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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-21
(45)【発行日】2024-03-29
(54)【発明の名称】慣性力センサ及び慣性力検出方法
(51)【国際特許分類】
   G01P 21/00 20060101AFI20240322BHJP
   G01P 15/125 20060101ALI20240322BHJP
【FI】
G01P21/00
G01P15/125 V
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2022528431
(86)(22)【出願日】2021-02-18
(86)【国際出願番号】 JP2021006031
(87)【国際公開番号】W WO2021245993
(87)【国際公開日】2021-12-09
【審査請求日】2023-08-31
(31)【優先権主張番号】P 2020097997
(32)【優先日】2020-06-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002527
【氏名又は名称】弁理士法人北斗特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】永井 正昭
【審査官】藤澤 和浩
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-174352(JP,A)
【文献】特表2019-505769(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2002/0134154(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01P 15/00 ~ 21/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
慣性力検出回路と、
慣性力を電気信号に変換する検出部と、を備え、
前記慣性力検出回路は、
前記検出部へ出力する信号を生成する信号生成部と、
前記検出部から出力される前記電気信号を処理する処理部と、を備え、
前記検出部は、
固定電極と、
前記固定電極に対向しており、前記固定電極との対向方向において前記固定電極に対して移動可能な可動電極と、を有し、
前記信号生成部は、
第1の周波数のドライブ電圧を前記固定電極に印加し前記可動電極を振動させるドライブ電圧生成部と、
前記第1の周波数よりも低周波の第2の周波数のテスト電圧を前記固定電極に印加し前記可動電極を振動させるテスト電圧生成部と、を有し、
前記処理部は、
前記可動電極から出力される前記電気信号のうち前記可動電極に加えられた慣性力の成分である検出信号に基づいて、前記固定電極と前記可動電極との間の静電容量を検出する検出処理をする検出処理部と、
前記可動電極から出力される前記電気信号のうち前記第2の周波数の成分である診断信号に基づいて、前記検出部の異常を診断する診断処理をする診断処理部と、を有し、
前記検出部は、前記可動電極の出力信号と前記固定電極の出力信号との差動信号を前記処理部へ出力する、
慣性力センサ
【請求項2】
前記処理部は、前記診断信号に基づいて、前記診断信号及び前記検出信号のうち少なくとも一方のオフセットを補正する、
請求項1に記載の慣性力センサ
【請求項3】
前記信号生成部は、前記診断信号に基づいて、前記テスト電圧及び前記ドライブ電圧のうち少なくとも一方のオフセットを補正する、
請求項1又は2に記載の慣性力センサ
【請求項4】
前記処理部は、前記診断信号に基づいて、前記診断信号及び前記検出信号のうち少なくとも一方の大きさを補正する、
請求項1~3のいずれか一項に記載の慣性力センサ
【請求項5】
前記信号生成部は、前記診断信号に基づいて、前記テスト電圧及び前記ドライブ電圧のうち少なくとも一方の振幅を補正する、
請求項1~4のいずれか一項に記載の慣性力センサ
【請求項6】
前記検出部は、
前記固定電極又は前記可動電極に電気的に接続される入力端子と、前記固定電極と前記可動電極との間の前記静電容量に応じた電圧を出力する出力端子と、を含む、第1のCV変換回路及び第2のCV変換回路と、
前記第1のCV変換回路の前記出力端子から出力される電圧と前記第2のCV変換回路の前記出力端子から出力される電圧との差分電圧を前記処理部へ出力する差動アンプと、
前記固定電極に電気的に接続された第1電極と、前記第1電極と対向する第2電極と、を含むコンデンサと、
前記第2電極を前記第1のCV変換回路の前記入力端子に電気的に接続し、前記可動電極を前記第2のCV変換回路の前記入力端子に電気的に接続する第1状態と、前記第2電極を前記第2のCV変換回路の前記入力端子に電気的に接続し、前記可動電極を前記第1のCV変換回路の前記入力端子に電気的に接続する第2状態と、を切り替える切替部と、を有する、
請求項1~5のいずれか一項に記載の慣性力センサ。
【請求項7】
慣性力を電気信号に変換する検出部へ出力する信号を生成する信号生成ステップと、
前記検出部から出力される前記電気信号を処理する処理ステップと、を含み、
前記検出部は、
固定電極と、
前記固定電極に対向しており、前記固定電極との対向方向において前記固定電極に対して移動可能な可動電極と、を有し、
前記信号生成ステップは、
第1の周波数のドライブ電圧を前記固定電極に印加し前記可動電極を振動させるドライブ電圧生成ステップと、
前記第1の周波数よりも低周波の第2の周波数のテスト電圧を前記固定電極に印加し前記可動電極を振動させるテスト電圧生成ステップと、を有し、
前記処理ステップは、
前記可動電極から出力される前記電気信号のうち前記可動電極に加えられた慣性力の成分である検出信号に基づいて、前記固定電極と前記可動電極との間の静電容量を検出する検出処理と、
前記可動電極から出力される前記電気信号のうち前記第2の周波数の成分である診断信号に基づいて、前記検出部の異常を診断する診断処理と、を有し、
前記検出部は、前記可動電極の出力信号と前記固定電極の出力信号との差動信号を、前記処理ステップで処理される前記電気信号として出力する、
慣性力検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は一般に慣性力センサ及び慣性力検出方法に関し、より詳細には、異常診断が可能な慣性力センサ、及び、慣性力検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に記載の加速度センサは、固定電極と、可動電極と、検出部と、を備える。可動電極は、外部から与えられた加速度に応じて可動する。検出部は、可動電極と固定電極との間の静電容量の変化に基づいて所定方向の加速度を検出する。
【0003】
