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特許7458351金属検出機及び金属検出機のバランス調整方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-21
(45)【発行日】2024-03-29
(54)【発明の名称】金属検出機及び金属検出機のバランス調整方法
(51)【国際特許分類】
   G01V 3/10 20060101AFI20240322BHJP
   G01R 33/02 20060101ALI20240322BHJP
   G01N 27/72 20060101ALI20240322BHJP
【FI】
G01V3/10 F
G01R33/02 Q
G01N27/72
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021143022
(22)【出願日】2021-09-02
(65)【公開番号】P2023036158
(43)【公開日】2023-03-14
【審査請求日】2023-04-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000000572
【氏名又は名称】アンリツ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003694
【氏名又は名称】弁理士法人有我国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山口 量彦
【審査官】野口 聖彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-141683(JP,A)
【文献】実開昭49-062072(JP,U)
【文献】特開昭61-086647(JP,A)
【文献】特開2004-077349(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01V 3/00
G01R 33/00
G01N 27/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
交流の駆動信号が供給され交流磁界を発生する送信コイル(21)と、前記交流磁界中を被検査物(5)が移動する際に前記交流磁界の変動を検出する差動接続された一対のコイル(22b,22c)からなる複数の受信コイル(22)と、を備え、前記受信コイルの出力信号に基づいて前記被検査物に含まれる金属(6)を検出する金属検出機(1)であって、
前記送信コイルに前記駆動信号を供給するとともに、各前記受信コイルの前記一対のコイルの誘起電圧のバランスを取るための前記駆動信号に応じたキャンセル信号をバッファ部(32)を介して出力する送信コイル駆動回路(60)と、
前記キャンセル信号の振幅を振幅調整量で調整する複数の振幅調整器(33a~33d)と、
前記キャンセル信号の位相を位相調整量で調整する複数の位相調整器(34a~34d)と、
各前記受信コイルの出力信号と、各前記受信コイルに対応する前記振幅調整器及び前記位相調整器で調整された前記キャンセル信号との差分を取得する複数の差分取得部(35a~35d,36a~36d,37a~37d)と、
各前記受信コイルに対応する前記振幅調整器及び前記位相調整器に、前記キャンセル信号の振幅及び位相を調整するための前記振幅調整量及び前記位相調整量をそれぞれ設定する調整量設定部(53)と、を備え、
前記バッファ部は、前記送信コイル駆動回路と、前記振幅調整器及び前記位相調整器とを回路的に分離し、
前記調整量設定部は、前記交流磁界中に前記被検査物が存在しないときに各前記差分取得部により取得された差分があらかじめ定められた所定範囲内に収まるように、前記振幅調整量及び前記位相調整量を調整することを特徴とする金属検出機。
【請求項2】
前記バッファ部は、各前記受信コイルに対応する前記振幅調整器及び前記位相調整器と共にチャネル(A~D)を構成するバッファ回路(32a~32d)を含むことを特徴とする請求項1に記載の金属検出機。
【請求項3】
前記送信コイル駆動回路は、前記送信コイルに接続されて交流信号を生成する発振器(31)と、前記発振器と前記送信コイルに接続されたコンデンサ(62)と、キャンセル信号出力部(61)と、を含み、
前記キャンセル信号出力部は、前記コンデンサと前記送信コイルとを含む共振回路(63)に生じる電圧又は電流を前記キャンセル信号として出力することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の金属検出機。
【請求項4】
前記調整量設定部により各前記受信コイルに対応する前記振幅調整器及び前記位相調整器に設定された前記振幅調整量及び前記位相調整量の少なくとも一方があらかじめ定められた正常範囲外の値である場合に、対応する前記受信コイルに異常が発生していることを検知する異常検知部(55)と、
前記異常検知部により前記複数の受信コイルのいずれかに異常が検知された場合に、その旨を報知する異常報知部(39)と、を更に備えることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の金属検出機。
【請求項5】
交流の駆動信号が供給され交流磁界を発生する送信コイル(21)と、前記交流磁界中を被検査物(5)が移動する際に前記交流磁界の変動を検出する差動接続された一対のコイル(22b,22c)からなる複数の受信コイル(22)と、を備え、前記受信コイルの出力信号に基づいて前記被検査物に含まれる金属(6)を検出する金属検出機のバランス調整方法であって、
