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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-21
(45)【発行日】2024-03-29
(54)【発明の名称】超電導電磁石
(51)【国際特許分類】
   H01F 6/02 20060101AFI20240322BHJP
   H01F 6/04 20060101ALI20240322BHJP
   H10N 60/20 20230101ALI20240322BHJP
   H10N 60/82 20230101ALI20240322BHJP
   H10N 60/84 20230101ALI20240322BHJP
【FI】
H01F6/02
H01F6/04
H10N60/20 A
H10N60/82
H10N60/84
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020151418
(22)【出願日】2020-09-09
(65)【公開番号】P2022045693
(43)【公開日】2022-03-22
【審査請求日】2023-02-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001380
【氏名又は名称】弁理士法人東京国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小柳 圭
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 寛史
(72)【発明者】
【氏名】岩井 貞憲
(72)【発明者】
【氏名】高見 正平
【審査官】木下 直哉
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-136637(JP,A)
【文献】特開2019-096648(JP,A)
【文献】特開2000-294053(JP,A)
【文献】特開2007-221013(JP,A)
【文献】特開2019-165034(JP,A)
【文献】特開2001-102105(JP,A)
【文献】特開平05-101927(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 6/00- 6/06
H01F 6/04
H10N 60/20
H10N 60/82-60/84
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘導磁場を生成する主コイルと、
前記主コイルと閉回路を形成し常電導状態/超電導状態が切り替え可能な永久電流スイッチと、
前記永久電流スイッチの無誘導巻コイルから引き出され、前記主コイルの両側の端線のそれぞれに接続する第1引出線及び第2引出線と、
前記主コイルを支持するとともに極低温冷凍機が発生した冷熱を前記主コイルに伝達する伝熱部材と、
前記伝熱部材に一端が接続し他端において前記永久電流スイッチを支持するとともに前記永久電流スイッチに伝達される前記冷熱の主経路を成す支持部材と、
前記支持部材において前記第1引出線が電気的に接触する第1部位と前記第2引出線が電気的に接触する第2部位とを長手方向に沿って分離させる分離構造と、を備え、
前記伝熱部材と前記支持部材は電気絶縁されている超電導電磁石。
【請求項2】
請求項1に記載の超電導電磁石において、
前記閉回路を形成するため前記永久電流スイッチと前記主コイルとを電気接続させる電気接続部は、
前記第1引出線と前記主コイルの一方の端線とを溶融金属に浸漬後に凝固させたものを収容する第1容器と、
前記第2引出線と前記主コイルの他方の端線とを溶融金属に浸漬後に凝固させたものを収容する第2容器と、
前記第1容器及び前記第2容器の各々と前記伝熱部材とを連結し電気絶縁性を確保しつつ熱伝導させる電気絶縁体と、を有し、
前記支持部材の前記第1部位の一端は、前記第1容器及び前記電気絶縁体を介して前記伝熱部材に接続し、
前記支持部材の前記第2部位の一端は、前記第2容器及び前記電気絶縁体を介して前記伝熱部材に接続する、超電導電磁石。
【請求項3】
請求項2に記載の超電導電磁石において、
