜜と、前記未加熱蜂蜜と、が純粋蜂蜜である、請求項1又は2に記載の加工蜂蜜の製造方法。
【請求項6】
前記混合工程において混合する、前記加熱済蜂蜜と、前記未加熱蜂蜜と、の質量比(加熱済蜂蜜の質量/未加熱蜂蜜の質量)が0.25~10である、請求項1又は2に記載の加工蜂蜜の製造方法。
【請求項7】
前記加工蜂蜜の糖度(Brix)が73%以上76%以下である、請求項1又は2に記載の加工蜂蜜の製造方法。
【請求項8】
砂糖を添加する工程を有さない、請求項1又は2に記載の加工蜂蜜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加工蜂蜜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
蜂蜜は、栄養成分が豊富な素材であり、さらに殺菌効果も高いことから、食品や飲料、医薬品などの幅広い分野で用いられている。例えば、特開2018-174902号公報には、濃縮した蜂蜜に所定の油脂を含ませることにより固形化した蜂蜜加工食品が開示されている。また、その高い殺菌効果から、蜂蜜は、長期間の保存が可能であり、この点においても食品等に用いられる材料として優れている。
【0003】
しかしながら、蜂蜜は、粘度が非常に高く、水(特に常温以下の水)に溶けにくいという問題があった。このような問題を解決するために、蜂蜜の代替品として、蜂蜜と他の成分を混合したコーディアルシロップ(蜂蜜シロップ)がある。当該コーディアルシロップは、蜂蜜に対し、水や水あめ、コーンスターチなど種々の成分を加えることで、蜂蜜の風味をある程度保ちながらも、水への溶解性を高めている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、コーディアルシロップは、水に溶けやすいものの、保存性に劣るという問題があった。さらにコーディアルシロップは、上述した通り、他の成分を含むことから、蜂蜜特有の風味も失われやすい傾向にある。
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、水に溶けやすく、さらに保存性が高く、風味もよい加工蜂蜜を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記の問題を解決すべく、鋭意研究を行った。その結果、蜂蜜を所定の温度で所定の時間加熱し、当該加熱済みの蜂蜜を冷却した後に、未加熱の蜂蜜と混合することにより、上記課題が解決されることを見出し、本発明の完成に至った。
【0007】
すなわち、上記諸目的は、下記の構成を有する本発明によって達成でき、本発明は、下記態様及び形態を包含する。
【0008】
本発明の一態様は、
1.加工蜂蜜の製造方法であって、蜂蜜を70℃超120℃以下となるように加熱しながら1時間以上4時間以下混練することで加熱済蜂蜜を生成する加熱工程と、前記加熱済蜂蜜を70℃以下となるように冷却する冷却工程と、前記冷却工程で冷却された前記加熱済蜂蜜、及び加熱処理されていない未加熱蜂蜜を混合する混合工程と、を含み、前記加工蜂蜜の糖度(Brix)が72.5%超80%以下である、製造方法である。
【0009】
2.上記1.に記載の加工蜂蜜の製造方法において、前記加熱工程では、前記蜂蜜と、所定の水分とを、70℃超120℃以下となるように加熱しながら1時間以上4時間以下混練することで加熱済蜂蜜を生成することが好ましい。
【0010】
3.上記2.に記載の加工蜂蜜の製造方法において、前記加熱工程において、前記蜂蜜と、前記所定の水分と、の質量比(蜂蜜の質量/水分の質量)が、0.25~10であることが好ましい。
【0011】
4.上記1.~3.のいずれかに記載の加工蜂蜜の製造方法において、前記加熱済蜂蜜のBrixが71.0%以上77%以下であることが好ましい。
【0012】
5.上記1.~4.のいずれかに記載の加工蜂蜜の製造方法において、前記蜂蜜と、前記未加熱蜂蜜と、が純粋蜂蜜であることが好ましい。
【0013】
6.上記1.~5.のいずれかに記載の加工蜂蜜の製造方法において、前記混合工程において混合する、前記加熱済蜂蜜と、前記未加熱蜂蜜と、の質量比(加熱済蜂蜜の質量/未加熱蜂蜜の質量)が0.25~10であることが好ましい。
【0014】
7.上記1.~6.のいずれかに記載の加工蜂蜜の製造方法において、前記加工蜂蜜の糖度(Brix)が73%以上76%以下であることが好ましい。
【0015】
8.上記1.~7.のいずれかに記載の加工蜂蜜の製造方法において、砂糖を添加する工程を有さないことが好ましい。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は、加工蜂蜜の製造方法であって、蜂蜜を70℃超120℃以下となるように加熱しながら1時間以上4時間以下混練することで加熱済蜂蜜を生成する加熱工程と、加熱済蜂蜜を70℃以下となるように冷却する冷却工程と、冷却工程で冷却された加熱済蜂蜜、及び加熱処理されていない未加熱蜂蜜を混合する混合工程と、を含み、加工蜂蜜の糖度(Brix)が72.5%超80%以下である、製造方法である。上記の構成を有する本発明の一実施形態に係る加工蜂蜜の製造方法によれば、水に溶けやすく、さらに保存性が高く、風味もよい加工蜂蜜を製造することができる。
【0017】
以下、本発明の実施形態を説明する。なお、本発明は、以下の実施形態のみには限定されない。また、本明細書において、特記しない限り、操作及び物性等の測定は室温(20℃以上25℃以下)/相対湿度40%RH以上50%RH以下の条件で行う。
【0018】
