(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-21
(45)【発行日】2024-03-29
(54)【発明の名称】射出成形機用のスクリュ、射出装置および射出成形機
(51)【国際特許分類】
B29C 45/50 20060101AFI20240322BHJP
【FI】
B29C45/50
(21)【出願番号】P 2020172354
(22)【出願日】2020-10-13
【審査請求日】2023-04-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000004215
【氏名又は名称】株式会社日本製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】100097696
【氏名又は名称】杉谷 嘉昭
(74)【代理人】
【識別番号】100147072
【氏名又は名称】杉谷 裕通
(72)【発明者】
【氏名】油布 拓也
(72)【発明者】
【氏名】柏原 裕吾
(72)【発明者】
【氏名】中川 一馬
【審査官】坂本 薫昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-156075(JP,A)
【文献】実開昭56-156633(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 45/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の構成を備えた射出成形機のスクリュ:
(1a)頂部
がステップ状の段部
に形成されて
、上流側の大径部と
、前記大径部より小径になっている下流側のランド部と
、から構成されているフライトである段部フライトが
所定区間設けられている;
(1b)前記大径部と前記ランド部の段差は0.5mmより大きく0.8mm以下になっている。
【請求項2】
次の構成を備えた請求項1に記載のスクリュ:
(2a)前記段部フライトにおいてリード角と垂直な方向におけるフライト幅B
1と前記ランド部の幅B
2は、幅B
2が幅B
1の0.6~0.9倍になっている。
【請求項3】
次の構成を備えた請求項1または2に記載のスクリュ:
(3a)加熱シリンダ内で前記スクリュが回転するとき、前記加熱シリンダ内が射出材料が供給される上流側の供給部と、射出材料が溶融されながら圧縮される圧縮部と、溶融状態の射出材料が計量される計量部とに区分される;
(3b)前記段部フライトは前記圧縮部に形成されている。
【請求項4】
次の構成を備えた請求項3に記載のスクリュ:
(4a)前記段部フライトは前記計量部に形成されている。
【請求項5】
加熱シリンダとスクリュとからなり、前記スクリュが次の構成を備えた射出装置:
(5a)頂部
がステップ状の段部
に形成されて
、上流側の大径部と
、前記大径部より小径になっている下流側のランド部と
、から構成されているフライトである段部フライトが
所定区間設けられている;
(5b)前記大径部と前記ランド部の段差は0.5mmより大きく0.8mm以下になっている。
【請求項6】
次の構成を備えた請求項5に記載の射出装置:
(6a)前記段部フライトにおいてリード角と垂直な方向におけるフライト幅B
1と前記ランド部の幅B
2は、幅B
2が幅B
1の0.6~0.9倍になっている。
【請求項7】
次の構成を備えた請求項5または6に記載の射出装置:
(7a)前記加熱シリンダ内で前記スクリュが回転するとき、前記加熱シリンダ内が射出材料が供給される上流側の供給部と、射出材料が溶融されながら圧縮される圧縮部と、溶融状態の射出材料が計量される計量部とに区分される;
(7b)前記段部フライトは前記圧縮部に形成されている。
【請求項8】
次の構成を備えた請求項7に記載の射出装置:
(8a)前記段部フライトは前記計量部に形成されている。
【請求項9】
金型を型締めする型締装置と、前記金型に射出材料を射出する射出装置とからなり、前記射出装置が加熱シリンダと次の構成を備えたスクリュとからなる射出成形機:
(9a)頂部
がステップ状の段部
に形成されて
、上流側の大径部と
、前記大径部より小径になっている下流側のランド部と
、から構成されているフライトである段部フライトが
所定区間設けられている;
