(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-21
(45)【発行日】2024-03-29
(54)【発明の名称】遮熱用樹脂組成物および遮熱フィルム
(51)【国際特許分類】
C08L 101/00 20060101AFI20240322BHJP
C08K 3/34 20060101ALI20240322BHJP
C08K 3/22 20060101ALI20240322BHJP
C08L 23/00 20060101ALI20240322BHJP
C08L 27/06 20060101ALI20240322BHJP
C08J 5/18 20060101ALI20240322BHJP
C08J 3/22 20060101ALI20240322BHJP
【FI】
C08L101/00
C08K3/34
C08K3/22
C08L23/00
C08L27/06
C08J5/18 CER
C08J3/22
(21)【出願番号】P 2020052454
(22)【出願日】2020-03-24
【審査請求日】2023-03-06
(31)【優先権主張番号】P 2019125779
(32)【優先日】2019-07-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000219912
【氏名又は名称】東京インキ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】松沢 茂明
(72)【発明者】
【氏名】太田 敬文
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 史裕
【審査官】南 宏樹
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-084788(JP,A)
【文献】特開2007-111002(JP,A)
【文献】特開2010-220567(JP,A)
【文献】特開2006-199850(JP,A)
【文献】特開2002-369629(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00-13/08
C08J 3/22
C08J 5/18
A01G 9/14-9/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂と、アンチモンドープ酸化スズ粒子と、酸化チタン被覆マイカ粒子とを含む
遮熱用樹脂組成物であって、
前記遮熱用樹脂組成物の全量に対し、前記アンチモンドープ酸化スズ粒子の含有量が0.5~4質量%で、前記酸化チタン被覆マイカ粒子の含有量が0.5~3質量%であることを特徴とする遮熱用樹脂組成物。
【請求項2】
前記アンチモンドープ酸化スズ粒子の50%体積粒子径が、動的光散乱法による粒度分布測定で80~130nmであることを特徴とする請求項
1に記載の遮熱用樹脂組成物。
【請求項3】
前記酸化チタン被覆マイカ粒子が、レーザ回折法による粒度分布測定で、10%粒子径が3μm以上かつ90%粒子径が80μm以下で、酸化チタン被覆率が10~70質量%であることを特徴とする請求項1~
2のいずれか一項に記載の遮熱用樹脂組成物。
【請求項4】
前記熱可塑性樹脂がオレフィン系樹脂及び塩化ビニル系樹脂の中から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1~
3のいずれか一項に記載の遮熱用樹脂組成物。
【請求項5】
アンチモンドープ酸化スズ粒子、酸化チタン被覆マイカ粒子および熱可塑性樹脂を溶融混練して高濃度遮熱用樹脂組成物を得る工程と、
当該高濃度遮熱用樹脂組成物および希釈用熱可塑性樹脂を溶融混練する工程と、
を含むことを特徴とする請求項1~
4のいずれか一項に記載の遮熱用樹脂組成物の製造方法。
【請求項6】
請求項1~
4のいずれか一項に記載の遮熱用樹脂組成物を含み、平均可視光透過率が70%以上であることを特徴とする遮熱フィルム。
【請求項7】
