(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-21
(45)【発行日】2024-03-29
(54)【発明の名称】荷電粒子線の入射装置及びその入射システムの作動方法
(51)【国際特許分類】
H05H 13/04 20060101AFI20240322BHJP
G21K 5/04 20060101ALI20240322BHJP
A61N 5/10 20060101ALI20240322BHJP
【FI】
H05H13/04 G
H05H13/04 S
H05H13/04 Q
G21K5/04 A
A61N5/10 H
(21)【出願番号】P 2020172727
(22)【出願日】2020-10-13
【審査請求日】2023-02-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001380
【氏名又は名称】弁理士法人東京国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宮岡 丈治
(72)【発明者】
【氏名】亀田 大輔
【審査官】右▲高▼ 孝幸
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-084886(JP,A)
【文献】特表2004-525486(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05H 13/04
G21K 5/04
A61N 5/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1核種イオンを発生させる第1イオン源と、
発生した前記第1核種イオンを線形加速させて第1荷電粒子線にする第1線形加速器と、
第2核種イオンを発生させる第2イオン源と、
発生した前記第2核種イオンを線形加速させて第2荷電粒子線にする第2線形加速器と、
前記第1荷電粒子線及び前記第2荷電粒子線のいずれか一方を主加速器のインフレクタに入射させる切替電磁石と、を備える荷電粒子線の入射装置
において、
発生した前記第1核種イオンを電磁力により曲げて前記第1線形加速器に入射させる第1選別電磁石と、
発生した前記第2核種イオンを電磁力により曲げて前記第2線形加速器に入射させる第2選別電磁石と、
第3核種イオンを発生させる第3イオン源と、
発生した前記第3核種イオンを電磁力により曲げて、さらに前記第1選別電磁石又は前記第2選別電磁石を直進通過させ、前記第1線形加速器又は前記第2線形加速器に入射させる第3選別電磁石と、を備える荷電粒子線の入射装置。
【請求項2】
請求項1に記載の荷電粒子線の入射装置において、
同一の粒子線軌道の上に配置されている複数の前記選別電磁石の励磁状態に基づいてインターロック信号が発動される荷電粒子線の入射装置。
【請求項3】
請求項1
又は請求項2に記載の荷電粒子線の入射装置において、
前記第1線形加速器から出射した前記第1荷電粒子線を電磁力により曲げて前記インフレクタに入射させる偏向電磁石を有し、
前記切替電磁石は、前記第2線形加速器から出射した前記第2荷電粒子線を電磁力により曲げて前記インフレクタに入射させる荷電粒子線の入射装置。
【請求項4】
請求項1から
請求項3のいずれか1項に記載の荷電粒子線の入射装置において、
前記第1線形加速器及び前記第2線形加速器の少なくとも一方の出射側には、核種イオンの内殻電子を剥ぎ取るストリッパが配置されている荷電粒子線の入射装置。
【請求項5】
請求項1から
請求項4のいずれか1項に記載の荷電粒子線の入射装置において、
前記第1核種イオン及び前記第2核種イオンのいずれか一方は水素イオンで他方は水素より重い核種の多価イオンである荷電粒子線の入射装置。
【請求項6】
第1イオン源において第1核種イオンを発生させる工程と、
発生した前記第1核種イオンを第1線形加速器で線形加速させて第1荷電粒子線にする工程と、
第2イオン源において第2核種イオンを発生させる工程と、
発生した前記第2核種イオンを第2線形加速器で線形加速させて第2荷電粒子線にする工程と、
切替電磁石の設定により前記第1荷電粒子線及び前記第2荷電粒子線のいずれか一方を主加速器のインフレクタに入射させる工程と、を含む荷電粒子線の入射
システムの作動方法
において、
前記荷電粒子線の入射システムは、
発生した前記第1核種イオンを電磁力により曲げて前記第1線形加速器に入射させる第1選別電磁石と、
発生した前記第2核種イオンを電磁力により曲げて前記第2線形加速器に入射させる第2選別電磁石と、
第3核種イオンを発生させる第3イオン源と、
発生した前記第3核種イオンを電磁力により曲げて、さらに前記第1選別電磁石又は前記第2選別電磁石を直進通過させ、前記第1線形加速器又は前記第2線形加速器に入射させる第3選別電磁石と、を備える荷電粒子線の入射システムの作動方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、荷電粒子線を前段加速し主加速器に入射させる技術に関する。