また、本明細書の全体にわたり、単数形の表現は、特に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。従って、単数形の冠詞(例えば、英語の場合は「a」、「an」、「the」等)は、特に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。また、本明細書において使用される用語は、特に言及しない限り、当該分野で通常用いられる意味で用いられることが理解されるべきである。従って、他に定義されない限り、本明細書中で使用される全ての専門用語及び科学技術用語は、本発明の属する分野の当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。矛盾する場合、本明細書(定義を含めて)が優先する。本発明は、下記の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲内で種々改変することができる。また、本明細書において、「X~Y」は、その前後に記載される数値(X及びY)を下限値及び上限値として含む範囲を意味し、「X以上Y以下」を意味する。また、濃度「%」は、特に断りのない限りそれぞれ質量濃度「質量%」を表すものとし、比は特に断りのない限り質量比とする。
【0019】
[蜂蜜]
蜂蜜は、蜜蜂が、花から集めた花蜜を主原料として作りだし巣の中に貯蔵している天然の甘味物である。花の種類によって蜂蜜は、レンゲクローバー、アカシア、レモン、オレンジ、みかん、ラズベリー、さくらんぼ、ローズマリー、ヒマワリ、とち、菩提樹、りんご、ナタネ、ラベンダー、たんぽぽ、石楠花、そば、はぜ、もみの木等の種々の蜜蜂に分類されるが、本明細書においてはその種類は特に制限されることなく、いずれの蜂蜜をも使用することができる。
【0020】
ここで蜂蜜に含まれる水分量の上限は、蜂蜜全質量に対して、50質量%以下であることが好ましく、45質量%以下であることがより好ましく、40質量%以下であることがさらに好ましく、35%質量以下であることがさらにより好ましく、30質量%以下であることがさらにより好ましく、25%質量以下であることがさらにより好ましく、22質量%以下であることが特に好ましく、20質量%以下であることが最も好ましい。また、蜂蜜に含まれる水分量の下限は、特に制限されないが、蜂蜜全質量に対して、1質量%以上であることが好ましく、5質量%以上であることがより好ましく、10質量%以上であることがさらに好ましい。すなわち、蜂蜜に含まれる水分量は、蜂蜜全質量に対して、1質量%~50質量%、1質量%~45質量%、1質量%~40質量%、1質量%~35質量%、1質量%~30質量%、1質量%~25質量%、1質量%~22質量%、1質量%~20質量%、5質量%~50質量%、5質量%~45質量%、5質量%~40質量%、5質量%~35質量%、5質量%~30質量%、5質量%~25質量%、5質量%~22質量%、5質量%~20質量%、10質量%~50質量%、10質量%~45質量%、10質量%~40質量%、10質量%~35質量%、10質量%~30質量%、10質量%~25質量%、10質量%~22質量%、又は10質量%~20質量%であってもよい。
【0021】
蜂蜜おける果糖及びぶどう糖の含有量(両者の合計)の下限は、蜂蜜全質量に対して、40質量%以上であることが好ましく、45質量%以上であることがより好ましく、50質量%以上であることがさらに好ましく、55質量%以上であることが特に好ましく、60質量%以上であることが最も好ましい。蜂蜜に含まれる果糖及びぶどう糖含有量(両者の合計)の上限は、特に制限されないが、95質量%以下であることが好ましく、90質量%以下であることがより好ましい。すなわち、蜂蜜おける果糖及びぶどう糖の含有量(両者の合計)は、蜂蜜全質量に対して、40質量%~95質量%、45質量%~95質量%、50質量%~95質量%、55質量%~95質量%、60質量%~95質量%、40質量%~90質量%、45質量%~90質量%、50質量%~90質量%、55質量%~90質量%、又は60質量%~90質量%、であってもよい。
【0022】
蜂蜜におけるショ糖の含有量の上限は、蜂蜜全質量に対して、20質量%以下であることが好ましく、15質量%以下であることがより好ましく、10質量%以下であることがさらに好ましく、5質量%以下であることが特に好ましい。蜂蜜におけるショ糖の含有量の下限は、特に制限されないが、蜂蜜全質量に対して、0.5質量%以上であってもよく、1質量%以上であってもよい。すなわち、蜂蜜におけるショ糖の含有量は、蜂蜜全質量に対して、0.5質量%~20質量%、0.5質量%~15質量%、0.5質量%~10質量%、0.5質量%~5質量%、1質量%~20質量%、1質量%~15質量%、1質量%~10質量%、又は1質量%~5質量%であってもよい。
【0023】
蜂蜜における不溶性固形分の含有量は、蜂蜜全質量に対して、1質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以下であることがより好ましく、0.1質量%以下であることがさらに好ましい。蜂蜜における不溶性固形分の含有量の下限は、特に制限されない。
【0024】
ここで、蜂蜜おける「水分量」、「果糖及びぶどう糖の含有量(両者の合計)」、「ショ糖の含有量」は、日本国の全国はちみつ公正取引協議会指定「はちみつ組成基準の試験法」に記載の方法に準じて、測定することができる。また、「不溶性固形分」については、J.Assoc.Public Analysis(1992)28(4)189-193(MAFF Validated methods for the Analysis of Foodstuffs. No.V22. Water-Insoluble Solids in Honey.)に記載の方法に準じて、測定することができる。
