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特許7458329両面金属張積層体とその製造方法、絶縁フィルムおよび電子回路基板
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  • 特許-両面金属張積層体とその製造方法、絶縁フィルムおよび電子回路基板 図1
  • 特許-両面金属張積層体とその製造方法、絶縁フィルムおよび電子回路基板 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-21
(45)【発行日】2024-03-29
(54)【発明の名称】両面金属張積層体とその製造方法、絶縁フィルムおよび電子回路基板
(51)【国際特許分類】
   B32B 15/08 20060101AFI20240322BHJP
   B32B 37/14 20060101ALI20240322BHJP
   B32B 37/06 20060101ALI20240322BHJP
   B32B 37/10 20060101ALI20240322BHJP
   H05K 3/00 20060101ALI20240322BHJP
   H05K 1/03 20060101ALI20240322BHJP
   B29C 65/02 20060101ALI20240322BHJP
【FI】
B32B15/08 J
B32B37/14 Z
B32B37/06
B32B37/10
H05K3/00 R
H05K1/03 610H
B29C65/02
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020568181
(86)(22)【出願日】2020-01-22
(86)【国際出願番号】 JP2020002058
(87)【国際公開番号】W WO2020153391
(87)【国際公開日】2020-07-30
【審査請求日】2023-01-05
(31)【優先権主張番号】P 2019011241
(32)【優先日】2019-01-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】猪田 育佳
(72)【発明者】
【氏名】升田 優亮
(72)【発明者】
【氏名】内山 駿
(72)【発明者】
【氏名】戎崎 貴子
【審査官】松岡 美和
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-090570(JP,A)
【文献】国際公開第2016/170779(WO,A1)
【文献】特許第4216433(JP,B2)
【文献】特開2001-239585(JP,A)
【文献】特開2001-079947(JP,A)
【文献】特開2010-221694(JP,A)
【文献】特開2011-096471(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B1/00-43/00
B29C31/00-73/00
H05K 3/00
H05K 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性液晶ポリマーからなる絶縁フィルムを2枚の金属箔で挟んだ構成を有する両面金属張積層体の製造方法であって、
一対のエンドレスベルト間に前記絶縁フィルムと2枚の前記金属箔とを連続的に供給する供給工程、
前記エンドレスベルト間で前記絶縁フィルムを2枚の前記金属箔で挟んだ状態で加熱加圧して積層体とする加熱加圧工程、および
前記積層体を冷却する冷却工程を有し、
前記絶縁フィルムは、厚みが10~500μm、面配向度が30%以上、MD方向の平均線膨張率が-40~0ppm/K、TD方向の平均線膨張率が0~120ppm/Kであり、
前記熱可塑性液晶ポリマーの融点をTm(℃)としたとき、前記加熱加圧工程における加熱温度T(℃)が、(Tm+20)<T≦(Tm+70)を満足し、
前記加熱加圧工程における圧力が、0.5~10MPaであり、
前記加熱加圧工程における加熱加圧時間が、30~360秒であり、
得られた両面金属張積層体の前記金属箔を除去した後の熱可塑性液晶ポリマー層は、面配向度が30%未満である
ことを特徴とする両面金属張積層体の製造方法。
【請求項2】
