(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-21
(45)【発行日】2024-03-29
(54)【発明の名称】弾性表面波素子の製造方法
(51)【国際特許分類】
H03H 9/145 20060101AFI20240322BHJP
H03H 3/08 20060101ALI20240322BHJP
【FI】
H03H9/145 Z
H03H9/145 C
H03H3/08
(21)【出願番号】P 2019225922
(22)【出願日】2019-12-13
【審査請求日】2022-12-06
(73)【特許権者】
【識別番号】518453730
【氏名又は名称】三安ジャパンテクノロジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100156018
【氏名又は名称】若田 充史
(74)【代理人】
【識別番号】100081569
【氏名又は名称】若田 勝一
(72)【発明者】
【氏名】笹岡 康平
【審査官】志津木 康
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-091978(JP,A)
【文献】特開2017-220924(JP,A)
【文献】国際公開第2018/116680(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03H3/007-3/10
H03H9/00-9/76
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電基板と、前記圧電基板上に形成されたIDT電極とを備え、
前記IDT電極は、対をなす櫛型電極を有し、
前記櫛型電極は、それぞれバスバーと、各バスバーから対をなすバスバーに向けて延出し、かつ互いに交互に配置された複数本の電極指とを有し、
前記電極指の延出方向の先端部および基端部側に、それぞれ電極指上に重ねて付加部が形成された弾性表面波素子の製造方法において、
前記圧電基板上に第1のレジストを塗布する工程と、
前記第1のレジストに、露光及び現像により、前記IDT電極に相当する形状の剥離部を有する剥離パターンを形成する工程と、
前記剥離パターンの前記剥離部の底部、及び前記第1のレジスト上に、前記IDT電極形成用の第1の金属層を形成する工程と、
前記剥離パターン及び前記第1のレジストに形成された前記第1の金属層上にさらに前記付加部形成用の第2の金属層を形成する工程と、
前記第1のレジスト、前記第1の金属層及び前記第2の金属層が形成された圧電基板上に第2のレジストを塗布する工程と、
前記第2のレジストに、露光及び現像により、前記対をなす櫛型電極の各電極指と交差する位置及び方向を有する、付加部形成用の2列のレジスト残留部を形成する工程と、
前記2列のレジスト残留部以外の前記第2の金属層をドライエッチングにより除去する工程と、
前記第1のレジストと前記第2のレジストを、
前記第1のレジスト上の前記第1の金属層及び前記第2の金属層と共に剥離して、前記レジスト残留部に前記付加部が形成されたIDT電極を露出させる工程とを含む、弾性表面波素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電基板上にIDT電極が形成される弾性表面波素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
弾性表面波素子は、圧電基板上に電気的な極性が交互に対となるよう構成されたIDT電極と称される電極を形成し、且つ、前記IDT電極を1つ以上有し、櫛型となるように配置された電子デバイスである。その弾性表面波素子には、温度変化による周波数変動を抑える手段として、IDT電極を形成した圧電基板の表面を、例えば二酸化ケイ素を主成分とする保護層で覆う構造が従来から一般的に採用される。このような保護層を設けると共に、圧電基板表面上を伝搬するSurface Acoustic Wave(以下SAW)と呼ばれる振動で得られる周波数特性の周波数温度係数と、保護層の周波数温度係数を逆にすることで、温度変化に対する周波数特性の変動を抑制することができる。この構造の弾性表面波素子は温度補償型と称される。弾性表面波素子はIDT電極により圧電基板表面に振動を発生させて所望の特性を得るデバイスであるところ、横振動モードと呼ばれる不要な振動を発生させることで特性に影響を与えることが課題となることが確認されている。従来ではこの横振動モードの発生周波数をIDT電極の平面視における形状を変形することにより、発生する横振動モードの周波数の調整又は横振動モードのスプリアスの強度を小さくする等の対策をすることが知られている。ただしこれらの対策は充分ではない場合が多かった。その理由は、求められる周波数特性を得るためにはIDT電極の形状に制限があることから、その電極の形状を変形させて上記対策をする場合、周波数特性の劣化を招く傾向があるためである。
