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特許7458003自己位置推定精度評価方法および自己位置推定精度評価装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-21
(45)【発行日】2024-03-29
(54)【発明の名称】自己位置推定精度評価方法および自己位置推定精度評価装置
(51)【国際特許分類】
   G01C 21/26 20060101AFI20240322BHJP
   G05D 1/24 20240101ALI20240322BHJP
   G05D 1/242 20240101ALI20240322BHJP
   G05D 1/245 20240101ALI20240322BHJP
   G05D 1/43 20240101ALI20240322BHJP
   G05D 1/60 20240101ALI20240322BHJP
   G05D 1/644 20240101ALI20240322BHJP
   G05D 105/00 20240101ALN20240322BHJP
   G05D 109/00 20240101ALN20240322BHJP
   G05D 111/00 20240101ALN20240322BHJP
   G05D 111/63 20240101ALN20240322BHJP
【FI】
G01C21/26 Z
G05D1/24
G05D1/242
G05D1/245
G05D1/43
G05D1/60
G05D1/644
G05D105:00
G05D109:00
G05D111:00
G05D111:63
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020142020
(22)【出願日】2020-08-25
(65)【公開番号】P2022037736
(43)【公開日】2022-03-09
【審査請求日】2023-06-30
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】重兼 聡夫
(72)【発明者】
【氏名】安藤 健
(72)【発明者】
【氏名】グエン ジュイヒン
【審査官】高島 壮基
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/002067(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01C 21/00-21/36
G05D 1/00- 1/87
G09B 29/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
計測範囲内の物体までの距離を計測する距離センサ、および、一定時間における移動量を計測する移動量センサを備え、地図情報と前記距離センサと前記移動量センサとを用いて自己位置推定を行う移動体における、前記自己位置推定結果の修正しにくさを評価する自己位置推定精度評価方法であって、
前記地図情報で表される地図の第1の地点において第1の姿勢で前記移動体が存在する場合に、前記距離センサが計測する第1の距離計測値を、前記地図情報および前記距離センサの計測特性に基づいて算出するステップと、
前記第1の地点を基準とする所定範囲内に含まれる第2の地点において第2の姿勢で前記移動体が存在する場合に、前記距離センサが計測する第2の距離計測値を、前記地図情報および前記距離センサの計測特性に基づいて算出するステップと、
前記第1の距離計測値と前記第2の距離計測値とに基づいて、前記第1の地点において前記第1の姿勢で存在する前記移動体における前記自己位置推定結果の修正しにくさを表す評価値を算出するステップと、を含む、自己位置推定精度評価方法。
【請求項2】
前記第1の距離計測値を算出するステップ、前記第2の距離計測値を算出するステップ、および、前記評価値を算出するステップを、前記地図上の全ての地点の第1の距離計測値が算出されるまで行う、請求項1に記載の自己位置推定精度評価方法。
【請求項3】
前記評価値を算出するステップは、前記第2の距離計測値を用いて生成した観測モデルにおける前記第1の距離計測値の発生確率に基づいて、前記評価値を算出する、請求項1または2に記載の自己位置推定精度評価方法。
【請求項4】
前記評価値を算出するステップは、
前記第1の地点において前記第1の姿勢で前記移動体が存在する場合における前記第1の距離計測値の発生確率を第1の発生確率とし、前記観測モデルにおける前記第1の距離計測値の発生確率を第2の発生確率とした場合、前記第1の発生確率と前記第2の発生確率との総和のうち、前記第1の発生確率が占める割合に基づいて、前記評価値を算出する、請求項3に記載の自己位置推定精度評価方法。
【請求項5】
前記評価値に関する情報を出力するステップをさらに有する、請求項1から4のいずれか一項に記載の自己位置推定精度評価方法。
【請求項6】
前記評価値に関する情報を出力するステップは、前記評価値に関する情報を前記地図における前記第1の地点に表示する、請求項5に記載の自己位置推定精度評価方法。
【請求項7】
前記自己位置推定を行う前記移動体の自己位置推定手法はパーティクルフィルタである、請求項1から6のいずれか一項に記載の自己位置推定精度評価方法。
【請求項8】
計測範囲内の物体までの距離を計測する距離センサ、および、一定時間における移動量を計測する移動量センサを備え、地図情報と前記距離センサと前記移動量センサとを用いて自己位置推定を行う移動体における、前記自己位置推定結果の修正しにくさを評価する自己位置推定精度評価装置であって、
前記地図情報で表される地図の第1の地点において第1の姿勢で前記移動体が存在する場合に、前記距離センサが計測する第1の距離計測値を、前記地図情報および前記距離センサの計測特性に基づいて算出する第1の距離計測値算出部と、
前記第1の地点を基準とする所定範囲内に含まれる第2の地点において第2の姿勢で前記移動体が存在する場合に、前記距離センサが計測する第2の距離計測値を、前記地図情報および前記距離センサの計測特性に基づいて算出する第2の距離計測値算出部と、
