(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-21
(45)【発行日】2024-03-29
(54)【発明の名称】エアフィルタ及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
B01D 39/16 20060101AFI20240322BHJP
D06M 13/513 20060101ALI20240322BHJP
D06M 11/79 20060101ALI20240322BHJP
D06M 11/77 20060101ALI20240322BHJP
【FI】
B01D39/16 A
D06M13/513
D06M11/79
D06M11/77
(21)【出願番号】P 2020196138
(22)【出願日】2020-11-26
【審査請求日】2023-08-21
(73)【特許権者】
【識別番号】597065282
【氏名又は名称】三菱マテリアル電子化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【氏名又は名称】細川 文広
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【氏名又は名称】大浪 一徳
(74)【代理人】
【識別番号】100085372
【氏名又は名称】須田 正義
(74)【代理人】
【識別番号】100129229
【氏名又は名称】村澤 彰
(72)【発明者】
【氏名】白石 真也
【審査官】瀧 恭子
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-255230(JP,A)
【文献】特開2020-138195(JP,A)
【文献】特開2016-074830(JP,A)
【文献】特表2013-513702(JP,A)
【文献】特開2012-096217(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 39/00-41/04
B01D 46/00-46/90
D06M 13/00-15/715
D06M 10/00-11/84;16/00;19/00-23/18
C09K 3/00-3/00;3/20-3/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
オイルミストと粉塵を含む空気が流入する一面と、この一面に対向し前記空気が流出する他面との間を貫通する多数の気孔が繊維間に形成された不織布を含むエアフィルタであって、
前記不織布の繊維表面に撥水撥油性膜が形成され、
前記撥水撥油性膜は、下記
の式(
19)
~式(
27)で示され
るフッ素系
化合物(A)と、層状無機化合物(B)と、シリカゾルゲル(C)とを含み、
前記フッ素
系化合物(A)が、前記撥水撥油性膜を100質量%とするとき、0.5質量%~10質量%含まれ、
前記エアフィルタの通気度が1ml/cm
2/秒~30ml/cm
2/秒であ
り、
前記層状無機化合物(B)が、モンモリロナイト、バイデライト、ノントロナイト、サポナイト、ヘクトライト、ソーコナイト、スティブンサイト又はバーミキュライトであることを特徴とするエアフィルタ。
【化6】
【化7】
上記式
(19)~(27)中、Rはメチル基又はエチル基である。
【請求項2】
前記層状無機化合物(B)が、前記撥水撥油性膜を100質量%とするとき、0.5質量%~20質量%含まれる請求項1記載のエアフィルタ。
【請求項3】
前記不織布が単一層により構成されるか、又は複数層の積層体により構成される請求項1記載のエアフィルタ。
【請求項4】
前記不織布を構成する繊維がポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリプロピレン(PP)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ガラス、アルミナ、炭素、セルロース、パルプ、ナイロン及び金属からなる群より選ばれた1種又は2種以上の繊維である請求項1又は
3記載のエアフィルタ。
【請求項5】
請求項1記載のフッ素系
化合物(A
)とケイ素アルコキシドとアルコールと層状無機化合物(B)と水を混合した混合液に触媒を添加混合して第1フッ素含有シリカゾルゲル液を調製する工程と、
前記第1フッ素含有シリカゾルゲル液と希釈用溶媒とを混合して撥水撥油性膜形成用液組成物を調製する工程と、
前記撥水撥油性膜形成用液組成物に不織布をディッピングする工程と、
前記ディッピングした不織布を脱液し乾燥する工程と
を含むエアフィルタの製造方法。
【請求項6】
請求項1記載のフッ素系
化合物(A
)とケイ素アルコキシドとアルコールと水を混合した混合液に触媒を添加混合して第2フッ素含有シリカゾルゲル液を調製する工程と、
前記第2フッ素含有シリカゾルゲル液と層状無機化合物(B)と希釈用溶媒とを混合して撥水撥油性膜形成用液組成物を調製する工程と、
前記撥水撥油性膜形成用液組成物に不織布をディッピングする工程と、
前記ディッピングした不織布を脱液し乾燥する工程と
を含むエアフィルタの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オイルミストと粉塵を含む空気を清浄にするエアフィルタ及びその製造方法に関する。更に詳しくは、撥水性と撥油性を有する撥水撥油性膜が不織布の繊維表面に形成されたエアフィルタ及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
金属製品を切削油を用いて加工する切削機や旋削機等の工作機械からは機械の高速稼働により切削油が飛散して、オイルミストが発生し、同時に粉塵も発生する。これらのオイルミスト及び粉塵は作業環境を悪化させ、その作業効率を低下させる。このため、従来より、オイルミストと粉塵を含む空気を清浄にするエアフィルタとして、空気中に浮遊する粉塵だけでなく、オイルミストによる目詰まりを抑制できるエアフィルタ濾材が提案されている(例えば、特許文献1(請求項1、段落[0006]、段落[0021]、段落[0045]、段落[0053]~段落[0060])。
【0003】
このエアフィルタ濾材は、第1のPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)多孔質膜と、第2のPTFE多孔質膜を含み、気流が、エアフィルタ濾材の第1主面から第1のPTFE多孔質膜、第2のPTFE多孔質膜の順にエアフィルタ濾材の第2主面へと、通過するようになっている。第1のPTFE多孔質膜の厚さは4~40μmの範囲にあり、第1のPTFE多孔質膜の比表面積は0.5m2/g以下にあり、第2のPTFE多孔質膜の比表面積は、第1のPTFE多孔質膜のそれより大きい1.5~10m2/g以下の範囲にある。
