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  • 特許-非水電解質二次電池 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-21
(45)【発行日】2024-03-29
(54)【発明の名称】非水電解質二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/58 20100101AFI20240322BHJP
   H01M 4/587 20100101ALI20240322BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20240322BHJP
   H01M 4/133 20100101ALI20240322BHJP
   H01M 4/134 20100101ALI20240322BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20240322BHJP
   H01M 4/38 20060101ALI20240322BHJP
   H01M 4/48 20100101ALI20240322BHJP
   H01M 10/0568 20100101ALI20240322BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20240322BHJP
【FI】
H01M4/58
H01M4/587
H01M4/62 Z
H01M4/133
H01M4/134
H01M4/36 A
H01M4/36 E
H01M4/38 Z
H01M4/48
H01M10/0568
H01M10/052
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021508880
(86)(22)【出願日】2020-03-02
(86)【国際出願番号】 JP2020008645
(87)【国際公開番号】W WO2020195575
(87)【国際公開日】2020-10-01
【審査請求日】2023-01-11
(31)【優先権主張番号】P 2019063662
(32)【優先日】2019-03-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002745
【氏名又は名称】弁理士法人河崎特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】奥野 幸穂
(72)【発明者】
【氏名】福岡 隆弘
(72)【発明者】
【氏名】石黒 祐
(72)【発明者】
【氏名】曽我 正寛
【審査官】佐宗 千春
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/085911(WO,A1)
【文献】特開2019-040701(JP,A)
【文献】特開2018-092785(JP,A)
【文献】特開2016-110876(JP,A)
【文献】特表2018-503234(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第106207122(CN,A)
【文献】韓国公開特許第10-2015-0109057(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00-4/62
10/05-01/0587
10/36-10/39
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極と、負極と、非水電解質と、を備え、
前記負極は、シリコン含有材料および炭素材料を含む負極活物質と、カーボンナノチューブとを含む負極合剤を備え、
前記シリコン含有材料は、第1複合材料および第2複合材料のうち少なくとも前記第1複合材料を含み、
前記第1複合材料は、リチウムイオン導電相と、前記リチウムイオン導電相内に分散しているシリコン粒子とを備え、前記リチウムイオン導電相は、シリケート相および/または炭素相を含み、前記シリケート相は、アルカリ金属元素および第2族元素よりなる群から選択される少なくとも1種を含み、
前記第2複合材料は、SiO相と、前記SiO相内に分散しているシリコン粒子とを備え、
前記第1複合材料と前記第2複合材料との合計に対する前記第1複合材料の質量比Xと、前記第1複合材料と前記第2複合材料と前記炭素材料との合計に対する前記第1複合材料と前記第2複合材料との合計の質量比Yとが、関係式(1):
100Y-32.2X+65.479X-55.832X+18.116X-6.9275X-3.5356<0、
X≦1、かつ、0.06≦Y
を満たし、
前記非水電解質は、六フッ化リン酸リチウムと、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド:LFSIとを含む、非水電解質二次電池。
【請求項2】
前記質量比Xと前記質量比Yとが、関係式(2):
100Y-2.1551×exp(1.3289X)<0、
X≦1、かつ、0.06≦Y
を満たす、請求項1に記載の非水電解質二次電池。
【請求項3】
前記炭素材料は、黒鉛を含む、請求項1または2に記載の非水電解質二次電池。
【請求項4】
前記負極合剤中の前記カーボンナノチューブの含有量は、前記負極合剤の全体に対して、0.1質量%以上、0.5質量%以下である、請求項1~3のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池。
【請求項5】
前記非水電解質中の前記LFSIの濃度が、0.2mol/L以上である、請求項1~4のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池。
【請求項6】
前記非水電解質中の前記LFSIの濃度が、0.2mol/L以上、0.4mol/L以下である、請求項1~4のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコン含有材料を負極活物質に用いた非水電解質二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池に代表される非水電解質二次電池は、正極と、負極と、非水電解質とを備える。負極は、電気化学的にリチウムイオンを吸蔵および放出可能な負極活物質を含む負極合剤を備える。負極活物質に、高容量のシリコン含有材料を用いることが検討されている。
