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特許7458132不燃用粉体、ポリウレタン樹脂組成物及び発泡ポリウレタン樹脂層の形成方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-21
(45)【発行日】2024-03-29
(54)【発明の名称】不燃用粉体、ポリウレタン樹脂組成物及び発泡ポリウレタン樹脂層の形成方法
(51)【国際特許分類】
   C09K 21/02 20060101AFI20240322BHJP
   C08G 18/00 20060101ALI20240322BHJP
   C09K 21/04 20060101ALI20240322BHJP
   C09K 21/12 20060101ALI20240322BHJP
   E04B 1/94 20060101ALI20240322BHJP
【FI】
C09K21/02
C08G18/00 K
C09K21/04
C09K21/12
E04B1/94 E
E04B1/94 U
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2020020233
(22)【出願日】2020-02-09
(65)【公開番号】P2021123697
(43)【公開日】2021-08-30
【審査請求日】2023-02-07
(73)【特許権者】
【識別番号】519238266
【氏名又は名称】米川 壽夫
(73)【特許権者】
【識別番号】519238277
【氏名又は名称】青木 正司
(73)【特許権者】
【識別番号】519238288
【氏名又は名称】米川 侑孝
(74)【代理人】
【識別番号】100198498
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 靖
(72)【発明者】
【氏名】米川壽夫
(72)【発明者】
【氏名】青木正司
【審査官】中田 光祐
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-051986(JP,A)
【文献】特開2011-225833(JP,A)
【文献】特開2019-167521(JP,A)
【文献】国際公開第2020/158913(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 21/00- 21/14
C08G 18/00- 18/87;
71/00- 71/04
C08K 3/00- 13/08
C08L 1/00-101/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記成分(A)(B)及び(C)を含み、前記成分(A)5質量部に対して前記成分(B)を10質量部、前記成分(C)を10質量部としたことを特徴とする不燃用粉体。
(A)膨張黒鉛
(B)鱗片状黒鉛
(C)水酸化アルミニウム
【請求項2】
前記成分(B)の鱗片状黒鉛を、10ミクロンの鱗片状黒鉛5質量部に対して、45ミクロンの鱗片状黒鉛を5質量部としたことを特徴とする請求項1に記載の不燃用粉体。
【請求項3】
下記成分(a)(b)(c)及び(d)を含むことを特徴とする不燃用粉体。
(a)膨張黒鉛
(b)鱗片状黒鉛
(c)ポリリン酸アンモニウム又はポリリン酸メラミン
(d)酸化チタン、炭酸カルシウムの少なくとも1つ
【請求項4】
さらに下記成分()を含むことを特徴とする請求項に記載の不燃用粉体。
)微粒二酸化ケイ素、低融点ガラス粉末の少なくとも1つ
【請求項5】
前記成分()を35質量部に対して、前記成分()を5質量部とし、かつ、前記成分()()()を合計60質量部としたことを特徴とする請求項に記載の不燃用粉体。
【請求項6】
さらに前記成分()を7質量部、前記成分()を23質量部、前記成分()を30質量部としたことを特徴とする請求項に記載の不燃用粉体。
【請求項7】
下記成分()()()及び()を含むことを特徴とするポリウレタン樹脂組成物。
)ポリオールとポリイソシアネートとからなる母剤組成物
)膨張黒鉛
)鱗片状黒鉛
水酸化アルミニウム
【請求項8】
前記成分()100質量部に対して、前記成分()を5質量部、前記成分()を10質量部、前記成分()を10質量部としたことを特徴とする請求項に記載のポリウレタン樹脂組成物。
【請求項9】
前記成分()は、10ミクロンの鱗片状黒鉛5質量部に対して、45ミクロンの鱗片状黒鉛を5質量部としたことを特徴とする請求項7又は請求項8に記載のポリウレタン樹脂組成物。
【請求項10】
請求項7から請求項9何れかに記載のポリウレタン樹脂組成物を対象物に吹き付けて所望の膜厚の発泡ポリウレタン樹脂層を形成する発泡ポリウレタン樹脂層の形成方法であって、
前記ポリオールと前記ポリイソシアネートの少なくとも一方に、前記成分(い)前記成分(う)前記成分(え)を添加するステップと、
前記ポリオールと前記ポリイソシアネートを混合・撹拌して生成されるポリウレタン樹脂の温度が摂氏31度から摂氏40度の間となるように前記ポリオールと前記ポリイソシアネートを加温するステップと、
前記ポリオールと前記ポリイソシアネートとを混合・撹拌して生成されるポリウレタン樹脂の圧力が、所定の圧力となるように前記ポリオールと前記ポリイソシアネートを加圧するステップと、
前記加温され、かつ、前記所定の圧力に加圧された前記ポリウレタン樹脂を、口径1.5mmの吐出口から対象物に吹き付けるステップとを含んでいることを特徴とする発泡ポリウレタン樹脂層の形成方法。
【請求項11】
下記成分(ア)(イ)(ウ)及び(エ)を含むことを特徴とするポリウレタン樹脂組成物。
(ア)ポリオールとポリイソシアネートとからなる母剤組成物
(イ)膨張黒鉛
(ウ)鱗片状黒鉛
(エ)ポリリン酸アンモニウム又はポリリン酸メラミン
【請求項12】
さらに下記成分(オ)を含むことを特徴とする請求項11に記載のポリウレタン樹脂組成物。
(オ)酸化チタン、炭酸カルシウムの少なくとも1つ
【請求項13】
さらに下記成分(カ)を含むことを特徴とする請求項12に記載のポリウレタン樹脂組成物。
(カ)微粒二酸化ケイ素、低融点ガラス粉末の少なくとも1つ
【請求項14】
前記成分(イ)35質量部に対し、前記成分(ウ)を5質量部とし、かつ、前記成分(エ)(オ)(カ)を合計60質量部とし、これを前記成分(ア)に混入するに当たっては該成分(ア)100質量部に対して、前記成分(ウ)(エ)(オ)(カ)の合計を70質量部としたことを特徴とする請求項13に記載のポリウレタン樹脂組成物。
【請求項15】
さらに前記成分(エ)を7質量部、前記成分(オ)を23質量部、前記成分(カ)を30質量部としたことを特徴とする請求項14に記載のポリウレタン樹脂組成物。
【請求項16】
請求項11から請求項15の何れかに記載のポリウレタン樹脂組成物を対象物に吹き付けて所望の膜厚の発泡ポリウレタン樹脂層を形成する発泡ポリウレタン樹脂層の形成方法であって、
前記ポリオールと前記ポリイソシアネートの少なくとも一方に、前記成分(イ)前記成分(ウ)前記成分(エ)を添加するステップと、
前記ポリオールと前記ポリイソシアネートを混合・撹拌して生成されるポリウレタン樹脂の温度が摂氏31度から摂氏40度の間となるように前記ポリオールと前記ポリイソシアネートを加温するステップと、
前記ポリオールと前記ポリイソシアネートとを混合・撹拌して生成されるポリウレタン樹脂の圧力が、所定の圧力となるように前記ポリオールと前記ポリイソシアネートを加圧するステップと、
前記加温され、かつ、前記所定の圧力に加圧された前記ポリウレタン樹脂を、口径1.5mmの吐出口から対象物に吹き付けるステップとを含んでいることを特徴とする発泡ポリウレタン樹脂層の形成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不燃用粉体、ポリウレタン樹脂組成物及び発泡ポリウレタン樹脂層の形成方法に関し、特に、吹付け工法による不燃性を備えた発泡ポリウレタン樹脂層の形成を可能とする不燃用粉体、ポリウレタン樹脂組成物及び発泡ポリウレタン樹脂層の形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、建物の内壁と外壁の間に設けられたり、外壁に設けられて、建物内部と外部の音を遮断したり(防音効果)、建物内部と外部の温度差を保持する(断熱性)のに最適な硬質の発泡ポリウレタン樹脂(樹脂層)が提案されている。
