(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-21
(45)【発行日】2024-03-29
(54)【発明の名称】半導体装置
(51)【国際特許分類】
H01L 31/10 20060101AFI20240322BHJP
【FI】
H01L31/10 A
H01L31/10 H
(21)【出願番号】P 2019192521
(22)【出願日】2019-10-23
【審査請求日】2022-10-14
(73)【特許権者】
【識別番号】502356528
【氏名又は名称】株式会社ジャパンディスプレイ
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】望月 真里奈
(72)【発明者】
【氏名】鈴村 功
【審査官】佐竹 政彦
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2019/0027550(US,A1)
【文献】特開2016-021380(JP,A)
【文献】特開2013-251173(JP,A)
【文献】特開2013-073965(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 27/146-27/148
H01L 31/08-31/119
H10K 30/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板の上に薄膜トランジスタが形成された半導体装置であって、
前記半導体装置は、光センサを有し、
前記光センサは、前記薄膜トランジスタより上層に、アノード、光導電膜、カソードで構成されたフォトダイオードを含み、
前記
アノードは、銀膜で形成され、前記銀膜の上に第1のITO膜が形成され、前記第1のITO膜の上にアルミナ(AlOx)膜が形成されていることを特徴とする半導体装置。
【請求項2】
前記光導電膜は有機光導電膜であることを特徴とする請求項
1に記載の半導体装置。
【請求項3】
前記薄膜トランジスタは、前記基板のセンサ領域に複数形成されており、
前記有機光導電膜と、前記アノードと、前記第1のITO膜と、前記アルミナ(AlOx)膜は、前記センサ領域の全面に一体的に形成され、複数の前記薄膜トランジスタに重なることを特徴とする請求項2に記載の半導体装置。
【請求項4】
前記第1のITO膜の厚さは、5nm乃至20nmであることを特徴とする請求項
2に記載の半導体装置。
【請求項5】
前記銀膜の厚さは90nm乃至200nmであることを特徴とす
る請求項4に記載の半導体装置。
【請求項6】
前記アルミナ(AlOx)膜の厚さは10nm乃至50nmであることを特徴とする請求項5に記載の半導体装置。
【請求項7】
前記第1のITO膜は非晶質であることを特徴とする請求項6に記載の半導体装置。
【請求項8】
前記カソードは第2のITO膜で形成され、前記薄膜トランジスタに接続されていることを特徴とする請求項7に記載の半導体装置。
【請求項9】
前記第2のITO膜は結晶化したITOであることを特徴とする請求項8に記載の半導体装置。
【請求項10】
光センサを有する半導体装置であって、
基板の上に薄膜トランジスタが形成され、
前記光センサは、
前記基板と反対側からの光を検知するものであり、
前記薄膜トランジスタよりも上層にフォトダイオードが形成され、
前記フォトダイオードは、アノード、光導電膜、カソードで構成され
、
前記アノードは銀膜で形成され、前記銀膜の上に第1のITO膜が形成され、前記第1のITO膜の上にアルミナ(AlOx)膜が形成されていることを特徴とする半導体装置。
【請求項11】
前記光導電膜は有機光導電膜であることを特徴とする請求項10に記載の半導体装置。
【請求項12】
前記第1のITO膜の厚さは、5nm乃至20nmであることを特徴とする請求項10に記載の半導体装置。
【請求項13】
前記銀膜の厚さは20nm乃至50nmであることを特徴とす
る請求項12に記載の半導体装置。
【請求項14】
前記アルミナ(AlOx)膜の厚さは10nm乃至30nmであることを特徴とする請求項13に記載の半導体装置。
【請求項15】
前記第1のITO膜は非晶質であることを特徴とする請求項14に記載の半導体装置。
【請求項16】
前記カソードは第2のITO膜で形成され、前記第2のITO膜の下面には、金属または合金で形成された反射電極が存在していることを特徴とする請求項15に記載の半導体装置。
【請求項17】
前記第2のITO膜は結晶化したITOであることを特徴とする請求項16に記載の半導体装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機材料による光電変換素子を用いた光センサを有する半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