前記電気絶縁体の少なくとも一方の接触面に、前記接触面の垂直方向に働く応力により塑性変形し隙間を埋める軟質金属が配置される超電導電磁石。
【請求項4】
請求項2又は請求項3に記載の超電導電磁石において、
前記第1容器及び前記第2容器の開口端を前記伝熱部材の連結方向に保持部材で押圧し、熱接触性を向上させる超電導電磁石。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の超電導電磁石において、
前記第1引出線及び前記第2引出線が前記接触する前記支持部材の位置には、溝が形成されている超電導電磁石。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の超電導電磁石において、
前記永久電流スイッチが支持される前記支持部材の他端は、前記永久電流スイッチの前記無誘導巻コイルが巻回されるボビンのフランジ部に結合している超電導電磁石。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の超電導電磁石において、
前記支持部材は、長手方向に直交する断面が縮小する絞り部が設けられている超電導電磁石。
【請求項8】
請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の超電導電磁石において、
前記支持部材は、長手方向に熱伝導率の異なる二種類以上の部材が配列してなる超電導電磁石。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、熱伝導方式で冷却する超電導電磁石に関する。
【背景技術】
【0002】
永久電流を循環させて誘導磁場を発生させる超電導電磁石の冷却は、液体ヘリウム浸漬方式が従来主流であった。近年、極低温冷凍機から供給される冷熱を超電導電磁石に伝導させる熱伝導方式が検討されている。これら二つの方式のいずれであっても、超電導電磁石の起動時に、永久電流スイッチ(PCS)が使用される。すなわち、永久電流スイッチをOFF設定にし、電源から励磁電流を供給して主コイルに誘導磁場を発生させる(ドリブンモード)。しかる後に、永久電流スイッチをON設定に切り替え、さらに励磁電流の供給を徐々に減らして、永久電流モード(PCモード)に移行させる。
【0003】
永久電流スイッチは、超電導線材の無誘導巻コイルとヒータ線とを備えている。そして、冷却状態の無誘導巻コイルを加熱/除熱することで常電導状態/超電導状態を切り替え、永久電流スイッチのOFF/ON設定がなされる。
【0004】
冷却が液体ヘリウム浸漬方式の場合、永久電流スイッチのOFF設定時の発熱は、無誘導巻コイルを昇温させる以外は、冷媒である液体ヘリウム中に散逸されてしまう。このため、永久電流スイッチのOFF設定時の発熱が主コイル及び引出線に影響を及ぼすことについて、検討する必要性は特になかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】2018-010948号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし冷却が熱伝導方式の場合、永久電流スイッチのOFF設定時の発熱の一部は、主コイルにまで到達してしまう。この到達熱により主コイル並びに引出線の温度が上昇し、超電導の臨界点を超えて常伝導転移(クエンチ)に至ることが懸念される。
【0007】
また主コイルの超電導線材のマトリクスに純銅が用いられているのに対し、永久電流スイッチの超電導線材にはマトリクスに高抵抗の合金(CuNi)が用いられている。これは、上述したドリブンモードにおいて、永久電流スイッチへの電流分流を抑制し、主コイルにおいて十分な誘導磁場を発生させるためである。
【0008】
ところで、CuNiマトリクスを持つ線材は、銅マトリクスを持つ超電導線材と比べて安定性が低く、磁気的不安定性によってクエンチが生じ易い。このため永久電流スイッチを熱伝導方式で冷却する場合、液体ヘリウム浸漬方式による冷却の場合と比較して、永久電流スイッチの引出線の不安定性はさらに顕著になる。そして、機器の定格に満たない低い電流値でもクエンチ発生のリスクが高まる。
【0009】
