(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-21
(45)【発行日】2024-03-29
(54)【発明の名称】積層バリスタおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01C 7/112 20060101AFI20240322BHJP
H01C 7/18 20060101ALI20240322BHJP
H01C 17/00 20060101ALI20240322BHJP
【FI】
H01C7/112
H01C7/18
H01C17/00 100
(21)【出願番号】P 2020065454
(22)【出願日】2020-04-01
【審査請求日】2023-02-15
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106116
【氏名又は名称】鎌田 健司
(74)【代理人】
【識別番号】100131495
【氏名又は名称】前田 健児
(72)【発明者】
【氏名】網沢 幹典
【審査官】鈴木 駿平
(56)【参考文献】
【文献】特開平5-121211(JP,A)
【文献】特開平9-246017(JP,A)
【文献】特開2000-124007(JP,A)
【文献】特開昭56-108203(JP,A)
【文献】特開2014-120605(JP,A)
【文献】特開2008-277786(JP,A)
【文献】特開平4-170004(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01C 7/02-7/22
H01C 17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ZnOを主成分とし粒界成分をPr
6O
11とするバリスタ層に少なくとも一対の内部電極を有する積層バリスタであって、前記積層バリスタの表面から0.01mm内側まで設けられた銅の拡散層を有し、前記拡散層の中にはCuOに換算して5×10
-7wt%以上、0.5wt%以下の銅が含まれている積層バリスタ。
【請求項2】
主成分であるZnO粉末に添加物としてPr
6O
11を加えたものに溶剤、可塑剤を加えてセラミックシートを得る工程と、前記セラミックシートに電極ペーストを印刷する印刷工程と、前記電極ペーストを印刷したセラミックシートを積層、加圧、切断、焼成を行い焼結体を得る焼成工程と、CuOと金属酸化物の混合粉末中で前記焼結体を熱処理することにより前記焼結体の表面に銅を拡散させて拡散層を形成する拡散工程と、前記銅を表面に拡散させた焼結体の端面に外部電極を形成する工程と、を備えた積層バリスタの製造方法であって、前記積層バリスタの表面から0.01mm内側まで設けられた前記拡散層の中にはCuOに換算して5×10
-7wt%以上、0.5wt%以下の銅が含まれている積層バリスタの製造方法。
【請求項3】
前記拡散工程では、ZrO
2、Al
2O
3、ZnOのどれか一つ以上含む金属酸化物に銅がCuOに換算して1×10
-5wt%以上、10wt%以下を配合した中で熱処理し拡散する請求項2記載の積層バリスタの製造方法。
【請求項4】
前記拡散工程では、800℃以上、1100℃以下の温度で熱処理を行う請求項2記載の積層バリスタの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種電子機器に用いられる積層バリスタに関するものである。
【背景技術】
【0002】
電子機器の軽薄短小化に伴い静電気対策部品としてバリスタ層と内部電極を積層した積層バリスタが用いられている。積層バリスタはZnOを主成分として特性を発現させるため粒界成分としてBi2O3を用いたものと、Pr6O11を用いたものが生産販売されている。ZnOは比抵抗が低いため素子表面抵抗が低いためめっき時にめっき流れが発生しやすい。そのため、Bi2O3を用いた積層バリスタについてはZn7Sb2O12、Zn2SiO4を中心とした高抵抗層を形成させる方法がとられている。一方、Pr6O11を用いた積層バリスタではガラス等の絶縁物を表面に形成させ高抵抗層を形成する方法や、Liをセラミック表面に拡散させ、その原子価制御により主成分であるZnOを高抵抗化させることによりこの問題を解決している。なお、この出願の発明に関連する先行技術文献情報としては、例として、特許文献1、2が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開昭57-145303号公報
