(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-21
(45)【発行日】2024-03-29
(54)【発明の名称】粒子線加速装置、粒子線加速装置の運転方法、及び粒子線治療装置
(51)【国際特許分類】
A61N 5/10 20060101AFI20240322BHJP
【FI】
A61N5/10 S
(21)【出願番号】P 2020203944
(22)【出願日】2020-12-09
【審査請求日】2023-03-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001380
【氏名又は名称】弁理士法人東京国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高山 茂貴
(72)【発明者】
【氏名】松田 晋弥
(72)【発明者】
【氏名】佐古 貴行
(72)【発明者】
【氏名】折笠 朝文
【審査官】山口 賢一
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-141245(JP,A)
【文献】特開平03-040409(JP,A)
【文献】特開2015-159060(JP,A)
【文献】特開昭59-041181(JP,A)
【文献】特開2017-162896(JP,A)
【文献】特開2017-033978(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61N 5/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒子線を入射する入射手段と、
前記粒子線を所定の軌道に誘導する誘導手段と、
前記粒子線を前記軌道上で加速する加速手段と、
前記粒子線を出射する出射手段と、
前記粒子線を前記軌道上で遮断する粒子線遮断手段と、
前記入射手段、前記誘導手段、前記加速手段、前記出射手段及び前記粒子線遮断手段を制御する制御手段とを有し、前記粒子線を周回させながら加速する粒子線加速装置であって、
前記誘導手段が超電導電磁石と、この超電導電磁石を遮断する超電導電磁石遮断手段とを備えてなり、
前記制御手段は、
前記出射手段の動作時に前記超電導電磁石にクエンチが発生した際には、前記粒子線遮断手段を起動して粒子線の遮断を完了した後に前記超電導磁石遮断手段を起動させ、前記出射手段の非動作時に前記超電導電磁石にクエンチが発生した際には、前記超電導電磁石遮断手段を前記粒子線遮断手段と同時に起動させるよう構成されたことを特徴とする粒子線加速装置。
【請求項2】
粒子線を入射する入射手段と、
前記粒子線を所定の軌道に誘導する誘導手段と、
前記粒子線を前記軌道上で加速する加速手段と、
前記粒子線を出射する出射手段と、
前記粒子線を前記軌道上で遮断する粒子線遮断手段と
、
前記出射手段及び前記粒子線遮断手段を制御する制御手段とを有し、前記粒子線を周回させながら加速する粒子線加速装置の運転方法であって、
前記誘導手段が超電導電磁石と、この超電導電磁石を遮断する超電導電磁石遮断手段とを備えてなる場合、
前記制御手段は、前記出射手段の動作時に前記超電導電磁石にクエンチが発生した際には、前記粒子線遮断手段を起動して粒子線の遮断を完了した後に前記超電導磁石遮断手段を起動させ、前記出射手段の非動作時に前記超電導電磁石にクエンチが発生した際には、前記超電導電磁石遮断手段を前記粒子線遮断手段と同時に起動させることを特徴とする粒子線加速装置の運転方法。
【請求項3】
請求項
1に記載の粒子線加速装置と、この粒子線加速装置にて加速された粒子線を患者の患部に照射する粒子線照射装置とを有し、前記粒子線を用いて治療を行う粒子線治療装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、超電導電磁石を備えた粒子線加速装置、及びその粒子線加速装置の運転方法、並びに上記粒子線加速装置にて加速された粒子線を用いる粒子線治療装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、炭素イオン等の粒子線を、患者の病巣組織(例えば癌)に照射して治療を行う粒子線治療技術が注目されている。この粒子線治療技術によれば、正常組織にダメージを与えず、病巣組織のみをピンポイントで死滅させることができるため、手術や投薬治療等に比べて患者への負担が少なく、治療後の社会復帰の早期化も期待できる。
