(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-21
(45)【発行日】2024-03-29
(54)【発明の名称】水回り部材
(51)【国際特許分類】
E03C 1/20 20060101AFI20240322BHJP
A47K 3/02 20060101ALI20240322BHJP
E04F 15/00 20060101ALI20240322BHJP
E04F 15/02 20060101ALI20240322BHJP
【FI】
E03C1/20 A
A47K3/02
E04F15/00 J
E04F15/02 C
(21)【出願番号】P 2020027084
(22)【出願日】2020-02-20
【審査請求日】2023-02-06
(73)【特許権者】
【識別番号】301050924
【氏名又は名称】株式会社ハウステック
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100139686
【氏名又は名称】鈴木 史朗
(74)【代理人】
【識別番号】100126893
【氏名又は名称】山崎 哲男
(74)【代理人】
【識別番号】100196058
【氏名又は名称】佐藤 彰雄
(72)【発明者】
【氏名】田岡 英実
(72)【発明者】
【氏名】本田 則夫
【審査官】村川 雄一
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-035555(JP,A)
【文献】特開2008-031665(JP,A)
【文献】特開2004-251095(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E03C1/12-1/33
A47K3/02-4/00
E04F15/00-15/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
帯状の平面部と帯状の凹凸面部が交互に配置された排水面を有し、前記平面部は鏡面もしくはマット調の面で形成され、前記凹凸面部は略同一平面で連続した凹面部と前記凹面部より立設させた複数の山状の凸部で形成され、前記凹面部と前記平面部とが連結しているとともに、前記排水面に勾配が付与され
、
前記平面部と前記凹凸面部が平行に配置され、前記平面部と前記凹凸面部が前記排水勾配の方向に平行または所定の角度を有して配置される水回り部材であって、
前記凹凸面部は親水性を、前記平面部は撥水性を示し、かつ前記平面部の幅と前記凹凸面部の幅を各々3mm以上6mm以下とし、前記凹凸面部の幅を前記平面部の幅と同等もしくはそれ以上とすることを特徴とする水回り部材。
【請求項2】
前記凸部の高さが30μm以上100μm以下、前記凹凸面部の粗さ曲線の算術平均高さ1μm以上、前記平面部の粗さ曲線の算術平均高さ0.5μm以下であることを特徴とする請求項1に記載の水回り部材。
【請求項3】
前記平面部と前記凹凸面部がいずれも不飽和ポリエステル樹脂のシートモールディングコンパウンド材料からなることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の水回り部材。
【請求項4】
各々排水勾配の方向を異ならせた複数の排水面を組み合わせてなるものであって、前記複数の排水面の内、特定の1つの排水面と隣り合う他の排水面との合せ目において、各排水面上の前記凹凸面部のみが、前記合せ目の排水勾配に沿って配置された合せ目の凹凸面部に連結していることを特徴とする請求項1乃至請求項
3の何れか一項に記載の水回り部材。
【請求項5】
前記水回り部材が洗い場床または浴槽であることを特徴とする請求項1乃至請求項
4のいずれか一項に記載の水回り部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、FRP材料で構成される浴室の洗い場床や浴槽などの水回り部材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から浴室に使用される水回り部材には、防水性を有するFRP(繊維強化プラスチック)材料が使用されており、滑り止め性、乾燥性、清掃性を満足するものが要求されている。
