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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-21
(45)【発行日】2024-03-29
(54)【発明の名称】TiAl基合金の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 1/04 20230101AFI20240322BHJP
   B22F 3/02 20060101ALI20240322BHJP
   C22C 14/00 20060101ALN20240322BHJP
【FI】
C22C1/04 C
B22F3/02 S
C22C14/00 Z
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020032243
(22)【出願日】2020-02-27
(65)【公開番号】P2021134399
(43)【公開日】2021-09-13
【審査請求日】2022-12-19
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る出願(平成30年度国立研究開発法人科学技術振興機構、戦略的イノベーション創造プログラム(SIP第2期)統合型材料開発システムによるマテリアル革命「高性能TiAl基合金動翼の粉末造形プロセス開発と基盤技術構築」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願)
(73)【特許権者】
【識別番号】514275772
【氏名又は名称】三菱重工航空エンジン株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京工業大学
(73)【特許権者】
【識別番号】591163960
【氏名又は名称】大阪冶金興業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112737
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 考晴
(74)【代理人】
【識別番号】100140914
【弁理士】
【氏名又は名称】三苫 貴織
(74)【代理人】
【識別番号】100136168
【弁理士】
【氏名又は名称】川上 美紀
(74)【代理人】
【識別番号】100172524
【弁理士】
【氏名又は名称】長田 大輔
(72)【発明者】
【氏名】新藤 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】福島 明
(72)【発明者】
【氏名】花田 忠之
(72)【発明者】
【氏名】竹山 雅夫
(72)【発明者】
【氏名】中島 広豊
(72)【発明者】
【氏名】山形 遼介
(72)【発明者】
【氏名】寺内 俊太郎
(72)【発明者】
【氏名】花見 和樹
(72)【発明者】
【氏名】土井 研児
(72)【発明者】
【氏名】岩佐 康弘
【審査官】長谷部 智寿
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-186608(JP,A)
【文献】国際公開第2017/175499(WO,A1)
【文献】渋江和久,反応焼結法によるTiAlの製造,住友軽金属技報,Vol.33, No2,日本,住友軽金属工業株式会社技術研究所,1992年04月,p32-38
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 1/04
C22C 14/00
B22F 3/00-3/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属粉末射出成形法を用いたβ安定化元素を含むTiAl基合金の製造方法であって、
前記β安定化元素を含むTiAl基合金の状態図からβ+α/α変態温度を確認し、
前記β+α/α変態温度以上のβ相存在温度域の温度で焼結し、
前記β安定化元素は、NbおよびCrの少なくとも一方を含むTiAl基合金の製造方法。
【請求項2】
β単相存在温度域の温度で焼結する請求項1に記載のTiAl基合金の製造方法。
【請求項3】
前記焼結後、焼結温度よりも低く、かつ、前記β相存在温度域にある温度で焼結体を所定時間保持する請求項1または請求項2に記載のTiAl基合金の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、TiAl基合金の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