【0003】
特許文献1では、Li2uSiO2+u(0<u<2)で表されるリチウムシリケート相と、リチウムシリケート相内に分散しているシリコン粒子と、を備えるシリコン含有材料を負極活物質に用いることが提案されている。
【0004】
また、導電剤の検討も行われており、特許文献2では、負極の導電剤として、表面に金属リチウムを含む被覆層が形成されたカーボンナノチューブ(CNT)を用いることが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2016/035290号パンフレット
【文献】特開2015-138633号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
負極合剤にシリコン粒子を含むシリコン含有材料とCNTとを含ませることが考えられる。充放電時のシリコン粒子の膨張収縮に伴い、シリコン粒子が割れたり、シリコン粒子の収縮に伴いシリコン粒子の周囲に隙間が形成されたりするため、シリコン粒子の孤立化が生じ易い。サイクルの初期では、シリコン粒子が孤立化しても、CNTにより導電パスが確保され、容量が維持される。
【0007】
しかし、シリコン粒子は、孤立化に伴い活性面が露出し易く、活性面と非水電解質とが接触して副反応を生じることがある。CNTを含む場合、副反応が生じ易くなり、サイクルの中期以降では、副反応に伴う複合材料の浸食劣化が進み、容量が低下し易い。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以上に鑑み、本発明の一側面は、正極と、負極と、非水電解質と、を備え、前記負極は、シリコン含有材料および炭素材料を含む負極活物質と、カーボンナノチューブとを含む負極合剤を備え、前記シリコン含有材料は、第1複合材料および第2複合材料のうち少なくとも前記第1複合材料を含み、前記第1複合材料は、リチウムイオン導電相と、前記リチウムイオン導電相内に分散しているシリコン粒子とを備え、前記リチウムイオン導電相は、シリケート相および/または炭素相を含み、前記シリケート相は、アルカリ金属元素および第2族元素よりなる群から選択される少なくとも1種を含み、前記第2複合材料は、SiO相と、前記SiO相内に分散しているシリコン粒子とを備え、前記第1複合材料と前記第2複合材料との合計に対する前記第1複合材料の質量比Xと、前記第1複合材料と前記第2複合材料と前記炭素材料との合計に対する前記第1複合材料と前記第2複合材料との合計の質量比Yとが、関係式(1):
100Y-32.2X+65.479X-55.832X+18.116X-6.9275X-3.5356<0、X≦1、かつ、0.06≦Y
を満たし、前記非水電解質は、六フッ化リン酸リチウムと、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド:LFSIとを含む、非水電解質二次電池に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、シリコン含有材料を含む負極を備える非水電解質二次電池のサイクル特性を高めることができる。
本発明の新規な特徴を添付の請求の範囲に記述するが、本発明は、構成および内容の両方に関し、本発明の他の目的および特徴と併せ、図面を照合した以下の詳細な説明によりさらによく理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の一実施形態に係る非水電解質二次電池の一部を切欠いた概略斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の一実施形態に係る非水電解質二次電池は、正極と負極と非水電解質とを備える。負極は、電気化学的にリチウムイオンを吸蔵および放出可能な負極活物質と、カーボンナノチューブ(以下、CNTと称する。)と、を含む負極合剤を備える。負極活物質は、シリコン含有材料および炭素材料を含む。
【0012】
シリコン含有材料は、第1複合材料および第2複合材料のうち少なくとも第1複合材料を含む。第1複合材料により高容量が得られる。第1複合材料は、リチウムイオン導電相と、リチウムイオン導電相内に分散しているシリコン粒子とを備え、リチウムイオン導電相は、シリケート相および/または炭素相を含む。シリケート相は、アルカリ金属元素および第2族元素よりなる群から選択される少なくとも1種を含む。
【0013】
第2複合材料は、SiO相と、SiO相内に分散しているシリコン粒子とを備える。第1複合材料のシリコン粒子は、第2複合材料のシリコン粒子よりも、平均粒径が大きく、充放電時の膨張収縮に伴い孤立化し易い。
【0014】
第1複合材料と第2複合材料との合計に対する第1複合材料の質量比Xと、第1複合材料と第2複合材料と炭素材料との合計に対する第1複合材料と第2複合材料との合計の質量比Yとが、以下の関係式(1)を満たす。
100Y-32.2X+65.479X-55.832X+18.116X-6.9275X-3.5356<0、X≦1、かつ、0.06≦Y (1)
【0015】
非水電解質は、六フッ化リン酸リチウム(LiPF)と、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiN(SOF))(以下、LFSIと称する。)とを含む。LiPF6を用いることで、電位窓が広く、電気伝導度が高い非水電解質が得られる。また、正極集電体等の電池構成部材の表面に不動態膜が形成され易く、正極集電体等の腐食が抑制される。
【0016】
第1複合材料を含む負極合剤にCNTを含ませると、孤立化したシリコン粒子の導電パスが確保される反面、シリコン粒子(活性面)と非水電解質との副反応に伴う第1複合材料の浸食劣化が進み易くなる。上記の副反応は、非水電解質に含まれるLiPFと、電池内に含まれる微量の水分との反応により生成するフッ化水素が関与しており、CNTはLiPFと水との反応を促進する。
【0017】