(9b)前記大径部と前記ランド部の段差は0.5mmより大きく0.8mm以下になっている。
【請求項10】
次の構成を備えた請求項9に記載の射出成形機:
(10a)段部フライトにおいてリード角と垂直な方向におけるフライト幅B1と前記ランド部の幅B
2は、幅B
2が幅B
1の0.6~0.9倍になっている。
【請求項11】
次の構成を備えた請求項9または10に記載の射出成形機:
(11a)前記加熱シリンダ内で前記スクリュが回転するとき、前記加熱シリンダ内が射出材料が供給される上流側の供給部と、射出材料が溶融されながら圧縮される圧縮部と、溶融状態の射出材料が計量される計量部とに区分される;
(11b)前記段部フライトは前記圧縮部に形成されている。
【請求項12】
次の構成を備えた請求項11に記載の射出成形機:
(8a)前記段部フライトは前記計量部に形成されている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フライトの頂部にステップ状の段部すなわちランド部が形成されている射出成形機用のスクリュと、該スクリュが設けられる射出装置、および射出成形機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
射出成形機の射出装置は、加熱シリンダとこの加熱シリンダのボアに入れられるスクリュとから構成されている。スクリュには射出材料を溶融し計量するためのフライトが形成され、フライトには色々な形状がある。
【0003】
いわゆるコンベンショナルスクリュは、フライトの頂部が単一の円柱面から形成されている。これに対して特許文献1に記載されているスクリュは、フライトの頂部がステップ状の段部に形成された段部フライトになっている。段部フライトはフライトの頂部においてこの段部の上流側つまりホッパ側が大径部になっていると共に下流側つまり射出ノズル側がランド部になっており、特許文献1によると大径部とランド部の段差は0.5mm以内にするよう記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、発明者等は、特許文献1に記載されたスクリュを備える射出装置において、射出材料の色や種類を替えるいわゆる色替えの問題があることを見出した。色替えは加熱シリンダ内において、古い射出材料を新しい射出材料に実質的に完全に入れ換える必要がある。つまり射出材料が実質的に完全に入れ替えられるまで、成形サイクルを繰り返す必要がある。しかしながら、特許文献1に記載されたスクリュのように段部フライトを備えたスクリュでは、フライトの頂部に侵入している古い射出材料が排出されにくく、色替え時に必要な成形サイクル数が多くなる、すなわち、無駄なショット数が多くなることが分かった。
【0006】
その他の課題と新規な特徴は、本明細書の記述及び添付図面から明らかになるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示は、次の構成を備えた射出成形機のスクリュとする。すなわちスクリュには段部フライトを形成する。段部フライトはフライトの頂部にステップ状の段部が形成されて上流側の大径部と下流側のランド部とが形成されたフライトとする。段部フライトにおいて大径部とランド部の段差は0.5mmより大きく0.8mm以下の大きさに選定する。
【発明の効果】
【0008】
本開示によると、射出材料の種類を替える色替え時において古い射出材料が完全に新しい射出材料に入れ替えられるまでに繰り返す無駄なショットの回数を少なくすることが可能な射出成形機用のスクリュを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本実施の形態に係る射出成形機を示す正面図である。
【
図2】本実施の形態に係る射出装置を示す正面断面図である。
【
図3】本実施の形態に係るスクリュの一部を示す正面図である。
【
図4】本実施の形態に係るスクリュに設けられている段部フライトを示す断面図である。
【
図5】本実施の形態に係るスクリュに設けられている段部フライトを示す断面図と、段部フライトと加熱シリンダのボアの間に流入する射出材料によって段部フライトの頂部に生じる潤滑圧力を示すグラフである。
【
図6】運動片と固定片の隙間を流れる粘性流体の挙動を模式的に示す図である。
【