得られた両面金属張積層体の前記金属箔を除去した後の熱可塑性液晶ポリマー層は、MD方向の平均線膨張率が0~40ppm/K、TD方向の平均線膨張率が0~40ppm/Kであることを特徴とする請求項1に記載の両面金属張積層体の製造方法。
【請求項3】
前記金属箔が銅箔である請求項1または請求項2に記載の両面金属張積層体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、両面金属張積層体とその製造方法、当該製造方法に用いられる絶縁フィルムおよび両面金属張積層体を用いた電子回路基板に関する。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性液晶ポリマー(LCP)は、耐熱性、機械的強度、電気的特性等に優れているため、電気・電子分野や車載部品分野において、電子回路基板等の絶縁フィルムとして広く利用されている。
【0003】
熱可塑性液晶ポリマーフィルムは、直鎖状の剛直な分子鎖が規則正しく並んだ構造を有するため、異方性が生じ易い。そのため、熱可塑性液晶ポリマーをTダイ等により押出成形して得られたフィルムは、一般に、平面内において押出方向に高度の分子配向が生じ易い。その結果、押出方向とその直角方向において加熱時の線膨張率に差違が生じて、外観が変形するおそれがある。
【0004】
そのため、熱可塑性液晶ポリマーフィルムを絶縁フィルムとして用いて、両面金属張積層体を製造する場合は、熱可塑性液晶ポリマーフィルムが有する異方性を低減させる処理を行った後に金属箔と積層して一体化する方法が取られている。
【0005】
熱可塑性液晶ポリマーフィルムを用いて両面金属張積層体を製造する方法については、既に複数の製造技術が開示されている。例えば、特許文献1には、一対のエンドレスベルト間に液晶ポリマーからなる絶縁フィルムと金属箔とを連続的に供給し、熱圧成形してフレキシブルプリント配線板用積層板を製造する方法が開示されている。この方法では、金属箔の表面粗さと熱圧成形時の加熱温度を規定している。また、特許文献2には、一対のエンドレスベルト間に液晶ポリマーからなる絶縁フィルムと金属箔とを連続的に供給し、熱圧着させてフレキシブル積層板を製造する製造方法が開示されている。この方法では、フレキシブル積層板の最高温度と、エンドレスベルトから搬出される際の出口温度を規定している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第5411656号公報
【文献】特開2016-129949号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1に開示された製造方法は、熱圧成形時の加熱温度が液晶ポリマーの融点以上であるものの、異方性の強い熱可塑性液晶ポリマーフィルムを用いると、異方性が残留するおそれがある。フィルムに異方性が残留すると、積層板に反りや変形が生じたり、孔開け加工時にバリや割れが生じるおそれがある。また、特許文献2に開示された製造方法は、熱圧着時の加熱温度が液晶ポリマーの融点未満であるため、特許文献1の方法と同様に、異方性の強い熱可塑性液晶ポリマーフィルムを用いると、異方性が残留するおそれがある。
【0008】
本発明は、以上のような状況に鑑みてなされたものである。すなわち、本発明の課題は、熱可塑性液晶ポリマーからなる異方性の強い絶縁フィルムを用いることが可能であり、両面金属張積層体の熱可塑性液晶ポリマー層における面配向度が小さく、加熱時の寸法変化の異方性も小さい両面金属張積層体とその製造方法を提供することである。また、前記製造方法に好適に用いられる絶縁フィルムおよび前記両面金属張積層体を用いた電子回路基板を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、一対のエンドレスベルト間に熱可塑性液晶ポリマーからなる絶縁フィルムを2枚の金属箔で挟んだ状態で、特定の温度、圧力および時間を選択して加熱加圧することにより、驚くべきことに、絶縁フィルムの異方性が比較的容易に改善されることを見出した。また、従来行っていた予め熱可塑性液晶ポリマーフィルムが有する異方性を低減させるための処理を行わずとも、異方性の強い絶縁フィルムを用いて、異方性が低減した両面金属張積層体を得ることができることを見出した。本発明はこのような知見を基に到達することができたものである。すなわち、本発明は、以下のような構成を有している。
