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  • 特許-遮熱シート 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-21
(45)【発行日】2024-03-29
(54)【発明の名称】遮熱シート
(51)【国際特許分類】
   A01G 9/14 20060101AFI20240322BHJP
【FI】
A01G9/14 S
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019125778
(22)【出願日】2019-07-05
(65)【公開番号】P2021010321
(43)【公開日】2021-02-04
【審査請求日】2022-05-23
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000219912
【氏名又は名称】東京インキ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】池田 浩気
(72)【発明者】
【氏名】茅野 隆
(72)【発明者】
【氏名】太田 敬文
【審査官】吉田 英一
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-084788(JP,A)
【文献】特開2010-220567(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01G 9/14
A01G 13/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均可視光透過率が70%以上で、アンチモンドープ酸化スズ粒子と酸化チタン被覆マイカ粒子とを含有し、前記アンチモンドープ酸化スズ粒子の含有量が1.0~2.5g/mで、前記酸化チタン被覆マイカ粒子の含有量が0.1~1.31g/mである、遮熱シート。
【請求項2】
前記アンチモンドープ酸化スズ粒子の50%体積粒子径が、動的光散乱法による粒度分布測定で80~130nmである、請求項1記載の遮熱シート。
【請求項3】
前記酸化チタン被覆マイカ粒子が、レーザ回折法による粒度分布測定で、10%粒子径が3μm以上かつ90%粒子径が80μm以下で、酸化チタン被覆率が10~70質量%である、請求項1または2記載の遮熱シート。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項に記載の遮熱シートであって、基材層と、アンチモンドープ酸化スズ粒子および酸化チタン被覆マイカ粒子を含有する遮熱層と、を含む、遮熱シート。
【請求項5】
基材層がガラスまたはプラスチックシートである、請求項4記載の遮熱シート。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか一項に記載の遮熱シートを含む農業用ハウス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明な遮熱シートおよびその遮熱シートに用いる遮熱塗布剤に関する。
【背景技術】
【0002】
プラスチックフィルムは、軽量、フレキシブルで組立や施工が容易であり、屋外で使用できる程度に耐久性があるなどの理由から、テント倉庫、イベント向けテント、作業用テント、農業用ハウス、アミューズメントスペース、イベントスペース、雨天運動場など、膜構造物向けとして、広く用いられている。また、特に可視光透過率の高いフィルムは、上述の膜構造物だけでなく、建造物の屋根部全体または一部を構成し、出入り口のシートシャッターに用いられるなど、さらに用途が広がっている。
【0003】
しかし、一般的に、プラスチックのみから成るフィルムは、熱線を透過しやすく、これから作られた建物、例えば農業用ハウスなどは、夏場の強い日差しの下では内部の温度が極度に高くなってしまう。このような高温環境下で長時間の活動を行う場合、熱中症等に陥るおそれがある。そのため、プラスチックフィルムに熱線を吸収したり、拡散させたりする物質を添加または塗布する等の工夫がなされている。
【0004】
人間や動物だけでなく、植物でも同様で、例えば、農業用ハウス内での栽培では、夏場だけでなく春秋であっても晴れた日には、強い日差しによって、植物に葉焼け、苗枯れ、高温障害等といった現象が起き、植物の生育に悪影響を及ぼす。
【0005】
そこで、夏場等の強い日差しによる植物の生育不良を抑制するため、農業用ハウスに用いるガラスやシートに熱線を吸収したり、散乱させたりする物質を添加または塗布することによって、農業用ハウス内の温度を低下させるといった方法が取られてきた。