このような横振動モードのスプリアスを防ぐ手段、且つ、特性劣化を小さくする手段としてピストン構造が知られている。
【0003】
ピストン構造は例えば特許文献1及び特許文献2に示されている。これらのピストン構造の電極指は、電極指の先端部と基端部側に、それぞれその幅又は重量を増加させた部分を設けたものである。
図7及び
図8に略示する電極パターンは、ピストン構造を採用した電極指構造の一例である。
図7及び
図8に示すように、弾性表面波素子においては、圧電基板50にIDT電極51が形成され、IDT電極51は対をなす櫛型電極52と櫛型電極53とにより構成される。櫛型電極52と櫛型電極53は、それぞれバスバー52a及びバスバー53aと、バスバー52a及びバスバー53aからそれぞれ相手側バスバーに向けて延出された複数本の電極指52bと電極指53bとを有する。
【0004】
櫛型電極52の各電極指52bには、その延出方向の先端部と基端部側に、それぞれ電極指52b上に重量増加のために積層した付加部52c及び付加部52dが設けられる。櫛型電極53の各電極指53bにも、その延出方向の先端部と基端部側に、それぞれ同様の付加部53c及び付加部53dが設けられる。一方の櫛型電極52(53)の先端部の付加部52c(53c)は、他方の櫛型電極53(52)の基端部側の付加部53d(52d)に、弾性表面波の伝播方向、すなわち矢印Xに示す電極指52bと電極指53bの配列方向に対向している。
【0005】
付加部52c及び付加部52dと、付加部53c及び付加部53dとなる領域54は、その間の電極指52bと電極指53bの交差領域55より、音速が遅くなる。このような電極指構造をとることにより、電極指52bと電極指53bの交差領域55への基本波モード波の閉じこめと、不要波となる高次の横振動モードのスプリアスの抑制を図っている。
【0006】
図7に示す付加部の構造を
図9aに拡大して示す。
図9aに示すように、電極指52b上の付加部52c及び付加部52dの幅t2が、電極指52bの幅t1より狭い。電極指53b上の付加部53c及び付加部53dの幅も同様に、電極指53bの幅t1より狭い。
【0007】
図9bに示す例は、電極指52b上の付加部52e及び付加部52fの幅t3が、電極指52bの幅t1より狭い。電極指53b上の付加部53e及び付加部
53fの幅も同様に、電極指53bの幅t1より狭い。
【0008】
図9aの電極構造を実現するための従来の工程を
図10a~
図10hに示す。
図10aに示すように、まず洗浄したウエハ状の圧電基板50上に、IDT電極形成用の第1のレジスト61を形成する。この第1のレジスト61に対し、
図7及び
図8に示したIDT電極51を形成するための露光パターンマスクを通して露光し、現像する。これにより、
図10bに示すように、IDT電極に相当する部分のレジスト61が剥離されたパターン62が形成される。この剥離パターン62は、電極指52b及び電極指53bを形成するための溝状剥離部62aを有する。続いて、蒸着、スパッタリング等により、
図10cに示すように、IDT電極51形成のための第1の金属層63を形成する。この第1の金属層63は、溝状剥離部62aの部分において、櫛型電極の電極指52b又は電極指53bとなる。その後、第1のレジスト61を、その上の第1の金属層63と共に剥離する。これにより、
図10dに示すように、圧電基板50上に、電極指52b及び電極指53bを含むIDT電極51が露出した状態とする。
【0009】
続いて
図10eに示すように、IDT電極51を形成した圧電基板50の全面に、第2のレジスト64を塗布する。そして
図9aに示した付加部52c及び付加部52dと、付加部53c及び付加部53d形成用の露光パターンを有するマスクを通して第2のレジスト64に露光する。その後、現像することにより、
図10fに示すように、第2のレジスト64に、付加部形成用の窓状剥離部65aを有する剥離パターン65が形成される。
【0010】
次に、
図10gに示すように、窓状剥離部65aを有する第2のレジスト64に、蒸着やスパッタリング等により、第2の金属層66を形成する。この第2の金属層66は、窓状剥離部65aの部分において、電極指52b上の付加部52c(52d)又は電極指53b上の付加部53d(53c)となる。その後、第2のレジスト64を第2の金属層66と共に剥離することにより、