【0004】
第1及び第2のPTFE多孔質膜は、それぞれPTFE微粉末と液状潤滑剤を加えた混合物をシート状成形体に成形する。第1のPTFE多孔質膜は、シート状成形体をPTFEの融点(327℃)以上の温度と50倍以上の倍率で、長手(MD)方向に加熱しつつ延伸し、次いで横(TD)方向に130~400℃の温度で、延伸前の長さに対して5~8倍になるように、加熱しつつ延伸することにより、製造される。第2のPTFE多孔質膜は、PTFEのシート状成形体をPTFEの融点未満の温度(270~290℃)で、かつ15~40倍の倍率でMD方向に加熱しつつ延伸し、次いでTD方向に更に120~130℃の温度で、延伸前の長さに対して15~40倍になるように、とMD方向延伸時と同じ倍率で加熱しつつ延伸することにより、製造される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に開示されたエアフィルタ濾材では、第1のPTFE多孔質膜を、第2のPTFE多孔質膜と比較して、延伸温度を高くし、延伸倍率を大きくして、製造することにより、第1のPTFE多孔質膜の比表面積を0.5m2/g以下と小さくし、これにより、大きい粒径の粉塵及びオイルミストを捕集する。一方、第2のPTFE多孔質膜の比表面積を1.5~10m2/gと大きくし、これにより、小さい粒径の粉塵及びオイルミストを捕集している。
【0007】
しかしながら、特許文献1に開示されるエアフィルタ濾材では、第1及び第2のPTFE多孔質膜により、粒径の異なる粉塵とオイルミストを捕集するとしても、PTFE多孔質膜は、静電気が発生し易く、かつ発生した静電気の除去が困難であるため、フィルタ形状に加工することが容易でなかった。また撥油性よりも撥水性が高いため、大気中に含まれる水分がPTFE多孔質膜を塞ぐことがあり、そこに粉塵が付着し易かった。そのため、エアフィルタ濾材を使用し続けると、オイルミストがエアフィルタ濾材の内部に残留し続け、エアフィルタ濾材が目詰まりし易く、その結果、エアフィルタを通過する風量が低下し易く、新しいエアフィルタと頻繁に交換しなければならない課題があった。
【0008】
本発明の目的は、オイルミストと粉塵を含む空気を清浄にし、目詰まりを抑制するエアフィルタを提供することにある。本発明の別の目的は、オイルミストと粉塵を含む空気を清浄にし、目詰まりを抑制するエアフィルタを簡便に製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第1の観点は、オイルミストと粉塵を含む空気が流入する一面と、この一面に対向し前記空気が流出する他面との間を貫通する多数の気孔が繊維間に形成された不織布を含むエアフィルタであって、前記不織布の繊維表面に撥水撥油性膜が形成され、前記撥水撥油性膜は、下記の式(19)~式(27)で示されるフッ素系化合物(A)と、層状無機化合物(B)と、シリカゾルゲル(C)とを含み、前記フッ素系化合物(A)が、前記撥水撥油性膜を100質量%とするとき、0.5質量%~10質量%含まれ、前記エアフィルタの通気度が1ml/cm2/秒~30ml/cm2/秒であり、前記層状無機化合物(B)が、モンモリロナイト、バイデライト、ノントロナイト、サポナイト、ヘクトライト、ソーコナイト、スティブンサイト又はバーミキュライトであることを特徴とするエアフィルタである。
【0010】
【0011】
上記式(19)~(27)中、Rはメチル基又はエチル基である。
【0013】
本発明の第2の観点は、第1の観点に基づく発明であって、前記層状無機化合物(B)が、前記撥水撥油性膜を100質量%とするとき、0.5質量%~20質量%含まれるエアフィルタである。
【0015】
本発明の第3の観点は、第1の観点に基づく発明であって、前記不織布が単一層により構成されるか、又は複数層の積層体により構成されるエアフィルタである。
【0016】
本発明の第4の観点は、第1又は第3の観点に基づく発明であって、前記不織布を構成する繊維がポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリプロピレン(PP)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ガラス、アルミナ、炭素、セルロース、パルプ、ナイロン及び金属からなる群より選ばれた1種又は2種以上の繊維であるエアフィルタである。
【0017】
本発明の第5の観点は、第1の観点のフッ素系化合物(A)とケイ素アルコキシドとアルコールと層状無機化合物(B)と水を混合した混合液に触媒を添加混合して第1フッ素含有シリカゾルゲル液を調製する工程と、前記第1フッ素含有シリカゾルゲル液と希釈用溶媒とを混合して撥水撥油性膜形成用液組成物を調製する工程と、前記撥水撥油性膜形成用液組成物に不織布をディッピングする工程と、前記ディッピングした不織布を脱液し乾燥する工程とを含むエアフィルタの製造方法である。
【0018】
本発明の第6の観点は、第1の観点のフッ素系化合物(A)とケイ素アルコキシドとアルコールと水を混合した混合液に触媒を添加混合して第2フッ素含有シリカゾルゲル液を調製する工程と、前記第2フッ素含有シリカゾルゲル液と層状無機化合物(B)と希釈用溶媒とを混合して撥水撥油性膜形成用液組成物を調製する工程と、前記撥水撥油性膜形成用液組成物に不織布をディッピングする工程と、前記ディッピングした不織布を脱液し乾燥する工程とを含むエアフィルタの製造方法である。
【発明の効果】
【0020】
本発明の第1の観点のエアフィルタは、エアフィルタ内にオイルミストと粉塵を含む空気がエアフィルタの一面から流入すると、オイルミストと粉塵が不織布で捕集され、空気だけが不織布の気孔を通過しエアフィルタの他面から流出して、空気が清浄になり、目詰まりが抑制される。また、撥水撥油性膜に含まれる層状無機化合物が、モンモリロナイト等であるため、モンモリロナイト等の有する多層構造及び大きな膨潤性により容量の大きな層間を有することで、より良好な膜の外観が得られ、かつ膜の強度もより高まる。
【0021】
このとき、撥水撥油性膜がフッ素系化合物(A)を0.5質量%~10質量%の割合で含むため、膜に撥油性と良好な外観が付与される。またエアフィルタの通気度が1ml/cm2/秒~30ml/cm2/秒であるため、オイルミストが不織布の繊維表面の撥水撥油性膜に吸着せずに弾かれて付着するに止まる。エアフィルタを使用し続けてオイルミストの不織布内部における捕集量が増えると、エアフィルタが水平に配置される場合には、オイルミストは液状化して通過する空気に随伴されてエアフィルタの他面に集まり、エアフィルタが鉛直に配置される場合には、捕集されたオイルミストが自重によりエアフィルタの下端に集まり、不織布の気孔を閉塞しない。これにより、オイルミストによる気孔の目詰まりは抑制される。
