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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-21
(45)【発行日】2024-03-29
(54)【発明の名称】金担持触媒
(51)【国際特許分類】
   B01J 23/52 20060101AFI20240322BHJP
【FI】
B01J23/52 A ZAB
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020545984
(86)(22)【出願日】2019-09-06
(86)【国際出願番号】 JP2019035138
(87)【国際公開番号】W WO2020054597
(87)【国際公開日】2020-03-19
【審査請求日】2022-08-15
(31)【優先権主張番号】P 2018169721
(32)【優先日】2018-09-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】305027401
【氏名又は名称】東京都公立大学法人
(73)【特許権者】
【識別番号】391003598
【氏名又は名称】富士化学株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】597019584
【氏名又は名称】芝崎 靖雄
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】村山 徹
(72)【発明者】
【氏名】春田 正毅
(72)【発明者】
【氏名】武井 孝
(72)【発明者】
【氏名】朱 倩倩
(72)【発明者】
【氏名】井上 泰徳
(72)【発明者】
【氏名】内田 文生
(72)【発明者】
【氏名】前田 憲二
(72)【発明者】
【氏名】松尾 寛
(72)【発明者】
【氏名】芝崎 靖雄
【審査官】森坂 英昭
(56)【参考文献】
【文献】LETAIEF, S. et al.,Deposition of gold nanoparticles on organo-kaolinite - Application in electrocatalysis for carbon monoxide oxidation,Canadian Journal of Chemistry,カナダ,NRC Research Press,2011年,Vol.89, No.7,p.845-853,ISSN 0008-4042
【文献】ZHANG, Y. et al.,Clay-based SiO2 as active support of gold nanoparticles for CO oxidation catalyst: Pivotal role of residual Al,Catalysis Communications,NL,Elsevier,2013年,Vol.35,p.72-75,ISSN 1566-7363
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00-38/74
B01D 53/94
JSTPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
長石類及び石英を1質量%以下含有する可塑性粘土、石灰成分、並びにアルミニウム化合物を含む混合物を焼成した多孔質セラミックスからなる担体が、
該担体100質量部に対して0.01~10質量部の金ナノ粒子を担持することを特徴とする、酸化反応用の金担持触媒。
【請求項2】
前記金ナノ粒子の平均直径が10nm以下である、請求項1に記載の金担持触媒。
【請求項3】
前記アルミニウム化合物は、水酸化アルミニウム、アルミニウム水和物、炭酸アルミニウム及びアンモニウムドーソナイト(NH4AlCO3(OH)2)からなる群より選択される1種以上である、請求項1又は2に記載の金担持触媒。
【請求項4】
請求項1~3の何れか1項に記載の触媒に、
相対湿度0.1~100%、温度-100~300℃の雰囲気下において、COを含むガスを導入する、金担持触媒の使用方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金担持触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
