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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-21
(45)【発行日】2024-03-29
(54)【発明の名称】ポリオレフィン延伸膜の分析方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 25/20 20060101AFI20240322BHJP
   C08J 9/26 20060101ALI20240322BHJP
   G01N 25/04 20060101ALI20240322BHJP
【FI】
G01N25/20 C
C08J9/26 102
C08J9/26 CES
G01N25/04 A
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020143770
(22)【出願日】2020-08-27
(65)【公開番号】P2022039001
(43)【公開日】2022-03-10
【審査請求日】2023-05-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100108903
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 和広
(74)【代理人】
【識別番号】100142387
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 都子
(74)【代理人】
【識別番号】100135895
【弁理士】
【氏名又は名称】三間 俊介
(72)【発明者】
【氏名】金尾 雅彰
【審査官】山口 剛
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-020357(JP,A)
【文献】特開2015-206703(JP,A)
【文献】特開2016-136125(JP,A)
【文献】特開2019-090136(JP,A)
【文献】特開2014-231668(JP,A)
【文献】特開2006-010425(JP,A)
【文献】特表2015-507654(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0043656(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 25/00 - 25/72
G01N 33/44
C08J 9/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
示差走査熱量計(DSC)によりポリオレフィン延伸膜中のポリエチレンの絡み合いを評価する方法であって、
評価開始時の前記ポリオレフィン延伸膜には、前記ポリエチレンの六方晶は含まれておらず、
前記ポリオレフィン延伸膜の粘度平均分子量は、400,000~3,000,000であり、
前記DSCの測定において、平均昇温速度0.1℃/min.以上、5.0℃/min.以下で、100.0℃から180.0℃まで前記ポリオレフィン延伸膜の熱流量を測定して得られたチャートの:
(1)100.0℃以上141.0℃以下の領域のピークAと、
141.0℃より高く180.0℃以下の領域のピークBと
の存在を確認し、
(2)引き続き、前記ピークBのピークトップの温度を利用して前記ポリエチレンの絡み合いを評価する、
ことを特徴とする、ポリエチレンの絡み合いを評価する方法。
【請求項2】
示差走査熱量計(DSC)によりポリオレフィン延伸膜中のポリエチレンの絡み合いを評価する方法であって、
前記ポリエチレンの粘度平均分子量は、400,000~3,000,000であり、
前記DSCの測定において、平均昇温速度0.1℃/min.以上、5.0℃/min.以下で、100.0℃から180.0℃まで前記ポリオレフィン延伸膜の熱流量を測定して得られたチャートの:
(1)100.0℃以上141.0℃以下の領域の前記ポリエチレンの斜方晶に由来するピークAと、
141.0℃より高く180.0℃以下の領域の前記ポリエチレンの斜方晶が融解して生成した六方晶に由来するピークBと
の存在を確認し、
(2)引き続き、前記ピークBのピークトップの温度を利用して前記ポリエチレンの絡み合いを評価する、
ことを特徴とする、ポリエチレンの絡み合いを評価する方法。
【請求項3】
前記DSCの測定が、温度変調DSC法である、請求項1又は2に記載のポリエチレンの絡み合いを評価する方法。
【請求項4】
前記ポリオレフィン延伸膜が、微多孔膜である、請求項1~のいずれか一項に記載のポリエチレンの絡み合いを評価する方法。
【請求項5】
