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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-21
(45)【発行日】2024-03-29
(54)【発明の名称】電力変換装置
(51)【国際特許分類】
   H02M 7/48 20070101AFI20240322BHJP
【FI】
H02M7/48 E
H02M7/48 R
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2020190877
(22)【出願日】2020-11-17
(65)【公開番号】P2022079968
(43)【公開日】2022-05-27
【審査請求日】2023-03-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】弁理士法人志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】関口 慧
(72)【発明者】
【氏名】石黒 崇裕
【審査官】麻生 哲朗
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-059146(JP,A)
【文献】特開平07-123726(JP,A)
【文献】特開2014-042381(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 7/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
交流と直流とを変換可能な電力変換装置であって、
前記交流側の出力を切り替え可能とするスイッチング素子を含む電力変換器と、
前記スイッチング素子に動作指令を与える変換器制御部と、
を備え、
前記変換器制御部は、前記電力変換器に流れる交流電流を制御する電流制御部と、
前記交流の電圧または前記交流電流の高調波成分を検知する共振状態検知部と、を備え、
前記電流制御部は、前記交流の電圧または前記交流電流の所定周波数範囲の高調波成分に対する感度を低減させて制御する感度低減部を備え、
前記感度低減部は、少なくとも前記交流の電圧の絶対値が所定の範囲にない場合に前記感度を低減させることを実質的に無効化し、あるいは感度低減量を緩和
前記交流の電圧の絶対値が所定の範囲にあり、かつ少なくとも前記共振状態検知部によって検知された高調波振幅が閾値以上の場合に、前記感度を低減させることを有効化する、
電力変換装置。
【請求項2】
前記感度低減部は、前記感度を低減させることが有効化された状態において、前記交流の系統状態や負荷状態が変化した信号を外部から受信した際に前記感度を低減させることを実質的に無効化し、あるいは感度低減量を緩和する、
請求項1に記載の電力変換装置。
【請求項3】
交流と直流とを変換可能な電力変換装置であって、
前記交流側の出力を切り替え可能とするスイッチング素子を含む電力変換器と、
前記スイッチング素子に動作指令を与える変換器制御部と、
を備え、
前記変換器制御部は、前記電力変換器に流れる交流電流を制御する電流制御部を備え、
前記電流制御部は、前記交流の電圧または前記交流電流の所定周波数範囲の高調波成分に対する感度を低減させて制御する感度低減部を備え、
前記感度低減部は、少なくとも前記交流の電圧の絶対値が所定の範囲にない場合に前記感度を低減させることを実質的に無効化し、あるいは感度低減量を緩和し、
前記感度低減部は、
前記交流の電圧の絶対値が所定の範囲にあるときに前記感度を低減させることを実質的に無効化し、あるいは感度低減量を緩和する場合は、
前記交流の電圧の絶対値が所定の範囲にないときに前記感度を低減させることを実質的に無効化し、あるいは感度低減量を緩和する場合と比較して、
長時間をかけて徐々に前記感度低減量を緩和する、
電力変換装置
【請求項4】
前記感度低減部は、前記交流の電圧または前記交流電流の入力信号をそのまま出力することで前記感度を低減させることを実質的に無効化する、
請求項1から3のうちいずれか一項に記載の電力変換装置。
【請求項5】
前記感度低減部は、前記交流の電圧または前記交流電流の所定周波数範囲の高調波成分を減衰可能なカットオフ周波数を有する低域通過フィルタを含む処理を実行し、
前記感度低減部は、前記カットオフ周波数をもとの状態よりも高周波に調整することで、前記感度低減量を緩和する、
請求項1から4のうちいずれか一項に記載の電力変換装置。
【請求項6】
前記感度低減部は、前記感度を低減させることを有効化してから所定時間後に前記感度を低減させることを実質的に無効化し、あるいは感度低減量を緩和する、