【背景技術】
【0002】
放射線による癌治療法の一つである粒子線治療は、水素の原子核である陽子や炭素イオン等の重粒子を加速器で光速の約70%まで加速し腫瘍に集中照射する。この粒子線治療は、治療に伴う痛みが無く、他の放射線治療と比較して副作用が少ないため、治療と社会生活を両立して生活の質(QoL:Quality of Life)を維持することができる最先端の治療法として注目されている。
【0003】
そして、粒子線照射による治療効果の向上を目的として、核種の異なる荷電粒子線を併用して腫瘍に照射させることが検討されている。具体的には、陽子線と重粒子線の併用、二種類以上の重粒子線(炭素、ヘリウム、酸素、ネオン等)の併用が検討されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、核種の異なる荷電粒子線を併用して照射を行う場合、次のような課題が存在した。炭素線と陽子線を併用して照射する場合、同一の吸収線量を得るのに必要な粒子数は、炭素に対し陽子は一桁以上多くなる。このために、炭素線用の線形加速器を共用して陽子線の前段加速を行う場合、荷電粒子線に含まれる陽子の粒子数が不十分となる。また線形加速器を共用することで、炭素と陽子が同じエネルギで円形加速器(シンクロトロン)に入射すると、空間電荷効果により、陽子線の蓄積粒子数が少なくなってしまう。
【0006】
本発明の実施形態はこのような事情を考慮してなされたもので、異なる複数の核種を併用して荷電粒子線を照射する際に、各々の核種の粒子数及びエネルギを最適化させて前段加速し、主加速器に入射させる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
実施形態に係る荷電粒子線の入射装置において、第1核種イオンを発生させる第1イオン源と、発生した前記第1核種イオンを線形加速させて第1荷電粒子線にする第1線形加速器と、第2核種イオンを発生させる第2イオン源と、発生した前記第2核種イオンを線形加速させて第2荷電粒子線にする第2線形加速器と、前記第1荷電粒子線及び前記第2荷電粒子線のいずれか一方を主加速器のインフレクタに入射させる切替電磁石と、を備え、発生した前記第1核種イオンを電磁力により曲げて前記第1線形加速器に入射させる第1選別電磁石と、発生した前記第2核種イオンを電磁力により曲げて前記第2線形加速器に入射させる第2選別電磁石と、第3核種イオンを発生させる第3イオン源と、発生した前記第3核種イオンを電磁力により曲げて、さらに前記第1選別電磁石又は前記第2選別電磁石を直進通過させ、前記第1線形加速器又は前記第2線形加速器に入射させる第3選別電磁石と、を備える荷電粒子線の入射装置。。
【発明の効果】
【0008】
本発明の実施形態により、異なる複数の核種を併用して荷電粒子線を照射する際に、各々の核種の粒子数及びエネルギを最適化させて前段加速し、主加速器に入射させる技術が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の第1実施形態に係る荷電粒子線の入射装置が採用された加速器システムの全体構成図。
【
図2】第2実施形態に係る荷電粒子線の入射装置を示す構成図。
【
図3】実施形態に係る荷電粒子線の入射方法を説明するフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(第1実施形態)
以下、本発明の実施形態を添付図面に基づいて説明する。
図1は本発明の第1実施形態に係る荷電粒子線の入射装置10a(10)が採用された加速器システム40の全体構成図である。このように加速器システム40は、大きく入射装置10、主加速器20及びビーム輸送系30に分類される。
【0011】
このように入射装置10aは、第1核種イオン31を発生させる第1イオン源11と、発生した第1核種イオン31を線形加速させて第1荷電粒子線41にする第1線形加速器21と、第2核種イオン32を発生させる第2イオン源12と、発生した第2核種イオン32を線形加速させて第2荷電粒子線42にする第2線形加速器22と、第1荷電粒子線41及び第2荷電粒子線42のいずれか一方を主加速器20のインフレクタ25に入射させる切替電磁石15と、を備える。
【0012】
第1実施形態において、第1核種イオン31は陽子(水素)で、第2核種イオン32は重粒子(水素より重い核種の多価イオン)である。この重粒子としては、炭素、ヘリウム、酸素、ネオン等が挙げられる。電子が全て剥ぎ取られたフル・ストリップ状態の炭素イオン12C6+は、荷電質量比は1/2となる。なお、上述したヘリウムイオン4He2+、酸素イオン16O8+、ネオンイオン20Ne10+もフル・ストリップ状態では同様に荷電質量比は1/2となる。
