(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-21
(45)【発行日】2024-03-29
(54)【発明の名称】粉末組成物、粉末組成物を用いて粉末床溶融結合方式によって三次元造形物を製造する方法、および三次元造形物
(51)【国際特許分類】
B29C 64/314 20170101AFI20240322BHJP
B29C 64/153 20170101ALI20240322BHJP
B29C 64/165 20170101ALI20240322BHJP
B33Y 70/10 20200101ALI20240322BHJP
B33Y 10/00 20150101ALI20240322BHJP
B33Y 80/00 20150101ALI20240322BHJP
C08L 77/00 20060101ALI20240322BHJP
【FI】
B29C64/314
B29C64/153
B29C64/165
B33Y70/10
B33Y10/00
B33Y80/00
C08L77/00
(21)【出願番号】P 2022112920
(22)【出願日】2022-07-14
【審査請求日】2022-12-23
(31)【優先権主張番号】P 2021116833
(32)【優先日】2021-07-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2022072997
(32)【優先日】2022-04-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091384
【氏名又は名称】伴 俊光
(74)【代理人】
【識別番号】100125760
【氏名又は名称】細田 浩一
(72)【発明者】
【氏名】中村 友彦
(72)【発明者】
【氏名】岩田 寛和
(72)【発明者】
【氏名】松本 悟史
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 圭
(72)【発明者】
【氏名】蔵田 充
(72)【発明者】
【氏名】西田 幹也
(72)【発明者】
【氏名】吉川 貴浩
(72)【発明者】
【氏名】浅野 到
【審査官】▲高▼橋 理絵
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2021/090768(WO,A1)
【文献】特表2020-536153(JP,A)
【文献】特開2018-196983(JP,A)
【文献】特開2021-053887(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 64/00-64/40
B33Y 10/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアミド粉末(A)
、無機強化材(B)
およびD50粒子径が、100nm以上300nm以下である流動助剤(C)を含む粉末組成物であって、前記ポリアミド粉末(A)のD50粒子径が1μm以上100μm以下であり、前記無機強化材(B)の平均長軸径が10μm以上120μm以下、かつ平均長軸径/平均短軸径が2以上12以下であり、粉末組成物の総重量に対する前記無機強化材(B)の含有量X(B)が5重量%以上60重量%以下であり、ポリアミド粉末(A)の真密度T(A)、無機強化材(B)の真密度T(B)、粉末組成物の嵩密度Dとしたとき、粗充填率D/{T(A)×(100-X(B))/100+T(B)×X(B)/100}が0.40以上0.70以下であることを特徴とする粉末組成物。
【請求項2】
流動助剤(C)が、粉末組成物の総重量に対して0.01重量%以上2.0重量%以下含まれている、請求項1に記載の粉末組成物。
【請求項3】
前記流動助剤(C)がシリカである、請求項
1に記載の粉末組成物。
【請求項4】
前記無機強化材(B)の平均長軸径が30μm以上90μm以下である、請求項1に記載の粉末組成物。
【請求項5】
前記無機強化材(B)がガラス繊維および/または炭素繊維である、請求項1に記載の粉末組成物。
【請求項6】
前記ポリアミド粉末(A)の真球度が80以上100以下である、請求項1に記載の粉末組成物。
【請求項7】
粉末床溶融結合方式により
、幅10mm、長さ80mm,厚さ4mmの試験片を、80mmの長さ方向がリコーターが移動するのと平行な方向(X方向)となるように作製したときの、当該試験片のJIS K7171(2016)に従い測定したX方向の
曲げ弾性率が3500MPa以上である、請求項1に記載の粉末組成物。
【請求項8】
粉末床溶融結合方式により三次元造形物を製造したときの、0.45MPaの荷重にて測定される荷重たわみ温度が150℃以上である、請求項1に記載の粉末組成物。
【請求項9】
請求項1~
8のいずれかに記載の粉末組成物を用いて粉末床溶融結合方式によって三次元造形物を製造する方法。
【請求項10】
ポリアミド粉末(A)、平均長軸径が10μm以上120μm以下である無機強化材(B)およびD50粒子径が、100nm以上300nm以下である流動助剤(C)を含む粉末組成物であって、幅10mm、長さ80mm,厚さ4mmの試験片を、80mmの長さ方向がリコーターが移動するのと平行な方向(X方向)となるように作製したときの、当該試験片のJIS K7171(2016)に従い測定したX方向の曲げ弾性率が3500MPa以上である粉末組成物を用いて、粉末床溶融結合方式によって得られる三次元造形物であって、表面粗度が20μm以下
、かつX線CT測定によって観測される空孔の平均球相当径が1μm以上100μm以下である三次元造形物。
【請求項11】
X線CT測定によって観測される空孔が0.1体積%以上10体積%以下である、請求項
10に記載の三次元造形物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粉末床溶融結合方式によって得られる三次元造形物、これを得るために好適に用いられる粉末組成物、およびその粉末組成物を用いて三次元造形物を製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
三次元造形物(以下、造形物と称する場合がある)を製造する技術として、材料押出方式、粉末床溶融結合方式、液槽光重合方式、シート積層方式などが知られている。この中でも粉末床溶融結合方式では、粉末の層を設けた後に、物体の断面に対応する位置を選択的に溶融させ、これらの層同士を接着、積層することで三次元造形物を形成させる。ここで、選択的に粉末を溶融させる方法としては、レーザーを用いる選択的レーザー焼結法、溶融助剤を用いる選択的吸収焼結法、および溶融させない場所をマスクする選択的抑制焼結法などがある。粉末床溶融結合方式は、他の造形方法と比較して精密造形に好適である、造形時のサポート部材が不要であるという利点を有する。
【0003】
前記の方式によって得られる三次元造形物は、その良好な機械特性、寸法精度を活かし、例えば自動車、航空、宇宙などのモビリティ用途や、義肢、装具、補聴器、カテーテルなどの医療用途、スポーツ用途、電気電子材料など、多様な分野での活用を検討されている。この中でもモビリティ用途は、高い耐熱性と弾性率を要求されるため、多くの場合に強化材を配合させた樹脂材料が用いられており、三次元造形物においても類似の特性が必要となる。
【0004】
このような市場の要求に対して、特許文献1では、ポリアミド11またはポリアミド12の不定形状の粉末にガラスビーズを配合させ、ポリアミド粉末のみと比較して高い弾性率を有する三次元造形物が開示されている。特許文献2では、ポリアミド粉末に所定のガラス繊維と粉末状流動剤を配合させ、高い弾性率と耐熱性を有する三次元造形物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2008-266645号公報
【文献】特表2020-536153号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1の技術は、ポリアミド粉末が不定形状で流動性が不十分のため、強化材を多量に配合させることができず、得られる造形物の弾性率は3000MPa未満であり、3500MPa以上の弾性率を必要とする本発明の用途には不十分であった。