【0003】
体内の深い位置にある癌細胞を治療するためには、粒子線を加速する必要がある。一般的に、粒子線を加速する粒子線加速装置は大きく二種類に分類される。ひとつは直線状に加速手段(高周波加速空洞)を配置する線形加速器、もうひとつは粒子線の軌道を曲げる偏向装置を概円形状に配置し、この円軌道の一部に加速手段(高周波加速空洞)を配置する円形加速器である。特に、炭素や陽子などの重い粒子では、粒子線生成直後の低エネルギ帯の加速には線形加速器を、高エネルギ帯の加速には円形加速器を用いる方式が一般的である。
【0004】
上述のように粒子線を周回させながら加速する円形加速器は、粒子線の外形を制御する集束・発散装置(四極電磁石装置)、粒子線の軌道を曲げる偏向装置(二極電磁石装置)、及び粒子線の軌道のズレを補正するステアリング電磁石装置等を順次配列することで構成される。この円形加速器において、周回させる粒子の質量やエネルギが増大すると磁気剛性(磁場による曲げ難さ)が増大するために、粒子線の軌道半径が大きくなり、その結果、円形加速器を含む装置全体が大型化してしまう。装置が大型化すると建屋等付帯設備も大型化してしまい、都市部など設置範囲に制限がある場所では本装置を導入することが困難になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2019-141245号公報
【文献】特開2015-159060号公報
【文献】特開2017-33978号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
円形加速器の大型化を抑制するためには、偏向装置等が発生する磁場強度を大きくする必要がある。一般的な偏向装置では鉄心の磁気飽和の影響で1.5Tを超える磁場の発生が困難であるが、偏向装置に超電導技術を適用することで高磁場化が可能になり、円形加速器の小型化が可能になる。ところが、粒子線治療装置用の円形加速器の偏向装置等を構成する超電導電磁石にクエンチなどの異常が発生した場合には、粒子線が患者に誤照射されるリスクが発生する恐れがある。一方、この誤照射リスクを避けるために、超電導電磁石の遮断よりも粒子線の遮断を優先した場合には、超電導電磁石の復帰時間が長くなってしまう。
【0007】
本発明の実施形態は、上述の事情を考慮してなされたものであり、粒子線を所定の軌道に適正に保持して粒子線の誤照射リスクを低減できると共に、装置構成部材の超電導磁石の復帰時間を短くすることができる粒子線加速装置及び粒子線加速装置の運転方法を提供することを目的とし、更に上記粒子線加速装置を有する粒子線治療装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の実施形態における粒子線加速装置は、粒子線を入射する入射手段と、前記粒子線を所定の軌道に誘導する誘導手段と、前記粒子線を前記軌道上で加速する加速手段と、前記粒子線を出射する出射手段と、前記粒子線を前記軌道上で遮断する粒子線遮断手段と、
前記入射手段、前記誘導手段、前記加速手段、前記出射手段及び前記粒子線遮断手段を制御する制御手段とを有し、前記粒子線を周回させながら加速する粒子線加速装置であって、前記誘導手段が超電導電磁石と、この超電導電磁石を遮断する超電導電磁石遮断手段とを備えてなり、前記制御手段は、前記出射手段の動作時に前記超電導電磁石にクエンチが発生した際には、前記粒子線遮断手段を起動して粒子線の遮断を完了した後に前記超電導磁石遮断手段を起動させ、前記出射手段の非動作時に前記超電導電磁石にクエンチが発生した際には、前記超電導電磁石遮断手段を前記粒子線遮断手段と同時に起動させるよう構成されたことを特徴とするものである。
【0009】