【0006】
例えば、特許文献1には、熱可塑性樹脂と酸化チタンで被覆された雲母からなる遮熱性農業用フィルムが、透明性を有し、且つ優れた熱線遮蔽性を有する農業用ハウスの外張りとして好適に使用されるものとして提案されている。
【0007】
特許文献2には、JIS R3106に準拠して求められる可視光線透過率が85%以上、日射透過率が80%以上、日射吸収率が8~15%の樹脂フィルムからなる農業用フィルムが提案され、その農業用フィルムに赤外線吸収フィラーとして六ホウ化物粒子を含有させることによって前記の可視光線透過率等が実現でき、その結果、冬季、夏季のいずれにおいても植物の栽培を良好に実施できるとしている。
【0008】
特許文献3には、水と水系バインダーと酸化チタンと炭酸カルシウムとを含む農業用遮光剤が記載されており、シート材の外表面に散布されることでその外表面をむらの抑制された遮光性構造が形成された遮光面となすことを可能とするとともに、降雨などによって流れ落ちるおそれの抑制された遮光性構造を形成可能なものとして提案されている。
【0009】
特許文献4には、散乱角が5.5~10°の散乱光の割合が全透過光に対して5%以上である、農業用光散乱フッ素樹脂フィルムが記載され、農業用ハウスの被覆材等に用いことができるフィルムであって、葉焼け、苗枯れ等の発生を低減でき、色等の均一性に優れた作物を高い生産性で栽培することができるものとして提案されている。
【0010】
特許文献5には、アンチモンドープ酸化スズ(以下「ATO」ともいう。)粒子を含有する分散液と、重合性化合物と、重合開始剤と、溶剤とを混合装置により機械的に混合して得られる塗布液が開示され、基材、例えば、可視光線を透過する樹脂上に、この塗布液で熱線遮蔽層を形成することにより、熱線遮蔽フィルムを提供できるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特開2007-111002号公報
【文献】特開2012-021056号公報
【文献】特開2015-006154号公報
【文献】WO2010/047338号公報
【文献】特開2018-106075号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
これらの特許文献は、フィルムやシートに熱線を反射または吸収する材料を含有させる、塗布するといった違いはあるが、いずれも、透明性を維持しながら、熱線を吸収または散乱させることによって農業用ハウス内の過度の温度上昇を抑制しようとするものである。しかしながら、これらの技術が種々提案されていることからも分かるように、特に透明性を維持しながら高い遮熱性を発現させるには十分といえるものではなかった。
【0013】
農業用ハウスが太陽光に晒されるとその内部が暖められ、暖められた空気は上に集まり、暖められ続けると上の暖かい空気は下に下がることはなく、ハウスのフィルムやガラスから放熱される分を除けばハウス内の気温を低下させる要因は考えられないため、夏場や春秋であっても晴れていて太陽光が照射されている間は、ハウス内の特に上部の気温は上がり続けることになる。
ハウス内の作物は当然に下より上部分で大きく影響を受ける。作物の上部には芽や若い葉が成長していく部分でもある作物の成長点が多く存在するが、生育途上であるため温度の影響を受け易く、この部分が高温障害を受けると最悪の場合は枯死することもあり得る。
【0014】
農業用ハウスだけでなく、人間や動物の活動する室内においても、夏場などに太陽光を取り入れる場合、過度の気温上昇を抑制する必要があるが、この場合でも、気温が上がり易く、熱がたまり易い上部の気温上昇を抑制できればより快適な生活が可能となると考えられる。
【0015】
従って、本発明は、透明な遮熱シートならびにガラス、透明プラスチックシート等の基材層と遮熱層とを含む透明遮熱シートおよび前記遮熱層を形成するために用いる遮熱塗布剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、鋭意検討の結果、遮熱効果が主に光吸収によるとされているATO粒子に、光散乱効果を有する材料(光拡散材)、中でも酸化チタン被覆マイカ粒子を組み合わせることにより、前記課題を解決できることを見出し、本発明を完成した。
【0017】
すなわち、本発明は、
(1)平均可視光透過率が70%以上で、アンチモンドープ酸化スズ粒子と酸化チタン被覆マイカ粒子とを含有し、前記アンチモンドープ酸化スズ粒子の含有量が1.0~2.5g/mで、前記酸化チタン被覆マイカ粒子の含有量が0.1~1.31g/mである、遮熱シート、
(2)前記アンチモンドープ酸化スズ粒子の50%体積粒子径が、動的光散乱法による粒度分布測定で80~130nmである、(1)記載の遮熱シート、
