(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-21
(45)【発行日】2024-03-29
(54)【発明の名称】検体の採取方法
(51)【国際特許分類】
A61G 12/00 20060101AFI20240322BHJP
G01N 1/10 20060101ALI20240322BHJP
【FI】
A61G12/00 D
A61G12/00 Z
G01N1/10 V
(21)【出願番号】P 2020098523
(22)【出願日】2020-06-05
【審査請求日】2023-01-13
(73)【特許権者】
【識別番号】518155292
【氏名又は名称】宝来メデック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114627
【氏名又は名称】有吉 修一朗
(74)【代理人】
【識別番号】100182501
【氏名又は名称】森田 靖之
(74)【代理人】
【識別番号】100175271
【氏名又は名称】筒井 宣圭
(74)【代理人】
【識別番号】100190975
【氏名又は名称】遠藤 聡子
(72)【発明者】
【氏名】▲宝▼▲来▼ 豊晴
【審査官】黒田 正法
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第03348890(US,A)
【文献】特開2011-041686(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第110154678(CN,A)
【文献】中国実用新案第210521113(CN,U)
【文献】米国特許出願公開第2016/0074268(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61G 12/00
G01N 1/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車に乗車する被験者の乗車席側の窓を閉塞した状態で、該窓の車外側の窓枠に沿って検査用シールドを設置する工程と、
前記窓を開けた状態で、車外側にいる作業者の両腕を、前記検査用シールドの本体部に形成された一対の第1の貫通孔から車内側に向けて差し入れて、前記第1の貫通孔に接続された腕被覆部を装着する工程と、
前記腕被覆部を装着した作業者が検査キットで被験者の検体を採取する工程と、
前記本体部に形成された第2の貫通孔を開口部として前記本体部に接続された袋状の物品収容部に、検体を採取した前記検査キットを投入する工程と、
前記検査キットが収容された前記物品収容部を前記検査用シールドから切り離す工程と、
前記窓を閉めた状態で前記検査用シールドを前記窓枠から取り外す工程と、を備える
検体の採取方法。
【請求項2】
前記検査キットが収容された前記物品収容部を前記検査用シールドから切り離す工程よりも前に、
前記物品収容部内に消毒液を注入する工程を有する
請求項
1に記載の検体の採取方法。
【請求項3】
前記検査キットが収容された前記物品収容部を前記検査用シールドから切り離す工程は、
前記物品収容部の所定の位置を圧着して、前記検査キットが収納された状態で前記物品収容部を密閉する工程と、
圧着箇所の所定の位置を起点として前記検査用シールドから前記物品収容部を切り離す工程と、を有する
請求項
1または請求項
2に記載の検体の採取方法。
【請求項4】
前記自動車に乗車する被験者の乗車席側の窓を閉塞した状態で、該窓の車外側の窓枠に沿って検査用シールドを設置する工程の前に、
前記本体部の車内に面する側の所定の位置に前記検査キットを取り付ける工程を有する
請求項
1から請求項
3の何れか一項に記載の検体の採取方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、検査用シールド、及び検査方法に関する。詳しくは、感染症患者、或いは疑似患者に対する感染症検査に際しての医療従事者の感染リスクを低減し、感染症検査を効率的に行い得る検査用シールド、及び検査方法に係るものである。
【背景技術】
【0002】
国内において、新型インフルエンザや新型コロナウイルスをはじめとする感染症患者は、感染症法により指定医療機関に搬送して隔離する必要がある。また、パンデミックの発生時のように、搬送患者数が多すぎて、指定医療機関に搬送できない場合には、感染症患者を隔離できる仮設の感染症対応型施設を建設したり、或いは国が借り上げた宿泊施設に軽症患者を一時的に待機させる等の対応が行われている。
【0003】
