(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-21
(45)【発行日】2024-03-29
(54)【発明の名称】翼根ばねの組付け及び抜き取り用治具並びに翼根ばねの組付け及び抜き取り方法
(51)【国際特許分類】
F01D 25/00 20060101AFI20240322BHJP
F01D 5/30 20060101ALI20240322BHJP
F02C 7/00 20060101ALI20240322BHJP
【FI】
F01D25/00 X
F01D5/30
F02C7/00 D
(21)【出願番号】P 2020067480
(22)【出願日】2020-04-03
【審査請求日】2023-01-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000785
【氏名又は名称】SSIP弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】竹内 悠人
【審査官】北村 一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/129580(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01D 5/30
F01D 25/30
F02C 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
動翼をロータに固定するための翼根ばねの組付け及び抜き取り用治具であって、
前記翼根ばね又は前記翼根ばねに押付けられる押出棒を押出す押出し機構と、
前記押出し機構が固定されるベースプレートと
を備え、
前記ベースプレートには、前記押出し機構が前記押出棒を前記翼根ばねに向かって押出すことにより前記翼根ばねを押出して組み付けるとき又は前記翼根ばねを抜き取るときの反力を受けるための第1溝部が形成されている、翼根ばねの組付け及び抜き取り用治具。
【請求項2】
前記治具は、該治具の自重を受けるための自重受け面を含む自重受け部をさらに備え、
前記自重受け面は、前記第1溝部と前記押出し機構との間に位置するとともに、前記自重受け面が前記自重を受けるときに前記第1溝部の延びる方向に対して交差する方向に延びる、請求項1に記載の翼根ばねの組付け及び抜き取り用治具。
【請求項3】
前記第1溝部は、前記第1溝部の内面の一部としての底面を有する、請求項2に記載の翼根ばねの組付け及び抜き取り用治具。
【請求項4】
前記第1溝部は、前記押出し機構よりも、前記押出し機構が前記押出棒又は前記翼根ばねを押出す方向に位置する、請求項1~3のいずれか一項に記載の翼根ばねの組付け及び抜き取り用治具。
【請求項5】
前記ベースプレートには、前記押出し機構が前記押出棒又は前記翼根ばねを押出すときに前記押出棒又は前記翼根ばねが挿入される第2溝部が形成され、
前記第1溝部と前記第2溝部とは互いに交差する、請求項4に記載の翼根ばねの組付け及び抜き取り用治具。
【請求項6】
前記ベースプレートには、前記第1溝部を横切るように位置決めピンが取外し可能に設けられている、請求項1~5のいずれか一項に記載の翼根ばねの組付け及び抜き取り用治具。
【請求項7】
動翼をロータに固定するための翼根ばねの組付け及び抜き取り方法であって、
前記翼根ばね又は前記翼根ばねに押付けられる押出棒を押出す押出し機構と、前記押出し機構が固定されるベースプレートとを備える治具を準備する準備ステップと、
前記治具を前記ロータに取付ける取付けステップと、
前記押出し機構が前記押出棒又は前記翼根ばねを押出す押出しステップと
を含み、
前記ベースプレートには、前記ロータに含まれる突起部が挿入可能に構成された第1溝部が形成され、
前記押出しステップでは、前記押出し機構が前記押出棒を前記翼根ばねに向かって押出すことにより前記翼根ばねを押出して組み付けるとき又は前記翼根ばねを抜き取るときの反力を、前記突起部が前記第1溝部の内面に当接することにより受ける、翼根ばねの組付け及び抜き取り方法。
【請求項8】
前記治具は、該治具の自重を受けるための自重受け面を含む自重受け部をさらに備え、
前記自重受け面は、前記第1溝部と前記押出し機構との間に位置するとともに、前記自重受け面が前記自重を受けるときに前記第1溝部の延びる方向に対して交差する方向に延び、
