(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-21
(45)【発行日】2024-03-29
(54)【発明の名称】ポリオレフィン系分割型複合繊維及びその製造方法、並びにこれを用いた繊維集合物及び電池セパレータ
(51)【国際特許分類】
D01F 8/06 20060101AFI20240322BHJP
D03D 15/40 20210101ALI20240322BHJP
D04H 1/4291 20120101ALI20240322BHJP
H01M 50/409 20210101ALI20240322BHJP
【FI】
D01F8/06
D03D15/40
D04H1/4291
H01M50/409
(21)【出願番号】P 2020064560
(22)【出願日】2020-03-31
【審査請求日】2023-01-17
(73)【特許権者】
【識別番号】519354108
【氏名又は名称】大和紡績株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】弁理士法人池内アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】内海 惠介
(72)【発明者】
【氏名】杉山 昂史
(72)【発明者】
【氏名】岡屋 洋志
(72)【発明者】
【氏名】中畑 有貴
【審査官】河内 浩志
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2011/122657(WO,A1)
【文献】特開平03-199425(JP,A)
【文献】特開平05-186911(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D01F 8/00- 8/18
D03D 1/00-27/18
D04H 1/00-18/04
H01M50/40-50/497
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリプロピレン樹脂を含有する第1成分と、ポリメチルペンテン樹脂を含有する第2成分とを含むポリオレフィン系分割型複合繊維であって、
前記第1成分は、Q値(重量平均分子量Mwと数平均分子量Mnとの比Mw/Mn)が3.5以上6未満であり、数平均分子量(Mn)が43,000より大きく96,000未満であり、z平均分子量(Mz)が550,000以上1,000,000以下であるポリプロピレン樹脂を
85質量%以上含み、
前記第2成分はポリメチルペンテン樹脂を
85質量%以上含むことを特徴とするポリオレフィン系分割型複合繊維。
【請求項2】
前記ポリオレフィン系分割型複合繊維において、示差走査熱量測定(DSC)にて求めた前記ポリメチルペンテン樹脂の融解熱量が36.5mJ/mg以上である請求項1に記載のポリオレフィン系分割型複合繊維。
【請求項3】
前記第1成分と第2成分の体積比(第1成分:第2成分)が40:60~85:15である請求項1又は2に記載のポリオレフィン系分割型複合繊維。
【請求項4】
前記第1成分に含まれているポリプロピレン樹脂のJIS K 7210に準ずるメルトフローレート(MFR;測定温度230℃、荷重2.16kgf(21.18N))が24g/10分以上50g/10分以下である請求項1~3のいずれか1項に記載のポリオレフィン系分割型複合繊維。
【請求項5】
前記ポリオレフィン系分割型複合繊維において、示差走査熱量測定(DSC)にて求めたポリメチルペンテン樹脂の融解熱量比が1.62以上である請求項1~4のいずれか1項に記載のポリオレフィン系分割型複合繊維。
【請求項6】
ポリプロピレン樹脂を含有する第1成分と、ポリメチルペンテン樹脂を含有する第2成分とを含むポリオレフィン系分割型複合繊維の製造方法であり、
前記第1成分が、紡糸前のQ値(重量平均分子量Mwと数平均分子量Mnとの比)が3.5以上6未満であり、紡糸前の数平均分子量(Mn)が43,000より大きく96,000未満であり、紡糸前のz平均分子量(Mz)が550,000以上1,000,000以下であるポリプロピレン樹脂を
85質量%以上含み、
前記第2成分はポリメチルペンテン樹脂を
85質量%以上含み、
前記第1成分及び第2成分を、分割型の複合ノズルを用いて、250℃以上330℃以下の温度にて押出して溶融紡糸し、360m/分以上1200m/分以下の引取速度で引き取り、1dtex以上15dtex未満の未延伸状態の紡糸フィラメントとし、
前記紡糸フィラメントを80℃以上150℃未満の温度にて、総延伸倍率が5倍以上となるように延伸して延伸フィラメントとし、
前記延伸フィラメントを1mm以上100mm以下の長さに切断し分割型複合繊維を得る、ポリオレフィン系分割型複合繊維の製造方法。
【請求項7】
前記総延伸倍率が、最大延伸倍率の60%以上95%以下であり、かつ5倍以上8倍以下である請求項6に記載のポリオレフィン系分割型複合繊維の製造方法。
【請求項8】
請求項1~5のいずれか1項に記載のポリオレフィン系分割型複合繊維を10質量%以上含むことを特徴とする繊維集合物。
【請求項9】
請求項8に記載の繊維集合物を含む電池セパレータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリオレフィン系分割型複合繊維及びその製造方法、並びにこれを用いた繊維集合物及び電池セパレータに関する。詳細には、ポリプロピレン樹脂を含有する第1成分とポリメチルペンテン樹脂を含有する第2成分を含むポリオレフィン系分割型複合繊維及びその製造方法、並びにこれを用いた繊維集合物及び電池セパレータに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリオレフィン系樹脂同士など同族系樹脂同士を組み合わせた分割型複合繊維は、組み合わせる樹脂同士の相溶性が高いため各樹脂成分同士が界面で強く接着しやすく、相溶性の低い熱可塑性樹脂同士を組み合わせた分割型複合繊維、例えば、ポリエステル系樹脂とポリオレフィン系樹脂を組み合わせた分割型複合繊維やポリエステル系樹脂とポリアミド系樹脂を組み合わせた分割型複合繊維に比べ、分割性に劣っている。そこで、特許文献1では、ロックウェル硬度が60以上であるポリメチルペンテンとポリプロピレンを組み合わせることで、ポリオレフィン系分割型複合繊維の分割性を向上させることが提案されている。
【0003】
また、ポリメチルペンテンとポリプロピレンを組み合わせたポリオレフィン系分割型複合繊維は、融点が150℃以上の熱可塑性樹脂で構成されていることから、この分割型複合繊維を含む繊維集合物は高温時の耐久性に優れたものになる。加えて、ポリメチルペンテンとポリプロピレンが耐薬品性に優れることから、当該繊維集合物はニッケル水素電池といった各種二次電池に使用する電池セパレータに用いられることがある。特許文献1には、ポリメチルペンテンとポリプロピレンを組み合わせたポリオレフィン系分割型複合繊維が記載されている。この中で、当該ポリオレフィン系分割型複合繊維をニッケル水素電池といった各種二次電池を構成する電池セパレータに用いるには、より細繊度で、より高度に分割していること、即ち、異なる樹脂成分同士が分離できずに接合したままの状態、いわゆる未分割状態の繊維として残らないことが求められることが開示されている。そこで、特許文献2では、重量平均分子量Mwと数平均分子量Mnとの比であるQ値の大きいポリプロピレン樹脂、具体的にはQ値が6以上のポリプロピレン樹脂とポリメチルペンテン樹脂を組み合わせて用いることで、ポリオレフィン系分割型複合繊維の分割性を高めることが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特公平6-63129号公報
【文献】国際公開公報2011/122657号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献2の分割型複合繊維を製造する場合、重量平均分子量Mwと数平均分子量Mnとの比であるQ値の大きいポリプロピレン樹脂(具体的には紡糸前のQ値が6以上のポリプロピレン樹脂)を用いている。このようなQ値が特に大きいポリプロピレン樹脂は、分子鎖の長いポリプロピレンを含んでいるため溶融粘度が高い。そのため、溶融紡糸の工程性を高めるためには、溶融押出を高い温度、例えば、330℃を超える高温で行う必要があり、生産時のエネルギーコストや生産性の面で劣るという問題がある。
【0006】
本発明は、上記従来の問題を解決するため、生産性及び分割性が良好であるポリオレフィン系分割型複合繊維及びその製造方法、並びにこれを用いた繊維集合物及び電池セパレータを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、ポリプロピレン樹脂を含有する第1成分と、ポリメチルペンテン樹脂を含有する第2成分とを含む分割型複合繊維であって、前記第1成分は、Q値(重量平均分子量Mwと数平均分子量Mnとの比Mw/Mn)が3.5以上6未満であり、数平均分子量Mnが43,000より大きく96,000未満であり、z平均分子量Mzが550,000以上1,000,000以下であるポリプロピレン樹脂を50質量%以上含み、前記第2成分はポリメチルペンテン樹脂を50質量%以上含むことを特徴とするポリオレフィン系分割型複合繊維に関する。
【0008】
本発明は、また、ポリプロピレン樹脂を含有する第1成分と、ポリメチルペンテン樹脂を含有する第2成分とを含むポリオレフィン系分割型複合繊維の製造方法であり、前記第1成分が、紡糸前のQ値(重量平均分子量Mwと数平均分子量Mnとの比)が3.5以上6未満であり、紡糸前の数平均分子量Mnが43,000より大きく96,000未満であり、紡糸前のz平均分子量Mzが550,000以上1,000,000以下であるポリプロピレン樹脂を50質量%以上含み、前記第2成分はポリメチルペンテン樹脂を50質量%以上含み、前記第1成分及び第2成分を、分割型の複合ノズルを用いて、250℃以上330℃以下の温度にて溶融して押出し、360m/分以上1200m/分以下の引取速度で引き取り、1dtex以上15dtex未満の未延伸状態の紡糸フィラメントとし、前記紡糸フィラメントを80℃以上150℃未満の温度にて、総延伸倍率が5倍以上となるように延伸して延伸フィラメントとし、前記延伸フィラメントを1mm以上100mm以下の長さに切断して分割型複合繊維を得る、ポリオレフィン系分割型複合繊維の製造方法に関する。
【0009】
本発明は、また、前記のポリオレフィン系分割型複合繊維を10質量%以上含むことを特徴とする繊維集合物に関する。
【0010】
本発明は、また、前記の繊維集合物を含むことを特徴とする電池セパレータに関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、生産性及び分割性が良好であるポリオレフィン系分割型複合繊維及びその製造方法、並びにこれを用いた繊維集合物及び電池セパレータを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1A~
図1Jは、ポリオレフィン系分割型複合繊維の断面を例示した模式的断面図である。
【
図2】
図2A~
図2Bは、第2成分が芯鞘型複合セグメントである場合のポリオレフィン系分割型複合繊維の一例を示す模式的断面図である。
【
図3】実施例1においてポリオレフィン系分割型複合繊維の分割率の測定に用いた繊維ウェブの電子顕微鏡写真である。
【
図4】実施例2においてポリオレフィン系分割型複合繊維の分割率の測定に用いた繊維ウェブの電子顕微鏡写真である。
【
図5】比較例1においてポリオレフィン系分割型複合繊維の分割率の測定に用いた繊維ウェブの電子顕微鏡写真である。
【
図6】比較例2においてポリオレフィン系分割型複合繊維の分割率の測定に用いた繊維ウェブの電子顕微鏡写真である。
【
図7】比較例4においてポリオレフィン系分割型複合繊維の分割率の測定に用いた繊維ウェブの電子顕微鏡写真である。
【
図8】比較例5においてポリオレフィン系分割型複合繊維の分割率の測定に用いた繊維ウェブの電子顕微鏡写真である。
【
図9】実施例1のポリオレフィン系分割型複合繊維を用いて行った示差走査熱量測定(DSC)のうち、最初の融解過程で測定されたDSC曲線の一例である。
【
