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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-21
(45)【発行日】2024-03-29
(54)【発明の名称】制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60W 10/20 20060101AFI20240322BHJP
   B60W 10/18 20120101ALI20240322BHJP
   B60W 50/08 20200101ALI20240322BHJP
   B60L 9/18 20060101ALI20240322BHJP
   B60L 15/20 20060101ALI20240322BHJP
   B60T 7/12 20060101ALI20240322BHJP
   B60T 8/17 20060101ALI20240322BHJP
   B60L 7/24 20060101ALN20240322BHJP
【FI】
B60W10/00 132
B60W10/18
B60W10/20
B60W50/08
B60L9/18 J
B60L15/20 J
B60T7/12 B
B60T8/17 C
B60L7/24 D
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2019238844
(22)【出願日】2019-12-27
(65)【公開番号】P2021107177
(43)【公開日】2021-07-29
【審査請求日】2022-11-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000232302
【氏名又は名称】ニデック株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】300052246
【氏名又は名称】ニデックエレシス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100179969
【弁理士】
【氏名又は名称】駒井 慎二
(74)【代理人】
【識別番号】100138689
【弁理士】
【氏名又は名称】梶原 慶
(74)【代理人】
【識別番号】100176692
【弁理士】
【氏名又は名称】岡崎 ▲廣▼志
(72)【発明者】
【氏名】中田 雄飛
(72)【発明者】
【氏名】小池上 貴
(72)【発明者】
【氏名】三本松 功
(72)【発明者】
【氏名】向山 浩司
【審査官】藤村 泰智
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/066331(WO,A1)
【文献】特表2019-510674(JP,A)
【文献】特開平07-215198(JP,A)
【文献】特開2009-040305(JP,A)
【文献】特開2000-261903(JP,A)
【文献】特開2019-022339(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 30/00 ~ 60/00
B60W 10/00 ~ 10/30
B60T 7/12 ~ 8/1769
B60L 9/18
B60L 15/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
搭載する電動モータの駆動力で走行する車両において、外部から停止指示を受けて当該車両の減速を制御する制御装置であって、
実角速度ω0、実角加速度α0を、それぞれ、前記電動モータの電気角から算出される値であるとするとき、
前記減速の開始時における前記実角速度ω0と、該実角速度ω0を時間微分した前記実角加速度α0とを求める手段と、
前記実角加速度α0と、あらかじめ設定した目標角加加速度ζ*より目標角加速度α*を算出する手段と、
前記実角加速度α0と、前記実角速度ω0と、前記目標角加加速度ζ*より目標角速度ω*を算出する手段と、
前記目標角加速度α*と前記目標角速度ω*に基づく目標速度に従って前記車両が停止するように制御する制御手段と、
を備える制御装置。
【請求項2】
前記制御手段は、前記目標角加速度αと前記目標角速度ωが共に目標停止時間tにおいて0となるように、前記目標角加加速度ζを+ζmaxあるいは-ζmaxのいずれかに切り替える時間tを決定する請求項1に記載の制御装置。
【請求項3】
前記車両の減速開始から停止までの経過時間をtとしたとき、前記目標角加加速度ζを、0<t≦tにおいて+n・ζmaxとし(nは1または-1)、t<t≦tにおいて-n・ζmaxとし、t<tにおいて0とする請求項2に記載の制御装置。