前記第1の距離計測値と前記第2の距離計測値とに基づいて、前記第1の地点において前記第1の姿勢で存在する前記移動体における前記自己位置推定結果の修正しにくさを表す評価値を算出する評価値算出部と、を備える、自己位置推定精度評価装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、自己位置推定精度評価方法および自己位置推定精度評価装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、移動体に搭載したセンサおよび走行環境の地図などを用いて、移動体の自己位置推定を行うシステムが知られている。推定された自己位置は、例えば移動体の自律移動のために用いられる。この自律移動のとき、自己位置推定精度は、自律移動する移動体の動作精度に関係するため重要である。自己位置推定精度を評価する方法として、例えば、特許文献1に記載の方法が挙げられる。特許文献1における自己位置推定精度評価方法は、移動を行う実環境に測域センサを配置し、測域センサによって測定された移動体の位置の真値と、移動体に搭載された自己位置推定システムによって推定された移動体の位置の推定値と、を比較する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2012-173013号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の方法は、実環境に手を加える必要があり、また、移動体を実走行させる必要があるため、評価実現のために時間やコストがかかるという課題がある。
【0005】
本開示は、移動体の自己位置推定の精度をより簡易に評価することができる自己位置推定精度評価方法および自己位置推定精度評価装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の自己位置推定精度評価方法は、計測範囲内の物体までの距離を計測する距離センサ、および、一定時間における移動量を計測する移動量センサを備え、地図情報と前記距離センサと前記移動量センサとを用いて自己位置推定を行う移動体における、前記自己位置推定結果の修正しにくさを評価する自己位置推定精度評価方法であって、前記地図情報で表される地図の第1の地点において第1の姿勢で前記移動体が存在する場合に、前記距離センサが計測する第1の距離計測値を、前記地図情報および前記距離センサの計測特性に基づいて算出するステップと、前記第1の地点を基準とする所定範囲内に含まれる第2の地点において第2の姿勢で前記移動体が存在する場合に、前記距離センサが計測する第2の距離計測値を、前記地図情報および前記距離センサの計測特性に基づいて算出するステップと、前記第1の距離計測値と前記第2の距離計測値とに基づいて、前記第1の地点において前記第1の姿勢で存在する前記移動体における前記自己位置推定結果の修正しにくさを表す評価値を算出するステップと、を含む。
【0007】
本開示の自己位置推定精度評価装置は、計測範囲内の物体までの距離を計測する距離センサ、および、一定時間における移動量を計測する移動量センサを備え、地図情報と前記距離センサと前記移動量センサとを用いて自己位置推定を行う移動体における、前記自己位置推定結果の修正しにくさを評価する自己位置推定精度評価装置であって、前記地図情報で表される地図の第1の地点において第1の姿勢で前記移動体が存在する場合に、前記距離センサが計測する第1の距離計測値を、前記地図情報および前記距離センサの計測特性に基づいて算出する第1の距離計測値算出部と、前記第1の地点を基準とする所定範囲内に含まれる第2の地点において第2の姿勢で前記移動体が存在する場合に、前記距離センサが計測する第2の距離計測値を、前記地図情報および前記距離センサの計測特性に基づいて算出する第2の距離計測値算出部と、前記第1の距離計測値と前記第2の距離計測値とに基づいて、前記第1の地点において前記第1の姿勢で存在する前記移動体における前記自己位置推定結果の修正しにくさを表す評価値を算出する評価値算出部と、を備える。
【発明の効果】
【0008】
本開示の自己位置推定精度評価方法および自己位置推定精度評価装置によれば、移動体の自己位置推定の精度をより簡易に評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本開示の実施の形態における移動ロボットの斜視図
図2】本開示の実施の形態におけるレーザ測域センサの計測性能を示す模式図
図3】本開示の実施の形態における移動ロボットの走行環境地図を示す模式図
図4】本開示の実施の形態における自己位置推定精度評価装置のブロック図
図5】本実施の形態における自己位置推定精度評価方法を示すフローチャート
図6】本実施の形態における第1の仮想計測値の算出方法を示す模式図
図7】本実施の形態における近傍候補データの生成方法を示す模式図
図8】本実施の形態における評価対象データおよび近傍候補データを示す模式図
図9】本実施の形態におけるマッチ度の算出処理を示すフローチャート
図10】本実施の形態における観測モデルの一例を示すグラフ
図11】本実施の形態におけるスコア値の算出理由の説明図
図12】本実施の形態における表示用地図の表示処理を示すフローチャート
図13】本実施の形態における表示用地図の一例を示す模式図
【発明を実施するための形態】
【0010】
(移動体の自律移動方法の説明)
本開示の自己位置推定精度評価方法によって、自己位置推定精度が評価される移動体の自律移動方法について説明する。
【0011】
まず、移動体は、搭載したホイールオドメトリや慣性センサなどの計測用センサの情報を用いて、一定時間における自己位置の遷移変化を計測する。次に、移動体は、遷移変化の計測値および走行環境の地図などを用いて、自己位置の修正を行う。移動体は、この2つのステップを一定時間毎に繰り返すことで、自律移動を実現する。
【0012】
ここで、自己位置の遷移変化を計測するセンサなどに含まれる誤差や、修正動作の誤りなどにより、移動体は自己位置を真値と異なる位置と認識している可能性がある。そのため、移動体の認識する自己位置を真値により近づけるために、センサフュージョンを用いた自己位置推定が用いられる。
【0013】
上述した自律移動方法を用いて動作する移動体における自己位置推定方法として、よく用いられる方法のひとつに、パーティクルフィルタが挙げられる。パーティクルフィルタとは、確率分布による時系列データの予測手法である。パーティクルフィルタでは、複数個のパーティクルの重み付き総和によって、全体の確率分布を近似する。以下に、自己位置推定に用いるパーティクルフィルタの詳細について説明する。
【0014】
