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特許7458033非水電解質二次電池およびこれに用いる電解液
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  • 特許-非水電解質二次電池およびこれに用いる電解液 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-21
(45)【発行日】2024-03-29
(54)【発明の名称】非水電解質二次電池およびこれに用いる電解液
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0568 20100101AFI20240322BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20240322BHJP
   H01M 10/0567 20100101ALI20240322BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20240322BHJP
   H01M 4/38 20060101ALI20240322BHJP
【FI】
H01M10/0568
H01M10/052
H01M10/0567
H01M4/36 A
H01M4/38 Z
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020569411
(86)(22)【出願日】2019-12-02
(86)【国際出願番号】 JP2019047076
(87)【国際公開番号】W WO2020158169
(87)【国際公開日】2020-08-06
【審査請求日】2022-10-07
(31)【優先権主張番号】P 2019016391
(32)【優先日】2019-01-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002745
【氏名又は名称】弁理士法人河崎特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岡崎 倫久
(72)【発明者】
【氏名】石黒 祐
(72)【発明者】
【氏名】野崎 泰子
【審査官】佐溝 茂良
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第108808092(CN,A)
【文献】特開2014-049292(JP,A)
【文献】特開2005-116398(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/0568
H01M 10/052
H01M 10/0567
H01M 4/36
H01M 4/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極、負極および電解液を有し、
前記電解液が、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミドおよび1,4-ジオキサンを含み、
前記電解液中の1,4-ジオキサンの含有量が、電解液の質量に対して0.01質量%以上5質量%以下である、非水電解質二次電池。
【請求項2】
前記電解液が、更にヘキサフルオロリン酸リチウムを含み、
前記リチウムビス(フルオロスルホニル)イミドと前記ヘキサフルオロリン酸リチウムとの合計に対する前記リチウムビス(フルオロスルホニル)イミドの割合が、5質量%以上50質量%以下である、請求項1に記載の非水電解質二次電池。
【請求項3】
前記電解液が、更にジフルオロリン酸リチウムを含み、
前記電解液の質量に対して前記ジフルオロリン酸リチウムの含有量が、2質量%以下である、請求項1または2に記載の非水電解質二次電池。
【請求項4】
前記電解液における前記リチウムビス(フルオロスルホニル)イミドと前記ヘキサフルオロリン酸リチウムとの合計の濃度が、1mol/リットル以上2mol/リットル以下である、請求項1~3のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池。
【請求項5】
前記電解液が、更にフルオロスルホン酸リチウムを含み、
前記電解液の質量に対して前記フルオロスルホン酸リチウムの含有量が、2質量%以下である、請求項1~4のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池。
