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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-21
(45)【発行日】2024-03-29
(54)【発明の名称】分光計測装置及び分光計測方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/51 20060101AFI20240322BHJP
   G01J 3/10 20060101ALI20240322BHJP
【FI】
G01N21/51
G01J3/10
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020004674
(22)【出願日】2020-01-15
(65)【公開番号】P2021110710
(43)【公開日】2021-08-02
【審査請求日】2022-12-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000146445
【氏名又は名称】株式会社常光
(73)【特許権者】
【識別番号】504193837
【氏名又は名称】国立大学法人室蘭工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002516
【氏名又は名称】弁理士法人白坂
(72)【発明者】
【氏名】羽田 典久
(72)【発明者】
【氏名】薬袋 博信
(72)【発明者】
【氏名】高瀬 舞
(72)【発明者】
【氏名】古川 慎悟
【審査官】伊藤 裕美
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-211919(JP,A)
【文献】特開2017-032418(JP,A)
【文献】特開2019-027798(JP,A)
【文献】国際公開第2019/021799(WO,A1)
【文献】特開昭53-033679(JP,A)
【文献】特開平08-122328(JP,A)
【文献】特表2007-521478(JP,A)
【文献】特開平03-024441(JP,A)
【文献】特開2018-036187(JP,A)
【文献】特開2006-240674(JP,A)
【文献】特開2013-217818(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/00-G01N 21/958
G01J 3/00-G01N 3/51
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光線を照射するLED光源を備えた光源部と、
計測対象物を保持する保持部と、
前記光源部と前記保持部を結ぶ軸線上であって前記光源部と前記保持部の順に前記保持部の背後に配置された炭酸カルシウムまたは硫酸バリウムを塗布した白色の板状物であるスクリーンと、
前記光源部から照射された光線が前記保持部に保持された計測対象物を透過して前記スクリーンに投影された、前記計測対象物の透過光、前記スクリーンによる反射光、前記スクリーンによる散乱光を含む投影光を、前記スクリーンを介在させて間接的に検出する検出部と、
前記検出部により検出された前記投影光から前記計測対象物の濃度または成分を推定する制御部とを備える
ことを特徴とする分光計測装置。
【請求項2】
前記光源部は、RGBのそれぞれの色調の光線を照射する請求項1に記載の分光計測装置。
【請求項3】
前記光源部は、さらに紫外線または赤外線を照射する請求項1または2に記載の分光計測装置。
【請求項4】
前記制御部は、
前記光源部から照射される光線を基準計測物に照射して該基準計測物を透過して前記スクリーンに投影された基準投影光を前記検出部により検出して基準色調として予め取得する基準色調取得部と、
前記光源部から照射される光線を計測対象物に照射して該計測対象物を透過して前記スクリーンに投影された計測投影光を前記検出部により検出して計測色調として取得する計測色調取得部と、
前記基準色調と前記計測色調とを比較して色調比較結果を生成する比較生成部と、
前記色調比較結果から前記計測対象物の濃度または成分を推定する推定部と、
を備える請求項1ないしのいずれか1項に記載の分光計測装置。
【請求項5】
