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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-21
(45)【発行日】2024-03-29
(54)【発明の名称】作業車両の制御システム
(51)【国際特許分類】
   A01B 69/00 20060101AFI20240322BHJP
   G05D 1/00 20240101ALI20240322BHJP
【FI】
A01B69/00 303M
G05D1/00
A01B69/00 303A
A01B69/00 303F
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020218404
(22)【出願日】2020-12-28
(65)【公開番号】P2022103649
(43)【公開日】2022-07-08
【審査請求日】2022-12-31
(73)【特許権者】
【識別番号】000000125
【氏名又は名称】井関農機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100137752
【弁理士】
【氏名又は名称】亀井 岳行
(72)【発明者】
【氏名】澤木 拓人
【審査官】小島 洋志
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-099269(JP,A)
【文献】特開2020-030644(JP,A)
【文献】特開2017-127290(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/0255470(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01B 69/00
G05D 1/43
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
作業機を有する作業車両と、
前記作業車両の位置情報を取得する測位手段と、
前記作業車両の進行方向を取得する方向取得手段と、
作業が行われる作業領域と作業が行われない枕地領域とが予め設定された圃場の情報と、前記作業領域内において予め設定された作業開始位置を含む作業経路の情報と、に基づいて、前記作業車両を前記作業経路に沿って自律走行させながら作業を実行させるように制御する制御部と、
自律走行の開始を指示する指示装置と、
を備え、
前記制御部は、
自律走行の開始の指示がされた場合に、前記測位手段で取得された前記作業車両の位置が、前記進行方向に交差する方向に沿い且つ前記作業開始位置に近い前記作業領域の外辺の延長線と、前記作業開始位置における作業車両の進行方向に沿う前記作業領域の外辺およびその延長線と、圃場の外辺と、で囲まれる枕地領域内にある場合であって、
前記作業開始位置における作業車両の進行方向に沿った第1の移動経路と、前記第1の移動経路の終端を始端とし且つ前記進行方向に交差する方向に沿った第2の移動経路とを有する移動経路が設定され、
前記第2の移動経路は、前記作業開始位置に対して前記作業車両の旋回半径の距離分離れた位置に設定され、
前記第1の移動経路を前記作業車両が走行中に、前記第2の移動経路までの距離が旋回半径の距離に到達した場合に、前記作業車両の旋回を開始して前記第2の移動経路に進入させ、
前記第2の移動経路を前記作業車両が走行中に、前記作業開始位置を通過する作業経路の延長線上までの距離が前記旋回半径の距離に到達した場合に、前記作業車両の旋回を開始して、前記作業開始位置に向けて移動させる、
ことを特徴とする作業車両の制御システム。
【請求項2】
前記作業車両の位置と作業開始位置とを結ぶベクトルと前記作業車両の進行方向のベクトルとがなす角が、予め定められた範囲外であり、且つ、自律走行の開始の指示がされた場合の前記作業車両の進行方向に対して前記第2の移動経路が前記作業車両の後方にある場合には、
前記作業車両を前記第1の移動経路に沿って後進させ、
前記第1の移動経路の延長上を後進中に前記作業車両の旋回半径の距離に前記第2の移動経路が到達した場合に、前記作業車両の前進と旋回とを開始して、前記第2の移動経路に進入させる
ことを特徴とする請求項1に記載の作業車両の制御システム。
