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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-21
(45)【発行日】2024-03-29
(54)【発明の名称】密封装置
(51)【国際特許分類】
   F16D 25/0638 20060101AFI20240322BHJP
   F16D 25/12 20060101ALI20240322BHJP
   F16J 15/3204 20160101ALI20240322BHJP
【FI】
F16D25/0638
F16D25/12 Z
F16J15/3204 101
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020087406
(22)【出願日】2020-05-19
(65)【公開番号】P2021181804
(43)【公開日】2021-11-25
【審査請求日】2023-03-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000004385
【氏名又は名称】NOK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088616
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 一平
(74)【代理人】
【識別番号】100154829
【弁理士】
【氏名又は名称】小池 成
(74)【代理人】
【識別番号】100132403
【弁理士】
【氏名又は名称】永岡 儀雄
(74)【代理人】
【識別番号】100217102
【弁理士】
【氏名又は名称】冨永 憲一郎
(72)【発明者】
【氏名】高橋 貴幸
(72)【発明者】
【氏名】小澤 賢太郎
【審査官】角田 貴章
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-329328(JP,A)
【文献】特開2005-299920(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 25/00 -39/00
48/00 -48/12
F16J 15/16 -15/32
15/324-15/3296
15/46 -15/53
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウジング内に配置され、前記ハウジングとともにピストン圧力室を形成し、有底の凹部を有する環状のピストンプレートと、
前記ピストンプレートの前記凹部とともにキャンセラ油圧室を形成し、前記ピストンプレートの中心軸に沿って往復運動する環状のキャンセラープレートと、
前記キャンセラープレートの外周部に、前記ピストンプレートの前記凹部の側面と軸方向に摺動可能に接触して配置されたキャンセラーシールと、を備え、
前記ピストンプレートは、当該ピストンプレートの前記凹部の前記側面に、前記凹面の開口側から底面側に向かって拡径するテーパー面を有し、当該テーパー面に前記キャンセラーシールが摺動可能に接触しており、
前記テーパー面は、少なくとも前記ピストンプレートの作動距離である前記キャンセラーシールが摺動可能に接触する全部に形成されている、密封装置。
【請求項2】
前記ピストンプレートの前記凹部の前記側面は、前記キャンセラーシールが摺動可能に接触する部分が前記テーパー面であり、その他の部分には、前記ピストンプレートの前記中心軸方向の断面において、当該中心軸に平行な面を有する、請求項1に記載の密封装置。
【請求項3】
前記テーパー面と前記ピストンプレートの前記中心軸に平行な面との間には、段差がある、請求項2に記載の密封装置。
【請求項4】
前記テーパー面と前記ピストンプレートの前記中心軸に平行な面とは、連続した面である、請求項2に記載の密封装置。
【請求項5】
自動変速機のクラッチ切替え部に用いられる、請求項1~4のいずれか一項に記載の密封装置。
【請求項6】
ハウジング内に配置され、前記ハウジングとともにピストン圧力室を形成し、有底の凹部を有する環状のピストンプレートと、
前記ピストンプレートの前記凹部とともにキャンセラ油圧室を形成し、前記ピストンプレートの中心軸に沿って往復運動する環状のキャンセラープレートと、
前記キャンセラープレートの外周部に、前記ピストンプレートの前記凹部の側面と軸方向に摺動可能に接触して配置されたキャンセラーシールと、を備え、
前記ピストンプレートは、当該ピストンプレートの前記凹部の前記側面に、前記凹面の開口側から底面側に向かって拡径するテーパー面を有し、当該テーパー面に前記キャンセラーシールが摺動可能に接触しており、
