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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-21
(45)【発行日】2024-03-29
(54)【発明の名称】保持装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/683 20060101AFI20240322BHJP
   H02N 13/00 20060101ALI20240322BHJP
【FI】
H01L21/68 R
H02N13/00 D
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021150177
(22)【出願日】2021-09-15
(65)【公開番号】P2023042824
(43)【公開日】2023-03-28
【審査請求日】2023-06-02
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100160691
【弁理士】
【氏名又は名称】田邊 淳也
(74)【代理人】
【識別番号】100167232
【弁理士】
【氏名又は名称】川上 みな
(72)【発明者】
【氏名】森 智史
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 敦
(72)【発明者】
【氏名】早川 絵里
【審査官】内田 正和
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-194320(JP,A)
【文献】特開2020-125228(JP,A)
【文献】特開2017-178719(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/683
H02N 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象物を保持する保持装置であって、
板状に形成される板状部と、
板状に形成されて前記板状部を冷却する冷却部と、
前記板状部と前記冷却部との間に配置され、前記板状部と前記冷却部との対向する面間を接合する接合部と、
を備え、
前記接合部は、シリコーン系接着剤と、表面被覆窒化アルミニウム粒子と、を含み、
前記表面被覆窒化アルミニウム粒子の最表面における酸素原子とアルミニウム原子との原子比であるO/Alの値が、1.4以上、4.0以下であることを特徴とする
保持装置。
【請求項2】
請求項1に記載の保持装置であって、
前記接合部の熱抵抗が5.0×10-4K/W以下であることを特徴とする
保持装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の保持装置であって、
前記接合部の厚みが400μm以下であることを特徴とする
保持装置。
【請求項4】
請求項1から3までのいずれか一項に記載の保持装置であって、
前記接合部における前記表面被覆窒化アルミニウム粒子の含有割合が70質量%以上であることを特徴とする
保持装置。
【請求項5】
請求項1から4までのいずれか一項に記載の保持装置であって、
前記表面被覆窒化アルミニウム粒子を断面視したときの内接円の半径をR1とし、外接円の半径をR2とすると、R2/R1の値の平均値が1.10以上であることを特徴とする
保持装置。
【請求項6】
請求項1から5までのいずれか一項に記載の保持装置であって、
前記接合部の最大せん断ひずみが0.5mm以上であることを特徴とする
保持装置。
【請求項7】
請求項1からまでのいずれか一項に記載の保持装置であって、
前記板状部は、セラミックを主成分とし、前記対象物を保持するための吸着電極を含み、前記対象物を加熱するためのヒータ電極を含まないことを特徴とする
保持装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、保持装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、対象物を保持する保持装置として、例えば、半導体を製造する際にウェハ等の対象物を保持する静電チャックが知られている。静電チャックは、一般に、対象物が載置されるセラミック部と、冷媒流路が形成されるベース部と、セラミック部とベース部とを接合する接合部と、を備える。例えば、特許文献1には、シリコーン系接着剤と、酸化ケイ素からなる被覆層が表面に形成された窒化アルミニウム粒子と、を含有する接合層(接合部)を設けた静電チャックが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2007-194320号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1に記載の技術によれば、接合部の材質としてシリコーン樹脂を用いることで、セラミック部とベース部との間の熱伝導率差に起因して接合部で生じる応力を緩和している。また、熱伝導率が比較的高い窒化アルミニウム粒子の表面を酸化ケイ素で被覆することで、窒化アルミニウム粒子の耐水性を高め、接合部および静電チャックの耐久性を高めている。しかしながら、例えば静電チャックにおいて、より高出力のプラズマに暴露して用いる場合には、セラミック部に対する入熱が大きくなると共に、保持の対象物を十分に冷却するためにベース部の温度をより低く設定することにより、セラミック部とベース部との間の温度差が大きくなり、その結果、接合部で生じる応力が、より大きくなる可能性がある。そのため、このような場合であっても、保持装置における冷却性能を高めて、接合部で生じる応力に起因する問題を抑える技術が望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示は、以下の形態として実現することが可能である。
(1)本開示の一形態によれば、対象物を保持する保持装置が提供される。この保持装置は、板状に形成される板状部と、板状に形成されて前記板状部を冷却する冷却部と、前記板状部と前記冷却部との間に配置され、前記板状部と前記冷却部との対向する面間を接合する接合部と、を備え、前記接合部は、シリコーン系接着剤と、表面被覆窒化アルミニウム粒子と、を含み、前記表面被覆窒化アルミニウム粒子の最表面における酸素原子とアルミニウム原子との原子比であるO/Alの値が、1.4以上、4.0以下である。
この形態の保持装置によれば、表面被覆窒化アルミニウム粒子の表面においてシリコーン系接着剤との間の濡れ性が高められているため、接合部に生じる応力に起因する不都合を抑えることができる。そして、板状部に対する入熱が大きくなる場合であっても、表面被覆窒化アルミニウム粒子を用いることによって、保持装置における冷却性能を高めることができる。