前記アンチモンドープ酸化スズ粒子と前記酸化チタン被覆マイカ粒子とが質量比で12:1~1:12であり、かつ前記アンチモンドープ酸化スズ粒子と前記酸化チタン被覆マイカ粒子の含有量が総量で0.8~2.4g/m
2であることを特徴とする請求項
6に記載の遮熱フィルム。
【請求項8】
フィルムの厚さが0.01~0.3mmであることを特徴とする請求項
6または7に記載の遮熱フィルム。
【請求項9】
農業用途であることを特徴とする請求項
6~8のいずれか一項に記載の遮熱フィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は遮熱用樹脂組成物およびこれを用いて成形された透明な遮熱フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
プラスチックフィルムは、軽量、フレキシブルで組立や施工が容易であり、屋外で使用できる程度に耐久性があるなどの理由から、テント倉庫、イベント向けテント、作業用テント、農業用ハウス、アミューズメントスペース、イベントスペース、雨天運動場など、膜構造物向けとして、広く用いられている。また、特に可視光透過率の高いフィルムは、上述の膜構造物だけでなく、建造物の屋根部全体または一部を構成し、出入り口のシートシャッターに用いられるなど、さらに用途が広がっている。
【0003】
しかし、一般的に、プラスチックのみから成るフィルムは、熱線を透過しやすく、これから作られた建物、例えば農業用ハウスなどは、夏場の強い日差しの下では内部の温度が極度に高くなってしまう。このような高温環境下で長時間の活動を行う場合、熱中症等に陥るおそれがある。そのため、プラスチックフィルムに熱線を吸収したり、拡散させたりする物質を添加または塗布する等の工夫がなされている。
【0004】
人間や動物だけでなく、植物でも同様で、例えば、農業用ハウス内での栽培では、夏季の強い日差しを浴びた場合、植物に葉焼け、苗枯れ、高温障害等といった現象が起き、植物の生育に悪影響を及ぼす。
【0005】
そのため、従来では、夏季の強い日差しによる植物の生育不良を抑制する方法として、ハウスのシート材外側表面上に、遮光ネットを被せる方法が実施されてきた。しかし、遮光ネット自体が高価であることから準備コストがかさむという問題があり、また、実施を終了する際には設置された遮光ネットの取り外しが容易でないという問題があった。
【0006】
そこで、上記の問題を解決するために、農業用ハウスに用いるフィルムに熱線を吸収したり、拡散させたりする物質を添加または塗布することによって、農業用ハウス内の温度を低下させるといった方法が取られてきた。
【0007】
例えば、特許文献1には、水と水系バインダーと酸化チタンと炭酸カルシウムとを含む農業用遮光剤が記載されており、シート材の外表面に散布されることでその外表面をむらの抑制された遮光性構造が形成された遮光面となすことを可能とするとともに、降雨などによって流れ落ちるおそれの抑制された遮光性構造を形成可能なものとして提案されている。
【0008】
特許文献2には、熱可塑性樹脂と酸化チタンで被覆された雲母からなる遮熱性農業用フィルムが、透明性を有し、且つ優れた熱線遮蔽性を有する農業用ハウスの外張りとして好適に使用されるものとして提案されている。
【0009】
特許文献3には、JIS R3106に準拠して求められる可視光線透過率が85%以上、日射透過率が80%以上、日射吸収率が8~15%の樹脂フィルムからなる農業用フィルムが提案され、その農業用フィルムに赤外線吸収フィラーとして六ホウ化物粒子を含有させることによって前記の可視光線透過率等が実現でき、その結果、冬季、夏季のいずれにおいても植物の栽培を良好に実施できるとしている。また、上記条件を満たす方法として、明細書中にアンチモンドープ酸化スズ(以下「ATO」ともいう。)やスズドープ酸化インジウム金属薄膜の使用も挙げられている。
【0010】