【0003】
この発泡ポリウレタン樹脂(樹脂層)は、例えば、断熱機器(冷蔵庫、冷凍庫等)、船舶(大型船、漁船、冷凍貨物船)、コンテナ等にも用いられる。
硬質の発泡ポリウレタン樹脂は、ポリイソシアネートとポリオールを主成分として、発泡剤、整泡剤(気泡安定剤)、触媒などを混合し、樹脂生成反応を行いながら、同時にガス発生によりこれを発泡させるものである。
【0004】
ところで、ポリウレタン樹脂は有機高分子化合物であることから、火災発生時、温度の上昇によって低分子化して可燃性ガスを生じるため、容易に燃焼するという性質がある。
このため従来より発泡ポリウレタン樹脂(樹脂層)に難燃剤として、ポリリン酸アンモニウム、ホウ酸、膨張黒鉛等を添加剤に用い、もって、発泡ポリウレタン樹脂(樹脂層)に難燃性をもたせることが例えば、特許文献1から特許文献3で提案されている。
【0005】
特に、難燃剤として膨張黒鉛を用いたものは、発泡ポリウレタン樹脂(樹脂層)が炎に晒された際、含まれている膨張黒鉛が膨張し(100~300倍)、これにより断熱効果が保持されたまま表面が炭化するため、その発火が抑えられる。
膨張黒鉛を含む発泡ポリウレタン樹脂(樹脂層)を、例えば建物の壁面に形成することで、建物自体に不燃性(準耐火性)を持たせることができ、かつ、近傍で火災が発生した場合でも当該建物内部での温度上昇を抑えことが期待できる。
【0006】
難燃剤として膨張黒鉛を含む発泡ポリウレタン樹脂(樹脂層)は、通常、予め工場等でシート状に形成される。工場等では、ポリイソシアネート(A剤)とポリオール(B剤)の少なくとも一方に膨張黒鉛を加え、これら2液を混合・撹拌して型に流し込み、固化させてシート状の発泡ポリウレタン樹脂の製品を製造する。これらの製品は、作業現場に搬入されて建物の壁面等に取り付けられる。
【0007】
一方で、発泡ポリウレタン樹脂を建物の壁面等に取り付ける手法としては、作業現場でポリイソシアネート(A剤)とポリオール(B剤)を混合・撹拌し、これを吹付装置で、対象となる建物の壁面等に直接吹き付ける所謂「吹付け工法」も広く行われている。
この吹付け工法は、発泡ポリウレタン樹脂を作業現場で対象物(壁面)に直接吹き付けるので作業効率が上がり、コストを抑えることができる。
【0008】
ちなみに、膨張黒鉛を加えたポリイソシアネートとポリオールとを、対象物(壁面)に別々に吹き付け、対象物の表面(建物の壁面等)に発泡ポリウレタン樹脂層を形成する技術が、特許文献3にて提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特許第4809924号
【文献】公開特許公報2016-71108号
【文献】特許第6209432号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記したように添加剤として膨張黒鉛を用いることは、建物の壁面等に形成される発泡ポリウレタン樹脂(樹脂層)に難燃性を持たせるには極めて有用であるが、上記した作業現場での吹付け工法を用いることができないという課題があった。
【0011】
これは添加剤として用いられる膨張黒鉛は、コスト等に鑑み通常その粒度が80メッシュ程度(粒径は、約177ミクロン)であるから、この膨張黒鉛をポリイソシアネートまたはポリオールの少なくとも一方に加え(一般的にはポリオール)、これを撹拌させた後に吹付装置で吹き付けると、膨張黒鉛の粒径が大きいゆえに吹付装置の内部(特にスプレーガン)で目詰まりを起こす。
【0012】
なお、特許文献3では、膨張黒鉛をポリイソシアネート(A剤)又はポリオール(B剤)に予め添加しておき、このポリイソシアネートとポリオールとを別々に壁面で衝突混合させて発泡ポリウレタン樹脂層を形成することを開示、示唆している。しかしながらポリイソシアネートとポリオールとを吹き付け前に混合・撹拌させて化学反応(樹脂生成反応)を起す必要がある吹付け工法では、特許文献3が開示・示唆する技術を用いて建物の外壁等の対象物に発泡ポリウレタン樹脂層を形成することはできない。
【0013】
また、近年の防災意識に鑑み、建物の壁面等に使用する発泡ポリウレタン樹脂(樹脂層)に断熱性・防音性のみならず、火災に抗するよう不燃性(準耐火性)や断熱性(燃焼時)を備えることが望まれているが、膨張黒鉛が高価なものであるからコストが高く、その普及の妨げともなっている。よって、如何に膨張黒鉛の使用量を抑えて不燃性(準耐火性)を備えた発泡ポリウレタン樹脂(樹脂層)を普及させるかが課題となる。
【0014】
また、膨張黒鉛以外の難燃剤を用いた場合でも、建物を不燃とするには難燃剤を大量に加える必要があり、全体としてのコストを押し上げるが、仮に、難燃剤を単に大量に加えただけでは発泡ポリウレタン樹脂層の「強度」「断熱性」「防音性」などの物性の低下を招くという不具合もある。
よって、如何に低コストで不燃性(準耐火性)を備えた発泡ポリウレタン樹脂(樹脂層)を、その物性を損なうことなく実現するかを検討する必要がある。
【0015】
また、難燃剤(または不燃剤)として優れている膨張黒鉛が含まれる発泡ポリウレタン樹脂は、その燃焼によって大きく膨張・変形すると、発泡ポリウレタン樹脂層が形成された建物の外壁等にあっては、燃焼後、膨張時の変形によって外観が醜くなったり、その後の壁等としての機能が損なわれることもある。
【0016】
本発明の第1の目的は、不燃性(準耐火性)、断熱性(燃焼時)を共に備えた発泡ポリウレタン樹脂層を、簡易な「吹付け工法」で対象物に形成するのに適した不燃用粉体、ポリウレタン樹脂組成物及び該ポリウレタン樹脂組成物を用いた発泡ポリウレタン樹脂層の形成方法を提供することである。
【0017】
また、本発明の第2の目的は、不燃性(準耐火性)、断熱性(燃焼時)を備えた発泡ポリウレタン樹脂層を安価に実現することで、当該発泡ポリウレタン樹脂層を対象物(建物の壁面等)に安易に利用可能として、その普及を図ることに有用な不燃用粉体、ポリウレタン樹脂組成物及び該ポリウレタン樹脂組成物を用いた発泡ポリウレタン樹脂層の形成方法を提供することである。
【0018】
また、本発明の第3の目的は、不燃性、断熱性(燃焼時)を備えた発泡ポリウレタン樹脂(樹脂層)が実際に炎に晒された場合であっても、当該発泡ポリウレタン樹脂層が炎によって変形し難いようにすることが可能な不燃用粉体、ポリウレタン樹脂組成物及び該ポリウレタン樹脂組成物を用いた発泡ポリウレタン樹脂層の形成方法を提供することである。
【0019】
また、本発明の第4の目的は、発泡ポリウレタン樹脂層の表面が、一定時間炎に晒された場合であっても、当該発泡ポリウレタン樹脂層自体が燃焼することなく、しかも形状が保持されて、燃焼時にも炎が発泡ポリウレタン樹脂層の内部に至ることなく、かつ、発泡ポリウレタン樹脂層による断熱性を燃焼時でも維持することによって、建物等に所謂「準耐火性」を備えることが可能となる不燃性粉体およびポリウレタン樹脂組成物および該ポリウレタン樹脂組成物を用いた発泡ポリウレタン樹脂層の形成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本願の第1の発明は、発泡ポリウレタン樹脂層を形成する際に、ポリイソシアネート溶液とポリオール溶液の少なくとも一方に加える不燃用粉体を下記成分(A)(B)及び(C)を含み、成分(A)5質量部に対して成分(B)を10質量部、前記成分(C)を10質量部とした。
(A)膨張黒鉛
(B)鱗片状黒鉛
(C)水酸化アルミニウム
また、第2の発明は、第1の発明の不燃用粉体において、前記成分(B)の鱗片状黒鉛を、10ミクロンの鱗片状黒鉛5質量部に対して、45ミクロンの鱗片状黒鉛を5質量部としたものである。
【0021】
また、第3の発明は、発泡ポリウレタン樹脂層を形成する際に、ポリイソシアネート溶液とポリオール溶液の少なくとも一方に加える不燃用粉体を下記成分(a)(b)(c)及び(d)とした。
(a)膨張黒鉛
(b)鱗片状黒鉛
(c)ポリリン酸アンモニウム又はポリリン酸メラミン
(d)酸化チタン、炭酸カルシウムの少なくとも1つ
【0022】
また、第4の発明は、第3の発明の不燃用粉体に下記成分(e)を追加したものである。
(e)微粒二酸化ケイ素、低融点ガラス粉末の少なくとも1つ
また、第5の発明は、第の発明の不燃用粉体において、前記成分(a)を35質量部に対して、前記成分(b)を5質量部とし、かつ、前記成分(c)(d)(e)を合計60質量部としたものである。
また、第6の発明は、第5の発明の不燃用粉体において、前記成分(c)を7質量部、前記成分(d)を23質量部、前記成分(e)を30質量部としたものである。
