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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-21
(45)【発行日】2024-03-29
(54)【発明の名称】人工股関節システム
(51)【国際特許分類】
   A61F 2/34 20060101AFI20240322BHJP
   A61F 2/36 20060101ALI20240322BHJP
   A61F 2/08 20060101ALI20240322BHJP
【FI】
A61F2/34
A61F2/36
A61F2/08
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020205220
(22)【出願日】2020-12-10
(65)【公開番号】P2022092413
(43)【公開日】2022-06-22
【審査請求日】2022-12-24
(73)【特許権者】
【識別番号】518121057
【氏名又は名称】石井 眞介
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100133916
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 興
(72)【発明者】
【氏名】石井 眞介
【審査官】胡谷 佳津志
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第111568608(CN,A)
【文献】特開2007-252645(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0053589(US,A1)
【文献】特開2000-166937(JP,A)
【文献】特開2016-179229(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 2/00;2/02-2/80;3/00-4/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
骨盤の寛骨臼に摺動可能に係合する骨頭部を有する人工骨頭と、前記骨頭部を前記寛骨臼に接続する人工靭帯ユニットと、を備え、
前記人工靭帯ユニットは、生体吸収性の人工靭帯と、前記人工靭帯の一端部を前記骨盤に固定する骨盤側固定具と、前記人工靭帯の他端部を前記骨頭部に固定する骨頭側固定具と、を有し、
前記人工骨頭は、大腿骨に設けられたステムと、前記ステムの上端に設けられたステムネックと、をさらに有し、
前記骨頭部は、前記ステムネックに設けられたインナーヘッドと、前記インナーヘッドの外周に摺動可能に係合されたソケットと、ソケットの外周に嵌合されかつ前記寛骨臼の内周面に対して摺動可能なアウターカップと、を有し、
前記骨頭側固定具は、前記人工靭帯の他端部を前記アウターカップに固定する、ことを特徴とする人工股関節システム。
【請求項2】
請求項に記載の人工股関節システムにおいて、
前記アウターカップには、前記人工靭帯が挿通可能な挿通孔が形成され、
前記骨盤側固定具は、前記人工靭帯の一端部を前記骨盤の坐骨に前記寛骨臼の内周側から固定し、
前記骨頭側固定具は、前記挿通孔に挿通された前記人工靭帯の他端部を前記アウターカップの内周面に固定する、ことを特徴とする人工股関節システム。
【請求項3】
請求項に記載の人工股関節システムにおいて、
前記人工靭帯ユニットは、前記人工靭帯とは別に設けられた生体吸収性の追加人工靭帯と、前記追加人工靭帯の一端部を前記骨盤の恥骨に前記寛骨臼の内周側から固定する追加骨盤側固定具と、をさらに有し、
前記追加人工靭帯は、前記人工靭帯とともに前記挿通孔に挿通され、
前記骨頭側固定具は、前記人工靭帯及び前記追加人工靭帯の各他端部を前記アウターカップの内周面に固定する、ことを特徴とする人工股関節システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、骨盤の寛骨臼と人工骨頭とを人工靭帯で接続する人工股関節システムに関する。
【背景技術】
【0002】