【0025】
一実施形態における加工蜂蜜の製造方法に用いられる蜂蜜は、「はちみつ類の表示に関する公正競争規約」におけるはちみつ類の規定、及び蜂蜜の国際規格である「Codex規格」における蜂蜜の規定の少なくとも一方を満たすことが好ましい。
【0026】
本明細書において、蜂蜜の中でも、「はちみつ類の表示に関する公正競争規約」におけるはちみつ類の規定、及び蜂蜜の国際規格である「Codex規格」における蜂蜜の規定の少なくとも一方を満たすものを、純粋蜂蜜と呼ぶ。すなわち、一実施形態における加工蜂蜜の製造方法に用いられる蜂蜜は、純粋蜂蜜であることが好ましい。
【0027】
[はちみつ類の表示に関する公正競争規約におけるはちみつ類]
「はちみつ類の表示に関する公正競争規約(https://honeykoutori.or.jp/rule/)」において、はちみつ類(以下、蜂蜜類とも言う)は、はちみつ(蜂蜜)、甘露はちみつ(甘露蜂蜜)、巣はちみつ及び巣はちみつ入りはちみつを指すが、本明細書において、当該公正競争規約を満たす場合の純粋蜂蜜は、蜂蜜、甘露蜂蜜、及び蜂蜜と甘露蜂蜜の混合物のいずれかを意味する。
【0028】
「はちみつ類の表示に関する公正競争規約」において、蜂蜜は以下のように定義されている。
「みつばちが植物の花蜜、植物の分泌物又は同分泌物を吸った他の昆虫の排出物を集め、巣に貯え、熟成した天然の甘味物質であって、特定の性状(特有の香味)を有し、はちみつ類の表示に関する公正競争規約の別表に定める組成基準に適合したものである。」
また、「はちみつ類の表示に関する公正競争規約」において、甘露蜂蜜は、以下のように定義されている。
「みつばちが植物の分泌物又は同分泌物を吸った他の昆虫の排出物を採集し、巣房に貯え熟成した天然の甘味物質であって、別表に定める性状を有し、別表に定める組成基準に適合したものをいう。」
以下に、別表に定める組成基準の抜粋し、記載する。
(蜂蜜の組成基準)
・水分 20%以下
ただし、第4条第1項第3号に規定する国産蜂蜜にあっては22%以下とする。
・果糖及びぶどう糖含有量(両者の合計)
60g/100g以上
ただし、甘露蜂蜜又は甘露蜂蜜と蜂蜜との混合物の場合にあっては、45g/100g以上とする。
・しょ糖 5g/100g以下
ただし、次に掲げる採蜜源の蜂蜜にあっては、それぞれ定める基準によるものとする(以下の括弧内は学術名である。)。
(a) アルファルファ(ムラサキウマゴヤシ)、柑橘類、ニセアカシア(ハリエンジュ属ニセアカシア)、フレンチハニーサックル(すいかずら)、ヤマモガシ、レッドガム(ユーカリ・カマルドレンシス)、レザーウッド(ユークリフィア・リキダ)、エウクリフィア科ミリガニ
10g/100g以下
(b) ラベンダー(ラベンダー類)、ボリジ(むらさき科ボラゴ属)
15g/100g以下
・電気伝導度 0.8mS/cm以下
ただし、甘露蜂蜜又は甘露蜂蜜と蜂蜜との混合物の場合にあっては、0.8mS/cm以上とし、次に掲げる採蜜源の蜂蜜は電気伝導度の組成基準の適用除外とする。
〈適用除外対象〉
ストロベリーツリー(イチゴノキ)、ベルヒース(エリカ)、ユーカリ、菩提樹(シナノキ)、リングヘザー(カルーナ) 、マヌカ、ティーツリー(メラレウカ)、クリ
Hydroxymethylfurfural 5.9mg/100g以下
ただし、熱帯地域(南回帰線と北回帰線に挟まれた地域)若しくは熱帯地域と似た気候の地域を原料原産地とする蜂蜜又はこれらのブレンドの場合は、8.0mg/100g以下とする。
・遊離酸度 100gにつき1Nアルカリ5ml以下
・でん粉デキストリン 陰性反応
なお、上記の蜂蜜の組成基準における各成分は、前述した通り、日本国の全国はちみつ公正取引協議会指定「はちみつ組成基準の試験法」に基づき、測定することができる。
【0029】
また、蜂蜜の国際規格である蜂蜜の「Codex規格」にて、蜂蜜は以下のように規定されている。
【0030】
「植物の花蜜、植物の生組織上からの分泌物、又は植物の生組織上で植物の汁液を吸う昆虫が排出する物質からApismellifera種(セイヨウミツバチ)がつくりだす天然の甘味物質であって、ミツバチが集め、ミツバチが持つ特殊な物質による化合で変化させ、貯蔵し、脱水し、巣の中で熟成のためにおいておかれたもの」。なお、蜂蜜の「Codex規格」で定める品質規格値は下記の表1のように定められている。
【0031】
【表1】
【0032】
なお、上記の、蜂蜜の「Codex規格」で定める品質規格値における各成分の測定方法は特に制限されないが、「水分」、「果糖及びブドウ糖含有量(両者の合計)」、「ショ糖」及び「電気伝導度」については、日本国の全国はちみつ公正取引協議会指定「はちみつ組成基準の試験法」に準じて測定することができる。また、「不溶性固形分」については、前述した通り、J.Assoc.Public Analysis(1992)28(4)189-193(MAFF Validated methods for the Analysis of Foodstuffs. No.V22. Water-Insoluble Solids in Honey.)に記載の方法に準じて、測定することができる。
【0033】
[加工蜂蜜]
加工蜂蜜は、本発明の一実施形態に係る製造方法にて製造される、加工された蜂蜜である。当該加工蜂蜜の糖度(Brix)は、72.5%超80%以下である。
【0034】
ここで、加工蜂蜜の糖度(Brix)の下限は72.75%以上であることが好ましく、73%以上であることがより好ましい。加工蜂蜜の糖度(Brix)の下限が上記の値以上であることにより、加工蜂蜜の保存性がより向上する。