【0010】
(1)本発明の両面金属張積層体の製造方法は、熱可塑性液晶ポリマーからなる絶縁フィルムを2枚の金属箔で挟んだ構成を有する両面金属張積層体の製造方法であって、一対のエンドレスベルト間に前記絶縁フィルムと2枚の前記金属箔とを連続的に供給する供給工程、前記エンドレスベルト間で前記絶縁フィルムを2枚の前記金属箔で挟んだ状態で加熱加圧して積層体とする加熱加圧工程、および前記積層体を冷却する冷却工程を有し、前記絶縁フィルムは、厚みが10~500μm、面配向度が30%以上、MD方向の平均線膨張率が-40~0ppm/K、TD方向の平均線膨張率が0~120ppm/Kであり、前記熱可塑性液晶ポリマーの融点をTm(℃)としたとき、前記加熱加圧工程における加熱温度T(℃)が、(Tm+20)<T≦(Tm+70)を満足し、前記加熱加圧工程における圧力が、0.5~10MPaであり、前記加熱加圧工程における加熱加圧時間が、30~360秒であり、得られた両面金属張積層体の前記金属箔を除去した後の熱可塑性液晶ポリマー層は、面配向度が30%未満であることを特徴としている。
【0011】
(2)本発明の両面金属張積層体の製造方法は、得られた両面金属張積層体の金属箔を除去した後の熱可塑性液晶ポリマー層を、MD方向の平均線膨張率が0~40ppm/K、TD方向の平均線膨張率が0~40ppm/Kとすることができる。
【0012】
(3)本発明の両面金属張積層体の製造方法は、前記金属箔が銅箔であることが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明の両面金属張積層体の製造方法は、熱可塑性液晶ポリマーからなる異方性の強い絶縁フィルムを用いることが可能であり、両面金属張積層体の熱可塑性液晶ポリマー層における面配向度が小さく、加熱時の寸法変化の異方性も小さい両面金属張積層体を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本実施形態の両面金属張積層体の製造装置の模式的断面図である。
図2図2(a)は、X線回折における2次元回折画像であり、図2(b)は、強度曲線である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態を詳細に説明する。ただし、本発明の技術的範囲は、以下に説明する具体例としての実施形態に限定されるわけではない。
【0020】
(熱可塑性液晶ポリマー)
熱可塑性液晶ポリマーとは、溶融時に液晶状態あるいは光学的に複屈折する性質を有する熱可塑性ポリマーを指す。熱可塑性液晶ポリマーとしては、溶液状態で液晶性を示すリオトロピック液晶ポリマーや溶融時に液晶性を示すサーモトロピック液晶ポリマーがある。熱可塑性液晶ポリマーは、熱変形温度によって、I型、II型、III型と分類され、いずれの型であっても構わない。
【0021】
熱可塑性液晶ポリマーとしては、例えば、熱可塑性の芳香族液晶ポリエステル、又はこれにアミド結合が導入された熱可塑性の芳香族液晶ポリエステルアミドなどを挙げることができる。熱可塑性液晶ポリマーは、芳香族ポリエステルまたは芳香族ポリエステルアミドに、更にイミド結合、カーボネート結合、カルボジイミド結合やイソシアヌレート結合などのイソシアネート由来の結合等が導入されたポリマーであってもよい。
【0022】
熱可塑性液晶ポリマーの融点は、DSC法で、220~400℃であることが好ましく、260~380℃であることがより好ましい。熱可塑性液晶ポリマーの融点が前記範囲内にあると、押出成形性に優れ、かつ耐熱性に優れたフィルムを得ることができる。
【0023】
熱可塑性液晶ポリマーは、分子が剛直な棒状構造を有しており、分子が成形流れ方向に揃った状態のまま固まるため、成形品の寸法安定性に優れている半面、異方性を発現し易い特性を有している。
【0024】
(絶縁フィルム)
絶縁フィルムは、熱可塑性液晶ポリマーを成形して製造されたフィルムである。熱可塑性液晶ポリマーから絶縁フィルムを製造する成形方法は特に限定されず、インフレーション法やTダイ法等の押出成形法、キャスト法、カレンダー法等の公知の成形方法を挙げることができる。これらの中では、Tダイ法が最も汎用的である。しかしながら、Tダイ法でフィルム成形した場合には、Tダイを通過するときにMD方向にシェアがかかり、熱可塑性液晶ポリマー分子が配向して、MD方向に異方性が発現し易い。ここで、MD方向とはフィルム面内における成形流れ方向(Machine Direction)であり、TD方向とはフィルム面内においてMD方向と垂直の方向である。