特許文献1に記載されたような加速度センサ(慣性力センサ)に、検出部の異常診断のための構成を検出部に付加することが考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2015-017819号公報
【発明の概要】
【0005】
本開示は、検出部の異常診断を可能にしつつ、検出部の構成が複雑化することを抑制できる慣性力センサ及び慣性力検出方法を提供することを目的とする。
【0006】
本開示の一態様に係る慣性力センサは、慣性力検出回路と、慣性力を電気信号に変換する検出部と、を備える。前記慣性力検出回路は、信号生成部と、処理部と、を備える。前記信号生成部は、前記検出部へ出力する信号を生成する。前記処理部は、前記検出部から出力される前記電気信号を処理する。前記検出部は、固定電極と、可動電極と、を有する。前記可動電極は、前記固定電極に対向している。前記可動電極は、前記固定電極との対向方向において前記固定電極に対して移動可能である。前記信号生成部は、ドライブ電圧生成部と、テスト電圧生成部と、を有する。前記ドライブ電圧生成部は、第1の周波数のドライブ電圧を前記固定電極に印加し前記可動電極を振動させる。前記テスト電圧生成部は、前記第1の周波数よりも低周波の第2の周波数のテスト電圧を前記固定電極に印加し前記可動電極を振動させる。前記処理部は、検出処理部と、診断処理部と、を有する。前記検出処理部は、検出信号に基づいて、前記固定電極と前記可動電極との間の静電容量を検出する検出処理をする。前記検出信号は、前記可動電極から出力される前記電気信号のうち前記可動電極に加えられた慣性力の成分である。前記診断処理部は、診断信号に基づいて、前記検出部の異常を診断する診断処理をする。前記診断信号は、前記可動電極から出力される前記電気信号のうち前記第2の周波数の成分である。前記検出部は、前記可動電極の出力信号と前記固定電極の出力信号との差動信号を前記処理部へ出力する。
【0008】
本開示の一態様に係る慣性力検出方法は、信号生成ステップと、処理ステップと、を含む。前記信号生成ステップでは、検出部へ出力する信号を生成する。前記検出部は、慣性力を電気信号に変換する。前記処理ステップでは、前記検出部から出力される前記電気信号を処理する。前記検出部は、固定電極と、可動電極と、を有する。前記可動電極は、前記固定電極に対向している。前記可動電極は、前記固定電極との対向方向において前記固定電極に対して移動可能である。前記信号生成ステップは、ドライブ電圧生成ステップと、テスト電圧生成ステップと、を有する。前記ドライブ電圧生成ステップでは、第1の周波数のドライブ電圧を前記固定電極に印加し前記可動電極を振動させる。前記テスト電圧生成ステップでは、前記第1の周波数よりも低周波の第2の周波数のテスト電圧を前記固定電極に印加し前記可動電極を振動させる。前記処理ステップは、検出処理と、診断処理と、を有する。前記検出処理では、検出信号に基づいて、前記固定電極と前記可動電極との間の静電容量を検出する。前記検出信号は、前記可動電極から出力される前記電気信号のうち前記可動電極に加えられた慣性力の成分である。前記診断処理では、診断信号に基づいて、前記検出部の異常を診断する。前記診断信号は、前記可動電極から出力される前記電気信号のうち前記第2の周波数の成分である。前記検出部は、前記可動電極の出力信号と前記固定電極の出力信号との差動信号を、前記処理ステップで処理される前記電気信号として出力する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、実施形態1に係る慣性力センサのブロック図である。
図2図2は、同上の慣性力センサの動作例を示すフローチャートである。
図3図3は、実施形態2に係る慣性力センサのブロック図である。
図4図4は、実施形態3に係る慣性力センサのブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本開示の各実施形態に係る慣性力検出回路、慣性力センサ及び慣性力検出方法について、図面を用いて説明する。ただし、下記の各実施形態は、本開示の様々な実施形態の一部に過ぎない。下記の各実施形態は、本開示の目的を達成できれば、設計等に応じて種々の変更が可能である。また、下記の各実施形態は、適宜組み合わせて実現されてもよい。
【0011】
(実施形態1)
(1)概要
図1に示すように、本実施形態の慣性力センサ1は、慣性力検出回路10と、検出部4と、を備える。慣性力センサ1は、慣性力を検出する。検出部4の静電容量Cは、検出部4にかかる慣性力の大きさに応じて変化する。そのため、慣性力センサ1は、検出部4の静電容量Cを検出することで検出部4にかかる慣性力の大きさを検出することができる。
【0012】
慣性力としては、加速度と、角加速度と、がある。慣性力が加速度の場合と角加速度の場合とで、基本的な検出原理は同じである。本実施形態では、代表例として、慣性力センサ1が慣性力としての加速度を検出する場合について説明する。
【0013】
慣性力検出回路10は、交流電圧であるドライブ電圧D1(クロック信号)を検出部4に印加することで、検出部4の静電容量Cを検出する。また、慣性力検出回路10は、交流電圧であるテスト電圧T1を検出部4に印加することで、検出部4の異常を診断する。本実施形態では、慣性力検出回路10は、ドライブ電圧D1とテスト電圧T1とを重畳した電圧を検出部4に印加する。そのため、慣性力検出回路10は、検出部4の静電容量Cを検出している間に、検出部4の異常の診断をも行う。
【0014】
慣性力検出回路10は、信号生成部2と、処理部3と、を備える。信号生成部2は、検出部4へ出力する信号を生成する。検出部4は、慣性力を電気信号に変換する。処理部3は、検出部4から出力される電気信号を処理する。検出部4は、固定電極51と、可動電極61と、を有する。可動電極61は、固定電極51に対向している。可動電極61は、固定電極51との対向方向において固定電極51に対して移動可能である。信号生成部2は、ドライブ電圧生成部21と、テスト電圧生成部22と、を有する。ドライブ電圧生成部21は、第1の周波数のドライブ電圧D1を固定電極51に印加し可動電極61を振動させる。テスト電圧生成部22は、第1の周波数よりも低周波の第2の周波数のテスト電圧T1を固定電極51に印加し可動電極61を振動させる。処理部3は、検出処理部31と、診断処理部32と、を有する。検出処理部31は、検出信号A2に基づいて、固定電極51と可動電極61との間の静電容量Cを検出する検出処理をする。検出信号A2は、可動電極61から出力される電気信号のうち可動電極61に加えられた慣性力の成分である。診断処理部32は、診断信号T2に基づいて、検出部4の異常を診断する診断処理をする。診断信号T2は、可動電極61から出力される電気信号のうち第2の周波数の成分である。
【0015】
本実施形態によれば、検出部4の異常診断が可能となる。また、ドライブ電圧D1とテスト電圧T1とがいずれも固定電極51に印加される。よって、検出部4が、ドライブ電圧D1が印加される電極とテスト電圧T1が印加される電極とをそれぞれ有する場合と比較して、検出部4の構成を簡略化することができる。