正常な人の股関節は、骨盤側の半球形の凹み(「寛骨臼」)と、大腿骨の上端にあり寛骨臼に適合する球状の突起(「大腿骨頭」)と、これらを取り囲む軟部組織(「関節包」)と、寛骨臼と大腿骨頭とをつなぐ栄養血管を含む支持組織(「骨頭靭帯」)と、を有する。大腿骨頭が寛骨臼内で回転運動をすることにより、股関節の関節運動が実現される。
【0003】
転倒や血流障害などによって大腿骨頚部を骨折又は損傷し関節運動が著しく障害された場合、損傷した骨頭を取り除き人工の大腿骨頭に置換する手術(人工骨頭置換術)により関節機能を再建することが行われている。
【0004】
前記人工骨頭置換術の手術後比較的早期におこりやすい合併症のひとつとして、股関節の過度な屈曲や不良姿位による人工骨頭の脱臼がある。脱臼すると強い疼痛と関節機能不全により歩行できなくなる。脱臼の整復には脱臼した側の下肢を牽引して大腿骨頭を元の寛骨臼に整復する必要があるが、股関節周囲の関節包や筋肉など軟部組織が関節内に嵌頓して整復困難となることがあり、牽引のみで整復できない場合、外科的手術によって関節を切開し脱臼を整復して軟部組織を修復しなければならない。
【0005】
前記人工骨頭置換術の手術後脱臼を予防する対策としては、術者側の対策と患者側の対策とがある。術者側の対策としては、手術手技の改善がある。手術侵襲を小さくして関節をできるだけ元の状態にもどすさまざまな低侵襲手術法が工夫され、整形外科の学会などで長きにわたり議論されている。患者側の対策としては、手術後の立位歩行訓練に始まり、股関節の過度な屈曲や不良姿位を避けるような生活様式の指導があり、リハビリテーションの学会などで多く議論されている。従来は、以上のような取り組みで脱臼予防の成果をあげてきた。しかしながら、近年認知症を伴う高齢者の大腿骨頚部骨折が増加し、リハビリテーション指導に限界が生じてきた。認知症のため不良姿位を避けるような指導が理解できず、自分が手術を受けていること自体も忘れてしまうような認知症患者が増加してきたためである。
【0006】
本発明に関し、国際特許分類を調査分野として、先行技術文献情報の調査を実施したが、該当する文献を見出すことはできなかった。人工骨頭置換術の手術後合併症のひとつである脱臼の予防は、前述したように術者側での手術の改善と患者側での手術後のリハビリテーションとでこれまで一定の成果をあげてきたことがその理由であると思われる。しかし、現代はこれまでどの時代も経験しなかったような認知症を伴う高齢患者が増加してきている。手術後の脱臼予防のリハビリテーションすなわち不良姿位を避けるような生活指導訓練が理解できず、患者自身が手術を受けていること自体を忘れてしまうというような認知症をもつ高齢患者が増加し、従来の対応では不十分になってきたため、本願発明者は、新しい人工股関節システムを考案した。先行技術文献情報に代えて、従来の技術について図面を用いて説明する。
【0007】
図1は従来の典型的なバイポーラ型人工骨頭置換術が施された股関節の状態を示す正面図であり、人工骨頭101と、骨盤H3の寛骨臼H4と、大腿骨H1との関係を示している。大腿骨H1内に作られた大腿骨髄腔H2には、ステム111が設置される。ステム111の上端から突出するステムネック112には、インナーヘッド113が嵌合し、インナーヘッド113の球状の凸面には、ソケット114が摺動可能に係合され、ソケット114の球状の凸面にはさらにその外側にアウターカップ115が嵌合されて人工骨頭101が構成される。インナーヘッド113がソケット114に対しスムースに回転運動し、アウターカップ115が骨盤H3の寛骨臼H4に対しスムースに回転運動することにより、人工骨頭101がバイポーラ型人工骨頭として機能する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
解剖学的に、骨盤の寛骨臼と大腿骨頭との間は血管を含む骨頭靭帯でつながり、骨頭靭帯は寛骨臼の側から大腿骨頭へ栄養を供給し、関節周囲組織である関節包と呼ばれる軟部組織とともに関節を形成している。骨頭靭帯と関節包とは、大腿骨頭を含む関節周囲組織の血流維持と関節の安定性に寄与している。前記バイポーラ型人工骨頭置換術では、大腿骨頚部骨折などで損傷した大腿骨頭を取り除き人工の骨頭に置換されるが、前記骨頭靭帯切離と前記関節包切開が必須である。一般的に、前記関節包は切開した後に縫合によって外科的修復がされるが、前記骨頭靭帯を修復するという手術はこれまでなかった。