【0023】
第7の発明は、下記成分(あ)(い)(う)及び(え)を含むポリウレタン樹脂組成物である。
(あ)ポリオールとポリイソシアネートとからなる母剤組成物
(い)膨張黒鉛
(う)鱗片状黒鉛
(え)水酸化アルミニウム
【0024】
また、第8の発明は、第7の発明のポリウレタン樹脂組成物において、前記成分(あ)100質量部に対して、成分(い)を5質量部、前記成分(う)を10質量部、前記成分(え)を10質量部としたものである。
また、第9の発明は、第7又は第8の発明のポリウレタン樹脂組成物において、前記成分(う)は、10ミクロンの鱗片状黒鉛5質量部に対して、45ミクロンの鱗片状黒鉛を5質量部としたものである。
また、第10の発明は、第7から第9のポリウレタン樹脂組成物を対象物に吹き付けて所望の膜厚の発泡ポリウレタン樹脂層を形成する発泡ポリウレタン樹脂層の形成方法であって、
前記ポリオールと前記ポリイソシアネートの少なくとも一方に、前記成分(い)前記成分(う)前記成分(え)を添加するステップと、
前記ポリオールと前記ポリイソシアネートを混合・撹拌して生成されるポリウレタン樹脂の温度が摂氏31度から摂氏40度の間となるように前記ポリオールと前記ポリイソシアネートを加温するステップと、
前記ポリオールと前記ポリイソシアネートとを混合・撹拌して生成されるポリウレタン樹脂の圧力が、所定の圧力となるように前記ポリオールと前記ポリイソシアネートを加圧するステップと、
前記加温され、かつ、前記所定の圧力に加圧された前記ポリウレタン樹脂を、口径1.5mmの吐出口から対象物に吹き付けるステップとを含むようにしたものである。
【0025】
11の発明は、発砲ポリウレタン樹脂層を形成するためのポリウレタン樹脂組成物を下記成分(ア)(イ)(ウ)及び(エ)を含むものとした。
(ア)ポリオールとポリイソシアネートとからなる母剤組成物
(イ)膨張黒鉛
(ウ)鱗片状黒鉛
(エ)ポリリン酸アンモニウム又はポリリン酸メラミン
【0026】
また、第12の発明では、第11の発明のポリウレタン樹脂組成物に、さらに下記成分(オ)を追加した。
(オ)酸化チタン、炭酸カルシウムの少なくとも1つ
また、第13の発明は、第11の発明のポリウレタン樹脂組成物において、さらに下記成分(カ)を追加した。
(カ)微粒二酸化ケイ素、低融点ガラス粉末の少なくとも1つ
【0027】
また、第14の発明は、第13の発明のポリウレタン樹脂組成物において、前記成分(イ)35質量部に対し、前記成分(ウ)を5質量部とし、かつ、前記成分(エ)(オ)(カ)を合計60質量部とし、これを前記成分(ア)に混入するに当たっては該成分(ア)100質量部に対して、前記成分(ウ)(エ)(オ)(カ)の合計を70質量部としたものである。
また、第15の発明は、第14の発明のポリウレタン樹脂組成物において、さらに前記成分(エ)を7質量部、前記成分(オ)を23質量部、前記成分(カ)を30質量部としたものである。
【0028】
また、第16の発明は、第11から第14のポリウレタン樹脂組成物を対象物に吹き付けて所望の膜厚の発泡ポリウレタン樹脂層を形成する発泡ポリウレタン樹脂層の形成方法であって、
前記ポリオールと前記ポリイソシアネートの少なくとも一方に、前記成分(イ)前記(ウ)前記(エ)を添加するステップと、
前記ポリオールと前記ポリイソシアネートを混合・撹拌して生成されるポリウレタン樹脂の温度が摂氏31度から摂氏40度の間となるように前記ポリオールと前記ポリイソシアネートを加温するステップと、
前記ポリオールと前記ポリイソシアネートとを混合・撹拌して生成されるポリウレタン樹脂の圧力が、所定の圧力となるように前記ポリオールと前記ポリイソシアネートを加圧するステップと、
前記加温され、かつ、前記所定の圧力に加圧された前記ポリウレタン樹脂を、口径1.5mmの吐出口から対象物に吹き付けるステップとを含むようにしたものである。
【0029】
第1の発明によれば、不燃用粉体に(A)膨張黒鉛、(B)鱗片状黒鉛、(C)水酸化アルミニウムを含ませ、成分(A)5質量部に対して成分(B)を10質量部、前記成分(C)を10質量部としたので、これをポリウレタン樹脂組成物に混入させ、吹付け工法によって発泡ポリウレタン樹脂層を形成することが可能になる。また、この吹付け工法により形成される発泡ポリウレタン樹脂層に、コストを抑えつつ、きわめて優れた不燃性(準耐火性)を持たせることができる。
また、水酸化アルミニウムを含ませることで、建物の壁面等に形成された発泡ポリウレタン樹脂層が炎に晒された場合であっても、無機系の物質が残存することで発泡ポリウレタン樹脂層の形状を保持することができると考えられる。これにより発泡ポリウレタン樹脂層が炎に晒されても、この炎が発泡ポリウレタン樹脂層内部に至ることがない。また、その形状が保持されるので、炎に晒された際、その熱が当該発泡ポリウレタン樹脂層により遮断され、結果として、建物の壁面等に不燃性(準耐火性)を持たせることができる。
また、第1の発明の不燃用粉体の配合がさらにコスト、効果の面で最適化され、形成された発泡ポリウレタン樹脂層の表面が炎に晒されても、延焼したり炎が内部に移ることなく、しかも燃焼時の発泡ポリウレタン樹脂層の変形量も抑えることができる。
【0030】
また、第の発明によれば、第1の発明の不燃用粉体において、鱗片状黒鉛を、所望の比率で10ミクロンの鱗片状黒鉛、45ミクロンの鱗片状黒鉛を配合することで鱗片状黒鉛の粒子の配列が不揃いになり、可燃性ガスの発生を抑えることが期待でき、コストを抑えつつ、不燃性(準耐火性)をさらに高めることができる。
【0031】
また、第3の発明によれば、不燃用粉体に(A)膨張黒鉛、(B)鱗片状黒鉛、(C)ポリリン酸アンモニウム又はポリリン酸メラミン、(D)酸化チタン、炭酸カルシウムの少なくとも1つ、を含ませたので、これをポリウレタン樹脂組成物に混入させ、吹付け工法によって発泡ポリウレタン樹脂層を形成することが可能になる。また、この吹付け工法により形成される発泡ポリウレタン樹脂層に、コストを抑えつつ、きわめて優れた不燃性(準耐火性)を持たせることができる。特に酸化チタン、炭酸カルシウムの少なくとも1つを添加したので、無機系の物質の添加量を増やすことで、燃焼後の形状の保持に有効である。特に、酸化チタンは、発泡ポリウレタン樹脂層の色付けにも併用することができる。また、炭酸カルシウムはコストの低減に有用である。
【発明の効果】
【0032】
また、の発明によれば、第3の発明の不燃用粉体にさらに微粒二酸化ケイ素または低融点ガラス粉末を加えたので、燃焼後の形状が一層保持される。
また、第5の発明によれば、第4の発明の不燃用粉体において、膨張黒鉛、鱗片状黒鉛、ポリリン酸アンモニウム(またはポリリン酸メラミン)、酸化チタン(または炭酸カルシウム)、低融点ガラス粉の配合が最適化され、この不燃用粉体を用いて発泡ポリウレタン樹脂(樹脂層)に不燃性(準耐火性)を持たせ、かつ、燃焼時の延焼を防止し、燃焼後の形状が保持される。
【0033】
また、第の発明によれば、ポリリン酸アンモニウム(またはポリリン酸メラミン)、酸化チタン(または炭酸カルシウム)、低融点ガラス粉末の配合がさらに最適化され、この不燃用粉体を用いて発泡ポリウレタン樹脂(樹脂層)に不燃性(準耐火性)を持たせ、かつ、燃焼時の延焼を防止し、燃焼後の形状の保持に有用となる。特に、炭酸カルシウムを用いた場合には、さらなるコストの低減にも寄与する。
【0034】
願の第の発明によれば、発泡ポリウレタン樹脂層を形成するためのポリウレタン樹脂組成物を生成するに当たり、ポリオールとポリイソシアネートとからなる母剤組成物に、膨張黒鉛、鱗片状黒鉛、水酸化アルミニウムを添加したので、吹付け工法によって発泡ポリウレタン樹脂層を形成することが可能になる。この吹付け工法により形成される発泡ポリウレタン樹脂層は、きわめて優れた不燃性(準耐火性)を持つこととなる。
【0035】
また、水酸化アルミニウムを含ませることで、建物の壁面等に形成された発泡ポリウレタン樹脂層が炎に晒された場合であっても、発泡ポリウレタン樹脂層の形状を保持することができる。よって、炎に晒された場合でも、炎が発泡ポリウレタン樹脂層の内部に至ることがない。また、その形状が保持されるので、残存している発泡ポリウレタン樹脂層により炎による熱が遮断され、結果として、発泡ポリウレタン樹脂層が形成された建物の壁面等に不燃性(準耐火性)を持たせることができる。