【請求項4】
前記制御手段は、前記車両の減速開始から停止までの経過時間において、|ω|≦(α/2ζmaxが成立した時点で前記目標角加加速度ζを切り替え、かつ、ωが所定値よりも小さくなった時点で前記目標角加速度αと前記目標角速度ωと前記目標角加加速度ζが0となるように制御する請求項1に記載の制御装置。
【請求項5】
前記制御手段は、前記車両の角加速度の絶対値|α|が、あらかじめ設定した最大加速度αmaxを超えた場合、|ω|≦αmax /2ζmaxが成立するまで前記目標角加速度αの絶対値を一定値αmaxに維持する請求項4に記載の制御装置。
【請求項6】
前記車両の減速開始時における実角加速度αを√(2|ωζmax|)として目標速度を計算する請求項1に記載の制御装置。
【請求項7】
前記車両の減速開始時における実角加速度α0’をα0 <α<√(2|ωζmax|)として計算し、かつ、目標角加加速度の最大値ζmaxを(α’)/|2ω|とする請求項1に記載の制御装置。
【請求項8】
前記実角速度ωおよび前記実角加速度αは、ノッチフィルタおよび/またはローパスフィルタによるフィルタ処理後の角速度および角加速度である請求項1~7のいずれか1項に記載の制御装置。
【請求項9】
電動モータを駆動するインバータ装置であって、
請求項1~8のいずれか1項に記載の制御装置により生成された目標速度に追従するように前記電動モータのトルク指令信号を生成する手段と、
前記トルク指令信号によって前記電動モータを駆動制御する手段と、
を備えるインバータ装置。
【請求項10】
請求項9に記載のインバータ装置を備えた自動車。
【請求項11】
搭載する電動モータの駆動力で走行する車両において、外部から停止指示を受けて当該車両の減速を制御する制御方法であって、
実角速度ω0、実角加速度α0を、それぞれ、前記電動モータの電気角から算出される値であるとするとき、
前記減速の開始時における前記実角速度ω0求める工程と、
前記実角速度ω0を時間微分して前記実角加速度α0を求める工程と、
前記実角加速度α0と、あらかじめ設定した目標角加加速度ζ*より目標角加速度α*を算出する工程と、
前記実角加速度α0と、前記実角速度ω0と、前記目標角加加速度ζ*より目標角速度ω*を算出する工程と、
前記目標角加速度α*と前記目標角速度ω*に基づく目標速度に従って前記車両が停止するように制御する工程と、
を備える制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気自動車等の車両の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電気自動車、ハイブリッド車等の車両では、電子制御ユニット(ECU:Electronic Control Unit)によって、種々のセンサからの検出信号、車載装置からの信号をもとに車両の走行状態、運転者による運転操作状態等を判定している。
【0003】
さらに、近時における自動車の自動運転化が進む中、車両の走行時のみならず停車時における良好な乗り心地への要求が一層高まっている。
【0004】
特許文献1は、ヨーレート関連量(操舵速度)に応じて車両の駆動力を制御することで、ドライバによる意図的なステアリング操作に対して良好な応答性で車両の挙動を制御し、操舵速度が閾値以下の場合、微小なステアリング操作に対して車両が過剰に反応することを抑制して、直進時の車両挙動についてドライバに違和感を与えることなく、ドライバの意図した挙動を正確に実現するように車両の挙動を制御する技術を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2017-87889号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の車両用挙動制御装置は、ヨーレート(ヨー加速度)を使用して車両の操舵時の挙動制御を行っている。ところが、特許文献1に記載された車両の操舵時の制御に使用しているヨーレートは、停車時における車両の制御にはそのまま採用できない。
【0007】
その結果、従来の技術では操舵時の挙動制御は可能であっても、停車時において良好な乗り心地を実現するための減速制御ができないという問題がある。
【0008】
