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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-21
(45)【発行日】2024-03-29
(54)【発明の名称】セパレート式着物
(51)【国際特許分類】
   A41D 1/00 20180101AFI20240322BHJP
【FI】
A41D1/00 101D
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2023158138
(22)【出願日】2023-09-22
【審査請求日】2023-09-25
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】519011751
【氏名又は名称】株式会社dricco
(74)【代理人】
【識別番号】100120318
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 朋浩
(74)【代理人】
【識別番号】100117101
【弁理士】
【氏名又は名称】西木 信夫
(72)【発明者】
【氏名】岩崎 裕美
(72)【発明者】
【氏名】中山 和子
(72)【発明者】
【氏名】村山 裕子
【審査官】横山 綾子
(56)【参考文献】
【文献】登録実用新案第3214868(JP,U)
【文献】特開2018-131725(JP,A)
【文献】登録実用新案第3126493(JP,U)
【文献】登録実用新案第3210446(JP,U)
【文献】登録実用新案第3185385(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A41D 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
上衣、下衣およびおはしょりベルトを有するセパレート式着物であって、
上記上衣は、
着用者の体の後方左側および後方右側に左右対称に配置される左後身頃および右後身頃を有し、当該左後身頃および右後身頃が縫い合わされた後身頃と、
上記後身頃の中央部に取り付けられた第1固定紐と、
上記左後身頃および上記右後身頃にそれぞれ連続し且つ前方に折り返されることによって当該左後身頃および上記右後身頃と対向して着用者の体の前方左側および前方右側に左右対称に配置される左前身頃および右前身頃を有する前身頃と、
上記左前身頃の左端縁および上記左後身頃の左端縁、並びに上記右前身頃の右端縁および上記右後身頃の右端縁に、それぞれ取り付けられた一対の袖と、
上記前身頃の内縁に沿って取り付けられた帯状の着物襟と、
上記着物襟に対して重なるように取り付けられた帯状の襦袢襟と、
上記左前身頃の内縁および上記右前身頃の内縁にそれぞれ取り付けられ、当該前身頃および上記後身頃を着用者の体に固定する一対の第2固定紐と、
上記袖の袖口止まりの近傍に設けられ、上記第2固定紐が挿通される紐通しと、を備え、
上記袖口止まりより下方において上記後身頃と上記前身頃との間にスリットが形成されており、
上記下衣は、
着用者の腹ないし腰に巻かれる下衣本体と、
上記下衣本体の左端および右端から延びる一対の腰紐と、
上記下衣本体の上縁部の端部に設けられた第1腰紐通しおよび当該第1腰紐通しよりも上記下衣本体の中央側に設けられた第2腰紐通しと、を有し、
上記第2腰紐通しに隣接して、上記腰紐が挿通される挿通孔が設けられており、
上記おはしょりベルトは、
上記下衣に重ねて装着されるベルト本体と、
上記ベルト本体の左端部および右端部を着脱自在に連結する面ファスナーと、を有する、セパレート式着物
【請求項2】
上記後身頃の中央部は、上記左後身頃および上記右後身頃の縫着線に沿い且つ上下方向における衿下より下方21cm以上25cm以下の領域である、請求項1に記載のセパレート式着物
【請求項3】
上記紐通しは、上記前身頃の上記袖口止まりから下方に3cm以上5cm以下の位置に設けられている、請求項1または2に記載のセパレート式着物
【請求項4】
上記襦袢襟は、着脱自在である請求項1または2に記載のセパレート式着物
【請求項5】
上記おはしょりベルトは、上記ベルト本体に衽を示す縫い目が形成されている、請求項1または2に記載のセパレート式着物

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、少なくとも上衣と下衣とに分離されたセパレート式着物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
着物を正しく着るあるいは着せる行為は、「着付け」と称され、一般に、着付けは容易ではなく、美しい着付けを行うには相当の熟練を要する。従来、着付けを容易に行うことを目的として、セパレート式の着物が提案されている(特許文献1から特許文献4参照)。セパレート式の着物は、上半身に対応する上衣と下半身に対応する下衣とに分離されており、これにより、着付けに慣れていない者であっても比較的簡単に着付けを行うことができる。
【0003】
ところで、いわゆる「えり抜き」は、着付けの美しさにおいて重要である。えり抜きとは、肩部周辺の生地を後方へ引くことで、首筋と襟との間に隙間を作ることである。一般に着物の下には襦袢と呼ばれる肌着が着用されるが、襦袢の襟と着物の襟とがきれいに重なった状態にえり抜きをすることは、着付けにおいて重要であり且つ困難である。
【0004】
上記特許文献1~特許文献3に開示されたセパレート式着物は、美しいえり抜きが困難であった。この不具合を解消するため、本願発明者は、美しいえり抜きを容易に行うことができるセパレート式着物を発明した(特許文献4参照)。このセパレート式着物は、美しいえり抜きが容易であり、しかも、襟元の形状が崩れにくいという特徴がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2003-055807号公報
