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特許7458290磁気ディスク装置、及び磁気ディスク装置の電圧印加方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-21
(45)【発行日】2024-03-29
(54)【発明の名称】磁気ディスク装置、及び磁気ディスク装置の電圧印加方法
(51)【国際特許分類】
   G11B 21/21 20060101AFI20240322BHJP
   G11B 5/09 20060101ALI20240322BHJP
【FI】
G11B21/21 E
G11B5/09 301C
G11B21/21 D
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020172586
(22)【出願日】2020-10-13
(65)【公開番号】P2022064074
(43)【公開日】2022-04-25
【審査請求日】2023-01-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】317011920
【氏名又は名称】東芝デバイス&ストレージ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001737
【氏名又は名称】弁理士法人スズエ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山根 正巳
【審査官】中野 和彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-066488(JP,A)
【文献】特開2008-210499(JP,A)
【文献】特開2018-170064(JP,A)
【文献】特開2008-112515(JP,A)
【文献】特開2014-026715(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G11B 21/21
G11B 5/09
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁気ディスクと、
前記磁気ディスクに対してデータをリード/ライトする磁気ヘッドと、
前記ライト時に、前記磁気ディスクと、前記磁気ヘッドとの距離を印加される電圧に基づいて調整するヒータと、
前記磁気ディスクの第1位置から第2位置に前記磁気ヘッドをシーク動作させる制御部と、
を備え、
前記制御部は、前記磁気ヘッドを前記第1位置から前記第2位置へ前記シーク動作させる場合、前記シーク動作中に前記ヒータへ第1電圧の印加を開始し、当該第1電圧を印加した後、前記磁気ヘッドが前記第2位置に位置して前記磁気ヘッドによりデータのライトを開始する前に前記ヒータに印加する電圧を前記第1電圧より大きい第2電圧にする、
磁気ディスク装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記第2電圧は、前記ヒータに印加する電圧値の最大電圧値である、
請求項1に記載の磁気ディスク装置。
【請求項3】
前記第1電圧は、ゼロである、
請求項1に記載の磁気ディスク装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記第1電圧の印加を開始したときから前記最大電圧値になるまで前記ヒータに印加する電圧を曲線的に増加させる、
請求項2に記載の磁気ディスク装置。
【請求項5】
前記制御部は、前記第1電圧の印加を開始したときから前記最大電圧値になるまで前記ヒータに印加する電圧をステップ的に増加させる、
請求項2に記載の磁気ディスク装置。
【請求項6】
前記制御部は、前記第1電圧を印加した後、前記ヒータに印加する電圧の大きさを前記磁気ヘッドシーク速度に応じて変化させる、
請求項1に記載の磁気ディスク装置。
【請求項7】
前記磁気ヘッドが前記磁気ディスクにデータをライトする場合、前記データのライトをレーザ光によりアシストする熱アシスト部を備え、
前記熱アシスト部は、光源に印加される電圧に基づいて前記レーザ光を照射し、
前記制御部は、前記第1電圧の印加を開始したときから前記最大電圧値になるまでの電圧の大きさを、前記ヒータに印加する電圧の大きさと、前記レーザ光の強さとの合計値に基づいて制御する、
請求項2に記載の磁気ディスク装置。
【請求項8】
前記制御部は、前記ヒータへの第1電圧の印加を開始した後、前記光源への電圧の印加を開始する、
請求項7に記載の磁気ディスク装置。
【請求項9】
磁気ディスクと、
前記磁気ディスクに対してデータをリード/ライトする磁気ヘッドと、
前記ライト時に、前記磁気ディスクと、前記磁気ヘッドとの距離を印加される電圧に基づいて調整するヒータと、
前記磁気ディスクの第1位置から第2位置に前記磁気ヘッドをシーク動作させる制御部と、
を備える磁気ディスク装置の電圧印加方法であって、
前記制御部は、
前記磁気ヘッドを前記第1位置から前記第2位置へシーク動作させる場合、前記シーク動作中に前記ヒータへ第1電圧の印加を開始し、
当該第1電圧の印加をした後、前記磁気ヘッドが前記第2位置に位置して前記磁気ヘッドによりデータのライトを開始する前に前記ヒータに印加する電圧を前記第1電圧より大きい第2電圧にする、
磁気ディスク装置の電圧印加方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
実施形態は、磁気ディスク装置、及び磁気ディスク装置の電圧印加方法に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気ディスク装置において、ライトを開始する前にヒータに電圧を印加する技術が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2018―170064号公報
【文献】特開2009-123290号公報
【文献】米国特許出願公開第2007/230034号明細書
【文献】米国特許出願公開第2018/114542号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