金触媒は、15~25℃のような低温条件下においても酸化反応を進行させることが可能であり、かかる金触媒の低温触媒活性を利用すれば、加熱エネルギーの使用を抑制することが可能であると考えられる。特に、一酸化炭素の酸化触媒として、金触媒は有望視されている(特許文献1、非特許文献1)。
【0003】
一方で、金触媒は、他の金属と比較して金属同士の結合が強く、金ナノ粒子同士が凝固しやすい。この場合、触媒性能を十分に発揮できなくなるおそれがある。そこで、金ナノ粒子を担体に担持させることにより、金の触媒性能を効果的に引き出す技術が報告されている(特許文献2、非特許文献2)。
【0004】
かかる担体として、炭素材料、有機高分子及び無機酸化物などを材料として使用することが検討されており、中でも、製造が容易であることと、耐熱性に優れることから、無機酸化物が使用されることが一般的である。
【0005】
触媒担体として利用される無機酸化物の例として、表面積の大きい活性アルミナがある。触媒向け活性アルミナは粉末、顆粒、又はボール状に造粒された形態で提供されることが多い。パイプ及び板等の構造物に触媒を付与する場合は、予め担体に触媒を担持したものを作製し、それを構造物に付与する方法が、一般的に採用される。
【0006】
しかしながら、従来より触媒担体として汎用されている無機酸化物の中には、金触媒の触媒活性を効果的に引き出せていないものもあり、担体の選択が重要となる。例えばゼオライトに、金担持手法としてよく用いられている析出法にてナノサイズの金触媒を担持させた場合、金をゼオライトに効率良く担持させることができない、という課題がある。
【0007】
また、金触媒と反応ガス中の水分の関係にも注意が必要である。非特許文献3には、常温CO酸化反応における水分の影響について、担体の種別毎に記述されている。アルミナ、シリカでは反応ガス中に水分が必要との記述があるが、非特許文献3で設定された水分量は~10000ppm(=1%)の範囲である。30℃の飽和水蒸気量が約4.2%であり、生活空間での環境は非特許文献3が想定しているものより高湿度であることが多く、従来担体に担持された金触媒の触媒活性を効果的に引き出すためには、担体の種類毎に好適な湿度環境を維持する必要があり、そのための設備が必要になるという課題が存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】日本国特公平03-12934号公報
【文献】日本国特公平05-49338号公報
【非特許文献】
【0009】
【文献】M. Haruta,et al., Chem. Lett. 1987 (16), 405-408
【文献】M. Haruta,Chem. Record, 2003 (3), 75-87
【文献】春田正毅 表面科学 2005(26), 578-584
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記のような事情に鑑み、本発明の目的とするところは、高活性の金担持触媒を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、金担持触媒の担体として、所定の多孔質セラミックスに所定量の金ナノ粒子を担持させることで、高活性の金担持触媒を得ることができることを見出した。本発明者らは、かかる知見に基づきさらに研究を重ね、本発明を完成するに至った。
【0012】
即ち、本発明は、以下の金担持触媒を提供する。
項1.
長石類及び石英を1質量%以下含有する可塑性粘土、石灰成分、並びにアルミニウム化合物を含む混合物を焼成した多孔質セラミックスからなる担体が、
該担体100質量部に対して0.01~10質量部の金ナノ粒子を担持することを特徴とする、金担持触媒。
項2.
前記金ナノ粒子の平均直径が10nm以下である、項1に記載の金担持触媒。
項3.
前記アルミニウム化合物は、水酸化アルミニウム、アルミニウム水和物、炭酸アルミニウム及びアンモニウムドーソナイト(NH4AlCO3(OH)2)からなる群より選択される1種以上である、項1又は2に記載の金担持触媒。
項4.