【文献】特開2000-328313号公報
【文献】特開平07-048704号公報
【文献】実用新案登録第3185385号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
着物を着用することの問題点は、大きな身体の動きに対して着物が乱れ(特に襟元の形状が崩れ)やすいことである。特に、若者が着物を着用した場合、着物の乱れを気にすることなく、身体を大きく動かしたいという要請がある。
【0007】
本発明はかかる背景のもとになされたものであって、その目的は、美しい着付けが容易であり、且つ身体の動きに対して着物の乱れを防止することができるセパレート式着物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1) 上記課題を解決するため、本発明に係るセパレート式着物は、上衣、下衣およびおはしょりベルトを有するセパレート式着物である。上記上衣は、着用者の体の後方左側および後方右側に左右対称に配置される左後身頃および右後身頃を有し、当該左後身頃および右後身頃が縫い合わされた後身頃と、上記後身頃の中央部に取り付けられた第1固定紐と、上記左後身頃および上記右後身頃にそれぞれ連続し且つ前方に折り返されることによって当該左後身頃および上記右後身頃と対向して着用者の体の前方左側および前方右側に左右対称に配置される左前身頃および右前身頃を有する前身頃と、上記左前身頃の左端縁および上記左後身頃の左端縁、並びに上記右前身頃の右端縁および上記右後身頃の右端縁に、それぞれ取り付けられた一対の袖と、上記前身頃の内縁に沿って取り付けられた帯状の着物襟と、上記着物襟に対して重なるように取り付けられた帯状の襦袢襟と、上記左前身頃の内縁および上記右前身頃の内縁にそれぞれ取り付けられ、当該前身頃および上記後身頃を着用者の体に固定する一対の第2固定紐と、上記袖の袖口止まりの近傍に設けられ、上記第2固定紐が挿通される紐通しと、を備える。上記袖口止まりより下方において上記後身頃と上記前身頃との間にスリットが形成されている。上記下衣は、着用者の腹ないし腰に巻かれる下衣本体と、上記下衣本体の左端および右端から延びる一対の腰紐と、上記下衣本体の上縁部の端部に設けられた第1腰紐通しおよび当該第1腰紐通しよりも上記下衣本体の中央側に設けられた第2腰紐通しと、を有する。上記第2腰紐通しに隣接して、上記腰紐が挿通される挿通孔が設けられている。上記おはしょりベルトは、上記下衣に重ねて装着されるベルト本体と、上記ベルト本体の左端部および右端部を着脱自在に連結する面ファスナーと、を有する。
【0009】
この発明によれば、着用者は、上衣に袖を通す。上衣の表側から順に着物襟および襦袢襟が前身頃に重ねて取り付けられているので、着物襟および襦袢襟が前身頃に対して綺麗に重なった状態が演出される。着用者は、第1固定紐を後身頃から前側に向かって体に巻き付け、体の前方で結ぶ。このとき、第1固定紐が後身頃の中央部に取り付けられているので、着用者は、第1固定紐を下方に引っ張りながら体の前側へ巻き回すことによって、着物襟および襦袢襟の形状を崩すことなく、綺麗なえり抜きを容易に行うことができる。次に、着用者は、左前身頃および右前身頃を体の前側で合わせて、襟元を整える。後身頃と前身頃との間にスリットが形成されているため、後身頃と前身頃とを胴回りに部分的に容易に重ねることができ、後身頃及び前身頃を着用者の体にフィットさせることができる。
【0010】
続いて着用者は、左前身頃に取り付けられた第2固定紐を体の右側から後身頃の外側へ巻き回し、左側の袖口止まりの近傍に設けられた紐通しに通す。同様に、着用者は、右前身頃に取り付けられた第2固定紐を体の左側から後身頃の外側へ巻き回し、右側の袖口止まりの近傍に設けられた紐通しに通し、一対の第2固定紐同士を結ぶ。一対の第2固定紐がそれぞれ上記各紐通し(すなわち、左側および右側に配置された紐通し)に通されるから、上衣が着用者の体に確実にフィットし、着用者が激しく体を動かしたとしても前身頃がずれにくく、上衣の乱れが抑えられる。
【0011】
着用者は、下衣本体を腹部ないし腰部に巻き付け、右側の腰紐を上記挿通孔に通す。この腰紐は、当該下衣本体の外側から体に巻き回され、右側に配置された(すなわち下衣本体の上縁部の端部に設けられた)第1腰紐通しに通される。他方、左側の腰紐は、当該下衣本体の外側から体に巻き回され、左側に配意された(すなわち下衣本体の上縁部の中央側に設けられた)第2腰紐通しに通される。これら一対の腰紐が着用者の体の前側で互いに結ばれる。これにより、下衣は、確実に体にフィットし、着用者は、激しく体を動かしても下衣の乱れが抑えられる。
【0012】
ところで、着付けの際には、着丈より長い余った生地は、腰の辺りでたくし上げられ、このたくし上げられた生地は、着物帯の下端から下方へはみ出す状態にされる。このような着付けの手法は「おはしょり」と称され、着付けにおいてこの作業を美しく行うには熟練を要する。着用者は、上記おはしょりベルトを下衣の上から装着する。このとき、ベルト本体が上記下衣に重ねて巻かれる。ベルト本体は、面ファスナーによって上記下衣に簡単に巻き付けられ、且つ取り外される。着用者は、このようにおはしょりベルトを装着することにより、着物帯の下端からおはしょりベルトを簡単に且つ綺麗にはみ出させることができる。したがって、あたかも美しいおはしょり処理をした上下一体の着物の着付けが演出される。
【0013】
(2) 上記ベルト本体に衽を示す縫い目が形成されているのが好ましい。
【0014】
