IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 未来工業株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-誘引具、誘引装置、及び、誘引方法 図1
  • 特許-誘引具、誘引装置、及び、誘引方法 図2
  • 特許-誘引具、誘引装置、及び、誘引方法 図3
  • 特許-誘引具、誘引装置、及び、誘引方法 図4
  • 特許-誘引具、誘引装置、及び、誘引方法 図5
  • 特許-誘引具、誘引装置、及び、誘引方法 図6
  • 特許-誘引具、誘引装置、及び、誘引方法 図7
  • 特許-誘引具、誘引装置、及び、誘引方法 図8
  • 特許-誘引具、誘引装置、及び、誘引方法 図9
  • 特許-誘引具、誘引装置、及び、誘引方法 図10
  • 特許-誘引具、誘引装置、及び、誘引方法 図11
  • 特許-誘引具、誘引装置、及び、誘引方法 図12
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-21
(45)【発行日】2024-03-29
(54)【発明の名称】誘引具、誘引装置、及び、誘引方法
(51)【国際特許分類】
   A01G 9/12 20060101AFI20240322BHJP
【FI】
A01G9/12 B
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020180983
(22)【出願日】2020-10-28
(65)【公開番号】P2022071793
(43)【公開日】2022-05-16
【審査請求日】2023-06-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000243803
【氏名又は名称】未来工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100203460
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 肇
(72)【発明者】
【氏名】酒井 昭弘
【審査官】坂田 誠
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-282558(JP,A)
【文献】特開平4-365430(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01G 9/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
土壌の上方に敷設された軌道に沿って走行し、土壌に植えられた植物を誘引する誘引具であって、
前記軌道に沿って走行可能な走行ローラと、
前記植物の茎に取り付けられて使用され、その植物を誘引可能な誘引紐と、
前記誘引紐が巻き付けられているボビンと、
前記走行ローラの回転と前記ボビンの回転とを連動させる連動機構と、
前記連動機構と係合し、前記誘引紐の繰り出し方向への荷重による前記走行ローラの回転を抑制可能なブレーキ機構として機能するウォームギアと
前記ウォームギアが前記誘引紐の繰り出し方向への荷重による前記走行ローラの回転を抑制している場合に、前記連動機構側とは異なる側から前記走行ローラへ駆動力を伝達して前記走行ローラを回転させることが可能な回転機構と、を備える、誘引具。
【請求項2】
前記回転機構は、
駆動力が入力されて回転する駆動力入力部と、
前記駆動力入力部の回転に連動して回動する回動部材と、を備え、
前記連動機構が前記回動部材の回動を前記走行ローラへ伝達する、請求項1に記載の誘引具。
【請求項3】
前記ウォームギアは、前記駆動力入力部の回転軸周りに設けられている、請求項2に記載の誘引具。
【請求項4】
前記駆動力入力部側から前記回動部材側への回転力が伝達される場合に前記回転機構として機能し、
前記回動部材側から前記駆動力入力部側へ回転力が伝達される場合に前記ブレーキ機構として機能する、請求項3に記載の誘引具。
【請求項5】
前記走行ローラは、歯車を備え、
前記軌道は、前記歯車と係合可能な歯を備える、請求項1~4のいずれか1項に記載の誘引具。
【請求項6】
請求項1~4のいずれか1項に記載の誘引具と、前記誘引具と接続され、前記軌道に沿って走行可能な第2の誘引具と、を備える誘引装置であって、
前記第2の誘引具は、
前記軌道に沿って走行可能な走行ローラと、
前記植物の茎に取り付けられて使用され、その植物を誘引可能な誘引紐と、
前記誘引紐が巻き付けられているボビンと、
前記走行ローラの回転と前記ボビンの回転とを連動させる連動機構と、を備え、
