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特許7458234ナノファイバ積層シート及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-21
(45)【発行日】2024-03-29
(54)【発明の名称】ナノファイバ積層シート及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/12 20060101AFI20240322BHJP
   B32B 5/02 20060101ALI20240322BHJP
   D01D 5/04 20060101ALI20240322BHJP
   D04H 1/728 20120101ALI20240322BHJP
【FI】
B32B27/12
B32B5/02 A
D01D5/04
D04H1/728
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2020072693
(22)【出願日】2020-04-15
(65)【公開番号】P2021169168
(43)【公開日】2021-10-28
【審査請求日】2023-01-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000229542
【氏名又は名称】日本バイリーン株式会社
(72)【発明者】
【氏名】山内 俊
(72)【発明者】
【氏名】角前 洋介
【審査官】大塚 美咲
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-030581(JP,A)
【文献】特開2012-012317(JP,A)
【文献】特開2010-167780(JP,A)
【文献】特開2008-179629(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 27/12
B32B 5/02
D01D 5/04
D04H 1/728
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維径が3μm以下のナノファイバの層と、
該層の少なくとも一方の面側に配置された水溶性基材層とを有するナノファイバ積層シートであって、
該水溶性基材層は、ナノファイバの層よりも水溶性が低く、
ナノファイバ積層シートにカラメル化された単糖または/及び二糖を含む、ナノファイバ積層シート。
【請求項2】
(1)水溶性の高分子化合物と、単糖または/及び二糖を水に溶かし、紡糸液を製造する工程、
(2)前記紡糸液を用いて電界紡糸して、ナノファイバの層と水溶性基材層とを有するナノファイバ積層シート前駆体を製造する工程、
(3)ナノファイバ積層シート前駆体を熱処理してナノファイバ積層シート前駆体に含まれる単糖または/及び二糖をカラメル化させ、ナノファイバ積層シートを製造する工程、
を有する、ナノファイバ積層シートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノファイバの層と水溶性基材層との積層シートに関する。
【背景技術】
【0002】
平均繊維径が小さい繊維からなる繊維集合体(例えば、不織布など)は、比表面積が大きく、分離性能、液体保持性能、払拭性能、隠蔽性能、絶縁性能、或いは柔軟性など、様々な性能に優れることが知られている。
【0003】
しかしながら、水溶性の高分子化合物から構成された繊維集合体は、比表面積が大きいため、繊維集合体を指で触れるだけで、指に含まれる汗などの水分で溶解してしまい、取り扱い性が劣る課題があった。
【0004】
このような課題を解決した水溶性の高分子化合物から構成された繊維集合体を含むものとして、例えば、特開2012-30581号公報(特許文献1)には、ナノファイバの層と、ナノファイバの層の少なくとも一方の面側に配置された水溶性基材層とを有し、該水溶性基材層は、該ナノファイバの層よりも水溶性が低いナノファイバ積層シートが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2012-30581号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1にかかるナノファイバ積層シートは、確かに取り扱い性が従来よりも優れるものであったが、それでも指で触ってナノファイバ積層シートを取り扱う際に該シートが溶解することがあり、充分なものではなかった。
