(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-21
(45)【発行日】2024-03-29
(54)【発明の名称】流体分析用チップ
(51)【国際特許分類】
G01N 35/10 20060101AFI20240322BHJP
G01N 37/00 20060101ALI20240322BHJP
B81B 1/00 20060101ALI20240322BHJP
G01N 35/08 20060101ALI20240322BHJP
【FI】
G01N35/10 A
G01N37/00 101
B81B1/00
G01N35/08 A
(21)【出願番号】P 2022552274
(86)(22)【出願日】2021-03-10
(86)【国際出願番号】 KR2021002976
(87)【国際公開番号】W WO2021187800
(87)【国際公開日】2021-09-23
【審査請求日】2022-08-29
(31)【優先権主張番号】10-2020-0032732
(32)【優先日】2020-03-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】510127790
【氏名又は名称】ナノエンテク インク
(74)【代理人】
【識別番号】110002398
【氏名又は名称】弁理士法人小倉特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】カン,ソク ジュ
(72)【発明者】
【氏名】キム,ユ レ
(72)【発明者】
【氏名】チョン,チャン イル
(72)【発明者】
【氏名】ユン,ソク キ
【審査官】前田 敏行
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-194568(JP,A)
【文献】特表2003-527972(JP,A)
【文献】特開2011-221020(JP,A)
【文献】特表2001-526778(JP,A)
【文献】国際公開第2014/051033(WO,A1)
【文献】特開2010-054451(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0120747(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 35/10
G01N 37/00
B81B 1/00
G01N 35/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1プレート;
前記第1プレートと接合する第2プレート;
前記第1プレートと前記第2プレートとの間に介在して前記第1プレートと前記第2プレートとを接合させるOCAフィルム(Optically clear adhesive film);及び
前記第1プレートと前記第2プレートとの間に一定空間を持つように形成され,分析対象流体が投入されて流動する微小チャネル部;を含み,
前記微小チャネル部の少なくとも一部の形状と高さは,前記OCAフィルムの形状と厚さによって決定され
,
前記微小チャネル部は,前記流体が注入されて一時的に収容される前処理部を含み,
前記前処理部は,前記流体が注入される検体注入部と,前記検体注入部よりも高く形成されて段差を有する第1バッファ部と,前記検体注入部から分岐し,前記第1バッファ部よりも低い高さで形成されて前記流体が前記第1バッファ部より先に充填される流体貯蔵部を含むことを特徴とする流体分析用チップ。
【請求項2】
前記微小チャネル部は,少なくとも一部が,側壁が開放された(wall-free)構造で構成されることを特徴とする請求項1記載の流体分析用チップ。
【請求項3】
前記OCAフィルムは,
前記第1プレート及び前記第2プレートと接触して結合させる接合部と,
前記接合部の内側に貫通形成され,前記微小チャネル部の少なくとも一部の形状を決定するチャネル形成部とを含むことを特徴とする請求項1記載の流体分析用チップ。
【請求項4】
前記微小チャネル部は,
前記前処理部と,
前記前処理部に収容された流体が移動して抗原-抗体反応が行われるチャネル部と,
前記チャネル部を通過した残留流体が収容されるウォッシング部と,を含むことを特徴とする請求項3記載の流体分析用チップ。
【請求項5】
前記流体貯蔵部の高さは,前記OCAフィルムの厚さによって決定されることを特徴とする請求項
1記載の流体分析用チップ。
【請求項6】
前記流体貯蔵部の形状は,前記チャネル形成部の形状によって決定されることを特徴とする請求項
3記載の流体分析用チップ。
【請求項7】
前記流体貯蔵部は,前記検体注入部から分岐して一定長さ延長された後,前記チャネル部の方向に一定長さ延設されることを特徴とする請求項
1記載の流体分析用チップ。
【請求項8】
前記流体貯蔵部は,端部に形成される流体貯蔵部貫通孔を含むことを特徴とする請求項
7記載の流体分析用チップ。
【請求項9】
前記流体貯蔵部は,分岐する方向に突出するマージン部を含むことを特徴とする請求項
7記載の流体分析用チップ。
【請求項10】
前記前処理部は,
前記第1バッファ部よりも小さい体積を有するように第1バッファ部と一定間隔離隔して設けられる第2バッファ部と,
前記流体内の分析対象物質が識別物質と反応するように前記第1バッファ部と前記第2バッファ部との間に設けられる第1コンジュゲート部をさらに含むことを特徴とする請求項
1記載の流体分析用チップ。
【請求項11】
前記第1コンジュゲート部と前記第2バッファ部の両側部に形成される漏水防止孔をさらに含むことを特徴とする請求項
10記載の流体分析用チップ。
【請求項12】
前記第1コンジュゲート部は,多数のフィラーを含むことを特徴とする請求項
10記載の流体分析用チップ。
【請求項13】
前記OCAフィルムの厚さを変更することにより,前記微小チャネル部の高さを変更することを特徴とする請求項1記載の流体分析用チップ。
【請求項14】
前記OCAフィルムの積層される数を変更することにより,前記微小チャネル部の高さを変更することを特徴とする請求項1記載の流体分析用チップ。
【請求項15】
互いに同一の厚さ又は互いに異なる厚さを有する前記OCAフィルムを組み合わせて積層することにより,前記微小チャネル部の高さを変更することを特徴とする請求項