前記誘引具は前記第2の誘引具よりも、前記植物の誘引方向の反対側に配置される、誘引装置。
【請求項7】
請求項2~4のいずれか1項に記載の誘引具を利用する、植物の誘引方法であって、
前記駆動力入力部へ回転力を前記駆動力として供給可能な手動工具又は電動工具を接続し、
前記手動工具又は電動工具から供給される回転力により前記走行ローラを回転させる、植物の誘引方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トマトなどの植物の茎を引っ張って誘引する誘引具、その誘引具を備える誘引装置、及び、誘引具を利用する誘引方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、トマトなどの植物の茎を誘引紐を備えた誘引具により誘引することが行われている。このような誘引具として特許文献1に記載の誘引具がある。特許文献1の誘引具では、植物の茎に吊り紐が取り付けられており、車輪とボビンとが連動して回転し、誘引具がワイヤ上を走行する場合に、ボビンから吊り紐が繰り出される。そして、誘引具の位置を移動させた後に車輪停止具により車輪の回転を停止させ、誘引具の移動を抑制している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2007-282558号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の誘引具では、誘引具を移動させるうえで車輪停止具を操作して車輪の回転の停止状態を解除する際に、ボビンへ印加される荷重により車輪が回転して誘引具が移動する場合があるため、誘引具が移動しないように調整しつつ車輪停止具を操作する必要がある。
【0005】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、その主たる目的は、ボビンに荷重が印加されている場合等において、誘引具を移動させる必要が生じた場合に、適切に移動させることが可能な誘引具、その誘引具を備える誘引装置、及び、その誘引具を利用する誘引方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の構成は、土壌の上方に敷設された軌道に沿って走行し、土壌に植えられた植物を誘引する誘引具であって、前記軌道に沿って走行可能な走行ローラと、前記植物の茎に取り付けられて使用され、その植物を誘引可能な誘引紐と、前記誘引紐が巻き付けられているボビンと、前記走行ローラの回転と前記ボビンの回転とを連動させる連動機構と、前記誘引紐の繰り出し方向への荷重による前記走行ローラの回転を抑制可能なブレーキ機構と、前記ブレーキ機構が前記走行ローラの回転を抑制している場合に、前記走行ローラを回転させることが可能な回転機構と、を備える。
【0007】
第1の構成では、ブレーキ機構により、植物からの荷重に起因する走行ローラの回転を抑制しつつ、回転機構により走行ローラを回転させることができる。したがって、ブレーキ機構の解除時の荷重の急激な印加を抑制することができ、且つ、走行させる必要がある場合にブレーキ機構を解除させる手間を省略することができる。
【0008】
第2の構成は、第1の構成に加えて、前記回転機構は、駆動力が入力されて回転する駆動力入力部と、前記駆動力入力部の回転に連動して回動する回動部材と、を備え、前記連動機構が前記回動部材の回動を前記走行ローラへ伝達する。
【0009】
第2の構成では、走行ローラの回転とボビンの回転とを連動させる連動機構を利用して連動歯車の回転力を伝達しているため、回動部材から走行ローラへ回転力を伝達する機構を別途用意する必要がなく、構成を簡略化することができる。
【0010】
第3の構成は、第2の構成に加えて、前記駆動力入力部は、前記走行ローラの回転を抑制可能な前記ブレーキ機構としても機能する。
【0011】
第3の構成では、駆動力入力部をブレーキ機構としても機能させることで、ブレーキ機構として機能させる部材を別途用意する必要がなく、構成を簡略化することができる。
【0012】
第4の構成は、第3の構成に加えて、前記駆動力入力部側から前記回動部材側への回転力が伝達される場合に前記回転機構として機能し、前記回動部材側から前記駆動力入力部側へ回転力が伝達される場合に前記ブレーキ機構として機能する。
【0013】
第4の構成では、回転機構及びブレーキ機構について、一方からの回転力の伝達を許容し他方からの回転力の伝達を抑制するウォームギア等で構成することができるため、構成をより簡素化することができる。
【0014】
第5の構成は、第1~第4のいずれかの構成に加えて、前記走行ローラは、歯車を備え、前記軌道は、前記歯車と係合可能な歯を備える。
【0015】
