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特許7458067サマリウム-鉄-窒素系永久磁石材料の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-21
(45)【発行日】2024-03-29
(54)【発明の名称】サマリウム-鉄-窒素系永久磁石材料の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01F 41/02 20060101AFI20240322BHJP
   H01F 1/059 20060101ALI20240322BHJP
   B22F 3/00 20210101ALI20240322BHJP
   B22F 1/00 20220101ALI20240322BHJP
【FI】
H01F41/02 G
H01F1/059
B22F3/00 E
B22F1/00 Y
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2020084437
(22)【出願日】2020-05-13
(65)【公開番号】P2021180236
(43)【公開日】2021-11-18
【審査請求日】2023-01-24
(73)【特許権者】
【識別番号】598163064
【氏名又は名称】学校法人千葉工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】100078950
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 忠
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 哲治
【審査官】井上 健一
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-223263(JP,A)
【文献】国際公開第2018/173783(WO,A1)
【文献】特開2002-043110(JP,A)
【文献】特開2019-012811(JP,A)
【文献】特開2012-080073(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 41/02
B22F 3/00
B22F 1/00
H01F 1/059
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
サマリウム-鉄-窒素系磁石粉末に亜鉛粉末を1~4%、ステアリン酸を1%添加して、この混合粉末磁界中で配向して放電プラズマ焼結法により400℃で焼結することを特徴とするサマリウム-鉄系永久磁石材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サマリウム-鉄-窒素(以下、「Sm-Fe-N」と表記する)系の磁石粉末を焼結する永久磁石材料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高性能な希土類磁石であるネオジム-鉄-ボロン磁石は、コンピュ-タ周辺機器、民生用電子機器、計測・通信機器から自動車、医療機器まで幅広い分野で使用されており、その生産量が年々増加している。特に、環境問題を反映してハイブリッド車や電気自動車のモータ用として今後益々需要の増加が見込まれる。この結果、ネオジム-鉄-ボロン磁石の主成分の一つである希土類金属のネオジウム、およびネオジム-鉄-ボロン磁石の保磁力を高めるために添加する希土類金属のディスプロシウムの利用が急増しており、安定供給の確保に懸念が生じているため、使用量を削減するための技術開発が望まれる。
【0003】
このネオジム-鉄-ボロン磁石の代替材料として、サマリウムと鉄の金属間化合物(Sm2Fe17)を窒化したSm-Fe-N磁石がある。このSm-Fe-N磁石粉末の主相であるSm2Fe17N3相の磁気特性は、ネオジム-鉄-ボロン磁石の主相であるNd2Fe14B相の磁気特性に匹敵するほど優れている。しかし、Sm-Fe-N磁石粉末は高温で分解するため、高性能な焼結磁石に形成することができない。この結果、Sm -Fe-N磁石粉末は、主に樹脂で固着したボンド磁石として使用されている(特許文献1参照)が、磁石成分でない樹脂を多量に含むため磁気特性の向上が困難である。
【0004】
以上より、Sm-Fe-N磁石粉末の優れた磁気特性を活かすには、焼結してバルク(固体)の状態に形成することが望まれる。特許文献2および特許文献3では、Sm-Fe-N磁石粉末の主相であるSm2Fe17N3相を比較的低温の高圧下で焼結することが提案されているが、高圧化の設備の付加を伴い実用性に乏しい。また、衝撃成形法や冷間圧縮せん断法などが試験的に行われているが、実用化に至っていない。
