(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-21
(45)【発行日】2024-03-29
(54)【発明の名称】無電解金属めっき用基材、装飾板、金属配線回路、および積層体
(51)【国際特許分類】
C23C 18/22 20060101AFI20240322BHJP
B32B 3/30 20060101ALI20240322BHJP
B32B 15/085 20060101ALI20240322BHJP
B32B 27/32 20060101ALI20240322BHJP
C23C 18/31 20060101ALI20240322BHJP
H05K 3/38 20060101ALI20240322BHJP
【FI】
C23C18/22
B32B3/30
B32B15/085 Z
B32B27/32 Z
C23C18/31 A
C23C18/31 Z
H05K3/38 A
(21)【出願番号】P 2019168163
(22)【出願日】2019-09-17
【審査請求日】2022-07-25
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】503361400
【氏名又は名称】国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】清水 和彦
(72)【発明者】
【氏名】工藤 孝廣
(72)【発明者】
【氏名】後藤 亜希
(72)【発明者】
【氏名】柳瀬 恵一
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 英治
【審査官】祢屋 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-160461(JP,A)
【文献】特開2014-001415(JP,A)
【文献】特開2015-025053(JP,A)
【文献】特開2014-188723(JP,A)
【文献】特開2014-100827(JP,A)
【文献】特開昭52-119426(JP,A)
【文献】特開昭64-017899(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 18/00
B32B 3/30
B32B 27/32
B32B 15/085
H05K 3/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオレフィン樹脂を含む面を有し、
前記面
のうち、走査型電子顕微鏡にて撮像した画像の開折れ線から得られる粗さ曲線10μm分の絶対値の平均値である算術平均粗さの2倍の値である平均突起高さが0.05μm以上である領域に、
表面に含酸素官能基を有し、かつ幅0.15μm以上かつ頂角100°以下の突起を、単位長さ10μm当たり5個以上
120個以下有する、
無電解金属めっき用基材。
【請求項2】
前記ポリオレフィン樹脂が、ポリエチレンまたはポリプロピレンである、
請求項1に記載の無電解金属めっき用基材。
【請求項3】
前記幅0.15μm以上かつ頂角100°以下の突起を有する領域の、走査型電子顕微鏡にて撮像した画像の開折れ線から得られる粗さ曲線10μm分の絶対値の平均値である算術平均粗さが、0.025μm以上3μm以下である、
請求項1または2に記載の無電解金属めっき用基材。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載の無電解金属めっき用基材と、
前記無電解金属めっき用基材の前記複数の突起上に配置された金属層と、
を有する装飾板。
【請求項5】
請求項1~3のいずれか一項に記載の無電解金属めっき用基材と、
前記無電解金属めっき用基材の前記複数の突起上に配置された金属層と、
を有する金属配線回路。
【請求項6】
ポリオレフィン樹脂を含む基材と、前記基材に隣接して形成された無電解金属めっき層と、を有する積層体であって、
前記基材の前記無電解金属めっき層と隣接
し、かつ走査型電子顕微鏡にて撮像した画像の開折れ線から得られる粗さ曲線10μm分の絶対値の平均値である算術平均粗さの2倍の値である平均突起高さが0.05μm以上である領域に、前記無電解金属めっき層側に突出し、
表面に含酸素官能基を有し、かつ幅0.15μm以上かつ頂角が100°以下である突起が、単位長さ10μm当たり5個以上
120個以下配置されている、