まず、移動体は、計測用センサで計測した自己位置の遷移変化の計測値、および、事前に設定した計測値に含まれる誤差に基づいて、パーティクルを移動する。次に、移動体は、測域センサなどの観測用センサの計測値に基づいて、個々のパーティクルの生起確率を求める。最後に、移動体は、各パーティクルの重みと位置から求められる加重平均値を、移動体の推定姿勢とする。
【0015】
ただし、パーティクルフィルタにおいて、上記個々のパーティクルの生起確率に関して、真値に近いパーティクルの持つ生起確率と真値から離れたパーティクルの持つ生起確率の差が小さい時、位置推定に誤認が発生するため自己位置推定が失敗しやすい、すなわち自己位置推定が破綻しやすいことが知られている。
【0016】
本開示では、上記生起確率の差を推定し、数値化することで、走行環境地図に基づく自己位置推定の破綻しやすさを推定する。ここで、自己位置推定の破綻とは、移動体が実在する位置と、自己位置推定によって移動体が推定した自己位置と、の誤差が大きく、推定された自己位置を移動体の実在位置(真値)に修正することが困難になる状態のことをいう。
【0017】
(実施の形態)
以下、本開示の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。なお、図面は、理解しやすくするためにそれぞれの構成要素を主体として、模式的に示している。
【0018】
まず、本開示の自己位置推定精度評価方法を適用するにあたっての前提として、自己位置推定を行いながら自律移動を行う移動体の一例である移動ロボット10について説明する。図1は、本実施の形態における移動ロボットの斜視図である。
【0019】
移動ロボット10は、本体11と、本体11に設けられた一対の駆動輪12(図1では、一方の駆動輪12のみを図示)と、本体11に設けられた1つの準輪13と、本体11に設けられた移動量センサの一例である回転数センサ14Aと、本体11に設けられた距離センサ一例であるレーザ測域センサ14Bと、制御部15と、を有する。
【0020】
回転数センサ14Aは、駆動輪12に備え付けられた車輪の回転数を計測することで、間接的に移動ロボットの移動量を計測する。そのため、回転数センサ14Aは、例えば駆動輪12の車軸など、車輪の回転数を計測できる位置に配置されることが望ましい。レーザ測域センサ14Bは、発振したレーザ光が物体に反射して戻ってくるまでの時間を計測することで、物体までの距離を計測する。レーザ測域センサ14Bは、例えば障害物の検出や、自己位置推定などのために利用される。そのため、レーザ測域センサ14Bは、本体11における計測範囲の死角が少ない箇所に配置されることが望ましい。例えば、レーザ測域センサ14Bは、本体11の最前部に配置される。なお、本実施の形態では、移動量センサとして回転数センサ14A、距離センサとしてレーザ測域センサ14Bを例示したが、これに限られず、例えば移動量センサとして慣性計測装置、距離センサとして超音波センサを適用しても良い。移動量センサを用いて算出した姿勢で、距離センサによって認識した障害物と、地図上の障害物との位置合わせを行うことのできるセンサであれば良い。
【0021】
次に、本開示の自己位置推定精度評価方法を適用するためのパラメータである、レーザ測域センサ14Bの計測性能について、図2を用いて説明する。図2は、本実施の形態におけるレーザ測域センサの計測性能を示す模式図である。
【0022】
レーザ測域センサ14Bは、計測性能として、計測上限距離P1、計測ステップ数、角度分解能P2を有する。
【0023】
計測上限距離P1は、レーザ測域センサ14Bを始点、レーザ測域センサ14Bのレーザ光Lによって計測可能な終端を終点とする、始点から終点までの直線距離である。
【0024】
計測ステップ数は、計測に用いるレーザ光Lの本数である。
【0025】
角度分解能P2は、隣り合うレーザ光L同士の成す角度である。
【0026】
ここで、レーザ測域センサ14Bの計測角度P3は、計測ステップ数から1を減じた値と角度分解能P2とを乗じることにより、求めることができる。また、レーザ測域センサ14Bの計測範囲P4は、図2の灰色で塗りつぶされた範囲であって、半径が計測上限距離P1、中心角が計測角度P3の扇形の範囲となる。
【0027】
レーザ測域センサ14Bが出力する計測値は、計測ステップ数と同じ個数の計測値の配列を持つ。本開示では、後述するように、レーザ測域センサ14Bの出力する計測値の予測値である第1の仮想計測値を算出するために、上記レーザ測域センサ14Bのパラメータを用いる。
【0028】
次に、移動ロボット10の自己位置推定に利用する走行環境地図16について説明する。図3は、本実施の形態における移動ロボットの走行環境地図を示す模式図である。
【0029】
移動ロボット10は、自律移動のために、図3に示すような予め計測し作成された走行環境地図16を利用する。
【0030】
走行環境地図16は、移動ロボット10が走行予定の実環境におけるXY平面の情報を反映している。走行環境地図16は、X軸およびY軸とそれぞれ平行に線によって格子状に区分けされている。走行環境地図16の各格子には、障害物情報が対応付けられている。障害物情報は、移動ロボット10に搭載されるレーザ測域センサ14Bで検出可能な障害物の有無を表す。以下において、障害物が存在する旨の障害物情報が対応付けられた格子を、障害物領域161といい、障害物が存在しない旨の障害物情報が対応付けられた格子を、非障害物領域162という。例えば、実環境において柱や壁などが存在する領域に対応する格子は、障害物領域161となる。
【0031】
ここで、図3には、障害物領域161を黒色で塗りつぶされた領域、非障害物領域162を白色で塗りつぶされた領域として模式的に示しているが、これに限られず、他の色や模様を用いて障害物領域161および非障害物領域162を表現していても良い。また、制御部15が各格子が障害物領域161または非障害物領域162であることを判断できるように、コンピュータ言語によって表された障害物情報を各格子に紐付けても良い。
【0032】
走行環境地図16を構成する格子は、大きさは任意であるが、移動ロボット10の位置推定精度や記憶容量、計算速度への影響を考慮して決定されることが好ましい。格子の一辺の長さは、例えば実環境における10cmなどに設定される。
【0033】
次に、本開示の自己位置推定精度評価装置のシステム構成について、図4を用いて説明する。図4は、本実施の形態における自己位置推定精度評価装置のブロック図である。