【請求項3】
前記作業車両の位置と作業開始位置とを結ぶベクトルと前記作業車両の進行方向のベクトルとがなす角が、予め定められた範囲外であり、且つ、自律走行の開始の指示がされた場合の前記作業車両の進行方向に対して前記第1の移動経路が前記作業車両の後方にある場合には、
前記第1の移動経路の移動方向に交差する後進移動経路を設定して、
前記作業車両を前記後進移動経路に沿って後進させ、
前記後進移動経路の延長上を前記作業車両が後進中に前記作業車両の旋回半径の距離に前記第1の移動経路が到達した場合に、前記作業車両の前進と旋回とを開始して、前記第1の移動経路に進入させる
ことを特徴とする請求項1または2に記載の作業車両の制御システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トラクタや薬液散布車両、田植え機等の作業車両を制御する作業車両の制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
トラクタや薬液散布車両等の作業車両を自律走行させる技術について、下記の特許文献1に記載の技術が従来公知である。
【0003】
特許文献1(特開2018-147163号公報)には、トラクタ(1)の現在位置を測位して、第1領域(R1)に設定された作業経路(K1)や旋回経路(K2)に沿って自律走行させる技術が記載されている。特許文献1では、トラクタ(1)の進行方向の前方に略扇形状の候補特定用領域(P)が設定されており、候補特定用領域(P)に複数の作業経路(K1)が含まれる場合には、除外条件に応じて作業経路(K1)を選択している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2018-147163号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
(従来技術の問題点)
特許文献1に示す構成では、作業経路が予め定められ、作業の開始位置から作業を行っているが、作業を開始するには、車両を作業開始位置に、作業の新工法に沿った状態で設置する必要があった。すなわち、作業経路の作業開始位置まで、自律的に移動させることはできなかった。
【0006】
本発明は、作業開始位置まで自律的に走行可能な作業車両を提供することを技術的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記技術的課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、
作業機を有する作業車両と、
前記作業車両の位置情報を取得する測位手段と、
前記作業車両の進行方向を取得する方向取得手段と、
作業が行われる作業領域と作業が行われない枕地領域とが予め設定された圃場の情報と、前記作業領域内において予め設定された作業開始位置を含む作業経路の情報と、に基づいて、前記作業車両を前記作業経路に沿って自律走行させながら作業を実行させるように制御する制御部と、
自律走行の開始を指示する指示装置と、
を備え、
前記制御部は、
自律走行の開始の指示がされた場合に、前記測位手段で取得された前記作業車両の位置が、前記進行方向に交差する方向に沿い且つ前記作業開始位置に近い前記作業領域の外辺の延長線と、前記作業開始位置における作業車両の進行方向に沿う前記作業領域の外辺およびその延長線と、圃場の外辺と、で囲まれる枕地領域内にある場合であって、
前記作業開始位置における作業車両の進行方向に沿った第1の移動経路と、前記第1の移動経路の終端を始端とし且つ前記進行方向に交差する方向に沿った第2の移動経路とを有する移動経路が設定され、
前記第2の移動経路は、前記作業開始位置に対して前記作業車両の旋回半径の距離分離れた位置に設定され、
前記第1の移動経路を前記作業車両が走行中に、前記第2の移動経路までの距離が旋回半径の距離に到達した場合に、前記作業車両の旋回を開始して前記第2の移動経路に進入させ、
前記第2の移動経路を前記作業車両が走行中に、前記作業開始位置を通過する作業経路の延長線上までの距離が前記旋回半径の距離に到達した場合に、前記作業車両の旋回を開始して、前記作業開始位置に向けて移動させる、
ことを特徴とする作業車両の制御システムである。
【0009】
請求項2に記載の発明は、