光電変換を利用した光センサは、画像の認識のみでなく、生体認証等の分野でも使用され、用途が広がっている。有機材料を利用した光電材料は、暗電流を小さくできる、光電変換効率を向上できる、波長選択性を加えることが出来る等から、開発が進んでいる。
【0003】
光電変換素子として用いられる有機材料を記載したものとして、例えば特許文献1が挙げられる。また、有機材料を用いた光電変換素子としての膜構成を記載したものとして特許文献2が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】WO2014/054255 A1
【文献】特開2014-22525号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
有機光導電膜を用いたフォトダイオード(以後、有機光導電膜ダイオード OPD:Organic Photo Diodeともいう)を用いたセンサ装置は、外部からの光の利用効率を上げるために、反射電極を用いる。反射電極としては反射率が高い銀が使用される。そして、この銀を、有機光導電膜ダイオードの一方の電極として用いる。銀は100nm程度の薄膜が用いられるが、このような薄膜は、還元作用が高く、膜形成直後から大気中の酸素と結合して酸化し、高抵抗になってしまう。
【0006】
一方、有機光導電膜材料は、水分に弱いので、大気からの水分をブロックする必要がある。水分のブロックに対しては、アルミニウム酸化膜(以後アルミナ(AlOx)ともいう)が優れた特性を有している。したがって、反射電極としての銀と水分ブロックのためにアルミナ(AlOx)を積層して使用する。
【0007】
しかし、アルミナ(AlOx)は酸素を含んでいる。また、アルミナ(AlOx)は、反応性スパッタリングによって形成されることが多いので、酸素をより多く含んでいる。したがって、アルミナ(AlOx)と積層した銀は、アルミナ(AlOx)からの酸素によってさらに酸化しやすくなる。銀が酸化すると、高抵抗となって、電極の役割をなさなくなるだけでなく、酸化した銀は、黒色あるいは透明になって、反射電極としての役割も持たなくなる。
【0008】
本発明の課題は、フォトダイオードの一方の電極に、銀膜とアルミナ(AlOx)膜の積層膜を用いた場合に銀膜が酸化されることによる不具合を対策することである。なお、このような課題は、フォトダイオードの場合のみでなく、例えば、有機材料を用いる有機EL表示装置(OLED)等においても同様である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は上記課題を解決するものであり、主な具体的な手段は次のとおりである。
【0010】
(1)基板の上に薄膜トランジスタが形成された半導体装置であって、前記薄膜トランジスタに電気的に接続される電極は、銀膜で形成され、前記銀膜の上に第1のITO膜が形成され、前記第1のITO膜の上にアルミナ(AlOx)膜が形成されていることを特徴とする半導体装置。
【0011】
(2)前記半導体装置は、光センサを有し、前記光センサは、前記薄膜トランジスタより上層に、アノード、光導電膜、カソードで構成されたフォトダイオードを含み、前記電極は、前記フォトダイオードのアノードである、(1)に記載の半導体装置。
【0012】
(3)前記光導電膜は有機光導電膜であることを特徴とする(2)に記載の半導体装置。
【0013】
(4)前記第1のITO膜の厚さは、5nm乃至20nmであることを特徴とする(3)に記載の半導体装置。
【0014】
(5)前記銀膜の厚さは90nm乃至200nmであることを特徴とする(4)に記載の半導体装置。
【0015】
(6)前記アルミナ(AlOx)膜の厚さは10nm乃至50nmであることを特徴とする(5)に記載の半導体装置。
【0016】
(7)前記第1のITO膜は非晶質であることを特徴とする(6)に記載の半導体装置。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図6】銀膜とアルミナ(AlOx)膜の間のITOの効果を示すグラフである。
【
図7】実施例2の光センサの光導電膜付近の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に本発明の内容を、実施例を用いて説明する。実施例1では、センサアレイの下面から光を受ける場合の光センサ装置について説明し、実施例2でセンサアレイの上面から光を受ける場合の光センサ装置について説明する。また、本発明は、有機材料を発光素子として用いる、有機EL表示装置(OLED)についても適用することが出来る。