【0007】
本発明はこのような状況下においてなされたものであり、より取り扱い性に優れるナノファイバ積層シート、及び、ナノファイバ積層シートの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の請求項1に係る発明は、「繊維径が3μm以下のナノファイバの層と、該層の少なくとも一方の面側に配置された水溶性基材層とを有するナノファイバ積層シートであって、該水溶性基材層は、ナノファイバの層よりも水溶性が低く、ナノファイバ積層シートにカラメル化された単糖または/及び二糖を含む、ナノファイバ積層シート。」である。
【0009】
本発明の請求項2に係る発明は、「(1)水溶性の高分子化合物と、単糖または/及び二糖を水に溶かし、紡糸液を製造する工程、(2)前記紡糸液を用いて電界紡糸して、ナノファイバの層と水溶性基材層とを有するナノファイバ積層シート前駆体を製造する工程、(3)ナノファイバ積層シート前駆体を熱処理してナノファイバ積層シート前駆体に含まれる単糖または/及び二糖をカラメル化させ、ナノファイバ積層シートを製造する工程、を有する、ナノファイバ積層シートの製造方法。」である。
【発明の効果】
【0010】
本願出願人らは、ナノファイバ積層シートに単糖または/及び二糖が含まれ、前記単糖または/及び二糖がカラメル化されていることで、従来技術のナノファイバ積層シートよりもより水に溶けにくくなるもののある程度の水溶性が保たれることを見出した。そのため、本発明によって、従来技術のナノファイバ積層シートと比較してより取り扱い性が優れるナノファイバ積層シートを提供できる。
【0011】
また、本願出願人らは、水溶性の高分子化合物と、単糖または/及び二糖を水に溶かして紡糸液を製造し、この紡糸液を電界紡糸し、熱処理することでナノファイバ積層シートを製造することにより、従来技術のナノファイバ積層シートと比較してより取り扱い性が優れ、また、ある程度の水溶性が保たれるナノファイバ積層シートを提供できることを見出した。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明のナノファイバ積層シート(以下、単に「積層シート」と称することがある。)は、ナノファイバの層(以下、「ナノファイバ層」と称することがある。)と、水溶性基材層とを、その基本構成として有している。水溶性基材層は、ナノファイバ層の少なくとも一方の面側に配置されている。積層シートの用途によっては、ナノファイバ層の両方の面に水溶性基材層が配置されることもある。この場合には、ナノファイバ層の一方の面側に配置された水溶性基材層と、他方の面側に配置された水溶性基材層とは、同一のものでもよく、あるいは異なるものであってもよい。水溶性基材層が、ナノファイバ層の一方の面側に配置されているか、それとも両方の面側に配置されているかを問わず、水溶性基材層とナノファイバ層が隣接していてもよいし、水溶性基材層とナノファイバ層の間に水溶性基材層、ナノファイバ層以外の層を有していてもよいが、積層シートの水溶性が優れるように、水溶性基材層とナノファイバ層が隣接しているのが好ましい。
【0013】
また、本発明の積層シートには、カラメル化された単糖または/及び二糖を含む。単糖とは、これ以上加水分解されない糖をいい、例えば、グルコース、フルクトース、ガラクトース、マンノースなどが挙げられる。二糖とは、2つの単糖が脱水縮合で結合した糖をいい、例えばグルコースが2つ結合したマルトースや、グルコースとフルクトースが結合したスクロース、グルコースとガラストースが結合したラクトースなどが挙げられる。また、積層シートに含まれるカラメル化された単糖または/及び二糖については、1種類であっても2種類以上であってもよい。
【0014】
積層シートに含まれる単糖または/及び二糖がカラメル化されているかどうかは、例えば、Tg-DTAやDSCによる熱分析や赤外分光で判断することができる。
【0015】
なお、カラメル化された単糖または/及び二糖は、積層シートのナノファイバ層または水溶性基材層のどちらか一方のみに含んでいてもよいし、ナノファイバ層及び水溶性基材層の両方に含んでいてもよい。
【0016】