項1~3の何れかに記載の触媒に、
相対湿度0.1~100%、温度-100~300℃の雰囲気下において、COを含むガスを導入する、金担持触媒の使用方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明の金担持触媒は、高活性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】金担持多孔質セラミックスのTEM観察像及び観察像から得た金粒子サイズのヒストグラムである。
図2】CO酸化反応時の水分導入模式図である。
図3】導入ガスの相対湿度とCO→CO2転化率のグラフである。
図4】水分導入あり/なしを切り替えてCO酸化反応を継続した場合のCO→CO2転化率グラフである。
図5】CO酸化反応に使用前後の金担持多孔質セラミックスのTEM観察像と金粒子サイズのヒストグラムである。
図6】金担持量と触媒性能(TOF)のグラフである。
図7】CO酸化反応温度とCO→CO2転化率のグラフである。
図8】Au/シリカでの、導入ガスの相対湿度とCO→CO2転化率のグラフである。
図9】Au/アルミナでの、温度とCO→CO2転化率のグラフである。
図10】多孔質セラミックスのみでの、CO酸化反応温度とCO→CO2転化率のグラフである。
図11】担持金粒子サイズと触媒性能(TOF)のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の金担持触媒は、長石類及び石英を1質量%以下含有する可塑性粘土、石灰成分、並びにアルミニウム化合物を含む混合物を焼成した多孔質セラミックスからなる担体が、該担体100質量部に対して0.01~10質量部の金ナノ粒子を担持することを特徴とする。
【0016】
(1.金ナノ粒子)
本発明の金担持触媒において、上記多孔質セラミックスからなる担体100質量部に対する金ナノ粒子の担持量は、0.01~10質量部であり、好ましくは0.01~5質量部である。金ナノ粒子の量が0.01質量部に満たない場合、金触媒の効果を十分に得ることができない。一方、金ナノ粒子の量が10質量部を超えて使用しても、それ以上の効果は認めにくく、コスト面で効率が悪い。
【0017】
担持させる金触媒は金ナノ粒子であり、金原子全体に対する表面金原子の割合を高めるべく、平均粒径0.3~10nmであることが好ましく、0.3~5nmであることがより好ましい。尚、本明細書における金ナノ粒子の平均粒径は、透過型電子顕微鏡(TEM)観察により粒度分布を作成して平均値を算出する方法、画像解析により得られる平均値を算出する方法、あるいはXRDピークの半値幅から算出する方法で示すことができる。
【0018】
金ナノ粒子は、金の純物質であってもよいが、金以外にも、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、白金、パラジウム、ルテニウム、銀及び銅からなる群から選択される1種以上の金属酸化物を含むことが好ましい。この場合、金ナノ粒子中の金の含有量は、1~50原子%であることが好ましく、2~20原子%であることがより好ましく、2~10原子%であることがさらに好ましい。
【0019】
金ナノ粒子は、低温での一酸化炭素の酸化、水性ガスシフト反応、逆水性ガスシフト反応、プロピレンの気相一段エポキシ化、酸素と水素からの直接過酸化水素合成、炭化水素類の部分酸化、不飽和化合物の水添、アルコールの酸化、NOの除去及びエポキシ化合物・脂肪族アミンのカルボニル化など、種々の反応に触媒活性を有するとされており、本発明の金担持触媒でも同様の反応に対して、触媒活性が期待できる。中でも、微量でも中毒症状を引き起こす一酸化炭素を、低温で燃焼可能な触媒として活用することができる。
【0020】
(2.多孔質セラミックス)
本発明において、金ナノ粒子の担体として多孔質セラミックスが採用される。多孔質セラミックスは、長石類及び石英を1質量%以下含有する可塑性粘土、石灰成分、並びにアルミニウム化合物を含む混合物を焼成することにより、得ることができる。
【0021】