図10hに示すように、電極指52b及び53b上にそれぞれ付加部52c及び付加部52dと、付加部53c及び53dとが付加されたIDT電極51が形成される。
【0011】
図9bの付加部52e及び付加部52fと、付加部53e及び付加部53fとの形成は、
図10fにおいて、窓状剥離部65aの幅を、電極指52b及び電極指53bの幅より大きくすることにより、同様の工程で付加部が形成される。
【0012】
図9aに示すように、付加部52c及び付加部52dの幅t2と、付加部53c及び53dの幅t2を電極指52b及び電極指53bの幅t1より狭くしている理由は次の通りである。
図10fの窓状剥離部65aを形成する際における、剥離パターンの形成上、不可避の窓状剥離部65aの位置ずれを想定しているためである。このため、
図11aに示すように、窓状剥離部65aの位置が図面上、最も左の位置にある場合に形成される付加部52c1と、最も右の位置にある場合に形成される付加部52c2とが、電極指52bの幅t1内に収まるように設計している。
【0013】
図9bに示すように、付加部52e及び付加部52fの幅t3と、付加部53e及び53fの幅t3を電極指52b及び電極指53bの幅t1より広くしている理由も同様に、
図10fの第2のレジスト64における剥離パターン65の位置ずれを想定しているためである。このため、
図11bに示すように、窓状剥離部65aの位置が図面上、最も左の位置にある場合に形成される付加部52e1と、最も右の位置にある場合に形成される付加部52e2左端部とが、いずれも電極指52bを覆う位置に収まるように設計している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【文献】特許第5503020号公報
【文献】特許第5221616号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
上述のように、従来の弾性表面波素子においては、製造プロセスにおける位置合わせ精度の問題により、
図9aの例では、付加部52c及び付加部52dの幅t2と、付加部53c及び付加部53dの幅t2は、電極指52b及び電極指53bの幅t1より狭く設定されていた。また、
図9bの例では、付加部52e及び付加部52fの幅t3と、付加部53e及び付加部53fの幅t3は、電極指52b及び電極指53bの幅t1より広く設定されていた。このため、
図11aまたは
図11bに示すように、付加部が、電極指52b及び電極指53b上で弾性表面波の伝搬方向に位置ずれを起こしていた。このような位置ずれは、横振動モードのスプリアスを抑制する上で好ましくなく、特性の劣化を生じさせていた。
【0016】
本発明は、上記問題点に鑑み、横振動モードのスプリアスを抑制する上で好ましい電極構造の弾性表面波素子の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明の弾性表面波素子の製造方法の1つの態様は、圧電基板と、前記圧電基板上に形成されたIDT電極とを備え、前記IDT電極は、対をなす櫛型電極を有し、前記櫛型電極は、それぞれバスバーと、各バスバーから対をなすバスバーに向けて延出し、かつ互いに交互に配置された複数本の電極指とを有し、前記電極指の延出方向の先端部および基端部側に、それぞれ電極指上に重ねて付加部が形成された弾性表面波素子の製造方法において、前記圧電基板上に第1のレジストを塗布する工程と、前記第1のレジストに、露光及び現像により、前記IDT電極に相当する形状の剥離部を有する剥離パターンを形成する工程と、前記剥離パターンの前記剥離部の底部、及び前記第1のレジスト上に、前記IDT電極形成用の第1の金属層を形成する工程と、前記剥離パターン及び前記第1のレジストに形成された前記第1の金属層上にさらに前記付加部形成用の第2の金属層を形成する工程と、前記第1のレジスト、前記第1の金属層及び前記第2の金属層が形成された圧電基板上に第2のレジストを塗布する工程と、前記第2のレジストに、露光及び現像により、前記対をなす櫛型電極の各電極指と交差する位置及び方向を有する、付加部形成用の2列のレジスト残留部を形成する工程と、前記2列のレジスト残留部以外の前記第2の金属層をドライエッチングにより除去する工程と、前記第1のレジストと前記第2のレジストを、前記第1のレジスト上の前記第1の金属層及び前記第2の金属層と共に剥離して、前記レジスト残留部に前記付加部が形成されたIDT電極を露出させる工程とを含む。