本発明は、上述した課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、車両の減速時において搭乗者に違和感を与えない減速制御を可能にすることである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成し、上述した課題を解決する一手段として以下の構成を備える。すなわち、本願の例示的な第1の発明は、搭載する電動モータの駆動力で走行する車両において、外部から停止指示を受けて車両の減速を制御する制御装置であって、実角速度ω0、実角加速度α0を、それぞれ、電動モータの電気角から算出される値であるとするとき、前記減速の開始時における前記実角速度ω0と、該実角速度ω0を時間微分した前記実角加速度α0とを求める手段と、前記実角加速度α0と、あらかじめ設定した目標角加加速度ζ*より目標角加速度α*を算出する手段と、前記実角加速度α0と、前記実角速度ω0と、前記目標角加加速度ζ*より目標角速度ω*を算出する手段と、前記目標角加速度α*と前記目標角速度ω*に基づく目標速度に従って前記車両が停止するように制御する制御手段とを備えることを特徴とする。
【0010】
本願の例示的な第2の発明は、電動モータを駆動するインバータ装置であって、上記例示的な第1の発明に係る制御装置により生成された目標速度に追従するように前記電動モータのトルク指令信号を生成する手段と、前記トルク指令信号によって前記電動モータを駆動制御する手段とを備えることを特徴とする。
【0011】
本願の例示的な第3の発明は、自動車であって、上記例示的な第2の発明に係るインバータ装置を備えることを特徴とする。
【0012】
本願の例示的な第4の発明は、搭載する電動モータの駆動力で走行する車両において、外部から停止指示を受けて車両の減速を制御する制御方法であって、実角速度ω0、実角加速度α0を、それぞれ、電動モータの電気角から算出される値であるとするとき、前記減速の開始時における前記実角速度ω0求める工程と、前記実角速度ω0を時間微分して前記実角加速度α0を求める工程と、前記実角加速度α0と、あらかじめ設定した目標角加加速度ζ*より目標角加速度α*を算出する工程と、前記実角加速度α0と、前記実角速度ω0と、前記目標角加加速度ζ*より目標角速度ω*を算出する工程と、前記目標角加速度α*と目標角速度ω*に基づく目標速度に従って前記車両が停止するように制御する工程とを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、車両の停止時において良好な乗り心地を実現するとともに、減速開始から停止までの時間を短縮できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、本発明の実施形態に係る車両用電子制御装置が搭載された車両の全体構成を示すブロック図である。
図2図2は、ECUの実角加速度演算部の構成を示すブロック図である。
図3図3は、ノイズ低減に使用するノッチフィルタとローパスフィルタの周波数特性の一例である。
図4図4は、実施例1に係る目標速度演算部の構成を示すブロック図である。
図5図5は、実施例1に係る停止制御を時系列で示すフローチャートである。
図6図6は、実施例1における目標角速度等の算出に係る動作タイミングチャートである。
図7図7は、実施例2における目標角速度等の算出に係る動作タイミングチャートである。
図8図8は、実施例4における目標角速度等の算出に係る動作タイミングチャートである。
図9図9は、実施例5における目標角速度等の算出に係る動作タイミングチャートである。
図10図10は、実角加速度の絶対値|α0’|と目標加加速度の最大値ζmax´の考えられる組み合わせを示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明に係る実施形態について添付図面を参照して詳細に説明する。図1は、本発明の実施形態に係る車両用電子制御装置(以下、単に制御装置ともいう)が搭載された車両の全体構成を示すブロック図である。
【0016】
図1において車両1は、モータ制御装置である電子制御ユニット(ECU:Electronic Control Unit)3、ECU3の上位の制御装置(上位コントローラ)である車両制御装置(VCU:Vehicle Control Unit)2、ECU3からの制御信号に従って電動モータ15を駆動するモータ制御部(MCU:Motor Control Unit)9、電動モータ15に連結され、その回転駆動力を車輪13a,13bに伝達する変速機11等を備える。
【0017】
車両1は、例えば電気自動車(EV)であり、電動モータ15へ駆動電源を供給する不図示のバッテリを備える。また、車両1は、一つのペダル操作で加速、減速、および停車を自動速度制御することが可能な車両である。
【0018】
ここでの自動速度制御とは、例えば、一つのペダルにアクセルペダルとブレーキペダルの双方の機能を持たせ、運転者のペダル操作によるペダルストロークが所定位置から踏み込んだ状態にある場合には車両を加速し、所定位置から踏み戻した状態にある場合、車両を減速する制御である。