パンデミック発生時に簡易に感染症対応型施設を仮設する例として、例えば、特許文献1には、簡易に設置できるとともに、解体処分も容易な隔離ユニットが開示されている。具体的には、支柱部材と梁部材とを継手部材を介して連結して組み立てられるフレームと、該フレームに装着された隔離シートから構成されており、出入口には開閉可能なカーテンが設置されている。
【0004】
特許文献1によれば、パンデミック発生時に病院を始めとして各種施設において迅速かつ低コストで設置可能であり、これを病室や治療室あるいは患者用の待合室や通路等として活用することによって充分な隔離効果が得られるものとなっている。
【0005】
また、感染症に感染しているかどうか不明な患者(疑似患者)に対しては、感染の有無を検査により確認する必要がある。感染症への感染有無の検査方法としては、PCR(Polymerase Chain Reaction)検査が一般的に採用されている。PCR検査は、被験者である疑似患者の体液や粘膜などから検体を採取し、特定の遺伝子だけを増やし、増やした遺伝子を染色して検出装置にかけ、目視により目的の病原体の遺伝子を確認することができれば「陽性」、確認できなければ「陰性」と判定する検査方法である。
【0006】
ところで、PCR検査に際しては、検査を担当する医療従事者は、被験者と正対しながら被験者の鼻や喉の粘膜から検体を採取する。この時、被験者が正対する医療従事者の顔に向けて咳やくしゃみをしたとき、被験者から放出される浮遊菌や浮遊ウイルスから医療従事者を確実に保護する必要がある。そのため、医療従事者は、マスクに加えて、顔面全体を覆う保護シールド、さらには防護服等を装着しながら検査に対応している。
【0007】
しかしながら、前記のような従来の検査方法では、医療従事者一人あたりの検査数に限界があり、医療従事者の感染リスクも極めて高いものとなっていた。さらに、被験者数の大幅な増加に伴い防護服等が不足することにより検査が滞り、市中感染の拡大が一層懸念される事態となっていた。そこで、検査を担当する医療従事者の感染を確実に防止することを目的として、近年ではボックス型の検査システムも開発されている(非特許文献1)。
【0008】
また、PCR検査をさらに効率的に行うための方法として、各自治体においては被験者が自動車に乗ったままPCR検査を行うことができる、所謂ドライブスルー方式のPCR検査も導入されている(非特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【非特許文献】
【0010】
【文献】「PCR検査用『ボックス型検査システム』、『移動式PCR検査所』を開発」TSP太陽株式会社プレスリリース、2020年4月23日、http://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000007.000056254.html
【文献】「テントを活用した『ドライブスルー型PCR検査所』を供給開始」TSP太陽株式会社プレスリリース、2020年4月10日、https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000005.000056254.html
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
前記した非特許文献2によれば、医療従事者一人当たりの検査人数を大幅に増やすことができるとともに、病院内の敷地や道路上などに短時間で仮設の検査所を設置することができるというメリットがある。
【0012】
しかしながら、非特許文献2の検査方法においては以下のような問題を有している。即ち、防護服を着用した医療従事者が、自動車の窓越しに被験者の検体を採取する際、被験者から放出される浮遊菌や浮遊ウイルスが医療従事者の防護服に付着する可能性がある。そのため、医療従事者は、検査対象となる被験者が入れ替わる都度、防護服を消毒するか、或いは新しい防護服へ交換する必要があるが、検査の都度、消毒作業や防護服の交換を行っていたのでは、医療従事者の作業負担が大きくなり、また検査コストも莫大なものとなる可能性がある。
【0013】
本発明は、以上の点に鑑みて創案されたものであって、感染症患者、或いは疑似患者に対する感染症検査に際しての医療従事者の感染リスクを低減し、感染症検査を効率的に行い得る検査用シールド、及び検査方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
前記の目的を達成するために、本発明の検査用シールドは、一方側空間と他方側空間を仕切り、一方側空間にいる作業者の両腕を他方側空間に向けて差し入れ可能な一対の第1の貫通孔が形成された本体部と、作業者の手部を含む腕部全体を被覆し、前記第1の貫通孔から他方側空間に向けて延出された腕被覆部と、物品を出し入れ可能な開口部が形成され、前記本体部の所定の位置に取り付けられた袋状の物品収容部とを備える。