図7】段部フライトに形成されている段差の大きさと、色替えにおいて射出材料を完全に入れ替えるために必要となるショット数の関係を示すグラフである。
【
図8】加熱シリンダ内でスクリュを回転させるとスクリュが振幅して回転軸が加熱シリンダの中心軸に対して偏心する。図は、段差の大きさが異なる段部フライトを備えた3本のスクリュと、コンベンショナルスクリュのそれぞれについて、色々なスクリュ位置におけるスクリュの振幅の度合いを示すグラフである。
【
図9】段部フライトにおいて、フライトの頂部の形状を変化させたときの負荷容量係数の変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、具体的な実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。ただし、以下の実施の形態に限定される訳ではない。説明を明確にするため、以下の記載及び図面は、適宜簡略化されている。各図面において、同一の要素には同一の符号が付されており、必要に応じて重複説明は省略されている。また、図面が煩雑にならないように、ハッチングが省略されている部分がある。
【0011】
<射出成形機>
本実施の形態に係る射出成形機1は、
図1に示されているように、ベッドBに設けられている型締装置2と、次に説明する本実施の形態に係る射出装置3とから概略構成されている。型締装置2は、固定盤7と、可動盤8と、型締ハウジング9と、型締ハウジング9と固定盤7とを連結しているタイバー10、10、…と、トグル機構からなる型締機構11とから構成され、金型13、14は固定盤7と可動盤8とに設けられている。型締機構11を駆動すると金型13、14が型締めされるようになっている。
【0012】
<射出装置>
本実施の形態に係る射出装置3は、型締装置2に対して進退自在に設けられており、型締装置2によって型締めされた金型13、14に射出材料を射出するようになっている。射出装置3は、
図2に示されているように、加熱シリンダ17と、本実施の形態に係るスクリュ18とから構成されている。加熱シリンダ17の後端部近傍にはホッパ19が、そして先端部には射出ノズル20が設けられている。ホッパ19内に射出材料を投入してスクリュ18を回転すると、射出材料は溶融されて前方に送られ、計量される。すなわち、射出装置3においてホッパ19側が上流側、射出ノズル20側が下流側になっている。
【0013】
<スクリュ>
本実施の形態に係るスクリュ18は、そのフライト21についてその一部の形状に特徴があり次に説明するが、全体としては次のようになっている。スクリュ18は、フライト21によって形成されている溝が、その深さがスクリュ18の各部において変化し、加熱シリンダ17内が区分されている。すなわち、スクリュ18の上流側は溝が深く形成されていて、射出材料が加熱されながら下流に送られる供給部23になっている。そして中流において溝深さが徐々に浅く変化して、射出材料が溶融されながら圧縮される圧縮部24になっており、下流において溝が浅く形成されて射出材料が計量される計量部25になっている。
【0014】
本実施の形態に係るスクリュ18は、その一部が拡大されて
図3に示されているが、フライト21の一部が段部フライト28になっている点に特徴がある。段部フライト28は、
図3のA―Aにおいて切断した断面が
図4に示されているが、その頂部29に特徴がある。すなわち段部フライト28は、頂部29がステップ状の段部に形成され、上流側の大径部31と、下流側のランド部32とから構成されている。大径部31に対してランド部32が段差33だけ小径になっているので、加熱シリンダ17のボア35に対して、大径部31との隙間H
2よりランド部32との隙間H
1の方が大きい。このように形成されているので、段部フライト28は、溶融した射出材料が入り込んで頂部29に適切な潤滑圧力が発生して、加熱シリンダ17とスクリュ18との接触が防止される。
【0015】
なお、この実施の形態においては段部フライト28が圧縮部24と計量部25とに設けられている。スクリュ18が回転するときスクリュ18が振幅してその回転軸が加熱シリンダ17の軸芯から偏心することがあり、この振幅の度合いは圧縮部24において比較的大きく、計量部25はそれについで大きいからである。従って、段部フライト28はこれらの区間に設けられているが、振幅の度合いが大きい圧縮部24にのみ段部フライト28を設けるようにしても加熱シリンダ17とスクリュ18との接触が防止できる効果は得られる。
