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特許7458298ホットランナー金型の昇温方法、ホットランナー金型、および射出成形機
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-21
(45)【発行日】2024-03-29
(54)【発明の名称】ホットランナー金型の昇温方法、ホットランナー金型、および射出成形機
(51)【国際特許分類】
   B29C 45/78 20060101AFI20240322BHJP
   B29C 45/20 20060101ALI20240322BHJP
   B29C 45/73 20060101ALI20240322BHJP
【FI】
B29C45/78
B29C45/20
B29C45/73
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2020183472
(22)【出願日】2020-11-02
(65)【公開番号】P2022073473
(43)【公開日】2022-05-17
【審査請求日】2023-05-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000004215
【氏名又は名称】株式会社日本製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】100097696
【弁理士】
【氏名又は名称】杉谷 嘉昭
(74)【代理人】
【識別番号】100147072
【弁理士】
【氏名又は名称】杉谷 裕通
(72)【発明者】
【氏名】澤田 靖彦
【審査官】北澤 健一
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-205320(JP,A)
【文献】特開2000-117800(JP,A)
【文献】特開2002-059458(JP,A)
【文献】特開2007-210163(JP,A)
【文献】特開平09-150444(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 45/00-45/84
B29C 33/00-33/76
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金型内に複数個のヒータと複数個の温度センサとを備え、前記金型内のランナーの樹脂温度を制御するホットランナー金型において、前記金型が冷却して前記ランナー内の樹脂が固化した状態から複数個の前記ヒータにより前記ランナーを加熱して樹脂を溶融させて成形サイクルの開始が可能な状態にする昇温方法であって、
前記昇温方法は予め実施する準備段階と、実行段階とを備え、
前記準備段階は、複数個の前記温度センサ毎に昇温完了の温度であるセンサ別設定温度を定める第1のステップと、
前記金型が冷却して前記ランナー内の樹脂が固化した状態から複数個の前記ヒータをONして複数個の前記温度センサによって検出される温度のそれぞれが前記センサ別設定温度に到達する時間であるセンサ別温度到達時間を得る第2のステップと、を備え、
前記実行段階は、前記金型が冷却して前記ランナー内の樹脂が固化した状態から複数個の前記ヒータにより前記ランナーを加熱して樹脂を溶融させて成形サイクルの開始が可能な状態にするとき、前記センサ別温度到達時間に基づいて、複数個の前記センサによって検出される温度のそれぞれが前記センサ別設定温度に到達するタイミングが一致するように複数個の前記ヒータを制御する、金型の昇温方法。
【請求項2】
前記実行段階において、複数個の前記ヒータ毎に通電開始のタイミングをずらして昇温完了のタイミングを一致させる、請求項1に記載の金型の昇温方法。
【請求項3】
前記実行段階において、複数個の前記ヒータ毎に供給する電力を制御して、昇温完了のタイミングを一致させる、請求項1に記載の金型の昇温方法。
【請求項4】
前記金型はゲートにバルブが設けられたバルブゲートタイプからなる、請求項1~3のいずれかの項に記載の金型の昇温方法。
【請求項5】
前記金型はゲートが開口したオープンゲートタイプからなる、請求項1~3のいずれかの項に記載の金型の昇温方法。
【請求項6】
金型内のランナーの樹脂温度が制御されるホットランナー金型であって、
前記金型内に設けられている複数個のヒータと、
前記金型内に設けられている複数個の温度センサと、複数個の前記ヒータを制御するコントローラと、を備え、