前記微多孔膜が、電気化学デバイス用セパレータである、請求項に記載のポリエチレンの絡み合いを評価する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、示差走査熱量計(DSC)を用いてポリオレフィン延伸膜を分析する方法に関し、より詳細には、ポリオレフィン延伸膜に含まれるポリエチレンの絡み合いを評価する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエチレンは安価であり、成形加工性に優れるため延伸フィルムの原料として広く用いられている。例えば、レジ袋(plastic bag)などに用いられる低密度ポリエチレン(LDPE)や、LDPEより強度に優れる高密度ポリエチレン(HDPE)、また強度と透明性に優れる直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)などがポリエチレンフィルムの原料として用いられている。近年では、HDPEよりさらに強度に優れる高分子量ポリエチレンを用いた延伸フィルムが、電気化学デバイス用セパレータなどに用いられている。示差走査熱量計(DSC)は、これらのポリエチレンフィルムを分析するために広く用いられている分析装置である。
【0003】
例えば、特許文献1に、JIS-K7121に準拠して、DSCを用いてポリエチレンの融点を測定する分析方法の開示がある。
【0004】
特許文献2に、DSCを用いてポリエチレン微多孔膜を昇温速度10℃/min.で測定した際の全融解熱量(ΔHall)に対して、ポリエチレンの平衡融点未満の融解熱量(ΔH<Tm0)の割合を測定する分析方法の開示がある。
【0005】
特許文献3に、DSCを用いて粘度平均分子量が300,000~2,000,000のポリエチレン微多孔膜を昇温速度10℃/min.で測定した際の137℃以下と142℃以上の融解ピーク温度を測定する分析方法の開示がある。
【0006】
非特許文献1に、粘度平均分子量が3,000,000以上のポリエチレンゲルフィルムの熱収縮を抑制した条件でDSCの測定を行うことにより、斜方晶と六方晶の融解ピーク温度を測定する報告がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2015-208893号公報
【文献】国際公開第2017/170289号
【文献】特開2003-20357号公報
【非特許文献】
【0008】
【文献】Netu SOKUTEI17(3)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1に記載のJIS-K7121は、プラスチックフィルムの融点と転移温度を測定する規格である。JIS-K7121では、DSCの昇温速度を10℃/min.又は20℃/min.でDSC測定することが記載されている。しかしながら、分子鎖同士の絡み合いの強い超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)フィルムなどは、JIS-K7121に従ってDSC測定するとスーパーヒートの影響を受けるため、斜方晶の融点を本来の融点より高く見積もられる課題がある。さらに、スーパーヒートは、昇温速度が速くなるほど大きくなる。ここで、六方晶は、斜方晶が融解した後に生成する結晶である。スーパーヒートにより斜方晶の融点が見かけ上高くなると、六方晶の融点も高く見積もられる可能性がある。
【0010】
特許文献2には、ポリエチレンの斜方晶の平衡融点である141.0℃未満の融解熱量(ΔH<Tm0)の割合を評価する分析方法の開示がある。しかしながら、平衡融点とは、ポリエチレンのラメラの厚さが無限大である結晶の融点であり、実測される斜方晶の融点が、この温度を超えることはない。特許文献2に記載の分析方法において融点が141.0℃を超える理由は、先に述べたスーパーヒートにより見かけ上、融点が高く見積もられたと考えられる。特許文献2に記載の方法で測定したΔH<Tm0は製品開発の指標になるのかもしれないが、自然法則に従った分析手法とは言えない。
【0011】
また、特許文献2では、融点をエスアイアイ・ナノテクノロジー(株)製の「DSC6220」を用いて測定し、融解熱量をParking Elmer製「PYRIS Diamond DSC」を用いて測定している。通常、融点と融解熱量を別々の装置を用いて分析することはない。特許文献2に記載の分析方法において2つの装置を用いて融点と融解熱量を測定している理由は、装置が変わると、得られる融点と融解熱量の値が変わるためだと推察する。特許文献2に記載のDSC分析方法は、分析装置によってデータのバラツキが大きい分析方法であると考えられる。
【0012】
特許文献3には、粘度平均分子量が300,000~2,000,000のポリエチレン微多孔膜を10℃/min.で昇温し、137℃以下と142℃以上の融解ピークを評価することによって、突刺強度に優れるポリエチレンフィルムを分析する方法の開示がある。しかしながら、先に述べたとおり、10℃/min.の昇温速度でDSC測定をした場合、スーパーヒートにより融点を正しく測定出来ない課題があった。
【0013】
また、ポリエチレンは結晶性高分子であるため、粘弾性測定からフィルム中のポリエチレンの絡み合いを評価することが出来ないという課題があった。
【0014】
本発明は、上記の事情に鑑みて、これまで評価することが出来なかったフィルム中のポリエチレン分子の絡み合い又は分子の配向状態を、DSC法を用いて評価する手法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは鋭意検討した結果、特定の昇温速度でポリオレフィン延伸膜を示差走査熱量計(DSC)で加熱し、炉内で生成し得るポリエチレン六方晶の融解熱を評価することにより、特に絡み合いの強い高分子量ポリエチレン延伸膜でさえも定量的に再現性良く分析できることを見出し、本発明を完成させた。
