(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-21
(45)【発行日】2024-03-29
(54)【発明の名称】原子炉内出力分布推定装置および原子炉内出力分布推定方法
(51)【国際特許分類】
G21C 17/00 20060101AFI20240322BHJP
【FI】
G21C17/00 210
(21)【出願番号】P 2020179546
(22)【出願日】2020-10-27
【審査請求日】2023-03-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001092
【氏名又は名称】弁理士法人サクラ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】木村 礼
(72)【発明者】
【氏名】中居 勇樹
(72)【発明者】
【氏名】和田 怜志
【審査官】小林 幹
(56)【参考文献】
【文献】特開昭62-162993(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第103617817(CN,A)
【文献】特開平04-062498(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21C 17/00 - 17/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炉心内の燃料の部分をM個に分割されたそれぞれの燃料領域の出力R
m
(m=1,…,M)の相対比である出力分布を、N個の各中性子検出器からの検出器測定値d
nm
(n=1,…,N)に基づいて推定する原子炉内出力分布推定装置であって、
前記各中性子検出器からの出力である前記検出器測定値d
nm
を受け入れる入力部と、
前記出力R
m
に対する前記検出器測定値d
nm
の比である検出器応答係数C
nm
を算出する検出器応答評価・係数算出部と、
k番目の前記燃料領域で発生する中性子1つが、他のm番目の前記燃料領域で核分裂を引き起こす割合である核分裂発生割合r
mk
を算出する出力相関挙動評価部と、
前記核分裂発生割合r
mk
をk番目の前記燃料領域での核分裂中性子発生数ν
k
で除して燃料間出力相関係数F
mk
を算出する燃料間出力相関係数算出部と、
前記検出器応答係数C
nm
と前記燃料間出力相関係数F
mk
とを用い、前記出力R
m
を要素とする出力分布ベクトルから前記検出器測定値d
nm
を要素とする測定値ベクトルに変換する出力分布依存検出器応答係数CC
nm
を要素とする出力分布依存検出器応答行列T
CC
を算出する出力相関依存応答係数算出部と、
前記出力分布依存検出器応答行列T
CC
を用いて算出測定値D
nc
を算出し、前記検出器測定値d
nm
のそれぞれと前記算出測定値D
nc
のそれぞれに基づいて、前記出力分布を推定する出力分布推定部と、
を備えることを特徴とする原子炉内出力分布推定装置。
【請求項2】
前記検出器応答評価・係数算出部は、
それぞれの前記燃料領域の前記出力R
m
を仮定する出力分布仮定部と、
それぞれの前記燃料領域で前記出力R
m
が発生する際に生じる中性子についての前記各中性子検出器nの前記検出器測定値d
nm
を評価する検出器応答評価部と、
前記検出器測定値d
nm
の前記出力R
m
に対する比を、前記検出器応答係数C
nm
として算出する検出器応答係数算出部と、
を有することを特徴とする請求項1に記載の原子炉内出力分布推定装置。
【請求項3】
前記核分裂中性子発生数ν
m
は、m番目の前記燃料領域における核分裂性核種および中性子エネルギーについての平均値であることを特徴とする請求項2に記載の原子炉内出力分布推定装置。
【請求項4】
前記出力分布推定部は、
前記燃料領域の前記出力R
m
による出力分布推定値を設定する出力分布推定値設定部と、
前記出力分布推定値に基づいて、前記出力分布依存検出器応答行列T
CC
を用いて前記算出測定値D
nc
を算出する検出器測定値算出部と、
前記検出器測定値d
nm
のそれぞれと前記算出測定値D
nc
のそれぞれに基づいて、目的関数値を算出する目的関数値算出部と、
前記目的関数値が最小となるように前記出力分布推定値を更新する出力分布推定値更新部と、
を有することを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載の原子炉内出力分布推定装置。
【請求項5】
前記目的関数値は、規格化された前記検出器測定値d
nm
と規格化された前記算出測定値D
nc
との差の絶対値の、nが1からNまでの総和であることを特徴とする請求項4に記載の原子炉内出力分布推定装置。
【請求項6】
炉心内の燃料の部分をM個に分割されたそれぞれの燃料領域の出力R
m
(m=1,…,M)の相対比である出力分布を、N個の各中性子検出器の検出器測定値d
nm
(n=1,…,N)に基づいて推定する原子炉内出力分布推定方法であって、
入力部が、前記各中性子検出器からの出力である前記検出器測定値d
nm
を受け入れる入力ステップと、
検出器応答評価・係数算出部が、前記出力R
m
に対する前記検出器測定値d
nm
の比である検出器応答係数C
nm
を算出する検出器応答評価・係数算出ステップと、
出力相関挙動評価部が、k番目の前記燃料領域で発生する中性子1つが、他のm番目の前記燃料領域で核分裂を引き起こす割合である核分裂発生割合r
mk
を算出する出力相関挙動評価ステップと、
燃料間出力相関係数算出部が、前記核分裂発生割合r
mk
をk番目の前記燃料領域での核分裂中性子発生数ν
k
で除して燃料間出力相関係数F
mk
を算出する燃料間出力相関係数算出ステップと、
出力相関依存応答係数算出部が、前記検出器応答係数C
nm
と前記燃料間出力相関係数F
mk
とを用い、前記出力R
m
を要素とする出力分布ベクトルから前記検出器測定値d
nm
を要素とする測定値ベクトルに変換する出力分布依存検出器応答係数CC