図10】実施例1のポリオレフィン系分割型複合繊維を用いて行った示差走査熱量測定(DSC)のうち、2度目融解過程(再融解過程)で測定されたDSC曲線の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の発明者らは、上述した問題を解決するため鋭意検討を行った。その結果、紡糸前の重量平均分子量Mwと数平均分子量Mnとの比Mw/MnであるQ値(以下、単にQ値とも記す。)が3.5以上6未満であり、数平均分子量Mnが43,000より大きく96,000未満であり、z平均分子量Mzが550,000以上1,000,000以下であるポリプロピレン樹脂を含む第1成分と、ポリメチルペンテン樹脂を含む第2成分を併用することで、溶融紡糸時に第1成分をより低い温度(例えば、第1成分に含まれるポリプロピレン樹脂を330℃以下)で溶融して押し出すことができ、生産時のエネルギーコストを削減できるだけでなく、生産性が良好になることを見出した。さらに、紡糸前のQ値3.5以上6未満のポリプロピレン樹脂とポリメチルペンテン樹脂を併用することで、ポリプロピレン樹脂とポリメチルペンテン樹脂の両方の結晶化が進みやすく、分割性が良好になることを見出した。
【0014】
前記ポリプロピレン樹脂のQ値、数平均分子量Mn、重量平均分子量Mw、及びz平均分子量Mzは、紡糸前と紡糸後で異なる場合がある。なお、本発明において、Q値、Mn、Mw及びMzの値は、特に紡糸前の値であると記載していない限り、紡糸後の値である。
【0015】
(ポリオレフィン系分割型複合繊維)
図1A~1J、
図2A~
図2Bに示しているように、ポリオレフィン系分割型複合繊維(以下において、単に分割型複合繊維とも記す。)10は、第1成分1と、第2成分2とを含む。前記分割型複合繊維は、第1成分1と第2成分2が放射状に交互に配列された断面構造を有することが好ましい。また、前記分割型複合繊維は、繊維断面において、繊維中心部に中空部を有することが好ましい。
【0016】
<第1成分>
第1成分は、ポリプロピレン樹脂を50質量%以上含み、80質量%以上含むことが好ましく、85質量%以上含むことがより好ましく、90質量%以上含むことがさらに好ましく、第1成分は実質的にポリプロピレン樹脂からなることが特に好ましい。ここで、「実質的に」という用語は、通常、製品として提供される樹脂が安定剤等の添加剤を含むため、及び/又は繊維の製造に際して各種添加剤が添加されるため、ポリプロピレン樹脂のみからなり、他の成分を全く含まない繊維が得られにくいことを考慮している。通常、第1成分は、添加剤を最大で15質量%含んでもよい。
【0017】
前記ポリプロピレン樹脂は、Q値が3.5以上6未満であり、3.8以上5.8以下であることが好ましく、4.0以上5.5以下であることがより好ましく、4.0以上5.2以下であることが特に好ましい。前記ポリプロピレン樹脂のQ値が3.5以上6未満であることで、分割型複合繊維の分割性及び生産性が良好になる。また、前記ポリプロピレン樹脂は、紡糸前もQ値が3.5以上6未満であり、3.8以上5.8以下であることが好ましく、4.0以上5.5以下であることがより好ましい。前記ポリプロピレン樹脂の紡糸前のQ値が3.5以上6未満であることで、優れた分割性を有する分割型複合繊維が生産性良く得られる。
【0018】
前記ポリプロピレン樹脂は、数平均分子量Mnが43,000より大きく96,000未満であり、45,000以上90,000以下であることが好ましく、50,000以上85,000以下であることがより好ましい。数平均分子量Mnが上述した範囲であると、ポリプロピレン樹脂において、重合度の小さい低分子量のポリプロピレン樹脂が占める割合が少なくなり、ポリプロピレン樹脂の中に存在する配向が進んでいない領域が少なくなる。配向の進んでいない領域が少なくなることで、ポリプロピレン樹脂を含む第1成分は、隣接する第2成分と過度に強固に接着することもなく、分割型複合繊維に加わった衝撃がポリプロピレン樹脂の非晶領域に吸収・減衰されにくくなることで、分割型複合繊維を構成する第1成分と第2成分の接合面で反発力が生じやすくなり、分割性に優れた分割型複合繊維を得ることができる。また、前記ポリプロピレン樹脂は、紡糸後の数平均分子量Mnを上述した範囲にしやすい観点から、紡糸前の数平均分子量Mnが43,000より大きく96,000未満であり、45,000以上90,000以下であることが好ましく、50,000以上85,000以下であることがより好ましい。
【0019】
前記ポリプロピレン樹脂は、z平均分子量Mzが550,000以上1,000,000以下であり、好ましくは600,000以上900,000以下であり、より好ましくは650,000以上850,000以下である。z平均分子量Mzが上述した範囲のポリプロピレン樹脂は、高分子量のポリプロピレン樹脂を比較的多く含むことにより、結晶化しやすい樹脂となる。このようなポリプロピレン樹脂を含む樹脂成分、即ち、分割型複合繊維を構成する第1成分は、後述するように、溶融紡糸で得られた未延伸状態の繊維に対し、高い延伸倍率で延伸処理を行うことでポリプロピレン樹脂が引き延ばされて配向し、ポリプロピレン樹脂の結晶化が進む。結晶化が進んだ、即ち、結晶化度の高いポリプロピレン樹脂は、それを含む第1成分に剛性を与える。そして、剛性に優れた第1成分は、外力による衝撃を吸収しにくく、与えられた外力が第1成分と第2成分とを割繊させる力として効率よく作用するため、分割性が向上する。また、前記ポリプロピレン樹脂は、紡糸後のz平均分子量Mzを上述した範囲にしやすい観点から、紡糸前のz平均分子量Mzが550,000以上1,000,000以下であり、好ましくは600,000以上900,000以下であり、より好ましくは650,000以上850,000以下である。
【0020】
また、z平均分子量Mzが上述した範囲のポリプロピレン樹脂を含む分割型複合繊維は、高分子量のポリプロピレン樹脂を含むため、紡糸工程で結晶化しやすい傾向にあり、未延伸繊維束の段階で結晶化度の高いものとなる。そして、延伸処理をさらに行うことで、ポリプロピレン樹脂の結晶化度が高い繊維を得ることができる。分割型複合繊維を構成するポリプロピレン樹脂の結晶化度が高くなると、物理的衝撃による分割処理を行う際に、加えられた衝撃を吸収し、衝撃を減衰させる結晶化度の低い樹脂成分(ポリプロピレン樹脂中の配向が進んでいない領域)が少ないことに起因して、接合面に加えられた力が低下することなく第1成分及び第2成分に伝わるため、分割性が向上する。
【0021】
前記ポリプロピレン樹脂は、重量平均分子量Mwが130,000以上570,000以下であることが好ましく、150,000以上500,000以下であることがより好ましく、200,000以上400,000以下であることがさらに好ましい。重量平均分子量Mwが上述した範囲であると、樹脂の流動性が高くなり、糸切れしにくく、紡糸しやすい分割型複合繊維となる。また、前記ポリプロピレン樹脂は、紡糸後の重量平均分子量Mwを上述した範囲にしやすい観点から、紡糸前の重量平均分子量Mwが130,000以上570,000以下であることが好ましく、150,000以上500,000以下であることがより好ましく、200,000以上400,000以下であることがさらに好ましい。
【0022】
前記ポリプロピレン樹脂は、JIS K 7210に準ずるメルトフローレート(以下において、単に「MFR230」とも記す。;測定温度230℃、荷重2.16kgf(21.18N))が24g/10分以上50g/10分以下の範囲であることが好ましく、26g/10分以上45g/10分以下の範囲であることがより好ましく、28g/10分以上40g/10分以下の範囲であることがさらに好ましい。MFR230が上述した範囲内であると、紡糸時に糸切れが発生しにくい。
【0023】
前記ポリプロピレン樹脂としては、特に限定されず、例えばプロピレンのホモポリマー(プロピレンをモノマーとする単独重合体)、プロピレンと他の共重合モノマーとの共重合体、又はそれらの混合物を用いることができる。プロピレン共重合体は、ランダム共重合体でもよく、ブロック共重合体でもよい。前記プロピレン共重合体としては、例えば、プロピレンと、エチレン及び炭素数4以上のα-オレフィンからなる群から選ばれる少なくとも一種のα-オレフィンとの共重合体が挙げられる。前記炭素数4以上のα-オレフィンとしては、特に限定されないが、例えば、1-ブテン、1-ペンテン、3,3-ジメチル-1-ブテン、4-メチル-1-ペンテン、4,4-ジメチル-1-ペンテン、1-デセン、1-ドデセン、1-テトラデセン、1-オクタデセンなどが挙げられる。前記共重合体におけるプロピレンの含有量は、50質量%以上であることが好ましい。前記ポリプロピレン樹脂の中でも工程性や経済性(製造コスト)を考慮すると、プロピレンホモポリマーが特に好ましい。
【0024】
第1成分は、本発明の効果を阻害しない範囲内で公知の分割促進剤を添加してもよい。公知の分割促進剤としては、例えばシリコン化合物系の分割促進剤、不飽和カルボン酸系の分割促進剤、(メタ)アクリル酸系化合物の分割促進剤などが使用できる。中でも、(メタ)アクリル酸系化合物の分割促進剤が好ましく、(メタ)アクリル酸金属塩がより好ましい。分割促進剤として第1成分に対し(メタ)アクリル酸金属塩を含有させる場合、第1成分全体に対して、(メタ)アクリル酸金属塩を1質量%以上10質量%以下含有させてもよい。
【0025】
<第2成分>
第2成分はポリメチルペンテン樹脂を50質量%以上含み、80質量%以上含むことが好ましく、85質量%以上含むことがより好ましく、90質量%以上含むことがさらに好ましく、第1成分は実質的にポリメチルペンテン樹脂からなることが特に好ましい。ここで、「実質的に」という用語は、通常、製品として提供される樹脂が安定剤等の添加剤を含むため、及び/又は繊維の製造に際して各種添加剤が添加されるため、ポリメチルペンテン樹脂のみからなり、他の成分を全く含まない繊維が得られにくいことを考慮している。通常、第1成分は、添加剤を最大で15質量%含んでもよい。
【0026】
前記ポリメチルペンテン樹脂としては、4-メチルペンテン-1を85モル%以上含む共重合体、例えば4-メチルペンテン-1と、例えばエチレン、プロピレン、ブテン-1、ヘキセン-1、オクテン-1、デカン-1、テトラデカン-1、オクタデカン-1などの炭素数2以上20以下、好ましくは8以上18以下のα-オレフィンの1種又は2種との共重合体が挙げられる。また、前記ポリメチルペンテン樹脂は、単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0027】
ポリメチルペンテン樹脂は他のポリオレフィン系樹脂と同様に耐薬品性、耐水蒸気性に優れ、低密度であるという特徴を有する。これらの特徴に加え、耐熱性に優れ、剥離性、ガス透過性、透光性にも優れていることから、数多くの用途への展開が期待される熱可塑性樹脂である。しかし、一般には、ポリメチルペンテン樹脂を分割型複合繊維の一成分として用いる場合、ポリメチルペンテン樹脂が有する難紡糸性、難延伸性から分割型複合繊維にすることが困難である。本発明では、一般に難紡糸性、難延伸性の樹脂として知られているポリメチルペンテン樹脂であっても、上述したポリプロピレン樹脂と組み合わせることにより、紡糸性が良好なものとなり、低い紡糸温度、例えば330℃以下の温度で溶融紡糸を行えるだけでなく、溶融紡糸時の工程性も安定する。また、溶融紡糸によって得られた未延伸繊維を延伸して所望の繊度の分割型複合繊維とする際、ポリプロピレン樹脂とポリメチルペンテン樹脂と接合した状態での延伸性が良好になることで、延伸工程での工程安定性が増すことに加え、良好な延伸性によってポリプロピレン樹脂だけでなく、ポリメチルペンテン樹脂の結晶化が促進され、得られる分割型複合繊維において、ポリプロピレン樹脂及びポリメチルペンテン樹脂の結晶化度が高い分割型複合繊維となる。このようにして得られた分割型複合繊維は、低分子量のポリプロピレン樹脂により、隣り合う樹脂成分同士が過度に強固に接着している部分が少ないことに加え、ポリプロピレン樹脂及びポリメチルペンテン樹脂が結晶性の高い樹脂成分となっているため、分割型複合繊維に加えられた衝撃が樹脂成分の界面(即ち、ポリプロピレン樹脂とポリメチルペンテン樹脂の界面)に対し、十分に伝播するため、抄紙時の撹拌といった軽い衝撃で高度に分割することができ、分割性も良好である。本発明の分割型複合繊維において、ポリメチルペンテン樹脂の結晶性は、後述するように、分割型複合繊維に対してJIS K 7121に準じて示差走査熱量測定(DSC)を行うことで評価することができる。