14記載の流体分析用チップ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,流体分析用チップに係り,より詳細には,OCAフィルムを用いて上板と下板とを接合させて簡単な構造で製造することができ,内部高さと形状を様々な要求に合わせて精密に制御して適用可能であり,従来よりも接合力が増加して信頼性を向上させることができる流体分析用チップに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に,流体試料の分析は,化学及びバイオテクノロジー分野の他にも,患者から採取した血液,体液の分析による診断分野などで広範囲に用いられている。近年,このような流体試料の分析をより簡便かつ効率的に行うために,小型化された様々な種類の分析及び診断装備及び技術が開発されている。
【0003】
特に,Lab-on-a-chip技術は,試料の分離,精製,混合,標識化,分析及び洗浄など,実験室で行われる様々な実験過程を,微小流体力学技術などを利用して小さいサイズのチップ上で実現する技術をいう。Lab-on-a-chipの設計には,微小流体力学(micro-fluidics),微小流体操作システム(micro-LHS)関連技術が主に用いられる。また,微小流体力学及び微小流体操作システムを実現するチップ構造物を製作するにあたり,半導体回路設計技術を利用して微小チャネルをチップの内部に形成させたチップが市販されている。
【0004】
このようなLab-on-a-chip技術に関連して,DNA抽出から解析までのプロセスをチップ上で一度に実施することができる,携帯可能な個人識別用DNA解析装置まで開発されているなど,産業各分野でその活用が盛んに行われている。
【0005】
また,体外診断(In vitro diagnostics)分野においても,病院や研究室で行われる血液,体液などの複雑な精密検査を現場で個人が直接容易に行うことができる携帯用診断ツール,すなわちPOCT(point of care testing)分野に関する研究も盛んに行われている。
【0006】
POCTは,救急室,手術室又は一般家庭などの診療現場で簡便に病気を診断することができる現場診断技術をいい,高齢化及び福祉社会に備えて,その必要性と需要が増え続ける分野でもある。現在は,血糖測定用診断ツールが市場の主流を占めているが,POCTに対する実質的な要求が増大しつつ,乳酸,コレステロール,尿素及び感染性病原菌などの様々な生体物質を分析する診断ツールに対する需要も急速に増加している傾向である。
【0007】
このような分析又は診断技術は,一般に,各種流体試料をチップの内部に形成された微小チャネルを介して移動させながら,流体とチップの内部に固定化された抗体タンパク質又はその他の各種試料との反応の有無を様々な探知方法で検出し,分析することにより行われる。したがって,微小チャネルが形成されたチップの内部を移動する流体の動きを制御することは,小型化チップを用いて迅速かつ正確な分析結果を得る上で最も核心的な技術要素である。
【0008】
チップの内部に形成された微小チャネルを介して流体が移動するようにするための駆動力を提供するため,小型モータを使用するか,或いは毛細管現象を利用した方法が用いられている。毛細管力を主な駆動力として用いるチップの場合には,チャネルを介して流れる流体は不規則で不均一な移動パターンを有する。特に,チャネルの極端に低くなる或いは狭くなる場合に多く観察される。このような現象は,チャネルの上下内壁又は左右内壁と流体との相互作用が互いに異なるために発生し,これは,流体試料に微量存在する分析対象物質の検出及び分析に大きな障害要因となる。
【0009】
また,数十マイクロ未満サイズの微小な閉鎖チャネルを製造する際に,チャネルの角部分を損失なく一定に加工することは容易ではなく,これは,量産の際に規格や品質管理などに問題を引き起こすおそれがある。又は,このようなチャネル構造の微小誤差は,流体の流れを妨げて一貫性のない分析結果をもたらすおそれがある。
【0010】
かかる問題点を解決するために,2007年7月23日付で出願された韓国特許出願第10-2007-0073659号では,チャネルの一対の内壁にチャネルよりもさらに深く陥没した拡張部を隣接させることにより,チャネルを通過する流体が他の一対の内壁とのみ相互作用するようにする技術を提示している(当社の韓国特許第10-0878229号参照)。
【0011】
ウォールフリーチャネル(wall-free channel)は,チャネルを通過する流体の移動パターンが均一に形成されるので,気泡の発生が減少し,再延性が確保されるうえ,流体中に存在する分析象物質から信号検出を容易に行うことができる。また,微小なサイズのチャネルを基板に実現するにあたり,チャネルの各角部分の損失や変形のおそれなく製作することができるので,製品の量産及び品質管理が容易である(当社の韓国特許第10-0900511号を参照)。
【0012】
一方,前述したPOCT用又はLab-on-a-chip用に用いられる流体分析用チップは,ポリカーボネート(PC),ポリスチレン(PS),ポリプロピレン(PP),ポリエチレンテレフタレート(PET)等のポリエチレン誘導体(PE derivatives),ポリメチルメタクリレート(PMMA),又はアクリル系のプラスチック種類の材質からなり,使い捨てに使用される。
【0013】
一般に,流体分析用チップは,上板と下板とを接合して製造されるが,接合された上板と下板との間に,試料が流動して反応する所定の高さの微小チャネルと様々な微小構造物が備えられる。
【0014】
ところが,このような従来の流体分析用チップは,上板と下板との接合面にボンディング物質である有機溶媒を注入することができるように注入孔を作らなければならず,有機溶媒の拡散が可能な追加のチャネルを製造しなければならないので,構造が複雑であり,加工の際に発生する公差によって組立完成度が低下するという問題点がある。
【0015】
また,有機溶媒の拡散が不均一である場合,精密な内部高さの実現が難しく,実質接合面の減少により接合力が低下して安定的な製品信頼性を確保することが難しいという問題点がある。
【0016】
また,分析対象である検体の組成物的特性によりプレートとの接触角が低い場合には,ウォールフリーチャネルで漏水が発生する可能性があるため,様々なチャネル高さを実現して,それぞれの特性に合う流体分析用チップを製造して適用しなければならないが,従来の有機溶剤接合チップでは,このように多様に設計変更して適用することが容易ではない。
【0017】
したがって,かかる問題点を解決することにより,OCAフィルムを用いて上板と下板とを接合させて簡単な構造で製造することができ,内部高さと形状を様々な要求に合わせて精密に制御して適用可能であり,従来よりも接合力が増加して信頼性を向上させることができる流体分析用チップの必要性が台頭している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
本発明の実施形態は,有機溶媒の注入及び拡散のための複雑な構造物を除去し,OCAフィルムを用いて簡単な構造で流体分析用チップを接合させようとする。