【0016】
(2)慣性力検出回路
慣性力検出回路10は、例えば、主構成としてマイクロコントローラ(例えば、DSP(Digital Signal Processor))を含む。マイクロコントローラは、1以上のプロセッサ及びメモリを有するコンピュータシステムを含んでいる。コンピュータシステムのメモリに記録されたプログラムを、コンピュータシステムのプロセッサが実行することにより、慣性力検出回路10の少なくとも一部の機能が実現される。プログラムは、メモリに記録されていてもよいし、インターネット等の電気通信回線を通して提供されてもよく、メモリカード等の非一時的記録媒体に記録されて提供されてもよい。
【0017】
慣性力検出回路10は、信号生成部2及び処理部3に加えて、A/D変換部11と、フィルタ12と、を更に備えている。なお、これらは、慣性力検出回路10によって実現される機能を示しているに過ぎず、必ずしも実体のある構成を示しているわけではない。
【0018】
テスト電圧T1の振幅は、ドライブ電圧D1の振幅よりも大きい。テスト電圧T1の周波数は、ドライブ電圧D1の周波数よりも小さい。信号生成部2から出力されたテスト電圧T1及びドライブ電圧D1が固定電極51に印加されることで、可動電極61が固定電極51に対して振動する。
【0019】
また、加速度が可動電極61にかかることによって、可動電極61が固定電極51に対して振動する。測定対象である加速度を振動とみなすと、振動の周波数は十分に小さい。測定対象である加速度が可動電極61にかかることによる可動電極61の振動の周波数は、テスト電圧T1の周波数よりも小さい。
【0020】
可動電極61からは、振動に対応する電流信号が出力される。上記電流信号は、検出部4の後述するCV変換回路7により、電圧信号に変換される。つまり、検出部4は、可動電極61の振動に対応する上記電圧信号を出力する。上記電圧信号は、テスト電圧T1に起因する成分(診断信号T2)と、ドライブ電圧D1に起因する成分(ドライブ出力D2)と、を含む重畳信号である。
【0021】
また、可動電極61に加えられた加速度に起因する固定電極51と可動電極61との間の距離の変化は、ドライブ電圧D1(クロック信号)と同相の出力として可動電極61から出力される。そのため、上記重畳信号は、可動電極61に加えられた加速度に起因する成分(検出信号A2)を更に含む。
【0022】
診断信号T2の周波数は、ドライブ出力D2の周波数よりも小さい。検出信号A2の周波数は、診断信号T2の周波数よりも小さい。本実施形態では、検出信号A2を直流信号として取り扱う。
【0023】
診断信号T2の振幅は、ドライブ出力D2の振幅よりも大きい。検出信号A2の絶対値は、ドライブ出力D2の振幅よりも小さい。
【0024】
検出部4は、診断信号T2、ドライブ出力D2及び検出信号A2の重畳信号を慣性力検出回路10へ出力する。A/D変換部11は、上記重畳信号をアナログ信号からデジタル信号へ変換する。A/D変換部11から出力された上記重畳信号(デジタル信号)は、フィルタ12に入力される。
【0025】
フィルタ12は、ローパスフィルタ及びバンドパスフィルタを含む。フィルタ12は、デジタルフィルタにより構成される。A/D変換部11から出力された上記重畳信号(デジタル信号)は、ローパスフィルタと、バンドパスフィルタと、にそれぞれ入力される。フィルタ12のローパスフィルタは、A/D変換部11から出力された上記重畳信号(デジタル信号)から、検出信号A2を抽出する。フィルタ12のバンドパスフィルタは、A/D変換部11から出力された上記重畳信号(デジタル信号)から、診断信号T2を抽出する。
【0026】
処理部3の検出処理部31は、検出信号A2に基づいて、固定電極51と可動電極61との間の静電容量Cを検出する検出処理をする。診断処理部32は、診断信号T2に基づいて、検出部4の異常を診断する診断処理をする。また、診断処理部32は、診断信号T2に基づいて、検出部4の出力信号及び信号生成部2の出力信号のうち少なくとも一方を補正する補正処理をする。検出処理、診断処理及び補正処理の詳細は後述する。
【0027】
(3)固定電極及び可動電極
検出部4は、検出モジュールM1を含む。検出モジュールM1は、例えば、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)技術を用いて形成される。検出モジュールM1は、固定電極51と、可動電極61と、固定体52と、可動体62と、支持部63と、を有する。
【0028】
固定体52及び可動体62は、電気絶縁性を有する。固定体52は、例えば、半導体基板を含む。固定体52は、固定電極51を保持している。可動体62は、可動電極61を保持している。支持部63は、固定体52と可動体62とを連結している。支持部63は、可動電極61が固定電極51との間に所定の間隔をあけて固定電極51に対向するように、可動体62を支持している。これにより、可動電極61は固定電極51に対して電気的に絶縁されている。
【0029】
また、支持部63は、弾性部材により形成されている。支持部63の弾性変形を伴いながら、可動電極61及び可動体62は、固定電極51及び固定体52に対して移動可能である。可動電極61及び可動体62の移動方向は、固定電極51と可動電極61との対向方向に限られている(矢印Y1参照)。
【0030】
信号生成部2から延びる信号線W1は、固定電極51に接続されている。これにより、ドライブ電圧D1及びテスト電圧T1は、固定電極51と可動電極61とのうち固定電極51に印加される。可動電極61の電位が、ドライブ電圧D1及びテスト電圧T1の基準電位として扱われる。
【0031】
固定電極51にドライブ電圧D1、テスト電圧T1が印加されることで、可動電極61が振動し、固定電極51と可動電極61との間の距離が変化する。また、固定電極51と可動電極61との間の距離は、可動電極61(可動体62)にかかる加速度に応じて変化する。
【0032】
固定電極51と可動電極61との間には、静電容量Cが形成される。静電容量Cは、固定電極51と可動電極61との間の距離に反比例して変化する。よって、静電容量Cは、ドライブ電圧D1、テスト電圧T1及び可動電極61にかかる加速度に応じて変化する。
【0033】
(4)CV変換回路
慣性力センサ1は、CV変換回路7を更に備える。CV変換回路7は、オペアンプ71と、コンデンサ72と、を有する。
【0034】
オペアンプ71の非反転入力端子の電圧は、基準電圧に保たれている。本実施形態では、オペアンプ71の非反転入力端子は、接地されている。
【0035】
オペアンプ71の反転入力端子から延びる信号線W2は、可動電極61に接続されている。これにより、オペアンプ71の反転入力端子は、可動電極61に電気的に接続されている。コンデンサ72の第1端は、オペアンプ71の反転入力端子に電気的に接続されており、第2端は、オペアンプ71の出力端子に電気的に接続されている。またオペアンプ71の出力端子は、慣性力検出回路10に電気的に接続されている。