送信コイル駆動回路(60)により前記送信コイルに前記駆動信号を供給するとともに、各前記受信コイルの前記一対のコイルの誘起電圧のバランスを取るための前記駆動信号に応じたキャンセル信号を、バッファ部(32)を介して前記送信コイル駆動回路から振幅調整部(33)及び位相調整部(34)に出力する送信コイル駆動ステップ(S2)と、
前記振幅調整部の複数の振幅調整器(33a~33d)により前記キャンセル信号の振幅を振幅調整量で調整する振幅調整ステップ(S3)と、
前記位相調整部の複数の位相調整器(34a~34d)により前記キャンセル信号の位相を位相調整量で調整する位相調整ステップ(S4)と、
各前記受信コイルの出力信号と、各前記受信コイルに対応する前記振幅調整器及び前記位相調整器で調整された前記キャンセル信号との差分を複数の差分取得部(35a~35d,36a~36d,37a~37d)により取得する差分取得ステップ(S5)と、
各前記受信コイルに対応する前記振幅調整器及び前記位相調整器に、前記キャンセル信号の振幅及び位相を調整するための前記振幅調整量及び前記位相調整量をそれぞれ設定する調整量設定ステップ(S1,S7,S9)と、を含み、
前記バッファ部は、前記送信コイル駆動回路と、前記振幅調整器及び前記位相調整器とを回路的に分離し、
前記調整量設定ステップは、前記交流磁界中に前記被検査物が存在しないときに各前記差分取得部により取得された差分があらかじめ定められた所定範囲内に収まるように、前記振幅調整量及び前記位相調整量を調整することを特徴とする金属検出機のバランス調整方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば食品や医薬品等の被検査物に混入した金属を検出する金属検出機及び金属検出機のバランス調整方法に関し、特に、受信コイルにおける誘起電圧のバランスを調整することが可能な金属検出機及び金属検出機のバランス調整方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
金属検出機は、被検査物に混入された金属が検査磁界に与える変化を検出することによって、被検査物に金属が混入しているか否かを判別している。従来、この種の金属検出機としては、特許文献1に記載の金属検出機が知られている。
【0003】
図7に示すように、特許文献1に記載の従来のものは、被検査物を所定の搬送方向に搬送する搬送面に対して互いに平行に対向して交流磁界を発生する励磁コイル71a,71bと、励磁コイル71aの内側に設けられ金属を検出する検出コイル(受信コイル)72と、を備えている。検出コイル72は、長手方向が搬送方向に沿うように配置され、励磁コイル71a,71bの面とほぼ平行な方向、かつ、搬送方向にほぼ直交する方向に板厚方向を有する矩形平板状の磁気コア72aと、磁気コア72aに互いに逆方向に巻かれ直列に接続された一対のコイル72b及び72cと、を有する。
【0004】
この構成により、従来のものは、一対のコイル72b及び72cの差動出力電圧に基づいて、被検査物に混入された金属を検出することができる。
【0005】
上記の構成において、製造・組立時の誤差などにより、被検査物が検査空間から遠い位置にある状態にて検出コイル72の一対のコイル72b及び72cにおける各誘起電圧の差が0とならず、誘起電圧のバランスが狂うことがある。このような場合には、金属の検出が正確に行えなくなるため、誘起電圧のバランス調整が必要となる。従来のバランス調整方法は、検査空間の部位に金属板を貼ったり、外側部に金属棒(例えばネジ)を差し込んだりすることで行われていた(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第6790323号公報
【文献】特許第4460199号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に開示されたような受信コイルが多数並ぶ構成の場合、単一の受信コイルを備えた金属検出機でよく行われてきた金属部品を挿入する方法では、バランス調整に非常に手間が掛かり、場合によっては十分にバランス調整を行うことができないという問題があった。これは、ある1つの受信コイルの調整のために挿入した金属部品が、隣接する他の受信コイルにも影響を与えてしまうためである。
【0008】
また、受信コイルには金属部材が用いられており、受信コイル自体が静的な磁界の変動をもたらすため、たとえ受信コイルを部品として製造する時点で精密に調整したとしても、組み付けた後にはバランス調整が必要となる。メンテナンスのためにある受信コイルを交換したようなときも同様であり、特に受信コイルを近接させて組み付けるような場合に、各受信コイルのバランス調整には多大な手間が掛かる。
【0009】