【0003】
FRP製の洗い場は、撥水性の材料で構成されており、乾燥性が悪くなる問題があったため、滑り止め用の凸部間に排水流路(凹部)を格子状に形成し、かつ、排水流路底面を粗面化することで親水性を付与し乾燥性を得る方法(特許文献1)や、FRP製基材表面の全面に主突起・大副突起・小副突起を形成し、滑り止め性と乾燥性の向上を得られる方法(特許文献2)が開示されている。
【0004】
また、FRP製基材表面に凹凸を付与することで滑り止め性を付与し、前記凹凸を交互にスリット溝状に配置し、凸面に撥水性塗料を形成し、凹面に親水性塗料を形成することで、良好な乾燥性を得る方法も開示されている(特許文献3参照)。
さらに、FRP製基材表面に直線状の親水性塗装部分と撥水性塗装部分を平行に配置することで乾燥性を付与し、さらに親水性塗装部分と撥水性塗装部分の間に物理的な段差を無くすことで清掃容易性を得られる方法も知られている(特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2004-251095号公報
【文献】特開2006-225890号公報
【文献】特開2003-039013号公報
【文献】特開2004-100358号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の従来技術では、凸部間に形成された粗面化して親水性を付与した排水流路に、皮脂や石鹸カス等の汚れ成分が残存しやすく、また、その凹凸構造により清掃性が低下する問題がある。更に、格子状に形成された排水流路において、排水方向と異なる方向を向いた排水流路内には、さらに汚れの蓄積や清掃性低下の虞がある。
特許文献2に記載の従来技術では、床全面に設けられた凹凸の凹部に汚れの残存及びその凹凸構造により清掃性が低下する問題がある。
【0007】
特許文献3に記載の従来技術も特許文献1と同様に、凹部の親水化により排水性を確保するものであり、凹部に汚れ成分が残存し易く、その凹凸構造により清掃性が低下する問題があった。さらに、FRP成形品に2種類の塗装を行うことは、材料費アップと生産性の低下及び不良率増加の問題があり、塗装時のマスキングにより発生する塗膜間の段差への汚れの蓄積、塗膜剥がれといった懸念がある。
特許文献4に記載の従来技術では、床表面に物理的段差がほとんどなく、清掃性と乾燥性を付与するものであるが、塗膜表面は平滑であり、滑り止め効果を期待できない問題があった。尚、塗装を行う場合の問題点は特許文献3と同様である。
【0008】
本発明は、上記の従来の問題点を鑑みなされたものであって、FRP製などの水回り部材の表面に滑り止め性、乾燥性、清掃性をバランスよく兼ね備え、さらに、生産性に優れた浴室用などの水回り部材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上述課題を解決する手段として、以下の構成を有する。
(1)本発明に係る水回り部材は、帯状の平面部と帯状の凹凸面部が交互に配置された排水面を有し、前記平面部は鏡面もしくはマット調の面で形成され、前記凹凸面部は略同一平面で連続した凹面部と前記凹面部より立設させた複数の山状の凸部で形成され、前記凹面部と前記平面部とが連結しているとともに、前記排水面に勾配が付与され、前記平面部と前記凹凸面部が平行に配置され、前記平面部と前記凹凸面部が前記排水勾配の方向に平行または所定の角度を有して配置される水回り部材であって、前記凹凸面部は親水性を、前記平面部は撥水性を示し、かつ前記平面部の幅と前記凹凸面部の幅を各々3mm以上6mm以下とし、前記凹凸面部の幅を前記平面部の幅と同等もしくはそれ以上とすることを特徴とする。
(2)本発明に係る水回り部材において、前記凸部の高さが30μm以上100μm以下、前記凹凸面部の粗さ曲線の算術平均高さ1μm以上、前記平面部の粗さ曲線の算術平均高さ0.5μm以下であることが好ましい。