これに対して、本発明では、非水電解質にリチウム塩としてLiPFとともにLFSIを含ませている。LFSIは、水と接触してもフッ化水素を生成し難く、第1複合材料の粒子表面に良質な被膜(SEI:Solid Electrolyte Interface)を形成し得る。LFSIの使用によりLiPFの濃度を小さくできる。非水電解質中のLiPFの一部をLFSIに置き換えても、電位窓が広く、電気伝導度が高い非水電解質を維持することができる。LFSIの使用により、第1複合材料およびCNTを含む負極合剤を用いる場合に、上記の副反応に伴う第1複合材料の浸食劣化を抑制することができ、サイクルの中期以降において高容量を維持することができる。
【0018】
シリコン含有材料は、更に第2複合材料を含んでもよい。ただし、高容量化およびサイクル特性の向上の観点から、質量比Xについて、関係式(1)を満たす必要がある。第2複合材料は、第1複合材料と比べて、容量が小さいが、充電時の膨張が小さいという面で有利である。
【0019】
負極活物質についてシリコン含有材料と炭素材料とを併用することにより、安定したサイクル特性を得ることができる。ただし、サイクル特性の向上の観点から、質量比Yについて、関係式(1)を満たす必要がある。Yが0.06以上である場合、シリコン含有材料による高容量化の効果が十分に得られる。Yは、0.06以上、0.14以下であることが好ましい。この場合、高容量化とサイクル特性の向上とを同時に実現し易い。
【0020】
中期以降のサイクル特性の更なる向上の観点から、質量比Xと質量比Yとが、以下の関係式(2)を満たすことが好ましい。
100Y-2.1551×exp(1.3289X)<0、X≦1、かつ、0.06≦Y (2)
【0021】
(CNT)
導電剤にCNTを用いる場合、孤立化したシリコン粒子の導電パスを確保する効果が顕著に得られる。CNTは繊維状であるため、アセチレンブラック等の球状の導電粒子よりも、孤立化したシリコン粒子およびその周囲の負極活物質と接点を確保し易く、孤立化したシリコン粒子とその周囲の負極活物質との間に導電パスを形成し易い。
【0022】
孤立化したシリコン粒子の導電パス確保の観点から、CNTの平均長さは、好ましくは1μm以上、100μm以下であり、より好ましくは5μm以上、20μm以下である。同様に、CNTの平均径は、好ましくは1.5nm以上、50nm以下であり、より好ましくは1.5nm以上、20nm以下である。
【0023】
CNTの平均長さおよび平均径は、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いた画像解析により求められる。具体的には、複数本(例えば100~1000本程度)のCNTを任意に選出して長さおよび径を測定し、それらを平均して求められる。なお、CNTの長さとは、直線状としたときの長さを指す。
【0024】
孤立化したシリコン粒子の導電パス確保および第1複合材料の浸食劣化の抑制の観点から、負極合剤中のCNTの含有量は、負極合剤の全体に対して、0.1質量%以上、0.5質量%以下でもよく、0.1質量%以上、0.4質量%以下でもよい。負極合剤中のCNTの含有量が負極合剤の全体に対して0.1質量%以上である場合、サイクル特性が向上し易い。負極合剤中のCNTの含有量が負極合剤の全体に対して0.5質量%以下である場合、第1複合材料の浸食劣化が抑制され易い。CNTの分析方法としては、例えば、ラマン分光法や熱重量分析法等が挙げられる。
【0025】
(非水電解質)
非水電解質は、非水溶媒に溶解するリチウム塩として、LiPF6およびLFSIを含む。中期以降のサイクル特性の向上の観点から、非水電解質中のLFSIの濃度は、0.2mol/L以上が好ましく、0.2mol/L以上、1.1mol/L以下がより好ましく、0.2mol/L以上、0.4mol/L以下が更に好ましい。LiPF6による効果が十分に得られる観点から、非水電解質中のLiPF6の濃度は、0.3mol/L以上が好ましい。第1複合材料の浸食劣化抑制の観点から、非水電解質中のLiPF6の濃度は1.3mol/L以下であることが好ましい。LFSIとLiPF6との併用による効果が十分に得られる観点から、非水電解質中のLFSIおよびLiPF6の合計濃度は、1mol/L以上、2mol/L以下であることが好ましい。
【0026】
LFSIによる効果とLiPF6による効果とがバランス良く得られる観点から、リチウム塩において、LFSIとLiPF6との合計に占めるLFSIの割合は、好ましくは5mol%以上、90mol%以下であり、より好ましくは10mol%以上、30mol%以下である。リチウム塩は、LFSIおよびLiPF6に加え、更に別のリチウム塩を含み得るが、リチウム塩に占めるLFSIとLiPF6との合計量の割合は、80mol%以上が好ましく、90mol%以上がより好ましい。リチウム塩に占めるLFSIとLiPF6との合計量の割合を上記範囲に制御することで、サイクル特性に優れた電池を得易くなる。非水電解質中のリチウム塩(LFSIおよびLiPF)の分析法としては、例えば、核磁気共鳴(NMR)、イオンクロマトグラフィー(IC)、ガスクロマトグラフィー(GC)等が用いられる。
【0027】
(負極活物質)
負極活物質は、電気化学的にリチウムイオンを吸蔵および放出可能なシリコン含有材料を含む。シリコン含有材料は、電池の高容量化に有利である。シリコン含有材料は、少なくとも第1複合材料を含む。
【0028】
(第1複合材料)
第1複合材料は、リチウムイオン導電相と、リチウムイオン導電相内に分散しているシリコン粒子とを備え、リチウムイオン導電相は、シリケート相および/または炭素相を含む。シリケート相は、アルカリ金属元素および第2族元素よりなる群から選択される少なくとも1種を含む。すなわち、第1複合材料は、シリケート相と、シリケート相内に分散しているシリコン粒子とを含む複合材料(以下、LSX材料とも称する。)、および、炭素相と、炭素相内に分散しているシリコン粒子とを含む複合材料(以下、Si-C材料とも称する。)の少なくとも一方を含む。リチウムイオン導電相に分散するシリコン粒子量の制御により高容量化が可能となる。充放電時のシリコン粒子の膨張収縮に伴い生じる応力がリチウムイオン導電相により緩和される。よって、第1複合材料は、電池の高容量化およびサイクル特性の向上に対して有利である。ただし、リチウムと反応し得るサイトが少なく、初期の充放電効率が高いことから、炭素相よりもシリケート相がリチウムイオン導電相として優れている。
【0029】