本発明の実施形態はこのような事情を考慮してなされたもので、熱伝導方式で冷却するに際し、クエンチ発生のリスクを低減する超電導電磁石を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の実施形態に係る超電導電磁石において、誘導磁場を生成する主コイルと、前記主コイルと閉回路を形成し常電導状態/超電導状態が切り替え可能な永久電流スイッチと、前記永久電流スイッチの無誘導巻コイルから引き出され前記主コイルの両側の端線のそれぞれに接続する第1引出線及び第2引出線と、前記主コイルを支持するとともに極低温冷凍機が発生した冷熱を前記主コイルに伝達する伝熱部材と、前記伝熱部材に一端が接続し他端において前記永久電流スイッチを支持するとともに前記永久電流スイッチに伝達される前記冷熱の主経路を成す支持部材と、前記支持部材において前記第1引出線が電気的に接触する第1部位と前記第2引出線が電気的に接触する第2部位とを長手方向に沿って分離させる分離構造と、を備え、前記伝熱部材と前記支持部材は電気絶縁されている
【発明の効果】
【0011】
本発明の実施形態により、熱伝導方式で冷却するに際し、クエンチ発生のリスクを低減する超電導電磁石が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の実施形態に係る超電導電磁石の縦断面を示す構成図。
図2】(A)図1の領域Aで示される超電導電磁石の部分の縦断面図、(B)その上面図。
図3】実施形態に係る超電導電磁石の回路図。
図4】(A)主コイルの超電導線材の断面を示す概念図、(B)永久電流スイッチの超電導線材の断面を示す概念図。
図5】超電導線材を構成する超電導体及びマトリクス体の温度に対する電気抵抗値の変化を示すグラフ。
図6】超電導状態の三つの臨界点(臨界電流Ic,臨界温度Tc,臨界磁場Hc)を説明するグラフ。
図7】(A)(B)(C)(D)超電導電磁石の励磁工程を説明するグラフ。
図8】電気接続部の側面図。
図9】(A)(B)支持部材に配置された第1引出線及び第2引出線の断面図。
図10】(A)支持部材に支持される永久電流スイッチ(第1例)の縦断面図、(B)その底面図。
図11】(A)支持部材に支持される永久電流スイッチ(第2例)の側面図、(B)その水平断面図。
図12】(A)支持部材の第1例を示す側面図、(B)支持部材の第2例を示す側面図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態を添付図面に基づいて説明する。図1は本発明の実施形態に係る超電導電磁石10の縦断面を示す構成図である。図2(A)は、図1の領域Aで示される超電導電磁石10の部分の縦断面図である。図2(B)はその上面図である。
【0014】
このように超電導電磁石10は、誘導磁場16を生成する主コイル15と、この主コイル15と閉回路を形成し常電導状態/超電導状態が切り替え可能な永久電流スイッチ25と、この永久電流スイッチ25の無誘導巻コイル26から引き出され主コイル15の両側の端線17,18の各々に接続する第1引出線11及び第2引出線12と、主コイル15を支持するとともに極低温冷凍機40が発生した冷熱を主コイル15に伝達する伝熱部材45と、この伝熱部材45に一端が接続し他端において永久電流スイッチ25を支持するとともに永久電流スイッチ25に伝達される冷熱の主経路を成す支持部材20と、この支持部材20において第1引出線11が電気的に接触する第1部位21と第2引出線12が電気的に接触する第2部位22とを長手方向に沿って分離させる分離構造と、を備えている。
【0015】
上述した主コイル15、永久電流スイッチ25、伝熱部材45及び支持部材20は、超電導転移の臨界温度Tc以下に保たれる必要があるため、断熱真空容器28に収容されている。この断熱真空容器28は、超電導電磁石10が設置される環境(室温:約300K)からの熱侵入の影響を低減するためさらに輻射シールド29を構成に持つ。なお輻射シールド29、伝熱部材45及び永久電流スイッチ25の重量は、図示されない部材により断熱真空容器28から支持されている。
【0016】