前記コントローラには複数個の前記温度センサ毎の昇温完了の温度であるセンサ別設定温度と、前記金型が冷却して前記ランナー内の樹脂が固化した状態から複数個の前記ヒータをONして複数個の前記温度センサがそれぞれ前記センサ別設定温度に到達する時間であるセンサ別温度到達時間と、が設定されており、
前記コントローラは、
前記金型が冷却して前記ランナー内の樹脂が固化した状態から複数個の前記ヒータにより前記ランナーが加熱されて樹脂が溶融して成形サイクルの開始が可能な状態にするとき、
複数個の前記温度センサによって検出される温度のそれぞれについて、前記センサ別温度到達時間に基づいて、前記センサ別設定温度に到達する昇温完了のタイミングが一致するよう複数個の前記ヒータを制御する、ホットランナー金型。
【請求項7】
前記コントローラは、昇温完了のタイミングが一致するよう、複数個の前記ヒータ毎に通電開始のタイミングを決定する、請求項6に記載のホットランナー金型。
【請求項8】
前記コントローラは、昇温完了のタイミングが一致するよう、複数個の前記ヒータ毎に供給する電力を制御する、請求項6に記載のホットランナー金型。
【請求項9】
前記金型はゲートにバルブが設けられたバルブゲートタイプからなる、請求項6~8のいずれかの項に記載のホットランナー金型。
【請求項10】
前記金型はゲートが開口したオープンゲートタイプからなる、請求項6~8のいずれかの項に記載のホットランナー金型。
【請求項11】
金型が設けられている型締装置と、
樹脂を射出する射出装置と、
コントローラと、を備え、
前記金型は、内部に複数個のヒータと複数個の温度センサが設けられ、前記金型内のランナーの樹脂温度が制御されるホットランナー金型であり、
前記コントローラには複数個の前記温度センサ毎の昇温完了の温度であるセンサ別設定温度と、前記金型が冷却して前記ランナー内の樹脂が固化した状態から複数個の前記ヒータをONして複数個の前記温度センサがそれぞれ前記センサ別設定温度に到達する時間であるセンサ別温度到達時間と、が設定されており、
前記コントローラは、
前記金型が冷却して前記ランナー内の樹脂が固化した状態から複数個の前記ヒータにより前記ランナーが加熱されて樹脂が溶融して成形サイクルの開始が可能な状態にするとき、
複数個の前記温度センサによって検出される温度のそれぞれについて、前記センサ別温度到達時間に基づいて、前記センサ別設定温度に到達する昇温完了のタイミングが一致するよう複数個の前記ヒータを制御する、射出成形機。
【請求項12】
前記コントローラは、昇温完了のタイミングが一致するよう、複数個の前記ヒータ毎に通電開始のタイミングを決定する、請求項11に記載の射出成形機。
【請求項13】
前記コントローラは、昇温完了のタイミングが一致するよう、複数個の前記ヒータ毎に供給する電力を制御する、請求項11に記載の射出成形機。
【請求項14】
前記金型はゲートにバルブが設けられたバルブゲートタイプからなる、請求項11~13のいずれかの項に記載の射出成形機。
【請求項15】
前記金型はゲートが開口したオープンゲートタイプからなる、請求項11~13のいずれかの項に記載の射出成形機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金型内に複数個のヒータと温度センサとが設けられ、金型内のランナーの樹脂温度が制御されるようになっているホットランナー金型において、ランナー内の樹脂が固化した状態からヒータによって樹脂を溶融して成形サイクル可能な状態にする、金型の昇温方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ホットランナー金型は、ランナーを加熱するヒータが金型内に設けられた金型であり、ランナー内の樹脂の温度を制御できるようになっている。ホットランナー金型を使用して成形すると、金型のキャビティ内に充填された樹脂が冷却固化されるときも、ランナー内の樹脂を溶融状態に維持することができるので、固化したランナーを廃棄する必要がなく樹脂の無駄が少ない。ホットランナー金型には、ゲートが常時開口しているオープンゲートタイプと、ゲートがバルブによって開閉するバルブゲートタイプとがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平9-150444号公報
【0004】
オープンゲートタイプのホットランナー金型は、成形品の取り出し時にゲートからの糸引きを防止するため、ゲート部近傍の樹脂温度、つまりホットランナーノズルの樹脂温度を一時的に低下させる必要がある。
【0005】