既述のようにヒータに電圧を印加しても素子部を温める動作が不十分だと、ライト条件が悪くなるため、ライトしたセクタのうちの最初のセクタのビット・エラー・レイトが悪化し、ウィーク・ライト・エラーの要因となる。ここで、データのライト時にライト動作を安定させるために素子部を十分に温める時間をプレヒート時間と定義すると、プレヒート時間を長くすることにより磁気ディスク装置は安定したライトを行うことができ、ビット・エラー・レイトの悪化を防止することができる。一方、プレヒート時間を長くすることにより、磁気ディスク装置のライトパフォーマンスは悪化する。このように、両者はトレードオフの関係にあると言える。特に、磁気ヘッドのシーク動作が伴う場合、シーク時間がプレヒート時間に加算されるため、磁気ディスク装置のライトパフォーマンスの悪化が顕著になる。
【0005】
そこで、シーク動作中からプレヒートを開始することが考えられる。しかし、近年、プレヒート時間が長くなっており、これまでよりもシーク速度が速い状態から素子部を温める必要(ヒータ素子に電圧を印加する必要)が生じている。このようにシーク速度が速い状態からヒータ素子に電圧を印加すると、磁気ヘッドの磁気ディスクの記録面に対する隙間(浮上量)が変動する。例えば、磁気ディスク装置においては、データのライト中に、磁気ヘッドを一旦、磁気ディスクの記録面に接触させ、その後、所定量浮上させることにより、磁気ヘッドと、当該記録面との浮上量(隙間)を調整する制御が行われる。このような制御中に、シーク速度が速い状態でヒータに電圧が印加されると、磁気ヘッドの浮上量が要求される量より下がってしまい、磁気ディスクの記録面に磁気ヘッドが接触するリスクが生じる。
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、磁気ヘッドのシーク動作中に、ヒータ素子に電圧を印加しても当該磁気ヘッドの浮上量を抑制することができると共にライト開始時の条件を良化することができる磁気ディスク装置、及び磁気ディスク装置の電圧印加方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
一実施形態に係る、磁気ディスク装置は、磁気ディスクと、前記磁気ディスクに対してデータをリード/ライトする磁気ヘッドと、前記ライト時に、前記磁気ディスクと、前記磁気ヘッドとの距離を印加される電圧に基づいて調整するヒータと、前記磁気ディスクの第1位置から第2位置に前記磁気ヘッドをシーク動作させる制御部と、を備える。また、前記制御部は、前記磁気ヘッドを前記第1位置から前記第2位置へ前記シーク動作させる場合、前記シーク動作中に前記ヒータへ第1電圧の印加を開始し、当該第1電圧を印加した後、前記磁気ヘッドが前記第2位置に位置して前記磁気ヘッドによりデータのライトを開始する前に前記ヒータに印加する電圧を前記第1電圧より大きい第2電圧にする。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】第1実施形態に係る磁気ディスク装置を備えるシステムの構成の一例を示すブロック図。
図2】同実施形態に係るCPUよって実現される複数の機能ブロックの一例を示す図。
図3】同実施形態に係るライト処理時におけるシーク動作中に実行されるPH時間調整処理を説明するための図。
図4】同実施形態に係るDHFの突き出し応答性の一例を示す図。
図5】同実施形態に係るプレヒート時間と第1セクタのビット・エラー・レイト(BER)との関係の一例を示す図。
図6】同実施形態に係るシーク速度と、シーク動作中のスライダの浮上量との関係の一例を示す図。
図7】同実施形態に係るヒータパワーの設定方法を説明するための図。
図8】同実施形態に係る素子部の位置の浮上変動量の比較の一例を示す図。
図9】同実施形態に係る第1印加制御印加制御の一例を示す図。
図10】同実施形態に係る第2印加制御の一例を示す図。
図11】実施形態に係る第3印加制御の一例を示す図。
図12】同実施形態に係る第4印加制御の一例を示す図。
図13】同実施形態に係る第5印加制御の一例を示す図。
図14】同実施形態に係る第6印加制御の一例を示す図。
図15】第2実施形態に係る熱アシスト部の構成の一例を示す模式的な断面図。
図16】同実施形態に係る第7印加制御の一例を示す図。
図17】同実施形態に係る第8印加制御の一例を示す図。
図18】同実施形態に係る第9印加制御の一例を示す図。
図19】同実施形態に係る第10印加制御の一例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、実施の形態について図面を参照して説明する。なお、開示はあくまで一例にすぎず、以下の実施形態に記載した内容により発明が限定されるものではない。当業者が容易に想到し得る変形は、当然に開示の範囲に含まれる。説明をより明確にするため、図面において、各部分のサイズ、形状等を実際の実施態様に対して変更して模式的に表す場合もある。複数の図面において、対応する要素には同じ参照数字を付して、詳細な説明を省略する場合もある。
【0010】
(第1実施形態)
図1は、磁気ディスク装置10を備えるシステム150の構成の一例を示すブロック図である。磁気ディスク装置10は、ハードディスクドライブ(以下、HDD10とも称する)である。システム150は、ホスト100及びHDD10を備えている。ホストI/F120は、ホスト100とHDD10とを接続し、ホスト100とHDD10との間のコマンド、ユーザデータ、コマンド応答、又はステイタス報告、の送受信に利用される。ホストI/F120は、例えば、SATA(Serial Advanced Technology Attachment)規格やSAS(Serial Attached SCSI)規格に準拠する。HDD10は、ホストI/F120を介してホスト100と接続されて、ホスト100のデータ記憶部として機能する。例えば、システム150は、パーソナルコンピュータ、モバイル機器、又はサーバ装置である。例えば、ホスト100は、パーソナルコンピュータやモバイル装置に備えられるチップセットIC、又はサーバ装置に備えられるサーバコントローラである。
【0011】