また、本発明の実施形態における粒子線加速装置の運転方法は、粒子線を入射する入射手段と、前記粒子線を所定の軌道に誘導する誘導手段と、前記粒子線を前記軌道上で加速する加速手段と、前記粒子線を出射する出射手段と、前記粒子線を前記軌道上で遮断する粒子線遮断手段と、前記出射手段及び前記粒子線遮断手段を制御する制御手段とを有し、前記粒子線を周回させながら加速する粒子線加速装置の運転方法であって、前記誘導手段が超電導電磁石と、この超電導電磁石を遮断する超電導電磁石遮断手段とを備えてなる場合、前記制御手段は、前記出射手段の動作時に前記超電導電磁石にクエンチが発生した際には、前記粒子線遮断手段を起動して粒子線の遮断を完了した後に前記超電導磁石遮断手段を起動させ、前記出射手段の非動作時に前記超電導電磁石にクエンチが発生した際には、前記超電導電磁石遮断手段を前記粒子線遮断手段と同時に起動させることを特徴とするものである。
【0010】
更に、本発明の実施形態における粒子線治療装置は、前記実施形態に記載の粒子線加速装置と、この粒子線加速装置にて加速された粒子線を患者の患部に照射する粒子線照射装置とを有し、前記粒子線を用いて治療を行うものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明の実施形態によれば、粒子線を所定の軌道に適正に保持して粒子線の誤照射リスクを低減できると共に、装置構成部材の超電導磁石の復帰時間を短くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】一実施形態に係る粒子線治療装置としての荷電粒子線治療装置を示すブロック図。
【
図2】
図1における粒子線加速装置としての超電導シンクロトロンを示す平面図。
【
図3】
図2の偏向装置、集束・発散装置を構成する超電導電磁石装置を示す電気回路図。
【
図4】
図2の超電導シンクロトロンにおける制御系を示すブロック図。
【
図5】
図2における超電導シンクロトロンにおいて、超電導電磁石遮断装置と荷電粒子線遮断装置とが同時に起動した場合の超電導電磁石電流値と粒子線強度のそれぞれの変化を示すタイミングチャート。
【
図6】
図2における超電導シンクロトロンにおいて、荷電粒子線遮断装置による荷電粒子線の遮断完了後に超電導電磁石遮断装置が起動した場合の超電導電磁石電流値と粒子線強度のそれぞれの変化を示すタイミングチャート。
【
図7】荷電粒子線遮断装置と超電導電磁石遮断装置とによる遮断手順を、(A)の粒子線出射時と(B)の粒子線加速時、蓄積時等に区分けして示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための形態を、図面に基づき説明する。
図1は、一実施形態に係る粒子線治療装置としての荷電粒子線治療装置を示すブロック図である。この
図1に示す荷電粒子線治療装置10は荷電粒子、例えば負パイ中間子、陽子、ヘリウムイオン、炭素イオン、ネオンイオン、シリコンイオンまたはアルゴンイオンを治療照射用の荷電粒子線源とする装置である。そして、この荷電粒子線治療装置10は、粒子線発生装置11、粒子線加速装置12、粒子線輸送装置13及び粒子線照射装置14を有し、被照射体としての患者の患部5に荷電粒子線1を照射するものである。
【0014】
粒子線発生装置11は、荷電粒子線1を発生する装置であり、例えば電磁場やレーザなどを用いて生成したイオン等を引き出す装置である。
【0015】
粒子線加速装置12は、荷電粒子線1を所定のエネルギに加速する装置であり、その一例として前段加速装置15と後段加速装置16との2段の加速装置を備えて構成される。前段加速装置15としては、ドリフトチューブリニアックDTLや高周波四重極型線形加速器RFQ等の線形加速器がある。また、後段加速装置16としては、シンクロトロンやサイクロトロン等の円形加速器がある。
【0016】
これらの粒子線加速装置12は、荷電粒子線1の通過空間を真空気密に保持する真空ダクト(配管)、荷電粒子線1を電場によって加速する高周波加速空洞、荷電粒子線1を安定的に誘導する偏向装置(二極電磁石装置)及び集束・発散装置(四極電磁石装置)、並びにそれらの各装置等を制御する制御装置を有して構成される。
【0017】
粒子線輸送装置13は、粒子線加速装置12にて加速された荷電粒子線1を粒子線照射装置14へ輸送する装置であり、真空ダクト、偏向装置、集束・発散装置、及びそれらを制御する制御装置を有して構成される。
【0018】