(3)前記酸化チタン被覆マイカ粒子が、レーザ回折法による粒度分布測定で、10%粒子径が3μm以上かつ90%粒子径が80μm以下で、酸化チタン被覆率が10~70質量%である、(1)または(2)記載の遮熱シート、
(4)(1)から(3)のいずれか一項に記載の遮熱シートであって、基材層と、アンチモンドープ酸化スズ粒子および酸化チタン被覆マイカ粒子を含有する遮熱層と、を含む、遮熱シート、
(5)前記基材層がガラスまたはプラスチックシートである、(4)記載の遮熱シート、
(6)(1)から(5)のいずれか一項に記載の遮熱シートを含む農業用ハウス、
である。
【発明の効果】
【0018】
本発明の遮熱シートは、透明性が高いにもかかわらず、太陽光が照射されたとき、それに覆われた内部空間における温度上昇を効果的に抑制できるだけでなく、特にその上部での温度上昇を抑制する。従って、農業用ハウスでは、高温障害を受け易い作物上部側での温度上昇を抑えることができるため、農業用ハウス用の遮熱シートとして好適に使用できる。人や動物の居住空間においても、太陽光などの光が照射されたとき、上部だけが極端に暑くなるといった不快な状況を改善できる。
また、本発明の遮熱塗布剤は、作用機作の異なる2種の遮熱剤を併用しているので熱線を効果的に遮蔽できる塗布剤として使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】昇温防止試験装置の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を実施するための形態を詳細に説明する。なお、本実施形態は、本発明を実施するための一形態に過ぎず、本発明は本実施形態によって限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0021】
本明細書中、「~」は、特に明示しない限り、上限値と下限値を含むことを表す。
【0022】
本発明の遮熱シートは、平均可視光透過率が70%以上で、アンチモンドープ酸化スズ粒子と酸化チタン被覆マイカ粒子とを含有する。
【0023】
前記遮熱シートの平均可視光透過率は、70%より低いと、植物の生育に悪影響を及ぼすため70%以上が好ましい。本発明において、平均可視光透過率は、380~780nmの平均光線透過率をいい、1nm毎の光線透過率を相加平均した値である。
【0024】
本発明でいうシートとは、シートまたはフィルム状のものをいい、ガラスおよびプラスチックシートを含む。
前記プラスチックシートとしては、プラスチックを主成分とする透明なシートであればいずれでも使用できるが、例示すると、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)等のポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-酢酸ビニル共重合体等のポリオレフィン、エチレン-ビニルアルコール、ポリビニルアルコール等のアルコール系樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリ酢酸ビニル等のビニル樹脂、四フッ化エチレン樹脂、四フッ化エチレン-エチレン共重合体、三フッ化塩化エチレン-エチレン共重合体、四フッ化エチレン-六フッ化プロピレン共重合体、フッ化ビニル樹脂、四フッ化エチレンパーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、フッ化ビニリデン樹脂等のフッ素系樹脂、ポリアミドまたはバリア層を中間に配したバリア性ポリアミド、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリアクリロニトリル、ポリイミド、などから得られたシートが挙げられる。
さらに、セロハン、防湿セロハン、PETまたはポリアミドシートにアルミナやシリカなどの蒸着層を設けた透明蒸着ポリエステルシートまたは透明蒸着ポリアミドシート、PETシート、ポリアミドシート、ポリエチレンシート、ポリプロピレンシート等にアルミニウムを蒸着させたアルミ蒸着シート、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリアクリル酸樹脂等をコートした各種コーティングシート、さらに異樹脂と共に共押出した共押出シート、防曇剤を添加した防曇性シートなどが挙げられる。
これらの例示したプラスチックシートは、延伸、無延伸のどちらでもよく、単独または2種類以上を積層していてもよい。なかでも、農業用ハウスに汎用されるポリオレフィンシートやフッ素系樹脂シートが好ましく、ポリエチレン系シートがより好ましく、エチレン-酢酸ビニル共重合体のシートが特に好ましい。さらに限定すれば、ポリエチレンとエチレン-酢酸ビニル共重合体との多層構造シートが好ましい。