【実施例1】
【0019】
図1は本発明が適用される光センサ装置の平面図である。
図1において、センサ領域には、センサ要素がマトリクス状に形成されている。センサ領域の大きさは、例えば、横方向の径xxが3cm、縦方向の径yyが3cmである。センサ領域には、走査線11が横方向(x方向)に延在し、縦方向(y方向)に配列している。検出線12と電源線13が縦方向に延在し、横方向に配列している。走査線11と検出線12、あるいは、走査線11と電源線13で囲まれた領域がセンサ要素となっている。各センサ要素内には、スイッチングTFT15と有機光導電膜ダイオード10が形成されている。
【0020】
センサ領域外側の横方向には走査線駆動回路20が配置し、上方向には電源回路40が配置し、下方向には検出回路30が配置している。走査線駆動回路20や検出回路30は、TFTで形成されている。走査線駆動回路20内のシフトレジスタによって、走査線11が上方向から順次選択される。
【0021】
電源線13は、各フォトダイオードのアノードと接続し、縦方向に延在して、センサ領域上側における電源回路40において、同一電源に接続される。そして、電源線13にはアノード電位が供給される。検出線12は、スイッチングTFTのドレインと接続し、スイッチングTFTのソースは、フォトダイオード10のカソードと接続する。検出線12は、各センサ要素から下方向に延在し、検出回路30にて光電流が検出される。
図1において、走査線11によって選択されたセンサ要素に光が照射されると、フォトダイオード10から光電流が発生し、この光電流を検出線12を通して検出回路30にて検出する。
【0022】
図2は各センサ要素の平面図である。
図2は図を複雑化しないために、一部の電極等は省略されている。各センサ要素の大きさは、例えば、横方向x1が50μm、縦方向y1が50μmである。
図2において、走査線11が横方向に延在して縦方向に配列している。また、電源線13及び検出線12が縦方向に延在し、横方向に配列している。走査線11と電源線13、あるいは、走査線11と検出線12で囲まれた領域にフォトダイオードのカソード126、有機光導電膜127、アノード128等が形成されている。
【0023】
また、アノード電極128はセンサ領域全域に一体的に形成されている。つまり、アノード電極128はセンサ領域全域において一つであり、その一つのアノード電極128に複数のカソード電極126が重なることとなる。
【0024】
検出線12からスルーホール135を介して半導体膜107がx方向に延在し、屈曲して走査線11の下を通過する。この時TFTが形成される。この場合、走査線11がTFTのゲート電極になる。半導体膜107はy方向に延在してスルーホール123において、ITOで形成された、フォトダイオードのカソード126に接続する。スルーホール123は、
図3で説明するように、厚い有機パッシベーション膜122に形成されるので、径が大きい。カソード126の上に有機光導電膜127が形成され、その上にアノード128が銀膜によって形成される。これによって有機光導電膜ダイオードが形成される。また、有機光導電膜127もセンサ領域全面に一体的に形成されており、センサ領域において複数のセンサ要素ごとに島状に形成されているものではない。つまり有機光導電膜127はセンサ領域全面において一つであり、その一つの有機光導電膜127に一つのアノード電極128及び複数のカソード電極126が重なることとなる。
【0025】
図2の構成では、上述のように、有機光導電膜127とアノード128は、各要素共通に、センサ領域全面に形成される。したがって、
図2では、センサ要素内では、カソード126の形状のみ描かれているが、有機光導電膜127とアノード128はカソード126に積層している。より具体的には第1方向x及び第2方向yに隣り合うカソード電極126同士の間、つまりカソード電極126が形成されていない領域においても有機光導電膜127とアノード電極128が存在している。アノード電極128は100nm程度の銀膜128で形成され、膜厚が小さいので、複数の電源線13に接続されることによってカソード全体としての抵抗を小さくしている。電源線13は、銀膜128に積層してそのまま電源回路40に延在してもよいし、途中で有機パッシベーション膜122に形成されたスルーホールを介してTFTのドレイン電極あるいは、ソース電極と同じ層を延在してもよい。
【0026】
図3は、
図1の光センサ装置の断面図である。
図3に示す光センサは、基板100側から光が入力する方式である。