(3)本発明に係る水回り部材において、前記平面部と前記凹凸面部がいずれも不飽和ポリエステル樹脂のシートモールディングコンパウンド材料からなることが好ましい。
【0010】
(4)本発明に係る水回り部材は、各々排水勾配の方向を異ならせた複数の前記排水面を組み合わせてなるものであって、前記複数の排水面の内、特定の1つの排水面と隣り合う他の排水面との合せ目において、各排水面上の前記凹凸面部のみが、前記合せ目の排水勾配に沿って配置された合せ目の凹凸面部に連結していることが好ましい。
(5)本発明に係る水回り部材において、前記水回り部材が洗い場床または浴槽であることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、水回り部材の表面に設けた、親水性の凹凸面部に形成された山状の凸部による滑り止め性と、排水勾配を有して帯状に配置された撥水性の平面部と凹凸面部からなる排水面を形成することにより乾燥性を付与することができる。
また、帯状に平面部を形成することで、その流路内に流れを阻害する障害物がなく、排水の流れを一方向化することができ、汚れを含んだ湯水を拡散、滞留させることなく効率よく排出することができる。
さらに、凹凸面部内の凹面部を略同一平面で連続して形成し、かつ、凹凸面部内の凹面部と平面部とを連結して形成することで、凹凸面部内に付着する汚れを平面部に容易にかき出すことが可能な清掃性に優れた水回り部材とすることができる。このような構成とすることで、排水性と清掃性という相反する性能をバランス良く成立させた水回り部材を提供することができる。
また、平面部と凹凸面部の幅を3mm以上6mm以下とし、凹凸面部の幅を平面部と同等もしくはそれ以上の幅とすることにより、乾燥性に優れるとともに、足が滑り易い水回り材となることを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の第1実施形態に係る水回り部材を示す平面拡大図。
【
図3】実施例1で得られた水回り部材の表面をレーザー顕微鏡で撮影した標高写真。
【
図4】同水回り部材において表面に水滴が落下した際の水滴移動を説明するための図であり、
図4(a)は水膜を形成した状態を示す部分断面略図、
図4(b)は凹凸面部のみに残水を含む状態を示す部分断面略図、
図4(c)は平面部に水滴が落下した状態を示す部分断面略図、
図4(d)は水滴が平面部に沿って排水された状態、あるいは、水滴が凹凸面部に吸収された状態を示す部分断面略図。
【
図5】同水回り部材を適用した浴室床の一実施形態を示す平面図。
【
図6】同浴室床に適用される合せ目部分の平面拡大図。
【
図7】同浴室床に適用される合せ目部分の他の例を示す平面拡大図。
【
図8】同水回り部材を適用した浴室床の他の実施形態を示す平面図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下本発明の第1実施形態に係る水回り部材について図面に基づき説明する。
図1は、本発明の第1実施形態に係る板状の水回り部材Aを示すもので、この水回り部材Aの上面には、帯状の平面部1と帯状の凹凸面部2を排水勾配の方向3に平行に配置し、平面部1と凹凸面部2を交互に配列した排水面4が形成されている。
図2は水回り部材Aの部分断面図である。凹凸面部2は、複数の山状の凸部5とこれら複数の凸部5の間に形成された凹面部6で構成され、略同一平面の凹面部6より平面視不定形状の凸部5が立設して形成され、かつ、複数の凹面部6が凸部5の周囲で連続するように形成されている。
また、凹面部6は、平面部1と段差を有することなく連結して形成されることが好ましい。このような構成とすることで、凹凸面部2内に溜まった汚れは、容易に凹面部6を経由して平面部1にかき出すことができ、清掃性に優れた形状とすることができる。
図3は、後述する実施例1で得られた水回り部材の凹凸面部と平面部をレーザー顕微鏡で撮影した写真を示し、
図3の奥側と手前側が平面部1、それらの間の部分が凸部5と凹面部6からなる凹凸面部2を示す。