高容量化の観点から、シリコン粒子の平均粒径は、初回充電前において、通常50nm以上であり、好ましくは100nm以上である。LSX材料は、例えば、シリケートと原料シリコンとの混合物を、ボールミル等の粉砕装置を用いて粉砕処理し、微粒子化した後、不活性雰囲気中で熱処理することにより作製することができる。粉砕装置を用いずに、シリケートの微粒子と原料シリコンの微粒子とを合成し、これらの混合物を不活性雰囲気中で熱処理して、LSX材料を作製してもよい。上記において、シリケートと原料シリコンとの配合比や原料シリコンの粒子サイズを調節することで、シリケート相内に分散させるシリコン粒子の量やサイズを制御することができ、高容量化し易い。
【0030】
また、シリコン粒子自身の亀裂を抑制する観点から、シリコン粒子の平均粒径は、初回充電前において、500nm以下が好ましく、200nm以下がより好ましい。初回充電後においては、シリコン粒子の平均粒径は、400nm以下が好ましい。シリコン粒子を微細化することにより、充放電時の体積変化が小さくなり、第1複合材料の構造安定性が更に向上する。
【0031】
シリコン粒子の平均粒径は、走査型電子顕微鏡(SEM)により得られた第1複合材料断面の画像を用いて測定される。具体的には、シリコン粒子の平均粒径は、任意の100個のシリコン粒子の最大径を平均して求められる。
【0032】
リチウムイオン導電相内に分散しているシリコン粒子は、ケイ素(Si)単体の粒子状の相を有し、単独または複数の結晶子で構成される。シリコン粒子の結晶子サイズは、30nm以下であることが好ましい。シリコン粒子の結晶子サイズが30nm以下である場合、充放電に伴うシリコン粒子の膨張収縮による体積変化量を小さくでき、サイクル特性が更に高められる。例えば、シリコン粒子の収縮時にシリコン粒子の周囲に空隙が形成されて当該粒子の周囲との接点が減少することによる当該粒子の孤立が抑制され、当該粒子の孤立による充放電効率の低下が抑制される。シリコン粒子の結晶子サイズの下限値は、特に限定されないが、例えば5nm以上である。
【0033】
また、シリコン粒子の結晶子サイズは、より好ましくは10nm以上、30nm以下であり、更に好ましくは15nm以上、25nm以下である。シリコン粒子の結晶子サイズが10nm以上である場合、シリコン粒子の表面積を小さく抑えることができるため、不可逆容量の生成を伴うシリコン粒子の劣化を生じ難い。
シリコン粒子の結晶子サイズは、シリコン粒子のX線回折(XRD)パターンのSi(111)面に帰属される回析ピークの半値幅からシェラーの式により算出される。
【0034】
高容量化の観点から、第1複合材料中のシリコン粒子の含有量は、好ましくは30質量%以上であり、より好ましくは35質量%以上であり、更に好ましくは55質量%以上である。この場合、リチウムイオンの拡散性が良好であり、優れた負荷特性を得易くなる。一方、サイクル特性の向上の観点からは、第1複合材料中のシリコン粒子の含有量は、好ましくは95質量%以下であり、より好ましくは75質量%以下であり、更に好ましくは70質量%以下である。この場合、リチウムイオン導電相で覆われずに露出するシリコン粒子の表面が減少し、電解液とシリコン粒子との反応が抑制され易い。
【0035】
シリコン粒子の含有量は、Si-NMRにより測定することができる。以下、Si-NMRの望ましい測定条件を示す。
測定装置:バリアン社製、固体核磁気共鳴スペクトル測定装置(INOVA‐400)
プローブ:Varian 7mm CPMAS-2
MAS:4.2kHz
MAS速度:4kHz
パルス:DD(45°パルス+シグナル取込時間1Hデカップル)
繰り返し時間:1200sec
観測幅:100kHz
観測中心:-100ppm付近
シグナル取込時間:0.05sec
積算回数:560
試料量:207.6mg
【0036】
シリケート相は、アルカリ金属元素(長周期型周期表の水素以外の第1族元素)および長周期型周期表の第2族元素の少なくとも一方を含む。アルカリ金属元素は、リチウム(Li)、カリウム(K)、ナトリウム(Na)等を含む。第2族元素は、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、バリウム(Ba)等を含む。中でも、不可逆容量が小さく、初期の充放電効率が高いことから、リチウムを含むシリケート相(以下、リチウムシリケート相とも称する。)が好ましい。すなわち、LSX材料は、リチウムシリケート相と、リチウムシリケート相内に分散しているシリコン粒子とを含む複合材料が好ましい。
【0037】
シリケート相は、例えば、リチウム(Li)と、ケイ素(Si)と、酸素(O)とを含むリチウムシリケート相(酸化物相)である。リチウムシリケート相におけるSiに対するOの原子比:O/Siは、例えば、2超4未満である。O/Siが2超4未満(後述の式中のzが0<z<2)の場合、安定性やリチウムイオン伝導性の面で有利である。好ましくは、O/Siが2超3未満(後述の式中のzが0<z<1)である。リチウムシリケート相におけるSiに対するLiの原子比:Li/Siは、例えば、0超4未満である。リチウムシリケート相は、Li、SiおよびO以外に、鉄(Fe)、クロム(Cr)、ニッケル(Ni)、マンガン(Mn)、銅(Cu)、モリブデン(Mo)、亜鉛(Zn)、アルミニウム(Al)等の他の元素を微量含んでもよい。
【0038】
リチウムシリケート相は、式:Li2zSiO2+z(0<z<2)で表される組成を有し得る。安定性、作製容易性、リチウムイオン伝導性等の観点から、zは、0<z<1の関係を満たすことが好ましく、z=1/2がより好ましい。
【0039】
LSXのリチウムシリケート相は、SiOのSiO相に比べ、リチウムと反応し得るサイトが少ない。よって、LSXはSiOと比べて充放電に伴う不可逆容量を生じ難い。リチウムシリケート相内にシリコン粒子を分散させる場合、充放電の初期に、優れた充放電効率が得られる。また、シリコン粒子の含有量を任意に変化させることができるため、高容量の負極を設計することができる。
【0040】
第1複合材料のシリケート相の組成は、例えば、以下の方法により分析することができる。
