(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-21
(45)【発行日】2024-03-29
(54)【発明の名称】プラズマ処理装置
(51)【国際特許分類】
H05H 1/24 20060101AFI20240322BHJP
B01J 19/08 20060101ALI20240322BHJP
【FI】
H05H1/24
B01J19/08 E
(21)【出願番号】P 2023056587
(22)【出願日】2023-03-14
【審査請求日】2023-11-14
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】523116055
【氏名又は名称】カーボントレードネオ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】建石 俊之
【審査官】中尾 太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-252098(JP,A)
【文献】特開2007-160265(JP,A)
【文献】特開2015-048773(JP,A)
【文献】特開2018-035023(JP,A)
【文献】特開2022-077188(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2003-0030387(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05H 1/24
B01J 19/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方の片面に誘電体層を有し、他方の片面に支持体層を有する平板状の電極板2枚が、間に空間を挟んで、前記誘電体層が互いに対向するように設置された構造体単位が厚さ方向に2以上繰り返された構成の複層構造を有するプラズマ発生部と、
前記空間にプラズマを発生させるために、前記構造体単位の前記空間を挟んで互いに対向する2枚の前記電極板の間に交流電圧を印加することができる電源部と、
流体をプラズマで処理するために、前記空間に流体を流すことができる流体流動部を有することを特徴とする両バリア放電方式のプラズマ処理装置であって、
前記空間には、流体の流路に沿って、流路の両側にスペーサーが設置され、
前記電極板の端面が絶縁性部材によって封止さ
れ、
前記電極板が金属板であって、前記電極板の前記誘電体層を有する片面の表面が平滑であることを特徴とするプラズマ処理装置。
【請求項2】
一方の片面に誘電体層を有し、他方の片面に支持体層を有する平板状の電極板2枚が、間に空間を挟んで、前記誘電体層が互いに対向するように設置された構造体単位が厚さ方向に2以上繰り返された構成の複層構造を有するプラズマ発生部と、
前記空間にプラズマを発生させるために、前記構造体単位の前記空間を挟んで互いに対向する2枚の前記電極板の間に交流電圧を印加することができる電源部と、
流体をプラズマで処理するために、前記空間に流体を流すことができる流体流動部を有することを特徴とする両バリア放電方式のプラズマ処理装置であって、
前記空間には、流体の流路に沿って、流路の両側にスペーサーが設置され、
前記電極板の端面が絶縁性部材によって封止さ
れ、
前記流体が気体であって、前記流体の流れる方向に向かって前記プラズマ発生部の前記流体の流路の断面積が小さくなっていることを特徴とするプラズマ処理装置。
【請求項3】
一方の片面に誘電体層を有し、他方の片面に支持体層を有する平板状の電極板2枚が、間に空間を挟んで、前記誘電体層が互いに対向するように設置された構造体単位が厚さ方向に2以上繰り返された構成の複層構造を有するプラズマ発生部と、
前記空間にプラズマを発生させるために、前記構造体単位の前記空間を挟んで互いに対向する2枚の前記電極板の間に交流電圧を印加することができる電源部と、
流体をプラズマで処理するために、前記空間に流体を流すことができる流体流動部を有することを特徴とする両バリア放電方式のプラズマ処理装置であって、
前記空間には、流体の流路に沿って、流路の両側にスペーサーが設置され、
前記電極板の端面が絶縁性部材によって封止さ
れ、
前記誘電体層が主としてガラスまたはシリコーン系樹脂から構成され、前記支持体層が主としてガラス繊維とエポキシ樹脂との複合体から構成されていることを特徴とするプラズマ処理装置。
【請求項4】
一方の片面に誘電体層を有し、他方の片面に支持体層を有する平板状の電極板2枚が、間に空間を挟んで、前記誘電体層が互いに対向するように設置された構造体単位が厚さ方向に2以上繰り返された構成の複層構造を有するプラズマ発生部と、