HDD10は、磁気ディスク1、スライダ(磁気ヘッド)2、アーム3、ボイスコイルモータ(VCM)4、及びスピンドルモータ(SPM)5を含むヘッド・ディスクアセンブリ(Head-Disk Assembly:HDA)を有する。HDAは、HDD10の筐体(図示省略)の内部に収容される。スライダ2は、リードヘッドRH、ライトヘッドWH、及びヒータ素子HEを有する。また、HDD10は、モータドライバIC(以下、ドライバICとも称する)21、ヘッドアンプIC22、バッファメモリ23、不揮発性メモリ24、及びコントローラ60を含む回路ブロックを有する。コントローラ60は、リードライトチャネル(以下、RWCとも称する)61、CPU(制御部)62、及びハードディスクコントローラ(以下、HDCとも称する)63を備える。ヘッドアンプIC22は、少なくともヒータドライバHDを備える。
【0012】
HDD10は、磁気ディスク1にデータを記録する処理(ライト処理)、磁気ディスク1に記録されたデータを読み出す処理(リード処理)、及び磁気ディスク1に対するスライダ2の一部の浮上高さを制御する処理(浮上制御処理)、を少なくとも実行する。浮上制御処理は、DFH(Dynamic Fly Height)制御とも称されることがあり、これ以降の説明では、浮上制御処理をDFH制御とも称する。ここで、浮上高さは、例えば、磁気ディスク1の表面からのスライダ2のヘッド部の浮上量に対応する。DFH制御では、スライダ2に設けられたヒータ素子HEに電圧(又は電流)を印加することで、スライダ2の一部(ヒータ素子HE及びヘッド部の周辺部)が加熱されて熱膨張により変形して磁気ディスク1に向かって突き出される。なおこれ以降では、ヒータ素子HEに供給する電流又は電圧を、ヒータ素子HEに印加する電圧として説明する。
【0013】
スライダ2の一部が突き出す量は、ヒータ素子HEに印加される電圧に対応する情報によって制御することができる。ヒータ素子HEに印加する電圧の変化に対するスライダ2の一部が突き出す量の変化は、即時ではなくある時定数に応じて遅れて応答する。このため、本実施形態では、DFH制御のターゲット位置をヘッド部が通過するタイミングよりも前のタイミングでヒータ素子HEを加熱するプレヒート処理が実行される。DFH制御においてプレヒート処理を実行することにより、リード処理又はライト処理のターゲット位置をヘッド部が通過するタイミングで、スライダ2の既述の一部の適切な浮上量を得ることが可能となる。なお、これ以降の説明では、特に説明がない限り、浮上制御処理(DFH制御)はプレヒート処理を含む処理として説明する。
【0014】
ライト処理、リード処理、浮上制御処理、及び後述するプレヒート処理は、ホスト100から送信されるコマンドに応じて、又は、HDD10内部での自発的な要求に応じて実行される。これらの処理は、CPU62で実行されるプログラム(ファームウェア)に従って制御される。プログラムのデータは、不揮発性メモリ24や磁気ディスク1に不揮発に記憶される。
【0015】
磁気ディスク1は、SPM5により回転する。SPM5は、ドライバIC21からの駆動電圧又は駆動電流により回転制御される。アーム3とVCM4はアクチュエータを構成する。スライダ2は、アーム3の一端に装着される。アクチュエータは、スライダ2を磁気ディスク1上の目標位置に移動させる。即ち、アクチュエータは、VCM4の駆動により、アーム3に装着されているスライダ2をディスク1上の径方向に移動させる。VCM4は、ドライバIC21からの駆動電圧又は駆動電流により制御される。
【0016】
磁気ディスク1は記録面を有し、記録面にデータが記録されることでトラック(データトラック)が形成される。すなわち、磁気ディスク1は、データを記録するための記録面を備えた記録媒体として構成される。磁気ディスク1の記録面は、記録面上のスライダ2の位置を制御するためのサーボデータが記録されたサーボ領域、ホスト100から送信されるユーザデータを記録するためのユーザデータ領域、及びユーザデータ領域に記録されたユーザデータを管理するシステムデータを記録するためのシステム領域、を少なくとも有する。磁気ディスク1の記録面に、ユーザデータ領域に記録されるべきユーザデータを一時的に記録するキャッシュ領域を有してもよい。
【0017】
サーボデータは、HDD10の製造工程で記録されてHDD10の出荷後には記録されないデータである。システムデータは、HDD10で実行されるライト処理及びリード処理において管理すべきデータを含む。なおシステムデータは、磁気ディスク1のシステム領域でなく不揮発性メモリ24に記録されてもよい。ユーザデータは、ホスト100から送信されてこれから記録されるデータだけでなく、既にユーザデータ領域またはキャッシュ領域に記録されたデータ、及びユーザデータ領域またはキャッシュ領域から読み出されたデータを含む。
【0018】
スライダ2は、リードヘッドRH及びライトヘッドWHを含むヘッド部と共に、ヒータ素子HEを少なくとも備える。リードヘッドRHは、磁気ディスク1上のトラックに記録されているデータを読み出す。読み出されるデータは、サーボデータ、ユーザデータ、及びシステムデータを含む。ライトヘッドWHは、磁気ディスク1上にユーザデータ及びシステムデータを書き込む。ヒータ素子HEは、印加される電圧に応じて発熱してスライダ2の一部を加熱する。加熱されたスライダ2の一部は熱膨張して磁気ディスク1に向かって突き出される。ヒータ素子HEは、本実施形態では、リードヘッドRHとライトヘッドWHとの間に1つ、又はリードヘッドRHの近傍とライトヘッドWHの近傍とにそれぞれ1つずつ、設けられる。ヒータ素子HEは、電気回路素子としての抵抗又はコイルで形成される。図1では、単一の磁気ディスク1及びスライダ2が図示されているが、HDD10は複数の磁気ディスク1、及び複数の各磁気ディスク1の各記録面に対応した複数のスライダ2が設けられてもよい。
【0019】
ヘッドアンプIC22は、リードアンプ、ライトドライバ(共に図示省略)、及びヒータドライバHDを有する。リードアンプは、リードヘッドRHにより読み出されたリード信号を増幅してRWC61に出力する。ライトドライバは、RWC61から供給されるライトデータに応じたライト電流をライトヘッドWHに出力する。ヒータドライバHDは、CPU62又はHDC63から供給されるヒータデータに応じたヒータ電圧(又はヒータ電流)をヒータ素子HEに印加する。ヒータデータは、ヒータ電圧(又はヒータ電流)に対応する値を示すデータである。