【0034】
自己位置推定精度評価装置20は、入力部21と、演算部22と、演算記憶部23と、表示変換部24と、表示部25と、を有する。
【0035】
入力部21は、演算部22に対して、走行環境地図16のデータやレーザ測域センサ14Bの計測特性のデータなどを入力する。入力部21は、例えばキーボードやマウス、タッチパネル、スイッチ、ボタンなどで構成される。
【0036】
演算部22は、プロセッサを有するマイクロコンピュータが図示しないメモリに記憶されたプログラムを実行することによって実現される機能部である。演算部22は、走行環境地図16上における移動ロボット10の自己位置推定精度の評価を行う。演算部22は、データ取得部221と、評価データ生成部222と、評価対象選択部223と、第1の仮想計測値算出部224と、近傍候補データ生成部225と、第2の仮想計測値算出部226と、マッチ度算出部227と、スコア値算出部228と、を有する。第1の仮想計測値算出部224は、第1の距離計測値算出部の一例であり、第2の仮想計測値算出部226は、第2の距離計測値算出部の一例であり、マッチ度算出部227およびスコア値算出部228は、評価値算出部の一例である。なお、演算部22の各構成が行う処理の詳細については後述する。
【0037】
表示変換部24は、プロセッサを有するマイクロコンピュータが図示しないメモリに記憶されたプログラムを実行することによって実現される機能部である。表示変換部24は、演算部22で算出された自己位置推定精度評価のデータに基づいて、表示用地図17図13参照)を生成する。また、表示変換部24は、表示用地図17を表示部25に表示させる。なお、表示変換部24は、演算部22の一部として構成されていても良い。
【0038】
表示部25は、表示変換部24によって自己位置推定精度評価が重畳された表示用地図17の表示を行う。表示部25は、例えばモニタやタッチパッド、パネルなどで構成される。
【0039】
次に、移動ロボット10の自己位置推定精度評価方法について説明する。図5は、本実施の形態における自己位置推定精度評価方法を示すフローチャートである。
【0040】
自己位置推定精度評価は、移動ロボット10の姿勢毎に、自己位置推定の容易さを算出することにより行われる。ここで、移動ロボット10の姿勢は、移動ロボット10が取り得る3つの姿勢パラメータである、X座標、Y座標、ヨー軸角度の3つのデータで表される。ヨー軸角度とは、Z軸(鉛直方向に延びる軸)を回転軸とした角度であり、移動ロボット10が向いている方向を表す。なお、X座標およびY座標の基準点((X,Y)=(0,0)となる位置)は、走行環境地図16上の任意の位置として定義されて良い。また、ヨー軸角度の基準となる角度は、走行環境地図16上の任意の方向として定義されて良い。
【0041】
まず、操作者は、自己位置推定精度評価装置20の入力部21を操作して、走行環境地図16のデータおよびレーザ測域センサ14Bの計測特性のデータを入力する。データ取得部221は、この入力された走行環境地図16のデータおよびレーザ測域センサ14Bの計測特性のデータを取得する(ステップS1)。ステップS1でデータ取得部221が取得するレーザ測域センサ14Bの計測特性データは、少なくとも計測上限距離P1、計測ステップ数および角度分解能P2を含む。データ取得部221で取得されたデータは、演算記憶部23に記憶される。
【0042】
次に、評価データ生成部222は、走行環境地図16に含まれる全ての非障害物領域162で移動ロボット10が取り得る姿勢を表す、評価データを生成する(ステップS2)。評価データ生成部222で生成された評価データは、演算記憶部23に記憶される。
【0043】
ここで、評価データとは、非障害物領域162の所定位置で移動ロボット10が取り得る向きのヨー軸角度を、演算して得られるデータである。すなわち、評価データとは、非障害物領域162に対応する全ての格子の所定位置を座標で表し、各所定位置の座標において移動ロボット10が取り得る向きをヨー軸角度で表すようなデータである。このため、各評価データは、X座標、Y座標、ヨー軸角度の3つのデータを含む。ここで、各格子における所定位置は、全ての格子において共通であれば良く、例えば格子の中心である。
【0044】
移動ロボット10が取り得る向きとしては、レーザ測域センサ14Bの計測角度P3および死角のうち、小さい方の角度毎に設定されることが望ましい。自己位置推定の目印となる障害物が、計測範囲P4内に入った場合と死角に入った場合との双方を評価できるようにするためである。例えば、レーザ測域センサ14Bの計測角度P3が270度の場合、死角は90度となるので、評価データ生成部222は、90度(計測角度P3および死角のうち小さい方の角度)毎の合計4個のヨー軸角度を、移動ロボット10が取り得る向きとして演算する。このような演算によって、1個の非障害物領域162に対して、X座標およびY座標が同じ値であって、ヨー軸角度がそれぞれ異なる4個の評価データが得られる。例えば、非障害物領域162の個数が5000個、レーザ測域センサ14Bの計測角度P3が270度の場合、20000個の評価データが得られる。
【0045】
なお、評価データ生成部222は、計測角度P3および死角のうち小さい方の角度よりもさらに小さい角度毎のヨー軸角度を、移動ロボット10が取り得る向きとして演算してもよい。例えば、評価データ生成部222は、計測角度P3が270度の場合、30度毎の合計12個のヨー軸角度を、移動ロボット10が取り得る向きとして演算してもよい。
【0046】
次に、評価対象選択部223は、ステップS2において演算された評価データから、1つの評価データを評価対象データとして選択する(ステップS3)。評価対象データのX座標およびY座標で表される実環境における位置は、第1の地点の一例である。評価対象データのヨー軸角度で表される実環境における移動ロボット10(レーザ測域センサ14B)の向き(姿勢)は、第1の姿勢の一例である。
【0047】
次に、第1の仮想計測値算出部224は、評価対象データのX座標およびY座標に対応する実環境の位置において評価対象データのヨー軸角度に対応する向きで、つまり評価対象データに対応する姿勢で、レーザ測域センサ14Bが計測を行った場合に得られる計測値を、第1の仮想計測値として算出する(ステップS4)。第1の仮想計測値は、第1の距離計測値の一例である。第1の仮想計測値算出部224で算出された第1の仮想計測値は、演算記憶部23に記憶される。