【0035】
また、加工蜂蜜の糖度(Brix)の上限は78%以下であることが好ましく、77.5%以下であることがより好ましく、77%以下であることがさらに好ましく、76.5%以下であることがさらにより好ましく、76%以下であることがさらにより好ましく、75.5%以下であることが特に好ましく、75%以下であることが最も好ましい。加工蜂蜜の糖度(Brix)の上限が上記の値以下であることにより、加工蜂蜜の水への溶解性がより向上する。
【0036】
すなわち、一実施形態に係る製造方法にて製造される加工蜂蜜の糖度(Brix)は、72.5%超78%以下であってもよく、72.5%超77.5%以下であってもよく、72.5%超77%以下であってもよく、72.5%超76.5%以下であってもよく、72.5%超76%以下であってもよく、72.5%超75.5%以下であってもよく、72.5%超75%以下であってもよく、72.75%以上80%以下であってもよく、72.75%以上78%以下であってもよく、72.75%以上77.5%以下であってもよく、72.75%以上77%以下であってもよく、72.75%以上76.5%以下であってもよく、72.75%以上76%以下であってもよく、72.75%以上75.5%以下であってもよく、72.75%以上75%以下であってもよく、73%以上80%以下であってもよく、73%以上78%以下であってもよく、73%以上77.5%以下であってもよく、73%以上77%以下であってもよく、73%以上76.5%以下であってもよく、73%以上76%以下であってもよく、73%以上75.5%以下であってもよく、73%以上75%以下であってもよい。
【0037】
[加工蜂蜜の製造方法]
一実施形態に係る加工蜂蜜の製造方法は、蜂蜜を70℃超120℃以下となるように加熱しながら1時間以上4時間以下混練することで加熱済蜂蜜を生成する加熱工程と、加熱済蜂蜜を70℃以下となるように冷却する冷却工程と、冷却工程で冷却された加熱済蜂蜜、及び加熱処理されていない未加熱蜂蜜を混合する混合工程と、を含むものであり、当該製造方法により製造された加工蜂蜜の糖度(Brix)は72.5%超80%以下である。当該製造方法によれば、水に溶けやすく、さらに保存性が高く、風味もよい加工蜂蜜を製造することができる。
【0038】
本明細書に係る製造方法によって、水に溶けやすく、さらに保存性が高く、風味もよい加工蜂蜜が得られる理由についての詳細は不明であるが、以下の通りであると推認される。
【0039】
一般的に、蜂蜜は水に溶けにくいが、その原因は、蜂蜜の主成分である糖分子(主にグルコースとフルクトース)の結晶構造間の相互作用に起因する。この糖分子の相互作用により、蜂蜜は高い粘度を有し、水に溶けにくいものとなる。
【0040】
一方、蜂蜜は、加熱することにより水に溶けやすくなるが、これは、糖分子が加熱によって分解され、糖分子間の相互作用が弱まり、粘度が低下し、水分子が蜂蜜中に浸透しやすくなるためである。本発明の製造方法においては、加熱工程にて所定の温度及び時間で加熱することで、上記のように水に溶けやすくなった加熱済蜂蜜を、未加熱蜂蜜と混合し、さらに所定の糖度(Brix)に調整することにより、水に溶けやすい加工蜂蜜が得られると推測される。
【0041】
また、蜂蜜は加熱すると風味や保存性が低下するが、本発明の製造方法においては、加熱済蜂蜜と、未加熱蜂蜜と、を混合することで、未加熱蜂蜜の作用により、蜂蜜本来の風味や保存性が維持された加工蜂蜜が得られると推測される。また、本発明の製造方法において、加工蜂蜜を所定の糖度(Brix)とすることも、保存性が維持された加工蜂蜜が得られる一因であると推測される。
【0042】
なお、上記機構は推測によるものであり、本発明は上記機構に何ら限定されるものではない。
【0043】
<加熱工程>
一実施形態に係る加工蜂蜜の製造方法における加熱工程は、蜂蜜を70℃超120℃以下となるように加熱しながら1時間以上4時間以下混練することで加熱済蜂蜜を生成する工程である。当該工程により、製造方法によって得られる加工蜂蜜が水に溶けやすいものとなる。ここで、加熱工程において、加熱され、混練される蜂蜜は、純粋蜂蜜であってもよい。
【0044】
一実施形態に係る加熱工程においては、蜂蜜と、所定の水分とを、70℃超120℃以下となるように加熱しながら1時間以上4時間以下混練することで加熱済蜂蜜を生成することが好ましい。蜂蜜と、所定の水分とを混練し加熱処理することにより、加熱済蜂蜜の糖度(Brix)を所望のものとすることができ、さらに加工蜂蜜をより水に溶けやすいものとすることができる。ここで、一実施形態に係る加熱工程において、所定の水分と共に加熱され、混練される蜂蜜は、純粋蜂蜜であってもよい。
【0045】
ここで、蜂蜜と、所定の水分と、の割合は、加熱済蜂蜜の糖度(Brix)の糖度が所望のものとなる範囲であれば特に制限されないが、質量比(蜂蜜の質量/水分の質量)の下限が、0.25以上であることが好ましく、0.5以上であることがより好ましく、0.75以上であることがさらに好ましく、1以上であることが特に好ましい。また、当該質量比(蜂蜜の質量/水分の質量)の上限は、10以下であることが好ましく、7.5以下であることがより好ましく、5以下であることがさらに好ましく、4以下であることがさらにより好ましく、3以下であることが特に好ましく、2.5以下であることが最も好ましい。
【0046】