本発明は、このような従来の課題を解決するためになされたものであって、それぞれが一対のコイルからなる複数の受信コイルにおける誘起電圧のバランス調整を容易に行うことができる金属検出機及び金属検出機のバランス調整方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明に係る金属検出機は、交流の駆動信号が供給され交流磁界を発生する送信コイルと、前記交流磁界中を被検査物が移動する際に前記交流磁界の変動を検出する差動接続された一対のコイルからなる複数の受信コイルと、を備え、前記受信コイルの出力信号に基づいて前記被検査物に含まれる金属を検出する金属検出機であって、前記送信コイルに前記駆動信号を供給するとともに、各前記受信コイルの前記一対のコイルの誘起電圧のバランスを取るための前記駆動信号に応じたキャンセル信号をバッファ部を介して出力する送信コイル駆動回路と、前記キャンセル信号の振幅を振幅調整量で調整する複数の振幅調整器と、前記キャンセル信号の位相を位相調整量で調整する複数の位相調整器と、各前記受信コイルの出力信号と、各前記受信コイルに対応する前記振幅調整器及び前記位相調整器で調整された前記キャンセル信号との差分を取得する複数の差分取得部と、各前記受信コイルに対応する前記振幅調整器及び前記位相調整器に、前記キャンセル信号の振幅及び位相を調整するための前記振幅調整量及び前記位相調整量をそれぞれ設定する調整量設定部と、を備え、前記バッファ部は、前記送信コイル駆動回路と、前記振幅調整器及び前記位相調整器とを回路的に分離し、前記調整量設定部は、前記交流磁界中に前記被検査物が存在しないときに各前記差分取得部により取得された差分があらかじめ定められた所定範囲内に収まるように、前記振幅調整量及び前記位相調整量を調整する構成である。
【0011】
この構成により、本発明に係る金属検出機は、各受信コイルに対応するチャネルごとに設けられた、振幅調整器、位相調整器、差分取得部などの電気的な機構によって、送信コイルから発生される交流磁界中における複数の受信コイルの誘起電圧のバランス調整を容易に行うことができる。
【0012】
また、本発明に係る金属検出機は、前記バッファ部が、各前記受信コイルに対応する前記振幅調整器及び前記位相調整器と共にチャネルを構成するバッファ回路を含む構成であってもよい。
【0013】
この構成により、本発明に係る金属検出機は、バッファ回路により、送信コイル駆動回路と、各受信コイルに対応する振幅調整器及び位相調整器とをチャネルごとに回路的に分離しているため、複数の受信コイルの誘起電圧のバランス調整をチャネルごとに独立して行うことができる。
【0014】
また、本発明に係る金属検出機においては、前記送信コイル駆動回路は、前記送信コイルに接続されて交流信号を生成する発振器と、前記発振器と前記送信コイルに接続されたコンデンサと、キャンセル信号出力部と、を含み、前記キャンセル信号出力部は、前記コンデンサと前記送信コイルとを含む共振回路に生じる電圧又は電流を前記キャンセル信号として出力する構成であってもよい。
【0015】
この構成により、本発明に係る金属検出機は、送信コイルとコンデンサとで構成される共振回路に生じる電圧又は電流をキャンセル信号として利用することで、共振回路における発熱等に起因する受信コイルの出力信号のドリフトの影響を打ち消して、複数の受信コイルの誘起電圧のバランス調整を行うことができる。
【0016】
また、本発明に係る金属検出機は、前記調整量設定部により各前記受信コイルに対応する前記振幅調整器及び前記位相調整器に設定された前記振幅調整量及び前記位相調整量の少なくとも一方があらかじめ定められた正常範囲外の値である場合に、対応する前記受信コイルに異常が発生していることを検知する異常検知部と、前記異常検知部により前記複数の受信コイルのいずれかに異常が検知された場合に、その旨を報知する異常報知部と、を更に備える構成であってもよい。
【0017】
この構成により、本発明に係る金属検出機は、調整量設定部により各受信コイルに対応する振幅調整器及び位相調整器に設定された振幅調整量及び位相調整量に基づいて、対応する受信コイルに異常が発生しているか否かを検知するとともに、異常が検知された場合にはその旨を異常報知部によりユーザに報知することができる。
【0018】
また、本発明に係る金属検出機のバランス調整方法は、交流の駆動信号が供給され交流磁界を発生する送信コイルと、前記交流磁界中を被検査物が移動する際に前記交流磁界の変動を検出する差動接続された一対のコイルからなる複数の受信コイルと、を備え、前記受信コイルの出力信号に基づいて前記被検査物に含まれる金属を検出する金属検出機のバランス調整方法であって、送信コイル駆動回路により前記送信コイルに前記駆動信号を供給するとともに、各前記受信コイルの前記一対のコイルの誘起電圧のバランスを取るための前記駆動信号に応じたキャンセル信号を、バッファ部を介して前記送信コイル駆動回路から振幅調整部及び位相調整部に出力する送信コイル駆動ステップと、前記振幅調整部の複数の振幅調整器により前記キャンセル信号の振幅を振幅調整量で調整する振幅調整ステップと、前記位相調整部の複数の位相調整器により前記キャンセル信号の位相を位相調整量で調整する位相調整ステップと、各前記受信コイルの出力信号と、各前記受信コイルに対応する前記振幅調整器及び前記位相調整器で調整された前記キャンセル信号との差分を複数の差分取得部により取得する差分取得ステップと、各前記受信コイルに対応する前記振幅調整器及び前記位相調整器に、前記キャンセル信号の振幅及び位相を調整するための前記振幅調整量及び前記位相調整量をそれぞれ設定する調整量設定ステップと、を含み、前記バッファ部は、前記送信コイル駆動回路と、前記振幅調整器及び前記位相調整器とを回路的に分離し、前記調整量設定ステップは、前記交流磁界中に前記被検査物が存在しないときに各前記差分取得部により取得された差分があらかじめ定められた所定範囲内に収まるように、前記振幅調整量及び前記位相調整量を調整する構成である。
【発明の効果】
【0019】