前記推定部は、前記基準色調を基準として前記計測色調の色調の強度を相対化して前記計測対象物の濃度または成分を推定する請求項に記載の分光計測装置。
【請求項6】
前記基準色調取得部は、濃度または成分の異なる複数の基準計測物から取得された各基準色調を基準計測物の濃度または成分に依存する順に配列した基準色調テーブルを作成する請求項4または5に記載の分光計測装置。
【請求項7】
前記制御部は、前記基準色調テーブルにおける前記基準色調の相互間を補間した数値を算出し、前記基準色調テーブルにおける前記基準色調の間隔を連続化する補間部を備える請求項に記載の分光計測装置。
【請求項8】
前記比較生成部は、前記基準色調と前記計測色調との比較に際し、前記基準色調テーブルを用いる請求項6または7に記載の分光計測装置。
【請求項9】
光線を照射するLED光源を備えた光源部と、
計測対象物を保持する保持部と、
前記光源部と前記保持部を結ぶ軸線上であって前記光源部と前記保持部の順に前記保持部の背後に配置された炭酸カルシウムまたは硫酸バリウムを塗布した白色の板状物であるスクリーンと、
前記光源部から照射された光線が前記保持部に保持された計測対象物を透過して前記スクリーンに投影された投影光を検出する検出部と、
前記検出部により検出された前記投影光から前記計測対象物の濃度または成分を推定する制御部とを備える分光計測装置における分光計測方法であって、
前記制御部は、
前記光源部から照射される光線を基準計測物に照射して該基準計測物を透過して前記スクリーンに投影された基準投影光を前記検出部により検出して基準色調として予め取得する基準色調取得ステップと、
前記光源部から照射される光線を計測対象物に照射して該計測対象物を透過して前記スクリーンに投影された、前記計測対象物の透過光、前記スクリーンによる反射光、前記スクリーンによる散乱光を含む計測投影光を、前記スクリーンを介在させて間接的に前記検出部により検出して計測色調として取得する計測色調取得ステップと、
前記基準色調と前記計測色調とを比較して色調比較結果を生成する比較生成ステップと、
前記色調比較結果から前記計測対象物の濃度または成分を推定する推定ステップと、を実行する
ことを特徴とする分光計測方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は分光計測装置及び分光計測方法に関し、特に白色光を中心とする波長の光線を対象に照射して当該対象から生じる投影光から対象の濃度または成分を推定する装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
計測の対象物に対して各種波長の光線を照射し、対象物を透過した光線の透過量を測定する技術は吸光光度計及び分光光度計において確立されている。吸光光度計等に見られる分光分析の手法にあっては、対象物を専用のセル(石英セル)に移し替え、所望の波長の光線を照射して光線透過量から吸光度が求められる。そこで、ランベルト・ベールの法則に従い、既知の試料との相対比較を通じて対象物中の成分濃度等の算出及び推定が可能となる。
【0003】
当該手法にあっては測定のための専用容器(石英セル)等へ対象物を移し替える必要がある。しかしながら、迅速な測定を必要とする現場においては、測定のための移し替えは迂遠な作業であり、煩雑である。例えば、医療現場において採取した血液を取り扱う場面では感染のおそれがある。また、血液の場合、移し替え時の衝撃により赤血球が破裂して赤血球の内部成分が溶出してしまう。そうなると、本来測定すべき血液、血漿成分が変化して正確な測定が困難である。また、毒性の高い薬品、汚染物質等の濃度、組成を測定する場合にあっても、対象物の移し替えは極力控えるべきである。
【0004】
そこで、測定の対象物の色調をより簡便に測定する装置が検討されてきた。例えば、分光器と、プロセッサと、分光器に連結し、遠隔サーバと通信する無線通信回路とを備える携帯通信デバイスであって、プロセッサは、物体のスペクトルデータを遠隔サーバに伝送する携帯通信デバイスとを備える装置が提案されている(特許文献1参照)。対象物で反射された反射光の反射スペクトルを測定する分光器と、この反射スペクトルを受信する機器とを一体に備えた装置と、当該装置に通信回線を介して接続されたサーバ装置とを備える物体状態検出伝送システムが提案されている(特許文献2参照)。