【0007】
特許文献2の技術はガラス繊維を配合した場合に粉末が十分に充填せず、短いガラス繊維を使用した場合には流動性が不足し、また造形に使用した粉末をリサイクル使用する際にガラス繊維が絡まり流動性が低下する問題があった。
【0008】
そこで、本発明は、ポリアミド粉末と強化材を含むものでありながら高い流動性を有し、リサイクル使用時も良流動性を維持する粉末組成物、ならびに該粉末組成物を三次元造形に適用した際に、反りがなく、高い弾性率を有する造形物の提供を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明は次の構成を有する。
(1)ポリアミド粉末(A)と無機強化材(B)を含む粉末組成物であって、前記ポリアミド粉末(A)のD50粒子径が1μm以上100μm以下であり、前記無機強化材(B)の平均長軸径が10μm以上120μm以下、かつ平均長軸径/平均短軸径が2以上12以下であり、粉末組成物の総重量に対する前記無機強化材(B)の含有量X(B)が5重量%以上60重量%以下であり、ポリアミド粉末(A)の真密度T(A)、無機強化材(B)の真密度T(B)、粉末組成物の嵩密度Dとしたとき、粗充填率D/{T(A)×(100-X(B))/100+T(B)×X(B)/100}が0.40以上0.70以下であることを特徴とする粉末組成物。
(2)流動助剤(C)が、粉末組成物の総重量に対して0.01重量%以上2.0重量%以下含まれている、(1)に記載の粉末組成物。
(3)前記流動助剤(C)のD50粒子径が、100nm以上300nm以下である、(2)に記載の粉末組成物。
(4)前記流動助剤(C)がシリカである、(2)または(3)に記載の粉末組成物。
(5)前記無機強化材(B)の平均長軸径が30μm以上90μm以下である、(1)~(4)のいずれかに記載の粉末組成物。
(6)前記無機強化材(B)がガラス繊維および/または炭素繊維である、(1)~(5)のいずれかに記載の粉末組成物。
(7)前記ポリアミド粉末(A)の真球度が80以上100以下である、(1)~(6)のいずれかに記載の粉末組成物。
(8)粉末床溶融結合方式により三次元造形物を製造したときの、当該造形物のX方向弾性率が3500MPa以上である、(1)~(7)のいずれかに記載の粉末組成物。
(9)粉末床溶融結合方式により三次元造形物を製造したときの、0.45MPaの荷重にて測定される荷重たわみ温度が150℃以上である、(1)~(8)のいずれかに記載の粉末組成物。
(10)(1)~(9)のいずれかに記載の粉末組成物を用いて粉末床溶融結合方式によって三次元造形物を製造する方法。
(11)粉末床溶融結合方式によって得られる三次元造形物であって、表面粗度が20μm以下、X方向弾性率が3500MPa以上、かつX線CT測定によって観測される空孔の平均球相当径が1μm以上100μm以下である三次元造形物。
(12)X線CT測定によって観測される空孔が0.1体積%以上10体積%以下である、(11)に記載の三次元造形物。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ポリアミド粉末と強化材を含むものでありながら高い流動性を有し、リサイクル使用時も良流動性を維持する粉末組成物、ならびに該粉末組成物を三次元造形に適用した際に、反りがなく、高い弾性率を有する造形物を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明にかかる三次元造形物の製造装置の一例を示す模式図である。
【
図2】実施例2で得られた粉末組成物の走査型電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について詳細に説明する。
従来、三次元造形物の弾性率は原料である粉末組成物に含まれる強化材の配合量や形状に依存し、高い弾性率の造形物が得られる組成とするためには一定以上の繊維長を有する強化材を配合する必要があり、強化材の凝集などによってリサイクル使用が困難となり、弾性率とリサイクル性を両立することはできなかった。
【0013】
しかしながら、3500MPa以上の高い弾性率を有する三次元造形物が得られる粉末組成物であっても、ポリアミド粉末と強化材が一定の条件を満たす場合において、リサイクル使用時も高い流動性を維持し、それを三次元造形に適用すると高弾性率の造形物を得ることができる。さらには、驚くべきことに、三次元造形物が形成される際の結晶化収縮を強化材が機械的に抑制することによって、反りのない、寸法精度に優れた造形物が得られることが分かった。さらに好ましい態様として、真球度が80以上のポリアミド粉末を適用することで、高い表面平滑性を有する三次元造形物を得ることが可能であることを見出した。
【0014】
すなわち、本発明の粉末組成物は、ポリアミド粉末(A)と無機強化材(B)を含み、前記(A)のD50粒子径が1μm以上100μm以下であり、前記(B)の平均長軸径が10μm以上120μm以下、平均長軸径/平均短軸径が2以上12以下であり、粉末組成物の総重量に対する前記(B)の含有量X(B)が5重量%以上60重量%以下であり、ポリアミド粉末(A)の真密度T(A)、無機強化材(B)の真密度T(B)、粉末組成物の嵩密度Dとしたとき、粗充填率D/{T(A)×(100-X(B))/100+T(B)×X(B)/100}が0.40以上0.70以下であることを特徴とするものである。
【0015】
以下、本発明の粉末組成物について説明する。
本発明における粉末組成物は、アミド基を含む構造のポリアミドから構成されるポリアミド粉末を含む。かかるポリアミドの具体的な例としては、ポリカプロアミド(ポリアミド6)、ポリウンデカアミド(ポリアミド11)、ポリラウロアミド(ポリアミド12)、ポリヘキサメチレンアジパミド(ポリアミド66)、ポリデカメチレンセバカミド(ポリアミド1010)、ポリドデカメチレンセバカミド(ポリアミド1012)、ポリドデカメチレンドデカミド(ポリアミド1212)、ポリヘキサメチレンセバカミド(ポリアミド610)、ポリヘキサメチレンドデカミド(ポリアミド612)、ポリデカメチレンアジパミド(ポリアミド106)、ポリドデカメチレンアジパミド(ポリアミド126)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド(ポリアミド6T)、ポリデカメチレンテレフタルアミド(ポリアミド10T)、ポリドデカメチレンテレフタルアミド(ポリアミド12T)、ポリカプロアミド/ポリヘキサメチレンアジパミド共重合体(ポリアミド6/66)、ポリカプロアミド/ポリラウロアミド共重合体(ポリアミド6/12)などが挙げられる。中でも、真球形状に制御し易い点から好ましくは、ポリカプロアミド(ポリアミド6)、ポリウンデカアミド(ポリアミド11)、ポリラウロアミド(ポリアミド12)、ポリヘキサメチレンアジパミド(ポリアミド66)、ポリデカメチレンセバカミド(ポリアミド1010)、ポリドデカメチレンセバカミド(ポリアミド1012)、ポリドデカメチレンドデカミド(ポリアミド1212)、ポリヘキサメチレンセバカミド(ポリアミド610)、ポリヘキサメチレンドデカミド(ポリアミド612)などが挙げられる。また、造形に適した熱特性である点から、ポリカプロアミド(ポリアミド6)、ポリウンデカアミド(ポリアミド11)、ポリラウロアミド(ポリアミド12)、ポリヘキサメチレンアジパミド(ポリアミド66)、ポリヘキサメチレンセバカミド(ポリアミド610)、ポリデカメチレンセバカミド(ポリアミド1010)、ポリドデカメチレンセバカミド(ポリアミド1012)が特に好ましい。この中でも、造形時の耐熱性の点では、ポリカプロアミド(ポリアミド6)、ポリヘキサメチレンアジパミド(ポリアミド66)、ポリヘキサメチレンセバカミド(ポリアミド610)が著しく好ましい。
【0016】
前記ポリアミドは、本発明の効果を損なわない範囲で共重合していても構わない。共重合可能な成分としては、柔軟性を付与するポリオレフィンやポリアルキレングリコールなどのエラストマー成分、耐熱性や強度を向上する剛直な芳香族成分など適宜選択できる。また、後述するが、粉末床溶融結合方式でポリマー粉末を再利用するために末端基を調整する共重合成分を用いてもよい。かかる共重合成分としては、酢酸、ヘキサン酸、ラウリン酸や安息香酸などのモノカルボン酸やへキシルアミンやオクチルアミン、アニリンなどのモノアミンが挙げられる。