【0019】
ECU3は、種々の信号を受けてECU3全体の制御を司る、例えばマイクロコンピュータによって構成されている。ECU3は、車両1への加速要求、減速要求、および停止要求に応じた出力信号をMCU9に送信して、電動モータ15を駆動制御する。
【0020】
なお、ECU3は、種々の制御プログラムがあらかじめ記憶された読み出し専用メモリ(ROM)、後述する目標角加加速度、制御結果、演算結果等を格納する格納部を備える。
【0021】
MCU9は、電動モータ15に駆動電流を供給するインバータ回路10を備える。インバータ回路10は、複数の半導体スイッチング素子からなり、外部バッテリよりモータ駆動用の電源が供給される。
【0022】
なお、スイッチング素子はパワー素子とも呼ばれ、例えば、MOSFET(Metal-Oxide Semiconductor Field-Effect Transistor)、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)等のスイッチング素子を用いる。
【0023】
電動モータ15は、例えば3相ブラシレスDCモータであり、3相(U相、V相、W相)のインバータ回路10を構成する半導体スイッチング素子は、電動モータ15の各相に対応している。電動モータ15は、回転駆動する電動機としての力行作動と、ロータが駆動輪等から回転エネルギを受けて発電機として動作する回生作動を行なう。
【0024】
速度演算部8は、電動モータ15の近傍に配置した位置検出器17からの信号をもとに電動モータ15の回転角度を求め、その回転角度をもとにモータ回転速度を演算する。位置検出器17として、例えばレゾルバを用いた場合、ホール素子等に比べて回転位置の検出精度および高温下での耐久性を高めることができる。一方、ホール素子を用いた場合には、レゾルバ、エンコーダ等に比べて安価な構成にできる。
【0025】
車両1において運転者によってアクセルペダル21が操作されると、その操作量(アクセル開度)が不図示のアクセル開度センサで検出される。VCU2は、そのアクセル開度センサからのアクセル開度情報に基づいて、車両1の加速、減速等を制御する信号を生成する。
【0026】
VCU2は、自動速度制御中においてブレーキペダル23が操作された場合には、不図示のブレーキストロークセンサからのブレーキ操作量に応じた信号を、ECU3を介してブレーキ制御部25へ送信する。ブレーキ制御部25は、ブレーキパッド、油圧機構等で構成されるブレーキ機構27を制御して、車両1を停止させる。
【0027】
なお、ブレーキ制御については、電動モータ15の回生量による制動力を発生させる回生ブレーキ制御も含んだ構成としてもよい。
【0028】
VCU2は、車両1の走行時、電動モータ15の実際の駆動トルクに応じた目標トルクを演算し、電動モータ15のトルクがトルク指令値に追従するように制御するトルク制御(トルクコントロール)と、電動モータ15の実際の回転速度が目標回転速度となるように制御(保持)する速度制御(速度コントロール)を切り替える。
【0029】
VCU2は、トルク制御時において、例えばアクセルペダル21の踏み込み量と車速に基づいて、電動モータ15に対する要求駆動力(加速要求、減速要求)を実現するためのトルク指令値を演算し、それを指令トルクTrq*としてECU3へ入力する。ECU3は、指令トルクTrq*に応じたモータ駆動信号(PWM(Pulse Width Modulation)信号)を生成する。
【0030】
ECU3で生成されたモータ駆動信号は、半導体スイッチング素子の駆動回路(モータ駆動回路)として機能する、MCU9内のインバータ回路10へ入力される。インバータ回路10を構成する半導体スイッチング素子は、モータ駆動信号によってON/OFF制御され、インバータ回路10から電動モータ15に所定の駆動電流が供給されて電動モータ15が駆動制御される。
【0031】
一方、速度制御時において、ECU3の加速度演算部5は、モータの電気角を近似微分した角速度ωより加速度αを演算する。ここでは、VCU2からの停止要求がOFF→ONになるタイミングで角速度ω、加速度αをラッチして、実角加速度α、実角速度ωを得る。
【0032】
目標速度演算部7は、これらの実角加速度αと実角速度ωをもとに目標速度を演算し、その目標速度をMCU9に入力する。そして、MCU9は、目標速度演算部7からの目標速度に基づいて電動モータ15の回転速度を制御する。
【0033】
図2は、ECUの加速度演算部5の構成を示すブロック図である。図2において加速度算出部31は、上述した速度制御時に速度データより実角加速度を演算する。ここでは、速度データを加速度算出部31で時間微分して加速度データを得る。