【0016】
また、本発明者らは、本発明の評価方法によれば、DSCの炉内で結晶(斜方晶)を融解させて分子が運動できる状態にすることによって、延伸により高度に絡み合ったポリエチレン鎖だけが形成することが出来る六方晶の融解熱量を測定でき、ポリオレフィンフィルム中のポリエチレン分子鎖の絡み合いを定量的に評価することが出来ることを見出した。
【0017】
本発明の実施形態の例を以下に列記する。
[1]
示差走査熱量計(DSC)によりポリオレフィン延伸膜中のポリエチレンの絡み合いを評価する方法であって、
前記ポリエチレンの粘度平均分子量は、400,000~3,000,000であり、
前記DSCの測定において、平均昇温速度は、0.1℃/min.以上、5.0℃/min.以下であり、かつ
前記DSCの測定中に生成される前記ポリエチレンの六方晶の融解熱を測定することを特徴とする、ポリエチレンの絡み合いを評価する方法。
[2]
前記ポリオレフィン延伸膜は、141.0℃以下に結晶融解が観測される、項目1に記載のポリエチレンの絡み合いを評価する方法。
[3]
示差走査熱量計(DSC)によりポリオレフィン延伸膜中のポリエチレンの絡み合いを評価する方法であって、
評価開始時の前記ポリオレフィン延伸膜には、前記ポリエチレンの六方晶は含まれておらず、
前記ポリオレフィン延伸膜の粘度平均分子量は、400,000~3,000,000であり、
前記DSCの測定において、平均昇温速度0.1℃/min.以上、5.0℃/min.以下で、100.0℃から180.0℃まで前記ポリオレフィン延伸膜の熱流量を測定して得られたチャートの:
(1)100.0℃以上141.0℃以下の領域のピークAと、
141.0℃より高く180.0℃以下の領域のピークBと
の存在を確認し、
(2)引き続き、前記ピークBのピークトップの温度を利用して前記ポリエチレンの絡み合いを評価する、
ことを特徴とする、ポリエチレンの絡み合いを評価する方法。
[4]
示差走査熱量計(DSC)によりポリオレフィン延伸膜中のポリエチレンの絡み合いを評価する方法であって、
前記ポリエチレンの粘度平均分子量は、400,000~3,000,000であり、
前記DSCの測定において、平均昇温速度0.1℃/min.以上、5.0℃/min.以下で、100.0℃から180.0℃まで前記ポリオレフィン延伸膜の熱流量を測定して得られたチャートの:
(1)100.0℃以上141.0℃以下の領域の前記ポリエチレンの斜方晶に由来するピークAと、
141.0℃より高く180.0℃以下の領域の前記ポリエチレンの斜方晶が融解して生成した六方晶に由来するピークBと
の存在を確認し、
(2)引き続き、前記ピークBのピークトップの温度を利用して前記ポリエチレンの絡み合いを評価する、
ことを特徴とする、ポリエチレンの絡み合いを評価する方法。
[5]
前記DSCの測定が、温度変調DSC法である、項目1~4のいずれか一項に記載のポリエチレンの絡み合いを評価する方法。
[6]
前記ポリオレフィン延伸膜が、微多孔膜である、項目1~5のいずれか一項に記載のポリエチレンの絡み合いを評価する方法。
[7]
前記微多孔膜が、電気化学デバイス用セパレータである、項目6に記載のポリエチレンの絡み合いを評価する方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、示差走査熱量計(DSC)を用いてポリエチレンの六方晶の融解熱を分析することにより、従来評価が困難であった延伸膜中のポリエチレンの絡み合い又は分子の配向状態を定量的に評価することが出来る。
【0019】
特に、本発明によれば、電気化学デバイス用セパレータなどに用いられる高分子量ポリエチレンフィルムの絡み合い又は分子の配向状態と機械強度などのフィルム物性との間の相関を定量的に評価できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1図1は、実施例および比較例に係るポリエチレンフィルムのDSC曲線である。
図2図2は、実施例4に係るポリエチレンフィルムの温度変調DSC曲線である。
図3図3は、実施例3および9に係るポリエチレンフィルムのDSC曲線である。
図4図4は、実施例1および15に係るポリエチレンフィルムのDSC曲線を定量的に評価した結果である。
図5図5は、様々なDSCの装置とDSCパンを用いて、昇温速度を変えながらフィルムAの六方晶の融解ピーク温度を測定した結果である。
図6図6は、実施例16に係るフィルムA’を昇温してX線散乱測定を行った結果である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明は、ポリオレフィン延伸膜中のポリエチレン鎖の絡み合いを評価する方法を提供するものである。
【0022】
本明細書で使用される幾つかの用語を以下に定義する。
【0023】
ポリオレフィンとは、単数又は複数の種類のアルケン(又はオレフィン)を単量体として用いて重合される重合体の総称をいう。
【0024】