前記空間にプラズマを発生させるために、前記構造体単位の前記空間を挟んで互いに対向する2枚の前記電極板の間に交流電圧を印加することができる電源部と、
流体をプラズマで処理するために、前記空間に流体を流すことができる流体流動部を有することを特徴とする両バリア放電方式のプラズマ処理装置であって、
前記空間には、流体の流路に沿って、流路の両側にスペーサーが設置され、
前記電極板の端面が絶縁性部材によって封止さ
れ、
前記電極板と前記誘電体層とがシリコーン系接着剤で接着されていることを特徴とするプラズマ処理装置。
【請求項5】
前記複層構造が平面状または曲面状であることを特徴とする
請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載のプラズマ処理装置。
【請求項6】
前記電極板が銅板であることを特徴とする
請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載のプラズマ処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズマ処理装置に関する。特に、流体を連続的にプラズマ処理することができるプラズマ処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、プラズマ処理技術に関しては、誘電体バリア放電(Dielectric Barrier Discharge、DBD)という手法が開発されて、大気圧下で低温度のプラズマを発生させることが可能となった。その結果、プラズマ処理の適用分野が広がり、多様な用途で利用が進みつつある。プラズマ処理の目的としては、殺菌、消臭、表面改質、有害化学物質の分解などが挙げられる。また、プラズマ処理の対象となる物質は、固体、液体、気体のいずれであってもよい。
【0003】
液体や気体といった流体を流動させつつ、流体を連続的にプラズマ処理するために、種々のプラズマ処理装置が開発されている。例えば、特許文献1には、平板状の第1電極と第2電極とが間隙を隔てて対向するように設けられたプラズマ生成部が2以上積層配置されたプラズマ発生装置が開示されている。また、特許文献2には、誘電体バリア放電に使用する電極アセンブリーの構成とそれを用いたプラズマ処理装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2022-190472号公報
【文献】米国特許出願公開第2020/0396819号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載のプラズマ発生装置では、電極としてアルミニウムやステンレスの金属板を使用し、誘電体層としてガラスを使用して、空間を挟んで金属板とガラス板のみが積層された構造をしている。金属板とガラス板はいずれも薄いものであり、貼り合わせる際に高さをそろえるのが非常に困難である。そのため、製造時の取扱性に劣り、製造過程でガラス板が割れ易く、金属とガラス面の高さを正確に揃えて、気泡なく貼り合わせるのが困難で、生産時の歩留まりに劣るものであった。また、特許文献2に記載のプラズマ処理装置では、電極アセンブリーの構成は、金属製の電極全体を誘電体材料で封止するものであり、電極板と誘電材料を均一な厚さで薄く積層して電極アセンブリーを製造することが困難であり、製造時の取扱性や作業性に劣るものであった。
【0006】
本発明は、上記のような状況に鑑みてなされたものである。すなわち、本発明の課題は、流体に対して連続して均一にプラズマ処理をすることが可能であり、製造時の取扱性と作業性に優れているプラズマ処理装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
プラズマ処理装置のプラズマ発生部を製造するためには、電極板、誘電体層などの比較的薄い材料を均一な厚さで丁寧に積層していく作業が必要である。本発明者は、プラズマ発生部の構成を支持体層を有するものとすることによって、支持体層をベースに電極板、誘電体層などを順番に積層していくことが容易となり、プラズマ処理装置の製造時における上記課題を解消することが可能となることを見出した。
本発明は、上記のような検討を経て完成するに至ったものである。すなわち、本発明は、以下のような構成を有するものである。
【0008】