前記取付けステップでは、前記自重受け面が前記ロータの表面に鉛直方向下向きに当接するとともに前記第1溝部の前記内面が前記突起部に鉛直方向上向きに当接することにより、前記治具が前記ロータに取付けられる、請求項7に記載の翼根ばねの組付け及び抜き取り方法。
【請求項9】
前記第1溝部は、前記内面の一部としての底面を有し、
前記取付けステップでは、前記底面が前記突起部に鉛直方向上向きに当接する、請求項8に記載の翼根ばねの組付け及び抜き取り方法。
【請求項10】
前記ベースプレートには、前記第1溝部を横切るように位置決めピンが取外し可能に設けられ、
前記準備ステップと前記取付けステップとの間に、前記ロータの周方向における前記ベースプレートの取付け位置を決める位置決めステップをさらに含み、
前記位置決めステップでは、前記突起部に形成されたロッキングキー溝と前記位置決めピンとに基づいて、前記ロータの周方向における前記ベースプレートの取付け位置が決定される、請求項7~9のいずれか一項に記載の翼根ばねの組付け及び抜き取り方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、翼根ばねの組付け及び抜き取り用治具並びに翼根ばねの組付け及び抜き取り方法に関する。
【背景技術】
【0002】
動翼が固定されたロータを有するガスタービン等の回転機械には、ロータの径方向外側に向かって動翼を押し付けるようにして動翼をロータに固定するための翼根ばねが、動翼とロータとの間に挿入されている。この翼根ばねにより、動翼のガタツキを抑制することができる。この翼根ばねを組付けたり抜き取ったりするために、従来は作業者がハンマーで翼根ばねを叩くことによって行われていた。しかし、作業場所がタービンディスク間の狭い場所であるため、作業性が悪く、作業時間が長くなるといった問題点があった。
【0003】
これに対し、翼根ばねの組付け及び抜き取りを目的とするものではないが、タービン翼とロータホイールとを互いに連結するタービン翼連結ピンを抜き取るための治具が特許文献1に開示されている。この治具は、治具自体を磁石によってロータホイールの表面に装着し、タービン翼連結ピンが設けられるピン収容部内に複数の押出しピンを油圧によって順次挿入して押出ピンをタービン翼連結ピンに押し付けることよって、タービン翼連結ピンをピン収容部から押し出すものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の治具では、押出ピンをタービン翼連結ピンに押し付ける際に治具が受ける反力を磁石で受けることになる。しかしながら、翼根ばねは、ロータの径方向外側に向かって動翼を押し付けるために設けられるものであるので、タービン翼連結ピンに比べて、翼根ばねを動翼とロータとの間に挿入又はこの間から抜き取るために必要な力は著しく大きい。特に、翼根ばねを抜き出す場合は、回転機械の使用後のことになるので、翼根ばねとロータとが焼き付いていることもあり、この場合にはさらに、翼根ばねを抜き取るために必要な力が大きくなるので、ロータに治具を磁石によって固定しただけでは反力を受けることができなくなるおそれがある。
【0006】
上述の事情に鑑みて、本開示の少なくとも1つの実施形態は、翼根ばねの組付け及び抜き取り作業の効率を向上できる翼根ばねの組付け及び抜き取り用治具並びに翼根ばねの組付け及び抜き取り方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本開示に係る翼根ばねの組付け及び抜き取り用治具は、動翼をロータに固定するための翼根ばねの組付け及び抜き取り用治具であって、前記翼根ばね又は前記翼根ばねに押付けられる押出棒を押出す押出し機構と、前記押出し機構が固定されるベースプレートとを備え、前記ベースプレートには、前記押出し機構が前記押出棒を前記翼根ばねに向かって押出すことにより翼根ばねを押出して組み付けるとき又は翼根ばねを抜き取るときの反力を受けるための第1溝部が形成されている。
【0008】