すなわち、蜂蜜と、所定の水分と、の質量比(蜂蜜の質量/水分の質量)は、0.25~10であってもよく、0.25~7.5、0.25~5、0.25~4、0.25~3、0.25~2.5、0.5~10、0.5~7.5、0.5~5、0.5~4、0.5~3、0.5~2.5、0.75~10、0.75~7.5、0.75~5、0.75~4、0.75~3、0.75~2.5、1~10、1~7.5、1~5、1~4、1~3、又は1~2.5であってもよい。蜂蜜と、所定の水分と、質量比(蜂蜜の質量/水分の質量)が上記の範囲にあることにより、加熱済蜂蜜の糖度(Brix)をより調整しやすくなり、さらに加工蜂蜜をより十分に水に溶けやすいものとすることができる。
【0047】
一実施形態に係る加熱工程における温度は、上述した通り、70℃超120℃以下であるが、温度の下限は75℃以上であることが好ましく、80℃以上であることがより好ましく、85℃以上であることがさらに好ましく、90℃以上であることがさらにより好ましく、95℃以上であることが特に好ましい。また、一実施形態に係る加熱工程における温度の上限は、115℃以下であることが好ましく、110℃以下であることがより好ましく、105℃以下であることがさらに好ましく、100℃以下であることがさらにより好ましい。すなわち、一実施形態に係る加熱工程における温度は、70℃超115℃以下、70℃超110℃以下、70℃超105℃以下、70℃超100℃以下、75℃以上120℃以下、75℃以上115℃以下、75℃以上110℃以下、75℃以上105℃以下、75℃以上100℃以下、80℃以上120℃以下、80℃以上115℃以下、80℃以上110℃以下、80℃以上105℃以下、80℃以上100℃以下、85℃以上120℃以下、85℃以上115℃以下、85℃以上110℃以下、85℃以上105℃以下、85℃以上100℃以下、90℃以上120℃以下、90℃以上115℃以下、90℃以上110℃以下、90℃以上105℃以下、90℃以上100℃以下、95℃以上120℃以下、95℃以上115℃以下、95℃以上110℃以下、95℃以上105℃以下、又は95℃以上100℃以下であってもよい。温度が上記の範囲であることにより、製造する加工蜂蜜がより水に溶けやすいものとなり、さらに加工蜂蜜の蜂蜜独特の風味が維持されやすくなる。
【0048】
一実施形態に係る加熱工程において、蜂蜜、又は蜂蜜及び所定の水分を加熱しながら混練する時間は、上述した通り、1時間以上4時間以下であるが、当該時間の下限は、1.5時間以上であることが好ましく、2.0時間以上であることがより好ましく、2.5時間以上であることがさらに好ましい。一実施形態に係る加熱工程において、蜂蜜、又は蜂蜜及び所定の水分を加熱しながら混練する時間の上限は、3.5時間以下であることが好ましく、3時間以下であることがより好ましい。すなわち、一実施形態に係る加熱工程において、蜂蜜、又は蜂蜜及び所定の水分を加熱しながら混練する時間は、1時間~3.5時間であってもよく、1時間~3時間であってもよく、1.5時間~4時間であってもよく、1.5時間~3.5時間であってもよく、1.5時間~3時間であってもよく、2時間~4時間であってもよく、2時間~3.5時間であってもよく、2時間~3時間であってもよく、2.5時間~4時間であってもよく、2.5時間~3.5時間であってもよく、2.5時間~3.0時間であってもよい。温度が上記の範囲であることにより、製造する加工蜂蜜がより水に溶けやすいものとなり、さらに加工蜂蜜の蜂蜜独特の風味が維持されやすくなる。
【0049】
加熱済蜂蜜に含まれる水分量は、加熱済蜂蜜の全質量に対して、40質量%以下であってもよく、35質量%以下であってもよく、30質量%以下であってもよく、25質量%以下であってもよく、22質量%以下であってもよい。また、加熱済蜂蜜に含まれる水分量の下限は特に制限されないが、加熱済蜂蜜の全質量に対して、1%質量以上であってもよく、5%質量以上であってもよく、10%質量以上であってもよい。すなわち、加熱済蜂蜜に含まれる水分量は、加熱済蜂蜜の全量に対して、1質量%~40質量%であってもよく、1質量%~35質量%であってもよく、5質量%~35質量%であってもよく、5質量%~30質量%であってもよく、10質量%~30質量%であってもよく、10質量%~25質量%であってもよく、10質量%~25質量%であってもよく、10質量%~22質量%であってもよい。加熱済蜂蜜に含まれる水分量が上記の範囲にあることにより、後述する混合工程において、加熱済蜂蜜と未加熱蜂蜜の混練が容易になる。
【0050】
加熱済蜂蜜の糖度(Brix)の下限は、65%以上であることが好ましく、71%以上であることがより好ましく、71.5%以上であることがさらに好ましく、72%以上であることがさらにより好ましく、73%以上であることが特に好ましい。加熱済蜂蜜の糖度(Brix)の上限は、80%以下であることが好ましく、78%以下であることがより好ましく、77%以下であることがさらに好ましく、76%以下であることが特に好ましく、75.5%以下であることが特に好ましい。すなわち、加熱済蜂蜜の糖度(Brix)は、65%~80%であってもよく、71%~80%、71%~78%、71%~77%、71%~76%、71%~75.5%、71.5%~80%、71.5%~78%、71.5%~77%、71.5%~76%、71.5%~75.5%、72%~80%、72%~78%、72%~77%、72%~76%、72%~75.5%、73%~80%、73%~78%、73%~77%、73%~76%、又は73%~75.5%であってもよい。加熱済蜂蜜の糖度(Brix)が上記の範囲であることにより、混合工程において、混合蜂蜜を所望の濃度に調整しやすくなる。なお、本明細書において、糖度(Brix)の測定は、市販の糖度計(例えば、アタゴ社製「PAL-J」等)を用いて行い得る。