【0017】
ポリアミドの重量平均分子量の範囲は、10,000~1,000,000であることが好ましい。重量平均分子量が高いほど結晶化速度が遅くなり、造形時の結晶化に伴う反りなどが抑制できるため、下限は20,000以上が好ましく、30,000以上がより好ましく、40,000以上がさらに好ましく、45,000以上が特に好ましく、50,000以上が最も好ましい。分子量が高すぎると高粘度となり、造形時における強化材の分散性、均一性が悪化するため、上限は、700,000以下が好ましく、500,000以下がより好ましく、300,000以下がさらに好ましく、200,000以下が特に好ましく、100,000以下が最も好ましい。
【0018】
なお、ポリアミド粉末を構成するポリアミドの重量平均分子量とは、ヘキサフルオロイソプロパノールを溶媒に用い、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーで重量平均分子量を測定し、ポリメチルメタクリレートで換算した値を指す。
【0019】
本発明のポリアミド粉末組成物は、本発明を損なわない範囲で他の配合物を加えても構わない。配合剤としては、例えば、粉末床溶融結合方式で造形中の加熱による熱劣化を抑制するために、酸化防止剤や耐熱安定剤などが挙げられる。酸化防止剤、耐熱安定剤としては、例えば、ヒンダードフェノール、ヒドロキノン、ホスファイト類およびこれらの置換体や、亜リン酸塩、次亜リン酸塩などが挙げられる。他には、着色用の顔料や染料、粘度調整用の可塑剤、流動性改質用の流動助剤、機能付与する帯電防止剤、難燃剤やカーボンブラック、シリカ、二酸化チタン、チタン酸カリウム、ガラス繊維やガラスビーズ、炭素繊維、セルロースナノファイバーなどのフィラーなどが挙げられる。これらは公知の物を使用することが可能で、ポリアミド粉末の内部、外部のいずれに存在していても構わない。
【0020】
本発明のポリアミド粉末のD50粒子径は、1~100μmの範囲である。D50粒子径が100μmを超えると、粒子サイズが積層高さ以上となり表面が粗くなる。D50粒子径が1μm未満であると、微細なため造形時のリコーターなどに付着し易くなり、造形室を必要温度まで上昇できない。ポリアミド粉末のD50粒子径の上限は、90μm以下が好ましく、80μm以下がより好ましく、70μm以下がさらに好ましい。下限は、5μm以上が好ましく、20μm以上がより好ましく、30μm以上がさらに好ましい。
【0021】
なお、ポリアミド粉末のD50粒子径は、レーザー回折式粒径分布計にて測定される粒径分布の小粒径側からの累積度数が50%となる粒径(D50粒子径)である。
【0022】
ポリアミド粉末の粒度分布は、粒度分布のD90とD10の比であるD90/D10で表され、5.0未満であることが好ましい。粒度分布が狭い方が、粒子サイズの差による造形時の融解性の差が無くなり、また無機強化材も均一に分散しやすくなり、均質な造形物を得られるため好ましい。従って、D90/D10は、4.0未満がより好ましく、3.0未満がさらに好ましく、2.0未満が特に好ましい。また、その下限値は、理論上1.0である。
【0023】
本発明におけるポリアミド粉末の粒度分布を示すD90/D10は、前記したレーザー回折式粒径分布計により測定した粒径分布の小粒径側からの累積度数が90%となる粒径(D90)を小粒径側からの累積度数が10%となる粒径(D10)で除した値である。
【0024】
本発明のポリアミド粉末の真球性を示す真球度は、80以上100以下であることが好ましい。真球度が80に満たない場合には、流動性が悪化し造形物の表面が粗くなる。真球度は、好ましくは85以上100以下、より好ましくは90以上100以下、さらに好ましくは93以上100以下、特に好ましくは95以上100以下、著しく好ましくは97以上100以下である。
【0025】
なお、本発明のポリアミド粉末の真球度は、走査型電子顕微鏡の写真から無作為に30個の粒子を観察し、その短径と長径から下記数式に従い、決定される。
【0026】
【0027】
なお、S:真球度、a:長径、b:短径、n:測定数30とする。
【0028】
本発明のポリアミド粉末の表面の平滑性や内部の中実性は、ガス吸着によるBET比表面積によって表すことが可能である。ポリマー粉末の表面が平滑、内部が中実であると、その表面積が小さくなり、流動性が向上し造形物の表面が滑らかになり好ましい。ここでは、表面が平滑であるほど、BET比表面積は小さくなることを意味する。具体的には、10m2/g以下であることが好ましく、より好ましくは5m2/g以下であり、さらに好ましくは3m2/g以下であり、特に好ましくは1m2/g以下であり、最も好ましくは0.5m2/g以下である。また、その下限値は、粒子径が100μmであった場合に理論上0.05m2/gである。
【0029】
なお、BET比表面積は、日本工業規格(JIS規格)JIS R 1626(1996)「気体吸着BET法による比表面積の測定方法」に準じて測定される。
【0030】
本発明のポリアミド粉末の中実性は、BET比表面積とD50粒子径から算出される理論表面積の比を示す下記の式によって評価することもできる。上記の比が1に近いほど、粒子の最表面のみで吸着が起こるため、表面平滑で中実な粒子であることを示す。5以下が好ましく、4以下がより好ましく、3以下がさらに好ましく、2以下が最も好ましい。また、その下限値は、理論上1である。
【0031】
【0032】
なお、R:表面積の比、D:D50粒子径、α:ポリアミドの密度、A:BET比表面積を示す。
【0033】
本発明のポリアミド粉末の製造には、先に本発明者らが開示した国際公開2018/207728号に記載された、ポリアミドの単量体を、ポリアミドとは非相溶のポリマーの存在下で、ポリアミドの結晶化温度より高い温度で重合後、ポリアミド粉末を洗浄、乾燥して作製する手法を用いることができる。
【0034】
本発明で好ましく用いられるポリアミド粉末は、ポリアミド粉末製造工程などで使用された副成分の含有量が0.1質量%未満である。このような副成分は、粉末組成物の流動性やリサイクル性を低下させる原因となるため、0.05質量%未満がより好ましく、0.01質量%未満がさらに好ましく、0.007質量%未満が特に好ましく、0.004質量%未満が著しく好ましく、0.001質量%未満が最も好ましい。なお、このような副成分の含有量は、公知の方法で分析することができ、例えばポリアミド粉末から水または有機溶媒で抽出後、溶媒を除去した後に、水を溶媒としてゲルパーミエーションクロマトグラフィーで定量することができる。
【0035】
本発明の効果を損なわない範囲で、得られたポリアミド粉末に追加で熱処理を加えても構わない。熱処理の方法としては公知の方法を使用でき、オーブンなどを使用した常圧熱処理、真空乾燥機などを使用した減圧熱処理、オートクレーブなどの圧力容器中で水とともに加熱させる加圧熱処理を適宜選択できる。熱処理をすることで、ポリアミドの分子量や結晶化度、融点を所望の範囲に制御することが可能である。
【0036】
本発明における粉末組成物は、無機化合物から構成される無機強化材を含むことを特徴とする。無機強化材はポリアミド粉末に対してドライブレンドされてもよいし、ポリアミド粉末内部に含まれていてもよいが、ポリアミド粉末を真球形状に制御し、流動性を向上させる点で、ドライブレンドされていることが好ましい。
【0037】