【0009】
本発明は、前記のような事情に鑑みてなされたものであり、不良姿位をとることにより人工骨頭が寛骨臼から脱臼するリスクを低減する人工股関節システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決すべく、本願発明者は、人工骨頭置換術の従来の利点を損なわず、関節本来の安定性を獲得し、手術後早期の脱臼を回避することができる生体吸収性の人工靭帯を用いた人工股関節システムを案出した。
【0011】
すなわち、本発明の人工股関節システムは、骨盤の寛骨臼に摺動可能に係合する骨頭部を有する人工骨頭と、前記骨頭部を前記寛骨臼に接続する人工靭帯ユニットと、を備え、前記人工靭帯ユニットは、生体吸収性の人工靭帯と、前記人工靭帯の一端部を前記骨盤に固定する骨盤側固定具と、前記人工靭帯の他端部を前記骨頭部に固定する骨頭側固定具と、を有し、前記人工骨頭は、大腿骨に設けられたステムと、前記ステムの上端に設けられたステムネックと、をさらに有し、前記骨頭部は、前記ステムネックに設けられたインナーヘッドと、前記インナーヘッドの外周に摺動可能に係合されたソケットと、ソケットの外周に嵌合されかつ前記寛骨臼の内周面に対して摺動可能なアウターカップと、を有し、前記骨頭側固定具は、前記人工靭帯の他端部を前記アウターカップに固定する、ことを特徴とする(請求項1)。
【0012】
この人工股関節システムによれば、生体吸収性の人工靭帯の一端部を骨盤に固定し、人工靭帯の他端部を骨頭部に固定したので、人工骨頭の骨頭部を、人工靭帯を介して骨盤に接続することができる。このため、人工靭帯が生体に吸収されるまでの一定期間、骨頭部が骨盤の寛骨臼に対して行う求心性回転運動を抑制することになるが、骨頭部と寛骨臼との間隔は一定に保たれ、骨盤に対する人工骨頭の過度な屈曲や不良姿位により前記骨頭部が前記寛骨臼から脱臼するリスクを低減することができる。また、前記一定期間経過し、人工靭帯が生体に吸収された後は、骨頭部が骨盤の寛骨臼に対して行う求心性回転運動を許容することができる。また、ソケットがインナーヘッドの外周に摺動可能に係合され、人工靭帯が生体に吸収された後は、アウターカップが寛骨臼の内周面に対して摺動可能となるので、人工骨頭をバイポーラ型人工骨頭として機能させることができる。
【0013】
また、人工靭帯は生体吸収性を有するので、この人工靭帯を股関節に設置した場合であっても、この人工靭帯が異物とみなされることによる炎症の発生を抑制することができる。
【0016】
前記人工股関節システムにおいて、前記アウターカップには、前記人工靭帯が挿通可能な挿通孔が形成され、前記骨盤側固定具は、前記人工靭帯の一端部を前記骨盤の坐骨に前記寛骨臼の内周側から固定し、前記骨頭側固定具は、前記挿通孔に挿通された前記人工靭帯の他端部を前記アウターカップの内周面に固定する、ことが好ましい(請求項)。
【0017】
この構成によれば、骨盤を構成する骨のうち比較的強度が大きい坐骨に人工靭帯を固定したので、骨盤側固定具が骨盤から離脱するリスクを低減することができる。このため、比較的安定して人工靭帯を骨盤に固定することができる。
【0018】
前記人工股関節システムにおいて、前記人工靭帯ユニットは、前記人工靭帯とは別に設けられた生体吸収性の追加人工靭帯と、前記追加人工靭帯の一端部を前記骨盤の恥骨に前記寛骨臼の内周側から固定する追加骨盤側固定具と、をさらに有し、前記追加人工靭帯は、前記人工靭帯とともに前記挿通孔に挿通され、前記骨頭側固定具は、前記人工靭帯及び前記追加人工靭帯の各他端部を前記アウターカップの内周面に固定する、ことが好ましい(請求項)。
【0019】
この構成によれば、人工靭帯を坐骨に固定するのに加えて、追加人工靭帯を恥骨に固定したので、人工靭帯が骨盤から離脱するリスクをより一層低減することができる。このため、さらに安定して人工靭帯を骨盤に固定することができる。
【発明の効果】
【0020】
以上説明したように、本発明によれば、不良姿位をとることにより人工骨頭が寛骨臼から脱臼するリスクを低減する人工股関節システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】従来の典型的なバイポーラ型の人工骨頭を骨盤に設置した状態を示す正面図である。