また、第8の発明によれば、第7の発明において、母剤組成物に混入される添加剤の配合がさらにコスト、効果の面で最適化され、形成された発泡ポリウレタン樹脂層の表面が炎に晒されても、延焼したり炎が内部に移ることなく、しかも燃焼時の発泡ポリウレタン樹脂層の変形量も抑えることができる。
【0036】
また、第の発明によれば、第7の発明または第8の発明のポリウレタン樹脂組成物において、母剤組成物に混入される鱗片状黒鉛を所望の比率で10ミクロンの鱗片状黒鉛、45ミクロンの鱗片状黒鉛を配合することで、鱗片状黒鉛の粒子の配列が不揃いになり、可燃性ガスの発生を抑えることが期待でき、コストを抑えつつ、発泡ポリウレタン樹脂層の不燃性(準耐火性)をさらに高めることができる。
また、本願の第10の発明によれば、第7から第9の発明に係るポリウレタン樹脂組成物を対象物に吹き付けて所望の膜厚の発泡ポリウレタン樹脂層を形成するにあたり、ポリイソシアネート、ポリオールに不燃用の添加剤の成分を多量に加え、これらを均一に混ぜ合わせても、その粘度を低く抑えることができ、吹付け工法が可能になる。この吹付け工法によれば、建物の壁面等に十分な不燃性(耐火性)を備えた発泡ポリウレタン樹脂層を、簡易な手法で、均一に見栄えよく形成することができる。
【0037】
本願の第11の発明によれば、発泡ポリウレタン樹脂層を形成するためのポリウレタン樹脂組成物を生成するに当たり、ポリオールとポリイソシアネートとからなる母剤組成物に、膨張黒鉛、鱗片状黒鉛並びにポリリン酸アンモニウム若しくはポリリン酸メラミンを添加したので、全体としてのコストを抑えつつ、吹付け工法によって発泡ポリウレタン樹脂層を形成することが可能になる。
【0038】
また、ポリリン酸アンモニウム又はポリリン酸メラミンを含ませることで更にコストを抑えつつ、建物の壁面等に形成された発泡ポリウレタン樹脂層が炎に晒された場合であっても、発泡ポリウレタン樹脂層の形状を保持することができる。また、炎に晒された場合でも炎が発泡ポリウレタン樹脂層の内部に至ることがない。また、その形状も保持されるので、残存している発泡ポリウレタン樹脂層により炎による熱が遮断され、結果として、発泡ポリウレタン樹脂層が形成された建物の壁面等に不燃性(準耐火性)を持たせることができる。
【0039】
また、第12の発明によれば、第11の発明において、さらに酸化チタン、炭酸カルシウムの少なくとも1つを添加したので、無機系の物質の添加量を増やすことができ、燃焼後の形状の保持に有効である。特に、酸化チタンは、発泡ポリウレタン樹脂層の色付けにも用いることができる。また、炭酸カルシウムはコストの低減に有用である。
また、第13の発明によれば、第12の発明おいて、さらに微粒二酸化ケイ素または低融点ガラス粉末を加えたので、燃焼後の発泡ポリウレタン樹脂層の形状が一層保持される。
【0040】
また、第14の発明によれば、第13の発明において、膨張黒鉛、鱗片状黒鉛、ポリリン酸アンモニウム(またはポリリン酸メラミン)、酸化チタン(または炭酸カルシウム)、低融点ガラス粉の配合が最適化され、このポリウレタン樹脂組成物を用いて発泡ポリウレタン樹脂(樹脂層)に不燃性(準耐火性)を持たせ、かつ、燃焼時の延焼を防止し、燃焼後の発泡ポリウレタン樹脂層の形状が保持される。
【0041】
また、第15の発明によれば、第14の発明において、ポリリン酸アンモニウム(またはポリリン酸メラミン)、酸化チタン(または炭酸カルシウム)、低融点ガラス粉末の配合が、さらに最適化され、このポリウレタン樹脂組成物を用いた発泡ポリウレタン樹脂(樹脂層)に不燃性(準耐火性)を持たせ、かつ、燃焼時の延焼を防止し、燃焼後の発泡ポリウレタン樹脂(樹脂層)の形状が保持される。特に、炭酸カルシウムを用いた場合には、さらなるコストの低減にも寄与する。
【0042】
た、本願の第16の発明によれば、第11から第14の発明に係るポリウレタン樹脂組成物を対象物に吹き付けて所望の膜厚の発泡ポリウレタン樹脂層を形成するにあたり、ポリイソシアネート、ポリオールに不燃用の添加剤の成分を多量に加え、これらを均一に混ぜ合わせても、その粘度を低く抑えることができ、吹付け工法が可能になる。この吹付け工法によれば、建物の壁面等に十分な不燃性(耐火性)を備えた発泡ポリウレタン樹脂層を、簡易な手法で、均一に見栄えよく形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
図1】本発明において用いられる吹付装置100の構造を示すブロック図である。
図2】第1の実施の形態で行われる燃焼実験の様子を説明するための図である。
図3】従来例(A)の効果、第1の実施の形態の実施例1の効果(B)、実施例2の燃焼時の効果(C)を比較するための写真である(60秒経過時点)。
図4】従来例(A)の効果、第1の実施の形態の実施例1の効果(B)、実施例2の燃焼時の効果(C)を比較するための写真である(140秒経過時点)。
図5】従来例(A)の効果、第1の実施の形態の実施例1の効果(B)、実施例2の燃焼時の効果(C)を比較するための写真である(240秒経過時点)。
図6】第1の実施の形態で行われた燃焼実験結果の様子と断面を示す図である(従来例)。
図7】第1の実施の形態で行われた燃焼実験結果の様子と断面を示す図である(実施例1)。
図8】第1の実施の形態で行われる燃焼実験結果の様子と断面を示す図である(実施例2)。
図9】第2の実施の形態で行われる燃焼実験の様子を説明するための図である。
図10】第2の実施の形態で行われた燃焼実験の結果を示す写真である(実施例3)。
図11】第2の実施の形態で行われた燃焼実験の結果を示す写真である(実施例4)。
図12】第2の実施の形態で行われた燃焼実験の結果を示す写真である(実施例5)。
図13】従来品の燃焼実験の結果と第2の実施の形態の実施例3~実施例5の結果とを比較した写真である。
図14】第3の実施の形態の燃焼実験の結果を示す写真である(実施例6)。
図15】第3の実施の形態の燃焼実験の結果を示す写真である(実施例7)。
図16】第3の実施の形態の燃焼実験下での、実施例3の発泡ポリウレタン樹脂層の燃焼実験の結果を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0044】
『第1の実施の形態』
この第1の実施の形態に係るポリウレタン樹脂組成物は、2液混合型ウレタン樹脂として用いられるものであって、作業現場で吹き付け前に、ポリイソシアネート(A剤)とポリオール(B剤)とを混合・撹拌させた後、吹付装置を用いて発泡ポリウレタン樹脂層を形成するためのものであり、本実施の形態では不燃用粉体を、吹き付け直前にその作業現場でA剤、B剤の少なくとも一方、好ましくは、双方に予め混入させておく。
【0045】
まず、本発明に係る発泡ポリウレタン樹脂層を吹付け工法で形成する際に用いられるポリウレタン吹付装置(以下「吹付装置」という。)100について説明する。
図1は、吹付装置100の構成を模式的に示した図である。
この吹付装置100は、従来より発泡ポリウレタン樹脂層の「吹付け工法」で用いられていたものと比較して、スプレーガン装置の噴射口52Aの開口が、1.5mm(従来は、1.0mm程度)と広く、加圧能力が最大24.5MPaである(200Vの圧縮ポンプを使用)。
【0046】
具体的には、吹付装置100は、ポリイソシアネート(A剤)を貯留する第1のタンク10と、ポリオール(B剤)を貯留する第2のタンク20と、圧縮機40と、ポリイソシアネートとポリオールとを混合撹拌して生成されたポリウレタン樹脂を対象物(壁面等)に吹き付けるためのスプレーガン装置50とを備えている。
【0047】
前記第1のタンク10は、第1の配管11によって前記スプレーガン装置50に連通され、前記第2のタンク20は、第2の配管21によって前記スプレーガン装置50内部に連通されている。
【0048】
前記第1の配管11の、前記第1のタンク10と前記スプレーガン装置50との間には、第1のポンプ12が設けられている。また、前記第2の配管21の、前記第2のタンク20と前記スプレーガン装置50との間には、第2のポンプ22が設けられている。
前記第1のポンプ12は、圧縮調整機構30からの制御信号によって前記第1のタンク10からスプレーガン装置50に供給されるポリイソシアネートの圧力を調整する。前記第2のポンプ22は、圧縮調整機構30からの制御信号によって前記第2のタンク20からスプレーガン装置50に供給されるポリオールの圧力を調整する。
【0049】
前記圧縮調整機構30は、制御部60からの指令を受けて第1のポンプ12、第2のポンプ22に前記制御信号を各々出力する。