電池を分解し、負極を取り出し、エチレンカーボネート等の非水溶媒で洗浄し、乾燥した後、クロスセクションポリッシャー(CP)により負極合剤層の断面加工を行い、試料を得る。電界放射型走査型電子顕微鏡(FE-SEM)を用いて、試料断面の反射電子像を得、第1複合材料の断面を観察する。オージェ電子分光(AES)分析装置を用いて、観察された第1複合材料のシリケート相について元素の定性定量分析を行う(加速電圧10kV、ビーム電流10nA)。例えば、得られたリチウム(Li)、シリコン(Si)、酸素(O)、他の元素の含有量に基づいて、リチウムシリケート相の組成を求める。
【0041】
なお、第1複合材料と第2複合材料との区別は試料断面において区別が可能である。通常、第1複合材料中のシリコン粒子の平均粒子径は、第2複合材料中のシリコン粒子の平均粒子径よりも大きく、粒子径の観察により、両者を容易に区別可能である。
上記の試料の断面観察や分析では、Liの拡散を防ぐため、試料の固定にはカーボン試料台を用いればよい。試料断面を変質させないため、試料を大気に曝すことなく保持搬送するトランスファーベッセルを使用すればよい。
【0042】
炭素相は、例えば、結晶性の低い無定形炭素(すなわちアモルファス炭素)で構成され得る。無定形炭素は、例えばハードカーボンでもよく、ソフトカーボンでもよく、それ以外でもよい。無定形炭素は、例えば、炭素源を不活性雰囲気下で焼結し、得られた焼結体を粉砕すれば得ることができる。Si-C材料は、例えば、炭素源と原料シリコンとを混合し、ボールミル等の攪拌機で混合物を破砕しながら攪拌し、その後、混合物を不活性雰囲気中で焼成すれば得ることができる。炭素源としては、例えば、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ポリビニルピロリドン、セルロース、スクロース等の糖類や水溶性樹脂等を用いてもよい。炭素源と原料シリコンとを混合する際には、例えば、炭素源と原料シリコンをアルコールなどの分散媒中に分散させてもよい。上記において、炭素源と原料シリコンとの配合比や原料シリコンの粒子サイズを調節することで、炭素相内に分散させるシリコン粒子の量やサイズを制御することができ、高容量化し易い。
【0043】
第1複合材料は、平均粒径1~25μm、更には4~15μmの粒子状材料(以下、第1粒子とも称する。)を形成していることが好ましい。上記粒径範囲では、充放電に伴う第1複合材料の体積変化による応力を緩和し易く、良好なサイクル特性を得易くなる。第1粒子の表面積も適度になり、電解液との副反応による容量低下も抑制される。
【0044】
第1粒子の平均粒径とは、レーザー回折散乱法で測定される粒度分布において、体積積算値が50%となる粒径(体積平均粒径)を意味する。測定装置には、例えば、株式会社堀場製作所(HORIBA)製「LA-750」を用いることができる。
【0045】
第1粒子は、その表面の少なくとも一部を被覆する導電性材料を備えてもよい。シリケート相は、電子伝導性に乏しいため、第1粒子の導電性も低くなりがちである。導電性材料で第1粒子の表面を被覆することで、導電性を飛躍的に高めることができる。導電層は、実質上、第1粒子の平均粒径に影響しない程度に薄いことが好ましい。
【0046】
(第2複合材料)
シリコン含有材料は、SiO相と、SiO相内に分散しているシリコン粒子と、を備える第2複合材料を更に含んでもよい。第2複合材料は、SiOで表され、xは、例えば、0.5以上、1.5以下程度である。第2複合材料は、一酸化珪素を熱処理して、不均化反応により、SiO相と、SiO相内に分散する微細なSi相(シリコン粒子)とに分離することにより得られる。第2複合材料では、第1複合材料の場合と比べてシリコン粒子が小さく、第2複合材料中のシリコン粒子の平均粒径は、例えば5nm程度である。第2複合材料では、シリコン粒子が小さいため、第1複合材料の場合と比べて、LFSIの使用によるサイクル特性の改善幅は小さい。高容量化およびサイクル特性向上の観点から、第1複合材料および第2複合材料の合計に対する第2複合材料の質量比は(1-X)を満たす。
【0047】
(炭素材料)
負極活物質は、電気化学的にリチウムイオンを吸蔵および放出可能な炭素材料を更に含んでもよい。炭素材料は、シリコン含有材料よりも充放電時の膨張収縮の度合いが小さい。シリコン含有材料と炭素材料とを併用することで、充放電の繰り返しの際、負極活物質粒子同士の間および負極合剤層と負極集電体との間の接触状態をより良好に維持することができる。すなわち、シリコン含有材料の高容量を負極に付与しながらサイクル特性を高めることができる。高容量化およびサイクル特性向上の観点から、第1複合材料と第2複合材料と炭素材料との合計に対する炭素材料の質量比は(1-Y)を満たす。なお、第1複合材料がリチウムイオン導電相として炭素相を含む場合、リチウムイオン導電相としての炭素相は、炭素材料の質量に含めない。
【0048】
負極活物質に用いられる炭素材料としては、黒鉛、易黒鉛化炭素(ソフトカーボン)、難黒鉛化炭素(ハードカーボン)等が例示できる。中でも、充放電の安定性に優れ、不可逆容量も少ない黒鉛が好ましい。黒鉛とは、黒鉛型結晶構造を有する材料を意味し、例えば、天然黒鉛、人造黒鉛、黒鉛化メソフェーズカーボン粒子等が含まれる。炭素材料は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0049】
以下、非水電解質二次電池について詳述する。
[負極]
負極は、負極集電体と、負極集電体の表面に担持された負極合剤層とを備えてもよい。負極合剤層は、負極合剤を分散媒に分散させた負極スラリーを、負極集電体の表面に塗布し、乾燥させることにより形成できる。乾燥後の塗膜を、必要により圧延してもよい。負極合剤層は、負極集電体の一方の表面に形成してもよく、両方の表面に形成してもよい。
【0050】
負極合剤は、必須成分として、負極活物質とCNTとを含む。負極合剤は、任意成分として、結着剤、CNT以外の導電剤、増粘剤等を含むことができる。
【0051】
負極集電体としては、無孔の導電性基板(金属箔等)、多孔性の導電性基板(メッシュ体、ネット体、パンチングシート等)が使用される。負極集電体の材質としては、ステンレス鋼、ニッケル、ニッケル合金、銅、銅合金等が例示できる。負極集電体の厚さは、特に限定されないが、負極の強度と軽量化とのバランスの観点から、1~50μmが好ましく、5~20μmがより望ましい。
【0052】