【請求項6】
前記負極が、シリケート相と、前記シリケート相内に分散したシリコン粒子と、を含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池。
【請求項7】
リチウムビス(フルオロスルホニル)イミドおよび1,4-ジオキサンを含み、
1,4-ジオキサンの含有量が、電解液の質量に対して0.01質量%以上5質量%以下である、非水電解質二次電池用電解液。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として、非水電解質二次電池用電解液の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
非水電解質二次電池、特にリチウムイオン二次電池は、高電圧かつ高エネルギー密度を有するため、小型民生用途、電力貯蔵装置および電気自動車の電源として期待されている。電池の長寿命化が求められる中、電解液にリチウムビス(フルオロスルホニル)イミドを添加することが提案されている(特許文献1、2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2014/157591号
【文献】国際公開第2016/009994号
【発明の概要】
【0004】
しかし、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミドを用いると、高温で長期的に電池の充放電サイクルを繰り返すと、容量が大きく低下することがある。
【0005】
以上に鑑み、本発明の一側面は、正極、負極および電解液を有し、前記電解液が、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミドおよび1,4-ジオキサンを含む、非水電解質二次電池に関する。
【0006】
本発明の他の側面は、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミドおよび1,4-ジオキサンを含む、非水電解質二次電池用電解液に関する。
【0007】
本発明によれば、高温での長期サイクル特性に優れた非水電解質二次電池を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の一実施形態に係る非水電解質二次電池の一部を切欠いた概略斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明に係る非水電解質二次電池は、正極、負極および電解液を有し、電解液は、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド:LiN(SO2F)2および1,4-ジオキサンを含む。
【0010】
リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(以下、LFSIとも称する。)は、単独もしくは他の電解液成分とともに、正極および負極表面に、リチウムイオン伝導性に優れ、かつ電解液の分解反応を抑制する被膜(以下、LFSI被膜とも称する。)を形成する。LFSI被膜により、充放電サイクルの初期における容量維持率の低下が抑制される。
【0011】
一方、例えば40℃~60℃の高温で、長期的に電池の充放電サイクルを繰り返すと、LFSIが正極表面で過剰に反応し、LFSI被膜が不活性化して抵抗が大きくなり、容量が大きく低下することがある。
【0012】
1,4-ジオキサンは、正極表面でのLFSIの過剰反応を抑制する作用を有する。中でも、正極がリチウムとニッケルとを含む複合酸化物のようにアルカリ成分を含み得る正極材料もしくは正極活物質を含む場合、LFSIの過剰反応を抑制する効果が顕著になる。
【0013】
1,4-ジオキサンは、正極材料表面に吸着し、LFSIの正極表面での反応(例えばLFSIとアルカリ成分との反応)を阻害する保護層を形成するものと考えられる。その結果、LFSI被膜の不活性化が抑制され、容量の低下も抑制されるものと推測される。すなわち、長期的に電池の充放電サイクルを繰り返した場合の容量維持率が改善する。1,4-ジオキサンに由来する保護層は、1,4-ジオキサン中の酸素原子にリチウムイオンが配位することで、高温でも安定した構造を維持できるものと考えられる。
【0014】