【0036】
固定電極51と可動電極61との間に印加される交流電圧をV=V×exp(-jωt)とする。ここで、Vは振幅、jは虚数単位、ωは角速度、tは時間である。可動電極61からコンデンサ72へ流れる交流電流は、I=-jωCVである。コンデンサ72のインピーダンスをZとすると、オペアンプ71の出力電圧は、Vоut=-jωCZVである。よって、オペアンプ71は、固定電極51と可動電極61との間の静電容量Cに比例した振幅の電圧を出力する。つまり、CV変換回路7は、静電容量Cを電圧に変換する。
【0037】
上述の通り、静電容量Cは、ドライブ電圧D1、テスト電圧T1及び可動電極61にかかる加速度に応じて変化する。よって、CV変換回路7(オペアンプ71)は、ドライブ電圧D1、テスト電圧T1及び可動電極61にかかる加速度に応じた電圧を出力する。より詳細には、CV変換回路7(オペアンプ71)は、それぞれ周波数が異なる診断信号T2、ドライブ出力D2及び検出信号A2を重畳した重畳信号を出力する。上記重畳信号は、電圧信号である。
【0038】
(5)検出処理
フィルタ12は、上記重畳信号から、検出信号A2を抽出する。検出処理部31は、検出信号A2に基づいて、固定電極51と可動電極61との間の静電容量Cを検出する検出処理をする。より詳細には、検出処理部31は、検出信号A2の絶対値に所定値(第1の係数)を乗じることで、静電容量Cを求める。
【0039】
また、検出処理部31は、検出信号A2に基づいて求めた静電容量Cから、可動電極61に加えられた加速度を求める。より詳細には、検出処理部31は、検出信号A2に基づいて求めた静電容量Cに所定値(第2の係数)を乗じることで、加速度を求める。なお、検出処理部31は、検出信号A2から加速度を直接求めてもよい。加速度は静電容量Cに比例するため、加速度を求めることも「静電容量Cを求める」こととみなせる。
【0040】
(6)診断処理及び補正処理
(6-1)処理の概要
フィルタ12は、上記重畳信号から、診断信号T2を抽出する。診断処理部32は、診断信号T2に基づいて、検出部4の異常を診断する診断処理をする。
【0041】
例えば、可動電極61にある大きさの加速度が加わった際に、可動電極61の変位量は、ある一定の値であることが好ましい。ところが、検出部4の経年変化等により、検出部4の構造が機械的に変化するという異常が発生することがある(例えば、支持部63のたわみ方が変化し得る)。このように検出部4に異常が発生すると、可動電極61の変位量が上記ある一定の値からずれることがある。このような「ずれ」は、検出部4から出力される電圧信号のオフセット誤差及び振幅の誤差等を引き起こし、上記電圧信号に基づいて求められる静電容量Cの誤差の原因となる。
【0042】
そこで、診断処理部32は、上記電圧信号のオフセット誤差及び振幅の誤差等を検出し、これにより、検出部4の異常を診断する(診断処理)。さらに、診断処理部32は、上記電圧信号のオフセット誤差及び振幅の誤差等を補正する(補正処理)。
【0043】
検出部4に異常が発生した場合、固定電極51にある一定の振幅のテスト電圧T1が印加された場合の可動電極61の変位量が異常な量となり、これにより、診断信号T2が異常な値となる。よって、診断処理部32は、診断信号T2に基づいて、検出部4の異常を診断できる。
【0044】
(6-2)入力信号の大きさ補正
具体的には、診断処理部32は、診断信号T2の振幅と所定値(以下、振幅設計値と称す)との差分を第1閾値と比較する。振幅設計値は、検出部4が正常に動作している場合の診断信号T2の振幅に相当する。診断信号T2の振幅と振幅設計値との差分が第1閾値以上の場合、診断処理部32は、検出部4について、上記電圧信号の振幅に関する異常が有ると判定する。さらに、診断処理部32は、診断信号T2に基づいて、診断信号T2及び検出信号A2のうち少なくとも一方の大きさを補正する。より詳細には、診断信号T2の振幅と振幅設計値との差分が第1閾値以上の場合、診断処理部32は、診断信号T2の振幅と振幅設計値との差分に基づいて、診断信号T2及び検出信号A2のうち少なくとも一方の大きさを補正する。診断処理部32は、診断信号T2の振幅と振幅設計値との差分が大きいほど、診断信号T2及び検出信号A2のうち少なくとも一方の大きさの補正量を大きくする。検出信号A2の大きさを補正することで、検出部4の静電容量Cの検出精度を高められる。診断信号T2の大きさ(振幅)を補正することで、診断信号T2の振幅を振幅設計値に近づけることができ、これにより、診断処理部32が異常を検知し続けることを抑制できる。
【0045】
(6-3)入力信号のオフセット補正
また、診断処理部32は、診断信号T2のオフセット(最大値と最小値との平均値)の絶対値を第2閾値と比較する。第2閾値は、検出部4が正常に動作している場合の診断信号T2のオフセットに相当する。診断信号T2のオフセットの絶対値が第2閾値以上の場合、診断処理部32は、検出部4について、上記電圧信号のオフセットに関する異常が有ると判定する。さらに、診断処理部32は、診断信号T2に基づいて、診断信号T2及び検出信号A2のうち少なくとも一方のオフセットを補正する。より詳細には、診断信号T2のオフセットの絶対値が第2閾値以上の場合、診断処理部32は、診断信号T2のオフセットと第2閾値との差分に基づいて、診断信号T2及び検出信号A2のうち少なくとも一方のオフセットを補正する。診断処理部32は、診断信号T2のオフセットと第2閾値との差分が大きいほど、診断信号T2及び検出信号A2のうち少なくとも一方のオフセットの補正量を大きくする。好ましくは、診断処理部32は、診断信号T2及び検出信号A2のうち少なくとも一方のオフセットが0となるように、補正量を決定する。検出信号A2のオフセットを補正することで、検出部4の静電容量Cの検出精度を高められる。診断信号T2のオフセットを補正することで、診断処理部32が異常を検知し続けることを抑制できる。
【0046】
(6-4)出力信号の振幅補正
なお、信号生成部2は、診断信号T2に基づいて、テスト電圧T1及びドライブ電圧D1のうち少なくとも一方の振幅を補正してもよい。より詳細には、診断信号T2の振幅と振幅設計値との差分が第1閾値以上の場合、信号生成部2は、診断信号T2の振幅と振幅設計値との差分に基づいて、テスト電圧T1及びドライブ電圧D1のうち少なくとも一方の振幅を補正してもよい。信号生成部2は、診断信号T2の振幅と振幅設計値との差分が大きいほど、テスト電圧T1及びドライブ電圧D1のうち少なくとも一方の振幅の補正量を大きくしてもよい。ドライブ電圧D1の振幅を補正することで、検出部4の静電容量Cの検出精度を高められる。テスト電圧T1の振幅を補正することで、診断信号T2の振幅を振幅設計値に近づけることができ、これにより、診断処理部32が異常を検知し続けることを抑制できる。
【0047】