また、本開示に係る翼根ばねの組付け及び抜き取り方法は、動翼をロータに固定するための翼根ばねの組付け及び抜き取り方法であって、前記翼根ばね又は前記翼根ばねに押付けられる押出棒を押出す押出し機構と、前記押出し機構が固定されるベースプレートとを備える治具を準備する準備ステップと、前記治具を前記ロータに取付ける取付けステップと、前記押出し機構が前記押出棒又は前記翼根ばねを押出す押出しステップとを含み、前記ベースプレートには、前記ロータに含まれる突起部が挿入可能に構成された第1溝部が形成され、前記押出しステップでは、前記押出し機構が前記押出棒を前記翼根ばねに向かって押出すことにより翼根ばねを押出して組み付けるとき又は翼根ばねを抜き取るときの反力を、前記突起部が前記第1溝部の内面に当接することにより受ける。
【発明の効果】
【0009】
本開示の翼根ばねの組付け及び抜き取り用治具並びに翼根ばねの組付け及び抜き取り方法によれば、押出し機構が押出棒を翼根ばねに向かって押出すことにより翼根ばねを押出して組み付け、又は翼根ばねが抜き取られるので、翼根ばねの組付け及び抜き取り作業の効率を向上することができる。また、治具をロータに取付けた状態で、ロータに含まれる突起部を第1溝部に挿入させることにより、押出し機構が押出棒を翼根ばねに向かって押出して翼根ばねを抜き取るとき又は翼根ばねを押出して組付けるときの反力を、突起部が第1溝部の内面に当接することにより受けることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】回転機械において動翼とロータとの接続部分の構成を示す断面図である。
【
図2】回転機械において動翼とロータとの間に設けられる翼根ばねの斜視図である。
【
図3】本開示の一実施形態に係る治具の上方斜視図である。
【
図4】本開示の一実施形態に係る治具の下方斜視図である。
【
図7】本開示の一実施形態に係る治具と共に用いられる押出棒と翼根ばねとの斜視図である。
【
図8】本開示の一実施形態に係る治具をロータに固定した状態の図である。
【
図9】本開示の一実施形態に係る治具をロータに固定した状態の治具20の一部分の拡大図である。
【
図11】本開示の一実施形態に係る治具に対する押出棒のセッティングを説明するための図である。
【
図12】本開示の一実施形態に係る治具を用いて翼根ばねを抜き出した状態の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本開示の実施の形態による翼根ばねの組付け及び抜き取り用治具並びに翼根ばねの組付け及び抜き取り方法について、図面に基づいて説明する。かかる実施の形態は、本開示の一態様を示すものであり、この開示を限定するものではなく、本開示の技術的思想の範囲内で任意に変更可能である。
【0012】
<本開示の治具及び方法で組付けられ又は抜き取られる翼根ばね>
図1に示されるように、ガスタービン等の回転機械は、動翼1が固定された回転可能なロータ2を有している。動翼1は、翼面(図示せず)を形成する翼部3と、翼部3のロータ2側の端部に設けられた翼根部4とを備えている。ロータ2に形成された翼溝5内に翼根部4が挿入されるようにして、動翼1がロータ2に取付けられている。
【0013】
翼根部4と翼溝5との間には隙間6が形成されている。隙間6は、ロータ2の径方向において翼根部4の内側に形成されている。隙間6内に、翼根ばね10が挿入されている。
図2に示されるように、翼根ばね10は、長手方向を有する板ばねであり、動翼接触面11とロータ接触面12とを有している。翼根ばね10は、動翼接触面11とロータ接触面12とをつなぐ一対の湾曲した側面13,13をさらに有し、これらの面によって、翼根ばね10の内部に長手方向に延びるように空間14が画定されている。動翼接触面11には、長手方向に延びる開口15が形成されている。
【0014】
図1に示されるように、翼根ばね10を隙間6内に挿入すると、動翼接触面11は翼根部4と接触し、ロータ接触面12は翼溝5の内面と接触する。隙間6内に挿入された翼根ばね10が圧縮されてロータ2の径方向に縮むことによる弾性力によって、動翼1がロータ2の径方向外側に押付けられるので、ロータ2に対して動翼1が固定され、動翼1のガタツキが抑制される。
【0015】
<本開示の治具の構成>
次に、隙間6への翼根ばね10の組付け及び抜き取り用治具の構成について説明する。
図3に示されるように、本開示の一実施形態に係る治具20は、押出し機構である油圧ジャッキ21と、油圧ジャッキ21が固定されるベースプレート22とを備えている。