【0022】
一方、粉塵は、エアフィルタの通気度が1ml/cm2/秒~30ml/cm2/秒であるため、不織布の繊維表面の撥水撥油性膜に直接付着するか、或いは撥水撥油性膜に付着したオイルミストに付着する。このため、エアフィルタを長期間使用して粉塵等で目詰まりしたときに、エアノッカー等でエアフィルタに衝撃を与えると、オイルミストと一緒に付着した粉塵を容易に落とすことができ、エアフィルタを再生することができる。
【0023】
また、撥水撥油性膜が層状無機化合物(B)とシリカゾルゲル(C)を含むため、シリカゾルゲルによる不織布の繊維表面への膜の密着性効果が、層状無機化合物により、更に高まる。
【0024】
本発明の第2の観点のエアフィルタでは、層状無機化合物(B)が、撥水撥油性膜を100質量%とするとき、0.5質量%~20質量%含まれるため、膜が不織布の繊維表面に良好に密着し、膜が剥離しにくく、膜の強度を高める。
【0026】
本発明の第3の観点のエアフィルタでは、不織布が単一層により構成される場合には、簡単な構成のエアフィルタになり、不織布が複数層の積層体により構成される場合には、流入する粉塵の粒径、オイルミストの油粒子のサイズ等の性状に応じて各層を構成することができる。
【0027】
本発明の第4の観点のエアフィルタでは、不織布を構成する繊維の材質を、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリプロピレン(PP)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ガラス、アルミナ、炭素、セルロース、パルプ、ナイロン及び金属から、流入する粉塵の粒径、オイルミストの油粒子のサイズ等の性状に応じて、選択することができる。
【0028】
本発明の第5の観点のエアフィルタの製造方法では、ケイ素アルコキシドとアルコールとフッ素系化合物と水とともに、層状無機化合物を混合し、これに触媒を加えて第1フッ素含有シリカゾルゲル液を調製するため、製造を簡略化することができる。この第1フッ素含有シリカゾルゲル液を希釈して撥水撥油性膜形成用液組成物を調製し、この撥水撥油性膜形成用液組成物に不織布をディッピングして不織布を脱液し乾燥することにより、エアフィルタが製造される。層状無機化合物がフッ素系化合物を含むシリカゾルゲル中に存在するため、液組成物を不織布の繊維表面にディッピングし乾燥したときに、膜が不織布の繊維表面に良好に密着し、膜が剥離しにくく、膜の強度を高める。更に特許文献1のPTFE多孔質膜とは異なり、撥水撥油性膜には静電気が発生しにくく、簡便にエアフィルタを製造することができる。
【0029】
本発明の第6の観点のエアフィルタの製造方法では、ケイ素アルコキシドとアルコールとフッ素系化合物と水とを混合し、これに触媒を加えて第2フッ素含有シリカゾルゲル液を調製した後で、層状無機化合物と希釈用溶媒を加えて撥水撥油性膜形成用液組成物を調製する。フッ素含有シリカゾルゲル液を調製した後で層状無機化合物を加えるため、撥水撥油性膜形成用液組成物のバリエーションを増やせる利点がある。液組成物を不織布の繊維表面にディッピングし乾燥したときの効果は、第6の観点のエアフィルタの製造方法の効果と同じである。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】本実施形態の単一層の不織布の側面図である。
【
図3】本実施形態のエアフィルタの第1の製造方法によるフロー図である。
【
図4】本実施形態のエアフィルタを第2の製造方法によるフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
次に本発明を実施するための形態について図面を参照して説明する。
【0033】
〔エアフィルタ〕
図1に示すように、本実施形態のエアフィルタ10は、不織布20とこの不織布の繊維表面に形成された撥水性と撥油性を有する撥水撥油性膜21とを備える。このエアフィルタ10の主たる構成要素である不織布20は、オイルミストと粉塵を含む空気が流入する一面20aと、この一面20aに対向し前記空気が流出する他面20bを有し、単一層からなる。
図2に示すように、上層の不織布30と下層の不織布40の二層の積層体により構成されるエアフィルタ50でもよい。この場合、上層の不織布30の上面がオイルミストと粉塵を含む空気が流入する一面30aとなり、下層の不織布40の下面がこの一面30aに対向する他面40bとなる。なお、積層体は二層に限らず、三層、四層等の複数層から構成することもできる。
【0034】
図1中央の拡大図に示すように、不織布20は多数の繊維20cが絡み合って形成され、繊維と繊維の間には気孔20dが形成される。気孔20dは不織布20の一面20aと他面20bとの間を貫通する。不織布の繊維20cの表面には撥水撥油性膜21が形成される。不織布の目付は、100g/m
2~400g/m
2の範囲にあることが好ましいが、この範囲に限定されるものではない。撥水撥油性膜21は、前述した一般式(1)又は式(2)で示されるフッ素系官能基成分(A)と層状無機化合物(B)とシリカゾルゲル(C)とを含む。フッ素系官能基成分(A)は、撥水撥油性膜を100質量%とするとき、0.5質量%~10質量%含まれる。
【0035】
図1上部の更なる拡大図に示すように、撥水撥油性膜21は、層状無機化合物の粒子21aがバインダとしてのフッ素含有シリカゾルゲル21bで結着して構成される。層状無機化合物の粒子21aは、粉体状又はフレーク状である。撥水撥油性膜21は層状無機化合物の粒子21aを含むため、見かけ上、厚膜となり、繊維と繊維の間の気孔20dを狭くすることができる。また膜厚は、層状無機化合物粒子の粒子径と膜成分中の層状無機化合物粒子の含有割合を変えることにより制御することができる。
【0036】
不織布の目付が100g/m2未満であると、繊維間の気孔が大き過ぎることから、粉塵を捕集する能力が不足し易い。400g/m2を超えると、通気度が1ml/cm2/秒未満となり、粉塵が直ぐに繊維間の気孔に詰まり易くなるか、或いは通気度が低過ぎるため、エアフィルタに送り込む空気の抵抗によりエアフィルタで圧力損失が生じ易く、送風エネルギーの効率が悪化し易い。不織布の目付は、200g/m2~350g/m2の範囲にあることが更に好ましい。