電解液における1,4-ジオキサンの含有量は、電解液の質量に対して、例えば5質量%以下である。電解液に含ませる1,4-ジオキサンを5質量%以下とすることで、1,4-ジオキサン自身による正極表面の抵抗の上昇が抑制される。電解液における1,4-ジオキサンの含有量は、電解液の質量に対して2質量%以下でもよく、1.5量%以下でもよい。
【0015】
長期的に電池の充放電サイクルを繰り返す場合でも1,4-ジオキサンの効果を持続させるには、電池に注液する前の電解液もしくは使用初期の電池から回収された電解液が十分量の1,4-ジオキサンを含有していることが必要である。電池に注液する前の電解液もしくは使用初期の電池から回収された電解液は、例えば電解液の質量に対して0.01質量%以上の1,4-ジオキサンを含有していればよく、1,4-ジオキサンの含有量は0.1質量%以上でもよい。
【0016】
一方、1,4-ジオキサンは、放電サイクルを繰り返す間に、次第に消費される。よって、市場に流通する電池内に含まれる電解液を分析すると、1,4-ジオキサンのほとんどが消費されている場合もあり得る。このような場合でも、検出限界以上の1,4-ジオキサンが残存し得る。
【0017】
1,4-ジオキサンが消費されると、その結果として、少なくとも正極表面には、LFSIおよび1,4-ジオキサンに由来するLFSI被膜が形成される。仮に、電池内の電解液から1,4-ジオキサンが検出できない場合でも、少なくとも正極がその表面にLFSIおよび1,4-ジオキサンに由来する被膜を有する場合、その実施形態は本発明に包含される。
【0018】
電解液は、更にヘキサフルオロリン酸リチウム:LiPF6を含んでもよい。このとき、LFSIとLiPF6との合計に対するLFSIの割合は、例えば0.5質量%以上、50質量%以下であればよく、1質量%以上、25質量%以下でもよい。電解液にLiPF6を含ませることで、LFSI被膜の品質が向上し、長期サイクル試験における容量維持率をより顕著に向上させることができる。
【0019】
電解液は、更にジフルオロリン酸リチウム:LiPO22を含んでもよい。電解液の質量に対してジフルオロリン酸リチウムの含有量は、例えば、2質量%以下であればよく、1.5質量%以下でもよい。ジフルオロリン酸リチウムは、単独もしくは他の電解液成分とともに、正極活物質の表層に良質な被膜を形成し、電解液成分の過剰な副反応を抑制する作用を有すると考えられる。よって、ジフルオロリン酸リチウムは、電池のサイクル特性の向上に寄与する。
【0020】
LFSIとLiPF6とジフルオロリン酸リチウムとの合計に対するLFSIの割合は、例えば0.5質量%以上、50質量%以下であればよく、1質量%以上、25質量%以下でもよい。
【0021】
電解液は、更にフルオロスルホン酸リチウム:LiSO3Fを含んでもよい。電解液の質量に対してフルオロスルホン酸リチウムの含有量は、例えば、2質量%以下であればよく、1.5質量%以下でもよい。フルオロスルホン酸リチウムは、主に負極に作用し、負極の不可逆容量を低減させ得る。中でも、負極が、シリケート相とシリケート相内に分散したシリコン粒子とを含む場合、フルオロスルホン酸リチウムは、シリケート相内において、LiSiOの生成に利用される。このため、正極活物質から放出されたリチウムイオンがシリケート相で捕捉され難くなり、不可逆容量が低減される。
【0022】
電池に注液する前の電解液もしくは使用初期の電池から回収された電解液は、例えば電解液の質量に対してそれぞれ10ppm以上のジフルオロリン酸リチウムまたはフルオロスルホン酸リチウムを含有していればよく、ジフルオロリン酸リチウムまたはフルオロスルホン酸リチウムの含有量はそれぞれ100ppm以上でもよい。
【0023】
ジフルオロリン酸リチウムおよびフルオロスルホン酸リチウムは、充放電サイクルを繰り返す間に次第に消費される。よって、市場に流通する電池内に含まれる電解液を分析すると、フルオロリン酸リチウムおよび/またはフルオロスルホン酸リチウムのほとんどが消費されている場合もあり得る。このような場合でも、検出限界以上のフルオロリン酸リチウムおよび/またはフルオロスルホン酸リチウムが残存し得る。
【0024】
電解液は、既に述べたリチウム塩に加え、更に別の塩を含み得るが、リチウム塩に占めるLFSIとLiPF6との合計量の割合は、80mol%以上が好ましく、90mol%以上がより好ましい。LFSIとLiPF6との割合を上記範囲に制御することで、長期サイクル特性により優れた電池を得やすくなる。
【0025】