(1)一方の片面に誘電体層を有し、他方の片面に支持体層を有する平板状の電極板2枚が、間に空間を挟んで、前記誘電体層が互いに対向するように設置された構造体単位が厚さ方向に2以上繰り返された構成の複層構造を有するプラズマ発生部と、前記空間にプラズマを発生させるために、前記構造体単位の前記空間を挟んで互いに対向する2枚の前記電極板の間に交流電圧を印加することができる電源部と、流体をプラズマで処理するために、前記空間に流体を流すことができる流体流動部を有することを特徴とする両バリア放電方式のプラズマ処理装置であって、前記空間には、流体の流路に沿って、流路の両側にスペーサーが設置され、前記電極板の端面が絶縁性部材によって封止され、前記電極板が金属板であって、前記電極板の前記誘電体層を有する片面の表面が平滑であることを特徴とするプラズマ処理装置。
(2)一方の片面に誘電体層を有し、他方の片面に支持体層を有する平板状の電極板2枚が、間に空間を挟んで、前記誘電体層が互いに対向するように設置された構造体単位が厚さ方向に2以上繰り返された構成の複層構造を有するプラズマ発生部と、前記空間にプラズマを発生させるために、前記構造体単位の前記空間を挟んで互いに対向する2枚の前記電極板の間に交流電圧を印加することができる電源部と、流体をプラズマで処理するために、前記空間に流体を流すことができる流体流動部を有することを特徴とする両バリア放電方式のプラズマ処理装置であって、前記空間には、流体の流路に沿って、流路の両側にスペーサーが設置され、記電極板の端面が絶縁性部材によって封止され、前記流体が気体であって、前記流体の流れる方向に向かって前記プラズマ発生部の前記流体の流路の断面積が小さくなっていることを特徴とするプラズマ処理装置。
(3)一方の片面に誘電体層を有し、他方の片面に支持体層を有する平板状の電極板2枚が、間に空間を挟んで、前記誘電体層が互いに対向するように設置された構造体単位が厚さ方向に2以上繰り返された構成の複層構造を有するプラズマ発生部と、前記空間にプラズマを発生させるために、前記構造体単位の前記空間を挟んで互いに対向する2枚の前記電極板の間に交流電圧を印加することができる電源部と、流体をプラズマで処理するために、前記空間に流体を流すことができる流体流動部を有することを特徴とする両バリア放電方式のプラズマ処理装置であって、前記空間には、流体の流路に沿って、流路の両側にスペーサーが設置され、前記電極板の端面が絶縁性部材によって封止され、前記誘電体層が主としてガラスまたはシリコーン系樹脂から構成され、前記支持体層が主としてガラス繊維とエポキシ樹脂との複合体から構成されていることを特徴とするプラズマ処理装置。
(4)一方の片面に誘電体層を有し、他方の片面に支持体層を有する平板状の電極板2枚が、間に空間を挟んで、前記誘電体層が互いに対向するように設置された構造体単位が厚さ方向に2以上繰り返された構成の複層構造を有するプラズマ発生部と、前記空間にプラズマを発生させるために、前記構造体単位の前記空間を挟んで互いに対向する2枚の前記電極板の間に交流電圧を印加することができる電源部と、流体をプラズマで処理するために、前記空間に流体を流すことができる流体流動部を有することを特徴とする両バリア放電方式のプラズマ処理装置であって、前記空間には、流体の流路に沿って、流路の両側にスペーサーが設置され、前記電極板の端面が絶縁性部材によって封止され、前記電極板と前記誘電体層とがシリコーン系接着剤で接着されていることを特徴とするプラズマ処理装置。
(5)前記複層構造が平面状または曲面状であることを特徴とする前記(1)乃至前記(4)のいずれかに記載のプラズマ処理装置。
(6)前記電極板が銅板であることを特徴とする前記(1)乃至前記(4)のいずれかに記載のプラズマ処理装置。
【発明の効果】
【0009】
本発明のプラズマ処理装置は、流体に対して連続して均一にプラズマ処理をすることが可能であり、製造時の取扱性と作業性に優れている。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本実施形態のプラズマ処理装置のプラズマ発生部の模式的見取図である。
【
図2】本実施形態のプラズマ処理装置のプラズマ発生部の模式的断面図である。
【
図3】本実施形態のプラズマ処理装置のプラズマ発生部の模式的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明するが、本発明の実施形態は、以下に記載された具体的な実施形態に限られる訳ではない。
【0012】
本実施形態のプラズマ処理装置は、一方の片面に誘電体層を有し、他方の片面に支持体層を有する平板状の電極板2枚が、間に空間を挟んで、前記誘電体層が互いに対向するように設置された構造体単位が厚さ方向に2以上繰り返された構成の複層構造を有するプラズマ発生部と、前記空間にプラズマを発生させるために、前記構造体単位の前記空間を挟んで互いに対向する2枚の前記電極板の間に交流電圧を印加することができる電源部と、流体をプラズマで処理するために、前記空間に流体を流すことができる流体流動部を有することを特徴とする両バリア放電方式によるプラズマ処理装置である。