前記ピストンプレートの前記凹部の前記側面は、前記キャンセラーシールが摺動可能に接触する部分が前記テーパー面であり、その他の部分には、前記ピストンプレートの前記中心軸方向の断面において、当該中心軸に平行な面を有し、
前記テーパー面と前記ピストンプレートの前記中心軸に平行な面との間には、段差がある、密封装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、密封装置に関する。更に詳しくは、自動車等の自動変速機に用いられる密封装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば、自動車等用の自動変速機には、回転トルクの伝達をON・OFFすべくクラッチの断続を切り替えるため、油圧作動式のピストン機構が設けられている。そして、このピストン機構には、ピストン(ピストンプレート)とキャンセラー(キャンセラープレート)が使用されており、ピストンが供給油圧により軸方向に作動し、クラッチ押し面がクラッチ板を締結・解放することで変速を行っている。
【0003】
このキャンセラーには、油室内の油を密封するためにシールリップが焼付けられており、このキャンセラーのシールリップがピストンと摺動しながら油を密封する構造の密封装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2006-242311号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、特許文献1に記載のような密封装置には、ピストンプレートの作動時にキャンセラープレートの摺動抵抗を小さくするという要求がある。このような要求に対して、特許文献1に記載の密封装置は、ピストンプレートの作動時にキャンセラープレートの摺動抵抗を小さくすることについて未だ改良の余地があった。
【0006】
このようなことから、ピストンプレートの作動時にキャンセラープレートの摺動抵抗を低減させた密封装置の開発が望まれていた。
【0007】
本発明は、このような従来技術に鑑みてなされたものであり、その課題とするところは、ピストンプレートの作動時にキャンセラープレートの摺動抵抗を低減し、ピストンプレートの作動性が向上された密封装置の開発を行うことにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、以下に示す、密封装置が提供される。
【0009】
[1] ハウジング内に配置され、前記ハウジングとともにピストン圧力室を形成し、有底の凹部を有する環状のピストンプレートと、
前記ピストンプレートの前記凹部とともにキャンセラ油圧室を形成し、前記ピストンプレートの中心軸に沿って往復運動する環状のキャンセラープレートと、
前記キャンセラープレートの外周部に、前記ピストンプレートの前記凹部の側面と軸方向に摺動可能に接触して配置されたキャンセラーシールと、を備え、
前記ピストンプレートは、当該ピストンプレートの前記凹部の前記側面に、前記凹面の開口側から底面側に向かって拡径するテーパー面を有し、当該テーパー面に前記キャンセラーシールが摺動可能に接触しており、
前記テーパー面は、少なくとも前記ピストンプレートの作動距離である前記キャンセラーシールが摺動可能に接触する全部に形成されている、密封装置。
【0010】
[2] 前記ピストンプレートの前記凹部の前記側面は、前記キャンセラーシールが摺動可能に接触する部分が前記テーパー面であり、その他の部分には、前記ピストンプレートの前記中心軸方向の断面において、当該中心軸に平行な面を有する、前記[1]に記載の密封装置。
【0011】
[3] 前記テーパー面と前記ピストンプレートの前記中心軸に平行な面との間には、段差がある、前記[2]に記載の密封装置。
【0012】
[4] 前記テーパー面と前記ピストンプレートの前記中心軸に平行な面とは、連続した面である、前記[2]に記載の密封装置。
【0013】
[5] 自動変速機のクラッチ切替え部に用いられる、前記[1]~[4]のいずれかに記載の密封装置。
[6] ハウジング内に配置され、前記ハウジングとともにピストン圧力室を形成し、有底の凹部を有する環状のピストンプレートと、
前記ピストンプレートの前記凹部とともにキャンセラ油圧室を形成し、前記ピストンプレートの中心軸に沿って往復運動する環状のキャンセラープレートと、
前記キャンセラープレートの外周部に、前記ピストンプレートの前記凹部の側面と軸方向に摺動可能に接触して配置されたキャンセラーシールと、を備え、