粒子線照射装置14は、粒子線輸送装置13の下流に設置されて、この粒子線輸送装置13を通過した特定エネルギの荷電粒子線1を、患者の患部5に設定された照射点に正確に照射させるべく荷電粒子線1の軌道を調整し、更に、患部5における荷電粒子線1の照射位置及び照射線量を監視する。
【0019】
さて、前述の粒子線加速装置12の後段加速装置16としての超電導シンクロトロン17を
図2に示す。この超電導シンクロトロン17は、荷電粒子線1を周回させながら加速する装置であって、円環形状の真空ダクト20の外径側に複数の偏向装置21、複数の集束・発散装置22、複数の六極電磁石装置23、高周波加速空洞24、入射装置25、出射装置26及び荷電粒子線遮断装置27が配置され、更に制御装置30を有して構成される。
【0020】
真空ダクト20は、荷電粒子線1の通過空間を真空気密に保持する配管であり、その軸線に、荷電粒子線1が通過する所定の軌道3が形成される。
【0021】
偏向装置21は、二極電磁石装置にて構成され、生成する磁場によって荷電粒子線1を所定の軌道3に沿って周回させる。また、集束・発散装置22は、四極電磁石装置にて構成され、生成する磁場によって所定の軌道3上を周回する荷電粒子線1を集束または発散させる。従って、これらの偏向装置21及び集束・発散装置22は、荷電粒子線1を所定の軌道3に安定的に誘導する誘導手段として機能する。
【0022】
高周波加速空洞24は、高周波電圧の印加により生じた電場によって、真空ダクト20内の所定の軌道3に沿って周回する荷電粒子線1を加速する加速手段として機能する。また、入射装置25は、粒子線発生装置11にて生成された荷電粒子線1を超電導シンクロトロン17内に入射する入射手段として機能する。また、出射手段26は、超電導シンクロトロン17にて加速された荷電粒子線1を粒子線輸送装置13へ出射する出射手段として機能する。
【0023】
荷電粒子線遮断装置27は、真空ダクト20内の所定の軌道3上を周回する荷電粒子線1を緊急遮断する粒子線遮断手段として機能する。この荷電粒子線遮断装置27による遮断は、具体的には、図示しないゲートが閉鎖されることによる荷電粒子線1の遮断や、図示しないバンプ電磁石が荷電粒子線1を廃棄軌道へ蹴り出すことによる荷電粒子線1の遮断などである。また、制御装置30は、上述の各装置等21、22、23、24、25、26及び27を制御する制御手段として機能する。
【0024】
上述の偏向装置21及び集束・発散装置22は、一般には常電導電磁石を有して構成される。これに対し、本実施形態では、偏向装置21及び集束・発散装置22の少なくとも一方が、
図3に示す超電導電磁石32を備えた超電導電磁石装置31にて構成される。この超電導電磁石装置31は、超電導電磁石32と励磁電源33と遮断機34とが直列接続され、保護抵抗35が超電導電磁石32に並列接続されて構成される。
【0025】
超電導電磁石32に異常、例えばクエンチが発生して、図示しないクエンチ検知器がクエンチ信号を出力することで遮断機34が開動作する。この遮断機34の開動作により超電導電磁石32と保護抵抗35とが直列接続されて閉回路が形成され、これにより、超電導電磁石32に蓄積されたエネルギが保護抵抗35で消費されて超電導電磁石32が遮断される。従って、上述の遮断機34及び保護抵抗35は、超電導電磁石32を遮断する超電導電磁石遮断手段として機能する超電導電磁石遮断装置28を構成する。
【0026】
ところで、超電導電磁石装置31にて構成される偏向装置21及び集束・発散装置22の少なくとも一方では、超電導電磁石32にクエンチ等の異常が発生した場合に、荷電粒子線遮断装置27(
図2)と超電導電磁石遮断装置28(
図3)とが同時に起動して、荷電粒子線遮断装置27により荷電粒子線1の遮断が開始され、超電導電磁石遮断装置28によりクエンチ等が発生した超電導電磁石32の遮断が開始されると、
図5に示すように、荷電粒子線1の遮断が完了する前に、クエンチ等が発生した超電導電磁石32の電流値が変化(低下)して、遮断完了前の荷電粒子線1が所定の軌道3から外れてしまう可能性がある。
【0027】