【0025】
絶縁フィルムは、厚みが10~500μmであり、15~400μmが好ましい。絶縁フィルムの厚みが前記範囲内にあると、エンドレスベルト間で絶縁フィルムを2枚の金属箔で挟んだ状態で加熱加圧したときに、ポリマー分子の流動によって異方性を低減させることができる。
【0026】
前記のとおり、Tダイ法によって熱可塑性液晶ポリマーからフィルムを成形すると、MD方向にシェアがかかり、フィルムが配向して、MD方向に異方性が発現することがある。Tダイ法で成形したフィルムは、面配向度が30%以上となり、MD方向の平均線膨張率が-40~0ppm/Kとなり、TD方向の平均線膨張率が0~120ppm/Kとなることが多い。本実施形態の両面金属張積層体の製造方法では、後記するように、絶縁フィルムとして、面配向度が30%以上であり、MD方向の平均線膨張率が-40~0ppm/Kであり、TD方向の平均線膨張率が0~120ppm/Kである異方性の強い絶縁フィルムを用いることができる。
【0027】
面配向度は、以下のようにして求められる。まず、広角X線回折装置を用いて、フィルム面に垂直な方向からフィルム面にX線を照射して、2次元回折画像を得る。次に、得られた2次元回折画像における円周方向の強度をプロットすることにより、強度曲線を得る。得られた強度曲線において、測定強度のベース部分の積分値をBとし、測定されたピーク部分からベース部分を差し引いた部分の積分値をAとしたとき、面配向度は下記式で算出される。
面配向度(%)={A/(A+B)}×100
【0028】
平均線膨張率は、JIS K7197に準拠したTMA法によって測定される。
【0029】
[両面金属張積層体の製造装置]
図1は、本実施形態の両面金属張積層体の製造装置20の模式的断面図である。両面金属張積層体の製造装置20は、液圧式ダブルベルトプレス方式の製造装置であり、絶縁フィルムを2枚の金属箔で挟んだ状態で、連続的に加熱加圧して積層体とすることができ、両面金属張積層体の生産性に優れている。
【0030】
製造装置20には、絶縁フィルムのロール11と、絶縁フィルムの両面に積層される2枚の金属箔のロール12が設置されている。ロール11から引き出された絶縁フィルムは、ロール12から引き出された2枚の金属箔に挟まれた状態で、2台のコンベヤ装置14の間に供給される。
【0031】
製造装置20は、2台のコンベヤ装置14を上下に有している。コンベヤ装置14は、2個のエンドレスベルトロール1、2によって、エンドレスベルト3を駆動させる。コンベヤ装置14はその内部に、加熱ヒーターブロック5および冷却ブロック6を内蔵した加圧ブロック4を有している。2台のコンベヤ装置14は、その間に投入される絶縁フィルムおよび金属箔を連続的に所定の圧力で加圧しつつ加熱し、その後冷却することができる。エンドレスベルト3の材質は特に限定されず、金属、樹脂、ゴム等が使用できるが、耐熱性や熱膨張が少ない点から金属が好ましい。
【0032】
加圧ブロック4は、絶縁フィルムおよび金属箔を所定の圧力で加圧することができる能力を有している。加圧ブロック4の内部にはオイルが充填されている。加圧ブロック4内のオイルは加圧することができる。油圧で加圧すると、フィルム面内に均一に圧力を加えることができるため、外観不良が起こりにくい。加熱ヒーターブロック5は、絶縁フィルムおよび金属箔を熱可塑性液晶ポリマーの融点以上の所定の温度に加熱する機能を有している。冷却ブロック6は、絶縁フィルムおよび金属箔を熱可塑性液晶ポリマーの固化温度以下の温度に所定の冷却速度で冷却する機能を有している。
【0033】
製造装置20は、絶縁フィルムや金属箔を搬送するための複数のガイドロール7を備えている。また、製造装置20は、2台のコンベヤ装置14で一体化された絶縁フィルムと金属箔とからなる積層体を、ロール13として巻き取ることができる。
【0034】
金属箔としては、銅、銅合金、アルミニウム、アルミニウム合金、鉄、鉄合金等の金属箔を用いることができる。電子回路基板等の用途に用いるときは、銅箔が好ましい。
【0035】
