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特許7457895糖鎖結合性一本鎖抗体およびその作製方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-21
(45)【発行日】2024-03-29
(54)【発明の名称】糖鎖結合性一本鎖抗体およびその作製方法
(51)【国際特許分類】
   C07K 16/00 20060101AFI20240322BHJP
   C40B 60/10 20060101ALI20240322BHJP
   C12P 21/08 20060101ALI20240322BHJP
   G16B 35/00 20190101ALI20240322BHJP
   C12N 1/21 20060101ALN20240322BHJP
   C12N 15/13 20060101ALN20240322BHJP
   C40B 40/10 20060101ALN20240322BHJP
【FI】
C07K16/00 ZNA
C40B60/10
C12P21/08
G16B35/00
C12N1/21
C12N15/13
C40B40/10
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019091686
(22)【出願日】2019-05-14
(65)【公開番号】P2019199472
(43)【公開日】2019-11-21
【審査請求日】2022-05-12
(31)【優先権主張番号】P 2018093399
(32)【優先日】2018-05-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504258527
【氏名又は名称】国立大学法人 鹿児島大学
(73)【特許権者】
【識別番号】307011381
【氏名又は名称】株式会社スディックスバイオテック
(73)【特許権者】
【識別番号】300071579
【氏名又は名称】学校法人立教学院
(73)【特許権者】
【識別番号】507219686
【氏名又は名称】静岡県公立大学法人
(72)【発明者】
【氏名】隅田 泰生
(72)【発明者】
【氏名】常盤 広明
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 創平
(72)【発明者】
【氏名】中野 祥吾
(72)【発明者】
【氏名】新地 浩之
【審査官】松井 一泰
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-100116(JP,A)
【文献】MUCHIMA, Kaname et al.,Development of sugar chain-binding single-chain variable fragment antibody to adult T-cell leukemia cells using glyco-nanotechnology and phage display method,J. Biochem.,2018年01月17日,163(4),pp. 281-291
【文献】MUZARD, Julien et al.,Design and humanization of a murine scFv that blocks human platelet glycoprotein VI in vitro,FEBS J.,2009年,276,pp. 4207-4222
【文献】CHEN, Wei et al.,Improved Isolation of Anti-rhTNF-α scFvs from Phage Display Library by Bioinformatics,Mol Biotechnol,2009年,43,pp. 20-28
【文献】ROSANO, German L. et al,Recombinant protein expression in Escherichia coli: advances and challenges,Front. Microbiol.,2014年,vol. 5, 172
【文献】ZHANG, Xiuyuan et al.,Construction of a Single Chain Variable Fragment Antibody (scFv) against Carbaryl and Its Interaction with Carbaryl,Biochemistry,2015年,Vol. 80, No. 5,pp. 640-646
【文献】ZARSCHLER, Kristof et al.,High-yield production of functional soluble single-domain antibodies in the cytoplasm of Escherichia coli,Microb. Cell Fact.,2013年,12:97,pp. 1-13
【文献】大腸菌タンパク質発現系のゴールドスタンダードpETシステム活用のポイント,[RBM023]1705-2K/H,メルク株式会社,2017年,File://ipccdom.local/shareroot/userhomeX$/KDAV/Downloads/RBM023-0426-pETGuide%20(5).pdf
【文献】赤沼哲史,祖先型設計法を用いた耐熱性タンパク質の配列探索,生物物理,2013年,53(3),pp. 128-133
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C40B 10/00
C40B 40/02
C40B 40/06- 40/10