【0005】
提案の特許文献の技術によると、システムの構成に通信機能等を必要とする等、全体的に大がかりとなっている。現実問題として、分光計測が求められる現場では、迅速かつ簡便に対象物の濃度、成分を知る必要がある。しかしながら、既存技術は迅速性、簡便性において不十分であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特表2017-505901号公報
【文献】国際公開WO 2018/038052 A1号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
一連の経緯を踏まえ、発明者は、対象物の移し替えを解消し得る構成について鋭意検討を重ねてきた。そして、発明者は対象物を透過した光の分析を通じて計測を可能とする装置及び方法を見いだすに至った。
【0008】
本発明は上記の点に鑑みなされたものであり、迅速な測定を可能とし、現場の作業従事者の負担を軽減し得る構成の分光計測装置及び分光計測方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち、本発明の第1の形態の分光計測装置は、光線を照射するLED光源を備えた光源部と、計測対象物を保持する保持部と、光源部と保持部を結ぶ軸線上であって光源部と保持部の順に保持部の背後に配置されたスクリーンと、光源部から照射された光線が保持部に保持された計測対象物を透過してスクリーンに投影された投影光を検出する検出部と、検出部により検出された投影光から計測対象物の濃度または成分を推定する制御部とを備えることを特徴とする。
【0010】
第2の形態の分光計測装置では、光源部は、RGBのそれぞれの色調の光線を照射することを特徴とする。
【0011】
第3の形態の分光計測装置では、光源部は、さらに紫外線または赤外線を照射することを特徴とする。
【0012】
第4の形態の分光計測装置では、スクリーンは、白色の板状物であることを特徴とする。
【0013】
第5の形態の分光計測装置では、スクリーンは、炭酸カルシウムまたは硫酸バリウムを塗布した白色の板状物であることを特徴とする。
【0014】
第6の形態の分光計測装置では、制御部は、光源部から照射される光線を基準計測物に照射して該基準計測物を透過してスクリーンに投影された基準投影光を検出部により検出して基準色調として予め取得する基準色調取得部と、光源部から照射される光線を計測対象物に照射して該計測対象物を透過してスクリーンに投影された計測投影光を検出部により検出して計測色調として取得する計測色調取得部と、基準色調と計測色調とを比較して色調比較結果を生成する比較生成部と、色調比較結果から計測対象物の濃度または成分を推定する推定部とを備えることを特徴とする。
【0015】
第7の形態の分光計測装置では、推定部は、基準色調を基準として計測色調の色調の強度を相対化して計測対象物の濃度または成分を推定することを特徴とする。
【0016】
第8の形態の分光計測装置では、基準色調取得部は、濃度または成分の異なる複数の基準計測物から取得された各基準色調を基準計測物の濃度または成分に依存する順に配列した基準色調テーブルを作成することを特徴とする。
【0017】
第9の形態の分光計測装置では、制御部は、基準色調テーブルにおける基準色調の相互間を補間した数値を算出し、基準色調テーブルにおける基準色調の間隔を連続化する補間部を備えることを特徴とする。
【0018】
第10の形態の分光計測装置では、比較生成部は、基準色調と計測色調との比較に際し、基準色調テーブルを用いることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明の分光計測装置及び分光計測方法によると、光線を照射するLED光源を備えた光源部と、計測対象物を保持する保持部と、光源部と保持部を結ぶ軸線上であって光源部と保持部の順に保持部の背後に配置されたスクリーンと、光源部から照射された光線が保持部に保持された計測対象物を透過してスクリーンに投影された投影光を検出する検出部と、検出部により検出された投影光から計測対象物の濃度または成分を推定する制御部とを備えるため、計測対象物を容器に収容した状態のまま計測できるため、計測対象物の移し替えの手間を解消して迅速な測定を可能とし、現場の作業従事者の負担を軽減に寄与する。また、投影光による検出であるため、光源部の光量によりコントラストが曖昧になる弊害が回避される。加えて、透過光以外の光も検出されるため、検出感度が高められる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】分光計測装置の全体構成を示す模式図である。