【0048】
ここで、第1の仮想計測値算出部224による第1の仮想計測値の算出について、図6を用いて説明する。図6は、本実施の形態における第1の仮想計測値の算出方法を示す模式図である。
【0049】
第1の仮想計測値算出部224は、第1の仮想計測値の算出にあたり、データ取得部221で取得した走行環境地図16のデータおよびレーザ測域センサ14Bの計測特性のデータを利用する。第1の仮想計測値算出部224は、評価対象データに含まれるX座標およびY座標を実環境においてレーザ測域センサ14Bが存在する位置、ヨー軸角度をレーザ測域センサ14Bが向いている方向として、レーザ測域センサ14Bの計測範囲P4を仮想的に算出する。そして、第1の仮想計測値算出部224は、仮想的に算出した計測範囲P4において、それぞれの計測ステップでの障害物領域161までの測定値Dを算出して、演算記憶部23に記憶させる。第1の仮想計測値算出部224は、1つの計測ステップで用いるレーザ光Lの光軸上に、複数の障害物領域161が存在する場合、レーザ測域センサ14Bから最も近い障害物領域161までの測定値Dを算出する。レーザ光Lの光軸上に障害物領域161が存在しない場合、第1の仮想計測値算出部224は、当該計測ステップにおける測定値を無効値として演算記憶部23に記憶させる。第1の仮想計測値算出部224は、各計測ステップの測定値Dの集合を第1の仮想計測値として算出する。このようにして、第1の仮想計測値は、レーザ測域センサ14Bが出力する計測値と同様に、計測ステップ数と同個数の測定値Dの配列を有するように算出される。
【0050】
次に、近傍候補データ生成部225は、近傍候補データを生成する(ステップS5)。近傍候補データとは、評価対象データで表される位置の周辺の位置および当該周辺の位置における移動ロボット10の向きを表すデータであって、評価対象データに対する移動ロボット10の位置の誤差および向き(姿勢)の誤差のうち少なくとも一方の誤差を含むデータである、近傍候補データは、評価対象データと同様に、X座標、Y座標、ヨー軸角度のデータを含む。近傍候補データのX座標およびY座標で表される実環境における位置は、第2の地点の一例である。近傍候補データのヨー軸角度で表される実環境における移動ロボット10(レーザ測域センサ14B)の向き(姿勢)は、第2の姿勢の一例である。近傍候補データ生成部225で生成された近傍候補データは、演算記憶部23に記憶される。
【0051】
近傍候補データの具体的な生成方法について、図7および図8を用いて説明する。図7は、本実施の形態における近傍候補データの生成方法を示す模式図である。図8は、本実施の形態における評価対象データおよび近傍候補データを示す模式図である。
【0052】
評価対象データに対して発生し得る、位置推定誤差(位置および姿勢のうち少なくとも一方の誤差)の原因としては、移動ロボット10のオドメトリやセンサに含まれ得る計測誤差および機械的誤差のうち少なくとも一方の誤差、移動ロボット10の自己位置推定周期などが挙げられる。近傍候補データに含まれるX座標、Y座標、ヨー軸角度は、移動ロボット10が自己位置推定を行う際の一周期の間に、位置推定誤差が発生する範囲を十分に内包するよう算出される。
【0053】
例えば、ホイールオドメトリおよびIMU(Inertial Measurement Unit(慣性計測装置))による自己位置の変化を取得した時の位置の誤差を±α(mm/秒)、角度の誤差を±β(度/秒)、位置修正周期をγ(秒)としたとき、X座標およびY座標のそれぞれの誤差(以下、「位置誤差」という場合がある)が発生する範囲は、±αγ(mm)、姿勢(ヨー軸角度)の誤差(以下、「姿勢誤差」という場合がある)が発生する範囲は、±βγ(度)となる。近傍候補データ生成部225は、位置誤差および姿勢誤差を十分に網羅する範囲として、例えば2倍の±2αγ(mm)、±2βγ(度)の範囲を設定する。例えば、ホイールオドメトリなどによる自己位置の変化を取得した時の位置の誤差が±50mm/秒、角度の誤差が±1度/秒、位置修正周期が2秒の場合、位置誤差を十分に網羅する範囲は±200mm、姿勢誤差を十分に網羅する範囲は±4度になる。
【0054】
一周期の間に発生する位置推定誤差が、自己位置推定に用いるパーティクルフィルタなどのシステムノイズとして既知の場合、システムノイズの定数倍を用いるのが良い。
【0055】
近傍候補データ生成部225は、上述した位置推定誤差を十分に網羅する範囲内に存在する走行環境地図16上の格子に基づいて、近傍候補データを生成する。まず、近傍候補データ生成部225は、図7に示すように、評価対象データに対応する非障害物領域162を評価対象領域162Aとして特定し、当該評価対象領域162Aを中心にして、位置誤差を十分に網羅する位置誤差網羅範囲R1を設定する。近傍候補データ生成部225は、位置誤差網羅範囲R1に少なくとも一部が含まれる非障害物領域162を近傍領域162Bとして特定する。近傍候補データ生成部225は、例えば、評価対象領域162Aを囲む8個の非障害物領域162を近傍領域162Bとして特定する。
【0056】
近傍候補データ生成部225は、評価対象データのヨー軸角度を中心にして、角度誤差を十分に網羅する角度誤差網羅範囲R2を設定する。図7に示すように、評価対象データのヨー軸角度で表される移動ロボット10の姿勢(向き)を矢印J1で表し、当該ヨー軸角度をθ(度)とした場合、角度誤差網羅範囲R2は、矢印J1を(θ+2βγ)(度)回転させた矢印J2と、(θ-2βγ)(度)回転させた矢印J3とで囲まれる範囲になる。なお、矢印J1,J2,J3の先端が向いている方向は、移動ロボット10が向いている方向を表す。
【0057】
近傍候補データ生成部225は、各近傍領域162Bに対して、3個ずつの近傍候補データを生成する。1個の近傍領域162Bに対して生成される近傍候補データは、所定位置を表すX座標およびY座標は同じであるが、ヨー軸角度が互いに異なる。当該互いに異なるヨー軸角度は、それぞれ矢印J1,J2,J3で表される角度、つまり、評価対象データに含まれるヨー軸角度(θ)と、角度誤差網羅範囲R2を規定する最大誤差角度(θ+2βγ)と、最小誤差角度(θ-2βγ)とである。
【0058】