【0013】
誘電体バリア放電は、両電極の一方だけに誘電体層を設置した片バリア放電方式と、両電極の両方に誘電体層を設置した両バリア放電方式とに分類することができる。本実施形態のプラズマ処理装置は、両バリア放電方式によるプラズマ処理装置である。すなわち、本実施形態のプラズマ処理装置は、2枚の電極板のそれぞれにおいて、2枚の電極板の間に存在する空間側の片面に誘電体層を設けた構造を有している。そして、本実施形態のプラズマ処理装置は、当該2つの誘電体層で挟まれた空間にプラズマを発生させる。
【0014】
本実施形態のプラズマ処理装置は、両バリア放電方式であるため、電極間に発生するプラズマの局部的な集中を抑制して、電極間の空間におけるプラズマの発生の均一化を図ることができる。また、電極間の空間に局所的に発生するおそれのある温度の上昇も低減させて、低温プラズマを安定して発生させることができる。
【0015】
また、電極間の空間に存在するプラズマ中の電子やイオンが中性粒子と衝突を起こすと、中性粒子は一旦励起される。そして、励起された中性粒子は基底状態に戻るときに光を放射することがある。そのため、本実施形態のプラズマ処理装置からは紫色の可視光や紫外線の発光が観察されることがある。
【0016】
図1は、本実施形態のプラズマ処理装置のプラズマ発生部10の模式的見取図である。プラズマ発生部10の複層構造を構成する構造体単位は、支持体層1、電極板2、誘電体層3、空間4、誘電体層3、電極板2、支持体層1の各層を有している。そして、プラズマ発生部10は、この構造体単位が厚さ方向に2以上繰り返された構成の複層構造を有している。
図1では、この構造体単位が厚さ方向に3回繰り返された構成の複層構造が示されている。
【0017】
図1において、空間4は、入口から出口に向かってスリット状に連通した空間であり、上下に存在する2枚の電極板2間に交流電圧を印加することによって、空間4内にプラズマを発生させることができる。空間4の一方の入口から空間4内に流体を流すことによって、流体は空間4内でプラズマ処理され、空間4の他方の出口から排出される。
【0018】
図1において、空間4には、流体の流路に沿って、流路の両側にスペーサー6が設置されている。すなわち、空間4は、上下を誘電体層3によって仕切られ、左右をスペーサー6によって仕切られた断面形状を有している。スペーサー6は、空間4を所定の高さで維持できるように、空間4を支える役割を担っている。
スペーサー6の高さを変えることによって、空間4の高さを調整することができる。空間4の高さは、特に限定されないが、プラズマ処理の効率を高めるという観点から、1~20mmが好ましく、2~10mmがより好ましい。
【0019】
図1において、電極板2は、その端面が絶縁性部材5によって封止されている。すなわち、電極板2は、その上下に支持体層1と誘電体層3が存在し、左右の端面に絶縁性部材5が存在する断面形状を有している。絶縁性部材5は、交流電圧が印加されて高温や活性物質にさらされる電極板2を外界から遮断して、劣化することのないように保護する役割を有している。電極板2は、断面方向と直角の流体の流れ方向の両端面においても、絶縁性部材5によって封止されていることが好ましい。
【0020】
図1では、矢印で示されるように、流体がプラズマ発生部10の後方(紙面の裏側の右側)からプラズマ発生部10の複数の空間4に流入し、プラズマ発生部10の複数の空間4内を通過して、プラズマ発生部10の前方(紙面の表側の左側)から流体が排出される状況が示されている。
【0021】
図2は、本実施形態のプラズマ処理装置のプラズマ発生部10の模式的断面図である。
図2(a)は、
図1のプラズマ発生部10のA-A断面の模式的断面図である。
図2(a)では、構造体単位が厚さ方向に3回繰り返された構成の複層構造が示されている。一方、
図2(b)は、
図2(a)と同じく、プラズマ発生部10の模式的断面図であるが、
図2(a)に対する変形例を示している。
【0022】
図2(b)では、構造体単位が厚さ方向に3回繰り返された構成の複層構造において、中間にある構造体単位の上側の支持体層1が上方にある構造体単位の下側の支持体層1を兼ねた構成となっている。同様に、中間にある構造体単位の下側の支持体層1が下方にある構造体単位の上側の支持体層1を兼ねた構成となっている。すなわち、構造体単位が厚さ方向に2以上繰り返された構成の複層構造において、隣り合う2つの構造体単位の中間にある支持体層は、当該隣り合う2つの構造体単位の支持体層を兼ねるものであってもよい。その結果、