図2】本発明の第1実施形態に係る人工股関節システムの全体構造を表す正面図である。
図3】前記人工股関節システムのアウターカップの挿通孔に挿通された人工靭帯と、人工靭帯につながるスクリュー式固定具と、ボタン型固定具とをアウターカップの外周側から見た側面図である。
図4】前記人工股関節システムのアウターカップの挿通孔に挿通された人工靭帯と、人工靭帯につながるスクリュー式固定具と、ボタン型固定具とをアウターカップの内周側から見た底面図である。
図5】前記アウターカップと、前記人工靭帯ユニットとを前記骨盤に設置する前の状態を表す正面図である。
図6】本発明の第2実施形態に係る人工股関節システムの全体構造を表す正面図である。
図7】本発明の第2実施形態に係る人工股関節システムのアウターカップの挿通孔に挿入された第1人工靭帯及び第2人工靭帯につながるスクリュー式固定具と、ボタン型固定具とをアウターカップの外周側から見た側面図である。
図8】本発明の第2実施形態に係る人工股関節システムのアウターカップの挿通孔に挿通された第1人工靭帯及び第2人工靭帯につながるスクリュー式固定具と、ボタン型固定具とをアウターカップの内周側から見た底面図である。
図9】本発明の第2実施形態に係る人工股関節システムのアウターカップと、第1人工靭帯及び第2人工靭帯を前記骨盤に設置する前の状態を表す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
1.第1実施形態
以下、本発明の第1実施形態に係る人工股関節システムGについて図2図5を用いて説明する。
【0023】
人工股関節システムGは、図2に示すように、大腿骨H1に固定される人工骨頭1と、人工骨頭1を骨盤H3に接続する人工靭帯ユニット2と、を備える。人工股関節システムGが適用される大腿骨としては、大腿骨頭が切除された大腿骨H1が用いられる。この大腿骨H1には、上下方向に延びるとともに上部で開口する大腿骨髄腔H2が形成されている。
【0024】
人工骨頭1は、大腿骨H1の大腿骨髄腔H2に設置するステム11と、ステム11の上端部に連続して設けられたステムネック12と、ステムネック12におけるステム11と連続している側とは反対側の端部(先端部)に設けられた骨頭部4と、を有する。ステム11は、公知のものを用いるので詳細な説明を省略する。
【0025】
ステムネック12は、ステム11側の端部から先端部に向かうに従って径がわずかに小さくなるように形成された棒状部材である。
【0026】
骨頭部4は、ステムネック12に取り付けられたインナーヘッド13と、インナーヘッド13の外周に摺動可能に係合されたソケット14と、ソケット14の外周に嵌合されかつ寛骨臼H4の内周面に対して摺動可能なアウターカップ15と、を有する。このように、インナーヘッド13がソケット14に対して摺動可能に設けられ、アウターカップ15が寛骨臼H4に対して摺動可能に設けられることにより、人工骨頭1がバイポーラ型人工骨頭として機能する。
【0027】
インナーヘッド13は、図2に示すように、ソケット14の内周面(後述する凹部14a)に対して摺動可能な球状の外周面を有する。また、インナーヘッド13には、ステムネック12を固定するための嵌合孔13aが形成されている。嵌合孔13aの内径はほぼ一定である。この嵌合孔13aに、ステムネック12の先端部が圧入されることによりインナーヘッド13がステムネック12に嵌合される。すなわち、わずかに先細り状(テーパ状)に形成されたステムネック12の先端部が嵌合孔13aに押し込まれるほど、ステムネック12の先端部と嵌合孔13aの内周とが密着し、その結果、インナーヘッド13がステムネック12に固定される。インナーヘッド13は、例えばコバルトクロム合金やセラミック等により形成される。
【0028】
ソケット14は、図2に示すように、アウターカップ15の内周面(後述する凹部15a)に嵌合して固定される。ソケット14には、インナーヘッド13が摺動可能に係合する凹部14aが形成されている。ソケット14は、例えば超高分子ポリエチレンの樹脂等により形成される。
【0029】