【0019】
また,流体分析用チップの内部微小チャネルの高さを様々な要求に合わせて精密に制御して適用することにより,分析の正確性を高めようとする。
【0020】
また,従来よりも広い面積の接合面の接合を介して強い接合力を実現することにより,製品の信頼性を確保しようとする。
【0021】
また,流体注入の際に発生する静水圧を,流体貯蔵部を介して解消することにより,流体の流動流速を制御し,サンプルバッファと均一な速度で反応させようとする。
【0022】
また,微小チャネル上で毛細管力と抵抗の比が注入初期に非常に大きいため,流体の速度が非常に大きい状態から始まり,流体の濡れた長さが増加するにつれて急激に減少する現象を防止することにより,安定的な流体駆動を実現しようとする。
【0023】
また,分析検体の組成物の特性上,プレートとの接触角が低い場合,ウォールフリーチャネル側で発生するおそれのある漏水現象を防止しようとする。
【0024】
また,上板と下板の構造変化なしにOCAフィルムの形状と厚さを変更するだけでチャネルの高さと形状を変えることができるようにすることにより,少ない費用で製品の変更が可能であり,適用対象に合わせた設計自由度を確保しようとする。
【課題を解決するための手段】
【0025】
本発明の一態様によれば,第1プレート;前記第1プレートと接合する第2プレート;前記第1プレートと前記第2プレートとの間に介在して前記第1プレートと前記第2プレートとを接合させるOCAフィルム(Optically clear adhesive film);及び前記第1プレートと前記第2プレートとの間に一定空間を持つように形成され,分析対象流体が投入されて流動する微小チャネル部と,を含み,前記微小チャネル部の少なくとも一部の形状と高さは,前記OCAフィルムの形状と厚さによって決定されることを特徴とする,流体分析用チップが提供できる。
【0026】
前記微小チャネル部は,少なくとも一部が,側壁が開放された(wall-free)構造で構成されることができる。
【0027】
前記OCAフィルムは,前記第1プレート及び前記第2プレートと接触して結合させる接合部と,前記接合部の内側に貫通形成され,前記微小チャネル部の少なくとも一部の形状を決定するチャネル形成部と,を含んでなることができる。
【0028】
前記微小チャネル部は,前記流体が注入されて一時的に収容される前処理部と,前記前処理部に収容された流体が移動して抗原-抗体反応が行われるチャネル部と,前記チャネル部を通過した残留流体が収容されるウォッシング部と,を含んでなることができる。
【0029】
前記前処理部は,前記流体が注入される検体注入部と,前記検体注入部よりも高く形成されて段差を有する第1バッファ部と,を含んでなることができる。
【0030】
前記前処理部は,前記検体注入部から分岐し,前記第1バッファ部よりも低い高さで形成されて前記流体が先に充填される流体貯蔵部をさらに含むことができる。
【0031】
前記流体貯蔵部の高さは,前記OCAフィルムの厚さによって決定されることができる。
【0032】
前記流体貯蔵部の形状は,前記チャネル形成部の形状によって決定されることができる。
【0033】
前記流体貯蔵部は,前記検体注入部から分岐して一定長さ延長された後,前記チャネル部の方向に一定長さ延設されることができる。
【0034】
前記流体貯蔵部は,端部に形成される流体貯蔵部貫通孔を含んでなることができる。
【0035】
前記流体貯蔵部は,分岐する方向に突出するマージン部を含んでなることができる。
【0036】
前記前処理部は,前記第1バッファ部よりも小さい体積を有するように第1バッファ部と一定間隔離隔して設けられる第2バッファ部と,前記流体内の分析対象物質が識別物質と反応するように前記第1バッファ部と前記第2バッファ部との間に設けられる第1コンジュゲート部と,をさらに含んでなることができる。
【0037】
本発明による流体分析用チップは,前記第1コンジュゲート部と前記第2バッファ部の両側部に形成される漏水防止孔をさらに含んでなることができる。
【0038】
前記第1コンジュゲート部は,多数のフィラーを含んでなることができる。
【0039】
前記OCAフィルムの厚さを変更することにより,前記微小チャネル部の高さを変更することができる。
【0040】
前記OCAフィルムの積層される数を変更することにより,前記微小チャネル部の高さを変更することができる。
【0041】
互いに同一の厚さ又は互いに異なる厚さを有する前記OCAフィルムを組み合わせて積層することにより,前記微小チャネル部の高さを変更することができる。
【発明の効果】
【0042】
本発明の実施形態は,有機溶媒の注入及び拡散のための複雑な構造物を除去し,OCAフィルムを用いて簡単な構造で流体分析用チップを接合させることができる。
【0043】
また,流体分析用チップの内部微小チャネルの高さを様々な要求に合わせて精密に制御して適用することにより,分析の正確性を高めることができる。
【0044】
また,従来よりも広い面積の接合面の接合を介して強い接合力を実現することにより,製品の信頼性を確保することができる。
【0045】
また,流体注入の際に発生する静水圧を,流体貯蔵部を介して解消することにより,流体の流速を制御し,サンプルバッファと均一な速度で反応させることができる。
【0046】
また,微小チャネル上で毛細管力と抵抗の比が注入初期に非常に大きいため,流体の速度が非常に大きい状態から始まり,流体の濡れた長さが増加するにつれて急激に減少する現象を防止することにより,安定的な流体駆動を実現することができる。
【0047】
また,分析検体の組成物の特性上,プレートとの接触角が低い場合,ウォールフリーチャネル側で発生するおそれのある漏水現象を防止することができる。
【0048】
また,上板と下板の構造変化なしにOCAフィルムの形状と厚さを変更するだけでチャネルの高さと形状を変えることができるようにすることにより,少ない費用で製品変更が可能であり,適用対象に合わせた設計自由度を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【
図1】本発明の一実施形態による流体分析用チップの分解斜視図である。
【
図2】本発明の一実施形態による流体分析用チップの第1プレートとOCAフィルムとが接合された状態を下部から見た平面図である。
【
図3】本発明の一実施形態による流体分析用チップのOCAフィルムを示す平面図である。
【
図4】本発明の一実施形態による流体分析用チップの微小チャネル部の段差構造を示す構成図である。
【
図5】本発明の一実施形態による流体分析用チップのOCAフィルムの厚さ変更によって微小チャネル部の高さが変更される例を示す部分断面図である。