図2(a)の構成に比べて、
図2(b)の構成は、複層構造の厚さを薄くすることができ、よりコンパクトなプラズマ発生部10とすることができる。
図2(a)および
図2(b)に示されるように、本実施形態のプラズマ発生部10の構成は、各構造体単位がそれぞれ空間4および2枚の電極板2を有している。そのため、構造体単位毎に、印加する交流電圧や周波数の設定を変えることができ、より綿密なプラズマ処理の条件を設定することが可能である。
【0023】
上記のように、本実施形態の構造体単位では、基本的に空間4を対称の軸として空間4の上下の両側に誘電体層3、電極板2、支持体層1がほぼ対称的に平行に積層した構成を有している。そのため、空間4内に発生するプラズマも場所による偏りが少なく、空間4に流される流体を均一に処理することが可能となっている。
【0024】
プラズマ発生部10の複層構造を構成する構造体単位の繰り返し回数は、2以上であって、特に限定されない。処理対象の流体の容積や処理速度に応じて、適宜設定することができる。例えば、2~100回に設定することができる。
【0025】
本実施形態において、プラズマ処理の対象である流体とは、液体または気体である。プラズマ処理を行う目的は殺菌、消臭、表面改質、有害化学物質の分解など種々あり、目的や用途に応じて、対象となる流体に特に制限はない。また、流体を流すときの処理時間や処理の強さなどは、目的や用途に応じて、流速や印加する交流電圧の強さを変えて、適宜調整することができる。
【0026】
図3は、
図1のプラズマ発生部10のB-B断面の模式的断面図であり、空間4とスペーサー6とから構成される空間4の水平方向での断面図が示されている。
図3(a)は、空間4が流体の入口(上方)から出口(下方)に至るまで、幅が同一であり、流体の流れる方向(矢印)に向かってプラズマ発生部4の流体の流路の断面積が変わらない場合である。一方、
図3(b)は、空間4が流体の入口(上方)から出口(下方)に至るまで、幅が直線的に減少しており、流体の流れる方向(矢印)に向かってプラズマ発生部4の流体の流路の断面積が小さくなっている場合である。
【0027】
図3(b)のように、流体の流れる方向に向かってプラズマ発生部10の流体の流路の断面積が小さくなっていると、流体が気体であるときは、空間4の入口付近に比べて出口付近の流体の流速が増大することになる。その結果、プラズマ処理された流体をプラズマ処理装置の出口から勢いよく噴出させることができるため、例えば、プラズマ処理で生じた活性物質を対象物体に吹き付けて表面処理したいときや、室内などに噴出させたいときなどに有効である。
【0028】
電極板2は、導電性材料で構成されており、金属板(金属箔を含む)、導電性塗料、導電性高分子、導電性の膜などを使用することができるが、金属板であることが好ましい。金属材料としては、導電性に優れた銅、アルミニウム、ステンレス鋼、鉄などが好ましい。これらの中では、導電性、コストの点から銅がより好ましい。
【0029】
電極板2の誘電体層3を有する片面の表面は、平滑であることが好ましい。電極板2の表面が平滑であると、いわゆるベタの平板であることになり、2枚の電極板2の間に交流電圧を印加した際に発生するプラズマが、場所によって局在化することが少なく、空間4に均一なプラズマを発生させることができる。電極板2の表面に凹凸が存在すると、凸の部分から局部的に放電し易くなって、プラズマの発生が局在化される懸念がある。
【0030】
また、電極板2の表面が平滑であると、空間4で発生する可視光や紫外線を2枚の電極板2間で繰り返し反射させることが可能となり、処理対象の流体に対する可視光や紫外線照射による処理効果をより高めることができる。
電極板2は、表面の平滑性を高めるために、表面がメッキされていることが好ましい。メッキの種類としては、金メッキ、銀メッキなどがある。
電極板2の厚さは、特に限定されないが、軽量でコンパクトな処理装置とするために、10μm~1mmが好ましく、10μm~0.2mmがより好ましく、10μm~0.1mmがさらに好ましい。
【0031】