凹部14aの周面は、インナーヘッド13の外周面(球面)に対応する形状とされている。インナーヘッド13がこの凹部14aに係合した状態で、インナーヘッド13の外周面が凹部14aの周面と摺動することにより、インナーヘッド13がソケット14に対して回転する。
【0030】
アウターカップ15は、図2に示すように、寛骨臼H4の内周面に対して摺動可能な半球状の外周面を有する。アウターカップ15には、ソケット14に嵌合する凹部15aが形成されている。アウターカップ15は、例えばコバルトクロム合金等の金属により形成される。
【0031】
ソケット14が、凹部15aに嵌合した状態で、アウターカップ15の外周面が寛骨臼H4の内周面と摺動することにより、アウターカップ15が寛骨臼H4に対して回転する。アウターカップ15の外径は、アウターカップ15が寛骨臼H4の内周面に対して摺動能に係合するように、寛骨臼H4の内径に応じて適宜設定される。
【0032】
人工靭帯ユニット2は、図3に示すように、生体吸収性の人工靭帯22と、人工靭帯22を骨頭部4に固定するボタン型固定具23(本発明の「骨頭側固定具」に対応)と、人工靭帯22を骨盤H3に固定するスクリュー式固定具21(本発明の「骨盤側固定具」に対応)と、を有する。
【0033】
人工靭帯22は、スクリュー式固定具21において折り返された一本又は複数本の紐状部材により構成される。人工靭帯22は、スクリュー式固定具21において折り返された部分である折り返し部分22cと、折り返し部分22cから二股に分かれて延びる第1部分22a及び第2部分22bと、を有する。折り返し部分22cが本発明の一端部に対応し、第1、第2部分22a,22bにおける折り返し部分22cとは反対側の端部が本発明の他端部に対応する。
【0034】
解剖学的に骨頭靭帯は、大腿骨頭への栄養血管としての機能と、股関節の安定保持目的の機能とを併せ持つが、人工靭帯22は、このうち、股関節の安定保持目的の機能を持つ。具体的に、人工靭帯22は、大腿骨H1に人工骨頭1を固定する手術(人工骨頭置換術)後一定期間、股関節(骨頭部4と寛骨臼H4との間の関節)の安定保持に重要な役割を担う。
【0035】
また、股関節は、膝関節のような回転運動とすべり運動を兼ね備えた多元的な運動とは異なり、求心性回転運動をする球状関節である。したがって、前記手術で切離した股関節周囲の関節包などの軟組織(図示省略)が縫合された後に生着し元の状態に修復されれば、人工骨頭置換術の手術後の股関節の安定性はほぼ達成されたと考えられる。
【0036】
そこで、人工靭帯22の素材としては、前記軟組織が生着し元の状態に修復されるするまでの一定期間断裂しないよう強度を維持することができる性質を有する材料を用いるのが好ましい。また、人工靭帯22の一端部は、寛骨臼H4の内周面(関節摺動面)に固定されるので、人工靭帯22の素材としては、一定期間強度を維持することができる性質を有することに加え、股関節内で炎症反応を惹起させないような性質を有する材料を用いるのがさらに好ましい。このような材料としては、例えば、動物の腸、真皮コラーゲン塩酸塩、ポリグリコール酸、ポリジオクサノン、酸化セルロースポリグラチン910等の生体吸収性材料が用いられる。
【0037】
ボタン型固定具23は、図3及び図4に示すように、平面視長方形状に形成されている。ボタン型固定具23の材質としては、アウターカップ15の材質と同一の金属を用いるのが好ましい。アウターカップ15で用いた金属とは異なる金属をボタン型固定具23の材質として用いた場合、金属間の電位差によりイオンが発生し、局所の炎症を惹起する可能性があるからである。
【0038】
ボタン型固定具23には、人工靭帯22が挿通可能な2つの挿通孔23a,23bが、長手方向に並んで形成されている。挿通孔23aには、人工靭帯22の第1部分22aが挿通され、挿通孔23bには、人工靭帯22の第2部分22bが挿通される。
【0039】
アウターカップ15の凹部15aには、図4に示すように、ボタン型固定具23を嵌合するための陥凹151が形成されている。陥凹151は、ボタン型固定具23が安定的に嵌合可能となるように、ボタン型固定具23に対応した長方形状に形成されている。また、陥凹151には、人工靭帯22が挿通可能な挿通孔151aが貫通して形成されている。