診断処理部32が診断信号T2の振幅を補正することと、信号生成部2(テスト電圧生成部22)がテスト電圧T1の振幅を補正することと、の両方が行われてもよいし、いずれか一方のみ行われてもよい。診断信号T2の振幅と振幅設計値との差分が第1閾値未満となるように、診断信号T2及びテスト電圧T1の少なくとも一方の振幅が補正されることが好ましい。
【0048】
診断処理部32が検出信号A2の大きさを補正することと、信号生成部2(ドライブ電圧生成部21)がドライブ電圧D1の大きさ(振幅)を補正することと、の両方が行われてもよいし、いずれか一方のみ行われてもよい。可動電極61にある一定の加速度が加えられた際に、検出信号A2の大きさが所定範囲内の値となるように、検出信号A2及びドライブ電圧D1の少なくとも一方の大きさが補正されることが好ましい。
【0049】
(6-5)出力信号のオフセット補正
また、信号生成部2は、診断信号T2に基づいて、テスト電圧T1及びドライブ電圧D1のうち少なくとも一方のオフセットを補正してもよい。より詳細には、診断信号T2のオフセットの絶対値が第2閾値以上の場合、信号生成部2は、診断信号T2のオフセットと第2閾値との差分に基づいて、テスト電圧T1及びドライブ電圧D1のうち少なくとも一方のオフセットを補正してもよい。信号生成部2は、診断信号T2のオフセットと第2閾値との差分が大きいほど、テスト電圧T1及びドライブ電圧D1のうち少なくとも一方のオフセットの補正量を大きくしてもよい。好ましくは、信号生成部2は、診断信号T2及び検出信号A2のうち少なくとも一方のオフセットが0となるように、補正量を決定する。ドライブ電圧D1のオフセットを補正することで、検出部4の静電容量Cの検出精度を高められる。テスト電圧T1のオフセットを補正することで、診断処理部32が異常を検知し続けることを抑制できる。
【0050】
診断処理部32が診断信号T2のオフセットを補正することと、信号生成部2(テスト電圧生成部22)がテスト電圧T1のオフセットを補正することと、の両方が行われてもよいし、いずれか一方のみ行われてもよい。診断信号T2のオフセットが所定範囲内の値となるように、診断信号T2及びテスト電圧T1の少なくとも一方のオフセットが補正されることが好ましい。
【0051】
診断処理部32が検出信号A2のオフセットを補正することと、信号生成部2(ドライブ電圧生成部21)がドライブ電圧D1のオフセットを補正することと、の両方が行われてもよいし、いずれか一方のみ行われてもよい。検出信号A2のオフセットが所定範囲内の値となるように、検出信号A2及びドライブ電圧D1の少なくとも一方のオフセットが補正されることが好ましい。
【0052】
なお、診断処理部32の診断処理の結果、検出部4の異常が認められた場合に限らずに、補正処理が実行されてもよい。
【0053】
(7)利点
本実施形態の慣性力センサ1によれば、検出部4の異常診断が可能となる。また、ドライブ電圧D1とテスト電圧T1とがいずれも固定電極51に印加される。よって、検出部4が、ドライブ電圧D1が印加される電極とテスト電圧T1が印加される電極とをそれぞれ有する場合と比較して、検出部4の構成を簡略化することができる。例えば、検出部4を小型化できる。
【0054】
また、テスト電圧T1を可動電極61に印加する場合と比較して、可動電極61の後段の回路(CV変換回路7等)に印加される電圧が低下するので、CV変換回路7等の耐電圧性の要求仕様を緩和させられる。
【0055】
さらに、テスト電圧T1は固定電極51に印加され、慣性力により変位する可動電極61にはテスト電圧T1が印加されない。よって、テスト電圧T1が可動電極61に印加される場合と比較して、テスト電圧T1が検出信号A2の検出に影響する可能性を低減できる。これにより、固定電極51と可動電極61との間の静電容量C(検出部4にかかる慣性力)の検出精度が悪化する可能性を低減できる。
【0056】
(実施形態1の変形例)
以下、実施形態1の変形例を列挙する。以下の変形例は、適宜組み合わせて実現されてもよい。
【0057】
支持部63は、可動体62を介さずに可動電極61を支持していてもよい。支持部63は、固定体52を介さずに固定電極51とつながっていてもよい。
【0058】
実施形態1では、検出信号A2を直流信号として取り扱い、補正処理では、処理部3は、検出信号A2の大きさを補正する。一方で、検出信号A2を交流信号として取り扱う場合、検出信号A2の大きさとは、検出信号A2の振幅である。
【0059】
CV変換回路7は、コンデンサ72に代えて、例えば、抵抗、若しくは、抵抗とコンデンサ72との並列回路、又は、コンデンサ72の電荷を放電するためのスイッチとコンデンサ72との並列回路を有していてもよい。
【0060】
信号線W1、W2は、基板に形成された導体パターンを含んでいてもよいし、銅線等のケーブルを含んでいてもよい。
【0061】
検出部4は、加速度に応じて可動電極61と固定電極51との間の距離が変化する構成に限定されず、加速度に応じて可動電極61と固定電極51との間の静電容量Cが変化する構成であればよい。例えば、検出部4は、加速度に応じて可動電極61と固定電極51との対向面積が変化する構成であってもよい。
【0062】
慣性力検出回路10は、診断処理部32でなされた検出部4の異常の診断結果を、文字又は音声等により通知してもよい。ドライブ電圧生成部21は、診断処理部32が検出部4の異常を検出した場合に、ドライブ電圧D1の出力を停止してもよい。
【0063】
慣性力検出回路10は、A/D変換部11の前段に、検出部4の出力を増幅するアンプを備えていてもよい。
【0064】
慣性力検出回路10及び慣性力センサ1と同様の機能は、慣性力検出方法、(コンピュータ)プログラム、又はプログラムを記録した非一時的記録媒体等で具現化されてもよい。
【0065】
一態様に係る慣性力検出方法は、信号生成ステップと、処理ステップと、を含む。信号生成ステップでは、検出部4へ出力する信号を生成する。検出部4は、慣性力を電気信号に変換する。処理ステップでは、検出部4から出力される電気信号を処理する。検出部4は、固定電極51と、可動電極61と、を有する。可動電極61は、固定電極51に対向している。可動電極61は、固定電極51との対向方向において固定電極51に対して移動可能である。
【0066】
図2に示すように、信号生成ステップは、ドライブ電圧生成ステップST1と、テスト電圧生成ステップST2と、を有する。ドライブ電圧生成ステップST1では、第1の周波数のドライブ電圧D1を固定電極51に印加し可動電極61を振動させる。テスト電圧生成ステップST2では、第1の周波数よりも低周波の第2の周波数のテスト電圧T1を固定電極51に印加し可動電極61を振動させる。具体的には、信号生成部2は、ドライブ電圧D1とテスト電圧T1との重畳電圧を固定電極51に印加する。
【0067】
ドライブ電圧生成ステップST1及びテスト電圧生成ステップST2が実行され、可動電極61に慣性力(加速度)が加えられると、検出部4は、診断信号T2、ドライブ出力D2及び検出信号A2の重畳信号を慣性力検出回路10へ出力する(ステップST3)。
【0068】