これら第1のポンプ12、第2のポンプ22により、スプレーガン装置50内での圧力の最大値は略24MPa程度に調整可能である。
前記第1のポンプ12、前記第2のポンプ22によって、各々加圧されたポリイソシアネート及びポリオールは、スプレーガン装置50内部で混合・撹拌され、ポリウレタン樹脂が生成される。
前記圧縮機40は、第3の配管41によって、前記スプレーガン装置50内部に連通している。この圧縮機40によって圧縮されたエアーは前記プレーガン装置50内部に供給される。
【0050】
前記第1の配管11には、第1の加温機13が配置され、前記第1のタンク10から前記スプレーガン装置50内部に供給されるポリイソシアネートの温度が所望の温度に調整可能となっている。
第1の加温機13によって加温されたポリイソシアネートは、ホースヒーター14によって温度が維持される。
また、前記第2の配管21には、第2の加温機23が配置され、前記第2のタンク20から前記スプレーガン装置50内部に供給されるポリオールの温度が所望の温度に調整可能になっている。前記第2の加温機23によって加温されたポリオールは、ホースヒーター24によって温度が維持される。
【0051】
なお、制御部60は、スイッチSWの切り替え状態に基づいて、ポリイソシアネート(A剤)に本実施の形態に係る不燃用粉体が添加されているか否か、ポリオール(B剤)に不燃用粉体が添加されているか否か、不燃用粉体が添加される量等を認識し、これらの情報に基づいて第1のポンプ12及び第2のポンプ22によるポリウレタン樹脂の圧力、第1の加温機13及び第2の加温機23によるポリウレタン樹脂の温度を適宜制御する。
この第1の実施の形態では、不燃用粉体は、ポリイソシアネート(A剤)に添加される。
【0052】
前記第1のポンプ12で加圧され前記第1の前記加温機13で加温されたポリイソシアネート(A剤)と、前記第2のポンプ22で加圧され前記第2の加温機23で加温されたポリオール(B剤)は、共に、前記スプレーガン装置50内部に給送されて混合・撹拌され(衝突混合)、化学反応で発泡ポリウレタン樹脂が生成される。
【0053】
前記スプレーガン装置50内部での混合・撹拌により生成された発泡ポリウレタン樹脂は、圧縮機40から供給される圧縮空気と混合され、ガン部52のトリガ52Bを引くことで、噴射口52Aから開放され、噴射される。
このときスプレーガン装置50内部で混合・撹拌されて生成される発泡ポリウレタン樹脂は、所定の温度(摂氏31度~摂氏40度)に保たれる。
【0054】
噴射口52A(口径1.5mm)の開口時、スプレーガン装置50内部で混合・撹拌された発泡ポリウレタン樹脂は、所望の流量(この実施の形態では、10L/min)で噴射される(スプレーガン装置50内部では23.5~24.0MPa)。
加温調整されているポリウレタン樹脂の粘度は低いので、膨張黒鉛(100メッシュ)を添加しても、吹付装置100の噴射口52Aの直径を1.5mmとすればスプレーガン装置50内部で目詰まりが生じることもない。
吹付装置100では、ポリイソシアネート(A剤)、ポリオール(B剤)の温度が管理/調整できるため、ポリイソシアネート(A剤)とポリオール(B剤)の反応条件(樹脂生成反応)を安定化させることができる。
また、不燃用粉体が加えられたポリイソシアネート、ポリオールの粘度を、温度管理することで、吹き付けに適した粘度に調整することもできる。
【0055】
次に、第1の実施の形態に係る不燃用粉体、およびこれが添加されたポリウレタン樹脂組成物について説明する。
本発明者は、不燃性(準耐火性)、断熱性(燃焼時)、変形性、コストを総合的に検討し、如何なる添加剤をどのような比率で配合すれば、吹付け工法により形成される発泡ポリウレタン樹脂層に不燃性(準耐火性)を備えることができるかを検討した。
その結果、以下の成分を含む不燃用粉体を、2液混合型のポリウレタン樹脂のA剤、B剤の少なくとも一方、好ましくは加温調整されたA剤(ポリイソシアネート)に加えることで十分な不燃性(準耐火性)を持たせることを見いだした。
(A)膨張黒鉛
(B)鱗片状黒鉛
(C)水酸化アルミニウム(無機系添加剤であり、水和性金属系難燃剤でもある。)
【0056】
ここで、不燃剤として成分(A)の膨張黒鉛を用いるのは、燃焼時、摂氏200度以上の温度に達すると炭化、膨張(100~300倍)により、空気を遮断して燃焼の拡大を抑えることができるからである(ただし、その膨張の度合いが大きいこと、コスト高であることが、利用に当たっての課題である)。
成分(B)の鱗片状黒鉛を用いるのは、当該不燃用粉体を加えたポリウレタン樹脂(母剤)の耐熱温度を上げることができるからであり、耐熱温度が高くなれば、ポリウレタン樹脂の熱分解ガスの発生を抑えることが期待できるからである。
【0057】
成分(C)の水酸化アルミニウムを用いるのは、燃焼時に水分子の発生により母剤の温度上昇を抑えることが期待できるからである。また、水酸化アルミニウムは、無機系難燃剤であるため。後述の燃焼実験後にも残存することが期待され、燃焼後の発泡ポリウレタン樹脂層の形状を維持することも期待できる。
よって、これら(A)膨張黒鉛、(B)鱗片状黒鉛、(C)水酸化アルミニウムを適宜混ぜ合わせて不燃用粉体を生成し、これをA剤、B剤の少なくとも一方に混入させれば、これを用いた吹き付け作業により発泡ポリウレタン樹脂層に優れた不燃性(準耐火性)を備えさせることができる。
また、配合の比率を調整することで、たとえば膨張黒鉛を用いる量を少なくすることで低コスト化や、膨張による変形量の調整等を実現することもできる。
【実施例1】
【0058】
本発明者は、不燃用粉体における(A)膨張黒鉛、(B)鱗片状黒鉛、(C)水酸化アルミニウムの配合の比率を次のようにすることが、不燃性(準耐火性)、燃焼時の断熱性を発揮しつつ、コストを抑えることができるとの結論に達した。
膨張黒鉛:鱗片状黒鉛:水酸化アルミニウム=5質量部:10質量部:10質量部
【0059】
また、膨張黒鉛の粒径を従来より一般的に用いられていたもの(粒径は、ふるい分けによる粒度で80メッシュ≒粒径177ミクロン)より小さいもの(粒度100メッシュ≒粒径147ミクロン)とすることで、吹付装置100の噴射口の口径を1.5mmとし、加圧能力23.5~24.0MPa(200Vの圧縮ポンプを使用)とするだけで、目詰まりを生ずることなく、当該発泡ポリウレタン樹脂を対象物(家屋、工場、大型冷凍庫等の内壁、)に吹き付けて形成することが可能となる。
【0060】
また、鱗片状黒鉛に関しては、粒径10ミクロンと粒径45ミクロンの配合を1対1の割合とした。結果、全体として、膨張黒鉛5質量部、鱗片状黒鉛(10ミクロン)5質量部、鱗片状黒鉛(45ミクロン)5質量部、水酸化アルミニウム10質量部とする。
ここで、2つの異なる粒径の鱗片状黒鉛(10ミクロン、45ミクロン)を混在させるのは、粒径を異ならせることで鱗片状黒鉛の粒子の配列が不揃いになり、この不燃用粉体が添加された発泡ポリウレタン樹脂層において熱が伝わり難くなり、熱分解に起因する可燃性ガスの発生を抑えることが期待できるからである。
【0061】
なお、膨張黒鉛、鱗片状黒鉛、水酸化アルミニウムは、何れも高価な材料(特に膨張黒鉛が高価)であるため、発泡ポリウレタン樹脂の不燃性(準耐火性)、断熱性(燃焼時)が保たれるのであれば、これらの使用量は、少ない方が発泡ポリウレタン樹脂(樹脂層)全体のコストを抑えることができる。
不燃用粉体を、最低限どの程度加えれば、建物の壁面等に形成される発泡ポリウレタン樹脂層に十分な不燃性(準耐火性)、断熱性(燃焼時)を実現できるかを確認するため、本実施例1では、ポリイソシアネートとポリオールの組成物(母剤組成物)100質量部に対して、上記不燃用粉体を20質量部混入して、燃焼実験を行った。
【0062】
なお、ポリイソシアネート、ポリオールの各々に、合計20質量部の不燃用粉体をいかなる比率で添加するかは、添加後のポリイソシアネート、ポリオールの粘度が吹き付けに適するように、全体として低くなるように決定する。
本発明では、吹付装置100で、吹き付け前のポリウレタン樹脂の温度管理が可能であるため、従来は難燃剤等の添加に不適(添加により硬化し易い)であったポリイソシアネートに、本発明に係る不燃用粉体を添加することができる。
これはポリイソシアネートの温度を高く保持することで、不燃用粉体を加えてもその粘度を低く抑え、吹き付け作業が可能となるからである。