C40B 50/06
C07K 1/00- 19/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
糖鎖結合一本鎖抗体の連結部にアミノ酸置換を導入する糖鎖結合一本鎖抗体の改変抗体配列の設計方法であって、
糖鎖結合一本鎖抗体のアミノ酸配列に対して、統計学手法と祖先型設計法に基づいてアミノ酸置換を行い、糖鎖結合性一本鎖抗体の改変抗体のアミノ酸配列を設計する工程、
前記糖鎖結合性一本鎖抗体の改変抗体の配列のうち、可変部位(CDR)を、前記糖鎖結合一本鎖抗体の配列に置換する工程、
を備える、
糖鎖結合一本鎖抗体の改変抗体配列の設計方法。
【請求項2】
前記統計学手法が、Blastpを用いて、鋳型としたスクリーニングで得られた糖鎖結合一本鎖抗体の類似配列を10000個以上選別し、そこからランダムに選抜した配列からなる配列ペアを1,000個以上作成し、それを統計学的手法を用いて解を行い、得られた結果からアミノ酸残基を特定して、それら残基を有する類似配列のみ選別・抽出する工程を含む、請求項1記載の糖鎖結合一本鎖抗体の改変抗体配列の設計方法。
【請求項3】
糖鎖結合一本鎖抗体の改変抗体の製造方法であって、
請求項1記載の方法によって前記糖鎖結合一本鎖抗体の改変抗体のアミノ酸配列を設計する工程、
設計された前記改変抗体のアミノ酸配列をコードする塩基配列を含むタンパク質発現ベクターにより大腸菌を形質転換する工程、
形質転換された前記大腸菌を用いて前記改変抗体を製造する工程、
を備える、糖鎖結合一本鎖抗体の改変抗体の製造方法
【請求項4】
前記タンパク質発現ベクターが、Mycエピトープタグをコードする配列を含まないタンパク質発現ベクターである請求項3記載の糖鎖結合一本鎖抗体の製造方法。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、癌細胞表層の糖鎖抗原に対して高い結合性を有する一本鎖抗体(scFv)の安定性と特異性を向上させるために、抗体発現遺伝子の遺伝子組み換えとバイオインフォマティクスにより、改変した抗体とそれを作製する手法および硫酸化オリゴ糖鎖に特異的に結合する一本鎖抗体である。
【背景技術】
【0002】
糖鎖は、生体内に普遍的に存在する生体分子で、糖タンパク質や糖脂質、プロテオグリカンのような複合糖質の形で存在する。細胞表層の糖鎖は、糖鎖-タンパク質間や糖鎖-糖鎖同士の相互作用を介して、細胞接着や情報伝達、ウイルスや細菌の感染などに関与し、生体内で極めて多様な生理機能を担う。
【0003】
糖鎖の構造や発現量は、炎症や疾患などの細胞内外の環境変化に応じて、動的に変化することが知られている。細胞のがん化においては、特定の糖鎖の過剰発現や欠損が起きたり、一部が欠損した不完全な構造の糖鎖が出現したりすることがある。また、正常細胞には存在しない糖鎖構造が発現することもあり、がんの進展に伴って、様々な糖鎖の発現変化が起こることが知られている。したがって、がんの進行度や転移性、患者の予後などが予測できると期待されており、疾患特異的に発現する糖鎖をバイオマーカーに利用するための研究が活発に行われている。
【0004】
疾患特異的な糖鎖は、がんマーカーとしての利用だけでなく、分子標的薬開発のための標的分子としても利用されている。疾患特異的な糖鎖に対する分子標的薬は、新たな診断薬や医薬品の開発にも繋がることから、近年盛んに研究されている。一方、抗糖鎖抗体の作製においては、疾患特異的な糖鎖構造の同定が非常に難しいこと、糖鎖の抗原性が低く、実験動物に免疫してハイブリドーマを得る従来の手法では抗体の作製が難しいこと、糖鎖の抗原性を向上させるために、糖脂質への誘導や抗原性タンパク質との複合化などが必要なことなど、技術的に様々な課題があり、簡便且つ効率的に特異性の高い抗糖鎖抗体を作製可能な新たな手法の確立が求められている。
【0005】
一本鎖抗体(scFv)は、抗体の抗原結合部位を含む領域であるFabの重鎖(VH)と軽鎖(VL)から構成される抗体の一種であり、リンカーペプチドによりVHとVL同士がつながった構造を持つ。目的のscFvを探索・単離する有効な手法としてファージディスプレイ法があり、ウイルスの一種であるバクテリオファージ表面にscFvを提示させ、多数のライブラリーの中から特定の抗原に結合するscFv提示ファージを効率的に選別・濃縮することが出来る。得られたscFv提示ファージは、大腸菌のタンパク質発現系を用いて、可溶性のscFvを発現させることができ、産生されたscFvは、ヒスチジンタグ(Hisタグ)等のエピトープタグを用いたアフィニティー精製により、簡便に精製することが出来る。さらには、IgG抗体へと誘導出来るため、特異性の高いヒト由来抗体を作製する技術として大きな注目を集めている。
【0006】
発明者らはこれまでに、効率的に疾患特異的な糖鎖に対する抗体を得る手法の確立するために、ファージライブラリー法と独自のシュガーチップ技術(特許文献1、非特許文献1、2)を用いて、成人T細胞白血病(ATL)に対する抗糖鎖抗体の開発を行ってきた。即ち、ATL患者より樹立した細胞株であるS1T細胞表層のO-型糖鎖を遊離させ、独自のリンカー化合物と複合化後、ファイバー型シュガーチップを作製し、S1T細胞表層のO-型糖鎖に結合するscFv提示ファージを選別することで、ATL細胞に強く結合するscFv(S1TSCFR3-1)を得ることに成功している(特許文献2、非特許文献3)。一方、大腸菌のタンパク質発現系を用いてファージミドからscFvを調製すると、約1ヶ月後には、細胞への結合性を観察できなくなるため、安定性に欠けることが課題であった。また、S1TSCFR3-1が結合する糖鎖の構造を、有機化学的に合成されたO-型糖鎖部分二糖構造のライブラリーを固定化したシュガーチップ用いて解析したところ、高硫酸化されたグリコサミノグリカン(GAG)鎖の複数の構造に結合性を示し、その特異性が十分に高くないことも課題であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特許第5278992号