【0051】
一実施形態に係る加熱工程は、加熱工程中に蜂蜜から発生する灰汁を取り除く工程をさらに有していてもよい。当該工程を有することにより、灰汁に由来する渋みがなくなり、加工蜂蜜の風味を向上させることができる。
【0052】
一実施形態に係る加熱工程においては、蜂蜜又は蜂蜜及び所定の水分を加熱及び混練する際に、各種ハーブ、スパイス等を添加してもよい。これにより、加工蜂蜜にハーブやスパイスの風味を加えることができる。添加する各種ハーブ、スパイスとしては、ダマスクローズ、スペアミント、クローブ、八角、コリアンダーシード、クミン、生姜、エルダーフラワー、レモングラス、カルダモン、アニス、セージ、カモミール、ヒノキ、レモンバーム、タイム、ジュニパーベリー、セントジョンズワート、シナモン、メース、トウガラシ等が好適に用いられる。
【0053】
<冷却工程>
一実施形態に係る加工蜂蜜の製造方法における冷却工程は、上述した加熱工程を経た加熱済蜂蜜を70℃以下となるように冷却する工程である。冷却工程を有することにより、後述する混合工程において、加熱済蜂蜜と未加熱蜂蜜を混合する際に、未加熱蜂蜜が過度に加熱されることがなくなるめ、加工蜂蜜の風味を保つことができる。また、未加熱蜂蜜が加熱されないため、未加熱蜂蜜中のたんぱく質が変性せず、加工蜂蜜の保存性も向上する。
【0054】
一実施形態に係る冷却工程においては、上述した通り、加熱済蜂蜜を70℃以下となるように冷却するが、65℃以下となるように冷却することが好ましく、60℃以下となるように冷却することがより好ましく、55℃以下となるように冷却することがさらに好ましく、50℃以下となるように冷却することが特に好ましい。加熱済蜂蜜が上記の温度に冷却されることにより、後述する混合工程において未加熱蜂蜜が加熱されることがよりなくなるため、加工蜂蜜の風味や保存性がより向上する。また、冷却工程における加熱済蜂蜜の温度の下限は、特に制限されないが、10℃以上であることが好ましく、20℃以上であることがより好ましく、30℃以上であることがさらに好ましく、40℃以上であることが特に好ましい。温度の下限が上記の値以上であることにより、後述する混合工程において、加熱済蜂蜜と未加熱蜂蜜との混合が容易となる。すなわち、一実施形態に係る冷却工程において冷却された加熱済蜂蜜の温度は、10℃~70℃、10℃~65℃、10℃~60℃、10℃~55℃、10℃~50℃、20℃~70℃、20℃~65℃、20℃~60℃、20℃~55℃、20℃~50℃、30℃~70℃、30℃~65℃、30℃~60℃、30℃~55℃、30℃~50℃、40℃~70℃、40℃~65℃、40℃~60℃、40℃~55℃、又は40℃~50℃のいずれかであってもよい。
【0055】
一実施形態に係る冷却工程において、加熱済蜂蜜を冷却する時間は、特に制限されないが、1時間以上2時間以下であることが好ましい。冷却に要する時間が上記の範囲であることにより、次の工程である混合工程をより容易に実施でき、また加工蜂蜜の生産性を向上させることができる。
【0056】
<混合工程>
一実施形態に係る加工蜂蜜の製造方法における混合工程は、前述の冷却工程で冷却された加熱済蜂蜜、及び加熱処理されていない未加熱蜂蜜を混合する工程である。
【0057】
ここで、未加熱蜂蜜とは、加熱処理をされていない蜂蜜である。より具体的には、未加熱蜂蜜は、70℃超となるように加熱されていない蜂蜜であることが好ましく、60℃以上となるように加熱されていない蜂蜜であることがより好ましく、50℃以上となるように加熱されていない蜂蜜であることがさらに好ましく、40℃以上となるように加熱されていない蜂蜜であることが特に好ましい。これにより蜂蜜の栄養価や風味をより効果的に保持することができる。ここで、未加熱蜂蜜は、加熱処理されていない純粋蜂蜜であってもよい。
【0058】
また、未加熱蜂蜜は、前述の加熱工程により加熱処理を受ける前の蜂蜜と異なる成分を有する蜂蜜であってもよく、同一の成分を有する蜂蜜であってもよい。
【0059】
また、加工蜂蜜の風味や保存性を向上させるという観点から、前述の加熱工程により加熱処理を受ける前の蜂蜜及び未加熱蜂蜜の一方が純粋蜂蜜であることが好ましく、加熱工程により加熱処理を受ける前の蜂蜜及び未加熱蜂蜜の双方が純粋蜂蜜であることがより好ましい。
【0060】
一実施形態に係る混合工程において、冷却工程で冷却された加熱済蜂蜜と、未加熱蜂蜜と、を混合する割合は、加工蜂蜜の糖度(Brix)の糖度が所望のものとなる範囲であれば特に制限されないが、質量比(加熱済蜂蜜の質量/未加熱蜂蜜の質量)の下限が0.25以上であることが好ましく、0.5以上であることがより好ましく、1以上であることがさらに好ましく、1.5以上であることがさらにより好ましく、2以上であることがさらにより好ましく、2.5以上であることが特に好ましく、3以上であることが最も好ましい。一方で、当該質量比(加熱済蜂蜜の質量/未加熱蜂蜜の質量)の上限は、10以下であることが好ましく、9以下出ることがより好ましく、8以下であることがさらに好ましく、7以下であることがさらにより好ましく、6以下であることが特に好ましく、5以下であることが最も好ましい。すなわち、冷却工程で冷却された加熱済蜂蜜と、未加熱蜂蜜と、を混合する割合は、質量比(加熱済蜂蜜の質量/未加熱蜂蜜の質量)にて、0.25~10の範囲であってよく、0.25~9、0.25~8、0.25~7、0.25~6、0.25~5、0.5~10、0.5~9、0.5~8、0.5~7、0.5~6、0.5~5、1~10、1~9、1~8、1~7、1~6、1~5、1.5~10、1.5~9、1.5~8、1.5~7、1.5~6、1.5~5、2~10、2~9、2~8、2~7、2~6、2~5、2.5~10、2.5~9、2.5~8、2.5~7、2.5~6、2.5~5、3~10、3~9、3~8、3~7、3~6、又は3~5の範囲であってもよい。加熱済蜂蜜と、未加熱蜂蜜と、を混合する割合が上記の範囲にあることにより、加工蜂蜜をより水に溶けやすいものにすることができる。