図3では右向きの矢印方向に排水勾配が付与されている。凹凸面部2において色の濃淡により標高の高い凸部5と標高の低い凹面部6が描かれている。
図3の左端に標高差を示す色分けバーを示す。
図3は白黒表示のため標高差を完全には描けていないが、一例としての凸部5と凹面部6を表示している。
【0014】
第1実施形態に係る水回り部材Aを構成する材料は、特に限定されるものではないが、好ましくは、防水性に優れ、比較的撥水性の高い、成形が容易かつ量産性に富むFRP(繊維強化プラスチック)を使用することができる。その樹脂材料としては、不飽和ポリエステル樹脂が一般的である。その成形方法としては、特に限定されないが、SMC(シートモールディングコンパウンド)材料の成形型内での高温高圧成形等が用いられる。
【0015】
前記凹凸面部2に形成される複数の山状の凸部5の高さは、例えば、30μm以上100μm以下に形成される。凸部5の高さが100μmを超えると凹面部6に溜まった汚れを除去することが難しくなる。逆に、凸部5の高さが30μm未満では、凸部5の存在による滑り止め効果が低下する。
【0016】
また、本実施形態における前記凹凸面部2は親水性を有し、かつ、前記平面部1は、前記凹凸面部2より低い親水性を有するが、より好ましくは、平面部1は、撥水性を示す。ここでいう親水性とは、水滴を自由落下させ水滴をおしなべた際に、水滴が再凝集しない状態であり、撥水性とは水滴が再凝集する状態である。こうすることで排水面4上の水は、
図4を基に以下に示すような排水状態を示す。
まず、
図4(a)に示すように排水面4上に水膜7を形成し、その後、平面部1の水膜は前記凹凸面部2に引き込まれるか、もしくは、排水勾配に沿って排水が進行する。
図4(b)に示すように一時的に凹凸面部2に水膜7aを残した状態を維持するようになる。これによって、
図4(c)に示すようにシャワーや人体等から水回り部材Aの上面に落下した水滴8を
図4(d)に示すように凹凸面部2の水膜7aに引き込むことが可能となり、排水面4上への水滴の残存を防止し、乾燥性の低下を抑制することができる。
【0017】
前記凹凸面部2に親水性を付与する方法としては、前記凹凸面部2の表面にさらに微細な凹凸を付与する方法が挙げられる。微細な凹凸を施す方法としては、凹凸面部2を有する成形品をサンドペーパーやサンドブラスト等でサンディングする方法や水回り部材を成形する際に使用する金型表面にサンドブラスト等を実施する方法がある。また、このような形態をとることで滑り止め効果をより高めることも可能となる。表面性状としては、目安として、表面粗さ測定器(株式会社東京精密製 サーフコム130A)を用いてカットオフ値0.08mmで計測した際に、Ra(粗さ曲線の算術平均高さ)=1μm以上である。
【0018】
前記平面部1は、
図4(a)に示すように排水面4上に水膜7を形成した後に、排水勾配に沿って平面部1内を途切れることなく連続して排水されるようであれば、特に限定されるものではないが、清掃しやすいように指触によっても段差を感じ難い鏡面もしくはマット調の面で形成される。鏡面もしくはマット調の面の表面性状としては、目安として、表面粗さ測定器(株式会社東京精密製 サーフコム130A)を用いてカットオフ値0.08mmで計測した際に、Ra=1μm未満、より好ましくは0.5μm以下である。こうすることで、平面部1内において水の流れを阻害する障害物がなく、平面部1に溜まった水を排水勾配に沿って速やかに排水することが可能となり、汚れの残存しにくい平面部1とすることができる。
【0019】
平面部1の幅は、3mm以上6mm以下で形成される。平面部1の幅が3mm未満の場合、平面部1の水が両隣の凹凸面部2に亘って水膜あるいは水玉を形成しやすくなり、乾燥時間が長くなってしまう。一方で、平面部1の幅が6mmを超えるとシャワーの残水や水飛沫等により少なくとも直径6mmを超えた水滴が残存する可能性がある。例えば、撥水性材料表面に形成されるφ7mmを超える水滴は、15℃60%RH環境下で乾燥に要する時間が6時間以上となり、排水面4に対し夜間に水や湯を流した場合に翌朝までに乾燥しない可能性が生じる。