【0025】
本発明の遮熱シートに含まれるATO粒子は、主に熱線を吸収することによって遮熱効果を現すが、酸化アンチモン(Sb)と、酸化スズ(SnO)とから得られる無機化合物で、市販の粉末を粉砕して用いても、分散品を用いてもよく、従来公知の方法等によって製造して用いてもよい。例えば、市販品としては、商品名でSN-100P、SN-100D(以上、石原産業社製)等が例示される。
【0026】
前記ATO粒子の50%体積粒子径は、動的光散乱法による粒度分布測定で80~130nmである。80nm未満では粒子が凝集体を作りやすいためフィルム成形が困難になり、130nmを超えると透明性が不足する場合がある。
【0027】
前記遮熱シートでは、ATO粒子に加えて、光散乱効果をもつ材料(光拡散材)を含有させることによって農業用ハウス等への遮熱効果、特に上部の温度上昇に対する抑制効果を増強する。
【0028】
前記光拡散材は、主に熱線を拡散することによって農業用ハウス等の上部での温度上昇抑制効果を現わすと考えられるが、無機微粒子または有機微粒子の中から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
前記有機微粒子としては、例えば、ポリメチルメタクリレート粒子、アクリル-スチレン共重合体粒子、メラミン粒子、ポリカーボネート粒子、スチレン粒子、架橋ポリスチレン粒子、ポリ塩化ビニル粒子、ベンゾグアナミン-メラミンホルムアルデヒド粒子等が挙げられる。
前記無機微粒子としては、酸化チタンで被覆されたマイカ(酸化チタン被覆マイカ)粒子、ガラスビーズ、シリカ粒子、ゼオライト等が挙げられる。中でも、酸化チタン被覆マイカ粒子が透明性に優れ、光散乱効果も大きいため好ましく用いられる。
【0029】
前記酸化チタン被覆マイカ粒子は、その10%粒子径は、小さいと、熱線遮蔽の効果が低下するので、3μm 以上が好ましく、5μm以上がより好ましい。また、90%粒子径は、大きいと、遮熱シートの透明性が低下し、強度も低下するので、80μm以下が好ましく、65μm以下がより好ましい。
【0030】
なお、本発明において、酸化チタン被覆マイカ粒子の10%粒子径とは、測定対象となる酸化チタン被覆マイカ粒子の粒度分布をレーザ回折法によって測定し、得られた酸化チタン被覆マイカ粒子の重量基準の粒度分布において、最も粒子径の小さい酸化チタン被覆マイカ粒子から、粒子径の大きい酸化チタン被覆マイカ粒子に向かって、10%累積となった粒子径をいい、90%粒子径とは、同様に90%累積となった粒子径をいう。
【0031】
本発明でいう酸化チタン被覆率は、表面が酸化チタンで被覆されたマイカ中の二酸化チタン含量を質量比率で表したものをいう。
前記酸化チタン被覆マイカ粒子において酸化チタンによるマイカの被覆率は、低いと、遮熱効果が不足することがある一方、被覆率70%を超えても遮熱効果は増加しないため、10~70%が好ましく、30~60%がより好ましい。また、マイカを被覆する酸化チタンはルチル型、アナターゼ型、ブルッカイト型のいずれでも好適に用いることが出来る。
【0032】
前記酸化チタン被覆マイカ粒子は市販品として入手できる。例えば、商品名では、Mearlin Exterior Fine Red439V、Mearlin Fine Violet539V、Mearlin Super Violet9530Z、Mearlin Exterior CFS Super Violet5303Z(以上、BASF社製)、Iriotec9770、Iriodin223、Iriodin100、Iriodin120(以上、メルク社製)などが挙げられる。
【0033】
前記遮熱シート中のATO粒子の含有量は1.0~5.0g/mで、酸化チタン被覆マイカ粒子の含有量は0.1~4.0g/mが好ましく、さらに好ましくはATO粒子が1.0~2.5g/mで、酸化チタン被覆マイカ粒子が0.1~1.0g/mである。いずれも下限値未満では遮熱効果が不足し、上限値を超えるとATO粒子と酸化チタン被覆マイカ粒子との混合比率によっては、特に酸化チタン被覆マイカ粒子は光線透過率への影響が大きいので、光線透過率が大きく低下することがある。ATO粒子および酸化チタン被覆マイカ粒子の含有量は必要とされる温度上昇抑制効果および経済性を考慮して適宜決められる。また、ATO粒子以外の熱線吸収材および酸化チタン被覆マイカ粒子以外の光拡散材を併用してもよい。
【0034】