精密部材の大量生産に適した製造方法として金属粉末射出成形(MIM)法が知られている。
【0003】
MIM法は、バインダと金属粉末の混錬物を成形型内に射出して成形する方法である。MIM法は、射出成形する工程と、バッチ処理で焼結する工程とを含む。
【0004】
特許文献1には、MIM法によりタービンホイールの最終製品と近似した形状を有する焼結体を製造する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2011-174096号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
TiAl基合金は、他の耐熱合金に比べて鋳造性および鍛造性に劣る。その点において、MIM法は、TiAl基合金の製造方法として有望である。
【0007】
一方、MIM法は焼結工程を含むため、ボイドの除去が課題となる。
【0008】
他の耐熱合金に比べて、TiAl基合金の焼結温度は融点に近い。融点に近い温度で焼結する場合、TiAl基合金が変形することが懸念される。焼結炉の中に複数の成形体を並べて焼結させると、炉内に温度分布に偏りが生じることがある。炉内温度が均一にならないと、局所的に融点近くまで温度が上がり、変形が生じる可能性が高くなる。
【0009】
焼結温度を下げると、変形は回避できるが、ボイドが残存しやすく(=焼結密度が低く)なる。焼結密度の低いTiAl基合金では、割れが発生しやすい。
【0010】
特許文献1では、焼結時に生じた変形をプレス加工により矯正している。
【0011】
このような事情から、TiAl基合金では、焼結密度の高い高品質な焼結体を得ることが難しく、焼結工程における歩留まりが低いことが問題であった。
【0012】
本開示は、このような事情に鑑みてなされたものであって、より安定的に焼結性を高められるTiAl基合金の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために、本開示のTiAl基合金の製造方法は以下の手段を採用する。
【0014】
本開示は、金属粉末射出成形法を用いたβ安定化元素を含むTiAl基合金の製造方法であって、前記β安定化元素を含むTiAl基合金の状態図からβ+α/α変態温度を確認し、前記β+α/α変態温度以上のβ相存在温度域の温度で焼結し、前記β安定化元素は、NbおよびCrの少なくとも一方を含むTiAl基合金の製造方法を提供する。
【0015】
また本開示の参考態様は、上記製造方法で製造されたTiAl基合金を提供する。
【発明の効果】
【0016】
本開示によれば、β相の体積率が高くなる温度域で焼結を実施することで、安定的に焼結性を高め、高品質の焼結体を得られる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】MIM法の手順を示すフローチャートである。
図2】Ti-Al-Nb-Cr四元系の状態図である。
図3】Ti-Al-Cr三元系の状態図である。
図4】Ti-Al-Nb三元系の状態図である。
図5】Ti-44Al-4Crにおけるβ相体積率と相対密度との関係を示す図である。
図6】Ti-47Al-5Nbにおけるβ相体積率と相対密度との関係を示す図である。
図7】相対密度と温度との関係を示す図である。
図8】各相におけるTiおよびAlの拡散係数を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本実施形態に係るTiAl基合金の製造方法は、ガスタービンエンジンの低圧タービン動翼、ガスタービンエンジンの高圧コンプレッサー動翼、およびターボチャージャーのタービンホイール等へ適用されうる。
【0019】
本実施形態では、金属粉末射出成形(MIM)法を用いてTiAl基合金を製造する。図1に、MIM法の手順を示す。MIM法は、(S1)混錬および造粒、(S2)射出成形、(S3)脱脂、(S4)焼結の工程を含む。本実施形態に係るTiAl基合金の製造方法は、上記(S4)焼結の後に、(S5)焼結体を熱処理する工程を含んでもよい。
【0020】
TiAl基合金の製造には、原料として金属粉末およびバインダが用いられる。
【0021】
金属粉末は、Ti粉末およびAl粉末を含む。金属粉末は、第3元素、または第3元素および第4元素としてβ安定化元素の粉末を含んでもよい。β安定化元素としては、V,Nb,Cr,MoおよびMnが挙げられる。
【0022】