特許文献1には、複数のゲートを備えたオープンゲートタイプのホットランナー金型において、それぞれのホットランナーノズルの樹脂温度が低下した状態から、これらを射出可能な温度に昇温させる温度制御方法が記載されている。この文献によると、複数のホットランナーノズル毎に、ヒータに一定レベルの加熱用電力を与えたときに所望の温度に達するまでの所要時間である出力時間データをあらかじめ得る。成形サイクルにおいては、それぞれのホットランナーノズルの出力時間データに基づいて、ヒータをONするタイミングをずらして、複数のホットランナーノズルについて同時に昇温が完了するように制御する。このようにすると、ホットランナーノズル毎に温度センサを設ける必要がなく、全てのホットランナーノズルを同時に所望の温度にすることができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の昇温方法は、オープンゲートタイプのホットランナー金型を対象として、成形サイクルを繰り返すときに射出時に複数のホットランナーノズルの温度を同時に所望の温度にすることを目的としている。しかしながらホットランナー金型にはオープンゲートタイプだけでなくバルブゲートタイプもあり、いずれのタイプにおいても共通して解決すべき問題がある。
【0007】
具体的には、ホットランナー金型において、成形サイクルを停止してランナー内の樹脂が完全に固化した状態から、ヒータによりランナーを加熱して樹脂を溶融し成形サイクルを開始可能な状態にするとき、樹脂が長時間高温状態になって樹脂の品質が低下するという問題がある。金型内の複数のホットランナーは早く昇温完了する部位に対し、遅れて昇温完了する部位がある。早く昇温完了した部位は高温のまま遅れて昇温完了する部位の昇温を待つことになり、その待ち時間に樹脂の劣化という問題を起こしてしまう。そこで本開示において、可及的に樹脂の品質の低下を抑制する、ホットランナー金型の昇温方法を提供する。
【0008】
その他の課題と新規な特徴は、本明細書の記述及び添付図面から明らかになるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示は、金型内に複数個のヒータと複数個の温度センサとが設けられているホットランナー金型を対象とし、金型が冷却してランナー内の樹脂が固化した状態からヒータによりランナーを加熱して樹脂を溶融させて成形サイクルが可能な状態にする昇温方法になっている。本開示によると、昇温方法は準備段階と実行段階とから構成する。準備段階は、複数個の温度センサ毎に昇温完了の温度であるセンサ別設定温度を定める第1のステップと、金型が冷却してランナー内の樹脂が固化した状態から複数個のヒータをONして複数個の温度センサによって検出される温度のそれぞれがセンサ別設定温度に到達する時間であるセンサ別温度到達時間を得る第2のステップとから構成する。そして実行段階は、金型が冷却してランナー内の樹脂が固化した状態から複数個のヒータによりランナーを加熱して樹脂を溶融させて成形サイクルの開始が可能な状態にするとき、センサ別温度到達時間に基づいて、複数個のセンサによって検出される温度のそれぞれがセンサ別設定温度に到達するタイミングを一致させるように複数個のヒータを制御する。
【発明の効果】
【0010】
本開示によると、金型が冷却してランナー内の樹脂が固化した状態からヒータによってランナーを加熱するときに、ランナー内の樹脂が高温状態で長時間維持されることがなく、樹脂の劣化を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本実施の形態に係る射出成形機を示す正面図である。
図2】本実施の形態に係る射出成形機の一部と、本実施の形態に係るオープンゲートタイプのホットランナ金型とを示す正面断面図である。
図3】本実施の形態に係る射出成形機の一部と、本実施の形態に係るバルブゲートタイプのホットランナ金型とを示す正面断面図である。
図4】本実施の形態に係るホットランナ金型の昇温方法の、準備段階を示すフローチャートである。
図5】本実施の形態に係るホットランナ金型の昇温方法の準備段階において金型を昇温するとき、金型内の複数個の温度センサで検出される温度の変化を示すグラフである。
図6】本実施の形態に係るホットランナ金型の昇温方法の、実行段階を示すフローチャートである。
図7】本実施の形態に係るホットランナ金型の昇温方法の、実行段階によって金型を昇温するときの、金型内の複数個の温度センサで検出される温度の変化を示すグラフである。