第5の構成では、ブレーキ機構の作動時に走行ローラが軌道上を摺動したり、回転機構の作動時に走行ローラが軌道上で空転したりすることを抑制することができる。
【0016】
第6の構成は、第1~5のいずれかの構成の誘引具と、前記誘引具と接続され、前記軌道に沿って走行可能な第2の誘引具と、を備える誘引装置であって、前記第2の誘引具は、前記軌道に沿って走行可能な走行ローラと、前記植物の茎に取り付けられて使用され、その植物を誘引可能な誘引紐と、前記誘引紐が巻き付けられているボビンと、前記走行ローラの回転と前記ボビンの回転とを連動させる連動機構と、を備え、前記誘引具は前記第2の誘引具よりも、前記植物の誘引方向の反対側に配置される。
【0017】
第6の構成では、複数の誘引具を接続して誘引装置として用いるうえで、前記植物の誘引方向の反対側に配置される誘引具以外については、ブレーキ機構や回転機構を備えることなく、第1~5の構成の誘引具が奏する効果を誘引装置全体に付与することができる。したがって、誘引装置全体の構成を簡略化しつつ、第1~5の構成の誘引具と同等の効果を奏する誘引装置を提供することができる。
【0018】
第7の構成は、請求項2又は3に記載の誘引具を利用する、植物の誘引方法であって、前記駆動力入力部へ回転力を前記駆動力として供給可能な手動工具又は電動工具を接続し、前記手動工具又は電動工具から供給される回転力により前記走行ローラを回転させる。
【0019】
第7の構成では、誘引具を直接操作することなく走行ローラを回転させることができるため、軌道が比較的高所に設けられている場合等においても、駆動力を供給することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】誘引具全体の構成を示す図である。
図2】誘引具の斜視図である。
図3】誘引具の正面図である。
図4】誘引具の背面図である。
図5】誘引具の平面図である。
図6】誘引具の底面図である。
図7】誘引具の右側面図である。
図8】駆動機構の正面図である。
図9】駆動機構の平面図である。
図10】駆動機構の右側面図である。
図11】A-A線断面図である。
図12】ブレーキ機構を作動させた場合のA-A線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
<実施形態>
本実施形態に係る誘引具10は、図1に示すように、植物100が植えられた耕作地で用いられるものである。この植物としては、本実施形態では、トマトを想定している。この耕作地では、植物100は、ひとつの方向に向けて一列に植えられており、その上方には、植物100が植えられた方向と平行となるように、軌道101が設けられている。本実施形態に係る誘引具10は、その軌道101に取り付けられ、軌道101に沿って走行する。そして、誘引具10が備える誘引紐11を植物の茎に括り付け、植物100の茎を斜め上方へと誘引する。なお、以下の説明では、植物100が植えられている方向を左右方向と定義し、天地の方向を上下方向と定義し、左右方向及び上下方向のいずれに対しても垂直な方向を前後方向と称する。
【0022】
図2~11を参照して、誘引具10の構造について説明する。誘引具10は後述する駆動機構等を収容する本体ケース20を備えている。本体ケース20は、正面から背面へ向けて窪んだ箱状であり、その内部に駆動機構等が収容される。この本体ケース20の上部前面には、第1カバー21が取り付けられており、下部全前面には第2カバー22が取り付けられている。これら第1カバー21及び第2カバー22により、本体ケース20の前面の一部が遮蔽されている。本体ケース20の上下方向の略中間近傍には前後方向に貫通した空隙が設けられており、その空隙は、背面ケース23により背面側から閉塞されている。本体ケース20には、さらに、左右方向のそれぞれへ張り出した連結部24が設けられている。この連結部24は、前後方向に所定の厚みを有する板状であり、前後方向に貫通する円形の孔が設けられている。
【0023】
本体ケース20内の上方には、前後方向に延びる円柱形の第1回転軸31が取り付けられている。この第1回転軸31の前方側には、円形の走行ローラ40が、第1回転軸31を中心とし第1回転軸31周りに回転可能に取り付けられている。この走行ローラ40は、複数の歯が等間隔に全周に亘って設けられている走行歯車41と、その走行歯車41の前後のそれぞれに設けられた、走行歯車41と中心を共有し直径が走行歯車41の直径と略同等の円盤状である、一対のガイド部42を有している。
【0024】