図4に示されるように、ベースプレート22には、油圧ジャッキ21が挿入される穴23が形成されており、穴23に挿入された油圧ジャッキ21を、ベースプレート22の下面22aに固定されたジャッキ受け24が受けることにより、油圧ジャッキ21がベースプレート22に固定されている。油圧ジャッキ21にはホース25の一端が接続され、ホース25には油圧ポンプ26が設けられている。
【0016】
図3に示されるように、ベースプレート22の上面22bには、後述する動作で生じる反力を受けるための第1溝部27が形成されている。また、ベースプレート22の上面22bには、後述する動作で治具20の自重を受けるための自重受け部28が取付部29を介して設けられている。自重受け部28は、取付部29に設けられた軸30を中心に回転可能になっている。自重受け部28は、長手方向を有する形状、例えば、平面視で長方形形状を有している。
【0017】
図5に示されるように、自重受け部28は、長手方向に軸30から最も遠い位置の端部28aを含み、軸30と端部28aとの間の位置Aから端部28aに向かって厚さが薄くなる形状を有している。これにより、ベースプレート22の上面22b(
図3参照)に面する自重受け部28の下面28bは、位置Aから端部28aに向かって自重受け部28の上面28c側に傾斜する自重受け面28dを含む構成を有している。
図3に示されるように、軸30を中心に自重受け部28を回転させて、自重受け部28の端部28aを第1溝部27に向くようにした状態、すなわち自重受け部28の自重受け面28d(
図5参照)の傾斜に沿った方向が第1溝部27の延びる方向と交差する向きとなる状態では、自重受け面28dは、第1溝部27と油圧ジャッキ21との間に位置するようになる。
【0018】
油圧ジャッキ21は、油圧によって伸縮可能なピストン部32を有している。ベースプレート22の上面22bには、穴23に開口する一端からピストン部32が伸縮する方向に延びる第2溝部31が形成されている。第1溝部27と第2溝部31とは、90°ではない角度をなして互いに交差している。第2溝部31は、第1溝部27と交差するとともにベースプレート22の側面22cに第2溝部31の他端が開口するように延びている。
【0019】
ベースプレート22には、ベースプレート22の側面22cから第1溝部27まで延びる3つの孔部33a,33b,33cが形成されている。孔部33aと孔部33b,33cとは、第2溝部31に対して反対側に設けられている。尚、孔部の個数は3に限定するものではなく、第2溝部31の両側に設けられていれば、4以上であってもよい。孔部33a,33b,33cのそれぞれには、位置決めピン34a,34b,34cが挿入可能になっている。
【0020】
図6に示されるように、第1溝部27の内面27aには、孔部33cの延びる方向に対応する位置に窪み部35cが形成されており、孔部33cに位置決めピン34cを挿入して押し込むと、位置決めピン34cの端部は、第1溝部27を横切って窪み部35cに挿入される。図示しないが、第1溝部27の内面27aには、孔部33a,33bのそれぞれが延びる方向に対応する位置に、窪み部35cと同じ構成の窪み部が形成されており、位置決めピン34a,34bをそれぞれ孔部33b,33cに挿入して押し込むと、位置決めピン34cと同様に、位置決めピン34a,34bのそれぞれの端部が、第1溝部27の内面27aに形成された窪み部に挿入される。
【0021】
<本開示の治具を用いた翼根ばねの組付け及び抜き取り方法(治具の動作)>
図1に示されるように、隙間6に挿入された翼根ばね10を抜き取る方法について説明する。この方法に用いられる
図3及び
図4の治具20を準備する(準備ステップ)。翼根ばね10を抜き取る方法では、
図7に示される複数の押出棒40が用いられる。複数の押出棒40は、1つの先端棒41と、少なくとも1つの継足棒42とを含んでいる。
【0022】
先端棒41は、長手方向に対して直交する方向に略直方体形状の部材と断面が略半円形状の部材とを積み重ねた形状の本体部41aを有している。本体部41aの一方の端面41a1には、本体部41aと同様の形状であるが本体部41aよりも細い挿入部41bが設けられている。本体部41aの他方の端面41a2には、円柱形状の窪み部41cが形成されている。継足棒42は、円柱形状の本体部42aを有している。本体部42aの一方の端面42a1には、本体部42aと同様の円柱形状であるが本体部42aよりも細い挿入部42bが設けられている。本体部42aの他方の端面42a2には、円柱形状の窪み部42cが形成されている。