より具体的には、電解液におけるLFSIとLiPF6との合計の濃度は、例えば、1mol/リットル以上2mol/リットル以下であればよく、1mol/リットル以上1.5mol/リットル以下でもよい。これにより、イオン伝導性に優れ、適度の粘性を有する電解液を得ることができる。
【0026】
リチウム塩は、通常、解離してアニオンとリチウムイオンとして電解液中に存在するが、一部は、水素と結合した酸の状態で電解液中に存在してもよく、リチウム塩の状態で存在してもよい。すなわち、リチウム塩の量は、リチウム塩に由来するアニオンと、当該アニオンに水素が結合した酸と、リチウム塩との合計量として算出すればよい。
【0027】
電解液における1,4-ジオキサンおよび各種リチウム塩の含有量は、例えば、電解液をガスクロマトグラフィー質量分析(GC-MS)、核磁気共鳴(NMR)、イオンクロマトグラフィー等を用いることにより測定し得る。
【0028】
次に、本発明の実施形態に係る非水電解質二次電池について詳述する。非水電解質二次電池は、例えば、以下のような負極と、正極と、電解液とを備える。
【0029】
[負極]
負極は、例えば、負極集電体と、負極集電体の表面に形成され、かつ負極活物質を含む負極合剤層とを具備する。負極合剤層は、負極合剤を分散媒に分散させた負極スラリーを、負極集電体の表面に塗布し、乾燥させることにより形成できる。乾燥後の塗膜を、必要により圧延してもよい。負極合剤層は、負極集電体の一方の表面に形成してもよく、両方の表面に形成してもよい。
【0030】
負極合剤は、負極活物質を必須成分として含み、任意成分として、結着剤、導電剤、増粘剤などを含むことができる。負極活物質は、電気化学的にリチウムイオンを吸蔵および放出する材料を含む。電気化学的にリチウムイオンを吸蔵および放出する材料としては、炭素材料、Si含有材料などを用い得る。Si含有材料としては、シリコン酸化物(SiO:0.5≦x≦1.5)、シリケート相とシリケート相内に分散したシリコン粒子とを含有する複合材料などが挙げられる。
【0031】
炭素材料としては、黒鉛、易黒鉛化炭素(ソフトカーボン)、難黒鉛化炭素(ハードカーボン)などが例示できる。中でも、充放電の安定性に優れ、不可逆容量が少ない黒鉛が好ましい。黒鉛とは、黒鉛型結晶構造を有する材料を意味し、天然黒鉛、人造黒鉛、黒鉛化メソフェーズカーボン粒子などが含まれる。炭素材料は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0032】
負極活物質の中でも、シリケート相とシリケート相内に分散したシリコン粒子とを含有する複合材料は、シリコン粒子の含有量を任意に選択し得るため、高容量を達成しやすい。ここで、シリケート相とは、ケイ素、酸素、アルカリ金属等を含む複合酸化物相である。以下、シリケート相がケイ素、酸素およびリチウムを含むリチウムシリケート相である複合材料を「LSX」とも称する。LSX中のシリコン粒子の含有量が高いほど負極容量が大きくなる。LSXは、シリコンがリチウムと合金化することによってリチウムイオンを吸蔵する。シリコン粒子の含有量を多くすることで、高容量を期待できる。リチウムシリケート相は、好ましくは、組成式がLiSiO(0<y≦8、0.5≦z≦6)で表される。より好ましくは、組成式がLi2uSiO2+u(0<u<2)で表されるものを用いることができる。
【0033】
リチウムシリケート相内に分散しているシリコン粒子の結晶子サイズは、例えば5nm以上である。シリコン粒子は、ケイ素(Si)単体の粒子状の相を有する。シリコン粒子の結晶子サイズを5nm以上とする場合、シリコン粒子の表面積を小さく抑えることができるため、不可逆容量の生成を伴うシリコン粒子の劣化を生じにくい。シリコン粒子の結晶子サイズは、シリコン粒子のX線回折(XRD)パターンのSi(111)面に帰属される回析ピークの半値幅からシェラーの式により算出される。
【0034】
負極活物質として、LSXと炭素材料とを組み合わせて用いてもよい。LSXは、充放電に伴って体積が膨張収縮するため、負極活物質に占めるその比率が大きくなると、充放電に伴って負極活物質と負極集電体との接触不良が生じやすい。一方、LSXと炭素材料とを併用することで、シリコン粒子の高容量を負極に付与しながら優れたサイクル特性を達成することが可能になる。LSXと炭素材料との合計に占めるLSXの割合は、例えば3~30質量%が好ましい。これにより、高容量化とサイクル特性の向上を両立し易くなる。
【0035】
負極集電体としては、金属箔、メッシュ体、ネット体、パンチングシートなどが使用される。負極集電体の材質としては、ステンレス鋼、ニッケル、ニッケル合金、銅、銅合金などが例示できる。