nm
を要素とする出力分布依存検出器応答行列T
CC
を算出する出力相関依存応答係数算出ステップと、
出力分布推定部が、前記出力分布依存検出器応答行列T
CC
を用いてそれぞれの算出測定値D
nc
を算出し、前記測定値d
nm
のそれぞれと前記算出測定値D
nc
のそれぞれに基づいて、前記出力分布を推定する出力分布推定ステップと、
を有することを特徴とする原子炉内出力分布推定方法。
【請求項7】
前記出力分布推定ステップは、
出力分布推定値設定部が、前記燃料領域のそれぞれの前記出力R
m
による出力分布推定値を設定する出力分布設定ステップと、
検出器測定値算出部が、前記出力分布推定値に基づいて、前記出力分布依存検出器応答行列T
CC
を用いて前記算出測定値D
nc
を算出する検出器測定値算出ステップと、
目的関数値算出部が、前記検出器測定値d
nm
のそれぞれと前記算出測定値D
nc
のそれぞれに基づいて、目的関数値を算出する目的関数値算出ステップと、
目的関数値最小化判定部が、前記目的関数値が所定の値以下となったか否かを判定する判定ステップと、
前記判定ステップにおいて前記目的関数値が前記所定の値以下となったと判定されなかった場合に、出力分布推定値更新部が、前記目的関数値が最小となるように前記出力分布推定値を更新し、前記出力分布推定値設定部が更新後の前記出力分布推定値を設定する出力分布推定値更新ステップと、
を有することを特徴とする請求項6に記載の原子炉内出力分布推定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、原子炉内出力分布推定装置および原子炉内出力分布推定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
原子炉の出力分布推定のための核計装の検出器は、一般に炉心内に設けられており、炉心内の各領域の出力を直接に測定することができる。あるいは、炉外に設けられている検出器を有する場合にあっても、炉心内に設けられた検出器からの情報を利用して、全体として炉心の出力分布を推定している。
【0003】
このような構成の核計装においては、検出器が故障した場合、その検出器が設置されている領域の出力を測定できなくなることから、検出器を交換する必要がある。
【0004】
従来、商用原子炉においては、核計装の不具合が発生している場合にも、1~2年に1度の燃料交換や定期点検の際に、核計装系の修理や検出器の交換を行っている。
【0005】
ただし、近年、世界各国で開発が進められている小型モジュラー炉(SMR)の中には、マイクロリアクターと呼ばれる10年ないし20年にわたり燃料交換を行わないタイプの原子炉がある。このようなマイクロリアクターでは、炉内に設けられた検出器を容易に交換できないという課題がある。
【0006】
一方、検出器を炉外のみに設けて、これらの検出器の出力に基づいて、炉心内の出力分布を評価し、特に炉心内に発生した異常を検知しようとする方式の技術が知られている。このような方式の場合、炉心内の中性子が炉外に設けられた検出器に到達するまでには散乱などの相互作用が存在するため、炉心内部の情報の多くを失ってしまい、炉心内の出力異常などを把握できないという課題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特許第2096594号公報
【文献】特許第5443901号公報
【非特許文献】
【0008】
【文献】Li Fu, et al., “Harmonics Synthesis Method for Core Flux Distribution Reconstruction”, Progress in Nuclear Energy, 31(4), 369-372, 1997
【文献】Fan Kai, et al., “Improved Harmonics Synthesis Method and its application in reconstructing power distribution of HTR-PM”, Nuclear Engineering and Design, 355, 2019
【文献】Gabriel Farkas, et al., “Computation of Ex-Core Detector Weighting Functions for VVER-440 Using MCNP5”, Nuclear Energy For Europe 2011, Bovec, Slovenia, Sep 12-15, 2011
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
検出器が炉外に設けられた場合に、炉心内部の出力分布を評価する技術として、機械学習を用いる手法が知られている。しかしながら、この技術では、想定されるあらゆる炉内状態の事前評価が必要であり、加えて想定外の事象に対する評価精度の保証とトレーサビリティが無いため、汎用的な手法とすることができないという課題がある。
【0010】
このため、本発明の実施形態は、機械学習に頼ることなく、一般的な線形計画問題などの最適化問題として取り扱え、トレーサビリティの高い原子炉内出力分布の推定装置および推定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述の目的を達成するため、本実施形態に係る原子炉内出力分布推定装置は、炉心内の燃料の部分をM個に分割されたそれぞれの燃料領域の出力R
m
(m=1,…,M)の相対比である出力分布を、N個の各中性子検出器からの検出器測定値d
nm
(n=1,…,N)に基づいて推定する原子炉内出力分布推定装置であって、前記各中性子検出器からの出力である前記検出器測定値d
nm
を受け入れる入力部と、前記出力R
m
に対する前記検出器測定値d
nm
の比である検出器応答係数C
nm
を算出する検出器応答評価・係数算出部と、k番目の前記燃料領域で発生する中性子1つが、他のm番目の前記燃料領域で核分裂を引き起こす割合である核分裂発生割合r