特許文献4には、近赤外線遮蔽層を含む可撓性シートであって、前記近赤外線遮蔽層が、合成樹脂ブレンドによる非相溶混合物からなる海島構造を有し、さらに前記海島構造において、海成分または島成分のいずれか一方がタングステン酸化物微粒子、および/または、複合タングステン酸化物微粒子を含有することを特徴とする、近赤外線遮蔽性シートが提案され、可視光領域の光線透過性が高く、透明、着色透明、半透明、着色半透明、着色不透明等、透視性および色相面の自由度が高く、しかも優れた近赤外線遮蔽性を有することで、遮熱性および赤外線ノイズ遮蔽性に優れ、特に日除けテント、日除けモニュメント、装飾テント、テント倉庫、イベント向けテント、トラック幌、農園芸用シート、ブラインド、シートシャッター、間仕切り、照明シェード、光天井用膜材、内照式看板用膜材等に好適に用いられるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特開2015-006154
【文献】特開2007-111002
【文献】特開2012-021056
【文献】特開2011-093280
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
これらの従来技術は、フィルムに含有させたり、塗布したりするといった違いはあるが、いずれも、熱線を遮蔽、吸収または反射させることによって農業用ハウス内等の過度の温度上昇を抑制しようとするものである。
【0013】
農業用ハウスに用いるフィルムは、外部から植物等の様子を確認できるように、透明であることが好ましい。また、透明であることは、植物が成長するために行なう光合成に必要な光を透過するため、植物等の成長を阻害しないと言える。
【0014】
しかしながら、農業用ハウスが太陽光に晒されるとその内部が暖められ、暖められた空気は上に集まり、暖められ続けると上の暖かい空気は下に下がることはなく、ハウスのフィルムやガラスから放散される分を除けばハウス内の温度を低下させる要因は考えられないため、晴れていて太陽光が照射されている場合は、ハウス内の特に上部の温度は上がり続けることになる。
【0015】
ハウス内の作物は屋内下部より上部で大きく影響を受ける。直射光を受けやすい作物の上部には芽や若い葉が成長していく部分でもある作物の成長点が多く存在するが、生育途上であるため温度の影響を受け易く、この部分が高温障害を受けると最悪の場合は枯死することもあり得る。
【0016】
農業用ハウスだけでなく、人間や動物の活動する室内においても、夏季などに太陽光を取り入れる場合、過度の温度上昇を抑制する必要があるが、この場合でも、温度が上がり易く、熱がたまり易い上部の温度上昇を抑制できればより快適な生活が可能になると考えられる。
【0017】
従って、本発明は、透明な遮熱フィルムを製造するために用いる遮熱用樹脂組成物および前記遮熱フィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明者らは、鋭意検討の結果、遮熱効果が、主に光吸収によるとされているATO粒子に、光散乱効果を有する材料(光拡散材)、中でも酸化チタン被覆マイカ粒子を組み合わせることにより、前記課題を解決できることを見出し、本発明を完成した。
【0019】
すなわち、本発明は、
(1)熱可塑性樹脂と、アンチモンドープ酸化スズ粒子と、酸化チタン被覆マイカ粒子とを含む遮熱用樹脂組成物であって、 前記遮熱用樹脂組成物の全量に対し、前記アンチモンドープ酸化スズ粒子の含有量が0.5~4質量%で、前記酸化チタン被覆マイカ粒子の含有量が0.5~3質量%であることを特徴とする遮熱用樹脂組成物、
(2)前記アンチモンドープ酸化スズ粒子の50%体積粒子径が、動的光散乱法による粒度分布測定で80~130nmであることを特徴とする(1)に記載の遮熱用樹脂組成物、
(3)前記酸化チタン被覆マイカ粒子が、レーザ回折法による粒度分布測定で、10%粒子径が3μm以上かつ90%粒子径が80μm以下で、酸化チタン被覆率が10~70質量%であることを特徴とする(1)~(2)のいずれか一項に記載の遮熱用樹脂組成物、