金属粉末は、ガスアトマイズ法、水アトマイズ法、および回転電極法等で製造された粉であってよい。金属粉末は、ガスアトマイズ法で製造された粉であることが好ましい。
【0023】
金属粉末の粒径は、45μm以下、好ましくは30μm以下であるとよい。上限値を超えると、射出成形時における成形素材の流動性が低くなり、充填不良が発生しやすくなる。また、粉末間の空隙が大きくなり焼結体の密度が低下する。
【0024】
例えば、金属粉末は、ガスアトマイズ法で作製した粉を分級により平均粒径45μm以下に調整された粉を用いることができる。
【0025】
バインダは、原料の粉末同士をつなぎ合わせるものである。バインダは、(S2)射出成形の際に、金型の内部に射出成形材料が完全に充填されるように、射出成形材料に流動性(粘度)を付与できる材料であればよい。バインダは、ポリアセタール、ポリプロピレン、ポリエチレン、エチレン酢酸ビニル、またはアクリル樹脂などの有機材料からなる粉末である。
【0026】
原料には、さらに、ワックスまたは他の潤滑剤等が含まれていてもよい。
【0027】
(S1)混錬および造粒
原料(金属粉末とバインダとを含む)を混錬機に投入し、加圧および加熱しながら混錬する。粘土状の混錬物を造粒機にかけ、ペレット(射出成形材料)を得る。
【0028】
バインダの添加量は、混錬物全体のおおよそ30wt%以上45wt%以下であることが好ましい。バインダの添加量は、射出成形性および焼結性を考慮し、合金成分、製品形状、および量産仕様に合わせて調整する。その際、合金原料、バインダの種類および製造条件により最終製品に含まれる酸素量は変化する。本実施形態では、概ね1000ppm以上の高酸素合金製品が成形される。
【0029】
(S2)射出成形
射出成形材料を射出成形機に入れ、可塑化して金型のキャビティ内に射出成形する。これにより所望形状の成形体(グリーン体)が得られる。
【0030】
(S3)脱脂
グリーン体を炉に入れ、減圧下およびガス雰囲気で加熱しバインダを揮散させる(加熱脱脂)。炉は、バッチ式または連続式のいずれであってもよい。これにより、バインダが除去されたブラウン体が得られる。ここでガスを使用する場合は、アルゴン、窒素あるいは硝酸ガス等であってよい。
【0031】
加熱脱脂は、金属粉末同士が結合されない程度の温度で実施される。バインダ成分および圧力にもよるが、概ね333K以上873K以下(60℃以上600℃以下)のバインダが揮散する温度で実施されうる。該加熱は、焼結よりも低い温度で実施される。
【0032】
なお、脱脂は溶媒を用いた公知の脱脂法により実施されてもよく、加熱脱脂と組み合わせても良い。その場合、グリーン体を溶媒に浸漬し、バインダを抽出する(溶媒脱脂)。抽出するバインダ成分によるが、溶媒には有機溶剤または水が使用されうる。実施温度は、室温から溶媒の沸点以下であり得る。
【0033】
(S4)焼結
ブラウン体を焼結炉に入れ、β+α/α変態温度(Tβ)以上の温度で焼結する。β+α/α変態温度は、予め、TiAl基合金の状態図から確認しておく。所望の合金成分で状態図が不明である場合は、類似合金の状態図からβ+α/α変態温度を推定する。焼結時間は、適宜、焼結試験等により高い相対密度、例えば相対密度95%以上が得られる時間等を設定する。
【0034】
β相存在温度域は、β+α相温度域、β単相温度域を含む。焼結は、焼結合金の用途に従い、β+α相温度域あるいはβ単相温度域で実施する。
【0035】
なお、β相存在温度域で焼結(本焼結)する前に、仮焼結させてもよい。仮焼結では、金属粒子同士が緩やかに結合(ネッキング)される。仮焼結は、脱脂の加熱よりも高い温度であり、かつ、β変態開始温度よりも低い温度で実施される。例えば、仮焼結温度は、1323K以上1523K以下(1050℃以上1250℃以下)で実施されうる。合金成分にもよるが、概ね仮焼結温度が1323K未満であるとネッキングが不十分となり形状が保持できない。焼結温度が1523Kより高いと部分的に焼結が進行し予定外の収縮変形が発生してしまうことが懸念される。仮焼結は、30分以上2時間以下の保持時間で実施され得る。
【0036】
(S5)熱処理
(S4)の後、必要に応じて、焼結体を熱間静水圧プレス(HIP)法により熱処理する。HIP処理は、焼結温度よりも50℃以上200℃以下程度低い温度で100MPa以上180MPa以下程度の高圧で実施するとよい。これにより、ボイド等の内部欠陥が消滅し、より健全な焼結体が得られる。
【0037】
HIP処理後、焼結体をHIP処理温度またはそれ以下の温度で所定時間保持してもよい。