mk
を算出する出力相関挙動評価部と、前記核分裂発生割合r
mk
をk番目の前記燃料領域での核分裂中性子発生数ν
k
で除して燃料間出力相関係数F
mk
を算出する燃料間出力相関係数算出部と、前記検出器応答係数C
nm
と前記燃料間出力相関係数F
mk
とを用い、前記出力R
m
を要素とする出力分布ベクトルから前記検出器測定値d
nm
を要素とする測定値ベクトルに変換する出力分布依存検出器応答係数CC
nm
を要素とする出力分布依存検出器応答行列T
CC
を算出する出力相関依存応答係数算出部と、前記出力分布依存検出器応答行列T
CC
を用いて算出測定値D
nc
を算出し、前記検出器測定値d
nm
のそれぞれと前記算出測定値D
nc
のそれぞれに基づいて、前記出力分布を推定する出力分布推定部と、を備えることを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】実施形態に係る原子炉内出力分布推定装置の構成を示すブロック図である。
【
図2】実施形態に係る原子炉内出力分布推定装置の検出器応答評価・係数算出部の構成を示すブロック図である。
【
図3】実施形態に係る原子炉内出力分布推定装置における検出器応答係数を説明するための概念的なブロック図である。
【
図4】実施形態に係る原子炉内出力分布推定装置の燃料間出力相関評価・係数算出部の構成を示すブロック図である。
【
図5】実施形態に係る原子炉内出力分布推定装置における燃料間出力相関係数を説明するための概念的なブロック図である。
【
図6】実施形態に係る原子炉内出力分布推定装置における出力分布依存検出器応答係数を説明するための概念的なブロック図である。
【
図7】実施形態に係る原子炉内出力分布推定方法の手順を示すフロー図である。
【
図8】実施形態に係る原子炉内出力分布推定方法を適用する原子炉のモデルの例を示す水平断面図である。
【
図9】実施形態に係る原子炉内出力分布推定方法を適用した場合の第1のケースにおける出力分布の実施例による推定値と真値との比較を示すグラフである。
【
図10】実施形態に係る原子炉内出力分布推定方法を適用した場合の第1のケースにおける出力分布の定常時の分布に対する比の真値との比較を示すグラフである。
【
図11】実施形態に係る原子炉内出力分布推定方法を適用した場合の第2のケースにおける出力分布についての実施例による相関ありの場合の推定値と相関なしの場合および真値との比較を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態に係る原子炉内出力分布推定装置および原子炉内出力分布推定方法について説明する。ここで、互いに同一または類似の部分には、共通の符号を付して、重複する説明は省略する。
(原子炉内出力分布推定装置の説明)
【0014】
図1は、実施形態に係る原子炉内出力分布推定装置500の構成を示すブロック図である。
【0015】
原子炉内出力分布推定装置500は、複数の中性子検出器50(
図3)からの出力を受け入れて、原子炉内の出力分布すなわち燃料領域10(
図3)の出力比を推定する。
【0016】
原子炉内出力分布推定装置500は、演算部100、記憶部200、入力部310、および推定結果等を出力する出力部320を有する。
【0017】
入力部310は、外部入力としての原子炉の炉心に関するデータ、中性子検出器50の特性に関するデータ、および各中性子検出器50からの出力である検出器測定値を外部入力として受け入れる。各中性子検出器50からの出力の受け入れは、人間による入力でもよいし、中性子検出器50を有する核計装系からオンラインでその信号を受け入れてもよい。異常の早期発見のためには、後者が好ましい。
【0018】
演算部100は、応答特性評価部110、および出力分布推定部140を有する。
【0019】
まず、応答特性評価部110は、中性子検出器50の測定値の原子炉1の出力による特性を評価する。応答特性評価部110は、検出器応答評価・係数算出部111、燃料間出力相関評価・係数算出部112、および、出力相関依存応答係数算出部113を有する。検出器応答評価・係数算出部111については
図2および
図3を引用しながら、燃料間出力相関評価・係数算出部112については
図4および
図5を引用しながら、また、出力相関依存応答係数算出部113については
図6を引用しながら後に説明する。
【0020】
次に、出力分布推定部140は、応答特性評価部110により得られた応答特性を用いて、複数の中性子検出器50からの出力を受け入れて、その出力分布すなわち燃料領域10の出力比を推定する。出力分布推定部140は、検出器測定値評価部120、および推定最適化部130を有する。
【0021】
検出器測定値評価部120は、出力分布推定部140での評価のために原子炉の出力分布の推定値を設定する出力分布推定値設定部121、および、この出力分布に基づいて中性子検出器50の出力すなわち検出器測定値を算出する測定値算出部122を有する。
【0022】
推定最適化部130は、入力部310が受け入れた中性子検出器50による検出器測定値と、検出器測定値評価部120の測定値算出部122により算出された算出測定値に基づいて、原子炉1の出力分布を推定する。
【0023】
推定最適化部130は、測定値差分算出部131、目的関数値算出部132、目的関数値最小化判定部133、および出力分布推定値更新部134を有する。
【0024】
測定値差分算出部131は、検出器測定値と算出測定値とに基づいて、それぞれの全中性子検出器50についての合計値が1となるように規格化したうえで、中性子検出器50ごとの検出器測定値と算出測定値の差分を算出する。
【0025】
目的関数値算出部132は、測定値差分に基づいて目的関数の値(目的関数値)を算出する。ここで、目的関数は、検出器測定値記憶部203に収納された検出器測定値の中性子検出器50間の相対比と、算出測定値記憶部222に収納された算出測定値の中性子検出器50間の相対比とが、一致する方向に収束するための評価関数である。目的関数としては、たとえば、中性子検出器50ごとの検出器測定値と算出測定値の差分の絶対値の総和、あるいは、中性子検出器50ごとの検出器測定値と算出測定値の差分の二乗の総和などを用いることができる。