【0028】
前記ポリメチルペンテン樹脂は、融点が210℃以上245℃以下であることが好ましい。前記ポリメチルペンテン樹脂の融点が210℃以上245℃以下であると、紡糸が容易になり、また、延伸性にも優れる。
【0029】
前記ポリメチルペンテン樹脂は、ASTM D 1238に準ずるメルトフローレート(以下、MFR260とも記す;測定温度260℃、荷重5.0kgf(49.0N))が120g/10分以上280g/10分以下でことが好ましく、140g/10分以上260g/10分以下の範囲であることがより好ましく、160g/10分以上260g/10分以下の範囲であることがより好ましく、170g/10分以上250g/10分以下の範囲であることが特に好ましい。MFR260が上述した範囲を満たすポリメチルペンテン樹脂を使用することで優れた延伸性及び分割性を有する分割型複合繊維が得られやすい。前記ポリメチルペンテン樹脂のMFR260が120g/10分以上であるとポリメチルペンテン樹脂の延伸性が良好になり、延伸処理において充分に延伸できるうえ、延伸処理において糸切れの発生も少ない。また、前記ポリメチルペンテン樹脂のMFR260が280g/10分以下であると、延伸性に優れた分割型複合繊維が得られるうえ、ポリメチルペンテン樹脂とポリプロピレン樹脂との接合界面が強く接着せず、分割が容易であり、分割性が低下する恐れもない。
【0030】
第2成分は、
図2に示すように、ポリメチルペンテン樹脂が鞘成分2bである芯鞘型複合セグメントであってもよい。かかる構成であると、分割型複合繊維を割繊させることにより、第2成分に由来する芯鞘型極細複合繊維が形成される。そして、芯鞘型極細複合繊維の鞘成分であるポリメチルペンテン樹脂のみを溶融させることにより、分割型複合繊維の分割により形成された極細繊維同士を熱接着させることができ、突刺強度と引張強度に優れた繊維集合物を得ることができる。
【0031】
第2成分が芯鞘型複合セグメントである場合、芯成分2aは上述した第1成分におけるポリプロピレン樹脂と同様の樹脂であることが好ましい。かかる構成であると、分割型複合繊維が2つの樹脂成分で構成されることになり、ノズル設計及び複合紡糸がより容易となる。また、第2成分も突刺強度を向上させる機能を有するポリプロピレン樹脂を含むことに起因して、不織布とした際に、突刺強度がさらに向上した不織布を得ることができる。なお、芯成分は、上述したポリプロピレン樹脂とは異なる他のポリオレフィン系樹脂を用いてもよい。この場合、芯成分としては、ポリオレフィン系樹脂の中から、一種又は二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0032】
第2成分が芯鞘型複合セグメントである場合、第2成分の芯成分2aの断面形状は特に限定されない。芯成分は、例えば、楕円形状の断面形状を有してもよく、真円形状の断面形状を有してもよい。また、芯成分は、第2成分の中心に位置していてもよく、中心に位置せず、偏心していてもよい。
【0033】
第2成分が芯鞘型複合セグメントである場合、第2成分において、鞘成分を構成するポリメチルペンテン樹脂は、芯成分を構成する樹脂成分の融点よりも低い融点を有することが好ましい。その場合、鞘成分の融点は、好ましくは芯成分の融点よりも10℃以上低く、より好ましくは20℃以上低い。或いは、鞘成分を構成する樹脂成分の融点は、芯成分を構成する樹脂成分の融点より高くてもよい。
【0034】
本発明の分割型複合繊維の分割数(すなわち、セグメントの総数)は、分割型複合繊維の繊度及び極細繊維の繊度に応じて決めることができる。例えば、4以上36以下とすることが好ましく、6以上30以下とすることがより好ましく、8以上24以下とすることがさらに好ましい。前記分割型複合繊維は、分割数が小さくなると分割性が向上する傾向にあるが、第1成分と第2成分の界面が少なすぎると、細繊度の繊維を得にくい傾向にある。さらに、分割数が少なすぎると、所定の繊度の極細繊維を得るために、分割型複合繊維の繊度を小さくする必要があり、繊維の生産性が悪くなる、又は紡糸が困難となる場合がある。分割数が多いと、第1成分と第2成分の界面が多くなり、細繊度の繊維を得やすい傾向にある。
【0035】
前記分割型複合繊維は、
図1A、
図1C及び
図2Aに示しているように、繊維断面の中央部に、中空部分が形成されていることが好ましい。ここで、繊維断面の中央部とは、繊維断面のほぼ中心付近のことを指し、中空部分は、中央部が空洞となっていれば、中心(同心)に位置しなくても偏心していてもよいが、生産性から考慮すると、同心に位置することが好ましい。また、中空部分の形状も円形、楕円形、異形のいずれであってもよい。このように、中空部分が存在することにより、第1成分と第2成分の接触面積が小さくなり、分割性が繊維中央部に中空部分を有しない中実断面の分割型複合繊維と比べて向上し、低水圧の水流交絡処理、湿式抄紙法におけるスラリー調製時の離解、叩解処理などの低い衝撃であっても高度に分割することができる。そして、繊維中央部に中空部分を有する構成であると、繊維中央部に中空部分を有しない分割型複合繊維と比較して、繊維集合物の引張強度及び突刺強度をより高くすることができる。これは、繊維中央部に中空部分を有する分割型複合繊維の割繊により形成される極細繊維の繊維断面がより円形に近い形状となるためであると予想される。また、かかる構成であると、分割型複合繊維の紡糸時の糸切れを抑制することができる。
【0036】
前記分割型複合繊維が中空部分を有する場合、その中空率は、分割率及び極細繊維の断面形状などに応じて決定してもよい。中空率は、繊維断面に占める中空部分の面積の割合である。例えば、中空率は1%以上50%以下程度であることが好ましく、5%以上40%以下程度であることが好ましい。より具体的には、分割数が6以上10以下である場合には、中空率は5%以上20%以下であることが好ましく、分割数が12以上36以下である場合には、中空率は15%以上40%以下であることが好ましい。中空率が小さすぎると、中空部分を設けた際の効果を顕著に得ることが難しく、中空率が大きすぎると、分割型複合繊維の延伸工程や、開繊工程において、分割型複合繊維が割繊してしまい、取り扱い性が低下する恐れがある。
【0037】
第1成分と第2成分との複合比(体積比)第1成分:第2成分は、繊維の分割性及び工程性の面から40:60~85:15が好ましく、50:50~80:20がより好ましい。
【0038】
第2成分が芯鞘型複合セグメントである場合には、[第1成分+第2成分の芯成分]:[第2成分の鞘成分]の体積比が、好ましくは40:60~85:15、より好ましくは50:50~80:20となるように、繊維断面を設計する。2つの樹脂成分の体積比が40:60~85:15の範囲外であると、紡糸性が低下し、また、良好な分割性が得にくいことがある。例えば、[第1成分+第2成分の芯成分]:[第2成分の鞘成分]の体積比が50:50である場合には、第1成分の体積は、第2成分全体の体積よりも小さくなることに留意すべきである。
【0039】
前記分割型複合繊維の単繊維繊度(分割前)は、特に限定されないが、0.1dtex以上8dtex以下の範囲内にあることが好ましく、0.6dtex以上6dtex以下の範囲内にあることがより好ましく、1dtex以上4dtex以下の範囲内にあることがさらに好ましい。前記分割型複合繊維の分割前の単繊維繊度を0.1dtex未満にしようとすると、紡糸が不安定となり、繊維ひいては繊維集合物の生産性が低下する恐れがある。同様に、前記分割型複合繊維の分割前の単繊維繊度が8dtexを超えても、紡糸が不安定になる場合がある。
【0040】
前記分割型複合繊維は、分割前の単繊維強度が3cN/dtex以上であることが好ましく、4cN/dtex以上であることがより好ましく、5cN/dtex以上であることがさらに好ましい。好ましい上限は10cN/dtexである。前記分割型複合繊維の単繊維強度が3cN/dtex以上であると、優れた突刺強度を有する繊維集合物を得ることができる。このような単繊維強度を有する分割型複合繊維は、後述するように、延伸倍率を4.5倍以上とすることで容易に得ることができる。本発明において、単繊維強度は、JIS L 1015に準じて測定する。
【0041】
前記分割型複合繊維は、分割前の伸度が60%以下であることが好ましく、50%以下であることがより好ましく、45%以下であることがさらに好ましい。前記分割型複合繊維の繊維伸度が60%以下であると、外力により伸長しにくい繊維集合物を得ることができる。特に電池セパレータを構成する繊維として用いると、製造工程での伸長を抑えることができるため、収縮の小さい電池セパレータを得ることができる。本発明において、伸度は、JIS L 1015に準じて測定する。前記分割型複合繊維の分割前の伸度について、その下限は特に限定されないが、伸度が10%以上であることが好ましく、12%以上であることがより好ましく、15%以上であることが特に好ましい。
【0042】
前記分割型複合繊維は、Q値が3.5以上6未満であるポリプロピレン樹脂を含む第1成分と、ポリメチルペンテン樹脂を含む第2成分を含む分割型複合繊維である。第1成分に含まれるポリプロピレン樹脂をQ値が3.5以上6未満のポリプロピレン樹脂とすることで第1成分だけでなく第2成分の結晶化が進み、得られる分割型複合繊維は分割処理によって容易に第1成分と第2成分に分割され、極細繊維を発生させることができる。第1成分に含まれるポリプロピレン樹脂、及び第2成分に含まれるポリメチルペンテン樹脂の結晶化が進んでいることは、得られた分割型複合繊維を用いた示差走査熱量測定(DSC)を行い、ポリメチルペンテン樹脂の融解熱量及び融解熱量の比、並びにポリプロピレン樹脂の融解熱量及び融解熱量の比から確認することができる。
【0043】
分割型複合繊維を構成するポリプロピレン樹脂及びポリメチルペンテン樹脂の融解熱量を示差走査熱量分析(DSC)から求める。DSCの測定はJIS K 7121に準じて行う。まず、DSCの測定を行う分割型複合繊維について、ポリプロピレン樹脂及びポリメチルペンテン樹脂の質量割合を求める。ポリプロピレン樹脂及びポリメチルペンテン樹脂の含有量は、DSC測定を行う分割型複合繊維の製造条件、具体的には、溶融紡糸の際、溶融したポリプロピレン樹脂及びポリメチルペンテン樹脂について、単位時間あたりの押し出し量が分かる場合は、その比率から第1成分及び第2成分の比率(体積比)を求め、ポリプロピレン樹脂及びポリメチルペンテン樹脂の密度、第1成分に占めるポリプロピレン樹脂の質量割合、第2成分に占めるポリメチルペンテン樹脂の質量割合から分割型複合繊維に占めるポリプロピレン樹脂及びポリメチルペンテン樹脂の質量割合が求められる。
【0044】
DSC測定を行う分割型複合繊維について、詳細な製造条件が不明な場合、公知の方法で分割型複合繊維に含まれるポリプロピレン樹脂及びポリメチルペンテン樹脂の質量割合を求める。分割型複合繊維に含まれるポリプロピレン樹脂及びポリメチルペンテン樹脂の割合を求める方法としては、DSCの測定を行う分割型複合繊維の断面を走査型電子顕微鏡にて500倍~2000倍に拡大したものを印刷し、第1成分ごと、第2成分ごとに印刷したものを切り抜き、第1成分の紙片の総質量、第2成分の紙片の総質量を測定し、その比率を第1成分及び第2成分の比率(体積比)とし、ポリプロピレン樹脂及びポリメチルペンテン樹脂の密度、第1成分に占めるポリプロピレン樹脂の質量割合、第2成分に占めるポリメチルペンテン樹脂の質量割合から分割型複合繊維に占めるポリプロピレン樹脂及びポリメチルペンテン樹脂の質量割合を求める方法などが挙げられる。
【0045】
次に、分割型複合繊維に占めるポリプロピレン樹脂及びポリメチルペンテン樹脂の質量割合を求めた分割型複合繊維を用い、JIS K 7121に準じてDSCの測定を行う。DSCの測定は融解過程、冷却過程、再融解過程で行う。まず、試料ホルダーに充填した分割型複合繊維(約3mg)を、当該分割型複合繊維に含まれる熱可塑性樹脂の中で最も融点が高い熱可塑性樹脂の融点より30℃高い温度まで昇温する。このとき、融解過程のDSC、言い換えるならば、1度目の融解時のDSC(Tm測定時DSCとも称す。)が得られる。