かかる無機強化材は、例えば、ガラス繊維、ガラスビーズ、ガラスフレーク、発泡ガラスビーズなどのガラス系フィラー、霞石閃長石微粉末、モンモリロナイト、ベントナイト等の焼成クレー、シラン改質クレーなどのクレー(ケイ酸アルミニウム粉末)、タルク、ケイ藻土、ケイ砂などのケイ酸含有化合物、軽石粉、軽石バルーン、スレート粉、雲母粉などの天然鉱物の粉砕品、硫酸バリウム、リトポン、硫酸カルシウム、二硫化モリブデン、グラファイト(黒鉛)などの鉱物、溶融シリカ、結晶シリカ、アモルファスシリカなどのシリカ(二酸化ケイ素)、アルミナ(酸化アルミニウム)、アルミナコロイド(アルミナゾル)、アルミナホワイトなどのアルミナ、軽質炭酸カルシウム、重質炭酸カルシウム、微粉化炭酸カルシウム、特殊炭酸カルシウム系充填剤などの炭酸カルシウム、フライアッシュ球、火山ガラス中空体、合成無機中空体、単結晶チタン酸カリ、チタン酸カリウム繊維、炭素繊維、カーボンナノチューブ、炭素中空球、フラーレン、無煙炭粉末、セルロースナノファイバー、人造氷晶石(クリオライト)、酸化チタン、酸化マグネシウム、塩基性炭酸マグネシウム、ドロマイト、亜硫酸カルシウム、マイカ、アスベスト、ケイ酸カルシウム、硫化モリブデン、ボロン繊維、炭化ケイ素繊維などが挙げられる。硬質で強度向上の効果が大きい点で、ガラス系フィラー、鉱物類、炭素繊維が好ましく、粒子径分布、繊維径分布が狭い点でガラス系フィラーがさらに好ましい。これらの無機強化材は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0038】
かかる無機強化材を構成する元素としては、一般にナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、バリウム、チタン、鉄、アルミニウム、亜鉛、ホウ素、アルミニウム、ケイ素、酸素などが挙げられるが、剛性が高く、また耐熱性向上に寄与できる点で、ケイ素およびアルミニウムを含むことが好ましく、ケイ素、アルミニウム、マグネシウム、カルシウムを含むことがより好ましい。ケイ素およびアルミニウムを含む無機強化材の具体的な例としては、マイカ、カオリンクレイ、モンモリロナイト、ガラス系フィラーなどが挙げられ、ケイ素、アルミニウム、マグネシウム、カルシウムを含む無機強化材の具体的な例としてはガラス系フィラーなどが挙げられる。
【0039】
本発明において無機強化材の構成元素は、無機強化材をエネルギー分散型X線分析装置にて検出されるスペクトルデータから判定することができる。
【0040】
本発明で好ましく使用されるガラス系フィラーの例としては、ガラス繊維、ガラスビーズ、ガラスフレーク、発泡ガラスビーズなどが挙げられるが、三次元造形物に高い弾性率を発現させることが可能である点で、ガラス繊維、ガラスビーズ、またはこれらの混合物がより好ましい。この中でも、造形物の反りを抑制できる点でガラス繊維、またはガラス繊維とガラスビーズの混合物が特に好ましい。更には、造形物が高強度となる点でガラス繊維が著しく好ましい。また、造形物の強度異方性が小さい点でガラス繊維とガラスビーズの混合物が著しく好ましい。ガラス繊維としては、断面が円形状のものでも扁平形状のものでも良い。
【0041】
本発明の効果を損なわない範囲で、無機強化材とポリアミド粉末との密着性を向上させる目的で、無機強化材に表面処理を施されたものを用いることが可能である。そのような表面処理の例としては、アミノシラン、エポキシシラン、アクリルシラン等のシランカップリング剤などが挙げられる。これらの表面処理剤は、無機強化材の表面でカップリング反応により固定化されている、または無機強化材の表面を被覆していても良いが、三次元造形に使用した粉末をリサイクル使用する上で、熱などによって改質されにくいという点で、カップリング反応によって固定化されているものが好ましい。
【0042】
本発明の無機強化材の平均長軸径は、10~120μmの範囲である。平均長軸径が120μmを超えると、造形面から無機強化材の凹凸が出て、表面平滑性を損なうため好ましくない。平均長軸径が10μm未満であると、弾性率向上に寄与できなくなるため、好ましくない。無機強化材の平均長軸径の上限は、110μm以下が好ましく、100μm以下がより好ましく、95μm以下がさらに好ましく、90μm以下が特に好ましい。下限は、15μm以上が好ましく、20μm以上がより好ましく、30μm以上がさらに好ましい。
【0043】
本発明の無機強化材の形状は、平均長軸径と平均短軸径の比である平均長軸径/平均短軸径で表され、2以上12以下である。平均長軸径/平均短軸径が12を超えると、後述する造形物におけるX方向への配向が顕著となり、Z方向との強度異方性が大きくなるため好ましくない。平均長軸径/平均短軸径が2未満では、強度向上に寄与できなくなるため、好ましくない。平均長軸径/平均短軸径の上限は、11以下が好ましく、10以下がより好ましく、9以下がさらに好ましい。下限は、3以上が好ましく、4以上がより好ましい。
【0044】
なお、本発明において無機強化材の平均長軸径、平均短軸径とは、無機強化材を走査型電子顕微鏡で撮像して得られる写真から無作為に100個の繊維または粒子の長軸径と短軸径を観察した数平均値である。長軸径とは、粒子の像を2本の平行線で挟んだときの平行線の間隔が最大となる径であり、短軸径とは、長軸径と直交する方向で2本の平行線で挟んだときの平行線の間隔が最小となる径である。無機強化材の平均長軸径、平均短軸径を測定する際に、
図2のような粉末組成物の走査型電子顕微鏡写真から無機強化材を選んで長軸径、短軸径を測定してもよい。
【0045】
かかる無機強化材の配合量X(B)は、粉末組成物の総重量に対して5重量%以上60重量%以下である。配合量の上限は、55重量%以下が好ましく、50重量%以下がより好ましい。また、配合量の下限は、10重量%以上が好ましく、15重量%以上がより好ましく、20重量%以上がさらに好ましい。無機強化材の配合量が5重量%以上であれば、粉末組成物を三次元造形して得られる造形物の弾性率と強度を向上させることができる。また、無機強化材の配合量が60重量%以下であれば、粉末組成物の流動性を悪化させず、表面平滑性に優れた造形物が得られる傾向にある。
【0046】
本発明の粉末組成物は、流動性を向上させる点で、流動助剤を含むことが好ましい。流動助剤とは、粉末間の付着力によって粉末が凝集することを抑制する物質を指す。かかる流動助剤を含むことで、粉末組成物の流動性を向上、即ち後述する流動性の指標である安息角を所望の範囲に改善でき、機械特性低下の要因となる欠陥が減少することや、得られる造形物の外観をより向上できる傾向にある。
【0047】
かかる流動助剤は、例えば、溶融シリカ、結晶シリカ、アモルファスシリカなどのシリカ(二酸化ケイ素)、アルミナ(酸化アルミニウム)、アルミナコロイド(アルミナゾル)、アルミナホワイトなどのアルミナ、軽質炭酸カルシウム、重質炭酸カルシウム、微粉化炭酸カルシウム、特殊炭酸カルシウム系充填剤などの炭酸カルシウム、酸化チタン、酸化マグネシウム、塩基性炭酸マグネシウム、チタン酸カリウム繊維、ボロン繊維、炭化ケイ素繊維などが挙げられる。さらに好ましくは、シリカ、アルミナ、炭酸カルシウム粉末、酸化チタンである。特に好ましくは、硬質で強度向上や流動性改良に寄与できるという点で、シリカが挙げられる。
【0048】
かかるシリカの市販品としては、日本アエロジル株式会社製フュームドシリカ“AEROSIL”(登録商標)シリーズ、株式会社トクヤマ製乾式シリカ“レオロシール”(登録商標)シリーズ、信越化学工業株式会社製ゾルゲルシリカパウダーX-24シリーズなどが挙げられる。
【0049】
かかる流動助剤のD50粒子径は、100nm以上300nm以下のものが好ましく用いられる。流動助剤のD50粒子径の上限は、270nmがより好ましく、さらに好ましくは250nmであり、特に好ましくは230nmであり、著しく好ましくは200nmである。下限は、110nmがより好ましく、さらに好ましくは120nmであり、特に好ましくは130nmであり、著しく好ましくは140nmである。流動助剤のD50粒子径が上記範囲にあれば、粉末組成物の流動性を向上させるとともに、粉末組成物に対し、流動助剤を均一に分散させることができる傾向にある。
【0050】
本発明における流動助剤のD50粒子径とは、動的光散乱法によるレーザーの散乱光を解析して得られる微粒子の総体積を100%として累積カーブを求め、小粒径側からの累積カーブが50%となる粒子径(D50)である。
【0051】
かかる流動助剤の配合量は、粉末組成物の総重量に対し、0.01重量%以上2.0重量%以下が好ましい。配合量の上限は、1.5重量%以下がより好ましく、1.0重量%以下がさらに好ましく、0.8重量%以下が特に好ましく、0.7重量%以下が著しく好ましい。また、配合量の下限は、0.02重量%以上がより好ましく、0.03重量%以上がさらに好ましく、0.04重量%以上が特に好ましい。流動助剤の配合量が0.01重量%以上であれば、粉末組成物の流動性がさらに向上し、造形物した際の充填性が増すため、機械特性で欠陥となるボイドが発生しにくく、得られる造形物は高い強度を発現する傾向にある。また、流動助剤の配合量が2.0重量%以下であれば、ポリアミド粉末の表面を流動助剤が被覆することによる焼結の阻害が発生せず、強度の高い造形物が得られる傾向にある。