【0026】
目的関数値最小化判定部133は、目的関数値算出部132が算出した目的関数値が最小値に到達したか否かを判定する。具体的には、たとえば、目的関数の値が、所定の値以下となったか否かを判定する。
【0027】
出力分布推定値更新部134は、目的関数値最小化判定部133により目的関数値が最小値に到達したと判定されなかった場合に、出力分布の更新内容を出力する。出力分布推定値設定部121は、出力分布推定値更新部134の更新内容出力に基づいて、出力分布の推定値を新たな推定値に設定する。
【0028】
記憶部200は、炉心データ記憶部201、中性子検出器データ記憶部202、検出器測定値記憶部203、検出器応答係数記憶部211、燃料間出力相関係数記憶部212、出力分布依存検出器応答係数記憶部213、設定出力分布記憶部221、算出測定値記憶部222を有する。
【0029】
炉心データ記憶部201、中性子検出器データ記憶部202、および検出器測定値記憶部203はそれぞれ、入力部310が受け入れた炉心データ、中性子検出器データ、および中性子検出器からの出力である検出器測定値を記憶、収納する。
【0030】
検出器応答係数記憶部211、燃料間出力相関係数記憶部212、および出力分布依存検出器応答係数記憶部213は、それぞれ、検出器応答評価・係数算出部111で算出された検出器応答評価係数、燃料間出力相関評価・係数算出部112で算出された燃料間出力相関係数、および、出力相関依存応答係数算出部113で算出された出力分布依存検出器応答係数を記憶、収納する。
【0031】
設定出力分布記憶部221および算出測定値記憶部222は、それぞれ、出力分布推定値設定部121が設定した出力分布推定値、および、測定値算出部122が算出した算出測定値を記憶、収納する。
【0032】
図2は、実施形態に係る原子炉内出力分布推定装置500の検出器応答評価・係数算出部111の構成を示すブロック図である。
【0033】
検出器応答評価・係数算出部111は、出力分布仮定部111a、検出器応答評価部111b、および検出器応答係数算出部111cを有する。
【0034】
出力分布仮定部111aは、検出器応答評価部111bによる評価のために、原子炉1における出力分布を仮定する。
【0035】
図3は、実施形態に係る原子炉内出力分布推定装置500における検出器応答係数を説明するための概念的なブロック図である。
【0036】
ここで、原子炉の炉心において中性子を生成する核分裂性物質を有する領域が、複数の燃料領域10により構成されているとする。燃料領域10は、i=1~Mに番号付けられ、それぞれの出力がR1~RMであるとする。燃料領域10のそれぞれの出力、すなわち出力分布は、出力分布仮定部111aにより設定される。出力分布仮定部111aにより設定されるこの出力分布は、入力部310が外部入力として受け入れてもよいし、予め出力分布仮定部111aが内蔵されていてもよい。
【0037】
また、中性子検出器50は、j=1~Nに番号付けられ、それぞれの測定値がD1~DNであるとする。
【0038】
今、m番目の燃料領域10でRmの出力が発生する際に生じる中性子が、n番目の中性子検出器50でdnmだけ検出される、すなわち測定値がdnmである場合に、検出器応答係数Cnmを次の式(1)で定義する。
検出器応答係数Cnm=dnm/Rm ・・・(1)
【0039】
なお、n番目の中性子検出器50の測定値Dnは、測定値dnmのmが1からMまでの総和となる。
【0040】
検出器応答評価部111bは、m番目の燃料領域10からn番目の中性子検出器50に到達する中性子量を算出し、中性子検出器データ記憶部202に収納された中性子検出器50の特性に基づいて、各燃料領域10の出力Rmによる中性子検出器50の測定値dnmを算出する。この中性子量の算出では、たとえば、モンテカルロ法、characteristics法(MOC)による輸送計算等を用いることができる。
【0041】
検出器応答係数算出部111cは、各燃料領域10の出力Rmおよび中性子検出器50の測定値dnmを用いて、式(1)により、検出器応答係数Cnmを算出する。算出された検出器応答係数Cnmは、検出器応答係数記憶部211に記憶、収納される。
【0042】
図4は、実施形態に係る原子炉内出力分布推定装置500の燃料間出力相関評価・係数算出部112の構成を示すブロック図である。
【0043】
燃料間出力相関評価・係数算出部112は、出力相関挙動評価部112a、平均核分裂中性子発生数評価部112b、燃料間出力相関係数算出部112cを有する。
【0044】
図5は、実施形態に係る原子炉内出力分布推定装置500における燃料間出力相関係数を説明するための概念的なブロック図である。
【0045】
今、k番目の燃料領域10が出力Rkを有する際に、当該燃料領域10で発生する中性子1つが、他のm番目の燃料領域10で核分裂を引き起こす割合を核分裂発生割合rmkとした場合に、燃料間出力相関係数Fmkを次の式(2)で定義する。
燃料間出力相関係数Fmk=rmk/νk ・・・(2)
【0046】
なお、νkは、k番目の燃料領域10における核分裂中性子発生数である。ここで、核分裂中性子発生数νkは、たとえば、k番目の燃料領域10にわたる各核分裂性核種およびエネルギー領域についての平均値を用いてもよい。
【0047】
出力相関挙動評価部112aは、核分裂発生割合rmkを算出する。なお、この際の各燃料領域10の出力分布については、検出器応答評価・係数算出部111の出力分布仮定部111aにより仮定された出力分布を用いることができる。また、k番目の燃料領域10で発生する中性子1つがm番目の燃料領域10で核分裂を引き起こす割合rmkの算出に当たっては、たとえば、モンテカルロ法、characteristics法(MOC)による輸送計算等を用いることができる。