この走行ローラ40の背面側には、走行ローラ40と同様に第1回転軸31を中心とし、走行ローラ40の回転に伴い第1回転軸31周りに回転する円板状の第1歯車51が取り付けられている。この第1歯車51には、前後方向(厚み方向)に貫通した円形の孔である第1係止孔51aが4つ形成されている。これらの第1係止孔51aは、第1回転軸31からの距離が等しく、且つ、第1歯車51の周方向において等間隔に形成されている。
【0025】
本体ケース20内の第1歯車51の右下には、前後方向に延びる軸を回転軸とする円盤状の第2歯車52が設けられている。この第2歯車52の前後方向の位置は、第1歯車51の前後方向の位置と等しく、第2歯車52の直径は、第1歯車51と係合可能な直径であり、且つ、第1歯車51の直径よりも小さい。加えて、第2歯車52の歯の形状は第1歯車51の歯の形状と略等しい。
【0026】
この第2歯車52の正面側には、第2歯車52と回転軸を共有し、第2歯車52の回転に伴いその回転軸周りに回転する円板状の第3歯車53が取り付けられている。この第3歯車53の直径は第2歯車52の直径よりも小さく、第3歯車53の歯の形状は第2歯車52の歯の形状と略等しい。すなわち、第3歯車53の歯数は、第2歯車52の歯数よりも少ない。
【0027】
本体ケース20内の第3歯車53の左下には、前後方向に延びる軸を回転軸とする円盤状の第4歯車52が設けられている。この第4歯車54の前後方向の位置は第3歯車53の前後方向の位置と等しく、第4歯車54の直径は、第3歯車53と係合可能な直径であり、且つ、第3歯車53の直径よりも大きい。加えて、第4歯車54の歯の形状は第3歯車53の歯の形状と略等しい。
【0028】
第4歯車54の正面側には、第4歯車54と回転軸を共有し、第4歯車54の回転に伴いその回転軸周りに回転する円板状の回転盤55が取り付けられている。この回転板55の正面には、正面側から背面側へ向けて窪んだ窪部56窪みが設けられている。この窪部56窪みは前後方向の深さが略均一であり、正面視での形状は、円の周囲に同一方向へと傾斜した同形状の鋸歯が複数設けられている形状である。
【0029】
回転板55の正面側には、ボビン60が、第3回転軸33を中心として第3回転軸33周りに回転可能に取り付けられている。ボビン60は、第3回転軸33の延長線を中心軸とする円柱形の軸61と、軸61の背面側の端部に設けられた板状の第1鍔62と、軸61の正面側の端部に設けられた板状の第2鍔63と、第2鍔63の中心から正面側へ向けて突出した円柱形の凸部64を備えている。第1鍔62は、略円板状であり、外周には、回転板55の窪部56窪みが有する鋸歯と略同形状の突起が一つ形成されている。第2鍔63は、軸61と中心を共有する円板状である。
【0030】
このボビン60には、誘引紐11の一端が固定される。そして、その誘引紐11は、正面から見てボビン60が反時計回りに回転した場合に繰り出され、ボビン60が時計回りに回転したら巻き上げられるように、ボビン60の軸61に巻き付けられる。この誘引紐11の素材としては、例えば、ステンレス等の金属、合成樹脂、天蚕糸、人造天蚕糸、綿、その他の繊維等が挙げられる。
【0031】
ボビン60の正面側には、上述した第2カバー22が取り付けられる。このとき、ボビン60の凸部64には、筒状の押え部67が正面側から取り付けられている。押え部65は内部にスプリング(図示略)を備えており、押え部65はボビン60を背面側へ押さえつけるように付勢されている。この付勢により、回転板55の窪みとボビン60の第1鍔62の突起が係合して、一体的に回転可能となる。また、押え部65には、第2カバー22の正面側から円板66が接続されており、この円板66を正面側へ向けて引っ張ることで、凸部64に対する押え部65の押圧状態を解除することができる。
【0032】
第1歯車51の背面側には、第1回転軸31を中心とし、その第1回転軸31周りに回転する回動部材である第5歯車71が設けられている。この第5歯車71には、前後方向(厚み方向)に貫通した円形の孔である第2係止孔71aが4つ形成されている。これらの第2係止孔71aは、第1回転軸31からの距離が等しく、且つ、第5歯車71aの周方向において等間隔に形成されている。すなわち、第1係止孔51aと第2係止孔71aとは正面視にて同一の軌道を通るように回転可能であり、且つ、第1歯車51及び第5歯車71aの少なくとも一方を回転させることで、4つの第1係止孔51aの位置と4つの第2係止孔71aの位置とを一致させることができる。
【0033】