【0015】
ここで、検査用シールドが、一方側空間と他方側空間を仕切る本体部を備えていることにより、一方側空間にいる作業者(医療従事者)が他方側空間にいる被験者に対して医療処置(例えば感染症有無を調査するPCR検査)を行う間、被験者から放出される浮遊菌や浮遊ウイルスが一方側空間に流れ込むことを遮断することができる。
【0016】
また、本体部には、一方側空間にいる作業者の両腕を他方側空間に向けて差し入れ可能な一対の第1の貫通孔が形成されていることにより、検査用シールドの一方側空間にいる作業者の両腕を、第1の貫通孔に挿入して他方側空間に差し入れることが可能となる。そのため、一方側空間にいる作業者は、他方側空間にいる被験者に対して、検査用シールドを介した医療処置を施すことができる。
【0017】
また、作業者の手部を含む腕部全体を被覆し第1の貫通孔から他方側空間に向けて延出された腕被覆部を備えることにより、一方側空間から他方側空間に差し入れた作業者の腕や手の全体を腕被覆部で被覆することができる。従って、被験者から放出される浮遊菌や浮遊ウイルスが、作業者の腕や手に直接付着することを防止することができる。
【0018】
また、物品を出し入れ可能な開口部が形成され、本体部の所定の位置に取り付けられた袋状の物品収容部を備えることにより、被験者に対する医療処置を行う際に使用した使用済みの医療器具(例えば、PCR検査に使用する採取棒や検体採取容器であり、これらを総称して「検査キット」という。)を、係る物品収容部に収容することができる。さらに、この物品収容部に予め消毒液等を注入しておくことで、収容された医療器具の消毒を行い得るため、医療器具に付着した菌やウイルスが拡散することを防止することができる。
【0019】
また、本体部には、一方側空間と他方側空間を連通する第2の貫通孔が形成され、物品収容部は、第2の貫通孔を開口部として一方側空間に向けて延出された構成である場合には、物品収容部と本体部を一体化することができるため、製造コストを低減することができる。
【0020】
前記の目的を達成するために、本発明の検査方法は、自動車に乗車する被験者の乗車席側の窓を閉塞した状態で、該窓の車外側の窓枠に沿って検査用シールドを設置する工程と、前記窓を開けた状態で、車外側にいる作業者の両腕を、前記検査用シールドの本体部に形成された一対の第1の貫通孔から車内側に向けて差し入れて、前記第1の貫通孔に接続された腕被覆部を装着する工程と、前記腕被覆部を装着した作業者が検査キットで被験者の検体を採取する工程と、前記本体部に形成された第2の貫通孔を開口部として前記本体部に接続された袋状の物品収容部に、検体を採取した前記検査キットを投入する工程と、前記検査キットが収容された前記物品収容部を前記検査用シールドから切り離す工程と、前記窓を閉めた状態で前記検査用シールドを前記窓枠から取り外す工程とを備える。
【0021】
ここで、自動車に乗車する被験者の乗車席側の窓を閉塞した状態で、該窓の車外側の窓枠に沿って検査用シールドを設置する工程を備えることにより、自動車の車外側の窓枠に沿って検査用シールドを設置することができる。このとき、被験者の乗車席側の窓が閉塞されているため、車内に浮遊する浮遊菌や浮遊ウイルスが車外に放出されることによる作業者の感染リスクを低減することができる。
【0022】
また、窓を開けた状態で、車外側にいる作業者の両腕を、検査用シールドの本体部に形成された一対の第1の貫通孔から車内側に向けて差し入れて、第1の貫通孔に接続された腕被覆部を装着する工程を備えることにより、車外にいる作業者の両腕を第1の貫通孔から車内側向けて差し入れることで腕被覆部を装着することができる。そのため、車外にいる作業者は、車内にいる被験者に対して検査用シールドを介した医療処置を施すことができるため、処置を施す間において被験者から放出される浮遊菌や浮遊ウイルスが作業者に直接付着することを防止することができる。
【0023】
また、腕被覆部を装着した作業者が検査キットで被験者の検体を採取する工程を備えることにより、検査キットを用いて、被験者の鼻や喉の粘液から感染症検査のための検体を採取することができる。
【0024】
また、本体部に形成された第2の貫通孔を開口部として本体部に接続された袋状の物品収容部に、検体を採取した検査キットを投入する工程を備えることにより、作業者は検査用シールドを装着したまま、被験者から採取した検体が付着した検査キットを、開口部に投入して物品収容部に収容することができる。
【0025】