実施形態において極低温冷凍機40としてGM冷凍機40が例示されている。GM冷凍機40の第1冷凍ステージ41と輻射シールド29とが接続され、第2冷凍ステージ42と伝熱部材45とが接続されている。コンプレッサ(図示略)からGM冷凍機40に封入される作動ガス(Heガス等)の断熱圧縮の効果により、輻射シールド29は40K程度に冷却され伝熱部材45は4K程度に冷却される。
【0017】
なお採用される極低温冷凍機40は、上述したGM冷凍機に限定されるものではない。パルスチューブ冷凍機、クロード冷凍機、スターリング冷凍機など、極低温を生成するものであれば適宜採用される。
【0018】
伝熱部材45は、機械剛性が高く、磁化せず、熱伝導率が大きい、例えば銅、銅合金、アルミニウム、アルミ合金等の材質で構成される。そして伝熱部材45は、断熱真空容器28の内側から支持部材(図示略)で支持され、当接する極低温冷凍機40から冷熱の供給を受ける。この極低温冷凍機40から供給された冷熱は、伝熱部材45を伝達して支持される主コイル15及びその端線17,18並びに電気接続部30に供給される。さらに極低温冷凍機40から供給された冷熱は、伝熱部材45及び電気接続部30を経由して、支持部材20に伝達され、永久電流スイッチ25に供給される。
【0019】
支持部材20は、基端が伝熱部材45及び電気接続部30に固定され、先端で永久電流スイッチ25を支持している。さらに支持部材20は、永久電流スイッチ25の無誘導巻コイル26から電気接続部30に延びる第1引出線11及び第2引出線12の渡り区間を形成している。このように支持部材20は、伝熱部材45から永久電流スイッチ25に冷熱を伝達するとともに第1引出線11及び第2引出線12を支持している。なお支持部材20の材料は、極低温において熱伝導率及び電気伝導率の高い銅またはアルミニウムを使用しても良いし、金または銀またはそれらを含む合金を使用しても良い。
【0020】
なお永久電流スイッチ25の重量は、支持部材20に全て負担される場合もあるし、重量の一部が、断熱真空容器28又は伝熱部材45から直接伸びる支持部材(図示略)により支持される場合もある。また永久電流スイッチ25に供給される冷熱も、主要経路である支持部材20を経由する以外に、伝熱部材45から伸びるその他の伝熱部材(図示略)により伝達される場合もある。
【0021】
図3は実施形態に係る超電導電磁石10の回路図である。このように超電導電磁石10は、励磁電源35に対し永久電流スイッチ25及び主コイル15が並列接続している。このように回路が形成されることにより、ドリブンモードにおいて励磁電源35及び主コイル15が閉回路を形成し、永久電流モード(PCモード)において主コイル15及び永久電流スイッチ25が閉回路を形成する。
【0022】
主コイル15は、超電導線材が一方向に巻回して構成され、電流が流れることで誘導磁場16を生成する。永久電流スイッチ25は、超電導線材がそれぞれ逆方向に巻回された二つのコイルが直列に接続され、電流が流れても誘導磁場を生成しない無誘導巻コイル26が配置されている。そして永久電流スイッチ25の発熱部27は、無誘導巻コイル26に近接配置される電気抵抗体37と、この電気抵抗体37に供給する電力を制御して発熱させ超電導状態の無誘導巻コイル26を常電導状態に変化させる電力制御器36と、を有している。
【0023】
主コイル15から引き出される一対の端線17,18の終端は、それぞれ電気接続部30に接続されている。また永久電流スイッチ25から引き出される一対の第1引出線11及び第2引出線12の終端も、電気接続部30に接続されている。このように主コイル15と永久電流スイッチ25は並列に接続し閉回路を形成する。
【0024】
図4(A)主コイル15の超電導線材の断面を示す概念図である。また図4(B)は永久電流スイッチ25の無誘導巻コイル26の超電導線材の断面を示す概念図である。このように超電導線材は、設定温度によって超電導状態と常電導状態とが切り替わる超電導体46と、設定温度によらず常電導状態を示すマトリクス体47(47a,47b)とから構成されている。なお、マトリクス体47と超電導体46とは、断面視において海島状に形成されているが、このような構造に限定されるものではなく例えば層状に形成される場合もある。
【0025】