積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無電解金属めっき用基材、装飾板、金属配線回路、および積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、樹脂からなる基材上に金属からなる層を設けることが検討されており、例えば、無電解金属めっき法で金属層を形成すること等が検討されている。無電解金属めっき法では、樹脂表面に金属イオンを付着させ、当該金属イオンを還元して触媒部を形成する。そして、当該触媒部に無電解金属めっき溶液を接触させることで、樹脂表面に金属を析出させて金属層を形成する。
【0003】
しかしながら、一般的に、樹脂からなる基材上に形成された金属層は、その密着性が低い。また、十分な量の金属イオン(ひいては触媒部)を樹脂表面に付着させることも難しく、無電解金属めっき法によって均一な金属層を形成できないことがある。そこで、無電解金属めっき法を行う前に、樹脂表面に凹凸を形成し、金属イオンを付着しやすくしたりすることが提案されている。例えば、特許文献1では、エポキシ樹脂を含む基材を、有機溶剤やクロム酸液で処理する方法が提案されている(特許文献1等)。また、特許文献2では、基材中にフィラーを分散させておき、化学エッチングによりフィラーを取り除く方法が提案されている(特許文献2等)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開昭63-297572号公報
【文献】特開平5-59587号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、ポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂の表面に金属層を形成することも検討されている。しかしながら、ポリオレフィン樹脂は極性が小さく、上記特許文献1や特許文献2の技術によって、ポリオレフィン樹脂の表面に凹凸を形成することは難しい。またたとえ表面に凹凸を形成することができたとしても、無電解金属めっき法に用いられる多くの溶液は、水溶液である。そのため、これらの溶液を、ポリオレフィン樹脂表面に十分に濡れ広がらせることが難しい。したがって、基材と金属イオンや金属とを十分に接触させることができず、所望の金属層を形成できない、という課題があった。
【0006】
本発明は、上記課題を鑑みてなされたものである。すなわち、ポリオレフィン樹脂を含み、かつ所望の領域に容易に金属層を形成可能な無電解金属めっき用基材、およびこれを用いた装飾板、金属配線回路、ならびに積層体の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下の無電解金属めっき用基材を提供する。
ポリオレフィン樹脂を含む面を有し、前記面が、幅0.15μm以上かつ頂角100°以下の突起を、単位長さ10μm当たり5個以上有する、無電解金属めっき用基材。
【0008】
本発明は、以下の装飾板および金属配線回路も提供する。
上記無電解金属めっき用基材と、前記無電解金属めっき用基材の前記複数の突起上に配置された金属層と、を有する装飾板。
上記無電解金属めっき用基材と、前記無電解金属めっき用基材の前記複数の突起上に配置された金属層と、を有する金属配線回路。
【0009】
本発明は、以下の積層体も提供する。
ポリオレフィン樹脂を含む基材と、前記基材に隣接して形成された金属層と、を有する積層体であって、前記基材の前記金属層と隣接する領域に、前記金属層側に突出し、幅0.15μm以上かつ頂角が100°以下である突起が、単位長さ10μm当たり5個以上配置されている、積層体。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ポリオレフィン樹脂を含むにも関わらず、所望の領域に容易に金属層を形成可能な無電解金属めっき用基材とすることができる。また、当該無電解金属めっき用基材を利用して、各種装飾板、金属配線回路、および積層体を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1Aは、実施例2における、金属層を形成する前の基材の断面図であり、
図1Bは、当該基材上に金属層を形成した後(積層体)の断面図である。
【
図2】
図2Aは、実施例2の積層体から金属層を剥離したときの金属層の剥離面の状態であり、
図2Bは、金属層剥離後の基材の状態である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