【0037】
繊維表面に撥水撥油性膜21が形成されたエアフィルタ10の状態で、不織布20は1ml/cm2/秒~30ml/cm2/秒の通気度を有するように作製される。通気度が1ml/cm2/秒未満では、エアフィルタの通気性に劣り、オイルミストと粉塵を含む空気が通過しにくくなる。30ml/cm2/秒を超えると、撥水撥油性膜21が十分に繊維表面に形成されるものの、不織布の気孔20dの大きさが流入する空気中のオイルミストの油粒子22及び粉塵の粒子23の各粒径よりも遙かに大きくなり、油粒子22及び粉塵の粒子23が空気とともに不織布の気孔を通してエアフィルタ10から通過し、オイルミストと粉塵を捕集することができない。即ち、撥油性を発揮できない。通気度は1.5ml/cm2/秒~25ml/cm2/秒であることが好ましい。通気度はJIS-L1913:2000に記載のフラジール形試験機を用いて測定される。
【0038】
撥水撥油性膜21中のフッ素系官能基成分(A)の含有割合が0.5質量%未満では、撥油性の効果に乏しく、オイルミストを弾く性能が不十分になる。即ち、オイルミストがエアフィルタに到達したときに、オイルミストが繊維表面上に濡れ広がり、気孔20dを塞ぎ易くなる。また含有割合が10質量%を超えると、撥水撥油性膜の不織布への密着性が悪くなる。撥水撥油性膜中のフッ素系官能基成分(A)の含有割合は、0.6質量%~7質量%であることが好ましい。
【0039】
撥水撥油性膜を100質量%とするとき、撥水撥油性膜21には、層状無機化合物(B)が0.5質量%~20質量%含まれることが好ましく、0.6質量%~15質量%含まれることが更に好ましい。また、撥水撥油性膜を100質量%とするとき、シリカゾルゲル(C)が70質量%~99質量%含まれることが好ましく、80質量%~98質量%含まれることが更に好ましい。層状無機化合物(B)が0.5質量%未満では、エアフィルタを構成する不織布の繊維表面上の撥水撥油性膜が剥離し易く、20質量%を超えると、相対的にバインダとしてのシリカゾルゲル(C)の含有量が減って、膜の不織布の繊維表面への密着性が悪化して、膜が剥離し易い。シリカゾルゲル(C)が70質量%未満では、フッ素系官能基成分(A)及び層状無機化合物(B)を不織布の繊維表面に結着させるためのバインダとしての機能に劣り、膜の撥油性が低下し、かつ不織布の繊維表面上の膜が剥離し易く、99質量%を超えると、相対的に層状無機化合物(B)の含有量が減って、膜が剥離し易い。
【0040】
このようなエアフィルタ10の作用について説明する。
図1に示すように、オイルミストと粉塵を含む空気が、エアフィルタ10を構成する不織布20の一面20aに到来する。ここでエアフィルタ10は所定の通気度を有するため、また撥水撥油性膜21が撥油性を示すため、オイルミストの油粒子22は気孔20dの孔径より粒径が大きい場合は勿論のこと、気孔20dの孔径より粒径が僅かに小さくても、エアフィルタ10を通過できず、不織布20の繊維20cと繊維20cの間に、撥水撥油性膜21によって弾かれながら、撥水撥油性膜21に付着して止まる。同時に粉塵の粒子23も撥水撥油性膜21に付着して止まる。撥水撥油性膜21中に層状無機化合物粒子21aを含むため、膜が凹凸になり、油粒子22の膜への付着の程度は低い一方、粉塵の粒子23は付着し易くなる。これにより、オイルミストの油粒子22及び粉塵の粒子23が不織布に捕集され、オイルミストと粉塵を含んだ空気が、
図1の拡大図に示す繊維20cと繊維20cの間に形成された気孔20dを通過して他面20bに至り、オイルミストと粉塵のない空気となって、不織布20を通過する。
【0041】
エアフィルタを使用し続けてオイルミストの不織布内部における捕集量が増えると、エアフィルタが水平に配置される場合には、膜への付着の程度が低いオイルミストは液状化して通過する空気に随伴されてエアフィルタの他面に集まり、エアフィルタが鉛直に配置される場合には、捕集されたオイルミストが自重によりエアフィルタの下端に集まり、不織布の気孔を閉塞しない。これにより、オイルミストによる気孔の目詰まりは抑制される。粉塵は不織布の繊維表面の撥水撥油性膜に直接付着するか、或いは撥水撥油性膜に付着したオイルミストに付着する。不織布20に溜まったオイルミストと粉塵は、定期的にエアノッカー等でエアフィルタ10に衝撃を与えることにより、エアフィルタ10から除去することができる。
【0042】
〔エアフィルタの製造方法〕
エアフィルタは次の第1の製造方法と第2の製造方法により、概略製造される。
<第1の製造方法>
図3に示すように、ケイ素アルコキシド51とアルコール53とフッ素系官能基成分(A)を含むフッ素系化合物54と層状無機化合物55と水56と、必要に応じてアルキレン基成分52を混合し、この混合液に触媒57を加えることにより、第1フッ素含有シリカゾルゲル液58aを調製する。
この第1フッ素含有シリカゾルゲル液58aに希釈用溶媒59を混合して、撥水撥油性膜形成用液組成物60を調製する。この液組成物60に不織布20をディッピングする。続いて不織布20を脱液し、乾燥することによりエアフィルタ10を製造する。
【0043】
<第2の製造方法>
本実施形態のエアフィルタの第2の製造方法は、
図4に示すように、先ず、ケイ素アルコキシド51とアルコール53とフッ素含有官能基成分(A)を含むフッ素系化合物54と水56とを混合して混合液を調製する。次いでこの混合液と触媒57とを混合してケイ素アルコキシドを加水分解することにより第2フッ素含有シリカゾルゲル液58bを調製する。このフッ素含有シリカゾルゲル液58bを溶媒59で希釈する際に、層状無機化合物55を添加し混合して、撥水撥油性膜形成用液組成物60を調製する。以下、第1の製造方法と同様にして、エアフィルタ10を製造する。
【0044】
第1及び第2の製造方法とも、上記混合液を調製する際に、成膜性を向上させるため、又は乾燥速度を向上させるために、アルコールとともに、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素を加えて混合してもよい。
第1の製造方法の長所は、最初に層状無機化合物を含む原料を混合するため、製造が簡略化できる点にある。また第2の製造方法の長所は、層状無機化合物を後から添加し混合するため、液組成物のバリエーションを簡単に増やせる点にある。
【0045】
以下、エアフィルタの製造方法を詳述する。
〔不織布の準備〕
先ず、1.1ml/cm2/秒~40ml/cm2/秒の通気度を有する不織布を準備する。具体的には、後述する撥水撥油性膜が不織布の繊維表面に形成されたエアフィルタになった状態で、1ml/cm2/秒~30ml/cm2/秒の通気度を有する不織布を準備する。撥水撥油性膜が厚膜に形成される場合には、通気度の大きい不織布が選定され、撥水撥油性膜が薄膜に形成される場合には、通気度の小さい不織布が選定される。