【0052】
本発明の粉末組成物は、前述のポリアミド粉末に、無機強化材および必要に応じて流動助剤やその他の添加剤をドライブレンドした粉末混合物が好ましいが、ポリアミド粉末に無機強化材が練りこまれたものであってもよい。ブレンドするときに、必要以上の剪断力がかかると、無機強化材が欠損する場合があるので、必要以上の剪断力がかからない混合方法を選択するのが好ましい。また、無機強化材を練り込んだポリアミド樹脂を粉末状にするなどの方法で、無機強化材を内部に含む粉末組成物をしてもよい。
【0053】
本発明の粉末組成物の効果の1つは、粉末組成物が高い流動性を示すことである。その指標は、公知の測定方法であれば何れでも採用できる。具体的に例示するならば、安息角が挙げられ、その角度が60度以下であることが好ましい。より好ましくは50度以下、さらに好ましくは40度以下、特に好ましくは35度以下である。下限は通常30度以上である。本発明の粉末組成物はその高い流動性により、粉末床溶融結合方式による三次元造形物製造に適している。
【0054】
本発明の粉末組成物の充填性は、粗充填率として、ポリアミド粉末(A)の真密度T(A)、無機強化材(B)の真密度T(B)、粉末組成物の嵩密度Dとしたとき、D/{T(A)×(100-X(B))/100+T(B)×X(B)/100}として表すことができる。本発明の粉末組成物の粗充填率は、0.40以上0.70以下である。粗充填率が0.40未満である場合、粉末間の空隙が大きく、三次元造形に適用した際に溶融焼結が十分に進行せず、造形物にボイドが発生することや、造形物を得ることが困難となるため、好ましくない。粗充填率が0.70超の場合、粉末が過剰に密充填状態となり、拘束されて流動性を損ねるため、好ましくない。粗充填率の下限は、0.41以上が好ましく、0.42以上がより好ましく、0.43以上が更に好ましい。また上限は、0.65以下が好ましく、0.62以下がより好ましく、0.60以下が更に好ましい。
【0055】
なお、本発明において粉末組成物の嵩密度は、粉末を容器に充填したときの単位体積当たりの質量のことを示す。ここで、嵩密度は、日本工業規格(JIS規格)JIS K 7365(1999)「規定漏斗から注ぐことができる材料の見掛け密度の求め方」に準じ、粉末組成物を測定したものである。
【0056】
本発明において、ポリアミド粉末(A)の真密度T(A)、無機強化材(B)の真密度T(B)は、文献値を使用することができ、例えばポリアミド6は1.1g/cm3、ポリアミド12は1.0g/cm3、ポリアミド1010は1.1g/cm3、ガラス繊維は2.6g/cm3、ガラスビーズは2.5g/cm3などの数値を用いることができる。
【0057】
粗充填率を高めるための方法としては、充填性に優れた繊維長の短い無機強化材を用いる方法や、分散力が適切な100nm~300nmの粒径を有する流動助剤を用いる方法、真球度が80以上と高いポリアミド粉末を用いる方法、アミド結合の多い高融点のポリアミド粉末を用いる方法、およびこれらの組み合わせなどにより達成することができる。
【0058】
また、粉末床溶融結合方式では、使用する粉末組成物の一部で造形物を作製し、多くの粉末組成物が残存する。その粉末組成物を再利用することがコストの観点で重要になる。そのためには、加熱し造形する工程中で粉末組成物の特性を変化させないことが重要になる。そのような方法としては、例えば、酸化防止剤などの安定化剤を粒子内部などに配合させ熱劣化を抑制する方法や、ポリアミドの末端基を低減させ、造形中の分子量変化を抑制する方法などが挙げられる。また粉末組成物中に配合させる無機強化材についても、熱によって変性しないものを用いることが好ましい。このような調整を適宜用いることで、造形性と再利用を両立することが可能となる傾向にある。
【0059】
本発明の粉末組成物は、粉末床溶融結合方式による三次元造形物の製造に有用な材料である。以下、三次元造形物の製造方法について
図1を用いて説明する。
【0060】
(a)工程では、造形物を形成する槽1のステージ2を下降させる。
【0061】
(b)工程では、造形物を形成する槽1に供給する粉末組成物Pを事前に充填した槽3(以下、供給槽と称する場合がある)のステージ4を、槽1に形成させた所定の積層高さ分を充填するのに十分な量の粉末組成物Pを供給可能な高さだけ上昇させる。そして、リコーター5を供給槽3の左端部から槽1の右端部へ移動させ、槽1に粉末組成物Pを積層していく。なお、リコーター5が移動するのと平行な方向はX方向、粉末組成物Pの粉面でリコーター5の移動方向と直交する方向はY方向となる。符号7はX方向、Y方向、Z方向を表す座標系を示している。符号8は粉末組成物を積層する面方向、符号9は、粉末組成物を積層する高さ方向を示している。
【0062】
(c)工程では、(b)工程で槽1に所定の積層高さ分を充填した粉末組成物Pに対し、溶融可能な熱エネルギー6を与え、造形データに沿って選択的に溶融焼結させる。
【0063】
粉末床溶融結合方式では、上記(a)~(c)工程を繰り返し行うことで、三次元造形物10が得られる。
【0064】
(c)工程の、選択的に溶融焼結させる方法としては、例えば、造形物の断面形状に対応する形状にレーザーを照射して、粉末組成物を結合させる選択的レーザー焼結法などが挙げられる。また、造形対象物の断面形状に対応する形状にエネルギー吸収促進剤またはエネルギー吸収抑制剤を印刷する印刷工程と、電磁放射線を用いて樹脂粉末を結合させる選択的吸収(又は抑制)焼結法なども挙げられる。
【0065】
選択的レーザー焼結法で用いられるレーザー光としては、粉末組成物や造形物の品位を損なわないものであれば特に制限されない。例えば、炭酸ガスレーザー、YAGレーザー、エキシマレーザー、He-Cdレーザー、半導体励起固体レーザーなどが挙げられる。これらの中で、操作が簡単で、制御が容易であることから、炭酸ガスレーザーが好ましい。
【0066】
また、選択的吸収(抑制)焼結で用いる電磁放射線としては、粉末組成物や造形物の品位を損なわないものであればどのようなものであっても良いが、比較的安価で造形に適したエネルギーが得られるため、赤外線が好ましい。また、電磁放射線はコヒーレントなものであっても無くともよい。
【0067】
エネルギー吸収促進剤は、電磁放射線を吸収する物質である。このような物質としては、カーボンブラック、炭素繊維、銅ヒドロキシホスフェート、近赤外線吸収性染料、近赤外線吸収性顔料、金属ナノ粒子、ポリチオフェン、ポリ(p-フェニレンスルフィド)、ポリアニリン、ポリ(ピロール)、ポリアセチレン、ポリ(p-フェニレンビニレン)、ポリパラフェニレン、ポリ(スチレンスルホネート)、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)-ポリ(スチレンホスホネート)p-ジエチルアミノベンズアルデヒドジフェニルヒドラゾン、又はこれらの組み合わせからなる共役ポリマーなどが例示でき、これらは単体で用いてもよく複数組み合わせて用いてもよい。
【0068】
エネルギー吸収抑制剤は、電磁放射線を吸収しにくい物質である。このような物質としてはチタンなどの電磁放射線を反射する物質、雲母粉末、セラミック粉末などの断熱性の粉末、水などが例示でき、これらは単体で用いても良く複数組み合わせて用いてもよい。
【0069】
これら選択的吸収剤または選択的抑制剤は、それぞれ単独で用いてもよいし、組み合わせて使用することも可能である。
【0070】
選択的吸収剤または選択的抑制剤造形対象物の断面形状に対応する形状に印刷する工程においては、インクジェットなどの既知の手法を用いることができる。この場合、選択的吸収剤や選択的抑制剤はそのまま用いてもよいし、溶媒中に分散又は溶解して用いてもよい。
【0071】
本発明の粉末組成物を粉末床溶融結合方式で造形することで、本発明の三次元造形物を得ることができる。以下、本発明の三次元造形物について説明する。