(2)上記形態の保持装置において、前記接合部の熱抵抗が5.0×10-4K/W以下であることとしてもよい。このような構成とすれば、接合部の熱抵抗が抑えられることにより、板状部と冷却部との間の熱伝達が向上し、保持装置の冷却性能をさらに高めることができる。
(3)上記形態の保持装置において、前記接合部の厚みが400μm以下であることとしてもよい。このような構成とすれば、接合部の熱抵抗が抑えられることにより、板状部と冷却部との間の熱伝達が向上し、保持装置の冷却性能をさらに高めることができる。
(4)上記形態の保持装置において、前記接合部における前記表面被覆窒化アルミニウム粒子の含有割合が70質量%以上であることとしてもよい。このような構成とすれば、接合部における熱伝導率を、より高めることができる。
(5)上記形態の保持装置において、前記表面被覆窒化アルミニウム粒子を断面視したときの内接円の半径をR1とし、外接円の半径をR2とすると、R2/R1の値の平均値が1.10以上であることとしてもよい。このような構成とすれば、接合部において、表面被覆窒化アルミニウム粒子同士の接点がより多く形成されて、接合部内で熱伝導パスが形成され易くなり、接合部の熱抵抗を抑えることができる。
(6)上記形態の保持装置において、前記接合部の最大せん断ひずみが0.5mm以上であることとしてもよい。このような構成とすれば、接合部に生じる応力に起因する不都合を抑える効果を高めることができる。
(7)本開示の他の一形態によれば、対象物を保持する保持装置が提供される。この保持装置は、板状に形成される板状部と、板状に形成されて前記板状部を冷却する冷却部と、前記板状部と前記冷却部との間に配置され、前記板状部と前記冷却部との対向する面間を接合する接合部と、を備え、前記接合部は、シリコーン系接着剤と、表面被覆窒化アルミニウム粒子と、を含み、前記接合部の熱伝導率が0.8W/(m・K)以上であり、前記接合部の最大せん断ひずみが0.5mm以上である。
この形態の保持装置によれば、板状部に対する入熱が大きくなる場合であっても、保持装置における冷却性能を高めると共に、接合部に生じる応力に起因する不都合を抑えることができる。
(8)上記形態の保持装置において、前記板状部は、セラミックを主成分とし、前記対象物を保持するための吸着電極を含み、前記対象物を加熱するためのヒータ電極を含まないこととしてもよい。このような構成とすれば、ヒータ電極により対象物および板状部が加熱されない場合であっても、板状部に対する入熱が大きく、板状部とベースとの温度差が大きくなり易い使用状態において、保持装置における冷却性能を高めると共に、接合部に生じる応力に起因する不都合を抑える効果を顕著に得ることができる。
本開示は、上記以外の種々の形態で実現可能であり、例えば、保持装置を含む半導体製造装置、保持装置の製造方法、接合部の形成方法などの形態で実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1】実施形態の静電チャックの外観の概略を表す斜視図。
図2】静電チャックの構成を模式的に表す断面図。
図3】無機フィラーの粒子の「R2/R1」の求め方を示す説明図。
図4】無機フィラーの粒子間で伝熱パスが形成される様子を示す説明図。
図5】接合部で発生する応力に関する説明図。
図6】せん断応力の発生時に接合部が伸張する様子を表す説明図。
図7】各サンプルの測定結果と評価結果とを、まとめて示す説明図。
図8】接合部の熱伝導率を測定する手順の概要を示す説明図。
図9】最大せん断応力時ひずみ量を求める様子を模式的に示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0007】
A.静電チャックの構造:
図1は、実施形態における静電チャック10の外観の概略を表す斜視図である。図2は、静電チャック10の構成を模式的に表す断面図である。図1では、静電チャック10の一部を破断して示している。また、図1図2、および後述する図5図8には、方向を特定するために、互いに直交するXYZ軸を示している。各図に示されるX軸、Y軸、Z軸は、それぞれ同じ向きを表す。本願明細書においては、Z軸は鉛直方向を示し、X軸およびY軸は水平方向を示している。なお、上記各図は、各部の配置を模式的に表しており、各部の寸法の比率を正確に表すものではない。
【0008】
静電チャック10は、対象物を静電引力により吸着して保持する装置であり、例えば半導体製造装置の真空チャンバ内で、対象物であるウェハWを固定するために使用される。静電チャック10は、セラミック部20と、ベース部30と、接合部40と、を備える。これらは、-Z軸方向(鉛直下方)に向かって、セラミック部20、接合部40、ベース部30の順に積層されている。本実施形態における静電チャック10を、「保持装置」とも呼ぶ。
【0009】
セラミック部20は、略円形の板状部材であり、セラミック(例えば、酸化アルミニウムや窒化アルミニウム等)を主成分として形成されている。本願明細書において、特定成分が「主成分である」あるいは「主に形成する材料である」とは、当該特定成分の含有率が、50体積%以上であることを意味する。セラミック部20の直径は、例えば、50mm~500mm程度とすればよく、通常は200mm~350mm程度である。セラミック部20の厚さは、例えば1mm~10mm程度とすればよい。セラミック部20は、「板状部」とも呼ぶ。
【0010】
図2に示すように、セラミック部20の内部には、吸着電極22が配置されている。吸着電極22は、例えば、タングステンやモリブデンなどの導電性材料により形成されている。吸着電極22に対して図示しない電源から電圧が印加されると、静電引力が発生し、この静電引力によってウェハWがセラミック部20の載置面24に吸着固定される。吸着電極22は、双極型であってもよく、単極型であってもよい。また、セラミック部20の内部には、導電性材料(例えば、タングステンやモリブデン等)により形成された抵抗発熱体で構成されて、載置面24に吸着固定されたウェハWを加熱するための、図示しないヒータ電極を設けてもよい。
【0011】