【0040】
ボタン型固定具23は、アウターカップ15の挿通孔151a及び当該ボタン型固定具23の挿通孔23a,23bに人工靭帯22の第1、第2部分22a,22bが挿通された状態で、陥凹151に嵌着される。この状態で、人工靭帯22の他端部が結紮される。すなわち、第1、第2部分22a,22bにおける折り返し部分22cとは反対側の端部どうしが結び合わされる。これにより、人工靭帯22がボタン型固定具23を介してアウターカップ15に固定される。
【0041】
スクリュー式固定具21は、人工靭帯22の一端部を骨盤H3の坐骨H5に寛骨臼H4の内周側(関節内)から固定するスクリュー式アンカーである。スクリュー式固定具21は、坐骨H5に螺合するネジ部210と、ネジ部210の螺合方向とは反対方向の端部から延びる接続部211と、を有する。スクリュー式固定具21の材質としては、例えばチタン合金等の金属材料が用いられる。
【0042】
ネジ部210は、坐骨H5に対する引き抜き強度を向上させるために、二重螺旋ネジ構造を有している。
【0043】
接続部211には、人工靭帯22が挿通可能な挿通孔211aが、ネジ部210の螺合方向に直交する方向に形成されている。
【0044】
ネジ部210が坐骨H5に螺合された状態で、人工靭帯22が接続部211の挿通孔211aに挿通されることにより、人工靭帯22の一端部が坐骨H5に固定される。
【0045】
(組み立て方法)
以下、第1実施形態の人工股関節システムGの組み立て方法(人工骨頭置換術)について説明する。
【0046】
図3及び図5に示すように、人工靭帯ユニット2を用いてアウターカップ15と寛骨臼H4とを接続する。
【0047】
具体的に、人工靭帯22をスクリュー式固定具21の挿通孔211aに挿通した状態で、スクリュー式固定具21を寛骨臼H4関節内から坐骨H5に固定(螺合)する。
【0048】
そして、人工靭帯22の他端部をアウターカップ15の外周側から挿通孔151aに挿通する。さらにこの状態で、アウターカップ15を寛骨臼H4に係合させる。
【0049】
また、図4に示すように、挿通孔151aからアウターカップ15の内周側に引き出された人工靭帯22をボタン型固定具23の挿通孔23a,23bに挿通する。詳細には、挿通孔23aに第1部分22aを挿通し、挿通孔23bに第2部分22bを挿通する。この状態で、ボタン型固定具23をアウターカップ15の内周側から陥凹151に嵌着する。そして、人工靭帯22の他端部(第1、第2部分22a,22bにおける折り返し部分22cとは反対側の端部どうし)を結紮する。
【0050】
このような手順により、人工靭帯ユニット2を用いてアウターカップ15と寛骨臼H4とを接続することができる。
【0051】
次に、図2に示すように、人工骨頭1を組み立てる。
【0052】
具体的に、寛骨臼H4に係合させたアウターカップ15の内周面にソケット14を嵌合させる。また、大腿骨髄腔H2に設置したステム11のステムネック12をインナーヘッド13の嵌合孔13aに嵌合させる。さらにソケット14の内周側に、インナーヘッド13をスムースに回転運動できるよう係合させる。
【0053】
このような手順により、本発明の人工骨頭1を、従来のバイポーラ型の人工骨頭と同等に寛骨臼H4に接続することができ、さらに人工靭帯22により人工骨頭置換術後の関節の安定性を向上させることができる。
【0054】
(作用効果)
第1実施形態に係る人工股関節システムGによれば、人工靭帯22の一端部を骨盤H3の坐骨H5に固定し、人工靭帯22の他端部を骨頭部4のアウターカップ15に固定したので、人工骨頭1の骨頭部4を、人工靭帯22を介して坐骨H5に接続することができる。このため、人工靭帯22が生体に吸収されるまでの一定期間、骨頭部4のアウターカップ15が骨盤H3の寛骨臼H4に対して行う求心性回転運動を抑制することになるが、骨頭部4のアウターカップ15と寛骨臼H4との間隔は一定に保たれ、骨盤H3に対する人工骨頭1の過度な屈曲や不良姿位により骨頭部4が寛骨臼H4から脱臼するリスクを低減することができる。また、前記一定期間経過し、人工靭帯22が生体に吸収された後は、骨頭部4のアウターカップ15が骨盤H3の寛骨臼H4に対して行う求心性回転運動を許容することができる。