【0013】
第1イオン源11及び第2イオン源12は、ECR(Electron Cyclotron Resonance)イオン源、PIG(Penning Ionization Gauge)イオン源といった高周波(マイクロ波を含む)照射型の他に、レーザ照射型のイオン源等が挙げられる。しかし、これらに限定されることはなく、第1核種イオン31及び第2核種イオン32を効率的に生成することができるものであれば、適宜採用される。
【0014】
ECRイオン源では、電子サイクロトロン共鳴現象を利用し、中性原子を電離してプラズマ状態にする。ECRイオン源に、原料ガスを導入し、外部からマイクロ波を加えると、電離生成した電子が磁場によって閉じ込められ、この高エネルギの電子が、さらにイオンや原子に衝突して電子をはじき出すことを繰り返し、多価イオンを生成する。
【0015】
陽子を発生させる第1イオン源11では、原料として水素ガスを導入し水素原子核(陽子)1H+を生成させる。この陽子1H+は、質量数Aが1で価数Zが1であるために荷電質量比は1である。なお、陽子線として水素分子イオンH2
+が採用される場合は、質量数Aが2で価数Zが1であるために荷電質量比は1/2である。炭素の重粒子を発生させる第2イオン源12では、原料のメタンガス(CH4)を真空チャンバ内でプラズマ化して、炭素イオン12C4+を生成させる。この炭素イオン12C4+は、質量数Aが12で価数Zが4であるために荷電質量比は1/3である。
【0016】
このように荷電質量比は、炭素が1/3に対して陽子は1である。このことを利用して第1荷電粒子線(陽子線)を線形加速する第1線形加速器21は、第2荷電粒子線(炭素線)を線形加速する第2線形加速器22よりも小型化できる。さらに第1線形加速器21及び第2線形加速器22がそれぞれ別々であることにより、炭素線よりも陽子線の粒子数を多くすることや核子あたりのエネルギを高めることができる。これにより、炭素線の照射と陽子線の照射とによる単位時間当たり吸収線量を互いに等しくすることができる。
【0017】
線形加速器21,22は、高周波四重極(RFQ:Radio Frequency Quadrupole)線形加速器21a,22aと、ドリフトチューブ線形加速器(DTL:drift tube linac)21b,22bと、から構成され、核種イオン31,32を加速して荷電粒子線41,42として出力する。
【0018】
RFQ21a,22aは、イオン源11,12の下流側に接続され、高周波により四重極の電場を形成する4枚の電極(図示略)を備えている。RFQ線形加速器21a,22aは、イオン源11,12からの核種イオン31,32に対し、四重極の電場により加速と収束とを同時に行う。
【0019】
DTL21b,22bは、RFQ21a,22aの後段に接続され、高周波により中心軸に沿う電場を形成する電極(図示略)と、中心軸に沿って各々離れて配置されたドリフトチューブ(図示略)と、を備えている。DTL21b,22bは、電場が中心軸に平行な進行方向に向かう期間において、荷電粒子線41,42を加速させ、電場が進行方向とは逆に向かう期間において、荷電粒子線41,42をドリフトチューブの中に通過させることにより、荷電粒子線41,42を段階的に加速させる。このように線形加速器21,22は、イオン源11,12から入射した核種イオン31,32を所定のエネルギを持つ荷電粒子線41,42に加速して出射する。
【0020】
非励磁設定された切替電磁石15は、第1荷電粒子線41をそのまま直進させて、主加速器20のインフレクタ25に入射させる。励磁設定された切替電磁石15は、第2荷電粒子線42を電磁力により曲げてインフレクタ25に入射させる。なお、このインフレクタ25は、陽子の第1荷電粒子線41のエネルギが、炭素の第2荷電粒子線42のそれに対して2倍程度であれば、仕様を変更することなく適用できる。
【0021】
ところで、イオン源11,12から発生する核種イオン31,32は、エネルギがばらついていたり目的外の不純物イオンが混入したりしている。このため、仕様通りの所定のエネルギを持つ核種イオン31,32のみを選別して線形加速器21,22に入射させる必要がある。
【0022】
そこで入射装置10aは、さらに、発生した第1核種イオン31を電磁力により曲げて第1線形加速器21に入射させる第1選別電磁石51と、発生した第2核種イオン32を電磁力により曲げて第2線形加速器22に入射させる第2選別電磁石52と、を備えている。予め定められた設定値に励磁された選別電磁石51,52を通過させることにより、所定のエネルギを持つ核種イオン31,32とは異なる目的外のイオンを排除することができる。
【0023】