(4)前記熱可塑性樹脂がオレフィン系樹脂及び塩化ビニル系樹脂の中から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする(1)~(3)のいずれか一項に記載の遮熱用樹脂組成物、
(5)アンチモンドープ酸化スズ粒子、酸化チタン被覆マイカ粒子および熱可塑性樹脂を溶融混練して高濃度遮熱用樹脂組成物を得る工程と、
当該高濃度遮熱用樹脂組成物および希釈用熱可塑性樹脂を溶融混練する工程と、
を含むことを特徴とする(1)~(4)のいずれか一項に記載の遮熱用樹脂組成物の製造方法、
(6)(1)~(4)のいずれか一項に記載の遮熱用樹脂組成物を含み、平均可視光透過率が70%以上であることを特徴とする遮熱フィルム、
(7)前記アンチモンドープ酸化スズ粒子と前記酸化チタン被覆マイカ粒子とが質量比で12:1~1:12であり、かつ前記アンチモンドープ酸化スズ粒子と前記酸化チタン被覆マイカ粒子の含有量が総量で0.8~2.4g/m2であることを特徴とする(6)に記載の遮熱フィルム、
(8)フィルムの厚さが0.01~0.3mmであることを特徴とする(6)または(7)に記載の遮熱フィルム、
(9)農業用途であることを特徴とする(6)~(8)のいずれか一項に記載の遮熱フィルム、
である。
【発明の効果】
【0020】
本発明の遮熱フィルムは、透明性が高いにもかかわらず、太陽光が照射されたとき、それに覆われた内部空間における温度上昇を効果的に抑制できるだけでなく、特にその上部での温度上昇を抑制する。本発明では、この上部での温度上昇抑制効果を、上部遮熱効果と定義する。従って、農業用ハウスでは、高温障害を受け易い作物上部側での温度上昇を抑えることができるため、農業用ハウス用の遮熱フィルムとして好適に使用できる。人や動物の居住空間においても、太陽光などの光が照射されたとき、上部だけが極端に暑くなるといった不快な状況を改善できる。
また、本発明の遮熱フィルムは、作用機作の異なる2種の遮熱剤を併用しているので熱線を効果的に遮蔽できるフィルムとして使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明を実施するための形態を詳細に説明する。なお、本実施形態は、本発明を実施するための一形態に過ぎず、本発明は本実施形態によって限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0023】
本明細書中、「~」は、特に明示しない限り、上限値と下限値を含むことを表す。
【0024】
本発明の遮熱用樹脂組成物は、熱可塑性樹脂と、アンチモンドープ酸化スズ粒子と、酸化チタン被覆マイカ粒子とを含む。
【0025】
本発明の遮熱用樹脂組成物に含まれるATO粒子は、主に熱線を吸収することによって遮熱効果を現すが、酸化アンチモン(Sb2O3)と、酸化スズ(SnO2)とから得られる無機化合物で、市販の粉末を粉砕して用いても、分散品を用いてもよく、従来公知の方法等によって製造して用いてもよい。例えば、市販品としては、商品名でSN-100P、SN-100D(以上、石原産業社製)等が挙げられる。
【0026】
前記ATO粒子の50%体積粒子径は、動的光散乱法による粒度分布測定で80~130nmであることが好ましい。80nm未満では粒子が凝集体を作りやすいためフィルム成形が困難になり、130nmを超えると透明性が不足する場合がある。
【0027】
前記遮熱用樹脂組成物中の前記ATO粒子の含有量は、0.5~4質量%であることが好ましく、1~4質量%であることがより好ましい。0.5質量%より少ないと遮熱効果が十分でなく、4質量%より多いと遮熱フィルムの透明性が維持できない恐れがある。また、ATO粒子以外の熱線吸収材を併用しても良い。
【0028】
前記遮熱用樹脂組成物には、ATO粒子に加えて、光散乱効果をもつ材料(光拡散材)を含有させることによって農業用ハウス等への遮熱効果、特に上部の温度上昇に対する抑制効果を増強できる。
【0029】
前記光拡散材は、主に熱線を拡散することによって農業用ハウス等の上部での温度上昇抑制効果を現わすと考えられるが、無機粒子または有機粒子の中から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