請求項に記載の電力変換装置。
【請求項7】
前記共振状態検知部は、前記交流電圧または前記交流電流における所定の周波数範囲の中で高調波振幅が最大となる振動周波数または振動周波数帯域を検知する振動周波数検知部を備え、
前記感度低減部は、前記交流の電圧または前記交流電流の少なくとも前記振動周波数を含む所定周波数範囲の感度を低減させて制御する、
請求項1又は6に記載の電力変換装置。
【請求項8】
前記振動周波数検知部は、フーリエ変換演算により、高調波振幅の大きな周波数成分を特定する、
請求項に記載の電力変換装置。
【請求項9】
前記振動周波数検知部は、前記交流電圧または前記交流電流の振動周期を観測し、前記振動周期の逆数を演算することで、前記振動周波数を得る、
請求項に記載の電力変換装置。
【請求項10】
前記感度低減部は、前記振動周波数に応じて特性設定を変更するディジタルフィルタの処理を実行する、
請求項から請求項のうちいずれか一項に記載の電力変換装置。
【請求項11】
前記ディジタルフィルタは、前記振動周波数より低いカットオフ周波数に調整された低域通過フィルタを含む、
請求項10に記載の電力変換装置。
【請求項12】
前記ディジタルフィルタは、前記振動周波数を含む周波数帯域を減衰させるノッチフィルタを含む、
請求項10に記載の電力変換装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、電力変換装置に関する。
【背景技術】
【0002】
系統連系する電力変換装置では、系統側の配線や負荷等による系統インピーダンスと変換器制御との相互作用で電圧共振を発生し、運転が不安定化して場合によっては運転継続できない問題がある。共振様相は場所・時間ごとに刻々と変化する未知な系統インピーダンス条件にも依存するため、特定条件で安定な制御パラメータを適用した場合も系統状態が変化し、例えば共振周波数が変動すると不安定化する恐れがある。
【0003】
系統インピーダンスを推定し、推定結果に基づき設定したノッチフィルタ等によって振動周波数帯域の制御感度を低下させる手法も提案されているが、ほかの周波数帯域の制御感度も影響を受け、応答性能が低下する可能性がある。その場合、特に系統事故によって系統連系点電圧が急速に低下したときに変換器電流を機器耐量以下に抑制し、運転継続することが困難となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2019-106843
【非特許文献】
【0005】
【文献】H. Saad、 Y. Fillion、 S. Deschanvres、 Y. Vernay and S. Dennetiere: “On Resonances and Harmonics in HVDCMMC Station Connected to AC Grid、” IEEE Trans. Pow. Del.、 vol. 32、 no. 3、 pp. 1565-1573 (2017-06)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、共振抑制と運転継続性能を両立した信頼性の高い電力変換装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
実施形態の電力変換装置は、電力変換器と、変換器制御部とを持つ。電力変換装置は、交流と直流とを変換可能である。電力変換器は、交流側の出力を切り替え可能とするスイッチング素子を含む。変換器制御部は、スイッチング素子に動作指令を与える。変換器制御部は、電流制御部を持つ。電流制御部は、電力変換器に流れる交流電流を制御する。電流制御部は、感度低減部を持つ。感度低減部は、交流の電圧または交流電流の所定周波数範囲の高調波成分に対する感度を低減させて制御する。感度低減部は、少なくとも交流の電圧の絶対値が所定の範囲にない場合に感度を低減させることを実質的に無効化し、あるいは感度低減量を緩和する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】第1の実施形態の電力変換装置10の構成の一例を示す図。
図2】第1の実施形態の電力変換器20と系統インピーダンス30の関係の一例を示す図。
図3】第1の実施形態の変換器制御部100のより詳細な構成の一例を示す図。
図4】第1の実施形態の電力変換装置10の交流情報算出部110の構成の一例を示す図。
図5】第1の実施形態の電力変換装置10の系統事故検知部120の構成の一例を示す図。
図6】第1の実施形態の電力変換装置10のインピーダンス特性図の一例を示す図。