金属箔の厚みは、5~100μmが好ましく、7~50μmがより好ましい。金属箔の厚みが100μmを超えると、熱伝導の関係で、製造装置20における熱可塑性液晶ポリマーの加熱溶融が不十分となる恐れがある。また、金属箔は、絶縁フィルムとの密着性向上のために、表面処理を施したものが好ましい。表面処理方法としては、粗面化処理、カップリング剤等の塗布、酸・アルカリ処理、酸化処理等の方法がある。これらの表面処理方法は、公知の方法を適宜用いることができる。
【0036】
[両面金属張積層体の製造方法]
本実施形態の両面金属張積層体の製造方法は、(1)一対のエンドレスベルト間に絶縁フィルムと2枚の金属箔とを連続的に供給する供給工程、(2)エンドレスベルト間で絶縁フィルムを2枚の金属箔で挟んだ状態で加熱加圧して積層体とする加熱加圧工程、(3)積層体を冷却する冷却工程、および(4)積層体を巻き取る巻き取り工程を有している。図1には、これらの4つの工程が示されている。両面金属張積層体の製造方法の各工程は、バッチ方式でも実施することができるが、生産性の点から連続方式で実施する方が好ましい。以下、各工程について説明する。
【0037】
(供給工程)
供給工程は、製造装置20の2台のコンベヤ装置14が有する一対のエンドレスベルト3間に、絶縁フィルムと2枚の金属箔とを連続的に供給する工程である。絶縁フィルムは、ロール11から供給され、絶縁フィルムの両面に積層される2枚の金属箔は、ロール12から供給される。
【0038】
(加熱加圧工程)
加熱加圧工程は、エンドレスベルト3間で、絶縁フィルムを2枚の金属箔で挟んだ状態で加熱加圧して積層体とする工程である。
【0039】
本発明者らは、強い異方性を有する絶縁フィルムを用いて、その異方性の低減方法についての検討を進めた。製造装置20を使用し、エンドレスベルト3間で2枚の金属箔と絶縁フィルムを加熱加圧する際の温度、圧力および時間について種々の検討を加えた。その結果、(1)熱可塑性液晶ポリマーの融点以上の特定の温度に加熱すると、熱可塑性液晶ポリマーが溶融し、溶融状態でポリマー分子間の絡み合いが解けて溶融粘度が急激に低下して、溶融ポリマーの流動性が大きく増大すること、(2)特定の圧力下で特定の時間、高い流動状態を維持することによって、成形時に形成されたポリマー分子の配向が崩され、異方性が大きく低減すること、(3)冷却して、絶縁フィルムのポリマー分子の配向が崩された状態を固定化することにより、金属箔に挟まれた熱可塑性液晶ポリマー層における面配向度が小さくなり、加熱時の寸法変化の異方性も小さくなること、が判明した。
【0040】
熱可塑性液晶ポリマーの融点をTm(℃)としたとき、加熱加圧工程における加熱温度T(℃)は、(Tm+20)<T≦(Tm+70)を満足することが必要である。加熱加圧工程における加熱温度T(℃)は、(Tm+20)<T≦(Tm+60)がより好ましい。加熱加圧工程における加熱温度が前記式の範囲内にあると、熱可塑性液晶ポリマーの溶融粘度を大きく低下させることができ、ポリマー分子を流動させ、分子間の絡み合いを解いて、異方性を大きく低減させることができる。加熱温度T(℃)が、(Tm+70)を超えてしまうと、熱可塑性液晶ポリマーを劣化させてしまったり、溶融ポリマーが流動して金属箔からはみ出して装置を汚染する懸念がある。
【0041】
加熱加圧工程における圧力は、0.5~10MPaであり、0.8~8MPaが好ましい。加熱加圧工程における圧力が0.5MPa以上であると、絶縁フィルムと金属箔とが十分に密着するため、絶縁フィルムに熱を容易に伝達させることができる。また、加熱加圧工程における圧力が10MPa以下であると、絶縁フィルムの厚みが大きく低減することがなく、したがって溶融ポリマーが流動して異方化するおそれが少ない。
【0042】
加熱加圧工程における加熱加圧時間は、30~360秒であり、60~300秒であることが好ましい。加熱加圧時間が前記範囲内にあると、熱可塑性液晶ポリマーを溶融して、異方性を低減させる時間を確保できる。
【0043】
上記の加熱加圧工程を有する本実施形態の製造方法では、面配向度が30%以上であり、MD方向の平均線膨張率が-40~0ppm/Kであり、TD方向の平均線膨張率が0~120ppm/Kである異方性の強い絶縁フィルムを用いたとしても、両面金属張積層体の熱可塑性液晶ポリマー層を、異方性の少ない層とすることができる。異方性の少ない熱可塑性液晶ポリマー層とは、面配向度が30%未満、MD方向の平均線膨張率が0~40ppm/K、TD方向の平均線膨張率が0~40ppm/Kのポリマー層のことである。