【0061】
一実施形態に係る加工蜂蜜の製造方法においては当該混合工程によって得られた、加熱済蜂蜜と、未加熱蜂蜜との混合物を、そのまま加工蜂蜜とすることができる。すなわち、混合工程は、冷却工程で冷却された加熱済蜂蜜、及び加熱処理されていない未加熱蜂蜜を混合し、糖度(Brix)が72.5%超80%以下である加工蜂蜜を調製する工程であってもよい。ここで、加工蜂蜜の糖度(Brix)の好ましい範囲としては、上述の「加工蜂蜜」の欄に記載した糖度(Brix)の範囲を採用することができる。
【0062】
また、当該混合工程によって得られた混合物をそのまま加工蜂蜜とする場合は、上述した質量比で、加熱済蜂蜜と、未加熱蜂蜜とを混合することにより、所望の糖度(Brix)を有する加工蜂蜜を調製することができる。
【0063】
また、一実施形態に係る加工蜂蜜の製造方法は、当該混合工程によって得られた混合物を、当該混合工程の後にもう設けられた別の工程により調整・加工することにより、加工蜂蜜を得てもよい。
【0064】
<その他の工程>
一実施形態に係る加工蜂蜜の製造方法においては、砂糖を添加する工程を有さないことが好ましい。砂糖を添加しないことにより、蜂蜜本来の風味、甘さを保つことができる。
【0065】
本発明の実施形態を詳細に説明したが、これは説明的かつ例示的なものであって限定的ではなく、本発明の範囲は添付の特許請求の範囲によって解釈されるべきであることは明らかである。
【実施例
【0066】
本発明の効果を、以下の実施例及び比較例を用いて説明する。以下の製造例、実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。従って、本発明の技術的範囲は、以下の実施例のみに制限されるわけではない。なお、特記しない限り、各操作は、室温(25℃)で行った。
【0067】
[加工蜂蜜の製造]
下記に示す製造方法に従い、実施例1~5の加工蜂蜜及び比較例1の加工済み蜂蜜を製造した。なお、表2に示す各実施例、比較例並びに参考例の各サンプルのBrixは、糖度計(アタゴ社製、(商品名)PAL-はちみつ糖度計)を使用して測定した。
【0068】
<実施例1>
純粋蜂蜜(水谷養蜂園社製、ウクライナ産アカシア蜂蜜)5000gに対して、2500gの水を加え、100℃となるように加熱しながら、2時間50分、蜂蜜と水が均一になるように混練し、加熱済蜂蜜(Brix 約71.5%)を生成した。続いて、当該加熱済蜂蜜を、常温で放置することで60℃まで冷却した。なお、各実施例にて用いた純粋蜂蜜は、「はちみつ類の表示に関する公正競争規約」におけるはちみつ類の規定を満たすものである。また、加熱済蜂蜜のBrixは、加熱済蜂蜜を60℃まで冷却した状態で、上述した糖度計を用いて測定した。
【0069】
続いて、冷却した加熱済蜂蜜5000gに対して、加熱されていない未加熱の状態である純粋蜂蜜(水谷養蜂園社製、ブルガリア産ローズ蜂蜜)1250gを加え、加熱済蜂蜜と未加熱の蜂蜜が均一になるまで混合し、実施例1の加工蜂蜜を得た。なお、実施例1の加工蜂蜜のBrixは、73%であった。
【0070】
<実施例2>
加熱工程において加熱及び混練する時間を3時間として加熱済蜂蜜(Brix 約75%)を生成し、加工蜂蜜のBrixが表2に示す値となるように調製した以外は、実施例1と同様の方法で、実施例2の加工蜂蜜を得た。
【0071】
<実施例3>
加熱工程において加熱及び混練する時間を3時間10分として加熱済蜂蜜(Brix 約75.5%)を生成し、加工蜂蜜のBrixが表2に示す値となるように調製した以外は、実施例1と同様の方法で、実施例3の加工蜂蜜を得た。
【0072】
<実施例4>
加熱工程において加熱及び混練する時間を3時間20分として加熱済蜂蜜(Brix 約76%)を生成し、加工蜂蜜のBrixが表2に示す値となるように調製した以外は、実施例1と同様の方法で、実施例4の加工蜂蜜を得た。
【0073】
<比較例1>
純粋蜂蜜(水谷養蜂園社製、ウクライナ産アカシア蜂蜜)5000gに対して、1500gの水を加え、100℃となるように加熱しながら、2時間、蜂蜜と水が均一になるように混練し、加熱済蜂蜜(Brix 約70.5%)を生成した以外は実施例1と同様にして、比較例1の加工済み蜂蜜を得た。なお、比較例1の加工済み蜂蜜のBrixは、72.5%であった。
【0074】
<実施例5>
純粋蜂蜜(水谷養蜂園社製、ウクライナ産アカシア蜂蜜)5000gに対して、2500gの水と、各種ハーブ、スパイス等としてダマスクローズ、スペアミント、クローブ、八角、コリアンダーシード、クミンを加え、100℃となるように加熱しながら、2時間50分、蜂蜜、水並びに各種ハーブ及びスパイスが均一になるように混練し、加熱済蜂蜜(Brix 71.5%)を生成した。続いて、当該加熱済蜂蜜を、常温で60℃まで冷却した。続いて、冷却した加熱済蜂蜜5000gに対して、加熱されていない未加熱の状態である純粋蜂蜜(水谷養蜂園社製、ブルガリア産ローズ蜂蜜)1250gを加え、加熱済蜂蜜と未加熱の蜂蜜が均一になるまで混合し、実施例5の加工蜂蜜を得た。なお、実施例5の加工蜂蜜のBrixは、73%であった。
【0075】
<参考例1>