【0046】
この不織布としては、例えば、セルロース混合エステル性のメンブレンフィルタ、ガラス繊維ろ紙、ポリエチレンテレフタレート繊維とガラス繊維を混用した不織布(安積濾紙社製、商品名:340)がある。このように不織布は、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリプロピレン(PP)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ガラス、アルミナ、炭素、セルロース、パルプ、ナイロン及び金属からなる群より選ばれた1種又は2種以上の繊維から作られる。繊維は、2以上の繊維を混合した繊維でもよい。繊維の太さ(繊維径)は、上記通気度が得られるように、0.01μm~10μmの太さが好適である。不織布の厚さは、エアフィルタが単一層である場合には、0.2mm~0.8mm、複数層の積層体である場合には、積層体の厚さが0.2mm~1.6mmになる厚さが好ましい。本発明の撥水撥油性膜形成材料の主成分がシリカゾルゲルであるときには、繊維との密着性を得るために、繊維に水酸基をもつ材料が好ましい。その中でも、ガラス、アルミナ、セルロースナノ繊維等は、繊維径も細いものがあり、通気度を上記範囲内の低い値にすることができる。
【0047】
前述したように不織布が
図2に示すように複数の不織布30、40を積層した積層体である場合、オイルミストと粉塵を含む空気が流入する側の不織布30を構成する繊維をガラス繊維にすることにより、シリカゾルゲルを主成分として含む撥水撥油性膜が、より一層強固にガラス繊維に密着し、不織布の繊維から剥離しにくくなる。
【0048】
〔撥水撥油性膜形成用液組成物の第1の製造方法〕
〔第1フッ素含有シリカゾルゲル液の調製〕
先ず、ケイ素アルコキシドとしてのテトラメトキシシラン又はテトラエトキシシランと、沸点が120℃未満の炭素数1~4の範囲にあるアルコールと、上述した式(1)又は式(2)で表されるフッ素系官能基成分(A)を含むフッ素系化合物と、層状無機化合物(B)と、水とを混合して混合液を調製する。このときアルキレン基成分となるエポキシ基含有シランを一緒に混合してもよい。このケイ素アルコキシドとしては、具体的には、テトラメトキシシラン(TMOS)、そのオリゴマー又はテトラエトキシシラン(TEOS)、そのオリゴマーが挙げられる。例えば、耐久性の高い撥水撥油性膜を得る目的には、テトラメトキシシランを用いることが好ましく、一方、加水分解時に発生するメタノールを避ける場合は、テトラエトキシシランを用いることが好ましい。
【0049】
上記層状無機化合物としては、モンモリロナイト、バイデライト、ノントロナイト、サポナイト、ヘクトライト、ソーコナイト、スティブンサイト等のスメクタイト系層状無機化合物又はバーミキュライトが前述した理由で好ましい。
【0050】
上記アルキレン基成分となるエポキシ基含有シランとしては、具体的には、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン又は多官能エポキシシランが挙げられる。アルキレン基成分はケイ素アルコキシドとアルキレン基成分の合計質量に対して1質量%~40質量%、好ましくは2.5質量%~20質量%含まれる。アルキレン基成分が下限値の1質量%未満では、水酸基を含まない不織布に膜を形成した場合に、不織布への密着性が不十分になる。また上限値の40質量%を超えると、形成した膜の耐久性が低くなる。アルキレン基成分を上記1質量%~40質量%の範囲になるようにエポキシ基含有シランを含むと、エポキシ基も加水分解重合過程において開環して重合に寄与し、これにより乾燥過程にレベリング性が改善し膜厚さが均一になる。なお、不織布がガラス等の親水基を含む場合には、アルキレン基成分の含有量は極少量であるか、若しくはゼロでもよい。一方、不織布が親水基を含まない場合には、このアルキレン基成分をシリカゾルゲル(C)中、0.5質量%~20質量%含むことが好ましい。
【0051】
沸点が120℃未満の炭素数1~4の範囲にあるアルコールは、上述したアルコールが挙げられる。特にメタノール又はエタノールが好ましい。これらのアルコールは、ケイ素アルコキドとの混合がしやすいためである。上記水としては、不純物の混入防止のため、イオン交換水や純水等を使用するのが望ましい。ケイ素アルコキシドに、或いはケイ素アルコキシドとエポキシ基含有シランに、炭素数1~4の範囲にあるアルコールと水を添加して、好ましくは10℃~30℃の温度で5分~20分間撹拌することにより混合液を調製する。
【0052】
上記調製された混合液に触媒を添加混合すると、第1フッ素含有シリカゾルゲル液が調製される。この触媒としては、有機酸、無機酸又はチタン化合物が例示される。このとき液温を好ましくは30℃~80℃の温度に保持して、好ましくは1時間~24時間撹拌する。これにより、第1フッ素含有シリカゾルゲル液が調製される。なお、次の工程のために、第1フッ素含有シリカゾルゲル液にアルコールを添加混合してもよい。
【0053】
上記アルコールを添加混合した場合には、第1フッ素含有シリカゾルゲル液は、第1フッ素含有シリカゾルゲル液を100質量%とするとき、ケイ素アルコキシドを2質量%~50質量%、炭素数1~4の範囲にあるアルコールを3質量%~90質量%、フッ素系官能基成分(A)を0.05質量%~2質量%、層状無機化合物(B)を0.05質量%~5質量%、水を0.1質量%~40質量%、触媒として0.01質量%~5質量%の割合で含有することが好ましい。アルキレン基成分となるエポキシ基含有シランを混合した場合には、エポキシ基含有シランを最大30質量%まで含有することが好ましい。
【0054】
ケイ素アルコキシドを2質量%~50質量%の割合で含有するのは、下限値の2質量%未満では、ケイ素アルコキシドが加水分解して加水分解物(シリカゾルゲル)になったときに、撥水撥油性膜において、フッ素系官能基成分(A)及び層状無機化合物(B)を不織布の繊維表面に結着させるためのバインダとしての機能に劣るからであり、上限値の50質量%を超えると、相対的に層状無機化合物(B)の含有量が減って、膜が剥離し易くなるからである。またケイ素アルコキシドの濃度が50質量%を超えると、第1フッ素含有シリカゾルゲル液がゲル化してしまうからである。
【0055】