本発明は、それぞれが一対のコイルからなる複数の受信コイルにおける誘起電圧のバランス調整を容易に行うことができる金属検出機及び金属検出機のバランス調整方法を提供するものである。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の実施形態に係る金属検出機の構成を模式的に示す図であって、(a)は正面図であり、(b)は斜視図である。
図2】本発明の実施形態に係る金属検出機の金属検出処理装置を模式的に示す図である。
図3】本発明の実施形態に係る金属検出機の受信コイルの構成を模式的に示す図である。
図4図2に示した送信コイル駆動回路の他の構成例を示す図である。
図5】チャネルごとの振幅調整と位相調整の手順の一例を示す図である。
図6】本発明の実施形態に係る金属検出機を用いるバランス調整方法の処理を示すフローチャートである。
図7】従来の金属検出機の要部の構成を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明に係る金属検出機及び金属検出機のバランス調整方法の実施形態について、図面を用いて説明する。
【0022】
図1(a)及び(b)に示すように、本実施形態における金属検出機1は、異物である金属6の検出処理を行う金属検出処理装置10と、コンベア40と、を備え、後述する受信コイル22の出力信号に基づいて交流磁界中を移動する被検査物5に含まれる金属6の有無を検出するものである。
【0023】
金属検出処理装置10は、金属検出部20と、金属検出回路30と、を備えている。コンベア40は、図示した搬送方向に被検査物5を搬送する無端環状のコンベアベルト41と、搬送ローラ42及び43と、を備えている。コンベアベルト41は、被検査物5を載置し搬送方向に搬送する搬送面41aを有する。
【0024】
金属検出回路30は、図2に示すように、発振器31、バッファ部32(バッファ回路32a~32d)、振幅調整部33(振幅調整器33a~33d)、位相調整部34(位相調整器34a~34d)、差動増幅部35(差動増幅器35a~35d)、検波部36(検波器36a~36d)、アナログ-デジタル変換部(AD部)37(アナログ-デジタル変換器(ADC)37a~37d)、判定部38(38a~38d)、結果表示部39、送信コイル位相調整部50、操作部51、及び制御部52を備えている。
【0025】
金属検出部20は、交流の駆動信号が供給され交流磁界を発生する一対の励磁コイル21a及び21bからなる送信コイル21と、交流磁界中を被検査物5が移動する際に交流磁界の変動を検出する差動接続された一対のコイル22b,22cからなる複数の受信コイル22と、を備えている。受信コイル22は、励磁コイル21aが形成された形成面内であって励磁コイル21aの形成面とほぼ平行な方向、かつ、搬送方向にほぼ直交する方向(「搬送面41aの幅方向」という場合がある)に、例えば4列に並んで配置されている。なお、本実施形態では、受信コイル22を4列とした例を挙げるが、本発明はこれに限定されず、例えば3列以下であっても5列以上であってもよく、いずれの場合であっても各受信コイル22が一体的な受信コイルユニットとして組み付けられるとよい。また、図面では、搬送面41aの幅方向を単に「幅方向」と記載して示している。
【0026】
励磁コイル21a及び21bは、矩形状の形状を有している。励磁コイル21aは、搬送面41a(図1(b)参照)の近傍の、搬送面41aとほぼ平行な平面内に環状に巻かれている。励磁コイル21bは、励磁コイル21aから所定距離だけ離れ、励磁コイル21aと対向した平面内に環状に巻かれている。互いに対向する励磁コイル21a及び21bが形成された各形成面は、被検査物5が搬送されて移動する搬送面41aを挟んでいる。すなわち、励磁コイル21a及び21bは、被検査物5が移動する領域を挟み互いに対向する2つの平面内にそれぞれ環状に巻かれている。
【0027】
励磁コイル21a及び21bの各巻き数は、例えば1~5ターン程度である。励磁コイル21a及び21bは、発振器31に接続され、被検査物5が移動する領域に交流磁界を発生するようになっている。なお、励磁コイル21a及び21bの形状は矩形状に限定されず、円形状、楕円形状等であってもよい。
【0028】
図3に示すように、受信コイル22は、細長い矩形平板状の複数の磁気コア22aと、この磁気コア22aに巻かれた一対のコイル22b及び22cと、を備えている。
【0029】
磁気コア22aは、扁平形状の磁性体、例えばアモルファス磁性体で形成され、長手方向が搬送方向に沿うように配置されている。また、磁気コア22aは、搬送面41aの幅方向に板厚方向を有し、その板厚方向に複数積層されている。なお、磁気コア22aは、1枚の構成であってもよい。
【0030】
コイル22b及び22cは、それぞれ、積層された磁気コア22aに、互いに逆方向に巻かれて直列に接続されており、差動接続された一対のコイルを構成する。各受信コイル22のコイル22bの一端は差動増幅器35a~35d(図2参照)の一方の入力端子にそれぞれ接続されている。各受信コイル22のコイル22bの他端は、その受信コイル22のコイル22cの一端に接続されている。本実施形態では、各受信コイル22のコイル22cの他端はグランドに接続されている。
【0031】
図2に戻り、発振器31は、例えば、周波数が数kHz~10MHz、特に10kHz~1MHzの交流信号を生成し、金属検出部20の励磁コイル21a及び21b、バッファ部32に供給するようになっている。なお、発振器31は、後述する送信コイル駆動回路60を構成する。
【0032】