【
図6】本発明の一実施形態による流体分析用チップの流体貯蔵部が除去された変形例を示す平面図である。
【
図7】本発明の一実施形態による流体分析用チップの第1バッファ部と第1コンジュケート部とを連結するチャネルが変形適用された状態を示す平面図である。
【
図8】本発明の一実施形態による流体分析用チップの流体貯蔵部にマージン部が追加された変形例を示す平面図である。
【
図9】本発明の一実施形態による流体分析用チップの時間経過に伴う流体駆動状態を撮影した画像である。
【
図10】従来の有機溶剤接合流体分析用チップに3次蒸留水を注入した後,チャネルの漏水有無を観察した画像である。
【
図11】従来の有機溶剤接合流体分析用チップにVitamin D溶液を注入した後,チャネルの漏水有無を観察した画像である。
【
図12】本発明による流体分析用チップにVitamin D溶液を注入した後,チャネルの漏水有無を観察した画像である。
【発明を実施するための形態】
【0050】
以下,添付図面を参照して本発明の好適な実施形態を詳細に説明する。しかし,本発明は,ここで説明される実施形態に限定されず,他の形態で具体化されてもよい。むしろ,ここで紹介される実施形態は,開示された内容が徹底かつ完全となるように,かつ当業者に本発明の思想が十分に伝達されるようにするために提供されるものである。明細書全体にわたって,同一の参照番号は同一の構成要素を示す。
【0051】
図1は,本発明の一実施形態による流体分析用チップの分解斜視図,
図2は,本発明の一実施形態による流体分析用チップの第1プレートとOCAフィルムとが接合された状態を下方から見た平面図,
図3は,本発明の一実施形態による流体分析用チップのOCAフィルムを示す平面図,
図4は,本発明の一実施形態による流体分析用チップの微小チャネル部の段差構造を示す構成図,
図5は,本発明の一実施形態による流体分析用チップのOCAフィルムの厚さ変更によって微小チャネル部の高さが変更される例を示す部分断面図である。
【0052】
図1乃至
図5を参照すると,本発明の一実施形態による流体分析用チップ10は,大きく,第1プレート100;前記第1プレート100と接合する第2プレート200;前記第1プレート100と前記第2プレート200との間に介在して前記第1プレート100と前記第2プレート200とを接合するOCA(optically clear adhesive)フィルム;及び前記第1プレート100と前記第2プレート200との間に一定空間を持つように形成され,分析対象流体が投入されて流動する微小チャネル部101;を含むことができる。
【0053】
また,前記微小チャネル部101の少なくとも一部の形状と高さは,前記OCAフィルム300の形状と厚さによって決定されることができる。
【0054】
前記第1プレート100と前記第2プレート200は,前記OCAフィルム300によって接合して流体分析用チップ10の外形をなし,それらの間に流体が投入されて流動し,特定の部分で所望の抗原-抗体反応が起こり得るように微小空間からなる微小チャネル部101が形成される。
【0055】
前記OCAフィルム(optically clear adhesive film)300は,光学用接着素材であって,透明な両面テープタイプからなる。光学用接着素材は,OCA以外にも,OCR(optically clear resin)又はLOCA(liquid optically clear adhesive)と呼ばれる透明な液体タイプの光学用接着剤があるが,本実施例では,光学用液体タイプの接着剤の代わりにOCAフィルム300を適用する。
【0056】
ここで,optically clearという用語は,素材自体の透過度が90%以上になることを意味するものであり,非常に透明な状態を指す。光学用接着素材として使われる高分子は,アクリル(acryl)系,シリコーン(silicone)系,ウレタン(urethane)系などがあるが,非常に優れた透明性を有しながら設計が容易であり,UV(ultraviolet)による高速硬化が可能であるうえ,経済面でも利点を持つアクリル系高分子が最も多く使われる。
【0057】
従来は,接合剤として有機溶剤などの液状タイプの接着剤が適用されたが,この場合,液状の接着剤を注入するための注入孔と共に注入された接着剤を接合面に拡散させるために微小な拡散チャネルを別途設けなければならないので,加工が難しく,加工費用も増加し,接着面積が小さいため,接着力も相対的に小さいという問題点があった。
【0058】
しかし,本発明では,接合剤としてOCAフィルム300を適用するため,精密加工が必要な接合に関連する構造物を除去することにより簡単な構造で接合を行うことができ,このような精密加工中に発生しうる公差を除去することができ,従来よりも広い面積の接合によって接合力を増加させることにより,製品の安定性と信頼性を確保することができるという利点がある。
【0059】
前記OCAフィルム300は,
図3に示すように,前記第1プレート100及び第2プレート200と接触して結合させる接合部310と,前記接合部310の内側に貫通形成され,前記微小チャネル部101の少なくとも一部の形状を決定するチャネル形成部320と,を含んでなることができる。
【0060】
上述したように,前記OCAフィルム300の接合部310は,両面テープのように上下両面が接着性を帯びるため,それぞれ第1プレート100及び第2プレート200と接触して接合させる役割を果たす。
【0061】
また,前記接合部310の内側には,微小チャネル部101の形状と同一又は類似の形状を有するようにチャネル形成部320が貫通形成されることができる。ここで,前記チャネル形成部320が微小チャネル部101の形状を決定するというのは,チャネル形成部320の厚さ方向の壁が微小チャネル部101の側壁を成すことを意味する。
【0062】
すなわち,前記OCAフィルム300は,第1プレート100と第2プレート200とを接合させる役割だけでなく,第1プレート100と第2プレート200との間に形成される微小チャネルの一部又は全ての側壁を形成する役割を果たすことにより,微小チャネル部101の形状を決定する。
【0063】
前記OCAフィルム300は,前記微小チャネル部101の形状だけでなく,チャネルの高さも決定することができる。
図5に示すように,前記OCAフィルム300の厚さのみを変更することにより,前記微小チャネル部101のチャネル高さを容易に調節することができる。すなわち,
図5(a)に示すように,OCAフィルム300の厚さを薄くすると,それにより微小チャネル部101の高さは小さくなる。そして,
図5(b)に示すように,OCAフィルム300の厚さを大きくすると,それにより微小チャネル部101の高さは大きくなる。