また本実施の形態では、加温調整が可能であるためポリイソシアネート、ポリオールの双方に不燃用粉体を十分に混入することができ、ポリウレタン樹脂への添加量を増やすことで、発泡ポリウレタン樹脂(樹脂層)の不燃性(準耐火性)をさらに高めることもできる。
この実施例1では、不燃用粉体の添加をポリイソシアネートとポリオールの組成物(母剤組成物)100質量部に対して20質量部として、発泡ポリウレタン樹脂(樹脂層)に不燃性(準耐火性)を実現できたが、燃焼により深部まで炭化したため、断熱性(燃焼時)が低下した(後述の図7参照)。
【実施例2】
【0063】
実施例2では、ポリイソシアネートとポリオールの組成物(母剤組成物)100質量部に対して不燃用粉体を25質量部に増やした。この実施例2では優れた不燃性(準耐火性)と優れた断熱性(燃焼時)を実現できることが確認できた(後述の図8参照)。
これは、燃焼時に添加剤(膨張黒鉛、鱗片状黒鉛、水酸化アルミニウム)による作用が発揮されるが、更に、これらを含む不燃用粉体を25質量部とすることで、ポリウレタン樹脂の粒子の間隔が広がるためだと考えられる。また、無機系の物質が残存することも起因していると考えられる。
このように、ポリイソシアネートとポリオールの組成物(母剤)100質量部に対して、不燃用粉体を20質量部から増量して25質量部とすることで、ポリウレタン樹脂内での熱の伝播が抑制され、熱分解による可燃ガスの発生が抑えられた。これにより形成された発泡ポリウレタン樹脂層は、より一層燃焼しにくくなった。
【0064】
ポリイソシアネート(A剤)の単液は、ポリオール(レジン)と比べて粘度が高いため、発泡剤は一般的にポリオール(B剤)に加えられる。発泡剤を添付したポリオールは、難燃性にすぐれたものとして、例えば、三洋化成工業株式会社のノンフレポール(登録商標)を用いることができる。
このポリオール(B剤)とポリイソシアネート(A剤)の少なくとも一方に、好ましくはポリイソシアネートまたは双方に本発明に係る不燃用粉体を添加することも可能である。これらポリオールとポリイソシアネートとを混合・撹拌して生成されたポリウレタン樹脂は、発泡して体積が30倍程度となる。これを吹付け工法に用いて形成される発泡ポリウレタン樹脂層は、極めて高い不燃性(準耐火性)を備える。また、ポリオールを上記ノンフレポールとすることで、燃焼時のフロンガスの発生を抑えることができる。
【0065】
ここで、不燃用粉体を25質量部添加することが最適であるという結論に至った燃焼実験について具体的に説明する。
本発明者は、ポリイソシアネート(A剤)とポリオール(B剤)とからなる組成物(母剤)に上記した組成の不燃用粉体を、どのような比率で添加すれば、当該発泡ポリウレタン樹脂層に十分な不燃性(準耐火性)、断熱性(燃焼時)を備えることができるかを検証するための燃焼実験を行った。
【0066】
この実験を行なうに当たり従来品(この実験では、日本パフテム株式会社製の「Pufpure A-RF」を使用。なお、商標「Pufpure」は同社の登録商標)との効果の比較のため、300mm×300mm、厚さ9mmのベニア板に市販の難燃性を有する発泡ポリウレタン樹脂層を厚さ30mmに形成したもの(試料1)を用意した。
また、ポリウレタン樹脂の母剤(ポリイソシアネートとポリオールとからなる組成物)100質量部に対して、本発明に係る不燃用粉体を20質量部だけ添加した発泡ポリウレタン樹脂層(試料2)、25質量部添加した発泡ポリウレタン樹脂層(試料3)を、300mm×300mm、厚さ9mmのベニア板に厚さ30mmに形成したものを用意した(図2)。
なお、上記試料1~試料3は、吹付け工法によって、ベニア板(9mm)に発泡ポリウレタン樹脂を膜厚が30mmに形成した後、これを室温(摂氏20℃程度)で24時間放置し、十分に乾燥させたものである。
【0067】
この試料1~3を用いて、240秒間(4分間)の燃焼実験を行った。
実験は、図2に示すように、試料(1~3)を垂直に立てて、燃焼面から170mm離れた位置からトーチバーナーで炎を垂直に当てた(バーナーの温度は約1200度)。燃焼面は各試料の中心から直径100mm程度である。
【0068】
図3図5は、それぞれ、60秒経過時点、140秒経過時点、240秒経過時点の、試料1、試料2、試料3の燃焼状態を示すものである。
燃焼開始から60秒が経過した時点(図3)では、従来の難燃性の発泡ポリウレタン樹脂層(試料1)に炎が発生し煙が上がった(図3(A))。このとき不燃用粉体が20質量部添加された発泡ポリウレタン樹脂層(試料2)では燃焼範囲の中心で炭化が進む(中心部分で色が赤くなる)が炎も煙も殆どでない(図3(B))。
25質量部が添加された発泡ポリウレタン樹脂層(試料3)では、中心部分での炭化が試料2と比べて極めて遅く(中心部分でも赤くならない)炎も煙も殆ど生じない(図3(C))。なお、第1の実施の形態に係る不燃用粉体を含む発泡ポリウレタン樹脂層でも、4分間の燃焼実験中、極く稀に瞬間的に炎が出ることもあるが、この炎が延焼を引き起こすことはない。
【0069】
燃焼開始から140秒が経過した時点(図4)では、従来の難燃性の発泡ポリウレタン樹脂層(試料1)では煙と炎が大きくなり、発泡ポリウレタン樹脂層内で炎が燃え広がった(図4(A))。
このとき不燃用粉体が20質量部添加された発泡ポリウレタン樹脂層(試料2)では燃焼により黒炭化する範囲が徐々に広がり、燃焼によって瞬間的ではあるが僅かに炎が確認されたが試料1のように燃え広がることはなかった(図4(B))。
また、25質量部が添加された発泡ポリウレタン樹脂層(試料3)では、燃焼により黒炭化された範囲はそれほど広がらず、炎も煙も全く確認できなかった(図4(C))。
【0070】
燃焼開始から240秒が経過した時点(図5)では、従来の難燃性の発泡ポリウレタン樹脂層(試料1)では、図6に示すように広い範囲で(直径230mm)炭化が進み、燃焼によりその内部まで炭化されて、燃焼がベニア板まで及んだ(図6(A)(B))。
【0071】
また、不燃用粉体が20質量部添加された発泡ポリウレタン樹脂層(試料2)では、燃焼によって炭化された範囲が広がり(直径230mm)、30mm幅の発泡ポリウレタン樹脂層の内部に至るまで炭化が進んだ(図7(A)(B))。
一方、不燃用粉体が25質量部添加された発泡ポリウレタン樹脂層(試料3)では、燃焼の範囲が狭いまま(直径200mm)であり、炭化も厚さ30mmの発泡ポリウレタン樹脂層のうち14mm程度の深度で止まっていた(図8(A)(B))。
【0072】
240秒間(4分間)の燃焼実験では、従来の難燃性の発泡ポリウレタン樹脂層(試料1)では、燃焼開始から間もなく炎と煙があがり、60秒経過時点で炎が十分に確認でき、140秒経過時点では、勢いよく燃えだした。
また、母剤100質量部に対して、不燃用粉体を20質量部添加した発泡ポリウレタン樹脂層(試料2)では炎が勢いよく燃え広がることはなかったが、炭化の範囲が徐々に広がりつつ、炭化の深度も深くなり、240秒経過時点では発泡ポリウレタン樹脂層は30mmの膜厚全部が炭化されていた。
これに対して、母剤100質量部に対して、不燃用粉体を25質量部添加した発泡ポリウレタン樹脂層(試料3)は240秒間(4分間)の燃焼実験の間、炎も煙も生ずることなく、しかも、炭化する範囲も試料1、2と比較して狭い範囲にとどまり(200mm)、しかも、深度も30mmの厚さのうち炭化したのは深さ14mmまでであった。
【0073】
ところで、発泡ポリウレタン樹脂を対象物に形成する分野においては、発泡ポリウレタン樹脂層の厚さは、その使用の態様によって適宜選択されるが、薄い発泡ポリウレタン樹脂層は25mm~50mm程度、厚い発泡ポリウレタン樹脂層は100mm~200mm程度と使い分けられている。
【0074】
よって、この実施の形態の実施例2では、発泡ポリウレタン樹脂層が25mm程度に薄く形成された場合でも、不燃性(準耐火性)を実現し、しかも燃焼実験の間も十分な断熱性が得られるよう燃焼実験後の発泡ポリウレタン樹脂層の厚さが半分以上(16mm)残すことができた。
実施例2では、燃焼実験が終了した時点で、発泡ポリウレタン樹脂層の半分以上の厚さで未だ炭化されないので、燃焼中も、裏面側(ベニア板側)に熱が伝わりにくい状態が維持され、炎に晒された場合でも十分な断熱性が維持される。
【0075】
一方の実施例1では、ポリイソシアネートとポリオールとからなる母剤(母剤組成物)100質量部に対して不燃用粉体を20質量部添加したが(試料2)、4分間の燃焼によって30mmの膜厚が炭化された(燃焼時の断熱性が実現できない。)。