【文献】特開2014-100116
【非特許文献】
【0008】
【文献】Wakao M., et al., Bioorg. Med. Chem. Lett. 18:2499-2504(2008)
【文献】Wakao M., et al., Anal. Chem. 17:1086-1091(2017)
【文献】Muchima K., et al., J. Biochem. 163:281-291(2018)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
これまでに得られたS1TSCFR3-1と命名したscFvは、安定性に欠け、約一ヶ月保存後には、細胞への結合性が観察できなくなること、および高硫酸化された複数の構造のGAG鎖に結合し、特異性が十分に高くないことが課題であった。これらは、以下が原因だと考えられた。即ち、scFvの細胞への結合性を観察できなくなるのは、ファージにscFvを発現させるために組み込まざるをえないエピトープタグペプチドの一部がscFvの立体構造に巻き込まれてしまうこと、あるいはscFvの立体構造自体を、時間経過に伴い変化させてしまうこと、また糖鎖への特異性が十分に高くないのは、scFvのわずかな立体構造の変化(立体構造のゆらぎ)により、抗原結合部位となる相補性決定領域(CDR)の立体構造がゆらぐため、糖鎖への特異性が低下することが考えられた。したがって、これらを改善することで、scFvの安定性と糖鎖特異性を改善できると考えられた。
【0010】
我々は、このような背景に立脚して研究を開始し、scFvの安定性と糖鎖特異性を向上させるために、以下を行った。scFvの安定性を改善するために、pET発現システムを用いた遺伝子組み換えにより、scFvのエピトープタグの一部であるMycエピトープタグを除去したscFvを調製した。scFvの糖鎖特異性を向上させるために、バイオインフォマティクスにより、抗原結合部位となるCDRのアミノ酸配列は改変せず、構造安定性に寄与するフレームワーク領域(FR)のアミノ酸配列を改変したscFvを設計し、遺伝子組み換えと大腸菌による発現システムを使用して、新たなscFvを16種類調製した。その結果、scFvの安定性と、糖鎖特異性を向上させることに成功し、安定且つGlcNS3S6S-GlcA2S構造に高い特異性を示す、pET-TM-4および安定且つGlcNS3S6S-IdoA2S構造に高い特異性を示す、p-TM-4が得られた。
【0011】
本発明は、上記従来の問題点に鑑みてなされたものであって、その目的は、癌細胞表層に発現する糖鎖抗原に結合するscFvの安定性と特異性を向上させるために、scFvのエピトープタグの一部であるMycエピトープタグを除去したscFv、およびそれを調製する手法とバイオインフォマティクスにより、scFvの立体構造を安定化した改変抗体を設計し、抗体発現遺伝子の遺伝子組み換えにより、糖鎖特異性を高めた改変抗体、およびそれを作製する手法を提供することにある。特に、硫酸化オリゴ糖鎖に対する抗体は、オリゴ糖鎖の硫酸基による負電荷が大きく、抗体の親和性に影響するため、オリゴ糖鎖の構造を厳格に区別することは困難であったが、本発明はそれをも解決した。
本発明は、例えば、遺伝子組み換えとバイオインフォマティクスにより、scFv提示ファージのライブラリーから、スクリーニングにより得られたATL細胞特異的に発現する糖鎖に結合するscFvの安定性を改善し、特定の糖鎖構造に高い選択性を示すscFvを調製することで、ATLに対する新規診断薬・治療薬を提供することができる。また、極めて厳格に硫酸化オリゴ糖鎖の構造を認識する抗体が得られるので、ATL以外の癌細胞を検出するためのバイオマーカーや、治療薬としての応用も期待できる。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係る糖鎖結合性scFvの安定性と糖鎖特異性の改善は、pET発現システムを用いた遺伝子組み換えにより、scFvのエピトープタグの一部であるMycエピトープタグを除去したscFvを調製すること、またバイオインフォマティクスにより、scFv提示ファージのライブラリーからスクリーニングにより得られた糖鎖結合性scFvの改変抗体を設計し、遺伝子組み換えにより改変抗体遺伝子を作製後、大腸菌のタンパク質発現システムを用いて、特異性の高い改変抗硫酸化糖鎖抗体を作製することを特徴としている。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る遺伝子組み換えとバイオインフォマティクスによる糖鎖結合性scFvの改変は、スクリーニングにより得られた糖鎖結合性scFvの安定性と特異性を向上させることができる。
本発明の遺伝子組み換えとバイオインフォマティクスによる糖鎖結合性scFvの改変は、安定且つ特異性の高い改変抗体を作製する手法として、医薬品開発の現場での利用が大いに期待される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】S1TSCFR3-1発現遺伝子のpET-28b(+)ベクターへの挿入の概略を示す図である。
図2】pET-S1TSCFR3-1発現遺伝子の調製の概略を示す図である。
図3】S1T細胞およびMOLT-4細胞を用いたフローサイトメトリーにより評価したpET-S1TSCFR3-1の安定性を示す図である。