【0018】
この製造方法は、第1のレジストに、櫛型電極形成用の剥離パターンを形成し、その剥離パターンに沿って第1の金属層を形成した後、その第1のレジストの剥離パターンをそのまま残し、その残した電極指用の剥離パターンの部分を利用して、付加部用の第2の金属層を、第1の金属層に重ねて形成する方法である。そして、第1のレジスト上に第2のレジストを重ね、第2の金属層のうち、付加部として不要な部分を除去するため、付加部形成用の、対をなす櫛型電極に共通の2列のレジスト残留部を残して、第2のレジストを除去する。そして、ドライエッチングにより、第2の金属層の不要部分を除去する方法である。このため、第1のレジストに形成された電極指用の剥離パターンを、付加部の形成にそのまま利用できる。その結果、付加部の幅を、その付加部が形成される電極指の幅と同じくし、かつ付加部と電極指とを、その弾性表面波伝播方向の位置を一致させて形成することができる。このため、横振動モードのスプリアスの抑制特性が良好な弾性表面波素子を提供することができる。
【0019】
また、フォトリソグラフィ技術に用いる露光装置として、製造対象となる弾性表面波素子に一般的に使用可能なものを使用しても前記特性が良好な弾性表面波素子を提供可能となる。このため、波長の短い露光光源を用いた高精度で高価な露光装置を使用する必要がないため、製造コストの面で有利である。
【発明の効果】
【0020】
本発明の弾性表面波素子の製造方法は、第1のレジストに、電極指を形成する電極パターンを形成し、電極パターンに電極指となる第1の金属層を形成した後、第1のレジストを剥離する前に、電極指に重ねる付加部となる第2の金属層を形成する方法である。このため、電極指に設ける付加部の幅を電極指の幅に一致させ、かつ付加部の幅方向の位置を電極指に合わせることができ、横振動モードのスプリアスの抑制特性の良好な弾性表面波素子を提供することができる。
また、波長の短い露光光源を用いた高精度で高価な露光装置を使用する必要がないため、製造コストの面で有利である。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明
の製造方法により製造する弾性表面波素子の
一例を模式的に示す断面図である。
【
図2】
図1の弾性表面波素子のIDT電極の電極パターンを模式的に示す平面図である。
【
図5a】
図2のIDT電極形成のための本発明の製造方法の第1の実施の形態における第1段階を示す断面図である。
【
図5b】本発明の製造方法の第1の実施の形態における第2段階を示す断面図である。
【
図5c】本発明の製造方法の第1の実施の形態における第3段階を示す断面図である。
【
図5d】本発明の製造方法の第1の実施の形態における第4段階を示す断面図である。
【
図5e】本発明の製造方法の第1の実施の形態における第5段階を示す平面図である。
【
図5g】本発明の製造方法の第1の実施の形態における第6段階を示す平面図である。
【
図6a】本発明の製造方法の第2の実施の形態における、
図5cに続く第4段階を示す断面図である。
【
図6b】本発明の製造方法の第2の実施の形態における第5段階を示す断面図である。
【
図6c】本発明の製造方法の第2の実施の形態における第6段階を示す平面図である。
【
図6e】本発明の製造方法の第2の実施の形態における第7段階を示す断面図である。
【
図6f】本発明の製造方法の第2の実施の形態における第8段階を示す断面図である。
【
図7】従来の弾性表面波素子の電極パターンを示す平面図である。
【
図9a】従来の弾性表面波素子の付加部を有する電極指構造の一例を示す平面図である。
【
図9b】従来の弾性表面波素子の付加部を有する電極指構造の他の例を示す平面図である。
【
図10a】従来の弾性表面波素子の製造方法の第1段階を示す断面図である。
【
図10b】従来の弾性表面波素子の製造方法の第2段階を示す断面図である。
【
図10c】従来の弾性表面波素子の製造方法の第3段階を示す断面図である。
【
図10d】従来の弾性表面波素子の製造方法の第4段階を示す断面図である。
【
図10e】従来の弾性表面波素子の製造方法の第5段階を示す断面図である。
【
図10f】従来の弾性表面波素子の製造方法の第6段階を示す断面図である。
【
図10g】従来の弾性表面波素子の製造方法の第7段階を示す断面図である。
【
図10h】従来の弾性表面波素子の製造方法の第8段階を示す断面図である。
【
図11a】