ナノファイバ層は、ナノファイバに加えて他の成分を含んでいてもよいが、積層シートの水溶性が優れるように、ナノファイバのみから構成されていることが好ましい。ナノファイバの繊維径は、ナノファイバの水に対する溶解性が優れるように、3μm以下である。ナノファイバの繊維径が細ければ細いほど、ナノファイバの水に対する溶解性が更に優れることから、2μm以下がより好ましく、1μm以下が更に好ましい。ナノファイバの繊維径が細すぎると、ナノファイバの強度が低下し、取り扱い性が劣るおそれがあることから、下限は50nmが現実的である。なお、本発明における「繊維径」は、繊維を切断した断面における任意の倍率の電子顕微鏡写真から測定した、繊維の断面から求められる直径のこと(断面が円形の場合)をいい、繊維断面が円形でない異形断面の場合は、異形断面の断面積を計測し、その断面積を有する円の直径を繊維径とみなす。
【0017】
ナノファイバの繊維長については、特に限定するものではないが、0.2mm以上であることができ、0.5mm以上であることができ、1mm以上であることができ、最も好ましくは実質的に連続繊維である。本発明における「繊維長」は、積層シートの主面における電子顕微鏡写真から測定して得られた繊維における最も長い方向の長さを意味し、「実質的に連続繊維」とは、電子顕微鏡を用いる積層シートの主面上の写真撮影を、撮影画像の一辺が繊維の繊維径の60倍の長さとなる倍率で行った場合に、電子顕微鏡写真20枚以上における繊維の端部の総数を、電子顕微鏡写真の枚数で除した、電子顕微鏡写真1枚あたりの繊維の端部数が0.3以下であることを意味する。電子顕微鏡を用いる積層シートの主面上の写真撮影は、積層シートの切断部を含まない積層シートの主面の中央部における、連続的に異なる箇所において行う。例えば繊維径が500nmの繊維が実質的に連続繊維であるかどうか確認する場合、電子顕微鏡を用いる積層シートの主面上の写真撮影を、積層シートの切断面を含まない積層シートの主面の中央部における、連続的に異なる箇所において、撮影画像の一辺が30μmとなる倍率で20枚(4行×5列)行い、電子顕微鏡写真1枚あたりの端部数を算出し、1枚当たりの端部数が0.3以下であれば実質的に連続繊維と考えることができる。なお、本発明における「主面」とは、積層シートにおける面積が最も広い面をいう。
【0018】
ナノファイバは、水溶性の高分子化合物が主成分である。本明細書において「水溶性の高分子化合物」とは、1気圧・23℃の環境下において、高分子化合物1g秤量したのちに、10gのイオン交換水に浸漬し、24時間経過後、浸漬した高分子化合物の0.5g以上が溶解する性質を有する高分子化合物をいう。
【0019】
ナノファイバを構成する水溶性の高分子化合物としては、先述のカラメル化された単糖、カラメル化された二糖のほかに、例えば、プルラン、ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸、ポリ-γ-グルタミン酸、変性コーンスターチ、β-グルカン、グルコオリゴ糖、ヘパリン、ケラト硫酸等のムコ多糖、セルロース、ペクチン、キシラン、リグニン、グルコマンナン、ガラクツロン、サイリウムシードガム、タマリンド種子ガム、アラビアガム、トラガントガム、大豆水溶性多糖、アルギン酸、カラギーナン、ラミナラン、寒天(アガロース)、フコイダン、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース等の天然高分子、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリエチレンオキサイド、ポリアクリル酸ナトリウム等の合成高分子等が挙げられる。これらの水溶性高分子化合物はカラメル化された単糖、カラメル化された二糖の他に、単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの水溶性の高分子化合物のうち、ナノファイバの調製が容易である観点から、プルラン、並びにポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン及びポリエチレンオキサイド等の合成高分子を用いることが好ましい。
【0020】