この構成では、着付けの際に前記縫い目が下衣の衽を示す縫い目と簡単に整合される。したがって、より美しい着付けが簡単に実現される。
【0015】
(3) 上記課題を解決するため、本発明に係るセパレート式着物の上衣は、着用者の体の後方左側および後方右側に左右対称に配置される左後身頃および右後身頃を有し、当該左後身頃および右後身頃が縫い合わされた後身頃と、上記後身頃の中央部に取り付けられた第1固定紐と、上記左後身頃および上記右後身頃にそれぞれ連続し且つ前方に折り返されることによって当該左後身頃および上記右後身頃と対向して着用者の体の前方左側および前方右側に左右対称に配置される左前身頃および右前身頃を有する前身頃と、上記左前身頃の左端縁および上記左後身頃の左端縁、並びに上記右前身頃の右端縁および上記右後身頃の右端縁に、それぞれ取り付けられた一対の袖と、上記前身頃の内縁に沿って取り付けられた帯状の着物襟と、上記着物襟に対して重なるように取り付けられた帯状の襦袢襟と、上記左前身頃の内縁および上記右前身頃の内縁にそれぞれ取り付けられ、当該前身頃および上記後身頃を着用者の体に固定する一対の第2固定紐と、上記袖の袖口止まりの近傍に設けられ、上記第2固定紐が挿通される紐通しと、を備える。上記袖口止まりより下方において上記後身頃と上記前身頃との間にスリットが形成されている。
【0016】
この発明によれば、着用者は、上衣に袖を通す。上衣の表側から順に着物襟および襦袢襟が前身頃に重ねて取り付けられているので、着物襟および襦袢襟が前身頃に対して綺麗に重なった状態が演出される。着用者は、第1固定紐を後身頃から前側に向かって体に巻き付け、体の前方で結ぶ。このとき、第1固定紐が後身頃の中央部に取り付けられているので、着用者は、第1固定紐を下方に引っ張りながら体の前側へ巻き回すことによって、着物襟および襦袢襟の形状を崩すことなく、綺麗なえり抜きを容易に行うことができる。次に、着用者は、左前身頃および右前身頃を体の前側で合わせて、襟元を整える。後身頃と前身頃との間にスリットが形成されているため、後身頃と前身頃とを胴回りに部分的に容易に重ねることができ、後身頃及び前身頃を着用者の体にフィットさせることができる。
【0017】
続いて着用者は、左前身頃に取り付けられた第2固定紐を体の右側から後身頃の外側へ巻き回し、左側の袖口止まりの近傍に設けられた紐通しに通す。同様に、着用者は、右前身頃に取り付けられた第2固定紐を体の左側から後身頃の外側へ巻き回し、右側の袖口止まりの近傍に設けられた紐通しに通し、一対の第2固定紐同士を結ぶ。一対の第2固定紐がそれぞれ上記各紐通し(すなわち、左側および右側に配置された紐通し)に通されるから、上衣が着用者の体に確実にフィットし、着用者が激しく体を動かしたとしても前身頃がずれにくく、上衣の乱れが抑えられる。
【0018】
(4) 上記後身頃の中央部は、上記左後身頃および上記右後身頃の縫着線に沿い且つ上下方向における衿下より下方21cm以上25cm以下の領域であるのが好ましい。
【0019】
この構成では、えり抜きがより簡単且つ確実に行うことができる。
【0020】
(5) 上記紐通しは、上記前身頃の上記袖口止まりから下方に3cm以上5cm以下の位置に設けられているのが好ましい。
【0021】
この構成では、前身頃のずれが効果的に抑えられる。
【0022】
(6) 上記襦袢襟は、着脱自在であってもよい。
【0023】
この構成では、襦袢襟が取り外されるので、襦袢襟の洗濯が可能である。
【0024】
(7) 上記課題を解決するため、本発明に係るセパレート式着物の下衣は、着用者の腹ないし腰に巻かれる下衣本体と、上記下衣本体の左端および右端から延びる一対の腰紐と、上記下衣本体の上縁部の端部に設けられた第1腰紐通しおよび当該第1腰紐通しよりも上記下衣本体の中央側に設けられた第2腰紐通しと、を有する。上記第2腰紐通しに隣接して、上記腰紐が挿通される挿通孔が設けられている。
【0025】
この発明によれば、着用者は、下衣本体を腹部ないし腰部に巻き付け、右側の腰紐を上記挿通孔に通す。この腰紐は、当該下衣本体の外側から体に巻き回され、右側に配置された(すなわち下衣本体の上縁部の端部に設けられた)第1腰紐通しに通される。他方、左側の腰紐は、当該下衣本体の外側から体に巻き回され、左側に配意された(すなわち下衣本体の上縁部の中央側に設けられた)第2腰紐通しに通される。これら一対の腰紐が着用者の体の前側で互いに結ばれる。これにより、下衣は、確実に体にフィットし、着用者は、激しく体を動かしても下衣の乱れが抑えられる。
【0026】
(8) 上記課題を解決するため、本発明に係るおはしょりベルトは、上衣と下衣とに分離されたセパレート式着物に適用されるものであって、上記下衣に重ねて装着されるベルト本体と、上記ベルト本体の左端部および右端部を着脱自在に連結する面ファスナーと、を有する。
【0027】
着用者は、上記おはしょりベルトを下衣の上から装着する。このとき、ベルト本体が上記下衣に重ねて巻かれる。着用者は、このようにおはしょりベルトを装着することにより、着物帯の下端からおはしょりベルトを簡単に且つ綺麗にはみ出させることができる。したがって、あたかも美しいおはしょり処理をした上下一体の着物の着付けが演出される。しかも、上記ベルト本体は、面ファスナーによって上記下衣に簡単に巻き付けられ固定されるから、着用者が激しく体を動かしても上記おはしょりの乱れが抑制される。
【0028】
(9) 上記ベルト本体に衽を示す縫い目が形成されているのが好ましい。
【0029】
この構成では、着付けの際に前記縫い目が下衣の衽を示す縫い目と簡単に整合される。したがって、より美しい着付けが簡単に実現される。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1図1は、本発明の一実施形態に係るセパレート式着物10の着付けが完了した状態を示す図である。