【0055】
また、人工靭帯22は、生体吸収性なので、人工靭帯22を関節内に設置した場合であっても、この人工靭帯22が異物とみなされることによる炎症の発生を抑制することができる。
【0056】
また、ソケット14がインナーヘッド13の外周に摺動可能に係合され、人工靭帯が生体に吸収された後は、アウターカップ15が寛骨臼H4に対して摺動可能となるので、人工骨頭1をバイポーラ型人工骨頭として機能させることができる。
【0057】
また、骨盤H3を構成する骨のうち比較的強度が大きい坐骨H5に人工靭帯22を固定したので、スクリュー式固定具21が骨盤H3から離脱するリスクを抑制することができる。このため、安定して人工靭帯22を骨盤H3に固定することができる。
【0058】
また、スクリュー式固定具21は、寛骨臼H4の内周側(関節内)から人工靭帯22を固定するので、骨頭部4が寛骨臼H4から離間するリスクを低減することができ、その結果、骨頭部4が寛骨臼H4から脱臼するリスクを低減することができる。
【0059】
2.第2実施形態
第2実施形態に係る人工股関節システムKについて、図6図9を用いて、第1実施形態の人工股関節システムGとの相違点を中心に説明する。
【0060】
第2実施形態の人工股関節システムKは、図6に示すように、人工靭帯22を用いる1重束の人工靭帯ユニット2に代えて、人工靭帯22に別の人工靭帯を加えた2重束の人工靭帯ユニット3を用いる点で、第1実施形態の人工股関節システムGとは異なる。
【0061】
人工靭帯ユニット3は、第1実施形態で用いた人工靭帯22(以下、第2実施形態において「第1人工靭帯22」と呼ぶ)と、ボタン型固定具23と、スクリュー式固定具21(以下、第2実施形態において「第1スクリュー式固定具21」と呼ぶ)とに加え、第1人工靭帯22とは別に設けられた第2人工靭帯25(本発明の「追加人工靭帯」に対応)と、第2人工靭帯25の一端部を骨盤H3に固定する第2スクリュー式固定具24(本発明の「追加骨盤側固定具」に対応)と、を有する。
【0062】
第2人工靭帯25としては、第1人工靭帯22と同様の材質、形状のものが用いられる。すなわち、第2人工靭帯25は、第2スクリュー式固定具24において折り返された一本又は複数本の紐状部材により構成される。
【0063】
第2人工靭帯25は、第2スクリュー式固定具24において折り返された一本又は複数本の紐状部材により構成される。第2人工靭帯25は、第2スクリュー式固定具24において折り返された部分である折り返し部分25cと、折り返し部分25cから二股に分かれて延びる第1部分25a及び第2部分25bと、を有する。折り返し部分25cが本発明の一端部に対応し、第1、第2部分25a,25bにおける折り返し部分25cとは反対側の端部が本発明の他端部に対応する。
【0064】
第2人工靭帯25は、図7及び図8に示すように、第1人工靭帯22とともにアウターカップ15の挿通孔151aに挿通される。また、第2人工靭帯25の第1部分25aは、第1人工靭帯22の第1部分22aとともにボタン型固定具23の挿通孔23aに挿通され、第2部分25bは、第2部分22bとともに挿通孔23bに挿通される。
【0065】
第2スクリュー式固定具24の材質及び形状は、第1スクリュー式固定具21の材質及び形状と同様である。すなわち、第2スクリュー式固定具24は、第2人工靭帯25の一端部を骨盤H3の恥骨H6に寛骨臼H4の内周側(関節内)から固定するスクリュー式アンカーであり、恥骨H6に螺合するネジ部240と、ネジ部240に第2人工靭帯25を固定する接続部241と、により構成される。
【0066】
接続部241には、第2人工靭帯25が挿通可能な挿通孔241aが、ネジ部240の軸方向に直交する方向に形成されている。
【0067】
以下、第2実施形態の人工股関節システムKの組み立て方法(人工骨頭置換術)について、第1実施形態との相違点を中心に説明する。
【0068】
図7及び図9に示すように、第1人工靭帯22を第1スクリュー式固定具21の挿通孔211aに挿通した状態で、スクリュー式固定具21を寛骨臼H4の内周側(関節内)から坐骨H5に固定(螺合)する。また、第2人工靭帯25を第2スクリュー式固定具24の挿通孔241aに挿通した状態で、第2スクリュー式固定具24を寛骨臼の内周側(関節内)から恥骨H6に固定(螺合)する。