またフッ素系官能基成分(A)を0.05質量%~2質量%の割合で含有するのは、下限値の0.05質量%未満では、撥油性の効果に乏しく、オイルミストを弾く性能が不十分になるからであり、上限値の2質量%を超えると、撥水撥油性膜において、膜の不織布への密着性が悪くなるからである。また層状無機化合物(B)を0.05質量%~5質量%の割合で含有するのは、下限値の0.05質量%未満では、エアフィルタを構成する不織布の繊維表面上の撥水撥油性膜が剥離し易くなるからであり、上限値の5質量%を超えると、相対的にバインダとしてのシリカゾルゲル(C)の含有量が減って、膜の不織布の繊維表面への密着性が悪化して、膜が剥離し易くなるからである。
【0056】
炭素数1~4の範囲にあるアルコールの割合を上記範囲に限定したのは、アルコールの割合が下限値未満では、ケイ素アルコキシドが、溶液中に溶解せず分離してしまうこと、ケイ素アルコキシドの加水分解反応中に反応液がゲル化し易くなるからであり、一方、上限値を超えると、加水分解に必要な水、触媒量が相対的に少なくなるために、加水分解の反応性が低下して、重合が進まず、膜の密着性が低下するからである。水の割合を上記範囲に限定したのは、下限値未満では加水分解速度が遅くなるために、重合が進まず、撥水撥油性膜の密着性が不十分になり、一方、上限値を超えると加水分解反応中に反応液がゲル化し、水が多過ぎるためケイ素アルコキシド化合物がアルコール水溶液に溶解せず、分離する不具合を生じるからである。
【0057】
シリカゾルゲル中のSiO2濃度(SiO2分)は1質量%~40質量%であるものが好ましい。このSiO2濃度が下限値未満では、重合が不十分であり、膜の密着性の低下やクラックの発生が起こり易く、上限値を超えると、相対的に水の割合が高くなりケイ素アルコキシドが溶解せず、反応液がゲル化する不具合を生じる。
【0058】
有機酸、無機酸又はチタン化合物は加水分解反応を促進させるための触媒として機能する。有機酸としては酢酸、ギ酸、シュウ酸が例示され、無機酸としては塩酸、硝酸、リン酸が例示され、チタン化合物としてはテトラプロポキシチタン、テトラブトキシチタン、テトライソプロポキシチタン、乳酸チタン等が例示される。触媒は上記のものに限定されない。上記触媒の割合を上記範囲に限定したのは、下限値未満では反応性に乏しく重合が不十分になるため、膜が形成されず、一方、上限値を超えても反応性に影響はないが、残留する酸により、膜の形成された不織布が腐食等を生じ易い。
【0059】
フッ素系官能基成分(A)を含むフッ素系化合物は、下記一般式(3)又は式(4)で示される。これらの式(3)又は式(4)中のペルフルオロエーテル基としては、より具体的には、下記式(5)~(13)で示されるペルフルオロエーテル構造を挙げることができる。
【0060】
【0061】
【0062】
【0063】
また、上記式(3)及び式(4)中のXとしては、下記式(14)~(18)で示される構造を挙げることができる。なお、下記式(14)はエーテル結合、下記式(15)はエステル結合、下記式(16)はアミド結合、下記式(17)はウレタン結合、下記式(18)はスルホンアミド結合を含む例を示している。
【0064】
【0065】
ここで、上記式(14)~(18)中、R2及びR3は炭素数が0から10の炭化水素基、R4は水素原子又は炭素数1から6の炭化水素基である。R3の炭化水素基の例とは、メチレン基、エチレン基等のアルキレン基が挙げられ、R4の炭化水素基の例とは、メチル基、エチル基等のアルキル基の他、フェニル基等も挙げられる。本実施の形態の撥水撥油性膜形成用液組成物に含まれるフッ素系化合物は、分子内に酸素原子に炭素数が6以下の短鎖長のペルフルオロアルキル基とペルフルオロアルキレン基が複数結合したペルフルオロエーテル基を有しており、分子内のフッ素含有率が高いため、形成した膜に優れた撥水撥油性を付与することができる。
【0066】
また、上記式(3)及び式(4)中、R1は、メチル基、エチル基等が挙げられる。
【0067】
また、上記式(3)及び式(4)中、Zは、加水分解されてSi-O-Si結合を形成可能な加水分解性基であれば特に限定されるものではない。このような加水分解性基としては、具体的には、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基などのアルコキシ基、フェノキシ基、ナフトキシ基などのアリールオキシ基、ベンジルオキシ基、フェネチルオキシ基などのアラルキルオキシ基、アセトキシ基、プロピオニルオキシ基、ブチリルオキシ基、バレリルオキシ基、ピバロイルオキシ基、ベンゾイルオキシ基などのアシルオキシ基等が挙げられる。これらの中でも、エトキシ基を適用することが好ましい。
【0068】
ここで、上記式(3)又は式(4)で表されるペルフルオロエーテル構造を有するフッ素系官能基成分を含むフッ素系化合物の具体例としては、例えば、下記式(19)~(27)で表される構造が挙げられる。なお、下記式(19)~(27)中、Rはメチル基又はエチル基である。
【0069】
【0070】
【0071】
〔撥水撥油性膜形成用液組成物の第2の製造方法〕
第2の製造方法では、混合液に層状無機化合物を含ませることなく、第2フッ素含有シリカゾルゲル液を調製し、この第2フッ素含有シリカゾルゲル液に層状無機化合物と希釈用溶媒を加えて、撥水撥油性膜形成用組成物を製造する。上記以外は、第1の製造方法と同じである。
【0072】
〔撥水撥油性膜形成用液組成物〕
本実施の形態の撥水撥油性膜形成用液組成物は、第1フッ素含有シリカゾルゲル液を希釈用溶媒で希釈して製造されるか、又は第2フッ素含有シリカゾルゲル液に層状無機化合物と希釈用溶媒を加えて製造される。この希釈用溶媒としては、水と炭素数1~4のアルコールとの混合溶媒であるか、或いは水と炭素数1~4のアルコールと前記炭素数1~4のアルコール以外の有機溶媒との混合溶媒である。炭素数1~4のアルコールとともに用いられるアルコール以外の有機溶媒としては、沸点が120℃以上160℃未満の第1溶媒と、沸点が160℃以上220℃以下の第2溶媒が挙げられる。第1溶媒は沸点が120℃未満の炭素数1~4の範囲にあるアルコールと第2溶媒の中間の沸点を有することから、塗膜の乾燥時に前記アルコールと第2溶媒の沸点差に伴う塗膜の乾燥速度の大きな差を緩和する作用があり、第2溶媒は第1溶媒よりも高沸点であり、塗膜の乾燥速度が遅いことから塗膜の急激な乾燥を防止して急激な乾燥に伴う膜の不均一性を防止する作用があり、前記アルコールは沸点が最も低いことから塗膜の乾燥を速くする作用がある。このように沸点の異なる3種類の溶媒を用いることにより溶媒の乾燥速度を調整して、より的確にかつ効率的に塗膜を成膜性良く形成することができる。
【0073】