【0016】
本実施の形態に係るスクリュ18は、段部フライト28の段部の段差33の大きさdの寸法に特徴があり、次のように選定されている。
0.5mm < d ≦ 0.8mm
このように選定されているので、段部フライト28の頂部29に侵入している射出材料が色替え時に速やかに排出されて新しい射出材料に置き換えられることになる。段差33の大きさdは、段部フライト28による潤滑圧力の効果を得られて、色替えにおける無駄なショットを少なくするよう寸法が選定されているが、上のように選定した理由を説明する。
【0017】
<潤滑圧力が発生するメカニズムと潤滑の負荷容量W>
まず、段差フライト28において潤滑圧力が発生するメカニズムを説明し、段差フライト28の頂部29と加熱シリンダ17のボアとの接触を防止する反発力つまり潤滑の負荷容量Wを数式によって示す。
【0018】
スクリュ18が加熱シリンダ17内で回転するとき、段差フライト28は加熱シリンダ17のボアに対して所定の速度で駆動され、この速度は段差フライト28と平行な成分と、垂直な成分とに分けることができる。段差フライト28と垂直な成分について考えると、段差フライト28は
図5に示されているように、加熱シリンダ17に対して速度U’で左方向に動いているように見える。段差フライト28が固定されていると見なすと、加熱シリンダ17は右方向に速度Uで動いていると考えることができる。速度Uは速度U’と大きさが等しく向きが反対の速度である。
【0019】
溶融した射出材料は隙間H
1に進入して隙間H
2から排出される。このとき潤滑圧力を発生させる。隙間H
1、H
2における射出材料の速度vの分布が
図5に模式的に示されている。潤滑圧力pは大径部31とランド部32との境界、つまり段部近傍で最大値P
sになり、段部フライト28の両端面において実質的に零になる。そして大径部31、およびランド部32のそれぞれにおいて潤滑圧力pは直線状に変化する。なお、潤滑圧力pが直線状に変化するのは、粘度の高い溶融樹脂の流れは層流になり、層流は流れる距離に比例して圧力が損失するからである。
【0020】
ここで、相対的に運動する2平面の間の粘性流体の一般的な挙動を考える。
図6には固定片37と、この固定片37に対して相対的に速度Vでスライドする運動片38とが示されており、固定片37と運動片38の間にはニュートン流体が充填されている。流体の微小要素39に働く力の釣り合いを考えると、x軸方向の力の釣り合いから1式が得られる。ここでpは圧力、τは剪断力である。
【0021】
剪断力τは、流体の粘度をμ、x方向の流速をvとすると2式で与えられる。
1式と2式とから3式が得られる。
3式は、いわゆるナビエ・ストークスの式から得ることもでき、非圧縮流体の定常流れを表す式になっている。
【0022】
固定片37と運動片38のy方向の隙間をhとすると、y=hにおいて流体の速度v=0である。またy=0において流体の速度v=Vである。これらを境界条件として3式を解くと、流速vと圧力分布の関係式である4式が得られる。
紙面に垂直な単位幅を考えると、隙間hを流れる流体の流量Qは4式を積分した5式で与えられることになる。
【0023】
本実施の形態において段部フライト28の頂部28の段差33の大きさdの寸法は、この5式に基づく考察、および実験によってその範囲を選定したが、これについては後で説明する。
【0024】
さて、5式によって、
図5に示されているモデルにおける、隙間H
1、隙間H
2を流れる溶融樹脂の流量Qxを計算する。流量Qxは隙間H
1、隙間H
2において等しい。ここで、段部フライト28のフライト幅をB
1とし、ランド部32の幅をB
2とすると、圧力勾配dp/dxは、隙間H
1においてはPs/B
2で与えられ、隙間H
2においては(0-P
s)/(B
1-B
2)で与えられる。そうすると、流量Q
xは6式で与えられる。
【0025】
この6式を潤滑圧力の最大値Psについて解くと7式が得られる。
【0026】
段部フライト28における単位長さ当たりの潤滑の負荷容量Wは、潤滑圧力pについて段部フライト28の幅方向に積分すると得られる。ところで、
図5に示されているように、潤滑圧力pは、底辺の長さがB