前記遮熱シートは、基材となるガラスまたはプラスチックにATO粒子および酸化チタン被覆マイカ粒子を混合させてからシート状に加工するか、基材となるガラスまたはプラスチックシートにATO粒子および/または酸化チタン被覆マイカ粒子を含む塗布剤を塗布することによって得られる。この塗布剤はATO粒子および酸化チタン被覆マイカ粒子のどちらかを含むものであっても、両方を含むものであってもよく、塗布回数に制限はないが、コストおよび時間を考慮すると当然にATO粒子および酸化チタン被覆マイカ粒子の両方を含む塗布剤を1回で塗布するのが好ましい。
【0035】
また、例えば、ATO粒子を含有した基材に酸化チタン被覆マイカ粒子を含有する塗布剤を塗布することによって、結果としてATO粒子および酸化チタン被覆マイカ粒子を含有した遮熱シートとすることも可能である。もちろん、逆に、酸化チタン被覆マイカ粒子を含有した基材にATO粒子を含有する塗布剤を塗布することもできる。
【0036】
本発明の遮熱シートの形態の一つは、基材層と、ATO粒子および酸化チタン被覆マイカ粒子を含む遮熱層と、を含有する遮熱シートである。
【0037】
前記基材層は、透明なガラスまたはプラスチックシートからなる。
前記プラスチックシートとしては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)等のポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-酢酸ビニル共重合体等のポリオレフィン、エチレン-ビニルアルコール、ポリビニルアルコール等のアルコール系樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリ酢酸ビニル等のビニル樹脂、四フッ化エチレン樹脂、四フッ化エチレン-エチレン共重合体、三フッ化塩化エチレン-エチレン共重合体、四フッ化エチレン-六フッ化プロピレン共重合体、フッ化ビニル樹脂、四フッ化エチレンパーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、フッ化ビニリデン樹脂等のフッ素系樹脂、ポリアミドまたはバリア層を中間に配したバリア性ポリアミド、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリアクリロニトリル、ポリイミド、などから得られたシートが例示できる。
さらに、セロハン、防湿セロハン、PETまたはポリアミドシートにアルミナやシリカなどの蒸着層を設けた透明蒸着ポリエステルシートまたは透明蒸着ポリアミドシート、PETシート、ポリアミドシート、ポリエチレンシート、ポリプロピレンシート等にアルミニウムを蒸着させたアルミ蒸着シート、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリアクリル酸樹脂等をコートした各種コーティングシート、さらに異樹脂と共に共押出した共押出シート、防曇剤を添加した防曇性シートなどが挙げられる。
これらの例示したプラスチックシートは、延伸、無延伸のどちらでもよく、単独または2種類以上を積層していてもよい。なかでも、農業用ハウスに汎用されるポリオレフィンシートやフッ素系樹脂シートが好ましく、ポリエチレン系シートがより好ましく、エチレン-酢酸ビニル共重合体が特に好ましい。さらに限定すれば、ポリエチレンとエチレン-酢酸ビニル共重合体との多層構造シートが好ましい。
【0038】
前記遮熱層に含まれるATO粒子および酸化チタン被覆マイカ粒子は、上記で説明したものと同じものが、好適に使用できる。単位面積あたりの含有量についても同様である。
【0039】
前記遮熱層は、前記基材層にATO粒子および酸化チタン被覆マイカ粒子を含有する遮熱塗布剤を塗布することによって形成される。
【0040】
前記遮熱塗布剤は、バインダー樹脂と、アンチモンドープ酸化スズ粒子と、酸化チタン被覆マイカ粒子とを含有する。
【0041】
前記バインダー樹脂は、ATO粒子および酸化チタン被覆マイカ粒子を分散させることができるものであれば、選ぶものではない。具体的には、セラック類、ロジン変性マレイン酸樹脂、ロジン変性フェノール樹脂、酢酸セルロース、セルロースアセチルプロピオネート、セルロースアセチルブチレート、塩化ゴム、環化ゴム、ハロゲン化ビニル系樹脂(例えば、塩化ビニル系樹脂、フッ素含有ビニル系樹脂など)、ポリ酢酸ビニル、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体、ポリスチレン樹脂、アクリル系樹脂、アクリルスチレン共重合体、ポリアクリル酸エステル、ポリエステル系樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ケトン樹脂、エチレンビニルアセテート樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ニトロセルロース樹脂、塩素化ポリエチレン樹脂、塩素化ポリプロピレン樹脂、塩素化エチレン-ビニルアセテート樹脂、ロジン系樹脂、スチレンマレイン酸樹脂、アルキッド樹脂、およびエチレン-ビニルアルコール樹脂などが挙げられる。