さらに入射装置10aは、第1線形加速器21から出射した第1荷電粒子線41を電磁力により曲げて主加速器20のインフレクタ25に入射させる偏向電磁石16を有している。これにより、第1荷電粒子線41に含まれる目的外のイオンを除去することができる。
【0024】
さらに入射装置10aにおいて、第2線形加速器22の出射側には、第2荷電粒子線42の核種イオンの内殻電子を剥ぎ取るストリッパ17が配置されている。なお、図示を省略しているが、このストリッパ17は、第1線形加速器21の出射側に配置される場合もある。
【0025】
第2イオン源12で生成される炭素イオン12C4+は、最外殻電子のみが剥ぎ取られたものであるが、ストリッパ17を通過することで内殻電子も剥ぎ取られる。その結果、全ての電子が剥ぎ取られたフル・ストリップ状態の炭素イオン12C6+に変換され、荷電質量比は1/3から1/2に変化し、第2荷電粒子線42の加速性が向上する。
【0026】
第1制御部35は、切替電磁石15及び偏向電磁石16のうちいずれか一つのみを励磁設定し、その他を非励磁設定する。これにより、励磁設定により円弧軌道をとる荷電粒子線のみが、主加速器20のインフレクタ25に入射される。
【0027】
切替電磁石15が非励磁設定され偏向電磁石16が励磁設定される場合は、第2荷電粒子線42はインフレクタ25に入射されることはなく、第1荷電粒子線41のみがインフレクタ25に入射される。また、切替電磁石15が励磁設定され偏向電磁石16が非励磁設定される場合は、第1荷電粒子線41はインフレクタ25に入射されることはなく、第2荷電粒子線42のみがインフレクタ25に入射される。さらに励磁設定された切替電磁石15は、第2荷電粒子線42に含まれる目的外のイオンを除去する機能を持つ。
【0028】
なお実施形態において、第1核種イオン31は陽子で第2核種イオン32は重粒子である場合を示したが、それぞれ核種が逆である場合もあるし、両方とも核種が互いに異なる重粒子である場合もある。
【0029】
主加速器20は、シンクロトロン等の円形加速器が採用されるが特に限定されない。このシンクロトロン20は、入射装置10から入射した荷電粒子線41,42を高周波電力により加速させる高周波加速空洞27と、周回する荷電粒子を曲げる磁場を発生させる複数の偏向電磁石28と、周回する荷電粒子を発散・収束させて周回軌道内に押留める磁場を発生させる複数の四極電磁石29と、シンクロトロン20を周回する荷電粒子をビーム輸送系30に出射させるデフレクタ26と、から構成されている。
【0030】
このような構成に基づき、入射装置10から出射された低エネルギの第1荷電粒子線41又は第2荷電粒子線42は、インフレクタ25に入射された後、シンクロトロン20を周回する。そして、光速の70~80%まで加速され所定の高エネルギに到達したところで、デフレクタ26により周回軌道から進行方向を変更させてビーム輸送系30に取り出される。
【0031】
なおビーム輸送系30にも、直進する荷電粒子を軌道内に押留めるための四極電磁石29と、荷電粒子の軌道を曲げるための偏向電磁石28と、が設けられている。そして、このビーム輸送系30の先には、荷電粒子線55を照射することにより患者56の腫瘍を治療する照射装置50が接続されている。なおこの照射装置50は例示であって、ビーム輸送系30の先に接続される施設は特に限定されない。
【0032】
(第2実施形態)
次に
図2を参照して本発明における第2実施形態について説明する。
図2は第2実施形態に係る荷電粒子線の入射装置10b(10)を示す構成図である。なお、
図2において
図1と共通の構成又は機能を有する部分は、同一符号で示し、重複する説明を省略する。
【0033】
このように第2実施形態に係る入射装置10bは、第1実施形態における第1イオン源11と、第1線形加速器21と、第2イオン源12と、第2線形加速器22と、切替電磁石15との構成に加え、さらに第3核種イオン33を発生させる第3イオン源13と、発生した第3核種イオン33を電磁力により曲げてさらに第2選別電磁石52を直進通過させ第2線形加速器22に入射させる第3選別電磁石53と、を備えている。
【0034】
さらに入射装置10bは、発生した第4核種イオン34を電磁力により曲げてさらに第3選別電磁石53及び第2選別電磁石52を直進通過させ第2線形加速器22に入射させる第4選別電磁石54と、を備えている。このように、第2実施形態ではイオン源を増設していくことができる。
【0035】
第2制御部36は、複数ある選別電磁石52,53,54のうちいずれか一つのみを励磁設定し、その他を非励磁設定する。これにより、励磁設定された選別電磁石に接続されるイオン源からのみ核種イオンを加速軌道にのせることができる。
【0036】
さらに入射装置10bには、同一の粒子線軌道の上に配置されている複数の選別電磁石52,53,54の励磁状態に基づいてインターロック信号を発動する機構37が設けられている。これら選別電磁石52,53,54で形成される磁場は、それぞれが担当する核種イオン32,33,34が軌道を通過するのに適した磁束密度に設定されている。