図5は、超電導線材を構成する超電導体46及びマトリクス体47(47a,47b)の温度に対する電気抵抗値の変化を示すグラフである。超電導体46は、臨界温度Tcよりも低温では、電気抵抗値がゼロとなり、永久電流を流すことができる。一方で、超電導体46は、臨界温度Tcを超えると急激に電気抵抗値が上昇し、さらに温度上昇とともに電気抵抗値は上昇する。なお実施形態において、広く実用化されているNbTi合金が超電導体46として例示されているが、これに限定されることは無い。
【0026】
主コイル15のマトリクス体47aは電気抵抗値の小さい無酸素胴で構成され、無誘導巻コイル26のマトリクス体47bは無酸素胴よりも電気抵抗値の大きい銅合金で構成されている。このように無誘導巻コイル26のマトリクス体47bの電気抵抗値を大きくする理由は、後述するように、永久電流スイッチ25がOFF設定される(電気抵抗体37が発熱する)ドリブンモードにおいて、十分大きな電気抵抗値を有する必要があるためである。
【0027】
図6は、超電導状態の三つの臨界点(臨界電流Ic,臨界温度Tc,臨界磁場Hc)を説明するグラフである。これら臨界点をいずれか一つでも超過してしまうと、超電導線材は、超電導状態から常電導状態に転移(クエンチ)して、焼損する場合がある。またこのグラフから解るように、超電導線材の温度が臨界温度Tcよりも低温であっても、設定温度がT1からT2に上昇すると臨界電流I1からI2に低下してしまう。このため永久電流スイッチ25をOFF設定するときの電気抵抗体37の発熱が、引出線11,12に極力伝達されない工夫も必要である。
【0028】
図7のグラフに基づいて(適宜、図3参照)、超電導電磁石10の励磁工程を説明する。まず主コイル15及び永久電流スイッチ25を共に超電導状態を示す温度T1まで冷却する。次に図7(A)に示すように、発熱部27の制御を有効にして電気抵抗体37を発熱させ、図7(B)に示すように、永久電流スイッチ25の無誘導巻コイル26が常電導状態を示す温度T3まで昇温させる。時点t1から開始した昇温過程において、コイル温度が臨界温度Tcを超えた時点t2で、永久電流スイッチ25はOFF設定となり、励磁電源35と主コイル15を含む閉回路が形成される。
【0029】
図7(C)に示すように、永久電流スイッチ25がOFF設定となった時点t2において励磁電源35を起動し、励磁電流値A1が正の傾きを有するように、主コイル15の閉回路に電流を流す。そして、この励磁電流値A1が定格値に到達したところで、主コイル15の閉回路に流す電流を一定にし、ドリブンモードが達成される。
【0030】
ドリブンモードに到達した後、図7(A)に示すように時点t3において、発熱部27の制御を無効にする。すると図7(B)に示すように永久電流スイッチ25の温度は降下する。時点t3から開始した降温過程において、コイル温度が臨界温度Tcを下回った時点t4で、永久電流スイッチ25はON設定となる。なおこの降温過程において永久電流スイッチ25から伝熱部材45への熱伝達が速やかであることが、時点t3と時点t4との時間差を短縮し、永久電流スイッチ25のON設定を早期に達成でき好ましい。この要請事項は、上述した引出線11,12の昇温抑制の要請とトレードオフの関係にあるが、バランスを考慮した設計がなされている。
【0031】
永久電流スイッチ25がON設定に回復した時点t4において、主コイル15及び永久電流スイッチ25の閉回路が形成される。すると、図7(C)に示すように、励磁電流値A1が負の傾きを有するように、励磁電源35が制御される。この過程においてレンツの法則に基づき、図7(D)に示すように、主コイル15を貫通する誘導磁場16を変化させないよう主コイル15及び永久電流スイッチ25の閉回路に永久電流が誘導される。この永久電流の電流値A2は、励磁電流値A1の減少に反比例して増加し、励磁電流値A1が0になった時点t5において一定値となる。この時点t5において、起電力無しで主コイル15に定常電流が流れ続ける永久電流モードが達成される。
【0032】
図2に戻って説明を続ける。電気接続部30は、主コイル15の一方の端線17と第1引出線11とを溶融金属に浸漬後に凝固させたものを収容する第1容器31と、主コイル15の他方の端線18と第2引出線12とを溶融金属に浸漬後に凝固させたものを収容する第2容器32と、から構成される。このように電気接続部30は、永久電流スイッチ30の第1引出線11及び第2引出線12の各々を、主コイル15の端線17,18の各々に電気接続させ、閉回路を形成するものである。