図9aに示す従来の弾性表面波素子の問題点を説明する図である。
【
図11b】
図9bに示す従来の弾性表面波素子の問題点を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の
製造方法により製造する弾性表面波素子の
一例を模式的に
図1に示す。この弾性表面波素子は、圧電基板1上にIDT電極2を形成している。IDT電極2は、
図2に示すように、対をなす櫛型電極3と櫛型電極4を有する。櫛型電極3と櫛型電極4は、それぞれバスバー3a及びバスバー4aと、バスバー3a及びバスバー4aにそれぞれ接続して形成された複数本の電極指3b及び電極指4bを有する。電極指3b及び電極指4bは、互いに交互に配置される。圧電基板1上にはIDT電極2等に接続される配線5及び配線6が配置される。
【0023】
図1に示すように、IDT電極2を覆うように、これらを覆う第1の保護層7aが形成されている。第1の保護層7a上には、電子回路を搭載する別の基板に接続するためのバンプ8が設けられる。圧電基板1上の配線5は、バンプ8に導体層9により接続される。櫛型電極4に接続される他の配線6は圧電基板1上の別の回路に接続される。第1の保護層7a上には、導体層9等を保護する第2の保護層7bが形成される。
【0024】
図2及び
図3に示すように、電極指3b及び電極指4bは、それぞれバスバー3a及びバスバー4aから対をなすバスバーに向けて延出して形成される。電極指3bの延出方向の先端部に、重量を付加する付加部3cが電極指3b上に重ねて形成されている。また、電極指3bの基端部側、すなわちバスバー3a側に、電極指3b上に重ねて、重量を付加するための付加部3dが形成されている。電極指4bの延出方向の先端部および基端部側にも、それぞれ電極指4b上に重ねて付加部4c及び付加部4dが形成されている。
【0025】
図2に示すように、電極指3bの先端部の付加部3cと、電極指4bの基端部側の付加部4dとは、矢印Xに示す弾性表面波の伝搬方向に位置を揃えて、音速の遅い領域10aとして形成される。また、電極指3bの基端部側の付加部3dと、電極指4bの先端部の付加部4cとは、矢印Xに示す方向の位置を揃えて、音速の遅い領域10bとして形成される。領域10aと領域10bとの間の領域が電極指の交差領域11となる。
【0026】
図4に示すように、付加部3d及び付加部4cの弾性表面波伝播方向の幅t4は、それぞれ付加部を形成する電極指3b及び電極指4bの幅t5と同じ(t4=t5)である。付加部3c及び付加部4dの弾性表面波伝播方向の幅もそれぞれ付加部3dや付加部4cの幅と同様に前記幅t4に形成される。また、
図2に示すように、付加部3c及び付加部3dの弾性表面波伝播方向の位置は、付加部を形成する電極指3bに一致させている。付加部4c及び付加部4dの弾性表面波伝播方向の位置も同様に、付加部を形成する電極指4bに一致させている。
【0027】
なお、付加部3c及び付加部3dの幅t4は、電極指3bの幅t5に等しいといえども、後述のような成膜技術によりこれらの電極指3bや付加部3c及び付加部3dを形成する際における、不可避の製造上の誤差は幅が同じとして認識される。具体的には、例えば2GHz程度の共振周波数特性を得る共振子を構成する場合、電極指3bの幅t5としては例えば0.4~0.6μm前後の幅のものを形成することになる。この場合、幅の差(t4-t5)として、±0.03μm程度の差は製造上不可避の差であり、本発明において、この程度の差があっても同一幅としてとらえることができる。また、電極指3bと付加部3c及び付加部3dの幅方向の位置のずれも、前記幅の約半分である±0.015μm程度の差も、同一位置として認識できる。電極指4bと付加部4c及び付加部4dとの幅の関係や位置についても同様である。なお、上記例においては、電極指3bと電極指4bの幅は同一であるとしたが、電極指3bと電極指4bの幅は異なる値に設計される場合でも本発明は適用可能である。
【0028】
この実施の形態において、圧電基板1に用いる圧電材料として、ニオブ酸リチウム(LiNbO3)が用いられているが、タンタル酸リチウム(LiTaO3)を用いてもよい。また、第1の保護層7aとして、好ましくは二酸化ケイ素(SiO2)が用いられる。ニオブ酸リチウムと二酸化ケイ素とは、周波数温度係数が逆である。このため、圧電基板1にニオブ酸リチウムを用い、第1の保護層7aとして二酸化ケイ素を用いた場合、温度変化に対する周波数特性が安定した温度補償型の弾性表面波素子が実現できる。
【0029】