【0020】
コントローラ60は、少なくとも、RWC61、CPU62、及びHDC63を一体に備えた1チップの集積回路として構成されている。コントローラ60は、SoC、FPGA、ASIC、LSIなどの半導体回路として構成される。バッファメモリ23は、磁気ディスク1よりも高速なデータ転送が可能な揮発性メモリであり、DRAM(SDRAM)またはSRAMが適用される。不揮発性メモリ24は、不揮発性の記録部であり、NOR型やNAND型のフラッシュメモリといった半導体メモリが適用される。バッファメモリ23及び不揮発性メモリ24は、コントローラ60の外部に接続されず、コントローラ60の内部に備えられてもよい。不揮発性メモリ24は、磁気ディスク1の記録領域の一部が適用されてもよい。
【0021】
RWC61は、リードチャネル及びライトチャネル(共に図示省略)を含む。リードチャネルは、ヘッドアンプIC22から供給された増幅されたリード信号を処理して、サーボデータ及びユーザデータを含むデータを復号する。RWC61は、リードチャネルにおいて、ユーザデータのエラーの検出及び訂正に関する処理を実行すると共に、リードしたユーザデータを評価するための情報を生成する。この情報は、CPU62からの要求に応じて、CPU62に送信され得る。リードチャネルは、ビタビ復号回路及びLDPC復号回路を含む。ライトチャネルは、HDC63から供給されたライトすべきデータを符号化したライトデータを、ヘッドアンプIC22に出力する。
【0022】
HDC63は、バッファメモリ23及び不揮発性メモリ24と接続され、これらとの間で転送されるデータの送受を制御する。HDC63とバッファメモリ23との間で転送されるデータは、ホスト100との間で転送されるリードデータ及びライトデータ、及び、浮上制御処理に関するデータ、を含む。リードデータは磁気ディスク1から読み出されたユーザデータであり、ライトデータは磁気ディスク1に書き込まれるユーザデータである。浮上制御処理に関するデータは、ヒータ素子HEに印加する電圧を設定するためのヒータデータ及びヒータ感度データを含む。ヒータデータは、ヒータ素子HEに対する、電流、電圧、電力、又は発熱量に対応する値で示される。ヒータ感度データは、ヒータ素子HEに印加される電圧の変化量に対する、ヒータ素子HEの発熱量、又はヒータ素子HEの周辺部の熱膨張に応じたスライダ2の突き出し量又浮上量の変化量に対応するデータである。HDC63と不揮発性メモリ24との間で転送されるデータは、CPU62が実行するプログラム、システムデータ、及び、浮上制御処理に関するデータ、を含む。またHDC63は、RWC61と接続され、RWC61から入力されたデータ、又はRWC61に出力されるデータに対する処理を実行する。例えばHDC63は、CPU62による制御に従って、PH時間調整処理で利用されてRWC61から入力されたデータを、CPU62に提供する。
【0023】
さらに、HDC63は、ホスト100と接続され、ホスト100から送信されるコマンド及びユーザデータ、又はホスト100に出力するコマンド応答、ステイタス報告、及びユーザデータに対する処理を実行する。ユーザデータに対する処理は、ライト処理におけるライトゲートに関する処理、リード処理におけるリードゲートに関する処理、サーボ制御で必要なサーボゲートに関する処理、を含む。HDC63は、ホスト100から入力されるコマンドに応じた浮上制御処理の実行要求を、CPU62に通知する。HDC63は、バッファメモリ23、不揮発性メモリ24、RWC61、及びホスト100それぞれとの間でデータの送受を制御するためのインターフェース回路を含んで構成される。HDC63は、ヒータドライバHDにヒータデータを出力し得る。この場合、HDC63は、CPU62からの指示に基づいてヒータデータを生成し、生成したヒータデータを出力してもよいし、CPU62からヒータデータを供給され、供給されたヒータデータを出力してもよい。
【0024】
CPU62は、マイクロプロセッサまたはマイクロコントローラとも称されるICである。CPU62は、ドライバIC21を介してVCM4を制御してヘッド部(リードヘッドRH及びライトヘッドWH)の位置決め制御(サーボ制御)を実行する。サーボ制御は、スライダ2を磁気ディスク1の半径方向の何れかの位置に位置づける制御と、スライダ2を磁気ディスク1上で現在位置から目標位置に向かって移動する制御と、を少なくとも含む。また、CPU62は、少なくともRWC61を介して、磁気ディスク1に対するライト処理及びリード処理を制御する。CPU62は、ライト処理及びリード処理と並列的に、浮上制御処理を制御する。なおサーボ処理は、ライト処理及びリード処理の一部の処理として実行され得る。CPU62は、浮上制御処理において、ヒータドライバHDにヒータデータを出力する。CPU62は、これら複数の処理の制御において、プログラムに従って、以上で説明したHDA及び回路ブロックを利用する。CPU62は、複数の処理を制御する制御部又は制御回路として構成される。
【0025】
以上で説明した構成により、本実施形態にかかるHDD10は、以下に詳細に説明する複数の処理を実行することができる。
【0026】
次に、図2を用いて、CPU62の動作を説明する。図2は、CPU62によって実現される複数の機能ブロックの一例を示す図である。
【0027】
CPU62は、プログラムに従って動作することで複数の機能部を実現する。CPU62は、浮上制御部301、プレヒート調整部(以下、PH調整部とも称する)302、ライト制御部303、及びリード制御部304、を備える。これらの機能部は、少なくともRWC61及びHDC63を制御する。またCPU62に備えられた各機能部は、HDD10に備えられるHDAや回路ブロックと協働して、様々な処理を実行する。CPU62の各機能部は、互いに、情報を共有すること、及び処理タイミングの同期を取ること、が可能に構成されている。また、CPU62の各機能部は、並列的に処理を実行することが可能に構成されている。
【0028】