図1に示すように、センサ領域の外側には、TFTで形成した駆動回路が形成されている。ポリシリコン半導体は移動度が大きいので、駆動回路を構成するTFTはポリシリコン半導体で形成するのが有利である。
【0027】
一方、センサ領域に形成されるスイッチングTFTは、リーク電流の小さい酸化物半導体(OS:Oxide Semiconductorと呼ぶこともある)で形成することが有利である。そこで、本実施例では、ポリシリコン半導体TFTと酸化物半導体TFTの両方を用いた、ハイブリッド方式のアレイ基板を使用している。
図3において、左側が周辺回路用のポリシリコンTFTであり、中央部分が有機膜フォトダイオードとそのためのスイッチングTFTである。
【0028】
ポリシリコンは、a-Siをエキシマレーザによってポリシリコン化した、いわゆる低温ポリシリコンを用いるが、それでも、ポリシリコン半導体のアニール温度は、酸化物半導体を形成するためのプロセス温度を超えるので、先ず、ポリシリコン半導体TFTを形成し、その後、酸化物半導体TFTを形成する。したがって、まず、周辺回路から製造することになる。
【0029】
図3において、ガラス基板100の上に窒化シリコン(SiN)と酸化シリコン(SiO)の積層膜による下地膜101を形成する。ガラス基板100からの不純物がポリシリコン半導体102や酸化物半導体107を汚染することを防止するためである。SiO膜の厚さは、例えば200nm、SiN膜の厚さは例えば20nmである。
【0030】
その上にTFTのためのポリシリコン膜102を形成する。ポリシリコン膜102は、先ずa-Si膜を形成し、その後、エキシマレーザによってa-Siをポリシリコンに変換し、パターニングしたものである。ポリシリコン膜102の厚さは例えば50nmである。なお、下地膜101であるSiO膜とSiN膜、及びa-Si膜はCVDによって連続して形成することが出来る。
【0031】
その後、ポリシリコン半導体膜102を覆って第1ゲート絶縁膜103をSiOによって形成する。第1ゲート絶縁膜103の厚さは例えば、100nmである。その上に金属あるいは合金によって第1ゲート電極104を形成する。第1ゲート電極104は、例えば、MoWで形成される。ところで、周辺回路領域とセンサ領域は同時に形成される。第1ゲート電極104を形成すると同時に、センサ領域のスイッチングTFTに対応する部分に、第1ゲート電極104と同じ材料で遮光膜105を形成する。この遮光膜105を後で形成される酸化物半導体TFTのボトムゲート電極として使用することも出来る。
【0032】
第1ゲート電極104及び遮光膜105を覆って第1層間絶縁膜106をSiO膜及びSiN膜の積層膜で形成する。SiN膜の厚さは例えば300nm、SiO膜の厚さは、200nmである。第1層間絶縁膜106の上に酸化物半導体膜107を形成する。酸化物半導体としては、IGZO(Indium Gallium Zinc Oxide)、ITZO(Indium Tin Zinc Oxide)、ZnON(Zinc Oxide Nitride)、IGO(Indium Gallium Oxide)等がある。本実施例では、酸化物半導体としてIGZOを使用している。
【0033】
ところで、酸化物半導体は、特性を維持するためには、酸素量を維持することが重要である。したがって、第1層間絶縁膜106は、上層がSiO膜である必要がある。SiNは、水素を供給して、酸化物半導体を還元してしまうからである。SiO膜が酸化物半導体膜107と接していればSiO膜から酸素を酸化物半導体に供給することが出来る。
【0034】
酸化物半導体膜107のドレイン領域には、ドレイン保護電極108が積層され、ソース領域にはソース保護電極109が形成されている。ドレイン保護電極108とソース保護電極109は金属で形成され、ポリシリコンTFTにおけるスルーホールを佛酸(HF)で洗浄する際に、酸化物半導体TFT側のスルーホールにおいて、酸化物半導体膜107が佛酸(HF)によって消失することを防止するものである。
【0035】
酸化物半導体膜107を覆って第2ゲート絶縁膜110がSiO膜によって形成される。SiO膜は厚さが100nm程度である。SiO膜の上にゲートアルミナ膜111が形成され、その上に第2ゲート電極112が、例えば、MoW合金によって形成される。SiOで形成された第2ゲート絶縁膜110、及びゲートアルミナ膜112から酸化物半導体膜107に酸素を供給することによって酸化物半導体膜107の特性を安定させる。
【0036】
第2ゲート電極112を覆って、第2層間絶縁膜113がSiO膜とSiN膜の積層膜によって形成される。SiO膜は例えば300nm、SiN膜は100nmである。SiO膜が酸化物半導体膜107に、より近い下側に配置することが多い。第2層間絶縁膜113を形成した後、周辺回路のポリシリコンTFT側にスルーホール118、119を、センサ領域側の酸化物半導体TFT側にスルーホール120、121を同時に形成する。