前記ピストンプレートは、当該ピストンプレートの前記凹部の前記側面に、前記凹面の開口側から底面側に向かって拡径するテーパー面を有し、当該テーパー面に前記キャンセラーシールが摺動可能に接触しており、
前記ピストンプレートの前記凹部の前記側面は、前記キャンセラーシールが摺動可能に接触する部分が前記テーパー面であり、その他の部分には、前記ピストンプレートの前記中心軸方向の断面において、当該中心軸に平行な面を有し、
前記テーパー面と前記ピストンプレートの前記中心軸に平行な面との間には、段差がある、密封装置。
【0014】
本発明の密封装置は、ピストンプレートの作動時にキャンセラープレートの摺動抵抗を低減し、ピストンプレートの作動性が向上するという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の密封装置の一の実施形態を模式的に示す平面図である。
図2図1におけるA-A断面を矢印の方向に見た状態を模式的に示す断面図である。
図3図2の一部を拡大して模式的に示す部分断面図である。
図4】本発明の密封装置の他の実施形態を模式的に示す図3に対応する部分断面図である。
図5】本発明の密封装置の更に他の実施形態を模式的に示す図3に対応する部分断面図である。
図6】本発明の密封装置の更に他の実施形態を模式的に示す図3に対応する部分断面図である。
図7】従来の密封装置を模式的に示す図2に対応する部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態を、図面を参照しながら説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、適宜設計の変更、改良等が加えられることが理解されるべきである。
【0017】
(1)密封装置:
本発明の密封装置の一の実施形態は、図1図2に示す密封装置100である。この密封装置100は、ハウジング20内に配置され、このハウジング20とともにピストン圧力室21を形成し、有底の凹部10を有する環状のピストンプレート11と、このピストンプレート11の凹部10とともにキャンセラ油圧室23を形成し、ピストンプレート11の中心軸Oに沿って往復運動する環状のキャンセラープレート12と、このキャンセラープレート12の外周部に、ピストンプレート11の凹部10の側面10aと軸方向に摺動可能に接触して配置されたキャンセラーシール30と、を備えている。ピストンプレート11は、当該ピストンプレート11の凹部10の側面10aに、凹部10の開口18側から底面19側に向かって拡径するテーパー面(拡径テーパー面40)を有し、当該テーパー面(拡径テーパー面40)にキャンセラーシール30が摺動可能に接触している。なお、図1は、ハウジング20を省略して密封装置100を示している。
【0018】
このような密封装置100は、ピストンプレート11の作動時にキャンセラープレート12の摺動抵抗を低減し、ピストンプレート11の作動性が向上されたものである。
【0019】
この密封装置100は、例えば、自動変速機のクラッチ切替え部に用いられ、クラッチを作動させる油圧アクチュエータなどの密封装置として使用することができる。
【0020】
(1-1)ピストンプレート:
ピストンプレート11は、ハウジング20内に配置され、このハウジング20とともにピストン圧力室21を形成し、有底の凹部10を有する環状のものである。そして、ピストンプレート11は、図3に示すように、ピストンプレート11の凹部10の側面10aに、凹部10の開口18側から底面19側に向かって拡径する拡径テーパー面40を有している。この拡径テーパー面40には、キャンセラーシール30が摺動可能に接触している。
【0021】
このように拡径テーパー面40を有すると、ピストンプレート11の作動時にキャンセラープレート12の摺動抵抗を低減し、ピストンプレート11の作動性が向上する。
【0022】
ピストンプレート11の拡径テーパー面40の傾斜角は、適宜設定することができる。即ち、ピストンプレート11の中心軸O方向の断面における当該中心軸Oに平行な直線Lと拡径テーパー面40とのなす角度θは、径寸法及びストロークなどに基づいて適宜設定することができる。
【0023】
ピストンプレート11の凹部10の径は、拡径テーパー面40において、従来のピストンプレートの凹部の径に比べて、大きくなっている。図7は、従来のピストンプレート111を用いた従来の密封装置200を示している。この密封装置200のピストンプレート111は、凹部110の側面110aが、ピストンプレート111の中心軸O方向の断面において、当該中心軸Oに平行である。
【0024】