【0064】
また,前記OCAフィルム300の積層される数を変更することにより,前記微小チャネル部101の高さを変更することができる。このとき,互いに同一の厚さ又は互いに異なる厚さを有する前記OCAフィルム300を組み合わせて積層することにより,前記微小チャネル部101の高さを変更することができる。
【0065】
例えば,100μmのチャネル高さが設計目標である場合,厚さ100μmのOCAフィルム300を適用して高さを実現することができ,それぞれ厚さ50μmのOCAフィルム300を2つ積層して実現することも可能である。その他にも,40μmの2つと20μmの1つとを組み合わせて所望の設計高さを実現することも可能である。
【0066】
このように,OCAフィルム300を接合剤として適用することにより,微小チャネルの複雑な形状を簡単に所望のとおりに容易に設計適用することができ,特に微小チャネルの安定的な駆動に関連するチャネル高さを所望のとおりに容易に実現することができるという利点がある。
【0067】
一方,前記微小チャネル部101は,前記流体が注入されて一時的に収容される前処理部110と,前記前処理部110に収容された流体が移動して抗原-抗体反応が行われるチャネル部120と,前記チャネル部120を通過した残留流体が収容されるウォッシング部130と,を含んでなることができる。
【0068】
前記前処理部110は,検体注入口110bを介して注入された流体がチャネル部120側に円滑に移動することができるように設けられるものであり,検体注入口110bに隣接して設けられる検体注入部110aと,検体注入部110aに対して段差を持つように設けられ,流体が収容される第1バッファ部111と,を含んでなることができる。
図4に示すように,前記第1バッファ部111は,前記検体注入部110aよりも高く形成されるように段差を有し,流体がチャネル部120側へ速い速度で流れないようにバッファとして機能する。
【0069】
ここで,前記前処理部110は,前記検体注入部110aから分岐し,前記第1バッファ部111よりも低い高さで形成され,前記流体が先に充填される流体貯蔵部119をさらに含んでなることができる。
【0070】
前記流体貯蔵部119は,流体が注入されたとき,第1バッファ部111よりも相対的に高さが低い流体貯蔵部119側に流体が先に充填され,その後,第1バッファ部111に充填された後,チャネル部120側へ流れるようにする。このように流体貯蔵部119をさらに設計することにより,流体の流速をより緩やかに調節することができ,チャネル部120での抗原-抗体反応がうまく行われるようにすることができる。
【0071】
例えば,本実施形態において,前記検体注入部110aの高さは120μm,流体貯蔵部119の高さは300μm,第1バッファ部111の高さは700μmであって,流体が注入されると,流体貯蔵部119側に流体が先に充填され,その後,第1バッファ部111へ流れるのである。
【0072】
従来のチップの場合は,検体注入口に流体が連続的に流入する方式であり,この過程で静水圧による駆動力が発生して第1バッファ部の容積を超えることにより効果的にバッファリングできないという問題があった。
【0073】
しかし,本発明による流体分析用チップ10は,流体の注入時に流体貯蔵部119に流体が完全に注入されて静水圧を最小化することができるため,静水圧が十分に除去された状態で毛細管力(capillary force)のみで流体の速度が制御されるので,安定的な流体駆動が可能である。そして,流体貯蔵部119に注入された流体は,静水圧が最小化された状態でサンプルバッファ(sample buffer)と均一な速度で反応することにより反応性効率が増加するという利点がある。
【0074】
ここで,前記流体貯蔵部119の高さは,前記OCAフィルム300の厚さによって決定され,前記流体貯蔵部119の形状は,前記チャネル形成部320の形状によって決定されることができる。すなわち,前記チャネル形成部320の外形をなす側壁が前記流体貯蔵部119の側壁をなすのである。したがって,OCAフィルム300の厚さを変更することにより,流体貯蔵部119の高さを容易に変更可能であり,流体貯蔵部119に対応する部分のチャネル形成部320の形状を変更することにより流体貯蔵部119の形状は自由に変更可能である。
【0075】
本実施形態において,前記流体貯蔵部119は,前記検体注入部110aから分岐して一定長さ延長された後,前記チャネル部120の方向に一定長延設されることができる。このように流体貯蔵部119を形成することにより,空間活用度を高めることができ,流体貯蔵部119の容積を相対的に大きく形成することができる。また,流体貯蔵部119に貯蔵される流体がチャネル部120の方向に流れてから再び抜け出すときは,逆方向に流れて検体注入部110aを介して第1バッファ部111とチャネル部120側へ流れるので,より緩やかに流体駆動速度を調節することができるという利点がある。
【0076】
ここで,前記流体貯蔵部119は,端部に形成された流体貯蔵部貫通孔119aを含んでなることができる。前記流体貯蔵部貫通孔119aは,流体に混入した空気を排出し,流体が流体貯蔵部119の端部まで流れて十分に充填されるようにする役割を果たす。
【0077】
前述したように,注入された流体は,前記流体貯蔵部119に先に充填され,その後に第1バッファ部111に充填された後,チャネル部120側に流れる。
【0078】
ここで,前記前処理部110は,第1バッファ部111を経て移動した流体内の分析対象物質が識別物質と反応するように設けられる第1コンジュゲート部112と,第1バッファ部111から一定間隔離隔し,第1バッファ部111よりも小さい体積を持つように設けられる第2バッファ部114と,をさらに含んでなることができる。
【0079】
そして,本実施形態において,前記第1バッファ部111と前記第1コンジュゲート部112とを連結する連結チャネル113が備えられ,前記前処理部110の中で検体注入部110a,流体貯蔵部119,第1バッファ部111及び連結チャネル113までOCAフィルム300が側壁を形成してガイドする。
【0080】
前述したように,前記検体注入部110a,第1バッファ部111,連結チャネル113,第1コンジュゲート部112,及び第2バッファ部114は,それぞれ第1プレート100と第2プレート200とが相互結合されて生成されるチャンバである微小チャネル部101の一部を成し,より具体的には,微小チャネル部101の前処理部110を形成する。
【0081】