また、検査キットが収容された物品収容部を検査用シールドから切り離す工程を備えることにより、検査用シールドから切り離した検査キットを、物品収容部に収容された状態で検査機関等に持ち込むことができる。従って、検査キットを検査機関等に持ち込む過程において、検査キットに付着した菌やウイルスが拡散することなく、安全に運搬することができる。
【0026】
また、窓を閉めた状態で検査用シールドを窓枠から取り外す工程を備えることにより、被験者に対する医療処置の終了後に検査用シールドを回収することができる。このとき、被験者の乗車側の窓は閉められた状態であるため、検査用シールドを取り外す工程において、車内の浮遊菌や浮遊ウイルスが車外に流出することを防止することができる。
【0027】
また、検査キットが収容された物品収容部を検査用シールドから切り離す工程よりも前に、物品収容部内に消毒液を注入する工程を有する場合には、消毒液が注入された物品収容部に検査キットを投入することができる。従って、被験者から放出された浮遊菌や浮遊ウイルスが付着した検査キットを消毒することができるため、検査キットを安全に検査機関まで運搬することができる。
【0028】
また、検査キットが収容された物品収容部を検査用シールドから切り離す工程は、物品収容部の所定の位置を圧着して、検査キットが収納された状態で物品収容部を密閉する工程を有する場合には、検査キットを物品収容部内に密閉することができる。従って、検査キットに付着した菌やウイルスが外部に漏れ出すことがないため、検査キットを安全に検査機関まで運搬することができる。
【0029】
また、圧着箇所の所定の位置を起点として検査用シールドから物品収容部を切り離す工程を有する場合には、物品収容部を検査用シールドから切り離したとしても、検査用シールドの本体部の切り取り面は圧着された状態となる。そのため、車外側と車内側が検査用シールドで隔絶された状態となるため、被験者から放出される浮遊菌や浮遊ウイルスが車外側に流れ込むことを遮断することができる。
【0030】
また、自動車に乗車する被験者の乗車席側の窓を閉塞した状態で、窓の車外側の窓枠に沿って検査用シールドを設置する工程の前に、本体部の車内に面する側の所定の位置に検査キットを取り付ける工程を有する場合には、検査工程において、感染リスクを少なくし、効率的に検査キットの準備をすることができる。
【0031】
本発明に係る検査用シールド、及び検査方法は、感染症患者、或いは疑似患者に対する感染症検査に際しての医療従事者の感染リスクを低減し、感染症検査を効率的に行い得るものとなっている。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図1】本発明の実施形態に係る検査用シールドの全体概略図であり(a)は裏面、(b)は表面からみた斜視図である。
【
図2】本発明の実施形態に係る検査用シールドの使用状態を示す図である。
【
図3】本発明の実施形態に係る検査用シールドを用いた感染症検査の使用手順を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参酌しながら説明し、本発明の理解に供する。なお、以下の説明においては、検査用シールドを設置対象物である自動車に設置して医療従事者(作業者)と被験者が検査用シールドを介して対峙した状態において、上方に向かう方向を上方向、上方向の反対方向を下方向、上方向および下方向により表される軸方向を鉛直方向、鉛直方向と垂直な軸方向を水平方向とそれぞれ定義する。また、検査用シールドを自動車の窓枠に設置した状態において、検査用シールドの車内側の面を表面、車外側の面を裏面とそれぞれ定義する。
【0034】
まず、本発明の実施形態に係る検査用シールド1の構成について
図1に基づいて説明する。検査用シールド1は、ポリエチレン、又はポリプロピレン等の、一方側空間から他方側空間が透視できる軽量かつ耐水性に優れた材質より構成されており、本体部10、腕被覆部20、及び物品収容部40から構成されている。
【0035】
ここで、必ずしも、検査用シールド1はポリエチレン、又はポリプロピレン等の材質から構成されている必要はない。但し、本発明の実施形態に係る検査用シールド1は、主に屋外においてドライブスルー方式の感染症検査の際に使い捨て使用されるものであるため、製造コストが安く、かつ耐水性にも優れる材料としてポリエチレンやポリプロピレン等の材質から構成されていることが好ましい。
【0036】
本体部10は、略方形状からなり、略中央部には水平方向に一対の円形状の第1の貫通孔50が形成されている。第1の貫通孔50は、一方側空間(車外)にいる作業者が、本体部10で仕切られた他方側空間(車内)に向けて腕を差し入れることが可能となっており、一般的な成人の腕周りの大きさと略同じ大きさに形成されている。