前述のように、ポリオレフィン樹脂の極性の低さから、ポリオレフィン樹脂を主に含む基材に対して、無電解金属めっきを行うことは困難であった。これに対し、本発明者らは、基材がポリオレフィン樹脂を含む面を有し、当該面に、幅0.15μm以上かつ頂角100°以下である突起を、単位長さ10μm当たり5個以上含む無電解金属めっき用基材(以下、単に「基材」とも称する)であることにより、その複数の突起上に金属層(無電解金属めっき層)を容易に形成できることを見出した。その理由は、以下のように考えられる。
【0013】
基材が上記形状の突起を複数有することで、無電解金属めっき用の溶液がこれらの隙間に入りこみやすくなる。また特に、無電解金属めっき用の触媒を塗布した場合にも、触媒となる金属が突起同士の間に入りこんで定着しやすくなり、その表面に金属層(無電解金属めっき層)が形成されやすくなる。そしてさらに、当該複数の突起と、当該複数の突起上に形成される無電解金属めっき層との間でアンカー効果が生じやすく、基材と無電解金属めっき層とが強固に密着する、と考えられる。
【0014】
なお、後述のように複数の突起を原子状酸素ビームによって作製した場合には、基材表面に含酸素官能基が導入される。したがってこの場合、無電解金属めっき用の触媒をより表面に定着させやすくなり、より強固に密着した金属層(無電解金属めっき層)を形成できる。以下、当該基材について、詳しく説明する。
【0015】
[無電解金属めっき用基材]
本発明の基材は、ポリオレフィン樹脂を含み、当該ポリオレフィン樹脂を含む面に、無電解金属めっき法を利用して金属層を形成するための基材である。本明細書では、基材の表面形状を分析したときに、平均突起高さHが0.05μm以上である領域を、突起を有する領域、と判断する。ここで、平均突起高さHとは、基材の表面形状を分析したときの算術平均粗さRaの2倍の値とする。
【0016】
基材の算術平均粗さRaは、以下のように求められる。まず、基材の断面を走査型電子顕微鏡(以下、「SEM」とも称する)にて撮像する。そして、得られたSEM画像を処理して、表面をなぞる開折れ線を特定する。その後、当該開折れ線から、常法により傾きやうねりを除去し、粗さ曲線を得る。その粗さ曲線の任意の位置の10μm分について、絶対値の平均値を算術平均粗さRaとする。
【0017】
なお、上記突起を有する領域の算術平均粗さRaは、0.025μm以上3μm以下が好ましく、0.028~2μmがより好ましく、0.03~1.5μmがさらに好ましい。突起を有する領域の算術平均粗さRaが、当該範囲であると、上述のアンカー効果が十分に得られやすくなる。
【0018】
また本発明の基材は、上記突起を有する領域に、幅0.15μm以上かつ頂角100°以下の突起(以下、「特定の突起」ともと称する。)を、単位長さ10μm当たり5個以上有する。特定の突起の個数は、5~150個がより好ましく、6~120個がさらに好ましい。特定の突起の個数が当該範囲であると、上述のアンカー効果が十分に得られやすくなる。
【0019】
ここで、各突起の幅および頂角は、以下のように特定できる。まず、基材の断面のSEM画像の開折れ線の非閉鎖部側を突起の底部、底部に対する開折れ線側を突起とする。そして、各突起における開折れ線上の任意の1頂点と底部側における開折れ線上の任意の2頂点を結んで形成される三角形のうち、底部側の2頂点を結ぶ辺(底辺と呼ぶ)からの高さが最も大きな三角形の高さを、各突起の高さhaとする。また、当該三角形の底辺をその突起の突起幅waとする。
【0020】
さらに、各突起について、その高さh
aおよびその幅w
aから、以下の式に基づき、その頂角θ
aを算出する。
【数1】
【0021】
そして、単位長さ10μm当たりに、特定の突起(waが0.15μm以上かつθaが100°以下を満たす突起)が、いくつかあるかを特定する。なお、θaの下限値は、通常1°である。
【0022】
ここで、本発明における基材は、ポリオレフィン樹脂を主に含んでいればよく、本発明の目的および効果を損なわない範囲で、添加剤や他の樹脂を含んでいてもよい。ただし、基材の総質量に対するポリオレフィン樹脂の質量は、20質量%以上が好ましく、30質量%以上がより好ましい。一般的に、ポリオレフィン樹脂を上記範囲含む基材は、その表面に金属層を形成することが難しい。これに対し、本発明によれば、このような基材に対して無電解金属めっき法を利用して金属層を形成することが可能である。