処理ステップは、検出処理ST4と、診断処理ST5と、を有する。検出処理ST4では、検出信号A2に基づいて、固定電極51と可動電極61との間の静電容量Cを検出する。検出信号A2は、可動電極61から出力される電気信号のうち可動電極61に加えられた慣性力の成分である。診断処理ST5では、診断信号T2に基づいて、検出部4の異常を診断する。診断信号T2は、可動電極61から出力される電気信号のうち第2の周波数の成分である。また、診断処理ST5の結果、検出部4の異常が認められた場合は(ステップST6:YES)、処理部3は、検出部4から出力される電圧信号のオフセット誤差及び振幅の誤差等を補正する補正処理をする(ステップST7)。慣性力センサ1の動作中、ドライブ電圧生成ステップST1からステップST7までの処理が繰り返される。
【0069】
なお、図2に示すフローチャートは、本変形例に係る慣性力検出方法の一例に過ぎず、処理の順序が適宜変更されてもよいし、処理が適宜追加又は省略されてもよい。
【0070】
一態様に係るプログラムは、上記の慣性力検出方法を1以上のプロセッサに実行させるためのプログラムである。
【0071】
本開示における慣性力検出回路10は、コンピュータシステムを含んでいる。コンピュータシステムは、ハードウェアとしてのプロセッサ及びメモリを主構成とする。コンピュータシステムのメモリに記録されたプログラムをプロセッサが実行することによって、本開示における慣性力検出回路10としての機能が実現される。プログラムは、コンピュータシステムのメモリに予め記録されてもよく、電気通信回線を通じて提供されてもよく、コンピュータシステムで読み取り可能なメモリカード、光学ディスク、ハードディスクドライブ等の非一時的記録媒体に記録されて提供されてもよい。コンピュータシステムのプロセッサは、半導体集積回路(IC)又は大規模集積回路(LSI)を含む1ないし複数の電子回路で構成される。ここでいうIC又はLSI等の集積回路は、集積の度合いによって呼び方が異なっており、システムLSI、VLSI(Very Large Scale Integration)、又はULSI(Ultra Large Scale Integration)と呼ばれる集積回路を含む。さらに、LSIの製造後にプログラムされる、FPGA(Field-Programmable Gate Array)、又はLSI内部の接合関係の再構成若しくはLSI内部の回路区画の再構成が可能な論理デバイスについても、プロセッサとして採用することができる。複数の電子回路は、1つのチップに集約されていてもよいし、複数のチップに分散して設けられていてもよい。複数のチップは、1つの装置に集約されていてもよいし、複数の装置に分散して設けられていてもよい。ここでいうコンピュータシステムは、1以上のプロセッサ及び1以上のメモリを有するマイクロコントローラを含む。したがって、マイクロコントローラについても、半導体集積回路又は大規模集積回路を含む1ないし複数の電子回路で構成される。
【0072】
また、慣性力検出回路10における複数の機能が、1つの装置に集約されていることは慣性力検出回路10に必須の構成ではなく、慣性力検出回路10の構成要素は、複数の装置に分散して設けられていてもよい。さらに、慣性力検出回路10の少なくとも一部の機能、例えば、処理部3の一部の機能がクラウド(クラウドコンピューティング)等によって実現されてもよい。
【0073】
反対に、実施形態において、複数の装置に分散されている慣性力センサ1の少なくとも一部の機能が、1つの装置に集約されていてもよい。例えば、慣性力検出回路10と検出部4とに分散されている慣性力センサ1の一部の機能が、1つの装置に集約されていてもよい。
【0074】
(実施形態2)
以下、実施形態2に係る慣性力センサ1Aについて、図3を用いて説明する。実施形態1と同様の構成については、同一の符号を付して説明を省略する。
【0075】
本実施形態の慣性力センサ1Aは、検出部4Aの構成が、実施形態1の慣性力センサ1と相違する。検出部4Aは、可動電極61の出力信号と固定電極51の出力信号との差動信号を処理部3へ出力する。
【0076】
検出部4Aは、検出モジュールM1と、切替部40と、コンデンサ45と、2つのCV変換回路7と、差動アンプ46と、を含む。
【0077】
コンデンサ45は、第1電極451と、第2電極452と、を含む。第1電極451は、固定電極51に電気的に接続されている。第2電極452は、第1電極451と対向している。第2電極452は、切替部40に電気的に接続されている。第1電極451と第2電極452との間の静電容量Cは、固定電極51と可動電極61との間の静電容量Cに対応する値である。具体的には、可動電極61が振動していない状態で、静電容量Cと静電容量Cとの差分が所定値未満となるようにコンデンサ45が選定されている。
【0078】
2つのCV変換回路7の構成は、実施形態1と同じである。以下では、2つのCV変換回路7を区別して、第1のCV変換回路7P、第2のCV変換回路7Qと呼ぶことがある。2つのCV変換回路7の出力端子は、差動アンプ46の入力端子に電気的に接続されている。
【0079】
差動アンプ46は、第1のCV変換回路7Pの出力電圧と第2のCV変換回路7Qの出力電圧との差分電圧を、慣性力検出回路10へ出力する。図3では、第1のCV変換回路7Pの出力電圧は、可動電極61からの出力電流に応じた電圧である。すなわち、第1のCV変換回路7Pの出力電圧は、診断信号T2、ドライブ出力D2及び検出信号A2の重畳信号である。一方で、図3では、第2のCV変換回路7Qの出力電圧は、固定電極51からコンデンサ45を経由して出力される電流に応じた電圧である。すなわち、第2のCV変換回路7Qの出力電圧は、第1のCV変換回路7Pの出力電圧との比較参照用の信号であって、診断信号T2、ドライブ出力D2及び検出信号A2の重畳信号である。
【0080】
処理部3は、差動アンプ46から出力される差分電圧に基づいて、検出処理、診断処理及び補正処理をする。具体的には、フィルタ12により、検出信号A2、A2の差分電圧と、診断信号T2、T2の差分電圧とが抽出される。検出処理部31は、検出信号A2、A2の差分電圧に基づいて、固定電極51と可動電極61との間の静電容量Cを検出する検出処理をする。診断処理部32は、診断信号T2、T2の差分電圧に基づいて、検出部4Aの異常を診断する診断処理をする。診断処理部32は、診断信号T2、T2の差分電圧に基づいて、診断信号T2、T2及び検出信号A2、A2の大きさ及びオフセットを補正する。検出処理、診断処理及び補正処理に係るパラメータ(閾値等)は、実施形態1とは適宜変更される。
【0081】
切替部40は、スイッチ41~44を備える。各スイッチ41~44は、半導体スイッチである。
【0082】
スイッチ41は、可動電極61と第1のCV変換回路7Pのオペアンプ71の反転入力端子との間に接続されている。スイッチ42は、可動電極61と第2のCV変換回路7Qのオペアンプ71の反転入力端子との間に接続されている。
【0083】