【0020】
凹凸面部2の幅は、3mm以上6mm以下、かつ、前記平面部1と同等もしくはそれ以上の幅で形成される。前記平面部1と同様に凹凸面部2の幅が6mm超えの場合、乾燥性への影響が懸念される。また、凹凸面部2の幅を平面部1の幅より狭くすると、平面部1に触れる足裏の接触面積が大きくなり、滑り易い水回り部材Aとなってしまう。
【0021】
本発明における水回り部材Aは、意匠性や成形性を考慮して、前記平面部1の幅及び凹凸面部2の幅、凹凸面部2の形状、鏡面あるいはマット調で形成される平面部1の表面状態も、同一構成部材の中で任意に組み合わせることができる。こうすることで意匠性に優れ、さらに成形後に発生しやすい成形品表面のリブひけなどを目立たなくすることもできる。
【0022】
本発明における水回り部材は、排水勾配を有するものであり、例えば、
図5に示す浴槽9及び洗い場床10に適用される。前記洗い場床10は、平面視長方形状であり、浴槽9側の端辺中央に排水のための排水口凹部11が形成され、排水口凹部11に排水口12が設けられている。また、洗い場床10は、排水口凹部11が最も低くなるよう排水勾配が取られており、シャワー等使用時の湯水が排水勾配に沿って流れ、排水口凹部11に集水される。前記排水勾配は、使用した湯水を排水口12に向かって流れるようにするための傾斜であり、1/20~1/100の範囲で形成される。
【0023】
排水勾配の形状は、排水口12の位置に応じて形成されるものであるが、例えば、
図5のように洗い場床10を3つの排水面10A、10B、10Cに分割し、それぞれが排水口凹部11に向かうように形成されている。
図5に示す平面視長方形状の洗い場床10において、短辺の方向(左右方向)を±X方向と定義し、長辺の方向(縦方向)を±Y方向と定義する。
図5において排水面10Aは-Y方向に排水勾配の方向3Aが向くように、排水面10Bは-X方向に排水勾配の方向3Bが向くように、排水面10Cは+Y方向に排水勾配の方向3Cが向くように、それぞれ平面視台形状に形成されている。これら台形状の排水面10A、10B、10Cと平面視長方形状の排水口凹部11を組み合わせて平面視長方形状の洗い場床10が形成されている。洗い場床10において、排水面10Aの排水勾配の方向3Aに対し排水面10Bの排水勾配3Bの方向は90°で交差する方向に設定されている。排水面10Bの排水勾配3Bの方向に対し排水面10Cの排水勾配3Cの方向は90°で交差する方向に設定されている。
排水面10Aと排水面10Bの境界には平面視斜め方向に延在する合せ目13Aが形成され、排水面10Bと排水面10Cの境界には平面視斜め方向に延在する合せ目13Bが形成されている。
【0024】
図5に示す構成の場合、隣り合う排水面の合せ目13Aには、
図6に例示するように、合せ目の凹凸面部14を配置し、隣り合う排水面10A、10Bの凹凸面部2と連結するように設けられる。合せ目の凹凸面部14は排水面10A、10Bの凹凸面部2と同じ形状である。合せ目13Aにおける排水勾配の方向13Dは
図6において左斜め下方に向けられている。
あるいは、
図7に示すように、合せ目13Aの中央に合せ目の平面部15と、前記合せ目の平面部15の両隣に合せ目の凹凸面部14を配置し、排水面の凹凸面部2と前記合せ目の凹凸面部14とを連結するよう設けてもよい。平面部15は平面部1と同等の形状である。合せ目13Aにおける排水勾配の方向13Dは
図7において左斜め下方に向けられている。
【0025】
このように凹凸面部2あるいは凹凸面部2、14と平面部15を排水勾配に沿って上流から下流(排水口凹部11)まで連続して設けることで、排水面上の水を排水口凹部11まで途切れることなく排水することができる。
また、洗い場床10を1面勾配で形成する場合には、
図8に示すように、洗い場床10において浴槽9側を除く大部分において排水勾配の方向3Dを平面視左向きとした排水面10Dから構成し、排水面10Dと浴槽9の間に浴槽9に沿って設けた平面視帯状の排水流し溝16を設け、この排水流し溝16を経由して排水口凹部11に集水するように形成してもよい。