図7】第2の実施形態の変換器制御部100の構成の一例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、実施形態の電力変換装置10を、図面を参照して説明する。
【0010】
(第1の実施形態)
図1は、第1の実施形態の電力変換装置10の構成の一例を示す図である。電力変換装置10は、交流系統と直流系統の連系点に設けられ、交流系統が供給する交流電力と、直流系統が供給する直流電力とを変換する。交流系統は、交流電源ACVや交流負荷、直流系統は、直流電源DCVや直流負荷であってもよい。
【0011】
図1に示す通り、電力変換装置10は、電力変換器20と、変換器制御部100とを備える。電力変換器20は、変換器制御部100の制御に基づいて、交流電力と直流電力とを相互に変換する。電力変換器20は、例えば、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)やMOSFET(metal-oxide-semiconductor field-effect transistor)などの自己消弧型スイッチング素子を用いて構成した回路である。より具体的には、電力変換器20は、MMC(modular multilevel converter)であってよい。
【0012】
変換器制御部100は、交流情報算出部110と、系統事故検知部120と、感度低減部130と、電流制御部140と、過電流判定部160と、ゲート指令生成部170とを備える。変換器制御部100は、例えば、CPU等のハードウェアプロセッサが記憶部(不図示)に記憶されるプログラム(ソフトウェア)を実行することにより、交流情報算出部110と、系統事故検知部120と、感度低減部130と、電流制御部140と、過電流判定部160と、ゲート指令生成部170とを機能部として実現する。また、これらの構成要素のうち一部又は全部は、LSIやASIC、FPGA、GPU等のハードウェアによって実現されてもよいし、ソフトウェアとハードウェアの協働によって実現されてもよい。
【0013】
交流情報算出部110は、系統連系点電圧Vsr、Vss、Vstの検出値を用いて、系統電圧検出位相thetaに同期した回転座標軸上の交流電圧成分Vsd、Vsqを算出する。
【0014】
系統事故検知部120は、交流電圧成分Vsdに基づいて系統電圧の異常を検知し、事故検知信号FLTを出力する。
【0015】
感度低減部130は、例えば、交流電圧成分Vsd、Vsqや、後述する回転座標変換部101によって変換された、交流電流Isr、Iss、Istの回転座標軸上の交流電流成分Isd、Isqにディジタルフィルタ処理を施し、所定の周波数範囲の高調波成分を減衰させる。ただし、感度低減部130は、有効な事故検知信号FLTが入力された場合は、ディジタルフィルタの特性を調整することによって、感度低減を実質的に無効化し、あるいは感度低減量を緩和する。感度低減部130は、ディジタルフィルタ処理を施した交流電圧成分Vsd_dg、Vsq_dgや交流電流成分Isd_dg、Isq_dgを電流制御部140に出力する。
【0016】
電流制御部140は、感度低減部130から入力された交流電圧成分Vsd_dg、Vsq_dgや交流電流成分Isd_dg、Isq_dgに一般的な比例積分制御(PI制御)などを施して、得られた値を後述する固定座標変換部102に出力する。固定座標変換部102は、その値を固定座標軸上の値に変換し、交流電流を所定の値に制御するための電圧指令値Vr*、Vs*、Vt*を出力する。
【0017】
過電流判定部160は、交流電流Isr、Iss、Istが電力変換器20の機器耐量を超過しないようにあらかじめ設定された閾値と、交流電流Isr、Iss、Istの例えば絶対値とを比較して、閾値超過を検知した場合は、有効な過電流検知信号OCをゲート指令生成部170に出力する。
【0018】
ゲート指令生成部170は、交流端子において出力すべき電圧の指令値である電圧指令値Vr*、Vs*、Vt*を入力とし、交流端子に疑似的に電圧指令値が出力されるように電力変換器内部のスイッチング素子に与えるゲート指令gateを生成して、スイッチング素子に出力する。また、ゲート指令生成部170は、有効な過電流検出信号OCが入力された場合は、スイッチング制御を停止するため、すべてのゲート指令を零とする。
【0019】