【0023】
先端棒41の挿入部41bは、翼根ばね10の空間14内に挿入可能になっている。挿入部41bが空間14内に挿入されると、先端棒41の本体部41aの端面41a1が翼根ばね10の端部10aと接するようになる。継足棒42の挿入部42bは先端棒41の窪み部41cに挿入可能になっており、窪み部41cに挿入部42bが挿入されると、先端棒41の本体部41aの端面41a2と継足棒42の本体部42aの端面42a1とが接するようになる。また、継足棒42の窪み部42cには、他の継足棒42の挿入部42bが挿入可能になっており、一方の継足棒42の窪み部42cに他の継足棒42の挿入部42bが挿入されると、一方の継足棒42の本体部42aの端面42a2と、他方の継足棒42の本体部42aの端面42a1とが接するようになる。
【0024】
準備ステップの後、治具20(
図3及び4参照)をロータ2(
図1参照)に取付ける(取付けステップ)。
図8には、治具20をロータ2に取付けた状態が図示されている。ロータ2には、ロータ2の軸方向に突出するシールアーム50が設けられ、シールアーム50からロータ2の径方向外側に(
図8では下方に向かって)突起部51が延びている。突起部51は、ロータ2の周方向(
図8では紙面に垂直な方向)にも延びている。
図8では下方が鉛直方向下向きとなるように描かれているが、シールアーム50の上方を向く表面50aに自重受け面28dが接している。第1溝部27内には突起部51が挿入されている。
【0025】
シールアーム50の表面50aを自重受け面28dが下方に押すことによって、自重受け部28が治具20の自重を受けている。重い油圧ジャッキ21が自重受け部28に対してベースプレート22の側面22cと反対側に位置するベースプレート22の側面22d側に位置している(すなわち、治具20の重心が側面22d側にある)ので、自重受け面28dとシールアーム50の表面50aとの接触部分を中心にしてベースプレート22の側面22d側が下方に向かうように(矢印Bの方向に)治具20が回動する。
【0026】
一方で、
図9に示されるように、ベースプレート22の側面22c側が上方に向かうように(矢印Cの方向に)治具20が回動する。そうすると、第1溝部27の内面27aの一部としての底面27bが突起部51に上向きに当接する。これにより治具20の回動が止まり、治具20がロータ2に取付けられる。尚、底面27b以外の第1溝部27の内面27aが突起部51に上向きに当接することによって治具20の回動が止まるようにしてもよい。
【0027】
尚、治具20において、第1溝部27は、油圧ジャッキ21よりも、ピストン部32が押出棒40を押出す方向に位置しているので、翼根ばね10を抜き取るロータ2に近接して治具20を取付けることができるので、作業場が狭くても翼根ばね10の抜き取り作業の効率を向上することができる。
【0028】
図10に示されるように、突起部51の端縁には、複数のロッキングキー溝52と、隙間6(
図1参照)の延長線上に位置する溝53とが形成されている。複数の位置決めピン34a,34b,34cうちの1つ、例えば位置決めピン34bをベースプレート22に設置し、位置決めピン34bを複数のロッキングキー溝52のうちのいずれかに嵌め込むと、いずれかの溝53と第2溝部31とが重なり合うようになるので、第2溝部31の延長線上に隙間6が位置するようになる。このような位置決めステップを、準備ステップと取付けステップとの間で行うことができ、これにより、ロータ2の周方向における治具20の取付け位置を容易に決定することができる。尚、治具20の位置決めにいずれの位置決めピンを用いるかは、突起部51の端縁に形成されたロッキングキー溝52と溝53との位置関係、言い換えると、動翼1及びロータ2を備える回転機械の構成に基づくことになる。
【0029】
取付けステップの後、隙間6に挿入された翼根ばね10(
図1参照)に向かって油圧ジャッキ21(
図3及び4)が押出棒40(
図7参照)を押出す(押出しステップ)。
図11に示されるように、ベースプレート22の下面22a側から穴23を介して、先端棒41を第2溝部31(