このピストンプレート11は、その中央部に凹部10を有しており、具体的には、図2に示すように、以下の部分を有するものを例示できる。即ち、ピストンプレート11は、内周鍔部31と、その外周からピストン圧力室21側へ延びる内筒部32と、ピストン圧力室21側の端部から径方向へ展開した受圧盤部33と、この受圧盤部33の外周からピストン圧力室21と反対側へ延びる外筒部34と、この外筒部34の先端に屈曲形成されたクラッチ押圧部35と、を有するものを例示することができる。なお、ピストンプレート11は、その中央部に貫通孔11aが形成されている(図1参照)。
【0025】
外筒部34は、ピストンプレート11の有底の凹部10の側壁であり、本発明においては、この外筒部34の内周面34a(即ち、凹部10の側面10a)に所定のテーパー面40が形成されている。この拡径テーパー面40が形成されていることによって、上述の通り、ピストンプレート11の作動時にキャンセラープレート12の摺動抵抗を低減させることができる。つまり、ピストンプレート11とキャンセラープレート12とが互いに近づくようにピストンプレート11またはキャンセラープレート12が移動する場合、ピストンプレート11とキャンセラープレート12の間の隙間が次第に広がることになる。そのため、キャンセラーシール30が、ピストンプレート11とキャンセラープレート12とから受ける力が小さくなる。そのため、ピストンプレート11の作動時におけるキャンセラープレート12の摺動抵抗が低減することになる。
【0026】
なお、拡径テーパー面40は、凹部10の開口18側から底面19側に向かって拡径する必要がある。ここで、凹部10の開口18側から底面19側に向かって縮径するテーパー面を採用すると、ピストン締結開始時のキャンセラープレート12の摺動抵抗が増加してしまう。つまり、ピストン締結開始時には、特に摺動時の抵抗低減を図ることが望まれるが、このピストン締結開始時においてキャンセラープレート12の摺動抵抗が増加してしまう。
【0027】
拡径テーパー面40は、凹部10の側面10aの全部に形成されていてもよいし、凹部10の側面10aの一部に形成されていてもよい。即ち、拡径テーパー面40は、少なくともピストンプレート11の作動距離S(図3図4参照)の部分に形成されていればよく、作動距離Sの部分(キャンセラーシール30が摺動可能に接触する部分)以外の面は、テーパー面でもよいし、ストレート面(即ち、ピストンプレート11の中心軸Oに平行な面)でもよい。本発明では、拡径テーパー面40は、少なくともピストンプレート11の作動距離Sである「キャンセラーシール30が摺動可能に接触する全部」に形成されている。図5に示すように、外筒部34の内周面34aだけが傾斜し、外周面は傾斜しない(即ち、中心軸Oと平行である)態様とする場合、上記ストレート面61を有すると、内周面34aの全部が傾斜面である場合に比べて、ピストンプレート11の外筒部34の厚みが厚くなる。そのため、ピストン油圧室21の圧力が高くなった場合にも耐圧性が更に発揮される。キャンセラ油圧室23内の圧力が高くなった場合にも耐圧性が更に発揮される。図3には、拡径テーパー面40が、作動距離Sを含む凹部10の側面10aの全部に形成されている例を示している。拡径テーパー面40の作動距離Sの範囲では、キャンセラーシール30が摺動可能に接触している。従って、ピストンプレート11のこの拡径テーパー面40の作動距離Sの範囲では、凹部10の開口18側ではキャンセラーシール30との締め代が大きく、底面19側ではキャンセラーシール30との締め代が小さいか、或いは、締め代が無くても良い。なお、本明細書において「ストレート面」は、中心軸Oに平行な面以外に、中心軸Oに対して僅かな正テーパー面または逆テーパー面(即ち、略平行面)であることを包含する概念である。
【0028】
作動距離Sの部分以外の面にストレート面61を有する場合、上述した図5に示すように、拡径テーパー面40とストレート面61との間(境界)に段差が無く、拡径テーパー面40とストレート面61とが連続した面であってもよいし、図6に示すように、拡径テーパー面40とストレート面61との間に段差62を有する態様であってもよい。この態様では、ストレート面61は、拡径テーパー面40よりも中心軸O側に位置することがよい。図6に示す態様であると、ピストンプレート11の外筒部34が厚いので、ピストン油圧室21の圧力が高くなった場合にも耐圧性が更に発揮される。また、拡径テーパー面40を有するピストンプレート11を作製する際に、通常のピストンプレートを作製した後、拡径テーパー面40に該当する部分を切削加工すればよいため、その作製が容易である。
【0029】