1で高さがPsの三角形のように変化している。そうすると負荷容量Wは、この面積として与えられることになる。このようにして計算した負荷容量Wを8式に示す。
なお、Kwは負荷容量係数、mは隙間比つまり隙間H
1、H
2の比、βは形状因子つまりフライト幅B1とランド部32の幅B2の比である。
【0027】
段差フライト28は、8式で示されている潤滑の負荷容量Wによって、頂部29と加熱シリンダ17のボアとの間に反発力が発生して、接触が防止されることになる。
【0028】
潤滑の負荷容量Wは、負荷容量係数Kwに比例し、負荷容量係数Kwは隙間H
1、H
2の比である隙間比mと、フライト幅B
1とランド部32の幅B
2の比である形状因子βによって変化する。そこで、8式で与えられている負荷容量係数Kwについて、色々な隙間比mに対して、形状因子βを変化させたときの変化の様子を
図9のグラフに示す。負荷容量係数Kwが大きくなるようにするには、
0.6 ≦ 形状因子β ≦ 0.9
とすることが好ましい。
【0029】
<段差フライト28の段差33の大きさdの範囲を選定した手順と、選定した理由>
色替えを実施するとき、スクリュ18のフライト21間の溝に滞留している古い射出材料は比較的速やかに新しい射出材料に入れ替えられる。新しい射出材料によって押し出されるからである。一方、段部フライト28の頂部29と加熱シリンダ17との隙間H1、H2には射出材料が滞留しやすい。そうするとこれら隙間H1、H2における古い射出材料が新しい射出材料に完全に入れ替えられないと色替えは完了しない。本発明者等は、この隙間H1、H2における射出材料の入れ替えの速さが色替えにおいて必要なショット数に影響すると考え、これを検討することにした。ところで、仮に隙間H1、H2の寸法を小さく選定すると、これらの部分に充填されている射出材料の容量は小さくなる。容量が小さい方が射出材料の入れ替えには有利に働く。入れ替えるべき容量が小さいからである。一方、隙間H1、H2の寸法が小さいと射出材料がこれらの部分を流れる流速vは小さくなる。流速vが小さいと射出材料の入れ替えに不利に働く。つまり背反する効果があるので、単純に隙間H1、H2を決定できない。
【0030】
そこで本発明者等は、まず検討すべき対象として隙間H2を除外して隙間H1のみとした。隙間H2を検討すべき対象から除外した理由は、隙間H2の寸法は概ね適切な範囲が決まっていて変更できないからである。その上で5式に着目した。
【0031】
5式に基づいてランド部32の隙間H
1を流れる射出材料の流量Q
1を考えると9式が得られる。
隙間H
1を流れる流量Q
1は2項の式からなる。まず、第1項を検討すると、この項による流量は隙間H
1に比例することがわかる。つまり隙間H
1の寸法に比例して流量が大きくなり射出材料の入れ替えが早まることを示している。しかしながらランド部32に存在している射出材料の容量も隙間H
1の寸法に比例して大きくなる。そうすると、この第1項に関して隙間H
1の寸法の違いは射出材料の入れ替えに影響しない。
【0032】
次に第2項を検討すると、この項による流量は隙間H1の寸法の3乗に比例している。ランド部32の射出材料の容量は隙間H1の寸法に比例するので、第2項による射出材料の入れ替えの効果は、隙間H1の寸法の2乗に比例することになる。なお、第2項の符号は負であるが圧力勾配が負であるので結果的に、第2項による射出材料の入れ替えの効果はこのような結論になる。つまり隙間H1の寸法が大きくなるほど射出材料の入れ替えの効果が高く、色替えにおける無駄なショット数が小さくなる。
【0033】
そこで発明者等は次の第1、2の実験を実施して、段差フライト28の段差33の大きさdの寸法の範囲を選定することにした。第1の実験は9式の第2項によって推定した効果、つまり隙間H1の寸法が大きくなると色替えにおけるショット数が減少することを確認することを目的とする。そして第2の実験は、隙間H1の寸法によって潤滑圧力は変化するが、スクリュ18を加熱シリンダ17内で回転させたときに接触を確実に防止できる条件を調べることを目的とする。
【0034】
<第1の実験>
実験の目的:
段差フライト28の隙間H1に影響する、段差33の大きさdの寸法が大きいほど色替えに必要なショット数が減少することを確認する。そして好ましいショット数にするために必要となる段差33の大きさdの寸法の範囲を検討する。