【0048】
平均核分裂中性子発生数評価部112bは、核分裂中性子発生数νkとして、たとえば、k番目の燃料領域10にわたる各核分裂性核種およびエネルギー領域についての平均値を用いる場合に、この平均値演算を行う。核分裂性核種およびエネルギースペクトルは、入力部310が外部入力として読み込むことでもよいし、平均核分裂中性子発生数評価部112bが予め収納していてもよい。
【0049】
外部入力された値を核分裂中性子発生数νkとして用いる場合は、入力部310が外部入力として受け入れた値を炉心データ記憶部201が記憶し、平均核分裂中性子発生数評価部112bは炉心データ記憶部201から外部入力された値を読み出して、核分裂中性子発生数νkとして出力する。
【0050】
燃料間出力相関係数算出部112cは、核分裂発生割合rmkと核分裂中性子発生数νkとを用いて、式(2)により燃料間出力相関係数Fmkを算出する。算出された燃料間出力相関係数Fmkは、燃料間出力相関係数記憶部212に記憶、収納される。
【0051】
図6は、実施形態に係る原子炉内出力分布推定装置500における出力分布依存検出器応答係数を説明するための概念的なブロック図である。
【0052】
出力相関依存応答係数算出部113(
図1)は、以下に説明するように、検出器応答係数記憶部211に記憶、収納された検出器応答係数C
nm(n=1~N、m=1~M)と、燃料間出力相関係数記憶部212に記憶、収納された燃料間出力相関係数F
mk(k=1~M)に基づいて、出力分布依存検出器応答係数CC
nm(n=1~N、m=1~M)を算出する。
【0053】
まず、中性子検出器50側からみると、n番目の中性子検出器50の測定値Dnは、前述のように、m番目の出力Rm(m=1~M)の燃料領域10からの中性子による測定値dnmのmが1からMまでの総和となる。
【0054】
前述の式(1)から、測定値dnmは、次の式(3)に示すように、出力Rmに検出器応答係数Cnmを乗じた値となる。
測定値dnm=Cnm・Rm ・・・(3)
【0055】
したがって、n番目の中性子検出器50の測定値Dnは、測定値dnmのmが1からMまでの総和として、次の式(4)により算出される。
測定値Dn=dn1+dn2+・・・+dnM
=Cn1・R1+Cn2・R2+・・・+CnM・RM ・・・(4)
【0056】
一方、燃料領域10側から見ると、出力Rkのk番目の燃料領域10で発生する中性子1つによる、m番目の燃料領域10における核分裂発生数rmkは、前述の式(2)から、次の式(5)により得られる。
核分裂発生数rmk=Fmk・νk ・・・(5)
【0057】
ここで、m番目の燃料領域10の出力Rmは、次の式(6)に示すように、k番目の燃
料領域10に起因する核分裂発生数rmkと出力Rkとの積のkが1からMまでの総和となる。
出力Rm=rm1・R1+rm2・R2+・・・+rmM・RM
= Fm1・ν1・R1+Fm2・ν2・R2+ ・・・+FmM・νM・RM
・・・( 6 )
【0058】
したがって、中性子検出器50側からみた式(4)と燃料領域10側から見た式(6)とを、組み合わせて次の式(7)を得る。
測定値Dn=Cn1・R1+Cn2・R2+・・・+CnM・RM
=Cn1・R1
+Cn2・R2
+・・・
+CnM・RM
=Cn1・(F11・ν1・R1+F12・ν2・R2+・・・+F1M・νM・RM)
+Cn2・(F21・ν1・R1+F22・ν2・R2+・・・+F2M・νM・RM)
+・・・
+CnM・(FM1・ν1・R1+FM2・ν2・R2+・・・+FMM・νM・RM)
=(Cn1・F11・ν1+Cn2・F21・ν1+・・・+CnM・FM1・ν1)・R1
+(C
n1
・F12・ν2+Cn2・F22・ν2+・・・+CnM・FM2・ν2)・R2
+・・・
+(C
n1
・F1M・νM+C
n2
・F2M・νM+・・・+CnM・FMM・νM)・RM
・・・(7)
【0059】
なお、測定値ベクトルDDを、測定値D1、D2、・・・、DNを要素とするN次元縦ベクトル、出力ベクトルRRを、燃料領域10の出力R1、R2、・・・、RMを要素とするM次元縦ベクトルとすると、式(7)に基づいて、出力分布依存検出器応答行列TCCを用いて、両者の関係は、次の式(8)により表される。
DD=TCC・RR ・・・(8)
【0060】
ここで、出力分布依存検出器応答行列TCCは、次の式(9)で定義される出力分布依存検出器応答係数CCnm(n=1~N、m=1~M)を要素とするN行M列の行列である。
出力分布依存検出器応答係数CCnm
=C
n1
F
1m
ν
m
+C
n2
F
2m
ν
m
+・・・+C
nM
F
Mm
νm ・・・(9)
【0061】
このように、燃料領域10の相互の影響を考慮した出力分布依存検出器応答係数CCnmを用いることにより、中性子検出器50の測定値Dn(n=1~N)を、燃料領域10の出力分布Rm(m=1~M)に基づいて算出することができる。
(原子炉内出力分布推定方法の説明)
【0062】
次に、以上のように構成された原子炉内出力分布推定装置500の作用を、原子炉内出力分布推定方法の手順に沿って、順次説明する。
【0063】
図7は、実施形態に係る原子炉内出力分布推定方法の手順を示すフロー図である。
大きい流れとしては、原子炉内出力分布推定方法は、応答性評価(ステップS100)および、出力分布推定(ステップS400)を有する。
【0064】
まず、応答性評価ステップS100は、検出器応答評価・係数算出(ステップS110)および燃料間出力相関評価・係数算出(ステップS120)およびこれらの後に実施される出力相関依存応答係数算出(ステップ130)の各ステップを有する。
【0065】
検出器応答評価・係数算出ステップS110は、出力分布仮定(ステップS111)、検出器応答評価(ステップS112)および検出器応答係数算出(ステップS113)を有する。出力分布仮定ステップS111および検出器応答評価ステップS112は、互いに前後関係を問わない。
【0066】