次に、電力変換器20と系統インピーダンス30の関係について説明する。図2は、第1の実施形態の電力変換器20と系統インピーダンス30の関係の一例を示す図である。図2に示す通り、交流系統は、交流電源ACVから系統連系点P1までの等価インダクタンスLgridと、系統連系点P1の等価キャパシタンスCgridを含む。これら、系統連系点P1から交流電源側をみたインピーダンスを系統インピーダンスZgridと呼ぶ。この系統インピーダンスZgridが系統インピーダンス30に相当する。電力変換器20は、連系インダクタLvscを介して系統連系点P1に接続される。系統連系点P1から電力変換器側をみたインピーダンスを変換器インピーダンスZvscと呼ぶ。Zvscは、Lvscに電力変換器20の制御による特性が加算されたインピーダンスとなる。
【0020】
次に、変換器制御部100の構成を説明する。図3は、第1の実施形態の変換器制御部100のより詳細な構成の一例を示す図である。図3に示す通り、変換器制御部100は、例えば、回転座標変換部101と、固定座標変換部102とを更に備える。
【0021】
感度低減部130は、例えば、フィルタ演算部131、フィルタ演算部132、フィルタ演算部133、およびフィルタ演算部134を備える。これらのフィルタ演算部の特性は同じである。
【0022】
電流制御部140は、例えば、1/Vs演算部141、1/Vs演算部142、ωs*Lvsc演算部143、ωs*Lvsc演算部144、演算部145、演算部146、PI演算部147、PI演算部148、演算部149、および演算部150を備える。
【0023】
次に、変換器制御部100の各構成要素の動作例を、図3を参照して説明する。回転座標変換部101は、交流電流Isr、Iss、Istを、系統連系点電圧から検出された検出位相thetaに同期した回転座標軸上の交流電流成分Isd、Isqに変換する。
【0024】
感度低減部130のフィルタ演算部131は、回転座標変換部101が変換した交流電流成分Isdを入力とし、入力された交流電流成分Isdにおける所定の周波数範囲の高調波成分を減衰させて、交流電流成分Isd_dgとして出力する。フィルタ演算部132は、回転座標変換部101が変換した交流電流成分Isqを入力とし、入力された交流電流成分Isqにおける所定の周波数範囲の高調波成分を減衰させて、交流電流成分Isq_dgとして出力する。フィルタ演算部133は、交流情報算出部110が算出した交流電圧成分Vsdを入力とし、入力された交流電圧成分Vsdにおける所定の周波数範囲の高調波成分を減衰させて、交流電圧成分Vsd_dgとして出力する。フィルタ演算部134は、交流情報算出部110が算出した交流電圧成分Vsqを入力とし、入力された交流電圧成分Vsqにおける所定の周波数範囲の高調波成分を減衰させて、交流電圧成分Vsq_dgとして出力する。所定の周波数範囲は、高調波成分が大きくなる振動周波数を含むように設定される。フィルタ演算部131、132、133、134の処理は、図示したように交流電流に基づくIsd、Isqと系統連系点電圧に基づくVsd、Vsqの両方に施してもよいし、どちらか一方に施してもよい。
【0025】
フィルタ演算部131、132、133、134の処理を実現するディジタルフィルタは、振動周波数より低いカットオフ周波数を有する低域通過フィルタや、振動周波数を含む帯域を減衰させるノッチフィルタ、もしくはこれらの組み合わせであってもよい。低域通過フィルタとノッチフィルタを組み合わせた場合、振動周波数帯域における減衰率をもっとも高くすることができる。
【0026】
感度低減部130に有効な事故検知信号FLTが入力された場合は、ディジタルフィルタの処理を無効にし、入力信号をそのまま出力する、もしくは低域通過フィルタのカットオフ周波数を高周波化することで、感度低減を実質的に無効化し、あるいは感度低減量を緩和する。低域通過フィルタのカットオフ周波数を高周波化すると、低周波域からフィルタの減衰率が軽減され、感度低減量が緩和される。
【0027】
電流制御部140と固定座標変換部102は、比例積分制御(PI制御)をベースとした、回転座標軸上における非干渉電流制御を行い、固定座標軸上の変数に変換することで、電圧指令値Vr*、Vs*、Vt*を生成する。
【0028】
電流制御部140の1/Vs演算部141は、例えば外部装置によって生成された有効電力指令値p*に対して1/Vs演算を行う。なおVsは、系統電圧定格値(定数)である。1/Vs演算部142は、例えば外部装置によって生成された無効電力指令値q*に対して1/Vs演算を行う。なお、1/Vs演算部141と1/Vs演算部142の出力は、電流に基づく値である。
【0029】
電流制御部140の演算部145は、1/Vs演算部141の出力から、感度低減部130のフィルタ演算部131の出力を減算する。演算部146は、1/Vs演算部142の出力から、感度低減部130のフィルタ演算部132の出力を減算する。
【0030】