【0023】
基材が含むポリオレフィン樹脂の種類は特に制限されず、その例には、ポリエチレン(直鎖状低密度ポリエチレン(L-LDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、および高密度ポリエチレン(HDPE)等を含む)や、ポリプロピレンが含まれる。
【0024】
また基材が含んでいてもよい添加剤の例には、公知のフィラー(充填剤)、滑剤、可塑剤、紫外線安定化剤、着色防止剤、艶消し剤、消臭剤、難燃剤、耐候剤、帯電防止材、抗酸化剤、着色剤(染料、顔料)等が含まれる。これらの添加剤は、本発明の効果を阻害しない範囲で最適な組み合わせを選択して用いればよい。また、基材の用途や所望によっては、他の添加剤として有機物質(他の樹脂でもよい)や金属ナノ粒子等の無機物質を含んでいてもよい。
【0025】
また、基材の形状は無電解金属めっきを行うことが可能な形状であればよく、その例には、平板状、多角柱状、袋状、管状、繊維状や、さらに複雑な三次元形状等が含まれる。また、その大きさや厚み等は特に制限されない。
【0026】
ここで、基材は、少なくとも一つの面に、上述の特定の突起を複数有していればよく、複数の面に上述の特定の突起を複数有していてもよい。また、基材の一つの面、もしくは複数の面の全体に、上述の特定の突起を複数有していてもよいが、例えば基材の一つの面もしくは複数の面の一部の領域のみに、上述の特定の突起を複数有していてもよい。基材の一部の領域のみに、上述の特定の突起を複数有する場合、当該領域にのみ、金属層を形成することができる。つまり、エッチング等を行うことなくパターン状の金属層を形成することができる。したがって、例えば装飾板の模様や、金属配線回路の配線等を容易に形成できる。
【0027】
ここで、上記基材の形成方法は、単位長さ当たりに、特定の突起が所望の量含まれるように表面を加工可能であれば特に制限されない。上述の複数の突起を形成する方法の一例には、原子状酸素ビームの照射やブラスト処理が含まれる。
【0028】
原子状酸素ビームの照射は、上記基材の表面のうち、突起を形成する領域に対して行う。原子状酸素ビームの生成は、気体力学膨張を利用する方法、イオン中性化法、電子刺激脱着(Electron Stimulated desorption:ESD)法、およびレーザーデトネーション法などの公知の方法で行うことができる。これらのうち、運動エネルギーが高い原子状酸素ビームを効率よく生成することができることから、レーザーデトネーション法が好ましい。
【0029】
レーザーデトネーション法では、酸素分子ガスおよびレーザー(特にはCO2レーザー)をいずれもパルス状に射出し、酸素分子ガスへのレーザー照射によって酸素分子ガスをプラズマ化する。上記プラズマにさらに上記レーザーが照射されて爆撃波が発生する(デトネーション)と、プラズマの熱エネルギーが運動エネルギーに変換され、同時にプラズマ中のイオンと電子とが再結合して、原子状酸素のビームが発生する。
【0030】
導入するレーザーのエネルギーは、8J/Pulse以上が好ましく、10J/Pulse以上がより好ましい。上記レーザーのエネルギーが8J/Pulse以上であると、上記基材に対して効率的に突起を形成できる。上記レーザーのエネルギーの上限は特に限定されないものの、20J/Pulse以下が好ましい。
【0031】
また、導入するレーザーの1秒間あたりの繰り返し数(パルスレート)は、5Hz以上が好ましく、12Hz以上がより好ましい。上記レーザーのパルスレートが12Hz以上であると、上記基材に対して効率的に突起を形成できる。上記レーザーのパルスレートの上限は特に限定されないものの、20Hz以下が好ましい。
【0032】
上記原子状酸素ビームの並進エネルギーは、1eV以上20eV以下が好ましく、2eV以上15eV以下がより好ましく、3eV以上10eV以下がさらに好ましい。
【0033】
上記原子状酸素ビームの速度は、5km/s以上13km/s以下が好ましく、6km/s以上10km/s以下がより好ましい。
【0034】
上記原子状酸素ビームの積算照射量は、1.0×1017atoms/cm2以上が好ましく、1.0×1019atoms/cm2以上がより好ましく、1.0×1020atoms/cm2以上がさらに好ましい。特に、上記積算照射量が1.0×1020atoms/cm2以上であると、上記基材に対して効率的に突起を形成できる。上記積算照射量の上限は特に限定されないものの、1.0×1022atoms/cm2以下とすることができる。