図2】(a)CIExy色度図、(b)電磁波の波長域を示す模式図である。
図3】制御部のCPU内の機能部を示す概略ブロック図である。
図4】測定時の概略模式図である。
図5】基準色調テーブルの模式図である。
図6】計測対象物の濃度の推定の状況を示す第1模式図である。
図7】計測対象物の濃度の推定の状況を示す第2模式図である。
図8】測定結果の表示画像例である。
図9】分光計測方法を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
図1の模式図を用い、実施形態における分光計測装置1の全体構成から説明する。分光計測装置1は、光源部20と、計測対象物35を保持する保持部30と、スクリーン40と、検出部50と、制御部10とを備える。
【0022】
光源部20は、R(赤色)、G(緑色)、B(青色)のそれぞれの色調の光線を照射するLED21をLED光源として実装する。そこで、光源部20はRGBの三色混合により白色光を投光する。さらに、光源部20のLED光源は紫外線または赤外線を照射するLEDを実装しても良い。光源部20のLED光源は制御部10により制御される。光源部20において、個々のLED21の輝度の調整、優勢な色調(発光色の均衡も含む)は調整される。可視光、紫外線、赤外線の照射光の波長は、計測対象物35の種類に応じて選択可能である。光源部20からは、白色光が照射される。この白色光の照射には、紫外線または赤外線のいずれか若しくは両方が加えられてもよい。また、白色光の照射に代えて紫外線または赤外線のいずれか若しくは両方の照射であってもよい。紫外線と赤外線については、専用のLEDがさらに増設される。
【0023】
R(赤色)、G(緑色)、B(青色)の関係は、図2のCIExy色度図として表される。図2(a)のR,G,Bは基準となる三原色である。全三原色が同時に発色して、Wの白色が生じる。さらには、光源部20は白色専用のLEDを備えても良い。むろん、RGBの三原色において、必要に応じてR,G,Bの均衡は調整される。さらに、図2(b)のとおり、RGB(RGB+W(白色))の可視光の波長に加え紫外線または赤外線のいずれかもしくは両方が加えられる。広範囲の波長の光線の照射が可能であるため、各種の計測対象物35の計測に対応可能である。
【0024】
光源部20はLED光源を使用して後述する制御部10の制御のもと、照射する光線の波長域を変更可能である。このため、同光源部20から照射される光線を分光するプリズム、スリット等を設ける必要は無く、分光計測装置1の装置構成は簡素化される。加えて、光源部20はLED光源を用いているため、白色光をスーパーコンティニューム光源、光周波数コムの光源装置等から得る場合と比較しても安価かつ簡素化が可能である。
【0025】
保持部30は、計測対象物35(検体)を固定するとともに光源部20の照射する光線を透過させる固定用の治具(台座)であり、光線透過が確保される限り形状、構造の制約は無い。図示の計測対象物35は公知の透明のガラス製または樹脂製の試験管、スピッツ管、マイクロチューブ等に計測の試料を収容し封止した状態である。例えば、人体、動物等より採血した血液(試料)を2ないし10mL収容した樹脂製の採血管である。計測対象物35は支持部31を介して保持部30に固定される。
【0026】
スクリーン40は白色の板状物であり、光源部20と保持部30(計測対象物35)を結ぶ軸線上に位置し、光源部20と保持部30の順であって保持部30の背後に配置される。スクリーン40の当該配置により、光源部20から照射された光線は保持部30に保持された計測対象物35を透過してスクリーン40に投影光41として投影される。スクリーン40は紙板、樹脂板等であり白色であれば適宜である。特に、良好な白色を呈するため、白色の塗材を塗布した板状物が用いられる。具体的には炭酸カルシウム、硫酸バリウム等である。これらの塩は、酸化チタン等と異なり光源部20から照射された光線により励起されなく安定しているため好ましい。
【0027】