このようにポリイソシアネートとポリオールとからなる母剤(母剤組成物)100質量部に対し不燃用粉体を25質量部とすれば、上記のように4分間の燃焼実験の間、炎も煙も生ずることなく、しかも炭化する表面の範囲が広がることもなく(直径200mmから広がらない)、かつ、炭化する深さ(凹部)も14mm程度に収まるため、燃焼時の十分な断熱性が実現できる。
【0076】
以上の実験結果を「表1」に示す。
【表1】
【0077】
以上説明したように不燃用粉体を組成する物質(膨張黒鉛、鱗片状黒鉛、水酸化アルミニウム)は高価なためポリイソシアネートとポリオールの母剤(母剤組成物)100質量部に対して、不燃用粉体を25質量部とすることで、薄い発泡ポリウレタン樹脂層(25mm~50mm)を形成した場合であっても、不燃性(準耐火性)を実現でき、しかも、この発泡ポリウレタン樹脂層は、吹付け工法で簡易に形成することができる。
【0078】
この実施の形態では、添加剤として各種用いられている黒鉛を、不燃性に優れた膨張黒鉛のみならず、比較的安価な鱗片状黒鉛を併用することで、膨張黒鉛単体で不燃性(準耐火性)を実現する場合に比べてコストを抑えることもできる。これにより、不燃性(準耐火性)を有する発泡ポリウレタン樹脂の普及が一層早まることが期待できる。
【0079】
この第1の実施の形態では不燃用粉体に膨張黒鉛と鱗片状黒鉛が用いられているが、膨張黒鉛は、燃焼時に炭化/膨張して、不燃性(準耐火性)を実現することができ、鱗片状黒鉛は、燃焼時に該不燃用粉体を添加したポリウレタン樹脂(母剤)の耐熱温度を上げることができる。
ここで膨張黒鉛の添加量を増やせば燃焼時に発泡ポリウレタン樹脂層が凹む深さを浅くできる。従って、膨張黒鉛と鱗片状黒鉛の比率を調整することで、燃焼時の発泡ポリウレタン樹脂層の変形を小さくすることも可能である。
【0080】
『第2の実施の形態』
第2の実施の形態に係るポリウレタン樹脂組成物も、2液混合型ウレタン樹脂の形成に用いられるものであって、作業現場でポリイソシアネート(A剤)とポリオール(B剤)とを混合・撹拌させた後、吹付装置を用いた吹付け工法で形成されるものである。本発明に係る不燃用粉体は、この吹き付け作業前に、作業現場でA剤、B剤に予め添加させる。
なお、この第2の実施の形態に係る発泡ポリウレタン樹脂層も、上述した第1の実施の形態で説明した吹付装置100による吹き付けにより、対象物の表面に、所望の膜厚に形成される。
【0081】
吹付装置100では、前述したように吹き付け前のポリウレタン樹脂の温度管理が可能であるため、難燃剤等の添加剤の混入に不適(添加により硬化し易い)であったポリイソシアネートにも、不燃用粉体を多量に加えることができる。結果として、ポリイソシアネート、ポリオールの双方に不燃用粉体を十分に混入することが可能となるため、ポリウレタン樹脂への添加量を増やして、発泡ポリウレタン樹脂(樹脂層)の難燃性、不燃性(準耐火性)をさら高め、かつ、燃焼時に無機系の物質を残存させることで形状保持の効果も期待できる。
本発明者は、具体的に、不燃性(準耐火性)、断熱性(燃焼時)、形状保持、低コスト化を総合的に検討し、如何なる添加剤をどのような比率で配合すべきかを検討した。
検討した結果、ポリイソシアネートとポリオールとからなる母剤(母剤組成物)100質量部に対して以下の表2に示す成分を含む不燃用粉体〔実施例3〕~〔実施例5〕を全体として70質量部加えることで、形成される発泡ポリウレタン樹脂(樹脂層)に十分な不燃性(準耐火性)を持たせることができるとの結論に達した。
この第2の実施の形態の〔実施例3〕,〔実施例4〕,〔実施例5〕の各成分の配合を以下に示す。
【表2】

この第2の実施の形態の〔実施例3〕~〔実施例5〕では、母剤(母剤組成物)となるA剤とB剤の合計を100質量部とした場合に、不燃用粉体を全体として70質量部添加する(表2の上段)。
また、各実施例の不燃用粉体自体(a1,a2)(b1,b2)(c1,c2)の各成分は、上記表2の下段に示す通りである。
【実施例3】
【0082】
実施例3では、母剤となるA剤100質量部、B剤100質量部に対して、それぞれ不燃用粉体a1が70質量部、不燃用粉体a2が70質量部だけ添加される。
不燃用粉体(a1)(a2)に関しては、
(A)膨張黒鉛(粒径が大)20質量部
膨張黒鉛(粒径が小)15質量部
※ ここで「粒径が大」は、ふるい分けによる粒度で、+80メッシュ(ここで、80メッシュは、177ミクロン))、「粒径が小」は、ふるい分けによる粒度で、-100メッシュ(100メッシュは、149ミクロン))である。
なお、膨張黒鉛は、伊藤黒鉛工業株式会社製のものを使用した。ここで+は粒径が大きめのものを含み、-は粒径が小さめを含むことを示す。
(B)鱗片状黒鉛(粒径は、10ミクロン)を5質量部
※ 鱗片状黒鉛も、伊藤黒鉛工業株式会社製のものを使用。
(C)無機系添加剤(無機系難燃剤)として、ポリリン酸メラミンを15質量部(なお、ポリリン酸メラミンに代えてポリリン酸アンモニウムを使用しても、同一の効果が得られた。)
(D)さらに無機系添加剤として、
不燃用粉体(a1)には、酸化チタン20質量部
不燃用粉体(a2)には炭酸カルシウム20質量部
(E)さらに無機系添加剤として、微粒二酸化ケイ素(シリカ)を25質量部
【0083】
このようにA剤に混入される不燃用粉体(a1)に酸化チタン、B剤に混入される不燃用粉体(a2)に炭酸カルシウムを加えたのは以下の理由による。
すなわち、A剤(ポリイソシアネート)は市販の段階で「硬化剤」含まれているため、このA剤に他の添加物を入れる問い化学反応を起こしやすい。一方で、このA剤は、温度変化には鈍感であるため、吹き付けの際に暖めることで、A剤の粘度を低くすることができる。
【0084】
一方、B剤(ポリオール)は、市販の段階で一般に発泡剤、遅延剤が含まれているが、硬化剤が含まれていない分、さらなる添加剤を加えることに適している。
しかしながら、本発明に係る発泡ポリウレタン樹脂は、膨張黒鉛等を含む不燃用粉体を作業現場で加えた後、前述した吹付装置100内でA剤、B剤共に暖められて吹き付けられる。ここでB剤は、熱変化に弱くこのB剤にのみ従来のように添加剤を多量に加えるのは好ましくない(粘度も高くなる)。そこで、この実施の形態では、熱変化に強いポリイソシアネートにも不燃用粉体を添加し(その分、ポリオールへの添加を抑えられる)、加温して粘度を吹き付けに適したものとした。
【実施例4】
【0085】
実施例4の不燃用粉体(b1)(b2)ではでは、実施例3の不燃用粉体(a1)(a2)に無機系添加剤として加えられる微粒二酸化ケイ素に代えて、低融点ガラス粉末を用いた(実施例4の配合)。
微粒二酸化ケイ素に代えて、低融点ガラス粉末とすることでコストを抑えることができる(表2の中欄を参照)。ここでも、A剤、B剤からなる母剤生成物100質量部に対して、不燃用粉体(b1)(b2)は全体として70質量部添加される。
【実施例5】
【0086】
また、本発明者は、上記した実施例3の不燃用粉体(a1)(a2)における無機系添加剤(C)~(E)の配合の比を変化させると、種々異ならせて実験を行った結果、発泡ポリウレタン樹脂層の燃焼度合いが異なることを見いだした。
すなわち、上記した実施例3の配合では不燃用粉体(a1)(a2)において無機系添加剤であるポリリン酸メラミンを15質量部としたのをこの実施例5では(c1)(c2)で共にポリリン酸メラミン7質量部とし、減らした分、不燃用粉体(c1)では微粒二酸化ケイ素を30質量部、酸化チタンを23質量部とし、不燃用粉体(c2)では、微粒二酸化ケイ素を30質量部、炭酸カルシウム23質量部とした。(実施例5の配合)。
【0087】
これにより、後述したように、不燃用粉体(c1)(c2)をそれぞれ加えたA剤、B剤とも、温度管理の下、均一に混ぜ合わせることができ(粒が残らない)、吹付け作業を容易に行なうことができた。
しかも、吹付け工法により発泡ポリウレタン樹脂層は、燃焼実験時、一定時間(約4分)炎に晒されても、炎が発泡ポリウレタン樹脂層に移ることなく、燃焼後も、その形状が維持された。特にこの実施例5の配合としたものは、その形状を保つのに適していた。なお、この実施の形態では、A剤、B剤からなる母剤生成物100質量部に対して、不燃用粉体は全体として70質量部だけ添加した。
【0088】
この第2の実施の形態での、実施例3の配合、実施例4の配合、実施例5の配合の不燃性粉体(a1)~(c2)を用いて、発泡ポリウレタン樹脂層を形成し、一定条件の下、燃焼実験を行った結果を図9図13に示す。