ポリエチレンとは、JIS K6748に従って、エチレンの単独重合体;エチレンと5モル%以下のα-オレフィン単量体との共重合体;エチレンと、官能基に炭素、酸素及び水素原子のみを持つ1モル%以下の非オレフィン単量体との共重合体;並びに、エチレンと、5モル%以下のα-オレフィン単量体と、官能基に炭素、酸素及び水素原子のみを持つ1モル%以下の非オレフィン単量体との共重合体をいう。
【0025】
ポリプロピレンとは、プロピレンの単独重合体;プロピレンと5モル%以下のα-オレフィン単量体との共重合体;プロピレンと、官能基に炭素、酸素及び水素原子のみを持つ1モル%以下の非オレフィン単量体との共重合体;並びに、プロピレンと、5モル%以下のα-オレフィン単量体と、官能基に炭素、酸素及び水素原子のみを持つ1モル%以下の非オレフィン単量体との共重合体をいう。
【0026】
超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)は、一般に、1,500,000以上の分子量を有する。
【0027】
ポリオレフィン延伸膜とは、ポリオレフィンを原料として用いる製膜プロセスにおいて、少なくとも延伸工程を行うことにより得られる膜をいう。
【0028】
ポリオレフィンフィルムとは、フィルムの形態を有するポリオレフィン延伸膜をいう。
【0029】
本明細書では、製膜時の膜の流れ方向をMDとし、膜平面内においてMDと90°で交差する方向をTDとし、平面方向を面方向としてそれぞれ定義する。
【0030】
本明細書では、膜又はフィルムが特定の成分を主成分として含むことは、特定の成分の含有率が50重量%以上であることを意味する。
【0031】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「実施形態」と略記することがある。)について詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。
【0032】
本発明の第一実施形態に係るポリオレフィン延伸膜の分析方法は、示差走査熱量計(DSC)の平均昇温速度を0.1℃/min.以上、5.0℃/min.以下に調整して膜を昇温することが必要であり、より好ましくは、平均昇温速度は0.1℃/min.以上、3.0℃/min.以下である。平均昇温速度が5.0℃/min.より速いと、スーパーヒートにより六方晶の融解ピークが高く見積もられる。また、ポリオレフィン延伸膜のスーパーヒートが顕著に認められる場合は、本発明の範囲で平均昇温速度を遅くすることが好ましい実施形態の一つである。平均昇温速度が0.1℃/min.より遅いと、昇温中に結晶融解と再配列が起こるために膜又はフィルムの成形加工の履歴が消えるので、六方晶の融解熱量を正しく評価又は測定できない。
【0033】
例えば電気化学デバイス用セパレータに用いられるポリエチレンフィルムのように、高分子鎖が高度に絡み合ったポリエチレンは、当該分野で通常用いられる延伸工程によって分子鎖が延伸方向に強く配向し、そしてこれらの分子鎖の配向が強いほどセパレータの機械強度が強くなると考えられている。
【0034】
このような絡み合いが強いポリエチレンフィルムは、斜方晶が融解した後に高度に配向した分子鎖が六方晶を形成する。従って、六方晶の物性を分析するとポリエチレンの絡み合いと分子鎖の配向状態に関する情報を得ることが出来る。本発明ではDSCの炉内で六方晶を生成させ、その六方晶の融解熱を分析することにより、ポリエチレンの絡み合いと配向状態を定量的に評価することが出来る。
【0035】
六方晶をDSCの炉内で生成させる方法は特には限定されないが、フィルムの熱収縮を抑制しながら昇温する方法が好ましい。熱収縮を抑制する方法としては、膜やフィルムをDSCのパンとフタの間に挟み膜厚又はフィルム厚方向に拘束する方法や、細い針金やアルミニウム箔に膜やフィルムを巻き付ける方法などが挙げられる。
【0036】
本発明の分析方法は、六方晶の融解ピークトップ温度を評価することが好ましい。絡み合いの強いポリオレフィン延伸膜又はポリエチレンフィルムは、DSCやサンプルの封止方法、昇温方法などが変わるとDSCの融解曲線の再現性が得られないことがある。しかしながら、本発明の昇温速度の範囲でDSC測定を行えば、融解ピークトップ温度はこれらの測定条件にあまり影響されず、特定のバラツキの範囲内で精度良く測定出来るため好ましい。
【0037】
本発明の分析方法は、ポリエチレンの斜方晶の融解ピーク温度が平衡融点である141.0℃以下の膜やフィルムに好適に用いることが出来る。斜方晶の融解ピーク温度が141.0℃以下であるとスーパーヒートによる融点上昇の影響が少ないと判断できるため、六方晶の融解熱を精度よく評価出来るため好ましい。斜方晶の融点が141.0℃より高い場合は、スーパーヒートの影響により六方晶の融解温度を見かけ上高く見積もられる可能性があるため、解析を行う際には注意を要する。斜方晶の融解ピーク温度が141.0℃より高い場合は、本発明の範囲内で平均昇温速度を下げてスーパーヒートを抑制することも好ましい実施形態の一つである。
【0038】
また斜方晶の融解ピーク温度が不明瞭な場合は、融解曲線をピークフィッティングして斜方晶の融解ピーク温度を見積もっても良い。また、後に述べる温度変調DSC法を用いても良い。
【0039】