【0044】
尚、前記異方性の強い絶縁フィルムよりも、面配向度、MD方向の平均線膨張率およびTD方向の平均線膨張率のいずれかの数値が小さい絶縁フィルムであれば、本実施形態の両面金属張積層体の製造方法の絶縁フィルムとして用いることができる。また、絶縁フィルムの面配向度は80%以下であることが好ましい。
【0045】
本実施形態の製造方法において、上記のように、熱可塑性液晶ポリマー層の異方性が大きく改善される理由として、以下のように考えることができる。絶縁フィルムは2枚の金属箔に挟まれて拘束された状態で加熱されるため、溶融ポリマーの溶融粘度が大きく低下しても、溶融ポリマーが流動して形態が大きく崩れることがない。そして、その状態で、フィルム内部のポリマー分子のミクロな自由運動によって、ポリマー分子の配向がランダムになるためと推定される。
【0046】
(冷却工程)
冷却工程は、加熱加圧工程で得られた積層体を熱可塑性液晶ポリマーの固化温度以下の温度に冷却する工程である。加熱加圧工程において加熱加圧して異方性が低減された絶縁フィルムを冷却固化して、異方性が緩和低減された熱可塑性液晶ポリマー層とする。冷却工程では、成形ひずみが残らないように、均等に冷却することが好ましい。
【0047】
(巻き取り工程)
製造装置20において、加熱加圧工程および冷却工程を経て一体化された積層体は、両面金属張積層体として、巻き取りロール13に巻き取られる。また、巻き取り工程を行わずに、所定の長さの長方形の両面金属張積層体として切り取って、積み重ねていってもよい。製造装置20のライン速度は、加熱加圧工程における加熱加圧時間として30~360秒が確保できる速度に調整される。
【0048】
(両面金属張積層体)
本実施形態の両面金属張積層体は、前記の両面金属張積層体の製造装置20を用いて、両面金属張積層体の製造方法に従って製造される。本実施形態の両面金属張積層体の製造方法によれば、用いた絶縁フィルムの異方性が大きく改善されるため、両面金属張積層体の熱可塑性液晶ポリマー層は、面配向度が小さく、加熱時の寸法変化の異方性も小さいものとなる。すなわち、得られた両面金属張積層体は、金属箔を除去した後の熱可塑性液晶ポリマー層が、面配向度が30%未満であり、MD方向の平均線膨張率が0~40ppm/Kであり、TD方向の平均線膨張率が0~40ppm/Kである。尚、熱可塑性液晶ポリマー層の面配向度は、20%以下が好ましい。
【0049】
両面金属張積層体は、熱可塑性液晶ポリマー層の異方性が低減しているため、反りや変形が生じにくく、孔開け加工時にバリや割れが生じにくいものである。
【0050】
尚、本実施形態の両面金属張積層体は、金属箔を除去した後の熱可塑性液晶ポリマー層の規定に着目すると、本実施形態の両面金属張積層体の製造方法とは異なる製造方法を用いても製造することができる。すなわち、従来の予め絶縁フィルムが有する異方性を低減させるための処理を行った後に当該絶縁フィルムを2枚の金属箔で挟んだ状態で加熱加圧して積層体とする方法によっても製造することができる。しかしながら、本実施形態の両面金属張積層体と前記従来の方法で製造された両面金属張積層体との差違をその構造または特性によって直接特定することは現時点では困難である。そこで、本実施形態の両面金属張積層体が他の製造方法による両面金属張積層体とは異なることを明示するために、本実施形態の両面金属張積層体を、その製造方法で規定することとした。
【0051】
従来は、予め熱可塑性液晶ポリマーフィルムが有する異方性を低減させるための処理を行っていたところ、本実施形態の両面金属張積層体の製造方法は、そのような工程を省略することができるものである。すなわち、本実施形態の両面金属張積層体の製造方法は、製造工程が従来より簡略化され、生産性に優れた製造方法である。
【0052】
両面金属張積層体の用途としては、電気・電子分野や車載部品分野におけるプリント配線板やモジュール基板等の電子回路基板がある。また、他の用途として、高耐熱性のフレキシブルプリント基板、ソーラーパネル基板、高周波用配線基板等がある。特に、絶縁フィルムを基板として用いたフレキシブル銅張積層板に適性を有している。
【実施例
【0053】
以下に実施例と比較例を用いて、本発明の実施の形態をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。
【0054】