【文献】特開昭59-218703号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながらPr6O11を粒界成分とする積層バリスタではPr6O11の融点が高いためZn7Sb2O12、Zn2SiO4といったSb2O3、SiO2とZnOの化合物である高抵抗層の形成方法は中間生成層が形成しづらいため困難である。又、ガラス等による絶縁物の形成はその形成工程で材料費と労力がかかりコストがかかる。一方、Liをセラミック表面に拡散させる方法については、Liのイオン半径が小さいため処理条件によっては拡散速度が上がってしまい、結果、内部電極間のバリスタ層まで到達しZnOの抵抗をあげてしまうことから電気特性を悪化させたり、Liのイオン化傾向が大きいことから耐湿負荷性能が悪化してしまう問題があった。
【0005】
本発明はこの課題に対して、表面に高抵抗層を設け電極にメッキ層を形成しやすい積層バリスタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は上記課題を解決するために、ZnOを主成分とし粒界成分をPr6O11とするバリスタ層に少なくとも一対の内部電極を有する積層バリスタであって、積層バリスタの表面から0.01mm内側まで設けられた銅の拡散層を有し、拡散層の中にはCuOに換算して5×10-7wt%以上、0.5wt%以下の銅が含まれているように構成したものである。
【発明の効果】
【0007】
以上のように構成することにより、内部のバリスタ層に影響を与えることなく、表面の絶縁抵抗を上げることができ、電極へのメッキ等も問題なく行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の一実施の形態における積層バリスタの断面図
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の一実施の形態における積層バリスタについて、図面を参照しながら説明する。
【0010】
図1は本発明の一実施の形態における積層バリスタ11の断面図であり、一対の内部電極13がバリスタ層12の内部に対向するように積層されて積層体を構成し、一対の内部電極13はその端部が積層体の対向する両端面に交互に露出するよう積層されており、積層体の両端面に形成された一対の外部電極14に交互に接続されている。バリスタ層12はZnOを主成分とし粒界成分をPr
6O
11としている。この積層体の表面から内部にかけて銅が拡散された拡散層15となっている。この拡散層15は表面から0.01mm以上の深さまで拡散され、その拡散濃度をCuOに換算して約0.1wt%とし、これによって表面の絶縁抵抗を高めている。しかしながら一対の内部電極13によって形成されるバリスタ領域までは拡散層15が到達しないようにしている。このようにすることによりバリスタ特性に影響を与えることなく、表面のみを高抵抗にすることができ、メッキ等も問題なく行うことができる。拡散層15の中にはCuOに換算して5×10
-7wt%以上、0.5wt%以下の銅が含まれているようにすることが望ましい。5×10
-7wt%よりも少なくなると絶縁抵抗を十分に高くすることができず、0.5wt%より高くするとバリスタ領域まで拡散してバリスタ特性を劣化させる可能性があるためである。
【0011】
次に本発明の一実施の形態における積層バリスタの製造方法について説明する。
【0012】
まず主成分であるZnOとPr6O11、Co3O4、K2CO3、Cr2O3などの添加物を含むバリスタ材料を混合粉砕後、有機バインダーとしてポリビニルブチラール樹脂、溶剤としてノルマル酢酸ブチル、可塑剤としてベンジルブチルフタレートなどを混合してスラリーを得る。そしてこのスラリーをドクターブレード法などにより成形し、バリスタ層となるセラミックシートを作製する。
【0013】
一方、導電性金属粉末としてPdを、有機バインダーとしてポリビニルブチラール樹脂、溶剤としてノルマル酢酸ブチル、可塑剤としてベンジルブチルフタレートなどを混合した後、さらにロールミル等を用いて混練して内部電極を形成するための金属ペーストを作製する。
【0014】
次にセラミックシートを所定の枚数積層し、所望の厚みを有するバリスタ層を積層して形成する。
【0015】
このバリスタ層の上に所定の形状を持つ第1の内部電極を形成する。
【0016】
次に、この第1の内部電極を形成したセラミックシート上にセラミックシートを積層し、さらにセラミックシート上に所定の形状を持つ第2の内部電極を形成する。