【0037】
ポリシリコンTFT側のスルーホール118、119は、酸化膜を除去するために佛酸(HF)洗浄を行うが、この時、酸化物半導体TFT側のスルーホール120、121にも佛酸(HF)が入り込み、酸化物半導体膜107を消失させることを防止するために、ドレイン保護電極108、ソース保護金属膜109が使用される。
【0038】
ポリシリコンTFT側のスルーホール118、119に対応して、第1ドレイン電極114、第1ソース電極115が形成され、酸化物半導体TFT側のスルーホール120、121に対応して、第2ドレイン電極116、第2ソース電極117が形成される。第2ドレイン電極116は検出線12と接続する。
【0039】
第2層間絶縁膜113を覆って有機パッシベーション膜122が例えば、アクリル等の樹脂によって形成される。有機パッシベーション膜122は平坦化膜を兼ねているので2μm程度と、厚く形成される。有機パッシベーション膜122には、TFTのソース電極117に対応してソース電極117とフォトダイオードのカソード126を接続するためのスルーホール123が形成される。有機パッシベーション膜122の厚さが厚いために、スルーホール123の径は大きくなる。
【0040】
有機パッシベーション膜122を覆って、無機パッシベーション膜124が例えばSiNで20乃至100nm程度の厚さで形成される。有機パッシベーション膜122からは、水分等の不純物が放出され、これが、上に形成される有機光導電膜127を汚染することを防止するためである。
【0041】
無機パッシベーション膜124の上にカソード電極126がITO(Indim Tin Oxide)膜によって、例えば50nm程度の厚さで形成される。このITO膜は電気抵抗を小さくするためにアニールによって結晶化している。無機パッシベーション膜124には、有機パッシベーション膜122のスルーホール123の部分においてスルーホール125が形成され、カソード電極126とソース電極117の接続を行う。本発明では、アノード電極128側である上部電極側にもITOを使用するので、これと区別するため、カソード電極126としてのITOをカソードITO126とよぶこともある。
【0042】
カソード126の上に有機光導電膜127を、300nm乃至500nmの厚さで形成する。有機光導電膜127は、スパッタリングあるいは真空蒸着によって形成する。有機光導電膜127は、優れた光導電特性とともに、波長選択性を持たせることが出来るので、静脈画像等いわゆる、生体認識センサとして使用することが出来る。
【0043】
有機光導電膜127の上側に銀膜によってアノード電極128を形成する。銀は、90nm以上になると優れた反射率を有する。また、仕事関数もアノード電極128として好適であり、導電性も優れている。
【0044】
一方、有機光導電膜127は、水分等の不純物に弱いため、外部から、これをブロックする必要があるので、アルミナ(AlOx)膜130を30nm程度、アノード電極128である銀膜128を覆うように形成する。アルミナ(AlOx)膜130は、スパッタリングで形成されるが、成膜速度が非常に遅いので、反応性スパッタリングによって形成される。反応性スパッタリングによって形成されたアルミナ(AlOx)130は多量の酸素を含む。なお、この目的のために、アルミナ(AlOx)膜は10乃至50nmの範囲が望ましい。
【0045】
ところが、銀は還元性が強いので、このアルミナ(AlOx)膜130から酸素を奪い、酸化する。銀膜128が酸化すると、電気抵抗が上昇し、かつ黒化する。そして、さらに酸化が進むと透明化する。そうすると、銀膜128は、反射電極としての役割を持たなくなる。
【0046】
本発明の特徴は、反射電極128としての銀膜(もしくはアノード電極)と、水分ブロックのためのアルミナ(AlOx)膜130との間にITO膜129を形成することによって、アルミナ(AlOx)膜130による銀膜128の酸化を防止することである。アルミナ(AlOx)膜130の厚さは、7nm程度の薄膜でよい。ITO膜の厚さが大きくなると結晶化が進み、ITOの表面に凹凸が目立つようになるので、厚くする場合でも70nm程度がよい。この目的のITO膜129の膜厚は、例えば5nmから70nm、より好ましくは7nmから20nmである。
【0047】