検出部50は公知のCCDカメラまたはCMOSイメージセンサである。光源部20から照射された光線は保持部30に保持された計測対象物35を透過してスクリーン40に投影される。そして、検出部50はスクリーン40に投影された投影光41を検出する。実施形態の分光計測装置1では、スクリーン40に投影された投影光41を通じて計測対象物35の色調が検出される。
【0028】
ここで、スクリーン40を省略して検出部50を光源部20と保持部30の軸線上に配置する場合、検出部50は光源部20の光線を直接受光する。すると、光源部20のからの照射光の輝度が明るすぎて色調のコントラストが不明確となり、逆に検出感度が低下する。この点を考慮して、実施形態ではスクリーン40を設けて投影光により間接的に検出することとした。
【0029】
制御部10は公知のパーソナルコンピュータ(PC)、タブレット端末、スマートフォン等の種々の電子計算機(計算リソース)である。または、制御部10は専用の計測機器として構成してもよい。制御部10は、ハードウェア的にCPU、ROM、RAM、記憶部により構成される。その他にメインメモリ、LSI等も含まれる。またソフトウェア的に、メインメモリにロードされた分光計測プログラム等が実現される。
【0030】
制御部10の各機能部をソフトウェアにより実現する場合、制御部10は各機能を実現するソフトウェアであるプログラムの命令を実行することで実現される。このプログラムを格納する記録媒体は、「一時的でない有形の媒体」、例えば、CD、DVD、半導体メモリ、プログラマブルな論理回路などを用いることができる。また、このプログラムは、当該プログラムを伝送可能な任意の伝送媒体(通信ネットワーク、放送波等)を介して制御部10(コンピュータ)に供給されてもよい。
【0031】
制御部10における各種の記憶部は、ROM12、RAM13、記憶部14であり、記憶部14はHDDまたはSSD等の公知の記憶装置(図示せず)である。演算処理の実行はCPU11等の演算素子である。さらに、入出力のためイン/アウトバッファ(I/O)15も備えられる。
【0032】
実施形態の分光計測装置1によると、光源部20と検出部50はイン/アウトバッファ15に接続される。従って、光源部20の光量、発光色の調整は制御部10により制御される。検出部50における投影光41の検出結果は制御部10により演算処理される。さらに、表示部16がイン/アウトバッファ15に接続され、制御部10による演算を踏まえた推定結果は表示部16に表示される。表示部16は、公知のディスプレイ(液晶表示装置、有機EL表示装置等)である。表示部16はパーソナルコンピュータ(PC)、タブレット端末、スマートフォン等の表示装置として構成しても、専用の計測機器の表示装置として構成してもよい。各機器と制御部10との接続は有線、無線のいずれでも良い。制御部10には、図示以外の処理に必要な各種の回路も備えられる。
【0033】
後述するとおり、制御部10は、検出部50により検出された投影光41に基づいて計測対象物35の濃度または成分を推定する。ここで言う濃度とは計測対象物の溶液中に存在する溶存量(割合)または分散量(割合)である。成分とは、計測対象物の溶液中に存在する溶存種の種類である。この実施形態の分光計測装置1はスクリーン40に投影された色調(可視光以外の波長域も含む)から検出対象について定量または定性、さらには定量及び定性の分析を可能とする装置である。
【0034】
図3の概略ブロック図は制御部10のCPU11内の機能部を表す。制御部10のCPU11は、機能部として、基準色調取得部110、計測色調取得部120、補間部130、比較生成部140、推定部150、出力部160を備える。
【0035】
基準色調取得部110は、光源部20から照射されるRGBのそれぞれの色調の光線、さらには紫外線または赤外線を基準計測物に照射して該基準計測物を透過してスクリーン40に投影された基準投影光を検出部50により検出して基準色調として予め取得する。
【0036】