【0005】
特許文献4は、磁性材料を亜鉛、アルミニウムまたは銅などの金属等と共に粉砕し、磁界を加えて材料を磁気的に配向させ、次いで材料を分解させない温度で加熱して、保磁力を向上させる磁石の製造方法を開示している。しかしながら、この方法によれば、磁性材料と亜鉛等とが反応し、磁性材料の体積を減少させてしまい、残留磁化が大幅に低下するという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2006-2187号公報
【文献】特開2017-55072号公報
【文献】再表2018-163967公報
【文献】特開平H06-349612号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
?本発明は、上記問題に鑑み、磁石成分の密度が高く、磁気特性に優れたSm-Fe-N系の焼結磁石を簡易な設備で安価に提供する製造方法と提案することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明においては、サマリウム-鉄-窒素系磁石粉末を放電プラズマ焼結法により分解温度以下で焼結してサマリウム-鉄系永久磁石材料を製造する。
磁石粉末に低融点金属である亜鉛粉末を1~4%添加する。
また、焼結前に磁界中で配向して異方性化する。
さらに、磁石粉末に焼結助剤であるステアリン酸を1%添加する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、焼結により磁石粉末を分解させることなく焼結することができ、Sm-Fe-N磁石の磁石成分の密度を高めて、磁気特性が向上したSm-Fe-N系磁石材料を簡易に製造でき安価に提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】焼結温度の違いにより比較したSm-Fe-N系磁石のヒステリシス曲線である。
図2】亜鉛の添加の有無の違いにより比較したSm-Fe-N系磁石のヒステリシス曲線である。
図3 亜鉛の添加量に対するSm-Fe-N系磁石の保磁力および磁化の変化を示すグラフである。
図4】磁界中の配向の有無の違いにより比較したSm-Fe-N系磁石のヒステリシス曲線である。
図5】ステアリン酸の添加の有無の違いにより比較したSm-Fe-N系磁石のヒステリシス曲線である。
図6】ステアリン酸の添加量の違いにより比較したSm-Fe-N系磁石のヒステリシス曲線である。
図7】ステアリン酸および亜鉛の添加の有無の違いにより比較したSm-Fe-N系磁石のヒステリシス曲線である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
発明者は、Sm-Fe-N系磁石粉末をバルクに成形する方法について鋭意検討したところ、Sm-Fe-N系磁石粉末が高温で分解するため、低温で焼結する放電プラズマ焼結法が有効であった。
また、Sm-Fe-N系磁石粉末を低温で焼結しても十分な密度が得られず、保磁力の向上が望めないので、亜鉛粉末などの低融点金属を数%程度添加した。
これらの条件下で製造した焼結磁石は磁気的に等方性であり、Sm-Fe-N系磁石粉末の優れた磁気特性を有効に発揮させるように、磁気的に異方性化するため、Sm-Fe-N系磁石粉末の焼結前に磁界中で配向した。
しかし、Sm-Fe-N系磁石粉末は比較的細かく、表面がなめらかでないため、単に磁界を印加するだけでは十分な配向が難しい。そこで、Sm-Fe-N系磁石粉末にあらかじめステアリン酸等の焼結助剤を添加・混合することにより、磁界中配向度合いを向上させたため、良好な磁気的異方性により高い磁化性能を示した。
以上の条件を組み合わせて、磁気的に異方性でありながら向上した保磁力を示すSm-Fe-N系磁石材料を得ることを確認した。
【実施例
【0012】
(実施例1)
まず、Sm-Fe-N系磁石粉末を放電プラズマ焼結法で焼結した磁石の試料について磁気特性を調べた結果を図1に示す。同図中、(a)はSm-Fe-N系磁石粉末を400℃で焼結した試料のヒステリシス曲線、(b)はSm-Fe-N系磁石粉末を500℃で焼結した試料のヒステリシス曲線を表す。試料(a)のヒステリシス曲線は、試料(b)のそれと比較して、緩やかな変化で幅が広くなっている。ヒステリシス曲線と磁界H軸との交点の間隔が保磁力の大きさを示し、間隔が広いほど保磁力に優れた永久磁石材料となる。また、ヒステリシス曲線が急激な変化でいびつな形になると、試料が単相ではなく、複相であることを示し、磁石粉末が分解していることを意味する。同図に示す上記結果より、500℃で放電プラズマ焼結法により焼結したSm-Fe-N系磁石は、Sm-Fe-N系磁石粉末が分解して、保磁力が低下することを確認した。
【0013】
(実施例2)