【0046】
分割型複合繊維に含まれる熱可塑性樹脂の中で、最も融点が高い熱可塑性樹脂の融点より30℃高い温度まで昇温させて融解過程のDSCを行った後、当該温度から室温まで毎分10℃の降温速度となるように冷却し、溶融した試料を凝固させる、このとき、冷却過程のDSC、言い換えるならば、凝固時のDSC(Tc測定時DSCとも称す。)が得られる。
【0047】
融解過程及び冷却過程のDSC測定が終わった後、試料をDSC測定機器から取り出さず、当該分割型複合繊維に含まれる熱可塑性樹脂の中で、最も融点が高い熱可塑性樹脂の融点より30℃高い温度まで再度昇温する。このとき、再融解過程のDSC、言い換えるならば、2度目の融解時のDSC(再Tm測定時DSCとも称す。)が得られる。
【0048】
得られた1度目の融解時のDSC(Tm測定時DSC)及び2度目の融解時のDSC(再Tm測定時DSC)のDSCチャートには少なくとも2つの吸熱ピークが存在する。即ち、140℃から180℃で観察されるポリプロピレン樹脂の融解に伴う吸熱ピークと、220℃から250℃の温度にて観察されるポリメチルペンテン樹脂の融解に伴う吸熱ピークである。
【0049】
DSC測定では、各吸熱ピークにおいてDSCチャート(DSC曲線)と、低温側のベースライン(BLLT)を、その高温側終端部から高温側ベースライン(BLHT)に向けて延長した直線(BLE)で囲まれる領域の面積から当該吸熱ピークにおける融解熱量が算出される。このとき、各吸熱ピークで測定される融解熱量は試料全体、即ち分割型複合繊維1mgあたりの融解熱量として測定されている。しかし、140℃から180℃の温度領域で相が変化し融解しているのはポリプロピレン樹脂であり、融点が200℃以上であるポリメチルペンテン樹脂は、この温度領域ではほとんど相変化しないを考えられる。従って、140℃から180℃の温度領域で測定される吸熱ピーク及びその融解熱量を、分割型複合繊維1mgあたりの融解熱量からポリプロピレン1mgあたりの融解熱量に換算する。即ち、下記数式(1)に基づいて、140℃から180℃の温度領域で測定された融解熱量を、あらかじめ計算しておいた、分割型複合繊維に占めるポリプロピレンの質量割合で割ることでポリプロピレン樹脂1mgあたりの融解熱量が求められる。例えば、140℃から180℃にて現れた融解ピークの融解熱量が50mJ/mg、複合繊維に占めるポリプロピレン樹脂の含有量が50質量%であれば、当該分割型複合繊維に含まれるポリプロピレン樹脂1mgあたりの融解熱量は100mJ/mgである。
ポリプロピレン樹脂1mgあたりの融解熱量(mJ/mg)=140℃から180℃にて現れた融解ピークの融解熱量(mJ/mg)/ポリプロピレン樹脂の質量割合(質量%)×100 (1)
【0050】
また、220℃から250℃の温度領域では、融点が175℃以下であるポリプロピレン樹脂は既に溶融しており、相変化はほとんどしないと考えられる。この温度領域で相変化し、融解するのはポリメチルペンテン樹脂である。よって、220℃から250℃に現れた吸熱ピーク及び融解熱量を、分割型複合繊維1mgあたりの融解熱量からポリメチルペンテン1mgあたりの融解熱量に換算する。換算する方法は上記ポリプロピレンの融解熱量を求める場合と同じであり、220℃から250℃にて測定された分割型複合繊維1mgあたりの融解熱量を、あらかじめ計算しておいた複合繊維に占めるポリメチルペンテン樹脂の含有量(質量%)で割ることでポリメチルペンテン樹脂1mgあたりの融解熱量が求められる。例えば、下記数式(2)に基づいて、220℃から250℃にて現れた融解ピークの融解熱量が20mJ/mg、複合繊維に占めるポリメチルペンテン樹脂の含有量が50質量%であれば、当該分割型複合繊維に含まれるポリメチルペンテン樹脂1mgあたりの融解熱量は40mJ/mgである。
ポリメチルペンテン樹脂1mgあたりの融解熱量(mJ/mg)=220℃から250℃にて現れた融解ピークの融解熱量(mJ/mg)/ポリメチルペンテン樹脂の質量割合(質量%)×100 (2)
【0051】
前記分割型複合繊維に含まれるポリプロピレン樹脂1mgあたりの融解熱量及びポリメチルペンテン樹脂1mgあたりの融解熱量を、1度目の融解時のDSC(Tm測定時DSC)及び2度目の融解時のDSC(再Tm測定時DSC)から算出する。前記分割型複合繊維を用いてDSCの測定を行い、1度目の融解時のDSCから求めた、分割型複合繊維に含まれるポリプロピレン樹脂1mgあたりの融解熱量をΔHPPTm1、2度目の融解時のDSCから求めた、分割型複合繊維に含まれるポリプロピレン樹脂1mgあたりの融解熱量をΔHPPTm2、1度目の融解時のDSCから求めた、分割型複合繊維に含まれるポリメチルペンテン樹脂1mgあたりの融解熱量をΔHPMPTm1、2度目の融解時のDSCから求めた、分割型複合繊維に含まれるポリメチルペンテン樹脂1mgあたりの融解熱量をΔHPMPTm2と称す。
【0052】
前記分割型複合繊維において、1度目の融解時のDSCから求めた、分割型複合繊維に含まれるポリプロピレン樹脂1mgあたりの融解熱量(ΔHPPTm1)と、2度目の融解時のDSCから求めた、ポリプロピレン樹脂1mgあたりの融解熱量(ΔHPPTm2)を比較すると、1度目の融解時のDSCから求めた、ポリプロピレン樹脂1mgあたりの融解熱量(ΔHPPTm1)の方が大きい。また、1度目の融解時のDSCから求めた、分割型複合繊維に含まれるポリメチルペンテン樹脂1mgあたりの融解熱量(ΔHPMPTm1)と、2度目の融解時のDSCから求めた、ポリメチルペンテン樹脂1mgあたりの融解熱量(ΔHPMPTm2)を比較すると、1度目の融解時のDSCから求めた、ポリメチルペンテン樹脂1mgあたりの融解熱量(ΔHPMPTm1)の方が大きい。
【0053】
これは、1度目の融解時のDSC(融解過程のDSC)測定において、試料が繊維の状態であり、ポリプロピレン樹脂及びポリメチルペンテン樹脂共に結晶化が進んだ相を有しているためである。分割型複合繊維に含まれるポリプロピレン樹脂及びポリメチルペンテン樹脂は、高い延伸倍率で延伸処理を行うなどして結晶化させると、結晶化が進んでいない相と比較して融解時により多くのエネルギーが必要になる。これに対し、2度目の融解時のDSC(再融解過程のDSC)測定において、分割型複合繊維を前記融解過程で完全に融解した後、冷却して凝固したものを試料としている。そのため、ポリプロピレン樹脂及びポリメチルペンテン樹脂は結晶化がほとんど進んでいないと考えられ、2度目の融解時のDSCにて求めたポリプロピレン樹脂1mgあたりの融解熱量及びポリメチルペンテン樹脂1mgあたりの融解熱量は、1度目の融解時のDSCから求めたポリプロピレン樹脂及びポリメチルペンテン樹脂1mgあたりの融解熱量よりも小さくなる。
【0054】
前記分割型複合繊維において、1度目の融解時のDSC(融解過程のDSC)から求めた、分割型複合繊維に含まれるポリプロピレン樹脂1mgあたりの融解熱量(ΔHPPTm1)と2度目の融解時のDSC(再融解過程のDSC)から求めたポリプロピレン樹脂1mgあたりの融解熱量(ΔHPPTm2)の比率(ΔHPPTm1/ΔHPPTm2)や、1度目の融解時のDSC(融解過程のDSC)から求めた、分割型複合繊維に含まれるポリメチルペンテン樹脂1mgあたりの融解熱量(ΔHPMPTm1)と2度目の融解時のDSC(再融解過程のDSC)から測定される分割型複合繊維に含まれるポリメチルペンテン樹脂1mgあたりの融解熱量(ΔHPMPTm2)の比率(ΔHPMPTm1/ΔHPMPTm2)が大きいほど、当該熱可塑性樹脂は、分割型複合繊維において結晶化が進んだ状態であるといえる。
【0055】
前記分割型複合繊維は、JIS K 7121に準じた示差走査熱量測定(DSC)を行い、1度目の融解時のDSCから求めた、分割型複合繊維に含まれるポリメチルペンテン樹脂1mgあたりの融解熱量(ΔHPMPTm1)が36.5mJ/mg以上であることが好ましい。1度目の融解時のDSCから求めたポリメチルペンテン樹脂1mgあたりの融解熱量(ΔHPMPTm1)が36.5mJ/mg以上であることで、分割型複合繊維を構成する第2成分に含まれているポリメチルペンテン樹脂は、Q値が3.5以上6未満のポリプロピレン樹脂を含む第1成分と複合化して溶融紡糸、延伸工程を行ったことで結晶化が十分に進んでおり、得られる分割型複合繊維は分割しやすいものとなる。前記ΔHPMPTm1は38mJ/mg以上であることが好ましく、40mJ/mg以上であることがより好ましい。ΔHPMPTm1の上限は特に限定されないが52mJ/mg以下であることが好ましく、50mJ/mg以下であることがより好ましい。
【0056】
前記分割型複合繊維は、JIS K 7121に準じた示差走査熱量測定(DSC)を行い、1度目の融解時のDSCから求めた、分割型複合繊維に含まれるポリプロピレン1mgあたりの融解熱量(ΔHPPTm1)が95mJ/mg以上であることが好ましい。ポリプロピレン樹脂1mgあたりの融解熱量が95mJ/mg以上であることで、分割型複合繊維を構成する第1成分に含まれているポリプロピレン樹脂は結晶化が十分に進んでおり、得られる分割型複合繊維は分割しやすいものとなる。前記ΔHPPTm1は98mJ/mg以上であることが好ましく、100mJ/mg以上であることがより好ましい。ΔHPPTm1の上限は特に限定されないが150mJ/mg以下であることが好ましく、140mJ/mg以下であることがより好ましく、130mJ/mg以下であることが特に好ましい。
【0057】
前記分割型複合繊維は、JIS K 7121に準じた示差走査熱量測定(DSC)を行い、1度目の融解時のDSCから求めた、分割型複合繊維に含まれるポリメチルペンテン樹脂1mgあたりの融解熱量(ΔHPMPTm1)と、2度目の融解時のDSCから求めた、分割型複合繊維に含まれるポリメチルペンテン樹脂1mgあたりの融解熱量(ΔHPMPTm2)の比、即ち(ΔHPMPTm1)/(ΔHPMPTm2)が1.62以上であることが好ましい。(ΔHPMPTm1)/(ΔHPMPTm2)が1.62以上であることで、分割型複合繊維を構成するポリメチルペンテン樹脂が十分に結晶化しており、分割型複合繊維が第1成分と第2成分に分割されやすいだけでなく、分割型複合繊維を含む繊維集合物が引張り強度や突き刺し強力といった機械的特性に優れたものとなる。1度目の融解時のDSCから求めた、ポリメチルペンテン樹脂1mgあたりの融解熱量と、2度目の融解時のDSCから求めた、ポリメチルペンテン樹脂1mgあたりの融解熱量の比(ΔHPMPTm1/ΔHPMPTm2)は1.65以上であるとより好ましく、1.68以上であると特に好ましく、1.7以上であると最も好ましい。1度目の融解時のDSCから求めた、ポリメチルペンテン樹脂1mgあたりの融解熱量と、2度目の融解時のDSC曲線から得られた、ポリメチルペンテン樹脂1mgあたりの融解熱量の比(ΔHPMPTm1/ΔHPMPTm2)は特に上限値が限定されないものの、2以下であることが好ましく、1.95以下であることがより好ましく、1.92以下であることが特に好ましい。
【0058】
前記分割型複合繊維は、JIS K 7121に準じた示差走査熱量測定(DSC)を行い、1度目の融解時のDSCから求めた、分割型複合繊維に含まれるポリプロピレン樹脂1mgあたりの融解熱量(ΔHPPTm1)と、2度目の融解時のDSCから求めた、分割型複合繊維に含まれるポリプロピレン樹脂1mgあたりの融解熱量(ΔHPPTm2)の比、即ち(ΔHPPTm1)/(ΔHPPTm2)が1.16以上であることが好ましい。(ΔHPPTm1)/(ΔHPPTm2)が1.16以上であることで、分割型複合繊維を構成するポリプロピレン樹脂が十分に結晶化しており、分割型複合繊維が第1成分と第2成分に分割されやすいだけでなく、分割型複合繊維を含む繊維集合物が引張り強度や突き刺し強力といった機械的特性に優れたものとなる。1度目の融解時のDSCから求めた、ポリプロピレン樹脂1mgあたりの融解熱量と、2度目の融解時のDSCから求めた、ポリプロピレン樹脂1mgあたりの融解熱量の比(ΔHPPTm1/ΔHPPTm2)は1.18以上であるとより好ましく、1.20以上であると特に好ましく、1.21以上であると最も好ましい。1度目の融解時のDSCから求めた、分割型複合繊維に含まれるポリプロピレン樹脂1mgあたりの融解熱量と、2度目の融解時のDSC曲線から得られた、ポリプロピレン樹脂1mgあたりの融解熱量の比(ΔHPPTm1/ΔHPPTm2)は特に上限値が限定されないものの、1.5以下であることが好ましく、1.4以下であることがより好ましく、1.3以下であることが特に好ましい。