荷電粒子線1が所定の軌道3から大きく外れてしまう場合には、その荷電粒子線1は真空ダクト20に衝突して損失される。これに対し、荷電粒子線1が所定の軌道3に対してわずかに外れた場合には、それらは患者位置まで到達し、粒子線照射装置14により想定しない位置に誤照射される恐れがある。
【0028】
そこで、
図4に示すように、本実施形態の制御装置30は、偏向装置21及び集束・発散装置22の少なくとも一方を構成する超電導電磁石装置31の超電導電磁石32にクエンチ等の異常が発生して、クエンチ信号を受信した際に、荷電粒子線遮断装置27と超電導電磁石遮断装置28の起動順序を、少なくとも出射装置26の運転状態(例えば出射装置26、高周波加速空洞24及び入射装置25等の運転状態)に応じて変更するよう制御する。
【0029】
具体的には、制御装置30は、第1の遮断制御として、出射装置26が動作して超電導シンクロトロン17から荷電粒子線1が出射され取り出されているときに、超電導電磁石32にクエンチ等の異常が発生した際には、荷電粒子線遮断装置27を起動させて荷電粒子線1を遮断させ、この荷電粒子線1の遮断完了後に超電導電磁石遮断装置28を起動させて、クエンチ等が発生した超電導電磁石32を遮断するように制御する。これにより、
図6に示すように、荷電粒子線1の遮断が開始されてから完了するまでの間に、クエンチ等が発生した超電導電磁石32の電流値が低下せず適正値に保持されるので、超電導シンクロトロン17内で荷電粒子線1は、所定の軌道3から外れることなく遮断される。
【0030】
ここで、
図3に示す超電導電磁石装置31の保護抵抗35の抵抗値は、超電導電磁石遮断装置28の遮断時定数Ta(超電導電磁石32の遮断が開始されてから完了するまでの時間)が、荷電粒子線遮断装置27の遮断時定数Tb(荷電粒子線1の遮断が開始されてから完了するまでの時間)よりも長くなるように設定される。すなわち、超電導電磁石遮断装置28の遮断時定数Taは、超電導電磁石32のクエンチ等発生時における発生電圧とコイル温度上昇との兼ね合いで保護抵抗35の抵抗値を選択することで決定され、概ね10秒以下に設定される。
【0031】
一方、荷電粒子線遮断装置27による荷電粒子線1の遮断が、ゲートの閉鎖やバンプ電磁石の蹴り出しによるため、荷電粒子線遮断装置27の遮断時定数Tbは概ね100mm秒以下に設定される。従って、超電導電磁石遮断装置28の遮断時定数Taが荷電粒子線遮断装置27の遮断時定数Tbよりも長い、つまり、荷電粒子線遮断装置27の遮断時定数Tbが超電導電磁石遮断装置28の遮断時定数Taよりも十分に短く設定されることになるので、クエンチ等が発生した超電導電磁石32における大電圧の発生やコイル温度の上昇が極力抑制される。
【0032】
また、制御装置30は、第2の遮断制御として、出射装置26の非動作時で入射装置25により荷電粒子線1が超電導シンクロトロン17に入射されていたり、高周波加速空洞24により荷電粒子線1が加速されていたり、加速された荷電粒子線1が留められて蓄積されていたりするときに、超電導電磁石32にクエンチ等の異常が発生した際には、超電導電磁石遮断装置28を荷電粒子線遮断装置27と同時に起動させて、超電導電磁石遮断装置28によるクエンチ等が発生した超電導電磁石32の遮断と、荷電粒子線遮断装置27による荷電粒子線1の遮断とを同時に実施する。
【0033】
この場合には、
図5に示すように、荷電粒子線1の遮断が完了する前にクエンチ等が発生した超電導電磁石32の電流値が低下して、遮断完了前の荷電粒子線1が所定の軌道3から外れてしまう。そこで、超電導シンクロトロン17から患者までの間、例えば粒子線輸送装置13または粒子線照射装置14にゲート等を設けて荷電粒子線1を遮断する。これにより、超電導シンクロトロン17において所定の軌道3から外れた荷電粒子線1が、粒子線照射装置14により想定されていない位置に誤照射される事態が回避される。
【0034】
次に、上述の制御装置30による荷電粒子線遮断装置27と超電導電磁石遮断装置28の遮断制御を、
図7を参照して更に説明する。
図7(A)に示すように、超電導シンクロトロン17における出射装置26の動作時に、偏向装置21及び集束・発散装置22の少なくとも一方を構成する超電導電磁石装置31の超電導電磁石32にクエンチ等の異常が発生して(S11)、制御装置30がクエンチ検出器からクエンチ信号を受信したとき(S12)、制御装置30は、まず荷電粒子線遮断装置27を起動させる(S13)。