本実施の形態の撥水撥油性膜形成用液組成物がフッ素含有官能基成分(A)と層状無機化合物(B)とシリカゾルゲル(C)を含むため、不織布の繊維表面に成膜したときに、従来の液組成物と比較して、より一層優れた撥油性能を付与するとともに、撥水撥油性膜の不織布の繊維表面への密着性に優れ、剥離しにくい高い強度の撥水撥油性膜が得られる。
【0074】
〔不織布の繊維表面への撥水撥油性膜の形成方法〕
本実施形態の不織布の繊維表面に撥水撥油性膜を形成するには、撥水撥油性膜形成用液組成物に不織布をディッピングして液組成物から引上げ、大気中、室温で不織布を水平な金網等の上に拡げて一定の液分量になるまで脱液する。別法として、引き上げた不織布を振り払って余分な液を除去するか、或いは引き上げた不織布をマングルロール(絞り機)に通して脱液する。脱液した不織布は、大気中、25℃~140℃の温度で0.5時間~24時間乾燥する。これにより、
図1中央の拡大図に示すように、不織布20を構成している繊維20cの表面に撥水撥油性膜21が形成される。脱液量が少ない場合には、撥水撥油性膜は厚膜に不織布の繊維表面に形成され、脱液量が多い場合には、撥水撥油性膜は薄膜に不織布の繊維表面に形成される。
【実施例】
【0075】
次に本発明の実施例を比較例とともに詳しく説明する。先ず、第1フッ素含有シリカゾルゲル液を調製するための合成例1~6及び比較合成例1~2を説明し、次いでこれらの合成例及び比較合成例を用いた撥水撥油性膜形成用液組成物の製造に関する実施例1~6及び比較例1~2を説明する。次にこれらの実施例及び比較例を用いたエアフィルタの製造に関する製造例1~6及び比較製造例1~4を説明する。
【0076】
〔第1フッ素含有シリカゾルゲル液を調製するための合成例1~6、比較合成例1~2〕
<合成例1>
合成例1は、
図3に示すフロー図に基づく。先ず、ケイ素アルコキシドとしてテトラエトキシシラン(TEOS)の平均5量体(コルコート社製、商品名:エチルシリケート40)112.5gに、有機溶媒としてエタノール(EtOH:沸点78.3℃)143.9gと、フッ素系官能基成分として上述した式(19)で表されるフッ素系化合物(R:エチル基)0.23g(0.08質量%)と、層状無機化合物としてスメクトン-ST(クニミネ工業社製、スティブンサイト)0.23gとを添加し混合した。次に、イオン交換水43.0gを添加し、セパラブルフラスコ内で25℃の温度で5分間撹拌することにより混合液を調製した。次に、この混合液に、触媒として濃度35質量%の塩酸0.06gを添加し、40℃で2時間撹拌した。これにより第1フッ素含有シリカゾルゲル液(I)を調製した。この調製内容を以下の表1及び表2に示す。表1は質量(g)で、表2は質量割合(%)でそれぞれ示す。
【0077】
【0078】
【0079】
<合成例2~5及び比較合成例1~2>
合成例2~5及び比較合成例1~2は、
図3に示すフロー図に基づく。表1~表2に示すように、合成例1と異なるケイ素アルコキシドを用いた。即ち、ケイ素アルコキシドとしてテトラメトキシシラン(TMOS)の3~5重合体(三菱化学社製、商品名:MKCシリケートMS51)を用いた。また表1~表2に示すように、フッ素含有官能基成分となるフッ素系化合物、層状無機化合物及び触媒の各種類を選定した。層状無機化合物として、合成例2と合成例5は、ラポライト-RDS(BYK社製、ヘクトライト)を、合成例3は、クニピア-G10(クニミネ工業社製、モンモリロナイト)を、合成例4は、スメクトン-SWF(クニミネ工業社製、ヘクトライト)を、比較合成例1と2は、ラポライト-RD(BYK社製、ヘクトライト)をそれぞれ用いた。触媒として、合成例4~5及び比較合成例1~2の塩酸は、合成例1と同一の濃度35質量%の塩酸を用い、合成例2の硝酸は、濃度60質量%の硝酸を用いた。また合成例3の酢酸は、濃度99質量%の酢酸を用いた。
【0080】
表1~表2に示すように、ケイ素アルコキシド、エタノール、フッ素系化合物、層状無機化合物及び水の各添加量を合成例1のそれらと変更して、それらを合成例1と同様に混合して混合液を調製した。表1~表2に示すように、混合液に合成例1と同一又は異なる触媒を合成例1と同様に添加混合して、6種類の第1フッ素含有シリカゾルゲル液(II)~(V)、(VII)~(VIII)を調製した。フッ素含有官能基成分として式(20)~式(23)及び式(27)で表わされるフッ素系化合物の式中のRはすべてエチル基である。
【0081】
<合成例6>
合成例6は、
図4に示すフロー図に基づく。先ず、表1~表2に示すように、ケイ素アルコキシド、エタノール、フッ素系化合物、水及び塩酸の各添加量を合成例1のそれらと変更して、これらを合成例1と同様に混合して混合液を調製した。これにより第2フッ素含有シリカゾルゲル液(VI)を調製した。合成例6では層状無機化合物を混合液に含ませなかった。フッ素含有官能基成分として式(27)で表わされるフッ素系化合物の式中のRはエチル基である。
【0082】
〔撥水撥油性膜形成用液組成物の調製のための実施例1~6及び比較例1~2〕
<実施例1>
合成例1で得られた第1フッ素含有シリカゾルゲル液(I)10gに希釈用溶媒として工業アルコール(AP-7、日本アルコール産業社製)90gを添加し混合し、撥水撥油性膜形成用液組成物を調製した。この内容を以下の表3に示す。また溶媒を除いた撥水撥油性膜形成用液組成物中のフッ素含有官能基成分(A)と、層状無機化合物(B)と、シリカゾルゲル(C)の配合割合を以下の表4に示す。上記配合割合は、撥水撥油性膜中におけるフッ素含有官能基成分(A)と、層状無機化合物(B)と、シリカゾルゲル(C)の配合割合に相当する。
【0083】
【0084】
【0085】
<実施例2~5及び比較例1~2>
合成例2~5及び比較合成例1~2でそれぞれ得られた実施例2~5及び比較例1~2について、表3に示すように、合成例2~5及び比較合成例1~2で得られた第1フッ素含有シリカゾルゲル液(II)~(V)、(VII)~(VIII)10gに、それぞれ希釈用溶媒として工業アルコール(AP-7、日本アルコール産業社製)90gを添加し混合して、実施例2~5及び比較例1~2の各撥水撥油性膜形成用液組成物を調製した。また溶媒を除いたこれらの撥水撥油性膜形成用液組成物中のフッ素含有官能基成分(A)と、層状無機化合物(B)と、シリカゾルゲル(C)の配合割合を以下の表4に示す。
【0086】
<実施例6>
実施例6では、合成例6で得られた第2フッ素含有シリカゾルゲル液(VI)30gに層状無機化合物として、ラポライト-RD(BYK社製、ヘクトライト)0.005gと工業アルコール(AP-7、日本アルコール産業社製)70gを添加し混合して、実施例6の撥水撥油性膜形成用液組成物を調製した。また溶媒を除いたこの撥水撥油性膜形成用液組成物中のフッ素含有官能基成分(A)と、層状無機化合物(B)と、シリカゾルゲル(C)の配合割合を上記表4に示す。