【0034】
加速度算出部31からの出力信号は、帯域除去フィルタであるノッチフィルタ33によって、入力された実角加速度信号より、車両1の機械的な構造等に起因して発生する不要なメカ共振周波数成分を除去あるいは低減する。ここでは、ノッチフィルタ33のノッチ周波数を、車両1のメカ共振周波数に応じて決める。
【0035】
ノッチフィルタ33からの出力信号は、さらにローパスフィルタ35へ入力される。ローパスフィルタ35によって、ノッチフィルタ33からの出力信号より、各種センサからの一定周波数以上のノイズを低減する。
【0036】
図3は、ノッチフィルタ33とローパスフィルタ35の周波数特性の一例を示す。ノッチフィルタ33は、例えばデジタルフィルタであり、上述したメカ共振周波数(例えば、10Hz付近の周波数)をノッチ周波数(fとする)とする減衰特性を有する。ノッチフィルタ33は、図3において実線で示すようにノッチ周波数fで振幅ゲインが最小となることで、ノッチ周波数成分とその近傍の周波数成分を入力信号から低減して出力する。
【0037】
ノッチ周波数fは、入力信号に減衰を与える中心周波数であり、ノッチフィルタ33の周波数特性は、下記の式(a)で示すように、ノッチ幅を示すパラメータであるQ値で表すことができる。
【0038】
Q=f/(f-f) … (a)
【0039】
式(a)においてf-fは半値幅と呼ばれ、図3に示すように周波数fはfよりも周波数が低く、振幅が共振ピークの半値となる周波数(阻止帯域の振幅ゲインが通過帯域のゲインの-3dBとなる周波数)である。周波数fはfよりも周波数が高く、振幅が共振ピークの半値となる周波数(阻止帯域の振幅ゲインが通過帯域のゲインの-3dBとなる周波数)である。
【0040】
ノッチフィルタ33は、Q値が大きいほどノッチ幅は狭くなる。図3に示す特性を有するノッチフィルタ33のQ値は、例えば0.7~0.8である。
【0041】
ローパスフィルタ35は、例えばデジタルフィルタであり、ノッチフィルタ33より出力された信号より、上述した各種センサで生じた一定周波数以上のノイズ信号成分を低減する特性を有する。ここでは、図3において一点鎖線で示すように、ローパスフィルタ35のカットオフ周波数fcは、ノッチフィルタ33のノッチ周波数fよりも高く設定されている。カットオフ周波数fcは、例えば数100Hz、より詳細には300Hz付近の周波数である。
【0042】
ローパスフィルタ35のカットオフ周波数fcは、車両1に搭載した各種センサより発生するノイズの周波数に応じて決める。ローパスフィルタ35は、例えば、一次ローパスフィルタとすることで、-20dB/decのフィルタ性能(減衰率)を実現できる。なお、ローパスフィルタ35の次数は、一次に限定されない。
【0043】
さらには、ローパスフィルタを使用することで、加速度データに含まれる不要なセンサノイズを低減できる。
【0044】
このように、加速度演算部5において、周波数特性の異なるノッチフィルタ33とローパスフィルタ35を併用することで、加速度算出部31から出力される加速度データに含まれる不要なノイズ信号成分を低減し、必要な信号成分から正確な実角加速度を算出できる。
【0045】
次に、本実施形態に係る車両用電子制御装置における目標速度の生成方法について説明する。
【0046】
<実施例1>
図4は、実施例1に係る目標速度演算部の構成を示すブロック図である。図4に示す目標速度演算部7は、例えば、あらかじめ試乗等によって車両の乗り心地を考慮して決めた目標角加加速度ζが格納された目標角加加速度格納部45を有する。
【0047】
目標角加速度演算部41は、加速度演算部5で得た実角加速度αと、目標角加加速度格納部45に格納された目標角加加速度ζより目標角加速度αを演算する。目標角速度演算部43は、加速度演算部5で得た実角加速度αと実角速度ω、および目標角加加速度格納部45に格納された目標角加加速度ζより目標角速度ωを演算する。
【0048】
なお、目標角加加速度は目標角躍度とも呼ばれるが、以降においては、用語を目標角加加速度に統一して説明する。
【0049】
タイミング演算部47は、実角加速度α、実角速度ω、および目標角加加速度ζをもとに、後述するようにζを切り替えるタイミングtと、αとωが共に0となるタイミングtを演算する。タイミング演算部47における演算結果t,tは、ζの出力タイミング、および切り替えタイミングとして目標角加速度演算部41と目標角速度演算部43に入力される。
【0050】
図5は、電子制御ユニット(ECU)3における目標角速度等の演算処理を含む、実施例1に係る停止制御を時系列で示すフローチャートである。また、図6は、実施例1における目標角速度等の算出に係る動作タイミングチャートである。