電流制御部140のωs*Lvsc演算部143は、感度低減部130のフィルタ演算部131の出力に対して、系統基本波角周波数ωsに連系インダクタのインダクタンス値Lvscを乗じる。ωs*Lvsc演算部144は、感度低減部130のフィルタ演算部132の出力に対して、ωsに連系インダクタのインダクタンス値Lvscを乗じる。系統基本波角周波数ωsは定数である。なお、ωs*Lvsc演算部143とωs*Lvsc演算部144の出力は、電圧に基づく値である。
【0031】
電流制御部140の演算部149は、感度低減部130のフィルタ演算部133の出力とωs*Lvsc演算部144の出力を加算し、PI演算部147の出力を減算する。演算部150は、感度低減部130のフィルタ演算部134の出力に対して、ωs*Lvsc演算部143の出力とPI演算部148の出力とを減算する。
【0032】
固定座標変換部102は、演算部149と演算部150が出力する電圧量を固定座標軸上の変数に変換して、電圧指令値Vr*、Vs*、Vt*を生成する。なお、電圧指令値Vr*、Vs*、Vt*は、ゲート指令生成部170(図1)に出力される。
【0033】
次に、電力変換装置10の交流情報算出部110の構成を説明する。図4は、第1の実施形態の電力変換装置10の交流情報算出部110の構成の一例を示す図である。交流情報算出部110は、変換部111と、PI演算部112と、加算部114と、発振器115とを機能部として備える。
【0034】
変換部111は、図示しない検出器によって検出された系統連系点電圧(R相電圧Vsr、S相電圧Vss、及びT相電圧Vst)を示す情報を取得する。変換部111は、式(1)を用いて、取得したR相電圧Vsr、S相電圧Vss、及びT相電圧Vstを、交流系統有効電圧Vsd、及び交流系統無効電圧Vsqに変換(算出)する。なお、交流系統電圧位相thetaは、後述する発振器115によって出力される値であり、交流系統のある基準相(この一例では、R相)の電圧位相を示す値である。
【0035】
【数1】
【0036】
PI演算部112は、変換部111によって変換された交流系統無効電圧Vsqに基づいて、電力変換器20が連系する交流系統電圧の周波数と、基準交流系統周波数fs0との周波数差(以下、周波数差Δfpll)を算出する。周波数差Δfpllは、交流系統電圧の周波数が基準交流系統周波数fs0より高い場合、プラスの値をとり、基準交流系統周波数fs0より低い場合、マイナスの値をとる。基準交流系統周波数fs0は、連系する交流系統の定格周波数であり、例えば、50[Hz]、又は60[Hz]の定数である。周波数差Δfpllは、PI演算部112に入力される交流系統無効電圧Vsqの算出値が零になるまで、増加、又は減少を続け、実際の交流系統周波数と基準交流系統周波数fs0との差の値に収束する。
【0037】
加算部114は、PI演算部112によって算出された周波数差Δfpllを、基準交流系統周波数fs0に加算する。以降の説明において、基準交流系統周波数fs0に周波数差Δfpllを加算した周波数を、交流周波数fpllと記載する。
【0038】
発振器115は、加算部114によって算出された交流周波数fpllの周波数に基づいて、最小値0から最大値2πまでの間を繰り返し単調増加する交流系統電圧位相thetaを出力する。なお、上述したように、交流系統電圧位相thetaは、変換部111の交流系統有効電圧Vsd、及び交流系統無効電圧Vsqの変換と、交流電流制御とに用いられる。上述の処理によって、交流情報算出部110は、変換部111における交流系統無効電圧Vsqの算出値が零になるように、交流系統電圧位相thetaの算出を繰り返すことで、交流系統電圧位相thetaを得る。
【0039】
次に、電力変換装置10の系統事故検知部120の構成の一例を説明する。図5は、第1の実施形態の電力変換装置10の系統事故検知部120の構成の一例を示す図である。系統事故検知部120は、比較器121、比較器122、論理和演算部123、およびタイマ124を備える。
【0040】
系統電圧検出位相thetaに同期した回転座標軸上の系統連系点電圧Vsd、Vsqは、3相平衡の場合、例えば、交流系統有効電圧Vsdが交流系統電圧の振幅絶対値に一致する。交流系統に地絡事故などの異常がない通常時、Vsdの瞬時値は通常電圧変動範囲内のほぼ一定値になる。一方、例えば交流系統の3相が同時に地絡し、3相平衡事故となった場合、Vsdは電圧低下率に合わせて低下し、通常範囲から逸脱する。さらに、例えば交流系統のいずれか1相または2相が地絡し、3相平衡でなくなった場合、Vsdは振動的になり、通常範囲から逸脱する。
【0041】