そして,検体注入部110aは,検体注入口110bを介して注入された流体が一時的に貯蔵された後,流体貯蔵部119及び第1バッファ部111側へ移動することができるように設けられる構成であり,上面から下方向に突設される多数の注入部フィラー110cを備える。ここで,上面とは,微小チャネル部101を基準に定義されるものであり,第1プレート100の下面を意味する。このような上面に関連する定義は,以下においても同様に適用される。
【0082】
前記注入部フィラー110cは,検体注入口110bに隣接した位置で検体注入部110aの上面から突出するように相互一定間隔離隔して多数個が設けられる構成である。注入部フィラー110cは,検体注入口110b側に隣接した部分の表面積を増加させることにより,検体注入口110bを介して注入される流体と,検体注入口110bの下側に塗布されたサンプルバッファとのミキシング効果を増加させる。
【0083】
前記第1バッファ部111は,前述したように,検体注入部110aを介して流体貯蔵部119に流れ込んで一時貯蔵された流体がさらに流れ出たとき,一時的に収容されることにより流体の一定量を貯蔵して,チャネル部120に流入する流体の量を調節する構成である。
【0084】
前記第1バッファ部111には,側壁に沿って移動する流体の流速を遅延させ,流体に発生しうるバブル(bubble)を抑制する一対の第1バッファ部貫通孔111aが形成される。
図2に示すように,第1バッファ部貫通孔111aは,第1バッファ部111の上面の左右側をそれぞれ貫通するように一対が形成されることができる。
【0085】
前記流体貯蔵部119から流れ出て検体注入部110aを介して第1バッファ部111側へ移動する流体のプロファイルは,第1バッファ部111の中央領域に向かってフロントヘッド(front head)を有するように流入することが好ましい。すなわち,検体注入部110aから第1バッファ部111側へ移動する流体の両端部は,OCAフィルム300が形成する側壁に沿って移動するが,このように壁面に沿って移動する流体両端部の流速を遅延させることにより,流体のプロファイルが第1バッファ部111の中央領域に向かってフロントヘッドを有するように再調整する必要性が生じる。このとき,第1バッファ部貫通孔111aは,外部から流入する空気によって側壁に沿って移動する流体両端部の流速を遅延させることにより,上記の目的を達成することができるようにする。
【0086】
さらに,本発明による流体分析用チップ10は,外部動力の提供なしに構造的特徴による毛細管力によって流体が移動するが,このように外部動力なしに一定空間を流体が満たすと,閉鎖された構造物の角部分に気泡が発生する可能性があり,気泡は,流体が貯蔵できる体積を減少させるだけでなく,流体の流れを妨害する。第1バッファ部貫通孔111aは,このような気泡の発生を抑制するとともに,気泡が発生しても,外部からの流入空気によって発生した気泡を除去する役割を果たす。
【0087】
図2に示すように,前記第1バッファ部111は,上面から下方向に突出する多数の第1バッファ部フィラー111bをさらに含む。第1バッファ部フィラー111bは,第1バッファ部111の上面から下方向に突出するように相互一定間隔離隔して多数個が設けられる構成である。第1バッファ部フィラー111bは,第1バッファ部111の表面積を増加させることにより,流体とサンプルバッファとのミキシング効果を増加させ,第1バッファ部111から第1コンジュゲート部112側へ移動する流体の流動に方向性を与えることにより,流体の効果的な流動を図る役割を果たす。
【0088】
前記第1コンジュゲート部112は,第1バッファ部111を経て移動した流体中の分析対象物質が識別物質と反応するように設けられる部分である。検体注入口110bを介して注入された流体中の分析対象物質は,反応がよく起こり得る環境が造成されるように検体注入口110bが形成された位置に対応する箇所の第2プレート200の上面に塗布されるサンプルバッファと一次的に反応し,第1コンジュゲート部112を経て,第2プレート200の上面に塗布された識別物質と反応する。
【0089】
前記第1コンジュゲート部112の上面には,多数の第1コンジュゲート部フィラー112aが備えられ,流体中の分析対象物質と識別物質とのミキシング効果を増大させることができる。
【0090】
一方,第1コンジュゲート部112は,一端部の上面から相互対称となるようにそれぞれ突出して設けられる一対の第1コンジュゲート部トンネル壁112bを備える。前記第1コンジュゲート部トンネル壁112bは,流体が一方向にのみ流れることができるように流体の流れを集中させる役割を果たす。
【0091】
すなわち,前記第1コンジュゲート部トンネル壁112bがない場合,流体は,毛細管力が相対的に大きい角部分に沿って先に流れるので,チャネル部120に流入する流体の流動が不安定になり,この場合,チャネル部120における反応性に不安定な影響を及ぼすという問題が発生するおそれがある。
【0092】
かかる問題の発生を防止するために,前記第1コンジュゲート部トンネル壁112bは,第1コンジュゲート部112の上面の両端部から下方向に突出する柱状の構造物からなり,前記第1コンジュゲート部112から流出する流体の方向性を中央に集中させる。
【0093】
前記第2バッファ部114は,第1コンジュゲート部112に連結され,第1コンジュゲート部112を経た流体が識別物質ともう一度結合できるように設けられる構成である。前記第1コンジュゲート部112側に流入した流体中の分析対象物質は,一次的に第1コンジュゲート部112内で識別物質と反応するが,その一部は,識別物質と反応していない状態で第1コンジュゲート部112から流出する。したがって,流体の移動に伴って洗い流された識別物質と,識別物質と反応していない分析対象物質とをもう一度混合させる必要性が存在し,この役割を第2バッファ部114が担当する。すなわち,前記第2バッファ部114は,識別物質と反応することができる流体の量をできる限りの範囲内で増加させるように設けられ,流体分析用チップ10の信頼度を向上させるのに役立つ。
【0094】
一方,第2バッファ部114は,上面から突出する多数の第2バッファ部フィラー114aと,一対の第2バッファ部ガイド114bと,を含む。
【0095】
前記第2バッファ部フィラー114aは,相互一定間隔離隔するように第2バッファ部114の上面から突出する構成である。第2バッファ部フィラー114aがない場合,第1コンジュゲート部112から第2バッファ部114側に流入する流体は,直線的な層流(laminar flow)の形状を有する。この場合,第2バッファ部114のミキシング効果が低下するという問題点が生じる。第2バッファ部フィラー114aは,このような層流形状の流体の流れを妨げ,第2バッファ部114の表面積を増加させることにより,識別物質と流体が第2バッファ部114で十分に反応することができる時間を与える。第2バッファ部フィラー114aは,第1プレート100と第2プレート200とが結合される場合,第2プレート200の上面に密着又は隣接する程度の高さを有する。