【0035】
上記原子状酸素ビームの照射時間は、十分な量の突起を形成可能であれば特に限定されないが、4時間以上が好ましく、7時間以上がさらに好ましく、9時間以上が特に好しい。上記照射時間の上限は特に限定されないが、一定の時間を超えると効果が頭打ちになると思われるため、たとえば30時間とすることができる。
【0036】
これらの原子状酸素ビームの照射条件は、基材の種類および各種物性などに応じて適宜調整すればよい。例えば、原子状酸素ビームの照射条件は、予め測定されて定められた、基材の種類と、原子状酸素ビームの照射条件と、の関係を示す対応表を参照する等して、決定できる。あるいは、これらの原子状酸素ビームの照射条件は、機械学習などを施した処理装置に、基材の種類と、原子状酸素ビームの照射条件と、の関係を算出させたりして、決定してもよい。
【0037】
(積層体)
本発明の積層体は、上述の基材と、当該基材に隣接して形成された金属層と、を有する。当該積層体の基材の金属層と隣接する領域には、金属層側に突出し、幅0.15μm以上かつ頂角100°以下である突起が、単位長さ10μm当たり5個以上配置されている。
【0038】
上述のように、基材がポリオレフィン樹脂を含んでいたとしても、特定の形状の突起を複数有することで、その上に金属層を形成できるだけでなく、これらを強固に密着させることができる。ここで、積層体が有する金属層の種類は、無電解金属めっきを利用して形成可能であれば、特に制限されない。
【0039】
また、金属層の厚みは、積層体の用途に合わせて適宜選択されるが、通常0.1~100μm程度が好ましく、0.5~80μmがより好ましく、1~50μmがさらに好ましい。金属層の厚みが当該範囲であると、金属本来の性質(例えば光沢や強度、導電性等)が得られやすくなる。
【0040】
上述の基材上に金属層を形成する工程は、公知の無電解金属めっき法と同様とすることができる。具体的には、基材表面の突起を有する領域に、触媒粒子を付着させる触媒付着工程と、当該触媒を活性化させるアクセレーター工程と、当該基材を無電解金属めっき浴に浸漬して金属を析出させる金属析出工程と、を含む方法とすることができる。
【0041】
例えば触媒付着工程では、パラジウムを含む水溶性パラジウム化合物、塩化第1スズ、塩酸等を含む混合コロイド溶液中に、基材を浸漬し、酸化還元反応により触媒となるパラジウムとスズとを含む微粒子を基材表面に付着させる。水溶性パラジウム化合物の例には、塩化パラジウム、硫酸パラジウム、酸化パラジウム、ヨウ化パラジウム、臭化パラジウム、硝酸パラジウム、酢酸パラジウム、テトラアミンパラジウムクロライド、ジニトロジアミンパラジウム、ジクロロジエチレンジアミンパラジウム等が含まれる。水溶性パラジウム化合物の濃度は、浸漬時間等に応じて適宜調整される。なお、触媒付着工程を行う前に、触媒の定着性を高めるため基材を洗浄する工程や、基材を、界面活性剤含有溶液に浸漬させる工程等を必要に応じて行ってもよい。
【0042】
続いて、必要に応じて基材の表面に付着しているパラジウム(触媒)を活性化させるアクセレーター工程を行う。例えば、基材を濃度が0.1%~10%程度の硫酸に浸漬することにより、基材の表面に付着しているスズを除去しパラジウムの反応性を高める。これによって、無電解金属めっき反応における初期析出を促進することができる。
【0043】
その後、基材を無電解金属めっき浴に浸漬し、基材表面のパラジウムを触媒として金属を析出させる金属析出工程を行う。このとき、基材表面には、無電解金属めっき液が含有する金属成分の種類に応じた金属または合金が適宜析出する。また、浸漬時間は、所望の金属層の厚みに応じて適宜選択される。
【0044】
無電解金属めっき浴は、例えばCu、Ni、Co、Au、Ag、Pd、Rh、Pt、In、Sn、P、S、V、Cr、Mn、Fe、Zn、Mo、Cd、W、Re、Tl等を一種、もしくは複数含む浴とすることができる。これらの金属の種類や濃度は、積層体の用途に応じて適宜される。
【0045】
金属析出工程後、必要に応じてさらに無電解金属めっき処理または電解めっき処理を行ってもよい。電解めっき処理は、公知の方法で行うことができる。電解めっき処理に用いる金属の例には、銅、ニッケル、銅-ニッケル合金、酸化亜鉛、亜鉛、銀、カドミウム、鉄、コバルト、クロム、ニッケル-クロム合金、スズ、スズ-鉛合金、スズ-銀合金、スズ-ビスマス合金、スズ-銅合金、金、白金、ロジウム、パラジウム、又はパラジウム-ニッケル合金等が含まれる。