ITO膜129は、銀膜128をスパッタリングしたチャンバにおいて、真空を破らずに、連続してスパッタリングすることが出来る。したがって、銀膜128が大気中の酸素によって酸化することを防止することが出来る。一方、アルミナ(AlOx)膜130は、銀膜128とは別なチャンバでスパッタリングされるので、ITO膜129が存在しなければ、アルミナ(AlOx)130の形成前に、銀膜128は大気中の酸素によっても酸化されることになる。しかし、本実施例においては、銀膜128はすでにITO膜130によって覆われているので、大気中の酸素による酸化を防止することが出来る。
【0048】
ITO膜129自身も酸素を含んでいる。しかし、ITO膜129からの酸素の供給量はアルミナ(AlOx)膜130からの酸素の供給量よりは、はるかに少ない。なお、アノード側のITO膜129は、有機光導電膜127を形成した後形成される。有機光導電膜127は熱に弱いので、アノード側のITO膜129は低温で、例えば、基板温度が30度程度に維持して形成される。そして、膜厚も7nm程度と薄いので、アノード側のITO129は、非晶質の状態で形成されている。このような非晶質のITO薄膜129は、反射電極である銀膜128を酸化するほどの酸素は供給しないと推測することが出来る。
【0049】
なお、アノード側のITO膜129は、膜厚が7nm程度と薄いので、酸素を用いた反応性スパッタリングではなく通常のスパッタリングで形成することも可能である。この点からも、ITO膜129に含まれる酸素の量を通常よりも抑えることが出来る。
【0050】
図3において、アルミナ(AlOx)膜130の上に機械的な保護のために、有機保護膜131がアクリル等の樹脂で形成されている。この有機保護膜131は、製品によっては省略されることもある。
【0051】
図4A乃至
図6は、本実施例の効果を示す図である。本実施例は、アノード側において、反射電極である銀膜128と水分ブロックとしてのアルミナ(AlOx)膜130の間に、銀膜128の酸化を防止するITO膜129を形成することである。このような構成において、
図4A乃至
図6は、ITO膜129を薄膜である7nm程度形成した場合にどの程度の効果を得られるかを検証するものである。
【0052】
図4A乃至
図4Dでは、効果を確認するための、種々の膜構成のサンプルである。
図4A乃至
図4Dにおいて、ITO膜202の膜厚は7nm、アルミナ(AlOx)膜の膜厚は30nmである。銀膜201の膜厚は100nm、200nm、300nm、400nm、500nmのように、膜厚を変化させたサンプルを作成した。各膜は全てスパッタリングで形成している。
【0053】
図4Aはガラス基板200に銀膜201のみ形成した場合の断面図である。
図4Bは銀膜201の上にアルミナ(AlOx)203を形成した場合である。
図4Cは、銀膜201の上にITO膜202を形成した場合である。
図4Dは、銀膜201の上にITO膜202を形成し、その上にアルミナ(AlOx)膜203を形成した場合であり、本実施例における膜構成である。
【0054】
図5は、サンプルに用いたITO膜202の形成条件である。ITO膜202は、スパッタリングによって7nmの厚さに形成するが、特徴は、サンプル基板を30度に維持していることである。つまり、
図3における有機光導電膜の耐熱温度を考慮したものである。また、酸素流量は、0.05sccm(standard cubic centimeter per minute)であり、アルゴン(Ar)流量140sccmに比べて非常に少ない。このような条件で形成されたITO膜は、非晶質であり、かつ、酸素の含有量も小さいと考えられる。
【0055】
図4B乃至
図4Dにおいて、銀膜201とITO膜202は同じチャンバで連続して形成し、アルミナ(AlOx)膜203は、ITO膜まで形成された基板200を一旦大気中にさらし、別なチャンバによってスパッタリングした。銀膜201の酸化の状態は、電気抵抗に顕著に表れるので、銀膜201のシート抵抗を測定することによって、銀膜201の酸化の状態を測定した。
【0056】
図4A乃至
図4Dの膜を形成した後、Lowlesta(製品名)によって、銀膜201のシート抵抗を測定した。Lowlestaは4本の針を用いてシート抵抗を測定するものであり、針によって、表面の絶縁物である、アルミナ(AlOx)膜203等は貫通するので、銀膜201のシート抵抗を測定することができる。銀膜201が酸化されていればそのシート抵抗は非常に大きくなる。
【0057】
図6は、評価結果を示すグラフである。
図6において、横軸は銀膜201の膜厚、縦軸は銀膜201のシート抵抗である。銀膜201の抵抗は酸化によって大きく変化するので、縦軸はログスケールになっている。銀膜201の膜厚が100nm、200nm、300nmの場合については、サンプル4A乃至4Dを全て作成して評価し、銀膜201の膜厚が400nmと500nmの場合については、サンプル4A及び4Bのみ作成して評価した。抵抗値は膜製作直後に測定をした。