ナノファイバは、前記水溶性の高分子化合物、カラメル化された単糖、カラメル化された二糖の他に、他の成分を含んでいてもよい。そのような成分としては、例えば、顔料、界面活性剤、帯電防止剤、発泡剤などが挙げられるが、積層シートが水溶性を示すように、水溶性の高分子化合物のみ、水溶液の高分子化合物及びカラメル化された単糖のみ、水溶性の高分子化合物及びカラメル化された二糖のみ、水溶性の高分子化合物、カラメル化された単糖及びカラメル化された二糖のみのいずれかで構成されているのが好ましい。
【0021】
ナノファイバ層の少なくとも一方の面側に配置される水溶性基材層は、ナノファイバと同様の水溶性の高分子化合物を含む。水溶性基材層は、その水溶性の程度が、ナノファイバ層の水溶性の程度と異なる点に特徴の一つを有している。具体的には、水溶性基材層はその水溶性が、ナノファイバ層よりも相対的に低くなっている。つまり、水溶性基材層は、ナノファイバ層よりも相対的に水に溶けにくくなっている。その結果、本発明の積層シートを手で取り扱う際、汗などの水分に起因するナノファイバ層の溶解が、水溶性基材層で阻止され、取り扱い性が向上している。
【0022】
ナノファイバ層と水溶性基材層との水溶性の程度は、例えば、次の方法で測定できる。
積層シートを20mm角の大きさに切断してサンプルシートを作製し、これをスライドガラス上に両面テープで貼り付ける。このとき、ナノファイバ層の水溶性を測定するときはナノファイバ層が露出するように、水溶性基材層の水溶性を測定するときは水溶性基材層が露出するように貼り付ける。その後、東京硝子器機製のウォーターバス(FWB-24S)を使用し、ウォーターバスの高さの80%までウォーターバスに水を入れ、90℃の加熱設定にし、蒸気を発生させる。ウォーターバスの水温が90℃になったら、スライドガラスに固定したサンプルシートをウォーターバスの水面上から100mmの距離で、サンプルシートがウォーターバスの水面と対面するように固定し、積層シートのナノファイバ層または水溶性基材層が透明化するまでの時間を目視で観察し、これを溶解時間とする。この手法によるナノファイバ層の溶解時間は特に限定するものではないが、120秒以下が好ましく、60秒以下がより好ましく、更に好ましくは5秒~10秒である。又水溶性基材層の溶解時間は、ナノファイバ層の溶解時間よりも長ければよいが、180秒以下が好ましく、120秒以下が好ましく、更に好ましくは10秒~20秒である。
【0023】
水溶性基材層の水溶性を、ナノファイバ層の水溶性よりも低くするためには、例えば、(1)水溶性基材層の構成材料とナノファイバの構成材料とが同じである場合には、水溶性基材層の比表面積を、ナノファイバ層の比表面積よりも小さくすればよい。また、(2)水溶性基材層の構成材料とナノファイバの構成材料が異なる場合、水溶性基材層の構成材料として、ナノファイバの構成材料よりも水溶性の低いもの(ただし水不溶性のものは除く)を用いればよい。また、水溶性基材層が通気性を有するような形態であってもよい。
【0024】
前記の(1)を採用する場合、水溶性基材層を無孔のフィルムもしくは有孔のフィルムまたはメッシュから構成できる。これらのフィルムの厚さや、孔の大きさ及び個数等を適切に調整することで、所望の水溶性を得ることができる。そのような厚さや孔の大きさ及び個数などは、特に限定するものではない。具体的な水溶性基材層としては、オブラートやプルラン等の多糖類系の材料;ポリビニルアルコール;寒天及びカラギーナンを原料とするフィルムを用いることができる。このようなフィルムを使用する場合、該フィルムは必ずしもその全体が水溶性である必要はなく、水分存在下で容易に崩壊する特性を有していればよい。つまり、水溶性基材層が水溶性であるとは、該層が完全に水に溶解する場合だけでなく、水との接触で該層がシート形態を失う場合も包含する。
【0025】
同じく前記の(1)を採用する場合であって、かつ水溶性基材層がナノファイバを含むときには、該水溶性基材層を、ナノファイバ部位と、該水溶性基材層の比表面積を低下させるフィルム状部位との混在から構成すればよい。水溶性基材層が、ナノファイバ部位とフィルム状部位との混在からなる場合、水溶性基材層を平面視観察したとき、水溶性基材層全体におけるフィルム状部位の面積の割合は、10~90%、特に40~90%に設定することが、所望の水溶性及び取り扱い性が得られる点から好ましい。この水溶性基材層全体におけるフィルム状部位の面積の割合は、水溶性基材層を500倍でSEM観察し、その画像を例えば画像処理ソフト(Image J)を使用し、背景抽出し自動で二値化処理することで求めることができる。水溶性基材層を500倍でSEM観察したときにフィルム状部位が認められない場合、2000倍でSEM観察し、前述の画像処理をすることで面積比を求めることができる。