誘電体層3を構成する材料は、2枚の電極板2の間で容易に放電することがないように、絶縁性材料を使用することが必要である。また、誘電体層3を構成する材料は、空間4において発生するプラズマにさらされることになるため、プラズマ中で発生する活性物質に対して耐久性を有した材料であることが好ましい。誘電体層3を構成する材料として、具体的には、ガラス、セラミックス、合成樹脂などを挙げることができる。セラミックスとしては、アルミナ、シリカ、酸化チタン、酸化亜鉛などが挙げられる。合成樹脂には、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂がある。熱可塑性樹脂としては、ポリオレフィン、ポリスチレン、ポリ酢酸ビニル、ポリウレタン、ポリ乳酸、ABS樹脂、AS樹脂、アクリル樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデンなどの汎用樹脂、ポリアミド、ポリアセタール、ポリカーボネート、変性ポリフェニレンエーテル、ポリエステル、環状ポリオレフィンなどのエンジニアリングプラスチック、ポリフェニレンスルファイド、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、ポリアリレート、液晶ポリマー、ポリエーテルエーテルケトン、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、フッ素系樹脂、シリコーン系樹脂などのスーパーエンジニアリングプラスチックが挙げられる。熱硬化性樹脂としては、フェノール樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、アルキド樹脂、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂などが挙げられる。
これらの中では、主としてガラスまたはシリコーン系樹脂から構成されていることが好ましい。ここで、「主として」とは、成分組成が50質量%以上であることを意味している(以下、同様である。)。
誘電体層3の厚さは、特に限定されないが、軽量でコンパクトな処理装置とするために、0.1~5mmが好ましく、0.1~1mmがより好ましい。
【0032】
スペーサー6を構成する材料についても、2枚の電極板2の間で容易に放電することがないように、絶縁性材料を使用することが必要である。また、スペーサー6を構成する材料は、空間4において発生するプラズマにさらされることになるため、プラズマ中で発生する活性物質に対して耐久性を有した材料であることが好ましい。スペーサー6を構成する材料として、具体的には、ガラス、セラミックス、合成樹脂などを挙げることができる。セラミックスと合成樹脂の具体例については、誘電体層3を構成する材料と同様である。
絶縁性部材5を構成する材料としては、具体的には、合成樹脂などを挙げることができる。合成樹脂の具体例については、誘電体層3を構成する材料としての合成樹脂と同様である。
【0033】
支持体層1は、構造体単位を支持する層であり、構造体単位の形態を保持して安定化を図り、さらにはプラズマ発生部10としての形態の安定化にも寄与する層である。
支持体層1としては、絶縁性材料が使用される。絶縁性材料としては、特に限定されないが、取扱性を向上させ、適度の柔軟性を付与するために、合成樹脂を用いることが好ましい。合成樹脂としては、誘電体層3を構成する材料としての合成樹脂と同様に、汎用樹脂、エンジニアリングプラスチック、スーパーエンジニアリングプラスチックなどの熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂などが挙げられる。これらの中では、シリコーン系樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、アルキド樹脂、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂などの熱硬化性樹脂が好ましい。熱硬化性樹脂の中では、取扱性に優れ、安価に入手できるエポキシ樹脂が好ましい。
また、合成樹脂を補強するために、合成樹脂中にフィラーを添加することが好ましい。フィラーとしては、ガラス繊維、炭素繊維、アラミド繊維、ウィスカー、セルロース繊維などの繊維、炭酸カルシウム、シリカ、タルク、マイカ、クレイ、アルミナ、カオリンなどの無機粒子などが挙げられる。
【0034】
これらの中では、合成樹脂としてエポキシ樹脂、フェノール樹脂、フィラーとしてガラス繊維、セルロース繊維(紙)を用いた複合体が好ましい。さらに、主としてガラス繊維とエポキシ樹脂との複合体がより好ましい。具体的には、ガラス繊維と熱硬化性エポキシ樹脂からなるガラスエポキシ基板、紙とフェノール樹脂からなる紙フェノール基板などの、いわゆるプリント配線基板が挙げられる。これらの基板と銅箔とを貼り合わせた銅張積層板は、銅箔がそのまま本実施形態の電極板2として利用することができるので、特に好ましい。
【0035】