スイッチ43は、第2電極452と第2のCV変換回路7Qのオペアンプ71の反転入力端子との間に接続されている。スイッチ44は、第2電極452と第1のCV変換回路7Pのオペアンプ71の反転入力端子との間に接続されている。
【0084】
つまり、第1のCV変換回路7P及び第2のCV変換回路7Qの各々の入力端子(反転入力端子)は、切替部40を介して、固定電極51又は可動電極61に電気的に接続される。第1のCV変換回路7P及び第2のCV変換回路7Qの各々の出力端子は、固定電極51と可動電極61との間の静電容量Cに応じた電圧を出力する。
【0085】
差動アンプ46は、第1のCV変換回路7Pの出力端子から出力される電圧と第2のCV変換回路7Qの出力端子から出力される電圧との差分電圧を処理部3へ出力する。
【0086】
切替部40は、第1状態と、第2状態と、を切り替える。第1状態は、スイッチ41、43がオフであり、スイッチ42、44がオンの状態である。つまり、第1状態は、第2電極452を第1のCV変換回路7Pの入力端子に電気的に接続し、可動電極61を第2のCV変換回路7Qの入力端子に電気的に接続する状態である。第2状態は、スイッチ41、43がオンであり、スイッチ42、44がオフの状態である。つまり、第2状態は、第2電極452を第2のCV変換回路7Qの入力端子に電気的に接続し、可動電極61を第1のCV変換回路7Pの入力端子に電気的に接続する状態である。
【0087】
切替部40は、慣性力検出回路10から出力される制御信号に応じて、第1状態と第2状態とを交互に切り替える。このように、検出部4Aでは、信号のチョッピングがなされる。これにより、可動電極61から出力される信号のオフセットの誤差を低減できる。
【0088】
(実施形態3)
以下、実施形態3に係る慣性力センサ1Bについて、図4を用いて説明する。実施形態2と同様の構成については、同一の符号を付して説明を省略する。
【0089】
本実施形態の慣性力センサ1Bは、検出モジュールM3の構成が、実施形態2の検出モジュールM1と相違する。また、検出部4Bは、2つのコンデンサ45を含む。
【0090】
検出モジュールM3は、2つの固定電極51と、固定体52と、2つの可動電極61と、可動体62と、支持部63と、回転軸64と、を有する。
【0091】
2つの固定電極51と2つの可動電極61とは、一対一で対応する。各可動電極61は、対応する固定電極51に対向している。一方の可動電極61は、対応する固定電極51との間に静電容量Cを形成している。他方の可動電極61は、対応する固定電極51との間に静電容量Cを形成している。
【0092】
2つの固定電極51は、固定体52に保持されている。2つの可動電極61は、可動体62に保持されている。支持部63は、剛体である。可動体62は、回転軸64を中心として支持部63に対して回転可能である(矢印Y2参照)。可動体62に加速度が加えられて可動体62が回転することで、各可動電極61と、対応する固定電極51との間の距離が変化し、各組の可動電極61、固定電極51間の静電容量C、Cが変化する。一方の可動電極61が対応する固定電極51に近づくと、他方の可動電極61が対応する固定電極51から離れる。よって、一方の可動電極61に対応する静電容量C(又はC)が増加すると、他方の可動電極61に対応する静電容量C(又はC)が減少する。
【0093】
2つの固定電極51にはそれぞれ、ドライブ電圧D1及びテスト電圧T1が印加される。一方の固定電極51に入力される電圧は、他方の固定電極51に入力される電圧の反転電圧である。2つの可動電極61はそれぞれ、スイッチ41、42に接続されている。
【0094】
2つのコンデンサ45にはそれぞれ、ドライブ電圧D1及びテスト電圧T1が印加される。2つのコンデンサ45に入力される電圧は、互いに逆相の関係である。2つのコンデンサ45の静電容量Cは等しい。可動電極61が振動していない状態で、静電容量C、Cの各々と静電容量Cとの差分が所定値未満となるように各コンデンサ45が選定されている。
【0095】
切替部40の状態に応じて、第1のCV変換回路7P及び第2のCV変換回路7Qのうち一方には、静電容量C、Cに対応する電流が入力され、他方には、2つのコンデンサ45の静電容量C、Cに対応する電流が入力される。
【0096】
このように、本実施形態では、回転型の可動体62(可動電極61)が用いられる。その結果、各CV変換回路7は、2つの可動電極61の静電容量C、Cの差分に対応する電圧を出力する。これにより、可動体62にかかる加速度の検出誤差を低減できる。
【0097】
実施形態2と同様に、差動アンプ46は、第1のCV変換回路7Pの出力電圧と第2のCV変換回路7Qの出力電圧との差分電圧を出力し、処理部3は、差動アンプ46から出力される差分電圧に基づいて、検出処理、診断処理及び補正処理をする。検出処理、診断処理及び補正処理に係るパラメータ(閾値等)は、実施形態2とは適宜変更される。
【0098】
検出処理では、検出処理部31は、静電容量C、Cの少なくとも一方に対応する静電容量を検出する。つまり、本実施形態のように、固定電極51と可動電極61との組が、複数組設けられている場合は、検出処理とは、少なくとも1つの組に対応する静電容量を検出する処理を指す。また、検出処理部31は、検出した静電容量から、少なくとも1つの可動電極61に加えられた加速度を求める。
【0099】
(まとめ)
以上説明した実施形態等から、以下の態様が開示されている。
【0100】
第1の態様に係る慣性力検出回路(10)は、信号生成部(2)と、処理部(3)と、を備える。信号生成部(2)は、検出部(4、4A、4B)へ出力する信号を生成する。検出部(4、4A、4B)は、慣性力を電気信号に変換する。処理部(3)は、検出部(4、4A、4B)から出力される電気信号を処理する。検出部(4、4A、4B)は、固定電極(51)と、可動電極(61)と、を有する。可動電極(61)は、固定電極(51)に対向している。可動電極(61)は、固定電極(51)との対向方向において固定電極(51)に対して移動可能である。信号生成部(2)は、ドライブ電圧生成部(21)と、テスト電圧生成部(22)と、を有する。ドライブ電圧生成部(21)は、第1の周波数のドライブ電圧(D1)を固定電極(51)に印加し可動電極(61)を振動させる。テスト電圧生成部(22)は、第1の周波数よりも低周波の第2の周波数のテスト電圧(T1)を固定電極(51)に印加し可動電極(61)を振動させる。処理部(3)は、検出処理部(31)と、診断処理部(32)と、を有する。検出処理部(31)は、検出信号(A2)に基づいて、固定電極(51)と可動電極(61)との間の静電容量(C)を検出する検出処理をする。検出信号(A2)は、可動電極(61)から出力される電気信号のうち可動電極(61)に加えられた慣性力の成分である。診断処理部(32)は、診断信号(T2)に基づいて、検出部(4、4A、4B)の異常を診断する診断処理をする。診断信号(T2)は、可動電極(61)から出力される電気信号のうち第2の周波数の成分である。