図4】pET-TM-1~pET-TM-8の8種類のscFvをコードする遺伝子の塩基配列を示す。
図5】pET-TM-1~pET-TM-8の8種類のscFvをコードする遺伝子の塩基配列から推定したアミノ酸配列を示す。
図6】pET-TM-4を用いたS1T細胞およびMOLT-4細胞に対する結合性解析の結果を示す。
図7】SPRイメージングによる糖鎖結合性解析に使用したシュガーチップの糖鎖マップを示す。
図8】pET-S1TSCFR3-1とpET-TM-4を用いたSPRイメージングによる糖鎖結合性解析の結果を示す。
図9】S1TSCFR3-1発現遺伝子のpET-26b(+)ベクターへの挿入の概略を示す図である。
図10】p-TM-1~p-TM-8の8種類のscFvをコードする遺伝子の塩基配列を示す。
図11】p-TM-1~p-TM-8の8種類のscFvをコードする遺伝子の塩基配列から推定したアミノ酸配列を示す。
図12】p-TM-1~p-TM-4を用いたS1T細胞およびMOLT-4細胞に対する結合性解析の結果を示す。
図13】p-TM-1~p-TM-4を用いたSPRイメージングによる糖鎖結合性解析の結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に本発明について詳述する。scFvの安定性は、pET発現システムを用いた遺伝子組み換えにより、scFvのエピトープタグの一部であるMycエピトープタグを除去したscFvを調製することで改善することができる。糖鎖特異性を向上させた改変抗体は、次のように調製することができる。scFv提示ファージのライブラリーから、スクリーニングによりscFv提示ファージを得る。これらのscFv発現遺伝子配列に対して、GenBankに登録されている抗体ライブラリーのアミノ酸配列をもとにした統計学的知見と生物進化に従って変化してきたアミノ酸をもとにした進化学的知見に基づくバイオインフォマティクスにより、FRのアミノ酸配列を改変したscFv発現遺伝子を設計する。次に、scFv提示ファージのプラスミドを、制限酵素で消化し、scFv発現遺伝子の遺伝子断片(プラスミドインサート部)を得る。得られた遺伝子断片を、タンパク質発現用ベクター(プラスミドベクター)に組み込み、scFv発現遺伝子を有するプラスミドを構築する。その後、塩基配列の1箇所に変異を導入したプライマーを用いたPCRにより、プラスミドの全配列を増幅することで、特定の塩基配列に変異を導入した新規のプラスミドを調製する。得られたプラスミドを、大腸菌に形質転換し、タンパク質を強制発現させることで、scFvを調製することができる。
【0016】
(1-1.糖鎖結合性scFv発現遺伝子のタンパク質発現用ベクターへの組み込み)
糖鎖結合性scFv発現遺伝子のタンパク質発現用ベクターへの組み込みは、scFv提示ファージのライブラリーからスクリーニングにより得られた糖鎖結合性scFvを、制限酵素消化し、得られたプラスミドインサート部を、プラスミドベクターに組み込むことで行うことができる。
【0017】
scFv発現遺伝子からなるプラスミドインサート部は、scFv提示ファージのプラスミドを、タンパク質発現用ベクターと、共通する2種類の制限酵素を用いて消化することで、調製することができる。
【0018】
プラスミドベクターは、プラスミドインサート部の調製に用いた2種類の制限酵素でタンパク質発現用ベクターを消化することにより、調製することができる。
【0019】
なお、タンパク質発現用ベクターと共通の制限酵素を使用できない場合、遺伝子組み換えを行うことができない。そのため、scFv発現遺伝子を、タンパク質発現用ベクターと、共通の制限酵素認識配列を有するTAクローニングベクター等に組み込むことや、PCRを用いて点変異を導入することで、共通の制限酵素を組み込む必要がある。
【0020】
プラスミドインサート部と、プラスミドベクターが得られれば、DNA Ligation Kitを用いて連結し、pETベクターに組み込まれたscFv発現遺伝子を有するプラスミドを構築することができる。
【0021】
得られたscFv発現遺伝子を有するプラスミドは、大腸菌BL21(DE3)株等に形質転換し、イソプロピル-β-チオガラクトピラノシド(IPTG)を用いて、scFvの発現を誘導する。
【0022】
タンパク質発現用ベクターにpET-28b(+)vectorを用いた場合、菌体内発現用ベクターであるため、発現したタンパク質の多くが不活性な不溶性の封入体として細胞質内に産生される。そのため、不溶性のタンパク質を可溶化し、還元後、リフォールディングすることで正しい立体構造を持つであろう活性型のscFvを調製することができる。
【0023】
タンパク質発現用ベクターにpET-26b(+)vectorを用いた場合、ペリプラズム輸送シグナルを有するため、発現したタンパク質は、可溶性のscFvとしてペリプラズム領域に輸送される。そのため、大腸菌を超音波の照射、または浸透圧変化によって破砕後、リフォールディングせずに、可溶性のscFvを得ることができる。
【0024】
なお、上記タンパク質発現用ベクターとしては、特に限定されるものではないが、例えば、pET-28b(+)vector、pET-26b(+)vector、pET-21b(+)vector等を挙げることができる。
【0025】
上記制限酵素としては、特に限定されるものではないが、例えば、HindIII、NotI、BsmBI等を挙げることができる。
【0026】
(1-2.糖鎖結合性scFvの改変抗体の設計)
改変抗体の設計に関しては、以下に示す手順により行った。なお以下の設計を行うにあたり、S1TSCFR3-1のアミノ酸配列を鋳型として用いた。実際の操作条件及び方法は実施例に詳述する。