従来「磁器」の材料である粘土質磁器生地は、主な成分として、骨材としての石英成分、融剤としての長石類、及び可塑剤兼骨材としてのカオリナイト質粘土の3種を含んで構成されている。前記混合物を焼成すると、液相焼結が進行し、半透明な磁器が得られる。1200℃付近で軟化が進行し、ガラス相の中にムライトと未溶解の石英と少量の気泡が構成される。材質感は半透明で、乳白色、吸水性のない、いわゆる磁器質となる。
【0022】
焼成により得られるセラミックスに多孔性を持たせるには、焼成過程でのガラス相形成を抑制する必要がある。ガラス相を減少させた素地の例として、陶磁器素地に対して、外割でアルミナを添加して高温焼成して吸水性をなくし、耐熱性および強度を上げた碍子素地が1900年前後に開発された。
【0023】
この他に、極端にガラス相の形成を抑制する方法として、前記磁器生地に高融点のアルミナ分及び/又は石灰分(CaO-Al2O3-SiO2系)を添加して焼結体を得る方法がある。この焼結体は耐熱性(断熱性)があり、軽量であったので窯道具用の耐火煉瓦として使用された歴史がある。焼成後の結晶相はα- Al2O3、ムライト(3Al2O3・2SiO2)、灰長石(CaAl2Si2O8)並びに関連化合物と少量のガラス相を含む。当該焼結体は多くの気泡(μm~mm)を有していることが特徴的である。
【0024】
別の例として、輸出品の重量関税を避けるための軽量化策として、1930年代に白雲陶器(置物)素地が開発された。この素地は陶磁器素地の長石組成を白雲石〔(MgCa)(CO3)2〕に置き換える調合であった。粘土分は木節粘土を多く使用し、水ガラスで粘性調整が容易な泥漿ができ、石膏型を用いる排泥鋳込み成形ができ、人形の表情を写し取ることができる白雲陶器(多孔質で軽量な)を盛んに生産した。1970年代に入ると白雲陶器の多孔質及び低温焼成(1000℃前後)材質は水和膨張に弱点があり、耐熱性向上と磁器質化の改善策を陶磁器業界が求めた。1980年代まで、外割のアルミナ材質添加で軟化温度の上昇は成功したが、逆に軽量化策の多孔性が劣化した。
【0025】
本発明の金担持触媒における多孔質セラミックスが有するナノ孔の平均直径は2~50nmであることが好ましく、2~20nmであることがより好ましい。多孔質セラミックスの有するナノ孔の平均直径が上記数値範囲内であることにより、水蒸気の吸脱着ヒステリシスによる調湿性を得ることができる。
【0026】
多孔質セラミックスのナノ孔は原料混合物の分解ガスによる発泡で形成されることが好ましい。発泡源として、Al(OH)3、Al2Si2O5(OH)4及びCaCO3からなる群より選択される1種以上の分解ガスを使用することが好ましい。多孔質セラミックスのナノ孔は、分解ガスの熱振動(平均自由距離)の影響を主に受けるため、加熱温度が高くなることに依存してナノ孔の径が拡大し、均一でシャープな細孔径分布を持つナノ孔が形成される。ナノ孔の径分布は1400℃加熱までガウス分布に従う。
【0027】
多孔質セラミックスが有する孔は、前記数値範囲外の孔径の孔を有することも許容される。
【0028】
本明細書において、多孔質セラミックスが有するナノ孔の平均直径は、窒素吸着測定結果をBJH法により細孔径分布解析することにより、得られる値であると定義される。
【0029】
(2.1.可塑性粘土)
可塑性粘土としては、可塑性粘土100質量%に対して、長石類及び石英を1質量%以下含有するものであれば特に限定はなく、公知のものを広く採用することが可能である。具体的には、木節粘土、蛙目粘土、カオリナイト質粘土、ボーキサイト質粘土、陶石質粘土及び各種人工粘土からなる群より選択される1種以上を使用することが可能である。
【0030】
人工粘土とは、高品質な天然カオリナイト質粘土の資源の枯渇化が急激に進行したことを背景に、合成技術が検討されたものであることが好ましい。良好な可塑性が得られるように、比表面積及び結晶度(ヒンクレー指数)等を天然カオリナイトに近づけた、水熱合成カオリナイトを用いて粘土化処理を施したものが例示できる。
(参考文献:芝崎靖雄「人工粘土の現状と将来」資源処理技術 1991(38)173-178)
【0031】
人工粘土検討にあたり、市販の水簸粘土(木節粘土、蛙目粘土)を徹底的に分級し、不純物のFe2O3成分及びTiO2成分の存在状態が調べられた。Fe2O3成分はカオリナイトに固溶か、表面吸着かの推察、TiO2成分は混在型であることが判明した。