【0059】
(極細繊維)
前記分割型複合繊維を分割して、第1成分に由来する極細繊維Aと、第2成分に由来す極細繊維Bを形成することができる。すなわち、分割型複合繊維を構成する各成分が分割型複合繊維の割繊に伴いそれぞれ独立し、それぞれ極細繊維を形成する。
【0060】
極細繊維A及び/又は極細繊維Bは、繊維断面において、外周(繊維断面の輪郭)の任意の二点を結ぶ線分のうち最も長い線分をL、極細繊維の断面積と等しい面積の円の直径をDとしたとき、1≦L/D≦2を満たす断面形状であることが好ましい。極細繊維Aが、1≦L/D≦2を満たす断面形状であると、断面形状がより円形に近い形状になることに起因して、扁平な断面形状の極細繊維と比較して、繊維集合物の突刺強度がより高くなる。
【0061】
特に優れた突刺強度を有する繊維集合物を得る観点から、極細繊維Aは、1≦L/D≦1.8を満たす断面形状であることがより好ましく、L/Dが1.6以下である断面形状を有することがさらに好ましく、極細繊維Bは、1≦L/D≦1.4を満たす断面形状であることがより好ましく、L/Dが1.2以下である断面形状を有することがさらに好ましい。
【0062】
上述のような断面形状を有する極細繊維は、例えば、分割型複合繊維の繊維断面構造を、各成分が放射状に交互に配列された断面構造に調整することにより得られる。さらに、上記分割型複合繊維において、繊維中心部に中空部分を有する繊維断面構造とすることにより、上記特定の断面形状を有する極細繊維を簡易に得ることができる。
【0063】
極細繊維A及び/又は極細繊維Bは、単繊維繊度が0.6dtex未満であることが好ましく、0.4dtex未満であることがより好ましい。極細繊維の単繊維繊度が0.6dtex未満であると、厚みの薄い繊維集合物を得やすくなる。なお、極細繊維Aと極細繊維Bの単繊維繊度は、互いに異なっていてもよく、いずれの極細繊維についても、単繊維繊度の下限は、好ましくは0.02dtexである。
【0064】
特に、極細繊維Bが芯鞘型である場合には、極細繊維Bの単繊維繊度は、0.4dtex未満であることが好ましい。繊維集合物において、芯鞘型複合繊維が含まれている場合、芯鞘型複合繊維の繊度が小さいほど、芯鞘型複合繊維の表面積が大きくなるため、熱接着面積が大きくなり、熱接着後の繊維集合物の機械的強度がより高くなる。よって、極細繊維Bが芯鞘型極細複合繊維である場合は、繊度がより小さいことが好ましい。
【0065】
(ポリオレフィン系分割型複合繊維の製造方法)
次に、本発明のポリオレフィン系分割型複合繊維の製造方法を説明する。前記分割型複合繊維は、例えば、ポリプロピレン樹脂を含有する第1成分と、ポリメチルペンテン樹脂を含有する第2成分とを分割型の複合ノズルを用いて溶融紡糸して未延伸状態の紡糸フィラメント(未延伸繊維束)にし、得られた未延伸繊維束を延伸することにより得られる。
【0066】
具体的には、先ず、溶融紡糸機に所定の繊維断面が得られる分割型の複合ノズルを装着し、繊維断面において第1成分と第2成分が隣接し、互いに分割された構造となるように、紡糸温度200℃以上330℃以下で、ポリプロピレン樹脂を50質量%含む第1成分及びポリメチルペンテン樹脂を50質量%含む第2成分を押出して溶融紡糸し、未延伸繊維束、すなわち未延伸状態の紡糸フィラメントを得る。第1成分が上述したQ値、Mn及びMzを有するポリプロピレン樹脂を50質量%以上含むため、紡糸温度を200℃以上330℃にすることができ、それゆえ、生産時のエネルギーコストを削減することができ、生産性も向上する。また、上述したQ値、Mn及びMzを有するポリプロピレン樹脂を50質量%以上含む第1成分は、第2成分とほぼ同等の温度で溶融させて溶融紡糸を行うことができるだけでなく、溶融紡糸時にポリプロピレン樹脂及びポリメチルペンテン樹脂の溶融粘度が近いものとなり、溶融紡糸で得られる未延伸繊維において、その断面形状が安定しやすくなり、安定して生産できる。また、このような樹脂特性を有するポリプロピレン樹脂は、延伸温度の範囲、より具体的には120℃~145℃の範囲において、その延伸性がポリメチルペンテン樹脂の延伸性と同等な状態になりやすいと考えられ、このようなポリプロピレン樹脂と接合した状態(即ち分割型複合繊維)にすることで、ポリメチルペンテン樹脂の延伸性が良好になり、ポリプロピレン樹脂の結晶性と同様にポリメチルペンテン樹脂の結晶性も良好になる。例えば、第1成分の紡糸温度(押出温度)は250℃以上330℃以下が好ましく、260℃以上310℃以下がより好ましく、270℃以上290℃以下がさらに好ましい。ポリメチルペンテン樹脂を含む第2成分の紡糸温度(押出温度)は、特に限定されない。例えば、245℃以上330℃以下が好ましく、250℃以上310℃以下がより好ましい。
【0067】
前記溶融紡糸において、特に限定されないが、安定的に紡糸フィラメントを得る観点から、引取速度は360m/分以上1200m/分以下であることが好ましく、450m/分以上1050m/分以下であることがより好ましく、550m/分以上900m/分以下であることがさらに好ましい。
【0068】
得られた紡糸フィラメントの単繊維繊度は、1dtex以上15dtex未満の範囲内であることが好ましい。紡糸フィラメントの単繊維繊度が1dtex未満であると、紡糸時の糸切れが多発する傾向がある。一方、紡糸フィラメントの単繊維繊度が15dtex以上であると、高度な延伸が必要になるか又は分割後の単繊維繊度が大きくなって、極細繊維を得にくい傾向がある。紡糸フィラメントを高度に延伸して、分割性を向上させる場合には、紡糸フィラメントの単繊維繊度は、1.5dtex以上12dtex以下であることがより好ましく、1.8dtex以上10dtex以下であることが特に好ましく、2dtex以上9dtex以下であることが最も好ましい。
【0069】
次いで、紡糸フィラメントに対して延伸処理を行うことで延伸フィラメントが得られる。延伸処理は、延伸温度を80℃以上150℃未満の範囲内の温度に設定して実施することが好ましい。なお、延伸処理は、分割型複合繊維を構成する樹脂成分のうち、もっとも融点の低い樹脂の融点以下で行うことが好ましい。延伸温度は、より好ましくは100℃以上145℃以下であることが好ましく、120℃以上140℃以下であることがより好ましく、125℃以上140℃以下であることがさらに好ましく、130℃以上138℃以下であることが特に好ましい。かかる延伸温度で延伸処理を行うと、一般に延伸性されにくいポリメチルペンテン樹脂を含む場合であっても、高度に延伸することができる。
【0070】
延伸工程において、特に限定されないが、分割型複合繊維に含まれるポリプロピレン樹脂及びポリメチルペンテン樹脂の結晶性を高め、得られる分割型複合繊維の分割性を高める観点から、総延伸倍率が5倍以上であることが好ましい。総延伸倍率が5倍以上であることで、分割型複合繊維に含まれるポリプロピレン樹脂及びポリメチルペンテン樹脂が十分に結晶化することで得られる分割型複合繊維の分割性が良好になるだけでなく、分割型複合繊維及びそれを分割して得られる極細繊維の単繊維強度が高くなるため、これらを用いた繊維集合物の引張り強度や突き刺し強度といった機械的強度が高いものとなる。また、総延伸倍率が5倍以上であることで、得られる分割型複合繊維及びそれを分割して得られる極細繊維の繊度が十分に小さいものとなり、これらを用いた繊維集合物は地合いの良好な緻密な構造を持った繊維集合物が得られやすくなる。延伸工程において、総延伸倍率は5.3倍以上であることがより好ましく、5.5倍以上であることが特に好ましい。延伸工程において、生産性の観点、即ち延伸工程における糸切れが多発せず、紡糸フィラメントが均一に引き延ばされるようになる、といった点から、総延伸倍率は8倍以下であることが好ましく、7.5倍以下であることがより好ましく、7倍以下であることが特に好ましく、6.5倍以下であることが最も好ましい。
【0071】
延伸工程において、総延伸倍率は、最大延伸倍率の60%以上95%以下であることが好ましい。総延伸倍率が最大延伸倍率の60%以上95%以下であると、一般に延伸性されにくい糸切れが発生しやすいポリメチルペンテン樹脂を含む繊維であっても延伸工程で糸切れが発生しにくく、高度に延伸することができる。
【0072】
また、延伸工程において、繊維の結晶化が進みやすく、充分に細繊度の分割型複合繊維が得られるように、総延伸倍率は最大延伸倍率の60%以上95%以下であり、かつ5倍以上8倍以下であることが好ましい。延伸方法は、湿式延伸法及び乾式延伸法のいずれであってもよい。熱媒としては、空気、蒸気、水、グリセリン等の油類等を適宜用いることができる。湿式延伸法の場合、液体中で加熱しながら延伸を行うことができ、例えば、熱水又は温水中で延伸を行ってもよい。乾式延伸法の場合、高温の気体中又は高温の金属ロールなどで加熱しながら延伸を行うことができる。また、100℃以上の水蒸気を常圧若しくは加圧状態にして繊維を加熱しながら延伸を行う水蒸気延伸でもよい。
【0073】
延伸工程は、1段延伸であってもよく、2段以上の多段延伸であってもよい。1段延伸の場合、総延伸倍率は1段延伸の延伸倍率となる。多段延伸の場合は、総延伸倍率は、各段階の延伸倍率を乗ずることで求めることができる。例えば、130℃にて延伸倍率1.5倍の延伸工程を行い、その後140℃にて延伸倍率4倍の延伸工程を行った場合、この製造方法における総延伸倍率は6倍である。
【0074】
本発明において、「最大延伸倍率(Vmax)」は、下記のように測定したものをいう。分割型複合ノズルを用いて溶融紡糸を行い、得られた未延伸繊維束を、表面温度を所定の温度に調整した金属ロールを用いて乾式延伸を行う。この際、上記未延伸繊維束を送り出すロールの送り出し速度(V1)を10m/分とし、巻き取る側の金属ロールの巻き取り速度(V2)を10m/分より徐々に増加させる。そして、未延伸繊維束が破断したときの巻き取る側の金属ロールの巻き取り速度を最大延伸速度とし、上記最大延伸速度と未延伸繊維束を送り出すロールの送り出し速度との比(V2/V1)を求め、得られた速度比を最大延伸倍率(Vmax)とする。
【0075】
延伸処理を1回行う、いわゆる1段延伸の場合や、同じ延伸方法で、同じ延伸温度の延伸処理を複数回に分けて行う場合(例えば、120℃、2倍の乾式延伸を3回繰り返して行う場合や、120℃、1.5倍の乾式延伸を行った後、120℃ 4倍の乾式延伸を行う場合が該当する)、最大延伸倍率は当該延伸処理と同じ方法、同じ温度にて測定することができる。延伸処理を複数回行う、いわゆる多段延伸にて紡糸フィラメントを延伸する場合であって、延伸処理によって延伸温度が異なる場合は、より高温の延伸温度で処理を行う延伸処理と同一の延伸方法、延伸温度にて最大延伸倍率を測定する。
【0076】
延伸処理を複数回行う、いわゆる多段延伸にて紡糸フィラメントを延伸する場合であって、どの延伸処理も延伸温度が同じであるが、延伸方法が異なる場合(具体的には、130℃の水蒸気中にて延伸倍率3倍の条件で水蒸気延伸を行い、その後130℃に加熱した金属ロールにて延伸倍率2倍の条件で乾式延伸を行う場合が例として挙げられる)は、両方の方法で最大延伸倍率を測定し、大きい方の最大延伸倍率を、その製造条件における最大延伸倍率とする。
【0077】
得られた延伸フィラメントには、必要に応じて所定量の繊維処理剤が付着させられ、さらに必要に応じてクリンパー(捲縮付与装置)で機械捲縮が与えられる。繊維処理剤は、不織布を湿式抄紙法で製造する場合には、繊維を水等に分散させることを容易にする。また、繊維処理剤が付着した繊維に、繊維表面から外力を加えて(外力は、例えば、クリンパーによる捲縮付与の際に加わる力である)、繊維処理剤を繊維に染み込ませると、さらに水等への分散性が向上する。捲縮数は、5山/25mm以上30山/25mm以下の範囲内にあることが好ましく、10山/25mm以上20山/25mm以下の範囲内にあることがより好ましい。捲縮数が5山/25mm以上であると、クリンパーによる外力が加わることに起因して分割性が向上し、捲縮数が30山/25mm以下であると、繊維が凝集してダマになることが少ない又はない。