前記作業車両の位置と作業開始位置とを結ぶベクトルと前記作業車両の進行方向のベクトルとがなす角が、予め定められた範囲外であり、且つ、自律走行の開始の指示がされた場合の前記作業車両の進行方向に対して前記第2の移動経路が前記作業車両の後方にある場合には、
前記作業車両を前記第1の移動経路に沿って後進させ、
前記第1の移動経路の延長上を後進中に前記作業車両の旋回半径の距離に前記第2の移動経路が到達した場合に、前記作業車両の前進と旋回とを開始して、前記第2の移動経路に進入させる
ことを特徴とする請求項1に記載の作業車両の制御システムである。
【0010】
請求項3に記載の発明は、
前記作業車両の位置と作業開始位置とを結ぶベクトルと前記作業車両の進行方向のベクトルとがなす角が、予め定められた範囲外であり、且つ、自律走行の開始の指示がされた場合の前記作業車両の進行方向に対して前記第1の移動経路が前記作業車両の後方にある場合には、
前記第1の移動経路の移動方向に交差する後進移動経路を設定して、
前記作業車両を前記後進移動経路に沿って後進させ、
前記後進移動経路の延長上を前記作業車両が後進中に前記作業車両の旋回半径の距離に前記第1の移動経路が到達した場合に、前記作業車両の前進と旋回とを開始して、前記第1の移動経路に進入させる
ことを特徴とする請求項1または2に記載の作業車両の制御システムである。
【発明の効果】
【0011】
請求項1に記載の発明によれば、作業車両の現在位置と作業開始位置までの移動経路に沿って作業車両を移動させることで、作業開始位置まで自律的に走行可能な作業車両を提供することができる。
【0013】
請求項2に記載の発明によれば、請求項1に記載の発明の効果に加えて、作業車両の位置と作業開始位置とを結ぶベクトルと作業車両の進行方向のベクトルとがなす角が、予め定められた範囲外であり、且つ、自律走行の開始の指示がされた場合の作業車両の進行方向に対して第2の移動経路が前記作業車両の後方にある場合には、作業車両を前記第1の移動経路に沿って後進させることで、移動経路にスムーズに進入させることができる。
【0014】
請求項3に記載の発明によれば、請求項1または2に記載の発明の効果に加えて、作業車両の位置と作業開始位置とを結ぶベクトルと作業車両の進行方向のベクトルとがなす角が、予め定められた範囲外であり、且つ、自律走行の開始の指示がされた場合の前記作業車両の進行方向に対して第1の移動経路が作業車両の後方にある場合には、作業車両を後進移動経路に沿って後進させることで、移動経路にスムーズに進入させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は本実施の形態の作業車両の制御システムの説明図である。
図2図2は本実施の形態の作業車両の制御システムの機能ブロック図である。
図3図3は実施の形態の作業領域と枕地領域と作業経路との説明図である。
図4図4は実施の形態における移動経路の一例の説明図である。
図5図5は実施の形態における移動経路の他の例の説明図である。
図6図6は実施の形態における移動経路の説明図であり、図5の場合において初期位置における作業車両の進行方向が逆向きの場合の説明図である。
図7図7は実施の形態における移動経路の説明図であり、図4の場合において初期位置における作業車両の進行方向が逆向きの場合の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
次に図面を参照しながら、本発明の実施の形態の具体例である実施例を説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
なお、実施の形態の説明においては、機体の前進方向に向かって左右方向をそれぞれ左、右といい、前進方向を前、後進方向を後として説明する。
なお、以下の図面を使用した説明において、理解の容易のために説明に必要な部材以外の図示は適宜省略されている。
【0017】
以下、図面に基づき、本発明の好ましい実施の形態について説明する。
図1は本実施の形態の作業車両の制御システムの説明図である。
図1において、本実施の形態の作業車両の制御システムSは、作業車両の一例としての農業機械のトラクタ1を有する。トラクタ1は、後部に作業機2を有する。作業機2としては、圃場で行う作業に応じて、耕うん機やプラウ、施肥装置、播種機等、従来公知の作業機を使用可能である。また、作業車両としてトラクタ1を例示したが、これに限定されず、薬剤散布車両や田植え機、コンバイン、苗移植機等、任意の作業車両に適用可能である。