(参考文献:芝崎靖雄、前田武久「水簸木節粘土、蛙目粘土中の不純物(鉄、チタン)の存在状態」名古屋工業技術試験所報告 1979(28)270-274)
(参考文献:渡村信治、北村雅夫、芝崎靖雄、前田武久「蛙目粘土中の鉄の存在状態―分析電子顕微鏡による検討」窯業協会誌1982(90)362-366)
【0032】
粘土資源不足傾向及び高純度化を求めて、カオリナイト質人工粘土の合成を人工粘土合成技術研究組合と試みた。可塑性粘土の特徴として、カオリナイトの原子配列の乱れ、表面荷電の大きい微粒子(~1μm)を得た。蛙目粘土以上の品位になった。
(参考特許文献:日本国特公平06-99142号公報)
(参考特許文献:日本国特公平06-102536号公報)
(参考文献:芝崎靖雄、加守雅信「天然粘土と人工粘土」セラミックス1992(27)740-746)
【0033】
市販の水簸蛙目粘土の販売価格に対し、人工粘土の価格は約10倍程度となった。これを木節粘土並みに改質するには糖アルコール類を添加すれば可能となった。
(参考特許文献:日本国特公平05-49623号公報)
【0034】
可塑性粘土中に、不純物である長石類及び石英を、1質量%を超えて含有すると、焼成途中でセラミックスが軟化しやすくなり、セラミックスの変形や、構成素材の溶融(ガラス相形成)、収縮による孔の消失の要因となってしまう。長石類及び石英の含有量は、可能な限り少量であることが好ましく、全く含まないことが最も好ましい。
【0035】
粘土原鉱を徹底的に水簸分級すると混在する長石類、微細石英、Fe2O3成分、TiO2成分は除去が難しいことが判明した。
(参考文献:前田武久、渡村信治、水田博之、芝崎靖雄「窯業用粘土質原料の強熱減量による品質評価法の検討」粘土科学1987(27)135-146)
【0036】
本発明での「長石類及び石英を1質量%以下含有する可塑性粘土」を得る方法として、工業的に粘土原鉱を水簸して粗粒部分の石英、長石類をできる限り遠心分離除去した水簸粘土を用いることが好適である。
(参考文献:芝崎靖雄「セラミック調湿材料の開発の経緯と現状」セラミックス2002(37)317-321)
【0037】
本発明における長石類としては、公知の長石類を意味し、特に限定はなく、アルカリ金属及びアルカリ土類金属などのアルミノケイ酸塩を主成分とする三次元構造のテクトケイ酸塩を例示することができる。
【0038】
具体的には、正長石、サニディン、微斜長石及びアノーソクレースなどのアルカリ長石、並びに、曹長石及び灰長石などの斜長石を例示することができる。それ以外にも、重土長石、パラ重土長石、バナルシ石、ストロナルシ石、スローソン石、アンモニウム長石、加蘇長石及び準長石を例示することが可能であり、もちろんこれらに限定されない。好ましくは、日本国特許4966596号公報に記載される可塑性粘土を使用することができる。
【0039】
石英としても、公知の石英類を意味しており、特に限定はなく、二酸化ケイ素が結晶化されたものを例示することができる。
【0040】
可塑性粘土、石灰成分及びアルミニウム化合物を含む混合物100質量%中に、前記可塑性粘土は10~60質量%含まれることが好ましく、10~50質量%含まれることがより好ましい。かかる構成を採用することにより、多孔質セラミックスに優れた可塑成形性を付与することができる。また、可塑性粘土中のカオリナイト成分の分解ガスがナノ孔形成の源となる。
【0041】
多孔質セラミックスが可塑性粘土を含んでおり、素地を成型してから焼成することで、板状、パイプ形状等の構造物として多孔質セラミックスを得ることが可能であり、更に前記多孔質セラミックス構造物に金を担持することで、板状又はパイプ等形状を有する金担持多孔質セラミックスを得ることができる。
【0042】
(2.2.石灰成分)
石灰成分としては、カルシウムを構造式に有する化合物であれば特に限定はなく、具体的には、炭酸カルシウム、塩基性炭酸カルシウム、生石灰(酸化カルシウム)及び消石灰(水酸化カルシウム)などからなる群より選択される1種以上を使用することができる。これらは、天然物及び合成物のいずれでも、好適に使用可能である。
【0043】
可塑性粘土、石灰成分及びアルミニウム化合物を含む混合物100質量%中に、前記石灰成分は、10~40質量%含まれることが好ましく、10~30質量%含まれることがより好ましい。かかる構成を採用することにより、焼成物の融点向上による焼成過程のセラミックス変形を抑制することができる。また、石灰成分の分解ガスがナノ孔形成の源となる。