出力分布仮定ステップS111においては、検出器応答評価・係数算出部111の出力分布仮定部111aが、出力分布、すなわち燃料領域10のそれぞれの出力Rm(m=1~M)の値を仮定して設定する。
【0067】
検出器応答評価ステップS112においては、出力分布仮定ステップS111において仮定された出力分布に基づいて、検出器応答評価・係数算出部111の検出器応答評価部111bが検出器応答評価を行う。
【0068】
具体的には、検出器応答評価部111bが、m番目の燃料領域10からn番目の中性子検出器50に到達する中性子量を算出し、中性子検出器データ記憶部202に収納された中性子検出器50の特性に基づいて、各燃料領域10の出力Rmによる中性子検出器50の測定値dnmを算出する。この中性子量の算出では、前述のように、たとえば、モンテカルロ法、characteristics法(MOC)による輸送計算等を用いることができる。
【0069】
検出器応答係数算出ステップS113においては、検出器応答係数算出部111cが、各燃料領域10の出力Rmおよび中性子検出器50の測定値dnmを用いて、前述の式(1)により、検出器応答係数Cnmを算出する。また、検出器応答係数記憶部211が、算出された検出器応答係数Cnmを、記憶、収納する。
【0070】
燃料間出力相関評価・係数算出ステップS120は、出力相関評価(ステップS121)、平均核分裂中性子発生数算出(ステップS122)、および燃料間出力相関関係算出(ステップS123)を有する。
【0071】
出力相関評価ステップS121においては、出力相関挙動評価部112aが、出力分布仮定ステップS111において仮定された出力分布に基づいて、核分裂発生割合rmkを算出する。この際の中性子の挙動の評価については、前述のように、たとえば、モンテカルロ法、characteristics法(MOC)による輸送計算等を用いることができる。
【0072】
平均核分裂中性子発生数算出ステップS122においては、平均核分裂中性子発生数評価部112bが、核分裂中性子発生数νkとして、たとえば、k番目の燃料領域10にわたる各核分裂性核種およびエネルギー領域についての平均値を算出する。あるいは、外部入力された値を核分裂中性子発生数νkとして用いる場合は、炉心データ記憶部201から外部入力された値を読み出して、核分裂中性子発生数νkとして出力する。
【0073】
燃料間出力相関関係算出ステップS123においては、燃料間出力相関係数算出部112cが、検出器応答係数算出ステップS113で得られた核分裂発生割合rmkと平均核分裂中性子発生数算出ステップS122において得られた核分裂中性子発生数νkとを用いて、式(2)により燃料間出力相関係数Fmkを算出する。算出された燃料間出力相関係数Fmkは、燃料間出力相関係数記憶部212に記憶、収納される。
【0074】
検出器応答評価・係数算出ステップS110および燃料間出力相関評価・係数算出ステップS120の後に行われる出力相関依存応答係数算出ステップS130においては、出力相関依存応答係数算出部113が、検出器応答係数記憶部211に記憶、収納された検出器応答係数Cnm(n=1~N、m=1~M)と、燃料間出力相関係数記憶部212に記憶、収納された燃料間出力相関係数Fmk(k=1~M)に基づいて、出力分布依存検出器応答係数CCnm(n=1~N、m=1~M)を算出する。
【0075】
次に、出力分布推定ステップS400について説明する。出力分布推定ステップS400は、検出器測定値評価(ステップS200)、および出力分布推定(ステップS300)の各ステップを有する。出力分布推定ステップS400内の検出器測定値評価ステップS200と出力分布推定ステップS300との間では、繰り返し計算が行われる。
【0076】
まず、検出器測定値評価ステップS200は、出力分布推定値設定(ステップS210)および測定値算出(ステップS220)の各ステップを有する。
【0077】
出力分布推定値設定ステップS210においては、検出器測定値評価部120の出力分布推定値設定部121が、まず、原子炉の出力分布の初期値を設定する。すなわち、各燃料領域10の出力Rm(m=1~M)の値、あるいは相対値を設定する。出力分布の初期値としては、たとえば、定常運転時の出力分布を用いてもよい。設定された出力分布は、設定出力分布記憶部221に記憶、収納される。
【0078】
測定値算出ステップS220においては、測定値算出部122が、出力分布推定値設定ステップS210において設定された出力分布に基づいて、各中性子検出器50の出力すなわち算出測定値Dncを算出する。各燃料領域10の出力Rm(m=1~M)の分布に基づく、中性子検出器50の測定値の算出は、前述の式(7)あるいは(8)を用いて行われる。算出された各中性子検出器50の算出測定値Dncは、算出測定値記憶部222に記憶、収納される。
【0079】
次に、出力分布推定ステップS300は、測定値差分算出(ステップS310)、目的関数値算出(ステップS320)、目的関数値最小判定(ステップS330)、および出力分布推定値更新(ステップS340)の各ステップを有する。
【0080】
測定値差分算出ステップS310においては、測定値差分算出部131が、検出器測定値記憶部203に収納された検出器測定値と算出測定値記憶部222に収納された算出測定値とに基づいて、検出器測定値Dnrと算出測定値Dncのそれぞれについて全中性子検出器50についての合計値が1となるように規格化する。規格化された値を規格化検出器測定値NDnrと規格化算出測定値NDncとする。
【0081】
すなわち、次の式(10)および式(11)による。
NDnr=Dnr/(ND1r+ND2r+・・・+NDNr) ・・・(10)
NDnc=Dnc/(ND1c+ND2c+・・・+NDNc) ・・・(11)
【0082】
測定値差分算出部131は、さらに、各中性子検出器50の規格化検出器測定値NDnrと規格化算出測定値NDncの差分ΔNDnを算出する。
【0083】