ベース部30は、金属を含み、略円形に形成された板状部材である。ベース部30は、例えば、アルミニウム、マグネシウム、モリブデン、チタン、タングステン、ニッケルのうちの少なくとも一種の金属を含むこととすることができる。モリブデン、チタン、タングステンは、上記した金属の中でも熱膨張率が比較的小さいため、これらのうちの少なくとも一種の金属を用いてベース部30を構成する場合には、ベース部30とセラミック部20との間の熱膨張率差を抑えることができて望ましい。なお、本願明細書において、「熱膨張率」は、「線膨張率」を指す。また、マグネシウムは、ヤング率が比較的小さいため、マグネシウムを用いてベース部30を構成する場合には、ベース部30で生じる熱応力を低減することができて望ましい。また、アルミニウムは、熱伝導率が比較的高く、加工が容易で低コストである。そのため、アルミニウムを用いてベース部30を構成する場合には、ベース部30によるセラミック部20およびウェハWの冷却効率を高めることができ、静電チャック10の製造コストを抑えることができて望ましい。ベース部30による冷却効率を高めつつ製造コストを抑える観点からは、ベース部30における金属の含有割合が高い方が望ましく、ベース部30は、金属を主成分とすることが望ましい。例えば、汎用性が高いアルミニウムを90質量%以上含有すること(例えば、A6061、A5052などのアルミニウム合金により構成すること)が望ましい。ただし、ベース部30は、セラミックなどの金属以外の成分を含んでいてもよい。ベース部30の直径は、例えば、220mm~550mm程度とすればよく、通常は220mm~350mmである。ベース部30の厚さは、例えば、20mm~40mm程度とすればよい。ベース部30は、「冷却部」とも呼ぶ。
【0012】
ベース部30の内部には、複数の冷媒流路32がXY平面に沿うように形成されている。冷媒流路32に、例えばフッ素系不活性液体や水や液体窒素等の冷媒を流すことにより、ベース部30が冷却される。そして、接合部40を介したベース部30とセラミック部20との間の伝熱によりセラミック部20が冷却され、セラミック部20の載置面24に保持されたウェハWが冷却される。これにより、ウェハWの温度制御が実現される。ベース部30の内部に冷媒流路32を有する形態の他、ベース部30の外部からベース部30を冷却することにより、ベース部30に冷却機能を持たせてもよい。
【0013】
接合部40は、セラミック部20とベース部30との間に配置されて、セラミック部20とベース部30との対向する面間を接合する。接合部40は、シリコーン系接着剤を含むと共に、さらに、表面被覆窒化アルミニウム粒子を含む。接合部40の厚みは、例えば0.1mm~1.0mm程度とすることができる。表面被覆窒化アルミニウム粒子を含む接合部40の構成については、後に詳しく説明する。
【0014】
静電チャック10には、さらに、複数のガス供給路50が形成されている。ガス供給路50は、セラミック部20、接合部40、およびベース部30をZ方向に貫通して設けられており、載置面24に形成されたガス吐出口52において開口している(図1参照)。ガス供給路50は、図示しないガス供給装置から、例えばヘリウムガス等の不活性ガスを供給されて、載置面24とウェハWとの間の空間に対して、ガス吐出口52から不活性ガスを供給する。これにより、セラミック部20とウェハWとの間の伝熱性を高めて、ウェハWの温度分布の制御性がさらに高められる。なお、ガス供給路50は必須ではなく、静電チャック10にガス供給路50を設けないこととしてもよい。
【0015】
B.接合部の構成:
以下では、接合部40の構成について説明する。接合部40は、既述したように、シリコーン系接着剤を含むと共に、さらに、表面被覆窒化アルミニウム粒子を含む。シリコーン系接着剤は、弾性率が比較的低いために、接合部40で生じる熱応力を緩和する機能が高く、また、耐熱温度が比較的高いため、接合部40を構成する樹脂として優れている。表面被覆窒化アルミニウム粒子とは、窒化アルミニウム粒子の表面に、アルミニウムと酸素とを含有する化合物(以下では、「酸素含有アルミニウム化合物」とも呼ぶ)を含む被覆層を備える粒子であり、例えば、平均粒子径が0.1~50μmの粒子とすることができる。そして、本実施形態の表面被覆窒化アルミニウム粒子は、酸素含有アルミニウム化合物を含む被覆層を表面に備えることにより、表面被覆窒化アルミニウム粒子の最表面における酸素原子とアルミニウム原子との原子比(以下では、「O/Alの値」とも呼ぶ)が、1.4以上、4.0以下となっている。このような構成を有することにより、本実施形態の接合部40は、低い熱抵抗、および、高い柔軟性と耐久性とを確保している。
【0016】
表面被覆窒化アルミニウム粒子の被覆層に含まれる酸素含有アルミニウム化合物は、例えば、酸化アルミニウム(αアルミナ:α-Al)、リン酸アルミニウム(AlPO)、βアルミナ、γアルミナ、YAG(YAl12)、あるいは、ランタンアルミネート(LaAlO)とすることができ、これらの混合物としてもよい。これらの酸素含有アルミニウム化合物は、熱伝導率が比較的高い。具体的には、このような酸素含有アルミニウム化合物は、例えば、窒化アルミニウム粒子の耐水性を高めるために窒化アルミニウム粒子に設ける被覆層を構成する化合物として従来知られる二酸化ケイ素(シリカ:SiO)の熱伝達率(1.38W/(m・K))よりも高い熱伝導率を示す。例えば、α-Alの熱伝導率は、30W/(m・K)であり、YAGの熱伝導率は10W/(m・K)であり、ランタンアルミネートの熱伝達率は11W/(m・K)である。ここで、被覆層を構成する材料の熱伝導率が窒化アルミニウムの熱伝導率(150~200W/(m・K))よりも低いと、表面被覆窒化アルミニウム粒子の熱伝導率は、窒化アルミニウムの熱伝導率よりも低くなり得る。しかしながら、上記のような酸素含有アルミニウム化合物を用いて表面被覆窒化アルミニウム粒子の被覆層を構成することにより、窒化アルミニウム粒子に被覆層を設けることに起因する熱伝導率の低下を抑えることができる。
【0017】
また、上記した酸素含有アルミニウム化合物が被覆層に含まれる場合、表面被覆窒化アルミニウム粒子の表面には水酸基が存在するようになる。その結果、表面被覆窒化アルミニウム粒子の表面とシリコーン系接着剤との間では極性の状態が近くなり、馴染みが良くなる。そのため、窒化アルミニウム粒子の表面に上記のような酸素含有アルミニウム化合物を含有する被覆層を設けて、O/Alの値を1.4以上、4.0以下とすることで、窒化アルミニウム粒子においてシリコーン系接着剤との間の濡れ性を高める同様の効果を得ることができる。なお、シリコーン系接着剤と共にシランカップリング剤を用いる場合には、シランカップリング剤は、表面被覆窒化アルミニウム粒子の表面の水酸基と結合し易いため、シリコーン系接着剤と表面被覆窒化アルミニウム粒子との馴染みは、さらに良好になる。
【0018】
αアルミナによって構成される被覆層を備える表面被覆窒化アルミニウム粒子は、窒化アルミニウム粒子に酸化処理を施すことにより作製することができる。上記酸化処理は、酸素含有雰囲気下(例えば空気中や水蒸気中)において、600~1000℃の温度条件下で窒化アルミニウム粒子を加熱する処理とすることができる。酸化処理により窒化アルミニウム粒子の表面がαアルミナで完全に被覆されたときの、表面被覆窒化アルミニウム粒子におけるO/Alの値の理論値は、1.5となる。
【0019】