本発明の分析方法を用いて、ポリオレフィン延伸膜又はポリエチレンフィルムの融解熱量をサンプル間で比較する場合は、使用する装置、サンプルパン、およびクランプ方法を同じ条件で測定することが好ましい。これらの条件が異なると、融解曲線の再現性が悪くなりサンプル間で融解熱の比較が出来ない場合がある。また、サンプルの形状や昇温速度を同じにしたり、サンプル重量を±10%以内に揃えたりすることなども好ましい。
【0040】
本発明の分析方法は、温度変調DSC法を用いることも好ましい実施形態の一つである。一般にDSCの昇温速度を遅くすると、分解能は向上するが測定感度が低下する。しかしながら、温度変調DSC法を用いると、分解能と感度を両立させることが出来る。本発明の分析方法は、JIS-K7121に記載の昇温速度と比較して1/2から1/100の昇温速度であり、感度が不足する場合がある。そのような場合に温度変調DSC法は有効である。温度変調DSC法を用いると、全熱流束成分≒通常のDSC測定(トータルヒートフロー)と、温度変調に対して可逆的に追従できる熱流束成分(リバーシングヒートフロー)、そしてトータルヒートフローからリバーシングヒートフローを引いた不可逆成分(ノンリバーシングヒートフロー)の3つの融解曲線が得られる。ポリエチレンフィルムの場合、リバーシングヒートフローには斜方晶の融解熱の一部が観測される。ノンリバーシングヒートフローには、斜方晶の融解熱の残りと六方晶の融解熱が観測される。従って、トータルヒートフロー(≒通常のDSC測定)よりノンリバーシングヒートフローの方が六方晶の融解ピークを明瞭に検出することが出来る。
【0041】
本発明の分析方法は、ポリエチレンフィルムに適用されることが好ましく、ポリエチレンフィルムの原料として粘度平均分子量が400,000以上のポリエチレンを含むことが好ましい。粘度平均分子量が400,000未満のポリエチレンは、分子鎖の絡み合いが少ないため六方晶の生成量が少ないか、又は六方晶が生成しない可能性があるため、本発明の効果が十分に発揮されない可能性がある。
【0042】
原料として用いるポリエチレンの分子量の上限は特に制限されないが、フィルムの粘度平均分子量が3,000,000以下であることが必要であるため、好ましくは3,000,000以下、より好ましくは2,000,000以下である。なお、被分析膜又は被分析フィルムに含まれるポリエチレンの粘度平均分子量が3,000,000以下であれば、原料として用いるポリエチレンの分子量が3,000,000以上の原料を含んでも良い。被分析膜又は被分析フィルムに含まれるポリエチレンの粘度平均分子量が3,000,000を超えると、スーパーヒートの効果が大きくなるため、六方晶の融解熱も真の値よりも高く見積もられることに注意する必要がある。
【0043】
本発明の分析方法は、ポリオレフィン延伸膜としての微多孔膜に好適に用いられ、ポリエチレン微多孔膜により好適に用いられる。特に電気化学デバイス用セパレータに用いられるポリエチレン微多孔膜の分析に好適に用いることが出来る。電気化学デバイス用セパレータには高い機械強度が求められる。機械強度はポリエチレンの絡み合いが強いほど、また分子鎖の配向が強いほど高くなると考えられる。本発明を用いてポリエチレン微多孔膜を分析することは、機械強度に優れる電気化学デバイス用セパレータの開発促進につながる。機械強度は、例えば、目付換算突刺強度で評価することができる。
【0044】
本発明のポリエチレンは、例えば、低密度ポリエチレン(密度0.910g/cm以上0.930g/cm未満)、線状低密度ポリエチレン(密度0.910g/cm以上0.940g/cm未満)、中密度ポリエチレン(密度0.930g/cm以上0.942g/cm未満)、高密度ポリエチレン(密度0.942g/cm以上)、超高分子量ポリエチレン(密度0.910g/cm以上0.970g/cm未満)等が挙げられる。
【0045】
本発明の第二実施形態では、DSC法によりポリオレフィン延伸膜中のポリエチレンの絡み合いを評価する方法が提供され、評価開始時のポリオレフィン延伸膜には、ポリエチレンの六方晶は含まれておらず、ポリオレフィン延伸膜の粘度平均分子量は400,000~3,000,000であり、DSC法において、平均昇温速度0.1℃/min.以上、5.0℃/min.以下で、100.0℃から180.0℃までポリオレフィン延伸膜の熱流量を測定して得られたチャートの:
(1)100.0℃以上141.0℃以下の領域のピークAと、
141.0℃より高く180.0℃以下の領域のピークBと
の存在を確認し、
(2)引き続き、ピークBのピークトップの温度を利用してポリエチレンの絡み合いを評価する。
【0046】
本発明の第三実施形態では、DSC法によりポリオレフィン延伸膜中のポリエチレンの絡み合いを評価する方法が提供され、ポリエチレンの粘度平均分子量は400,000~3,000,000であり、DSC法において、平均昇温速度0.1℃/min.以上、5.0℃/min.以下で、100.0℃から180.0℃までポリオレフィン延伸膜の熱流量を測定して得られたチャートの:
(1)100.0℃以上141.0℃以下の領域のポリエチレンの斜方晶に由来するピークAと、
141.0℃より高く180.0℃以下の領域のポリエチレンの斜方晶が融解して生成した六方晶に由来するピークBと
の存在を確認し、
(2)引き続き、ピークBのピークトップの温度を利用してポリエチレンの絡み合いを評価する。
【0047】