【0044】
(2.3.アルミニウム化合物)
アルミニウム化合物としては、その化学式中にアルミニウムを含む化合物であれば特に限定はないが、800~1400℃の高温で焼成されることにより、アルミナに変化する化合物であることが好ましい。具体的には、水酸化アルミニウム、アルミニウム水和物(AlOOH)、炭酸アルミニウム及びアンモニウムドーソナイト(NH4AlCO3(OH)2)からなる群より選択される1種以上を使用することが好ましい。
【0045】
可塑性粘土、石灰成分及びアルミニウム化合物を含む混合物100質量%中に、前記アルミニウム化合物は、10~60質量%含まれることが好ましく、15~50質量%含まれることがより好ましい。かかる構成を採用することにより、焼成過程のセラミックス変形を抑制することができる。また、アルミニウム化合物の分解ガスがナノ孔形成の源となる。
【0046】
(2.4.その他)
ナノ孔へ気体等がアクセスする通り道となるμmオーダー以上の孔を形成する目的として、もみ殻等の可燃性有機物、微生物コロニー、及び微生物コロニーの餌となる糖類からなる群より選択される1種以上を、本発明の多孔質セラミックスの原料である、可塑性粘土、石灰成分、及びアルミニウム化合物を含む混合物に多孔化剤として加えることも好ましい。前記多孔化剤もみ殻等の可燃性有機物、微生物コロニー、及び微生物コロニーの餌となる糖類からなる群より選択される1種以上の燃焼による形骸空間により、多くの孔が形成される。
【0047】
陶磁器素地に均一な微細孔を導入するには可燃性有機物の微生物とその餌の糖類を添加混合し、熟成した生地を加熱焼成した。微生物コロニーの形骸空間からなる細孔径0.1~1.0μmの均一の多孔体を得た。
(参考特許文献:日本国特許3571633号)
【0048】
可塑性粘土、石灰成分及びアルミニウム化合物を含む混合物は、公知の混合方法により混合し、得ることができ、特に限定はない。例えば、水を混合媒体、アルミナボールを混合メディアとしたボールミル処理を例示することができる。
【0049】
上記混合物を成形して乾燥させた後、好ましくは800~1400℃の温度で焼成して多孔質セラミックスを得ることができる。
【0050】
上記混合物を焼成して得られる多孔質セラミックスの結晶相は焼成温度により変化するが、本発明における多孔質セラミックスは、α相以外のAl2O3及びα-Al2O3からなる群より選択される1種以上、並びに、CaO、Ca2Al2SiO7(Gehlenite)及びCaAl2Si2O8(Anorthite)からなる群より選択される1種以上の結晶相を含んでいることが好ましい。セラミックスの結晶相はXRD測定により確認することができる。
【0051】
かかる多孔質セラミックスとしてより具体的には、日本国特許第4966596号公報、日本国特許第5255836号公報、また、何れも芝崎靖雄氏(ら)による「陶磁器製造から水可塑成形技術の確立へ」セラミックス,40(2)106~110 (2005)、「窯業用粘土質原料の強熱減量による品質評価法の検討」粘土科学,27(3) 135~146 (1987)、「ニュー(nm多孔質)セラミックスの製造方法の開発」ニューセラミックスレター,53 3~12 (2014)、「セラミック調湿材料の開発の経緯と現状」セラミックス,37(4) 317~321 (2002)、及び「調湿材料の発明と開発と『調湿壁の家で5年間生活して』の感想」Journal of the Society of Inorganic Materials, Japan 18 437~443 (2011)に開示される多孔質セラミックスを好適に使用可能である。
【0052】
前記特許文献及び非特許文献に記述された多孔質セラミックスの用途として、調湿材、クロマト用分離剤、熱衝撃の強い耐火材及び触媒担体などが考えられていたが、本発明において、金ナノ粒子触媒の担体として採用するに至った。
【0053】
金ナノ粒子を多孔質セラミックスからなる担体に担持させる方法としては、公知の方法を広く採用することが可能であり、特に限定はない。具体的には、含浸法、共沈法、析出沈殿法及び固相混合法などを例示することができる。