リン酸アルミニウムによって構成される被覆層を備える表面被覆窒化アルミニウム粒子は、窒化アルミニウム粒子にリン酸処理を施すことにより作製することができる。上記リン酸処理は、例えば、溶剤に窒化アルミニウム粒子を分散させた分散液に無機リン酸化合物を滴下して、室温~80℃程度の温度条件下で反応させた後に、溶剤を揮発させる処理とすることができる。用いる無機リン酸化合物は、例えば、リン酸(オルトリン酸:HPO)、ピロリン酸、ポリリン酸、亜リン酸、次亜リン酸、メタリン酸およびこれらの混合物とすることができる。また、上記リン酸処理は、溶剤に窒化アルミニウム粒子を分散させた分散液に有機リン酸化合物を滴下した後に、150~800℃の温度条件下で加熱する処理とすることができる。
【0020】
窒化アルミニウム粒子に対して上記のようにリン酸処理を施して、リン酸アルミニウムによって構成される被覆層を形成すると、O/Alの値は4.0を超える。これは、リン酸処理の後には、表面被覆窒化アルミニウム粒子の表面に、リン酸処理に用いたリン酸化合物が残留するためである。このようなリン酸処理を行った表面被覆窒化アルミニウム粒子に対して、さらに、100℃以上の温度(例えば300℃程度)で加熱処理を行うと、表面被覆窒化アルミニウム粒子に残留するリン酸化合物が除去されると共に、被覆層を構成するリン酸アルミニウムの一部が酸化アルミニウム(主にαアルミナ)になる反応が進行する。リン酸化合物が除去される量、および、酸化アルミニウムが生成される量は、リン酸処理後の加熱処理の程度(加熱時間を長くすること、および、加熱温度を高くすることのうちの少なくとも一方)により増やすことができる。これにより、O/Alの値は、4.0を超える値から次第に小さくなり、1.5に近づく。このとき、O/Alの値が4.0以下になるように加熱処理を行うことで、表面被覆窒化アルミニウム粒子の表面に残留するリン酸化合物を十分に除去することができる。
【0021】
本実施形態の静電チャック10では、接合部40の熱抵抗は、5.0×10-4(mK/W)以下とすることが望ましい。接合部40の熱抵抗は、3.5×10-4(mK/W)以下とすることがより望ましく、2.5×10-4(mK/W)以下とすることがさらに望ましい。なお、熱伝導率λおよび熱抵抗Rは、ここでは、室温(22℃)における値を指す。接合部40の熱抵抗をR(mK/W)、接合部40の厚みをt(m)、接合部40の熱伝導率をλ(W/(m・K))とすると、接合部40の熱抵抗Rは、以下の(1)式により求められる。
【0022】
R(mK/W)=t(m)÷λ(W/(m・K)) …(1)
【0023】
接合部40の熱抵抗を上記の値にすることにより、接合部40を介したベース部30とセラミック部20との間の伝熱、すなわち、セラミック部20からベース部30への熱引きが行われ易くなり、静電チャック10における冷却効率を高めることができる。
【0024】
接合部40の熱抵抗は、(1)式より、接合部40の厚さを薄くすることにより小さくすることができる。例えば、接合部40の厚みは、500μm以下とすることが望ましく、400μm以下とすることで、接合部40の熱抵抗を5.0×10-4(mK/W)以下にすることが、より容易になる。ただし、接合部40の厚みは、上記の値を超えていてもよく、例えば、接合部40の熱伝導率を高めるならば、接合部40の厚みを400μm以上としても、接合部40の熱抵抗を5.0×10-4(mK/W)以下にすることが比較的容易になる。なお、接合部40の厚みは、例えば、接合部40の柔軟性および強度を確保する観点から、50μm以上とすればよい。
【0025】
接合部40の熱抵抗は、(1)式より、接合部40の熱伝導率を高めることによっても小さくすることができる。接合部40の熱伝導率を高める方法の一つとしては、既述したように、表面被覆窒化アルミニウム粒子の被覆層を、より熱伝導率が高い酸素含有アルミニウム化合物により構成する方法が挙げられる。また、接合部40の熱伝導率を高める他の方法としては、例えば、接合部40において表面被覆窒化アルミニウム粒子の含有割合を高める方法を挙げることができる。接合部40における表面被覆窒化アルミニウム粒子の含有割合は、60質量%以上とすることが望ましく、70質量%以上とすることがより望ましく、80質量%以上とすることがさらに望ましい。例えば、接合部40における表面被覆窒化アルミニウム粒子の含有割合を70質量%以上とすることで、接合部40の熱伝導率を0.8W/(m・K)以上にすることが容易になる。
【0026】
なお、接合部40における無機フィラーの含有割合が大きいほど、接合部40における最大せん断応力時ひずみ量が小さくなる傾向がある。最大せん断応力時ひずみ量とは、接合部40の柔軟性および応力緩和性能の指標となる数値であり、最大せん断応力時ひずみ量が大きいほど、接合部40の柔軟性および応力緩和性能が優れていることを示す。最大せん断応力時ひずみ量については、後に詳しく説明する。このように、接合部40における無機フィラーの含有割合が大きいほど、接合部40における最大せん断応力時ひずみ量が小さくなるのは、無機フィラーの含有割合が大きいほど、無機フィラーが周囲の樹脂(樹脂組成物)を拘束する程度が大きくなり、接合部40の柔軟性が低下して、接合部40がひずみ難くなるためと考えられる。そのため、接合部40における最大せん断応力時ひずみ量を抑えて柔軟性を確保する観点から、接合部40における表面被覆窒化アルミニウム粒子の含有割合は、90質量%以下とすることが望ましい。
【0027】
接合部40の熱抵抗の下限値は、例えば、0.6×10-4(mK/W)とすることができる。接合部40の熱抵抗を抑えるためには、既述したように無機フィラーを構成する材料を適宜選択すると共に無機フィラーの含有割合を増加させる方法が考えられる。しかしながら、無機フィラーの含有割合を過剰に増加させると、接合部40の柔軟性が損なわれる可能性がある。また、接合部40の熱抵抗を抑えるためには、接合部40を薄くする方法が考えられる。しかしながら、接合部40を過剰に薄くすると、接合部40の強度が低下すると共に、接合部40の柔軟性を確保し難くなる可能性がある。そのため、接合部40の熱抵抗は、上記した0.6×10-4(mK/W)以上とすることが望ましい。
【0028】
さらに、接合部40の熱抵抗は、接合部40に含まれる無機フィラーの粒子の形状により変更することができる。接合部40の熱抵抗を小さくするためには、無機フィラーを断面視したときの内接円の半径をR1とし、外接円の半径をR2としたときに、「R2/R1」の値の平均値が1.05以上であることが望ましく、1.10以上であることがより望ましい。「R2/R1」が1.0に近いほど、粒子の形状が真球に近い(以下では、真球度が高いともいう)ことを表す。
【0029】