図8】本実施の形態に係るホットランナ金型の昇温方法の、実行段階によって金型を昇温するときの、金型内の複数個の温度センサで検出される温度の変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、具体的な実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。ただし、以下の実施の形態に限定される訳ではない。説明を明確にするため、以下の記載及び図面は、適宜簡略化されている。各図面において、同一の要素には同一の符号が付されており、必要に応じて重複説明は省略されている。また、図面が煩雑にならないように、ハッチングが省略されている部分がある。
【0013】
<射出成形機>
本実施の形態に係る射出成形機1は、図1に示されているように、ベッドBに設けられている型締装置2と射出装置3とから概略構成されている。型締装置2は、固定盤7と、可動盤8と、型締ハウジング9と、型締ハウジング9と固定盤7とを連結しているタイバー10、10、…と、トグル機構11とから構成され、トグル機構11を駆動すると型開閉できるようになっている。固定盤7と可動盤8には本実施の形態に係るホットランナー金型14が設けられているが、ホットランナー金型14については後で詳しく説明する。
【0014】
射出装置3は、加熱シリンダ16と、この加熱シリンダ16に入れられているスクリュとから概略構成されている。本実施の形態に係る射出成形機1には、コントローラ18が設けられ、型締装置2と射出装置3だけでなく、ホットランナー金型14もコントローラ18に接続され、制御されるようになっている。
【0015】
<ホットランナ金型 オープンゲートタイプ>
本実施の第1の形態に係るホットランナー金型14を説明する。図2には、いわゆるオープンゲートタイプのホットランナー金型14が示されている。ホットランナー金型14は、固定盤7に取り付けられている固定側金型21と、可動盤8に取り付けられている可動側金型22とから構成されている。
【0016】
可動側金型22には、そのパーティングラインに比較的大きい2個の凸部24、25と、小さい2個の凸部26、27が形成されている。これら凸部24、25、26、27に対応するように、固定側金型21のパーティングラインには比較的大きい2個の凹部29、30と、小さい凹部31、32が形成されている。したがって金型21、22が型締めされると、比較的大きな2個のキャビティと、小さな2個のキャビティとが構成される。
【0017】
固定側金型21内には、スプルーブッシュ35と、マニホールド36と、マニホールド36に設けられている比較的大型の2本のホットランナーノズル38、39と、小型の2本のホットランナーノズル40、41とが設けられている。ホットランナーノズル38、39、40、41は先端がゲートになっており、それぞれのキャビティに接続されて樹脂を射出するようになっている。またスプルーブッシュ35には、加熱シリンダ16の先端に設けられている射出ノズル17がタッチしている。
【0018】
<ヒータ>
固定側金型21に設けられているスプルーブッシュ35にはその外側にヒータ43が、ホットランナーノズル38~41にはその外側にヒータ45~48がそれぞれ設けられている。そしてマニホールド36には、複数本のヒータ44、44、…が埋め込まれている。これらヒータ43~48はコントローラ18によってそれぞれ独立に電力を供給できるようになっている。また、ヒータ43~48は、電力を供給すると、スプルーブッシュ35、マニホールド36、ホットランナーノズル38~41を加熱して、これらの内部に形成されている樹脂流路つまりランナが加熱されるようになっている。なお、図が複雑にならないように、図2においてそれぞれのヒータ43~48とコントローラ18の接続は省略されている。
【0019】
<温度センサ>
固定側金型21には、スプルーブッシュ35、マニホールド36、4本のホットランナーノズル38~41に対応してそれぞれの温度を検出する温度センサ50~55が設けられている。これらの温度センサ50~55もコントローラ18に接続されて、スプルーブッシュ35、マニホールド36、4本のホットランナーノズル38~41の温度がコントローラ18に入力されるようになっている。しかしながら図が複雑にならないように、図2において温度センサ50~55とコントローラ18の接続は省略されている。
【0020】
本実施の形態に係る昇温方法は、この本実施の第1の形態に係るホットランナー金型14に対して実施するが、他の形態に係るホットランナー金型14‘についても実施することができる。本実施の形態に係る昇温方法を説明する前に、第2の形態に係るホットランナー金型14’について説明する。