IDT電極2には、例えばAl、Au、Cu、Ni、Pt、Ti、Cr、Agあるいはこれらの合金等を用いることができるが、他の金属あるいは合金を用いてもよい。付加部3c、3d、4c、4dとしては、重金属として、Au、Cu、Ag、Pt、Pd、W、Ta、Mo等の重い金属やその酸化物が、重量を付加する上において好ましい。
【0030】
圧電基板1は、不図示のキャリア基板上に設けられたものでもよい。キャリア基板は高抵抗の半導体又は絶縁体で構成され、例えば非晶質でない結晶形態を持つシリコンや結晶質のサファイアが用いられる。キャリア基板に用いられる材質としてはこれらに限定されず、多結晶シリコン、多結晶Al2O3、多結晶サファイアなど本発明の課題を解決しえるものであれば他の材質のものであってもよい。さらに、圧電基板1と不図示のキャリア基板との間に中間層を設ける場合もある。
【0031】
この実施の形態においては、電極指3bと電極指4bの交差領域11の両側の領域10a及び領域10bに、付加部3c及び付加部3dと、付加部4cと付加部4dとを設けたので、これらの領域10a、10bにおける音速を、交差領域11の音速より遅くすることができる。このため、電極指3bと電極指4bの交差領域11への基本波モード波の閉じこめと、不要波となる高次の横振動モードの抑制を行なうことができる。
【0032】
また、電極指3b(電極指4b)の幅t5と、これらにそれぞれ設ける付加部3c及び付加部3d(付加部4c及び付加部4d)の幅t4とを一致させ、かつ付加部3c及び付加部3d(付加部4c及び付加部4d)の幅方向の位置を電極指3b(4b)に合わせているので、付加部を形成している領域10aと領域10bにおける音速を揃えることができる。これにより、弾性表面波素子の横振動モードのスプリアスの抑制特性を揃えることができ、かつ良好な周波数特性を得ることができる。
【0033】
次に、
図5aないし
図5gにより、
図1ないし
図4に示した電極パターンを有する弾性表面波素子の製造方法の第1の実施の形態を説明する。まず、
図5aに示すように、洗浄したウエハ状の圧電基板1上に、IDT電極形成用の第1のレジスト12を形成する。第1のレジスト12としては、ネガ型またはポジ型のノボラック系レジストが使用可能であるが、他のレジストを使用してもよい。
【0034】
この実施の形態の第1のレジスト12は、下層レジスト12aと上層レジスト12bとの2層構造を有する。第1のレジスト12を2層構造とする理由は、
図5bに示すように、現像後のレジストの形状をオーバーハング形状にして、レジスト剥離を容易化するためである。下層レジスト12aには、上層レジスト12bの現像液に溶解可能な性質を持った材料を使用する。
【0035】
第1のレジスト12に対し、
図2に示したIDT電極2用の露光パターンマスクを通して露光し、現像する。これにより、
図5bに示すように、IDT電極2に相当する部分のレジスト12が剥離された剥離部を有する剥離パターン13が形成される。剥離パターン13の剥離部のうち、溝状剥離部13aは、電極指3b及び電極指4bに対応する部分に形成されたものである。
【0036】
剥離パターン13を有する第1のレジスト12上に、蒸着、スパッタリング等により、
図5cに示すように、IDT電極2形成のための第1の金属層14を形成する。剥離パターン13のうち、溝状剥離部13aの部分には、その底部に、電極指3b又は電極指4bとなる第1の金属層14が形成される。このような工程により、IDT電極2となる金属層の形成が行なわれる。すなわち、
図2に示した配線5や配線6を含む櫛型電極3や櫛型電極4の形成が行なわれる。
【0037】
従来の製造方法においては、
図10dに示したように、IDT電極2の形成の工程が終了した後、第1のレジスト61を剥離していた。しかしながら、この実施の形態においては、第1の金属層14を形成した後、第1のレジスト12を剥離することなく、
図5dに示すように、第1のレジスト12及び第1の金属層14を形成した上に、第2のレジスト15を塗布する。
【0038】
この第2のレジスト15としては、第1のレジスト12と同じものを使用しても良いが、好ましくは異なる特性のものを使用する。その理由は、後述の溝状剥離部15a及び溝状剥離部15bを形成する際に、第1のレジスト12の一部も若干剥離されて細くなり、溝状剥離部13aの幅が拡大されるおそれがあるからである。このため、第1のレジスト12に例えばアルカリ現像タイプのものを使用し、第2のレジスト15に有機溶剤現像タイプのものを使用することが好ましい。
【0039】
次に、
図5e及び