結着剤としては、樹脂材料、例えば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)などのフッ素樹脂;ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂;アラミド樹脂などのポリアミド樹脂;ポリイミド、ポリアミドイミドなどのポリイミド樹脂;ポリアクリル酸、ポリアクリル酸メチル、エチレン-アクリル酸共重合体などのアクリル樹脂;ポリアクリロニトリル、ポリ酢酸ビニルなどのビニル樹脂;ポリビニルピロリドン;ポリエーテルサルフォン;スチレン-ブタジエン共重合ゴム(SBR)などのゴム状材料などが例示できる。結着剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0053】
CNT以外の導電剤としては、例えば、アセチレンブラック等のカーボン類;炭素繊維や金属繊維等の導電性繊維類;フッ化カーボン;アルミニウム等の金属粉末類;酸化亜鉛やチタン酸カリウム等の導電性ウィスカー類;酸化チタン等の導電性金属酸化物;フェニレン誘導体等の有機導電性材料等が例示できる。導電剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0054】
増粘剤としては、例えば、カルボキシメチルセルロース(CMC)およびその変性体(Na塩等の塩も含む)、メチルセルロース等のセルロース誘導体(セルロースエーテル等);ポリビニルアルコール等の酢酸ビニルユニットを有するポリマーのケン化物;ポリエーテル(ポリエチレンオキシド等のポリアルキレンオキサイド等)等が挙げられる。増粘剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0055】
分散媒としては、特に制限されないが、例えば、水、エタノール等のアルコール、テトラヒドロフラン等のエーテル、ジメチルホルムアミド等のアミド、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、またはこれらの混合溶媒等が例示できる。
【0056】
[正極]
正極は、正極集電体と、正極集電体の表面に担持された正極合剤層とを備えてもよい。正極合剤層は、正極合剤を分散媒に分散させた正極スラリーを、正極集電体の表面に塗布し、乾燥させることにより形成できる。乾燥後の塗膜を、必要により圧延してもよい。正極合剤層は、正極集電体の一方の表面に形成してもよく、両方の表面に形成してもよい。正極合剤は、必須成分として、正極活物質を含み、任意成分として、結着剤、導電剤等を含むことができる。正極スラリーの分散媒としては、NMP等が用いられる。
【0057】
正極活物質としては、例えば、リチウム含有複合酸化物を用いることができる。例えば、LiCoO、LiNiO、LiMnO、LiCoNi1-b、LiCo1-b、LiNi1-b、LiMn、LiMn2-b4、LiMPO4、LiMPOF(Mは、Na、Mg、Sc、Y、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Al、Cr、Pb、Sb、Bよりなる群から選択される少なくとも1種である。)が挙げられる。ここで、a=0~1.2、b=0~0.9、c=2.0~2.3である。なお、リチウムのモル比を示すa値は、充放電により増減する。
【0058】
中でも、LiNi1-b(Mは、Mn、CoおよびAlよりなる群から選択された少なくとも1種であり、0<a≦1.2であり、0.3≦b≦1である。)で表されるリチウムニッケル複合酸化物が好ましい。高容量化の観点から、0.85≦b≦1を満たすことがより好ましい。結晶構造の安定性の観点からは、MとしてCoおよびAlを含むLiNiCoAl(0<a≦1.2、0.85≦b<1、0<c<0.15、0<d≦0.1、b+c+d=1)が更に好ましい。
【0059】
結着剤および導電剤としては、負極について例示したものと同様のものが使用できる。結着剤としては、アクリル樹脂を用いてもよい。導電剤としては、天然黒鉛、人造黒鉛等の黒鉛を用いてもよい。
【0060】
正極集電体の形状および厚みは、負極集電体に準じた形状および範囲からそれぞれ選択できる。正極集電体の材質としては、例えば、ステンレス鋼、アルミニウム、アルミニウム合金、チタン等が例示できる。
【0061】
[非水電解質]
非水電解質は、非水溶媒と、非水溶媒に溶解したリチウム塩と、を含む。リチウム塩は、少なくともLiPFおよびLFSIを含む。非水電解質中のリチウム塩の濃度は、例えば、0.5mol/L以上、2mol/L以下が好ましい。リチウム塩濃度を上記範囲とすることで、イオン伝導性に優れ、適度の粘性を有する非水電解質を得ることができる。ただし、リチウム塩濃度は上記に限定されない。
【0062】
非水電解質は、LiPFおよびLFSI以外のリチウム塩を含んでもよい。LiPFおよびLFSI以外のリチウム塩としては、例えば、LiClO、LiBF、LiAlCl、LiSbF、LiSCN、LiCFSO、LiCFCO、LiAsF、LiB10Cl10、低級脂肪族カルボン酸リチウム、LiCl、LiBr、LiI、ホウ酸塩類、イミド塩類等が挙げられる。ホウ酸塩類としては、ビス(1,2-ベンゼンジオレート(2-)-O,O’)ホウ酸リチウム、ビス(2,3-ナフタレンジオレート(2-)-O,O’)ホウ酸リチウム、ビス(2,2’-ビフェニルジオレート(2-)-O,O’)ホウ酸リチウム、ビス(5-フルオロ-2-オレート-1-ベンゼンスルホン酸-O,O’)ほう酸リチウム等が挙げられる。イミド塩類としては、ビストリフルオロメタンスルホン酸イミドリチウム(LiN(CFSO)、トリフルオロメタンスルホン酸ノナフルオロブタンスルホン酸イミドリチウム(LiN(CFSO)(CSO))、ビスペンタフルオロエタンスルホン酸イミドリチウム(LiN(CSO)等が挙げられる。
【0063】
非水溶媒としては、例えば、環状炭酸エステル、鎖状炭酸エステル、環状カルボン酸エステル、鎖状カルボン酸エステル等が用いられる。環状炭酸エステルとしては、プロピレンカーボネート(PC)、エチレンカーボネート(EC)等が挙げられる。鎖状炭酸エステルとしては、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジメチルカーボネート(DMC)等が挙げられる。環状カルボン酸エステルとしては、γ-ブチロラクトン(GBL)、γ-バレロラクトン(GVL)等が挙げられる。鎖状カルボン酸エステルとしては、ギ酸メチル、ギ酸エチル、ギ酸プロピル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸プロピル等が挙げられる。非水溶媒は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0064】