内接円および外接円の特定の方法、および、「R2/R1」の求め方は以下の通りである。すなわち、接合部40の断面を走査電子顕微鏡(SEM)にて観察した像において、観察される粒子1つに着目する。そして、着目した粒子を内包し、かつ粒子中の3つの頂点と接するように円を描き、これを外接円とする。また粒子中に内包され、かつ粒子の外周と3箇所で接するように円を描き、これを内接円とする。円が複数描ける場合は、円の半径が最小となる円を、内接円および外接円とする。粒子20個に対して同様に内接円および外接円を特定して、内接円の半径R1および外接円の半径R2の測定を行い、平均値から「R2/R1」を算出する。
【0030】
図3は、無機フィラー42の粒子を断面視したときの「R2/R1」の求め方を示す説明図であり、図4は、無機フィラー42間で伝熱パスが形成される様子を示す説明図である。図3では、無機フィラー42を断面視したときの内接円を一点鎖線で示し、外接円を二点鎖線で示している。また、内接円の中心をOとして示し、外接円の中心をOとして示している。図4では、無機フィラー42同士が接する箇所に熱伝導パスが形成される様子を、両向き矢印により表している。無機フィラー42を断面視したときの「R2/R1」の値が上記した下限値以上であり、無機フィラー42の形状が真球とは異なって表面に凹凸を有するほど、図4に示すように無機フィラー42同士の接点が多くなって、接合部40内で熱伝導パスが形成され易くなり、接合部40の熱抵抗が小さくなる。なお、「R2/R1」の値は、窒化アルミニウム粒子の製造方法等を調節することにより、あるいは、窒化アルミニウム粒子に対して真球度を高める処理を施すことにより、種々変更可能である。
【0031】
また、本実施形態において、接合部40の最大せん断応力時ひずみ量は、0.5mm以上とすることが望ましい。接合部40の最大せん断応力時ひずみ量は、1.0mm以上とすることがより望ましく、1.3mm以上とすることがさらに望ましい。なお、接合部40の最大せん断応力時ひずみ量は、通常は、5.0mm以下となる。「最大せん断応力時ひずみ量」とは、既述したように、接合部40の柔軟性や応力緩和性能を表す指標となる値であり、接合部40にせん断力を加えたときに接合部40で発生するせん断応力が最大になるとき、すなわち、接合部40で最大せん断応力が発生するときに、接合部40で生じるひずみの大きさ(せん断力方向の変位量)をいう。最大せん断応力時ひずみ量が大きいほど、接合部40の柔軟性が高いことを示す。最大せん断応力時ひずみ量を測定するための引張試験機を用いた具体的な測定方法については、後に詳しく説明する。接合部40の最大せん断応力時ひずみ量を上記の値にすれば、接合部40の柔軟性および応力緩和性能を十分に確保することが可能になる。
【0032】
図5は、接合部40で発生する応力に関する説明図である。静電チャック10の使用時には、プラズマに暴露されること等によるセラミック部20への入熱により、セラミック部20が加熱され、膨張する。また、ベース部30は、冷媒流路32を備えることで冷却され、収縮する。図5では、セラミック部20が加熱され膨張する様子、および、ベース部30が冷却され収縮する様子を、白抜き矢印により示している。このとき、接合部40においては、セラミック部20およびベース部30を引っ張る力が働く。図5では、接合部40がセラミック部20を引っ張る力、および、ベース部30を引っ張る力を、それぞれ矢印で示している。さらに、図5では、接合部40に生じるX軸方向の変位量を、ひずみ量δとして示している。
【0033】
また、静電チャック10においては、一般に、ベース部30の方がセラミック部20よりも熱膨張率が高く、温度変化により大きく膨張・収縮する。そのため、温度条件によっては、ベース部30が熱膨張する程度の方が、セラミック部20が熱膨張する程度よりも大きくなる場合もある。このように、セラミック部20とベース部30との間で膨張や収縮の程度が異なるために、接合部40においては、X軸方向のせん断力が加わり、せん断応力が発生する。そのため、上記したように接合部40の最大せん断応力時ひずみ量の大きさを、より大きくすることで、接合部40に大きなせん断力が加わる場合であっても、接合部40で生じるせん断応力を低減し、接合部40の損傷を抑えることができる。
【0034】
図6は、接合部40におけるせん断応力の発生時に、接合部40が伸張する様子を表す説明図である。表面被覆窒化アルミニウム粒子のような無機フィラーを含有する接合部40の最大せん断応力時ひずみ量は、接合部40を構成する接着剤(樹脂)の柔軟性が高く、接合部40を構成する接着剤と無機フィラーとの馴染みが良いほど(濡れ性が良好であるほど)、大きくなる。本実施形態では、接合部40を構成する接着剤として、柔軟性に優れたシリコーン系接着剤を用いている。そして、無機フィラーとして、酸素含有アルミニウム化合物を含む被覆層を備えた表面被覆窒化アルミニウム粒子を用いている。このような表面被覆窒化アルミニウム粒子は、酸化物であるシリコーン系接着剤との濡れ性が良好であって、シリコーン系接着剤との馴染みが良い。そのため、接合部40全体の最大せん断応力時ひずみ量が大きくなる。図6では、濡れ性が良好である無機フィラーを含む接合部40にせん断応力がかかる様子を(a)として示し、濡れ性が不十分である無機フィラーを含む接合部40にせん断応力がかかる様子を(b)として示す。図6に(b)として示すように、無機フィラーの濡れ性が不十分である場合には、接着剤が柔軟性を有していても、接着剤がせん断応力により伸びるときに接着剤と無機フィラーとの界面において破断が生じ易くなるため、最大せん断応力時ひずみ量が小さくなる。
【0035】
なお、接合部40の最大せん断応力時ひずみ量は、接合部40の厚みを厚くすることによって大きくすることもできる。また、既述したように、接合部40における無機フィラーの含有割合が大きいほど、接合部40の最大せん断応力時ひずみ量が小さくなる傾向がある。
【0036】
接合部40は、接合部40の性質や接合部40を形成するためのペーストの性質を調整するための充填材(無機フィラー)として、表面被覆窒化アルミニウム粒子以外の他の充填材をさらに含んでいてもよい。上記した他の充填材としては、例えば、酸化アルミニウム(アルミナ:Al)、酸化ジルコニウム(ジルコニア:ZrO)、酸化イットリウム(イットリア:Y)、フッ化イットリウム(YF)、窒化アルミニウム(AlN)、炭化ケイ素(SiC)、窒化ケイ素(Si)、二酸化ケイ素(シリカ:SiO)、酸化鉄、硫酸バリウム、炭酸カルシウム等を用いることができる。接合部40における上記他の充填材の含有量は、接合部40が表面被覆窒化アルミニウム粒子を含有することによる効果に対する影響が、許容範囲となる量であればよい。
【0037】