図5fに示すように、第2のレジスト15に、露光、現像により、電極指3bと電極指4bの配列方向に、2列の溝状剥離部15aと溝状剥離部15bを形成する。これらの溝状剥離部15a及び溝状剥離部15bは、双方とも、電極指3b及び電極指4bの各先端部と基端部側で交差する位置に設けられる。これらの溝状剥離部15a及び溝状剥離部15bの形成のため、現像液として、第1のレジスト12は剥離不能で、第2のレジスト15の露光部分または非露光部分のみが剥離可能な現像液を使用する。
【0040】
溝状剥離部15aの位置は、
図2に示した領域10bに相当する位置であり、溝状剥離部15bの位置は領域10bに相当する位置である。すなわち、溝状剥離部15aの位置は、電極指3bの先端部の付加部3cと、電極指4bの基端部側の付加部4dに相当する位置である。また、溝状剥離部15bの位置は、電極指3bの基端部側の付加部3dと、電極指4bの先端部の付加部4cに相当する位置である。このように溝状剥離部15a及び溝状剥離部15bを形成した段階では、第1のレジスト12は残留したままであり、溝状剥離部15a及び溝状剥離部15bの部分においては、溝状剥離部13aは第1のレジスト12内に残留したままで露出される。
【0041】
次に、溝状剥離部15a及び溝状剥離部15bを有する第2のレジスト15上に、
図5gに示すように、付加部用の第2の金属層16を形成する。この第2の金属層16の形成は、露出した第1のレジスト12の溝状剥離部13aの部分についても行なわれるから、溝状剥離部13aの箇所において、電極指3b及び電極指4b上に、それぞれ付加部3c(3d)及び付加部4d(4c)が形成される。
【0042】
続いて、第1のレジスト12と第2のレジスト15の両者を除去可能な現像液を用いて、これら第1のレジスト12と第2のレジスト15を同時に剥離することにより、これらのレジスト上に存在している第1の金属層14及び第2の金属層16も除去される。これにより、配線5及び配線6と、付加部3c及び付加部3dと、付加部4c及び付加部4dを有する櫛型電極3及び櫛型電極4が露出する。すなわち、
図2及び
図4に示すように、バスバー3a及びバスバー4aと、電極指3b及び電極指3bと、電極指3b上の付加部3c及び付加部3dと、電極指4b上の付加部4c及び付加部4dが露出する。
【0043】
上述のように、第1の実施の形態の弾性表面波素子の製造方法は、第1のレジスト12に、電極指を形成する剥離部を有する剥離パターン13を形成し、剥離パターン13を有する第1のレジスト12上に第1の金属層14を形成した後、第1のレジスト12を剥離する前に、電極指3b及び電極指4bに重ねる付加部3c及び3dと、付加部4c及び4dとなる第2の金属層16を形成する方法である。このため、電極指3bに設ける付加部3c及び3dと、電極指4bに設ける付加部4c及び付加部4dの幅t4を、電極指3b及び電極指4bの幅t5に一致させることができる。また、付加部3c及び3dと、付加部4c及び付加部4dの各幅方向の位置を、それぞれ電極指3bと電極指4bに合わせることができる。このため、領域10a及び領域10bにおける音速を揃えることができ、横振動モードのスプリアスの抑制特性の良好な弾性表面波素子を提供することができる。
【0044】
また、例えば2GHz程度の共振周波数を持つ弾性表面波素子の場合、レジストの剥離パターン形成のため、露光装置として、一般的にはi線ステッパーが用いられている。この実施の形態によれば、このような一般的な露光装置を用いた場合でも、付加部の位置及び幅を、電極指の幅及び位置に合わせることができる。このため、i線ステッパーより波長の短い露光光源を用いた高精度で高価な露光装置を使用する必要がないため、製造コストの面で有利である。また、さらに共振周波数の高い微細な電極パターン形成のため、露光光源として、例えばKrFエキシマレーザーあるいはArFエキシマレーザーを用いる場合も、これらよりさらに高精度で高価な露光装置を使用する必要がないため、製造コストの面で有利となる。
【0045】
次に本発明の弾性表面波素子の製造方法の第2の実施の形態を説明する。この第2の実施の形態は、電極指3b及び電極指4bを形成した後、その電極パターンのレジストをそのまま残し、その剥離パターンを使用して、付加部用の金属層を形成し、その後、付加部として不要となる金属層の部分をエッチングにより除去して付加部3c及び付加部3dと、付加部4c及び付加部4dを形成する方法である。
【0046】
この第2の実施の形態の製造方法においては、
図5aないし
図5gの段階のうち、
図5aないし
図5cまでの段階は、第1の実施の形態と同じである。第2の実施の形態においては、