比較器121は、交流系統有効電圧Vsdを交流系統電圧上閾値Vth_Hと比較する。比較器121は、Vsd>Vth_Hときに有効な上限超過信号OVを出力する。比較器122は、交流系統有効電圧Vsdを交流系統電圧下閾値Vth_Lと比較する。比較器122は、Vsd<Vth_Lのときに有効な下限超過信号UVを出力する。Vth_LとVth_Hとの間の範囲は交流電圧絶対値の所定範囲の一例である。
【0042】
論理和演算部123は、比較器121によって出力された上限超過信号OVと、比較器122によって出力された下限超過信号UVとの間の論理和を計算する。論理和演算部123は、上限超過信号OVまたは下限超過信号UVが有効なときに、有効な系統電圧異常信号ERRを出力する。すなわち、交流系統有効電圧Vsdの絶対値が所定の範囲にない場合に、有効な系統電圧異常信号ERRが出力される。
【0043】
なお、第1の実施形態では、交流系統有効電圧Vsdの絶対値が所定範囲にあるか否かに基づいて、出力する系統電圧異常信号ERRを判断しているが、代替的に、系統連系点電圧(R相電圧Vsr、S相電圧Vss、及びT相電圧Vst)の振幅値が所定範囲にあるか否かに基づいて、出力する系統電圧異常信号ERRを判断することもできる。
【0044】
タイマ124は、論理和演算部123から有効な系統電圧異常信号ERRが入力されると、期間Ttの間、有効な事故検知信号FLTを出力する。期間Ttは、例えば、交流遮断器が事故回線を切り離して交流系統電圧が回復するまでの期間に設定する。一般的な交流系統保護システムにおいて、この期間は交流系統電圧周期の数倍程度である。
【0045】
また、第1の実施形態では、比較器121及び比較器122が、交流系統有効電圧Vsdを閾値と比較することで系統電圧異常信号ERRを切り替えているが、例えば、式(2)に基づく交流系統有効電圧Vsdと交流系統無効電圧Vsqの合成電圧ベクトル値Vsdqを演算して閾値と比較してもよく、ほぼ同様の結果が得られる。
【0046】
【数2】
【0047】
次に、電力変換装置10のインピーダンス特性図の一例を説明する。図6は、第1の実施形態の電力変換装置10のインピーダンス特性図の一例を示す図である。系統インピーダンスZgridの振幅は、LgridとCgridの並列共振周波数である1/(2π√(Lgrid*Cgrid))にて最大となる。Zgridの位相は、1/(2π√(Lgrid*Cgrid))より低周波側ではインダクタ相当の+90度に、高周波側ではキャパシタ相当の-90度になる。系統インピーダンスは、インダクタンスやキャパシタンス、抵抗の要素を考慮すると、多くの場合にその位相は±90度以内となる。図6は、その位相範囲の上限と下限をとる系統状態の一例を示している。
【0048】
変換器インピーダンスZvscの振幅は、周波数が低くなると電流制御の効果で増加し、周波数が高くなると電流制御の効果は小さくなるが、連系インダクタLvscのリアクタンスωLvscが増加するため、周波数増加に伴いほぼ比例で増加していく。Zvscの位相についても、高周波では、連系インダクタLvsc相当の+90度に近づくが、制御系の遅延時間等の影響によって、+90度を超過する周波数帯域も出現する。共振現象は、ナイキストの安定判別法を適用すると、ZgridとZvscの絶対値が等しく(振幅図の交点)、ZgridとZvscの位相差が180度に近い周波数fresで発生する可能性がある。ZgridとZvscの絶対値が等しいことは、システムのゲインが1であることに相当するため、180度からfresにおけるZgridとZvscの位相差(度)を減算した値が位相余裕φmに相当する。一般に、システムはφm>0の場合に安定、φm=0の場合に安定限界、φm<0の場合は不安定となる。変換器インピーダンスがZvscの場合、ZgridとZvscの位相差が180度を超過しているため、位相余裕はφm<0であり、不安定である。fresでは、共振が発生し、発散して制御不能になるリスクが高い。
【0049】
Zvsc′は、振動周波数fresに対する電流制御の感度を低減させた場合の変換器インピーダンスである。十分に感度を低減させた場合、ZgridとZvsc′の位相差が180度程度となるため、位相余裕はφm=0であり、安定限界まで改善する。
前述した通り、系統インピーダンスZgridは多くの場合に±90度以内の位相をとるため、この例のように、高周波域においてその下限の-90度である状態は、Zvscの位相が+90度近くであることを考慮すると、安定運転にとって過酷条件(位相余裕φmが小さい)となる。Zgridの位相が、例えば、-60度程度となる系統状態の条件の場合は、振動周波数fresに対する電流制御の感度を低減させたのみのZvsc′でも十分な位相余裕φmを確保できる。