なお、接合部40は、さらに、接着剤の硬化反応を促進する触媒、硬化や接着を促進して接着性を付与するためのシランカップリング剤、架橋剤、接着剤の硬化速度を調整するための反応抑制剤、あるいは粘度調整剤等を含んでいてもよい。
【0038】
以上のように構成された本実施形態の静電チャック10によれば、静電チャック10が備える接合部40は、シリコーン系接着剤と表面被覆窒化アルミニウム粒子とを含み、表面被覆窒化アルミニウム粒子の最表面における酸素原子とアルミニウム原子との原子比であるO/Alの値が、1.4以上、4.0以下となっている。このように、O/Alの値を1.4以上とすることで、表面被覆窒化アルミニウム粒子の表面において、酸化物であるシリコーン系接着剤との間の濡れ性を向上させることができる。その結果、接合部40において、せん断応力の発生時に十分に伸びる柔軟性を実現することが可能となり、接合部40に生じる応力に起因する不都合、例えば接合部40の損傷等を抑えることができる。また、表面被覆窒化アルミニウム粒子を含むことにより、接合部40において高い熱伝導率を実現することができ、静電チャック10における冷却性能を高めることができる。具体的には、接合部40の最大せん断応力時ひずみ量を0.5mm以上とすると共に、接合部40の熱伝導率を0.8W/(m・K)以上とすることが容易になる。
【0039】
このような効果は、特に、静電チャック10が、より高出力のプラズマに晒される場合のように、セラミック部に対する入熱が大きい場合に、顕著に得られる。例えば、セラミック部20を加熱するためのヒータ電極を設けない場合であっても、高いプラズマパワーと共に静電チャック10を使用する場合には、セラミック部20の載置面とベース部30との間の温度差が大きくなり易いため、本実施形態による効果が顕著に得られる。
【0040】
また、本実施形態によれば、上記したようにO/Alの値が4.0以下であるため、静電チャック10の使用中等において、被覆層に含まれる物質がプラズマ雰囲気中に揮散して、ウェハW等の対象物への汚染源となることを抑えることができる。O/Alの値が4.0以下であれば、被覆層の形成に用いた材料に含まれる、上記汚染源となり得る物質(例えば、酸素含有アルミニウム化合物としてリン酸アルミニウムを用いる場合には、リン酸処理に用いたリン酸等のリン酸化合物)が除去されていると考えられるためである。
【0041】
C.他の実施形態:
本開示は、静電引力を利用してウェハWを保持する静電チャック以外の保持装置に適用してもよい。すなわち、板状部と、冷却部(ベース部)と、板状部と冷却部とを接合する接合部と、を備え、板状部の表面上に対象物を保持する他の保持装置、例えば、CVD、PVD、PLD等の真空装置用ヒータ装置や、真空チャック等にも同様に適用可能である。
【0042】
また、上記した各実施形態では、載置面を有する板状部は、セラミックを主成分とするセラミック部20としたが、板状部は、セラミック以外の材料を主成分とすることとしてもよい。このような構成としても、実施形態で例示した本開示の構成を適用することにより、保持装置における冷却性能を高めて接合部で発生する応力を抑えると共に、接合部で生じる応力に起因する問題を抑える同様の効果が得られる。
【実施例
【0043】
以下では、本開示の保持装置について、実施例に基づいて説明する。ここでは、O/Alの値や、接合部の熱抵抗や最大せん断応力時ひずみ量等が異なる種々のサンプルとして、サンプルS1~サンプルS9までのシート状のサンプルを作製した。また、各シート状のサンプルS1~S9と同じ組成の接合部を備え、図2に示す実施形態の静電チャック10と同様の構成を有する静電チャック形態のサンプルを作製した。以下では、静電チャック形態のサンプルについても、接合部と同じ組成を有するシート状のサンプルと同じサンプル番号で呼ぶ。
【0044】
図7は、各サンプルが備える表面被覆窒化アルミニウム粒子のO/Alの値、「R2/R1」の値、および、接合部の厚み、熱抵抗、表面被覆窒化アルミニウム粒子の含有割合、最大せん断応力時ひずみ量、熱伝導率の値と共に、接合部を介したセラミック部の冷却性能を表す熱引き応答性、および、接合部の損傷しやすさ(剥がれ)を評価した結果を、まとめて示す説明図である。
【0045】
<各サンプルの作製>
以下では、まず、各サンプルに共通するシート状のサンプルおよび静電チャック形態のサンプルの作製方法を説明し、その後、各サンプルの材料および作製条件を説明する。サンプルS1~サンプルS9は、いずれも、シリコーン系接着剤に無機フィラーを混合した接合部を備える。
【0046】
[無機フィラーの作製]
サンプルS1~S5は、無機フィラーとして、酸素含有アルミニウム化合物によって構成される被覆層を備える窒化アルミニウム粒子(表面被覆窒化アルミニウム粒子)を用いた。サンプルS6~S8は、無機フィラーとして、被覆層を備えない窒化アルミニウム粒子を用いた。サンプルS9は、無機フィラーとして、二酸化ケイ素によって構成される被覆層を備える窒化アルミニウム粒子を用いた。
【0047】
窒化アルミニウム粒子としては、東洋アルミニウム製の平均粒子径15.0μmの粉末を使用した。サンプルS1~S3、およびサンプルS6,S7で用いた窒化アルミニウム粒子は、粒子形状を真球に近づけるために、溶剤中で72時間のナイロンボールミル処理を行った。
【0048】
サンプルS1~S3、およびサンプルS5では、ミキサーを用いて窒化アルミニウム粒子とリン酸とを混合し、窒化アルミニウムの表面をリン酸で被覆した(リン酸処理)。その後、100℃以上の温度で加熱処理を行い、窒化アルミニウム粒子の表面にリン酸アルミニウムを形成させて被覆層を設けた。得られた粉末を純水で洗浄し、リン酸アルミニウムの被覆層を備える表面被覆窒化アルミニウム粒子を得た。なお、上記のようにして得られたサンプルS1~S3、およびサンプルS5の表面被覆窒化アルミニウム粒子が備える被覆層は、リン酸アルミニウムに加えて、αアルミナを含むと考えられる。
【0049】
サンプルS4では、窒化アルミニウム粒子を大気雰囲気下800℃で熱処理(酸化処理)を行い、粒子表面にαアルミナの被覆層を形成させた。サンプルS9では、窒化アルミニウム粒子を溶剤中でテトラエトキシシランと混合し、溶剤を除去した後、150℃以上の温度で熱処理を行った。その後、十分な洗浄を行って、二酸化ケイ素の被覆層を備える窒化アルミニウム粒子を得た。
【0050】
[シート状のサンプルの作製]
シート状のサンプルの作製方法は、以下の通りである。硬化前のシリコーン系接着剤、および、サンプルごとの無機フィラーに加えて、シランカップリング剤、架橋剤、触媒を添加、混合し、ワニス状のシリコーン接着剤組成物(接着ペースト)を得た。なお、シリコーン系接着剤は、サンプルS1~S9において同種のものを共通して用いた。得られた接着ペーストを、ドクターブレード法によりシート形状に成形した。このとき、ドクターブレードを用いて接着ペーストを塗布する成型機の条件を変更することにより、シート状サンプルの厚みをサンプルによって変更した。シート形状の接着ペーストを100℃以下の温度で熱処理し、半硬化させた。