【0069】
そして、第1人工靭帯22及び第2人工靭帯25を束ねた状態で第1人工靭帯22及び第2人工靭帯25をアウターカップ15の外周側から挿通孔151aに挿通する。さらに、第1人工靭帯22の第1部分22a及び第2人工靭帯25の第1部分25aを束ねた状態でボタン型固定具23の挿通孔23aに挿通し、第2部分22b及び第2部分25bを束ねた状態で挿通孔23bに挿通する。この状態で、ボタン型固定具23をアウターカップ15の内周側から陥凹151に嵌着する。
【0070】
そして、第1人工靭帯22の他端部(第1、第2部分22a,22bにおける折り返し部分22cとは反対側の端部どうし)を結紮するとともに、第2人工靭帯25の他端部(第1、第2部分25a,25bにおける折り返し部分25cとは反対側の端部どうし)を結紮する。
【0071】
人工骨頭1の組み立て手順については、第1実施形態と同様なので省略する。
【0072】
第2実施形態に係る人工股関節システムKによれば、第1人工靭帯22を坐骨H5に固定するのに加えて、第2人工靭帯25を恥骨H6に固定したので、第1人工靭帯22が骨盤H3から離脱するのをより一層抑制することができる。
【0073】
また、第2スクリュー式固定具24は、寛骨臼H4の内周側(関節内)から第2人工靭帯25を固定するので、骨頭部4が寛骨臼H4から離間するリスクをより一層低減することができ、その結果、骨頭部4が寛骨臼H4から脱臼するリスクをより一層低減することができる。
【0074】
(変形例)
上記実施形態は本発明の好ましい具体例を例示したものに過ぎず、本発明は上記実施形態に限定されない。
【0075】
例えば、第1実施形態では、骨盤側固定具として、金属材料により形成されたスクリュー式固定具21を用いたが、骨盤側固定具として用いることができるのはこのようなスクリュー式固定具21に限られず、例えば、ポリ(L-ラクチド)にハイドロキシアパタイト等のバイオセラミックス粉体を含有した素材(HA/PLLA)等の生体吸収性材料により形成された骨盤側固定具を用いても良い。
【0076】
患者の加齢性変化などにより寛骨臼H4の変形又は、アウターカップ15の内方移動がおこれば、骨盤側固定具とアウターカップ15との接触をきたし得るところ、骨盤側固定具の材質として生体吸収性材料を用いた場合、このような接触による炎症反応を抑制することができる。
【0077】
なお、HA/PLLAにより形成された骨盤側固定具は、金属材料により形成されたスクリュー式固定具21に比べて強度が低く、形状によっては、比較的容易に骨盤側固定具が破断することが予想される。そのため、HA/PLLAにより形成した骨盤側固定具を用いて人工靭帯22を骨盤H3の坐骨H5に固定する場合、当該骨盤側固定具が螺合可能なネジ孔を坐骨H5に形成し、人工靭帯22の折り返し部分22cを当該骨盤側固定具に巻き込んだ状態でネジ孔に締結しても良い。
【0078】
この場合、骨盤側固定具の形状としては、第1実施形態のスクリュー式固定具21のようにスクリュー式アンカーの形状である必要はなく、例えば、止めネジ(JIS B 1117、JIS B 1118、JIS B 1177)の形状であっても良い。
【0079】
このことは、第2実施形態で用いることができる骨盤側固定具でも同様である。
【0080】
その他、本発明の特許請求の範囲内で種々の設計変更が可能であることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0081】
1 人工骨頭
2 人工靭帯ユニット
3 人工靭帯ユニット
4 骨頭部
11 ステム
12 ステムネック
13 インナーヘッド
14 ソケット
15 アウターカップ
21 第1スクリュー式固定具(骨盤側固定具)
22 第1人工靭帯(人工靭帯)
23 ボタン型固定具(骨頭側固定具)
24 第2スクリュー式固定具(追加骨盤側固定具)
25 第2人工靭帯(追加人工靭帯)
G 人工股関節システム
H1 大腿骨
H2 大腿骨髄腔
H3 骨盤
H4 寛骨臼
H5 坐骨
H6 恥骨
K 人工股関節システム
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9