バッファ回路32a、振幅調整器33a、位相調整器34a、差動増幅器35a、検波器36a、ADC37a、及び判定部38aは、図2の最も奥側の受信コイル22の一対のコイル22b,22cの誘起電圧のバランスを取るためのチャネルAを構成する。また、バッファ回路32b、振幅調整器33b、位相調整器34b、差動増幅器35b、検波器36b、ADC37b、及び判定部38bは、図2の奥側から2番目の受信コイル22の一対のコイル22b,22cの誘起電圧のバランスを取るためのチャネルBを構成する。また、バッファ回路32c、振幅調整器33c、位相調整器34c、差動増幅器35c、検波器36c、ADC37c、及び判定部38cは、図2の手前側から2番目の受信コイル22の一対のコイル22b,22cの誘起電圧のバランスを取るためのチャネルCを構成する。また、バッファ回路32d、振幅調整器33d、位相調整器34d、差動増幅器35d、検波器36d、ADC37d、及び判定部38dは、図2の最も手前側の受信コイル22の一対のコイル22b,22cの誘起電圧のバランスを取るためのチャネルDを構成する。
【0033】
送信コイル駆動回路60は、送信コイル21に駆動信号を供給するとともに、各受信コイル22の一対のコイル22b,22cの誘起電圧のバランスを取るための駆動信号に応じたキャンセル信号を出力するようになっている。例えば、図2に示すように、送信コイル駆動回路60は、発振器31から出力される信号を2分岐し、一方を駆動信号として送信コイル21に供給するとともに、他方をキャンセル信号としてバッファ部32に出力する。
【0034】
図4は、送信コイル駆動回路60の他の構成例を示す図である。図4に示す送信コイル駆動回路60は、送信コイル21に接続されて交流信号を生成する発振器31と、発振器31と送信コイル21に接続されたコンデンサ62と、キャンセル信号出力部61と、を含む。キャンセル信号出力部61は、送信コイル21と、コンデンサ62とを含む共振回路63に生じる電圧又は電流をキャンセル信号として出力するようになっている。ここで、送信コイル21を効率的に駆動するためには、共振回路63の共振周波数と、発振器31の発振周波数とが等しく設定されることが好ましい。
【0035】
また、共振回路63は、温度変化や経年変化によってドリフトを起こす場合があるが、送信コイル21に流れる駆動信号とキャンセル信号は互いに同様にドリフトする。このため、金属検出機1は、ドリフトの影響を相殺した状態で、受信コイル22の一対のコイル22b,22cの誘起電圧のバランスを取ることができる。
【0036】
図2に戻り、バッファ部32は、受信コイル22の個数に等しいボルテージフォロワなどからなる複数のバッファ回路32a~32dを含んで構成され、送信コイル駆動回路60と、各受信コイル22に対応する振幅調整器33a~33d及び位相調整器34a~34dとを、チャネルごとに回路的に分離するようになっている。これにより、振幅調整部33及び位相調整部34によるチャネルごとのキャンセル信号の振幅及び位相の調整が、チャネル間で相互に影響を与えることを防ぐことができる。
【0037】
振幅調整部33は、受信コイル22の個数に等しい複数の振幅調整器33a~33dを含んで構成され、バッファ回路32a~32dから出力されたキャンセル信号の振幅を、後述する調整量設定部53により設定される振幅調整量でチャネルごとに調整するようになっている。
【0038】
位相調整部34は、受信コイル22の個数に等しい複数の位相調整器34a~34dを含んで構成され、振幅調整器33a~33dから出力されたキャンセル信号の位相を、後述する調整量設定部53により設定される位相調整量でチャネルごとに調整するようになっている。
【0039】
複数の差動増幅器35a~35dを含む差動増幅部35と、複数の検波器36a~36dを含む検波部36と、複数のADC37a~37dを含むAD部37とは、各受信コイル22の出力信号と、各受信コイル22に対応する振幅調整器33a~33d及び位相調整器34a~34dで調整されたキャンセル信号との差分(以下、「差分電圧値」とも称する)をチャネルごとに取得する複数の差分取得部を構成する。
【0040】
差動増幅部35は、受信コイル22の個数に等しい複数の差動増幅器35a~35dを含んで構成され、それぞれが2つの入力端子及び1つの出力端子を有する。差動増幅器35a~35dは、それぞれ、一方の入力端子がコイル22bの一端に接続され、他方の入力端子が位相調整器34a~34dの出力端子に接続されており、コイル22bからの出力信号の信号電圧と、振幅調整部33及び位相調整部34の少なくとも一方で調整されたキャンセル信号の信号電圧との差分(電圧差)を取り、その電圧差を増幅した交流信号を出力するようになっている。差動増幅器35a~35dの出力端子は、それぞれ検波器36a~36dの入力端子に接続されている。
【0041】
検波部36は、受信コイル22の個数に等しい複数の検波器36a~36d及び図示しない低域通過フィルタ(LPF)を含んで構成されている。検波器36a~36dは、それぞれ、発振器31と、差動増幅器35a~35dの出力端子とに接続され、発振器31の出力に同期させて差動増幅器35a~35dの各出力信号を同期検波するようになっている。検波部36により検波された電圧、すなわち、受信コイル22により検出された交流磁界に応じた電圧は、差動増幅部35から出力された交流信号の振幅に対応した値(レベル)に平滑化された直流信号として現れる。
【0042】
すなわち、検波部36は、送信コイル21により発生された交流磁界が変動しない限り、原理的に一定レベルの直流信号を出力し続け、その直流信号のレベルは各受信コイル22のバランス調整された程度に応じ、バランス調整が不十分なほど高レベルとなる。