図3参照)に載置する。油圧ジャッキ21を駆動させてピストン部32(
図3参照)を延ばすと、ピストン部32によって先端棒41が押され、第2溝部31を通って、隙間6に挿入された翼根ばね10に向かって押出される。
【0030】
そうすると、
図7に示されるように、先端棒41の挿入部41bが翼根ばね10の空間14内に挿入されて、先端棒41の本体部41aの端面41a1が翼根ばね10の端部10aを押すことになる。その結果、翼根ばね10が隙間6(
図1参照)内を移動することになる。先端棒41の少なくとも一部は、隙間6内に挿入されることになる。
【0031】
続いて、ピストン部32を縮ませた後、
図11に示されるように、ベースプレート22の下面22a側から穴23を介して、継足棒42を第2溝部31(
図3参照)に載置する。油圧ジャッキ21を駆動させてピストン部32(
図3参照)を延ばすと、ピストン部32によって継足棒42が押され、第2溝部31を通って、隙間6に挿入された翼根ばね10に向かって押出される。
【0032】
そうすると、
図7に示されるように、継足棒42の挿入部42bが先端棒41の窪み部41c内に挿入されて、継足棒42の本体部42aの端面42a1が先端棒41の本体部41aの端面41a2aを押すことになる。その結果、翼根ばね10が隙間6(
図1参照)内をさらに移動することになる。先端棒41はさらに隙間6内に挿入されるとともに継足棒42の少なくとも一部が隙間6内に挿入されることになる。
【0033】
その後は、継足棒42を繰り返し翼根ばね10に向かって押出すことにより、翼根ばね10が隙間6(
図1参照)内を徐々に移動していき、やがて
図12に示されるように、隙間6から翼根ばね10が抜き出される。翼根ばね10が抜き出されたら、隙間6内の押出棒40を抜き出すことにより、翼根ばね10の抜出し動作が終了する。
【0034】
ところで、ピストン部32が先端棒41又は継足棒42を押出すことで翼根ばね10を押す際に、その反力が治具20にかかる。
図11を参照して上述したように、治具20は、自重受け部28及びシールアーム50の係合と、第1溝部27及び突起部51の係合とによってロータ2に取付けられている。先端棒41又は継足棒42はピストン部32によって端部22cに向かって押出されるため、上記反力は、その逆の端部22dに向かって治具20にかかることになる。これに対し、突起部51が第1溝部27に挿入されているので、その反力によって治具20が端部22d側の方向に移動されても、突起部51が第1溝部27の内面27aに当接して、その移動を停止させる。すなわち、その反力を第1溝部27の内面27aが受けることになる。
【0035】
このように、治具20をロータ2に取付けた状態で、ロータ2に含まれる突起部51を第1溝部27に挿入させることにより、ピストン部32が押出棒40を翼根ばね10に向かって押出して翼根ばね10を抜き取るときの反力を、突起部51が第1溝部27の内面27aに当接することにより受けることができる。これにより、翼根ばね10を確実に抜き取ることができる。また、ピストン部32が押出棒40を翼根ばね10に向かって押出すことにより翼根ばね10が抜き取られるので、翼根ばね10の抜き取り作業の効率を向上することができる。
【0036】
これまでは、翼根ばね10の抜き取り方法を説明したが、翼根ばね10の組付け方法も実質的には翼根ばね10の抜き取り方法と同じである。翼根ばね10は、押出棒40に比べて長いので、翼根ばね10の一端を隙間6に挿入して、翼根ばね10の他端をハンマー等で叩くことで、できるだけ翼根ばね10を隙間6内に挿入する。
【0037】
続いて、翼根ばね10の抜き取り方法のときと同様にして、準備ステップ及び取付けステップを行う。取付けステップにおいて、一部が隙間6内に挿入された翼根ばね10を、第2溝部31に嵌め込む。その後、ピストン部32が翼根ばね10を押出すことにより(押出しステップ)、翼根ばね10が隙間6内に挿入されて組付けられる。その際、必要に応じて、押出棒40を介して翼根ばね10を押出してもよい。
【0038】
翼根ばね10を組付ける場合も、ピストン部32が翼根ばね10を押出す際に、その反力が治具20にかかる。この反力も、翼根ばね10の抜き取り方法のときと同様にして、突起部51が第1溝部27の内面27aに当接することにより受けることができる。また、ピストン部32が翼根ばね10を押出すことにより翼根ばね10が組付けられるので、翼根ばね10の組付け作業の効率を向上することができる。