図2図2は、本発明の一実施形態に係る上衣20の構成を示す平面図である。
図3図3は、後方から観た上衣20の要部拡大図である。
図4図4は、上衣20を構成する前身頃11、後身頃12および左右の袖25、26の生地の平面図である。
図5図5は、第1固定紐13の取付位置を示す図である。
図6図6は、紐通し14の取付位置を示す模式図である。
図7図7は、本実施形態に係る上衣20に設けられる襦袢襟39および重ね襟38の構造を示す図である。
図8図8は、本発明の一実施形態に係る下衣50の構成を示す平面図である。
図9図9は、本発明の一実施形態に係るおはしょりベルト60の構造を示す図である。
図10図10は、セパレート式着物10の着付けの手順を示す図である。
図11図11は、セパレート式着物10の着付けの手順を示す図である。
図12図12は、セパレート式着物10の着付けの手順を示す図である。
図13図13は、セパレート式着物10の着付けの重要ポイントを示す図である。
図14図14は、セパレート式着物10の着付けの重要ポイントを示す図である。
図15図15は、セパレート式着物10の着付けの重要ポイントを示す図である。
図16図16は、セパレート式着物10の着付けの重要ポイントを示す図である。
図17図17は、セパレート式着物10の着付けの重要ポイントを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明の好ましい実施形態が、適宜図面が参照されつつ説明される。
【0032】
1.セパレート式着物の概略
【0033】
図1は、本発明の一実施形態に係るセパレート式着物10の着付けが完了した状態を示す図である。
【0034】
同図が示すように、セパレート式着物10は、上衣20、下衣50およびおはしょりベルト60を備える。同図では、着物帯70も装着された状態が示されている。上衣20は着用者の上半身に、下衣50は下半身に着用される。おはしょりベルト60は、上衣20と下衣50との境界を覆うようにして、着用者の腹部に巻かれる。着物帯70は、おはしょりベルト60の外側に巻かれる。着物帯70は、セパレート式着物の着付けに一般的に採用されるものである。以下の説明において、上下、左右および前後の各方向は、着用者の視点を前提としたものである。
【0035】
2.上衣について
【0036】
図2は、上衣20の構成を示す平面図である。図3は、後方から観た上衣20の要部拡大図である。
【0037】
上衣20は、前身頃11および後身頃12と、左袖25および右袖26とを有する。左袖25および右袖26は、左右対称に配置される。前身頃11は、左前身頃21および右前身頃22を有し、後身頃12は、左後身頃23および右後身頃24を有する。左前身頃21および右前身頃22、並びに左後身頃23および右後身頃24は、左右対称に配置され、それぞれが対をなしている。本実施形態に係る上衣20の特徴とするところは、後身頃12の外側に第1固定紐13が設けられている点、および前身頃11に一対の紐通し14が設けられている点である。これら特徴点については、後に詳述される。
【0038】
図4は、前身頃11、後身頃12および左右の袖25、26を構成する生地の平面図である。同図(A)は、左前身頃21および左後身頃23を構成する生地43の平面図、同図(B)は、左袖25を構成する生地44の平面図である。なお、後身頃12および前身頃11並びに左袖25および右袖26を構成する生地43、44は、裏地となる生地を有しているが、同図では図示されていない。
【0039】
生地43は、たとえば同図(A)が示すような形状に裁断される。上衣20が縫製されるときは、一対の生地43が左右対称(同図では上下)に配置され、中央線L1に沿って縫い合わされる。一対の生地43が縫い合わされると、この中央線L1は、上衣20の縫着線として現れる。同図が示す生地43のうち右側部分が左前身頃21を構成し、左側部分が左後身頃23を構成する。同様に、当該生地43と左右対称に配置される生地43は、右前身頃22および右後身頃24を構成する。
【0040】
生地43が折り返し線L2にて山折りされることにより、左前身頃21と左後身頃23とが向かい合い、右前身頃22と右後身頃24とが向かい合う。これにより、左後身頃23および右後身頃24が着用者の体の後方左側および後方右側に配置され、左前身頃21および右前身頃22が着用者の体の前方左側および前方右側に配置される。着用者が上衣20を着用するときは、左前身頃21および右前身頃22が着用者の体の前側で交差して合わせられる。
【0041】
図2が示すように、左後身頃23の左外縁27および右後身頃24の右外縁28は、上下に沿って延びている。上記左外縁27および右外縁28は、それぞれ、左後身頃23および右後身頃24の下端縁29と連続している。左外縁27、右外縁28および下端縁29によって、後身頃12の下半部は概ね矩形の形状を呈する。
【0042】
図2から図4が示すように、後身頃12の中央部30に第1固定紐13が設けられている。第1固定紐13は、公知の布等からなり、所要の長さに設定されている。図3が示すように、第1固定紐13は、後身頃12の上記縫着線(中央線)L1を跨いで左右対称に配置され、縫い付けられている。換言すれば、図4が示すように、第1固定紐13は、左後身頃23の右端部および右後身頃24の左端部に掛け渡すように配置され、縫い付けられている。この第1固定紐13は、後述のように、着用者の体の前側へ巻き回され、腹部で結ばれる。
【0043】
図5は、第1固定紐13の取付位置を示す図である。
【0044】