【0018】
図1において、実施の形態の作業車両の制御システムSは、情報処理装置の一例としてのサーバ101を有する。サーバ101は、通信回線の一例としてのインターネットワークNを介して、トラクタ1と情報の送受信が可能に構成されている。なお、実施の形態のトラクタ1は、無線通信でネットワークNを介してサーバ101と通信可能に構成されている。
さらに、実施の形態の作業車両の制御システムSは、作業者が使用する端末の一例であって、指示装置の一例としてのタブレット端末TABを有する。タブレット端末TABは、トラクタ1との間で、無線通信で情報の送受信が可能に構成されている。
【0019】
(機能ブロック図の説明)
図2は本実施の形態の作業車両の制御システムの機能ブロック図である。
図2において、本実施の形態の作業車両の制御システムSは、トラクタ1の制御部CAと、タブレット端末TABの制御部CB、サーバ101の制御部(図示せず)等を有する。各制御部CA,CBは、外部との信号の入出力等を行う入出力インターフェース(I/O)、必要な処理を行うためのプログラムおよび情報等が記憶されたROM(リードオンリーメモリ)、必要なデータを一時的に記憶するためのRAM(ランダムアクセスメモリ)、ROM等に記憶されたプログラムに応じた処理を行うCPU(中央演算処理装置)、ならびに発振器等を有する小型情報処理装置、いわゆる、マイクロコンピュータ(コンピュータ装置の一例)により構成されており、前記ROMやRAM、不揮発性メモリ等の記憶部材に記憶されたプログラムを実行することにより種々の機能を実現することができる。
【0020】
(タブレット端末の制御部)
図2において、タブレット端末TABの制御部CBは、入力部の一例としてのタッチパネルTAB1や、電源ボタンや音量変更ボタン等の入力ボタンTAB2、通信部の一例としての通信モジュールTAB3等の信号出力要素からの出力信号が入力される。したがって、タブレット端末TABの制御部CBには、通信モジュールTAB3を介してトラクタ1の制御部CAやサーバ101から情報や信号の入力が可能である。
【0021】
タブレット端末TABの制御部CBは、表示器の一例としてのタッチパネルTAB1や、スピーカ(図示せず)、通信モジュールTAB3、その他の図示しない制御要素に接続されており、各制御要素へ、制御信号を出力している。よって、通信モジュールTAB3を介してトラクタ1の制御部CAやサーバ101に情報や信号を出力可能である。
【0022】
タブレット端末TABの制御部CBは、前記タッチパネルTAB1からの入力信号に応じた処理を実行して、前記各制御要素に制御信号を出力する機能を有している。本実施の形態のタブレット端末TABの制御部CBは、基本ソフトウェアの一例としてのオペレーティングシステムOSや、アプリケーションソフトウェアの一例であって、処理手段の一例としての処理ソフトウェアAP1、その他の、図示しないアプリケーションソフトウェア(インターネットブラウザや文書作成ソフトウェア等)を有する。処理ソフトウェアAP1は、下記の制御手段を有する。
【0023】
情報表示手段CB1は、作業経路の設定を行うための画像や、設定された作業経路やトラクタ1の稼働状況等の情報をタッチパネルTAB1に表示する。
【0024】
図3は実施の形態の作業領域と枕地領域と作業経路との説明図である。
作業経路の生成手段CB2は、利用者の作業領域の設定に応じて、作業経路を生成する。図3において、作業経路の生成手段CB2は、一例として、圃場201に対して、利用者が作業領域202の広さ(外枠)と作業開始位置203aとを設定すると、予め定められたトラクタ1の旋回半径や作業機の作業幅に応じて、作業経路203と、旋回経路(非作業経路)204とを自動的に生成する。なお、作業経路203の生成自体については従来公知の種々の構成を採用可能であるため、詳細な説明は省略する。
【0025】
作業開始の指示手段(自律走行開始の指示手段)CB3は、タッチパネルTAB1への作業者の入力に応じて、トラクタ1に作業の開始、すなわち、自律走行の開始の指示情報を送信する。
【0026】