【0046】
上記積層体は、装飾板や金属配線回路等を含む、広汎な用途に使用可能である。
【0047】
上記装飾板の例には、建築物の各種外装材や内装材(壁紙等);自動車の内装材や各種部品;家電製品(炊飯器、電子レンジ、冷蔵庫、アイロン、ヘアードライヤー、エアコンおよび空気清浄機等)のパネルや筐体;電子機器およびその周辺機器(ノートパソコン、スマートフォン、タブレット、デジタルカメラ、医療用電子機器、POSシステム、プリンター、テレビ、マウスおよびキーボード等)の筐体等が含まれる。さらに、包装材料等にも適用可能である。
【0048】
また、金属配線回路は、各種電子機器およびその周辺機器の集積回路等がその一例としてあげられる。
【実施例】
【0049】
以下、本発明の具体的な実施例を比較例とともに説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0050】
1.樹脂組成物の成形体の表面処理
3種類の樹脂製フィルムを用意し、それぞれの樹脂製フィルムの表面に以下の条件で原子状酸素ビームを照射して、評価用サンプルを作製した。なお、原子状酸素ビームを照射しなかった比較用サンプルも用意した。
【0051】
(原子状酸素ビームの照射装置)
原子状酸素照射装置: PSI社製、FAST-II(レーザーデトネーション法)
レーザー照射装置: 株式会社宇翔製、IR-SP
レーザー種: CO2レーザー
レーザー波長: 10.6μm
(原子状酸素ビームの照射条件)
平均酸素量: およそ120sccm/12Hz
レーザーのエネルギー :10J/Pulse
レーザーのパルスレート:12Hz
ビーム速度: 8.11km/s
照射時間: 3時間、12時間、または24時間
照射量: 3.882×1019atoms/cm2(3時間照射時)
1.553×1020atoms/cm2(12時間照射時)
3.106×1020atoms/cm2(24時間照射時)
照射温度: 室温
【0052】
使用した基材フィルムは、以下の通りである。いずれの基材フィルムも、50mm×50mm角形の形状を有していた。
ポリエチレン(L-LDPE):三井化学東セロ株式会社製、TUS-TCS#60、厚さ53μm
ポリプロピレン(CPP):東レフィルム加工株式会社製、トレファン ZK93FM、厚さ60μm
フッ素系樹脂(FEP):アズワン製、厚さ50μm
【0053】
2.評価
(各基材の表面状態の特定)
各サンプル(基材)について、以下の手順で表面状態を測定した。なお、各サンプルについて、液体窒素を用いた凍結破断法、またはイオンミリング法により断面を露出させて、その断面観察を行った。得られた断面のSEM画像を画像処理してサンプル(基材)の表面をなぞる開折れ線から一次近似直線を導出し、その傾きを除去した。さらに、当該開折れ線からうねりを除去して粗さ曲線を得た。その後、当該粗さ曲線から、単位長さ10μm分の絶対値の平均値を算出し、これを算術平均粗さRaとした。そして、当該算術平均粗さRaの2倍を、平均突起高さHとした。表1に結果を示す。
【0054】
得られた平均突起高さHが0.05μm以上である場合に、基材に突起があると判断し、平均突起高さHが0.05μm未満である場合は、基材に突起がない、と判断した。突起があるとしたサンプルについて、各突起の構造を以下のように詳しく確認した。そして、基材の突起を有する領域が、幅0.15μm以上かつ頂角100°以下の突起(特定の突起)を単位長さ10μm当たりにいくつ含むか、また全ての突起の平均高さ、および全ての突起の平均幅をそれぞれ以下の方法で特定した。
【0055】
具体的には、上述のSEM画像の開折れ線の非閉鎖部側を突起の底部、底部に対する開折れ線側を突起とし、各突起における開折れ線上の任意の1頂点と底部側における開折れ線上の任意の2頂点を結んで形成される三角形のうち、底部側の2頂点を結ぶ辺(底辺と呼ぶ)からの高さが最も大きな三角形における高さを、各突起の高さhaとした。また、上記三角形の底辺をその突起の幅waとした。
【0056】
さらに、各突起について、その高さh
aおよびその幅w
aから、以下の式に基づき、その頂角θ
aを算出した。
【数2】
【0057】
そして、上記開折れ線から、単位長さ10μm当たりに存在する、突起の幅wa0.15μm以上、かつθa100°以下である突起の個数を特定した。表1に結果を示す。
【0058】