図3および図5が示すように、本実施形態では、後身頃12の中央部30は、着用者の背中の中央よりやや上側である。具体的には、上記中央部30は、上記縫着線(中央線)L1に沿って、上衣20の衿下47から下方に所定長さ32の位置である。本実施形態では、この所定長さ32は、22cmに設定されている。ただし、この所定長さ32は、上記衿下47から21cm以上25cm以下であればよい。上記中央部30は、後身頃12に縫い付けられている。すなわち、上記中央部30は、上記縫着線(中央線)L1を中心として左右に所定長さ48の領域において縫着されている。本実施形態では、上記中央部30は、上記縫着線(中央線)L1を中心として左右に10cmずつ、都合20cmの領域において後身頃12に縫い付けられている。ただし、上記所定長さ48は、15cm以上25cm以下であればよい。
【0045】
図4が示すように、生地43が折り返し線L2で山折りされることにより、左後身頃23および左前身頃21が対向し、同様に、右後身頃24および右前身頃22が対向する。左後身頃23および左前身頃21の左端同士が対向した状態で、上記左外縁27の上方に袖付部E1が形成される。この袖付部E1(特許請求の範囲に記載された「左前身頃の左端縁および左後身頃の左端縁」に相当)に、ループ状の左袖25が縫い合わされる。
【0046】
左袖25は、前身頃11および後身頃12と同じ生地から縫製される。左袖25は、2枚の生地44(図4(B)参照)が重ね合わせられた状態で縫い付けられることにより構成される。左袖25の構造は公知であって、袖付部E2が形成される。左袖25の袖付部E2が、上記袖付部E1に沿って左後身頃23および左前身頃21と縫い合わされる。これにより、左袖25は、いわゆる身八口を形成して左後身頃23および左前身頃21に縫着され、その端部に袖口止まり31が形成される(図2および図4参照)。左袖25が前身頃11および後身頃12に縫着されると、左後身頃23と左前身頃21との間の空間が左袖25の内部と連通する。左袖25は、概ねその上半部が左後身頃23および左前身頃21と縫着され、下半部が下方へ垂れ下がる。
【0047】
他方、右袖26は左袖25と左右対称に構成されている。すなわち、上記生地43が折り返し線L2で山折りされることにより、右後身頃24および右前身頃22が対向し、袖付部E1(特許請求の範囲に記載された「右前身頃の右端縁および右後身頃の右端縁」に相当)が形成される。図2が示すように、右袖26は、左袖25と同様に、右後身頃24および右前身頃22の右端であって右外縁28の上方に縫い合わされ、上記袖口止まり31が形成される。なお、右袖26の詳しい説明は省略される。
【0048】
図2が示すように、左袖25および右袖26が縫着された位置、すなわち上記袖口止まり31より下方では、左後身頃23と左前身頃21とが縫い合わされておらず分離されている。同様に、上記袖口止まり31より下方では、右後身頃24と右前身頃22とが縫い合わされておらず分離されている。これにより、上衣20の左端において、左後身頃23と左前身頃21との間にスリット33が形成されている。同様に、上衣20の右端において、右後身頃24と右前身頃22との間にスリット34が形成されている。同図では、左前身頃21および右前身頃22が上方へ捲り上げられており、スリット33、34が開かれた状態となっている。本明細書において、スリット33およびスリット34は、前身頃11と後身頃12との間の隙間のことを意味する。したがって、本発明において「スリット」なる概念は、生地の間の隙間を意味するものであり、生地を切断して形成される切り込みに限定されるものではない。
【0049】
図6は、紐通し14の取付位置を示す模式図である。
【0050】
図2および図6が示すように、左前身頃21および右前身頃22に上記紐通し14が設けられている。この紐通し14は、前身頃11および後身頃12と同じ生地からなり、ループを形成するように左前身頃21および右前身頃22の表側(前側)に縫い付けられている。上記ループの大きさは特に限定されるものではないが、後述される第2固定紐45および第2固定紐46が挿通可能な大きさである。この紐通し14は、左右対称に配置されており、上記袖口止まり31から下方に所定長さ42の位置に設けられている(図6参照)。この所定長さ42は、本実施形態では3cmに設定されている。ただし、この紐通し14の位置は、上記袖口止まり31より下方に2cm以上10cm以下、好ましくは3cm以上5cm以下に設定される。なお、図2では、前身頃11が捲り上げられているので、図面上では紐通し14は、袖口止まり31より上方に位置している。
【0051】
図2が示すように、左前身頃21の右端である内縁35および右前身頃22の左端である内縁36に沿って帯状の着物襟37が縫い付けられている。着物襟37は、前身頃11および後身頃12と同じ生地からなる。着物襟37は、中央線L1を中央として、上記内縁35および上記内縁36に沿って左右両側に延びている。着物襟37の両端は、左前身頃21および右前身頃22の下端に達している。
【0052】
着物襟37の裏面に、帯状の重ね襟38が縫い付けられている。重ね襟38は、着物襟37とは異なる生地からなる。重ね襟38の形状は、概ね着物襟37と同様であるが、着物襟37と比較して長手方向に短い。そのため、重ね襟38は、左前身頃21および右前身頃22の下端までは延びていない。重ね襟38は、短手方向の一端の縁が着物襟37から内側(着用者の体の中央側)へはみ出すように、着物襟37に縫着されている(図11参照)。なお、この重ね襟38は、省略されてもよい。
【0053】
図7は、上衣20に設けられる襦袢襟39および重ね襟38の構造を示す図である。同図(A)は、襦袢襟39の平面図であり、襦袢襟39に設けられたスナップボタンの位置を示している。同図(B)は、襦袢襟39の縫製の一例を示す図であり、同図(C)は、重ね襟38の縫製の一例を示す図である。