【0037】
ここで、必ずしも、本体部10の形状は方形状である必要はない。検査用シールド1を設置する設置対象物の大きさや形状に合わせて、適宜変更することができるものとする。例えば、検査用シールド1の設置対象物として自動車を想定する場合には、一般的な自動車の運転席側、助手席側、後部座席側の各窓の一面を覆うことができる程度の形状、大きさとすることができる。
【0038】
また、必ずしも、第1の貫通孔50は円形状である必要はない。車外にいる作業者の両腕を車内空間に向けて差し入れることが可能であれば、いかなる形状のものであってもよい。但し、円形状であることにより、腕を差し入れる際の第1の貫通孔50の内周部分での引っ掛かり等を防止して、よりスムーズに差し入れることが可能となる。
【0039】
腕被覆部20は、車外にいる作業者が第1の貫通孔50から両腕を差し入れた際に、車内空間に露出する手や腕全体を被覆するためのものであり、第1の貫通孔50から車内空間に向けて延出する略円筒形状であり、先端部分が親指の指先とそれ以外の指先が収納できるミトン形状に形成されている。
【0040】
腕被覆部20の基端は第1の貫通孔50の外周縁で本体部10と一体化されており、作業者は車外から第1の貫通孔50に腕を差し入れて、先端まで腕を差し込むことで、腕被覆部20を装着することができる。なお、腕被覆部20の長さ、及び大きさは、一般的な成人の体格に合わせたサイズとなっているが、係るサイズは使用する作業者に応じて適宜変更することができるものとする。
【0041】
ここで、必ずしも、腕被覆部20は、
図1に示すような形状である必要はない。例えば、先端部分の形状を、作業者の各指先の形状に合わせた手袋状に形成してもよく、或いは有底の円筒形状に形成してもよい。
【0042】
腕被覆部20の下方位置には、被験者に対する感染症有無の検査を行う際に採取した検体が付着した検査キットを収納するための物品収容部40が備えられている。物品収容部40は第1の貫通孔50の下方位置に形成された第2の貫通孔60を開口部として、係る第2の貫通孔60から車外に向けて延出する袋状に形成されている。
【0043】
ここで、必ずしも、物品収容部40は、第2の貫通孔60を開口部として、本体部10と一体となった構造である必要はない。例えば、本体部10の表面の位置に、開口部が形成された袋状の物品収容部40を、本体部10に対して着脱自在に設けるようにしてもよい。
【0044】
本体部10の表面の所定の位置(
図1では、腕被覆部20よりも上方位置であるが、これに限定されるものではない。)には、感染症有無の検査に使用される検査キット70が着脱自在に取り付けられている。検査キット70は、被験者の鼻や喉の粘膜を採取するための採取棒71と、採取した検体を保管するための試薬入りの検体採取容器72から構成され、これらが一つのパッケージとなっている。この検査キット70は、検査用シールド1を被験者が乗車する自動車の窓枠に設置する直前に、検査用シールド1の本体部10に両面テープ等の接着手段により取り付けられる。
【0045】
ここで、必ずしも、検査キット70は本体部10に取り付ける必要はない。例えば、検査場の入口にて被験者に検査キット70を予め配布しておき、検査開始時に被験者から作業者に検査キットを受け渡すようにしてもよい。但し、検査キット70を本体部10に事前に取り付けておくことで、感染症検査を効率的に行うことができるとともに、作業者と被験者の接触を避け、作業者の感染リスクを低減することができる。
【0046】
即ち、検査場の入口において、被験者に検査キット70を配布する場合には、配布のための人員が必要となるとともに、配布時に配布担当者と被験者が濃厚接触することによる感染リスクが高まる可能性がある。一方、検査キット70を検査用シールド1に取り付けておくと、作業者は検査用シールド1を装着した状態で検査キット70を取り出すことができるため、作業が効率的であるとともに、検査キット70の準備に際して被験者との濃厚接触を避けることができる。
【0047】
以上が本発明の実施形態に係る検査用シールド1の主な構成である。次に、本発明の実施形態に係る検査用シールド1を用いた感染症の検査方法について、
図2、及び
図3に基づいて説明する。本発明の実施形態に係る検査用シールド1は、主に被験者が自動車に乗ったままの状態で検査を受けることができるドライブスルー方式の検査において使用するものであるが、特に係る実施形態に限定されるものではない。
【0048】
<工程1:被験者が乗車する自動車の誘導>
検査場に到着した被験者M2が乗車する自動車を所定の検査位置まで誘導し、停止させる。このとき、被験者M2が乗車する自動車の車内に蔓延する浮遊菌や浮遊ウイルスが車外に放出されることを防止するため、少なくとも被験者M2が乗車する乗車席側の窓は閉められた状態とし、より好ましくは自動車の窓は全て閉められた状態とする。