【0051】
[静電チャック形態のサンプルの作製]
静電チャック形態のサンプルは、上記した半硬化させた接着ペーストを用いて、セラミック部(板状部)とベース部(冷却部)とを接合することにより作製した。セラミック部は、以下のようにして作製した。まず、従来公知の方法により、アルミナを主成分とする複数のセラミックスグリーンシートを作製した。そして、セラミックスグリーンシート上にヒータや吸着用電極、ビア、通気孔を形成し、これらのセラミックスグリーンシートを積層し、熱圧着し、還元雰囲気下1400~1600℃で焼成を行い、厚み50mmのセラミック部を得た。次いで、上記した半硬化させた接着ペーストを、セラミック部とベース部との間に配置して、その後、接着ペーストを熱硬化させることにより、静電チャック形態のサンプルを得た。
【0052】
[サンプルS1~S5]
サンプルS1~S5は、既述したように、無機フィラーとして、表面被覆窒化アルミニウム粒子を用いて作製した。既述した接着ペーストを作製する際に、硬化前のシリコーン系接着剤と表面被覆窒化アルミニウム粒子との混合割合は、サンプルによって変更した。そのため、図7に示すように、接合部における表面被覆窒化アルミニウム粒子の含有割合(粒子含有割合)は、サンプルによって異なっている。具体的には、サンプルS1の粒子含有割合は60質量%であり、サンプルS2の粒子含有割合は70質量%であり、サンプルS3~S5の粒子含有割合は80質量%であった。また、シート状のサンプルの厚みを異ならせることにより、各サンプルの接合部の厚みは、サンプルS1は500μm、サンプルS2、S4は300μm、サンプルS3、S5は200μmであった。
【0053】
[サンプルS6~S8]
サンプルS6~S8は、既述したように、無機フィラーとして、被覆層を有しない窒化アルミニウム粒子を用いて作製した。サンプルS6~S8においても、接着ペーストを作製する際に、硬化前のシリコーン系接着剤と窒化アルミニウム粒子との混合割合をサンプルによって変更しており、その結果、図7に示すように、接合部における窒化アルミニウム粒子の含有割合(粒子含有割合)は、サンプルによって異なっている。具体的には、サンプルS6の粒子含有割合は30質量%であり、サンプルS7、S8の粒子含有割合は46質量%であった。また、シート状のサンプルの厚みを異ならせることにより、各サンプルの接合部の厚みは、サンプルS6は300μm、サンプルS7は400μm、サンプルS8は600μmであった。
【0054】
[サンプルS9]
サンプルS9は、既述したように、無機フィラーとして、二酸化ケイ素(シリカ:SiO)によって構成される被覆層を備える窒化アルミニウム粒子を用いて作製した。サンプルS9の粒子含有割合は46質量%であり、接合部の厚みは500μmであった。
【0055】
<O/Alの値の測定>
O/Alの値は、各サンプルを作製する材料である無機フィラー(酸素含有アルミニウム化合物によって構成される被覆層を備える表面被覆窒化アルミニウム粒子、被覆層を有しない窒化アルミニウム粒子、あるいは、シリカによって構成される被覆層を備える窒化アルミニウム粒子)の表面について、X線光電子分光法(XPS:X-ray Photoelectron Spectroscopy)による分析を行って、無機フィラーの最表面を構成する元素を特定することにより測定した。具体的には、アルミニウムを含むすべての化合物に対し、ピーク面積から組成比を計算し、O/Alの値を算出した。
【0056】
<熱伝導率の測定>
図8は、接合部の熱伝導率を測定する手順の概要を示す説明図である。接合部の熱伝導率を測定する際には、まず、静電チャック10の形態の各サンプルについて、任意の個所を、X-Y方向に50mm×50mmの大きさで、厚み方向(Z方向)に貫通するように切り出し(図8の(A)から図8の(B))、得られた試験片から接合部40の部分をカッターで取り出した(図8の(B)から図8の(C))。図8の(A)および図8の(B)では、切り出した部分を一点鎖線で囲んで示している。図8の(C)のように切り出した接合部を、直径10mmの大きさで打ち抜き、レーザーフラッシュ法により熱拡散率を測定した。また、図8の(C)のように切り出した接合部を用いて、アルキメデス法により接合部の密度を測定した。そして、測定した熱拡散率と密度の値とから、熱伝導率を算出した。
【0057】
<熱抵抗の算出>
接合部の熱抵抗の算出のために、静電チャック10の形態の各サンプルについて、任意の個所をX-Y方向に50mm×50mmの大きさで切り出し(図8の(A)から図8の(B))、得られた試験片の断面を光学顕微鏡で観察することで、接合部の厚みを測定した。そして、このようにして測定した接合部の厚みと、既述したようにして算出した接合部の熱伝導率とから、接合部の熱抵抗値を算出した。熱抵抗値は、既述した(1)式により算出した。
【0058】
<粒子含有割合>
接合部における無機フィラー(酸素含有アルミニウム化合物によって構成される被覆層を備える表面被覆窒化アルミニウム粒子、被覆層を有しない窒化アルミニウム粒子、あるいは、シリカによって構成される被覆層を備える窒化アルミニウム粒子)の含有割合(粒子含有割合)は、以下のように測定した。まず、静電チャック10の形態の各サンプルについて、任意の個所をX-Y方向に50mm×50mmの大きさで切り出し(図8の(A)から図8の(B))、得られた試験片から接合部40の部分をカッターで取り出した(図8の(B)から図8の(C))。切り出した接合部の質量を測定したのち、シリコーン溶解剤でシリコーン樹脂を溶かし、含有する無機フィラーを採取した。得られた無機フィラーの質量を測定し、シリコーン系接着剤を溶解させる前の質量に対する割合を算出することにより、接合部の粒子含有割合を算出した。
【0059】
<R2/R1の算出>
「R2/R1」の値の算出のために、静電チャック10の形態の各サンプルについて、任意の個所をX-Y方向に50mm×50mmの大きさで切り出し(図8の(A)から図8の(B))、得られた試験片から接合部40の部分をカッターで取り出した(図8の(B)から図8の(C))。切り出した接合部の断面を、鏡面研磨した後に走査電子顕微鏡(SEM)を用いて観察し、200μm×200μmの視野で観察される無機フィラーの粒子10個について、その形状を観察した。画像解析ソフトWinROOFを使用して内接円の半径R1と外接円の半径R2とを測定して「R2/R1」の値を求め(図3参照)、粒子10個の平均値として、各サンプルの「R2/R1」の値を算出した。
【0060】
<最大せん断応力時ひずみ量の測定>