(トラクタ1の制御部)
図2において、トラクタ1の制御部CAは、通信部の一例としての通信モジュール111や、測位装置の一例としてのGPS装置112、方位取得装置の一例としてのジャイロセンサ113、その他、図示しない各種センサ等の信号出力要素からの出力信号が入力される。したがって、トラクタ1の制御部CAには、通信モジュール111を介してタブレット端末TABの制御部CBやサーバ101から情報や信号の入力が可能である。
【0027】
トラクタ1の制御部CAは、エンジンやクラッチ等の走行系やハンドル等の操舵系、通信モジュール111、その他の図示しない制御要素に接続されており、各制御要素へ、制御信号を出力している。
【0028】
トラクタ1の制御部CAは、各信号出力要素からの入力信号に応じた処理を実行して、前記各制御要素に制御信号を出力する機能を有している。本実施の形態のトラクタ1の制御部CAは、下記の制御手段を有する。
測位手段CA1は、GPS装置112からの信号に基づいてトラクタ1の現在位置の位置情報を取得する。
【0029】
方向取得手段CA2は、ジャイロセンサ113からの信号に基づいて、トラクタ1の進行方向(前方向の向き)を取得する。なお、方向を測定する方法はジャイロセンサに限定されず、方位磁石等、方向が測定可能な任意の方法を採用可能である。
作業経路情報の取得手段CA3は、作業経路203の情報を取得する。実施の形態の作業経路情報の取得手段CA3は、タブレット端末TABとの通信を介して、圃場201の位置情報や、作業領域202の情報、作業経路203や作業開始位置203aの情報、旋回経路204の情報を含む情報を取得し、記憶する。
【0030】
図4は実施の形態における移動経路の一例の説明図である。
移動経路の生成手段CA4は、枕地領域の判別手段CA4aと、初期方向の設定範囲判別手段CA4bと、進入方向の設定範囲判別手段CA4cとを有し、トラクタ1の現在位置から作業開始位置203aまでの移動経路206を生成する。
【0031】
図4において、枕地領域の判別手段CA4aは、トラクタ1の位置が、非作業領域である枕地領域207内であり、且つ、作業領域の外周を構成する一辺の中で作業経路203と平行な基準辺207aと頂点を共有する2辺207b,207cの内、作業開始位置203aに近いほうの辺207bを圃場端207dまで延長した第1の延長線208と,基準辺207aまたは基準辺207aの対辺207eを作業開始位置203aから遠い方向まで延長した第2の延長線209とで区切られる枕地領域207A,207B内であるか否かを判別する。
【0032】
言い換えると、枕地領域の判別手段CA4aは、トラクタ1の位置が、進行方向203bに交差する方向に沿い且つ作業開始位置203aに近い作業領域202の外辺の延長線である第1の延長線208と、作業開始位置203aにおけるトラクタ1の進行方向203bに沿う作業領域202の外辺207a,207eおよびその延長線である第2の延長線209と、圃場201の外辺と、で囲まれる枕地領域207A,207B内であるか否かを判別する。
なお、実施の形態の移動経路の生成手段CA4は、トラクタ1の現在位置210が、図4に示す枕地領域207A,207Bである場合には移動経路206を生成し、別の領域にある場合にはタブレット端末TABに移動経路206を生成できない旨の表示をさせるとともに、トラクタ1を枕地領域207A,207B内に移動させることを促す表示をするように制御する信号を送信する。
【0033】
初期方向の設定範囲判別手段CA4bは、トラクタ1の現在位置(移動開始位置)210と作業開始位置203aとを結ぶベクトル211と、トラクタ1の現在位置210における進行方向のベクトル212とがなす角(初期角)θ1が、予め定められた範囲(第1の設定範囲)θa内であるか否かを判別する。第1の設定範囲θaは、一例として、ベクトル212を0度(基準)としたときの±90度の範囲が設定されている。すなわち、ベクトル211,212の内積がプラスとなる範囲が設定されている。なお、具体的な数値範囲は、例示した数値に限定されず、設計や仕様等に応じて適宜変更可能である。
【0034】