目的関数値算出ステップS320においては、目的関数値算出部132が、測定値差分に基づいて目的関数の値(目的関数値)Gを算出する。たとえば、目的関数値Gとして、次の式(12)により、中性子検出器50ごとの規格化検出器測定値NDnrと規格化算出測定値NDncの差分ΔNDnの絶対値の総和を算出する。
目的関数値G=|ΔD1|+|ΔD2|+・・・+|ΔDN| ・・・(12)
【0084】
目的関数値最小判定ステップS330においては、目的関数値算出部132が算出した目的関数値Gが最小値に到達したか否かを、目的関数値最小化判定部133が判定する。具体的には、たとえば、目的関数値Gが、所定の値ε以下となったか否かを判定する。
【0085】
目的関数値最小判定ステップS330において目的関数値Gが最小値に到達したと判定された場合(ステップS330 YES)は、手順を終了する。
【0086】
目的関数値最小判定ステップS330において目的関数値Gが最小値に到達したと判定されなかった場合(ステップS330 NO)は、出力分布推定値更新ステップS340に移行する。
【0087】
出力分布推定値更新ステップS340においては、出力分布推定値更新部134が、出力分布の更新内容を出力する。この結果、ステップS210に戻り、出力分布推定値設定部121が、出力分布推定値更新部134の更新内容出力に基づいて、出力分布の推定値を新たな推定値に設定する。さらに、ステップS220への移行を繰り返す。
【0088】
なお、目的関数値Gの判定ステップS330から、出力分布推定値更新ステップS340、出力分布推定値設定ステップS210の繰り返しのアルゴリズムは、一般的な最適化のアルゴリズム、あるいは再帰化のアルゴリズムを用いることができる。
【0089】
さらに、式(7)あるいは式(8)は形式的に線形式であることから、具体的には、IMPLEX法等の線形アルゴリズムを使用することもできる。あるいは、目的関数値Gとして絶対値の総和のような要素を導入した場合のように完全な線形として取り扱うのが難しい場合などは、非線形として取り扱ってもよい。
(原子炉内出力分布推定装置および方法の評価)
【0090】
以下、本実施形態に係る原子炉内出力分布推定装置500および方法の有効性を確認した結果を説明する。
【0091】
図8は、実施形態に係る原子炉内出力分布推定方法を適用する原子炉のモデルの例を示す水平断面図である。
【0092】
このモデルにおいて、原子炉1は、炉心30、炉心30を収納する原子炉圧力容器40、8体の中性子検出器50を有する。8体の中性子検出器50は、原子炉圧力容器40の径方向外側において、周方向に互いに間隔を置いて配されている。
【0093】
炉心30については、燃料集合体に対応する燃料領域10および水素化カルシウムで構成される減速材20をモデル化している。燃料領域10と減速材20は、それぞれ周方向に亘り配列されており、互いに径方向に交互に配列されている。
【0094】
燃料領域10としては、炉心30の中心から、第1層燃料集合体11、第2層燃料集合体12、第3層燃料集合体13、および第4層燃料集合体14の4層が設けられている。第1層燃料集合体11は第1層燃料集合体11a、第1層燃料集合体11bから時計回りに6体、第2層燃料集合体12は第2層燃料集合体12a、第2層燃料集合体12bから時計回りに18体、第3層燃料集合体13は第3層燃料集合体13a、第3層燃料集合体13bから時計回りに30体、また、第4層燃料集合体14は第4層燃料集合体14aから第4層燃料集合体14lまで時計回りに12体が、それぞれ存在する。
【0095】
以下、解析においては、第1層燃料集合体11aからの6体の第1層燃料集合体11をFA01~FA06と、第2層燃料集合体12aからの18体の第2層燃料集合体12をFB01~FB18と、第3層燃料集合体13aからの30体の第3層燃料集合体13をFC01~FC30と、第4層燃料集合体14aからの12体の第4層燃料集合体14をFD01~FD12として、それぞれの燃料領域10を表記している。
【0096】
減速材20は、第1層燃料集合体11と第2層燃料集合体12との間に12体の第1層減速材21が、第2層燃料集合体12との間に24体の第2層減速材22が、また、第3層燃料集合体13と第4層燃料集合体14との間に36体の第3層減速材23が、それぞれ配されている。
【0097】
ここで、第1のケースとしては、定常状態から、FC01すなわち第3層燃料集合体13の第3層燃料集合体13aの濃縮度が高くなった場合を想定した。
【0098】
まず、全ての燃料領域10の燃料の濃縮度が5wt%とした場合の各領域の出力相対値を定常時の出力分布とした。出力分布推定値設定ステップS210における出力分布推定値設定部121による原子炉の出力分布の初期値として、この定常時の出力分を用いた。
【0099】
また、FC01のみを20wt%のウラン235の濃縮度を有する燃料とし、それ以外の燃料領域10は5wt%のウラン235の濃縮度を有する燃料を、それぞれ配置した場合の出力分布を、核計算コードを用いて解析し、この結果を真値とした。
【0100】
図9は、実施形態に係る原子炉内出力分布推定方法を適用した場合の第1のケースにおける出力分布の実施例による推定値と真値との比較を示すグラフである。横軸は、それぞれの燃料領域10として、第1層燃料集合体11であるFA01~FA06、第2層燃料集合体12であるFB01~FB18、第3層燃料集合体13であるFC01~FC30、第4層燃料集合体14であるFD01~FD12の順に示す。縦軸は、燃料領域10の出力の合計値に対するそれぞれ燃料領域10の出力割合(%)を示す。
【0101】
細い一点鎖線で示す曲線f0は、定常時の出力分布を示す。実線で示す曲線ftは前述の真値を示す。また、太い破線の曲線feは、本実施例による推定結果を示す。
【0102】
ここで、目的関数値Gの判定ステップS330から、出力分布推定値更新ステップS340、出力分布推定値設定ステップS210の繰り返しのアルゴリズムは、一般化簡約勾配法(Generalized Reduced Gradient Method)を用いた。