【0026】
次に、本発明の積層シートの好適な製造方法について、例示する。
【0027】
まず、水溶性の高分子化合物と、単糖または/及び二糖を水に溶かし、後述の電界紡糸に用いる紡糸液を製造する。水溶性の高分子化合物、単糖、二糖は、上述の物質を用いることができる。
【0028】
紡糸液中における、水溶性の高分子化合物の濃度については、低すぎると樹脂濃度が希薄すぎるため繊維形成が困難になる恐れがあること、また、高すぎると紡糸液がノズルに詰まり電界紡糸が困難になるおそれがあることから、1.0~50wt%が好ましく、5~40wt%がより好ましく、10~30wt%が更に好ましい。
【0029】
また、紡糸液中における、単糖または/及び二糖の濃度については、低すぎると積層シートが水に溶けにくくなる効果が充分に得られないおそれがある一方、高すぎると積層シートが水に溶けなくなるおそれがあることから、1.0~20wt%が好ましく、1.5~15wt%がより好ましく、2.0~10wt%が更に好ましい。
【0030】
更に、紡糸液中における、水溶性の高分子化合物と、単糖または/及び二糖の質量比については、水溶性の高分子化合物に対する単糖または/及び二糖の質量が大きいとより積層シートを取り扱う際に溶解しにくくなる一方、水溶性の高分子化合物に対する単糖または/及び二糖の質量が大きすぎると積層シートが硬くなり、割れやすくなる傾向があることから、98.5:1.5~1.5:98.5が好ましく、95:5~50:50がより好ましく、90:10~60:40が更に好ましい。なお、紡糸液を製造するにあたって、水に水溶性の高分子化合物、及び、単糖または/及び二糖の両方を溶かして製造してもよいし、水溶性の高分子化合物の水溶液と、単糖または/及び二糖の水溶液をそれぞれ用意し、2つの水溶液を混ぜ合わせて製造してもよい。
【0031】
紡糸液の粘度は、電界紡糸で繊維が形成できるように、150~5000mPa・sが好ましく、200~3000mPa・sがより好ましく、500~2500mPa・sが更に好ましい。
【0032】
次に、前記紡糸液を用いて電界紡糸して、ナノファイバの層と水溶性基材層とを有するナノファイバ積層シート前駆体(以下、単に「積層シート前駆体」と称することがある)を製造する。
【0033】
水溶性基材層が無孔のフィルムもしくは有孔のフィルムまたはメッシュである場合は、基板として該水溶性基材層を用い、その主面上に前記紡糸液を用いて電界紡糸したナノファイバを堆積させることで、ナノファイバ層を形成することができ、積層シート前駆体が得られる。
【0034】
水溶性基材層がナノファイバを含む場合には、別途用意した基板の一面上に、ナノファイバを含む水溶性基材層を形成し、次いでその上にナノファイバ層を形成すれば積層シート前駆体が得られる。更に、必要に応じ、ナノファイバ層の上に水溶性基材層を形成すれば、一層のナノファイバ層の各面に水溶性基材層が積層されてなる三層構造の積層シートが得られる。水溶性基材層及びナノファイバ層の形成のためには、例えば電界紡糸の際に異なる2つのノズルを用い、一方のノズルから水溶性基材層を形成するための溶液を押し出し、その後に他方のノズルからナノファイバ層を形成するための溶液を押し出せばよい。このようにして得られた積層シートにおいては、該積層シートの厚さ方向で見た時に、水溶性基材層の組成と、ナノファイバ層の組成との間に明確な境界が存在することになる。
【0035】
先に述べた通り、水溶性基材層がナノファイバを含む場合には、水溶性基材層を、ナノファイバ部位と、該水溶性基材層の比表面積を低下させる部位、例えばフィルム状部位との混在から構成することが好ましい。電界紡糸によって、ナノファイバ部位に加えてフィルム状部位を形成するには、例えば電界紡糸を行うときのノズル先端と、堆積用の基板との間の距離を短くするか、及び/または押出量を多くして、ノズル先端から押し出された溶液の液滴の一部が、ナノファイバ状態に引き延ばされる前に、該液滴を堆積用の基板に堆積させることでフィルム状部位を形成できる。この手法を採用した場合には、一部の液滴が引き伸ばされない状態でナノファイバの堆積が起こるので、形成された水溶性基材層においては、該水溶性基材層を構成するナノファイバに加えて、該液滴を反映したスポット的なフィルム状部位が形成される。このスポット的なフィルム状部位には、ナノファイバの交点の位置とは無関係に存在する。このスポット的なフィルム状部位の大きさは、電界紡糸の条件にもよるが、円相当直径で表すと5~200μmである。