【0058】
図6において、Aはサンプル4A、Bはサンプルブル4B、Cはサンプル4C、Dはサンプル4Dに相当する。銀膜201の膜厚が100nmの場合、銀膜201にアルミナ(AlOx)膜203が積層されたサンプルBは抵抗が9×10
6であり、他のサンプルに比べて非常に大きい。つまり、銀膜201は層厚方向全体にわたって、アルミナ(AlOx)によって酸化されてしまっていることがわかる。
【0059】
これに対して、銀膜201のみであるサンプルA、銀膜201にITO膜202が積層されたサンプルB、銀膜201にITO膜202とアルミナ(AlOx)膜203が積層されたサンプルDは、ほとんど抵抗値に差がない。特に、サンプルBとサンプルDに注目すると、膜厚7nmのITO膜202が銀膜201とアルミナ(AlOx)膜203の間に存在するだけで、膜厚30nmのアルミナ(AlOx)膜203による銀膜201に対する酸化の影響は、殆ど無くすることが出来ることがわかる。
【0060】
この傾向は、銀膜201の膜厚が200nmの場合も同じである。サンプルBに示すように、銀膜201の膜厚が200nmの場合であっても、シート抵抗は、膜厚が100nmの場合とほぼ同じである。つまり、アルミナ(AlOx)膜203の影響は、銀膜201の膜厚が200nm程度にまで及び、銀を酸化させてしまうことがわかる。
【0061】
一方、サンプルA、C、Dに注目すると、銀膜201の厚さが200nmの場合、銀膜201の抵抗は、銀膜201の厚さが100nmの場合に比較して、半分近くにまでなっている(
図6の縦軸はログスケールである)。したがって、サンプルA、C、Dは殆ど酸化していないことがわかる。
【0062】
銀の膜厚が300nmになると、サンプルBにおいても、銀膜201のシート抵抗値が他のサンプルA、C、Dとオーダー的には同程度にまで低下している。つまり、厚さ30nmのアルミナ(AlOx)膜203の影響は、銀膜201の300nm程度までは及ばないことがわかる。したがって、厚さ30nmのアルミナ(AlOx)膜203の影響は、銀膜201とアルミナ(AlOx)膜203の界面から200nmから300nm程度にまで及ぶことがわかる。
【0063】
一方、サンプルCとサンプルDを比較すると、銀膜201のシート抵抗に殆ど差が無い。つまり、銀膜201とアルミナ(AlOx)膜203の間に7nm程度のITO膜202が存在することによって、アルミナ(AlOx)膜203の銀膜201への影響は殆ど無くすことが出来る。
【0064】
銀膜203の膜厚が400nmの場合と、銀膜203の膜厚が500nmの場合は、サンプルA及びBについてのみ測定している。銀膜201の膜厚が大きくなるにしたがって、銀膜203の表面に積層されたアルミナ(AlOx)膜203の影響は小さくなる。しかし、実際の製品において、300nm以上の銀膜201を形成することは、コスト上不利である。実際の製品では、銀膜103の膜厚は200nm以下、より好ましくは、90nm以上、120nm以下で使用することになる。
【0065】
このような銀膜202の膜厚範囲においては、銀膜201とアルミナ(AlOx)膜203の間にITO膜202を形成することは非常に効果がある。この構成によって、優れた反射特性と、高い信頼性を有する有機光導電膜を用いた光センサを実現することが出来る。
【0066】
以上の説明では、有機光導電膜とカソード、つまり、銀膜はセンサ領域全体に共通に形成されているが、有機光導電膜あるいはカソードを個々のセンサ要素ごとに形成する場合も同様である。また、以上の説明では、銀膜とアルミナ(AlOx)膜の間に、ITOの薄膜を配置する場合について説明したが、ITOの他にAZO(Antimony Zinc Oxide)、IZO(Indium Zinc Oxide)等の透明酸化物導電膜についても同様な効果を得ることが出来る。
【実施例2】
【0067】
実施例1の光センサは、
図3における基板100側から光Lが入射するタイプである。一方、基板100の反対側、すなわち、光導電膜127の上部電極128側から光が入射するタイプの光センサも存在する。光が上部電極128側から入射する場合は、下部電極126側に反射膜が形成され、上部電極128が透明電極になる。光が上部電極128側から入射する構成は、下部電極126と基板100の間にスイッチングTFTや駆動TFTを形成できるので、スペース状有利である。
【0068】
ところで、銀は、膜厚が50nm以下、特に30nm以下の薄膜になると可視光を透過するようになる。この性質を利用することによって、実施例1で説明した光センサの基本構造を変えずに、上部電極128側から光が入射する(以後上部入光型ともいう)光センサを実現することが出来る。