【0036】
[正極]
正極は、例えば、正極集電体と、正極集電体の表面に形成された正極合剤層とを具備する。正極合剤層は、正極合剤を分散媒に分散させた正極スラリーを、正極集電体の表面に塗布し、乾燥させることにより形成できる。乾燥後の塗膜を、必要により圧延してもよい。正極合剤層は、正極集電体の一方の表面に形成してもよく、両方の表面に形成してもよい。
【0037】
正極合剤は、正極活物質を必須成分として含み、任意成分として、結着剤、導電剤などを含むことができる。正極活物質は、電気化学的にリチウムイオンを吸蔵および放出する材料を含む。電気化学的にリチウムイオンを吸蔵および放出する材料としては、リチウムと遷移金属とを含む岩塩型結晶構造の層状化合物、リチウムと遷移金属とを含むスピネル化合物、ポリアニオン化合物などが用いられる。中でも層状化合物が好ましい。
【0038】
層状化合物としては、LiaCoO2、LiaNiO2、LiaMnO2、LiaCobNi1-b2、LiaCob1-bc、LiaNib1-bcなどが挙げられる。中でもリチウムとニッケルとを含み、一般式:LiNi1-bで表される複合酸化物は、高容量を発現する点で好ましい。ただし、複合酸化物におけるニッケル量が多いほど、複合酸化物のアルカリ性が高くなり、LFSIとの反応性が高まる。これに対し、電解液に1,4-ジオキサンが含まれる場合、LFSIの反応が阻害されるため、LFSIの過剰反応は抑制される。
【0039】
ここで、Mは、LiおよびNi以外の金属および/または半金属であり、0.95≦a≦1.2、かつ0.6≦b≦1を満たす。aの数値は、完全放電状態の正極活物質における数値であり、充放電により増減する。より高容量を得る観点からは、上記一般式が0.8≦b≦1を満たすことが好ましく、0.9≦b<1もしくは0.9≦b≦0.98を満たすことが更に好ましい。
【0040】
Mは、特に限定されないが、Na、Mg、Sc、Y、Mn、Fe、Co、Cu、Zn、Al、Cr、Pb、SbおよびBよりなる群から選択された少なくとも1種が好ましい。Mは、例えば、Mn、Fe、Co、Cu、ZnおよびAlよりなる群から選択された少なくとも1種であればよく、中でもMn、CoおよびAlよりなる群から選択された少なくとも1種を含むことが好ましい。
【0041】
正極集電体としては、例えば金属箔が使用され、材質としては、例えば、ステンレス鋼、アルミニウム、アルミニウム合金、チタンなどが例示できる。
【0042】
各電極の結着剤としては、樹脂材料、例えば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)などのフッ素樹脂;ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂;アラミド樹脂などのポリアミド樹脂;ポリイミド、ポリアミドイミドなどのポリイミド樹脂;ポリアクリル酸、ポリアクリル酸塩(例えばポリアクリル酸リチウム)、ポリアクリル酸メチル、エチレン-アクリル酸共重合体などのアクリル樹脂;ポリアクリロニトリル、ポリ酢酸ビニルなどのビニル樹脂;ポリビニルピロリドン;ポリエーテルサルフォン;スチレン-ブタジエン共重合ゴム(SBR)などのゴム状材料などが例示できる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。中でもアクリル樹脂は、Si含有材料に対して高度な結着力を発揮する。
【0043】
なお、Si含有材料は充放電時の膨張収縮が大きいため、内部抵抗が増大し易く、サイクル特性も低下し易くなる。これに対し、結着剤にアクリル樹脂を用い、電解液にLFSIを含ませることにより、内部抵抗の増大およびサイクル特性の低下が大幅に抑制される。これは、アクリル樹脂を含む負極にLFSIを含む電解液を含ませる場合、アクリル樹脂の膨潤が抑制され、アクリル樹脂の高度な結着力が維持されるとともに、負極活物質粒子同士の間や負極活物質粒子と負極集電体との間での接触抵抗の増大が抑制されるためである。アクリル樹脂は、例えば負極活物質100質量部あたり1.5質量部以下であればよく、0.4質量部以上1.5質量部以下であってもよい。
【0044】
導電剤としては、アセチレンブラックなどのカーボンブラック類;炭素繊維や金属繊維などの導電性繊維類;フッ化カーボン;アルミニウムなどの金属粉末類;酸化亜鉛やチタン酸カリウムなどの導電性ウィスカー類;酸化チタンなどの導電性金属酸化物;フェニレン誘導体などの有機導電性材料などが例示できる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0045】