【0096】
前記第2バッファ部ガイド114bは,第2バッファ部114の上面の中央領域から相互対称となるように下方向にそれぞれ突出するように設けられる構成である。第2バッファ部ガイド114bがない場合,流体は,チャネル部120の始点に先に当接する方向に方向性をもって流れるが,この場合,流体の流れがチャネル部120の中央に集中しなければ,チャネル部120内で流体が円滑に抗原-抗体反応などの特異反応を円滑に行うことができないという問題が生じる可能性がある。第2バッファ部ガイド114bは,流体のフロントヘッド(Front head)部分がチャネル部120の中央に先に当接することができるように流体の流れを調節し,これによりチャネル部120内で流体がスムーズに特異反応を行うことができるように役立つ。第2バッファ部フィラー114aと同様に,第2バッファ部ガイド114bは,第1プレート100と第2プレート200との結合の際に第2プレート200の上面に密着又は隣接する程度の高さを持つ。
【0097】
一方,前記第1コンジュゲート部112と第2バッファ部114の両側面に隣接するように一対の漏水防止孔115が穿設される。前記漏水防止孔115は,第1コンジュゲート部112と第2バッファ部114の両側面に隣接した位置で第1プレート100を貫通するように一対が形成される。
【0098】
本実施形態のチャネル部120は,後述するウォールフリー(wall-free)形態で設けられるので,第2バッファ部114を介してチャネル部120に流入する流体は,このようなチャネル部120のウォールフリー区間の始点から外部に漏れるおそれがあるという問題点がある。前記漏水防止孔115は,チャネル部120のウォールフリー区間の始点から外部の空気を流入させることにより,チャネル部120の始点を通る流体が同じ空気圧を受けるようにして,流体の安定的な流れを誘導するだけでなく,流体が外部に漏れるのを防止する。
【0099】
一方,前記チャネル部120は,前処理部110に収容された流体が移動し,抗原-抗体反応などの特異反応を行う構成であって,ウォールフリー(Wall-free)形態で実現される。このようなウォールフリー形態のチャネル部120は,本出願人の以前の出願(韓国特許第10-0905954号,韓国特許第10-0900511号,韓国特許第10-0878229号及び米国特許出願第12/667,371号)に詳細に記載されているので,詳細な説明は省略する。
【0100】
前記チャネル部120の終点に隣接した流体分析用チップ10の一端部には,チャネル部120を通過した流体が収容されるウォッシング部130が設けられる。
【0101】
前記ウォッシング部130は,チャネル部120に固定された分析対象物質以外の物質が収容できる空間を提供する部分である。毛細管力によってチャネル部120に沿って流れる流体のうち,分析対象物質以外の物質は,分析の精度を低下させる一種のノイズとみなすことができ,ウォッシング部130は,このようなノイズが収容できる空間を提供することにより,流体分析用チップ10の分析力を高めることができるようにする。
【0102】
ここで,前記ウォッシング部130は,多数のウォッシング部フィラー130aと,ウォッシング部130の末端に設けられたウォッシング部貫通孔130bと,を含む。
【0103】
前記ウォッシング部フィラー130aは,ウォッシングチャネル131の大部分にわたって形成されるものであり,ウォッシング部130の上面,すなわち,第1プレート100の下面から下方向に突出するように多数個が備えられる。また,ウォッシング部フィラー130aは,ウォッシング部130の末端に行くほどより稠密に形成されるが,これは,毛細管力の増加によって流体が十分にウォッシング部130の末端へ移動することができるようにするためである。すなわち,本実施形態の流体は,純粋に毛細管力によってのみ動くが,このような毛細管力は,流体分析用チップ10の一端から流体分析用チップ10の他端に行くほど弱くなるので,ウォッシング部フィラー130aは,これを補完するために備えられる。ウォッシング部フィラー130aは,流体が当接しうる表面積を広めることにより,弱くなった毛細管力を補強する。
【0104】
前記ウォッシング部貫通孔130bは,流体がウォッシング部130に進行することができるように,ウォッシング部130内の圧力及び空気の流れを作る。
【0105】
図6は本発明の一実施形態による流体分析用チップの流体貯蔵部が除去された変形例を示す平面図,
図7は本発明の一実施形態による流体分析用チップの第1バッファ部と第1コンジュゲート部とを連結するチャネルが変更適用された状態を示す平面図,
図8は本発明の一実施形態による流体分析用チップの流体貯蔵部にマージン部が追加された変形例を示す平面図,
図9は本発明の一実施形態による流体分析用チップの時間経過に伴う流体駆動状態を撮影した画像である。
【0106】
次に,
図1乃至
図9を参照して本発明の変形例と使用例を説明する。
【0107】
まず,
図6に示すように,流体貯蔵部119が削除できる。例えば,相対的に粘性が高い流体の場合,第1バッファ部111の容積のみで十分に流速を下げることができるので,流体貯蔵部119を除外させたのである。
【0108】
このとき,第1プレート100や第2プレート200の構造を変更することなく,OCAフィルム300のチャネル形成部320の形状のみを流体貯蔵部119がないように変形させることにより,容易に設計変更することができる。すなわち,第1プレート100や第2プレート200の構造を変更する必要がないので,射出金型を新たに加工して適用することなく,OCAフィルム300の変更のみで上述の変形実施が可能である。
【0109】
図7は,連結チャネル113の幅を減らした変形例である。この場合にも,第1プレート100や第2プレート200の構造変更なしにOCAフィルム300の変更のみで第1バッファ部111と第1コンジュゲート部112とを連結する連結チャネル113の幅を変更した。粘性の小さい流体の場合,流速を十分に下げる必要があるので,上述した設計変更を適用することができる。
【0110】
図8は,流体貯蔵部119から分岐する方向に突出するマージン部119bを適用した実施形態である。このようにマージン部119bを備えることにより,流体貯蔵部119の容積を増加させ,流体の流路を大きくして流速を効果的に減少させることができる。そして,このようにマージン部119bを追加する場合でも,OCAフィルム300の形状のみを変更することにより適用可能である。