【0078】
繊維処理剤付与後の(又は繊維処理剤が付与されていないがウェットな状態にある)延伸フィラメントに80℃以上110℃以下の範囲内の温度で、数秒~約30分間、乾燥処理を施し、繊維を乾燥させる。乾燥処理は場合により省略してもよい。その後、延伸フィラメントは、好ましくは、繊維長が1mm以上100mm以下、より好ましくは2mm以上70mm以下となるように切断される。
【0079】
分割型複合繊維を含む乾式不織布を製造する場合、繊維処理剤付与後の(又は繊維処理剤が付与されていないがウェットな状態にある)延伸フィラメントを乾燥させる必要がある。延伸フィラメントを乾燥させる場合、延伸フィラメントを弛緩状態として60℃以上120℃以下の温度で乾燥処理を施すことができる。延伸フィラメントが十分に乾燥した後、所定の長さに切断し、乾式不織布の製造に適した分割型複合繊維となる。本発明の分割型複合繊維を用いて乾式不織布を製造する場合、その繊維長は特に限定されないが、繊維長を20mm以上100mm以下とすると好ましい。繊維長が20mm以上100mm以下であることで、乾式不織布を製造する際の生産性が安定する。乾式不織布を製造する際の繊維長は25mm以上80mm以下であるとより好ましく、25mm以上65mm以下であると特に好ましい。
【0080】
得られる分割型複合繊維を湿式不織布として繊維集合物にする場合、当該分割型複合繊維は湿潤状態でもよいし、乾燥状態でもよいが、水中分散性を考慮すると、湿潤状態にあることが好ましい。そのため、繊維処理剤付与後の(又は繊維処理剤が付与されていないがウェットな状態にある)延伸フィラメントは特に乾燥させる必要はなく、湿潤状態のまま、所望の繊維長に切断する。本発明の分割型複合繊維を用いて湿式不織布を製造する場合、その繊維長は特に限定されないが、繊維長を1mm以上20mm未満とすると好ましい。繊維長が1mm以上20mm未満であることで、湿式不織布を製造する際、繊維の水中分散性が良好なものとなる。湿式不織布を製造する際の繊維長は2mm以上15mm以下であるとより好ましく、3mm以上12mm以下であると特に好ましく、3mm以上10mm以下であると最も好ましい。
【0081】
(繊維集合物)
次に、本発明の分割型複合繊維を含む繊維集合物について説明する。繊維集合物の形態としては、特に限定されないが、例えば織物、編物及び不織布などが挙げられる。また、不織布の繊維ウェブ形態も特に限定されず、例えば、カード法により形成されたカードウェブ、エアレイ法により形成されたエアレイウェブ、湿式抄紙法により形成された湿式抄紙ウェブなどが挙げられる。
【0082】
前記繊維集合物において、前記分割型複合繊維の含有量は10質量%以上であることが好ましく、より好ましくは15質量%以上であり、特に好ましくは20質量%以上である。前記分割型複合繊維の含有量が10質量%以上であると、繊維集合物、例えば不織布中の前記分割型複合繊維の占める割合が多く、緻密な不織布が得られやすい傾向がある。前記繊維集合物において、前記分割型複合繊維の含有量の上限は特に限定されないが、対人及び/又は対物ワイパーといった各種ワイピング用の繊維集合物、ニッケル水素電池といった各種二次電池に使用する電池セパレータ用の繊維集合物並びにカートリッジフィルターや積層フィルターといった各種フィルターのろ過層用の繊維集合物であり、ある程度の構成繊維間の空隙やそれに伴う通気性、通液性が求められる繊維集合物の場合は、繊維集合物全体に対する分割型複合繊維の含有量は、好ましくは90質量%以下、より好ましくは75質量%以下、特に好ましくは50質量%以下である。乾式不織布、湿式不織布などの繊維集合物中に含まれる分割型複合繊維の割合が90質量%以下であると、得られた繊維集合物に含まれる分割型複合繊維に由来する極細繊維の割合が大きくなりすぎず、繊維集合物が必要以上に緻密な不織布となる恐れもない。また、前記分割型複合繊維を使用して湿式不織布を製作しようとする場合、前記分割型複合繊維の含有量が90質量%以下であると、湿式抄紙工程のスラリー調製時の離解処理において、未分割の分割型複合繊維がスラリー表面に浮遊する浮き種現象が発生しにくいため工程性も良好である。また、分割して発現した極細繊維同士及び極細繊維と他の繊維とが絡みつくことも少ないうえ、ファイバーボール現象を引き起こすことも少なく、地合の均一な不織布が得られやすい。繊維集合物を構成する繊維間空隙が少ない、特に緻密な繊維集合物が必要であれば、前記用途に使用される繊維集合物であっても分割型複合繊維の含有量が多い方が好ましく、前記分割型複合繊維の含有量が90質量%を超える繊維集合物や前記分割型複合繊維のみからなる繊維集合物であってもよい。
【0083】
前記繊維集合物において、前記分割型複合繊維以外に混合する他の繊維素材としては、特に限定されない。例えばコットン、パルプ、麻、ビスコースレーヨン、テンセル(登録商標)などのセルロース系繊維、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリ乳酸、ポリブチレンサクシネートなどのポリエステル系繊維、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン11、ナイロン12などのポリアミド系繊維、アクリル系繊維などを用いることができる。また、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレンなどのポリエチレンの単一繊維、通常のチーグラ・ナッタ触媒やメタロセン触媒を使用して重合されるアイソタクチック、アタクチック、シンジオタクチックなどのポリプロピレンの単一繊維、若しくはこれらのポリオレフィンのモノマー同士の共重合ポリマー、又はこれらのポリオレフィンを重合する際にメタロセン触媒(カミンスキー触媒ともいう。)を使用したポリオレフィンなどのポリオレフィン系繊維を用いることができる。また、ポリカーボネート、ポリアセタール、ポリスチレン、環状ポリオレフィンなどのエンジニアリング・プラスチックで構成された繊維などを用いることができる。また、上述した繊維を単独又は二種以上組み合わせて使用することができる。また、繊維形状も特に限定されず、例えば単一繊維、鞘芯型複合繊維、偏心鞘芯型複合繊維、多芯芯鞘型複合繊維、並列型複合繊維、海島型複合繊維、分割型複合繊維などが挙げられる。また、繊維断面が円状、異形状などのいずれであってもよい。
【0084】
前記繊維集合物は、90質量%以下の範囲でバインダー繊維を含んでよい。前記繊維集合物におけるバインダー繊維の含有量は、より好ましくは85質量%以下であり、さらに好ましくは80質量%以下である。バインダー繊維(熱接着繊維)は、例えば、鞘芯型複合繊維であってもよく、上記の芯鞘型極細複合繊維であってもよい。熱接着繊維を含む繊維集合物は、構成繊維同士を接着させることにより、引張強度及び突刺強度に優れた繊維集合物となる。
【0085】
前記繊維集合物は、分割型複合繊維の分割により形成された極細繊維を10質量%以上の割合で含むことが好ましい。すなわち、繊維集合物は、極細繊維Aと極細繊維Bとを合わせて10質量%以上の割合で含むことが好ましい。また、繊維集合物は、極細繊維をより好ましくは20質量%以上の割合で含み、さらに好ましくは35質量%以上の割合で含む。好ましい上限は100質量%である。繊維集合物中の分割型複合繊維の占める割合が多いと、緻密な不織布が得られやすい傾向がある。
【0086】
前記繊維集合物において、前記分割型複合繊維は、物理的衝撃を与えることにより分割させることができる。例えば、水流交絡処理(高圧水流を噴射すること)により分割させることができる。或いは、湿式抄紙法により不織布を製造する場合には、抄紙の際の離解処理時に受ける衝撃を利用して分割させることができる。
【0087】
前記水流交絡処理は、例えば、孔径0.05mm以上0.5mm以下のオリフィスが0.5mm以上1.5mm以下の間隔で設けられたノズルから、水圧3MPa以上20MPa以下の柱状水流を繊維ウェブの裏表に1回以上噴射することで行うことができる。前記分割型複合繊維は、水圧10MPa以下であっても分割可能であり、水圧8MPa以下であっても分割可能であり、水圧6MPa以下であっても分割可能である。
【0088】
前記繊維集合物は、分割性に優れる観点から、通気度が55cm3/cm2/秒以下であることが好ましく、より好ましくは50cm3/cm2/秒以下であり、さらに好ましくは45cm3/cm2/秒以下である。また、前記繊維集合物は、通気性を有する観点から、通気度が5cm3/cm2/秒以上であることが好ましく、より好ましくは8cm3/cm2/秒以上であり、さらに好ましくは12cm3/cm2/秒以上である本発明において、通気度は、後述のとおり測定することができる。
【0089】
前記繊維集合物の製造方法について、不織布を例に挙げて説明する。不織布は、公知の方法に従って、繊維ウェブを作製した後、必要に応じて、熱処理に付して繊維同士を熱接着させて作製することができる。また、必要に応じて、繊維ウェブを繊維交絡処理に付してもよい。まず、繊維ウェブは、例えば、繊維長10mm以上100mm以下の分割型複合繊維を用いてカード法又はエアレイ法等の乾式法により、或いは繊維長2mm以上20mm以下の分割型複合繊維を用いて湿式抄紙法により作製することができる。対人及び/又は対物ワイパーやフィルターなどの分野に用いる場合には、カード法又はエアレイ法等の乾式法により製造された不織布であることが好ましい。乾式法により製造された不織布は、風合いが柔らかく、適度な密度を有しているからである。また、電池セパレータなどの分野に用いる場合には、湿式抄紙ウェブから製造された不織布であることが好ましい。湿式抄紙ウェブを使用して作製する不織布は、一般的に緻密であって、良好な地合いを有するからである。さらに、湿式抄紙法によれば、抄紙の際の解離処理の条件を調節することによって、解離処理のみで分割型複合繊維を所望の分割率で分割することが可能である。
【0090】
次いで、繊維ウェブを熱接着処理に付してもよい。例えば、前記分割型複合繊維に芯鞘型複合繊維(バインダー繊維)を加えて、芯鞘型複合繊維の鞘成分により繊維同士を接着してもよい。或いは、極細繊維Bが芯鞘型極細複合繊維である場合は、芯鞘型極細複合繊維の鞘成分により繊維同士を接着してもよい。熱接着処理の条件は、繊維ウェブの目付、芯鞘型極細複合繊維の断面形状及び不織布に含まれる繊維を構成する樹脂の種類等に応じて適宜選択することができる。例えば、熱処理機としては、シリンダードライヤー、熱風吹き付け加工機、熱ロール加工機及び熱エンボス加工機等を用いることができる。特にシリンダードライヤーは、不織布の厚みを調整しながら、繊維同士を熱接着させることができる点で好ましい。シリンダードライヤーの熱処理温度は、例えば、バインダー繊維の鞘成分がエチレンビニルアルコール共重合体である場合には、80~160℃であることが好ましく、バインダー繊維の鞘成分がポリエチレンである場合には、100~160℃であることが好ましい。
【0091】
熱接着処理は、後述のように、繊維ウェブを水流交絡処理に付す場合には、水流交絡処理の前に実施することが好ましい。繊維ウェブの繊維同士を予め接合してから水流交絡処理を実施すると、繊維に高圧水流があたるときに繊維の「逃げ」が生じにくくなり、繊維同士を緊密に交絡させることができ、分割型複合繊維の分割がより促進される。なお、熱接着処理は、繊維同士を交絡させた後に実施してもよい。すなわち、熱接着処理と水流交絡処理の順序は、所望の不織布が得られる限りにおいて特に限定されない。
【0092】
本発明の繊維集合物においては、繊維同士を交絡させてもよい。繊維同士を交絡させる手法としては、高圧水流の作用により繊維同士を交絡させる水流交絡処理が好ましい。水流交絡処理によれば、不織布全体の緻密さを損なうことなく、繊維同士を強固に交絡させることができる。また、水流交絡処理によって、繊維同士の交絡と同時に分割型複合繊維の分割及び分割により生じた極細繊維同士の交絡も進行させることができる。
【0093】