(1)Blastpを用いて、S1TSCFR3-1類似配列を11724個選別する。
(2)鋳型としたS1TSCFR3-1と、(1)で選別した配列からランダムに5~10個、選抜した配列からなる配列ペアを1,000個以上作成し、それをINTMSAlign(Shogo Nakano and Yasuhisa Asano, Sci. Rep., 5, 8193, 2015)により統計学的手法を用いて解析を行う。
(3)(2)の手法を用いて得られた結果から、以下6つのアミノ酸残基(12、23、32、41、54及び82位がVal、Ser、Val、Gln、Pro及びGlu)を特定、それら残基を有する類似配列のみ選別し、67個の配列を抽出する。
(4)(2)で抽出した配列を用いて祖先型設計法を用いて、改変抗体の配列設計を行う。
(5)(3)で設計した改変抗体のCDRのアミノ酸配列を、スクリーニングで得られた糖鎖結合性scFv(S1TSCFR3-1)のものに置換することで、改変抗体の配列設計を完了した。
【0027】
(1-3.糖鎖結合性scFvの改変抗体の調製)
バイオインフォマティクスにより設計した改変抗体は、タンパク質発現用ベクターに組み込まれたscFv発現遺伝子を有するプラスミドを大腸菌に形質転換後、タンパク質を強制発現させることで、調製することができる。
【0028】
タンパク質発現用ベクターに組み込まれたscFv発現遺伝子を有するプラスミドは、人工合成、または、塩基配列の1箇所に変異を導入したプライマーを用いたPCRにより、プラスミドの全配列を増幅することで、調製することができる。
【0029】
変異箇所の異なるプライマーを用いたPCRにより、scFv発現遺伝子を有するプラスミドに、順に点変異を導入することができる。点変異が導入されたプラスミドは、大腸菌に形質転換してタンパク質を強制発現させることで、scFvを調製することができる。
【0030】
以下、本発明を実施例に基づき詳細に説明するが、本発明は何らこれらに限定されるものではない。
【0031】
[実施例1:ファージプラスミド由来S1TSCFR3-1発現遺伝子のタンパク質発現用ベクターpET-28b(+)ベクターへの挿入]
図1は、S1TSCFR3-1発現遺伝子のpET-28b(+)ベクターへの挿入の概略を示す図である。
【0032】
S1TSCFR3-1発現遺伝子を有するバクテリオファージが感染した大腸菌HB2151株の単コロニーを、2YTAG液体培地5mLに加え、37℃で一晩振とう培養し、オーバーナイトカルチャーを調製した。QIAprep Spin Miniprep Kit(QIAGEN社製)を用いて、得られたオーバーナイトカルチャーよりプラスミドを抽出した。抽出したプラスミドは、エタノール沈殿法により精製し、プラスミド溶液を得た。
【0033】
プラスミドのS1TSCFR3-1発現遺伝子を、Ex Taq(タカラバイオ社製)を用いたPCRにより増幅した。得られたそれぞれのPCR産物は、1.0%アガロースゲルを用いた電気泳動により分離し、750bp付近のバンドをPureLink Gel Extraction Kit(Thermo Fisher Scientific社製)を用いてそれぞれ抽出した。
【0034】
S1TSCFR3-1発現遺伝子(10ng/μL、1μL)のPCR産物と、TA-Cloning Kit(タカラバイオ社製)付属のpMD20T-vector(50ng/μL、1μL)、RNase free water(3μL)を混合し、Ligation Mighty Mix(5μL)を加え、16℃で24時間インキュベートすることでS1TSCFR3-1発現遺伝子を、pMD20T-vectorに組み込んだ。得られた組換えプラスミドは、ヒートショック法により、大腸菌JM109株へ形質転換した。形質転換体の解析は、TaKaRa Ex Taqを用いたコロニーPCRおよびDNA Sequence解析によって行った。
【0035】
TA-Cloning Kitを用いて調製したS1TSCFR3-1発現遺伝子を有するプラスミドが形質転換された大腸菌JM109株から、QIAprep Spin Miniprep Kitを用いて、プラスミドを抽出し、制限酵素消化した。プラスミド(1μg、2μL)にHindIII溶液(1unit、8μL)を加え、37℃で12時間インキュベート後、Not I溶液(1unit、10μL)を用いて37℃で12時間インキュベートした。その後、1.0%アガロースゲルを用いた電気泳動により分離し、750bp付近のバンドを、PureLink Gel Extraction Kitを用いて抽出し、エタノール沈殿法により精製することでプラスミドインサート部を得た。
【0036】
pET-28b(+)ベクターを制限酵素消化した。pET-28b(+)ベクター(1μg、2μL)にHindIII溶液(1unit、8μL)を加え、37℃で12時間インキュベート後、Not I溶液(10μL)を加え、37℃で12時間インキュベートした。その後、1.0%アガロースゲルを用いた電気泳動により分離し、約5,000bpのバンドをPureLink Gel Extraction Kitを用いて抽出し、エタノール沈殿法により精製することでプラスミドベクターを得た。
【0037】
プラスミドインサート部とプラスミドベクターの連結反応は、DNA Ligation Kit Ver2.1(タカラバイオ社製)の推奨プロトコールに従って行った。プラスミドベクター(7.5fmol、1μL)とプラスミドインサート部(37.5fmol、0.85μL)を混合し、キット付属のSolution I(1.85μL)を加え、16℃で24時間インキュベートすることで組換えプラスミド溶液を得た。得られた組換えプラスミドは、ヒートショック法により、大腸菌BL21(DE3)株へ形質転換した。