第一、第二、及び第三実施形態に係るDSC法は、実施例の項目において詳述される。また、第二又は第三実施形態に係る測定対象、原料、DSC条件などは、好ましい第一実施形態の一つとして説明されたとおりでよい。
【0048】
第三実施形態に係るポリエチレンの斜方晶が融解して生成した六方晶に由来するピークBは、第一実施形態において好ましい六方晶の融解ピークトップ温度、又は第二実施形態に係るピークBのピークトップの温度と同じであることができる。六方晶の融解ピークを定量的に評価するためには、必要に応じてX線散乱を用いて定性的に六方晶の生成を確認することも好ましい。したがって、DSC/X線散乱の同時測定も好ましい実施形態の一つである。
【0049】
本発明は、ポリオレフィン延伸膜としてのポリエチレン延伸膜に適用されることができる。ポリエチレン延伸膜とは、ポリエチレンを主たる構成成分とする延伸膜であり、ポリエチレン以外の成分を添加しても良い。例えば、耐熱性の向上を目的としてポリエチレンにポリプロピレンなどのオレフィン樹脂などを添加しても良い。ポリエチレンが主たる構成成分であるため、膜中のポリエチレンの割合は、膜の体積に対し85%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましく、93%以上であることがさらに好ましい。割合が85%以上であると、ポリエチレンが絡み合い膜の機械強度が良好となる。なお、延伸方法は、特に限定されるものではなく、製膜条件と所望の膜特性に応じて、例えば、同時二軸延伸、逐次二軸延伸などであることができる。また、延伸方向は、特に限定されるものではなく、例えば、MD、TD、面方向などであることができる。
【0050】
本発明のポリエチレン延伸フィルムは積層フィルムであっても良い。積層フィルムとは、少なくともポリエチレンが主たる成分である層を1層以上積層したフィルムであって、ポリプロピレンを主たる成分とする層を積層することにより機能性を付与した積層フィルムでも良い。また、積層フィルムの場合、ポリエチレンが主たる成分である層を単離することが可能であれば、その単離したポリエチレン延伸フィルムを分析することは、測定の感度が向上するため好ましい方法である。
【実施例
【0051】
次に、実施例及び比較例を挙げて本実施形態をより具体的に説明するが、本実施形態はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。なお、実施例中の物性は以下の方法により測定した。特に断りのない場合は、室温23℃、湿度40%の環境で測定を行った。
【0052】
(1)粘度平均分子量
ASTM-D4020に基づき、デカリン溶媒における135℃での極限粘度[η](dl/g)を求めた。ポリエチレン原料、ポリエチレン延伸膜、及びポリエチレンを主成分とするポリオレフィン延伸膜については次式によりMvを算出した。
[η]=6.77×10-4Mv0.67
ポリプロピレン原料については、次式によりMvを算出した。
[η]=1.10×10-4Mv0.80
【0053】
(2)密度(g/cm
JIS K7112:1999に従い、密度勾配管法(23℃)により、試料の密度を測定した。
【0054】
(3)膜厚(μm)
東洋精機(株)社製の微小測厚器、KBM(商標)を用いて、室温23±2℃で測定した。
【0055】
(4)目付換算突刺強度(gf/(g/m))
カトーテック製のハンディー圧縮試験器KES-G5(商標)を用いて、開口部の直径11.3mmの試料ホルダーで微多孔膜を固定した。次に固定された微多孔膜の中央部を、先端が直径1.0mm、曲率半径0.5mmの針を用いて、突刺速度2mm/sec.で、温度23℃、湿度40%の雰囲気下にて突刺試験を行うことにより、最大突刺荷重として生の突刺強度(gf)を求め、目付に換算した値(gf/(g/m))を算出した。
【0056】
<ポリエチレン延伸フィルムの作製>
フィルムの製造に用いた原料は以下のとおりである。
I)チーグラー・ナッタ触媒を用いて重合した、粘度平均分子量が900,000のポリエチレン
II)チーグラー・ナッタ触媒を用いて重合した、粘度平均分子量が500,000のポリエチレン
III)チーグラー・ナッタ触媒を用いて重合した、粘度平均分子量が250,000のポリエチレン
IV)メタロセン触媒を用いて重合した、粘度平均分子量が2,000,000のポリエチレン
V)粘度平均分子量が400,000のポリプロピレン
【0057】
フィルムA:
ポリエチレンフィルムの原料として、IとVを24:1の比率でヘンシェルミキサーを用いて予備混合し、フィーダーにより二軸同方向スクリュー式押出機に供給した。引き続き溶融混練し、押し出される全混合物(100質量部)中に占める流動パラフィン量比が75.0質量部となるように、2回に分けて流動パラフィンを二軸押出機シリンダーへサイドフィードで添加した。設定温度は、混練部は160℃、Tダイは200℃とした。続いて、溶融混練物をTダイよりシート状に押出し、表面温度70℃に制御された冷却ロールで冷却し、厚み1100μmのシート状成形物を得た。
【0058】