図5cに示すように第1のレジスト12の剥離パターン13を利用してIDT電極を形成した後、
図6aに示すように、付加部用の第2の金属層18を、蒸着やスパッタリング等により、IDT電極上に形成する。この第2の金属層18は、第1のレジスト12の溝状剥離部13aの部分においては、電極指3b及び電極指4b上に形成される。
【0047】
次に
図6bに示すように、第2の金属層18上に第2のレジスト19を塗布する。この第2のレジスト19には、第1のレジスト12と異なる特性のものを使用する。すなわち、現像液として、第1のレジスト12は剥離不能で、第2のレジスト19の露光部分または非露光部分のみが剥離可能な現像液を使用する。
【0048】
次に、
図6c及び
図6dに示すように、第2のレジスト19への露光、現像により、櫛型電極3及び櫛型電極4の電極指3b及び電極指4bと交差する位置及び方向に、堤状をなすレジスト残留部19a及びレジスト残留部19bを形成する。すなわち、第2のレジスト19は、レジスト残留部19a及びレジスト残留部19b以外の部分を剥離する。レジスト残留部19bの位置は、電極指3bの先端部の付加部3c及び電極指4bの基端部側の付加部4dの位置に相当する。また、レジスト残留部19aの位置は、電極指3bの基端部側の付加部3d及び電極指4bの先端部の付加部4cの位置に相当する。この第2のレジスト19を剥離する時、現像液として、第2のレジスト19は剥離可能で、第1のレジスト12は剥離不能なものを使用する。
【0049】
次に、ドライエッチングにより、
図6eに示すように、レジスト残留部19a及びレジスト残留部19b以外の領域の第2の金属層18を除去する。これにより、レジスト残留部19a及びレジスト残留部19bの下に第2の
金属層18が残留するとともに、電極指3b上の付加部3c及び付加部3dが、第2の金属層18の残留部として形成される。また、電極指4b上に、付加部4c及び付加部4dが第2の金属層18の残留部として形成される。
【0050】
次に、
第1のレジスト12と、残留部19a、残留部19bの第2のレジスト19と、第1のレジスト12上の金属層14,18とを剥離する。これにより、
図2および図6fに示したように、電極指3b上に付加部3c及び付加部3dが形成され、電極指4b上に付加部4c及び付加部4dが形成された櫛型電極3及び櫛型電極4が露出する。
【0051】
このように、第2の実施の形態の弾性表面波素子の製造方法においても、第1のレジスト12に形成した剥離パターン13を利用して、電極指3b及び電極指4b上にそれぞれ付加部3c及び付加部3dと、付加部4c及び付加部4dが形成されたIDT電極2が形成される。このため、電極指3b及び電極指4bに設ける付加部3c及び付加部3dの幅t4と、付加部4c及び付加部4dの幅t4を、電極指3b及び電極指4bの幅t5に一致させることができる。また、付加部3c及び付加部3dと、付加部4c及び付加部4dの各幅方向の位置を、それぞれ電極指3bと電極指4bの幅方向の位置に合わせることができる。このため、領域10a及び領域10bにおける音速を揃えることができ、横振動モードのスプリアスの抑制特性の良好な弾性表面波素子を提供することができる。
【0052】
また、第2の実施の形態においても、付加部形成のため、櫛型電極形成のための露光光源を用いたものをそのまま使用して付加部形成を行なうことができる。このため、高精度で高価な露光装置を使用する必要がないため、製造コストの面で有利である。
【0053】
上述の実施の形態においては、IDT電極2の両側に配線5及び配線6が配置された例を示したが、共振子として用いられる弾性表面波素子の場合には、IDT電極2の両側に反射器が配置される場合がある。その場合には、付加部を除いたIDT電極と反射器が、第1の金属層により同時に形成され、その後、上述の実施の形態で説明した工程で付加部が形成される。
【0054】
以上、本発明についての説明を行なったが、上述した例に限らず、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々の変更、付加が可能である。
【符号の説明】
【0055】
1 圧電基板
2 IDT電極
3、4 櫛型電極
3a、4a バスバー
3b、4b 電極指
3c、3d、4c、4d 付加部
12 第1のレジスト
13 剥離パターン
13a、13b 溝状剥離部
14 第1の金属層
15 第2のレジスト
15a、15b 溝状剥離部
16、18 第2の金属層
19 第2のレジスト
19a、19b レジスト残留部