【0038】
[実施例2:pET-S1TSCFR3-1の調製]
図2は、pET-S1TSCFR3-1発現遺伝子の調製の概略を示す図である。
【0039】
実施例2で調製した遺伝子組換えプラスミドを形質転換した大腸菌BL21(DE3)株のシングルコロニーを、LBK液体培地(5mL)に加え、37℃で一晩振とう培養することでオーバーナイトカルチャーを得た。これらは、それぞれ新しいLBK液体培地に加え、37℃でさらに1時間振とう培養した。培地交換のため、遠心分離(3,000×g、10分)し、上清を除去後、LBKI液体培地(50mL/サンプル)を加え、30℃で20時間振とう培養した。その後、培養液を遠心分離(3,000×g、20分、4℃)し、沈殿物を回収した。沈殿物に1×TES(2mL)を加えて懸濁後、氷冷しながら5分間静置した。その後、1/5×TES(4.5mL)を加え、氷冷しながらさらに30分間静置した。次いで、超音波ホモジナイザーを用いて超音波照射(10秒)と氷冷(1分)を3回繰り返すことで、大腸菌を破砕した。大腸菌破砕液は、遠心分離(15,000×g、5分、4℃)により可溶性画分と不溶性画分に分離した。
【0040】
不溶性のタンパク質画分に、0.3%Tween 20含有トリス緩衝液(50mM Tris-HCl、200mM NaCl、pH8.0、25mL)を加え、懸濁した。得られた懸濁液を遠心分離(5,800×g、30分、4℃)し、上清を除去した。この操作を3回繰り返した。その後、トリス緩衝液(50mM Tris-HCl、200mM NaCl、pH8.0、25mL)に再懸濁し、得られたタンパク質溶液を、トリス緩衝液を加えて、3mg/mLに調製した。その後、タンパク質溶液を遠心分離(5,800×g、30分、4℃)し、沈殿物を回収した。得られた沈殿物に6Mグアニジン塩酸塩を加え、一晩静置(4℃)し、タンパク質を可溶化した。
【0041】
可溶化後のタンパク質をリフォールディングし、scFvを調製した。リフォールディングに用いる希釈液は、グアニジン塩酸塩溶液(8M、1.9mL)、グリセロール(100%、22.5mL)、Tris-HCl溶液(30mM、pH8.0、2.5mL)を超純水(45.6mL)に混合することで調製した。
別途、可溶化したタンパク質溶液(2.5mL)に水素化ホウ素ナトリウム水溶液(9.5μL)を加え、暗所で4時間静置し、タンパク質を還元処理した。この溶液を、先に調製した希釈液(72.5mL)に撹拌しながらゆっくりと滴下し、4℃で24時間以上撹拌することでリフォールディングした。得られたscFvは、ニッケルアフィニティークロマトグラフィーにより精製した。
【0042】
[実施例3:scFvの細胞結合性解析]
S1T細胞またはMOLT-4細胞の細胞培養液を回収し、遠心分離(700rpm、5分)後、培養上清を除去し、細胞数が1×10^6個/mLになるようにPBSを加え、細胞懸濁液を調製した。続いて、細胞懸濁液(1mL)をエッペンチューブに移し、遠心分離(1500rpm、5分)後、上清を除去し、scFv溶液(10μg/mL、20μL)を加え、氷冷下で30分間静置した。その後、PBS(1mL)を加え、遠心分離(1500rpm、5分)し、沈殿物をPBSで洗浄した。次に、遠心分離(1500rpm、5分)後、PBSで500倍希釈したAnti-His Antibody(100μL)を加え、氷冷下で30分間静置した。PBS(900μL)を加え、遠心分離(1500rpm、5分)後、沈殿物をPBSで洗浄した。続いて、遠心分離(1500rpm、5分)後、沈殿物を500倍希釈したAnti-Mouse Ig-FITC(100μL)で懸濁し、氷冷下で30分間静置した。その後、PBS(900μL)を加え、遠心分離(1500rpm、5分間)し、沈殿物をPBSで洗浄した。遠心分離(1500rpm、5分)後、沈殿物をPBS(500μL)で細胞を懸濁し、フローサイトメトリー解析(励起光:488nm、蛍光検出:525 nm)を行った。
【0043】
図3は、S1T細胞およびMOLT-4細胞を用いたフローサイトメトリーにより評価したpET-S1TSCFR3-1の安定性を示す図である。
【0044】
[実施例4:バイオインフォマティクスによるTM-1~TM-8の設計]
(工程-1)
S1TSCFR3-1のアミノ酸配列(FASTA形式)をクエリー配列とし、以下の手順で類似配列の選別を行った。S1TSCFR3-1の配列をBLASTpの“Enter Query Sequence”に入力した。次に、データベースとしてnon-redundant protein sequence(nr)、AlgorithmとしてBLASTp(http://blast.ncbi.nlm.nih.gov/Blast.cgi?PAGE=Proteins)を選択し、Webサイト上の“Algorithm parameters”のタブをクリックして、Max target sequences 20000、Expected thresholdを1.0E-3を入力した。アラインメントのスコア行列にはBLOSUM62を用い、Organismを“Homo Sapiens”に指定した。その他のパラメータは初期値のまま、検索を実行した。検索完了後に出現した画面について、“Descriptions”の項目が見えるまでスクロールバーを動かしたのち、“Select:”の項目の横にある“All”のタブをクリックした。次いで“Download”のタブをクリックし、“Fasta(complete sequence)”を選択して、“Continue”のタブをクリックして11724個の類似配列を入手し、これを配列ライブラリーとした。
【0045】
(工程-2)