水流交絡処理の条件は、使用する繊維ウェブの種類及び目付、並びに繊維ウェブに含まれる繊維の種類及び割合等に応じて、適宜選択することができる。例えば、目付10g/m2以上100g/m2以下の湿式抄紙ウェブを水流交絡処理に付す場合には、繊維ウェブを70メッシュ以上100メッシュ以下程度の平織り構造等の支持体に載置して、孔径0.05mm以上0.3mm以下のオリフィスが0.5mm以上1.5mm以下の間隔で設けられたノズルから、水圧1MPa以上15MPa以下、より好ましくは2MPa以上10MPa以下の柱状水流を繊維ウェブの片面又は両面にそれぞれ1回以上10回以下ずつ噴射するとよい。水流交絡処理後の繊維ウェブは、必要に応じて乾燥処理に付される。
【0094】
前記繊維集合物は、必要に応じて親水化処理に付してもよい。親水化処理は、フッ素ガス処理、ビニルモノマーのグラフト重合処理、スルホン化処理、放電処理、界面活性剤処理及び親水性樹脂付与処理等の任意の方法を用いて実施することができる。特に、繊維集合物を電池セパレータとして用いる場合には、親水化処理に付すことが好ましい。電解液との親和性を高くして、液保持性を向上させるためである。
【0095】
前記繊維集合物は、好ましくは2g/m2以上100g/m2以下の範囲内の目付を有し、より好ましくは10g/m2以上100g/m2以下の範囲内の目付を有し、さらに好ましくは20g/m2以上80g/m2以下の範囲内の目付を有し、特に好ましくは30g/m2以上60g/m2以下の範囲内の目付を有する。繊維ウェブの目付が2g/m2以上であると、繊維ウェブ及び繊維集合物の地合が良好になり、繊維集合物の強力や突き刺し強力が高いものとなりやすい。繊維ウェブの目付が100g/m2以下であると、繊維集合物の通気性は低下せず、また、繊維ウェブに含まれる上記分割型複合繊維を水流交絡処理により各成分に分割させる際、高圧水流が繊維ウェブ全体に均一に作用しやすくなり、前記分割型複合繊維を充分に分割させることが容易になる。
【0096】
また、本発明は、第2成分を芯鞘型複合セグメントとし、第2成分に由来する芯鞘型極細複合繊維の鞘成分により極細繊維同士を接着することができるため、極細繊維のみで繊維間を接着した繊維集合物を形成することができる。このような繊維集合物は、例えば、不織布の形態が好ましく、電池セパレータとして用いることができる。このような場合、繊維集合物の目付は、好ましくは5g/m2以上50g/m2以下であり、より好ましくは10g/m2以上30g/m2以下である。
【0097】
前記不織布の製造方法の一例としては、湿式抄紙法が好ましく、湿式抄紙は通常の方法で行えばよい。先ず、前記分割型複合繊維を準備し、0.01質量%以上0.6質量%以下の濃度になるように水に分散させ、スラリーを調製する。なお、前記分割型複合繊維は、弱い衝撃力においても分割性に優れるため、スラリー調整時の離解、叩解処理により容易に分割させることができる。次に、スラリーは、短網式、円網式、長網式、又は短網式、円網式及び長網式のいずれかを組合せた抄紙機を用いて抄紙され、含水状態の湿式抄紙ウェブになる。次いで、含水状態の湿式抄紙ウェブをシリンダードライヤーなどの熱処理機を用いて乾燥し、必要に応じてバインダー繊維を含有させて、乾燥と同時に接着させてもよい。また、別の方法としては、湿式抄紙ウェブを必要に応じて接着させて形態を安定化させた後、水流交絡処理を施して、未分割の分割型複合繊維を分割させるとともに繊維間を交絡させてもよい。なお、湿式不織布において、分割率が80%以上であると、湿式不織布の製造工程におけるミキサー処理(パルパー処理)など、高圧水流を使用しない単純な撹拌処理のみで充分に分割していることになり、極細繊維が得られるため好ましい。また、湿式不織布において、分割率が80%未満であっても湿式不織布などの各種繊維集合物の製造には問題ないが、分割型複合繊維を分割して極細繊維を得るには湿式不織布の製造工程におけるミキサー処理など、高圧水流を使用しない単純な撹拌処理のみでは充分に分割しないため、高圧水流を使用した分割処理が必要になる傾向がある。
【0098】
本発明の分割型複合繊維は、上述のように優れた延伸性と分割性を有し、緻密で地合いのよい不織布などの繊維集合物を作製できる。また、本発明の分割型複合繊維を用いた繊維集合物は、Q値が3.5以上のポリプロピレン樹脂を含むことに起因して、高い突刺強度を実現することが可能である。例えば、繊維集合物が不織布であり、不織布が2g/m2以上50g/m2以下の目付を有する場合には、単位目付あたり0.02N以上の突刺強度を有することが好ましい。不織布が50g/m2以上100g/m2以下の目付を有する場合には、単位目付あたり0.04N以上の突刺強度を有することが好ましい。単位目付あたりの突刺強度の上限は特に限定されるものではないが、1N以下であることが好ましい。
【0099】
(電池セパレータ)
上記の繊維集合物は、電池セパレータとして用いることができる。電池セパレータは、前記分割型複合繊維を15質量%以上100質量%以下の範囲で含むことが好ましい。本発明の分割型複合繊維を主体成分(最も多い成分)として電池セパレータを構成する場合には、本発明の分割型複合繊維を40質量%以上100質量%以下の範囲で含むことが好ましい。この電池セパレータはより優れた突刺強度を有する。或いは、本発明の分割型複合繊維を補助成分(最も多い成分でない成分)として電池セパレータを構成する場合には、本発明の分割型複合繊維を15質量%以上45質量%以下の範囲で含むことが好ましい。この電池セパレータは突刺強度と通気性とを両立することができる。
【0100】
電解液を保持し易く、圧縮回復率に優れ、高温での熱収縮率が小さい観点から、電池セパレータは不織布で構成されることが好ましい。
【0101】
前記電池セパレータを構成する不織布は、分割型複合繊維の分割により形成された、極細繊維Aを5質量%以上の割合で含むことが好ましく、より好ましくは10質量%以上の割合で含み、さらに好ましくは20質量%以上の割合で含み、特に好ましくは35質量%以上の割合で含む。好ましい上限は80質量%であり、より好ましい上限は50質量%である。前記電池セパレータを構成する不織布は、0.6dtex未満の小さい繊度の極細繊維を含むため、厚みを薄くすることができ、さらに、ポリプロピレン樹脂を主成分とする極細繊維Aを5質量%以上の割合で含むことにより、優れた突刺強度を達成し得る。
【0102】
また、前記電池セパレータを構成する不織布は、分割型複合繊維の分割により形成された極細繊維Bを5質量%以上80質量%以下の割合で含むことが好ましい。特に極細繊維Bが芯鞘型極細複合繊維である場合は、極細繊維Bを10質量%以上の割合で含むことがより好ましく、20質量%以上の割合で含むことがさらに好ましく、35質量%以上の割合で含むことが特に好ましい。好ましい上限は50質量%である。不織布中に極細繊維Bとして芯鞘型極細複合繊維を上記の割合で含むと、0.6dtex未満の小さい繊度の芯鞘型複合繊維を含むため、大きい繊度の芯鞘型複合繊維を同量含む不織布と比較して、より高い機械的強度を有する。また、薄くかつ機械的強度に優れたセパレータを得ることができる。
【0103】
前記電池セパレータを構成する不織布は、目付が好ましくは2g/m2以上100g/m2以下であり、より好ましくは5g/m2以上50g/m2以下であり、特に好ましくは10g/m2以上30g/m2以下である。目付が2g/m2未満であると、不織布に粗密が生じて、電池セパレータとして使用したときに短絡が生じることがある。一方、目付が100g/m2を超えると、電池セパレータの厚みが大きくなって、その分、電池内の正極及び負極の量が少なくなる。
【0104】
前記電池セパレータは、高い突刺強度を有する。例えば、電池セパレータを構成する不織布が2g/m2以上50g/m2以下程度の目付を有する場合には、単位目付あたり0.02N以上の突刺強度を有することが好ましい。不織布が50g/m2以上100g/m2以下程度の目付を有する場合には、単位目付あたり0.04N以上の突刺強度を有することが好ましい。単位目付あたりの突刺強度の上限は特に限定されるものではないが、1N以下であることが好ましい。
【0105】
本発明の電池セパレータは各種の電池に組み込まれて、電池を構成する。例えば、円筒型ニッケル水素二次電池においては、正極板と負極板とを本発明の電池セパレータを介して渦巻き状に巻回することができる。本発明の電池セパレータは、それ以外の電池、例えば、ニッケル-カドミウム二次電池、ニッケル-鉄二次電池及びニッケル-亜鉛二次電池などに使用してもよい。
【実施例】
【0106】
以下、実施例にて本発明をさらに詳しく説明する。なお、本発明は、下記の実施例に限定されるものではない。
【0107】
先ず、実施例において用いた測定方法及び評価方法を説明する。
【0108】
(数平均分子量Mn、重量平均分子量Mw、z平均分子量Mz及びQ値)
クロス分別装置(CFC)とフーリエ変換型赤外線吸収スペクトル分析(FT-IR)を用い、測定溶媒としてオルトジクロルベンゼン(ODCB)を用いたゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)から数平均分子量Mn、重量平均分子量Mw、z平均分子量Mz及び重量平均分子量/数平均分子量の比(Mw/Mn:Q値)を測定した。
紡糸前のポリプロピレン樹脂のMn、Mw、Mz及びQ値は、原料のポリプロピレン樹脂を測定用の試料として用いて測定した。 紡糸後のポリプロピレン樹脂のMn、Mw、Mz及びQ値は、ポリプロピレン樹脂を、溶融紡糸を行う温度に昇温し、紡糸ノズルを取り付ける前の押し出し機(言い換えるならば紡糸ノズルが装着されていない押し出し機)から溶融樹脂を押し出し、直径約5mmの棒状に試料を採取し、それを細かく裁断したものを用いて測定した。なお、紡糸後のポリプロピレン樹脂のMn、Mw、Mz及びQ値は、この方法で採取した試料を用いてもよいし、得られた分割型複合繊維を試料とすることできる。
【0109】
(メルトフローレート、MFR)
ポリプロピレン樹脂は、JIS K 7210に準じ、230℃、荷加重21.18Nで測定し、ポリメチルペンテン樹脂は、ASTM D 1238に準じ、260℃、荷加重5.0kgf(49.0N)で測定した。
【0110】
(ロックウェル硬度)
ASTM D 785に記載されている測定方法に準じ、樹脂のロックウェル硬度を測定した。
【0111】
(単繊維繊度)
単繊維繊度は、JIS L 1015 8.5.1 B法(簡便法)に基づいて測定した。
【0112】
(単繊維強度と伸度)
単繊維強度及び伸度は、JIS L 1015に準じて、引張試験機を用いて、試料のつかみ間隔を20mmとしたときの繊維切断時の荷重値及び伸度を測定し、それぞれ、単繊維強度及び伸度とした。
【0113】
(最大延伸倍率)
実施例及び比較例で得られた各々の未延伸状態の紡糸フィラメント(未延伸繊維束)に対し、表面温度を所定の温度(105℃、120℃、130℃、140℃など)に調整した金属ロールを用いた乾式延伸を行った。この際、上記未延伸繊維束を送り出すロールの送り出し速度(V1)を10m/分とし、巻き取る側の金属ロールの巻き取り速度(V2)を10m/分より徐々に増加させた。そして、未延伸繊維束が破断したときの巻き取る側の金属ロールの巻き取り速度を最大延伸速度とし、上記最大延伸速度と未延伸繊維束を送り出すロールの送り出し速度との比(V2/V1)を求め、得られた速度比を最大延伸倍率(Vmax)とした。
【0114】
(DSCによるポリプロピレン樹脂及びポリメチルペンテン樹脂の融解熱量及び融解熱量比)
分割型複合繊維を構成するポリプロピレン樹脂及びポリメチルペンテン樹脂の融解熱量を示差走査熱量分析の測定から求めた。DSCの測定は、測定に使用する試料の質量を3mgとしたこと以外はJIS K 7121に準じて行った。まず、DSCの測定を行う分割型複合繊維について、上述した方法で分割型複合繊維の質量を100質量%としたときのポリプロピレン樹脂及びポリメチルペンテン樹脂の質量割合を求めた。
【0115】
次に、ポリプロピレン樹脂及びポリメチルペンテン樹脂の含有量を算定した分割型複合繊維を用い、JIS K 7121に準じてDSCの測定を行った。DSCの測定は融解、冷却、再融解過程で行う。即ち、試料となる繊維を3mg秤量し、試料ホルダーに充填した。次に、試料ホルダーに充填した分割型複合繊維を、当該分割型複合繊維に含まれる熱可塑性樹脂の中で最も融点が高い熱可塑性樹脂の融点より30℃高い温度まで昇温し、1度目の融解時のDSC(融解過程のDSC)測定を行った。