ピストンプレート11は、その内周鍔部31には、ハウジング20の内周筒部41の表面と摺動可能に密接されたゴム状弾性材料からなる環状の内周シールリップ37が配置されている。更に、ピストンプレート11の受圧盤部33の外周部には、ハウジング20の外周筒部42の表面と摺動可能に密接されたゴム状弾性材料からなる環状の外周シールリップ38が配置されている。これらの内周シールリップ37と外周シールリップ38は、ハウジング20との間の密封性を確保するものである。なお、ハウジング20の内周筒部41には、ピストン圧力室21に油圧を導入するための油通路41aが形成されている。
【0030】
ピストンプレート11は、外筒部34の根元部分、即ち、受圧盤部33と外筒部34との交差部分の内側表面に曲面(R面29)が形成されている。即ち、ピストンプレート11の中央部に形成された凹部10の角部にR面が形成されている。このR面29を設けることによって、ピストン圧力室21内が高圧になった際にもピストンプレート11がその高圧の状態に耐えることができ、破損し難くなる。このR面の曲率半径は、従来公知の範囲とすることができる。
【0031】
内周シールリップ37と外周シールリップ38は、ピストンプレート11に一体に架橋接着されることができる。
【0032】
ピストンプレート11は、上述したように凹部10の開口18側から底面19側に向かって拡径する拡径テーパー面40を有していればよい。即ち、図3に示すように、外筒部34の内周面34aだけが傾斜し、外周面は傾斜しない(中心軸Oと平行である)ものであってもよいし、図4に示すように、外筒部34自体が受圧盤部33(凹部10の底面19)に向かって拡径するように傾斜していてもよい。
【0033】
図3に示すような態様のピストンプレート11は、以下のように作製することができる。即ち、従来と同様にピストンプレートをプレス加工した後、その凹部の内面を切削加工する方法を挙げることができる。また、図4に示すような態様のピストンプレート11は、以下のように作製することができる。即ち、外筒部34自体が受圧盤部(凹部10の底面19)に向かって拡径するように傾斜させてピストンプレートをプレス加工する方法を挙げることができる。
【0034】
ピストンプレート11は、例えば、鋼板などの金属製とすることができ、金属板の打ち抜きプレス成形等によって作製することができる。
【0035】
(1-2)キャンセラープレート:
キャンセラープレート12は、ピストンプレート11の凹部10とともにキャンセラ油圧室23を形成し、ピストンプレート11の中心軸Oに沿って往復運動する環状のものである。
【0036】
このようなキャンセラープレート12は、従来公知のものを適宜採用することができる。キャンセラープレート12としては、例えば、鋼板などの金属製とすることができ、金属板の打ち抜きプレス成形等によって作製することができる。
【0037】
キャンセラープレート12は、その中央部に貫通孔12aが形成されており、外周部には外環部12bを有している。
【0038】
(1-3)キャンセラーシール:
キャンセラーシール30は、キャンセラープレート12の外周部に配置されるものであり、ピストンプレート11の凹部10の側面10aと軸方向に摺動可能に接触して配置されている。このキャンセラーシール30は、ピストンプレート11とキャンセラープレート12との間の密封性を確保するためのものである。
【0039】
キャンセラーシール30の材質は、特に制限はなく従来公知のキャンセラーシール(即ち、シールリップ)の材質と同じものを適宜選択して使用することができる。キャンセラーシール30の材料としては、例えば、ゴム状弾性材料などを挙げることができ、特に、架橋接着されたゴム状弾性材料を挙げることができる。
【0040】
キャンセラーシール30は、キャンセラープレート12に一体に架橋接着されることができる。
【0041】
(1-4)付勢部材:
密封装置100は、キャンセラ油圧室23内に設けられ、ピストンプレート11をキャンセラープレート12から離れるように付勢する付勢部材15を有している。この付勢部材15としては、従来公知のものを適宜採用することができ、例えば、スプリングなどを挙げることができる。
【0042】
付勢部材15は、その反発力によってピストンプレート11がピストン圧力室21の容積を縮小させるように移動する。
【0043】
(2)密封装置の使用方法:
本発明の密封装置の使用方法について、密封装置100に基づいて以下に説明する。まず、この密封装置100は、車両の自動変速機のクラッチを作動させる油圧アクチュエータとして車両に配置して使用することができる。そして、この密封装置100は、ピストン圧力室21への自動変速機用潤滑油(ATF(オートマチックトランスミッションフルード))による油圧の印加及びこの油圧の解放によって、ピストンプレート11がその軸方向に変位し、クラッチ50を接続動作または遮断動作させるものである。