【0050】
一方、振動周波数fresに対する電流制御の感度を低減させた場合の変換器インピーダンスZvsc′の振幅に着目すると、変換器インピーダンスZvscと比較して低下している周波数帯域がある。振動周波数のみの電流制御感度を低減するディジタルフィルタは実質的に実現不可能であるため、周辺の他の周波数帯域も影響を受ける。変換器インピーダンスの振幅が低下することは、系統事故によって系統連系点電圧が急激に低下した際に電力変換器20に流れ込む交流電流を抑制する外乱抑制性能が低下していることを意味する。その場合、電力変換器20には通常運転時を超える過大な交流電流が流入する。過電流判定部160にて過電流が検知され、保護のためにスイッチング制御が停止、運転継続不能となるリスクが高くなる。
【0051】
そこで、系統電圧異常の発生していない通常運転時には、変換器インピーダンスをZvsc′として定常的な安定性を確保し、系統電圧異常の発生した例えば系統事故時のみ、系統事故検知部120が事故検知信号FLTを出力し、感度低減部130は、ディジタルフィルタの特性を調整し、感度低減を実質的に無効化し、あるいは感度低減量を緩和することで、変換器インピーダンスを一時的にZvscに近い特性に変更する。その結果、系統電圧異常時には高速な電流制御性能が得られ、外乱抑制性能も向上し、流れ込む交流電流の上昇を抑制可能となる。交流電流が過電流判定部160の閾値以下に抑制されると、変換器は停止することなく運転継続可能となる。
【0052】
以上説明した第1の実施形態によれば、交流と直流とを変換可能な電力変換装置10は、前記交流側の出力を切り替え可能とするスイッチング素子を含む電力変換器20と、前記スイッチング素子に動作指令を与える変換器制御部100と、を備え、前記変換器制御部100は、前記電力変換器20に流れる交流電流を制御する電流制御部140を備え、前記電流制御部140は、前記交流の電圧または前記交流電流の所定周波数範囲の高調波成分に対する感度を低減させて制御する感度低減部130を備え、前記感度低減部130は、少なくとも前記交流の電圧の絶対値が所定の範囲にない場合に前記感度を低減させることを実質的に無効化し、あるいは感度低減量を緩和する。これにより、系統電圧異常の発生していない通常運転時には、電流制御部140に対し、振動周波数における感度を十分に低下させることで、定常的な安定性を確保できる。また、高速な電流制御性能が必要となる系統電圧異常時のみ選択的に感度低減を実質的に無効化し、あるいは感度低減量を緩和することで、一時的に外乱抑制性能を回復し、過電流等のため運転継続不能となるリスクを低減できる。さらに、通常運転時の定常的な安定性確保と系統電圧異常時の運転継続性能とを両立することができる。
【0053】
なお、第1の実施形態では、感度低減部130は、少なくとも前記交流の電圧の絶対値が所定の範囲にない場合に前記感度を低減させることを実質的に無効化し、あるいは感度低減量を緩和する。
【0054】
(第2の実施形態)
次に、第2の実施形態の変換器制御部100の構成を説明する。図7は、第2の実施形態の変換器制御部100の構成の一例を示す図である。図7に示す通り、変換器制御部100は、機能部としてさらに共振状態検知部180を備える。
【0055】
共振状態検知部180は、例えば、交流情報算出部110により得られた交流系統有効電圧Vsdにフーリエ変換演算やカウンタを用いて振動周期(周波数の逆数)を検出し、所定の周波数範囲の中で高調波振幅が最大となる振動周波数fres、もしくは、fresを含む振動周波数帯域を抽出する。周波数範囲は、感度低減部130によって振動周波数成分の抑制対象とする範囲に設定する。具体的には、規格等で規定される高調波規制対象範囲や事前解析にて共振発生リスクが高いことが判明している範囲にすればよい。
【0056】
共振状態検知部180は、さらに、振動周波数fresにおける高調波振幅、もしくは、fresを含む周波数域の合計高調波振幅をあらかじめ設定された閾値と比較し、閾値を超過した場合に共振検知信号RESを出力する。
【0057】
有効状態は、タイマによって一定時間継続させてもよいし、電力系統が別の回線状態に切り替えられるまで、つまり、系統インピーダンスが変化することが自明であるときまで継続させてもよい。その場合、有効状態から無効状態に切り替えられ、再び後述する有効/無効の切り替え判定が行われる。タイマを用いることにより、感度を低減させることを有効化してから所定時間後に感度を低減させることを実質的に無効化し、あるいは感度低減量を緩和することができる。
【0058】