工程-1で取得した配列ライブラリーから5~10個の配列をランダムに選抜し、それに鋳型となるS1TSCFR3-1のアミノ酸配列を加えた配列ペアを作成した。この配列ペアを1,000個以上作成したのち、INTMSAlignを用いて配列の統計解析を行った。S1TSCFR3-1のアミノ酸配列を基準に各アミノ酸残基の出現頻度が計算されたINTMSAlignの出力結果を基に、配列ライブラリー数を100以下にすることが可能なアミノ酸残基の選抜を行った。結果、S1TSCFR3-1の12、23、32、41、54及び82位の6残基を予測した。
【0046】
(工程-3)
S1TSCFR3-1のアミノ酸配列と、工程-1で取得した配列ライブラリー中の配列を、一つずつペアワイズアラインメントを行った。アラインメントを行った配列中に、S1TSCFR3-1のアミノ酸配列を基準として、工程-2で選抜した12、23、32、41、54及び82位がVal、Ser、Val、Gln、Pro及びGluで保存されているかを調べ、6残基が全て保存されている場合に限り、S1TSCFR3-1とペアを作った配列として抽出して保存した。最終的に67個の配列を抽出した。
【0047】
(工程-4)
工程-3で抽出した配列を、マルチプルシークエンスアラインメント用のソフトウェア、MAFFT(Katoh, K. and Toh, H., Brief Bioinform, 9, 286-98, 2008)を用いてアラインメントを行った。アラインメントの結果をソフトウェア、MEGA6(Tamura, K. et al., Mol. Biol. Evol., 30, 2725-2729, 2013)を用いて系統解析を行い、最尤法を用いて系統樹を作成した。作成したアラインメントと系統樹のデータを、祖先型配列設計ソフトウェア、FASTML(http://fastml.tau.ac.il/)を用いて解析し、S1TSCFR3-1の祖先型配列を得た。
【0048】
(工程-5)
工程-4で設計した祖先型配列とS1TSCFR3-1のアミノ酸配列についてペアワイズアラインメントを行った。S1TSCFR3-1の可変領域をコードする配列を祖先型配列に移植することで、改変抗体TM-1~TM-8の8種類を設計した。
【0049】
[実施例5:pET-TM-1~pET-TM-8の調製]
pET-TM-1プラスミドは、Gen Script社より購入し、pET-28b(+)ベクターにTM-1発現遺伝子を組み込んだプラスミドを人工合成により作製した。pET-TM-2~pET-TM-8の7種類は、pET-TM-1に順に点変異を導入することで調製した。まず、pET-TM-1発現遺伝子を有するプラスミドを形質導入した大腸菌BL21(DE3)株よりプラスミドを抽出した。その後、PrimeSTAR Max DNA Polymerase(タカラバイオ社製)を用いたPCRによりプラスミドの全配列を増幅した。この際、プライマーに、点変異を導入したフォワードプライマーと、リバースプライマーと、をそれぞれ用いた。得られたPCR産物(10ng/μL、1μL)は、ヒートショック法により、大腸菌BL21(DE3)株のコンピテントセルへ形質転換した。その後、大腸菌からプラスミドを抽出し、PrimeSTAR Max DNA Polymeraseを用いてPCRを行い、次の点変異を導入した。この操作を繰り返すことで順番に点変異を導入した。得られたpET-TM-1~pET-TM-8の発現遺伝子は、実施例2に記載の手法で、タンパク質の発現を誘導し、scFvを調製した。
【0050】
図4に、pET-TM-1~pET-TM-8をコードする遺伝子の塩基配列を示す。
【0051】
図5に、pET-TM-1~pET-TM-8をコードする遺伝子の塩基配列から推定したアミノ酸配列を示す。
【0052】
図6に、pET-TM-4を用いたS1T細胞およびMOLT-4細胞に対する結合性解析(1次抗体:Anti-His-Tag antibody、2次抗体:Anti-mouse IgG FITC antibody、Ex.488nm、Em.530±15nm)の結果を示す。
【0053】
[実施例6:scFvの糖鎖結合性解析]
ニッケルアフィニティークロマトグラフィーにより精製したscFvの溶出液(0.3mL)にPBS-T(2.7mL)を加えた。Amicon Ultra-0.5mL(MWCO:10k)を用いて約10倍に濃縮し、scFvの溶媒をPBS-Tへ置換した。
図7に糖鎖マップを示す一連のGAG二糖部分構造が固定化されたアレイ型シュガーチップは、マッチングオイル(ND=1.700)を使ってプリズムに固定した。ランニングバッファーにはPBS-Tを使用し、流速は150μL/minに設定した。SPRイメージング解析は、以下のように行った。まず、PBS-Tで70秒間チップを洗浄し、scFvのPBS-T溶液(113nM、225nM)を4分間循環させた。その後、PBS-Tに置換し、2分間洗浄した。次に、10mM NaOH水溶液に洗浄し、再びPBS-Tに置換し、2分間洗浄した。この一連の操作を繰り返してSPRイメージング解析を行った。データ解析には、MultiSPRinter analytic program(東洋紡社製)を用い、scFvのPBS-T溶液を循環後、PBS-Tに置換し、2分間滞在した後の結果を解析した。
【0054】
図8に、GAG二糖部分構造ライブラリーを固定化したシュガーチップを用いたSPRイメージングによるpET-S1TSCFR3-1とpET-TM-4の糖鎖結合性解析の結果を示す。
【0055】
[実施例7:p-TM-1~p-TM-8の調製]
図9は、p-TM-1~p-TM-8の8種類のscFv発現遺伝子の調製の概略を示す図である。
【0056】