【0021】
<ホットランナ金型 バルブゲートタイプ>
本実施の第2の形態に係るホットランナー金型14‘は、図3に示されているように、バルブゲートタイプになっている。第1の実施の形態に係るホットランナー金型14と同様の部材については説明を省略する。この実施の形態に係るホットランナー金型14’には、ホットランナーノズル38~41に対してニードル状のバルブ57~60が設けられている。これらのバルブ57~60は、それぞれピストンシリンダユニット61~64によって駆動されるようになっている。
【0022】
<本実施の形態に係るホットランナー金型の昇温方法>
本実施の形態に係るホットランナー金型の昇温方法は、金型14、14‘が冷却してランナー内の樹脂が完全に固化した状態から、ヒータ43~48を加熱してランナー内の樹脂を溶融して成形サイクルが可能な状態にする昇温方法である。この昇温方法は、第1、2の形態に係るホットランナー金型14、14‘のいずれに対しても実施することができる。本実施の形態に係るホットランナー金型の昇温方法は、準備段階と実行段階とから構成されている。
【0023】
<準備段階>
<センサ別設定温度の設定>
準備段階では、図4に示されているように、まずコントローラ18においてセンサ別設定温度の設定S1を実施する。センサ別設定温度は、温度センサ50~55のそれぞれに対して設定する、昇温完了時における温度である。各温度センサ50~55がそれぞれのセンサ別設定温度に達したら、成形サイクルを開始することができる。樹脂はその種類によって射出に適した温度が異なっているので、センサ別設定温度は樹脂の種類に応じて決定する必要がある。また、オープンゲートタイプのホットランナー金型14を使用するのか、バルブゲートタイプのホットランナー金型14‘を使用するのか、ゲートの種類によっても適切な温度が異なる。以下の表に、樹脂の種類とゲートの種類の違いによる射出時の適切な温度をまとめる。
【0024】
【表1】
【0025】
例えば、ポリメチルメタクリート(PMMA)を使用する場合には、センサ別設定温度は射出時の温度である250℃を参考にして設定することになる。センサ別設定温度は温度センサ50~55について全て同じ温度にしてもいいが、異なる温度に設定してもよい。例えば、温度センサ50については246℃、温度センサ51については248℃、温度センサ52~55については250℃とすることができる。ただし、オープンゲートタイプのホットランナー金型14‘の場合には、センサ別設定温度は待機時の温度を参考にして設定してもよい。例えば、温度センサ50については245℃、温度センサ51については247℃、温度センサ52~55については待機時の温度である210℃とすることができる。なお、待機時の温度から射出時の温度に昇温するのに要する時間は、2~3秒である。
【0026】
<固化状態からの昇温試験>
準備段階において、次に固化状態からの昇温試験S2を実施する。成形サイクルを停止してホットランナー金型14、14‘のヒータ43~48への通電を停止して、ランナー内の樹脂が完全に固化した状態にする。この状態からヒータ43~48に対して一斉に通電を開始し、それぞれに対して標準的に設定されている電力を供給する。温度センサ50~55におけるそれぞれの温度の変化の様子が図5に示されている。符号71、72はそれぞれ温度センサ50、51に対するセンサ別設定温度を、符号73は温度センサ52、53に対するセンサ別設定温度を、そして符号74は温度センサ54、55に対するセンサ別設定温度を示している。温度センサ50~55が、センサ別設定温度71~74に達したそれぞれの時間、つまりセンサ別温度到達時間76~79を得て、コントローラ18に設定する。
【0027】
なお、上述したように、固化状態からの昇温試験S2では、ランナー内の樹脂が完全に固化した状態からヒータ43~48に対して一斉に通電を開始し、一度にセンサ別温度到達時間76~79を得るのが好ましい。しかしながら、温度センサ50~55のそれぞれについて、別々にセンサ別温度到達時間76~79を得るようにしてもよい。例えば、ある温度センサのセンサ別温度到達時間を取得する場合、ランナー内の樹脂が完全に固化した状態から当該温度センサの近傍のヒータのみ通電して当該温度センサが設定温度に到達した時間を測定する。この動作を温度センサ50~55毎に行えば、センサ別温度到達時間76~79がそれぞれ得られる。
【0028】
<実行段階>