[セパレータ]
通常、正極と負極との間には、セパレータを介在させることが望ましい。セパレータは、イオン透過度が高く、適度な機械的強度および絶縁性を備えている。セパレータとしては、微多孔薄膜、織布、不織布等を用いることができる。セパレータの材質としては、ポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィンが好ましい。
【0065】
非水電解質二次電池の構造の一例としては、正極および負極がセパレータを介して巻回されてなる電極群と、非水電解質とが外装体に収容された構造が挙げられる。或いは、巻回型の電極群の代わりに、正極および負極がセパレータを介して積層されてなる積層型の電極群等、他の形態の電極群が適用されてもよい。非水電解質二次電池は、例えば円筒型、角型、コイン型、ボタン型、ラミネート型等、いずれの形態であってもよい。
【0066】
以下、本発明に係る非水電解質二次電池の一例として角形の非水電解質二次電池の構造を、図1を参照しながら説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る非水電解質二次電池の一部を切欠いた概略斜視図である。
【0067】
電池は、有底角形の電池ケース4と、電池ケース4内に収容された電極群1および非水電解質(図示せず)とを備えている。電極群1は、長尺帯状の負極と、長尺帯状の正極と、これらの間に介在し、かつ直接接触を防ぐセパレータとを有する。電極群1は、負極、正極、およびセパレータを、平板状の巻芯を中心にして捲回し、巻芯を抜き取ることにより形成される。
【0068】
負極の負極集電体には、負極リード3の一端が溶接等により取り付けられている。負極リード3の他端は、樹脂製の絶縁板(図示せず)を介して、封口板5に設けられた負極端子6に電気的に接続されている。負極端子6は、樹脂製のガスケット7により、封口板5から絶縁されている。正極の正極集電体には、正極リード2の一端が溶接等により取り付けられている。正極リード2の他端は、絶縁板を介して、封口板5の裏面に接続されている。すなわち、正極リード2は、正極端子を兼ねる電池ケース4に電気的に接続されている。絶縁板は、電極群1と封口板5とを隔離するとともに負極リード3と電池ケース4とを隔離している。封口板5の周縁は、電池ケース4の開口端部に嵌合しており、嵌合部はレーザー溶接されている。このようにして、電池ケース4の開口部は、封口板5で封口される。封口板5に設けられている非水電解質の注入孔は、封栓8により塞がれている。
【実施例
【0069】
以下、本発明の実施例について具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されない。
【0070】
《実施例1》
[第1複合材料(LSX材料)の調製]
二酸化ケイ素と炭酸リチウムとを原子比:Si/Liが1.05となるように混合し、混合物を950℃空気中で10時間焼成することにより、LiSi(z=1/2)で表わされるリチウムシリケートを得た。得られたリチウムシリケートは平均粒径10μmになるように粉砕した。
【0071】
平均粒径10μmのリチウムシリケート(LiSi)と、原料シリコン(3N、平均粒径10μm)とを、45:55の質量比で混合した。混合物を遊星ボールミル(フリッチュ社製、P-5)のポット(SUS製、容積:500mL)に充填し、ポットにSUS製ボール(直径20mm)を24個入れて蓋を閉め、不活性雰囲気中で、200rpmで混合物を50時間粉砕処理した。
【0072】
次に、不活性雰囲気中で粉末状の混合物を取り出し、不活性雰囲気中、ホットプレス機による圧力を印加した状態で、800℃で4時間焼成して、混合物の焼結体(LSX材料)を得た。
【0073】
その後、LSX材料を粉砕し、40μmのメッシュに通した後、得られたLSX粒子を石炭ピッチ(JFEケミカル株式会社製、MCP250)と混合し、混合物を不活性雰囲気で、800℃で焼成し、LSX粒子の表面に導電性炭素を含む導電層を形成した。導電層の被覆量は、LSX粒子と導電層との総質量に対して5質量%とした。その後、篩を用いて、導電層を有する平均粒径5μmのLSX粒子を得た。
【0074】
既述の方法により求められたシリコン粒子の平均粒径は、100nmであった。LSX粒子のXRD分析によりSi(111)面に帰属される回折ピークからシェラーの式で算出したシリコン粒子の結晶子サイズは15nmであった。
【0075】
リチウムシリケート相についてAES分析を行ったところ、リチウムシリケート相の組成はLiSiであった。Si-NMRにより測定されるLSX粒子中のシリコン粒子の含有量は55質量%(LiSiの含有量は45質量%)であった。
【0076】
[負極の作製]
負極合剤に水を添加した後、混合機(プライミクス社製、T.K.ハイビスミックス)を用いて攪拌し、負極スラリーを調製した。負極合剤には、負極活物質と、CNT(平均径9nm、平均長さ12μm)と、ポリアクリル酸のリチウム塩(PAA-Li)と、カルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC-Na)と、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)との混合物を用いた。負極合剤において、負極活物質と、CNTと、CMC-Naと、SBRとの質量比は、100:0.3:0.9:1とした。
【0077】
負極活物質には、シリコン含有材料と黒鉛との混合物を用いた。シリコン含有材料には、第1複合材料および第2複合材料のうち少なくとも第1複合材料を用いた。第1複合材料には、上記で得られたLSX粒子を用いた。第2複合材料には、平均粒径5μmのSiO粒子(x=1、シリコン粒子の平均粒径5nm程度)を用いた。
【0078】
負極合剤において、第1複合材料と第2複合材料との合計に対する第1複合材料の質量比Xは、表1に示す値とした。負極合剤において、第1複合材料と第2複合材料と黒鉛との合計に対する第1複合材料と第2複合材料との合計の質量比Yは、表1に示す値とした。