【0039】
上記各実施形態に記載の内容は、例えば以下のように把握される。
【0040】
[1]一の態様に係る翼根ばねの組付け及び抜き取り用治具は、
動翼(1)をロータ(2)に固定するための翼根ばね(10)の組付け及び抜き取り用治具であって、
前記翼根ばね(10)又は前記翼根ばね(10)に押付けられる押出棒(40)を押出す押出し機構(油圧ジャッキ21)と、
前記押出し機構(21)が固定されるベースプレート(22)と
を備え、
前記ベースプレート(22)には、前記押出し機構(21)が前記押出棒(40)を前記翼根ばね(10)に向かって押出すことにより前記翼根ばね(10)を押出して組み付けるとき又は前記翼根ばね(10)を抜き取るときの反力を受けるための第1溝部(27)が形成されている。
【0041】
本開示の翼根ばねの組付け及び抜き取り用治具によれば、押出し機構が押出棒を翼根ばねに向かって押出すことにより翼根ばねを押出して組み付け、又は翼根ばねが抜き取られるので、翼根ばねの組付け及び抜き取り作業の効率を向上することができる。また、治具をロータに取付けた状態で、ロータに含まれる突起部を第1溝部に挿入させることにより、押出し機構が押出棒を翼根ばねに向かって押出して翼根ばねを抜き取るとき又は翼根ばねを押出して組付けるときの反力を、突起部が第1溝部の内面に当接することにより受けることができる。
【0042】
[2]別の態様に係る治具は、[1]の治具であって、
前記治具(20)は、該治具(20)の自重を受けるための自重受け面(28d)を含む自重受け部(28)をさらに備え、
前記自重受け面(28d)は、前記第1溝部(27)と前記押出し機構(21)との間に位置するとともに、前記自重受け面(28d)が前記自重を受けるときに前記第1溝部(27)の延びる方向に対して交差する方向に延びる。
【0043】
このような構成によれば、自重受け面がロータの表面に鉛直方向下向きに当接するとともに第1溝部の内面が突起部に鉛直方向上向きに当接することにより、治具をロータに取付けることができる。
【0044】
[3]さらに別の態様に係る治具は、[2]の治具であって、
前記第1溝部(27)は、前記第1溝部(27)の内面(27a)の一部としての底面(27b)を有する。
【0045】
このような構成によれば、自重受け面がロータの表面に鉛直方向下向きに当接するとともに第1溝部の内面の一部である底面が突起部に鉛直方向上向きに当接することにより、より確実に治具をロータに取付けることができる。
【0046】
[4]さらに別の態様に係る治具は、[1]~[3]のいずれかの治具であって、
前記第1溝部(27)は、前記押出し機構(21)よりも、前記押出し機構(21)が前記押出棒(40)又は前記翼根ばね(10)を押出す方向に位置する。
【0047】
このような構成によれば、翼根ばねを組付ける又は抜き取るロータに近接して治具を取付けることができるので、作業場が狭くても翼根ばねの組付け及び抜き取り作業の効率を向上することができる。
【0048】
[5]さらに別の態様に係る治具は、[4]のいずれかの治具であって、
前記ベースプレート(22)には、前記押出し機構(21)が前記押出棒(40)又は前記翼根ばね(10)を押出すときに前記押出棒(40)又は前記翼根ばね(10)が挿入される第2溝部(31)が形成され、
前記第1溝部(27)と前記第2溝部(31)とは互いに交差する。
【0049】
このような構成によれば、翼根ばねを組付ける又は抜き取るロータに近接して治具を取付けることができるので、作業場が狭くても翼根ばねの組付け及び抜き取り作業の効率を向上することができる。
【0050】
[6]さらに別の態様に係る治具は、[1]~[5]のいずれかの治具であって、
前記ベースプレート(22)には、前記第1溝部(27)を横切るように位置決めピン(34a,34b,34c)が取外し可能に設けられている。
【0051】
このような構成によれば、治具をロータに取付ける際に、突起部の端縁に形成された複数のロッキングキー溝のいずれかに嵌め込むことで、ロータの周方向における取付け位置を容易に決定することができる。
【0052】
[7]一の態様に係る翼根ばねの組付け及び抜き取り方法