【0033】
第1容器31及び第2容器32は、銅、アルミニウム、銀等といった電気伝導性及び熱伝導性に優れる金属製である。そして、容器31,32に収容される金属はハンダ等の低融点で電気伝導率の高い合金が用いられる。そして、主コイル15の端線17,18及び第1引出線11及び第2引出線12は、それぞれ比表面積が大きくなるよう束ねられた状態で、第1容器31及び第2容器32に浸漬されている。
【0034】
さらに、第1容器31及び第2容器32の各々と伝熱部材45との間には、両者を連結し電気絶縁性を確保しつつ熱伝導させる電気絶縁体38が設けられている。さらに支持部材20の第1部位21の一端は、第1容器31及び電気絶縁体38を介して伝熱部材45に接続し、第2部位22の一端は、第2容器32及び電気絶縁体38を介して伝熱部材45に接続している。
【0035】
シート状の電気絶縁体38が介在することで、電気的には絶縁しつつコンダクタンスの小さい熱接触をとることができる。電気絶縁体38としては、例えば、ポリイミドなどのシートや、その他に繊維強化プラスチック、窒化アルミニウム(AlN)、窒化ホウ素、アルミナ、ポリアミド(ナイロン)、ポリエチレン、塩化ビニル、フッ素樹脂あるいはそれらを成分として含む材料等が挙げられる。また電気絶縁体38は、シート状のもの以外に、伝熱部材45の表面に塗布された後に硬化する材料を採用することもできる。
【0036】
図8は電気接続部30の側面図である。保持部材50は、第1容器31及び第2容器32に保護材となる軟質金属58を介して当接する当接板56と、伝熱部材45に設けられる立設部材55と、開口端に押し付け力が付与するように当接板56を立設部材55に固定する固定部材57と、を有している。なお、この軟質金属58は、ブリネル硬度が300MPa以下であることが望ましい。このような保持部材50が設けられることで、第1容器31及び第2容器32を伝熱部材45の連結方向に押圧し、両者の熱接触性を向上させることができる。
【0037】
電気絶縁体38は、絶縁破壊に対する耐性に優れ、極低温において熱伝導率の高い材質であることが好適である。具体的には、窒化アルミニウム(AlN)のように電気絶縁性があると同時に平滑な表面を有する形状にも加工できる材料が適している。そのような特性を持つその他の候補として、窒化アルミニウム(AlN)、炭化ケイ素(SiC)、サファイア・アルミナ(Al)、水晶(SiO)や、あるいはそれらの混成物を挙げることができる。このような特性を有する電気絶縁体38が採用されることで、伝熱部材45からの冷熱の伝導性が向上し、第1容器31及び第2容器32の各々の到達温度を低くすることができる。
【0038】
また電気絶縁体38の少なくとも一方の接触面には、この接触面の垂直方向に働く応力により塑性変形し隙間を埋める軟質金属39が配置される。この軟質金属39は、ブリネル硬度が300MPa以下であることが望ましい。なお図8において軟質金属39は、第1容器31及び第2容器32との接触面に設けられる例を示しているが、伝熱部材45との接触面に設けられる場合もある。
【0039】
このように介在する軟質金属39は、容器31,32、電気絶縁体38、伝熱部材45の表面の細かな凹凸に倣って変形する。これにより、伝熱部材45から電気接続部30に至る熱抵抗が低減され、第1容器31及び第2容器32の各々の到達温度を低くすることができる。
【0040】
図9(A)は支持部材20の第1部位21に配置された第1引出線11並びに第2部位22に配置された第2引出線12の断面図である。このように、第1引出線11及び第2引出線12は、支持部材20に接触した状態で、ハンダ等の金属ロウ材19でロウ付けされている。
【0041】