【0043】
AD部37は、受信コイル22の個数に等しい複数のADC37a~37dで構成されている。ADC37a~37dは、それぞれ、検波器36a~36dから出力された直流信号を、アナログ信号からデジタル信号に変換するようになっている。
【0044】
なお、検波部36の低域通過フィルタ(LPF)に代えて、AD部37(ADC37a~37d)から出力されるデジタル信号を演算処理して高周波成分を除去してもよい。
【0045】
判定部38は、受信コイル22の個数に等しい複数の判定部38a~38dで構成されている。判定部38a~38dは、それぞれ、ADC37a~37dの出力端子に接続され、ADC37a~37dから出力されるデジタル信号に基づいて、あらかじめ設定された判定用閾値を参照して被検査物5中の金属6の有無を判定するようになっている。
【0046】
結果表示部39は、液晶ディスプレイやCRT等の表示機器で構成され、制御部52による表示制御に基づき、各種表示内容を表示画面に表示するようになっている。例えば、結果表示部39は、判定部38a~38dによる金属6の有無の判定結果を表示画面に表示する。また、結果表示部39は、各種条件を設定するためのボタン、ソフトキー、プルダウンメニュー、テキストボックスなどの操作対象の表示を行う。
【0047】
さらに、結果表示部39は、後述する異常検知部55により複数の受信コイル22のいずれかに異常が検知された場合に、その旨を表示画面に表示することで報知する異常報知部を構成するものであってもよい。例えば、結果表示部39による報知により、受信コイル22への金属くずの付着、受信コイル22の損傷や変形などの不具合がある可能性をユーザが知ることができる。なお、異常報知部は、結果表示部39における表示に限らず、例えばアラーム音を出力するスピーカなどの他の手段により異常を報知するような構成であってもよい。
【0048】
送信コイル位相調整部50は、励磁コイル21a及び21bにそれぞれ流れる駆動信号の位相を互いに同位相に調整することにより、発振器31から励磁コイル21a及び21bまでの経路差や回路差等により生じる位相差を解消できるようになっている。具体的には、例えば、送信コイル位相調整部50は、励磁コイル21a及び21bにそれぞれ流れる駆動信号の位相差を求め、位相が進んでいる一方の信号の位相を遅らせて他方の信号の位相に合わせるようになっている。この構成により、金属検出機1は、励磁コイル21a及び21bが発生する磁界がより強くなるので、被検査物5中の金属6をより検出しやすくなる。
【0049】
操作部51は、ユーザによる操作入力を受け付けるためのものであり、例えば結果表示部39の表示画面に対応する入力面への接触操作による接触位置を検出するためのタッチセンサを備えるタッチパネルで構成される。操作部51は、ユーザが表示画面に表示されている特定の項目の位置を指やスタイラス等で触れた際に、タッチセンサが表示画面上で検出した位置と項目の位置との一致を認識することにより、各項目に割り当てられた機能を実行するための信号を制御部52に出力する。操作部51は、結果表示部39に操作可能に表示されるものであってもよく、あるいは、キーボード又はマウスのような入力デバイスを含んで構成されるものであってもよい。
【0050】
例えば、ユーザによる操作部51への操作入力により、振幅調整量及び位相調整量の許容範囲(あらかじめ定められた所定範囲又は正常範囲)、発振器31の発振周波数などの設定を行うことが可能である。
【0051】
制御部52は、例えばCPU、ROM、RAM、HDDなどを含むマイクロコンピュータ又はパーソナルコンピュータ等で構成され、金属検出機1を構成する上記各部の動作を制御するものである。また、制御部52は、ROM等に記憶された所定のプログラムをRAMに移してCPUで実行することにより、後述する調整量設定部53、周波数設定部54、及び異常検知部55の少なくとも一部をソフトウェア的に構成することが可能である。なお、調整量設定部53、周波数設定部54、及び異常検知部55の少なくとも一部は、FPGA(Field Programmable Gate Array)やASIC(Application Specific Integrated Circuit)などのデジタル回路で構成することも可能である。あるいは、調整量設定部53、周波数設定部54、及び異常検知部55の少なくとも一部は、デジタル回路によるハードウェア処理と所定のプログラムによるソフトウェア処理とを適宜組み合わせて構成することも可能である。
【0052】
調整量設定部53は、ADC37a~37dからそれぞれ出力されるデジタル信号に基づいて、各受信コイル22に対応する振幅調整器33a~33d及び位相調整器34a~34dに、キャンセル信号の振幅及び位相を調整するための振幅調整量及び位相調整量をそれぞれ設定するようになっている。調整量設定部53は、送信コイル21により発生された交流磁界中に被検査物5が存在しないときにADC37a~37dからそれぞれ出力されるデジタル信号の値(すなわち、差分電圧値)があらかじめ定められた所定範囲内に収まるように、振幅調整器33a~33d及び位相調整器34a~34dに設定する振幅調整量及び位相調整量を調整する。
【0053】