構造体単位を構成する電極板2と誘電体層3は、いずれも薄い層であるため、取扱性や作業性に劣っている。例えば、電極板2と誘電体層3を積層する際に、いずれの層も薄くて腰がなく、自重によるたわみなどで、積層して圧着する際や接着剤を塗布する際に、しわが入ったり、気泡が入ったり、ひびが入ったりし易い。一方、本実施形態の支持体層1は、ある程度たわむことができる柔軟性を有しているため、各層のゆがみを吸収して、支持体層1をたわませつつ電極板2と誘電体層3を積層させることができる。その結果、積層して圧着する際や接着剤を塗布する際に、しわが入ったり、気泡が入ったり、ひびが入ったりすることを低減させることができる。
【0036】
このように本実施形態では、支持体層1を設けることによって、構造体単位を構成する電極板2と誘電体層3の取扱性や作業性を向上させて、プラズマ処理装置を効率よく高い歩留まりで製造することを可能としている。
【0037】
本実施形態のプラズマ発生部10では、構造体単位が厚さ方向に2以上繰り返された構成の複層構造が平面状であっても、曲面状であってもよい。構造体単位を構成する支持体層1、電極板2、誘電体層3等の材料の種類や厚さを適宜選択することによって、複層構造を曲げることが可能となる。プラズマ処理の目的や用途、流体の種類等に応じて、プラズマ発生部の寸法や形状は種々のものに対応することが必要となる。本実施形態では、構造体単位を構成する各材料の選択の自由度が高く、製造時の取扱性と作業性にも優れているため、求められるニーズに応じて、種々の形態を形成することが可能である。曲面状の形態としては、円筒形、渦巻き状断面、U字型断面、W字型断面、等の形状にも対応することができる。
【0038】
電極板2と誘電体層3は、接着剤を使用せずに積層してもよいし、接着剤で接着してもよい。接着剤としては、空間4において発生するプラズマに近接しているため、プラズマ中で発生する活性物質に対して耐久性を有した材料であることが好ましい。接着剤としては、エポキシ系、アクリル系、ウレタン系、フェノール系、ユリア系、メラミン系、シリコーン系、シアノアクリレート系、ゴム系、酢酸ビニル系などの種類がある。これらの中では、耐久性の点から、シリコーン系接着剤、UV硬化型エポキシ系接着剤が好ましく、シリコーン系接着剤がより好ましい。
接着剤層の厚さは、0.01~0.2mmが好ましく、0.01~0.1mmがより好ましい。
【0039】
プラズマ処理装置は、使用時に温度の変化があるため、複層構造を構成する素材間で熱膨張係数に大きな差異があると、経時的に剥離等の問題が生じる懸念がある。そのため、電極板2と積層する誘電体層3や支持体層1を構成する材料および接着剤は、電極板2の寸法変化に追随し得るような柔軟性に優れた材料であることが好ましい。そのような材料としては、合成樹脂系の材料が好ましく、合成樹脂系の材料の中からさらに適切な材料を選択して用いることが好ましい。
【0040】
本実施形態のプラズマ処理装置のプラズマ発生部10を製造するためには、支持体層1、電極板2、誘電体層3、スペーサー6、絶縁性部材5などの材料を順番に丁寧に積層していく作業が必要である。
図2(a)に記載のプラズマ発生部10の製造工程の一例を以下に説明する。
尚、以下の製造工程の一例では、各層の接着に接着剤を用いている。接着剤としては前記のものを適宜選択して用いることができる。
(i)まず、積層するべき各材料をそれぞれ所定の寸法に切断する。
(ii)支持体層1をベースにして、その上に接着剤を塗布する。
(iii)接着剤の上に電極板2を所定の位置に積層する。また、接着剤の上の電極板2の周囲に絶縁性部材5を積層する。
(iv)プレス機を用いて加熱プレスして、支持体層1と電極板2、絶縁性部材5を接着させる。
(v)電極板2と絶縁性部材5の上に接着剤を塗布する。その後、接着剤の上に誘電体層3を積層する。
(vi)プレス機を用いて加熱プレスして、誘電体層3を接着させる。
(vii)誘電体層3の上の所定の位置に接着剤を塗布する。その後、接着剤の上にスペーサー6を積層する。
(viii)プレス機を用いて加熱プレスして、スペーサー6を接着させる。
(ix)スペーサー6の上に接着剤を塗布する。その後、接着剤の上に誘電体層3を積層する。
(x)プレス機を用いて加熱プレスして、誘電体層3を接着させる。
(xi)誘電体層3の上に接着剤を塗布する。
(xii)接着剤の上に電極板2を所定の位置に積層する。また、接着剤の上の電極板2の周囲に絶縁性部材5を積層する。
(xiii)プレス機を用いて加熱プレスして、誘電体層3と電極板2、絶縁性部材5を接着させる。
(xiv)電極板2と絶縁性部材5の上に接着剤を塗布する。その後、接着剤の上に支持体層1を積層する。
(xv)プレス機を用いて加熱プレスして、支持体層1を接着させる。
以上の操作で、1つの構造体単位を形成することができた。