なかでも、ポリウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、ニトロセルロース樹脂、ポリアミド系樹脂、塩素化ポリプロピレン樹脂、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体などがより好ましい。さらに、ポリウレタン系樹脂および塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体、または、ポリウレタン系樹脂およびアクリル系樹脂の中から選ばれる少なくとも1つであることがさらに好ましい。これらの中から選ばれる少なくとも1種であることが好ましく、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、透明性を考慮すると、アクリル樹脂が特に好ましい。
【0042】
前記遮熱塗布剤に用いられるATO粒子および酸化チタン被覆マイカ粒子については、前記遮熱層に使用するものと同様のものが好適に使用できる。
【0043】
前記遮熱塗布剤中の前記ATO粒子含有量は0.1~10質量%である。0.1質量%未満では、それを塗布したシート中の濃度を十分な遮熱効果を発現させるまでにすることが難しく、10質量%を超えると透明性が損なわれるだけでなく、塗布剤中に均一分散させることが難しくなる場合がある。
【0044】
前記遮熱塗布剤中の前記酸化チタン被覆マイカ粒子の含有量は0.1~5質量%である。0.1質量%未満では、塗布回数を重ねてもそれを塗布したシート中の濃度を十分な遮熱効果を発現させるまでにすることが実質的に難しく、5質量%を超えると塗布剤中に均一分散させることが難しくなったり、シート上に安定した塗膜を形成できなくなったりする場合がある。
【0045】
本発明の遮熱塗布剤には、塗布膜とシートとの密着性を良くするため、アジリジン、カルボジイミド、オキサゾリン等の架橋剤を使用することができる。商品名では、アジリジンとしては、日本触媒社製のケミタイトPZ-33、カルボジイミドとしては、日清紡ケミカル社製のカルボジライトE-05、カルボジライトV-02等、オキサゾリンとしては、日本触媒社製のエポクロスWSを例示できる。 また、ポリカルボジイミド樹脂も利用でき、例えば、水性樹脂用架橋剤の日清紡ケミカル社製カルボジライトシリーズ(E-02、E-03A、E-05など)などが例示できる。
【0046】
前記遮熱塗布剤には、本発明の効果を阻害しない範囲で、必要に応じて溶剤、沈降防止剤、消泡剤、光安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、防霧剤、滑剤、色材(顔料、染料等)等を添加してもよい。また、他の熱線吸収剤および/または光拡散剤を併用してもよい。
【0047】
本発明の遮熱シートが、基材層と、ATO粒子および酸化チタン被覆マイカ粒子を含む遮熱層と、を含有する遮熱シートである場合、その遮熱シートはガラスまたはプラスチックシートに前記遮熱塗布剤を塗布することによって製造できる。塗布方法はグラビア印刷等の印刷、刷毛や噴霧などによる塗装等、特に選ばない。塗布回数についても特に制限はなく、遮熱塗布剤中のATO粒子および酸化チタン被覆マイカ粒子の含有濃度と経済性とを考慮して決められる。また、ATO粒子を含有する塗布剤と酸化チタン被覆マイカ粒子を含有する塗布剤のそれぞれを塗布して製造することも可能である。
遮熱塗布剤は、あらかじめATO粒子と酸化チタン被覆マイカ粒子とを高濃度に含む濃縮液をバインダー等で薄めて作製することも出来る。
【0048】
本発明の遮熱シートは、予め工場などで製造し、それを農業用ハウス等に展張するといった使い方の他に、本発明の遮熱塗布剤を既設の農業用ハウスの透明シート部分に塗布したり、小型ヘリコプターやドローンを使って噴霧したりすることによって、農業用ハウスに遮熱効果を付与するといった使い方も可能である。
【実施例
【0049】
以下、本発明を実施例によって更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、例中、「部」は「質量部」を、「%」は「質量%」を表す。
【0050】
<遮熱塗布剤の製造>
「実施例1」