得られたシート状成形物を、ブルックナー社製KARO5.0を用いて、延伸温度118℃で縦方向に7倍、横方向に7倍となるように同時2軸延伸した。次いで、延伸膜が収縮しないように金枠に固定し、塩化メチレンを用いて流動パラフィンを抽出除去して乾燥することにより一次延伸膜を得た。続いて、ブルックナー社製KARO5.0を用いて130℃、横方向に2倍となるように延伸した後、緩和温度132℃、緩和倍率0.8倍の条件下で緩和操作を行い熱固定した。
【0059】
得られたフィルムの膜厚は5μmであり、粘度平均分子量は800,000であり、目付換算突刺強度は120gf/(g/m)であった。
【0060】
フィルムB:
原料IをIIとした以外は、フィルムAと同様にしてフィルムBを作製した。フィルムの膜厚は5μmであり、粘度平均分子量は450,000であり、目付換算突刺強度は100gf/(g/m)であった。
【0061】
フィルムC:
原料として、IIIとIVを6.5:18.5とした以外は、フィルムAと同様にしてフィルムCを得た。フィルムの膜厚は5μmであり、粘度平均分子量は1,500,000であり、目付換算突刺強度は150gf/(g/m)であった。
【0062】
フィルムD:
原料として、IをIIIとした以外は、フィルムAと同様にしてフィルムDを得た。フィルムの膜厚は5μmであり、粘度平均分子量は200,000であり、目付換算突刺強度は70gf/(g/m)であった。
【0063】
フィルムE:
ブルックナー社製KARO5.0を用いて、延伸温度118℃で縦方向に7倍延伸した後に、横方向に7倍となるように逐次二軸延伸した以外はフィルムBと同様にしてフィルムEを得た。フィルムの膜厚は5μmであり、粘度平均分子量は450,000であり、目付換算突刺強度は110gf/(g/m)であった。
【0064】
[実施例1]
フィルムAを折り重ねて、直径4.0mmφの円形に打ち抜いてDSC測定に供した。試料の重量は8.40mgであった。TAインスツルメント社製DSCQ2000を使用して、サンプルパンはTAインスツルメント社製のAl Hermetic PanとAl Hermetic Lidを使用した。セルのクランプはTAインスツルメント社製の専用クランプを用いた。
【0065】
リファレンスとして空のサンプルパンを使用し、平均昇温速度1.0℃/min.でDSC測定を行った。斜方晶と六方晶に由来する融解ピーク温度がそれぞれ、137.6℃と145.5℃に観測された。図1にDSCプロフィールを示す。
【0066】
[実施例2]
平均昇温速度を3.0℃/min.にした以外は実施例1と同様の方法でDSC測定を行った。斜方晶と六方晶に由来する融解ピークが表1のとおり観測された。図1にDSCプロフィールを示す。
【0067】
[実施例3]
平均昇温速度を5.0℃/min.にした以外は実施例1と同様の方法でDSC測定を行った。斜方晶と六方晶に由来する融解ピークが表1のとおり観測された。
【0068】
[実施例4]
フィルムBを用いて、平均昇温速度が1.0℃/min.のheat only MDSCモード(振幅±0.16℃、周期60秒)で温度変調DSC測定行った以外は実施例1と表1に示したとおりDSC測定した。トータルヒートフロー(トータルHF)には斜方晶に由来する融解ピークが137.2℃に観測され、六方晶に由来する融解熱は斜方晶の融解ピークの高温側にショルダーとして観測された。一方でリバーシングヒートフロー(不可逆HF)には、斜方晶に由来する融解ピークが137.4℃に観測され、六方晶に由来する融解ピークが142.2℃に観測された。DSCプロフィールを図2に示す。
【0069】
[実施例5~15]
測定に用いたフィルム、DSC、サンプルパン、昇温速度、温度変調の有無を、それぞれ表1に示した以外は実施例1と同様にしてDSC測定を行った。観測された斜方晶の融解ピーク温度と六方晶の融解ピーク温度を表1に示す。
【0070】
図3に実施例3と実施例9のDSC融解曲線を示す。2つ融解曲線は、フィルムAを平均昇温速度5.0℃/min.で、異なるDSCとサンプルパンを用いて測定した結果である。六方晶の融解ピーク温度は、2つのプロフィールでほとんど同じだが、斜方晶の融解ピーク温度やDSC融解曲線の形状が異なっている。
【0071】
図4に実施例1と実施例15のDSC融解曲線を示す。2つの融解曲線はフィルムAとフィルムEを同じDSC、サンプルパン、クランプ方法で測定している。また、サンプルは両方とも4.0mmφの円形に打ち抜いたものを昇温速度1.0℃/min.で測定している。サンプル重量は±10%以内である。縦軸の値は、ヒートフローをサンプル重量で割ることにより規格化した値であり、2つの融解曲線を定量的に比較することが出来る。
【0072】
フィルムAはフィルムEより分子量が高いため、分子鎖の絡み合いが強いと考えられる。六方晶の融解ピーク温度に着目すると、フィルムAはフィルムEより2.5℃高い。詳細は割愛するが、フィルム中のポリエチレンの絡み合いの強さと六方晶の融解ピーク温度の間に相関があることが示唆されている。したがって、六方晶の融解ピーク温度を測定することにより、ポリエチレンの絡み合いを定量的に評価することが出来る。
【0073】
フィルムEは逐次二軸延伸フィルムであり、同時二軸延伸フィルムであるフィルムAより分子の配向が強いと考えられる。六方晶の融解ピーク高さに着目すると、フィルムEはフィルムAより約2.0倍高い。詳細は割愛するが、フィルム中のポリエチレン鎖の配向の強さと六方晶の融解ピークの高さの間に相関があることが示唆されている。つまり六方晶の融解ピーク高さを測定することにより、分子鎖の配向の程度を定量的に評価することが出来る。