前記有機粒子としては、例えば、ポリメチルメタクリレート粒子、アクリル-スチレン共重合体粒子、メラミン粒子、ポリカーボネート粒子、スチレン粒子、架橋ポリスチレン粒子、ポリ塩化ビニル粒子、ベンゾグアナミン-メラミンホルムアルデヒド粒子等が挙げられる。
前記無機粒子としては、酸化チタンで被覆されたマイカ(酸化チタン被覆マイカ)粒子、ガラスビーズ、シリカ粒子、ゼオライト等が挙げられる。中でも、酸化チタン被覆マイカ粒子が透明性に優れ、光散乱効果も大きいため好ましく用いられる。
【0030】
前記酸化チタン被覆マイカ粒子は、その10%粒子径が、小さいと、熱線遮蔽の効果が低下するので、3μm 以上が好ましく、5μm以上がより好ましい。また、90%粒子径は、大きいと、フィルムにしたときその透明性が低下するので、80μm以下が好ましく、65μm以下がより好ましい。
【0031】
なお、本発明において、酸化チタン被覆マイカ粒子の10%粒子径とは、測定対象となる酸化チタン被覆マイカ粒子の粒度分布をレーザ回折法によって測定し、得られた酸化チタン被覆マイカ粒子の質量基準の粒度分布において、最も粒子径の小さい酸化チタン被覆マイカ粒子から、粒子径の大きい酸化チタン被覆マイカ粒子に向かって、10%累積となった粒子径をいい、90%粒子径とは、同様に90%累積となった粒子径をいう。
【0032】
本発明でいう酸化チタン被覆率は、表面が酸化チタンで被覆されたマイカ中の二酸化チタン含量を質量比率で表したものをいう。
前記酸化チタン被覆マイカ粒子において酸化チタンによるマイカの被覆率は、低いと、遮熱効果が不足することがある一方、被覆率70%を超えても遮熱効果は増加しないため10~70%が好ましく、30~60%がより好ましい。また、マイカを被覆する酸化チタンはルチル型、アナターゼ型、ブルッカイト型のいずれでも好適に用いることが出来る。
【0033】
前記酸化チタン被覆マイカ粒子は市販品として入手できる。例えば、商品名では、Mearlin Exterior Fine Red439V、Mearlin Fine Violet539V、Mearlin Super Violet9530Z、Mearlin Exterior CFS Super Violet5303Z(以上、BASF社製)、Iriotec9770、Iriodin223、Iriodin100、Iriodin120(以上、メルク社製)などが挙げられる。
【0034】
前記遮熱用樹脂組成物中の前記酸化チタン被覆マイカ粒子の含有量は、0.5~3質量%であることが好ましく、0.5~2.5質量%であることがより好ましい。0.5質量%より少ないと十分な光拡散性が発揮されず、3質量%より多いとそれから作製された遮熱フィルムの透明性を低下させてしまう。また、酸化チタン被覆マイカ粒子以外の光拡散材を併用してもよい。
【0035】
本発明の遮熱用樹脂組成物に用いる熱可塑性樹脂は、透明性の高いフィルムを成形できるものであればいずれでもよい。具体的には、ポリエチレン、エチレン-酢酸ビニル共重合体、ポリプロピレン、超高分子量ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体、塩化ビニリデン系樹脂、ポリ酢酸ビニル、アクリル系樹脂、ABS樹脂、AS樹脂、MBS樹脂、ポリスチレン、ポリビニルアルコール、スチレン系ブロック共重合体、ポリアミド、ポリアセタール、ポリカーボネート、変性ポリフェニレンエーテル、ポリエステル、フッ素系樹脂、ブチラール系樹脂、スチレンーマレイン酸共重合体、ポリウレタン系樹脂、アルキッド樹脂、ゴム系樹脂、環化ゴム系樹脂、セルロース類、ポリブタジエン、ポリイミド等が挙げられる。これらの中から選ばれる少なくとも1種であることが好ましく、2種以上を併用してもよい。なかでも、農業用ハウスに汎用されるポリオレフィン系樹脂、塩化ビニル系樹脂、フッ素系樹脂が好ましい。
【0036】
(基本的に本に記載のとおりとしました)