【0103】
一点鎖線で示す定常時の出力分布f0と、第3層燃料集合体13のうちのFC01のみ濃縮度を高くした場合の実線で示す真値の出力分布ftとを比較すると次のような変化がみられる。
【0104】
第1に、FC01のみ濃縮度を高くした場合には、
図9のA部に示すようにFC01の出力にピークが生ずるとともに、FC01の周方向角度に近い周方向角度にある第2層燃料集合体12のFB01および第4層燃料集合体14のFD01にも、B部およびC部で示すように同様に出力のピークが生じている。
【0105】
第2に、定常状態においては、第2層ないし第4層の燃料領域10のそれぞれにおいては、六角形の各辺の中央が頂点側より出力の高い分布を有するが、この分布は各辺同士で互いに同じレベルである。一方、FC01のみ濃縮度を高くした場合には、
図9のD部で示す第2層およびE部で示す第3層のように、出力の偏りが生じている。
【0106】
ここで、太い破線の曲線で示す本実施例による推定結果においても、上述のような真値における変化の傾向をよく表していることが分かる。
【0107】
図10は、実施形態に係る原子炉内出力分布推定方法を適用した場合の第1のケースにおける出力分布の定常時の分布に対する比の真値との比較を示すグラフである。横軸は、
図9と同様に、燃料領域10を、FA01からFD12の順に示している。縦軸は、各燃料領域10における定常状態の出力に対する比を示す。
【0108】
実線で示す曲線gtは真値を示す。また、太い破線の曲線geは、本実施例による推定結果を示す。縦軸の値が1.0の位置が基準である定常状態を示すので、太い破線の本実施例による推定結果は、定常状態からの出力分布の変化の様子をよく模擬している。
【0109】
図11は、実施形態に係る原子炉内出力分布推定方法を適用した場合の第2のケースにおける出力分布についての実施例による相関ありの場合の推定値と相関なしの場合および真値との比較を示すグラフである。
図9と同様に、燃料領域10を、FA01からFD12の順に示しており、縦軸は、燃料領域10の出力の合計値に対するそれぞれ燃料領域10の出力割合(%)を示す。
【0110】
この第2のケースでは、
図8において、24体の第2層減速材22のうちの、図の正午の位置の第2層減速材22aから数えて15番目の第2層減速材22oにおいて、水素化カルシウム減速材から水素が解離したケースについて評価を行った。
【0111】
なお、このケース2では、燃料間出力相関係数の導入の効果を示すために、出力分布依存検出器応答係数CC
nm(n=1~N、m=1~M)を用いて式(7)あるいは式(8)を用いて算出測定値を算出する本実施形態による場合と、燃料領域10の相互の相関を考慮しない場合の両者の比較を行った。これは、
図6で示す場合と、
図3で示す場合との比較ともいえる。
【0112】
図11において、実線で示す曲線htは真値、■の点と点線で示す曲線heは相関有り、▲の点と破線で示す曲線hnは相関無しの場合を示す。
【0113】
図11に示されるように、出力分布依存検出器応答係数CC
nmを導入することによって、Nが8、Mが66のケース、すなわち、8つの中性子検出器50により66体の燃料領域10の出力の場合においても推定可能である。この推定にあたり、飛躍的に出力分布の予測精度が向上させることができることが示された。
【0114】
なお、上述の実施例では、中性子検出器50が原子炉圧力容器40の外側に配置された炉外計装の場合を例にとって示したが、これに限定されない。すなわち、用いられた評価式に関して、中性子検出器50の設置位置が炉内か炉外かの区別はないことから、中性子検出器50が炉内で発生した中性子を検出できる位置に配置されている場合であれば、適用できる。
【0115】
上述のように、本実施形態によれば、複数の中性子検出器50の測定値に基づいて、出力ピーク位置や出力の偏りを再現でき、原子炉の出力分布を精度よく把握することができる。これにより原子炉内で異常が発生した場合、出力変動が発生している異常個所を特定することが可能となり、原子炉の異常の早期発見にも寄与することができる。
[その他の実施形態]
【0116】
以上、本発明の実施形態を説明したが、実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。また、各実施形態の特徴を組み合わせてもよい。また、実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。
【0117】
実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0118】
1…原子炉、10…燃料領域、11…第1層燃料集合体、12…第2層燃料集合体、13…第3層燃料集合体、14…第4層燃料集合体、20…減速材、21…第1層減速材、22…第2層減速材、23…第3層減速材、30…炉心、40…原子炉圧力容器、50…中性子検出器、100…演算部、110…応答特性評価部、111…検出器応答評価・係数算出部、111a…出力分布仮定部、111b…検出器応答評価部、111c…検出器応答係数算出部、112…燃料間出力相関評価・係数算出部、112a…出力相関挙動評価部、112b…平均核分裂中性子発生数評価部、112c…燃料間検出器応答評価・係数算出部出力相関係数算出部、113…出力相関依存応答係数算出部、120…測定値評価部、121…出力分布推定値設定部、122…測定値算出部、130…推定最適化部、131…測定値差分算出部、132…目的関数値算出部、133…目的関数値最小化判定部、134…出力分布推定値更新部、140…出力分布推定部、200…記憶部、201…炉心データ記憶部、202…中性子検出器データ記憶部、203…検出器測定値記憶部、211…検出器応答係数記憶部、212…燃料間出力相関係数記憶部、213…出力分布依存検出器応答係数記憶部、221…設定出力分布記憶部、222…算出測定値記憶部、310…入力部、320…出力部、500…原子炉内出力分布推定装置