進入方向の設定範囲判別手段CA4cは、トラクタ1の現在位置210における進行方向のベクトル212と作業開始位置203aにおけるトラクタ1の進行方向203bのベクトルとがなす角(進入角θ2)が予め定められた範囲(第2の設定範囲)θb内であるか否かを判別する。第2の設定範囲θbは、一例として、進行方向203bを0度(基準)として時計回り方向を+としたときに、第1の枕地領域207Aでは-45度~-135度(=225度~315度)、第2の枕地領域207Bでは45度~135度の範囲が設定されている。すなわち、ベクトル212,203bの内積がマイナスとなる範囲が設定されている。具体的には、後進移動経路の設定が不要な場合(範囲内)か、後進移動経路の設定が必要な場合(範囲外)かを判別する。なお、具体的な数値範囲は、例示した数値に限定されず、設計や仕様等に応じて適宜変更可能である。
【0035】
図4において、実施の形態の移動経路の生成手段CA4は、進入角θ2が第2の設定範囲θb内の場合は、作業開始位置203aにおけるトラクタ1の進行方向203bに沿った平行移動経路(第1の移動経路)206aと、平行移動経路206aの終端を始端とし且つ進行方向203bに交差する方向に沿った直角移動経路(第2の移動経路)206bとを有する移動経路206が生成する。
【0036】
図5は実施の形態における移動経路の他の例の説明図である。
図5において、実施の形態の移動経路の生成手段CA4は、進入角θ2が第2の設定範囲θbの外であり、且つ、自律走行の開始の指示がされた場合のトラクタ1の進行方向211に対して平行移動経路206aがトラクタ1の後方にある場合には、平行移動経路206a、直角移動経路206bに加えて、後進移動経路206cも生成する。
【0037】
なお、実施の形態の直角移動経路206bは、作業開始位置203aに対してトラクタ1の旋回半径r1の距離分離れた位置に設定される。また、平行移動経路206aは、移動開始位置210に対してトラクタ1の旋回半径r1の距離分離れた位置に設定されている。また、特に断らない場合、以降の説明において、「旋回」は、操舵輪だけでの方向変換(大旋回)ではなく、操舵輪での方向変換に加えて内輪の回転停止または逆回転により大旋回よりも小さい旋回半径での旋回(小旋回、旋回モード)を指す意味で使用する。
【0038】
走行制御手段CA5は、後進判別手段CA5aと、旋回半径の判別手段CA5bとを有し、トラクタ1の走行(前進、後進、停止、操舵、旋回)を制御する。走行制御手段CA5は、枕地領域207A,207Bでは、生成された移動経路206に沿ってトラクタ1を走行させ、作業開始位置203a以降は、作業経路203および旋回経路204に沿ってトラクタ1を走行させる。
【0039】
図6は実施の形態における移動経路の説明図であり、図5の場合において初期位置における作業車両の進行方向が逆向きの場合の説明図である。
図7は実施の形態における移動経路の説明図であり、図4の場合において初期位置における作業車両の進行方向が逆向きの場合の説明図である。
後進判別手段CA5aは、図5図7の移動経路206が生成された場合に、トラクタ1を後進させるか否かを判別する。実施の形態の後進判別手段CA5aは、トラクタ1の現在位置210と進行方向(212)に基づいて、図5に示すように、平行移動経路206aがトラクタ1の後方にある場合には、移動開始時に後進移動経路206cに沿って後進移動させると判別する。また、図7に示すように、直角移動経路206bがトラクタ1の後方にある場合には、移動開始時に平行移動経路206aに沿って後進させると判別する。
【0040】
旋回半径の判別手段CA5bは、移動経路206に沿って作業開始位置203aに向けて移動する際に、旋回を行う時期(タイミング)になったか否かを判別する。
図4に示す移動経路206が生成(設定)された場合、旋回半径の判別手段CA5bは、平行移動経路206aをトラクタ1が前進して走行中に、直角移動経路206bまでの距離が旋回半径r1に到達した場合に、直角移動経路206bに進入させるように、トラクタ1の旋回を開始させる。
【0041】
図5に示す移動経路206が生成された場合に、後進移動経路206cをトラクタ1が後進して走行中に、平行移動経路206aまでの距離が旋回半径r1に到達した場合に、平行移動経路206aに進入するように、トラクタ1の前進と旋回を開始させる。すなわち、後進移動経路206cをトラクタ1が後進する場合は、平行移動経路206aと後進移動経路206cとの交点(図5では、一例として、初期位置210)を一度通過した後に、旋回半径r1に達すると、トラクタ1が前進しながら旋回する。そして、平行移動経路206aをトラクタ1が前進して走行中に、直角移動経路206bまでの距離が旋回半径r1に到達した場合に、直角移動経路206bに進入させるように、トラクタ1の旋回を開始させる。