【0037】
インターロック機構37は、選別電磁石52,53,54の各々において計測された磁束密度を取得し、入射予定の核種イオンに予め設定されている範囲を外れる場合は、インターロック信号を発動して主加速器20への荷電粒子線の供給を停止させる。
【0038】
異なる核種イオンを短時間で切り替えて荷電粒子線を連続照射する要請がある。第2実施形態では、荷電粒子線42の直線軌道上に複数の選別電磁石52,53,54を配置し、複数のイオン源12,13,14がそれぞれに接続される。このような構成をとることで、ワンセットの線形加速器で、複数の重粒子イオンを切り替えて荷電粒子線として連続照射できる。
【0039】
また重粒子として例示した、炭素、ヘリウム、酸素、ネオンについては、主加速器20に入射する直前のフル・ストリップ状態で、荷電質量比が1/2であることはすでに述べた。フル・ストリップ状態のこれら核種については、全て同一の荷電質量比をもつため、荷電粒子線に目的外イオンが混入していることを検知するのは困難である。
【0040】
一方において、イオン源11,12,13,14から発生した直後は、荷電質量比はそれぞれ、炭素イオン12C4+で1/3、ヘリウムイオン4He2+で1/2、酸素イオン16O5+で5/16となるため、選別電磁石52,53,54の励磁設定が理想的になされている限り、荷電粒子線に目的外イオンが混入することはない。
【0041】
そこで、選別電磁石52,53,54で計測された磁束密度が予め定められた範囲を外れる場合は、荷電粒子線に目的外イオンが混入している可能性があるとしてインターロック信号を発動することとした。治療計画と異なる核種が患者に照射されることは、治療の性格上、絶対に避けなければならない事象であるからである。
【0042】
図3のフローチャートに基づいて実施形態に係る荷電粒子線の入射方法を説明する(適宜、
図1及び
図2参照)。まず、第1イオン源11において第1核種イオン31を発生させる(S11)。そして、この発生した第1核種イオン31を第1線形加速器21で線形加速させて第1荷電粒子線41にする(S12)。
【0043】
次に第2イオン源12において第2核種イオン32を発生させる(S13)。そして、この発生した第2核種イオン32を第2線形加速器22で線形加速させて第2荷電粒子線42にする(S14)。
【0044】
次に切替電磁石15の設定により(S15)、第1荷電粒子線41及び第2荷電粒子線42のいずれか一方を主加速器20のインフレクタ25に入射させる(S16)。このとき切替電磁石15を、非励磁に設定すると第1荷電粒子線41が入射され(S16a)、励磁に設定すると第2荷電粒子線41が入射される(S16b)。
【0045】
なお、上述した(S11)から(S16)の全工程において、インターロック機構37は、選別電磁石52,53,54の各々における励磁状態の判定を行っている(S17)。そして、この励磁状態が異常と判定されたときは、ただちにインターロック信号が発動され荷電粒子線の入射がストップする(END)。
【0046】
そして選別電磁石52,53,54の各々における励磁状態の正常判定が続くうちは、荷電粒子線41,42がビーム輸送系30を通過し、照射装置50における照射が終了するまで、(S11)から(S17)までの工程が連続する(S19,No,Yes、END)。
【0047】
以上述べた少なくともひとつの実施形態の荷電粒子線の入射装置によれば、別々の線形加速器を用いることにより、異なる複数の核種を併用して荷電粒子線を照射する際に、各々の粒子数及びエネルギを最適化させて前段加速し、主加速器に入射させることが可能となる。
【0048】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更、組み合わせを行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0049】
10(10a,10b)…入射装置、11…第1イオン源、12…第2イオン源、13…第3イオン源、15…切替電磁石、16…偏向電磁石、17…ストリッパ、20…主加速器(シンクロトロン)、21,22…線形加速器、21a,22a…RFQ線形加速器、21b,22b…DTL線形加速器、25…インフレクタ、26…デフレクタ、27…高周波加速空洞、28…偏向電磁石、29…四極電磁石、30…ビーム輸送系、31…第1核種イオン、32…第2核種イオン、33…第3核種イオン、34…第4核種イオン、35…第1制御部、36…第2制御部、37…インターロック機構、40…加速器システム、41…第1荷電粒子線、42…第2荷電粒子線、50…照射装置、51…第1選別電磁石、52…第2選別電磁石、53…第3選別電磁石、54…第4選別電磁石、55…荷電粒子線、56…患者。