アクリルバインダー(商品名J140A、星光PMC社製)100部に、ATO粒子(パウダータイプ、SN-100P、石原産業社製)3.0部、酸化チタン被覆率60%の酸化チタン被覆マイカ粒子(Iriodin223、メルク社製)0.5部を加え、混合し、実施例1の遮熱塗布剤を得た。
【0051】
「実施例2~8および比較例1~10」
表1および2の組成(表中の数値は質量部を表わす。)に従って、実施例1と同様に、実施例2~8および比較例1~10の遮熱塗布剤を得た。
【0052】
【表1】
【0053】
【表2】
【0054】
<遮熱シートの製造>
「実施例9」
実施例1の遮熱塗布剤を、ポリエチレンフィルムとエチレン酢酸ビニル共重合フィルムとの多層構造フィルム(商品名ダイヤスター、厚さ0.15mm、三菱ケミカルアグリドリーム社製、以下、「農POフィルム」ともいう。)にバーコーターを用いて、塗布膜の厚みが0.020mmとなるように塗布し、乾燥させて実施例9の遮熱シートを得た。
【0055】
「実施例10~16および比較例11~20」
実施例9と同様に、実施例2~8および比較例1~10の塗布剤を農POフィルムにバーコーターを用いて塗布し、実施例9~16(表3)、比較例11~13(表4)、および比較例14~20(表5)の遮熱シートを得た。
【0056】
得られたシートについて平均可視光透過率および遮熱効果(上部、下部)を下記に従い測定し、表3~5の結果を得た。
【0057】
<平均可視光透過率>
実施例9~16および比較例11~20のシートについて、紫外可視近赤外分光光度計(UH4150、日立ハイテクサイエンス社製)を使用して可視光に相当する380~780nmの平均光線透過率を求め、70%以上を合格○とした。380~780nmの平均光線透過率は、1nm毎に光線透過率を測定し、相加平均により求めた。
【0058】
<上部遮熱効果および下部遮熱効果>
図1の昇温防止試験装置を用い、以下の方法に従って上部遮熱効果および下部遮熱効果を測定し、評価した。
蓋のある断熱箱1(発泡スチロール製、長さ21cm×幅19cm×深さ12.5cm、内容量5L)の蓋を取り除き、この四方を隙間なく囲むように底のない深さ48.5cmのダンボール箱2を上から被せ、このダンボール箱2の上面中央部に長さ方向に17.0cm、幅方向に16.5cmの長方形の開口部を設け、この開口部を塞ぐように遮熱シート3を載せた。この遮熱シート3から10.0cm真下に上部遮熱効果測定用の温度センサー4、断熱箱の底から1.0cm上に下部遮熱効果測定用の温度センサー5を紐で吊るして設置した。
遮熱シート3の20.0cm真上から赤外線ランプ6(アイR形赤外線電球125W、岩崎電気社製)を30分間照射して、照射前後の温度を測定し、ブランクとして農POフィルムを用い、以下の計算式により上部及び下部遮熱効果を算出した。
上部遮熱効果(℃)=(ブランクへの照射後の10.0cm真下の温度-ブランクへの照射前の10.0cm真下の温度)-(遮熱シートへの照射後の10.0cm真下の温度-遮熱シートへの照射前の10.0cm真下の温度)
下部遮熱効果(℃)=(ブランクへの照射後の断熱箱の底から1.0cm上の温度-ブランクへの照射前の断熱箱の底から1.0cm上の温度)-(遮熱シートへの照射後の断熱箱の底から1.0cm上の温度-遮熱シートへの照射前の断熱箱の底から1.0cm上の温度)
上部遮熱効果では、4℃以上を○、2℃以上4℃未満を△、2℃未満を×とし、下部遮熱効果では、2℃以上を○、1℃以上2℃未満を△、1℃未満を×と評価した。
【0059】
【表3】
【0060】
【表4】
【0061】
【表5】
【0062】
表3~5の遮熱シートでは、ATO粒子のみを1.59g/m含有している比較例13は、下部遮熱効果は○の評価であるが上部遮熱効果は△、60%酸化チタン被覆マイカ粒子のみを0.25g/m含有している比較例15は上部、下部遮熱効果とも×の評価となっている。
一方、実施例14では、ATO粒子は1.10g/mと比較例13よりも3割以上少なく、60%酸化チタン被覆マイカ粒子も0.22g/mと比較例15よりも1割以上少ないにもかかわらず、上部および下部遮熱効果とも評価○となっている。
また、実施例16では、ATO粒子は1.16g/mと比較例13よりも3割程度少なく、60%酸化チタン被覆マイカ粒子も0.14g/mと比較例15の半分程度でしかないにもかかわらず、上部および下部遮熱効果とも評価○となっている。
これらの結果は、明らかにATO粒子と酸化チタン被覆マイカ粒子とを組み合わせることによって、遮熱効果、特に、上部遮熱効果に対し相乗的な効果が発現したことを示している。
【符号の説明】
【0063】
1 断熱箱
2 ダンボール箱
3 遮熱シート
4 上部遮熱効果測定用の温度センサー
5 下部遮熱効果測定用の温度センサー
6 赤外線ランプ
図1