図5は、チャネルごとの振幅調整と位相調整の手順の一例を示す図である。図5は、チャネルAとチャネルCにおける未調整の状態αの差分電圧値が所定範囲の上限値よりも高く、チャネルBにおける未調整の状態αの差分電圧値が所定範囲の下限値よりも低い場合を示している。いずれの場合も、まず、調整量設定部53は、位相調整器34a,34b,34cに現在設定されている位相調整量を固定した状態で差分電圧値の絶対値が最小になるように、振幅調整器33a,33b,33cに設定する振幅調整量を調整する。次に、調整量設定部53は、振幅調整後の状態βの振幅調整量を固定した状態で差分電圧値の絶対値が最小になるように、位相調整器34a,34b,34cに設定する位相調整量を調整する。そして、位相調整後の状態γで、差分電圧値が所定範囲内に収まった場合には、調整量設定部53は、振幅調整器33a,33b,33c及び位相調整器34a,34b,34cに設定する振幅調整量及び位相調整量の調整を終了する。
【0054】
このように、調整量設定部53は、AD部37から出力される差分電圧値をモニタして、差分電圧値が所定範囲内に収まるように、チャネルごとに振幅調整器33a及び位相調整器34aに設定する振幅調整量及び位相調整量を調整する。なお、調整量設定部53は、チャネルごとの振幅調整量及び位相調整量の調整を、全チャネルで同時に、あるいは、各チャネルで個別のタイミングで行うことができる。
【0055】
周波数設定部54は、想定される被検査物5中の金属6の種類に基づいて、発振器31の発振周波数を設定するようになっている。
【0056】
具体的には、想定される被検査物5中の金属6が磁性体の金属(例えば鉄)の場合には、周波数設定部54により、発振器31の周波数が所定の低い周波数に設定される。一方、想定される被検査物5中の金属6が非磁性体の金属(例えばSUS304)の場合には、周波数設定部54により、発振器31の周波数が所定の高い周波数に設定される。なお、想定される被検査物5中の金属6の種類と、それらを検出しやすい周波数との関係を実験によりあらかじめ求めて例えば5とおりの周波数を決めておき、金属6の種類に基づいて適宜周波数を変える構成とすれば、検出感度及び作業性を向上させることができる。
【0057】
異常検知部55は、調整量設定部53により各受信コイル22に対応する振幅調整器33a~33d及び位相調整器34a~34dに設定された振幅調整量及び位相調整量の少なくとも一方があらかじめ定められた基準値と比較してこの基準値を超えたとき、すなわち正常範囲外の値である場合に、対応する受信コイル22に異常が発生していることを検知するようになっている。あるいは、異常検知部55は、調整量設定部53により各受信コイル22に対応する振幅調整器33a~33d及び位相調整器34a~34dに設定された前回のバランス調整時の最終的な振幅調整量及び位相調整量と、今回のバランス調整時の振幅調整量及び位相調整量とを比較し、その差が規定値を超えた場合に、対応する受信コイル22に異常が発生していることを検知するものであってもよい。
【0058】
異常検知部55は、受信コイル22に異常が発生していることを検知したとき、結果表示部39にメッセージ表示するほか、操作部51からの操作により、対応する受信コイル22の振幅調整量及び位相調整量や、対応する検波器(36a~36dのいずれか)の出力レベルを表示するようにしてもよい。
【0059】
なお、異常検知部55が異常と検知したとき以外でも、操作部51からの操作により、各受信コイル22の振幅調整量及び位相調整量や、検波部36の出力をチャネルごとに結果表示部39に表示するようにしてもよい。これにより、異常検知部55が異常を検知する前に、ユーザが傾向を把握し、予防的なメンテナンスを行うことができる。
【0060】
以下、金属検出機1のバランス調整方法について、図6のフローチャートを参照しながら、1つのチャネル(ここではチャネルA)に関する処理の一例を説明する。なお、図6のフローチャートに示す処理は、主に、交流磁界中に被検査物5が存在しない状態で、金属検出機1の電源を投入した直後の初期化処理として実行される。
【0061】
まず、調整量設定部53は、チャネルAの受信コイル22に対応する振幅調整器33a及び位相調整器34aに、キャンセル信号の振幅及び位相を調整するための振幅調整量及び位相調整量の初期値をそれぞれ設定する(調整量設定ステップS1)。
【0062】
次に、送信コイル駆動回路60は、送信コイル21に駆動信号を供給するとともに、チャネルAの受信コイル22の一対のコイル22b,22cの誘起電圧のバランスを取るための駆動信号に応じたキャンセル信号をバッファ部32のバッファ回路32aに出力する(送信コイル駆動ステップS2)。
【0063】
次に、振幅調整部33の振幅調整器33aは、バッファ回路32aを介して入力されたキャンセル信号の振幅を、調整量設定部53により設定された振幅調整量で調整する(振幅調整ステップS3)。
【0064】
次に、位相調整部34の位相調整器34aは、振幅調整器33aにより振幅が調整されたキャンセル信号の位相を、調整量設定部53により設定された位相調整量で調整する(位相調整ステップS4)。
【0065】
次に、差動増幅部35の差動増幅器35a、検波部36の検波器36a、及びAD部37のADC37aは、チャネルAの受信コイル22の出力信号と、チャネルAの受信コイル22に対応する振幅調整器33a及び位相調整器34aで調整されたキャンセル信号との差分である差分電圧値を取得する(差分取得ステップS5)。また、調整量設定部53は、取得した差分電圧値を振幅調整量及び位相調整量と対応付けて記憶する。
【0066】
次に、調整量設定部53は、位相調整器34aに現在設定されている位相調整量との組合せで差分電圧値の絶対値を最小にする振幅調整量がステップS5で取得されているか否かを判断する(ステップS6)。差分電圧値の絶対値を最小にする振幅調整量がステップS5で取得されていない場合には、ステップS7の処理が実行される。一方、差分電圧値の絶対値を最小にする振幅調整量がステップS5で取得されている場合には、ステップS8の処理が実行される。