なお、図9は、この第2の実施の形態の燃焼実験の様子を示す図であり、図10は〔実施例3〕、図11は〔実施例4〕、図12は〔実施例5〕のそれぞれの燃焼実験の様子を示す。また、図13は、これら〔実施例3〕~〔実施例5〕による燃焼結果と、従来品の燃焼結果を比較したものである。図10図12では、各々、60秒経過毎の連続写真を示す。
【0089】
この第2の実施の形態での燃焼実験では、図9に示すように、ポリウレタン樹脂の母剤(ポリイソシアネートとポリオールとからなる組成物)に不燃用粉体を〔実施例3〕〔実施例4〕〔実施例5〕の配合で添加して発泡ポリウレタン樹脂層を実際に300mm×300mm、厚さ9mmのベニア板に厚さ25mm~30mm程度に形成した。
ここで、ベニア板に発泡ポリウレタン樹脂層を形成するに当たっては、上述した「吹付け工法」によって実際に試料を作製したが、手塗りで形成した発泡ポリウレタン樹脂層を用いても、組成が同じであれば、燃焼実験では同じ結果が得られる。
本発明者は、燃焼実験で、吹付けにより作製した試料と、手塗りによって作製した試料とを適宜用い、これらを比較することで、燃焼実験の結果に変わりがないことも確認した。
なお、上記〔実施例3〕~〔実施例5〕は、吹付け工法によって、ベニア板(9mm)に発泡ポリウレタン樹脂を膜厚が30mmに形成した後、これを室温(摂氏20℃程度)で24時間放置し、十分に乾燥させたものである。
【0090】
これらの〔実施例3〕~〔実施例5〕による各試料を用いて、240秒間(4分間)の燃焼実験を行った。
実験は、図9に示したように、試料を垂直に立てて、燃焼面から150mm離れた位置からトーチバーナーで炎を垂直に当てた(バーナーの温度は約1200度)。燃焼面は各試料の中心から直径100mm程度である。この燃焼を4分間継続した。
〔実施例3〕~〔実施例5〕の各々を互いに比較すると、図10図12に示すように、どの配合の場合も、第1の実施の形態で説明した従来の一般的な難燃剤を用いた発泡ポリウレタン樹脂と比較して十分な不燃性(準耐火性)が得られた。
〔従来品〕と〔実施例3〕~〔実施例5〕の各発泡ポリウレタン樹脂層の4分にわたる燃焼実験の後の状態を互いに比較した場合、図13に示すように、特に実施例5の場合に燃焼後の発泡ポリウレタン樹脂層の形状の保持の効果が著しいことがわかった。なお、4分間の燃焼実験中、この第2の実施の形態でも、不燃用粉体を含む各発泡ポリウレタン樹脂層では、極く稀に瞬間的に炎が出ることもあるが、この炎が延焼を引き起こすことはない。
【0091】
『第3の実施の形態』
この第3の実施の形態に係るポリウレタン樹脂組成物も、2液混合型ウレタン樹脂であって、作業現場でポリイソシアネート(A剤)とポリオール(B剤)とを混合・撹拌させた後、吹付装置を用いた吹付け工法で形成されるものであり、吹き付け前に、作業現場で本発明に係る不燃用粉体がA剤、B剤に予め添加される。
なお、この第3の実施の形態に係る発泡ポリウレタン樹脂層も、上述した第1の実施の形態で説明した吹付装置100による吹付け作業により、対象物の表面に、所望の膜厚に形成される。
この第3の実施の形態では、不燃用粉体、ポリウレタン樹脂組成物の各成分を、次の表3に示す質量部とした。
【表3】
【実施例6】
【0092】
本発明者は、上述した第2の実施の形態で、B剤(ポリオール)は、温度変化(加温)に弱いという理由により、A剤(ポリイソシアネート)に酸化チタンを含む不燃用粉体、B剤に炭酸カルシウムを含む不燃用粉体を加えたが、この第3の実施の形態では、A剤、B剤ともに、酸化チタンを含む不燃用粉体(d1)(d2)のみを加えて発泡ポリウレタン樹脂層を形成した(表3の左欄を参照)。
この実施例6の配合によって形成された発泡ポリウレタン樹脂層についての燃焼実験の結果を60秒経過毎の連続写真で示す(図14)。
この第3の実施の形態での燃焼実験は、この〔実施例6〕のみならず〔実施例7〕〔比較するための実施例3〕の場合も、第2の実施の形態の場合と同様(図9)に試料を各々垂直に立てて、燃焼面から150mm離れた位置からトーチバーナーで炎を垂直に当てた(バーナーの温度は約1200度)。燃焼面は各試料の中心から直径100mm程度である。この燃焼を4分間継続した。
【実施例7】
【0093】
実施例7では、A剤、B剤ともに、炭酸カルシウムを含む不燃用粉体(e1)(e2)のみを加えて発泡ポリウレタン樹脂層を形成した(実施例7の配合:表3の右欄を参照)。
この実施例7の配合によって形成された発泡ポリウレタン樹脂層についての燃焼実験の結果を60秒経過毎の連続写真として図15に示す。
【0094】
これら実施例6、実施例7の実験結果と比較するため、第2の実施の形態で最も好ましい結果を得た実施例3の場合(図16)と比較する。
実施例6のように、第3の無機系添加物としてA剤、B剤に酸化チタンを含む不燃用粉体のみ加えることで、作業効率を上げても、形成された発泡ポリウレタン樹脂層に十分な不燃性(準耐火性)を持たせることができた。また、酸化チタンは、その粒径が、炭酸カルシウムに比べて十分に微細であるため、A剤、B剤ともに、容易に均一に混ぜ合わせて加えることができ、発泡ポリウレタン樹脂層の仕上げもよく、作業効率も向上する。
形成された発泡ポリウレタン樹脂層には十分な不燃性(準耐火性)を持たせることができ、また、燃焼実験後の形状も十分に保たれた。
【0095】
また、実施例7のようにA剤、B剤の双方に炭酸カルシウムを含む不燃用粉体のみを加えた場合は、実施例6と比較して、A剤に炭酸カルシウムの粒が僅かに残存するものの、吹付装置100で加温されるため、形成後の発泡ポリウレタン樹脂層に粒が目立って残ることは確認されなかった。
【0096】
この炭酸カルシウムは、酸化チタンに比べ、安価に入手できるためコストを低下させることができる。
また、形成された発泡ポリウレタン樹脂層についても、十分な不燃性(準耐火性)を持たせることができ、また、燃焼実験後の形状も十分保たれた。
【0097】
以上説明したように、この第1から第3の実施の形態の発明によれば、建物の壁面等に発泡ポリウレタン樹脂層を吹付け工法によって形成する場合でも、形成された発泡ポリウレタン樹脂層に十分な不燃性(準耐火性)を持たせることができた。
【0098】
また、第2、第3の実施の形態の発明によれば、形成された発泡ポリウレタン樹脂層は、一定時間、炎に晒されても、炎が発泡ポリウレタン樹脂層に移ることなく、一定時間炎に晒された後でもその形状が保持されるため、燃焼中に炎が内部に至ることなく、さらに炎の熱が内部に伝わりにくくなった。
【0099】
また、第1の実施の形態のように、不燃用粉体を組成する物質(膨張黒鉛、鱗片状黒鉛、水酸化アルミニウム)が高価な場合、ポリイソシアネートとポリオールの組成物(母剤)100質量部に対して、不燃用粉体を25質量部程度とすることで、薄い発泡ポリウレタン樹脂層(25mm~50mm)を形成した場合であっても、不燃性(準耐火性)を実現でき、しかも、この発泡ポリウレタン樹脂層は、吹付け工法で簡易に形成することができる。
【0100】
また、第2、第3の実施の形態のように不燃用粉体を組成する物質(膨張黒鉛、鱗片状黒鉛、ポリリン酸アンモニウム(またはポリリン酸メラミン)の添加量を最適化することで、燃焼後の発泡ポリウレタン樹脂層の形状を保持することができ、これによって燃焼中でも、発泡ポリウレタン樹脂層が形成された建物壁面側が、炎が晒されることなく、しかも燃焼中の断熱効果も期待できる。
【0101】
また、第1~第3の実施の形態では、添加剤として各種用いられている黒鉛を、不燃性に優れた膨張黒鉛(高価)のみならず、比較的安価な鱗片状黒鉛を併用することで、膨張黒鉛単体で不燃性(準耐火性)を実現する場合に比べてコストを抑えることができる。
これにより、不燃性(準耐火性)を有する発泡ポリウレタン樹脂の普及が一層早まることが期待できる。
【符号の説明】
【0102】
10 第1のタンク
11 第1の配管
12 第1のポンプ(第1の加圧手段)
13 第1の加温機(第1の加温手段)
14,24 ホースヒーター
20 第2のタンク
21 第2の配管
22 第2のポンプ(第2の加圧手段)
23 第2の加温機(第2の加温手段)
30 圧縮調整機構
40 圧縮機(圧縮手段)
41 第3の配管
50 スプレーガン装置(生成手段、噴射手段)
52 ガン部
52A 噴射口
52B トリガー
60 制御部
100 吹付装置
SW スイッチ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16