実行段階は、射出成形機1を長時間停止した状態から成形サイクルを開始するときに実施する処理であり、ホットランナー金型14、14‘のランナー内の樹脂が固化した状態からホットランナー金型14、14’を加熱・昇温して成形サイクル開始が可能な状態にする。本実施の形態に係る射出成形機1は、2個の昇温モードが用意され、選択可能になっている。コントローラ18には予めいずれかの昇温モードが設定されている。図6に示されているように、コントローラ18は昇温モードの選択S11を実施する。
【0029】
<時間差起動モード>
コントローラ18は、昇温モードとして時間差起動モードが設定されている場合、処理S12を実施する。まず、図5に示されている、センサ別温度到達時間76~79の中で時間が最も長いセンサ別温度到達時間を探す。センサ別温度到達時間77が最も長いので、これに対応するヒータ44に対して標準電力にて通電を開始する。
【0030】
そして、次に時間が長いセンサ別温度到達時間を探す。センサ別温度到達時間76が次に長いので、これに対応するヒータ43に対して標準電力にて通電を開始する。このとき、最初にONしたヒータ44のセンサ別温度到達時間77と、次にONするヒータのセンサ別温度到達時間76との時間差だけ、ヒータ43をONにするタイミングを遅らせる。
【0031】
そして、その次に時間が長い、すなわち、三番目に時間が長いセンサ別温度到達時間を探す。センサ別温度到達時間79が三番目に長いので、これに対応するヒータ47,48に対して標準電力にて通電を開始する。このとき、最初にONしたヒータ44のセンサ別温度到達時間77と、三番目にONするヒータ47,48のセンサ別温度到達時間79との時間差だけ、ヒータ47,48をONにするタイミングを遅らせる。
【0032】
最後に、時間が最も短いセンサ別温度到達時間78に対応するヒータ45,46に対して標準電力にて通電を開始する。このとき、最初にONしたヒータ44のセンサ別温度到達時間77と、最後にONするヒータのセンサ別温度到達時間78との時間差だけ、ヒータ45,46をONにするタイミングを遅らせる。
【0033】
順次このようにヒータ43~48をONすると、温度センサ50~55において検出されるそれぞれの温度がセンサ別設定温度に到達するタイミングを一致させることができる。この様子が、図7のグラフにおいて示されている。すなわち、全ての温度センサ50~55がセンサ別設定温度に到達するタイミング80を一致させるようにする。タイミング80以降、成形サイクルの開始が可能になっている。
【0034】
<電力調整モード>
昇温モードとして電力調整モードが設定されている場合には、コントローラ18は処理S13を実施する。すなわち、ヒータ43~48に対して一斉に通電を開始する。ただし、センサ別温度到達時間76~79の中で時間が最も長いセンサ別温度到達時間77(図5参照)に対応するヒータ44に対しては標準電力で通電するが、他のヒータ43、45~47については標準電力より小さな電力で通電するようにする。具体的には、センサ別温度到達時間が短くなればなるほど、ヒータ43、45~47に通電する電力を小さくする。
【0035】
これによって、図8に示されているように、全ての温度センサ50~55がセンサ別設定温度に到達するタイミング81を一致させるようにする。タイミング81以降、成形サイクルの開始が可能になる。コントローラ18は、処理S13に続いて処理S14を実施する。すなわち、全ての温度センサ50~55がセンサ別設定温度に到達したときに、ヒータ43~48に通電する電力を標準電力に戻す。
【0036】
以上、本発明者によってなされた発明を実施の形態に基づき具体的に説明したが、本発明は既に述べた実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の変更が可能であることはいうまでもない。以上で説明した複数の例は、適宜組み合わせて実施されることもできる。
【符号の説明】
【0037】
1 射出成形機 2 型締装置
3 射出装置 7 固定盤
8 可動盤 9 型締ハウジング
10 タイバー 11 トグル機構
14 ホットランナー金型 16 加熱シリンダ
18 コントローラ 21 固定側金型
22 可動側金型 35 スプルーブッシュ
36 マニホールド
38~41 ホットランナーノズル
43~48 ヒータ
50~55 温度センサ
57~60 バルブ
61~64 ピストンシリンダユニット
71~74 センサ別設定温度
76~79 センサ別温度到達時間


図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8