【0036】
なお、紡糸液を電界紡糸する際の印加電圧は、電界紡糸で繊維が形成できるように、1~30kVが好ましく、5~25kVがより好ましく、10~22kVが更に好ましい。
【0037】
最後に、積層シート前駆体を熱処理して積層シート前駆体に含まれる単糖または/及び二糖をカラメル化させ、積層シートを製造する。積層シート前駆体を熱処理する方法は特に限定するものではないが、例えばオーブンに積層シートを入れる方法、加熱したロールの間に積層シートを挟んで通過させる方法、加熱したロールの間に積層シートを挟まず、積層シートを加熱したロールに添わせて通過させる方法などが挙げられる。熱処理の温度は、積層シート前駆体に含まれる単糖、二糖の種類においてカラメル化する温度が異なるため適宜調整するが、積層シート前駆体に含まれる単糖、二糖を十分にカラメル化できるように、100~300℃が好ましく、150~250℃がより好ましく、180~220℃が更に好ましい。熱処理の処理時間は、積層シート前駆体に含まれる単糖、二糖を十分にカラメル化できるように、1~60分が好ましく、5~30分がより好ましく、10~20分が更に好ましい。
【0038】
このようにして得られた本発明の積層シートは、衛生用品や、オブラートなどの食品包装材などの、水に対する溶解性が要求される分野で利用することができる。
【実施例
【0039】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。
【0040】
(実施例1)
(紡糸液の製造)
まず、プルラン(林原工業製)をイオン交換水に溶解させ、プルラン水溶液(プルラン濃度:20wt%)を用意した。また、グルコース(富士フイルム和光純薬製)をイオン交換水に溶解させ、グルコース水溶液(グルコース濃度:60wt%)を用意した。
次に、プルランとグルコースの質量比が87.5:12.5となるように前記プルラン水溶液と前記グルコース水溶液を混合し、紡糸液(プルラン濃度:19wt%、グルコース濃度:2.7wt%、粘度:1683mPa・s)を用意した。
(積層シート前駆体の製造)
前記紡糸液を用い、下記及び表1に記載の電界紡糸条件により電界紡糸し、紡糸することで得られた繊維を捕集し、コンベアに接する側にナノファイバ部位と液滴によるフィルム状部位が混在した水溶性基材層、コンベアに接しない側にナノファイバのみで構成されたナノファイバ層を形成し、1層のナノファイバ層と1層の水溶性基材層とを有する積層シート前駆体を得た。
<電界紡糸条件>
・電極:金属ノズル(内径:0.33mm、先端が紡糸液吐出部)とコンベア(紡糸した繊維の捕集体)
・紡糸空間の温湿度:25℃/30%RH
(積層シートの製造)
前記積層シート前駆体をオーブンに入れ、200℃で10分間熱処理し、積層シート前駆体に含まれるグルコースをカラメル化させて積層シートを得た。なお、積層シート前駆体と積層シートのDSC測定を行い、積層シート前駆体では200℃付近に存在した吸熱ピークが、積層シートでは消失していたことから、積層シートに含まれているグルコースがカラメル化されたと判断した。
【0041】
(実施例2)
(紡糸液の製造)
まず、実施例1と同様のプルラン水溶液を用意した。また、フルクトース(富士フイルム和光純薬製)をイオン交換水に溶解させ、フルクトース水溶液(フルクトース濃度:60wt%)を用意した。
次に、プルランとフルクトースの質量比が87.5:12.5となるように前記プルラン水溶液と前記グルコース水溶液を混合し、紡糸液(プルラン濃度:19wt%、フルクトース濃度:2.7wt%、粘度:1898mPa・s)を用意した。
(積層シート前駆体の製造)
前記紡糸液を用い、上記及び表1に記載の電界紡糸条件により電界紡糸したことを除いては、実施例1と同様にして、1層のナノファイバ層と1層の水溶性基材層とを有する積層シート前駆体を得た。
(積層シートの製造)