【0026】
前記浴槽9は、底面に設けられた浴槽排水口17に向かって低くなるように浴槽底面9Aの上面の全面に排水勾配の方向3が向けられており、この浴槽底面9Aに平面部1と凹凸面部2とを排水勾配の方向3に沿って帯状に交互に配列して構成することができる。
【0027】
なお、帯状の平面部1と凹凸面部2はそれらの長さ方向に均一幅である必要は無く、上述した3~6mmの範囲内で長さ方向一端側が幅狭であり、長さ方向他端側が幅広になるように形成されていても良い。
また、上述の実施形態では、隣接する排水面の勾配の方向が90°で交差する構成についてのみ説明したが、隣接する排水面の勾配の方向が交差する角度は90°に限らず、他の交差角度であってもよい。即ち、特定の1つの排水面に隣り合って他の排水面が隣接する場合、一方の排水面の勾配の方向と他方の排水面の勾配の方向が90°以外の角度で交差した構成も本発明に含む概念とする。
例えば、
図8に示す構成において、帯状の平面部1と凹凸面部2の長さ方向が、排水勾配の方向3Dと平行ではなく、排水勾配の方向3Dに対し30°、45°、60°などのように傾斜角度を有するように交差していても良い。
また、帯状の平面部1と凹凸面部2の長さ方向が、
図8に示す排水勾配の方向3Dと平行ではなく、排水勾配の方向3Dに対し30°、45°、60°などのように傾斜角度を有するように交差している構成を
図5に示す3面勾配の排水面10A、10B、10Cを有する洗い場床10に適用することもできる。
何れの構造においても、帯状の平面部1に沿って流れる排水が最終的に排水口12に到達できる構成であるならば、本発明の範囲とする。
【0028】
また、前記排水面4と排水口凹部11との連結部においては、水の表面張力によって排水口凹部11の周縁で残水しないように構成することが好ましい。残水を防止する手段としては、限定されるものではないが、例えば平面部1と凹凸面部2とを排水口凹部11の立ち面まで延伸させるか、あるいは、排水口凹部11の周縁から排水口凹部11の立面に亘る全面に、水が再凝集しないような微細凹凸面部もしくは前記凹凸面部2で形成される親水面部を設け、前記平面部1と前記凹凸面部2とを前記親水面部に連結させてもよい。
【0029】
本発明の水回り部材の成形品を得るための成形金型を製作する方法としては、例えば、金型表面に前記平面部1を構成する部分をあらかじめマスキングし、前記凹凸面部2を形成するためのエッチング処理を施し、次いで親水性、滑り止め性を効果的に付与するために、エッチング処理後の金型表面にサンドブラストやガラスビーズブラストを施す。さらに金型表面は、腐食や錆防止、離型性の向上、耐摩耗性の向上を目的とし、20μm程度の硬質クロムメッキを施すことが好ましい。
【実施例】
【0030】
「実施例1」
図1に示す排水面4の形状について、凹凸面部の幅を5mm、平面部の幅を3mm、また、前記凹凸面部に形成される複数の山状の凸部の最大高さを約50μmに形成し、かつ、カットオフ値0.08mmで計測した平均粗さRaを凹凸面部で1.20μm、平面部で0.35μmとなるよう製作された金型を用いて、SMC材料により成形し、実施例1の水回り部材を得た。
「実施例2」
実施例1において、凹凸面部の幅を6mm、平面部の幅を6mmに変更した金型を用いて、SMC材料を成形し、実施例2の水回り部材を得た。
【0031】
「比較例1」
実施例1において、凹凸面部の幅を2mm、平面部の幅を2mmに変更した金型を用いて、SMC材料を成形し、比較例1の水回り部材を得た。
「比較例2」
実施例1において、凹凸面部の幅を3mm、平面部の幅を5mmに変更した金型を用いて、SMC材料を成形し、比較例2の水回り部材を得た。
【0032】
「比較例3」
実施例1において、凹凸面部の幅を10mm、平面部の幅を7mmに変更した金型を用いて、SMC材料を成形し、比較例3の水回り部材を得た。
「比較例4」