【0044】
より具体的には、油通路41aを介して供給されるATFの油圧でピストン圧力室21が加圧されると、ピストンプレート11が付勢部材15を圧縮しながらキャンセラープレート12側に変位する。その際、ピストンプレート11のクラッチ押圧部35がクラッチ50のドライブプレート51を押圧して、このドライブプレート51をドリブンプレート52と摩擦係合させる。このような状態となることで、クラッチ50が接続状態となる。
【0045】
そして、このクラッチ50の接続状態において、ピストン圧力室21の油圧を解放すると、圧縮された付勢部材15の反発力によって、ピストンプレート11は、ピストン圧力室21の容積を縮小させるように変位する。これによって、クラッチ押圧部35がドライブプレート51から離れ、ピストンプレート11によるクラッチ50への押圧が解除され、クラッチ50の遮断動作がなされる。
【0046】
ここで、ピストンプレート11及びキャンセラープレート12は、駆動軸と共に回転しており、ピストン圧力室21内に導入されたATFは遠心力によって外周側へ押し付けられる。したがって、ピストン圧力室21内には、遠心油圧が発生し、この遠心油圧は、付勢部材15によるピストンプレート11の復帰動作を妨げるように作用する。
【0047】
このとき、ピストンプレート11とキャンセラープレート12の間のキャンセラ油圧室23に、油通路41bを介して導入されたATFにも同様に遠心油圧が発生している。そして、キャンセラ油圧室23内の遠心油圧と、ピストン圧力室21内の遠心油圧とは、ほぼ均衡する。そのため、ピストン圧力室21への油圧の印加を解放したときに、ピストン圧力室21内の遠心油圧によるピストンプレート11の復帰動作が妨げられることを回避でき、付勢部材15によるピストンプレート11の復帰動作(即ち、クラッチ50の切断)が円滑に行われる。
【0048】
上述のように、ピストンプレート11がその軸方向に変位し、クラッチ50を接続動作または遮断動作する。このようにピストンプレート11が作動するとき、ピストンプレート11の凹部10の側面10aに拡径テーパー面40が形成されているので、キャンセラープレート12の摺動抵抗が低減されることになる。その結果、密封装置100は、ピストンプレート11の作動性が向上する。
【実施例
【0049】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0050】
(実施例1)
図1に示すような円盤状の密封装置を作製した。この密封装置は、ピストンプレート、キャンセラープレート、及び、キャンセラーシールを備えていた。そして、ピストンプレートの中央部に形成された凹部の側面には、凹面の開口側から底面側に向かって拡径するテーパー面を有していた。このテーパー面(拡径テーパー面)には、キャンセラーシールが摺動可能に接触していた。具体的には、拡径テーパー面の作動距離Sの範囲では、キャンセラーシールが摺動可能に接触していた。つまり、ピストンプレートのこの拡径テーパー面の作動距離Sの範囲では、凹部の開口側ではキャンセラーシールとの締め代が大きく、底面側ではキャンセラーシールとの締め代が小さかった。
【0051】
実施例1の密封装置は、ピストンプレートにおいて、上記のようなテーパー面が形成されていることよって、ピストンプレートの作動時にキャンセラープレートの摺動抵抗を低減し、ピストンプレートの作動性が向上する。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明の密封装置は、例えば自動変速機のクラッチ切替え部に用いられる密封装置として採用することができる。
【符号の説明】
【0053】
10,110:凹部、10a,110a:凹部の側面、11,111:ピストンプレート、11a,12a:貫通孔、12b:外環部、12:キャンセラープレート、15:付勢部材、18:開口、19:底面、20:ハウジング、21:ピストン圧力室、23:キャンセラ油圧室、29:R面、30:キャンセラーシール、31:内周鍔部、32:内筒部、33:受圧盤部、34:外筒部、34a:内周面、35:クラッチ押圧部、37:内周シールリップ、38:外周シールリップ、40:拡径テーパー面、41:内周筒部、41a,41b:油通路、42:外周筒部、50:クラッチ、51:ドライブプレート、52:ドリブンプレート、61:ストレート面、62:段差、100,200:密封装置、L:中心軸Oに平行な直線、O:中心軸、S:作動距離。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7