第5歯車71の上方には、左右方向に延びる略円筒状の駆動力入力部材72が設けられている。この駆動力入力部材72の外面には、左右方向の所定範囲に亘って、螺旋状に凹凸であるウォームギア72aが設けられており、このウォームギア72aは、下方に位置する第5歯車71と係合している。このウォームギア72aの条数は、第5歯車71側からの回転力によりウォームギア72aが回転しない程度の条数となっている。駆動力入力部材72の左右方向の端部近傍の外周面は円筒状であり、この端部近傍が背面ケース23の内面に当接していることで、駆動力入力部材72が位置を維持しつつ回転可能となっている。駆動力入力部材72の内周面は、断面が六角形状であり、駆動力入力部材72の左右の両端は、背面ケース23の外部に露出している。
【0034】
第5歯車71の背面側には、第1回転軸31を中心とする略円筒形の連動部材73が設けられている。連動部材73は第1回転軸31に沿って前後方向に移動可能であり、且つ、その第1回転軸31周りに回転可能である。この連動部材73の前端には略円板状の前側フランジ73aが形成されており、後端には略円板状の後側フランジ73bが形成されている。前側フランジの前面には、前方へ向けて突出する円柱形の突起である係止ピン73cが4つ形成されている。これらの係止ピン73cの第1回転軸31からの距離は等しく、且つ、その距離は、第1歯車51及び第5歯車71の第1,2係止孔51a,71aの第1回転軸31からの距離と等しい。すなわち、第1,2係止孔51a,71aと係止ピン73cとは正面視にて同一の軌道を通るように回転可能であり、且つ、第1歯車51、第5歯車71及び連動部材73を回転させることで、4つの第1,第2係止孔51a,71aの位置と4つの係止ピン73cの位置とを一致させることができる。また、この係止ピン73cの前後方向の長さは、連動部材73の前側フランジ73aが第5歯車71に当接するまで前方に移動させた場合に、第2係止孔71aを貫通し、第1係止孔51aに少なくとも一部を挿入可能であり、且つ、第1係止孔51aから突出しない程度の長さである。
【0035】
連動部材73の前側フランジ73aと後側フランジ73bとの間には、第1回転軸31を中心とする略円筒形の摺動部材74が設けられている。摺動部材74は、前端側が前側フランジ73aに当接し、後端側が後側フランジ73bに当接している。この摺動部材74は、連動部材73と共に前後方向に移動可能であり、且つ、第1回転軸31周りに回転できないように取り付けられている。摺動部材74の上面には、前後方向に延びるラックギア74aが形成されている。
【0036】
摺動部材74の上部には、このラックギア74aに係合して摺動部材74を前後方向に動かすことが可能な、制動操作部75が設けられている。制動操作部75は、左右方向を回転軸としてその回転軸回りに回転可能であり、回転軸回りのおよそ90°程度の範囲に亘って形成された制動用歯車75aを備えており、この制動用歯車75aがラックギア74aに係合する。制動操作部75の制動用歯車75aが設けられていない範囲には、長手状のレバー75bが設けられており、このレバー75bは、背面ケース23の後ろ斜め上方から外部へ向けて突出している。このレバー75bを上下方向に操作することで、制動用歯車75aが回転軸回りに回転する。なお、制動操作部75は、レバー75bを上下方向に操作して作動するものとしているが、レバー75b又はそれに準ずる部材を左右方向や前後方向へ操作することにより作動するものとしてもよい。
【0037】
連動部材73の第2フランジ73bの背面には、スプリング76が取り付けられている。このスプリング76は、連動部材73を前方へ押し出すように付勢している。
【0038】
以上のように構成される誘引具10は図1で示したように、軌道101に取り付けられ、軌道101に沿って走行する。この軌道101は、左右方向に延び、前後方向の厚みが一定な長尺板状である。軌道101の下端には、誘引具10の走行ローラ40の走行歯車41に設けられている歯と略同形状の歯が、長手方向の全域に亘って設けられている。軌道101に誘引具10を取り付ける場合には、軌道101の上端に補助ローラ44が当接し、軌道101の歯に走行ローラ40の走行歯車41が係合する。誘引具10が軌道101に沿って走行する場合、軌道101の歯がラックとして機能し、誘引具10の走行歯車41がピニオンとして機能する。すなわち、誘引具10の左右方向の移動に伴って走行歯車41が回転する。
【0039】
まず、制動操作部75のレバー75bが上方に位置している場合について説明する。この場合には、摺動部材74が後方に位置しており、それに伴い、連動部材73も後方に位置している。このとき、係止ピン73cの第2係止孔71aに対する挿入状態は維持されているものの、係止ピン73cの前端は第2係止孔71aから突出しておらず、第1係止孔51aには挿入されていない。すなわち、第1歯車51の回転と第5歯車71との回転は、連動しない。
【0040】