実施例1における平面部を有しない凹凸面部のみの金型を用いて、SMC材料を成形し、比較例4の水回り部材を得た。
【0033】
「比較例5」
平面部のみの金型(カットオフ値0.08mmで計測したRaを0.10μm)を用いて、SMC材料を成形し、比較例5の水回り部材を得た。
「比較例6」
実施例1と同様の金型を用いて、半硬化樹脂シート(ビニルエステル樹脂、フッ素系撥水剤、硬化剤からなる樹脂組成物をガラス不織布に含侵、硬化させて作製)とSMC材料を一体成形し、撥水性の高い表面を有する比較例6の水回り部材を得た。なお、平面部における蒸留水2μLとの接触角は、93度であった。
【0034】
「比較例7」
図1における凹凸面部を凸部の頂点を平面部と略同一平面となるよう、凹凸面部全体を下方に設け、凹凸面部の幅を5mm、平面部の幅を3mm、また、前記凹凸面部の突出部高さを約50μmとなるよう製作された金型を用いて、SMC材料を成形し、比較例7の水回り部材を得た。
【0035】
得られた成形板について、以下に記載の評価方法及び評価基準で評価した。その結果を表1に示す。
<評価方法>
(1)汚染物質除去性
汚染物質として、白色ワセリン及び顔料用カーボンブラックを質量比10対1の割合で混練したものを用いた。汚染物質を成形板に塗布後、乾いたウレタンスポンジを用い2kgの荷重で40往復擦り洗浄を実施した。なお、擦り方向は、排水方向に対し直交する方向で実施した。凹凸面部における汚染物質塗布前と洗浄実施後の表面を分光測色計により拡散反射率(Y値)を測定し、下式より汚染回復率を算出した。汚染回復率は、洗浄後の拡散反射率を洗浄前の拡散反射率で除算し、%表示したものである。算出した汚染回復率について、以下の基準で◎、○、△、×の評価を行った。
Y(汚染回復率)=(Y洗浄後/Y塗布前)×100(%)
◎:70%以上(鏡面板相当)
〇:50~70%
△:30~50%
×:30%以下
【0036】
(2)滑り止め性
成形板表面に、5wt%ボディソープ水溶液を散水し、その後、3名の試験員(テスター)が成形板の上を歩行して官能評価を実施した。評価基準は、以下の○、△、×とし、最も評価人数の多かった判断を採用した。
〇:滑り難い
△:少し滑り易い
×:滑り易い
【0037】
(3)乾燥性
成形板表面に散水し、排水勾配1/50からなる排水面の排水状態を、3名の試験員(テスター)の目視で評価した。評価基準は、以下の○、×とし、評価した試験員の人数が多い方を採用した。
〇:排水勾配に沿って排水される
×:φ6超えの水玉が残存する
【0038】
【0039】
表1に示す結果より、実施例1~2の成形板は、汚染性、滑り止め性、乾燥性を満足するバランスのよい水回り部材であることを確認できた。一方で、比較例1の成形板のように平面部と凹凸面部の幅が2mmの場合、平面部を覆うように凹凸面部間に大きな水膜を形成し、乾燥性に問題があった。また、比較例2の成形板のように平面部の幅を凹凸面部の幅より広くすると、滑り止め性が低下することを確認できた。
比較例3の成形板は、平面部の幅が広く、φ6を超える水滴の残存を確認でき、乾燥性が低下した。
【0040】
比較例4の成形板は、表面の全面を凹凸面部のみで形成しているため、汚染回復率が低下した。
比較例5の成形板は、表面全面を鏡面で形成しているため、滑り止め性、乾燥性が低下した。
比較例6の成形板は、凹凸面部、平面部ともに撥水性を示し、凹凸面部においても排水途中で水の流れが途切れ、水滴の残存に伴い乾燥性が低下した。
比較例7の成形板は、凹凸面部を形成する谷部が平面部と連結していないため、汚染回復率が低下した。
【符号の説明】
【0041】
A…水回り部材、1…平面部、2…凹凸面部、3A、3B、3C、3D…排水勾配の方向、4…排水面、5…凸部、6…凹面部、7…水膜、8…水滴、9…浴槽、9A…浴槽底面、10…洗い場床、10A、10B、10C、10D…排水面、11…排水口凹部、12…排水口、13A、13B…合せ目、13D、13E…排水勾配の方向、14…合せ目の凹凸面部、15…合せ目の平面部、16…排水流し溝、17…浴槽排水口。