【0087】
〔エアフィルタの製造のための製造例1~6及び比較製造例1~4〕
<製造例1>
エアフィルタの基材として、PET繊維とガラス繊維の混合繊維(質量比でPET:ガラス=80:20)からなる、通気度が9.3ml/cm2/sの安積ろ紙社製不織布356を用いた。この一層からなる不織布を実施例1で得られた撥水撥油性膜形成用液組成物にディッピングし、余分な液を振り払い、室温で24時間乾燥させ、通気度が7.6ml/cm2/秒のエアフィルタを作製した。この内容を以下の表5に示す。
【0088】
【0089】
<製造例2~6及び比較製造例1~4>
製造例2~6及び比較製造例1~4について、エアフィルタの基材である通気度が製造例1と同一のPET繊維とガラス繊維の混合繊維からなるけれども、表5に示すように、通気度が同一又は異なる不織布を用いて、実施例2~6及び比較例1~2で得られた撥水撥油性膜形成用液組成物にディッピングし、製造例1と同様の方法で、表5に示す通気度を有するエアフィルタを作製した。
比較試験例3~4では、それぞれ実施例5~6で得られた撥水撥油性膜形成用液組成物を用いて、製造例1と同様の方法で、表5に示す通気度を有するエアフィルタを作製した。
【0090】
<比較試験及び評価>
金属製品を切削油を用いて加工する工作機械から飛散するオイルミストと粉塵に模して、ヘキサデカンと酸化鉄(III)(富士フイルム和光純薬社製)を質量比で80:20の割合で自転公転撹拌機に投入して撹拌混合し、模擬液を得た。この模擬液を用いて、製造例1~6及び比較製造例1~4で得られた10種類のエアフィルタついて、エアフィルタを構成する不織布の繊維表面上の撥水撥油性膜(以下、単に膜という。)の『強度試験前のエアフィルタの通気性と撥油性』及び『強度試験後の撥油性』について調べた。その結果を上述した表5に示す。
【0091】
(1) 膜の強度試験前のエアフィルタの通気性試験
評価する10種類の水平に置いたエアフィルタを構成する不織布の繊維表面上の膜の強度試験を行う前に、圧力損失試験を行って、エアフィルタの通気性試験をした。具体的には、45φのろ過セットに、真空ポンプと圧力計を取り付け、エアフィルタをセットしていない場合の圧力を測定する。次に、エアフィルタをセットした場合の圧力を測定する。エアフィルタをセットした場合とセットしていない場合との差、すなわち圧力損失が3kPa未満の場合をエアフィルタの通気性が『良好』であるとし、3kPaを超える場合をエアフィルタの通気性が『不良』であるとした。
【0092】
(2) 膜の強度試験前の撥油性試験
評価する10種類の水平に置いたエアフィルタを構成する不織布の繊維表面上の膜の強度試験を行う前に、得られた模擬液1mlをエアフィルタに上方から滴下した後、エアフィルタを鉛直に立てて、模擬液の転落性を確認した。模擬液がエアフィルタに染みこんだ場合には、エアフィルタの撥油性が『不良』であるとし、模擬液がエアフィルタに染みこまないがその表面に付着し、エアフィルタを振動させると模擬液がその表面から転落する場合には、エアフィルタの撥油性が『やや良好』であるとし、模擬液がエアフィルタから転落する場合には、エアフィルタの撥油性が『良好』であるとした。
【0093】
(3) 膜の強度試験後の撥油性試験
評価する10種類の膜に下記の接触子を所定の荷重をかけながら、次の条件で10往復移動した。次いで、上記撥油性試験と同様にして、模擬液の転落性を確認した。模擬液がエアフィルタに染みこんだものは、接触子の往復動で膜が剥離したものとみなして、撥油性が『不良』であるとした。また模擬液がエアフィルタに染みこまないがその表面に付着し、エアフィルタを振動させると模擬液がその表面から転落するものは、接触子の往復動で膜が剥離するまでには至らないものとみなして、撥油性が『やや良好』であるとし、模擬液がエアフィルタから直ぐに転落するものは、接触子の往復動で膜が剥離せずに、撥油性が『良好』であるとした。
(a) 測定器:静・動摩擦測定機TL201Tt(株式会社トリニティーラボ)
(b) 測定条件:
・移動距離:30mm
・垂直荷重:500g重
・移動速度:50mm/秒
・接触子:50mm×50mm角のネオプレーンゴム
【0094】
表5から明らかなように、比較製造例1のエアフィルタでは、エアフィルタの通気性は『良好』であったが、フッ素系官能基成分(A)が、溶媒を除いた撥水撥油性膜形成用液組成物、即ち撥水撥油性膜を100質量%とするときに、0.3質量%と少な過ぎたため(表4参照。)、形成した膜に撥油性を付与できず、膜の強度試験前後にて、模擬液がエアフィルタから転落せず、膜の強度試験前後のエアフィルタの撥油性はともに『不良』であった。
【0095】
比較製造例2のエアフィルタでは、膜の強度試験前のエアフィルタの通気性及び膜の強度試験前の撥油性はともに『良好』であったが、フッ素系官能基成分(A)が12質量%と多過ぎたため(表4参照。)、均一な膜が不織布の繊維表面上に形成されず、多孔質状態になり、膜の強度試験後では、膜の剥離が生じて、その撥油性は『不良』であった。
【0096】
比較製造例3のエアフィルタでは、膜の強度試験前後の膜の撥油性は『良好』であったが、エアフィルタの通気度が0.1ml/cm2/sと低過ぎる値であったため、エアフィルタの通気性は『不良』であった。
【0097】
比較製造例4のエアフィルタは、エアフィルタの通気度が32.6ml/cm2/sと高過ぎる値であったため、エアフィルタの通気性が『良好』であった。その一方、不織布繊維表面に撥水撥油性膜が十分に形成されたが、気孔が大き過ぎるため、模擬液が不織布内に浸透した。このため、膜の強度試験前後にて、模擬液がエアフィルタから転落せず、膜の強度試験前後のエアフィルタの撥油性はともに『不良』であった。
【0098】
それに対して、製造例1~6のエアフィルタでは、第1の観点の発明の要件を満たしていることから、膜の強度試験前の通気性はすべて『良好』であり、膜の強度試験前後の撥油性は『良好』であるか又は『やや良好』であった。
【産業上の利用可能性】
【0099】
本発明のエアフィルタは、金属製品を切削油を用いて加工する切削機や旋削機等の工作機械のある作業環境で用いられる。
【符号の説明】
【0100】
10 エアフィルタ
20 不織布
20a 不織布の一面
20b 不織布の他面
20c 不織布の繊維
20d 不織布の気孔
21 撥水撥油性膜
21a 層状無機化合物粒子
21b フッ素含有シリカゾルゲル
22 油粒子
23 粉塵