【0054】
同図(B)が示すように、襦袢襟39は、長方形状の生地からなる。この生地が短手方向に折り返されて、長手方向の縁部が重ね合わされて縫合されている。同図(C)が示すように、重ね襟38も長方形の生地からなる。この生地が短手方向に環状に折り返されて、長手方向の縁部が互いに対向するように(表面と裏面とが接する状態で)縫合されている。なお、同図は、襦袢襟39および重ね襟38の縫合構造の一例を示すものであることは言うまでもない。
【0055】
図2が示すように、重ね襟38の裏側には、帯状の襦袢襟39が取り付けられている。襦袢襟39は、着物襟37および重ね襟38とは異なる生地からなる。襦袢襟39の形状は、概ね重ね襟38と同様である。図7(A)が示すように、襦袢襟39の長手方向に所定間隔を隔てて、複数のスナップボタン81から83が取り付けられている。本実施形態では、3つのスナップボタン81が中央に並設され、2つのスナップボタン82がスナップボタン81の両側に配置され、2つのスナップボタン83がスナップボタン82の隣に配置されている。スナップボタン81、82の外径は、本実施形態では11mmであり、スナップボタン83の外径は、本実施形態では13mmである。ただし、スナップボタン81~83の数や外径は、特に限定されるものではない。本実施形態では、スナップボタン82は襦袢襟39の縁に配置されている。スナップボタン81、83は、それぞれ、スナップボタン82に対して襦袢襟39の幅方向に所定長さD1、D2だけオフセットされている。本実施形態では、D1は8mmから10mm程度、D2は20mmから25mm程度に設定され得る。
【0056】
同図に示されていないが、重ね襟38にもスナップボタンが取り付けられている。このスナップホタンと、上記スナップボタン81から83により、襦袢襟39は、重ね襟38に対して容易に着脱されるようになっている。すなわち、スナップボタン81から83は、襦袢襟39および重ね襟38の中央周辺、並びに着付けの際に襦袢襟39が交差される部分(図10参照)の中央に取り付けられる。したがって、襦袢襟39の中央周辺および交差部分が、重ね襟38に取り付けられ、襦袢襟39の長手方向の両端部は、重ね襟38と分離している。なお、重ね襟38が省略される場合は、襦袢襟39は、着物襟37の裏面に上記スナップボタン81から83を介して着脱自在に取り付けられる。
【0057】
図7に示されていないが、襦袢襟39の内部、すなわち襦袢襟39の表側の生地と裏側の生地との間に衿芯が挿入されている。衿芯は一定の弾性を有する樹脂からなり、襦袢襟39に対して取り外し可能となっている。衿芯は、襦袢襟39の長手方向の両端の開口から当該襦袢襟39の内部に挿入される。
【0058】
襦袢襟39は、その短手方向の一端の縁が、重ね襟38から内側へはみ出すように、重ね襟38に取り付けられる(図11参照)。これにより、着用者の前方からは、表側から順に、着物襟37、重ね襟38および襦袢襟39が、綺麗に重なった状態が演出される。なお、図4では、着物襟37、重ね襟38および襦袢襟39の図示が省略されている。
【0059】
図2が示すように、着物襟37の裏側に第2固定紐45、46が縫い付けられている。すなわち、第2固定紐45は、着物襟37を介して左前身頃21の内縁35に取り付けられ、第2固定紐46は、着物襟37を介して右前身頃22の内縁36に取り付けられている。これら第2固定紐45、46は、後述のように着用者の体に巻き回され、互いに結ばれる。第2固定紐45、46は、後身頃12および前身頃11を着用者の体に固定する。
【0060】
3.下衣について
【0061】
図8は、下衣50の構成を示す平面図である。同図(A)は、下衣50を構成する生地の裁断図であり、同図(B)は、縫製後の下衣50の外観図である。同図は、下衣50の表側を示している。
【0062】
下衣50は、下衣本体51と、一対の腰紐(左側の腰紐52、右側の腰紐53)と、一対の腰紐通し(第1腰紐通し54、第2腰紐通し55)とを有する。本実施形態に係る下衣50の特徴とするところは、後述される挿通孔59が下衣本体51に設けられている点、および上記第1腰紐通し54および第2腰紐通し55が下衣本体51に設けられている点である。
【0063】
下衣本体51は、上衣20を構成する生地43と同様の生地からなる。本実施形態では、下衣本体51の外形は略矩形であり、下衣50は、いわゆる巻きスカートのようにして着用される。下衣50は、所要の裏地を備えており、この裏地は、下衣本体51に縫い付けられている。
【0064】
腰紐52は、下衣本体51の上縁部57の左端部に縫い付けられ、下衣本体51の左端から延びている。腰紐53は、下衣本体51の上縁部57の右端部に縫い付けられ、下衣本体51の右端から延びている。この場合の「左端」および「右端」は、着用時の着用者の視点(すなわち着用者が下衣本体51の裏側を体の後側と対向させた状態での視点)が基準である。腰紐52、53を構成する生地は、上衣20に設けたれた第1固定紐13と同様のものが採用され得る。
【0065】
同図(A)が示すように、上記上縁部57の中央部において、左右対称に摘まみ領域84、85が設けられている。また、上記上縁部57の右端縁にも摘まみ領域86が設けられている。縫製の際に、摘まみ領域84から86が摘ままれて縫い付けられ、同図(B)が示すようにタック87~89が形成される。これにより、下衣本体51の裾は、右側に向かって引っ張り上げられた状態となる。
【0066】