浮上制御部301は、HDC63から入力された実行要求に応じて、浮上制御処理を制御する。ここで、浮上制御処理はプレヒート処理を含む。浮上制御部301は、ライト制御部303によるライト処理又はリード制御部304によるリード処理と並列的に浮上制御処理を制御する。浮上制御部301は、浮上制御処理の制御において必要なデータをHDC63から受領し、浮上制御処理の制御において記憶しておくべきデータをHDC63に出力する。また浮上制御部301は、浮上制御処理の制御において必要なデータを、ライト制御部303又はリード制御部304と共有する。例えば浮上制御部301は、あるトラックに対するライト処理又はライト処理の実行要求に応じて、このトラックでの浮上量を設定するためのデータ、及び浮上制御処理の開始タイミングに関するデータをHDC63から受領する。浮上量を設定するためのデータ、及び浮上制御処理の開始タイミングに関するデータは、浮上制御処理を実行している間に補正(更新)が必要となることがある。これに応じて浮上制御部301は、補正(更新)されたデータをHDC63に出力する。浮上量を設定するためのデータは、ヒータデータ及びヒータ感度データを少なくとも含む。浮上制御処理の開始タイミングに関するデータは、時間に対応するデータである。また例えば浮上制御部301は、ライト処理又はライト処理の対象トラックを特定するためのデータを、ライト制御部303又はリード制御部304と共有する。
【0029】
PH調整部302は、浮上制御部301が制御する浮上制御処理において用いられるプレヒート時間を調整する。PH調整部302は、HDC63から入力された実行要求に応じて、プレヒート時間を調整する。プレヒート時間は、浮上制御処理のターゲット位置(例えば、ヘッド、トラック、及びセクタで特定される位置)をヘッド部が通過するタイミングよりも前にヒータ素子HEに電圧を印加する(ヒータONする)時間及び電圧の大きさに関するデータである。PH調整部302は、ライト処理のためのプレヒート時間(以下、WPH時間とも称する)、及びリード処理のためのプレヒート時間(以下、RPH時間とも称する)を調整する。PH調整部302は、少なくともWPH時間及びヒータ素子HEに印加する電圧の大きさを調整すればよい。PH調整部302は、浮上制御処理、ライト処理、又はリード処理と並列的にプレヒート時間を調整する。これ以降の説明では、PH調整部302により制御されるプレヒート時間を調整する処理を、プレヒート時間調整処理(PH時間調整処理)とも称する。また、ヒータ素子HEに印加する電圧の大きさに関する制御を印加制御と称する。PH調整部302は、浮上制御部301と同様に、PH時間調整処理に関するデータをHDC63と送受する。例えばPH調整部302は、PH時間調整処理の開始前に、処理の対象トラックでの浮上制御処理に必要なデータをHDC63から受領する。またPH調整部302は、PH時間調整処理において、HDC63から、ディスク1から読み出されたデータの品質に関するデータを受領する。また例えばPH調整部302は、PH時間調整処理の対象トラックを特定するためのデータを、ライト制御部303又はリード制御部304と共有する。
【0030】
ライト制御部303は、磁気ディスク1に対するデータのライト処理を制御する。ライト制御部303は、HDC63から入力された実行要求に応じて、ライト処理を制御する。ライト制御部303は、浮上制御部301による浮上制御処理、及びPH調整部302によるPH時間調整処理と並列的にライト処理を制御する。ライト制御部303は、瓦記録方式によるライト処理、又は瓦記録方式ではない通常のライト処理を制御する。瓦記録方式によるライト処理とは、記録されたデータの一部に重なるようにして(記録されたデータの一部が上書きされるようにして)、新たなデータが記録される方式である。通常のライト処理とは、記録されたデータに重ならないようにして(記録されたデータの一部が上書きされないようにして)、新たなデータが記録される方式である。なお、ライト処理の一部の処理としてサーボ処理が実行され得る。
【0031】
リード制御部304は、磁気ディスク1に対するデータのリード処理を制御する。リード制御部304は、HDC63から入力された実行要求に応じて、リード処理を制御する。リード制御部304は、浮上制御部301による浮上制御処理、及びPH調整部302によるPH時間調整処理と並列的にリード処理を制御する。リード制御部304は、リード処理に伴って、リードしたデータを評価するための情報である評価データを、HDC63から受領する。リード制御部304は、PH調整部302からの要求に応じて、受領した評価データをPH調整部302に出力する。なお、リード処理の一部の処理としてサーボ処理が実行され得る。
【0032】
以上説明したように、本実施形態にかかる複数の処理は、CPU62によって実現される複数の機能部によって制御される。
【0033】
次に、PH調整部が実行するPH時間調整処理の詳細について説明する。
図3は、ライト処理時におけるシーク動作中に実行されるPH時間調整処理を説明するための図である。
【0034】
図3に示すように、3つのパターンのPH時間調整処理を示している。パターンP1は、シーク動作が終了した後、プレヒートを開始し、プレヒートが終了した後、ライト処理を開始するPH時間調整処理を示している。パターンP2は、シーク動作の速度が遅くなるタイミングでプレヒートを開始し、プレヒートが終了した後、ライト処理を開始するPH時間調整処理を示している。パターンP3は、シーク動作の速度がまだ速いタイミングでプレヒートを開始し、プレヒートが終了した後、ライト処理を開始するPH時間調整処理を示している。
【0035】
このように3パターンのPH時間調整処理があるが、パターンP1によると、ライト開始時にライト条件を良くするまでの時間が長くなる。パターンP2によると、シーク速度が遅くなるあたりからプレヒートを開始しており、パターン1よりライト条件を良くするまでの時間が短くなっている。さらに、パターンP3によると、近年のプレヒート時間が長くなっていることに対応させてシーク速度が速いうちからプレヒート処理を開始しているが、この場合、既述のようにヒータ素子HEが磁気ディスク1の表面に接触する可能性が生じる。したがって、パターンP3を採用しつつ、ヒータ素子HEの磁気ディスク1の表面への接触を回避することが必要になる。本実施形態では、当該接触を回避するために、CPU62により、ヒータ素子HEへの電圧の印加制御(図9から図14を参照して後述する)を実行する。