【0074】
その他にも六方晶の融解熱量や、六方晶と斜方晶の融解ピーク温度、ピーク高さ、融解熱量の比率などは定量化できる分析結果であり、延伸フィルムの物性と相関があると考えられる。
【0075】
[比較例1]
平均昇温速度を10℃/min.とした以外は実施例1と同様の方法でDSC測定を行った。六方晶の融解ピーク温度は148.1℃となった。実施例と比較して2℃程度高く、スーパーヒートにより融解ピーク温度が高く見積もられた。
【0076】
[比較例2]
平均昇温速度を20℃/min.とした以外は実施例1と同様の方法でDSC測定を行った。六方晶の融解ピーク温度は150.4℃であり、実施例と比較して4℃程度高く、比較例1と比較しても2℃程度高い。昇温速度が早くなるほど、スーパーヒートにより融点ピーク温度が高くなった。
【0077】
[比較例3]
平均昇温速度を0.03℃/min.とした以外は実施例1と同様の方法でDSC測定を行った。六方晶の融解ピークは観測されなかった。
【0078】
[比較例4]
フィルムAをフィルムDとした以外は実施例1と同様の方法でDSC測定を行った。ポリエチレンの平均分子量が低いため絡み合いが少なく、六方晶の融解ピークを分析することが出来なかった。
【0079】
[比較例5]
サンプルパンをTAインスツルメント社製Al Standard PanとAl Standard Lidを用いた以外は実施例1と同様の方法でDSC測定を行った。測定に用いたパンでは、フィルムの膜厚方向の拘束力が弱いため、DSCの昇温中に六方晶が生成しなかった。
比較例1、2、3、5のDSCプロフィールを図1に示す。
【0080】
[比較例6~14]
測定に用いた試料、装置、サンプルパン、昇温速度、温度変調を、表1に示した以外は実施例1と同様にしてDSC測定を行った。観測された斜方晶の融解ピーク温度と六方晶の融解ピーク温度を表1に示す。
【0081】
図5は、フィルムAを様々なDSCとサンプルパンの組み合わせで、平均昇温速度を変えながら六方晶の融解ピーク温度を測定した結果を示す。平均昇温速度が0.1℃~5.0℃の範囲では、六方晶の融解ピーク温度は146.0℃±0.5℃の範囲であり、精度良く六方晶の融点を測定出来ていると言える。平均昇温温度が10℃/min.、20℃/min.と高くなるに従い、スーパーヒートの影響により六方晶の融解ピーク温度が高く見積もられている。また、DSCとサンプルパンの組み合わせが変わると測定結果のバラツキも大きくなる。
【0082】
[実施例16]
原料Iを100部とした以外は、フィルムAと同様にしてフィルムA’を作製した。
【0083】
斜方晶が融解したのちに六方晶が生成することを確認するためにX線散乱測定を行った。用いたフィルムは、ポリプロピレンの結晶反射の影響を排除するためにフィルムA’を作製して試験に供した。
[測定条件]
装置:リガク製 Nanopix
X線波長:0.154 nm
光学系:ポイントコリメーション (1st 1.40mmφ,2nd Open,guard 0.85mmφ、BS 4mm)
検出器:HyPix-6000 (2次元半導体検出器)
カメラ長:120 mm
露光時間:1 min / 1測定
試料周りの環境:真空
【0084】
サンプルは、加熱炉のサンプルホルダーにねじを用いてフィルムが収縮しないように固定して、測定を行った。100℃に設定した加熱炉にサンプルを投入し3min保持後に測定を開始した。その後、105℃、100℃・・・となるように、5℃毎温度を昇温し、1min保持→測定→昇温→1min保持→測定を145℃まで繰り返して測定を行った。測定結果を図6に示す。
【0085】
図6に示されるとおり、100℃から140℃までは斜方晶に由来する(110)oと(200)oに由来する結晶ピークのみが観測された。また、加熱するに従い、(110)oのピーク強度が小さくなってきており、斜方晶の融解が確認される。145℃では、斜方晶由来の(110)oと(200)oに由来する結晶ピークが消失し、2θが10℃から30℃にわたるブロードな非晶ピークが観測されたのと同時に、六方晶に由来する(100)hの結晶ピークが生成していることが確認できる。このようにX線散乱測定を行うことにより、ポリエチレンの絡み合いの指標となる六方晶の生成を直接的に観測することが出来る。その一方で、斜方晶が融解すると、ブロードな非晶ピークが出現するために、六方晶の融解ピーク強度を定量的に評価することは困難である。六方晶の融解ピークを定量的に評価するためには、本発明による分析手法が必要であり、必要に応じてX線散乱を用いて定性的に六方晶の生成を確認することも好ましい。DSC/X線散乱の同時測定も好ましい実施形態の一つである。
【0086】
【表1-1】
【0087】
【表1-2】
【0088】
【表1-3】
【0089】
【表1-4】
【産業上の利用可能性】
【0090】
本発明は、例えば、ポリオレフィン(PO)延伸膜の突刺強度の合否を判別することができる。また、本発明によれば、電気化学デバイス用セパレータとして機械強度が良好か否かが判別されることができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6