【0111】
次に,
図9を参照して,本発明の一実施形態による流体分析用チップ10の使用例を説明する。
【0112】
まず,分析対象となる流体は,検体注入口110bを介して注入され,注入後10秒程度に流体が流体貯蔵部119に先に充填される。このとき,流体内の分析対象物質は,検体注入口110bに対応する箇所の第2プレート200の上面に塗布されたサンプルバッファと一次的に反応するが,このような反応は,流体が投入されたとき,又は再び流体貯蔵部119から検体注入部110a側に流れ出て行われることができる。サンプルバッファは,流体に含まれている分析対象物質が,第1コンジュゲート部112が形成された領域に対応する箇所の第2プレート200の上面に塗布された識別物質,及びチャネル部120に塗布された反応物質とスムーズに反応することができるように役立つ役割を果たす。
【0113】
注入後1分程度が過ぎたとき,流体貯蔵部119から流れ出た流体は,第1バッファ部111を満たし,チャネル部120側に流れていることを確認することができる。サンプルバッファと反応した流体は,第1バッファ部111に一次的に収容された後,第1コンジュゲート部112に塗布された識別物質と反応し,しかる後に,第2バッファ部114に二次的に収容される。このとき,第1バッファ部111に形成されたベントホール111aによって第1バッファ部111内で気泡が発生することが抑制され,第1バッファ部111よりも小さい体積を持つように設けられる第2バッファ部114の特性に応じて,第2バッファ部114に収容された流体の残留量を最小限に抑え,識別物質と反応していない流体がウォッシング部130側へスムーズに移動することができる。
【0114】
第2バッファ部114に貯蔵された流体は,毛細管力によってチャネル部120側に流入し,チャネル部120に沿って移動する流体は,チャネル部120の一定領域に塗布された反応物質と抗原-抗体反応などの特異反応を行い,これにより外部から流体を分析することができる。最後に,チャネル部120で反応していない残留流体は,ウォッシング部130を介して収容される。
【0115】
注入後3分経過後には,流体貯蔵部119に収容された流体が相当量抜け出たことを確認することができ,その後,流体貯蔵部119から大部分が流れ出てチャネル部120で反応が行われ,残留流体がウォッシング部130に収容されたことを確認することができる。
【0116】
図10は,従来の有機溶剤接合流体分析用チップに3次蒸留水を注入した後,チャネルの漏水有無を観察した画像であり,
図11は,従来の有機溶剤接合流体分析用チップにVitamin D溶液を注入した後,チャネルの漏水有無を観察した画像であり,
図12は,本発明による流体分析用チップにVitamin D溶液を注入した後,チャネルの漏水有無を観察した画像である。
【0117】
前述したように分析検体の組成物の特性によりプレートとの接触角が低い場合には,ウォールフリー(wall-free)チャネルで漏水が発生するという問題点がある。
【0118】
実際,接触角による漏水現象の発生有無を確認するために,溶液接触角テストを次のとおりに行った。
-使用装備:SEO Phoenix 300
-使用溶液情報(3種類)
三次蒸留水
ウシ血清:Gibco(登録商標)Bovine Serum
Vitamin D Buffer:自社生産製品を使用
-テスト環境:常温25℃のクリーンルーム環境
-テスト方法
テストしようとする溶液をシリンジに入れて機器を駆動
【0119】
このような接触角テストを経て,上記3つの溶液の接触角を下記表のとおりに求めることができた。
【0120】
【0121】
O2プラズマ処理されたPMMA基板におけるDI水の接触角は,通常40°~60°であり,Vitamin D分析検体の場合は,リシスバッファー(lysis buffer)が含まれており,PMMA基板とは相対的に低い接触角を示す。
【0122】
まず,従来の有機溶剤接合流体分析用チップに3次蒸留水を注入した後,チャネルの漏水有無を観察した。
図10に示すように,三次蒸留水の場合は,接触角が大きいため,漏水が発生しないことを確認することができる。図示されてはいないが,接触角が大きいウシ血清の場合でも,同様に漏水が発生しなかった。
【0123】
しかしながら,従来の有機溶剤接合流体分析用チップにVitamin D溶液を注入した場合には,
図11に示すように,漏水が発生した。Vitamin D溶液は,接触角が小さいため,流体速度を非常に下げた場合でも漏水の可能性が大きいことを確認することができる。
【0124】
したがって,本発明による流体分析用チップを介してチャネル高さの変更を行った。その結果,
図12に示すように,Vitamin D溶液を注入した場合に漏水が発生せず,駆動が上手く行われたことを確認することができる。
【0125】
このように従来の有機溶剤接合流体分析用チップの場合,ウォールフリー(wall-free)チャネル構造が安定化された流動を提供する重要な構造であるため,この構造を維持しながら様々な段差を有するチップを実現するために多くの努力が必要であった。
【0126】
分析検体の組成物の特性によりプレートとの接触角が低い場合には,ウォールフリーチャネルで漏水が発生するという問題点があった。これを解決するために,チップの設計変更は,有機溶剤接合チップでは容易でなかった。
【0127】
しかし,本発明の一実施形態による流体分析用チップは,OCAフィルム接合を介してチップの設計変更が容易な構造(流体貯蔵部)実現が可能であり,その結果,ウォールフリーチャネル構造の破れ(リーク)現象も克服することができた。
【0128】
したがって,本発明による流体分析用チップは,OCAフィルム層のみでチャネルの高さ及び形状を決定することができ,また,OCAフィルム層と上板射出物との結合的な要素で多様な段差を有するチャネル高さ,及びウォールフリーチャネル形成が可能な複合的構造を持つチップであるという点で,差別性を持つ。
【0129】
これまで説明した本発明の実施形態による流体分析用チップによれば,OCAフィルムを用いて上板と下板とを接合させて簡単な構造で製造することができ,内部高さと形状を様々な要求に合わせて精密に制御して適用することが可能であり,従来よりも接合力が増加して信頼性を向上させることができる。
【0130】
以上,本発明の一実施形態を参照して説明したが,当該技術分野における当業者は,以下に述べる特許請求の範囲に記載された本発明の思想及び領域から逸脱することなく,本発明を様々に修正及び変更実施することができるであろう。したがって,変形実施が基本的に本発明の特許請求の範囲の構成要素を含むさえすれば,いずれも本発明の技術的範囲に含まれると理解すべきである。