増粘剤としては、例えば、カルボキシメチルセルロース(CMC)およびその変性体(Na塩などの塩も含む)、メチルセルロースなどのセルロース誘導体(セルロースエーテルなど);ポリビニルアルコールなどの酢酸ビニルユニットを有するポリマーのケン化物;ポリエーテル(ポリエチレンオキシドなどのポリアルキレンオキサイドなど)などが挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0046】
分散媒としては、特に制限されないが、例えば、水、アルコール、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)などが例示できる。
【0047】
[電解液]
電解液は、通常、リチウム塩、溶媒および添加剤を含む。電解液には、様々な添加剤が含まれ得る。1,4-ジオキサンは溶媒もしくは添加剤に分類される。電解液において、リチウム塩と溶媒との合計量は電解液の90質量%以上、更には95質量%以上を占めることが好ましい。
【0048】
溶媒とは、環状炭酸エステル、環状カルボン酸エステル、鎖状炭酸エステルおよび鎖状カルボン酸エステルならびに25℃で液状を呈するとともに電解液中に3質量%以上含まれる電解液成分である。溶媒は、1種以上を任意の組み合わせで用いればよい。
【0049】
環状炭酸エステルとしては、プロピレンカーボネート(PC)、エチレンカーボネート(EC)、フルオロエチレンカーボネート(FEC)、ビニレンカーボネート(VC)、ビニルエチレンカーボネート(VEC)などが挙げられる。
【0050】
鎖状炭酸エステルとしては、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジメチルカーボネート(DMC)などが挙げられる。
【0051】
鎖状カルボン酸エステルとしては、ギ酸メチル、ギ酸エチル、酢酸メチル、酢酸エチル、プロピオン酸メチルなどが挙げられる。中でも酢酸メチルは、低粘度で安定性が高く、電池の低温特性を向上させ得る。電解液中の酢酸メチルの含有量は、例えば3質量%以上、20質量%以下であればよい。
【0052】
環状カルボン酸エステルとしては、γ-ブチロラクトン(GBL)、γ-バレロラクトン(GVL)などが挙げられる。
【0053】
なお、25℃で単独で固体状態を呈するポリマーは、電解液中での含有量が3質量%以上である場合にも電解液成分には含まない。このようなポリマーは、電解液をゲル化させるマトリックスとして機能する。
【0054】
添加剤としては、1,4-ジオキサンの他に、カルボン酸、アルコール、1,3-プロパンサルトン、メチルベンゼンスルホネート、シクロヘキシルベンゼン、ビフェニル、ジフェニルエーテル、フルオロベンゼンなどが挙げられる。
【0055】
電解液は、既に述べたリチウム塩に加え、更に別の塩を含み得る。別の塩としては、LiClO4、LiAlCl4、LiB10Cl10、LiBF4、LiSbF6、LiAsF6、LiCF3SO3、LiCF3CO2、LiN(CF3SO22、LiN(CF3SO2)(C49SO2)、LiN(C25SO22、LiCl、LiBr、LiIなどが挙げられる。リチウム塩は、1種以上を任意の組み合わせで用いればよい。
【0056】
[セパレータ]
正極と負極との間には、セパレータを介在させることが望ましい。セパレータは、イオン透過度が高く、適度な機械的強度および絶縁性を備えている。セパレータとしては、微多孔薄膜、織布、不織布などを用いることができる。セパレータの材質としては、ポリプロピレン、ポリエチレンなどのポリオレフィンが好ましい。
【0057】
非水電解質二次電池の構造の一例としては、正極および負極がセパレータを介して巻回されてなる電極群と、非水電解質とが外装体に収容された構造が挙げられる。巻回型の電極群の代わりに、正極および負極がセパレータを介して積層されてなる積層型の電極群など、他の形態の電極群が適用されてもよい。非水電解質二次電池は、例えば円筒型、角型、コイン型、ボタン型、ラミネート型など、いずれの形態であってもよい。
【0058】
図1は、本発明の一実施形態に係る角形の非水電解質二次電池の一部を切欠いた概略斜視図である。
【0059】