第1腰紐通し54および第2腰紐通し55は、下衣本体51の上縁部57の表側に設けられている。第1腰紐通し54は、腰紐52が縫い付けられた部位の近傍(本実施形態では、腰紐52が縫い付けられた部位を基準に5cm以下の領域:特許請求の範囲に記載された「上縁部の端部」に相当)に設けられている。腰紐通し54は、下衣本体51と同じ生地からなり、ループを形成するように上記上縁部57に縫い付けられている。このループの大きさは特に限定されるものではないが、腰紐52、53が挿通可能な大きさである。他方、第2腰紐通し55は、第1腰紐通し54と左右方向に対向するように上記上縁部57に縫い付けられている。具体的には、第2腰紐通し55は、第1腰紐通し54から上記上縁部57の長手方向58に沿って所定の間隔90をあけて、下衣本体51の中央側に配置されている。これにより、着用者が下衣50を着用すると、第1腰紐通し54および第2腰紐通し55は、着用者の体の右側方および左側方に配置される。
【0067】
下衣本体51に挿通孔59が設けられている。この挿通孔59は、上記上縁部57に設けられ、下衣本体51を貫通している。本実施形態では、この挿通孔59は、上記第2腰紐通し55に隣接する位置(たとえば、第2腰紐通し55を基準にして5cm以下)であって、下衣本体51の中央側に位置する。挿通孔59の外形は、本実施形態ではスリットないし細長の矩形である。ただし、腰紐52、53が挿通できる限り、挿通孔59の形状、サイズは特に限定されない。
【0068】
4.おはしょりベルトについて
【0069】
図9は、おはしょりベルト60の構造を示す図である。同図(A)は裏面図、同図(B)は表面図である。
【0070】
おはしょりベルト60は、ベルト本体66と、面ファスナー62を備えている。本実施形態に係るおはしょりベルト60の特徴とするところは、上記面ファスナー62を備えている点であり、これにより、着用者は、ベルト本体66を上記下衣50の上に簡単に巻き付けて固定することができるようになっている。
【0071】
ベルト本体66の外形は細長の矩形であり、下衣50および上衣20と同様の生地からなる。ベルト本体66の下縁部分61は、同図が示すように折り返されている。面ファスナー62は、ループテープ63およびフックテープ64を有し、これらがベルト本体66の左端部および右端部に取り付けられている。本実施形態では、ループテープ63が裏面側に設けられ、フックテープ64が表面側に設けられている。もっとも、ループテープ63が表面側に、フックテープ64が裏面側に設けられてもよい。ベルト本体66に縫い目65が形成されている。この縫い目65は、上下に延びており、いわゆる衽ラインを形成している。
【0072】
5.着付けについて
【0073】
本実施形態に係るセパレート式着物10の着付けの手順は、以下のとおりである。なお、セパレート式着物10の着付けの説明において、重要でない細部の手順は省略される。省略された手順は、通常の着物の着付けの方法にしたがうものである。
【0074】
図10図11および図12は、着付けの手順を示す図である。
【0075】
図10が示すように、着用者は、肌着などの上から上衣20を羽織る。上衣20の表側から順に着物襟37、重ね襟38および襦袢襟39が前身頃11に重ねて取り付けられているので、着物襟37、重ね襟38および襦袢襟39が前身頃に対して綺麗に重なった状態となっている。着用者は、第1固定紐13を後身頃12から前側に向かって体に巻き付け、体の前方で結ぶ。このとき、第1固定紐13が後身頃12の中央部30に取り付けられているので(図2図3参照)、着用者は、第1固定紐13を下方に引っ張りながら体の前側へ巻き回す。これにより、着物襟37、重ね襟38および襦袢襟39の形状を崩すことなく、綺麗なえり抜きを容易に行うことができる。
【0076】
特に本実施形態では、第1固定紐13は、後身頃12の中央部30、すなわち、図5が示すように、上衣20の衿下47から下方に21cm以上25cm以下の範囲に取り付けられているので、着用者は、第1固定紐13を引っ張るだけで、きわめて美しいえり抜きを簡単に行うことができる。しかも、この第1固定紐13は、同図が示すように、所定長さ48(15cm以上25cm以下)の領域において縫い付けられているから、着用者は、第1固定紐13を引っ張るだけで、より簡単且つ迅速に美しいえり抜きを行うことができる。
【0077】
図11が示すように、着用者は、左前身頃21および右前身頃22を体の前側で合わせて、襟元を整える。後身頃12と前身頃11との間にスリット33、34が形成されているため(図2参照)、着用者は、図10が示すように、上記第1固定紐13を体の前側へ回しやすいし、後身頃12と前身頃11とを胴回りに部分的に容易に重ねることができ、後身頃12及び前身頃11を着用者の体に容易にフィットさせることができる。
【0078】
続いて着用者は、図10および図2が示すように、前身頃11に設けられた第2固定紐45、46を用いて左前身頃21および右前身頃22を綺麗に合わせた状態で固定する。具体的には、左前身頃21に取り付けられた第2固定紐45が体の右側から後身頃12の外側へ巻き回される。他方、右前身頃22に取り付けられた第2固定紐46が体の左側から後身頃12の外側へ巻き回される。そして、図12が示すように、第2固定紐45、46は、着用者の体の前側まで巻き回された状態で、着用者の腹部にて結ばれる。
【0079】
図13ないし図17は、着付けの重要ポイントを示す図である。
【0080】
図13および図2が示すように、前身頃11に一対の紐通し14が設けられている。これにより、上記第2固定紐46は、着用者の体の左側から後身頃12の外側へ巻き回された後に、右前身頃22に設けられた紐通し14に挿通される。他方、上記第2固定紐45は、着用者の体の右側から後身頃12の外側へ巻き回された後に、左前身頃21に設けられた紐通し14(図2参照)に挿通される。このように、第2固定紐45、46が紐通し14に挿通されることによる効果は後述される。
【0081】