【0067】
ステップS7において、調整量設定部53は、振幅調整器33aに現在設定されている振幅調整量を所定量だけ変化させた値を、新たな振幅調整量として振幅調整器33aに設定する(調整量設定ステップS7)。そして、差分電圧値の絶対値を最小にする振幅調整量が取得されるまでステップS3以降の処理が繰り返される。
【0068】
ステップS8において、調整量設定部53は、振幅調整器33aに現在設定されている振幅調整量との組合せで差分電圧値の絶対値を最小にする位相調整量がステップS5で取得されているか否かを判断する。差分電圧値の絶対値を最小にする位相調整量がステップS5で取得されていない場合には、ステップS9の処理が実行される。一方、差分電圧値の絶対値を最小にする位相調整量がステップS5で取得されている場合には、ステップS10の処理が実行される。
【0069】
ステップS9において、調整量設定部53は、位相調整器34aに現在設定されている位相調整量を所定量だけ変化させた値を、新たな位相調整量として位相調整器34aに設定する(調整量設定ステップS9)。そして、差分電圧値の絶対値を最小にする位相調整量が取得されるまでステップS3以降の処理が繰り返される。
【0070】
ステップS10において、調整量設定部53は、ステップS5で取得された最新の差分電圧値があらかじめ定められた所定範囲内に収まっているか否かを判断する。最新の差分電圧値があらかじめ定められた所定範囲内に収まっていない場合には、再びステップS7以降の処理が実行される。一方、最新の差分電圧値があらかじめ定められた所定範囲内に収まっている場合には、一連の処理が終了する。
【0071】
このように、調整量設定ステップS1,S7,S9は、交流磁界中に被検査物5が存在しないときに取得された差分電圧値があらかじめ定められた所定範囲内に収まるように、振幅調整量及び位相調整量を自動的に調整する。なお、図6のフローチャートの処理は、全チャネルで同時に実行されてもよく、あるいは、各チャネルで個別のタイミングで順次実行されてもよい。いずれの場合であっても、全チャネルの差分電圧値があらかじめ定められた所定範囲内に収まれば、一連の処理が終了する。
【0072】
なお、上記の実施形態の説明では、金属検出機1の電源を投入した直後の初期化処理として金属検出機1のバランス調整方法の処理が実行されるとしたが、本発明はこれに限定されない。例えば、本発明の構成は、受信コイル22を金属検出機1に組み付ける際にも利用することができる。この場合は、例えば、振幅調整部33及び位相調整部34に振幅調整量及び位相調整量の好ましい値があらかじめ設定された状態で、ADC37から出力される差分電圧値があらかじめ定められた所定範囲内に収まるように、ユーザが複数の受信コイル22の配置を調整することになる。
【0073】
以上説明したように、本実施形態に係る金属検出機1は、各受信コイル22に対応するチャネルごとに設けられた、振幅調整部33、位相調整部34、差動増幅部35、検波部36,ADC37などの電気的な機構によって、送信コイル21から発生される交流磁界中における複数の受信コイル22の誘起電圧のバランス調整を容易に行うことができる。
【0074】
また、本実施形態に係る金属検出機1は、バッファ部32により、送信コイル駆動回路60と、振幅調整器33a~33d及び位相調整器34a~34dとをチャネルごとに回路的に分離しているため、複数の受信コイル22の誘起電圧のバランス調整をチャネルごとに独立して行うことができる。
【0075】
また、本実施形態に係る金属検出機1は、送信コイル21とコンデンサ62とで構成される共振回路63に生じる電圧又は電流をキャンセル信号として利用することで、共振回路63における発熱等に起因する受信コイル22の出力信号のドリフトの影響を打ち消して、複数の受信コイル22の誘起電圧のバランス調整を行うことができる。
【0076】
また、本実施形態に係る金属検出機1は、調整量設定部53により各受信コイル22に対応する振幅調整器33a~33d及び位相調整器34a~34dに設定された振幅調整量及び位相調整量に基づいて、対応する受信コイル22に異常が発生しているか否かを検知するとともに、異常が検知された場合にはその旨を結果表示部39によりユーザに報知することができる。
【符号の説明】
【0077】
1 金属検出機
5 被検査物
6 金属
10 金属検出処理装置
20 金属検出部
21 送信コイル
21a,21b 励磁コイル
22 受信コイル
22a 磁気コア
22b,22c コイル
30 金属検出回路
31 発振器
32 バッファ部
32a~32d バッファ回路
33 振幅調整部
33a~33d 振幅調整器
34 位相調整部
34a~34d 位相調整器
35 差動増幅部(差分取得部)
35a~35d 差動増幅器
36 検波部(差分取得部)
36a~36d 検波器
37 アナログ-デジタル変換部(AD部)(差分取得部)
37a~37d アナログ-デジタル変換器(ADC)
38,38a~38d 判定部
39 結果表示部(異常報知部)
52 制御部
53 調整量設定部
54 周波数設定部
55 異常検知部
60 送信コイル駆動回路
61 キャンセル信号出力部
62 コンデンサ
63 共振回路
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7