電池は、有底角形の電池ケース4と、電池ケース4内に収容された電極群1および非水電解質(図示せず)とを備えている。電極群1は、長尺帯状の負極と、長尺帯状の正極と、これらの間に介在するセパレータとを有する。電極群1は、負極、正極およびセパレータは、平板状の巻芯を中心にして捲回され、巻芯を抜き取ることにより形成される。
【0060】
負極の負極集電体には、負極リード3の一端が溶接などにより取り付けられている。正極の正極集電体には、正極リード2の一端が溶接などにより取り付けられている。負極リード3の他端は、ガスケット7を介して封口板5に設けられた負極端子6に電気的に接続される。正極リード2の他端は、正極端子を兼ねる電池ケース4に電気的に接続される。電極群1の上部には、電極群1と封口板5とを隔離するとともに負極リード3と電池ケース4とを隔離する樹脂製の枠体が配置されている。電池ケース4の開口部は、封口板5で封口される。
【0061】
非水電解質二次電池の構造は、金属製の電池ケースを具備する円筒形、コイン形、ボタン形などでもよく、バリア層と樹脂シートとの積層体であるラミネートシート製の電池ケースを具備するラミネート型電池でもよい。
【0062】
以下、本発明を実施例および比較例に基づいて具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0063】
<実施例1~3および比較例1~3>
[LSXの調製]
二酸化ケイ素と炭酸リチウムとを原子比:Si/Liが1.05となるように混合し、混合物を950℃空気中で10時間焼成することにより、式:Li2Si25(u=0.5)で表わされるリチウムシリケートを得た。得られたリチウムシリケートは平均粒径10μmになるように粉砕した。
【0064】
平均粒径10μmのリチウムシリケート(Li2Si25)と、原料シリコン(3N、平均粒径10μm)とを、45:55の質量比で混合した。混合物を遊星ボールミル(フリッチュ社製、P-5)のポット(SUS製、容積:500mL)に充填し、ポットにSUS製ボール(直径20mm)を24個入れて蓋を閉め、不活性雰囲気中で、200rpmで混合物を50時間粉砕処理した。
【0065】
次に、不活性雰囲気中で粉末状の混合物を取り出し、不活性雰囲気中、ホットプレス機による圧力を印加した状態で、800℃で4時間焼成して、混合物の焼結体(LSX)を得た。
【0066】
その後、LSXを粉砕し、40μmのメッシュに通した後、得られたLSX粒子を石炭ピッチ(JFEケミカル株式会社製、MCP250)と混合し、混合物を不活性雰囲気で、800℃で焼成し、LSX粒子の表面を導電性炭素で被覆して導電層を形成した。導電層の被覆量は、LSX粒子と導電層との総質量に対して5質量%とした。その後、篩を用いて、導電層を有する平均粒径5μmのLSX粒子を得た。
【0067】
[負極の作製]
導電層を有するLSX粒子と黒鉛とを3:97の質量比で混合し、負極活物質として用いた。負極活物質と、ポリアクリル酸リチウムと、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)とを、97.5:1:1.5の質量比で混合し、水を添加した後、混合機(プライミクス社製、T.K.ハイビスミックス)を用いて攪拌し、負極スラリーを調製した。次に、銅箔の表面に負極スラリーを塗布し、塗膜を乾燥させた後、圧延して、銅箔の両面に、密度1.5g/cm3の負極合剤層が形成された負極を作製した。
【0068】
[正極の作製]
リチウムニッケル複合酸化物(LiNi0.8Co0.18Al0.02)と、アセチレンブラックと、ポリフッ化ビニリデンとを、95:2.5:2.5の質量比で混合し、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)を添加した後、混合機(プライミクス社製、T.K.ハイビスミックス)を用いて攪拌し、正極スラリーを調製した。次に、アルミニウム箔の表面に正極スラリーを塗布し、塗膜を乾燥させた後、圧延して、アルミニウム箔の両面に、密度3.6g/cm3の正極合剤層が形成された正極を作製した。
【0069】
[非水電解液の調製]
溶媒には、エチレンカーボネート(EC)、ジメチルカーボネート(DMC)および酢酸メチル(MA)を20:70:10の体積比で含む混合溶媒を用いた。混合溶媒には、表1に示す割合でLFSIとLiPF6とを溶解させた。また、電解液に表1に示す含有量の1,4-ジオキサンを含ませるとともに、ジフルオロリン酸リチウムおよびフルオロスルホン酸リチウムをそれぞれ1質量%ずつ含ませた。
【0070】
[非水電解質二次電池の作製]