【0035】
実験の準備:
実験用スクリュとして、段部フライト28における段差33の大きさdが0.2mmのスクリュS1と、段差33が0.8mmのスクリュS3とを用意した。
図1に示されている本実施の形態に係る射出成形機1を使用して、それぞれのスクリュS1、S3によって次のような手順で色替えの実験を行った。
【0036】
実験の手順:
1)白に着色された樹脂を使用して成形品を得る成形サイクルを実施する。
2)透明な樹脂に色替えする。
3)成形サイクルを繰り返し、完全に透明な成形品が得られるまでの成形サイクル数、つまりショット数を調べる。
【0037】
実験の結果:
色替えに要したショット数はスクリュS1が11ショット、スクリュS3が9ショットであった。これらの結果から
図7のグラフが得られた。
考察:
色替えに要するショット数は10回以内が好ましい。そうするとこのグラフから段部フライト28の段差33の大きさdは、0.5mmより大きくする必要があることがわかる。
【0038】
<第2の実験>
実験の目的:
段差フライト28の隙間H1に影響する、段差33の大きさdの寸法が大きいほど、潤滑圧力は小さくなる。このことは8式において隙間H1が大きくなって隙間比mが大きくなるほど負荷容量係数Kwが小さくなり、潤滑の負荷容量Wが小さくなることから推測できる。そこで段差33の大きさdの寸法について、必要な潤滑圧力に影響を与えない範囲を調べるために実験を行った。
【0039】
実験の準備:
実験用スクリュとして、段部フライト28における段差33の大きさdが0.2mmのスクリュS1と、段差33の大きさdが0.5mmのスクリュS2と、段部33の大きさdが0.8mmのスクリュS3を用意した。さらに比較用スクリュとしてフライトの頂部が平らなコンベンショナルスクリュS4を用意した。
図2に示されている本実施の形態に係る射出装置3において、加熱シリンダ17の複数箇所G7、G8、…、G12にスクリュとの距離を検出するセンサを埋め込んだ。箇所G7~G9は圧縮部24に、箇所G10~G12は計量部25に該当している。
【0040】
実験の手順および結果:
加熱シリンダ17において、スクリュS1、S2、S3、SSを順次設け、回転させて射出材料を計量した。このときに各箇所G7、G8、…、G12において検出されたスクリュとの距離から、各箇所におけるスクリュ振幅比を得た。結果を
図8のグラフに示す。符号41、42、43は、それぞれスクリュS1、S2、S3のグラフ、すなわち段差33の大きさdが0.2mm、0.5mm、0.8mmのグラフである。そして符号44がスクリュS4のグラフ、すなわちコンベンショナルスクリュのグラフである。なおスクリュ振幅比は、スクリュ18の中心軸が加熱シリンダ17の中心軸と一致するとき0.0に、そしてスクリュ18と加熱シリンダ17のボアとが接触するとき1.0になる。
【0041】
考察:
段差33の大きさdが0.8mm以内であれば、コンベンショナルスクリュに比してスクリュ振幅比は十分に小さくなっており、必要な潤滑圧力が得られることが確認できた。しかしながら、段差33の大きさdの寸法が0.8mmのとき、箇所G7~G9についてスクリュ振幅比が大きくなっており、これ以上の寸法にすると十分な潤滑圧力が得られないと予想される。この実験の結果から、段差33の大きさdの寸法は0.8mm以下とすべきことが確認できた。
【0042】
<段差フライト28の段差33の大きさdの範囲の選定>
第1、2の実験の結果から、段差フライト28の段差33の大きさdの寸法は、前記した通り、0.5mmより大きく、0.8mm以下とする。
【0043】
以上、本発明者によってなされた発明を実施の形態に基づき具体的に説明したが、本発明は既に述べた実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の変更が可能であることはいうまでもない。以上で説明した複数の例は、適宜組み合わせて実施されることもできる。
【符号の説明】
【0044】
1 射出成形機 2 型締装置
3 射出装置 13 金型
14 金型 17 加熱シリンダ
18 スクリュ 21 フライト
23 供給部 24 圧縮部
25 計量部 28 段部フライト
29 頂部 31 大径部
32 ランド部 33 段差