本発明の遮熱用樹脂組成物には、必要に応じて各種添加剤を添加してもよい。具体的には、ワックス、金属石けん、潤滑剤、熱安定剤、可塑剤、加工助剤、光安定剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、防かび剤、難燃剤、充填剤、強化剤、架橋剤、補強材、滑剤、防曇剤、帯電防止剤、導電材、発泡剤、軽量充填剤、着色剤など、が挙げられるが、公知慣用のものであればいかなるものも、遮熱用樹脂組成物の特性を損なわない範囲で適宜選択できる。
【0037】
本発明の遮熱用樹脂組成物の製造に関しては特に制限はないが、前記熱可塑性樹脂にATO粒子および酸化チタン被覆マイカ粒子を直接溶融混練するか、または前記熱可塑性樹脂にATO粒子および酸化チタン被覆マイカ粒子を高濃度で溶融混練することによって高濃度遮熱用樹脂組成物(以下「マスターバッチ」という。)を製造し、このマスターバッチを前記熱可塑性樹脂で希釈することによって製造される(以下、マスターバッチを希釈するために用いる熱可塑性樹脂を「希釈用熱可塑性樹脂」という。)。マスターバッチは、ATO粒子と酸化チタン被覆マイカ粒子を一緒に混合して作成できる。ATO粒子と酸化チタン被覆マイカ粒子とをそれぞれ別々に熱可塑性樹脂と混合し、後から両者を混合して本発明のマスターバッチを作製することも出来る。マスターバッチを用いるか、遮熱用樹脂組成物を用いて遮熱フィルムを作るかは、各々のメリット・デメリットを考慮し適宜選択できる。
前記マスターバッチのATO粒子の含有量は、1~59質量%が好ましく、5~40質量%であることがより好ましい。酸化チタン被覆マイカ粒子の含有量は、1~59質量%が好ましく、5~30質量%であることがより好ましい。マスターバッチ中の、ATO粒子と酸化チタン被覆マイカ粒子とを合わせた含有量は、マスターバッチの作製が困難になるため、60質量%以下になることが好ましい。
前記マスターバッチ製造に用いる熱可塑性樹脂と前記希釈用熱可塑性樹脂とは同一のものが好ましいが、違っていても相溶するものであれば使用可能である。
溶融混練する場合は、混合機により材料を混合し、混練機により溶融混練する方法が好ましく、混合機の例としては、ヘンシェルミキサー、タンブラー、リボンブレンダー等が挙げられ、混練機の例としては、単軸押出機、二軸押出機、ニーダー等が挙げられる。
【0038】
本発明の遮熱フィルムは、前記遮熱用樹脂組成物を含み、平均可視光透過率が70%以上であることを特徴とする。
【0039】
本発明の遮熱フィルムの平均可視光透過率は、70%より低いと、植物の生育へ大きく影響するため70%以上が好ましい。本発明において、平均可視光透過率は、380~780nmの平均光線透過率をいい、1nm毎の光線透過率を相加平均した値である。
【0040】
光線透過率の測定は、公知の機器を用い、公知の方法を採用して測定することができる。公知の機器として、例えば、日立ハイテクサイエンス社製のUH4150紫外可視近赤外分光光度計を挙げることができる。また、公知の方法とは、例えば上記する日立ハイテクサイエンス社製のUH4150紫外可視近赤外分光光度計を用いる際には、SCAN SPEED300nm/minおよびSLIT幅5nmの測定条件で、175~3300nmの測定範囲の光線透過率を測定することができる。
【0041】
本発明の遮熱用樹脂組成物から遮熱フィルムを成形する方法については特に制限はない。例えば、Tダイが装着された単軸または二軸押出機を用いる押出成形法、円形ダイが装着された押出機を用いるインフレーション成形法、カレンダー成形法等の公知の方法が挙げられる。
【0042】
本発明の遮熱フィルムは、前記ATO粒子と前記酸化チタン被覆マイカ粒子とが質量比で12:1~1:12かつ前記ATO粒子と前記酸化チタン被覆マイカ粒子の含有量が総量で0.8~2.4g/m2であることが好ましく、前記ATO粒子と前記酸化チタン被覆マイカ粒子とが質量比で12:1~1:5かつ前記ATO粒子と前記酸化チタン被覆マイカ粒子の含有量が総量で1.2~2.2g/m2であることがより好ましい。