予め既知の濃度(定量分析)または濃度及び成分(定性分析)により調製された複数の基準計測物が既知試料として用意される。既知試料においては溶質及び溶液の種類は同一である。例えば、図4の模式図のとおり、3種類の濃度の異なる基準計測物Bs1、Bs2、Bs3が調製される。濃度はBs1が最も薄く、Bs2、Bs3の順に濃度は濃くなる。基準計測物Bs1、Bs2、及びBs3のそれぞれについて、図1の分光計測装置1を通じてRGBの代表的な色調が取得される。説明の便宜上、図示は可視光のみの例示である。Bs1は「R:ra,G:ga,B:ba」、Bs2は「R:rb,G:gb,B:bb」、Bs3は「R:rc,G:gc,B:bc」である。開示のRGBの色調の数値が基準色調となる。基準計測物の数(サンプル数)は計測の対象に応じて適宜数用意される。
【0037】
各基準計測物から取得された「R,G,B」の数値が基準計測物毎の基準色調となる。むろん、基準色調は「R,G,B」の全てとしても、例えば「R」の色調のみ(後出の図7参照)の選択としてもよい。さらには、紫外線、赤外線も当然に含められる。基準色調の数値データは制御部10のRAM13、または記憶部14に格納される。
【0038】
基準計測物の調製に際しては、実際の試料を希釈した溶液、または人工的に調製した溶液のいずれも用いることができる。例えば血液の場合、無調整、希釈、浸透圧変化に伴う赤血球破裂等により試料数が確保される。あるいは、所定濃度のヘモグロビン溶液を用いることもできる。他に、排水、廃液等を希釈または濃縮して基準計測物の試料を調製することができる。基準計測物から取得される基準色調は計測対象物の濃度または成分の推定に用いられる。基準計測物の基準色調の取得は、計測対象物の計測の都度の取得、または分光計測装置の出荷段階での一度限りの取得(記憶)のいずれでも良い。
【0039】
さらに、基準色調取得部110は、濃度または成分の異なる複数の基準計測物から取得した個々の基準色調について、各基準計測物の濃度または成分に依存した順に配列した基準色調テーブル70(図5参照)を作成する。
【0040】
図5は基準色調テーブル70の模式図である。図示の例示では、濃度はBs1、Bs2、Bs3の順に濃くなる。そこで、基準計測物Bs1、Bs2、及びBs3は縦に上から下へと順に並べられる。さらに、各基準計測物の色調としてRGBの具体値も順に並べられる。また、各基準計測物の濃度は既知であるため、各基準計測物の濃度と対応する評価が表示される。評価は、一般に用いられる検査基準に基づいた高低の指標である。図示ではBs1の濃度は「α」であり評価は「少ない」、Bs2の濃度は「β」であり評価は「正常」、Bs3の濃度は「γ」であり評価は「多い」である。濃度の数値の表示に加え、おおまかな良否の情報を提示する意図から評価(評価の情報)も加えられる。
【0041】
計測色調取得部120は、光源部20から照射されるRGBのそれぞれの色調の光線、さらには紫外線または赤外線を、未知の試料である計測対象物に照射して該計測対象物を透過してスクリーン40に投影された計測投影光を検出部50により検出して計測色調として取得する。
【0042】
計測対象物の測定は、前出の基準計測物の測定と同一の条件により行われる。光源部20からの光量、照射される光の波長、検出部50も同一である。単に試料が異なるのみである。さらに、基準計測物及び計測対象物を収容する容器も同種の容器である。容器の材質、肉厚等により光線透過量に差異が生じスクリーン40上の投影光41が変化するためである。計測対象物の測定の結果は、例えば、図6の計測対象物Rsのとおり、「R:rr,G:gr,B:br」等の計測色調として示される。
【0043】
補間部130は、基準色調テーブル70における各基準色調の相互間を補完した数値を算出する。そして、基準色調テーブル70における個々の基準色調の間隔は連続化される。図4の模式図のとおり、3種類の濃度の異なる基準計測物Bs1、Bs2、及びBs3の相互間においても自明ながら中間の色調は連続して存在する。そこで、基準計測物同士の中間の色調が補間(埋め合わせ)される。
【0044】
図4の例では、基準計測物Bs1とBs2の間に補間計測物Is1.5、基準計測物Bs2とBs3の間に補間計測物Is2.5が計算上生成される。補間計測物Is1.5の補間色調は「R:rd,G:gd,B:bd」であり、補間計測物Is2.5の補間色調は「R:re,G:ge,B:be」である。補間の仕組みは、基準計測物Bs1、Bs2、Bs3の色調の変化は一般に線形性であることに基づく。そこで、基準計測物同士の間に所定の補間計測物を設定した際、線形性の増減に基づいて補間色調は算出生成される。
【0045】