【0054】
より具体的には、例えば以下の方法を採用することができる。
塩化金酸等の水溶性金化合物を水に溶解して金水溶液を作成する。多孔質セラミックスを前記金水溶液に浸し、pH調整することで金を多孔質セラミックスに担持させる。前記多孔質セラミックスを金水溶液から取り出し、乾燥することで金担持多孔質セラミック触媒を得ることができる。
【0055】
以上のように、本発明の発明者らは、金触媒の担体として膨大な種類の担体が候補として想定される中で、上記の多孔質セラミックスを採用した結果、驚くべきことに、単に金触媒の活性を高水準に維持可能であるだけでなく、水分を含む環境下においても金触媒の活性を高活性に維持可能なことを見出した。
【0056】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこうした例に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々なる形態で実施し得ることは勿論である。
【実施例
【0057】
以下、実施例に基づき、本発明の実施形態をより具体的に説明するが、本発明がこれらに限定されるものではない。
【0058】
(実施例1~12)
<多孔質セラミックスの作成>
セラミック焼成用素地100質量%中に、石灰石を16質量%、Al(OH)3を47質量%及びカオリナイト質粘土を37質量%の比率で混合して、セラミック焼成用素地を作成した。前記セラミック焼成用素地を任意の形状に成型し乾燥後、800℃で素焼きを行った。前記素焼きセラミックスを900℃で再度焼成して、金担持に使用する多孔質セラミックスを得た。多点窒素吸着測定により前記多孔質セラミックスのナノ細孔評価を行った。前記多孔質セラミックスのBET比表面積は43m/g、BJH法により算出した平均細孔直径は8nmであった。
【0059】
<多孔質セラミックスへの金担持>
前記多孔質セラミックスを下表1の実施例1~12の条件で、塩化金酸水溶液に浸して静置し、pHを7~8に調整後更に静置した。その後セラミックスを塩化金酸水溶液から取り出し、水洗、乾燥することで、金担持触媒を得た。尚、各実施例の金担持条件及び触媒性能(T1/2(℃))は、下記表1の通りである。
【0060】
【表1】
【0061】
実施例3及び4の金担持触媒をTEM観察したところ、図1のとおり平均直径1~3nm程度の金ナノ粒子が多孔質セラミックス上に存在することを確認した。
【0062】
<金担持触媒の触媒特性(CO酸化反応)>
実施例1~12で作成した金担持触媒をガラス製反応菅に設置し、1vol%のCOを含んだ空気を毎分50mlの流量で流通させた。金担持触媒を通過したガスの分析をガスクロマトグラフィーにて行い、COからCOへの転化率(以下、「CO→CO転化率」ともいう。)を求めた。触媒性能を転化率50%となる温度T1/2という指標で示すと、表1“T1/2(℃)”列の結果となった。なお、実施例12は転化率が50%以下であり、T1/2という指標で示すことができなかった。
【0063】
<水分あり環境での金担持触媒の触媒特性(CO酸化反応)その1>
実施例4の金担持触媒を用いて、図2模式図の装置を用いて、下表2に示した様々な相対湿度で1%のCOを含有する空気を金担持触媒に導入してCO→CO転化率の測定を行った。結果は下記表2および図3の通りであり、測定を実施した相対湿度0.24%~95.98%の全てで、CO→CO転化率80%以上と良好な触媒性能を示した。
【0064】
【表2】
【0065】
<水分あり環境での金担持触媒の触媒特性(CO酸化反応)その2>
CO酸化反応において、本発明の金担持触媒の触媒能と水分の関係を示すため、触媒に導入するガスへ、水分を含ませる/含ませないを切り替えて測定を行った。実施例4の金担持触媒を用いて測定を行った。図2に示した装置で1%CO含有空気を金担持触媒に導入して、CO→CO転化率の測定を行った。測定中、水分の導入を一旦停止し、その後水分の導入を再開した。結果を図4に示す。水分導入時は約85%あったCO→CO転化率が、水分導入を停止すると、CO→CO転化率約40%に低下した。その後水分の導入を再開すると、CO→CO転化率が元の状態である約85%となった。また測定継続中、水分あり/なしが一定であれば、図4の通り安定したCO→CO転化率を数十時間に渡り持続した。