誘引具10が軌道101に沿って左から右へと移動する場合、走行歯車41は正面から見て反時計周りに回転する。走行歯車41と共に第1歯車51も反時計回りに回転し、その第1歯車51と係合している第2歯車52は時計回りに回転する。第2歯車52と共に第3歯車53が時計回りに回転することで、第3歯車53と係合する第4歯車54は正面から見て反時計回りに回転し、その回転に同調してボビン60も反時計回りに回転する。すなわち、ボビン60は、誘引紐11を繰り出す方向へと回転する。
【0041】
以上の動きを簡略にまとめると、誘引具10が軌道101上を左から右へと走行する場合、走行ローラ40の回転を、第1~第4歯車71~74により、ボビン60により誘引紐11を繰り出す動力へと変換する。なお、第1~第4歯車71~74は走行ローラ40の回転とボビン60の回転とを連動させるものであるため、纏めて連動機構と称することができる。なお、誘引具10を軌道101に沿って右から左へと逆走させる場合には、ボビン60は正面から見て時計回りに回転し、誘引紐11を巻き取る。
【0042】
誘引具10を軌道101上で停止させる場合には、図12に示すように、制動操作部75のレバー75bを後ろ下方へと押し下げる。このレバー75bの操作により、制動操作部75の制動用歯車75aが左側面から見て反時計回りに回転し、その回転に伴い、制動用歯車75aと係合しているラックギア74aを備える摺動部材74が前方へと移動する。摺動部材74の前方への移動に伴い、連動部材73も前方へと移動し、連動部材73の前面に設けられている係止ピン73cは第5歯車71の第2係止孔71aから突出し、第1歯車51の第1係止孔51aに挿入される。すなわち、第1歯車51の回転と第5歯車71との回転とが、連動するようになる。なお、第1係止孔51aの位置と、第2係止孔71a及び係止ピン73cの位置とが一致しない場合には、誘引具10を左右に若干移動させることで第1歯車51を回転させるか、駆動力入力部材72を介して第5歯車71を回転させるか、若しくはその両方を行うことにより、第1係止孔51aの位置と、第2係止孔71a及び係止ピン73cとを一致させればよい。
【0043】
誘引紐11に対しては植物100による下方へ向かう荷重の印加が継続的に行われている。第5歯車71は、係合している駆動力入力部材72のウォームギア72aのセルフロック機能により回転が抑制されているため、それに伴い、第5歯車71及び第1歯車51の回転も抑制される。すなわち、走行ローラ40及びボビン60の回転が抑制される。すなわち、植物100によって誘引紐11へ荷重が印加されたとしても、走行ローラ40の回転による誘引具10の左右方向への移動、及び、ボビン60の回転に伴う誘引紐11の繰り出しが抑制される。なお第5歯車71、駆動力入力部材72、連動部材73、摺動部材74、及び制動操作部75が協働して、走行ローラ40及びボビン60の回転を抑制しているため、纏めてブレーキ機構と称することができる。
【0044】
ブレーキ機構により走行ローラ40及びボビン60の回転を抑制している状態で、走行ローラ40及びボビン60を回転させ、誘引具10を左右方向へ移動させつつ誘引紐11を繰り出したり巻き上げたりする必要がある場合、駆動力入力部材72を回転させる。このとき、駆動力入力部材72の六角形の孔に、六角ビットソケットの先端を差し込み、六角ビットソケットの他端を、電動ドライバーや手動のドライバー等の回転工具に取り付ける。そして、電動ドライバーや手動のドライバー等の回転工具の回転力を六角ビットソケットを介して駆動力入力部材72へ供給し、駆動力入力部材72を回転させる。このとき、軌道100は2m程度の高さに設けられているため、六角ビットソケットとしては、数十cmのロングビットを使用することが好ましい。
【0045】
駆動力入力部材72が回転すれば、ウォームギア72aと係合している第5歯車71も回転する。このとき、第5歯車71が回転すれば、第5歯車71の第2係止孔71aに挿入されている係止ピン73cも第1回転軸31回りに回転し、係止ピン73cが挿入されている第1係止孔51aを備える第1歯車51も回転する。第1歯車51が回転することで、走行ローラ40も回転し、誘引具10は軌道100に沿って移動する。さらに、第1歯車51の回転は、第2~第4歯車52~54を介してボビン60へ伝達され、誘引紐11の繰り出し又は巻き上げが行われる。なお、第5歯車71、駆動力入力部材72、連動部材73、摺動部材74、及び制動操作部75が協働して、走行ローラ40及びボビン60を回転させているため、纏めて回転機構と称することができる。すなわち、第5歯車71、駆動力入力部材72、連動部材73、摺動部材74、及び制動操作部75は、協働してブレーキ機構として機能するとともに、回転機構としても機能する。
【0046】