【0101】
上記の構成によれば、検出部(4、4A、4B)の異常診断が可能となる。また、ドライブ電圧(D1)とテスト電圧(T1)とがいずれも固定電極(51)に印加される。よって、検出部(4、4A、4B)が、ドライブ電圧(D1)が印加される電極とテスト電圧(T1)が印加される電極とをそれぞれ有する場合と比較して、検出部(4、4A、4B)の構成を簡略化することができる。
【0102】
また、第2の態様に係る慣性力検出回路(10)では、第1の態様において、処理部(3)は、診断信号(T2)に基づいて、診断信号(T2)及び検出信号(A2)のうち少なくとも一方のオフセットを補正する。
【0103】
上記の構成によれば、慣性力の検出精度を改善できる。
【0104】
また、第3の態様に係る慣性力検出回路(10)では、第1又は2の態様において、信号生成部(2)は、診断信号(T2)に基づいて、テスト電圧(T1)及びドライブ電圧(D1)のうち少なくとも一方のオフセットを補正する。
【0105】
上記の構成によれば、慣性力の検出精度を改善できる。
【0106】
また、第4の態様に係る慣性力検出回路(10)では、第1~3の態様のいずれか1つにおいて、処理部(3)は、診断信号(T2)に基づいて、診断信号(T2)及び検出信号(A2)のうち少なくとも一方の大きさを補正する。
【0107】
上記の構成によれば、慣性力の検出精度を改善できる。
【0108】
また、第5の態様に係る慣性力検出回路(10)では、第1~4の態様のいずれか1つにおいて、信号生成部(2)は、診断信号(T2)に基づいて、テスト電圧(T1)及びドライブ電圧(D1)のうち少なくとも一方の振幅を補正する。
【0109】
上記の構成によれば、慣性力の検出精度を改善できる。
【0110】
第1の態様以外の構成については、慣性力検出回路(10)に必須の構成ではなく、適宜省略可能である。
【0111】
また、第6の態様に係る慣性力センサ(1、1A、1B)は、第1~5の態様のいずれか1つに係る慣性力検出回路(10)と、検出部(4、4A、4B)と、を備える。
【0112】
上記の構成によれば、検出部(4、4A、4B)が、ドライブ電圧(D1)が印加される電極とテスト電圧(T1)が印加される電極とをそれぞれ有する場合と比較して、検出部(4、4A、4B)の構成を簡略化することができる。
【0113】
また、第7の態様に係る慣性力センサ(1A、1B)では、第6の態様において、検出部(4A、4B)は、可動電極(61)の出力信号と固定電極(51)の出力信号との差動信号を処理部(3)へ出力する。
【0114】
上記の構成によれば、検出信号(A2)のノイズ及びオフセット誤差を低減できる。
【0115】
また、第8の態様に係る慣性力センサ(1A、1B)では、第7の態様において、検出部(4A、4B)は、第1のCV変換回路(7P)及び第2のCV変換回路(7Q)と、差動アンプ(46)と、コンデンサ(45)と、切替部(40)と、を有する。第1のCV変換回路(7P)及び第2のCV変換回路(7Q)は、固定電極(51)又は可動電極(61)に電気的に接続される入力端子と、固定電極(51)と可動電極(61)との間の静電容量(C)に応じた電圧を出力する出力端子と、を含む。差動アンプ(46)は、第1のCV変換回路(7P)の出力端子から出力される電圧と第2のCV変換回路(7Q)の出力端子から出力される電圧との差分電圧を処理部(3)へ出力する。コンデンサ(45)は、第1電極(451)と、第2電極(452)と、を含む。第1電極(451)は、固定電極(51)に電気的に接続されている。第2電極(452)は、第1電極(451)と対向している。切替部(40)は、第1状態と、第2状態と、を切り替える。第1状態は、第2電極(452)を第1のCV変換回路(7P)の入力端子に電気的に接続し、可動電極(61)を第2のCV変換回路(7Q)の入力端子に電気的に接続する状態である。第2状態は、第2電極(452)を第2のCV変換回路(7Q)の入力端子に電気的に接続し、可動電極(61)を第1のCV変換回路(7P)の入力端子に電気的に接続する状態である。
【0116】
上記の構成によれば、検出信号(A2)のノイズ及びオフセット誤差を低減できる。
【0117】
第6の態様以外の構成については、慣性力センサ(1、1A、1B)に必須の構成ではなく、適宜省略可能である。
【0118】
また、第9の態様に係る慣性力検出方法は、信号生成ステップと、処理ステップと、を含む。信号生成ステップでは、検出部(4、4A、4B)へ出力する信号を生成する。検出部(4、4A、4B)は、慣性力を電気信号に変換する。処理ステップでは、検出部(4、4A、4B)から出力される電気信号を処理する。検出部(4、4A、4B)は、固定電極(51)と、可動電極(61)と、を有する。可動電極(61)は、固定電極(51)に対向している。可動電極(61)は、固定電極(51)との対向方向において固定電極(51)に対して移動可能である。信号生成ステップは、ドライブ電圧生成ステップ(ST1)と、テスト電圧生成ステップ(ST2)と、を有する。ドライブ電圧生成ステップ(ST1)では、第1の周波数のドライブ電圧(D1)を固定電極(51)に印加し可動電極(61)を振動させる。テスト電圧生成ステップ(ST2)では、第1の周波数よりも低周波の第2の周波数のテスト電圧(T1)を固定電極(51)に印加し可動電極(61)を振動させる。処理ステップは、検出処理(ST4)と、診断処理(ST5)と、を有する。検出処理(ST4)では、検出信号(A2)に基づいて、固定電極(51)と可動電極(61)との間の静電容量(C)を検出する。検出信号(A2)は、可動電極(61)から出力される電気信号のうち可動電極(61)に加えられた慣性力の成分である。診断処理(ST5)では、診断信号(T2)に基づいて、検出部(4、4A、4B)の異常を診断する。診断信号(T2)は、可動電極(61)から出力される電気信号のうち第2の周波数の成分である。
【0119】
上記の構成によれば、検出部(4、4A、4B)が、ドライブ電圧(D1)が印加される電極とテスト電圧(T1)が印加される電極とをそれぞれ有する場合と比較して、検出部(4、4A、4B)の構成を簡略化することができる。
【0120】
上記態様に限らず、実施形態に係る慣性力センサ(1、1A、1B)の種々の構成(変形例を含む)は、慣性力検出方法にて具現化可能である。
【符号の説明】
【0121】
1、1A、1B 慣性力センサ
2 信号生成部
3 処理部
4、4A、4B 検出部
7P 第1のCV変換回路
7Q 第2のCV変換回路
10 慣性力検出回路
21 ドライブ電圧生成部
22 テスト電圧生成部
31 検出処理部
32 診断処理部
40 切替部
45 コンデンサ
46 差動アンプ
51 固定電極
61 可動電極
451 第1電極
452 第2電極
A2 検出信号
静電容量
D1 ドライブ電圧
ST1 ドライブ電圧生成ステップ
ST2 テスト電圧生成ステップ
ST4 検出処理
ST5 診断処理
T1 テスト電圧
T2 診断信号
図1
図2
図3
図4