200℃で10分間熱処理して積層シート前駆体に含まれるフルクトースをカラメル化させたことを除いては、実施例1と同様の熱処理を行い、積層シートを得た。なお、積層シート前駆体と積層シートのDSC測定を行い、積層シート前駆体では200℃付近に存在した吸熱ピークが、積層シートでは消失していたことから、積層シートに含まれているフルクトースがカラメル化されたと判断した。
【0042】
(実施例3)
(紡糸液の製造)
まず、実施例1と同様のプルラン水溶液を用意した。また、スクロースを主成分とし、そのほかにグルコースとフルクトースを含む上白糖(日新製糖製)をイオン交換水に溶解させ、上白糖水溶液(上白糖濃度:60wt%)を用意した。
次に、プルランと上白糖の質量比が87.5:12.5となるように前記プルラン水溶液と前記上白糖水溶液を混合し、紡糸液(プルラン濃度:19wt%、上白糖濃度:2.7wt%、粘度:2144mPa・s)を用意した。
(積層シート前駆体の製造)
前記紡糸液を用い、上記及び表1に記載の電界紡糸条件により電界紡糸したことを除いては、実施例1と同様にして、1層のナノファイバ層と1層の水溶性基材層とを有する積層シート前駆体を得た。
(積層シートの製造)
200℃で10分間熱処理して積層シート前駆体に含まれる上白糖をカラメル化させたことを除いては、実施例1と同様の熱処理を行い、積層シートを得た。なお、積層シート前駆体と積層シートのDSC測定を行い、積層シート前駆体では200℃付近に存在した吸熱ピークが、積層シートでは消失していたことから、積層シートに含まれている上白糖を構成する糖がカラメル化されたと判断した。
【0043】
(実施例4)
(紡糸液の製造)
まず、ポリビニルピロリドン(富士フイルム和光純薬製、K90)をイオン交換水に溶解させ、ポリビニルピロリドン水溶液(ポリビニルピロリドン濃度:20wt%)を用意した。また、実施例2と同様のフルクトース水溶液を用意した。
次に、ポリビニルピロリドンとフルクトースの質量比が87.5:12.5になるように前記ポリビニルピロリドン水溶液と前記フルクトース水溶液を混合し、紡糸液(ポリビニルピロリドン:19wt%、フルクトース濃度:2.7wt%、粘度:2144mPa・s)を用意した。
(積層シート前駆体の製造)
前記紡糸液を用い、上記及び表1に記載の電界紡糸条件により電界紡糸したことを除いては、実施例1と同様にして、1層のナノファイバ層と1層の水溶性基材層とを有する積層シート前駆体を得た。
(積層シートの製造)
200℃で10分間熱処理して積層シート前駆体に含まれるフルクトースをカラメル化させたことを除いては、実施例1と同様の熱処理を行い、積層シートを得た。なお、積層シート前駆体と積層シートのDSC測定を行い、積層シート前駆体では200℃付近に存在した吸熱ピークが、積層シートでは消失していたことから、積層シートに含まれているフルクトースがカラメル化されたと判断した。
【0044】
(実施例5)
(紡糸液の製造)
まず、ポリビニルアルコール(クラレ製、PVA-203、部分けん化、重合度300)をイオン交換水に溶解させ、ポリビニルアルコール水溶液(ポリビニルアルコール濃度:20wt%)を用意した。また、実施例2と同様のフルクトース水溶液を用意した。
次に、ポリビニルアルコールとフルクトースの質量比が87.5:12.5になるように前記ポリビニルアルコール水溶液と前記フルクトース水溶液を混合し、紡糸液(ポリビニルアルコール濃度:19wt%、フルクトース濃度:2.7wt%、粘度:164mPa・s)を用意した。
(積層シート前駆体の製造)
前記紡糸液を用い、上記及び表1に記載の電界紡糸条件により電界紡糸したことを除いては、実施例1と同様にして、1層のナノファイバ層と1層の水溶性基材層とを有する積層シート前駆体を得た。
(積層シートの製造)
200℃で10分間熱処理して積層シート前駆体に含まれるフルクトースをカラメル化させたことを除いては、実施例1と同様の熱処理を行い、積層シートを得た。なお、積層シート前駆体と積層シートのDSC測定を行い、積層シート前駆体では200℃付近に存在した吸熱ピークが、積層シートでは消失していたことから、積層シートに含まれているフルクトースがカラメル化されたと判断した。
【0045】
(比較例1)
(繊維シート前駆体の製造)
実施例1と同じプルラン水溶液(粘度:2322mPa・s)を用い、上記及び表1に記載の電界紡糸条件により電界紡糸したことを除いては、実施例1と同様にして、1層のナノファイバ層と1層の水溶性基材層とを有する積層シート前駆体を得た。