【0051】
電子制御ユニット(ECU)3は、アクセルペダル21のストローク量に基づいて駆動力を制御して車両1を加速し、アクセルペダル21の踏み戻し(例えば、基準点からのアクセルペダルの戻り量)に基づいて制動力を制御することにより車両1を減速する制御を行う。
【0052】
車両1を減速する制動力は、アクセルペダル21のアクセル開度が0に近いほど大きくなり、アクセル開度が0のとき最大となる。そこで、上記のような自動速度制御時に運転者がアクセルペダル21を操作して、車両1が一定速度以下に減速され、かつ、アクセルペダル21の操作状態を示すアクセル開度が0となった場合、車両制御装置(VCU)2はECU3に停止指令を出力する。
【0053】
そこでECU3は、図5のステップS11において、VCU2より停止指令を受信すると、車両1が上述したトルク制御から速度制御へ移行したと判断して、以降において、車両の停止に向けた処理(停止制御)を実行する。
【0054】
ステップS13においてECU3は、加速度演算部5によって、速度演算部8より取得した車両1の速度を時間微分して加速度データ(加速度信号)を得る。具体的には、VCU2からの速度制御(停止要求)がOFF→ONになるタイミングで加速度αをラッチして実角加速度αを得る。
【0055】
ここでは、ノッチフィルタ33によって、加速度信号より車両1のメカ共振周波数に対応する周波数成分を低減する。さらに、ノッチフィルタ33からの出力信号より、ローパスフィルタ35によって一定周波数以上のセンサノイズ成分を低減して実角加速度αを得る。
【0056】
なお、車両1の速度は、例えば電動モータ15の回転速度、あるいは車輪13a,13bの回転速度より求める。
【0057】
続くステップS15においてECU3は、加速度演算部5によって、VCU2からの速度制御(停止要求)がOFF→ONとなったタイミングで角速度ωをラッチして実角速度ωを得る。
【0058】
そして、ECU3は、ステップS17において、タイミング演算部47によって、実角加速度α、実角速度ω、および下記の式(1)に示す目標角加加速度ζをもとに、式(3)によりζを切り替えるタイミングtを演算する。さらに、式(4)により、αとωが共に0となるタイミングtを演算する。なお、tが最小となるように演算をすることで、車両1の停止距離を最小にできる。
【0059】
具体的には、タイミング演算部47は、タイミングtでαとωが0となるように、ζの切り替えタイミングtを求める。αは、上述したように停止指令に基づく停止指示の開始時における実角加速度であり、ωは、停止指示の開始時における実角速度である。
【0060】
【数1】
【0061】
式(1)において、ζ=n・ζmaxであり、nは、下記の式(2)で示す関数である。式(2)において、sgn(x)は、x>0で1、x<0で-1、x=0で0を返す符号関数である。
【0062】
【数2】
【0063】
【数3】
【0064】
【数4】
【0065】
ECU3は、ステップS19,S23,S27において、停止指令を受けて車両の減速開始から停止までの経過時間tを判定する。0<t≦tの場合(ステップS19でYES)、ステップS21において、目標角加加速度格納部45より、式(1)に示すように目標角加加速度ζとしてζを出力する。
【0066】
ステップS33において、α,ζを入力とする目標角加速度演算部41が積分演算を行うことで、下記の式(5)で示すように目標角加速度α=α+ζt(0<t≦t1)を得る。
【0067】
より具体的には、0<t≦tのとき、ステップS21において、図6の動作タイミングチャート(c)に示すように、目標角加加速度ζとして最大加加速度-ζmaxを設定する。
【0068】
【数5】
【0069】
続くステップS35において、α,ω,ζが入力された目標角速度演算部43によって積分演算を行うことで、下記の式(6)で示すように目標角速度ω=ω+αt+ζ/2(0<t≦t1)を得る。
【0070】
【数6】
【0071】
そして、ステップS37において、上記のステップS33,S35で得た目標角加速度αと目標角速度ωをモータ制御部(MCU)9へ送信することで、MCU9において目標速度に基づくモータ制御を行う。
【0072】
減速開始から停止までの経過時間tがt<t≦tの場合(ステップS23でYES)には、ステップS25において、目標角加加速度格納部45より、式(1)に示すように目標角加加速度ζとして-ζを出力する。
【0073】