近傍候補データ生成部225は、評価対象領域162Aに対して、2個の近傍候補データを生成する。評価対象領域162Aに対して生成される近傍候補データは、所定位置を表すX座標およびY座標は同じであるが、ヨー軸角度が互いに異なる。当該互いに異なるヨー軸角度は、それぞれ矢印J2,J3で表される角度、つまり、角度誤差網羅範囲R2を規定する最大誤差角度(θ+2βγ)と、最小誤差角度(θ-2βγ)とである。
【0059】
近傍候補データ生成部225は、例えば、8個の近傍領域162Bを特定した場合、近傍領域162Bに対応する24個の近傍候補データと、1個の評価対象領域162Aに対応する2個の近傍候補データと、を生成する。つまり、近傍候補データ生成部225は、26個の近傍候補データを生成する。評価対象データのヨー軸角度を図8に二点鎖線の矢印J1で示すと、各近傍候補データのヨー軸角度は、図8に実線の矢印J4で示すようになる。ここで、近傍領域162Bに対応する各格子における所定位置は、評価対象領域162Aに対応する各格子における所定位置と同じである必要があり、例えば格子の中心である。
【0060】
近傍候補データは、生成個数が多いほど評価精度が良くなるが、計算量が多くなるため評価に時間を要する。そのため、近傍候補データの個数は、必要な評価精度に応じて決定するのが好ましい。
【0061】
次に、第2の仮想計測値算出部226は、近傍候補データのX座標およびY座標に対応する実環境の位置において、近傍候補データのヨー軸角度に対応する向きで、レーザ測域センサ14Bが計測を行った場合に得られる計測値を、第2の仮想計測値として算出する(ステップS6)。第2の仮想計測値は、第2の距離計測値の一例である。第2の仮想計測値は、第1の仮想計測値と同様にして求められ、計測ステップ数と同個数の測定値の配列を有する。本実施の形態では、26個の近傍候補データにそれぞれ対応する26個の第2の仮想計測値を算出する。第2の仮想計測値算出部226で算出された第2の仮想計測値は、演算記憶部23に記憶される。
【0062】
次に、マッチ度算出部227は、評価対象データと各近傍候補データとのマッチ度、および、評価対象データ同士のマッチ度を算出する(ステップS7)。
【0063】
マッチ度は、第1の仮想計測値と、第2の仮想計測値または第1の仮想計測値と、の差を示す指標である。マッチ度が高い場合、第1の仮想計測値と第2の仮想計測値の差は小さい。例えば、第1の仮想計測値と第2の仮想計測値とが同一であるとき、マッチ度は最大値となる。第1の仮想計測値同士のマッチ度は、当然、最大値となる。
【0064】
マッチ度の算出方法について、図9および図10を用いて説明する。図9は、本実施の形態におけるマッチ度の算出処理を示すフローチャートである。図10は、本実施の形態における観測モデルの一例を示すグラフである。
【0065】
まず、図9に示すように、マッチ度算出部227は、各第2の仮想計測値を用いて、各近傍候補データにおける観測モデル関数を生成する(ステップS21)。マッチ度算出部227で算出された観測モデル関数は、演算記憶部23に記憶される。
【0066】
観測モデル関数は、第2の仮想計測値のステップ数と同数のそれぞれのレーザ光Lが、計測する可能性がある計測値が出現する確率を示す確率密度関数である。観測モデル関数は、一方の軸に計測値、他方の軸に出現確率を配した場合、出現確率が最大値となる計測値が真値(誤差がない状態)となる。例えば、ガウス分布を用いた場合、観測モデル関数は、図10のような挙動を示す。しかし、観測モデル関数はこの例に限らず、レーザ測域センサ14Bの観測モデル関数が既知の場合、レーザ測域センサ14Bと同じ観測モデル関数を用いることが好ましい。
【0067】
次に、マッチ度算出部227は、評価対象データと各近傍候補データとの正規化前マッチ度、および、評価対象データ同士の正規化前マッチ度を算出する(ステップS22)。評価対象データと各近傍候補データとの正規化前マッチ度の算出は、第1の仮想計測値と、各近傍候補データごとの観測モデル関数とを用いて、以下の式(1)に基づいて行われる。式(1)に基づき算出された正規化前マッチ度は、第2の仮想計測値を用いて生成した観測モデルにおける第1の仮想計測値の発生確率に対応する値になる。また、評価対象データ同士の正規化前マッチ度の算出も、以下の式(1)に基づいて行われる。評価対象データ同士の正規化前マッチ度は、評価対象データに対応する姿勢における第1の仮想計測値の発生確率に対応する値になる。このため、評価対象データ同士の正規化前マッチ度は、評価対象データと各近傍候補データとの正規化前マッチ度よりも大きくなる。本実施の形態では、27個の正規化前マッチ度(評価対象データと26個の近傍候補データのそれぞれとの正規化前マッチ度、および、評価対象データ同士の正規化前マッチ度)が算出される。マッチ度算出部227で算出された正規化前マッチ度は、演算記憶部23に記憶される。
【0068】
【数1】
【0069】
step_num:レーザ測域センサ14Bの計測ステップ数
p:観測モデル関数
:第1の仮想計測値を構成するi番目のレーザ光の計測値
y’:第2の仮想計測値を構成するi番目のレーザ光の計測値
【0070】
次に、マッチ度算出部227は、ステップS22の処理で算出された正規化前マッチ度の合計が1.0となるように各正規化前マッチ度を正規化し、正規化した値をマッチ度として算出する(ステップS23)。本実施の形態では、27個のマッチ度(評価対象データと26個のそれぞれの近傍候補データとのマッチ度、および、評価対象データ同士のマッチ度)が算出される。マッチ度算出部227で算出されたマッチ度は、演算記憶部23に記憶される。
【0071】
以下、図5の説明に戻る。
【0072】
次に、スコア値算出部228は、ステップS23で算出されたマッチ度を用いて、評価対象データに対するスコア値を算出する(ステップS8)。スコア値算出部228で算出されたスコア値は、演算記憶部23に記憶される。
【0073】
スコア値とは、実環境における移動ロボット10の位置および姿勢が評価対象データで表される位置および姿勢のときに、制御部15が、自己位置推定で発生し得る誤差を考慮に入れて、移動ロボット10の位置および姿勢が近傍候補データのうちの1個の近傍候補データで表される位置および姿勢であると推定した場合に、推定した位置および姿勢に誤差が発生していることを制御部15が判定できるか否かを評価した値である。例えば、走行環境地図16上でのある格子において、ヨー軸角度がUのときのスコア値が、ヨー軸角度がVのときのスコア値よりも大きい場合、移動ロボット10の自己位置推定は、ヨー軸角度がUのときのほうがヨー軸角度がVのときよりも容易である、つまり推定した位置および姿勢に誤差が発生していることを制御部15が判定しやすいといえる。