同様の操作を繰り返して、2以上の構造体単位を形成する。2以上の構造体単位を接着剤等を用いて積層することによって、構造体単位が厚さ方向に2以上繰り返された構成の複層構造を有する
図2(a)に記載のプラズマ発生部を形成することができる。
【0041】
本実施形態の電源部(不図示)は、空間4にプラズマを発生させるために、構造体単位の空間4を挟んで互いに対向する2枚の電極板2の間に交流電圧を印加するものである。電源部の具体的な内容については、プラズマ発生部10の2枚の電極板2の対毎に所定の周波数で所定の電圧の交流電圧を印加することができれば、特に制約はなく、公知の電源装置を用いることができる。
交流電圧の周波数としては、50Hz~30MHzが好ましく、50Hz~100kHzがより好ましい。また、交流電圧としては、1~50kVが好ましく、2~10kVがより好ましい。
【0042】
本実施形態の流体流動部(不図示)は、流体をプラズマで処理するために、空間4に流体を流すことができる装置であれば、特に制約はない。
図1に示されているように、プラズマ発生部10の一方の側から各空間4に流体が供給され、プラズマ発生部10の他方の側の各空間4から流体が排出される。各空間4から排出される流体を合流させて、外部に排出させることができる構成とすることが好ましい。
流体が気体の場合は、流体を流動させる駆動装置としては、遠心式送風機(シロッコファン、ラジアルファン、ターボファンなど)、軸流式送風機(プロペラファンなど)、斜流式送風機(ラインファンなど)、横流式送風機、ブロアなどの公知の装置が適宜使用される。
流体が液体の場合は、流体を流動させる駆動装置としては、遠心ポンプ、プロペラポンプ、粘性ポンプ、往復動ポンプなどの公知の装置が適宜使用される。
【0043】
本実施形態のプラズマ処理装置を用いてプラズマ処理を行うことによって発揮される機能としては、殺菌、ウィルスの不活化、消臭、表面改質、有害化学物質の分解、二酸化炭素の分解などが挙げられる。これらの機能が発揮されるメカニズムとしては、プラズマ処理によって、流体中に一重項酸素、過酸化水素、OHラジカル、ペルオキシドラジカル、オゾン等の活性酸素種(Reactive Oxygen Species)が生成し、それらが酸化反応等によって、対象となる微生物を死滅させたり、化学物質を分解・改質させたりするためと考えられている。微生物としては、各種の細菌、ウィルス、カビなどが挙げられる。
【0044】
本実施形態のプラズマ処理装置を用いてプラズマ処理を行うことによって、化学物質として、例えば、二酸化炭素の分解に利用することができる。二酸化炭素を大気圧下で低温度のプラズマで処理することにより、一酸化炭素と酸素や炭素などに変換させることが可能であり、地球温暖化の原因である二酸化炭素の低減に貢献することができる。
【0045】
これらの機能を利用して、農業、水産業、畜産業、食品加工業、輸送業、保管業、小売業などの多くの産業分野において、消臭、悪臭除去、殺菌消毒、水質浄化等の目的で利用することができる。
【0046】
以上、説明してきたことからわかるように、本実施形態のプラズマ処理装置は、以下のような特徴を有している。
(1)本発明のプラズマ処理装置は、平板状の電極板間の広い面積の空間内に均一なプラズマを発生させることができるので、流体に対して連続して均一なプラズマ処理を行うことができる。
(2)本発明のプラズマ処理装置は、支持体層を有していることによって、電極板と誘電体層の製造時における取扱性や作業性を向上させて、プラズマ処理装置を効率よく高い歩留まりで製造することができる。
【符号の説明】
【0047】
1 支持体層
2 電極板
3 誘電体層
4 空間
5 絶縁性部材
6 スペーサー
10 プラズマ発生部
【要約】
【課題】流体に対して連続して均一にプラズマ処理をすることが可能であり、製造時の取扱性と作業性に優れているプラズマ処理装置を提供する。
【解決手段】一方の片面に誘電体層を有し、他方の片面に支持体層を有する平板状の電極板2枚が、間に空間を挟んで、前記誘電体層が互いに対向するように設置された構造体単位が厚さ方向に2以上繰り返された構成の複層構造を有するプラズマ発生部と、前記空間にプラズマを発生させるために、前記構造体単位の前記空間を挟んで互いに対向する2枚の前記電極板の間に交流電圧を印加することができる電源部と、流体をプラズマで処理するために、前記空間に流体を流すことができる流体流動部を有する両バリア放電方式のプラズマ処理装置であって、前記空間には、流体の流路に沿って、流路の両側にスペーサーが設置され、前記電極板の端面が絶縁性部材によって封止されているプラズマ処理装置である。
【選択図】
図1