【0072】
本発明の三次元造形物の表面粗度は20μm以下である。表面粗度は小さいほど、造形物間の接合部密着性に優れるため、造形物の表面粗度は18μm以下が好ましく、15μm以下がより好ましく、12μm以下がさらに好ましく、10μm以下が特に好ましい。またその下限は特に限定されず、小さいものが好ましいが、下限は通常1μmである。
【0073】
なお、造形物の表面粗度は、光学顕微鏡で造形物の表面を観察し、自動合成モードで造形物表面の凹凸を三次元画像化したのち、1mm以上長さにわたって断面の高さプロファイルを取得し、算術平均によって表面粗度Raを計算した値である。
【0074】
本発明の三次元造形物のX方向弾性率は3500MPa以上である。弾性率は大きいほど、造形物が高剛性であって変形しにくいため、造形物のX方向弾性率は3800MPa以上が好ましく、4000MPa以上がより好ましく、4500MPa以上がさらに好ましく、5000MPa以上が特に好ましい。またその上限は特に限定されないが、一般に弾性率が大きくなりすぎると脆くなり低強度化する傾向にあるため、20000MPa以下が好ましく、15000MPa以下がより好ましく、12000MPa以下がさらに好ましく、10000MPa以下が特に好ましい。
【0075】
なお、本発明においてX方向弾性率は、三次元造形において前述のX方向を最長辺向きで造形した曲げ試験片について日本工業規格(JIS規格)JIS K7171(2016)「プラスチック-曲げ特性の求め方」に準じて測定した曲げ弾性率である。
【0076】
本発明の三次元造形物のX方向曲げ強度は65MPa以上であることが好ましい。X方向曲げ強度は大きいほど、最も応力がかかる方向からの力に耐えることができるため、造形物のX方向曲げ強度は70MPa以上がより好ましく、80MPa以上がさらに好ましく、90MPa以上が特に好ましく、100MPa以上が著しく好ましく、最も好ましくは105MPa以上である。
【0077】
また本発明の三次元造形物の強度異方性は、Z方向曲げ強度/X方向曲げ強度によって評価することができる。Z方向曲げ強度/X方向曲げ強度は大きいほど、強度異方性がなく取り扱い性に優れるため、0.4以上であることが好ましく、より好ましくは0.5以上、さらに好ましくは0.6以上、特に好ましくは0.7以上である。
【0078】
なお、本発明においてX方向曲げ強度、Z方向曲げ強度は、日本工業規格(JIS規格)JIS K7171(2016)「プラスチック-曲げ特性の求め方」に準じて、前述のX方向を最長辺向きで造形した曲げ試験片、およびZ方向を最長辺向きで造形した曲げ試験片についてそれぞれ測定した最大曲げ応力の値である。
【0079】
本発明の三次元造形物の荷重たわみ温度は150℃以上であることが好ましい。荷重たわみ温度は高いほど、造形物が高温環境下で変形しにくいため、造形物の荷重たわみ温度は170℃以上がより好ましく、185℃以上がさらに好ましく、200℃以上が特に好ましい。
【0080】
なお、本発明において荷重たわみ温度は、日本工業規格(JIS規格)JIS K7191-1(2015)「プラスチック-荷重たわみ温度の求め方」に従い、0.45MPaの荷重にて測定した値である。
【0081】
また三次元造形では、粉末が充填された状態から常圧下で溶融焼結によって造形物となるため、通常収縮の密度変化を伴う。そのため、三次元造形物の寸法が所望の造形データに対して高精度で得られるためには、内部に適度の空孔を有することが好ましい。本発明の三次元造形物中に存在する空孔は、X線CTによってその割合や形状を観測することが可能である。
【0082】
本発明の三次元造形物をX線CTで撮像し、空孔として観測された部分の造形物全体の体積に対する割合は、空孔率として表すことができる。本発明の三次元造形物のX線CT測定によって観測される空孔率は、0.1体積%以上、10体積%以下であることが好ましい。空孔率の下限は、小さすぎると造形物全体が造形データに対して収縮する問題が発生するため、0.2体積%以上がより好ましく、0.3体積%以上がさらに好ましく、0.5体積%以上が特に好ましい。またその上限は、空孔が多い場合には強度低下の原因となるため、5.0体積%以下がより好ましく、4.0体積%以下がさらに好ましく、3.0体積%以下が特に好ましい。
【0083】
本発明の三次元造形物をX線CTで撮像し、空孔として観測された各独立孔のサイズは、球相当径として表すことができる。本発明の三次元造形物のX線CT測定によって観測される空孔の平均球相当径は、1μm以上100μm以下であることを特徴とする。三次元造形プロセスによらない溶融成形の場合、通常空孔の平均球相当径は1μm未満となるように設計するものであり、発泡成形など意図的に空孔を形成させる場合においては、通常空孔の平均球相当径は100μm超となるため、平均球相当径が1μm以上100μm以下となるのは三次元造形物の特徴である。上述の通り、常圧下での三次元造形において、空孔は一定量発生するため、その下限は、3μm以上が好ましく、5μm以上がより好ましく、10μm以上がさらに好ましい。その上限は、大きな空孔は欠点となって造形物強度低下の原因となるため、80μm以下が好ましく、60μm以下がより好ましく、50μm以下がさらに好ましい。
【0084】
また三次元造形物は、通常の溶融成形と比較して、常圧下、かつ低速で降温するプロセスで結晶化して得られるものであるため、結晶の状態が通常の溶融成形とは異なるものであるが、それをものの特徴として表すことは困難であるため、三次元造形、好ましくは粉末床溶融結合方式によって得られたものという、製法によって限定されるものである。通常の溶融成形であれば、金型の構造によって表面平滑な成形品を得ることができ、かつ弾性率の大きい成形品が得られることは公知であるが、複雑形状の成形が可能な三次元造形において、表面平滑かつ弾性率の大きい成形品を得ることはできず、本発明によって初めて可能になったものである。
【0085】
本発明の三次元造形物は、表面平滑性と高弾性率を両立し、造形物間の接合部密着性に優れ、良好な気密性を示す。本発明の粉末組成物を用いて得られる三次元造形物は、高い耐熱性と弾性率を要求される自動車部品、とりわけ自動車エンジン周辺部品、自動車アンダーフード部品、自動車ギア部品、自動車内装部品、自動車外装部品、吸排気系部品、エンジン冷却水系部品や自動車電装部品用途に有効に使用可能であり、かつ最適設計を行った複雑形状の三次元造形物を得ることができる。
【実施例】
【0086】
以下、本発明を実施例に基づき説明する。
(1)ポリアミド粉末のD50粒子径
日機装株式会社製レーザー回折式粒径分布計測定装置(マイクロトラックMT3300EXII)に、予め100mg程度のポリアミド粉末を5mL程度の脱イオン水で分散させた分散液を測定可能濃度になるまで添加し、測定装置内で30Wにて60秒間の超音波分散を行った後、測定時間10秒で測定される粒径分布の小粒径側からの累積度数が50%となる粒径をD50粒子径とした。なお測定時の屈折率は1.52、媒体(脱イオン水)の屈折率は1.333を用いた。
【0087】
(2)ポリアミド粉末の真球度
ポリアミド粉末の真球度は、日本電子株式会社製走査型電子顕微鏡(JSM-6301NF)写真から無作為に30個の粒子を観察し、その短径と長径から下記数式に従い算出した。
【0088】
【0089】
なお、S:真球度、a:長径、b:短径、n:測定数30とする。
【0090】
(3)BET比表面積
日本工業規格(JIS規格)JISR1626(1996)「気体吸着BET法による比表面積の測定方法」に従い、日本ベル製BELSORP-maxを用いて、ポリアミド粉末約0.2gをガラスセルに入れ、80℃で約5時間減圧脱気した後に、液体窒素温度におけるクリプトンガス吸着等温線を測定し、BET法により算出した。
【0091】
(4)無機強化材の平均長軸径、平均短軸径
無機強化材を日本電子株式会社製走査型電子顕微鏡(JSM-6301NF)で観察し、その写真から無作為に選んだ100個の無機強化材の長径および短径の平均値を平均長軸径、平均短軸径とした。
【0092】
(5)無機強化材の構成元素