次に、Sm-Fe-N系磁石粉末に低融点金属粉末を少量添加し、この混合粉末を400℃の温度で放電プラズマ焼結法により焼結した磁石の試料について磁気特性を調べた結果を図2に示す。同図中、(a)はSm-Fe-N系磁石粉末をで放電プラズマ焼結法により400℃で焼結した試料のヒステリシス曲線、(b)はSm-Fe-N系磁石粉末に低融点金属である亜鉛粉末を5%添加した混合粉末を放電プラズマ焼結法により400℃で焼結した試料のヒステリシス曲線を表す。試料(b)のヒステリシス曲線は、試料(a)のそれと比較して、緩やかな変化で幅の広いヒステリシス曲線を示す。同図に示す上記結果より、Sm-Fe-N系磁石粉末に亜鉛粉末を5%添加した混合粉末を焼結した磁石は、保磁力が大きく向上するが、磁化が低下することに寄与することを確認した。この原因は、亜鉛粉末が非磁性であるためと思われる。
【0014】
そこで、Sm-Fe-N系磁石粉末に添加する亜鉛粉末の量を変えて、磁化の低下を抑えた上で保磁力が向上する範囲について調べた結果を図3に示す。同図は、Sm-Fe-N系磁石粉末に添加する亜鉛粉末の添加量に対する焼結磁石の保磁力および磁化の関係を表す。亜鉛粉末を添加したSm-Fe-N系磁石の保磁力は、亜鉛粉末の添加量1%までは僅かな向上にとどまったが、これを超える添加量では添加量の増加にしたがって高くなった。一方、亜鉛粉末を添加したSm-Fe-N系磁石の磁化は、亜鉛粉末の添加量を4%ほどまでは僅かな減少にとどまったが、4%を越えると急激に低下した。同図に示す上記結果より、Sm-Fe-N系磁石材料は、磁化の低下を抑えた上で保磁力を向上させるために、Sm-Fe-N系磁石粉末に添加する亜鉛粉末の最適な添加量の範囲が1~4%であることを確認した。
【0015】
(実施例3)
次に、Sm-Fe-N系磁石粉末を磁界中で配向することにより異方性化して、400℃で放電プラズマ焼結法により焼結した磁石の試料について磁気特性を調べた結果を図4に示す。同図中、(a)は、Sm-Fe-N系磁石粉末を400℃で放電プラズマ焼結法により焼結した試料のヒステリシス曲線、(b)はSm-Fe-N系磁石粉末を磁界中で配向した後400℃で放電プラズマ焼結法により焼結した試料のヒステリシス曲線を表す。試料(b)の保磁力は、試料(a)のそれとほぼ同等であるが、磁化が向上している。同図の上記結果より、Sm-Fe-N系磁石材料は、Sm-Fe-N系磁石粉末を磁界中で配向することにより磁化が向上することを確認した。
【0016】
(実施例4)
次に、Sm-Fe-N系磁石粉末に焼結助剤を少量添加し、この混合粉末を400℃で放電プラズマ焼結法により焼結した磁石の試料について磁気特性を調べた結果を図5に示す。同図中、(a)はSm-Fe-N系磁石粉末を磁界中で配向した後400℃で放電プラズマ焼結法により焼結した試料のヒステリシス曲線、(b)は磁石粉末に焼結助剤であるステアリン酸を1%添加した混合粉末を磁界中で配向した後400℃で放電プラズマ焼結法により焼結した試料のヒステリシス曲線を表す。試料(b)の保磁力は、試料(a)のそれとほぼ同等であるが、磁化が向上している。同図の上記結果より、Sm-Fe-N系磁石粉末を磁界中で配向する前にステアリン酸を少量添加することは磁化の向上に寄与することを確認した。
【0017】
そこで、Sm-Fe-N系磁石粉末に添加するステアリン酸の量を変えて、磁化が向上する範囲について調べた結果を図6に示す。同図中(a)~(d)は、Sm-Fe-N系磁石粉末を磁界中で配向した後400℃で放電プラズマ焼結法により焼結した試料のヒステリシス曲線をそれぞれ表すが、ステアリン酸の添加量を(a)は0%、(b)は1%、(c)は2%、試料(d)は3%とした。試料(a)と比較して、試料(b)の磁化の向上が顕著であった。同図の上記結果より、Sm-Fe-N系磁石粉末に添加するステアリン酸の最適な量は1%程度であると確認した。
【0018】
(実施例5)
以上の実施例を踏まえて、Sm-Fe-N系磁石粉末にステアリン酸を1%、亜鉛粉末を4%添加した混合粉末を、磁界中で配向した後400℃の温度で放電プラズマ焼結法により焼結した磁石の試料について磁気特性を調べた結果を図5に示す。同図中、(a)はSm-Fe-N系磁石粉末を400℃で放電プラズマ焼結法により焼結した試料のヒステリシス曲線、(b)は磁石粉末にステアリン酸を1%添加しさらに亜鉛粉末を4%添加した混合粉末を磁界中で配向した後400℃の温度で放電プラズマ焼結法により焼結した試料のヒステリシス曲線を表す。試料(b)の磁化と保磁力は、試料(a)のそれらと比較していずれも高い。同図の上記結果より、Sm-Fe-N系磁石粉末にステアリン酸を1%、亜鉛粉末を4%添加した混合粉末を、磁界中で配向した後400℃で放電プラズマ焼結法により焼結した磁石は、高い磁化と保磁力を有することを確認した。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7