加えて、補間計測物Is1.5と同Is2.5の各補間色調は、図5のとおり、基準色調テーブル70に組み入れられる。基準計測物と補間計測物の区別のため、補間計測物は斜体の表記である。図5の基準色調テーブル70のように、基準計測物Bs1、Bs2、及びBs3の相互の間隔が補間され所定の数値により埋め合わせられる。また、基準計測物Bs1、Bs2、及びBs3の相互の間隔の補間された範囲に対応する濃度(成分)と評価も線形的に算出される。図5では、補間計測物Is1.5の濃度は「δ」であり濃度の評価は「やや少ない」であり、補間計測物Is2.5の濃度は「ε」であり濃度の評価は「やや多い」である。
【0046】
基準計測物の試料数と補間計測物の数は図示に限らず、計測の対象の種類、測定の濃度等に応じて適宜用意、設定される。また、基準計測物の試料数と補間計測物の数は所望の感度、測定範囲に応じても加減される。基準計測物の基準色調の数値が補間されるため、実際に測定する基準計測物の総数を縮減することができる。その分、基準色調のデータ収集の負担が抑えられる。
【0047】
比較生成部140は、基準色調と計測色調とを比較して色調比較結果を生成する。比較の様子は、図6の模式図が参照される。実施形態においては、比較生成部140は基準色調と計測色調との比較に際して基準色調テーブル70を用いる。
【0048】
計測対象物Rsの計測色調は「R:rr,G:gr,B:br」として取得される。図示では、計測対象物Rsの計測色調は、計測対象物Rsの計測色調が基準計測物Bs2とBs3の基準色調の間の範囲に存在する。しかも計測対象物Rsの計測色調は補間計測物Is2.5の補間色調よりも低位側に位置している。従って、図6中の「矢印」の表示のとおり、計測対象物Rsの計測色調に対応する範囲のRGBの色調の範囲が選択される。当該RGBの色調の範囲が色調比較結果である。
【0049】
推定部150は、色調比較結果から計測対象物の濃度または成分を推定する。より厳密には、推定部150は基準色調を基準として計測色調の色調の強度を相対化して計測対象物の濃度または成分を推定する。図6の模式図のとおり、計測対象物Rsの計測色調は、基準計測物Bs2の基準色調と補間計測物Is2.5の補間色調の間である。そこで実施形態では、基準計測物の基準色調を基準としつつ、補間計測物の補間色調も交えて計測対象物Rsの計測色調が相対化して表現される。そして、計測対象物Rsの計測色調の色調の強度の相対化を通じて基準計測物の濃度βと補間計測物の算出上の濃度εの間の濃度が推定される。推定の結果は算出値または算出範囲のいずれでも良い。こうして、個別の計測対象物Rsを計測して計測色調を取得した後、当該計測対象物Rsの具体的な濃度、成分についての情報が分光計測装置1により得ることができる。
【0050】
図5及び図6に開示の基準色調テーブル70に加え、または代えて、色調比較結果と推定に際し図7のグラフが用いられる。当該グラフは、基準計測物Bs1、Bs2、Bs3と、補間計測物Is1.5、Is2.5の「R」の色調が基準色調と補間色調から抽出される。そして、横軸にRの数値、縦軸に対応する濃度が表示される。計測の対象いかんにより、RGBの全ての色調のデータを取得しなくても、最も特徴ある色調のみのデータ取得で推定に足りる場合がある。例えば、血液とその中のヘモグロビンの計測、評価についてはRの色調のみとすることができる。
【0051】
図7のグラフにおいても、基準計測物のRの色調と濃度の関係は概ね直線上の配置であり最小二乗法等の演算を通じて一次相関の直線を得ることができる。そして、一次相関の直線から基準計測物同士の間は補間計測物により補間される。図7のグラフ中の直線により基準色調と計測色調との比較が可能となる。計測対象物RsのRは縦軸の「re」であり、破線のとおりグラフ中の直線との交点から横軸の「ν」の濃度として得ることができる。そこで、同グラフが色調比較結果となり、同グラフの色調比較結果から計測対象物Rsの濃度が推定可能となる。なお、相関性を充足する関数は直線以外のべき関数等の他の関数式を選択することもできる。
【0052】
出力部160は、制御部10のCPU11(演算素子)の演算により算出された色調比較結果、濃度または成分に関する推定の結果をイン/アウトバッファ15を通じて表示部16に出力する。ここで、図8の表示画像例を用い、出力の結果、表示部16(ディスプレイ等)に表示される画像について説明する。