【0074】
スコア値の算出方法について説明する。ステップS23で算出された評価対象データ同士のマッチ度M(以下、「評価対象マッチ度」という場合がある)は、近傍候補データの個数をNとした場合、以下の式(2)を満たす関係になる。
1/(1+N)≦M<1.0 ・・・(2)
【0075】
ここで、評価対象マッチ度Mが上記式(2)の関係を満たす理由について説明する。第1の仮想計測値と全ての近傍候補データの第2の仮想計測値との差が大きいとき、評価対象データと全ての近傍候補データとのマッチ度の合計はほぼ0となる。この場合、評価対象マッチ度Mは、1.0に近い値になる。一方、第1の仮想計測値と全ての近傍候補データの第2の仮想計測値とが同じ値のとき、評価対象データと各近傍候補データとのマッチ度は、評価対象マッチ度Mと同じ値になる。この場合、評価対象マッチ度Mは、1を近傍候補データの個数に1を加えた値で除した値になる。例えば、近傍候補データの個数が9個の場合、評価対象マッチ度Mは、1/10(0.1)になる。以上のことから、評価対象マッチ度Mは、上記式(2)の関係を満たすといえる。
【0076】
スコア値算出部228は、以下の式(3)を用いてスコア値Cを算出する。スコア値Cは、評価値の一例である。
C={(1+N)(M-1.0)/N}+1 ・・・(3)
【0077】
また、スコア値Cは以下の式(4)を満たす。
0≦C<1.0 ・・・(4)
【0078】
ここで、上記式(3)に基づいて、スコア値Cを算出する理由について説明する。図11は、本実施の形態におけるスコア値の算出理由の説明図である。
【0079】
式(2)から理解できるように、評価対象マッチ度Mが取り得る最小値は、近傍候補データの個数が多くなるほど小さくなる。このため、評価対象マッチ度Mが所定値の場合、当該所定値が評価対象マッチ度Mが取り得る最小値なのか(評価対象データと全ての近傍候補データとのマッチ度が、評価対象マッチ度Mと同じなのか)、当該最小値よりもかなり大きい値なのか(評価対象データとのマッチ度が、評価対象マッチ度Mと同じ近傍候補データが少ないのか)を識別できない。
【0080】
例えば、近傍候補データの個数Nが2個の場合、評価対象マッチ度Mが取り得る最小値は、約0.333(1/3)となる。また、近傍候補データの個数が26個の場合、評価対象マッチ度Mが取り得る最小値は、約0.037(1/27)となる。評価対象マッチ度Mが0.34の場合、近傍候補データの個数Nが2個であれは、評価対象データと全ての近傍候補データとのマッチ度が、評価対象マッチ度Mとほぼ同じであるといえるが、近傍候補データの個数Nが26個であれば、評価対象データと全ての近傍候補データとのマッチ度が、評価対象マッチ度Mとほぼ同じであるとはいえない。したがって、評価対象マッチ度Mを用いるだけでは、評価対象データと全ての近傍候補データとのマッチ度が、評価対象マッチ度Mとほぼ同じであるか否かを判定できないおそれがある。
【0081】
そこで、評価対象データと全ての近傍候補データとのマッチ度が、評価対象マッチ度Mとほぼ同じであるか否かを判定できるようにするために、上記式(3)に基づいてスコア値Cを算出する。スコア値Cは、評価対象マッチ度Mが取り得る最小値が0、評価対象マッチ度Mが取り得る最大値が1.0になるように算出される。例えば、図11に示すように、近傍候補データの個数Nが2個の場合、評価対象マッチ度Mが取り得る最小値は約0.333になるが、スコア値Cは、評価対象マッチ度Mが約0.333のときに、0になり、評価対象マッチ度Mが1のときに、1になるように算出される。近傍候補データの個数Nが26個の場合も2個の場合と同様に、スコア値Cは、評価対象マッチ度Mが約0.037のときに、0になり、評価対象マッチ度Mが1のときに、1になるように算出される。評価対象マッチ度Mが同じ0.34であっても、近傍候補データの個数Nが2個の場合、スコア値Cは、0.010になり、近傍候補データの個数Nが26個の場合、スコア値Cは、0.315になる。このように、評価対象マッチ度Mのみの比較では差が出ない場合でも、スコア値Cを求めることによって、差を出すことができる。
【0082】
スコア値Cが1に近い評価対象データにおいては、評価対象データとのマッチ度の高い近傍候補データが存在しない。このため、移動ロボット10の姿勢が評価対象データで規定される姿勢となったとき、制御部15は、自己位置推定と真姿勢の誤差を認識しやすく、自己位置推定位置を真姿勢に対応する真値に戻しやすい(自己位置推定結果を修正しやすい)。逆に、スコア値Cが0に近い評価対象データにおいては、評価対象データとのマッチ度が高い近傍候補データが多く存在し、移動ロボット10の姿勢が評価対象データで規定される姿勢になったとき、制御部15は、自己位置推定と真姿勢の誤差を認識しにくく、自己位置推定位置を真姿勢に対応する真値に戻しにくい(自己位置推定結果を修正しにくい)。つまり、スコア値Cが1に近い場合、移動ロボット10の姿勢が評価対象データで規定される姿勢になったときの自己位置推定が破綻しにくく、スコア値Cが0に近い場合、移動ロボット10の姿勢が評価対象データで規定される姿勢になったときの自己位置推定が破綻しやすい。
【0083】
次に、評価対象選択部223は、全ての評価データについてスコア値Cを算出したか否かを判定する(ステップS9)。評価対象選択部223は、全ての評価データについてスコア値Cを算出していないと判定した場合(ステップS9:NO)、ステップS3の処理を行い、評価対象データとして選択されていない評価データの中から、1つの評価データを評価対象データとして選択する。一方、評価対象選択部223で全ての評価データについてスコア値Cを算出したと判定した場合(ステップS9:YES)、表示変換部24は、表示用地図17の表示処理を行う(ステップS10)。
【0084】
表示用地図17の表示処理について、図12および図13を用いて説明する。図12は、本実施の形態における表示用地図の表示処理を示すフローチャートである。図13は、本実施の形態における表示用地図の一例を示す模式図である。
【0085】
表示変換部24は、地図上の各格子上での自己位置推定の破綻のしやすさを可視化した表示用地図17を表示部25に表示させる。まず、図12に示すように、表示変換部24は、移動ロボット10の走行環境地図16および演算部22で算出されたスコア値を取得する(ステップS31)。