【0116】
所定の温度に到達した後、室温まで、毎分10℃の速度で冷却されるように冷却し、溶融した試料を凝固させた。このとき、降温時のDSC(Tc測定時DSC曲線とも称す))を測定する。
【0117】
1度目の融解時DSC曲線及び降温時DSC曲線の測定が終わった後、試料をDSC測定機器から取り出さず、当該分割型複合繊維に含まれる熱可塑性樹脂の中で、最も融点が高い熱可塑性樹脂の融点より30℃高い温度まで再度昇温した。このとき2度目の融解時のDSC(再Tm測定時DSCとも称す)測定を行った。
【0118】
得られた1度目の融解時のDSC(Tm測定時DSC)及び2度目の融解時のDSC(再Tm測定時DSC)においてDSCチャートに記録されている140℃から180℃の吸熱ピーク、220℃から250℃の吸熱ピークから、当該吸熱ピークの融解熱量を求め、求めた融解熱量をポリプロピレン樹脂1mgあたりの融解熱量やポリメチルペンテン樹脂1mgあたりの融解熱量に換算することで、1度目の融解時のDSCから求めた、分割型複合繊維に含まれるポリプロピレン樹脂1mgあたりの融解熱量(ΔHPPTm1)、2度目の融解時のDSCから得られた、分割型複合繊維に含まれるポリプロピレン樹脂1mgあたりの融解熱量(ΔHPPTm2)、1度目の融解時のDSCから得られた、分割型複合繊維に含まれるポリメチルペンテン樹脂1mgあたりの融解熱量(ΔHPMPTm1)、2度目の融解時のDSCから得られた、分割型複合繊維に含まれるポリメチルペンテン樹脂1mgあたりの融解熱量(ΔHPMPTm2)を算出した。
【0119】
(目付)
不織布の目付を、JIS L 1913 6.2に基づいて測定した。
【0120】
(通気度)
得られた分割型複合繊維を含む不織布の通気度を、JIS L 1096(2010年)8.26(フラジール形法)に準じて測定した。
【0121】
(走査型電子顕微鏡を用いた分割性の評価)
後述するように、得られた分割型複合繊維と、市販されている芯鞘型複合繊維を使用して、湿式抄紙ウェブを作製し、芯鞘型複合繊維の鞘成分を加熱することで溶融させ、繊維同士を熱接着させて湿式不織布を得る際、シリンダードライヤーによる熱処理を行う前の湿式抄紙ウェブを試料として、湿式抄紙ウェブの断面を走査型電子顕微鏡(SEM)にて観察し、分割型複合繊維の分割性を評価した。
すなわち、後述する方法で、分割型複合繊維と市販の芯鞘型複合繊維を混抄することで得られた湿式抄紙ウェブを乾燥させ、湿式抄紙ウェブの厚さ方向の切断面が露出するように、湿式抄紙ウェブを、金属製の筒に、できるだけ密に詰めた。筒に詰めた湿式抄紙ウェブを走査型電子顕微鏡(SEM)で400倍に拡大して湿式抄紙ウェブの断面を観察、撮影し、撮影した写真から任意の0.2mm×0.2mmの領域を選択し、当該領域に存在する分割型複合繊維の状態を目視で確認し、以下の基準で評価した。
○:全く分割していない分割型複合繊維が5本以下。
△:全く分割していない分割型複合繊維が5本より多く、10本以下
×:全く分割していない分割型複合繊維が10本より多い
【0122】
実施例及び比較例では下記の樹脂を用いた。
<第1成分:ポリプロピレン樹脂(PP)>
PP1:紡糸前Mn=5.6×104、紡糸前Mw=3.0×105、紡糸前Mz=8.8×106、紡糸前Q値=5.36、紡糸後Mn=5.3×104、紡糸後Mw=2.8×105、紡糸後Mz=8.3×105、紡糸後Q値=5.28、MFR230(g/10分)=30のプロピレンホモポリマー、プライムポリマー株式会社製のS105HG(商品名)
PP2:紡糸前Mn=5.1×104、紡糸前Mw=5.4×105、紡糸前Mz=3.0×106、紡糸前Q値=10.59、紡糸後Mn=4.3×104、紡糸後Mw=2.9×105、紡糸後Mz=10.6×105、紡糸後Q値=6.74、MFR230(g/10分)=10のプロピレンホモポリマー、プライムポリマー株式会社製のCJ700(商品名)
PP3:紡糸前Mn=9.7×104、紡糸前Mw=2.7×105、紡糸前Mz=5.5×105、紡糸前Q値=2.83、紡糸後Mn=9.6×104、紡糸後Mw=2.5×105、紡糸後Mz=5.3×105、紡糸後Q値=2.60、MFR230(g/10分)=30のプロピレンホモポリマー、日本ポリプロ株式会社製のSA03(商品名)
<第2成分:ポリメチルペンテン樹脂(PMP)>
PMP:融点が238℃、MFR260が180g/10分、引張弾性率が1765MPa、ロックウェル硬度が90であるポリメチルペンテン樹脂、三井化学社製のDX820(商品名)
【0123】
(実施例1)
<分割型複合繊維の製造>
第1成分としてPP1を用い、第2成分としてPMPを準備した。次に、第1成分と第2成分の複合比(体積比)を60:40にし、中空16分割型複合ノズルを用いて、PP1とPMPを別々の押出機に投入し、第1成分は275℃、第2成分は280℃の温度で溶融して押出し、ノズル温度は275℃とし、溶融状態の樹脂を引取速度703m/分で引き取り、冷却することで、単繊維繊度が8.3dtexであり、
図1Cに示すような繊維断面が歯車型で中央部に中空部分を持つ16分割(以下において、中空16分割型と記す。)の未延伸の紡糸フィラメントを得た。
得られた紡糸フィラメントに対し、表面温度135℃の金属ロールを用いて延伸倍率5.7倍で1段目の乾式延伸を行い、表面温度135℃の金属ロールを用いて延伸倍率1.05倍で2段目の乾式延伸を行った。なお、上記の方法で最大延伸倍率を求めたところ、この未延伸繊維束の最大延伸倍率は6.4倍であった。得られた延伸フィラメント(中空16分割型の分割型複合繊維)は、単繊維繊度が1.7dtexであった。延伸フィラメントを繊維長5mmに切断し、短繊維の分割型複合繊維を得た。
【0124】
<不織布の製造>
上記で得られた繊維長が5mmの分割型複合繊維と、市販されている芯鞘型複合繊維(芯成分がポリプロピレン、鞘成分が高密度ポリエチレンである繊度0.8dtex、繊維長5mmの同心円断面の芯鞘型複合繊維、ダイワボウポリテック株式会社製「NBF」(登録商標)(H))を50:50の質量比で混合した。得られた繊維混合物に対し、繊維の濃度が0.01質量%となるようにイオン交換水を加えてスラリーを調製し、パルパーにて回転数2000rpmの条件で2分間攪拌して、繊維を解離させるとともに、分割型複合繊維を割繊させて極細繊維を発生させた。撹拌後のスラリーを円網式湿式抄紙機にて湿式抄紙し、目付約50g/m2の湿式抄紙ウェブを得た。抄紙後のウェブを搬送用支持体で搬送し、140℃に加熱したシリンダードライヤーを用いて、45秒間、ウェブに加熱処理を施して、ウェブを乾燥させると同時に、繊維ウェブに含まれる芯鞘型複合繊維の鞘成分(高密度ポリエチレン)を融解させることで繊維同士を接着させて湿式不織布を得た。
【0125】
(実施例2)
<分割型複合繊維の製造>
第1成分と第2成分の複合比(体積比)を75:25にした以外は、実施例1と同様にして分割型複合繊維を得た。
<不織布の製造>
上記で得られた分割型複合繊維を用いた以外は、実施例1と同様にして不織布を得た。
【0126】
(比較例1)
第1成分としてPP2を用い、第1成分を350℃で溶融して押出し、1段目延伸の延伸倍率を5.6倍にした以外は、実施例1と同様にして分割型複合繊維を得た。
<不織布の製造>
上記で得られた分割型複合繊維を用いた以外は、実施例1と同様にして不織布を得た。
【0127】
(比較例2)
第1成分としてPP2を用い、第1成分を350℃で溶融して押出し、1段目延伸の延伸倍率を5.6倍にした以外は、実施例2と同様にして分割型複合繊維を得た。
<不織布の製造>
上記で得られた分割型複合繊維を用いた以外は、実施例1と同様にして不織布を得た。
【0128】
(比較例3)
<分割型複合繊維の製造>
第1成分としてPP2を用い、第2成分としてPMPを準備した。次に、第1成分と第2成分の複合比(体積比)を60:40にし、中空16分割型複合ノズルを用いて、PP2とPMPを別々の押出機に投入し、第1成分は275℃、第2成分は280℃の温度で溶融して押出したところ、第1成分の溶融粘度が高すぎて、PMPとの粘度差が大きくなり、それゆえ、断面不良となり、紡糸することができなかった。
【0129】
(比較例4)
第1成分としてPP3を用い、1段目延伸の延伸倍率を5.2倍にした以外は、実施例1と同様にして分割型複合繊維を得た。
<不織布の製造>
上記で得られた分割型複合繊維を用いた以外は、実施例1と同様にして不織布を得た。
【0130】
(比較例5)
第1成分としてPP3を用い、1段目延伸の延伸倍率を5.4倍にした以外は、実施例2と同様にして分割型複合繊維を得た。
<不織布の製造>
上記で得られた分割型複合繊維を用いた以外は、実施例1と同様にして不織布を得た。
【0131】
実施例及び比較例のポリオレフィン系分割型複合繊維の単繊維強度及び伸度を上述したとおりに測定し、その結果を下記表1に示した。また、実施例及び比較例のポリオレフィン系分割型複合繊維におけるポリプロピレン樹脂及びポリメチルペンテン樹脂の融解熱量及び融解熱量比を上述したとおりに測定評価し、その結果を下記表1に示した。また、実施例及び比較例のポリオレフィン系分割型複合繊維の分割率及び通気度を上記のとおり測定し、その結果を下記表1に示した。また、下記表1には、実施例及び比較例における紡糸条件及び延伸条件も併せて示した。
【0132】
【0133】
前記表1の結果から、ポリプロピレン樹脂を含有する第1成分と、ポリメチルペンテン樹脂を含有する第2成分を含むポリオレフィン系分割型複合繊維において、第1成分としてQ値が3以上6未満、Mnが43,000より大きく96,000未満であり、かつMzが550,000以上1,000,000以下であるポリプロピレン樹脂を用いた実施例1~2のポリオレフィン系分割型複合繊維は、分割性が良好であった。また、低い紡糸温度で紡糸することができ、生産時のエネルギーコストを低減でき、生産性も良好であった。
【0134】
一方、比較例1~3の結果から分かるように、第1成分として用いたポリプロピレン樹脂の紡糸前Q値が6以上であり、紡糸前Mnが43,000以下であり、かつ紡糸前のMzが1,000,000を超えているポリプロピレン樹脂を用いた場合には、紡糸温度を330℃より高い温度にしないと紡糸できず、生産エネルギーコストが高く、生産性が悪かった。
また、比較例4~5の結果から分かるように、第1成分として用いたポリプロピレン樹脂の紡糸前Q値が3未満であり、紡糸前Mnが96,000以上であり、かつ紡糸前のMzが550,000未満のポリプロピレン樹脂を用いた場合には、得られた分割型複合繊維の分割性が悪かった。
【0135】
これは、上述したQ値、Mn及びMzを有するポリプロピレン樹脂と、ポリメチルペンテン樹脂を併用した場合、ポリプロピレン樹脂とポリメチルペンテン樹脂と接合した状態での延伸性が良好になり、ポリプロピレン樹脂に加えてポリメチルペンテン樹脂の結晶性が高くなることに起因すると思われる。すなわち、実施例1、2の分割型複合繊維と比較例4、5の分割型複合繊維のDSC測定(融解過程、すなわち1度目の融解過程)より、各分割型複合繊維を構成するポリメチルペンテン樹脂1mgあたりの融解熱量を比較すると、実施例1、2の分割型複合繊維は、それに含まれるポリメチルペンテン樹脂1mgあたりの融解熱量(ΔHPMPTm1)がいずれも41.3mJ/mgであるのに対し、比較例4、5の分割型複合繊維のΔHPMPTm1は、それぞれ33.2mJ/mg、36.3mJ/mgとなっている。実施例1、2の分割型複合繊維は、比較例4、5の分割型複合繊維と比較してΔHPMPTm1が約20%増えていることから、実施例1、2の分割型複合繊維を構成するポリメチルペンテン樹脂は特定のポリプロピレン樹脂と組み合わせて分割型複合繊維とすることで、延伸性が高まり、高い延伸倍率の延伸処理を行うことで、結晶化度の高い樹脂成分となり、分割性が向上することがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0136】
本発明のポリオレフィン系分割型複合繊維は、対人及び/又は対物ワイパーといった各種ワイピング用品、人工皮革、衛生材料、フィルター、電池用セパレータなどの用途に用いることができる。
【符号の説明】
【0137】
1 第1成分
2 第2成分
2a 芯成分
2b 鞘成分
3 中空部分
10 分割型複合繊維