このように、ロウ付けされることにより、第1引出線11もしくは第2引出線12と支持部材20との熱接触性及び電気接触性が向上する。これにより引出線11,12に機械擾乱や侵入した磁束の分布の変化など何らかの不安定性要因が生じた場合であっても、これら要因により発生じた熱を、速やかに放出しクエンチの発生を抑制できる。さらに引出線11,12が部分的に一時的に超電導状態から常電導状態に遷移し、クエンチの兆候が現れた場合であっても、引出線11,12を流れる永久電流を、支持部材20にバイパスさせることができる。これにより、クエンチへの進展を防止することができる。
【0042】
さらに図9(B)は、第1引出線11及び第2引出線12が接触する支持部材20の位置に、溝14が形成されている。この溝14により、両者の熱接触性及び電気接触性をさらに向上させることができる。またこの性質さらに向上させるために溝14は、引出線11,12の外周片側面の反転形状を有することが望ましい。
【0043】
図10(A)は支持部材20に支持される永久電流スイッチ25(第1例)の縦断面図であり、図10(B)はその底面図である。このように永久電流スイッチ25が支持される支持部材20の他端は、無誘導巻コイル26が巻回されるボビン23の一方のフランジ部に結合している。
【0044】
図11(A)は支持部材20に支持される永久電流スイッチ25(第2例)の側面図であり、図11(B)その水平断面図である。このように永久電流スイッチ25が支持される支持部材20の他端は、第1部位21の先端がボビン23の一方のフランジ部に結合しし、第2部位22の先端がボビン23の他方のフランジ部に結合ししている。なおボビン23は、全体を電気絶縁体で構成したり、電気伝導体で構成したり、フランジ部を電気伝導体で構成し軸部を電気絶縁体で構成したりすることができる。
【0045】
図12(A)は支持部材20a(20)の第1例を示す側面図である。このように支持部材20aには、長手方向に直交する断面が縮小する絞り部33が設けられる場合がある。つまり、伝熱部材45に熱接触する支持部材20の部分と、永久電流スイッチ25に熱接触する支持部材20の部分と比べて、この絞り部33は、長手方向と直交する断面積が縮小した狭隘部分となっている。なお図示において上下方向の寸法が絞られている態様を示しているが、奥行方向の寸法が絞られる態様も有りえる
【0046】
このような絞り部33の設計寸法を調整することで、伝熱部材45に熱伝導してしまう永久電流スイッチ25のOFF設定時の発熱の一部を、律速することができる。換言すると、伝熱部材45から永久電流スイッチ25への冷熱の良好な熱伝導を妨げずに、その逆方向の熱伝導を抑制する機器設計を容易化する。
【0047】
図12(B)は支持部材20b(20)の第2例を示す側面図である。このように支持部材20bは、長手方向に熱伝導率の異なる二種類以上の部材48,49が配列してなる。例えば、一つ目の部材48には無酸素銅を使用し、二つ目の部材49にはリン脱酸銅などの銅合金を使用する。このように支持部材20b(20)を構成する二種類以上の部材48,49の設計寸法を調整することで、図12(A)で絞り部33を導入する場合と同様の効果を得ることができる。
【0048】
以上述べた少なくともひとつの実施形態の超電導電磁石によれば、永久電流スイッチの第1引出線が電気的に接触する第1部位と第2引出線が電気的に接触する第2部位とを分離させる分離構造を持つことにより、熱伝導方式で冷却するに際し、クエンチ発生のリスクを低減することが可能となる。
【0049】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更、組み合わせを行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0050】
10…超電導電磁石、11…第1引出線、12…第2引出線、14…溝、15…主コイル、16…誘導磁場、17,18…端線、19…金属ロウ材、20(20a,20b)…支持部材、21…第1部位、22…第2部位、23…ボビン、25…永久電流スイッチ、26…無誘導巻コイル、27…発熱部、28…断熱真空容器、29…輻射シールド、30…電気接続部、30…永久電流スイッチ、31…第1容器、32…第2容器、33…絞り部、35…励磁電源、36…電力制御器、37…電気抵抗体、38…電気絶縁体、50…保持部材、56…当接板、57…固定部材。
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