【0042】
図6に示す移動経路206が生成された場合であって、初期角θ1が第1の設定範囲θa内である場合、すなわち、トラクタ1の進行方向212に対して平行移動経路206aがトラクタ1の前方にあり、前進して走行を開始可能である場合には、トラクタ1の移動開始時に、平行移動経路206aに進入させるように、トラクタ1を旋回させる。以降の旋回のタイミングの判別は、図4の場合と同様である。
【0043】
図7に示す移動経路206が生成された場合は、初期角θ1が第1の設定範囲θa外である場合、すなわち、トラクタ1の進行方向212に対して直角移動経路206bがトラクタ1の後方にあり、後進して走行を開始すべき場合には、トラクタ1は後進を行うが、後進中に、直角移動経路206bまでの距離が旋回半径r1に到達した場合に、直角移動経路206bに進入するように、トラクタ1の前進と旋回を開始させる。すなわち、平行移動経路206aをトラクタ1が後進する場合は、平行移動経路206aと直角移動経路206bとの交点を一度通過した後に、旋回半径r1に達すると、トラクタ1が前進しながら旋回する。
なお、図4図7に示す場合において、直角移動経路206bをトラクタ1が走行中に、作業開始位置203aを通過する作業経路203の延長線203c上までの距離が旋回半径r1の距離に到達した場合に、作業開始位置203aに向けて進入するようにトラクタ1の旋回を開始させる。
【0044】
作業機の制御手段CA6は、作業機2の稼働(作動、停止)を制御する。実施の形態の作業機の制御手段CA6は、トラクタ1が移動経路206や旋回経路204を移動中は作業機2を停止、上昇させ、トラクタ1が作業経路203を移動中は作業機2を作動、下降させる。
【0045】
(実施の形態の作用)
前記構成を備えた実施の形態のトラクタ1の制御システムSでは、作業領域202の外側の枕地領域207A,207Bにあるトラクタ1の位置や向きに応じて、移動経路206が自動的に生成される。そして、生成された移動経路206に沿って、作業開始位置203aまで自律的にトラクタ1が走行し、作業開始位置203aからは作業経路203に沿って走行して作業を行う。よって、作業開始位置203aまでトラクタ1を作業者が運転して移動させなくても、遠隔操作で作業開始位置203aまで移動させることができる。
【0046】
なお、実施の形態のトラクタの制御システムSにおいて、作業経路203等の生成をタブレット端末TABで行い、移動経路206の生成をトラクタ1で行う構成を例示したがこれに限定されない。各経路203,204,206の生成をタブレット端末TABで行ったり、トラクタ1で行ったり、サーバ101で行ったりすることが可能である。このとき、特定の装置で集中処理することも可能であるが、複数の装置で分散処理することも可能である。
また、例えば、作業開始位置203aは、作業者が入力する構成を例示したが、作業開始位置203aも自動生成する構成とすることも可能である。
【符号の説明】
【0047】
1…作業車両、
2…作業機、
201…圃場、
202…作業領域、
203…作業経路、
203a…作業開始位置、
203b…作業開始位置における作業車両の進行方向のベクトル、
206…移動経路、
206a…第1の移動経路、
206b…第2の移動経路、
206c…後進移動経路、
207A,207B…枕地領域、
207a…基準辺、
207b…作業開始位置に近いほうの辺、
207e…基準辺の対辺、
208…第1の延長線、
209…第2の延長線、
210…作業車両の位置、
211…作業車両の位置と作業開始位置とを結ぶベクトル、
212…移動開始位置における作業車両の進行方向のベクトル、
CA,CB…制御部、
CA1…測位手段、
CA2…方向取得手段、
r1…旋回半径、
S…作業車両の制御システム、
TAB…指示装置、
θ1,θ2…なす角、
θa,θb…予め定められた範囲。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7