実施例および比較例に用いた材料は以下のとおりである。
(1)絶縁フィルム
絶縁フィルム1:上野製薬社製LCP樹脂(品番A-5000、融点280℃、結晶化温度230℃)を単軸押出機とTダイで製膜した厚み12μm、100μm、480μmおよび600μmのフィルム
絶縁フィルム2:ポリプラスチック社製LCP樹脂(品番C950RX、融点320℃、結晶化温度275℃)を単軸押出機とTダイで製膜した厚み100μmのフィルム
絶縁フィルム3:上野製薬社製LCP樹脂(品番P-9000、融点340℃、結晶化温度305℃)を単軸押出機とTダイで製膜した厚み100μmのフィルム
(2)金属箔
銅箔:三井金属鉱業社製、品番TQ-M7-VSP、厚み12μm
【0055】
(実施例1~8、比較例1~5)
図1に示す製造装置20を用いて、表1に記載した各種市販の絶縁フィルムの両面を2枚の金属箔と接触させた状態で、表1に記載した種々の条件で加熱加圧工程を行って積層体とし、その後冷却して、両面金属張積層体を作製した。
【0056】
得られた各両面金属張積層体について、塩化第二鉄を主成分とする基板作製用エッチング液(サンハヤト社製、エッチング液 H-20L)に浸し、銅箔を溶解除去して、各熱可塑性液晶ポリマー層を取り出した。得られた熱可塑性液晶ポリマー層は、水洗後、自然乾燥させた。
【0057】
各熱可塑性液晶ポリマー層について、以下に記載した方法に従って、面配向度、平均線膨張率を評価した。また、各両面金属張積層体について、銅箔剥離強度を評価した。評価結果を表1に示した。
【0058】
(面配向度)
全自動多目的X線回折装置(株式会社リガク製、SmartLab(3kW)、2D-WAXS構成)を用いて、X線回折を行った。測定条件を以下に示す。
X線源:Cu封入管
印加電圧:40kV
電流:40mA
X線出力:1.6kW
検出器:多次元ピクセル検出器 HyPix-3000
X線照射方向:フィルム面に対して垂直
積算時間:10分
解析2θ角度範囲:10°~30°
2次元回折画像の円周方向において強度をプロットする際のサンプリング幅:5°
熱可塑性液晶ポリマー層を測定したときの強度から、同層を装置にセットせずに測定した場合の強度をブランクとして差し引いて、熱可塑性液晶ポリマー層の強度とした。
得られた2次元回折画像(図2(a))において、円周方向の回転角度βに対して強度をプロットすることにより、図2(b)の強度曲線を得た。図2(b)において、円周360°分の測定強度のベース部分の積分値(ベース面積)をBとし、測定されたピーク部分からベース部分を差し引いた部分の積分値(ピーク面積)をAとした。このとき、面配向度を下記式で算出した。
面配向度(%)={A/(A+B)}×100
面配向度が、30%未満のとき、合格と判定した。
【0059】
(平均線膨張率)
JIS K 7197に準拠して、TMA法によって、MD方向、TD方向における23~200℃の温度範囲での平均線膨張率(ppm/K)を求めた。膨張したときは、+(プラス)の数値であり、収縮したときは、-(マイナス)の数値である。
【0060】
(銅箔剥離強度)
JIS C 6481に準拠して、両面金属張積層体の銅箔を、巾10mmで速度50mm/分で、180°剥離したときの剥離力(N/mm)を測定した。
銅箔剥離強度は、0.5N/mm以上のとき良好と判定した。
【0061】
【表1】
【0062】
表1の評価結果から、実施例1~8はいずれも、面配向度が30%未満、MD方向およびTD方向の平均線膨張率が0~40ppm/Kであり、銅箔剥離強度においても良好な性能を有していた。一方、比較例1は、加熱加圧工程における加熱温度が低いため、面配向度と平均線膨張率において劣るものであった。比較例2は、加熱加圧工程における加熱温度が高過ぎるため、MD方向の平均線膨張率に劣るものであった。比較例3は、加熱加圧工程における加熱加圧時間が短いため、平均線膨張率に劣るものであった。比較例4は、絶縁フィルムの厚みが大き過ぎるものであり、TD方向の平均線膨張率に劣るものであった。比較例5は、加熱加圧工程における圧力が小さいため、TD方向の平均線膨張率に劣るものであった。
【符号の説明】
【0063】
1、2 エンドレスベルトロール
3 エンドレスベルト
4 加圧ブロック
5 加熱ヒーターブロック
6 冷却ブロック
7 ガイドロール
11、12、13 ロール
14 コンベヤ装置
20 製造装置
図1
図2