(積層シートの製造)
200℃で10分間熱処理したことを除いては、実施例1と同様の熱処理を行い、積層シートを得た。
【0046】
(比較例2)
(繊維シート前駆体の製造)
実施例4と同じポリビニルピロリドン水溶液(粘度:2828mPa・s)を用い、上記及び表1に記載の電界紡糸条件により電界紡糸したことを除いては、実施例1と同様にして、1層のナノファイバ層と1層の水溶性基材層とを有する積層シート前駆体を得た。
(積層シートの製造)
200℃で10分間熱処理したことを除いては、実施例1と同様の熱処理を行い、積層シートを得た。
【0047】
(比較例3)
(繊維シート前駆体の製造)
実施例5と同じポリビニルアルコール水溶液(粘度:203mPa・s)を用い、上記及び表1に記載の電界紡糸条件により電界紡糸したことを除いては、実施例1と同様にして、1層のナノファイバ層と1層の水溶性基材層とを有する積層シート前駆体を得た。
(積層シートの製造)
200℃で10分間熱処理したことを除いては、実施例1と同様の熱処理を行い、積層シートを得た。
【0048】
(比較例4)
実施例1で製造した積層シート前駆体を、比較例4の積層シートとした。
【0049】
(比較例5)
実施例2で製造した積層シート前駆体を、比較例5の積層シートとした。
【0050】
(比較例6)
実施例3で製造した積層シート前駆体を、比較例6の積層シートとした。
【0051】
(比較例7)
実施例4で製造した積層シート前駆体を、比較例7の積層シートとした。
【0052】
(比較例8)
実施例5で製造した積層シート前駆体を、比較例8の積層シートとした。
【0053】
実施例及び比較例の積層シートを構成する樹脂、単糖または/及び二糖、積層シート製造時における電界紡糸条件、熱処理の有無を表1に示す。なお、ポリビニルピロリドンはPVP、ポリビニルアルコールはPVAと略称する。
【0054】
【表1】
【0055】
また、実施例及び比較例の積層シートの物性(積層シートの目付、厚さ、積層シートのナノファイバ層におけるナノファイバの繊維径、積層シートの水溶性基材層におけるフィルム状部位の面積の割合)を表2に示す。
【0056】
【表2】
【0057】
また、実施例及び比較例の積層シートについて、以下の方法で積層シートの取り扱い性、並びに積層シートの水への溶解性を評価した。
【0058】
[積層シートの取り扱い性試験]
23℃、50%RHの環境下で、指先の水分を、ティッシュペーパーを用い良く拭き取った。その後積層シートの水溶性基材層側及びナノファイバ層側の両方から積層シートを挟むように指先で5秒間軽くつまんだ後、指を離した。そして、積層シートの両面を目視で確認し、以下の基準で判断した。
〇:積層シート表面の指先を置いた箇所が溶けていない
×:積層シート表面の指先を置いた箇所が溶けている
【0059】
[積層シートの水への溶解性試験]
まず、積層シートを切り取り、質量tを測定した。次に、積層シートの1000倍の質量のイオン交換水(水温:25℃)に、切り取った積層シートをイオン交換水に積層シートがすべて浸かるように入れ、1分間放置した。その後、吸引濾過でイオン交換水を除去し、残った積層シートの質量tを測定し、以下の方法で、質量変化率を求めた。
質量変化率(%)=[1-{(t-t)/t}]×100
そして、以下の基準で質量変化率を評価した。なお、積層シートがイオン交換水にすべて溶解した場合は、質量変化率が100%とした。
〇:質量変化率が70%以上
×:質量変化率が70%未満
【0060】
実施例及び比較例の積層シートにおける、上記2つの試験結果を、以下の表3に示す。
【0061】
【表3】
【0062】
取り扱い性試験の結果から、カラメル化された単糖または/及び二糖を含み、本発明の構成を満たす実施例の積層シートは、本発明の構成を満たさない比較例の積層シートと比べて手で取り扱った際に溶けにくく、取り扱い性に優れることがわかった。
【0063】
また、溶解性試験の結果から、実施例の積層シートは、水への溶解性が保たれることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明の積層シートは、衛生用品や、食品包装材などの、水に対する溶解性が要求される分野で利用することができる。