【0036】
ここで、図4から図8を参照して、ヒータ素子HEへの電圧の印加制御を実行する理由について詳細に説明する。
図4は、DHF制御の突き出し応答性の一例を示す図である。図4において、横軸は電圧の印加時間(ms)を示しており、縦軸は、DFH制御の応答性(%)を示している。DHF制御の応答性は、ヒータ素子HEに電圧が印加されると短時間で80%程度まで急激に突き出され、その後、1.0ms程度で略100%の突き出し量となる特性を有している。このようにヒータ素子HEによる突き出しは時定数を持つため、十分突き出しが行われる前や熱が安定する前にライト処理を開始すると、スライダ2の磁気ディスク1に対する浮上量(素子部の隙間)が大きい状態でライト処理が実行され、ビット・エラー・レイト(BER)が悪化することがわかる。
【0037】
図5は、プレヒート時間と第1セクタのビット・エラー・レイト(BER)との関係の一例を示す図である。ここで、第1セクタとは、ライト開始後に最初にデータをライトするセクタである。図5において、横軸は、プレヒート時間を示しており、縦軸は第1セクタのBERを示している。時間T1,時間T2は必要プレヒート時間を示している。図示の太線に示すように、悪化が許容されるBERを許容dBERとすると、少なくとも時間T1以上にプレヒート時間が長くないと、ライトエラーとなるリスクが発生することがわかる。近年、磁気ディスク装置10においては、浮上変化の及ぼす影響などBERへの感度が高くなっており、図示の細線のようになってきている。このため、必要なプレヒート時間が時間T1から時間T2へと長くなってきている。つまり、既述のパターンP1の処理でプレヒート時間を延ばしてしまうと、ライト開始前にシーク時間+プレヒート時間となるため、ライト開始までの時間が累積的に長くなり、ライトのパフォーマンスが悪くなる。これを回避するため、既述の図3のパターンP2のように、シークの途中からプレヒート処理を行うと、シーク動作と、プレヒート時間とを重ねた分、ライト開始までの時間を短くすることが可能となる。しかし、パターンP3のように、近年、プレヒート時間が長くなっていることを考慮してシーク動作と、プレヒート時間とを重ねた分が多くなると、ライト開始までの時間が短くなる一方で、シーク速度が速いうちにプレヒートを開始することになる。これだと、シーク動作による生じる風量の影響により、スライダ2の浮上変動が生じてしまう。
【0038】
図6は、シーク速度と、シーク動作中のスライダ2の浮上量との関係の一例を示す図である。図6において、横軸は時間(ms)である。図6(a)の縦軸は、シーク速度を示しており、図6(b)の縦軸は、スライダ2の浮上量の変位(nm)を示している。なお、時間基準は、シーク後の位置決め完了時である。図6(a)のように、シーク動作完了前のシーク速度は、位置決め完了時より前になればなるほど大きくなる。浮上量変動はほぼシーク速度に比例するため、スライダ2の浮上変動は図6(b)のようになる。この浮上変動と、既述のヒータ素子HEの突き出し応答性の重なりにより、所定の隙間よりも素子部が低下してしまうリスクが発生する。
【0039】
図7は、ヒータパワーの設定方法を説明するための図である。図7において、横軸は、時間(ms)であり、縦軸はヒータパワー(%)である。
図7(a)は、既述のパターンP1に対応しており、図7(b)は、既述のパターンP3に対応している。それぞれ、シーク動作との重なり時間が0ms,-2.0msである。どちらの場合も、ヒータ素子HEへの印加電圧が100%、もしくは、0%となり、各時間0ms,-2.0msにヒータ素子HEに100%の電圧が印加されるようになっている。このヒータ素子HEへの印加制御だと、ライト処理までの時間が長くなるか(図7(a))、又は、スライダ2の素子部と磁気ディスク1が接触する可能性がある(図7(b))。これを回避するために、本実施形態では、パターンP3を採用しつつも後述の図9から図14を参照して説明するヒータ素子HEへの印加制御を実行する。
【0040】
図8は、スライダ2の素子部の位置の浮上変動量の比較の一例を示す図である。言い換えれば、図8は、素子部の所定隙間からの差分(空間)の変化を示している。シーク動作とプレヒート時間との重なり時間を0ms(パターンP1)、1ms、1.5ms、2msとした場合の空間(浮上量)の変化を示している。図8からは、重なり時間が1.5ms、2.0msのときは、素子部の浮上量が、所定の値よりも下がっている。この場合、素子部が磁気ディスク1に接触するリスクが発生することが示されている。このようなことから、シーク時間とプレヒート時間とを重ねることには限界があり、重なる時間が延びると、素子部の磁気ディスク1へ接触し、磁気ディスク装置10のライトパフォーマンスが悪化することになる。なお、後述の図9から図14を参照して説明するヒータ素子HEへの印加制御を実行することにより、図示の太線(本実施形態)に示すように、シーク動作とプレヒート時間との重なり時間が延びても、素子部の浮上量が、所定の値よりも下がることはなく、素子部の磁気ディスク1へ接触を回避できることが示されている。
【0041】
以下、図9から図14を参照して本実施形態のヒータ素子HEへの電圧の印加制御について説明する。図9から図14は、それぞれ、スライダ2が現在位置(第1位置)から目標位置(第2位置)まで移動するシーク動作中にヒータ素子HEに第1電圧の印加を開始し、当該第1電圧を印加した後、スライダ2が目標位置に位置してスライダ2によりデータをライトする前にヒータ素子HEに第1電圧より大きい第2電圧を印加する、第1から第6の印加制御に対応している。なお、図9から図14において、横軸は時間(ms)を示しており、時間ゼロ(0ms)は、既述のシーク後の位置決め完了時であり、詳細には、シーク動作の終了時間であり、かつ、ライトの開始時間である。縦軸はヒータ素子HEに印加する電圧の大きさ(以下、ヒータパワーとも称する)を示しており、ヒータパワーがマックスの状態を100%としている。この第1から第6の印加制御は、本実施形態では、CPU62がファームウェアを読み込んでヘッドアンプIC22に指示して実行することとするが、PH調整部302から指示されるプレヒート時間に基づいて、予め設定された電圧値に基づいてヘッドアンプIC22が実行するようにしてもよい。