前記ATO粒子と前記酸化チタン被覆マイカ粒子の質量比が12:1~1:12の範囲から外れると上部遮熱効果および透明性が低下してしまう。前記ATO粒子と前記酸化チタン被覆マイカ粒子の質量比が12:1~1:12の範囲であっても、前記ATO粒子と前記酸化チタン被覆マイカ粒子の含有量の総量が0.8g/m2未満だと遮熱効果が劣り、2.4g/m2を超過すると光線透過率が低下してしまう。
前記ATO粒子と前記酸化チタン被覆マイカ粒子を上記のバランスで配合すると、本発明の目的である上部遮熱効果と透明性とを好ましく両立させることができる。
【0043】
前記遮熱フィルムの厚さは、薄すぎると強度が不十分となるので好ましくなく、逆に厚すぎると取り扱い難かったり光線透過率が低くなったりする傾向があるので、一般には0.01~0.3mm、好ましくは0.02~0.25mmの範囲とするのが適当である。
【0044】
本発明の遮熱フィルムは、農業用フィルムとして要求される物性(剛性や耐衝撃性、耐久性など)や用途、さらには性能(耐ピンホール性、印刷性、透明性、意匠性など)などに応じて、別の層を適宜積層し、様々な層構成の積層体として用いてもよい。例えば、前記遮熱フィルムに、単独でも複数の層であってもよいが、他の樹脂フィルム、合成紙、紙、不織布、蒸着層、印刷層といった別の層を、設けることができる。無論、これら別の層は印刷などの処理がされたものでもよい。
【0045】
本発明の遮熱フィルムに別の層を積層する場合は接着剤を介して接着しても、また接着剤を介さず直接積層させてもよい。接着剤を介して接着させる場合、使用する接着剤は、2液硬化型接着剤であってもよく、また1液硬化型接着剤であってもよい。さらに、接着剤の接着機構についても、特に制限されず、化学反応型、溶剤揮発型、熱溶融型、熱圧型、電子線硬化型や紫外線硬化型等のいずれであってもよい。また、接着剤を介さず接着させる場合には、例えば、共押出法、サンドイッチラミネート法、サーマルラミネート法等の熱溶融状態で接着させる方法が挙げられる。
【実施例】
【0046】
以下、本発明を実施例によってさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、例中、「部」は「質量部」を表す。
【0047】
<遮熱用樹脂組成物の作製>
実施例1の遮熱用樹脂組成物No.1は以下の手順で作成した。
低密度ポリエチレン(以下、「LDPE」と記す、商品名UBEポリエチレンF522N、宇部丸善ポリエチレン社製)96.5部と、ATO粒子(パウダータイプ、SN-100P、石原産業社製)0.5部と、酸化チタン被覆マイカ粒子(Iriodin223、メルク社製)3.0部とを、スリーハンズミキサーに投入し混合攪拌した後に単軸押出機に供給し、160℃で溶融混練してストランドとして押出し、これを冷却しカットしたペレット状の遮熱用樹脂組成物No.1を得た。同様の手順で、表1に記す原材料を用いて、表2および表3の組成(表中の数値は質量%を表す。)に従い、実施例2、4~20および比較例1~10の遮熱用樹脂組成物No.2、4~30を製造した。
【0048】
<遮熱フィルムの作製>
実施例1の遮熱フィルムNo.1は、以下の手順で作製した。
遮熱用樹脂組成物No.1を、インフレーション成形機の供給口に投入し、160℃で押出し、0.050mmの遮熱フィルムNo.1を得た。同様の手順で、遮熱用樹脂組成物No.2、4~30から、実施例2、4~20および比較例1~10の遮熱フィルムNo.2、4~30を得た。
【0049】
<マスターバッチからの遮熱フィルムの作製>
実施例3の遮熱フィルムは、ATO粒子と酸化チタン被覆マイカ粒子を含むマスターバッチを用いて作製した。
LDPE70部と、ATO粒子10部、酸化チタン被覆マイカ粒子20部とを、二軸押出機を用いて、成型温度160℃で混練し、得られた混練物をダイスより吐出することによってマスターバッチを得た。得られたマスターバッチ10部と、LDPE90部とを、ブレンドし、インフレーション成形機の供給口に投入し、160℃で押出し、0.050mmの遮熱フィルムNo.3を得た。
【0050】
<平均可視光透過率>