感度低減部130は、例えば、有効な共振検知信号RESが入力された場合に、電流制御部140に入力される系統連系点電圧や交流電流の検出値にディジタルフィルタ処理を施し、振動周波数帯域における成分を減衰させる。無効な共振検知信号RESが入力された場合は、ディジタルフィルタの特性を調整し、感度低減を実質的に無効化し、あるいは感度低減量を緩和する。ここで、共振状態検知部180は、再び共振検知信号RESの有効/無効の切り替え判定を行い、振動周波数fresにおける高調波振幅、もしくは、fresを含む周波数域の合計高調波振幅をあらかじめ設定された閾値と比較し、閾値を超過した場合は有効な共振検知信号RESを出力する。
【0059】
さらに、感度低減部130は、無効な共振検知信号RESが入力された場合に加えて、有効な事故検知信号FLTが入力された場合においても、ディジタルフィルタの特性を調整し、感度低減を実質的に無効化し、あるいは感度低減量を緩和する。
【0060】
ディジタルフィルタは、振動周波数より低いカットオフ周波数を有する低域通過フィルタや、振動周波数を含む帯域を減衰させるノッチフィルタ、もしくはこれらの組み合わせであってもよい。ディジタルフィルタの特性の一部または全部は、共振状態検知部180によって抽出された振動周波数帯域を効果的に減衰させるように動的に調整されてもよいし、事前解析等によって振動周波数が明らかな場合はあらかじめ設定された特性であってもよい。例えば、低域通過フィルタのカットオフ周波数については、少なくとも基本波周波数程度の周波数より高周波の値に固定してもよい。
【0061】
無効な共振検知信号RESと有効な事故検知信号FLTのいずれか、もしくは両方が入力された場合に、ディジタルフィルタの処理を無効にし、入力信号をそのまま出力する、もしくは低域通過フィルタのカットオフ周波数を高周波化することで、感度低減を実質的に無効化し、あるいは感度低減量を緩和する。
【0062】
例えば、低域通過フィルタの場合、有効な事故検知信号FLTが入力された場合は、無条件で、即時に入力信号をそのまま出力する、もしくはカットオフ周波数を高周波化することで、感度低減を実質的に無効化し、あるいは感度低減量を緩和する。一方、無効な事故検知信号FLTが入力されている場合に、入力される共振検知信号RESが有効から無効にされた場合は、時間をかけて徐々にカットオフ周波数を高周波化し、徐々に感度低減量を緩和してもよい。
【0063】
以上説明した第2の実施形態によれば、変換器制御部100は、さらに前記交流の電圧または前記交流電流の高調波成分を検知する共振状態検知部180を備え、前記感度低減部130は、前記共振状態検知部180によって検知された高調波振幅が閾値以上の場合に、前記感度を低減させることを有効化する。これにより、感度低減部130の処理特性を、共振状態検知部180にて抽出した振動周波数に応じて変化させることで、系統状態が変化し、振動周波数が変動した場合も十分に系統連系点電圧や交流電流の検出値の振動周波数帯域における成分を減衰させることができる。さらに、系統電圧異常が発生していない、かつ、共振状態を検知した場合のみ感度低減を有効化することで、系統状態が不安定になりにくい条件のときには、通常運転時においても感度低減の副作用である電流制御性能の低下を防止できる。これは、通常運転時の高調波電流を低減することにもつながる。さらに、タイマや系統状態に応じて、感度低減を再び無効化することで、系統状態が不安定になりにくい条件に変化したときにも、感度低減の副作用である電流制御性能の低下を防止できる。さらに、系統電圧異常が発生した場合に即時に感度低減を実質的に無効化し、あるいは感度低減量を緩和することで、高速に電流制御性能、外乱抑制性能を回復し、過電流等のため運転継続不能となるリスクを低減できる。さらに、系統電圧異常が発生していない場合にタイマや系統状態の判定に応じて、徐々に感度低減量を緩和することで、即時に無効化もしくは緩和した場合と比較して、急激に運転が不安定化して共振現象が拡大するのを防止できる。
【0064】
以上説明した少なくとも一つの実施形態によれば、共振抑制と運転継続性能を両立した信頼性の高い電力変換装置を提供することができる。
【0065】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0066】
10 電力変換装置
20 電力変換器
30 系統インピーダンス
100 変換器制御部
110 交流情報算出部
120 系統事故検知部
130 感度低減部
140 電流制御部
160 過電流判定部
170 ゲート指令生成部
180 共振状態検知部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7