動翼(1)をロータ(2)に固定するための翼根ばね(10)の組付け及び抜き取り方法であって、
前記翼根ばね(10)又は前記翼根ばね(10)に押付けられる押出棒(40)を押出す押出し機構(油圧ジャッキ21)と、前記押出し機構(21)が固定されるベースプレート(22)とを備える治具(20)を準備する準備ステップと、
前記治具(20)を前記ロータ(2)に取付ける取付けステップと、
前記押出し機構(21)が前記押出棒(40)又は前記翼根ばね(10)を押出す押出しステップと
を含み、
前記ベースプレート(22)には、前記ロータ(2)に含まれる突起部(51)が挿入可能に構成された第1溝部(27)が形成され、
前記押出しステップでは、前記押出し機構(21)が前記押出棒(40)を前記翼根ばね(10)に向かって押出すことにより前記翼根ばね(10)を押出して組み付けるとき又は前記翼根ばね(10)を抜き取るときの反力を、前記突起部(51)が前記第1溝部(27)の内面(27a)に当接することにより受ける。
【0053】
本開示の翼根ばねの組付け及び抜き取り方法によれば、押出し機構が押出棒を翼根ばねに向かって押出すことにより翼根ばねを押出して組み付け、又は翼根ばねが抜き取られるので、翼根ばねの組付け及び抜き取り作業の効率を向上することができる。また、治具をロータに取付けた状態で、ロータに含まれる突起部を第1溝部に挿入させることにより、押出し機構が押出棒を翼根ばねに向かって押出して翼根ばねを抜き取るとき又は翼根ばねを押出して組付けるときの反力を、突起部が第1溝部の内面に当接することにより受けることができる。
【0054】
[8]別の態様に係る方法は、[7]の方法であって、
前記治具(20)は、該治具(20)の自重を受けるための自重受け面(28d)を含む自重受け部(28)をさらに備え、
前記自重受け面(28d)は、前記第1溝部(27)と前記押出し機構(21)との間に位置するとともに、前記自重受け面(28d)が前記自重を受けるときに前記第1溝部(27)の延びる方向に対して交差する方向に延び、
前記取付けステップでは、前記自重受け面(28d)が前記ロータ(2)の表面(50a)に鉛直方向下向きに当接するとともに前記第1溝部(27)の前記内面(27a)が前記突起部(51)に鉛直方向上向きに当接することにより、前記治具(20)が前記ロータ(2)に取付けられる。
【0055】
このような方法によれば、自重受け面がロータの表面に鉛直方向下向きに当接するとともに第1溝部の内面が突起部に鉛直方向上向きに当接することにより、治具をロータに取付けることができる。
【0056】
[9]さらに別の態様に係る方法は、[8]の方法であって、
前記第1溝部(27)は、前記内面(27a)の一部としての底面(27b)を有し、
前記取付けステップでは、前記底面(27b)が前記突起部(51)に鉛直方向上向きに当接する。
【0057】
このような方法によれば、自重受け面がロータの表面に鉛直方向下向きに当接するとともに第1溝部の底面が突起部に鉛直方向上向きに当接することにより、より確実に治具をロータに取付けることができる。
【0058】
[10]さらに別の態様に係る方法は、[7]~[9]の方法であって、
前記ベースプレート(22)には、前記第1溝部(27)を横切るように位置決めピン(34a,34b,34c)が取外し可能に設けられ、
前記準備ステップと前記取付けステップとの間に、前記ロータ(2)の周方向における前記ベースプレート(22)の取付け位置を決める位置決めステップをさらに含み、
前記位置決めステップでは、前記突起部(51)に形成されたロッキングキー溝(52)と前記位置決めピン(34a,34b,34c)とに基づいて、前記ロータ(2)の周方向における前記ベースプレート(22)の取付け位置が決定される。
【0059】
このような方法によれば、治具をロータに取付ける際に、ロータの周方向における取付け位置を容易に決定することができる。
【符号の説明】
【0060】
1 動翼
2 ロータ
10 翼根ばね
20 治具
21 油圧ジャッキ(押出し機構)
22 ベースプレート
27 第1溝部
27a (第1溝部の)内面
27b (第1溝部の)底面
28 自重受け部
28d 自重受け面
31 第2溝部
34a 位置決めピン
34b 位置決めピン
34c 位置決めピン
40 押出棒
50a (ロータの)表面
51 突起部