図9は、最大せん断応力時ひずみ量を求める様子を模式的に示す説明図である。最大せん断応力時ひずみ量は、引張試験により、せん断応力の最大値としての最大せん断応力を求め、せん断応力が最大せん断応力となるときのひずみ量を測定することにより得ている。図9(A)は、引張試験を正面から見た様子を表し、図9(B)は、側面から見た様子を表す。サンプルS1~S9の試験片70は、各サンプルの半硬化の接着シートを、幅25mm×長さ150mmの2枚のアルミニウム板72の端から12mmの位置までの、25mm×12mmの部分にそれぞれ貼り付け、2枚のアルミニウム板72を互いに逆方向に引っ張ることができる向きで貼り合わせた後、上記した半硬化の接着シートを硬化させることにより作製した。試験開始時の試験片70の厚さtは、図7に示す接合部の厚さである。次に、上記試験片にせん断力が作用するように、2つのアルミニウム板72を相対移動させた。図9(B)では、2つのアルミニウム板の相対的な移動の方向(せん断方向)を、白抜き矢印で示している。荷重を移動前の試験片の接着面積(25mm×12mm)で除すことにより、せん断応力を算出した。このような2枚のアルミニウム板の相対移動を、試験片70が破断するまで継続し、せん断応力が最大となった時のせん断応力を、最大せん断応力(単位は、MPa)とした。最大せん断応力時ひずみ量(単位は、mm)は、図9に示す引張試験において、せん断応力が最大になったときの、試験片70におけるせん断方向の変位量とした。
【0061】
<熱引き応答性の評価>
静電チャック形態の各サンプルS1~S9について、熱引き応答性(接合部を介したセラミック部の冷却性能)を評価した。具体的には、各サンプルのセラミック部の初期温度を150℃に設定して、セラミック部が150℃になるまで加熱した。また、ベース部の冷媒流路に30℃の冷媒を供給して、ベース部を冷却した。そして、セラミック部が150℃に達した後、セラミック部の加熱を停止し、サーモカメラによってセラミック部表面の温度を測定しつつ、セラミック部表面の温度が40℃に冷却されるまでの時間を測定した。セラミック部が40℃に冷却されるまでに500秒よりも長くかかる場合には、熱引き応答性が低い(×)と評価し、300秒以下の場合には、熱引き応答性が非常に優れている(◎)と評価した。セラミック部が40℃に冷却されるまでの時間が300秒よりも長く、400秒以下の場合には、熱引き応答性が優れている(○)と評価し、400秒よりも長く、500秒以下の場合には、熱引き応答性が良好である(△)と評価した。
【0062】
<接合部の剥がれの評価>
静電チャック形態の各サンプルS1~S9について剥離試験を行い、接合部の剥がれの評価を行った。具体的には、各サンプルを市販の熱サイクル試験機に入れて最高温度150℃、最低温度0℃の熱サイクル試験を100サイクル行い、その後室温に戻し、セラミック部およびベース部との間における接合部の剥離の有無を評価した。接合部の剥離の有無は、公知の超音波探傷装置を用いて判定した。超音波をセラミック部側から照射し、セラミック部と接合部との接合界面に対応する深さから反射エコー(傷エコー)が検出されたら、セラミック部と接合部との接合界面に剥がれ有りと判定した。超音波をベース部側から照射し、ベースと接合部の接合界面に対応する深さから反射エコー(傷エコー)が検出されたら、ベース部と接合部との接合界面に剥がれ有りと判定した。上記した2つの界面の少なくとも一方で剥がれが見られたものを剥離「あり」、超音波探傷で剥がれが見られなかったものを剥離「なし」と評価した。
【0063】
図7に示すように、表面被覆窒化アルミニウム粒子の最表面における酸素原子とアルミニウム原子との原子比であるO/Alの値が、1.4以上のときに(サンプルS1~S5)、熱引き応答性が、良好である(△)以上の評価となることが確認された。
【0064】
これに対して、O/Alの値が1.4よりも小さいときには、熱引き応答性に係る十分な性能が得られなかった。サンプルS6~S8に示すように、窒化アルミニウム粒子が被覆層を有しない場合には、接合部において剥がれが生じ、接合部において十分な熱引き応答性が実現できない状態となった。これは、窒化アルミニウム粒子の濡れ性が表面被覆窒化アルミニウム粒子の濡れ性に比べて劣り、窒化アルミニウム粒子とシリコーン系接着剤との馴染みが不十分であるためと考えられる。また、サンプルS9に示すように、二酸化ケイ素によって構成される被覆層を備える窒化アルミニウム粒子を用いる場合には、接合部の剥がれは生じないが、熱引き応答性が不良となった。これは、二酸化ケイ素によって構成される被覆層の熱伝導率が、酸素含有アルミニウム化合物によって構成される被覆層の熱伝達率に比べて低いためと考えられる。
【0065】
また、図7に示すように、O/Alの値が1.4以上であること(サンプルS1)に加えて、さらに、接合部の厚みを薄くして(400μm以下)、接合部の熱抵抗を5.0×10-4K/W以下とすることで(サンプルS2)、熱引き応答性がさらに向上することが確認された。ここで、図7に示した熱引き応答性の評価結果では、サンプルS2とサンプルS3とは、いずれも、熱引き応答性が優れている(○)となっているが、熱引き応答性の評価に用いた加熱を停止した後の冷却に要した時間は、サンプルS3の方がサンプルS2よりも短かった。すなわち、粒子含有割合をより多く(例えば70質量%以上に)することで、熱引き応答性が向上することが確認された。また、サンプルS3とサンプルS5とを比較してわかるように、「R2/R1」の値の平均値を1.10以上とすることで、熱引き応答性がさらに向上することが確認された。また、サンプルS4とサンプルS5とを比較してわかるように、表面被覆窒化アルミニウム粒子の被覆層において、酸化アルミニウムとリン酸アルミニウムの含有割合が異なっていても、同様の効果が得られることが確認された。
【0066】
本開示は、上述の実施形態等に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の構成で実現することができる。例えば、発明の概要の欄に記載した各形態中の技術的特徴に対応する実施形態中の技術的特徴は、上述の課題の一部又は全部を解決するために、あるいは、上述の効果の一部又は全部を達成するために、適宜、差し替えや、組み合わせを行うことが可能である。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することが可能である。
【符号の説明】
【0067】
10…静電チャック
20…セラミック部
22…吸着電極
24…載置面
30…ベース部
32…冷媒流路
40…接合部
42…無機フィラー
50…ガス供給路
52…ガス吐出口
70…試験片
72…アルミニウム板
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9