【0038】
以下に、本実施形態に係るTiAl基合金の製造方法の作用効果について説明する。
【0039】
(状態図)
図2~4に、TiAl基合金の状態図を例示する。図2は、Ti-Al-Nb-Cr四元系(44at.%Al)の状態図である。同図において、横軸はNbおよびCrの含有量(at.%)、縦軸は温度(K)である。図3は、Ti-Al-Cr三元系(44at.%Al)の状態図である。同図において、横軸はCrの含有量(at.%)、縦軸は温度(K)である。図4は、Ti-Al-Nb三元系(47at.%Al)の状態図である。同図において、横軸はNbの含有量(at.%)、縦軸は温度(K)である。
【0040】
いずれの状態図においても最も高い温度域にβ単相域があり、その下に(β+α)2相域があり、さらにその下にα単相域が存在する。β+α/α変態温度はα単相域と(β+α)2相域の境界であり、これらの状態図から合金成分によってその境界の温度を把握することが可能である。
【0041】
図2~4において、β+α,βとして示された領域がβ相存在温度領域となる。上記実施形態では、この温度域内の温度で焼結を実施する。より高温で焼結することで、β相の体積率を高くできる。
【0042】
NbおよびCrは、β安定化元素であるが、それらの相安定化能は異なる。そのため、図2~4では、含まれるβ安定化元素の相安定化能に応じて、β+α/α変態温度領も異なる。
【0043】
図2において、NbおよびCrの含有量が6at.%を通る縦軸方向に延びる破線上に示すプロットは一般的な熱処理温度の例示である。〇が高温熱処理、●が中温熱処理、■が低温熱処理を示す。熱処理をβ相存在温度域にある温度で実施することでより焼結密度を効率的に高めることができる。
【0044】
なお、図2~4は、酸素含有量を考慮していない状態図をベースとしている。本発明者らの鋭意検討の結果、酸素含有量が増えると、変態温度がシフトするという知見が得られている。図2では、酸素含有量1.0at.%であることを考慮した場合の、α単相領域の上側の線を一点鎖線で例示する。
【0045】
酸素含有量1.0at.%を考慮した場合、酸素含有量を考慮しなかった場合と比較して、α単相領域の上側の線が図の右上方向に+40K程度シフトする。この結果から、NbおよびCrの含有量と温度条件が同じであっても、酸素含有量の有無でβ+α/α変態温度が変化することがわかる。そのため、β+α/α変態温度を確認する際、酸素含有量を考慮することが望ましい。それによって、より確実に焼結時にβ相の体積率を増やすことができる。酸素含有量は、軟X線分光器を用いた軟X線分光法で測定できる。
【0046】
(β相体積率と相対密度との関係)
図5に、Ti-44Al-4Crにおけるβ相の体積率と相対密度との関係を示す。図5は、Ti-Al-Cr三元系の状態図と焼結試験の結果に基づき作成した。同図において、縦軸は相対密度(%)、横軸はβ相体積率(%)である。
【0047】
図5によれば、β相の体積率が高いほど、相対密度も高くなることが確認された。β相の体積率が56%以上であれば、相対密度95%以上を達成できる。焼結温度が高いほど、TiAl基合金の相対密度も高くなる。β相の体積率および状態図によれば、図5で相対密度95%を達成できる焼結温度は、1631K(1358℃)以上となる。図5によれば、β相体積率が68%(焼結温度1653K)で、98%程度の高い相対密度が得られることが確認できる。
【0048】
図6に、Ti-47Al-5Nbにおけるβ相の体積率と相対密度との関係を示す。図6は、Ti-Al-Nb三元系の状態図と焼結試験の結果に基づき作成した。同図において、縦軸は相対密度(%)、横軸はβ相体積率(%)である。
【0049】
図6によれば、図5と同様に、β相の体積率が高いほど、相対密度も高くなることが確認された。β相の体積率が94%以上であれば、相対密度95%以上を達成できる。β相の体積率および状態図によれば、図6で相対密度95%を達成できる焼結温度は、1756K(1483℃)となる。
【0050】
(温度と相対密度との関係)
図7に、相対密度と温度との関係を示す。同図において、縦軸が相対密度(%)、横軸(下)は温度の逆数(1/T)(10-4-1)、横軸(上)は温度(K)、■がTi-44Al-4Cr、◆がTi-47Al-5Nbである。
【0051】
図7によれば、Ti-44Al-4CrおよびTi-47Al-5Nbのいずれにおいても、温度が高くなるほど、相対密度も高くなる。
【0052】