【0086】
次に、表示変換部24は、走行環境地図16から移動ロボット10が存在可能な格子である非障害物領域162を選択する(ステップS32)。非障害物領域162には、演算部22で算出されたスコア値が紐づいた複数の評価対象データが含まれる。本実施の形態では、1個の非障害物領域162には、4個の評価対象データが含まれる。
【0087】
次に、表示変換部24は、非障害物領域162に含まれる評価対象データのスコア値のうち、最小のスコア値を抽出する(ステップS33)。
【0088】
次に、表示変換部24は、ステップS33で抽出した最小スコア値を対応する色濃度に変換し、最小スコア値に対応する色を算出する(ステップS34)。色濃度は、例えば最小スコア値の実数値や定数倍などに基づいて、予め決定されたスコア値と色濃度との対応関係に照らして決定される。
【0089】
次に、表示変換部24は、ステップS34で算出された色を用いて、図13に示すような、走行環境地図16を着色した表示用地図17を生成する(ステップS35)。
【0090】
次に、表示部25は、ステップS35で生成された表示用地図17を表示する(ステップS36)。
【0091】
表示用地図17は、例えば、走行環境地図16を自己位置推定の破綻のしやすさを表した色を着色することにより生成される。表示変換部24は、非障害物領域162ごとの最小スコア値に基づいた色で、走行環境地図16の非障害物領域162を着色する。このような着色によって、ユーザが自己位置推定の破綻のしやすさを視覚的に判断することができるようになる。
【0092】
表示用地図17は、自己位置推定の破綻のしやすさを、破綻しやすいほど色濃度が濃くなる、あるいは薄くなるという比例関係に基づいて着色されることが望ましい。このことで、ユーザが自己位置推定の破綻のしやすさを視覚的に判断しやすい形態で、表示用地図17を表示させることができる。図13では、自己位置推定が破綻しやすいほど、色が濃くなるように表示される例を示している。
【0093】
表示用地図17は、移動ロボット10が存在不可能な格子である障害物領域161を、非障害物領域162と区別可能に着色することが望ましい。図13では、障害物領域161が黒く着色されるように表示される例を示している。
【0094】
表示用地図17は、着色対象の非障害物領域162のサイズが、走行環境地図16の有する格子のサイズと等しくなくても良い。すなわち、複数の非障害物領域162が一括して一色で着色されても良い。例えば、複数の非障害物領域162のスコア値の平均値を算出し、平均値に基づいた色で複数の非障害物領域162が一色に着色されても良い。走行環境地図16では格子のサイズを細かく設定することで、より精度の高い評価を行うことができる一方で、表示用地図17の格子のサイズを前者と比較して大きく設定することで、表示のための処理を低減させることができる。
【0095】
以上の実施の形態によれば、移動ロボット10の自律移動の容易さを、移動ロボット10を実走行させることなく、評価することができる。また、移動ロボット10を走行させたいあらゆる環境において、走行環境地図16を作成するだけで簡易に評価を行うことができる。
【0096】
演算部22は、算出した第1の仮想計測値および第2の仮想計測値を演算記憶部23に記憶して保持するのが良い。全ての評価データとこれに対する近傍候補データを演算すると、再計算を行うことで膨大な時間がかかる。しかし、第1の仮想計測値および第2の仮想計測値を演算記憶部23に記憶させることで、ある評価データにおける第1の仮想計測値を別の評価データにおける第2の仮想計測値として用いたり、共通する第2の仮想計測値を一度の計算で複数の評価データにおける演算で用いることができる。このことで、計算時間を短縮することができ、より簡易に自己位置推定精度評価を行うことができる。
【0097】
なお、第1の仮想計測値と第2の仮想計測値差との差を、自己位置推定結果の修正しにくさを表す評価値として算出してもよい。この場合、第1の仮想計測値と第2の仮想計測値差との差が大きいほど(評価値が大きいほど)、自己位置推定結果の修正しやすいことを表す。第1の仮想計測値および第2の仮想計測値がそれぞれ複数ずつの計測値を有するので、例えば、第1の仮想計測値および第2の仮想計測値のそれぞれの平均値の差を求めてもよい。また、評価対象データと近傍候補データとの正規化前マッチ度と、評価対象データ同士の正規化前マッチ度との差、または、評価対象データと近傍候補データとのマッチ度と評価対象データ同士のマッチ度との差を、自己位置推定結果の修正しにくさを表す評価値として算出してもよい。
【0098】
ここで、本開示の自己位置推定精度評価方法は、移動ロボット10以外にも適用可能である。例えば、ドローンなどの飛行体に対して適用できる。その場合、飛行体の姿勢として、飛行体のとりうる6つの姿勢パラメータである、X座標、Y座標、Z座標、ヨー軸角度、ロール軸角度、ピッチ軸角度の6つのデータを含むようにして、本開示の評価を行うのが良い。また、走行環境地図16は、飛行環境地図として3次元情報を含む地図とする。
【0099】
本発明を利用することにより、移動ロボットの導入における環境確認の手間を簡略化し、コスト低減を行うことができる。
【産業上の利用可能性】
【0100】
本開示の自己位置推定精度評価方法および自己位置推定精度評価装置は、移動体の自己位置の推定精度評価に利用することができる。
【符号の説明】
【0101】
10 移動ロボット
11 本体
12 駆動輪
13 準輪
14A 回転数センサ
14B レーザ測域センサ
15 制御部
16 走行環境地図
17 表示用地図
20 自己位置推定精度評価装置
21 入力部
22 演算部
23 演算記憶部
24 表示変換部
25 表示部
161 障害物領域
162 非障害物領域
162A 評価対象領域
162B 近傍領域
221 データ取得部
222 評価データ生成部
223 評価対象選択部
224 第1の仮想計測値算出部
225 近傍候補データ生成部
226 第2の仮想計測値算出部
227 マッチ度算出部
228 スコア値算出部
J1,J2,J3,J4 矢印
L レーザ光
P1 計測上限距離
P2 角度分解能
P3 計測角度
P4 計測範囲
R1 位置誤差網羅範囲
R2 角度誤差網羅範囲
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13