参考例1として市販のコーディアルシロップ(生活の木社製、ハーブコーディアル マヌカハニー)を用いた。なお、参考例1のコーディアルシロップのBrixは、50.1%であった。
【0076】
<参考例2>
参考例2として純粋蜂蜜(水谷養蜂園社製、ウクライナ産アカシア蜂蜜)を用いた。なお、参考例2の蜂蜜のBrixは、81%であった。
【0077】
〔官能評価〕
実施例1~5の加工蜂蜜、比較例1の加工済み蜂蜜、参考例1のコーディアルシロップ、及び参考例2の市販の蜂蜜について、蜂蜜の加工品の開発を担当する訓練された4人のパネラーによる官能評価試験を行った。評価項目は、(1)水への溶解性、(2)保存性、(3)風味の3つである。
【0078】
表2には、(1)水への溶解性及び(3)風味について、各パネラーが示した評点のうち最も多かったものを示す(評点が同数だった場合は、パネラー同士でディスカッションを行い評点が決定された)。なお、(3)風味の評価においては、参考例2の市販の蜂蜜を比較対照として用いた。また、表3には、(2)保存性について、各パネラーが示した評価(〇又は×)のうち最も多かったものを示す(評価が同数だった場合は、パネラー同士でディスカッションを行い評価が決定された)。
【0079】
[水への溶解試験]
実施例1~5の加工蜂蜜、比較例1の加工済み蜂蜜、参考例1のコーディアルシロップ、及び参考例2の蜂蜜の各サンプルをそれぞれ30gずつ、3~6℃、180mlの水(溶媒)に添加し、スプーンを用いて、毎秒3回の速度で3秒間攪拌し、各サンプル溶液を得た。各サンプル溶液を以下の項目に従って観察することによって、各サンプルの水に対する溶解性を評価した。なお、比較対照として、各サンプル溶液の溶媒である水を用いた。
【0080】
<溶解性の評価基準>
4:サンプル溶液が水と同等の透明度である(サンプルが全て溶解している)。
3:水と比べ、サンプル溶液中に不溶物がわずかにみられる(サンプルの一部が溶解していない)。
2:水と比べ、サンプル溶液中に不溶物がみられる(サンプルの大部分が溶解していない)。
1:水と比べ、サンプル溶液中に多くの不溶物がみられる(サンプルが全く溶解していない)。
【0081】
[保存性試験]
実施例1~5の加工蜂蜜、比較例1の加工済み蜂蜜、参考例1のコーディアルシロップ、及び参考例2の蜂蜜の各サンプルをそれぞれ250gずつ、25℃で保存し、保存開始から1ヶ月後、2ヶ月後、12ヶ月後、13か月後の保存状態を評価した。評価は以下の基準に沿って目視確認を行った。
【0082】
<保存性の評価>
〇:保存性試験前の状態と比べ、発泡がない(発酵していない)。
×:保存性試験前の状態と比べ、発泡がある(発酵している)。
【0083】
[風味試験]
実施例1~5の加工蜂蜜、比較例1の加工済み蜂蜜、及び参考例1のコーディアルシロップの各サンプルそれぞれについて、風味を以下の基準に沿って確認した。ここで風味とは、蜂蜜が持つ独特の風味を意味する。
【0084】
また、実施例1、実施例5並びに参考例1の各サンプルについては、香り及び甘さについても以下の基準に沿って確認した。ここで香りとは、蜂蜜が持つ独特の香りを意味する。なお、風味、香り、甘さの評価の比較対照として、参考例2の市販の蜂蜜を用いた。
【0085】
<風味の評価基準>
4:蜂蜜と比較して、同等以上の風味を有する。
3:蜂蜜と比較して、同等の風味を有する。
2:蜂蜜と比較して、風味がやや劣る。
1:蜂蜜と比較して、風味が大きく劣る。
【0086】
<香りの評価基準>
4:蜂蜜と比較して、同等以上の香りを有する。
3:蜂蜜と比較して、同等の香りを有する。
2:蜂蜜と比較して、香りがやや劣る。
1:蜂蜜と比較して、香りが大きく劣る。
【0087】
<甘さの評価基準>
4:蜂蜜と比較して、同等以上の甘さを有する。
3:蜂蜜と比較して、同等の甘さを有する。
2:蜂蜜と比較して、甘さがやや劣る。
1:蜂蜜と比較して、甘さが大きく劣る。
【0088】
【表2】
【0089】
【表3】
【0090】
上記の結果から、実施例1~5の加工蜂蜜は、水への高い溶解性を持ちながらも、高い保存性とより良い風味を有していることが分かった。一方で、比較例1の加工済み蜂蜜及び参考例1のコーディアルシロップは、水への溶解性や風味は良好であるが、保存性が劣る結果となった。また、参考例2の市販の蜂蜜は水への溶解性が大きく劣っていた。
【0091】
なお、加熱時間を2時間55分とした以外は実施例5の加工蜂蜜と同様の製造方法で、実施例6の加工蜂蜜(Brix:73.5%)を調製した。当該実施例6のサンプルについて、25℃で保存し、保存0日間のサンプルと保存120日間のサンプルの一般生菌数(cfu/g)と大腸菌群(/0.1g)を測定した。測定の結果、保存0日間のサンプル及び保存120日間のサンプルは共に、一般生菌数が300cfu/g未満、大腸菌群が陰性であった。当該結果は、上述した保存性試験の結果に即したものとなった。すなわち、実施例6の加工蜂蜜の保存性は良好であった。
【産業上の利用可能性】
【0092】
本発明は、水に溶けやすく、さらに保存性が高く、風味もよい加工蜂蜜を製造するのに好適である。
【要約】
水に溶けやすく、保存性が高く、風味もよい加工蜂蜜の製造方法を提供する。
加工蜂蜜の製造方法であって、蜂蜜を70℃超120℃以下となるように加熱しながら1時間以上4時間以下混練することで加熱済蜂蜜を生成する加熱工程と、前記加熱済蜂蜜を70℃以下となるように冷却する冷却工程と、前記冷却工程で冷却された前記加熱済蜂蜜、及び加熱処理されていない未加熱蜂蜜を混合する混合工程と、を含み、前記加工蜂蜜の糖度(Brix)が72.5%超80%以下である、製造方法が提供される。
【選択図】なし