【0035】
この荷電粒子線遮断装置27により荷電粒子線1が遮断されて遮断が完了した時点で(S14)、制御装置30は、次に超電導電磁石遮断装置28を起動させる(S15)。超電導電磁石遮断装置28が起動することで、クエンチ等が発生した超電導電磁石32の磁場が保護抵抗35により減衰され(S16)、磁場がゼロになった時点で超電導電磁石32の遮断が完了する(S17)。
【0036】
図7(B)に示すように、超電導シンクロトロン17における出射装置26の非動作時、例えば入射装置25による荷電粒子線1の入射時、高周波加速空洞24による荷電粒子線1の加速時、または加速された荷電粒子線1の蓄積時に、偏向装置21及び集束・発散装置22の少なくとも一方を構成する超電導電磁石装置31の超電導電磁石32にクエンチ等の異常が発生して(S21)、制御装置30がクエンチ検知器からクエンチ信号を受信したとき(S22)、制御装置30は、超電導電磁石遮断装置28と荷電粒子線遮断装置27とを同時に起動させる(S23、S24)。
【0037】
超電導電磁石遮断装置28が起動することで、クエンチ等が発生した超電導電磁石32の磁場が保護抵抗35により減衰され(S25)、磁場がゼロになった時点でこの超電導電磁石32の遮断が完了する(S26)。一方、荷電粒子線遮断装置27の起動により荷電粒子線1が遮断されて、荷電粒子線1の遮断が完了する(S27)。
【0038】
以上のように構成されたことから、本実施形態によれば、次の効果(1)及び(2)を奏する。
(1)粒子線加速装置12としての超電導シンクロトロン17における偏向装置21及び集束・発散装置22の少なくとも一方の超電導電磁石32にクエンチ等の異常が発生した際には、制御装置30は、荷電粒子線遮断装置27と超電導電磁石遮断装置28との起動順序を、少なくとも出射装置26の運転状態に応じて変更している。制御装置30は、例えば出射装置26の動作時に超電導電磁石32にクエンチ等の異常が発生した際には、荷電粒子線遮断装置27を起動して荷電粒子線1の遮断を完了した後に、超電導電磁石遮断装置28を起動させる。これにより、クエンチ等が発生した超電導電磁石32の電流値が低下せず適性値にある状態で荷電粒子線1の遮断を完了させることができる。この結果、超電導シンクロトロン17からの荷電粒子線1による粒子線照射装置14での誤照射リスクを低減できる。
【0039】
(2)出射装置26の非動作時で入射装置25または高周波加速空洞24の動作時等に、偏向装置21及び集束・発散装置22の少なくとも一方を構成する超電導電磁石装置31の超電導電磁石32にクエンチ等の異常が発生した際には、制御装置30は、超電導電磁石遮断装置28を荷電粒子線遮断装置27と同時に起動させる。これにより、クエンチ等が発生した超電導電磁石32が迅速に遮断されて、そのコイル温度の上昇や大電圧の発生が抑制されるので、クエンチ等が発生した超電導電磁石32の再冷却時間を短縮でき、この超電導電磁石32の復帰時間を短くすることができる。
【0040】
以上、本発明の実施形態を説明したが、この実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。この実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができ、また、それらの置き換えや変更は、発明の範囲や要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0041】
1…荷電粒子線、3…軌道、5…患部、10…荷電粒子線治療装置(粒子線治療装置)、12…粒子線加速装置、14…粒子線照射装置、21…偏向装置(誘導手段)、22…集束・発散装置(誘導手段)、24…高周波加速空洞(加速手段)、25…入射装置(入射手段)、26…出射装置(出射手段)、27…荷電粒子線遮断装置(粒子線遮断手段)、28…超電導電磁石遮断装置(超電導電磁石遮断手段)、30…制御装置(制御手段)、31…超電導電磁石装置、32…超電導電磁石、34…遮断機、35…保護抵抗、Ta…超電導電磁石遮断装置の遮断時定数、Tb…荷電粒子線遮断装置の遮断時定数