【0066】
<触媒使用前後の金サイズ変化について>
ナノサイズ金触媒能の劣化要因として、使用継続により、ナノサイズ金粒子が凝集、粗大化して触媒能が劣化することが従来指摘されている。図5に実施例4の金担持触媒の使用前後のTEM画像を示す。図5の上が使用前、下が1週間CO酸化反応に使用した後のTEM画像である。TEM画像から作成したヒストグラムより算出した金粒子の平均径は使用前1.64nm、使用後1.83nmとほぼ変化しておらず、本発明の金担持触媒では、従来指摘されている金粒子の粗大化は起きていないといえる。この事が、前記の安定したCO→CO転化率の継続に寄与していると考えられる。
【0067】
<金担持量とCO酸化触媒能の関係>
ナノサイズ金粒子の担持量と触媒性能との関係について、TOF(Turnover frequency,金原子1個当りの1秒間の反応分子数)という指標を用いて評価を行った。表3に示した実施例4、8、9及び11について、金粒子の担持量とTOFの関係をグラフ化したものを図6に示す。金担持量が多い(5.1質量%)実施例11のT1/2は8℃であり室温付近でも触媒活性を示すが、TOFで比較すると、金担持量が2質量%以下である実施例4,8,9よりもTOF値が低下しており、金担持量と触媒性能は必ずしも正の相関性があるとは言えず、コスト面を考慮すると、多量の金を担持することは効率的では無いと言える。
【0068】
【表3】
【0069】
<CO酸化反応温度と転化率の関係>
実施例10の金担持触媒を用いて、0℃以下から300℃までの範囲でCO酸化反応を行い、CO→CO2転化率測定を行った。結果は図7の通りで、-15℃付近の転化率約33%を極小として、温度域により転化率に変動があるものの、約-100℃から約300℃の広い温度域に対して、本発明の金担持触媒がCO酸化反応に対して触媒能を有することが判明した。
【0070】
(比較例1)
<本発明多孔質セラミックス以外の酸化物を担体とした場合について>
担体をシリカに変更して評価を行った。担体シリカは富士シリシア化学製Q-10を使用し、金の担持方法は実施例と異なり、金溶液と担体を接触中に還元剤を投入することで、金として析出させる、析出還元法にて行った。作成した金担持シリカのCO酸化反応触媒性能を反応温度30℃で導入ガスの水分量を変えて測定した。結果を下記表4および図8に示す。相対湿度95.6%時のCO→CO2転化率20.8%が最大で、測定した全ての点で転化率が50%を下回っており、本発明の金担持触媒の場合(例えば図3)と比較して劣る結果であった。
【0071】
【表4】
【0072】
(比較例2)
アルミナ(SIGMA-ALDRICH社製,品番414069-250G)を担体として使用し、金担持を実施例1~12と同様の方法で処理した金担持アルミナを作成した。この金担持アルミナのCO酸化触媒性能を種々の温度で測定した結果を図9に示す。測定温度全域でCO→CO転化率が50%を下回っていたため、T1/2は算出できなかった。
【0073】
(比較例3)
<ナノサイズ金粒子が担持されていない場合>
各実施例で使用した多孔質セラミックスに金担持させていないものを比較例3とし、CO酸化反応触媒能の測定を行った。結果を図10に示す。温度25℃~300℃範囲中の測定点全てでCO→CO転化率が2%以下であり、殆ど触媒能を示さなかった。
【0074】
<金粒子サイズとCO酸化触媒能の関係>
ナノサイズ金粒子の大きさと触媒性能との関係について、TOF(Turnover frequency,金原子1個当りの1秒間の反応分子数)を用いて比較を行った結果を示す。表5に示した実施例3、7、8、9、10、11及び12の金担持触媒について、金粒子の大きさとTOFの関係をグラフ化したものを図11に示す。実施例12(金サイズ 21.1nm,金担持量1.31質量%)と金サイズが2nm以下である実施例(実施例3、7、8、9、10及び11)を比較すると、TOFの数値に10倍以上の違いがあり、金粒子の大きさが触媒性能に影響があることが言える。
【0075】
【表5】
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11