光線透過率は、各遮熱フィルムについて、紫外可視近赤外分光光度計(UH4150、日立ハイテクサイエンス社製、SCAN SPEED300nm/min、SLIT幅5nm)を使用して、可視光に相当する380~780nmの透過率を1nm毎に測定した。測定した透過率を相加平均することにより、平均可視光透過率を求めた。表4および表5には、平均可視光透過率を示し、75%以上であれば◎、70%以上75%未満であれば○、70%未満であれば×と評価した。
【0051】
<遮熱試験:上部遮熱効果および下部遮熱効果の測定>
各遮熱フィルムについて、初期温度を25℃とし、次の方法により上部および下部の遮熱効果を測定した。
図1の遮熱試験の測定装置を示す概略図の通り、長さ25.0cm、幅19.0cm、厚み3.0cmの発泡スチロール1の上に、長さ25.0cm、幅25.0cm、深さ40.0cmの厚み0.5cmのダンボール箱2を載せ、このダンボール箱の上面中央部に長さ方向に22.5cm、幅方向に16.0cmの開口部を設け、この開口部を塞ぐように遮熱フィルム3を載せる。遮熱フィルムから15.0cm下になるように上部遮熱効果測定用の温度センサー4および34.5cm下になるように下部遮熱効果測定用の温度センサー5をテーブル6の上に設置する。遮熱フィルムの30.0cm真上から赤外線ランプ7(アイR形赤外線電球125W、岩崎電気社製)を60分間照射して、照射前後の温度を測定する。LDPEのみから成るフィルム(以下、「ブランク」とする)との比較から、以下の式により上部遮熱効果(℃)および下部遮熱効果(℃)を算出する。
上部遮熱効果(℃)=(ブランクへの照射後の15.0cm下の温度-ブランクへの照射前の15.0cm下の温度)-(遮熱フィルムへの照射後の15.0cm下の温度-遮熱フィルムへの照射前の15.0cm下の温度)
下部遮熱効果(℃)=(ブランクへの照射後の34.5cm下の温度-ブランクへの照射前の34.5cm下の温度)-(遮熱フィルムへの照射後の34.5cm下の温度-遮熱フィルムへの照射前の34.5cm下の温度)
上部遮熱効果および下部遮熱効果(℃)が大きいほど、上部遮熱効果および下部遮熱効果が良好と判断した。上部遮熱効果について、◎:4℃以上、○:3℃以上4℃未満、×:3℃未満の3段階で評価した。下部遮熱効果について、◎:2℃以上、○:1℃以上2℃未満、×:1℃未満の3段階で評価し、表4および表5に記した。光線透過率評価×のフィルムについては、遮熱試験を実施せず、表中に斜線で記した。
【0052】
【0053】
【0054】
【0055】
【0056】
【0057】
表4~5の遮熱フィルムでは、ATO粒子のみを1.91g/m2含有している比較例3は、下部遮熱効果は○の評価であるが上部遮熱効果は×、60%酸化チタン被覆マイカ粒子のみを0.93g/m2含有している比較例6は上部、下部遮熱効果とも×の評価となっている。一方、実施例8では、ATO粒子は0.94g/m2と比較例3よりも少なく、60%酸化チタン被覆マイカ粒子も0.47g/m2と比較例6よりも少ないにもかかわらず、上部および下部遮熱効果とも評価◎である。
また、30%酸化チタン被覆マイカ粒子のみを0.93g/m2含有している比較例9は上部、下部遮熱効果とも×の評価となっている。一方、実施例12でも、ATO粒子は0.94g/m2と比較例3よりも少なく、30%酸化チタン被覆マイカ粒子も0.47g/m2と比較例9よりも少ないにもかかわらず、上部および下部遮熱効果とも評価◎である。
以上から、明らかにATO粒子と酸化チタン被覆マイカ粒子を組み合わせることによって、遮熱効果、特に、上部遮熱効果に対し相乗的な効果が発現したといえる。
また、実施例14~20によると、本発明の遮熱フィルムは、フィルム中にATO粒子と酸化チタン被覆マイカ粒子が十分含有されていれば、厚みに依存せず、遮熱効果を発揮している。
【符号の説明】
【0058】
1 発泡スチロール
2 ダンボール箱
3 遮熱フィルム
4 上部遮熱効果測定用の温度センサー
5 下部遮熱効果測定用の温度センサー
6 テーブル
7 赤外線ランプ