【0042】
図9は、第1印加制御の一例を示す図である。第1印加制御は、ヒータ素子HEへの印加をシーク動作中から開始し、そのヒータパワーを最大電圧値(マックス)まで徐々に高くする印可制御である。
より詳細には、本実施形態では、図9示すように、時間ゼロより前2.0ms(以下、時間ゼロより前を、単に、「-」とも表記する。)において、ヒータパワーが90%の大きになるようにヒータ素子HEに電圧が印加される。そして、この状態から0msでヒータパワーがマックス(100%)になるように直線的にヒータパワーが徐々に大きくなる。このように、CPU62によりヒータ素子HEに電圧が印加される印加制御である。
【0043】
図10は、第2印加制御の一例を示す図である。第2印加制御は、ヒータ素子HEへの印加をシーク動作中から開始し、そのヒータパワーを最大電圧値(マックス)まで徐々に高くする印可制御であり、さらに、ヒータパワーの初期値を零にしている
より詳細には、本実施形態では、図10に示すように、-2.0msにおける初期値がヒータパワー0%であり、そのヒータパワーが0msで100%になるように直線的にヒータパワーが徐々に大きくなる。このように、CPU62によりヒータ素子HEに電圧が印加される印加制御である。
【0044】
図11は、第3印加制御の一例を示す図である。第3印加制御は、ヒータ素子HEへの印加をシーク動作中から開始し、そのヒータパワーをヒータによる突き出しの応答性を考慮し、最大電圧値(マックス)まで曲線的に増加させる印加制御である。
より詳細には、本実施形態では、図11に示すように、-2.0msにおいて、ヒータパワーが90%程度であり、この状態から0msでヒータパワーが100%になるように、図4を参照して既述した突き出しの応答性を考慮して曲線的にヒータパワーを徐々に大きくする。このように、CPU62によりヒータ素子HEに電圧が印加される印加制御である。
【0045】
図12は、第4印加制御の一例を示す図である。第4印加制御は、ヒータ素子HEへの印加をシーク動作中から開始し、シーク動作の完了前に最大電圧値(マックス)まで増加させる印加制御である。
より詳細には、本実施形態では、図12に示すように、-2.0msにおいて、ヒータパワーが90%程度であり、-0.5msには、ヒータパワーが100%になるように直線的にヒータパワーが徐々に大きくなる。このように、CPU62によりヒータ素子HEに電圧が印加される印加制御である。ここで、シーク速度は、シーク完了前にはかなり遅くなり、その速度を無視することが可能となる。このため、シーク速度に同期させ、シーク完了前にヒータパワーが100%となるように制御されている。
【0046】
図13は、第5印加制御の一例を示す図である。第5印加制御は、ヒータ素子HEへの印加をシーク動作中から開始し、最大突き出し量となるヒータパワー以下のヒータパワーでステップ的に電圧が最大電圧値(マックス)まで大きくなるようにする印加制御である。
より詳細には、本実施形態では、図13に示すように、-2.0msにおいて、ヒータパワーが90%程度であり、-0.5msにおいてヒータパワーが100%となる。このように、CPU62によりヒータ素子HEに電圧が印加される印加制御である。このように最大突き出し量となるヒータパワー以下のヒータパワーでステップ的にヒータパワーを制御するため、徐々にヒータパワーを大きくする制御と比較して、ヘッドアンプIC22の回路構成を簡易なものとすることができる。
【0047】
図14は、第6印加制御の一例を示す図である。第6印加制御は、ヒータ素子HEへの印加をシーク動作中から開始し、最大突き出し量となるヒータパワー以下のヒータパワーで段階的に最大電圧値(マックス)まで電圧が大きくなるようにする印加制御である。ここで、段階的とは、複数のステップを有することをいう。
より詳細には、本実施形態では、図14に示すように、-2.0msにおいて、ヒータパワーが90%程度であり、-1.5msに93%程度であり、-1.0msに96%程度であり、-0.5msに100%となる制御である。このように、CPU62によりヒータ素子HEに電圧が印加される印加制御である。こ最大突き出し量となるヒータパワー以下のヒータパワーで、段階的にヒータパワーを制御するため、徐々にヒータパワーを大きくする制御と比較して、ヘッドアンプIC22の回路構成を簡易なものとすることができ、さらに、既述の第5印加制御のステップ的にヒータパワーを大きくする場合と比較して、より精度の高い電圧の印加制御を行うことができる。
【0048】
このように既述の第1から第6の印加制御を実行することにより、磁気ディスク装置10は、時間ゼロ、つまり、シーク動作が終了し、ライト動作が完了するタイミング前のヒータパワーを抑制できるため、シーク動作中のシーク速度が速いうちにプレヒート処理を開始しても、スライダ2の浮上量の変動を抑制することができると共に、ライトの開始時にライト条件を良化することができる。
【0049】
(第2実施形態)
第2実施形態は、スライダ2にデータのライトをアシストする熱アシスト部を設けている点が既述の第1実施形態と異なっている。したがって、熱アシスト部を設けたことに起因する構成、及び制御について詳細に説明する。なお、上記第1実施形態と同一の構成については同一の符号を付し、これらについての詳細な説明は省略する。
【0050】
図15は、スライダ2に含まれる熱アシスト部の構成の一例を示す模式的な断面図である。
図15に示すように、スライダ2は、2つのヒータ素子HEと、リードヘッドRHと、ライトヘッドWHと、熱アシスト部200を含む。熱アシスト部200は、レーザ光を発光する光源210と、レーザ光の導光路220と、光素子(近接場光素子)230とを有している。このような構成の磁気ディスク装置10においては、ライトヘッドWHにより磁気ディスク1にデータをライトする場合、光源210からのレーザ光が導光路220を通過し、光素子230を介して磁気ディスク1に照射され、このレーザ光によりデータのライトがアシストされる。このため、スライダ2の素子部の浮上量制御を行う場合、ヒータ素子HEのヒータパワーに加えて、レーザ光による温めも考慮することが必要になる。この場合でも、ヒータパワーに加えてレーザ光の温め(以下、レーザパワーとも称する)を考慮することにより、シーク速度が速いうちにプレヒート処理を開始しても、スライダ2の浮上量の変動を抑制することができると共に、ライトの開始時にライト条件を良化することができる。