【0069】
図7は実施例2における有機フォトダイオード部分の断面図である。スイッチングTFTや駆動TFTの構成は
図3で説明したのと同じなので、
図7では、有機フォトダイオード部分のみ記載している。
図7において、有機パッシベーション膜122の上に無機パッシベーション膜124が例えば、厚さ100nmのSiN膜で形成されている。無機パッシベーション膜124の上に銀、アルミニウムまたはアルミニウム合金等によって反射膜150が、厚さ100nm程度で形成されている。その上に50nm程度のITO膜によってカソード126が形成されている。カソード126の下に金属による反射膜150が形成されている点が実施例1の
図3と異なる。
【0070】
カソード126の上に有機光導電膜127が、300nm乃至500nmの厚さで形成されていることは
図3と同じである。有機光導電膜127の上にアノード128が銀膜で形成されている。
図7では、アノード128としての銀膜は反射電極として作用するのではなく、光を通す必要がある。したがって、銀膜128の膜厚は50nm以下、好ましくは20nm乃至30nmである。銀は、この程度の膜厚になると、ITOと同程度か、これを凌ぐ透過率を有するようになる。
【0071】
銀膜によるアノード128の上に、銀の酸化を防止するためのITO膜129を7nm程度形成する。ITO膜129は、銀膜128と連続して、低温スパッタリングによって形成する。このITO膜129は、実施例1で説明したのと同様、非晶質膜となっている。但し、
図7の構成では、このITO膜129は、光の減衰を防ぐために、膜厚は抑えたほうがよいので、より好適な膜厚としては、5nm乃至20nmである。
【0072】
ITO膜129の上にアルミナ(AlOx)膜130を例えば10nm乃至50nm程度形成することは、実施例1と同じである。有機光導電膜を外部の水分等から防止するためである。
図7の構成では、このアルミナ膜130も光を減衰させないために、より好適な範囲は10nm乃至30nmである。アルミナ膜130からの酸素は、ITO膜129によってブロックされるので、カソード128には到達せず、銀膜128は酸化されずに、導電性を維持することが出来る。
【0073】
銀膜128は薄いが、
図1、
図2に示すように、電源線13がセンサ領域を縦方向に延在しているので、カソード128の電位降下は防ぐことが出来る。つまり、薄い銀膜128は、各センサ要素においてのみ、導電膜として作用すればよいので、銀膜128を薄くしたことによる抵抗値の上昇は、銀膜128が酸化されない限り、実質的な問題にはならない。
【0074】
このように、アノードとしての銀膜128と水分ブロックのためのアルミナ(AlOx)130の間にITO薄膜129を形成することによって、銀薄膜128の酸化を防止することが出来るので、上面入光型の有機光導電膜を有する光センサを実現することが出来る。
【0075】
以上の説明では、光センサとして、有機光導電膜を用いたものについて説明したが、本発明は、これに限らず、銀をカソードもしくはアノードとして用いる場合の他の光センサについても適用することが出来る。また、以上では、本発明を、有機光導電膜を用いた光センサについて説明したが、本発明はこれに限らず、有機EL膜を用いた有機EL表示装置等にも使用することが出来る。
【符号の説明】
【0076】
10…有機フォトダイオード、 11…走査線、 12…検出線、 13…電源線、 15…TFT、 20…走査線駆動回路、 30…検出回路、 40…電源回路、 100…基板、 101…下地膜、 102…ポリシリコン半導体膜、 103…第1ゲート絶縁膜、 104…第1ゲート電極、 105…遮光膜、 106…第1層間絶縁膜、 107…酸化物半導体膜、 108…ドレイン保護電極、 109…ソース保護電極、 110…第2ゲート絶縁膜、 111…ゲートアルミナ膜、 112…第2ゲート電極、 113…第2層間絶縁膜、 114…第1ドレイン電極、 115…第1ソース電極、 116…第2ドレイン電極、 117…第2ソース電極、 118…第1スルーホール、 119…第2スルーホール、 120…第3スルーホール、 121…第4スルーホール、 122…有機パッシベーション膜、 123…第5スルーホール、 124…無機パッシベーション膜、 125…第6スルーホール、 126…カソード、 127…有機光導電膜、 128…アノード(銀膜)、 129…ITO膜、 130…アルミナ(AlOx)膜、 131…有機保護膜、 135…スルーホール、 200…サンプル基板、 201…サンプル銀(Ag)膜、 202…サンプルITO膜、 203…サンプルアルミナ(AlOx)膜、 L…光