【0053】
表示部16の表示画像例では、計測に供した計測対象物Rsが模式的に示される。そして、当該計測対象物Rsの測定結果について、「サンプルRsは『正常』です。」と表示される。さらに、「PPP~QQQの範囲です。」と濃度または成分が範囲値としても表示される。この表示の根拠は、図5及び図6に開示の基準色調テーブル70、及び図7のグラフにおける色調比較結果、濃度または成分の推定の結果に基づく。計測の現場においては、逐次計測対象物の推定の具体的な濃度まで必要とされず、単に良否の結果のみで足りる場合には、良否の結果の表示に止めることができる。また、推定であっても具体値、数値範囲まで把握する必要があれば、数値または数値範囲が表示される。むろん、図示は一例であるため、装置、使用状況の仕様に応じて適宜の表示画像が形成される。
【0054】
一連の説明から明らかなように、実施形態の分光計測装置は、光源部から照射された光線は保持部の計測対象物を透過する。分光計測装置はこの透過光を直接検出部により検出するのでは無く、スクリーンを介在させて間接的に投影光として検出部により検出する。この場合、投影光には、透過光に加え、反射光、散乱光も含まれる。投影光による検出であるため、光源部の光量によりコントラストが曖昧になる弊害が回避される。また、透過光以外の光も検出されるため、検出感度が高められる。特に、希釈な液体以外のコロイド状、粘度の高い液体(ゾル)等の一般的な吸光光度計等が苦手とする計測対象に効果的である。加えて、計測対象の試料を収容した容器ごと光線を照射して計測できるため、試料の移し替えの負担も軽減される。
【0055】
実施形態の分光計測装置の用途例としては、患者等から採血した血液を例にとると、赤血球数、酸素と結合したヘモグロビン数、血中の脂質量、血糖量等について光学的に分析、測定が可能となる。特に病院等の医療現場における需要は高いと考えられる。また、各種工場における製品の品質検査、廃液処理の環境基準検査等にも対応可能である。
【0056】
次に、図9のフローチャートを用い制御部10における分光計測方法の流れを説明する。実施形態の分光計測方法の処理は、基準色調取得ステップ(S110)、計測色調取得ステップ(S120)、補間ステップ(S130)、比較生成ステップ(S140)、推定ステップ(S150)、出力ステップ(S160)の順に処理が進む。個々のステップの処理において生成される基準色調、計測色調、補間色調、色調比較結果、推定の結果、表示用の画像データ等データ、算出、演算等の結果はRAM13、または記憶部14に記憶される。
【0057】
基準色調取得ステップ(S110)における処理は基準色調取得部110の説明に対応する。計測色調取得ステップ(S120)における処理は計測色調取得部120の説明に対応する。補間ステップ(S130)における処理は補間部130の説明に対応する。比較生成ステップ(S140)における処理は比較生成部140の説明に対応する。推定ステップ(S150)における処理は推定部150の説明に対応する。出力ステップ(S160)における処理は出力部160の説明に対応する。なお、各ステップにおける具体的な処理は、前述の各部に対応するため、詳細を省略する。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明の分光計測装置及び分光計測方法は、スクリーンを介在させて間接的に投影光として検出するため、光源部の光量によりコントラストが曖昧になる弊害が回避されて検出感度が高められる。また、容器ごと試料の計測を可能とするため、検査効率の向上が見込まれる。
【符号の説明】
【0059】
1 分光計測装置
10 制御部
11 CPU
12 ROM
13 RAM
14 記憶部
15 イン/アウトバッファ
16 表示部
20 光源部
21 LED
30 保持部
35 計測対象物
40 スクリーン
41 投影光
50 検出部
70 基準色調テーブル
110 基準色調取得部
120 計測色調取得部
130 補間部
140 比較生成部
150 推定部
160 出力部
Bs1,Bs2,Bs3 基準計測物
Is1.5,Is2.5 補間計測物
Rs 計測対象物
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9