【0049】
<工程2:検査用シールドの設置>
使用する検査用シールド1を被験者M2が乗車する乗車席側の窓の全体が覆われるように、窓枠に設置する。検査用シールド1の窓枠への設置に際しては、両面テープ、或いはマスキングテープ等の接着手段を使用することができる。
【0050】
<工程3:窓の開放>
検査用シールド1の設置が完了したら、作業者M1は被験者M2に対して窓を開放するように指示する。被験者M2は、指示に従い、乗車席側の窓を開放する。このとき、車内の浮遊菌や浮遊ウイルスは、設置された検査用シールド1により遮断され、車外に放出されることを防止することができる。
【0051】
<工程4:検査用シールドの装着>
窓の開放が完了すると、作業者M1は、検査用シールド1の第1の貫通孔50に腕を差し入れて、両腕に腕被覆部20を装着する。これにより、検査用シールド1の装着が完了する。
【0052】
<工程5:検査キットの準備>
腕被覆部20に腕を通し、検査用シールド1を装着した作業者M1は、検査用シールド1の表面に取り付けられている検査キット70を取り外して、内包されている採取棒71を準備する。
【0053】
<工程6:検体の採取>
作業者M1は、採取棒71を操作して被験者M2の鼻や喉に付着している検体を採取する(
図2)。採取した検体は検体採取容器72に入れ、キャップにより密閉する。
【0054】
<工程7:検査キットの物品収容部への投入>
作業者による検体の採取が完了すると、検体が入っている検査キット70(検体採取容器)を開口部(第2の貫通孔60)から物品収容部40に投入する(
図3(a))。
【0055】
<工程8:物品収容部の圧着>
物品収容部40に検査キット70を収納したら、物品収容部40の所定の位置を、例えばハンディタイプの熱圧着機で圧着する(
図3(b))。圧着により、物品収容部40は密閉された状態となるため、検査キット70に付着する菌やウイルスが外部に放出されることを防止することができる。
【0056】
<工程9:物品収容部の切り離し>
圧着された箇所を起点として、本体部10から物品収容部40を切り離す(
図3(c))。切り離され、内部に検査キット70が収容された物品収容部40は、密閉状態のまま回収された後に検査施設に持ち込まれて、PCR検査等の遺伝子検査にかけられる。
【0057】
また、圧着された箇所を起点として物品収容部40が切り離されることにより、本体部10の切り取り面も圧着された状態となる。そのため、車外と車内が検査用シールド1で隔絶された状態が維持されるため、被験者から放出される浮遊菌や浮遊ウイルスが車外に流れ込むことを遮断することができる。
【0058】
<工程10:窓の閉塞>
検査が完了し、検査キット70の回収が完了したら、作業者M1は被験者M2に対して窓を閉塞するよう指示する。
【0059】
<工程11:検査用シールドの取り外し>
窓が閉塞されたことを確認した後に、作業者M1は、検査用シールド1を取り外して回収する。回収された検査用シールド1は、表面に菌やウイルスが付着している可能性が高いため、表面を内側にして折り畳み、定められた廃棄方法に従って廃棄する。
【0060】
以上の一連の検査工程が終了したら、次の被験者を受け入れ、再び工程1に戻って検査が開始される。なお、例えば、工程2の検査用シールド1の自動車への設置の前に、感染症検査に使用する検査キット70を検査用シールド1の表面の所定の位置に取り付ける工程を有するようにしてもよい。これにより、前記した通り、検査の過程で検査キット70を容易に取り出せることができるため、検査を効率的に行うことができる。
【0061】
また、工程7の検査キット70の物品収容部40への投入の前後に消毒液を物品収容部40内に注入するようにしてもよい。これにより、検査の過程で、検査キット70の外側に付着した浮遊菌や浮遊ウイルスを消毒することができる。従って、検査キット70が収容された物品収容部40を検査機関に運搬する過程において、仮に物品収容部40の一部が破断したとしても、検査キット70に付着する菌やウイルスが蔓延することを防止することができる。
【0062】
以上、本発明に係る検査用シールド、及び検査方法は、感染症患者、或いは疑似患者に対する感染症検査に際しての医療従事者の感染リスクを低減し、感染症検査を効率的におこなうことができる。
【符号の説明】
【0063】
1 検査用シールド
10 本体部
20 腕被覆部
40 物品収容部
50 第1の貫通孔
60 第2の貫通孔
70 検査キット
71 採取棒
72 検体採取容器
M1 作業者
M2 被験者