図7によれば、Ti-44Al-4Crは、Ti-47Al-5Nbよりも低い焼結温度であっても、Ti-47Al-5Nbと同等の相対密度となりうる。すなわち、同じ温度で焼結を実施する場合、Ti-47Al-5NbよりもTi-44Al-4Crの方がより短い時間で、相対密度を高くできる。
【0053】
図7の一点鎖線は、Ti-47Al-5Nbのβ+α/α変態温度である。Ti-47Al-5Nbにおけるβ+α/α変態温度は、1703K付近である(図4参照)。β+α/α変態温度より低い温度で焼結する場合、Ti-47Al-5Nb中にβ相は存在しない。そのため、図7の一点鎖線よりも低温側では、Ti-47Al-5Nbの相対密度が低くなる。一方、β+α/α変態温度を超えると、Ti-47Al-5Nbの相対密度は急激に上がる。この理由は、β相の体積率の増加である。
【0054】
Crは、Nbよりもβ相安定化能が高く、図3および図4に示す通り、Cr添加合金の方が低温度より多くのβ相が存在し焼結性が向上しやすい。そのため、図7ではTi-44Al-4CrとTi-47Al-5Nbとの間で、同じ相対密度を得るための温度に差がみられるが、β相が多くなることで焼結性が向上するという点では共通した効果が示されている。
【0055】
(各相におけるTiおよびAlの拡散係数)
図8に、各相(α,γ,β)におけるTi原子およびAl原子の拡散係数を示す。同図において、縦軸が拡散係数(m/s)、横軸(下)は温度の逆数(1/T)(10-4-1)、横軸(上)は温度(K)、▲(実線)がα相中でのTi原子の拡散、△(破線)がα相中でのAl原子の拡散、■(実線)がγ相中でのTi原子の拡散、□(破線)がγ相中でのAl原子の拡散、●(破線)がβ相中でのTi原子の拡散、〇(実線)がβ相中でのAl原子の拡散である。
【0056】
図8に示す通り、β相中のTi原子およびAl原子の拡散速度は、他の相(α,γ)よりも格段に速い。このことから、β相の体積率を高くして、焼結を行うことで、焼結現象が促進されることがわかる。拡散速度が速ければ、その分、焼結時間を短縮できる。拡散速度を速くすることで焼結密度を向上させられる。
【0057】
図8によれば、各相における拡散速度は、温度が低くなるとともに低下する。一方、拡散速度の速いβ相の体積率を高くできれば、焼結温度を下げた場合であっても十分量のTi原子およびAl原子が拡散され、促進された拡散により効率的に焼結が進行する。
【0058】
<付記>
以上説明した実施形態に記載のTiAl基合金およびその製造方法は例えば以下のように把握される。
【0059】
本開示に係るTiAl基合金の製造方法では、金属粉末射出成形法を用い、TiAl基合金の状態図からβ+α/α変態温度(Tβ)を確認し、前記β+α/α変態温度以上の温度で焼結する。
【0060】
β相存在温度域内では、温度が高くになるに従いβ相の体積率が大きくなる。高温域でのTiAl基合金の構成相(α、γ、β)の中でも、β相は拡散係数が大きい。焼結は粒子内部の拡散、および粒界の拡散に依存する。拡散速度が速い方が焼結性は高くなる。すなわち、β相の体積率が高くなる温度域で焼結を実施することで、焼結現象が促進される。これにより、同じ相対密度の焼結体を得ようとした場合、焼結温度を下げる、または、焼結時間を短くすることが可能となる。
【0061】
上記開示の一態様では、β安定化元素を添加することが望ましい。
【0062】
β安定化元素を添加すると、β相存在領域が低温側に拡大する。これによって、より低い温度でβの体積率を高くでき、焼結現象を促進させやすくなる。また、焼結温度を下げることで、融点との温度差を広げられるため、焼結時の変形を抑制できる。
【0063】
上記開示の一態様では、焼結性のみを考慮すればβ単相温度域内の温度で焼結することが望ましい。焼結合金の用途によって適正な組織を得るためには、(β+α)2相領域内で焼結することもある。
【0064】
β単相温度域内では、拡散速度の速いβ相のみで構成されるため、β単相温度域内の温度で焼結することで、より焼結性を高めることが可能となる。相対密度95%以上を容易に実現できる。
【0065】
上記開示の一態様では、前記焼結後、焼結温度よりも低く、かつ、前記β+α/α変態温度以上のある温度で焼結体を所定時間保持してもよい。
【0066】
上記温度で焼結体を保持することで、Ti原子およびAl原子の拡散を促進し、焼結性を高められる。
【0067】
上記開示に係る製造方法で製造されたTiAl基合金は、焼結密度の高い高品質な焼結体となる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8