なお、ボビン60は、走行ローラ40の回転と同調させずに回転させることができる。具体的には、円板66を正面側へと引っ張ることにより、ボビン60に対して背面側に向けて押圧している押え部65を、ボビン60から離間させる。こうすることで、ボビン60を正面側へ向けて移動させることができ、これにより、ボビン60の第1鍔62の突起が回転板55の窪部56窪みから離脱し、ボビン60の回転と回転板55の回転との連動が遮断される。この状況において、誘引紐11の繰り出し量が過剰であるならば、ボビン60を時計回りに回転させて誘引紐11を巻き上げればよいし、誘引紐11の繰り出し量が過少であるならば、ボビン60を反時計回りに回転させて誘引紐11を繰り出せばよい。こうすることで、走行ローラ40を回転させることなくボビン60を回転させることができるため、誘引具10の軌道101上の位置を変化させることなく誘引紐11の繰り出し量を変更できる。
【0047】
以上のように構成される誘引具10を軌道101に配置する場合、誘引具10が備える連結部24に設けられている孔に、ワイヤーや紐等を通し、誘引具10どうしを連結し、全体を誘引装置として用いることができる。誘引具10どうしを連結すれば、誘引具10を移動させる場合には、最も誘引方向側(図1における右側)に位置する誘引具10を誘引方向へ移動させることで、他の誘引具10も移動させることができる。
【0048】
一方、誘引具10を軌道101上で停止させる場合には、誘引方向側とは反対の側(図1における左側)に位置する誘引具10のブレーキ機構を作動させ、その誘引具10の軌道101上での移動を抑制する。こうすることで、誘引方向側に位置する誘引具10についてはブレーキ機構を操作することなく、誘引方向側への移動を抑制することができる。また、誘引方向側とは反対の側に位置する誘引具10の駆動力入力部材72を回転させれば、誘引方向側へと移動させる場合には、誘引方向側に位置する誘引具10は誘引紐11に印加される荷重により誘引方向側へと移動し、誘引方向側とは反対の側へと移動させる場合には、誘引方向側とは反対の側に位置する誘引具10に引っ張られて、誘引方向側とは反対の側へと移動する。
【0049】
なお、誘引具10どうしを連結して誘引装置をして用いる場合には、上述の通り、少なくとも、誘引方向側とは反対の側(図1における左側)に位置する誘引具10がブレーキ機構及び回転機構を備えていれば、本実施形態に係る誘引具10が奏する効果と同等の効果を、誘引装置が奏することができる。すなわち、誘引方向側とは反対の側(図1における左側)に位置する誘引具については、この場合には、第5歯車71、駆動力入力部材72、連動部材73、摺動部材74、制動操作部75といった、ブレーキ機構及び回転機構を構成する部材については設けなくてもよく、これらの部材を備えない誘引具を誘引具10とは異なる第2の誘引具と称することができる。また、ワイヤーや紐ではなく、硬質の部材で連結する場合には、少なくともひとつの誘引具10がブレーキ機構及び回転機構を備えていれば、誘引装置全体が誘引具10が奏する効果を得ることができる。
【0050】
上記構成により、本実施形態に係る誘引具10は、以下の効果を奏する。
【0051】
・ブレーキ機構により、植物100からの荷重に起因する走行ローラ40の回転を抑制しつつ、回転機構により走行ローラ40を回転させることができる。したがって、ブレーキ機構の解除時の荷重の急激な印加を抑制することができ、且つ、走行させる必要がある場合にブレーキ機構を解除させる手間を省略することができる。
【0052】
・走行ローラ40の回転とボビン60の回転とを連動させる連動機構を利用して第5歯車の回転力を伝達しているため、第5歯車から走行ローラへ回転力を伝達する機構を別途用意する必要がなく、構成を簡略化することができる。
【0053】
・駆動力入力部72にセルフロック機能を有するウォームギア72を形成し、そのウォームギア72aをブレーキ機構としても機能させることで、ブレーキ機構として機能させる部材を別途用意する必要がなく、構成を簡略化することができる。
【0054】
・走行ローラ40の走行歯車41と軌道101の歯が係合し、に、ブレーキ機構の作動時に走行ローラ40が軌道101上を摺動したり、回転機構の作動時に走行ローラ40が軌道101上で空転したりすることを抑制することができる。
【0055】
<変形例>
・駆動機構の構成はあくまで一例であって、走行ローラ40の回転をボビン60の回転に伝達可能な構成であれば、種々の変更が可能である。また、実施形態では走行ローラ40及びボビン60の回転軸の方向が同じであるが、ウォームギア等を利用して回転軸を別方向へ変換してもよい。
【0056】