さらに、全ての突起の高さhaの平均値を平均突起高さhとし、全ての突起の幅waの平均値を平均突起幅wとした。表1に結果を示す。
【0059】
(各基材上に作製した金属層の剥離強度)
各サンプルの突起を有する面(原子状酸素ビームを照射した面)に、以下の手順により金属層を形成した。
【0060】
各サンプルをエタノールに浸漬し、1分間超音波洗浄処理を行った。超音波洗浄処理後、各サンプルを、30~40℃のカチオン系界面活性剤(ヘキサデシルトリメチルアンモニウム・クロリド(コンディライザーFR、奥野製薬工業社製))に1分間浸漬させ、さらに水洗した。
【0061】
続いて、各サンプルを、30~40℃のパラジウム触媒添着剤(キャタリストC-7、奥野製薬社製)中に1分間浸漬させ、さらに水洗した。各サンプル表面にパラジウムが添着し、各サンプル表面が少し黒く変色した。
【0062】
さらに、各サンプルを、30~40℃のアクセレーター処理液(硫酸(濃度:100mL/L)および塩酸(濃度:5mL/L)の混合液)中に浸漬し、さらに水洗した。その後、各サンプルを、35℃の無電解ニッケル処理液(Ni-P(EXC-A、奥野製薬工業社製(濃度:80ml/L)および化学ニッケル(濃度150g/L)の混合液)中に2分間浸漬した。
【0063】
さらに、電解ニッケル処理液(スルファミン酸ニッケル(濃度:300g/L)、塩化ニッケル(濃度:10g/L)、およびホウ酸(濃度:30g/L)を含む溶液)中で、10分間通電処理を行い、電解めっきした。その後、各サンプルを電解銅めっき処理液(硫酸銅溶液(濃度:125g/L)、トップルチナH-300SW、奥野製薬工業社製(濃度:2.5mL/L)、およびトップルチナメークアップ(濃度5mL/L)の混合液)中に浸漬し、揺動した状態で100分間通電処理して電解めっきした。そして、水洗し、65℃の乾燥機中で乾燥させた。電解めっきの際には、電解ニッケル処理液中での通電によりめっき層の厚さを1μmとし、電解銅めっき処理液への浸漬によってめっき層の厚さを30μm程度とした。
【0064】
(金属層の90°剥離測定)
金属層の形成後、長方形の台の上に両面テープを貼り、5mm幅にカットした積層体の基材(樹脂)側を台上に貼り付けた。そして、金属層の端部を基材から剥がし、金属層にガムテープ片を巻いて外側を補強した。その後、ガムテープ片を巻いた部分にオートグラフの剥離試験装置のクランプを挟み、基材と両面テープの接着面を剥離した。そして、基材から金属層を一定ペースで剥離した。
【0065】
(積層体の膜構造解析)
金属層および基材の膜構造解析を、電界放出型走査電子顕微鏡(FE-SEM、日立ハイテクノロジーズ社製 SU8220)で行った。
図1Aに、実施例2において、金属層を形成する前の基材の断面図を示し、
図1Bに当該基材上に金属層を形成した後(積層体)の断面図を示す。さらに、
図2Aに、実施例2の積層体から金属層を剥離したときの金属層の剥離面の状態を示し、
図2Bに金属層剥離後の基材の状態を示す。
【表1】
【0066】
上記表1に示されるように、基材の表面に幅0.15μm以上、頂角100°以下の突起を、単位長さ10μm当たり5個以上含む場合(実施例1~3)には、金属層を形成可能であり、さらにはその剥離強度が非常に高かった(剥がれ難かった)。また、複数の突起を有する基材(
図1A参照)上に金属層を形成した場合、基材の突起の間に入りこむように、金属層が形成された(
図1B参照)。そして、これらを剥離した場合、
図2Aに示すように、金属層表面には糸状の樹脂(延伸された樹脂)が付着し、基材側でも、
図2Bに示すように、樹脂の一部が延伸されて糸状となった。つまり、基材と金属層とが非常に強固に密着し、これらの間でアンカー効果が生じていたといえる。
【0067】
これに対し、基材の表面に十分に突起がない場合(算術平均粗さが0.025μm以下である場合)には、金属層を形成できなかった(比較例1~4)。また、ポリオレフィン樹脂以外の樹脂(参考例のFEP)においては、たとえその表面に、幅0.15μm以上、頂角100°以下である突起を、単位長さ10μm当たり5個以上含むとしても、金属層の形成が困難であった。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明の無電解金属めっき用基材によれば、従来無電解金属めっきを行うことができなかったポリオレフィン樹脂に対して無電解金属めっきすることができる。したがって、各種装飾板や、金属配線回路等、種々の用途に使用可能である。