【0017】
ここで、第1、第2の内部電極はセラミックシートを挟んで、対向するように形成され一対の内部電極としているが、この第1、第2の内部電極は各々左右の外部電極に交互に接続されるようにずらして形成される。
【0018】
次に、前記第2の内部電極の上にセラミックシートを積層して加圧、圧着後、所定の形状に切断して積層チップバリスタ素子の成形体を得る。
【0019】
この成形体を1200℃の温度まで昇温速度200℃/hで昇温し、最高温度で2時間保持した後に、降温速度100℃/hで降温して焼成した。
【0020】
焼成後、積層チップバリスタ素子の面取りを行い、(表1)記載の酸化物およびCuOを配合し混合した紛体中に焼結体を入れ昇温速度200℃/hで昇温し、(表1)記載の拡散処理温度で2時間保持した後に、降温速度100℃/hで降温してCuOの拡散処理を行った。
【0021】
次にCuOの拡散処理を行った焼結体の内部電極が露出した端面にAgを主成分とする一対の外部電極を形成して焼付けめっきを行い、一対の外部電極を含む素子外形のL寸法1.6mm×W、T寸法0.8mmの(表1)に示す試料番号1~13の積層バリスタを得た。
【0022】
なお試料番号1については比較のためCuOの拡散処理していないものとなっている。
【0023】
【0024】
高抵抗層深さについては素子断面にたいしEPMAを用い、CuOが検出される深さを確認するとともに拡散層中のCuO拡散量についてもバリスタ表面層から0.01mm内側の3点の平均値にて算出した。
【0025】
めっき流れについては、めっき後の素子表面のめっき流れ発生状態にたいし金属顕微鏡を用いn=100中のめっき流れ発生率を算出した。
【0026】
次に、得られた積層バリスタのバリスタ電圧、制限電圧の測定方法について述べる。バリスタ電圧は、一対の外部電極に直流定電圧電源を接続し、1mAの電流を流したときの電圧値(V1mA)を測定した。制限電圧は波高値1Aの8/20μs標準波形のインパルス電流を印加したときの一対の外部電極端子間電圧波高値(V1A)を測定した。制限電圧比は波高値1Aの8/20μs標準波形のインパルス電流を印加したときのV1Aを1mAの電流を流したときの電圧値で割ったものであり、異なるバリスタ電圧での制限電圧を比較評価することに用いられる。この制限電圧は1に近いほど望ましい。
【0027】
上記の検討により、CuOを拡散していないものおよびCuOの拡散量が5×10-7w
t%を下回った場合、素子表面抵抗の低下によりめっき流れが発生する。一方CuOの拡散量が0.5wt%を上回った場合バリスタ層内部への拡散深さが深くなるため電気的特性を支配する内部電極間のセラミックまで銅が拡散してしまい、ZnO中の比抵抗が増加してしまうことにより、制限電圧が悪化してしまう可能性がある。このことから拡散層中のCuO量は5×10-7wt%以上、0.5wt%以下であることが望ましい。このCuO拡散量を得るためには金属酸化物中のCuO量が1×10-5wt%以上、10wt%以下とすることが望ましい。
【0028】
またCuOを混合する金属酸化物はZrO2、Al2O3、ZnOいずれにおいても効果に差は認められないことからZrO2、Al2O3、ZnOのいずれを使ってもよい。金属酸化物なしで直接CuO中で熱処理しても銅を拡散できるが拡散量の制御が困難であることから望ましくない。
【0029】
CuOを拡散させる拡散処理温度については800℃~1100℃までの範囲であれば問題がない。
【0030】
ZnOを主成分とする積層バリスタの材料系としては大きく分けて粒界層にBiO2とPr6O11を用いた2つの種類が存在するが、Pr6O11に比べBiO2は融点が低いため銅が拡散しやすいためバリスタ表面層の絶縁に必要な5×10-7wt%の銅を拡散させた場合、電気的特性が発生する内部電極に挟まれたバリスタ層にも銅が拡散されてしまうため、内部電極間セラミック層の抵抗まで上げてしまうことから、異常電圧が印加された際の抑制効果が低下(制限電圧の上昇)してしまうことから、融点が高いPr6O11を粒界成分とする積層バリスタに適用することが望ましい。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明に係る積層バリスタは、バリスタ特性を損なうことなくメッキ可能な積層バリスタを得ることができ、産業上有用である。
【符号の説明】
【0032】
11 積層バリスタ
12 バリスタ層
13 内部電極
14 外部電極
15 拡散層