無機強化材を株式会社日立ハイテクノロジーズ製走査型電子顕微鏡(Regulus8220)及びBRUKER社製エネルギー分散型X線分析装置(“XFlash”(登録商標)5060FlatQUAD)にて加速電圧5kV、測定時間180秒の条件で撮像した。得られたスペクトルデータから、1.49keVのピークをアルミニウム元素、1.74keVのピークをケイ素元素と帰属し、1cps/eV以上のピークが検出されている場合に当該元素を含有しているものと判定した。
【0093】
(6)流動助剤のD50粒子径
流動助剤を脱イオン水またはエタノール中に0.1重量%の濃度で分散させたサンプルを、大塚電子株式会社製ゼータ電位・粒径測定装置(ELSZ-2)の動的光散乱法にて測定し、粒径分布の小粒径側からの累積度数が50%となる粒径をD50粒子径とした。
【0094】
(7)粉末組成物の嵩密度、および粗充填率
粉末組成物の嵩密度は、日本工業規格(JIS規格)JIS Z 7365(1999)に従い、50gのポリマー粉末をロートから100cm3のメスシリンダーに落下させ、体積を読み取り、粉末組成物の重量を当該体積で除した値とした。ポリアミド粉末(A)の真密度T(A)、無機強化材(B)の真密度T(B)、粉末組成物の嵩密度Dとしたとき、粗充填率D/{T(A)×(100-X(B))/100+T(B)×X(B)/100}を算出した。なお真密度は、ポリアミド6は1.1g/cm3、ポリアミド12は1.0g/cm3、ポリアミド1010は1.1g/cm3、ポリアミド11は1.0g/cm3、ガラス繊維は2.6g/cm3、ガラスビーズは2.5g/cm3、炭素繊維は1.8g/cm3の数値を用いた。
【0095】
(8)造形物の外観の判定
得られた三次元造形物に、1mm以上の欠損部や斑点がないものを「◎」、1mm以上の欠損部はないが一部斑点があるものを「〇」、1mm以上の欠損部があるものを「△」とした。
【0096】
(9)造形物の反りの判定
得られた試験片を水平な場所に、上に凸な状態で静置し、水平面と試験片の隙間に精密テーパーゲージを挿入し、隙間の高さを計測し、試験片長さ10cm当たりに換算した値を反り量として算出して、以下の基準で反り量を評価した。
〇:反り量が0.1mm/10cm以下。
△:反り量が0.1mm/10cmより大きく、0.3mm/10cm以下。
×:反り量が0.3mm/10cmより大きい。
ランク「〇」、「△」を合格とした。
【0097】
(10)造形物の表面粗度
株式会社キーエンス製光学顕微鏡(VHX-5000)、対物レンズはVH-ZST(ZS-20)を使用し、倍率200倍で造形物の表面を観察した。装置に付属のソフトウェア(システムバージョン1.04)を用い自動合成モードで造形物表面の凹凸を三次元画像化したのち、1mm以上長さにわたって断面の高さプロファイルを取得し、算術平均によって表面粗度Raを計算した。表面粗度Raが小さいほど、表面の平滑性に優れることを示している。
【0098】
(11)造形物の曲げ弾性率、曲げ強度の測定
三次元造形物の曲げ弾性率、曲げ強度は、株式会社アスペクト製粉末床溶融結合方式3Dプリンター(RaFaElII 150C-HT)を使用して幅10mm、長さ80mm、厚さ4mmの試験片を、80mmの長さ方向がX方向、またはZ方向となるように作製し、エー・アンド・デイ社製テンシロン万能試験機(TENSIRON TRG-1250)を用いてX方向、およびZ方向の曲げ弾性率、曲げ強度をそれぞれ測定した。JIS K7171(2016)に従い、支点間距離64mm、試験速度2mm/分の条件で3点曲げ試験を測定して曲げ弾性率を求めた。また曲げ強度は最大曲げ応力とした。測定温度は室温(23℃)、測定数はn=5とし、その平均値を求めた。
【0099】
(12)造形物の荷重たわみ温度
三次元造形物の荷重たわみ温度は株式会社アスペクト製粉末床溶融結合方式3Dプリンター(RaFaElII 150C-HT)を使用して幅10mm、長さ80mm、厚さ4mmの試験片を、80mmの長さ方向がX方向となるように作製し、株式会社安田精機製作所製ヒートディストーションテスター(No.148)を用い、JIS K7191-1(2015)に従い、0.45MPaの荷重にて測定した。測定数はn=3とし、その平均値を求めた。
【0100】
(13)造形物中の空孔の平均球相当径
ZEISS社製X線CT装置(Xradia 510 Versa)を使用し、分解能5μm、視野5mm、電圧80kV、電力7Wにて三次元透過画像観察を行った。観察画像の空孔部をラベリング処理し、各独立した空孔を球とした場合のその直径である球相当径を算出し、その平均値を求めた。
【0101】
(14)リサイクル造形のMIX比
株式会社アスペクト製粉末床溶融結合方式3Dプリンター(RaFaElII 150C-HT)を使用して造形した後の造形室に残った使用済粉末を回収し、一定の比率で未使用粉末と混合後、再度三次元造形を行った。ここで得られた造形物の表面粗度、曲げ弾性率、曲げ強度が、未使用粉末のみで造形した場合と比較して、変化が10%以下となったとき、リサイクル造形「〇」とした。リサイクル造形が「〇」となったときの使用済粉末の混合割合をMIX比とした。
【0102】
[製造例1]
3Lのヘリカルリボン型の撹拌翼が付属したオートクレーブに、ポリアミドの単量体としてε-カプロラクタム(富士フィルム和光純薬株式会社製)300g、ポリアミドとは非相溶のポリマーとしてポリエチレングリコール(富士フィルム和光純薬株式会社製1級ポリエチレングリコール20,000、重量平均分子量18,600)700g、水1000gを加え均一な溶液を形成後に密封し、窒素で置換した。その後、撹拌速度を40rpmに設定し、温度を210℃まで昇温させた。この際、系の圧力が10kg/cm2に達した後、圧が10kg/cm2を維持するよう水蒸気を微放圧させながら制御した。温度が210℃に達した後に、0.2kg/cm2・分の速度で放圧させた。その後、窒素を流しながら1時間温度を維持し重合を完了させ、ポリアミド粉末とポリエチレングリコールの混合物から、ポリエチレングリコールが溶融状態を維持したまま、2000gの水浴に吐出しスラリーを得た。スラリーを撹拌により十分に均質化させた後に、ろ過を行い、ろ上物に水2000gを加え、80℃で洗浄を行った。その後100μmの篩を通過させた凝集物を除いたスラリー液を、再度ろ過して単離したろ上物を80℃で12時間乾燥させ、ポリアミド6粉末を170g作製した。得られたポリアミド粉末のD50粒子径は51μm、D90/D10は2.5、真球度は95、BET比表面積は0.16m2/gでR=1.3であった。
【0103】
[製造例2]
ポリアミドの単量体としてε-カプロラクタムをアミノドデカン酸(富士フィルム和光純薬株式会社製)、重合温度を210℃に変更した以外は製造例1と同様の方法でポリアミド12粉末を作製した。得られたポリアミド粉末のD50粒子径は55μm、真球度は97であった。
【0104】
[製造例3]
ポリアミドの単量体としてε-カプロラクタムをセバシン酸216g(東京化成工業株式会社製)、ジアミノデカン184g(東京化成工業株式会社製)、重合温度を210℃に変更した以外は製造例1と同様の方法でポリアミド1010粉末を作製した。得られたポリアミド粉末のD50粒子径は49μm、真球度は93であった。
【0105】
[製造例4]
ポリアミドの単量体としてε-カプロラクタムをアミノウンデカン酸(富士フィルム和光純薬株式会社製)、重合温度を210℃に変更した以外は製造例1と同様の方法でポリアミド11粉末を作製した。得られたポリアミド粉末のD50粒子径は51μm、真球度は92であった。
【0106】
[製造例5]
ポリアミドの単量体としてε-カプロラクタムをω-ラウリンラクタム600g(東京化成工業株式会社製)、ポリエチレングリコールを400g、水80gとし、初期昇温温度を280℃に変更した以外は製造例1と同様の方法でポリアミド12粉末を作製した。得られたポリアミド粉末のD50粒子径は53μm、真球度は91であった。
【0107】
[実施例1]