・実施形態では、連動部材73が備える係止ピン73を第1,2係止孔51a,71aに挿入することで、第5歯車71と第1歯車51とを接続しているが、クラッチ等の他の接続手段を利用して接続するものとしてもよい。
【0057】
・実施形態では、駆動力入力部72と第5歯車71との接続状態は、制動操作部75の操作状態によらず常に接続されているが、駆動力入力部72と第5歯車71との接続状態を解除できるものとしてもよい。この場合には、制動操作部75に準ずる部材を利用して、駆動力入力部72を上昇させる等すれば、第5歯車71との接続状態は解除される。なお、第5歯車71と駆動力入力部72との接続状態を解除可能とする場合、第1歯車51と第5歯車71とは常時接続されているものとすることもでき、連動部材73等を省くこともできる。
【0058】
・駆動力入力部72に対して、ビットソケット及び回転機器を介して駆動力を供給するものとしているが、人が駆動力入力部72を直接操作して駆動させるものとしてもよい。この場合においても、ブレーキ機構の作動状態の維持により、荷重の急激な印加を抑制することができる。なお、人による操作を容易とするために、回転用のレバー等を設けるものとしてもよい。
【0059】
・ブレーキ機構の作動時に、走行ローラ40へ外部から駆動力を供給するものとしたが、誘引具10にモータ等を設け、そのモータを直接操作、又は遠隔操作することにより、走行ローラ40を回転させるものとしてもよい。この場合においても、モータの非回転時の抵抗を利用することで、モータをブレーキ機構の一部として使用することができる。また、実施形態にかかる誘引具10の駆動力入力部72にモータを取り付け、そのモータにより駆動力入力部72を回転させるものとしてもよく、この場合には、駆動力入力部72のウォームギア72aのブレーキ機能の補助として、そのモータの非回転時の抵抗を利用することもできる。
【0060】
・第1歯車51と第5歯車71との接続に、第1係止孔51a、第2係止孔71a、及び、係止ピン73cを用いているが、クラッチ等の公知の接続手段を用いることもできる。また、第1歯車51と第5歯車71との接続箇所以外についても、回転力の伝達/非伝達の切り替えが必要な箇所については、クラッチ等の接続手段を介在させてもよい。
【0061】
・駆動力入力部72について、内部形状を六角筒状としているが、形状についてはこれに限らず、他の多角形としてもよい。また、駆動力入力部の外形を多角柱状とし、ソケット等を接続することで回転力を付与するものとしてもよい。
【0062】
・誘引具10の移動は、誘引紐11を引き下げる荷重により引き起こされることが一般的であるため、誘引紐11を引き下げる荷重が掛かった場合における駆動機構の各構成の回転のみを抑制するラチェット機構を設けるものとしてもよい。
【0063】
・実施形態では、誘引具10によりトマトの茎を誘引するものとしたが、誘引が必要な植物であれば、トマト以外に適用することもできる。
【0064】
以上説明した誘引具について、纏めると、下記のように記載することができる。
<付記1>
土壌の上方に敷設された軌道に沿って走行し、土壌に植えられた植物を誘引する誘引具であって、
前記軌道に沿って走行可能な走行ローラと、
前記植物の茎に取り付けられて使用され、その植物を誘引可能な誘引紐と、
前記誘引紐が巻き付けられているボビンと、
前記走行ローラの回転と前記ボビンの回転とを連動させる連動機構と、
前記連動機構と連動して回転可能であり、且つ、前記連動機構側とは異なる側から回転力を付与可能な駆動力入力部と、
前記連動機構と前記駆動力入力部の連動状態と被連動状態とを切り替え可能な切替部と、を備え、
前記連動機構側から前記駆動力入力部へ回転力が付与される場合、前記連動機構側の回転を前記駆動力入力部が抑制してブレーキ機構として機能し、
前記連動機構側とは異なる側から前記駆動力入力部へ回転力が付与される場合、前記駆動力入力部の回転に伴って前記連動機構が回転して前記駆動力入力部が回転機構として機能する、誘引具。
【0065】
<付記2>
前記駆動力入力部は、
前記連動機構と連動して回転可能な回動部材と、
前記回動部材と連動して回転可能であり、前記連動機構側とは異なる側からの回転力を付与可能なウォームギアとからなる、付記1に記載の誘引具。
【符号の説明】
【0066】
誘引具…10、誘引紐…11、走行ローラ…40、走行歯車…41、第1歯車…51、第1係止孔…51a、第2歯車…52、第3歯車…53、第4歯車…54、ボビン…60、第5歯車…71、第2係止孔…71a、駆動力入力部材…72、連動部材…73、係止ピン…73c、摺動部材…74、制動操作部…75、植物…100、軌道…101、
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12