この場合、ステップS33で、α,-ζを入力とする目標角加速度演算部41において積分演算を行うことで、式(5)で示す目標角加速度α=α+2ζ-ζt(t<t≦t)を得る。続くステップS35において、α,ω,-ζが入力された目標角速度演算部43が積分演算を行うことで、下記の式(6)で示す目標角速度ω=ω-ζ +(2ζ+α)t-ζ/2(t<t≦t)を得る。
【0074】
そして、ステップS37において、上記のステップS33,S35で得た目標角加速度αと目標角速度ωをモータ制御部(MCU)9へ送信する、MCU9は、目標速度に基づくモータ制御を行う。
【0075】
なお、t<t≦tの場合には、ステップS25において、図6の動作タイミングチャート(c)に示すように、目標角加加速度ζとして最大加加速度ζmaxを設定する。
【0076】
一方、減速開始からの経過時間tがt<tであれば(ステップS27でYES)、ステップS29においてζ=0とし、続くステップS31において、式(5)と式(6)に示すように目標角加速度α=0、目標角速度ω=0とする。
【0077】
このように、式(3)により演算したタイミングtで目標角加加速度ζを最大加加速度-ζmaxからζmaxへ切り替えることで、図6の動作タイミングチャート(b)に示すように、0<t≦t1において目標角加速度αを負方向に増やして減速度を強くし、t<t≦tにおいて目標角加速度αを正方向、つまり、ブレーキが弱まる方向への制御を行う。
【0078】
これにより、電動モータ15が減速開始から停止するまで(t=0~t)加速度が連続的に変化し、±ζmaxの範囲内で加加速度を最大にする(制限する)ことで、減速時に良好な乗り心地を実現するとともに車両の停止までの時間(距離)を短縮できる。
【0079】
ECU3は、ステップS39において、目標速度に従って回転駆動されている電動モータ15を搭載した車両1が停止したか否か(速度が0となった)を判断する。そして、車両1が停止するまで、目標速度に従った電動モータ15の制御を実行する。
【0080】
上記の制御において、目標角加加速度ζが決まれば、それに応じて目標速度が決まる。よって、自動速度制御を行っている車両のトラクションモータに上記の速度制御を適用し、目標角加加速度を一定にして目標角加速度を連続的に変化させることで、例えば、坂道等の条件下(ヒルホールド状態)においても停止時の乗り心地が向上する。換言すれば、ヒルホールドに入る前の状態を維持したまま停止制御することが乗り心地の向上につながる。
【0081】
<実施例2>
上記の実施例1では、ζを切り替えるタイミングtと、αとωが共に0となるタイミングtを演算したが、これに代わる制御も可能である。
【0082】
実施例2に係る停止制御では、上述したタイミングtにおいて、(α/ω=-2nζmaxとなることから、t,tを演算せずに、車両1の減速開始から停止までの経過時間tにおいて、|ω|≦(α/2ζmaxが成立した時点で目標角加加速度ζを切り替え、かつ、ωが所定値よりも小さくなった時点で目標角加速度αと目標角速度ωと目標角加加速度ζが0となるように制御する。
【0083】
こうすることで、目標角加加速度ζの切り替え時間tと目標停止時間tの計算が不要になり、ECU3において停止制御途中の加速度の修正が可能となる。
【0084】
<実施例3>
上記実施例1の停止制御では、停止指示の開始時における実角速度ωが大きい場合、停止に至る途中の角加速度絶対値が過大となり、搭乗者が違和感を覚えることが想定される。
【0085】
そこで実施例3では、車両1の角加速度の絶対値|α|が、搭乗者が違和感を感じないようにあらかじめ設定した最大加速度αmaxを超えた場合、|ω|≦αmax /2ζmaxが成立するまで目標角加速度αの絶対値を一定値αmaxに維持する。
【0086】
具体的には、図7の動作タイミングチャート(b)に示すように、目標角加速度の絶対値|α|が、最大加速度-αmaxを超える時点Aで、目標角加加速度ζを最大加加速度-ζmaxから0へ切り替える。その後、|ω|≦αmax /2ζmaxが成立する時点Bまで目標角加加速度ζを一定とし(0に維持し)、時点Bで、ζを0から最大加加速度ζmaxへ切り替える。
【0087】
よって実施例3では、角加速度がゆっくり変化しても、角加速度が許容量を超えた場合には搭乗者が不快を感じることに鑑みて、角加速度にリミッタを設けて絶対値が過大となることを防止することで、車両停止時に搭乗者に違和感が生じるのを排除できる。
【0088】
<実施例4>
停止指示の開始時の実角速度ωに対して実角加速度αの絶対値が大きい場合、それをもとに目標速度を演算すると、例えば、図8の動作タイミングチャート(a)において符号51で示すように、目標速度が0を跨ぐ。つまり、図8の動作タイミングチャート(b)において符号55で示す角加速度に対して、上記の実施例1と同様の演算をすると、目標速度が0を跨ぐことになる。
【0089】