着用者は、下衣50(図8参照)を着用する。着用者は、下衣本体51を腹部ないし腰部に巻き付ける。着用時に着用者の右側に配置される腰紐53は、図14および図15が示すように、下衣本体51に設けられた挿通孔59に通される。このとき、図14が示すように、腰紐53は、下衣50の内側(裏側)から挿通孔59を通り、図15が示すように外側(表側)に延びる。この腰紐53は、下衣本体51の外側から着用者の体の左側から後側に巻き回され、図16が示すように、第1腰紐通し54に通される。他方、腰紐52は、着用者の体の右側から後側に巻かれ、第2腰紐通し55(図15図8参照)に通される。腰紐52、53は、図17が示すように、着用者の体の前側で交差し、結ばれる。
【0082】
着用者は、図9が示すおはしょりベルト60を着用する。おはしょりベルト60は、同図(B)が示す表面側を外側にして着用者の腰回りに装着される。おはしょりベルト60は、上衣20と下衣50との境界が隠れる位置に巻かれる。このとき、おはしょりベルト60に形成された縫い目65が、図1が示すように、下衣本体51の縫い目56に合わせられる。この作業は、着付けにおける衽ラインを合わせる作業にほかならないが、ベルト本体66が面ファスナー62により着用者の体に固定されるので、着用者は、ベルト本体66の縫い目56の位置を容易に調整することができる。
【0083】
したがって、衽ラインを合わせる作業がきわめて簡単である。衽ラインが一致した状態で、着用者は、ループテープ63をフックテープ64に重ね、面ファスナー62を閉じる。これにより、ベルト本体66の左端部及び右端部が連結され、おはしょりベルト60が固定される。なお、着用者は、上記面ファスナー62を簡単に外すことができ、おはしょりベルト60の着脱も容易である。
【0084】
着用者は、おはしょりベルト60の外側から、着物帯70(図1参照)を巻く。着物帯70は、通常の着物の着付けに使用される一般的な物であり、その締め方も通常の着付けの方法にしたがう。これにより、図1が示すように、おはしょりベルト60は、衽ラインが綺麗に揃った状態で、着物帯70の下端から部分的にはみ出す。
【0085】
6.セパレート式着物の効果について
【0086】
前述のように、セパレート式着物10の着付けの際に、着物襟37、重ね襟38および襦袢襟39の形状を崩すことなく、綺麗なえり抜きを簡単且つ迅速に行うことができる。しかも、前身頃11に設けられた紐通し14に第2固定紐45、46が挿通されるから、着用者が激しく体を動かしても前身頃11がずれにくく、上衣20の乱れが抑えられる。加えて、下衣本体51に設けられた腰紐52、53が、上記挿通孔59および第1腰紐通し54および第2腰紐通し55に通されるので、下衣50が確実に着用者の体にフィットする。その結果、着用者が激しく体を動かしても下衣50の乱れが抑えられる。さらに、おはしょりベルト60は、面ファスナー62を介して簡単に着脱され、確実に着用者の体に固定されるので、着用者が激しく体を動かしてもおはしょりベルト60の乱れ、および衽ラインの乱れが抑えられる。
【0087】
本実施形態では、図2および図3が示すように、第1固定紐13が後身頃12の中央部30に縫い付けられている。このため、後身頃12を下に引っ張り易く、えり抜きをより綺麗に行うことができる。
【0088】
本実施形態では、図2が示すように、紐通し14は、前身頃11の袖口止まり31から下方に3cm以上5cm以下の位置に設けられる。これにより、セパレート式着物10を着用した場合に、たとえば腕を大きく上に振るなどの運動をしたとしても、前身頃11のずれが効果的に抑えられる。
【0089】
加えて、本実施形態では、襦袢襟39が着脱自在であるから、襦袢襟39のみの洗濯が可能である。
【0090】
本実施形態では、前述のように、面ファスナー62を介しておはしょりベルト60が装着されるので、着付けにおけるおはしょりがきわめて簡単であり、しかも衽ラインが綺麗に揃うという利点がある。
【符号の説明】
【0091】
10・・・セパレート式着物
11・・・前身頃
12・・・後身頃
13・・・第1固定紐
14・・・紐通し
20・・・上衣
21・・・左前身頃
22・・・右前身頃
23・・・左後身頃
24・・・右後身頃
25・・・左袖
26・・・右袖
27・・・左外縁
28・・・右外縁
30・・・中央部
31・・・袖口止まり
32・・・所定長さ
33・・・スリット
34・・・スリット
35・・・内縁
36・・・内縁
37・・・着物襟
38・・・重ね襟
39・・・襦袢襟
42・・・所定長さ
43・・・生地
44・・・生地
48・・・所定長さ
50・・・下衣
51・・・下衣本体
52・・・腰紐
53・・・腰紐
54・・・腰紐通し
55・・・腰紐通し
56・・・縫い目
57・・・上縁部
59・・・挿通孔
60・・・おはしょりベルト
62・・・面ファスナー
63・・・ループテープ
64・・・フックテープ
65・・・縫い目
66・・・ベルト本体
70・・・着物帯

【要約】
【課題】美しい着付けが容易であり、しかも着崩れがしにくいセパレート式着物を提供すること。
【解決手段】前身頃11の内縁35、36に沿って着物襟37、重ね襟38および襦袢襟39が重ねて縫着されている。後身頃12の外側の中央部30に第1固定紐13が縫い付けられている。この中央部30は、衿下47から下方に22cmの位置であり、且つ左右方向に20cmの領域である。前身頃11に一対の第2固定紐45、46が設けられている。袖口止まり31の近傍に第2固定紐45、46が挿通される紐通し14が設けられている。袖口止まり31より下方において、後身頃12と前身頃11との間にスリット33、34が形成されている。
【選択図】図2
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17