p-TM-1~p-TM-8は、pET-TM-1~pET-TM-8のscFv発現遺伝子領域をpET-26b(+)ベクターに組み換えすることで調製した。pET-TM-1~pET-TM-8のscFv発現遺伝子を有するプラスミドを形質導入した大腸菌BL21(DE3)株よりQIAprep Spin Miniprep Kitを用いてそれぞれプラスミドを抽出した。その後、PCRによりNcoI認識配列をそれぞれのプラスミドに導入した。得られた部位特異的変異導入により制限酵素認識部位(NcoI)が導入されたプラスミドは、ヒートショック法により大腸菌BL21(DE3)株へ形質転換した。次に、プラスミドが形質転換された大腸菌からQIAprep Spin Miniprep Kitを用いて、プラスミドを抽出した。プラスミド(1μg、5μL)に制限酵素のNcoIとNotI溶液(5μL)を加え、37℃で16時間インキュベートした。その後、1.0%アガロースゲルを用いた電気泳動により分離し、740bp付近のバンドをMonarch DNA Gel Extraction Kitを用いて抽出し、エタノール沈殿法により精製することでプラスミドインサート部を得た。
【0057】
pET-26b(+)vectorの制限酵素消化は、pET-26b(+)vector(1μg、26μL)に制限酵素のNcoIとNotI溶液(5μL)を加え、37℃で16時間インキュベートした。その後、1.0%アガロースゲルを用いた電気泳動により分離し、5,000bp付近のバンドを切り出し後、Monarch DNA Gel Extraction Kitを用いて抽出し、エタノール沈殿法により精製することでプラスミドベクターを得た。
プラスミドインサート部とプラスミドベクターとの連結反応は、DNA Ligation Kit Ver2.1の推奨プロトコールに従って行った。プラスミドベクター(5.7fmol、2.5μL)とプラスミドインサート部(28.5fmol、2.65μL)を混合し、キット付属のSolution I(1.85μL)を加え、16℃で24時間インキュベートすることで組換えプラスミド溶液を得た。
【0058】
大腸菌BL21(DE3)株またはRosetta-gami2(DE3)株のコンピテントセル溶液(20μL)と調製した遺伝子組換えプラスミド溶液(10μL)を混合し、30分間氷冷した。次いで、42℃で45秒間加熱処理し、2分間氷冷後、菌体懸濁液にLB液体培地(80μL)を加え、37℃で1時間振盪培養(180rpm)した。得られた培養液(100μL)をLB/Kan寒天培地に播種し、37℃で一晩培養することで、組換えプラスミドが形質転換された大腸菌のシングルコロニーを得た。
【0059】
scFv発現遺伝子を有するプラスミドを形質転換した大腸菌BL21(DE3)株またはRosetta-gami2(DE3)株のシングルコロニーをLB/Kan液体培地(5mL)に加え、37℃で一晩振とう培養することでオーバーナイトカルチャーを得た。このオーバーナイトカルチャー(5mL)を新しいLB/Kan液体培地(50mL)に加え、37℃でさらに1時間振とう培養した。IPTG溶液(50μL、1mM)を加え、30℃で20時間振とう培養した。その後、培養液を遠心分離(3,000×g、20分、4℃)し、大腸菌を含む沈殿物を回収した。可溶性のscFvは、以下に示す、超音波による大腸菌の破砕、または、浸透圧を変化させて大腸菌を破砕することで回収した。超音波による大腸菌の破砕の場合は、沈殿物に1×TES(2mL)を加えて懸濁後、氷冷しながら5分間静置した。その後、1/5×TES(0.7mL)を加え、氷冷しながらさらに30分間静置した。次いで、氷冷下で超音波ホモジナイザーを用いて5分間超音波照射し、大腸菌を破砕した。浸透圧を変化させて大腸菌を破砕する場合は、沈殿物を1×TES(1mL)に懸濁し、氷冷しながら2時間静置した。さらに、1/5×TES(2mL)加え、氷冷しながら1時間静置することで、大腸菌を破砕した。大腸菌破砕液は遠心分離(7,500×g、15分、4 ℃)により可溶性画分と不溶性画分に分離した。可溶性画分に含まれるscFvは、ニッケルアフィニティクロマトグラフィーにより精製した。
【0060】
図10に、p-TM-1~p-TM-8をコードする遺伝子の塩基配列を示す。
【0061】
図11に、p-TM-1~p-TM-8をコードする遺伝子の塩基配列から推定したアミノ酸配列を示す。
【0062】
図12に、p-TM-1~p-TM-8を用いたS1T細胞およびMOLT-4細胞に対する結合性解析(1次抗体:Anti-His-Tag antibody、2次抗体:Anti-mouse IgG FITC antibody、Ex.488nm、Em.530±15nm)の結果を示す。
図13に、GAG二糖部分構造ライブラリーを固定化したシュガーチップを用いたSPRイメージングによるp-TM-1~p-TM-4の糖鎖結合性解析の結果を示す。
【0063】
以上から、遺伝子組み換えとバイオインフォマティクスにより糖鎖結合性scFvの安定性と硫酸化オリゴ糖鎖への結合特異性が向上したこと、さらに大腸菌の発現システムを利用することで可溶性の糖鎖結合性scFvが得られることが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0064】
以上の結果より、本発明に係る遺伝子組み換えとバイオインフォマティクスによる糖鎖結合性scFvの安定性と特異性の改善ついては、安定且つ特異性の高い改変抗体を作製する手法として、医薬品開発の現場での利用可能性が大いに期待される。
図1
図2
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図5
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