【0051】
ここで、ヒータパワーによる熱変形と、レーザパワーによる熱変形との時定数を考えた場合、レーザパワーによる熱変形の方が、応答性が早い。このため、必ずしもヒータ素子HEに電圧を印加するタイミングと、光源210に電圧を印加するタイミングとを一致させる必要はない。つまり、応答性を考慮すれば、ヒータ素子HEへ電圧を印加した後、所定時間経過してから光源210に電圧を印加するようにしてもよい。詳細は後述するが、以下の第7,第8印加制御は、この応答性を考慮した制御になっている。
【0052】
以下、図16から図19を参照して本実施形態の電圧の印加制御について説明する。図16から図19は、それぞれ、スライダ2が現在位置(第1位置)から目標位置(第2位置)まで移動するシーク動作中にヒータ素子HEに第1電圧の印加を開始し、当該第1電圧を印加した後、スライダ2が目標位置に位置してスライダ2によりデータをライトする前にヒータ素子HEに第1電圧より大きい第2電圧を印加すると共に、第2電圧まで電圧を大きくする場合、電圧の大きさをヒータ素子HEに印加する電圧の大きさと、レーザ光の強さとの合計値に基づいて制御する、第7から第10の印加制御に対応している。なお、図16から図19において、横軸は時間(ms)を示しており、時間ゼロはシーク動作の終了時間であり、かつ、ライトの開始時間である。また、縦軸はヒータパワーを示している。さらに、図示細線はヒータ素子HEのヒータパワー(DFH)であり、図示太線はDFHと、レーザパワーとの合計値のヒータパワーを示しており、合計値(100%)がライト条件を良くするために必要なヒータパワーである。
【0053】
図16は、第7印加制御の一例を示す図である。第7印加制御は、まず、ヒータ素子HEへの電圧の印加をシーク動作中に開始し、その後、時間ゼロより前にレーザ光の光源210に電圧を印加し、最大電圧値(マックス)まで電圧が大きくなるようにする印加制御である。
より詳細には、本実施形態では、図16に示すように、-2.0msにおいて、80%程度となるようにヒータ素子HEに電圧を印加し、ヒータ素子HEに印加する電圧はこの状態を継続する。そして、-0.5msにレーザ光源210に電圧を印加し、ヒータ素子HEのヒータパワーにレーザパワーを加算し、合計値が100%とする。このように、CPU62によりヒータ素子HE及び光源210に電圧が印加される印加制御である。こ第7から第10の印加制御のうち当該印加制御が最も簡易な制御である。
【0054】
図17は、第8印加制御の一例を示す図である。第8印加制御は、まず、ヒータ素子HEへの電圧の印加をシーク動作中に開始し、その後、時間ゼロより前にレーザの光源210に電圧を印加する印加制御であるのは、既述の図16の場合と同様である。異なるのは、ヒータ素子HEへの印加電圧を最大電圧値(マックス)まで徐々に大きくしている点である。
より詳細には、本実施形態では、図17に示すように、-2.0msにおいて、ヒータ素子HEのヒータパワーが60%を少し超える程度となるようにヒータ素子HEに電圧を印加し、-0.5msで70%程度となるようにヒータパワーを徐々に増加させる。また、-1.0msにおいて、光源210に電圧を印加し、レーザパワーを加算し、-0.5msにおいて、合計値が100%となるようにする。このように、CPU62によりヒータ素子HE及び光源210に電圧が印加される印加制御である。
【0055】
図18は、第9印加制御の一例を示す図である。第9印加制御は、ヒータ素子HEへの電圧の印加と、光源210への電圧の印加とを同時に行い、ヒータ素子HEに印加する電圧を段階的に最大電圧値(マックス)まで大きくし、時間ゼロより前で合計値を100%とする印加制御である。
より詳細には、本実施形態では、図18に示すように、-2.0msにおいて、90%程度となるようにヒータ素子HE、及び光源210に電圧を同時に印加し、ヒータ素子HEに印加する電圧を、-1.5ms、-1.0ms、-0.5msと段階的に引き上げ、これに伴い合計値を上げていき、-0.5msにおいて合計値を100%とする。このように、CPU62によりヒータ素子HE及び光源210に電圧が印加される印加制御である。
【0056】
図19は、第10印加制御の一例を示す図である。第10印加制御は、ヒータ素子HEへの電圧の印加と、光源210への電圧の印加とを同時に行い、ヒータ素子HEに印加する電圧を徐々に大きくし、時間ゼロより前で合計値を最大電圧値(マックス)まで100大きくする印加制御である。
より詳細には、本実施形態では、図19に示すように、-2.0msにおいて、90%程度となるようにヒータ素子HE、及び光源210に電圧を印加し、-0.5msで合計値が100%となるように、ヒータ素子HEに印加する電圧を最大電圧値(マックス)まで徐々に大きくする。このように、CPU62によりヒータ素子HE及び光源210に電圧が印加される印加制御である。
【0057】
以上のように熱アシスト部200を有する磁気ディスク装置10においても、既述の第7から第10の印加制御を実行することにより、第1実施形態と同様に、磁気ディスク装置が時間ゼロになる前のヒータパワーを抑制できるため、シーク動作中のシーク速度が速いうちにプレヒート処理を開始しても、スライダ2の浮上量の変動を抑制することができると共に、ライトの開始時にライト条件を良化することができる。
【0058】
なお、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0059】
1…磁気ディスク、2…スライダ、3…アーム、4…ボイスコイルモータ、10…磁気ディスク装置、22…ヘッドアンプIC、62…CPU、200…熱アシスト部、210…光源、HE…ヒータ素子、RH…リードヘッド、WH…ライトヘッド
図1
図2
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