各電極にタブをそれぞれ取り付け、タブが最外周部に位置するように、セパレータを介して正極および負極を渦巻き状に巻回することにより電極群を作製した。電極群をアルミニウムラミネートフィルム製の外装体内に挿入し、105℃で2時間真空乾燥した後、非水電解液を注入し、外装体の開口部を封止して、実施例1~3の電池A1~A3と、比較例1~3の電池B1~B3を得た。
【0071】
[評価]
作製後の各電池について、25℃の環境下で、0.3It(1620mA)の電流で電圧が4.2Vになるまで定電流充電を行い、その後、4.2Vの定電圧で電流が0.05Itになるまで定電圧充電した。20分の休止の後、0.5It(2700mA)の電流で電圧が2.5Vになるまで定電流放電を行った。この充放電を2回繰り返した。
【0072】
次に、環境温度を45℃に変更したこと以外、上記と同じ充放電条件で、充放電を400サイクル繰り返した。1サイクル目の放電容量に対する400サイクル目の放電容量の割合を、容量維持率として求めた。表1には、電池A1の容量維持率を100としたときの電池A2~A3、B1~B3の容量維持率の相対値を示す。
【0073】
400サイクル後、電池を取り出して分解し、電解液の成分をガスクロマトグラフィー質量分析法(GCMS)により分析したところ、電池A1、A2の電解液中にはLiPF6が仕込み量とほぼ同量含まれ、LFSI、1,4-ジオキサン、ジフルオロリン酸リチウムおよびフルオロスルホン酸リチウムが存在することも確認された。
【0074】
電解液の分析に用いたGCMSの測定条件は以下の通りである。
【0075】
装置:島津製作所製、GC17A、GCMS-QP5050A
カラム:アジレントテクノロジー社製、HP-1(膜厚1.0μm×長さ60m)
カラム温度:50℃→110℃(5℃/min,12min hold)→250℃(5℃/min,7min hold)→300℃(10℃/min,20min hold)
スプリット比:1/50
線速度:29.2cm/s
注入口温度:270℃
注入量:0.5μL
インターフェース温度:230℃
質量範囲:m/z=50~95(SCANモード)
【0076】
【表1】
【0077】
<実施例4~6>
ジフルオロリン酸リチウムおよびフルオロスルホン酸リチウムの量を表1に示すように変化させたこと以外、実施例1と同様に電解液を調製し、実施例4~6の電池A4~A6を作製し、上記と同様に評価した。400サイクル後の電池から取り出した電解液の成分をガスクロマトグラフィー質量分析法(GCMS)において、実施例4,5ではフルオロスルホン酸リチウムが検出されず、実施例6ではジフルオロリン酸リチウムが検出されなかったが、その他は実施例1と概ね同じ結果であった。表2に、電池A1の容量維持率を100としたときの電池A4~A6の容量維持率の相対値を示す。
【0078】
【表2】
【0079】
<比較例4>
電解液の調製において、LFSIを用いず、その代わりに、リチウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド(LTFSI)を用いたこと以外、実施例1と同様に比較例4の電池B4を作製し、上記と同じ充放電条件で充放電回数を100サイクル繰り返した。1サイクル目の放電容量に対する100サイクル目の放電容量の割合を、容量維持率として求めた。表3に、電池A1の100サイクル目の容量維持率を100としたときの電池B4の容量維持率の相対値を示す。
【0080】
<実施例7>
負極の作製において、LSXを用いず、黒鉛と、カルボキシメチルセルロースと、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)とを、97.5:1:1.5の質量比で混合して負極スラリーを調製したこと以外、実施例1と同様に実施例7の電池A7を作製し、比較例4と同様に100サイクル目の容量維持率を評価した。表3に、電池A1の100サイクル目の容量維持率を100としたときの電池A7の容量維持率の相対値を示す。
【0081】
【表3】
【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明によれば、高温での長期サイクル特性に優れた非水電解質二次電池を提供することができる。本発明に係る非水電解質二次電池は、移動体通信機器、携帯電子機器などの主電源に有用である。
【符号の説明】
【0083】
1 電極群
2 正極リード
3 負極リード
4 電池ケース
5 封口板
6 負極端子
7 ガスケット
図1