ポリアミド粉末(A)として製造例1のポリアミド6粉末1050gと、無機強化材(B)としてガラス繊維EPG40M-10A(日本電気硝子株式会社製、平均長軸径43μm、平均短軸径10μm)450gを混合した。さらに流動助剤(C)としてトリメチルシリル化非晶質シリカX-24-9500(信越化学工業株式会社製、D50粒子径170nm)を4.5g添加し、粉末組成物とした。本粉末組成物1.5kgを用いて、株式会社アスペクト製粉末床溶融結合装置(RaFaElII 150C-HT)を使用し、立体造形物の製造を行った。設定条件は、60WCO2レーザーを使用し、積層高さ0.1mm、レーザー走査間隔を0.1mm、レーザー走査速度を5m/s、レーザー出力を12Wとした。温度設定は、部品床温度を融点より-15℃、供給槽温度を結晶化温度-5℃とした。得られた三次元造形物の外観は良好で、表面粗度は9μm、X方向弾性率は5600MPa、X方向曲げ強度151MPa、Z方向曲げ強度115MPa、荷重たわみ温度217℃、X線CTにおける空孔率1.2体積%、空孔の球相当径34μmであった。さらに、使用済粉末を回収し、未使用粉末と混合してリサイクル造形のMIX比について評価したところ、MIX比は70%であった。使用した粉末、得られた造形物の特性、およびリサイクル特性であるMIX比を表1に示す。
【0108】
[実施例2]
ポリアミド粉末(A)として製造例2のポリアミド12粉末を750g、無機強化材(B)としてガラス繊維EPG40M-10Aを750gに変更した以外は実施例1と同様の方法で三次元造形物を作製、およびリサイクル特性を評価した(得られた粉末組成物の走査型電子顕微鏡写真を
図2に示す)。使用した粉末、得られた造形物の特性、およびリサイクル特性であるMIX比を表1に示す。
【0109】
[実施例3]
ポリアミド粉末(A)を1200g、無機強化材(B)としてガラス繊維EPG70M-01N(日本電気硝子株式会社製、平均長軸径73μm、平均短軸径10μm)を300g、流動助剤(C)を3.0gに配合組成を変更した以外は実施例1と同様の方法で三次元造形物を作製、およびリサイクル特性を評価した。使用した粉末、得られた造形物の特性、およびリサイクル特性であるMIX比を表1に示す。
【0110】
[実施例4]
ポリアミド粉末(A)を900g、無機強化材(B)としてガラス繊維EPH80M-10A(日本電気硝子株式会社製、平均長軸径88μm、平均短軸径11μm)を600g、流動助剤(C)を7.5gに配合組成を変更した以外は実施例1と同様の方法で三次元造形物を作製、およびリサイクル特性を評価した。使用した粉末、得られた造形物の特性、およびリサイクル特性であるMIX比を表1に示す。
【0111】
[実施例5]
ポリアミド粉末(A)を900g、無機強化材(B)としてガラス繊維EPG40M-10Aを120gとガラスビーズGB731A(ポッターズバロティーニ社製、平均長軸径27μm、平均短軸径26μm)を480g、流動助剤(C)を1.5gに配合組成を変更した以外は実施例1と同様の方法で三次元造形物を作製、およびリサイクル特性を評価した。使用した粉末、得られた造形物の特性、およびリサイクル特性であるMIX比を表1に示す。
【0112】
[実施例6]
ポリアミド粉末(A)を1125g、無機強化材(B)として炭素繊維Panex35(Zoltek社製、平均長軸径80μm、平均短軸径7μm)を375gに配合組成を変更した以外は実施例1と同様の方法で三次元造形物を作製、およびリサイクル特性を評価した。使用した粉末、得られた造形物の特性、およびリサイクル特性であるMIX比を表1に示す。
【0113】
[実施例7]
ポリアミド粉末(A)を1050g、無機強化材(B)としてガラス繊維EPG70M-01Nを450g、流動助剤(C)としてフュームドシリカ“AEROSIL(登録商標)”R972を4.5gに配合組成を変更した以外は実施例1と同様の方法で三次元造形物を作製、およびリサイクル特性を評価した。使用した粉末、得られた造形物の特性、およびリサイクル特性であるMIX比を表1に示す。
【0114】
[実施例8]
東レ株式会社製ポリアミド“アミラン(登録商標)”CM1007をジェットミル(ホソカワミクロン製100AFG)で120分間粉砕し、D50粒子径50μm、真球度60の粉砕ポリアミド6粉末を得た。ポリアミド粉末(A)として前記粉砕ポリアミド6粉末を使用し、流動助剤(C)の配合量を4.5gに変更した以外は実施例3と同様の方法で三次元造形物を作製、およびリサイクル特性を評価した。使用した粉末、得られた造形物の特性、およびリサイクル特性であるMIX比を表1に示す。
【0115】
[実施例9]
ポリアミド粉末(A)として製造例3のポリアミド1010粉末を1050g、無機強化材(B)としてガラス繊維EPG70M-01Nを450gに変更した以外は実施例1と同様の方法で三次元造形物を作製、およびリサイクル特性を評価した。使用した粉末、得られた造形物の特性、およびリサイクル特性であるMIX比を表1に示す。
【0116】
[実施例10]
ポリアミド粉末(A)として製造例4のポリアミド11粉末に変更した以外は実施例9と同様の方法で三次元造形物を作製、およびリサイクル特性を評価した。使用した粉末、得られた造形物の特性、およびリサイクル特性であるMIX比を表1に示す。
【0117】
[実施例11]
ポリアミド粉末(A)として製造例5のポリアミド12粉末に変更した以外は実施例9と同様の方法で三次元造形物を作製、およびリサイクル特性を評価した。得られた造形物の特性、およびリサイクル特性であるMIX比を表1に示す。
【0118】
[比較例1]
ポリアミド粉末(A)として製造例3のポリアミド1010粉末を900g、無機強化材(B)としてガラスビーズGB731(ポッターズバロティーニ社製、平均長軸径31μm、平均短軸径31μm)を600g、流動助剤(C)の配合量を1.5gに変更した以外は実施例1と同様の方法で三次元造形物を作製、およびリサイクル特性を評価した。使用した粉末、得られた造形物の特性、およびリサイクル特性であるMIX比を表1に示す。
【0119】
[比較例2]
ポリアミド粉末(A)として製造例3のポリアミド1010粉末を1500g、無機強化材(B)は配合せず、流動助剤(C)の配合量を1.5gに変更した以外は実施例1と同様の方法で三次元造形物を作製、およびリサイクル特性を評価した。使用した粉末、得られた造形物の特性、およびリサイクル特性であるMIX比を表1に示す。
【0120】
[比較例3]
流動助剤(C)としてフュームドシリカ“AEROSIL(登録商標)”R972を4.5gに配合組成を変更した以外は実施例7と同様の方法で三次元造形物を作製、およびリサイクル特性を評価した。使用した粉末組成物は流動性が悪く、また造形時に焼結が阻害され、造形物を得ることができなかった。
【0121】
[比較例4]
ポリアミド粉末(A)を1450g、無機強化材(B)を45g、流動助剤(C)の配合量を1.5gに配合組成を変更した以外は実施例3と同様の方法で三次元造形物を作製、およびリサイクル特性を評価した。使用した粉末、得られた造形物の特性、およびリサイクル特性であるMIX比を表1に示す。
【0122】
[比較例5]
無機強化材(B)としてガラス繊維チョップドストランドT-275H(日本電気硝子株式会社製、平均長軸径3000μm、平均短軸径10μm)を乳鉢中で乳棒によって破砕し、平均長軸径420μmとしたものを使用した以外は実施例6と同様の方法で三次元造形物を作製した。この粉末を繰り返しリサイクルに使用したところ、ガラス繊維が凝集して流動せず、造形に使用できなかった。使用した粉末、得られた造形物の特性を表1に示す。
【0123】
なお、表1の強化材種類におけるGFはガラス繊維、GBはガラスビーズをそれぞれ示している。
【0124】
【産業上の利用可能性】
【0125】
本発明の粉末組成物を用いて得られた造形物は高い弾性率を有し、さらに造形に使用した粉末も高い割合でリサイクル使用できるため、産業用途などの三次元造形物の粉末原料として有効に用いることができる。さらに好ましい態様では、表面平滑性に優れた造形物を得ることも可能である。特に3500MPa以上の高い弾性率を有するため、構造部材としての使用も可能である。
【符号の説明】
【0126】
1 造形物を形成する槽
2 造形物を形成する槽のステージ
3 供給する粉末組成物を事前に充填する供給槽
4 供給する粉末組成物を事前に充填する槽のステージ
5 リコーター
6 熱エネルギー
7 X、Y、Z座標系
8 粉末組成物を積層する面方向
9 粉末組成物を積層する高さ方向
10 三次元造形物
P 粉末組成物