このような場合、目標速度が減少(特性曲線が下に凸)から増加(特性曲線が上に凸)に変化する。そのため、車両1が前進状態から停止するまでの間に一旦後退することになり、停止が円滑でないため搭乗者には違和感が生じる。
【0090】
そこで、実施例4に係る停止制御では、目標速度がマイナスになるのを防ぐため、停止開始時の角加速度を制限する。つまり、図8の動作タイミングチャート(b)に示すように、角加速度α(符号55)を、それよりも小さい角加速度α´(符号57)に変える。
【0091】
具体的には、車両1の減速開始時における実角加速度の絶対値|α|を√(2|ωζmax|)として目標速度を計算する。この場合においても、図8の動作タイミングチャート(a)(b)に示すように、αとωが同じタイミングで0となるように角加速度を制限する。一方、角加速度αを減らす方向での制御となるため、動作タイミングチャート(c)において符号59で示すように、目標角加加速度ζはαの制限前と制限後において変化しない。
【0092】
このように減速開始時の実角加速度を制限することで、目標角速度ωが0を跨ぐことを防止して、車両を前進状態から一旦後退することなく停止させることができる。
【0093】
<実施例5>
実施例4と同様、目標速度が0を跨ぐことが想定される場合、実施例5として、図9の動作タイミングチャート(c)に示すように、目標角加加速度ζの最大加加速度の制限をζmax(符号71)から、ζmax´(符号73)に緩和する停止制御を行う。
【0094】
具体的には、車両の減速開始時における実角加速度の絶対値|α0’|を|α0 |>|α0’|として計算し、かつ、目標角加加速度の最大値ζmax´を(α’)/|2ω|とする。このように、目標角加加速度を一時的に緩和することで、目標角速度ωが0を跨ぐことを防止して、車両を前進状態から一旦後退することなく停止させることができる。図10は、実角加速度の絶対値|α0’|と目標加加速度の最大値ζmax´の考えられる組み合わせを示す。
【0095】
なお、目標角速度の演算方法等を含む上記実施例4,5に記載の停止制御は、それぞれを単独で実行してもよいし、実施例4と実施例5を併用した停止制御としてもよい。
【0096】
以上説明したように本実施形態に係る車両用電子制御装置は、外部より停止指示を受けた場合、車両の実角加速度αと、あらかじめ設定した目標角加加速度ζより目標角加速度αを算出し、さらに、実角加速度αと、実角速度ωと、目標角加加速度ζより目標角速度ωを算出して、これら算出した目標角加速度αと目標角速度ωに基づく目標速度に従って車両が停止するように制御する。
【0097】
また、あらかじめ乗り心地を考慮して決めた目標角加加速度ζを切り替えて、目標とする停止時間に車両の加速度と速度が同時に0となるように制御することで、停車時における加速度の不自然な変化を抑えた車両の制御が可能になり、自然な乗り心地を得ることができる。
【0098】
このように、車両停止時の角加加速度を許容された範囲内で最大値で一定にして角加速度を連続的に変化させることで、坂道等の条件下(ヒルホールド状態)においても良好な乗り心地を実現するとともに、減速開始から停止までの時間を短縮できる。
【0099】
また、ノッチフィルタにより車両のメカ共振周波数成分を低減し、さらにローパスフィルタによってセンサノイズ成分を低減した信号より実角速度ωおよび実角加速度αを演算することで、不要なノイズを低減した速度データと加速度データから目標速度を生成でき、違和感のない車両の減速制御ができる。
【0100】
例えば、電動モータを駆動するインバータ装置において、上述した車両用電子制御装置によって生成した目標速度に追従するように電動モータのトルク指令信号を生成し、そのトルク指令信号によって電動モータを駆動制御することで、減速時において目標速度に従ったインバータ装置の制御が可能になる。
【0101】
さらには、自動車等に上記インバータ装置を備えることで、減速時において自動車等を円滑に停止させることができる。
【符号の説明】
【0102】
1 車両
2 車両制御装置(VCU)
3 電子制御ユニット(ECU)
5 加速度演算部
7 目標速度演算部
8 速度演算部
9 モータ制御部(MCU)
10 インバータ回路
11 変速機
13a,13b 車輪
15 電動モータ
17 位置検出器
21 アクセルペダル
23 ブレーキペダル
25 ブレーキ制御部
31 加速度算出部
33 ノッチフィルタ
35 ローパスフィルタ
41 目標角加速度演算部
43 目標角速度演算部
45 目標角加加速度格納部
47 タイミング演算部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10