【0079】
次に、銅箔の表面に1mあたりの負極合剤の質量が140gとなるように負極スラリーを塗布し、塗膜を乾燥させた後、圧延して、銅箔の両面に密度1.6g/cmの負極合剤層を形成し、負極を得た。
【0080】
[正極の作製]
リチウムニッケル複合酸化物(LiNi0.8Co0.18Al0.02)と、アセチレンブラックと、ポリフッ化ビニリデンとを、95:2.5:2.5の質量比で混合し、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)を添加した後、混合機(プライミクス社製、T.K.ハイビスミックス)を用いて攪拌し、正極スラリーを調製した。次に、アルミニウム箔の表面に正極スラリーを塗布し、塗膜を乾燥させた後、圧延して、アルミニウム箔の両面に密度3.6g/cmの正極合剤層を形成し、正極を得た。
【0081】
[非水電解質の調製]
非水溶媒にリチウム塩を溶解させて非水電解質を調製した。非水溶媒には、エチレンカーボネート(EC)とジメチルカーボネート(DMC)との混合溶媒(体積比3:7)を用いた。リチウム塩には、LiPFおよびLFSIを用いた。非水電解質中のLiPFの濃度は、0.95mol/Lとした。非水電解質中のLFSIの濃度は、0.4mol/Lとした。
【0082】
[非水電解質二次電池の作製]
各電極にタブをそれぞれ取り付け、タブが最外周部に位置するように、セパレータを介して正極および負極を渦巻き状に巻回することにより電極群を作製した。電極群をアルミニウムラミネートフィルム製の外装体内に挿入し、105℃で2時間真空乾燥した後、非水電解質を注入し、外装体の開口部を封止して、電池A1~A90を作製した。
【0083】
また、非水電解質にLFSIを含ませない以外、電池A1~A90と同様の方法により、それぞれ電池C1~C90を作製した。
【0084】
[評価1]
電池A1について、以下の充放電サイクル試験を行った。
0.3Itの電流で電圧が4.2Vになるまで定電流充電を行い、その後、4.2Vの電圧で電流が0.015Itになるまで定電圧充電を行った。その後、0.3Itの電流で電圧が2.75Vになるまで定電流放電を行った。充電と放電との間の休止時間は10分とした。充放電は25℃の環境下で行った。
【0085】
なお、(1/X)Itは、電流を表し、(1/X)It(A)=定格容量(Ah)/X(h)であり、Xは定格容量分の電気を充電または放電するための時間を表す。例えば、0.5Itとは、X=2であり、電流値が定格容量(Ah)/2(h)であることを意味する。
【0086】
上記の条件で充放電を繰り返した。1サイクル目の放電容量に対する300サイクル目の放電容量の割合(百分率)を、容量維持率RA1として求めた。
【0087】
非水電解質がLFSIを含まない以外は電池A1と同じ構成の電池C1についても、上記と同様の方法により、容量維持率RC1を求めた。求められたRA1およびRC1を用いて、下記式より、電池C1に対する電池A1の容量維持率の変化率(以下、単に、電池A1の容量維持率の変化率)を求めた。このようにして、LFSIの添加による容量維持率の変化を調べた。
電池A1の容量維持率の変化率(%)=(RA1-RC1)/RC1×100
【0088】
同様に、電池A2~A90および電池C2~C90を用いて、それぞれ電池A2~A90の容量維持率の変化率を求めた。
【0089】
評価結果を表1に示す。表1のセル中の数値(パーセント)は容量維持率の変化率を示し、括弧内は電池番号を示す。例えば、電池A1のセルは、電池A1の容量維持率の変化率を示す。
【0090】
【表1】
【0091】
非水電解質中のLFSI濃度が0.4mol/Lの場合、関係式(1)を満たす電池A1~A9、A11~A16、A21~A24、A31~A33、A41~A42、A51では、容量維持率の変化率が0.5%以上であり、サイクル特性が大幅に向上した。中でも、関係式(2)を満たす電池A1~A3、A11~A12、A21では、容量維持率の変化率が1%以上であり、サイクル特性が更に向上した。
【0092】
《実施例2》
非水電解質中のLFSIの濃度を0.2mol/Lとし、非水電解質中のLiPFの濃度を1.15mol/Lとした以外、電池A1~A90と同様の方法により、それぞれ電池B1~B90を作製した。
【0093】
[評価2]
上記の評価1と同様の方法により、電池B1の容量維持率RB1を求めた。求められた電池B1の容量維持率RB1と、非水電解質がLFSIを含まない以外は電池B1と同じ構成の電池C1の容量維持率RC1とを用いて、下記式より、電池B1の容量維持率の変化率を求めた。
電池B1の容量維持率の変化率(%)=(RB1-RC1)/RC1×100
【0094】
同様に、電池B2~B90および電池C2~C90を用いて、それぞれ電池B2~B90の容量維持率の変化率を求めた。
【0095】
評価結果を表2に示す。表2のセル中の数値(パーセント)は容量維持率の変化率を示し、括弧内は電池番号を示す。例えば、電池B1のセルは、電池B1の容量維持率の変化率を示す。
【0096】
【表2】
【0097】
非水電解質中のLFSI濃度が0.2mol/Lの場合、関係式(1)を満たす電池B1~B9、B11~B16、B21~B24、B31~B33、B41~B42、B51では、容量維持率の変化率が0.25%以上であり、サイクル特性が大幅に向上した。中でも、関係式(2)を満たす電池B1~B3、B11~B12、B21では、容量維持率の変化率が0.5%以上であり、サイクル特性が更に向上した。
【産業上の利用可能性】
【0098】
本発明に係る非水電解質二次電池は、移動体通信機器、携帯電子機器等の主電源に有用である。
本発明を現時点での好ましい実施態様に関して説明したが、そのような開示を限定的に解釈してはならない。種々の変形および改変は、上記開示を読むことによって本発明に属する技術分野における当業者には間違いなく明らかになるであろう。したがって、添付の請求の範囲は、本発明の真の精神および範囲から逸脱することなく、すべての変形および改変を包含する、と解釈されるべきものである。
【符号の説明】
【0099】
1:電極群、2:正極リード、3:負極リード、4:電池ケース、5:封口板、6:負極端子、7:ガスケット、8:封栓


図1